以下、本発明の実施の形態について、図1から図17を参照して説明する。なお、各図において互いに同一あるいは相当する部材には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る媒体識別装置としての紙幣識別装置1の構成例を示すブロック図である。紙幣識別装置1は、複数の計測部であって、各計測部がシート状の媒体としての紙幣を一方の端部から他方の端部まで走査することにより、該走査線に沿って紙幣の特徴量を計測し特徴データを取得する複数の計測部としての識別用センサ11と、走査のために紙幣と識別用センサ11とを相対的に移動させる相対移動部としての搬送部15と、取得された特徴データと紙幣を識別する基準となる基準特徴データとに基づいて、紙幣を識別する識別手段としての識別処理部27を備える。なお、識別用センサ11は後述のように、センサS(0)、センサS(1)、センサS(2)、センサS(3)、センサS(4)(図9参照)の5個を備えるが、個別に説明する必要のない場合は単に識別用センサ11と呼ぶ。
さらに、識別処理部27は、識別に用いる特徴データの範囲である特定範囲を、紙幣の一方の端部と他方の端部の位置に基づいて特定するように構成され、複数の識別用センサ11で取得されたデータ相互の比較により、紙幣の一方の端部または他方の端部の近傍の特徴データの欠落を検出し、当該欠落の検出の結果に基づいて欠落した側の端部の位置を欠落していないとした場合の位置に補正し、補正された端部の位置に基づいて特定範囲を特定する。
なお、本実施の形態では、各識別用センサ11は、後述する基台10に固定的に設置されており、相対移動部は、典型的には、紙幣を搬送する搬送部であるが、各識別用センサ11が紙幣に対して相対的に移動することで、紙幣を走査する構成としてもよい。この場合は、各識別用センサ11を移動させる手段が相対移動部となる。また、本実施の形態では、走査の方向は、典型的には、紙幣の搬送方向である。
ここでいう紙幣の識別とは、例えば紙幣の真偽の識別すること、紙幣の種類の識別することを広く含む概念である。本実施の形態では、紙幣の識別は、典型的には、紙幣の種類を識別する即ち券種を識別する場合で説明する。紙幣識別装置1は、係員により予めセットされた紙幣を必要枚数種別、計数して出金する出金機に適したものである。このような出金機に係員がセットする紙幣は、通常、係員や入金専用紙幣処理装置などにより真偽が識別されたものが用いられる。したがって、本装置は、紙幣の券種を識別するだけで足りる。
また、紙幣識別装置1は、紙幣の処理速度向上のため、紙幣の長辺方向に搬送する縦搬送ではなく、紙幣の短辺方向に搬送する横搬送で紙幣を搬送する装置に用いられるものである。紙幣識別装置1は、基台10と、制御装置20とを含んで構成される。
またここでいう紙幣は、識別の必要な紙葉類、例えば有価証券等を広く含む概念である。本実施の形態では、紙幣は、千円札、一万円札といったいわゆる貨幣である。以下、紙幣は千円札、一万円札として説明する。またこれらを特に区別しないときには単に紙幣という。なお、紙幣識別装置1は、千円札、一万円札の2券種を識別できるものである。言い換えれば、紙幣識別装置1は、千円札、一万円札かを識別できるものである。
以下、各構成要素について説明する。
基台10には、紙幣を搬送する搬送部15と、搬送部15により搬送される紙幣の特徴量を計測して特徴データを取得する複数の識別用センサ11が取り付けられている。
特徴量は、例えば紙幣の図柄によって各点毎で異なる量である。前記量は、典型的には、紙幣の光の透過量である。特徴データは、例えば、横軸を時間軸又は搬送方向の送り距離、縦軸を前記透過量としたデータである。本実施の形態では、特徴データは、紙幣の通過による光の透過量の変化を示すものであり(透過量に比例した電圧値で示しても良い)、一般には振幅を有するデータである。したがってここでは振幅データと呼ぶ。
また、取得された特徴データは、識別用センサ11により取得された紙幣の振幅データであり、例えば識別用センサ11から出力される振幅データである。以下、前記取得された特徴データは識別用センサ11の出力される振幅データの場合で説明する。
また、識別用センサ11の出力される振幅データを計測データという。基準特徴データは、後述の識別処理部27による識別の基準となる特徴データ、例えば、予め取得しておいた真券の振幅データである。以下、特徴データを振幅データ、基準特徴データを辞書データという。なお辞書データについては、図4を参照して後で詳述する。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の基台10について説明するための図であり、(a)は、下部基台の平面図であり、(b)は、(a)のA−A’ 断面での基台10の断面図である。
基台10は、上部基台10aと下部基台10bとを含んで構成される。上部基台10aと下部基台10bとは、僅かな隙間を形成するように対向して配置される。これにより、上部基台10aと下部基台10bとの間には紙幣の搬送路が形成されている。
搬送部15は、紙幣を搬送する搬送ベルト15aと、搬送ベルト15aを駆動する駆動部15bとを含んで構成される。駆動部15bは、不図示の駆動モータによって搬送ベルト15aを駆動できる。本実施の形態では、搬送部15は、下部基台10b側に設けられている。
また、搬送部15は、上部基台10aの下面(搬送路の上面)と搬送ベルト15aに挟み込んだ状態で、紙幣を搬送するように構成される。また、搬送ベルト15aは、紙幣の搬送方向に平行に2本配置されている。
識別用センサ11は、搬送方向に搬送される紙幣の通過により変化する光の変化を計測するものである。言い換えれば、搬送される紙幣の光の透過量を計測するものである。識別用センサ11は、典型的にはフォトセンサである。
フォトセンサとは、例えば光束を照射する照射部と、照射された光束を受光するフォトディテクタ(PD)とで構成されるものである。PDは、例えば計測データとして、受光した光の輝度(明度)に関する変量をアナログ出力するものである。照射する光束には、例えば赤色光又は赤外光が用いられる。ここでは、識別用センサ11には、比較的輝度の変化に敏感なもの(解像度の高いもの)を用いる。またここでは、上部基台10aに照射部が、下部基台10bにPDが互いに対向して配置されている。
また、本実施の形態では、識別用センサ11は、紙幣の搬送方向と垂直な方向の直線上に、複数個設けられている。さらに、識別用センサ11は、およそ等間隔に5個配置される。
また、識別用センサ11は、搬送路を搬送される紙幣に光束を照射し、紙幣を透過した光をPDで受光することで輝度を計測する。なお、計測は、後述するように、連続的に行なわれる。言い換えれば、識別用センサ11は、紙幣の光の透過量を連続的にアナログ出力する。
識別用センサ11からの出力は、計測データを形成する。即ち、複数の識別用センサ11からの各々の出力は、それぞれ紙幣各部の紙幣短辺方向の計測データを形成する。また計測データは、波形パターンを形成する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の計測データの波形パターンの例を示す線図である。なお、図示は、紙幣が無い状態を基準として出力値の絶対値を取った場合を示している(図7(b)も同様である)。以下、振幅データは、紙幣が無い状態を基準として出力値の絶対値を取った場合で説明する。
再び、図2を参照する。さらに、基台10には、横位置検出用センサ12が取り付けられている。横位置検出用センサ12は、搬送される紙幣の通過位置を計測するものである。横位置検出用センサ12は、例えばフォトセンサであるが、識別用センサ11に用いるようなものではなく、紙幣の通過による遮光を検出できるものであればよい。ここでは、識別用センサ11より簡易なもの(解像度の低いもの)を用いる。
横位置検出用センサ12は、紙幣の通過の有無、即ち遮光の有無を紙幣の横位置データとして出力するように構成されている。なお本実施の形態では、横位置検出用センサ12は、紙幣の通過の有無を横位置データとして出力する場合で説明するが、識別用センサ11と同様に振幅データをアナログ出力するようにしてもよい。この場合には、例えば、後述のデータ収集部24により、横位置検出用センサ12からA/D変換器22を介して入力される信号を、2値化されたデータ(例えば遮光あり、遮光無しを表すデータ)に変換し、変換されたデータを横位置データとするとよい。
横位置検出用センサ12は、紙幣の搬送方向と垂直な方向の紙幣の位置を検出できる位置に複数個設けられている。なお、横位置検出用センサ12は、本実施の形態では、搬送方向下流に向かって右側の横位置検出用センサ12Rと左側の横位置検出用センサ12Lを備え、各々6個ずつの個別センサを備えるが、個別に説明する必要のない場合は単に横位置検出用センサ12と呼ぶ。横位置検出用センサ12は、基台10の両端部近傍、言い換えれば、紙幣の搬送路の両端部近傍に各々配置される。本実施の形態では、搬送路の端部近傍に、それぞれ6個ずつ紙幣の搬送方向と垂直な方向に等間隔に配置される。各6個の横位置検出用センサ12の配置間隔は、例えば、0.5〜4mm、好ましくは、1〜3mmである。本実施の形態では、配置間隔は2mmの場合で説明する。
図1に戻って、制御装置20について説明する。制御装置20は、紙幣識別装置1を制御する制御部21と、計測データを収集するデータ収集部24と、紙幣が搬送される面での、搬送の方向と垂直な方向の搬送される紙幣の位置を検出する状態検出部25と、取得された計測データと紙幣を識別する基準となる辞書データとに基づいて、紙幣を識別する識別処理部27と、計測データ、辞書データ等を格納する格納部30とを含んで構成される。
また、状態検出部25は、紙幣が搬送される面での、搬送の方向に対する、搬送される紙幣の角度を検出する角度検出手段でもある。以下、この角度をスキュー角度という。
また、制御装置20は、識別用センサ11と横位置検出用センサ12からそれぞれ出力される信号を変換するA/D変換器22を有している。A/D変換器22は、アナログ信号をデジタル信号に変換するものである。識別用センサ11と横位置検出用センサ12は、A/D変換器22に電気的に接続されている。本実施の形態では、A/D変換器22は、制御装置20側に取り付けられているが、基台10側に取り付けてもよい。
格納部30について説明する。格納部30は、不揮発性記憶媒体例えばリードオンリーメモリ(ROM)と、揮発性記憶媒体例えばランダムアクセスメモリ(RAM)とを有する記憶装置によって構成されている。
RAM上には、計測データ格納領域31と、横位置データ格納領域32と、取得データ格納領域33とを有しており、また、ROM上には、辞書データ格納領域36を有している。
計測データ格納領域31は、計測データを格納するものである。横位置データ格納領域32は、横位置データを格納するものである。また、取得データ格納領域33は、後述の識別処理部27により生成されたデータを取得データとして格納するものである。格納された取得データは、識別処理部27による紙幣の識別に用いられる。また、辞書データ格納領域36は、辞書データを格納するものである。
ここで、図4を参照して、計測データ、辞書データについて説明する。図4は、計測データ、辞書データについて説明する模式的平面図である。計測データは、上述したように、識別用センサ11により連続的に取得され、出力される紙幣の光の透過量の振幅データである。本実施の形態では、識別用センサ11は、走査の方向に、例えば、1mm間隔毎に連続的して透過量を計測する。したがって、計測データは、走査の方向に対する1mm間隔毎の透過量の振幅データである。計測データは、例えば数十ポイント、好ましくは76ポイントから95ポイント程度、本実施の形態では1mm間隔毎、94ポイントの透過量の連続的な振幅データである。
また、各識別用センサ11が紙幣の走査を行う軌道のことを走査線という。走査線は、本実施の形態では、紙幣の搬送方向と略平行となる。各識別用センサ11は、該走査線に沿って、紙幣の一方の端部から他方の端部まで走査し、紙幣の光の透過量を取得する。
紙幣の一方の端部、他方の端部とは、走査線と紙幣周縁端とが交差する部分のことであり、本実施の形態では、紙幣の搬送方向下流側の端部を始端、上流側の端部を終端と呼ぶ。また、この始端、終端は、一枚の紙幣に対する走査線の始端、終端ということもできる。
また、後述するように、識別処理部27は、識別に用いる計測データの範囲である特定範囲を、一枚の紙幣に対する走査線の始端と終端、すなわち、紙幣の始端と終端の位置に基づいて特定するように構成されている。すなわち、識別処理部27は、取得された計測データの全てを識別に用いるのではなく、特定範囲の計測データを識別に用いる。
特定範囲は、紙幣の始端と終端の位置に対する相対的な位置として特定される計測データの範囲であり、紙幣の走査線の中心近傍にある部位を基準とする範囲である。中心近傍にある部位は、典型的には、媒体端部を避けた部位であり、一方の端部から他方の端部までの全長の80%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下の部位であり、また、一方の端部から他方の端部までの全長の例えば10%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上の部位である。中心近傍にある部位が一方の端部から他方の端部までの全長の80%を越える部位であると、欠落の生じやすい媒体端部を避けることができず、全長の10%を下まわる部位であると、媒体の識別に充分な量の特徴データが得られない。
また、典型的には、紙幣の走査線の中心近傍にある部位は、媒体の走査線の中心に対称な位置関係にある部位である。本実施の形態では、具体的には、識別処理部27は、特定範囲を、一枚の紙幣に対する走査線の中心を基準点として、紙幣の走査方向に対して対称な位置関係にある部位(以下特に断りのない限り「紙幣特定部位」という。)を基準に、当該紙幣特定部位に対応する計測データの範囲として特定する。すなわち、特定範囲の計測データは、紙幣の走査線の始端と終端との間に包含される部分に対応する範囲の計測データである。特定範囲の計測データは、例えば数十ポイント、好ましくは50ポイントから60ポイント程度、本実施の形態では、一枚の紙幣に対する全ての範囲の計測データが94ポイントであるのに対して、1mm間隔毎、56ポイントの透過量の連続的な振幅データである。
後述するように識別処理部27は、特定範囲の計測データと、特定範囲の計測データに相当する基準のデータである辞書データとを比較することで、紙幣がどの金種の紙幣であるかを判別している。ここで、辞書データは、言い換えれば、識別の基準となる振幅データであり、紙幣特定部位に対応する範囲の計測データの基準となる振幅データである。すなわち、辞書データは、計測データの特定範囲に相当する範囲の基準のデータであり、上述した特定範囲の計測データと同様なポイントの透過量の連続的な振幅データである。辞書データは、各券種毎に、複数の紙幣短辺方向の振幅データで構成される。
さらに、辞書データは、紙幣の短辺方向を2分割されている。具体的には、辞書データは、中央に配置された識別用センサ11(図2参照)と紙幣の中央を合わせた状態で、各識別用センサ11に対応する位置の振幅データで構成される。
さらに、辞書データは、紙幣をその位置から紙幣の長辺方向に所定間隔で移動させた状態での各識別用センサ11に対応する位置の振幅データを有する。所定間隔は、横位置検出用センサ12の配置間隔と同一又は同一より大とするとよい。即ち、本実施の形態では、2mmずつ紙幣を移動させたときの各識別用センサ11に対応する位置の振幅データである。
さらに、辞書データは、例えば、温度、湿度の変化、搬送部15による搬送速度の変化、識別する紙幣の新旧等の紙幣状態、識別用センサ11の固体差等に起因する計測誤差等を考慮して、計測データを多量に取得し、取得したデータ帯の中央を辞書データとしている。また、辞書データは、スキュー角度が無い場合で計測したデータである。言い換えれば、搬送方向と紙幣の短辺方向が平行である場合である。
なお、紙幣の中央近傍の特定範囲の計測データと、辞書データとを比較して紙幣を識別することは、例えば、計測データの全範囲を用いて識別する場合と比較して、辞書データ格納領域36に格納する辞書データのデータ量を少なくすることができ、迅速で効率的な紙幣の識別処理を行うことができる。したがって、例えば、出金専用の紙幣処理装置に用いるのには好適である。また、搬送中に比較的汚れや、折れ等が生じやすい紙幣周縁部近傍を紙幣の識別に用いないので、汚れの補正等の処理を省略することができ、処理の単純化が可能となり、識別を高速化することができる。
また、本実施の形態では、各識別用センサ11は、紙幣の特徴量として紙幣の光の透過量を計測しているので、辞書データ格納領域36に格納する辞書データのデータ量を少なくすることができる。
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の紙幣に対する走査方向について説明する模式的平面図である。本実施の形態では、紙幣の裏表、上下を勘案すると、紙幣に対する走査方向には4つの方向がある。すなわち、例えば、紙幣の人物が描かれている面を表面、人物の頭部の側を上側とすると、表面を上側から下側にかけて走査する第1の走査方向、裏面を上側から下側にかけて走査する第2の走査方向、表面を下側から上側にかけて走査する第3の走査方向、裏面を下側から上側にかけて走査する第4の走査方向、表面を下側から上側にかけて走査する第3の走査方向である。
紙幣に対して第1の走査方向で走査する場合と第2の走査方向で走査する場合とでは、どちらの面から光を照射するかが変わるだけで、その透過量の振幅データは略同一であり、特定範囲の計測データは略同一となる。よって、識別の基準に用いる辞書データは、第1の走査方向で走査する場合の辞書データを読み出し、辞書データを簡単な演算を用いて左右反転させれぼよい。第3の走査方向で走査する場合と第4の走査方向で走査する場合も同様である。
また、紙幣に対して第1の走査方向で走査する場合と第3の走査方向で走査する場合とでは、一方の特定範囲の計測データは、紙幣の走査線の始端と終端とが逆になるように、他方の特定範囲の計測データを反転させた計測データとなる。よって、識別の基準に用いる辞書データは、例えば、第3の走査方向で走査する場合には、第1の走査方向で走査する場合の辞書データを読み出し、辞書データを簡単な演算を用いて始端、終端を反転させれぼよい。第2の走査方向で走査する場合と第4の走査方向で走査する場合も同様である。
したがって、各識別用センサ11が、紙幣の特徴量として紙幣の光の透過量を計測するように構成すると、4つの走査方向に対して、1つの辞書データを用意しておけばよいので、辞書データ格納領域36に格納する辞書データのデータ量を少なくすることができる。本実施の形態では、紙幣に対する第1の走査方向に基づいた辞書データが格納されている。
なお、紙幣の特徴量が紙幣の光の透過量でない場合、例えば、画像データ等である場合でも、識別処理部27が、特定範囲を、一枚の紙幣に対する走査線の中心を基準点として、走査方向に対して対称な位置関係にある部位を基準に、当該部位に対応する計測データの範囲として特定するように構成すれば、例えば、第3の走査方向で走査する場合には、第1の走査方向で走査する場合の辞書データを読み出し、辞書データを簡単な演算を用いて始端、終端を反転させれぼよいため、辞書データ格納領域36に格納する辞書データのデータは、表裏辞書データでよい。
再び図1に戻って、制御部21は、上位装置との入出力を含め、紙幣識別装置1を総合的に各制御するものである。ここでは、上位装置は後述する出金機100(図17参照)である。制御部21は、典型的には中央演算装置(CPU)である。
データ収集部24は、制御部21からのサンプル信号に基づき、A/D変換器22を介して入力される識別用センサ11からの出力信号を収集し、収集した計測データを格納部30の計測データ格納領域31に格納するものである。また、データ収集部24は、横位置検出用センサ12からA/D変換器22を介して入力される横位置データを、横位置データ格納領域32へ格納するものでもある。
具体的には、前記サンプル信号と、搬送部15による紙幣の搬送との同期を取ることにより、紙幣が一定距離だけ、典型的には、上述したように紙幣が1mm搬送される毎にA/D変換器22により変換された識別用センサ11の出力を収集する。
なお、データ収集部24による計測データの収集は、各識別用センサ11が紙幣の搬送方向と垂直な方向に一列に配列されていることから、紙幣搬送方向に一定間隔毎に収集される。したがって、データ収集部24は、各識別用センサ11から収集した計測データを、それぞれ格納部30の計測データ格納領域31に格納する。
状態検出部25は、紙幣の搬送状態の検出を行うものである。紙幣の搬送状態とは、例えば、紙幣の搬送の方向と垂直な方向の位置(以下横位置という)や、搬送される紙幣のスキュー角度である。状態検出部25は、計測データと、横位置データとに基づいて、紙幣の搬送状態を検出する。
具体的には、紙幣の横位置の検出は、横位置データからどの位置の横位置検出用センサ12が紙幣により遮光されたかで検出できる。
スキュー角度の検出は、搬送路の端部側にそれぞれ配置された識別用センサ11(図2参照)に対応する計測データから、各々紙幣の短辺方向の先端部を検出し、検出した時間の差を算出する。紙幣の搬送速度は一定であるので、この時間差から、スキュー角度を算出できる。
また、先端部、すなわち、紙幣の始端の検出は、例えば、計測データ中で、一定時間に、出力の振幅が一定値以上(振幅レベルが一定値以上)になる箇所を検出することで行なえる。紙幣の終端の検出は、例えば、計測データ中で、一定時間に、出力の振幅が一定値以下(振幅レベルが一定値以下)になる箇所を検出することで行なえる。ここで一定時間とは、例えばデータのサンプリングの時間間隔である。これにより、紙幣の始端、終端を検出することができる。
また本実施の形態では、計測データに基づいてスキュー角度を検出する場合で説明するが、横位置データに基づいてスキュー角度を検出してもよく、さらに、計測データと、横位置データの両方に基づいてスキュー角度を検出してもよい。横位置データをスキュー角度の検出に用いる場合には、横位置検出用センサ12は、例えば、データ収集部24による横位置データの収集の際に、制御部21のクロック信号などと同期を取るようにするとよい。
識別処理部27は、計測データと辞書データとに基づいて、紙幣の券種を識別するものである。また、識別処理部27は、状態検出部25により検出された横位置と、状態検出部25により検出されたスキュー角度とに基づいて、辞書データを設定するように構成される。
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の識別処理部27による辞書データの設定について説明する図であり、(a)はスキュー角度が第1の所定の角度より小さい場合を説明する模式的平面図、(b)はスキュー角度が第1の所定の角度以上の場合を説明する模式的平面図である。
識別処理部27は、検出されたスキュー角度に基づいて、辞書データを設定するように構成されている。具体的には、例えば、(a)に示すように、識別処理部27は、検出されたスキュー角度が第1の所定の角度より小さいときには、紙幣上での、識別用センサ11の走査線に対応する辞書データを設定する。
また(b)に示すように、識別処理部27は、検出されたスキュー角度が第1の所定の角度以上のときには、紙幣上での、識別用センサ11の走査線に隣接する辞書データを設定する。第1の所定の角度は、例えば1〜5°、好ましくは3°程度である。なお、本実施の形態では、スキュー角度が、第2の所定の角度以上のときには、その時点で偽と識別するよう設定されている。第2の所定の角度は、例えば5°程度である。
さらに、識別処理部27は、上述したように、識別に用いる特定範囲を、紙幣の始端と終端の位置に基づいて特定するように構成されている。本発明の実施の形態では、図4で説明したように、識別処理部27が辞書データとの比較を行うのは特定範囲の計測データである。
ところで、識別処理部27は、上述したように、特定範囲を、紙幣特定部位を基準に、紙幣特定部位に対応する計測データの範囲として特定するように構成されている。しかしながら、例えば、紙幣の一部に折れが発生した等により紙幣の欠落が生じた場合、すなわち、計測データに欠落が生じた場合には、紙幣の始端または終端が通常の位置から移動することによって、計測データの特定範囲も移動してしまうことがある。
なお、計測データの欠落は、搬送される紙幣に実際に欠落、破れがある場合だけでなく、例えば、紙幣に折れがある場合や、搬送される紙幣の横位置、スキュー角度により、紙幣の一部が識別用センサ11上を通過しない場合に発生する。
図7は、特定範囲が移動してしまうことについて説明するための図であり、(a)は模式的平面図、(b)各計測データを示す線図である。ここでは、例えば、搬送方向の下流に向かって紙幣の右縁側で、終端側が折れ曲がっている場合で説明する。
図中t0−t5の間に計測される欠落のない計測データでは、出力の振幅が一定値以上(振幅レベルが一定値以上)になるt1が紙幣の走査線の始端、出力の振幅が一定値以下(振幅レベルが一定値以下)になるt4が、紙幣の走査線の終端に該当する箇所である。計測データの特定範囲は、t1−t4間の中心点Oを中心としたt2−t3間の範囲となる。
紙幣の走査線の終端側近傍に欠落のある計測データは、終端に該当する箇所t4’が、始端に該当する箇所t1側に接近する。すなわち、t1−t4’間が、t1−t4間と比較して短くなる。そして、t1−t4’間の中心点O’もt1側に移動して、結果として中心点O’ を中心としたt2’−t3’間の特定範囲も、t1側に移動する。
t2’−t3’間の特定範囲が、t1側に移動するということは、計測データの特定範囲が移動したことを意味する。つまり、紙幣特定部位に対応する計測データの範囲として特定するはずの特定範囲が、紙幣特定部位に対応しない部位、紙幣の中心よりも始端側に寄った部位に対応する計測データの範囲として特定されてしまうのである。
上述したように、比較を行う辞書データは、紙幣特定部位に対応する範囲の計測データの基準となる振幅データとして、予め辞書データ格納領域36に格納されているため、特定範囲が紙幣特定部位に対応しない計測データの範囲として特定されてしまうと、特定範囲の計測データと、辞書データとを比較してもほとんど一致せず、紙幣の識別が正確に行われなくなってしまう。
そこで、本発明の実施の形態では、識別処理部27は、複数の識別用センサ11で取得された計測データ相互の比較により、紙幣の始端、終端あるいは両端の近傍の計測データの欠落を検出し、当該欠落の検出の結果に基づいて欠落した側の端部の位置を欠落していないとした場合の位置に補正し、補正された端部の位置に基づいて特定範囲を特定するように構成されている。
図8は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の識別処理部27による欠落検出、始端、終端位置の補正、特定範囲の特定について説明するための模式的平面図である。ここでは、図7と同様に、搬送方向の下流に向かって紙幣の右縁側で、終端側が折れ曲がっている場合で説明する。
識別処理部27は、具体的には、紙幣の1対の走査線の始端、終端を各々結んだ線分の平行度を計測データの検出に用いるように構成されている。
識別処理部27は、図8(a)に示すように、計測データの欠落検出を行う識別用センサ11(図1参照)の走査線と隣り合う走査線との始端、終端を各々線分で結び、当該始端の線分の傾きと終端の線分の傾きとの差の絶対値が、閾値以上であるかを判定するように構成されている。線分の傾きは、それぞれ始端、終端の変化量を示す。また、線分の傾き差の絶対値は、始端を結んだ線分と終端を結んだ線分の平行度を示す。傾き差の絶対値が0であれば、平行であることを示す。傾きの絶対値が閾値以上であれば、始端、終端あるいは両端の近傍の計測データに欠落がある、すなわち、紙幣に折れ等の欠落があるものとして検出される。なお、閾値は、例えば「3」程度とするとよい。
計測データの欠落検出を行う識別用センサ11(図1参照)の走査線の始端、終端と、隣り合う走査線の始端、終端とを結んで平行度を判定すると、隣り合わない走査線の始端、終端と結んだ場合と比較して、線分の傾きが急勾配になるため、より正確に、欠落の検出を行うことができる。なお、始端と終端間の距離が最も長い走査線の近傍の始端、終端と結んで平行度を判定しても良い。始端と終端間の距離が最も長い走査線の近傍には、紙幣が完全に2つに折れ曲がっているような場合を除き、計測データの欠落、すなわち、紙幣に折れ等の欠落がないと考えられるため、この場合も正確に欠落の検出を行うことができる。
なお、識別処理部27による計測データの欠落の検出は、1対の走査線の始端、終端を各々結んだ線分の走査線に垂直な線に対する傾きを用いてもよい。すなわち、始端を結んだ線分と終端を結んだ線分とが平行か否かを判定するのではなく、線分が走査線に対して垂直か否かを判定することで欠落の検出を行ってもよい。なお、この場合、走査線はスキュー角度の補正を行った後の走査線を用いると良い。
また、識別処理部27による計測データの欠落の検出は、計測データの長さによっても検出することができる。計測データに欠落がある場合には、上述したように、t1−t4間(図7参照)のデータの長さが短くなるからである。
識別処理部27は、計測データの欠落を検出した場合には、欠落した側の端部の位置を欠落していないとした場合の位置に補正する。
具体的には、識別処理部27は、図8(b)に示すように、基準とする走査線と、他の走査線、典型的には、基準とする走査線と隣り合う走査線との始端、終端を各々結んだ線分が略平行な線分を補正に用いるように構成されている。基準とする走査線は、始端と終端間の距離が最も長い走査線とする。始端と終端間の距離が最も長い走査線の近傍には、紙幣が完全に2つに折れ曲がっているような場合を除き、計測データの欠落、すなわち、紙幣に折れ等の欠落がないと考えられるからである。
識別処理部27は、基準とする走査線と隣り合う走査線との始端、終端を各々線分で結び、当該始端の線分の傾きと終端の線分の傾きとの差の絶対値が閾値以下であるかを判定するように構成されている。基準とする走査線に隣り合う走査線が複数ある場合は、傾き差の絶対値が最も小さいものを選定し、傾き差の絶対値が閾値以下であるかを判定する。傾き差の絶対値が閾値以下であれば、当該各線分は略平行である模範的な線分であると判定する。なお、閾値は、上記と同様に、例えば「3」程度とするとよい。
識別処理部27は、図8(c)に示すように、計測データの欠落が検出された識別用センサ11(図1参照)の走査線の延長線と、当該模範的な線分の延長線との交点を、紙幣の走査線の補正された始端、終端とする。識別処理部27は、図8(d)に示すように、補正された始端、終端の位置に基づいて、計測データの特定範囲を特定する。
なお、以上の識別処理部27による欠落検出、始端、終端位置の補正、特定範囲の特定は、終端あるいは両端側に欠落がある場合でも、ほぼ同様に行うことができる。
以上のようにして、計測データの特定範囲を特定することで、紙幣に欠落があっても、計測データの特定範囲を紙幣特定部位に対応しない範囲として特定してしまう、すなわち特定範囲が移動してしまうことがほとんどなく、以降の紙幣の識別を正確に行うことができる。また、識別用センサ11によって実際に計測された計測データ自体を補正しているわけではなく、紙幣の識別に用いる計測データは、いわゆる、生データであるので、以降の紙幣の識別を信頼性の高い識別とすることができる。
識別処理部27は、計測データの欠落を検出した場合には、始端、終端の位置を補正した後に特定される特定範囲の計測データを、計測データの欠落を検出しなかった場合には、通常通りに特定される特定範囲の計測データを、取得データとして取得データ格納領域33に格納する。
識別処理部27による紙幣の識別は、取得データ格納領域33に取得データとして格納されている特定範囲の計測データと、辞書データ格納領域36に格納されている辞書データとを読み出して比較し真偽を判定する。
なお、本実施の形態では、識別用センサ11が5個備えられているので、計測データは5つ存在する。上記の比較は、各計測データ毎に行なわれる。また紙幣の識別は、減点法で行なうとよい。この場合には、規定の閾値を設定し、減点が一定点以下であれば、真と識別するようにする。例えば、1000点満点中で減点が400点以下なら真と識別する。
具体的には、紙幣の識別は、各計測データの特定範囲毎に、特定範囲の計測データと辞書データとの一致の度合いを、例えば、複数のポイントで比較し、その差が所定の範囲内にあれば、減点せず、無ければその差に応じた減点を行なうようにする。複数のポイントの数は、上述した特定範囲の計測データと同程度のポイント数であり、言い換えれば、辞書データと同程度のポイント数である。
なお、ここでいう紙幣の真偽の識別は、金種の識別だけでなく、真であっても損傷の大きいもの、大きく折れ曲がって搬送されるものも広く含むものとする。言い換えれば、真と識別された紙幣は、例えば、顧客に出金してもよいと識別されたものである。
次に、図10から図16のフロー図を参照して、適宜図1を参照して、紙幣識別装置1の作用を説明する。ここで、図10から図16のフローの説明では、図9に示すように、識別用センサ11はセンサS(s)と表記し、各識別用センサ11は、搬送方向下流に向かって左から順に、センサS(0)、センサS(1)、センサS(2)、センサS(3)、センサS(4)と表記することがある。また、各識別用センサ11の各センサ間はセンサ間d(i)と表記し、左から順に、センサ間d(0)、センサ間d(1)、センサ間d(2)、センサ間(3)と表記することがある。
また、各識別用センサ11各々に属するようなデータ、例えば、識別用センサ11で取得したA/D変換データから、紙幣の始端を検出した場合、紙幣の始端の位置データを「センサS(s)の紙幣始端位置」、終端の位置データを「センサS(s)の紙幣終端位置」と表記する。また、紙幣の始端を検出した位置の位置データは、例えば、図9のt1が計測されたポイントで表すことができる。すなわち、本実施の形態では、一枚の紙幣に対する全ての範囲の計測データは、1mm間隔毎94ポイントデータであり、t1が3ポイント目で計測されれば、「センサS(s)の紙幣始端位置」=3となる。
また、例えば、センサS(1)で計測された紙幣の始端と、センサS(2)で計測された紙幣の始端とを結んだ線分の傾きは、「センサ間d(1)の始端傾き」と表記する。「センサS(1)の紙幣始端位置」=3、「センサS(2)の紙幣始端位置」=4であれば、センサ間d(1)の始端傾き」=(4−3)/(センサS(1)とセンサS(2)との距離)となる。本実施の形態では、複数の識別用センサ11は略等間隔で配置されているので、(センサS(1)とセンサS(2)との距離)は一定である。また、「センサ間d(i)の始端傾き」、「センサ間d(i)の始端傾き」は、各センサ間の始端側、終端側で相対的な数値として得ることができればよいので、ここでは、「センサ間d(1)の始端傾き」=4−3=1と表記することができる。言い換えれば、「センサ間d(1)の始端傾き」は、図8で上述したように、「センサS(1)の紙幣始端位置」と「センサS(2)の紙幣始端位置」との変化量を示すと言うことができる。なお、「センサ間d(1)の始端傾き」=1であれば、「センサS(1)の紙幣始端位置」と「センサS(2)の紙幣始端位置」とは、1ポイント、すなわち実際には1mmずれていることになる。
また、例えば、「センサ間d(1)の始端傾き」と「センサ間d(1)の終端傾き」の差の絶対値は、「センサ間d(1)の傾き差」と表記する。「センサ間d(1)の始端傾き」=1、「センサ間d(1)の終端傾き」=−1であれば、「センサ間d(1)の傾き差」=|「センサ間d(1)の始端傾き」−「センサ間d(1)の終端傾き」|=|1−(−1)|=2となる。これが図8で説明した平行度となる。また、上述した閾値=「3(ポイント)」は、この「センサ間d(1)の傾き差」(平行度)に対する閾値である。
図10は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の作用を説明するフロー図である。まず紙幣識別装置1は、上位装置より受け取った紙幣を、搬送部15により搬送する(S100)。そして、搬送される紙幣の光の透過量を5個の識別用センサ11にって計測を開始する(S102)。計測された透過量は、計測データとしてそれぞれ出力される(図7(b)のt0〜t5参照)。同時に、横位置検出用センサからも横位置データが出力される。
制御装置20の制御部21は、各識別用センサ11のA/D変換された計測データを監視し、いずれかの各識別用センサ11で媒体有りレベル(図7(b)のt1参照)を検知するまで搬送1mm間隔で監視を続ける(S104)。
制御装置20の制御部21は、媒体有りレベルを検知し、計測データをA/D変換器22を介して入力(取得)すると、データ収集部24により計測データを収集し、格納部30の計測データ格納領域31に格納する(S106)。具体的には、紙幣を94mm搬送する間、搬送1mm間隔で計測される各識別用センサ11の計測データを、センサS(0)からセンサS(4)毎に、データ(0)から(94)まで順に格納する。また同時に、横位置データも、A/D変換器22を介して入力すると、データ収集部24により横位置データを収集し、横位置データ格納領域32に格納する。
そして、制御部21は、状態検出部25により、紙幣の搬送状態の検出を行なう。搬送状態の検出は、まず、状態検出部25により、計測データ格納領域31に格納された計測データを呼び出し、呼び出した計測データに基づいて、スキュー角度を検出する(S108)。次に、横位置データ格納領域32に格納された横位置データを呼び出し、呼び出した横位置データに基づいて、横位置を検出する(S110)。
次に、制御部21の識別処理部27が紙幣の走査線の始端、終端の位置を検出する処理を行い(S112)、識別処理部27は、各紙幣の走査線の始端、終端の位置データに基づき、始端、終端の位置の補正処理を行い、補正された場合には補正された始端、終端の位置、補正されなかった場合にはそのままの始端、終端の位置に基づいて特定範囲の計測データを取得データとして取得データ格納領域33に格納する(S114)。さらに、識別処理部27は、取得データ格納領域33に格納された特定範囲の計測データと辞書データ格納領域36に格納されている辞書データとを呼び出し、比較して、紙幣の真偽の識別処理を行なう(S116)。
図11は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の始端、終端位置検出処理を説明するフロー図である。まず、識別処理部27は、センサS(s)の初期値をs=0に設定して以降の処理を行う(S200)。
識別処理部27は、センサS(s)について、計測データ格納領域31の計測データから、紙幣がセンサS(s)へ突入した位置(図7(b)のt1に該当)を、「センサS(s)の紙幣始端位置」として検出する(S202)。同様に、紙幣がセンサS(s)から抜けた位置(図7(b)のt4に該当)を、「センサS(s)の紙幣終端位置」として検出する(S204)。
次に、識別処理部27は、「センサS(s)の紙幣始端位置」、「センサS(s)の紙幣終端位置」に基づいて、センサS(s)の紙幣の始端と終端と距離データとして「センサS(s)の始端終端間距離」を演算する(S206)。「センサS(s)の始端終端間距離」は、「センサS(s)の始端終端間距離」=「センサS(s)の紙幣終端位置」−「センサS(s)の紙幣始端位置」で演算される。検出した「センサS(s)の紙幣始端位置」、「センサS(s)の紙幣終端位置」及び演算した「センサS(s)の始端終端間距離」を取得データとして取得データ格納領域33にそれぞれ記憶する(S208)。
識別処理部27は、センサS(s)のs=0であるか否かを判定し(S210)、s=0である場合(S210:Yes)、センサS(s)が一番左側の識別用センサ11であることを意味し、次のS212での演算ができないため、S216に移行し、s=0でない場合(S210:No)はS212に移行する。
S212では、識別処理部27は、センサ間d(i)をi=s−1として、「センサ間d(i)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(i)の終端傾き」(終端変化量)を演算する(S212)。「センサ間d(i)の始端傾き」(始端変化量)は、「センサ間d(i)の始端傾き」(始端変化量)=「センサS(s)の紙幣始端位置」−「センサS(s−1)の紙幣始端位置」で演算される。「センサ間d(i)の終端傾き」(終端変化量)は、「センサ間d(i)の終端傾き」(終端変化量)=「センサS(s)の紙幣終端位置」−「センサS(s−1)の紙幣終端位置」で演算される。識別処理部27は、「センサ間d(i)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(i)の終端傾き」(終端変化量)を取得データとして取得データ格納領域33に記憶し(S214)、S216に移行する。
ここで演算する「センサ間d(i)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(i)の終端傾き」(終端変化量)は、図8(a)で説明した1対の走査線の始端、終端を各々に結んだ線分の傾きに相当し、センサ間d(i)での始端、終端の変化量を示す。
S216では、識別処理部27は、s=4であるか否かを判定し(S216)、s=4である場合(S216:Yes)は始端、終端位置検出処理を終了し、s=4でない場合(S216:No)は、sに1を足して、s+1を新たなsの値として(S218)、S202以降の処理を繰り返して行う。
図12は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の始端、終端位置補正処理を説明するフロー図である。
識別処理部27は、取得データ格納領域33に取得データとして記憶されてい5つの「センサS(s)の始端終端間距離」を比較して、最も長い「センサS(s)の始端終端間距離」を求め、当該最も長いセンサS(s)を模範のセンサS(ms)とする(S300)。例えば、センサS(0)の始端終端間距離が最も長いのであれば、模範のセンサS(ms)は、ms=0となる。なお、当該模範のセンサS(ms)の走査線が、図8(b)で上述した基準とする走査線である。
次に、識別処理部27は、ms=0であるか否かを判定し(S302)、ms=0でない場合(S302:No)はS306に移行し、ms=0である場合(S302:Yes)、すなわち、模範のセンサS(ms)がセンサS(0)である場合は、センサ間d(0)を模範のセンサ間d(mi)とする。すなわち、模範のセンサ間d(mi)は、mi=0である。識別処理部27は、取得データとして取得データ格納領域33に記憶されている「センサ間d(0)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(0)の終端傾き」(終端変化量)を読み出し「センサ間d(0)の傾き差」(平行度)を演算する(S304)。「センサ間d(0)の傾き差」(平行度)は、「センサ間d(0)の傾き差」(平行度)=|「センサ間d(0)の始端傾き」(始端変化量)−「センサ間d(0)の終端傾き」(終端変化量)|で演算される。識別処理部27は、「センサ間d(0)の傾き差」(平行度)を取得データとして取得データ格納領域33に記憶し、S318に移行する。
なお、「センサ間d(i)の傾き差」(平行度)は、図8で上述した、1対の走査線の始端を結んだ線分と、終端を結んだ線分の平行度を示す。また、模範のセンサ間d(mi)は、図8(b)で上述した模範的な線分を形成するセンサ間である。
S306では、識別処理部27は、ms=4であるか否かを判定し(S306)、ms=4でない場合(S306:No)はS310に移行し、ms=4である場合(S306:Yes)、すなわち、模範のセンサS(ms)がセンサS(4)である場合は、センサ間d(3)を模範のセンサ間d(mi)とする。すなわち、模範のセンサ間d(mi)は、mi=3である。識別処理部27は、S304と同様に、「センサ間d(3)の傾き差」(平行度)を演算する(S308)。識別処理部27は、「センサ間d(3)の傾き差」(平行度)を取得データとして取得データ格納領域33に記憶し、S318に移行する。
S310は、模範のセンサS(ms)がms=0又はms=4でない場合、すなわち、ms=1、ms=2、ms=3のいずれかである場合の処理である。
まず、識別処理部27は、センサ間d(i)をi=ms−1として、S304と同様に、「センサ間d(ms−1)の傾き差」(平行度)を演算し、さらに、センサ間d(i)をi=msとして、「センサ間d(ms)の傾き差」(平行度)を各々演算する(S310)。例えば、模範のセンサS(ms)がセンサS(2)である、すなわち、ms=2である場合には、センサS(2)の左側の「センサ間d(1)の傾き差」(平行度)を演算し、さらに、右側の「センサ間d(2)の傾き差」(平行度)を演算する。
次に、識別処理部27は、「センサ間d(ms−1)の傾き差」(平行度)が、「センサ間d(ms)の傾き差」(平行度)よりも小さいか否かを判定し(S312)、「センサ間d(ms−1)の傾き差」(平行度)の方が小さい場合(S312:Yes)は、センサ間d(ms−1)を模範のセンサ間d(mi)とし(S314)、「センサ間d(ms−1)の傾き差」(平行度)を取得データとして取得データ格納領域33に記憶する。
「センサ間d(ms−1)の傾き差」(平行度)の方が大きい場合(S312:No)は、センサ間d(ms)を模範のセンサ間d(mi)とし(S316)、「センサ間d(ms)の傾き差」(平行度)を取得データとして取得データ格納領域33に記憶する。
例えば、模範のセンサS(ms)がセンサS(2)である、すなわち、ms=2である場合には、S(2)の左側の「センサ間d(1)の傾き差」(平行度)が、右側の「センサ間d(2)の傾き差」(平行度)よりも小さければ、センサ間d(1)を模範のセンサ間d(mi)とする。すなわち、模範のセンサ間d(mi)はセンサ間d(1)であり、すなわちmi=1である。
次に、識別処理部27は、S304、S308、S314、S316のいずれかで決定された「模範のセンサ間d(mi)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも大きいか否かを判定し(S318)、閾値「3」よりも大きい場合(S318:Yes)、紙幣の折れ等による欠落の度合いが大きい等の理由により、以降の識別処理の信頼性や搬送への悪影響が考えられるため補正等を行なわず、例えば、当該紙幣をリジェクトし終端位置補正処理を終了する。閾値「3」よりも小さい場合(S318:No)は、次の図13に示すS320に移行する。
図13は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の始端、終端位置補正処理の図12に続く処理を説明するフロー図である。なお、以降の処理は、模範のセンサ間d(mi)の左側のセンサ間について行う処理である。
模範のセンサ間d(mi)の傾き差の絶対値が、閾値「3」よりも小さいと判定されると(S318:No)、識別処理部27は、模範のセンサ間d(mi)がmi=0であるか否かを判定する(S320)。mi=0である場合(S320:Yes)は、次の図14に示すS336に移行する。mi=0である場合は、模範のセンサ間d(mi)が最も左側のセンサ間であることを意味し、以降で処理する模範のセンサ間d(mi)の左側のセンサ間が存在しないからである。mi=0でない場合(S320:No)、mi−1=jとして(S322)、次段のS324に移行する。
S324では、識別処理部27は、センサ間d(i)をi=jとして、S304と同様に、「センサ間d(j)の傾き差」(平行度)を演算し(S324)、「センサ間d(j)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも大きいか否かを判定する(S326)。「センサ間d(j)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも小さい場合(S326:No)は、S330に移行する。
「センサ間d(j)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも大きい場合(S326:Yes)は、折れ等の欠落があると推定されるため、識別処理部27は、「模範のセンサ間d(mi)の始端傾き」(始端変化量)と、「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)とが等しくなるように、「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)を「模範のセンサ間d(mi)の始端傾き」(始端変化量)に置き換える。同様に、「センサ間d(j)の終端傾き」(終端変化量)も「模範のセンサ間d(mi)の終端傾き」(終端変化量)に置き換える(S328)。
S330では、識別処理部27は、センサS(s)をs=jとする。識別処理部27は、「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(j)の終端傾き」(終端変化量)が置き換えられた場合には、置き換えられた「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(j)の終端傾き」(終端変化量)、置き換えられなかった場合には、そのままの「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(j)の終端傾き」(終端変化量)を用いて、「センサS(j)の紙幣始端位置」、「センサS(j)の紙幣終端位置」を演算する。なお、置き換えられなかった場合には、S330の処理を省略してS332に移行しても良い。
具体的には、識別処理部27は、「センサS(j)の紙幣始端位置」を、「センサS(j)の紙幣始端位置」=「センサS(j+1)の紙幣始端位置」−「センサ間d(j)の始端傾き」(始端変化量)で算出する。同様に「センサS(j)の紙幣終端位置」を、「センサS(j)の紙幣終端位置」=「センサS(j+1)の紙幣終端位置」−「センサ間d(j)の終端傾き」(終端変化量)で算出する(S330)。識別処理部27は、以上のようにして算出した補正後の「センサS(j)の紙幣始端位置」、「センサS(j)の紙幣終端位置」を取得データとして取得データ格納領域33に記憶する。
なお、S326からS330までの処理は、図8(a)、(b)、(c)で説明した紙幣の欠落を検出し、欠落のある走査線の延長線と模範的な線分の延長線との交点を、紙幣の補正された始端、終端とすることに相当する。
次に、識別処理部27は、j=0であるか否かを判定し(S332)、j=0である場合(S332:Yes)は、次の図14に示すS336に移行する。、j=0でない場合(S332:No)は、jから1を引いて、j−1を新たなjの値として(S334)、S324以降の処理を繰り返して行う。
図14は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の始端、終端位置補正処理の図13に続く処理を説明するフロー図である。なお、以降の処理は、模範のセンサ間d(mi)の右側のセンサ間について行う処理である。
まず、識別処理部27は、図12のS304、S308、S314、S316のいずれかで決定された模範のセンサ間d(mi)がmi=3か否かを判定する(S336)。mi=3である場合(S336:Yes)は、次の図15に示すS352に移行する。mi=3である場合は、模範のセンサ間d(mi)が最も右側のセンサ間であることを意味しており、図13で示した処理により、すべてのセンサ間について行う処理は終了しているからである。mi=3でない場合(S336:No)、mi+1=kとして(S338)、次段のS340に移行する。
S340では、識別処理部27は、センサ間d(i)をi=kとして、S304と同様に、「センサ間d(k)の傾き差」(平行度)を演算し(S340)、「センサ間d(k)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも大きいか否かを判定する(S342)。「センサ間d(k)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも小さい場合(S342:No)は、S346に移行する。
「センサ間d(k)の傾き差」(平行度)が、閾値「3」よりも大きい場合(S342:Yes)は、折れ等の欠落があると推定されるため、識別処理部27は、「模範のセンサ間d(mi)の始端傾き」(始端変化量)と、「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)とが等しくなるように、「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)を「模範のセンサ間d(mi)の始端傾き」(始端変化量)に置き換える。「センサ間d(k)の終端傾き」(終端変化量)も同様に「模範のセンサ間d(mi)の終端傾き」(終端変化量)に置き換える(S344)。
S346では、識別処理部27は、センサS(s)をs=k+1とする。識別処理部27は、「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(k)の終端傾き」(終端変化量)が置き換えられた場合には、置き換えられた「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(k)の終端傾き」(終端変化量)、置き換えられなかった場合には、そのままの「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)、「センサ間d(k)の終端傾き」(終端変化量)を用いて、「センサS(k+1)の紙幣始端位置」、「センサS(k+1)の紙幣終端位置」を演算する。なお、置き換えられなかった場合には、S346の処理を省略してS348に移行しても良い。
具体的には、識別処理部27は、「センサS(k+1)の紙幣始端位置」を、「センサS(k+1)の紙幣始端位置」=「センサS(k)の紙幣始端位置」−「センサ間d(k)の始端傾き」(始端変化量)で算出する。同様に「センサS(k+1)の紙幣終端位置」を、「センサS(k+1)の紙幣終端位置」=「センサS(k)の紙幣終端位置」−「センサ間d(k)の終端傾き」(終端変化量)で算出する(S346)。識別処理部27は、以上のようにして算出した補正後の「センサS(k+1)の紙幣始端位置」、「センサS(k+1)の紙幣終端位置」を取得データとして取得データ格納領域33に記憶する。
なお、S342からS346までの処理は、上述したS326からS330までの処理とほぼ同様に、図8(a)、(b)、(c)で説明した紙幣の欠落を検出し、欠落のある走査線の延長線と模範的な線分の延長線との交点を、紙幣の補正された始端、終端とすることに相当する。
次に、識別処理部27は、k=3であるか否かを判定し(S348)、k=3である場合(S348:Yes)は、次の図15に示すS352に移行する。、k=3でない場合(S348:No)は、kに1を足して、k+1を新たなkの値として(S350)、S340以降の処理を繰り返して行う。
図15は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の始端、終端位置補正処理の図14に続く処理を説明するフロー図である。まず、識別処理部27は、センサS(s)の初期値をs=0と設定して以降の処理を行う(S352)。
識別処理部27は、センサS(s)の計測データを計測データ格納領域31から、補正後の「センサS(s)の紙幣始端位置」、「センサS(s)の紙幣終端位置」のデータを取得データ格納領域33から各々読み出す(S354)。なお、S326での判断がNoでありS330の処理を省略した場合、S342での判断がNoでありS346の処理を省略した場合には、補正後の「センサS(s)の紙幣始端位置」、「センサS(s)の紙幣終端位置」が存在しないので、S202(図11参照)、S204(図11参照)で検出した「センサS(s)の紙幣始端位置」、「センサS(s)の紙幣終端位置」をそのまま読み出せばよい。
次に、識別処理部27は、読み出した「センサS(s)の紙幣始端位置」とセンサS(s)の紙幣終端位置」との中心を基準として略対称となるように、94ポイントある計測データから56ポイントを特定範囲として特定し(S356)、センサS(s)の特定範囲の計測データを、取得データとして取得データ格納領域33に格納する(S358)。
S360では、識別処理部27は、s=4であるか否かを判定し(S360)、s=4である場合(S360:Yes)は始端、終端位置補正処理を終了し、s=4でない場合(S360:No)は、sに1を足して、s+1を新たなsの値として(S362)、S354以降の処理を繰り返して行う。
図16は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1の識別処理を説明するフロー図である。まず、識別処理部27は、センサS(s)の初期値をs=0と設定して以降の処理を行う(S400)。そして、識別処理部27は、図10のS108、S110で状態検出部25により検出したスキュー角度、横位置を読み出す(S402)。
次に、識別処理部27は、センサS(s)の特定範囲の計測データと、第1の金種の辞書データを読み出し、図5で説明した4つの走査方向別で各々比較する(S404)。
具体的には、識別処理部27は、第1の走査方向(図5参照)の辞書データを読み出し、センサS(s)の特定範囲の計測データとの一致の度合いを求め、第1の減点データとして取得データ格納領域33に記憶する。このときの、辞書データ格納領域36から読み出す辞書データは、S402で読み出した横位置、スキュー角度をそのまま用いて読み出す。
さらに、識別処理部27は、第2の走査方向(図5参照)の辞書データを読み出し、センサS(s)の特定範囲の計測データとの一致の度合いを減点法で求め、これも第1の減点データとして取得データ格納領域33に記憶する。なお、本実施の形態では、実際には第1の走査方向(図5参照)の辞書データしか記憶していないので、辞書データ格納領域36から読み出す辞書データは、S402で読み出した横位置を符号反転し、スキュー角度をそのまま用いて読み出し、第2の走査方向(図5参照)の辞書データとする。
さらに、識別処理部27は、第3の走査方向(図5参照)の辞書データを読み出し、センサS(s)の特定範囲の計測データとの一致の度合いを求め、これも第1の減点データとして取得データ格納領域33に記憶する。なお、本実施の形態では、実際には第1の走査方向(図5参照)の辞書データしか記憶していないので、辞書データ格納領域36から読み出す辞書データは、S402で読み出した横位置をそのまま用い、スキュー角度を符号反転したもの用いて読み出し、第3の走査方向(図5参照)の辞書データとする。
さらに、識別処理部27は、第4の走査方向(図5参照)の辞書データを読み出し、センサS(s)の特定範囲の計測データとの一致の度合いを求め、これも第1の減点データとして取得データ格納領域33に記憶する。なお、本実施の形態では、実際には第1の走査方向(図5参照)の辞書データしか記憶していないので、辞書データ格納領域36から読み出す辞書データは、S402で読み出した横位置を符号反転し、スキュー角度も符号反転したもの用いて読み出し、第4の走査方向(図5参照)の辞書データとする。
同様にして、識別処理部27は、センサS(s)の特定範囲の計測データと、第2の金種の辞書データを読み出し、図5で説明した4つの走査方向別で各々比較する(S406)。
次に、識別処理部27は、s=4であるか否かを判定し(S408)、s=4である場合(S408:Yes)はS412に移行し、s=4でない場合(S408:No)は、sに1を足して、s+1を新たなsの値として(S410)、S402以降の処理を繰り返して行う。以上の処理で40個の第1の減点データが得られる。
S412では、識別処理部27は、金種毎、各走査方向毎に取得データ格納領域33に記憶した第1の減点データの総和を演算し、第2の減点データとして取得データ格納領域33に記憶する(S412)。すなわち、第2の減点データは8個得られる。
次に、識別処理部27は、第2の減点データが最小値になるものを、比較対象の金種、走査方向として特定する(S414)。つまり、ここでは、金種、走査方向を仮に識別しているのである。
識別処理部27は、8個の第2の減点データのうち、特定された金種、走査方向についての第2の減点データが、予め設定されている第2の減点データに対する閾値よりも小さいか否かを判定し(S416)、閾値よりも小さい場合は(S416:Yes)、真券、すなわち、仮識別された金種の紙幣であると識別し(S418)、閾値よりも大きい場合は(S416:No)、偽券、すなわち、仮識別された金種の紙幣でない、あるいは、リジェクトすべき紙幣であると識別して(S420)、識別処理を終了する。
以上のように本実施の形態に係る紙幣識別装置1は、例えば、紙幣の識別する場合に紙幣が折れる等により欠落が生じた場合でも、比較的検出し易く信頼性のある紙幣の周縁を基準として、紙幣の始端、終端の検出を行うので比較的容易に欠落の検出を行うことができる。さらに、比較的検出し易く信頼性のある紙幣の周縁を基準として、欠落した紙幣の始端、終端の位置を補正し、補正された始端、終端の位置に基づき特定範囲を決定しているので、特定範囲の特定の信頼性が高く、特定範囲が移動してしまい、辞書データとの比較で大きな相違が生じ、紙幣を偽券と判断して排除してしまうことがなく、正確な紙幣の識別を行なえる。このため、紙幣識別装置1を備える上位機の運用効率も高い。
また、以上のように本実施の形態に係る紙幣識別装置1は、例えば、紙幣の折れ部分が、紙幣上の上の紙幣特定部位に被さってしまっていても、特定範囲の計測データの中で、辞書データと異なると判断される可能性の高い部分は、被さってしまっている部分だけであるので、より正確に紙幣の識別を行うことができる。
また、以上のように本実施の形態に係る紙幣識別装置1は、計測された異なる始端、終端の位置データに基づき、始端、終端を結ぶ線分の傾きを求め、その傾きに基づき補正すべき始端、終端の位置を検出、補正するので、信頼できる2ヶ所の始端、終端の位置データがあれば、残るの始端、終端の位置データの補正が可能であり、紙幣の折れが、始端にあっても、終端にあっても、その両方にあっても、確実に検出、補正することができる。また、複数の識別用センサ11で取得したセンサ間の始端、終端位置のずれから、紙幣のスキュー角度を算出することもでき、この場合は、紙幣の一部が折れていても、始端、終端位置を推定することで算出を誤ることがなくなる。
次に、図17の模式的縦断面図を参照して、上述した紙幣識別装置1を備えた紙幣処理装置としての出金機100について説明する。出金機100は、紙幣を出金するものである。出金機100は、紙幣としての千円札と一万円札との2券種を扱えるものである(以下、紙幣識別装置1と同様に千円札と一万円札を特に区別しないときは単に紙幣という)。また、ここでは、紙幣識別装置1により、偽と判定された紙幣をリジェクト紙幣という。
出金機100は、紙幣識別装置1と、紙幣識別装置1により識別する紙幣を収納する媒体収納庫としての紙幣収納金庫101と、紙幣識別装置1で識別された紙幣を集積して出金する出金部105と、紙幣識別装置1に接続され、紙幣収納金庫101に紙幣を補充し、又は紙幣収納金庫101から紙幣を回収する補充・回収金庫106とを含んで構成される。また補充・回収金庫106は、紙幣収納金庫101と同一の構成である。さらに、出金機100には、補充・回収金庫106から補充された紙幣が紙幣識別装置1によりリジェクト紙幣と識別されたときに、紙幣を回収する補充リジェクト庫107と、紙幣収納金庫101から出金された紙幣がリジェクト紙幣と識別されたときに、紙幣を回収する出金リジェクト庫108とが備えられている。
また、出金機100は、紙幣収納金庫101と補充・回収金庫106との間で紙幣識別装置1を介して紙幣を搬送する搬送手段であって、紙幣の補充と回収の際に紙幣を同一経路上で正逆方向に移送するように構成された搬送部130、140を備える。また、出金機100は、紙幣の長辺方向に搬送する縦搬送ではなく、紙幣の短辺方向に搬送する横搬送で紙幣を搬送するものである。このようにすることで、出金機100は、搬送経路を短くできるので、小型化できるだけでなく、紙幣の処理速度が向上するので、運用効率が高まる。
紙幣収納金庫101は、千円札を集積して収納する千円収納金庫102と、一万円札を集積して収納する万円収納金庫103とを含んで構成され、出金機100のおよそ下部にそれぞれが設けられている。また、千円収納金庫102と万円収納金庫103とは、同一の構造により構成される。以下、千円収納金庫102と万円収納金庫103を特に区別しないときは、単に紙幣収納金庫101という。
搬送部130は、紙幣収納金庫101のおよそ上部に配置され、紙幣識別装置1と紙幣収納金庫101とに接続されており、紙幣収納金庫101と紙幣識別装置1との間を、正逆方向に紙幣を搬送するものである。なお、図示では、搬送部130は屈曲部のローラのみを示し、細部のローラ及び搬送ベルトの表示を省略している(図示は搬送経路)。
搬送部130は、搬送経路の中間に第1の分岐部130aを有しており、第1の分岐部130aで分岐して千円収納金庫102と、万円収納金庫103とにそれぞれ接続されている。搬送部130で搬送される紙幣は、第1の分岐部130aにより、千円収納金庫102と万円収納金庫103とに振り分けて搬送できる。さらに、搬送部130は、搬送経路の第1の分岐部130aと千円収納金庫102との間に第2の分岐部130bを有している。搬送部130は、第2の搬送部130bで分岐して補充リジェクト庫107に接続されている。搬送部130で搬送される紙幣は、第2の分岐部130bにより補充リジェクト庫107に振り分けて搬送できる。
紙幣識別装置1は、出金機100のおよそ中央部に配置され、端部1a、1bにそれぞれ搬送部130、搬送部140が接続されており、搬送部130、搬送部140により搬送される紙幣を識別する。ここでいう紙幣の識別は、紙幣識別装置1で前述したような識別である。
搬送部140は、搬送部130のおよそ上方に配置され、紙幣識別装置1と出金リジェクト庫108とに接続されており、紙幣識別装置1と出金リジェクト庫108との間を、正逆方向に紙幣を搬送するものである。なお図示では、搬送部130と同様に、搬送部140は屈曲部のローラのみを示し、細部のローラ及び搬送ベルトの表示を省略している(図示は搬送経路)。
また、搬送部140は、搬送経路の中間に第3の分岐部140aを有しており、第3の分岐部140aで分岐して出金部105に接続されている。搬送部140で搬送される紙幣は、第3の分岐部140aにより、出金リジェクト庫108と出金部105とに振り分けて搬送できる。さらに、搬送部140は、搬送経路の第3の分岐部140aと出金リジェクト庫108との間に第4の分岐部140bを有している。搬送部140は、第4の分岐部140bで分岐して、補充・回収金庫106に接続されている。搬送部140で搬送される紙幣は、第4の分岐部140bにより、出金リジェクト庫108と補充・回収金庫106とに振り分けて搬送できる。
また、搬送部130、搬送部140は、前述した紙幣収納金庫101に接続される搬送装置でもある。即ち、千円収納金庫102と万円収納金庫103は搬送部130に、補充・回収金庫106は搬送部140にそれぞれ搬送速度と搬送方向が同期している。搬送部130、搬送部140の紙幣の搬送速度は、共に1.6m/sである。
出金部105は、出金機100のおよそ左上部に配置され、搬送部140が接続されている。出金部105は、利用者に紙幣を出金するものである。なお、出金部105は、複数枚の紙幣を一括して出金できるものである。補充・回収金庫106は、出金機100のおよそ右側中央部に配置され、搬送部140が接続されている。補充リジェクト庫107は、紙幣を補充する際に紙幣識別装置1によりリジェクト紙幣と識別された紙幣(以下、補充リジェクト紙幣という)を回収するものであり、補充・回収金庫106の下方に配置され、搬送部130が接続されている。出金リジェクト庫108は、紙幣を出金する際に紙幣識別装置1によりリジェクト紙幣と識別された紙幣(以下、出金リジェクト紙幣という)を回収するものである。出金リジェクト庫108は、補充・回収金庫106の上方に配置され、搬送部140が接続されている。
さらに図17を続けて参照して、出金機100の出金動作の作用について説明する。出金動作は、利用者に紙幣を出金する際に、千円収納金庫102、万円収納金庫103にそれぞれ収納された紙幣を出金する。出金機100は、一万円札、千円札のそれぞれについて出金枚数が決定されると、まず、必要な枚数の一万円札を万円収納金庫103により1枚ずつ繰り出す。そして、繰り出された一万円札は万円収納金庫103から搬送部130に受け渡される。
搬送部130に受け渡された一万円札は、搬送部130により、第1の分岐部130aを経由して紙幣識別装置1に搬送され、紙幣識別装置1により識別される。搬送部140は、紙幣識別装置1で一万円札であることが識別されると、一万円札を、紙幣識別装置1から第3の分岐部140aを経由して、出金部105へと搬送する。
また、紙幣識別装置1で一万円札であることが識別されなかった場合には、出金リジェクト紙幣として、搬送部140により、紙幣識別装置1から第3の分岐部140aを経由して、出金リジェクト庫108へと搬送され、出金リジェクト庫108に受け渡される。これにより、出金リジェクト紙幣は、出金リジェクト庫108に集積される。
搬送部140により搬送されてきた一万円札は、出金部105に受け渡される。これにより、一万円札は、出金部105に集積される。以上のようにして、出金機100は、1枚ずつ、必要な枚数の一万円札を万円収納金庫103より繰り出して、出金部105に集積する。
出金機100は、必要な枚数の一万円札を出金部105に集積すると、次に、必要な枚数の千円札を千円収納金庫102により1枚ずつ繰り出す。千円収納金庫102は、万円収納金庫103と同様に、前述した紙幣収納金庫101の出金動作により、千円札を1枚ずつ出金する。そして、出金された千円札は千円収納金庫102から搬送部130に受け渡される。
搬送部130に受け渡された千円札は、搬送部130により、第2の分岐部130b、第1の分岐部130aを経由して紙幣識別装置1に搬送され、紙幣識別装置1により識別される。紙幣識別装置1で千円札であることが識別されると、千円札は、搬送部140により、紙幣識別装置1から第3の分岐部140aを経由して、出金部105へと搬送される。また紙幣識別装置1で千円札であることが識別されなかった出金リジェクト紙幣は、前述と同様にして出金リジェクト庫108に集積される。
搬送部140により搬送されてきた千円札は、出金部105に受け渡される。そして一万円札と同様に集積される。出金機100は、一万円札と同様にして、1枚ずつ、必要な枚数の千円札を千円収納金庫102より繰り出して、出金部105に集積された一万円札の上に集積する。ここで、一万円札を千円札より先に即ち下に集積するのは、一万円札の方が千円札よりも大きいので、後述の出金の際に一万円札と千円札の集積状態が上から見て一目瞭然だからである(逆の場合には一万円札の下に千円札が隠れてしまう。)。出金機100は、一万円札、千円札を必要な枚数ずつ出金部105に集積すると、一括して機外へ出金する。出金された紙幣は、利用者により取り去られる。
次に、出金機100の紙幣の補充動作の作用について説明する。補充動作は、例えば千円収納金庫102、万円収納金庫103に収納された紙幣が不足した際に、千円収納金庫102、万円収納金庫103のそれぞれに紙幣を補充する場合に行なう。まず、補充すべき金種の紙幣を補充・回収金庫106に集積する。出金機100は、例えば出金機100を管理している管理者により、補充を開始する旨の指示が入力されると、補充・回収金庫106は、前述した紙幣収納金庫101の出金動作と同様に、紙幣(千円札、一万円札)を1枚ずつ出金する。そして、出金された紙幣は補充・回収金庫106から搬送部140に受け渡される。受け渡された紙幣は、搬送部140により、第4の分岐部140b、第3の分岐部140aを経由して紙幣識別装置1に搬送される。
紙幣識別装置1は、搬送部140により搬送されてきた紙幣が、千円札、一万円札、補充リジェクト紙幣(リジェクト紙幣)の3種類のいずれであるかを識別する。千円札であると識別された場合には、搬送部130を経由して千円収納金庫102に集積される。一万円札であると識別された場合には、同様に、万円収納金庫103に集積される。さらに、補充リジェクト紙幣の場合には、搬送部130により補充リジェクト庫107へ搬送される。
また、紙幣の補充は、千円収納金庫102、万円収納金庫103にそれぞれ設けられた不図示の扉を開けて直接補充することもできる。
そして、出金機100の紙幣の回収動作の作用について説明する。回収動作は、例えば1日の締めきりに、千円収納金庫102、万円収納金庫103のそれぞれに集積された紙幣を回収する場合に行なう。紙幣の回収は、出金動作の場合とほぼ同様な作用となるが、出金部105に集積するのではなく、補充・回収金庫106に集積する。
以上のように、紙幣収納金庫101から紙幣を出金する場合には、紙幣収納金庫101から出金された紙幣を搬送部130により搬送し、紙幣識別装置1により識別する。そして搬送部140により搬送して、出金部105に集積された後に利用者に出金する。また、補充・回収金庫106から紙幣を補充する場合には、補充・回収金庫106から出金された紙幣を搬送部140により搬送し、紙幣識別装置1により識別する。そして搬送部130により搬送して、紙幣収納金庫101に集積する。さらに、補充・回収金庫106に紙幣を回収する場合には、紙幣収納金庫101から出金された紙幣を搬送部130により搬送し、紙幣識別装置1により識別する。そして搬送部140により搬送して、補充・回収金庫106に紙幣を回収する。このように、出金機100は、搬送部130、140により、紙幣を紙幣収納金庫101から出金部105へ搬送する搬送経路と、補充・回収金庫106と紙幣収納金庫101との間を搬送する搬送経路とを共有するので、搬送経路をそれぞれ別に設ける必要がなく、装置の小型化を図ることができる。
以上のように本実施の形態の出金機100は、紙幣識別装置1を備えているので、例えば、搬送中の紙幣の折れ等により計測データに欠落が生じた場合であっても、正確に紙幣を識別できるので、リジェクト紙幣を減らすことができ、運用効率を高めることができる。
なお、以上で説明した本発明の実施の形態に係る紙幣識別装置1、紙幣処理装置100は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上の説明では、始端、終端位置補正処理で、模範のセンサ間d(mi)は、模範センサS(ms)の直ぐ隣のセンサとのセンサ間であるものとして説明したが、模範センサS(ms)の2つ隣のセンサとのセンサ間としてもよい。また、特定範囲は、一枚の紙幣に対する走査線の中心を基準点として、走査方向に対して対称な位置関係にある部位を基準に、当該部位に対応する計測データの範囲として特定するものとして説明したが、必ず紙幣の中央付近の部位に対応させる必要はなく、また、複数の部位に対応するように特定してもよい。
以上の説明では、特徴データは、紙幣の通過による光の透過量の変化を示す振幅データとしたが、紙幣に記録された磁気情報を示す振幅データとしてもよい。この場合には、計測部は、紙幣に記録された磁気情報を計測して特徴データを取得する磁気ヘッドとなる。また、計測部は、本実施の形態で説明した識別用センサと磁気ヘッドとの両方を備えるように構成してもよい。このようにすると紙幣の識別の精度を大幅に向上させることができる。また、紙幣収納金庫101が、係員によってセットされる紙幣を収納する収納庫であるので、紙幣識別装置1は券種を識別するのに充分なもので足りる。したがって、装置の単純化を図ることができる。