以下に、添付図面を参照して、本発明に係る紙葉類判別方法、紙葉類判別装置および正損判別学習方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る紙葉類判別手法の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る紙葉類判別手法を適用した紙幣判別装置についての実施例を図2〜図13を用いて説明することとする。
まず、本発明に係る紙葉類判別手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る紙葉類判別手法の概要を示す図である。なお、図1の(A)には、従来技術に係る紙葉類判別手法の概要を、図1の(B)には、本発明に係る紙葉類判別手法の概要を、それぞれ示している。また、以下では、紙葉類が紙幣であるものとして説明を行う。
図1の(A−a)に示すように、従来技術に係る紙葉類判別手法では、正損判別の基準となる母集団データの生成を行う学習段階において、学習用の撮像画像である学習画像として正券のサンプル群と損券のサンプル群とを必要としていた。
これは、従来技術に係る紙葉類判別手法が、2つの母集団データの存在を前提とするいわゆる判別分析の手法を用いているためであるが、市場での流通数が比較的少ない金種の紙幣や新規に発行される予定の紙幣などについては、官封券に代表される正券はともかく、損券のサンプルの入手が非常に困難であった。
したがって、たとえば、紙幣判別装置の開発段階における実験や検証試験の際には、擬似的な損券のサンプルデータの作成という煩雑な作業が生じていた。そして、かかる煩雑な作業は、開発効率の低下を招いていた。
なお、図1の(A−b)に示したのは、変数x1を横軸、変数x2を縦軸とする散布図である。また、図中の「○」印は正券を、「●」印は損券を、直線L1は変数x1の判別閾値を、直線L2は変数x2の判別閾値を、破線は各変数の平均値を、それぞれ示している。
たとえば、図1の(A−b)に示すように、従来技術に係る紙葉類判別手法では、判別閾値L1以上かつ判別閾値L2以上のエリアを正券の母集団エリアとみなし、また、それ以外のエリアを損券の母集団エリアとみなして、判別対象の紙幣がいずれのエリアに属するかを判別することによって正損判別を行っていた。
したがって、図1の(A−b)に示したような、変数x1およびx2のバランスが悪い損券a(たとえば、片面のみが汚れている紙幣など)は、従来技術に係る紙葉類判別手法では、正券と誤判別されていた。なお、変数間のバランスが悪いとは、変数間の相関が弱いと言い換えることができる。つまり、従来技術に係る紙葉類判別手法では、変数間の相関を考慮した判別を行っていなかった。
また、変数間の相関は強いものの、出力値が高すぎるために平均値の交点から遠い位置に分布する損券b(たとえば、油汚れにより光の反射率が高い紙幣など)は、従来技術に係る紙葉類判別手法では、やはり正券と誤判別されていた。つまり、従来技術に係る紙葉類判別手法では、平均値の交点からの距離を考慮した判別を行っていなかった。
そこで、図1の(B−a)に示したように、本発明に係る紙葉類判別手法では、学習段階においては、正券のサンプル群のみを学習画像として用いて、変数間の相関を考慮した母集団データを生成することとした。
このとき、本発明に係る紙葉類判別手法では、生成する母集団データを高精度なものとするために、判別に適した波長(以下、「有効波長」と記載する)に基づいて取得した正券画像のみを用いる。なお、かかる「有効波長」の詳細については、図4を用いて後述する。
また、本発明に係る紙葉類判別手法では、かかる有効波長分の正券画像について判別に適した領域(以下、「有効ブロック」と記載する)を決定し、決定した有効ブロックのみを用いる。なお、かかる「有効ブロック」の詳細については、図6を用いて後述する。
また、生成される母集団データには、各変数の平均値の集合である「平均値ベクトル」と、変数間の相関係数である「分散共分散逆行列」とが含まれる。かかる点の詳細については、図7を用いて後述する。
これにより、本発明に係る紙葉類判別手法では、損券のサンプル群が存在しない場合であっても、正券のサンプル群のみを用いることで、開発効率を低下させることなく高精度な母集団データを生成することができる。
また、図1の(B−b)に示したように、本発明に係る紙葉類判別手法では、判別段階においては、「マハラノビス距離」を用いた正損判別を行うこととした。なお、図1の(B−b)に示したのは、図1の(A−b)と同様の散布図である。
ここで、「マハラノビス距離」とは、多変数間の相関に基づいた距離であり、一般に多変量解析に用いられている。そして、かかる「マハラノビス距離」は、学習段階において生成した「平均値ベクトル」を重心とする正券の分布空間に対する相対的な距離として、相関係数である「分散共分散逆行列」などを用いて求めることができる。
つまり、本発明に係る紙葉類判別手法では、正券の分布空間から相対的に近いか遠いかによって判別を行うので、損券のサンプル群が存在しない場合であっても、判別閾値を適正に設定することによって高精度な正損判別を行うことが可能となる。
なお、図1の(B−b)に示したような散布図上では、等距離の「マハラノビス距離」は、平均値の交点に対応する「平均値ベクトル」を重心とする等高線状に閉曲線1のように描くことができる。
したがって、閉曲線1を判別閾値1として最適化することによって、損券aおよび損券bを適正に損券であると判別することが可能となる。なお、かかる判別閾値1の最適化は、紙幣判別装置の開発段階における実験や検証試験の際に適宜調整することができる。
また、判別対象へ実際の損券が混じる実運用段階においては、「大津の2値化」に代表される判別分析法を用いることによって判別閾値1を自動的に最適化することとしてもよい。かかる、判別閾値1の最適化の詳細については、図11を用いて後述する。
このように、本発明に係る紙葉類判別手法では、学習段階においては、正券のサンプル群のみを学習画像として用いて、変数間の相関を考慮した高精度な母集団データを生成することとした。
また、本発明に係る紙葉類判別手法では、判別段階においては、生成した母集団データに含まれる「平均値ベクトル」や「分散共分散逆行列」を用いて「マハラノビス距離」を算出し、かかる「マハラノビス距離」を用いた正損判別を行うこととした。
したがって、本発明に係る紙葉類判別手法によれば、損券のサンプルが存在しない場合であっても、開発効率を低下させることなく高精度な母集団データを生成することができ、再現性の高い正損判別が可能となる。
以下では、図1を用いて説明した紙葉類判別手法を適用した紙幣判別装置についての実施例を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、紙幣判別装置がイメージラインセンサ(以下、「ラインセンサ」と記載する)によって、紙幣の画像を撮像する場合について説明することとする。また、以下では、判別対象となる紙幣の撮像画像を「評価画像」と記載することとする。
図2は、本実施例に係る紙幣判別装置が備えるラインセンサの概略図である。なお、図2では、同ラインセンサの特徴を説明するために必要な機構の一部を示しており、機構の形状や構成部品などを限定するものではない。また、図2の(A)には、多波長光源を有する片面反射/片面透過型ラインセンサ100の概略図を、図2の(B)には、他のラインセンサである両面反射/片面透過型のラインセンサ200の概略図を、それぞれ示している。
まず、図2を用いた説明に先だって、ラインセンサの概要について説明する。ラインセンサとは、紙幣の画像を撮像する機構であり、撮像対象である紙幣の搬送方向と直交する方向へ多数の検出器を並列して配置する。なお、かかる検出器は、発光素子であるLED(Light Emitting Diode)アレイや、受光素子であるフォトダイオードアレイなどから構成される。
そして、ラインセンサは、撮像対象である紙幣上の所定位置での反射光や透過光などの物理量の分布を検出することで、かかる紙幣を撮像する。なお、以下では、光学式のラインセンサを用いる場合について説明する。
図2の(A)に示したように、ラインセンサ100は長形状の対向した発光部110および受発光部120によって構成され、撮像対象である紙幣は、発光部110と受発光部120との間隙を搬送方向500の方向へ搬送される。
発光部110は、ライン状の透過用2波長LEDアレイ111と集光用のロッドレンズ112とで一体的に構成され、搬送される紙幣に対して光を均一に照射する。
また、受発光部120は、ライン状の反射用2波長LEDアレイ121と、受光用のフォトダイオードアレイ123と、フォトダイオードアレイ123の受光角を制限することで指向性を高めて分解能を向上させるセルフォックレンズアレイ(SLA)122と、フォトダイオードアレイ123の各素子の蓄積時間を制御するマルチプレクサ回路124とで一体的に構成される。
ここで、透過用2波長LEDアレイ111および反射用2波長LEDアレイ121は、電流制御の駆動回路で制御される。また、フォトダイオードアレイ123の感知出力は、マルチプレクサ回路124で発光波長に応じた適宜の蓄積時間で制御されて出力される。
なお、かかるLEDアレイ111および121の発光素子は、赤外光のような不可視光源と可視光源(たとえば緑色)とを組み合わることとしてもよいし、紙幣の種類や判別の目的などに応じて、RGB光源を組み合わせることとしてもよい。また、LED以外の発光素子を用いることとしてもよい。
さらに、上述の説明では、透過用2波長および反射用2波長のLEDアレイで構成した例を説明したが、特に構成を限定するものではなく、透過光あるいは反射光を適宜組み合わせることとしてもよい。
なお、図2の(A)においては、片面反射/片面透過型のラインセンサを用いる場合の例を示したが、両面反射/片面透過型のラインセンサを用いることとしてもよい。
図2の(B)に示したように、ラインセンサ200は、撮像対象である紙幣300の一方の面を走査する第1のラインセンサ210と、他方の面を走査する第2のラインセンサ220とを備える。なお、撮像対象となる紙幣300は、かかる第1のラインセンサ210と第2のラインセンサ220との間隙を搬送方向600の方向へ搬送される。
ここで、第1のラインセンサ210は、紙幣300の一方の面へ所定の波長の光(たとえば、赤外光などの不可視光や緑色などの可視光)を照射する反射用光源211と、反射用光源211から照射され紙幣300で反射した光を集光するレンズ212と、レンズ212によって集光された光を電気信号に変換する受光部213と、受光部213で変換された電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換部214と、後述する第2のラインセンサ220の反射用光源222からの光を遮断する遮蔽部215とを備える。
また、同様に、第2のラインセンサ220は、紙幣300の他方の面へ所定の波長の光を照射する透過用光源221および反射用光源222と、反射用光源222から照射され紙幣300で反射した光を集光するレンズ223と、レンズ223によって集光された光を電気信号に変換する受光部224と、受光部224で変換された電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換部225と、第1のラインセンサ210の反射用光源211からの光を遮断する遮蔽部226とを備える。
また、第1のラインセンサ210の受光部213は、レンズ212を介して第2のラインセンサ220の透過用光源221から照射された光の一部を検出する。したがって、透過用光源221は、第1のラインセンサ210のレンズ212の光軸上に配置される。
なお、透過用光源221/反射用光源211および222については、LEDを用いることが好ましいが、LED以外の発光素子を用いることとしてもよい。また、紙幣の種類や判別の目的などに応じて、RGB光源を用いることが好ましい。
なお、本発明においては、上述したラインセンサ以外の両面反射/両面透過型のラインセンサを適用することとしてもよい。また、本実施例においては、図2の(B)に示した、両面反射/片面透過型のラインセンサ200を用いることとする。
次に、本実施例に係る紙幣判別装置の構成について図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係る紙幣判別装置10の構成を示すブロック図である。なお、図3では、紙幣判別装置10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
図3に示すように、紙幣判別装置10は、ラインセンサ部11と、制御部12と、記憶部13と、閾値入力部14とを備えている。また、制御部12は、画像入力部12aと、補正処理部12bと、学習部12cと、判別部12dとをさらに備えている。
なお、学習部12cは、有効波長画像選択部12caと、有効ブロック決定部12cbと、平均ブロック値統計部12ccとをさらに備えている。また、判別部12dは、評価値ベクトル算出部12daと、マハラノビス距離算出部12dbと、正損判別部12dcとをさらに備えている。
また、記憶部13は、補正情報13aと、波長別正券画像13bと、有効波長情報13cと、有効波長別有効ブロック位置13dと、平均値ベクトル13eと、分散共分散逆行列13fと、波長別評価画像13gと、レベル変換テーブル13hと、判別閾値13iとを記憶する。
ラインセンサ部11は、図2に示したラインセンサ100あるいは200に対応するデバイスであり、図示しない搬送機構によって搬送される紙幣からの透過光または反射光を受光する。また、ラインセンサ部11は、受光した入力データを制御部12の画像入力部12aに対して出力する処理を併せて行う。
制御部12は、ラインセンサ部11からの入力データに基づいて使用可能な波長ごとに紙幣の撮像画像を生成し、撮像画像が学習用の正券画像である場合には、有効波長分の正券画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく分散共分散逆行列および平均値ベクトルを算出する処理を行う処理部である。
ここで、使用可能な波長とは、本実施例に係る紙幣判別装置10が学習あるいは判別に用いることができる波長のことであり、ラインセンサ部11が受光可能な波長、あるいはかかる受光可能な波長に基づいて加工された波長を含む。なお、この点の詳細については、図4を用いて後述する。
また、制御部12は、撮像画像が評価画像である場合には、有効波長分の評価画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく評価値ベクトルを算出したうえで、かかる評価値ベクトルと、上述の分散共分散逆行列および平均値ベクトルとを用いてマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離を用いて紙幣の正損判別を行う処理部でもある。
画像入力部12aは、ラインセンサ部11からの入力データを1枚の紙幣について合成し、紙幣全体についての撮像画像を使用可能な波長ごとに生成する処理を行う処理部である。また、画像入力部12aは、生成した撮像画像を補正処理部12bに対して出力する処理を併せて行う。
補正処理部12bは、画像入力部12aから入力する撮像画像に対して補正処理を施す処理を行う処理部である。なお、かかる補正処理は、印刷ずれ補正処理と機差補正処理とに大別することができる。
まず、印刷ずれ補正処理とは、紙葉類(官封券を含む)に対する印刷位置のずれが発生する場合があるので、かかる場合を考慮して行う補正処理であり、撮像画像に対して印刷ずれを生じさせたマージンデータ(疑似印刷ずれデータ)の追加をして印刷ずれ時に影響の大きいブロックを除外するために行うものである。なお、かかるマージンデータは、あらかじめ記憶部13の補正情報13aへ格納されており、紙幣判別装置10の運用中においても適宜調整可能であるものとする。
また、機差補正処理とは、紙幣判別装置10のユニット間あるいは搬送方向間で生じうる検知性能の差異を軽減するための補正処理である。具体的には、撮像画像に対して、あらかじめユニットごとに補正情報13aへ格納されているユニット別補正係数を乗じることによって行う。
なお、ユニット別補正係数は、各ユニットの製造工程において、搬送機構へ白地の補正用ダミー券を搬送することによって求められる撮像画像の所定エリアの評価値に基づいて算出される。
学習部12cは、有効波長分の学習用の正券画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく分散共分散逆行列および平均値ベクトルを算出する学習処理を行う処理部である。
有効波長画像選択部12caは、記憶部13の有効波長情報13cを参照して、学習に適した波長である有効波長を選択し、かかる有効波長分の正券画像を波長別正券画像13bから抽出する処理を行う処理部である。また、有効波長画像選択部12caは、抽出した有効波長分の正券画像を、有効ブロック決定部12cbに対して出力する処理を併せて行う。
ここで、有効波長画像選択部12caが行う有効波長画像選択処理の内容について、図4を用いてさらに詳細に説明する。図4は、有効波長画像選択部12caにおける有効波長画像選択処理を説明するための図である。
なお、図4の(A)には、搬送方向600へ搬送される紙幣300を厚み方向からみた場合の概略図を示しており、波線の矢印は赤外光を、実線の矢印は可視光を、それぞれ示している。また、図4の(B)には、有効波長情報13cの設定例を示している。
本実施例に係る紙幣判別装置10は、あらかじめ使用可能な波長に関する情報を記憶部13の有効波長情報13cへ設定しておくことができる。たとえば、図4の(A)に示すように、ラインセンサ部11が、透過赤外光p1、透過可視光p2、A面反射赤外光A1、A面反射可視光A2、B面反射赤外光B1、B面反射可視光B2をそれぞれ受光することができるものとする。
かかる場合、図4の(B)に示すように、有効波長情報13cをあらかじめ設定することができる。なお、図4の(B)に示すように、有効波長情報13cは、「番号」項目と、「使用可能波長」項目と、「選択フラグ」項目とを含んだ情報である。
ここで、「番号」項目は、レコード番号が格納される項目である。また、「使用可能波長」項目は、本実施例に係る紙幣判別装置10が学習に使用可能な波長が格納される項目である。
たとえば、図4の(B)に示すように、ラインセンサ部11が受光可能な波長のそれぞれを、使用可能な波長として設定することができる(「番号」が「1」〜「6」のレコード参照)。また、受光可能な波長の比率を使用可能な波長として設定することとしてもよい(「番号」が「7」〜「9」のレコード参照)。
また、受光可能な波長を加算して、使用可能な波長として設定することとしてもよい(「番号」が「10」、「11」のレコード参照)。さらに、かかる比率と加算とを組み合わせて設定することとしてもよい(「番号」が「12」のレコード参照)。
なお、「番号」が「7」〜「9」、「12」の各レコードに示すように波長の比率を用いる場合、紙幣搬送位置の通路上側/下側といった受光センサと紙幣間のクリアランス、また、機差による受光感度のばらつきを軽減できる。また、「番号」が「10」、「11」、「12」の各レコードに示すように波長の加算を用いる場合、たとえば、表(おもて)面と裏面との個体差の解消を図ることができる。
「選択フラグ」項目は、学習に適した有効波長として選択されているか否かを示すフラグ値が格納される項目である。たとえば、選択されている場合のフラグ値を「1」、選択されていない場合のフラグ値を「0」と定めた場合、図4の(B)に示した例では、「番号」が「7」、「11」、「12」の各波長が有効波長として選択されていることとなる。
そして、有効波長画像選択部12caは、かかる有効波長として選択されている各波長分の正券画像を波長別正券画像13bから抽出する。なお、「選択フラグ」項目のフラグ値は、紙幣判別装置10の運用中においても適宜調整することができる。また、かかる「選択フラグ」項目のフラグ値の設定は、デザインや使用されるインクなどの異なる、紙幣の金種ごとに行うことが好ましい。
なお、本実施例では、図4の(B)に示したのと同様に、「番号」が「7」の透過比率波長(「p2/p1」)と、「番号」が「11」の反射可視光加算波長(「A2+B2」)と、「番号」が「12」の反射比率加算波長(「(A2/A1)+(B2/B1)」)とが、それぞれ有効波長として選択されているものとする。
また、以下では、かかる「番号」が「7」の有効波長を「有効波長α」と、「番号」が「11」の有効波長を「有効波長β」と、「番号」が「12」の有効波長を「有効波長γ」と、それぞれ記載することとする。
図3の説明に戻り、有効ブロック決定部12cbについて説明する。有効ブロック決定部12cbは、有効波長画像選択部12caから入力した有効波長分の正券画像について所定数の画素を加算するブロック化をしたうえで、学習に適したブロックを有効ブロックとして決定する処理を行う処理部である。
なお、有効ブロック決定部12cbは、かかる有効ブロックの決定を有効波長別に行う。また、有効ブロック決定部12cbは、決定した有効ブロックの位置情報を記憶部13の有効波長別有効ブロック位置13dへ記憶させ、平均ブロック値統計部12ccへ出力する処理を併せて行う。
ここで、有効ブロック決定部12cbが行う有効ブロック決定処理の内容について、図5および図6を用いてさらに詳細に説明する。図5は、本実施例における画素の取り扱いについて説明するための図であり、図6は、有効ブロック決定部12cbにおける有効ブロック決定処理を説明するための図である。
まず、本実施例における画素の取り扱いについて図5を用いて説明する。図5に示すように、有効ブロック決定部12cbは、有効波長画像選択部12caから入力した正券画像を、たとえば、列方向(図5の「m軸」参照)について0〜31の32個、行方向(図5の「n軸」参照)について0〜15の16個の合計512個のブロックに分割する。
そして、図5の「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)に示したように、ブロックを構成する各画素の画素値が、たとえば、「10」、「20」、「30」、「20」、「30」、「10」、「30」、「10」、「20」である場合には、画素値の総和をブロック値として取り扱う。
図5に示した場合には、かかるブロック値は180(=10+20+30+20+30+10+30+10+20)となる。なお、図5には、1ブロックが9画素からなる場合について示しているが、ブロックに含まれる画素数を異なるものとしてもよい。
次に、かかる画素の取り扱いを前提とした有効ブロック決定部12cbにおける有効ブロック決定処理の内容について図6を用いて説明する。なお、図6を用いた説明では、「m」が「16」であり「n」が「0」であるブロック(m,n)=(16,0)と、「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)と、「m」が「24」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(24,15)とを例に挙げるものとする。
図6の(1)に示したように、有効ブロック決定部12cbは、ブロック値のレベル分けを行う。たとえば、図6の(1)には、暗い方から明るい方へ0〜255の値をとりうるブロック値について、レベル1〜8の8段階のレベル分けを行った場合を示している。
そして、図6の(2)に示したように、有効ブロック決定部12cbは、学習用の正券画像のすべてのブロックのブロック値について、正券画像枚数分の統計量を算出する。ここで、図6の(2)に示した各ブロック内の「/」で区切った数値は、それぞれ統計量に含まれる最大値および最小値である。
たとえば、「m」が「16」であり「n」が「0」であるブロック(m,n)=(16,0)内の「70/50」は、かかるブロックのブロック値の最大値が「70」で最小値が「50」であることを意味している。
また、同様に、「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)については、最大値が「170」で最小値が「130」であり、「m」が「24」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(24,15)については、最大値が「200」で最小値が「130」であることを意味している。
そして、図6の(3)に示したように、有効ブロック決定部12cbは、かかる統計量に基づいて有効ブロックの決定を行う。たとえば、図6の(3−a)に示したように、最小値がレベル5以上のブロックを決定条件のひとつとして、汚れの目立ちやすい比較的明るいブロックのみを絞り込む。
なお、図6の(3−a)に示した例では、「○」印を付与した「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)と、「m」が「24」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(24,15)とが該当し、「×」印を付与した「m」が「16」であり「n」が「0」であるブロック(m,n)=(16,0)は該当しないことがわかる。
また、図6の(3−b)に示したように、最大値と最小値との差分値がレベル2以下のブロックを決定条件のひとつとして、汚損を見分けにくいエッジにあたるブロックをあえて避ける。
なお、図6の(3−b)に示した例では、「○」印を付与した「m」が「16」であり「n」が「0」であるブロック(m,n)=(16,0)と、「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)とが該当し、「×」印を付与した「m」が「24」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(24,15)は該当しないことがわかる。
そして、図6の(4)に示したように、有効ブロック決定部12cbは、すべての決定条件に該当するブロックを最終的な有効ブロックとして決定する。したがって、図6に示した例では、有効ブロック決定部12cbは、「m」が「8」であり「n」が「15」であるブロック(m,n)=(8,15)のみを有効ブロックとして決定し、かかる「m」が「8」であり「n」が「15」であるという位置情報を、記憶部13の有効波長別有効ブロック位置13dへ記憶させ、併せて平均ブロック値統計部12ccへ出力する。
図3の説明に戻り、平均ブロック値統計部12ccについて説明する。平均ブロック値統計部12ccは、有効ブロック決定部12cbが決定した有効ブロックについて、正券画像1枚ごとの平均ブロック値を算出する処理を行う処理部である。
また、平均ブロック値統計部12ccは、算出したすべての平均ブロック値について有効波長別の統計量を算出し、かかる統計量に含まれる有効波長別の平均値を平均値ベクトルとして記憶部13の平均値ベクトル13eへ記憶させる。
また、平均ブロック値統計部12ccは、算出した平均ブロック値の有効波長間の相関係数である分散共分散逆行列を算出したうえで正規化し、記憶部13の分散共分散逆行列13fへ記憶させる。
ここで、平均ブロック値統計部12ccが行う平均ブロック値統計処理の内容について、図7を用いてさらに詳細に説明する。図7は、平均ブロック値統計部12ccにおける平均ブロック値統計処理を説明するための図である。
図7の(1)に示したように、平均ブロック値統計部12ccは、有効波長別に有効ブロックの平均ブロック値を算出する。なお、図7の(1)に示したのは、平均ブロック値統計部12ccが算出した平均ブロック値の有効波長別の分布図であり、「□」印をひとつの分布点(正券画像1枚ごとの平均ブロック値)としてあらわしている。
そして、平均ブロック値統計部12ccは、算出したすべての平均ブロック値について有効波長別の統計量を算出する(図7の(2)参照)。たとえば、図7の(3)に示したのは、かかる統計量に含まれる平均ブロック値の平均値である。
そして、平均ブロック値統計部12ccは、かかる平均値を平均値ベクトルとして記憶部13の平均値ベクトル13eへ記憶させる。たとえば、図7の(3)に示した例では、平均値ベクトルは(1105.38,1520.54,926.95)となる。
そして、平均ブロック値統計部12ccは、図7の(1)において算出した有効波長別の平均ブロック値に基づいて有効波長間の相関係数である分散共分散逆行列を算出する(図7の(4)参照)。なお、図7の(4)には、総和値が「0.02323」(=0.00319+0.00567+0.03941+2×0.00020+2×(−0.00613)+2×(−0.00659))である分散共分散逆行列が算出された場合を示している。
そして、平均ブロック値統計部12ccは、総和値が所定の値となるように分散共分散逆行列の正規化を行う(図7の(5)参照)。たとえば、図7の(6)には、総和値が「2.02273」(=0.27778+0.49391+3.43316+2×0.01733+2×(−0.53438)+2×(−0.57401))となるように分散共分散逆行列を正規化した場合を示している。
なお、かかる分散共分散逆行列の正規化は、後述するレベル変換テーブルを紙幣の金種の違いなどに関わらず共通化する目的で、常に総和値が同じ値になるように行われる。なお、以下では、正規化後の分散共分散逆行列を「Σ−1」とあらわすこととしたうえで、「Σ−1=2.02273」であるものとして説明を行う。
図3の説明に戻り、判別部12dについて説明する。判別部12dは、有効波長分の評価画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく評価値ベクトルを算出したうえで、かかる評価値ベクトルと、学習部12cが算出したΣ−1および平均値ベクトルとを用いてマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離を用いて紙幣の正損を判別する判別処理を行う処理部である。
評価値ベクトル算出部12daは、記憶部13の有効波長情報13cを参照して、判別対象となる有効波長分の評価画像を波長別評価画像13gから抽出する処理を行う処理部である。
また、評価値ベクトル算出部12daは、抽出した評価画像1枚ごとの有効ブロックの平均ブロック値を評価値として算出する処理を併せて行う。なお、有効ブロックの位置については、有効波長別有効ブロック位置13dを参照する。また、評価値ベクトル算出部12daは、算出したすべての評価値を評価値ベクトルとしてマハラノビス距離算出部12dbに対して出力する処理を併せて行う。
マハラノビス距離算出部12dbは、評価値ベクトル算出部12daから入力した評価値ベクトルの各要素のうち、基準値以上の評価値である要素について補正を施す処理を行う処理部である。なお、基準値には、平均値ベクトル13eへ格納されている平均値ベクトルを用いる。
ここで、マハラノビス距離算出部12dbが行う評価値の補正処理の内容について、図8を用いてさらに詳細に説明する。図8は、マハラノビス距離算出部12dbにおける評価値の補正処理を説明するための図である。
まず、図8の(1)に示したのは、評価値ベクトル算出部12daが算出した評価値の有効波長別の分布図例である。なお、図中の「□」印は、図7の(1)の場合と同様にひとつの分布点をあらわしている。また、図中の「★」印は、基準値である平均値ベクトルをあらわしている。
ここで、図8の(1)からは、有効波長αについての評価値の中に、基準値以上のものがあることがわかる(図8の(1)に示した破線の閉曲線2で囲まれた部分参照)。かかる場合、マハラノビス距離算出部12dbは、基準値以上の評価値について図8の(2)に示すような補正を施す。
具体的には、図8の(2)に示したように、基準値である「★」印と評価値の最大値との差分値dを抑えるような補正を行う。たとえば、かかる差分値dを所定比で低下させる補正係数を乗じることとしてもよい。なお、かかる評価値の補正処理は、卸したての官封券のように明るすぎる評価画像によって生じうる評価値の分布のばらつきを抑える目的で行われる。
図3の説明に戻り、マハラノビス距離算出部12dbが行う他の処理について説明する。マハラノビス距離算出部12dbは、補正後の要素を含む評価値ベクトルと、学習部12cが算出したΣ−1および平均値ベクトルとを用いてすべての評価画像についてのマハラノビス距離を算出する処理を行う。
なお、評価値ベクトルをxと、分散共分散逆行列をΣ
−1と、平均値ベクトルをμと、それぞれあらわしたときのマハラノビス距離D(x)は、一般に
式(1)によって算出することができる。
また、マハラノビス距離算出部12dbは、算出したマハラノビス距離を所定の評価レンジにおけるレベル値へレベル変換し、レベル値を正損判別部12dcに対して出力する処理を併せて行う。なお、レベル変換にあたっては記憶部13にあらかじめ記憶されたレベル変換テーブル13hを用いる。
ここで、マハラノビス距離算出部12dbが行うマハラノビス距離のレベル変換処理の内容について、図9および図10を用いてさらに詳細に説明する。図9は、マハラノビス距離の分布特性を説明するための図であり、図10は、レベル変換テーブル13hの設定例を示す図である。
まず、図9に示したのは、マハラノビス距離算出部12dbが算出した判別処理1回分(図中には「判別1」と記載)のマハラノビス距離の分布図例である。なお、図中の「○」印は、ひとつの分布点をあらわしている。
ここで、図9からは、マハラノビス距離の分布が、広範囲にわたるばらつきの大きい分布となることがみてとれる。また、マハラノビス距離が比較的大きければ、分布が疎になる傾向にあることもわかる。
なお、上述のように、マハラノビス距離算出部12dbは、マハラノビス距離のレベル変換を記憶部13のレベル変換テーブル13hを用いて行う。したがって、レベル変換テーブル13hは、かかるマハラノビス距離の分布の特性を考慮した変換テーブルであることが好ましい。
そこで、マハラノビス距離の分布の特性を考慮したレベル変換テーブル13hの設定例を、図10を用いて詳細に説明する。まず、図10の(1)に示したように、本実施例に係る紙幣判別装置10は、開発段階における実験などによって、レベル変換テーブルの基準となるデータを求める。
たとえば、ここでは、複数枚の正券画像の平均ブロック値の統計量を波長別に算出することとし、算出した統計量に含まれる平均値ベクトルがM1であったものとする。また、開発段階における正損判別の目標値M2を、M1から90下げた値と仮定する(図10の(1)参照)。かかる場合、変量は90(=M1−M2)であり、正券画像は、平均値ベクトルM1から平均ブロック値が90変量する範囲に分布すると見立てることができる。なお、目標値M2については、開発段階における実験結果などに基づいて定めることとすればよい。
また、図10の(2)に示したように、レベル変換後のレベル値は、たとえば、0〜255の値をとりうるものとし、マハラノビス距離が小さいほどレベル値が高いものとする。
ここで、図10の(2)に示したように、本実施例に係る紙幣判別装置10は、レベル値のレンジを正券用のレンジと損券用のレンジとに大別し、正券がとりうるレベル値の範囲を255〜127であると見立てる。
したがって、図10の(1)において、正券画像は、平均ブロック値が90変量する範囲に分布すると見立てられたことから、レベル値255に対してM1を、また、レベル値127に対してM2をそれぞれ割り当てて、レベル値1レベルあたりの平均ブロック値変量を0.703125(=90/(255−127))と見積もることができる。
そして、図10の(3)に示したように、本実施例に係る紙幣判別装置10は、レベル値の変位に応じた平均ブロック値の変量を算出する。たとえば、図10の(3)には、レベル値が「255」〜「253」、「128」、「127」、「1」、「0」の場合の平均ブロック値の変量を、それぞれ示している。
そして、図10の(4)に示したように、本実施例に係る紙幣判別装置10は、図10の(3)において示した平均ブロック値の変量を(x−μ)とし、上述の通り、「Σ
―1=2.02273(図7参照)」として、
式(1)によってレベル値ごとのマハラノビス距離を算出する。そして、かかるレベル値とマハラノビス距離とを対応づけたテーブルをレベル変換テーブル13hとして設定する。
なお、図10の(4)に示したように、レベル変換テーブル13hは、レベル値が1変位するのに応じてマハラノビス距離の差分を徐々に広げていくので(図10の(4)に示した差分「1」、「3」、「255」、「509」参照)、上述したマハラノビス距離の分布の特性(図9参照)を所定の評価レンジにおいて反映することができる。
図3の説明に戻り、正損判別部12dcについて説明する。正損判別部12dcは、マハラノビス距離算出部12dbが出力したマハラノビス距離のレベル値と、記憶部13の判別閾値13iとを比較して、すべての評価画像についての正損判別を行う処理部である。
ここで、正損判別部12dcが行う正損判別処理の内容について、図11を用いてさらに詳細に説明する。図11は、正損判別部12dcにおける正損判別処理を説明するための図である。
なお、図11の(A)には、紙幣の搬送方向についての概要を、図11の(B)には、開発段階における正損判別を説明するための図を、図11の(C)には、実運用段階における正損判別を説明するための図を、それぞれ示している。
図11の(A)に示したように、本実施例に係る紙幣判別装置10は、図示しない搬送機構へ異なる搬送方向で紙幣を搬送させることができる。たとえば、図11の(A)に示したように、紙幣の一方の面をA面、もう一方の面をB面とした場合、本実施例に係る紙幣判別装置10は、方向a、方向b、方向c、方向dのそれぞれの搬送方向で正損判別を行うことができる。
したがって、搬送方向の異なる場合の判別結果をすり合わせることによって、再現性の高い、高精度な正損判別を行うことが可能となる。かかる点を考慮して、以下、説明を行う。
本実施例に係る紙幣判別装置10は、開発段階においては、検証試験における搬送方向別の判別結果などに基づいて判別閾値13iを定めることができる。なお、図11の(B)に示したのは、搬送方向(方向a〜d)別のレベル値の分布図例である。
たとえば、あらかじめ記憶部13の判別閾値13iへ所定の閾値t1が格納されているものとする。かかる場合、正損判別部12dcは、マハラノビス距離算出部12dbが出力したレベル値と閾値t1とを比較して、閾値t1以上のレベル値の紙幣を正券と、閾値t1に満たない紙幣を損券と、それぞれ判別することになる。
たとえば、図11の(B)に示した例では、方向aおよびbにおける損券は2枚、方向cおよびdにおける損券は3枚である。このとき、仮に所定の閾値が閾値t2であった場合、方向a〜dにおける損券はすべて2枚となる。
したがって、実運用段階においては、搬送方向による損券率の差異の解消が求められるのであれば、開発段階において、閾値t1に代えて閾値t2を判別閾値13iへ格納することとすればよい。
また、評価画像に実際の損券が混じることになる実運用段階においては、いわゆる「大津の2値化」に代表される判別分析法を用いることによって、判別閾値13iを自動的に定めることができる。なお、図11の(C)に示したのは、マハラノビス距離のレベル値のヒストグラムの例である。
たとえば、図11の(C)に示したように、実運用段階において、分離する2つの「正券クラス」と「損券クラス」とが得られた場合、かかるクラス間の分離度が最大となる閾値を判別閾値13iへ格納することとすればよい。なお、分離度は、クラス間分散とクラス内分散との比で求めることができる。
したがって、図11の(C)に示したように、実運用段階において、分離する2つのクラスが得られたならば、たとえば、閾値t1からt3についての分離度を順次求めていくことによって、自動的に最適な判別閾値を算出することが可能となる。
図3の説明に戻り、閾値入力部14について説明する。閾値入力部14は、判別閾値13iを登録あるいは更新する入力デバイスである。なお、入力については特に手段を限定するものではなく、たとえば、キーボードやグラフィカルユーザインタフェースによることとしてもよいし、閾値を自動計算する他装置からの入力を受け付ける入力インタフェースであることとしてもよい。
記憶部13は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、補正情報13aと、波長別正券画像13bと、有効波長情報13cと、有効波長別有効ブロック位置13dと、平均値ベクトル13eと、分散共分散逆行列13fと、波長別評価画像13gと、レベル変換テーブル13hと、判別閾値13iとを記憶する。
補正情報13aは、印刷ずれ補正に用いる印刷ずれマージンデータおよび機差補正に用いる機差補正係数を含む画像データの補正に関する情報であり、補正処理部12bによって参照される。
波長別正券画像13bは、画像入力部12aによって取得されたうえで補正処理部12bによって補正された波長別の正券画像群である。なお、かかる波長別正券画像13bから、有効波長画像選択部12caは学習対象となる有効波長分の正券画像を入力する。
有効波長情報13cは、紙幣判別装置10が使用可能な波長の定義情報や、学習および判別に有効波長として用いる波長の選択状況などを含む波長に関する情報である。なお、かかる有効波長情報13cの詳細については上述したため(図4参照)、ここでの記載を省略する。
有効波長別有効ブロック位置13dは、有効ブロック決定部12cbによって出力される有効ブロックの座標位置に関する情報であり、有効波長ごとに格納される。
平均値ベクトル13eおよび分散共分散逆行列13fは、平均ブロック値算出部12ccによって出力される学習用の正券の分布空間に関する情報である。なお、かかる平均値ベクトル13eおよび分散共分散逆行列13fの詳細については上述したため(図7参照)、ここでの記載を省略する。
波長別評価画像13gは、画像入力部12aによって取得されたうえで補正処理部12bによって補正された波長別の評価画像群である。なお、かかる波長別評価画像13gから、評価値ベクトル算出部12daは判別対象となる有効波長分の評価画像を入力する。
レベル変換テーブル13hは、マハラノビス距離算出部12dbが算出するマハラノビス距離を所定の評価レンジにおけるレベル値へ変換するための変換テーブルである。なお、かかるレベル変換テーブル13hの詳細については上述したため(図10参照)、ここでの記載を省略する。判別閾値13iは、レベル値との比較対象となる所定の閾値情報であり、閾値入力部14によって登録あるいは更新され、正損判別部12dcによって参照される。
なお、図3を用いた説明では、学習段階および実運用段階の双方の構成要素を含む紙幣判別装置10の構成について説明したが、実運用段階においては、学習段階のみに関連する構成要素を除いた構成とすることができる。かかる場合、具体的には、学習部12、補正情報13aおよび波長別正券画像13bを除くことができる。
次に、紙幣判別装置10が実行する学習処理の処理手順について図12を用いて説明する。図12は、紙幣判別装置10が実行する学習処理の処理手順を示すフローチャートである。
図12に示したように、画像入力部12aが、正券画像を取得すると(ステップS101)、補正処理部12bは、印刷ずれマージンデータ(疑似印刷ずれデータ)の追加設定を行う(ステップS102)。すなわち、官封券などの正券においても印刷位置のずれは生じうるため、ここで強制的なずれを作ったマージンデータの追加を行い、印刷ずれ時に影響の大きいブロックを除外するデータ補正を行う。
また、補正処理部12bは、紙幣判別装置10の各ユニット間あるいは搬送方向間において生じうる検知性能の差異を軽減するための機差補正を行う(ステップS103)。そして、有効波長画像選択部12caが、波長別正券画像13bから学習対象となる有効波長分の正券画像を選択する(ステップS104)。
そして、有効ブロック決定部12cbが、所定数の画素で正券画像をブロック化したうえでブロック値統計量を算出し(ステップS105)、かかるブロック値統計量に含まれる最大値および最小値に基づいて有効ブロックを決定する(ステップS106)。
つづいて、平均ブロック値統計部12ccが、有効波長別に有効ブロックの平均ブロック値統計量を算出する(ステップS107)。そして、平均ブロック値統計部12ccは、平均ブロック値統計量に含まれる有効波長ごとの平均値を、平均値ベクトルとして記憶部13の平均値ベクトル13eへ格納する(ステップS108)。
また、平均ブロック値統計部12ccは、有効波長ごとの各平均ブロック値に基づいて分散共分散逆行列を算出したうえで(ステップS109)、総和値が所定の値となるように分散共分散逆行列を正規化する(ステップS110)。
そして、平均ブロック値統計部12ccは、正規化した分散共分散逆行列を記憶部13の分散共分散逆行列13fへ格納したうえで(ステップS111)、処理を終了する。
次に、紙幣判別装置10が実行する判別処理の処理手順について図13を用いて説明する。図13は、紙幣判別装置10が実行する判別処理の処理手順を示すフローチャートである。
図13に示したように、画像入力部12aが、評価画像を取得すると(ステップS201)、補正処理部12bは、上述の学習処理と同様の機差補正を行う(ステップS202)。
そして、評価値ベクトル算出部12daが、波長別評価画像13gから有効波長分の評価画像を選択したうえで、かかる評価画像1枚ごとの有効ブロックの平均ブロック値を評価値ベクトルとして算出する(ステップS203)。なお、かかる評価値ベクトルの算出は、有効波長別に行われる。
つづいて、マハラノビス距離算出部12dbが、平均値ベクトル13eを参照しつつ平均値ベクトル以上である評価値を補正する(ステップS204)。なお、かかる補正は、卸したての官封券などが明るすぎることによって生じうる評価値のばらつきを軽減するために行われる。
そして、マハラノビス距離算出部12dbは、補正された評価値を含む評価値ベクトルと、平均値ベクトル13eおよび分散共分散逆行列13fとを用いて各評価画像のマハラノビス距離を算出する(ステップS205)。
そして、マハラノビス距離算出部12dbは、算出した各評価画像のマハラノビス距離を、レベル変換テーブル13hを用いてレベル変換する(ステップS206)。
つづいて、正損判別部12dcが、すべての評価画像について、レベル変換後のマハラノビス距離が判別閾値以上であるか否かを判定する(ステップS207)。
そして、正損判別部12dcは、マハラノビス距離が判別閾値以上である評価画像については(ステップS207,Yes)、汚損のない正券と判別する(ステップS208)。また、正損判別部12dcは、ステップS207の判定条件を満たさない評価画像については(ステップS207,No)、損券と判別する(ステップS209)。そして、すべての評価画像についてかかる正損判別を行った後、処理を終了する。
上述してきたように、本実施例では、学習部が、有効波長分の学習用の正券画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく分散共分散逆行列および平均値ベクトルを算出し、判別部が、有効波長分の判別対象の評価画像について、有効ブロックの平均ブロック値に基づく評価値ベクトルを算出したうえで、かかる評価値ベクトルと、上述の分散共分散逆行列および平均値ベクトルとを用いてマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離を用いて紙幣の正損判別を行うように紙幣判別装置を構成した。したがって、損券のサンプルが存在しない場合であっても、開発効率を低下させることなく、再現性の高い正損判別を可能とすることができる。