JP4647861B2 - (S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸及び(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの製造方法 - Google Patents

(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸及び(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機能性物質或いは医薬品の合成中間体として有用な(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸{式(4)}又はその等価体である(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトン{式(5)}の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸或いは(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンは、機能性物質或いは医薬品の合成中間体として注目される化合物である。これらの化合物を得る方法として、Herdeisらの方法[C.Herdeis, Synthesis, (3), 232(1986)]が知られている。
【0003】
しかしながら、この方法は反応に多段階を要し、操作が複雑であるため、大量生産には不向きであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、大量生産にも有利な簡便な方法で、(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸及び(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンを製造する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸或いはその等価体である(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの製造方法について鋭意研究を行った結果、5−アミノレブリン酸を出発物質とし、5−アミノレブリン酸のアミノ基を保護してから、酵母菌体による不斉還元を行い、その生成物の保護基を除去すれば、(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸又はその等価体である(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンが、簡便に得られ、大量生産にも有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0007】
【化13】
【0008】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素基、アラルキルオキシ基又はアルコキシ基を示す)
で表わされる化合物を、酵母菌体の存在下で不斉還元することを特徴とする一般式(3)
【0009】
【化14】
【0010】
(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表わされる化合物の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、一般式(1)
【0012】
【化15】
【0013】
(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表わされる化合物を、酵母菌体の存在下で不斉還元して一般式(3)
【0014】
【化16】
【0015】
(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表わされる化合物を得、これを加水分解又は接触還元することを特徴とする式(4)又は(5)
【0016】
【化17】
【0017】
で表わされる化合物の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、式(6)
【0019】
【化18】
【0020】
で表わされる化合物を、塩基の存在下に一般式(7)
【0021】
【化19】
【0022】
(式中、Rは前記と同じ意味を有し、Xはハロゲン原子を示す)
で表わされる化合物と反応させて一般式(1)
【0023】
【化20】
【0024】
(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表わされる化合物を得、これを酵母菌体の存在下で不斉還元して一般式(3)
【0025】
【化21】
【0026】
(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表わされる化合物とし、更にこれを加水分解又は接触還元することを特徴とする式(4)又は(5)
【0027】
【化22】
【0028】
で表わされる化合物の製造方法を提供するものである。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる一般式(1)で表される化合物において、Rで示される炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
飽和脂肪族炭化水素基としては炭素数1以上であれば特に制限されないが、炭素数1〜10のものが好ましく、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでも良い。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、エチルブチル基、イソボルニル基などが挙げられる。
また、芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上であれば特に制限されないが、炭素数6〜10のものが好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらの炭化水素基が有していても良い置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基などが挙げられる。
置換基を有していても良い炭化水素基としては、前記の飽和脂肪族炭化水素のほか、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ニトロフェニル基などが挙げられる。
【0035】
また、Rで示されるアラルキルオキシ基としては、例えばベンジルオキシ基などが挙げられる。これらのアラルキルオキシ基は置換基を有していても良く、かかる置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基などが挙げられる。
置換基を有していても良いアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、2−クロロベンジルオキシ基、4−クロロベンジルオキシ基、4−ニトロベンジルオキシ基などが好ましい。
【0036】
また、Rで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、特にtert−ブトキシ基が好ましい。
【0037】
このような一般式(1)で表わされる化合物は、例えば式(6)で表わされる化合物(5−アミノレブリン酸)を、塩基の存在下に一般式(7)で表わされる化合物と反応させることにより、得ることができる。
【0038】
【化25】
【0039】
(式中、R及びXは前記と同じ意味を有する)
式中、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0040】
ここで用いられる塩基としては、無機塩基、有機塩基のいずれでも良く、無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられ、有機塩基としては、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
反応の際には溶媒が用いられ、かかる溶媒としては、基質が溶解すれば特に制限されないが、好ましくは水、メタノール、ジオキサン又はこれらの混合溶媒が用いられる。
反応は、0℃ないしは使用する溶媒の還流温度の範囲で行われ、反応時間は特に制限されないが、30分〜24時間行うのが好ましい。
【0041】
また、一般式(1)中、Rがtert−ブトキシ基のものは、式(6)で表わされる化合物に、ジ−tert−ブチルジカルボネート、2−tert−ブトキシカルボニルオキシイミノ−2−フェニルアセトニトリル、S−tert−ブトキシカルボニル−4,6−ジメチル−2−メルカプトピリミジン、[p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)フェニル]ジメチルスルホニウム・メタンスルホン酸塩などを、塩基の存在下で反応させることによっても得ることができる。塩基としては、前記と同様のものを用いることができる。
【0042】
次に、一般式(1)で表される化合物は、酵母菌体の存在下に不斉還元することにより、一般式(2)で表わされる化合物又はその等価体である一般式(3)で表わされる化合物を得ることができる。
ここで用いられる酵母菌体としては、例えばパン酵母、アルコール酵母、ビール酵母、清酒酵母、ぶどう酒酵母等のSaccharomyces属酵母、あるいはCandida属酵母が挙げられ、これらのうち、Saccharomyces属酵母が好ましく、特にパン酵母、アルコール酵母が好ましい。これらは、生酵母、乾燥酵母のいずれでも使用することができる。酵母菌体は、化合物(1)に対して等量〜500等量(重量)使用するのが好ましい。
反応は水中で行われ、反応中には、酵母にグルコース、サッカロースなどの糖分を与え、10〜50℃、好ましくは20〜40℃で反応液を振とうする。反応液の酸塩基度はpH4〜7に調整され、反応時間は特に制限されないが、1〜200時間行うのが好ましい。
【0043】
次に、得られた化合物(2)又は(3)を加水分解又は接触還元することにより、式(4)で表わされる(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸又はこれと等価体である式(5)で表わされる(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチルラクトンを得ることができる。
加水分解は、プロトン酸により行うのが好ましく、プロトン酸としては、例えばフッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、酢酸、トリフロロ酢酸、スルホン酸、トルイル酸、硫酸又はこれらの混合物が挙げられる。溶媒は、化合物(2)、(3)が溶解すれば特に制限されないが、水、メタノール、酢酸、ジオキサン又はこれらの混合溶媒を用いることができる。反応温度、反応時間は官能基Rの種類により異なるが、好ましくはそれぞれ−40℃〜100℃、1分〜48時間の範囲で行われる。
【0044】
また、接触還元は、水素ガス−金属触媒により行うのが好ましく、ここで用いられる触媒としては、6族から11族の間の遷移金属元素であって、1種又は2種以上を混合してもよい。好ましくは、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金で、触媒の形態は特に制限されないが、より好ましくはパラジウム−炭素、パラジウムブラックが挙げられる。溶媒は、化合物(2)、(3)が溶解すれば特に制限されないが、水、メタノール、酢酸、DMF又はこれらの混合物が好ましい
反応は水素雰囲気下で行われ、その圧力は0〜20MPaであり、副反応の防止の面からは0〜10MPaが好ましい。反応温度は0〜150℃、好ましくは10〜100℃、さらに好ましくは20〜70℃である。反応時間は過反応防止の面から、3〜10時間が好ましい。
【0045】
反応終了後、目的化合物(4)、(5)は、例えば反応液をエバポレーター等で濃縮後、減圧して溶媒を留去することにより、反応混合物より採取することができる。また、得られた目的化合物は、必要に応じて、更に再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー等により精製することができる。
【0046】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例1 N−(ベンジルオキシカルボニル)−5−アミノレブリン酸の合成(5−アミノレブリン酸のZ化反応):
5−アミノレブリン酸 20.07gをメタノール120mLに溶解し、氷浴で冷却してからベンジルオキシカルボニルクロライド(Z-Cl)17mLを加え、トリエチルアミン22.36gをゆっくり滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌し、この溶液を0.1N塩酸 400mLに加えた。白色固体が析出したので酢酸エチル400mLを加えて溶解し、酢酸エチル層を分液回収した。酢酸エチル層を水 50mLで2回、飽和食塩水50mLで1回洗浄した後、硫酸ナトリウムを加えて一晩放置した。ろ過により硫酸ナトリウムを除去した後、ろ液を濃縮乾固させ、黄白色固体28.32gを回収した。
黄白色固体28.32gをメタノール100mLに加えて60℃湯浴で溶解させ、室温で攪拌しながら石油エーテル500mLを加えた。白色結晶が析出したので、吸引ろ過でこれを回収し、室温で減圧乾燥した。目的物23.89gを得た。
1H NMR(CD3OD):δ
2.59-2.62(q,2H), 2.73-2.77(q,2H), 4.04(s,2H), 5.13(s,2H), 7.31-7.41(m,5H)
13C NMR(CD3OD):δ
28.4, 35.01, 51.0, 67.7, 128.8, 129.0, 129.4, 138.1, 158.9, 176.1, 207.1
【0048】
実施例2 N−(ベンジルオキシカルボニル)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの合成 [N−(ベンジルオキシカルボニル)−5−アミノレブリン酸のパン酵母による不斉還元]:
2L三角フラスコに、イオン交換水360mL、D(+)−グルコース62.16g、りん酸二水素カリウム143.2mg、硫酸マグネシウム七水和物165.4mgを入れて溶解し、これに、N−(ベンジルオキシカルボニル)−5−アミノレブリン酸2.66gを1N水酸化カリウム水溶液20mLに溶解したものを加え、濃硫酸0.1mL加えて、pH5〜6としてからパン酵母(Yeast Saccharomyces cerevisiae type II)56.01gを加え、30℃で48時間振とうした。振とう開始から18時間後にグルコース62.18gを追加した。
得られた醗酵液を遠心分離して酵母を除去した後、濃硫酸3.8mLを加えてpH1とした。これにトルエン200mLを加えて80℃で3時間加熱攪拌した。分液してトルエン層を回収し、さらに水層をトルエン100mL×2で2回洗浄し、トルエン層をすべて混合した。トルエン層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液300mL、次いで水300mL、飽和食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを加えて一晩放置した。ろ過により硫酸ナトリウムを除去した後、ろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ジエチルエーテル100%)で分離精製し、目的物1.19gを回収した。
1H NMR(CDCl3):δ
1.96-2.01(q,1H), 2.27-2.32(m,1H), 2.53-2.56(q,2H), 3.34-3.41(m,1H), 3.58-3.62(d,1H), 4.64(s,1H), 5.17(s,2H), 5.70(s,1H), 7.37-7.44(q,5H)
13C NMR(CDCl3):δ
24.2, 28.2, 44.2, 66.6, 79.2, 127.8, 127.9, 128.3, 136.1, 156.5, 176.8
【0049】
実施例3 (S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸及び(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの合成{N−(ベンジルオキシカルボニル)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンからのベンジルオキシカルボニル基の除去}:
実施例2で得たN−(ベンジルオキシカルボニル)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトン100.0mgと5%パラジウム−炭素10.0mg、メタノール1.5mL、水1.4mLを10mLオートクレーブに入れ、水素1MPaを封入した後、50℃で6時間加熱攪拌した。冷却後、吸引ろ過で活性炭を除去し、ろ液を濃縮して目的の無定形残渣43.4mgを得た。
この残渣について分析を行ったところ、13C NMR(D2O)の結果から5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸とγ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの混合物であった。
光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィー分析によれば、それらはいずれも(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸と(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンであり、(R)−(−)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸と(R)−(−)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンは検出されなかった。従って、光学純度は99%e.e.以上であった。
絶対検量線法による定量では(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸と(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンの比は7:24(w/w)であった。以下に液体クロマトグラフィーの条件を示す。
カラム:ダイセル化学工業社製 CROWNPAK CR(+) 0.4cmφ×15cm
溶離液:0.6%過塩素酸水溶液、0.4mL/min.
オーブン:3℃
溶出時間:
9.33分(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸
11.17分(R)−(−)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸
15.15分(R)−(−)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトン
17.18分(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトン
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、5−アミノレブリン酸を原料として簡便な3段階の反応で、(S)−(+)−5−アミノ−4−ヒドロキシペンタン酸及び(S)−(+)−γ−アミノメチル−γ−ブチロラクトンを効率良く得ることができ、大量生産に有利である。

Claims (3)

  1. 一般式(1)
    (式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素基、アラルキルオキシ基又はアルコキシ基を示す)
    で表わされる化合物を、酵母菌体の存在下で不斉還元することを特徴とする一般式(3)
    (式中、Rは前記と同じ意味を有する)
    で表わされる化合物の製造方法。
  2. 一般式(1)
    (式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素基、アラルキルオキシ基又はアルコキシ基を示す)
    で表わされる化合物を、酵母菌体の存在下で不斉還元して一般式(3)
    (式中、Rは前記と同じ意味を有する)
    で表わされる化合物を得、これを加水分解又は接触還元することを特徴とする式(4)又は(5)
    で表わされる化合物の製造方法。
  3. 式(6)
    で表わされる化合物を、塩基の存在下に一般式(7)
    (式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素基、アラルキルオキシ基又はアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子示す)
    で表わされる化合物と反応させて一般式(1)
    (式中、Rは前記と同じ意味を有する)
    で表わされる化合物を得、これを酵母菌体の存在下で不斉還元して一般式(3)
    (式中、Rは前記と同じ意味を有する)
    で表わされる化合物とし、更にこれを加水分解又は接触還元することを特徴とする式(4)又は(5)
    で表わされる化合物の製造方法。
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