JP4649238B2 - 歯科矯正用ワイヤー - Google Patents

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本発明は歯科矯正に用いられる歯科矯正用ワイヤーに関する。
歯科矯正治療では、不正に配列した歯を正しい咬合とするため、金属ワイヤーの弾性力を利用して歯に矯正力を作用させる。歯に矯正力が作用すると、歯根の周囲には圧迫側と牽引側が生じる。圧迫側の歯槽骨表面には破骨細胞が現れ硬組織を吸収し、牽引側の歯槽骨表面には骨芽細胞が集合して骨を形成する。この歯槽骨表面における圧迫側と牽引側の両者の組織構造の変化によって、歯が牽引側から圧迫側に移動する。したがって、歯科医は患者の歯並びの状態に応じて矯正対象となる歯に適切な矯正力を適切な方向に作用させ、矯正対象となる歯を所望の位置に移動させて歯並びを矯正する。
上述した歯槽骨表面における破骨細胞の出現と骨芽細胞の集合は、血液によって破骨細胞や骨芽細胞が歯槽骨表面に遊送されることによって生じる。このため、過大な矯正力が歯に作用すると、歯根周囲の血管が押しつぶされ、歯槽骨表面近傍(特に圧迫側)の血流が悪化する。その結果、歯槽骨表面における組織構造の変化(特に、圧迫側における破骨細胞の出現)が阻害され、歯の移動が生じ難くなる。一方、矯正力が小さすぎると、上述した歯槽骨表面における組織構造の変化が生じないため歯は移動しない。したがって、歯を移動させるためには弱すぎず強すぎない適正な矯正力を歯に作用させる必要がある。
ところで、歯科矯正治療の初期段階では歯並びに大きな不正がある場合が多く、金属ワイヤーを大きく変形させなければならない。一方、歯科矯正治療が進むにつれて歯並びの不正も徐々に小さくなるため、金属ワイヤーの変形量も徐々に小さくなる。上述した説明から明らかなように適正な矯正力は、治療の初期段階であるか最終段階であるかを問わず変化せず、略一定の値となる。したがって、従来からよく用いられているCo−Cr合金やステンレス等の矯正用ワイヤーでは、ワイヤーの変形量に応じて矯正力が直線的に大きくなるため、矯正治療の初期段階では比較的剛性の弱いワイヤーを用い、矯正治療の進行に伴って剛性の強いワイヤーに順次交換してゆく必要があった。特に、矯正治療開始時の歯の位置と目標となる最終位置が遠く離れている場合は、適正な矯正力を維持するためにワイヤーを多数回にわたって交換しなければならなかった。
このような矯正ワイヤーの交換は患者にとって苦痛であり、また、治療費を高くしてしまうため、矯正ワイヤーの交換回数を少なくできることが望まれている。そこで、比較的長期間にわたって適正な矯正力を維持することができる矯正用ワイヤーが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、Ni−Ti合金等の形状記憶合金からなる矯正用ワイヤーが開示されている。この矯正用ワイヤーは超弾性特性を有するため、小さな力で大きく変形することができる。このため、変形量の増加に伴う矯正力の増加が抑制され、長期間にわたって使用することができる。
特開平9−154855号公報
しかしながら、特許文献1の矯正用ワイヤーは形状記憶合金からなるため、ヒステリシスを有する。このため、ワイヤーの曲率半径が小さくなるようにワイヤーを曲げながら歯に装着したときと、大きく曲げたワイヤーを戻しながら歯に装着したときとで、歯に作用する矯正力が異なることとなる。したがって、歯科医の意図通りの矯正力を歯に作用させることが困難であり、矯正力のコントロールが難しいといった問題があった。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期間にわたって適切な矯正力を作用させることができ、かつ、意図通りの矯正力を作用させることができる歯科矯正用ワイヤーを提供することである。
本願の歯科矯正用ワイヤーは、引張弾性限強度が700MPa以上であり、加える応力が0から引張弾性限強度までの弾性変形域内において、引張試験で得られる応力−歪み線図上の接線の傾きが応力の増加に伴って減少する特性を有し、その平均ヤング率が75GPa以下であるチタン合金からなることを特徴とする。
ここで、「引張弾性限強度」とは、試験片への荷重の負荷と除荷とを繰り返し行う引張試験において、永久歪みが0.2%に到達したときの負荷していた応力のことをいう。
また、「平均ヤング率」とは、引張試験で得られた応力−歪み線図上の接線の傾きから求まるヤング率の代表値を意味し、本明細書では引張弾性限強度の1/2に相当する応力位置での接線の傾きから求めたヤング率をいう。
この歯科矯正用ワイヤーは、応力−歪み線図上の接線の傾きが応力の増加に伴って減少する特性を有する。このため、ワイヤーの曲げの増加に対して矯正力の増加が抑制される。また、引張弾性限強度が700MPa以上と大きい一方、平均ヤング率が75GPa以下と小さく、大きな弾性変形能を有する。したがって、適正な矯正力が得られる曲げ変形範囲を広くとることができ、長期間にわたって同一のワイヤーを用いることができる。また、この歯科矯正用ワイヤーは、形状記憶合金と異なりヒステリシスを有しないため、歯科矯正医の意図通りに矯正力をコントロールすることができる。
なお、引張弾性限強度が700MPa未満であると、強度を確保するためにワイヤーの断面積を大きくしなければならないため、歯への装着性が低下し好ましくない。また、引張弾性限強度は高いほど好ましく、順に、750MPa、800MPa、850MPa、900MPa以上となるほど好ましい。
また、平均ヤング率が75GPaを超えると、弾性変形能が低下するため、適正な矯正力が得られる曲げ変形範囲が小さくなり好ましくない。また、平均ヤング率は低いほど好ましく、順に、70GPa以下、65GPa以下、60GPa以下、55GPa以下となるほど好ましい。
本発明の歯科矯正用ワイヤーの一実施形態について説明する。まず、本発明の歯科矯正用ワイヤーに用いられるチタン合金について説明する。
(1)本発明で用いられるチタン合金の組成
本発明で用いられるチタン合金は、全体を100質量%とした場合に、30〜60質量%のVa族(バナジウム族)元素を含有すると好適である。Va族の元素を30〜60質量%含有することにより、比強度の低下をもたらすことなく低ヤング率化を図ることができる。Va族(バナジウム族)の元素の含有量が30質量%未満では、所望の低ヤング率を得ることができず、一方、60質量%を越えると、密度が大きくなり比強度の低下を招く。また、60質量%を越えると、含有元素の原子量の相違による材料偏析も生じ易くなる。
Va族(バナジウム族)にはバナジウム(V)の他、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)があり、いずれもβ相安定化元素である。但し、本発明に用いられるチタン合金がβ型合金に限られるということではない。Va族元素の含有により、低ヤング率化と共に、従来のα型合金やα+β型合金等に比べて冷間加工性を著しく向上させることができる。なお、チタン合金の密度の増加を抑えて比強度の低下を招かないためには、Va族元素の含有量を30〜50質量%とするとより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金は、全体を100質量%とした場合に、さらに、ジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)とスカンジウム(Sc)とからなる金属元素群中の1種以上の元素を合計で20質量%以下含有すると好適である。ジルコニウムとハフニウムとは、チタン合金の低ヤング率化と高強度化に有効である。また、これらの元素は、チタンと同族(IVa族)元素であり、全率固溶型の中性的元素であるため、Va族元素によるチタン合金の低ヤング率化を妨げることもない。
また、スカンジウムは、チタンに固溶した場合、Va族元素と共にチタン原子間の結合エネルギーを特異的に低下させ、さらなる低ヤング率化を図るのに有効である。それらの元素が合計で20質量%を越えると、材料偏析による強度、靱性の低下やコスト上昇を招くため、好ましくない。低ヤング率、高強度、高靱性等のバランスを図る上で、それらの元素が合計で、1質量%以上、さらには、5〜15質量%であると、より好ましい。また、これらの元素は、Va族元素と作用上、共通する部分が多いため、所定の範囲内でVa族元素と置換することもできる。例えば、本発明に用いられるチタン合金が、合計で20質量%以下のジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)とスカンジウム(Sc)とからなる金属元素群中の1種以上の元素と、該金属元素群中の1種以上の元素との合計が30〜60質量%となるVa族(バナジウム族)元素と、残部が実質的にチタンとからなるようにすることもできる。
また、ジルコニウム(Zr)および/またはハフニウム(Hf)を1〜10質量%含有し、平均ヤング率が75GPa以下となるようにしても良い。前述したのと同様に、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを1〜10質量%含有することにより、引張弾性限強度を低下させることなく、平均ヤング率が75GPa以下という、さらなる低ヤング率を達成できる。
なお、含有量は、ジルコニウム単体、ハフニウム単体若しくはジルコニウムとハフニウムの複合の何れの場合でも、1〜10質量%であると好適である。何れも1質量%未満では、固溶化作用が十分でなく、所望の低ヤング率が得られない。一方、10質量%を越えると、全体の密度が増加し比強度の点から好ましくない。また、材料偏析が生じ易くなり、強度、靱性の低下を招きかねない。そして、低ヤング率、強度等の観点から、それらを5〜10質量%とすると一層好ましい。
本発明で用いられるチタン合金は、さらに、全体を100質量%とした場合に、0.08〜0.6質量%の酸素(O)を含有すると好適である。酸素は、チタン合金の強度向上に有効である。特に、Va族の元素との共存により、チタン合金を高強度、低ヤング率とすることができる。但し、酸素の含有量を0.08質量%未満とすると強度の向上が図れず、0.6質量%を越えると平均ヤング率が上昇し好ましくない。また、0.6質量%を越えると延性が低下し、圧延等の冷間加工性も低下する。望ましくは、酸素を0.15〜0.5質量%含有すると良い。
また、本発明で用いられるチタン合金は、全体を100質量%とした場合に、0.05〜1.0質量%の炭素(C)を含むと好適である。炭素も酸素と同様に、侵入型の固溶強化元素であり、チタン合金のα相を安定にし、強度を向上させる上で有効である。炭素が0.05質量%未満ではチタン合金の強度向上を十分に図ることができず、1.0質量%を超えるとチタン合金の脆化を招き好ましくない。強度と延性とのバランスを図る上では、炭素を0.1〜0.8質量%とするとより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金は、さらに、1〜20質量%のモリブデン(Mo)と1〜20質量%の鉄(Fe)と1〜20質量%の錫(Sn)と0.1〜3質量%のアルミニウム(Al)とからなる金属群のうちから1種類以上の元素を含むと好適である。モリブデンは、チタン合金の室温強度を向上させるのに有効な元素である。モリブデンが1質量%未満では十分な固溶強化作用が得られず、室温強度の向上が図れない。また、モリブデンが20質量%を越えると、材料偏析が生じ易くなり、均質な材料を得ることが困難になる。なお、モリブデンを4〜15質量%、さらには、4〜10質量%とすると、室温強度を一層向上させることができて好ましい。
また、モリブデンの代わりに、またはモリブデンと共に1〜20質量%の鉄(Fe)を含有することができる。鉄も、チタン合金の室温強度の向上に有効である。鉄が1質量%未満では十分な固溶強化作用が得られず、室温強度の向上が望めない。鉄が20質量%を越えると、材料偏析が生じ易くなり、均質な材料を得ることができない。なお、鉄を3〜15質量%、さらには、3〜10質量%とすると、室温強度を一層向上させることができて好ましい。
また、モリブデンや鉄の代わりに、またはモリブデンや鉄と共に1〜20質量%の錫(Sn)を含有すると好適である。錫はα安定化元素であるが、チタン合金の強度向上に有効な元素である。錫が1質量%未満では強度の向上が望めず、20質量%を越えるとチタン合金の延性が低下する。なお、低ヤング率と共に安定した強度を得るには、錫の含有量を質量%で4〜15%、さらには、4〜10質量%とするとより好ましい。
また、モリブデンや鉄や錫の代わりに、またはモリブデンや鉄や錫と共に0.1〜3質量%のアルミニウムを含有すると好適である。アルミニウムも、モリブデン等と同様、チタン合金の室温強度を向上させるのに有効である。特に、アルミニウムを錫と共に含有すると、チタン合金は、靱性を害されずに引張弾性限強度の向上を図ることができる。アルミニウムが0.1質量%未満では十分な固溶強化作用が得られず、室温強度の向上が望めない。また、3質量%を越えると、チタン合金部の延性が低下する。なお、室温強度を一層向上させるためには、アルミニウムを0.5〜2質量%含むとより好ましい。
本発明で用いられるチタン合金は、さらに、全体を100質量%とした場合に、0.01〜1.0質量%のホウ素(B)を含むと好適である。ホウ素は、チタン合金の機械的な材料特性と熱間加工性とを向上させる上で有効である。ホウ素は、チタン合金に殆ど固溶せず、そのほぼ全量がチタン化合物粒子(TiB粒子等)として析出する。この析出粒子が、チタン合金の結晶粒成長を著しく抑制して、チタン合金の組織を微細に維持するからである。ホウ素が0.01質量%未満では、その効果が十分ではなく、1.0質量%を超えると、高剛性の析出粒子が増えることにより、チタン合金の全体的な平均ヤング率の上昇と冷間加工性の低下を招いてしまう。一方、組織の微細化、低ヤング率、冷間加工性等を両立すべく、ホウ素を0.01〜0.5質量%とすると一層好ましい。
なお、上述した各組成元素は、所定の範囲内で任意に組合せることができ、また、さらに別の元素を配合することもできる。
(2)本発明で用いられるチタン合金の製造方法
本発明で用いられるチタン合金は、粉末冶金(具体的には、焼結法,熱間静水圧(HIP)法等)によって好適に製造することができる。
(i)原料粉末
原料粉末には、少なくともチタンとVa族元素が含まれていることが好ましい。この原料粉末には、さらに、Zr、Hf、Sc、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Sn、Al、O、C、N、Bを含んでも良い。例えば、原料粉末が、全体を100質量%とした場合に、ジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)とスカンジウム(Sc)とからなる金属元素群中の1種以上の元素を合計で20質量%以下含むと好適である。
原料粉末は、純金属粉末および/または合金粉末の2種以上を混合することによって製造することができる。粉末の混合には、V型混合機、ボールミル及び振動ミル、高エネルギーボールミル(例えば、アトライター)等を使用できる。
粉末を混合して原料粉末を製造する場合に使用する粉末として、例えばスポンジ粉末、水素化脱水素粉末、水素化粉末、アトマイズ粉末などを使用できる。粉末の粒子形状や粒径(粒径分布)などは、特に限定されるものではなく、市販の粉末をそのまま用いることができる。もっとも、使用粉末は、コストや焼結体の緻密性の観点から、平均粒径が100μm以下であると好ましい。さらに、粉末の粒径が45μm(#325)以下であれば、より緻密な焼結体を得やすい。
HIP法を用いる場合には、原料粉末がチタンと少なくともVa族元素とを含む合金粉末からなると好適である。この合金粉末は、上記(1)で説明した組成を備えた粉末であり、例えば、ガスアトマイズ法や、REP法(回転電極法)、PREP法(プラズマ回転電極法)、あるいは溶解法により製造されたインゴットを水素化した後粉砕する方法、さらにはMA法(機械的合金化法)等により、製造することができる。
(ii)焼結法の場合
焼結法を用いる場合は、上記(i)の原料粉末(混合粉末)を所定形状の成形体に成形し、その成形された成形体を加熱して焼結させる。成形体の形状は、後述するようにその後にワイヤーに冷間加工することを考慮した形状(例えば、ビレット形状)とすることが好ましい。粉末の成形には、例えば、金型成形、CIP成形(冷間静水圧プレス成形)、RIP成形(ゴム静水圧プレス成形)等を用いることができる。
成形体の焼結は、真空又は不活性ガスの雰囲気でなされることが好ましい。また、焼結温度は、合金の融点以下で、しかも成分元素が十分に拡散する温度域で行われることが好ましく、例えば、その温度範囲は1200℃〜1400℃である。また、その焼結時間は2〜16時間であることが好ましい。したがって、チタン合金の緻密化と生産性の効率化を図る上で、1200℃〜1400℃かつ2〜16時間の条件で焼結工程を行うことができる。なお、焼結後は熱間加工を行うことにより、焼結合金の空孔等を低減して組織を緻密化させることができる。
(iii)HIP法の場合
HIP法を用いる場合は、上記(i)の原料粉末(混合粉末)を所定形状の容器に充填し、熱間静水圧法(HIP法)を用いて容器内の粉末を加圧固化させる。使用する容器は、例えば、金属製でも、セラミック製でも、ガラス製でもよい。また、真空脱気して、原料粉末を容器に充填、封入することが好ましい。
粉末の加圧固化は、拡散が容易で粉末の変形抵抗が小さく、しかも、前記容器と反応しにくい温度領域で行われることが好ましい。例えば、その温度範囲は900℃〜1300℃とすることができる。また、成形圧力は、充填粉末が十分にクリープ変形できる圧力であることが好ましく、例えば、その圧力範囲は50〜200MPa(500〜2000気圧)とすることができる。HIPの処理時間は、粉末が十分にクリープ変形して緻密化し、かつ、合金成分が粉末間で拡散できる時間が好ましく、例えば、その時間は1時間〜10時間とすることができる。
上述した製造方法により得られたチタン合金は冷間加工性に優れるため、得られたチタン合金を冷間加工して所望の断面積を有する線材(ワイヤー)を製造することができる。
(3)本発明に用いられるチタン合金の引張弾性限強度と平均ヤング率
図1は本発明に用いられるチタン合金の応力−歪み線図を模式的に示しており、図2は従来のチタン合金(Ti−6Al−4V合金)の応力−歪み線図を模式的に示している。
図2に示すように、従来のチタン合金では、先ず、引張応力の増加に比例して伸びが直線的に増加する(A'−A間)。この直線の傾きによって従来のチタン合金のヤング率が求められる。すなわち、引張応力(公称応力)を歪み(公称歪み)で除した値がヤング率となる。応力と歪みが比例関係にある直線域(A'−A間)では変形が弾性的であり、例えば、応力を除荷すれば、試験片の変形である伸びは0に戻る。しかし、さらにその直線域を超えて引張応力を加えると、従来のチタン合金は塑性変形を始め、応力を除荷しても、試験片の伸びは0に戻らず、永久伸びを生じる。
通常、永久伸びが0.2%となる応力σpを0.2%耐力と称している(JIS Z 2241)。0.2%耐力は、応力−歪み線図上で、弾性変形域の直線(A'−A:立ち上がり部の接線)を0.2%歪み分だけ平行移動した直線(B'−B)と応力―歪み曲線との交点(位置B)における応力でもある。従来のチタン合金の場合、通常、「伸びが0.2%程度を超えると、永久伸びになる」という経験則に基づき、0.2%耐力≒引張弾性限強度と考えられている。逆に、0.2%耐力内であれば、応力と歪みとの関係は概ね直線的または弾性的であると考えられる。
ところが、図1の応力−歪み線図に示すように、本発明で用いられるチタン合金の場合、弾性変形域において応力―歪み線図が直線とはならず、上に凸な曲線(A'−A)となり、除荷すると同曲線A−A'に沿って伸びが0に戻ったり、B−B'に沿って永久伸びを生じたりする。このように、本発明で用いられるチタン合金では、弾性変形域(A'−A)ですら、応力と歪みとが直線的な関係になく、歪みの増加に対して、応力の増加が低く抑えられる。また、除荷した場合も同様であり、応力と歪みとが直線的な関係になく、歪みの減少に対して、応力の減少が極めて低い。すなわち、本発明で用いられるチタン合金は、優れた高弾性変形能を有するものである。
ところで、本発明で使用するチタン合金の場合、図1からも明らかなように、応力が増加するほど応力−歪み線図上の接線の傾きが減少している。このように、弾性変形域において応力と歪みとが直線的に変化しないため、従来の方法で本発明で使用したチタン合金のヤング率を定義することは適切ではない。また、本発明で使用したチタン合金の場合、応力と歪みとが直線的に変化しないため、従来と同様の方法で0.2%耐力(σp')≒引張弾性限強度と評価することも適切ではない。つまり、従来の方法により求まる0.2%耐力では、本来の引張弾性限強度よりも著しく小さい値となってしまうためである。
そこで、本来の定義に戻って、本発明で使用したチタン合金の引張弾性限強度(σe)を前述したように求めることとし(図1中のB位置)、また、本発明で使用したチタン合金のヤング率として、前述の平均ヤング率を導入することとした。なお、図1および図2中、σtは引張強度であり、εeは本発明で使用したチタン合金の引張弾性限強度(σe)における歪みであり、εpは従来のチタン合金の0.2%耐力(σp)における歪みである。
(4)歯科矯正用ワイヤーの製造(チタン合金の組織)
本発明で用いられるチタン合金は、50%以上の冷間加工組織を有すると好適である。上記(2)の製造方法で製造されたチタン合金が冷間加工組織をもつことにより、低ヤング率化と高強度化を高次元で両立できる。したがって、上記(2)の製造方法で得られたチタン合金を冷間加工を施すことによって歯科矯正用ワイヤーを製造することが好ましい。なお、冷間加工によって得られた歯科矯正用ワイヤーは、従来の歯科矯正用ワイヤーと同様の方法で用いることができる。
ここで、冷間加工組織とは、チタン合金を冷間加工したときに得られる組織であり、「冷間」とは、チタン合金の再結晶温度(再結晶を起す最低の温度)以下を意味する。50%以上の冷間加工組織とは、次式により定義される冷間加工率が50%以上の場合にできる冷間加工組織をいう。
冷間加工率 = (S0−S)/S0 ×100(%)
(S0:冷間加工前の断面積、S:冷間加工後の断面積)
また、冷間加工率が70%以上、さらには90%以上となるような冷間加工組織を付与すると、チタン合金は一層低ヤング率で高強度となり得るので好適である。さらには、冷間加工性に優れるため、98%以上の冷間加工組織を付与したチタン合金とすることもできる。なお、チタン合金に冷間加工組織を付与することにより、低ヤング率と高強度化を達成できる理由は、現状では必ずしも明らかではない。
また、冷間加工性に著しく優れるため、チタン合金のインゴット、スラブ、ビレット等からチタン合金の細線(すなわち、歯科矯正用ワイヤー)を冷間加工で容易に得ることができる。しかも、中間焼鈍を行わなくとも、この冷間加工時に割れ等を殆ど起すことがないから、冷間加工性および歩留りを著しく向上させることができる。
上述した冷間加工には、例えば、冷間圧延、冷間伸線、冷間プレス、冷間絞り、冷間線引き、冷間プレス、冷間スェージング加工等がある。また、研削、研磨等も含めることができる。また、チタン合金に施す冷間加工を、素材を得るための素材用冷間加工工程と、その素材を冷間加工して矯正用ワイヤーとする成形用冷間加工工程とに分けて考えても良いし、両工程を一工程として考えても良い。
なお、本発明で用いられるチタン合金については、特許3282809号、3375083号等により詳細に開示されている。また、豊通マテリアル株式会社が販売するチタン合金(登録商標ゴムメタル)を使用することもできる。
(5)本発明の歯科矯正用ワイヤーを用いた歯科矯正法
本発明の歯科矯正用ワイヤーは、従来から行われている種々の歯科矯正法(手技)に用いることができる。ここでは、(i)ストレートワイヤー法による歯科矯正法と、(ii)マルチループ法による歯科矯正法について説明する。
(i)ストレートワイヤー法
ストレートワイヤー法では、一般的に矯正対象となる歯とその近傍の歯のみを移動させる。このため、歯が正しく並ぶスペースが無い場合には抜歯を行い、抜歯によってできたスペースを利用して歯並びを矯正する。したがって、ストレートワイヤー法では抜歯率が高いのが特徴となっている。
図5にはストレートワイヤー法に用いられる歯科矯正用ワイヤー10の斜視図を示している。歯科矯正用ワイヤー10は予めアーチ形状に成形されている。矯正歯科医は、患者の歯列弓の大きさに応じて適切なアーチ形状のワイヤーを選択する。図5から明らかなように、歯科矯正用ワイヤー10は途中で屈曲されていないため、審美性に優れ、清掃性にも優れている。
図7は歯科矯正用ワイヤー10が歯に装着された状態を模式的に示している。歯科矯正用ワイヤー10を歯に装着するためには、歯の表面にブラケット16を接着し、ブラケット16のスロットに歯科矯正用ワイヤー10を挿通する。図7の状態では、中央の歯に上向きの力が作用し、左右の歯には下向きの力が作用している。これにより、中央の歯は上方向に移動し、左右の歯は下方向に移動し、3つの歯は適切な高さで揃うこととなる。
図7から明らかなように、ストレートワイヤー法によって歯が移動するためには、ブラケット16間に架設された歯科矯正用ワイヤー10の長さが変化しなければならない。歯が移動するとブラケット16間の距離が変化し、これによって、そのブラケット16間に架設された歯科矯正用ワイヤー10の長さも変化するためである。ブラケット16間に架設された歯科矯正用ワイヤー10の長さが変化するためには、歯科矯正用ワイヤー10が変形するか、歯科矯正用ワイヤー10がブラケット16のスロットを滑って送出されるかのいずれかが必要となる。
しかしながら、歯科矯正用ワイヤー10とブラケット16との間には摩擦力が作用するため、歯科矯正用ワイヤー10をブラケット16のスロットから円滑に送出すことは現実には難しい。また、歯科矯正用ワイヤー10が変形すると、その反力によって矯正力とは逆方向の力が歯に作用する。このため、その反力が大きすぎると歯の移動を阻害することとなる。これらによって、従来の歯科矯正用ワイヤー(Co−Cr合金)を用いたストレートワイヤー法では、歯科矯正に長期間(2〜3年)を要していた。
既に説明したことから明らかなように、本発明の歯科矯正用ワイヤーは、ワイヤーの変形に対して応力の増加率が低く抑えられる。このため、本発明の歯科矯正用ワイヤーをストレートワイヤー法に用いた場合、ブラケット間の距離が変わってワイヤーが変形しても、ワイヤーの変形による反力を小さく抑えることができる。したがって、歯に適正な矯正力を作用させることができ、歯科矯正期間を飛躍的に短縮することが可能となる。
(ii)マルチループ法
マルチループ法は、ストレートワイヤー法と異なり、歯列弓を構成する歯全体を移動させて矯正を行う。このため、抜歯を行うことなく歯が正しく並ぶためのスペースを作り出すことができる。したがって、マルチループ法では抜歯率が低いのが特徴となっている。
図6にはマルチループ法に用いられる従来の歯科矯正用ワイヤー12の斜視図を示している。歯科矯正用ワイヤー12は、その両端部において複数のループ14が形成されている。1個のループ14を形成するために、13ステップの屈曲操作を行っている。
図8は歯科矯正用ワイヤー12が歯に装着された状態を模式的に示している。マルチループ法においても、歯の表面にブラケット16が接着され、ブラケット16のスロットに歯科矯正用ワイヤー12が挿通されている。
図8から明らかなように、マルチループ法では、各歯にワイヤー12の直線部分12aからの力が主に作用する。このため、ワイヤーを屈曲することで、各歯に作用する矯正力をその歯に応じた適正な値とすることができる。また、ブラケット16間の距離が変化しても、ワイヤー12の屈曲部分12bが変形し、それによって矯正力を打ち消す反力も生じない。これらによって、マルチループ法では、ストレートワイヤー法と比較して、歯科矯正期間が短いという利点を有している(平均1〜1.5年)。
しかしながら、マルチループ法では、ワイヤー12の屈曲操作が煩雑であり、歯科矯正医に高度の熟練と手間を要求する。また、ワイヤー12の形状が複雑であるため、審美性や、清掃性で劣るという問題があった。これらのため、ストレートワイヤー法と比較して、マルチループ法の普及率は未だ低いのが現状である。
既に説明したことから明らかなように、本発明の歯科矯正用ワイヤーは、ワイヤーの変形に対して応力の増加率が低く、ワイヤーが変形しても矯正力を適正な値に保つことができる。したがって、本発明の歯科矯正用ワイヤーをマルチループ法に用いれば、ワイヤーを屈曲する程度を飛躍的に少なくすることができる。
例えば、図9(a),(b)には、従来の歯科矯正用ワイヤー(Co−Cr合金)をマルチループ法に用いたときのワイヤー形状(上段)と、本発明の歯科矯正用ワイヤーをマルチループ法に用いたときのワイヤー形状(下段)を併せて示している。図から明らかなように、本発明の歯科矯正用ワイヤーでは、ワイヤーの屈曲する程度を少なくすることができ、ループ状に屈曲される部分が無くなっている。したがって、審美性や清掃性に劣るという問題を解決できることとなる。
また、本発明の歯科矯正用ワイヤーは冷間加工性に優れることから、その屈曲操作も容易に行うことができる。したがって、歯科矯正医に高度の技術を要求することもない。
(iii)その他
本発明の歯科矯正用ワイヤーは、歯列弓を拡大する緩徐拡大装置用のワイヤーや、歯科矯正治療後の歯列を安定させる保定装置用のワイヤーとして用いることができる。
本発明の一実施例に係る歯科矯正用ワイヤーについて具体的に説明する。図5は本実施例に係る歯科矯正用ワイヤーを示している。図5に示すように、歯科矯正用ワイヤー10はアーチ形状に成形されている。このアーチ形状は、歯を歯科矯正学的に正しい咬合のために所望される位置にまで移動させたときの、患者の上顎歯列弓又は下顎歯列弓のアーチ形状に似せて形成されている。
本実施例の歯科矯正用ワイヤー10は、豊通マテリアル株式会社が販売するチタン合金(登録商標ゴムメタル)のビレットを冷間加工(線引き加工)によって所定の寸法の線材とし、この線材をアーチ状に曲げ加工して製作した。表1には本実施例に係るチタン合金の機械的特性を示している。また、表1には比較例として、従来の歯科矯正用ワイヤーに用いられていたCo−Cr合金(比較例1)、Ni−Ti合金(比較例2)、βチタン合金(比較例3)の機械的特性も併せて示している。表1から明らかなように、本実施例で用いたチタン合金は、従来の金属と比較して、機械的強度が高いにもかかわらず極めてヤング率が低く、しなやかさと復元力に優れている。
歯科矯正用ワイヤー10の断面形状としては、円形断面、方形断面(正方形断面又は長方形断面)等とすることができるが、本実施例では方形断面を採用した。方形断面を採用する場合、縦方向(咬合側から歯肉側の方向)を0.016〜0.020インチの範囲とし、横方向(唇側から舌側)を0.022〜0.028インチの範囲に設定することが好ましい。また、歯科矯正用ワイヤー10の断面寸法は、歯科矯正用ワイヤー10が1mm撓んだときの荷重が約0.5〜6.0[N]となるように設定することが好ましい。
歯科矯正用ワイヤー10の断面寸法を設定する方法には種々の方法を採ることができる。例えば、ワイヤーに3点曲げ試験(JIS K7055)を行い、その試験結果からワイヤーの荷重−たわみ曲線を求める。すなわち、試験片であるワイヤーを支点間距離14mmで支持し、その中央を荷重速度1mm/分で曲げ、曲げ荷重とたわみの関係を求める。そして、求めた荷重−たわみ曲線から、たわみ1mmにおける荷重および曲げ弾性率を算出し、その荷重および曲げ弾性率が所定の範囲内となるように断面寸法を設定する。
本実施例の歯科矯正用ワイヤー(断面寸法;縦方向0.016インチ×横方向0.022インチ)を歯に装着したときにワイヤーに作用する応力(歯に作用する矯正力)を、図10に示す装置を用いて模擬的に測定した。図10に示す測定装置は、フレーム39とロッド52を備えている。フレーム39の左端(図面左端)には第1ブラケット固定部42が設けられ、この第1ブラケット固定部42上に第1ブラケット46が固着される。フレーム39の右端(図面右端)には第2ブラケット固定部40が設けられ、この第2ブラケット固定部40上に第2ブラケット48が固着される。第1ブラケット46と第2ブラケット48は同一高さ(図面高さ方向の位置が同一)となるように調整されている。
フレーム39には、図の奥行き方向(紙面と垂直となる方向)に凹となる凹部41が形成されている。凹部41は、第1ブラケット固定部42と第2ブラケット固定部40の間に設けられている。凹部41にはロッド52が配される。ロッド52には第3ブラケット50が固着されている。ロッド52は、図の矢印の方向(高さ方向)にスライド移動可能となっている。したがって、ロッド52を矢印方向にスライドさせることで、第1,2ブラケット46,48に対する第3ブラケット50の高さ方向の位置が変化するようになっている。なお、第1,2,3ブラケット46,48,50は、図の奥行き方向に関しては同一位置となるように調整されている。
上述した測定装置を用いて歯列矯正時にワイヤーに作用する応力を測定する方法について説明する。図11,12に示すように、まず、第1,2,3ブラケット46,48,50にワイヤー54をセットし、次いで、ロッド52を高さ方向に移動させて、第1,2ブラケット46,48に対する第3ブラケット50の高さ方向の位置を変化させる。これにより、矯正対象となる3本の歯にワイヤー54が装着された状態を模擬的に作り出すことができ、ワイヤー54に所定の歪を与えることができる。この状態でワイヤー54の伸びをビデオ式伸び計で観察し、その観察結果からワイヤー54に作用している応力(ブラケット46,48,50を介して歯に作用する矯正力)を算出する。
図13は、上述した測定装置を用いてワイヤーに0.5mmの歪を与えたとき(すなわち、第1,2ブラケット46,48に対して第3ブラケットを0.5mmだけずらしたとき)に、ワイヤーに作用する応力の測定結果を示している。図13中、「A」はCo−Cr合金製のストレートワイヤーの測定結果、「B」はCo−Cr合金製のワイヤーを図11に示すように屈曲させたときの測定結果、「C」はNi−Ti合金製のストレートワイヤー(いわゆる、VIMワイヤー)の測定結果、「D」はNi−Ti合金製のストレートワイヤー(いわゆる、Nitinolワイヤー)の測定結果、「E」はβチタン合金製のストレートワイヤーの測定結果、「F」は本実施例のストレートワイヤーの測定結果を示している。
図13から明らかなように、本実施例の歯科矯正用ワイヤーは、他のストレートワイヤーと比較して最も応力が小さくなった。また、本実施例の歯科矯正用ワイヤーに作用する応力は、Co−Cr合金製のワイヤーを屈曲させたときの応力(図中「B」)と略同一の応力となった。このため、本実施例の歯科矯正用ワイヤーによると、屈曲させなくてもマルチループ法の矯正用ワイヤーとして用いることが可能であることが判明した。
上述した説明から明らかなように、本実施例の歯科矯正用ワイヤー10は、従来の歯科矯正用ワイヤーと比較して、広いたわみ範囲にわたって最適な矯正力を発揮することができる。このため、長期間にわたって同一の歯科矯正用ワイヤーを用いることができる。また、矯正対象となる歯に最適な矯正力を作用させることができるため、現在平均2〜3年を要する矯正治療期間を大幅に短縮することができる。
また、本実施例の歯科矯正用ワイヤー10は、低ヤング率で変形しやすく、また、その荷重−歪み特性が非線形という特性(歪みの増加に対して荷重増加率が低いという特性)を有する。このため、歯の移動のために最適な矯正力を発生させることができる。
さらに、本実施例の歯科矯正用ワイヤー10は冷間加工性に優れることから、歯科矯正医のワイヤー屈曲操作を容易化することができる。さらに、強度的にも優れているため、口腔内でのワイヤーの変形や破折による医源性外傷の減少にも貢献することができる。
また、本実施例の歯科矯正用ワイヤー10は、冷間加工性に優れることから、歯科矯正用ワイヤー10にねじりや屈曲を容易に施すことができ、歯科矯正医が意図する方向に矯正力を作用させることができる。また、本実施例の歯科矯正用ワイヤー10はヒステリシスを有しないことから、歯科矯正医は意図した通りの矯正力を作用させることもできる。
なお、上述した歯科矯正用ワイヤー10は、冷間加工性に優れることから、屈曲が必要な歯科用ワイヤー(例えば、義歯をクラスプ(止める)等するための歯科用ワイヤー)として用いることもできる。
また、本発明の歯科矯正用ワイヤー10に用いられるチタン合金は、歯科矯正用ワイヤー以外の歯科用器具の材料として用いることができる。例えば、図3に示すぺリオプローブ20の材料として用いることができる。ぺリオプローブ20は、歯周病による歯茎のはれを測定する器具である。ぺリオプローブ20には、高い弾力性と高強度が求められることから、近年、形状記憶合金を用いて製作されたぺリオプローブが開発されている。ぺリオプローブ20を形状記憶合金で製作するには、まず、形状記憶合金の線材に切削加工を施して所定形状に加工し、次いで、その表面を研削し、しかる後、その先端をプレス加工によって折り曲げている。
しかしながら、形状記憶合金は切削性が非常に悪く、また、超弾性であるため低荷重でも大きく曲がる。特に、ぺリオプローブ20を製作するためには、加工しようとする被切削物の線径が小さくなり、被切削物に旋盤のバイトの歯を当てると、被切削物の線材はバイトに押されて曲がってしまう。
また、形状記憶合金は温度によって著しく特性が変化する。このため、切削時やプレス加工時あるいは研削時等の加工時において、特定の温度に管理しながら加工を行わなければならない。
さらに、出来上がった切削物を最終加工で曲げる際には、その曲げ角度が大きいため、冷間プレスを行うと切削加工をした製品が折れてしまうことが多い。これは超弾性材である形状記憶合金を無理やり塑性加工しようとするためである(すなわち、形状記憶合金の切削物を塑性変形域を超えて変形させようとするためである。)。
上記のようにぺリオプローブ20を形状記憶合金によって製作することは非常に困難であるが、本発明に係るチタン合金は上記の問題点もなく、本発明のチタン合金を用いてぺリオプローブ20を製作することで、高弾性で高強度のぺリオプローブ20を極めて容易に製作することができる。すなわち、本発明に係るチタン合金によってぺリオプローブ20を製作すると、(1)加工時の温度管理を必要とせず、(2)冷間加工性に優れるため曲げ加工をしても折損することはなく、(3)切削性も形状記憶合金より優れ、(4)ぺリオプローブに要求される弾性率を備えており、(5)製造する際の歩留まりがよいことから形状記憶合金と比較して低コストで材料を調達でき、さらに(6)加工性に優れることから加工時の歩留まりも向上して加工コストを低く抑えることができる、といった種々の利点がある。
なお、ぺリオプローブ20全体を本発明に係るチタン合金を用いて製作することもできるが、少なくともその先端部22を本発明に係るチタン合金を用いて製作することが好ましい。先端部22には極めて高い形状精度が要求され、また、高弾性で高強度が要求されるためである。
さらに、本発明に係るチタン合金は、図4に示すクランプ30の材料として好適に用いることができる。クランプ30は、手術用のゴムシートを患者の歯に固定するために用いられる。具体的な固定方法は、患者の歯の上に手術用のゴムシートをかぶせ、クランプ30によってゴムシートごと患者の歯を挟み込んで固定する。クランプ30には、患者の歯にゴムシートを確実に固定するための高い弾力性と、口中に固定するものであることから高い安全性(高強度)が要求される。このため、従来からクランプ30についても形状記憶合金を用いて製作することが検討されている。
しかしながら、クランプ30の素材となる薄板への加工が形状記憶合金では難しく、薄板に加工しようとすると加工費がかかりすぎてしまうという問題がある。また、板材から曲げて製品の形状とするためには、板を打抜くプレス加工と曲げ加工、形状を記憶させる熱処理加工が必要となる。しかしながら、形状記憶合金自身が超弾性であることと、金属間化合物であることから、形状記憶合金は非常に硬くて塑性加工が難しく、上述した一連の加工が困難であるという問題もある。
本発明に係るチタン合金は上記の問題がないため、本発明のチタン合金を用いてクランプ30を製作することで、優れた特性を持ったクランプ30を安価に製作することができる。すなわち、本発明に係るチタン合金は、(1)塑性加工性に優れ、形状記憶合金に比べて曲げやすく、しかも加工後の製品形状を保ちながらその製品は超弾性を有することができ、(2)塑性加工性に優れることから板材料への加工が容易であり、(3)プレス打ち抜き加工も形状記憶合金に比べ容易であり、(4)形状を記憶させるために金型に製品を拘束させて熱処理する必要もないためである。なお、本発明に係るチタン合金を用いたクランプは、従来品(銅合金など)に比べ大きく変形させることができるので、種々な大きさの歯に対応することができる。このため、この種のクランプは、歯の大きさに併せて複数個のクランプを1セットとして販売されるが、本発明に係るチタン合金を用いることで、1セットを構成するクランプの種類を少なくすることが可能となる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
本発明に用いられるチタン合金の応力−たわみ線図を模式的に示す図である。 従来のチタン金属の応力−たわみ線図を模式的に示す図である。 本発明に用いられるチタン合金による歯科器具の一例(ぺリオプローブ)を示す斜視図である。 本発明に用いられるチタン合金による歯科器具の一例(クランプ)を示す正面図である。 ストレートワイヤー法に用いられる歯科矯正用ワイヤーの斜視図である。 マルチワイヤー法に用いられる歯科矯正用ワイヤーの斜視図である。 図5に示す歯科矯正用ワイヤーを歯に装着した状態を模式的に示す図である。 図6に示す歯科矯正用ワイヤーを歯に装着した状態を模式的に示す図である。 従来の歯科矯正用ワイヤー(Co−Cr合金線)を用いてマルチワイヤー法を行うときの歯科矯正用ワイヤーの屈曲例と、本発明の歯科矯正用ワイヤー(チタン合金)を用いてマルチワイヤー法を行うときの歯科矯正用ワイヤーの屈曲例とを併せて示す図である。 歯科矯正用ワイヤーを歯に装着したときのワイヤー応力を模擬的に測定する測定装置の構成を示す図である。 図10に示す測定装置に屈曲されたワイヤーが装着された状態を示す図である。 図10に示す測定装置にストレートワイヤーが装着された状態を示す図である。 ワイヤーに0.5mmの歪を与えたときのワイヤー応力を測定した測定結果を示すグラフである。
符号の説明
10・・歯科矯正用ワイヤー
20・・ぺリオプローブ
22・・先端部
30・・クランプ

Claims (1)

  1. 引張弾性限強度が700MPa以上であり、加える応力が0から引張弾性限強度までの弾性変形域内において、引張試験で得られる応力−歪み線図上の接線の傾きが応力の増加に伴って減少する特性を有し、その平均ヤング率が75GPa以下であるチタン合金からなることを特徴とする歯科矯正用ワイヤー。

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