JP4644459B2 - 歯科用硬化性組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、歯科用の硬化性組成物に関する。より詳しくは、該硬化性組成物を患者の口腔内部へ挿入する際、臭気、口腔粘膜や舌への刺激あるいは不快な味等の患者への負担となる要因が極めて少なく、また、口腔内部で硬化を行なっても硬化体表面が滑沢であり、さらには該組成物の硬化時の変色および硬化によって得られる硬化体の経時的変色が少ない義歯床裏装用材料として好適に用いることのできる硬化性組成物に関する。
(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル存在下で重合が可能な単量体、有機過酸化物及び第三級アミン化合物からなる組成物は、それらが室温から口腔内の温度で速やかに重合して硬化体が生じる性質を利用して、義歯床裏装材、歯科用セメント、コンポジットレジン、歯冠用レジン等の歯科材料として広く応用されている。
例えば義歯床裏装用材料は、長期間の使用により患者の口蓋に適合しなくなった義歯を改床し、再度使用できる状態に修正するための材料であり、室温から口腔内の温度で重合硬化するペーストを義歯床に盛付け、直接患者の口腔に挿入、口腔粘膜面との適合を図った後、口腔内で保持したまま重合硬化させて修正を行う材料である。従来、このような裏装材としては、一般にポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレートおよびメチルメタアクリレートとエチルメタアクリレートの共重合体等の粉末状合成樹脂と有機過酸化物を混合した粉末状成分と、メチルメタアクリレート等のラジカル重合性化合物等の単量体と第三級アミン化合物を混合した液体状成分とに分包された粉−液二成分系材料が用いられている。
このような二成分系材料を混合した際、上記液体状成分が粉末状成分と接触することにより短時間でその一部を溶解するとともに、合成樹脂粉末中に浸透して膨潤させる。このため、混合物の粘度を適度に調節することができ、臨床上の操作を容易にすることができる利点を有する。また、該重合開始剤の構成成分である過酸化ベンゾイルと芳香族第3級アミンが混合されることによって、室温から口腔内における温度で容易にラジカルが発生し、混合から所定の時間が経過した後、重合硬化が進行する。このような利点から、上記裏装法用の材料としてラジカル重合性の単量体と過酸化ベンゾイル−芳香族第3級アミン化合物からなる化学重合開始剤の組み合わせが広く使われている。
しかしながら、過酸化ベンゾイル−芳香族第3級アミン化合物系の重合開始剤は、両者が反応した際に生成する副生成物に由来する義歯床裏装材硬化体の硬化時の変色、さらに硬化体を長期使用した場合、芳香族第3級アミン化合物の酸化に由来する硬化体の経時的変色等の欠点があった。
上記変色の問題を解決するために、過酸化ベンゾイル−第3級アミン化合物系以外の化学重合開始剤として、アリールボレート塩および酸による化学重合開始剤が提案されている(特許文献1、2)。このようなアリールボレート塩を用いる化学重合開始剤系は、ラジカル重合性単量体が重合する際の変色が少なく、また硬化後の経時的変色も少ないことが知られている。
しかしながら、アリールボレート塩−酸からなる重合開始剤を義歯裏装用材料に応用する場合には、下記のような必須要件がある。
第1の要件として、上述したような粉液型の義歯床裏装用材料の場合、使用するアリールボレート塩は、液に完全に溶解するか、予め粉に分散させておき、該粉と液が混合された際に速やかに完全溶解する必要がある。配合されたアリールボレート塩がペースト中に未溶解のまま残留した場合には、必要な硬化活性が得られなかったり、硬化時間のばらつきが大きくなったりする。また、得られた硬化体に硬化むらが生じ、必要な機械的物性が得られない場合もある。
第2の要件として、裏装した義歯はその後長期に亘って使用されるため、義歯床用裏装材の硬化体は一定以上の硬度や機械的強度を有し、さらには、汚れの付着防止のため、硬化体の表面は滑沢である必要がある。そのためには、義歯床用裏装材に用いられる材料としては水や唾液等への溶解度が低いことが要求されるため、水や水溶性の有機溶剤は使用できない。また、該硬化体からの溶出物の量にも制限があるため、実質上義歯床用裏装材に使用できる液体成分は、アリールボレート塩をよく溶解し、かつ水や唾液への溶解性が低いラジカル重合性単量体のみである。
第3の要件として、義歯床用裏装材は上述したように、粉および液を混合したペーストを義歯へ盛り付け、口腔内部で賦形、硬化を行う材料であるため、使用するペーストの臭いや味、粘膜への刺激が低いことが要求される。
以上の要件を完全に満たすためにはアリールボレート塩をよく溶解し、かつ水への溶解性が低く、味や臭い、粘膜への刺激の低いラジカル重合性単量体が必要とされる。また、アリールボレート塩を分解させ、ラジカル発生を促す酸についても、その酸味を低減する必要がある。
先行文献によれば、例えば特許文献1にはアリールボレート塩、酸性化合物、ならびに有機過酸化物からなる歯科用化学重合触媒ならびに、該重合性触媒およびラジカル重合性単量体からなる歯科用硬化性組成物が開示されている。該文献には、その用途に応じて2液型、粉液型、2ペースト型等の種々の保存形態における組成を開示している。該文献においてラジカル重合性単量体に関しては、種々の酸性基を含んでなるラジカル重合性単量体および酸性基を含有しないラジカル重合性単量体が用例毎に使い分けて用いられているが、このうち、液体であり、かつ酸性基を有するラジカル重合性単量体は一般的に極性が高く、アリールボレート塩に対する溶解性が高いものが多いが、これらのラジカル重合性単量体は、強い酸味を呈するため口腔内部で賦形後硬化させる義歯床裏装材用途には使用できない。また、該文献に開示されている酸性基を有しない重合性単量体のうち、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタアクロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(2箇所あるエトキシユニットの繰り返し単位の総和が平均2.6の混合物)、トリメチロールプロパンジメタアクリレート、メチルメタアクリレート、2,2−ビス(4‐(2‐ヒドロキシ‐3‐メタアクロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン等はアリールボレート塩の溶解性が極めて低い。トリエチレングリコールジメタアクリレートは、アリールボレート塩の良溶媒であるが、強い苦味を呈することから、義歯床裏装用途には使用できない。2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(以下、HEMAと略す)もまたアリールボレート塩の良溶媒であるが、水溶性でもあるため義歯床裏装材用の重合性単量体として用いた場合には、粉液混和後のペーストを口腔へ挿入して賦形を行なう際、口腔中の唾液等によりHEMAが溶出し、ペーストが硬化した後の硬化体表面が面荒れを起こす問題がある。このように、本文献においては、義歯床裏装用途に適したラジカル重合性単量体ならびに酸に関する提案はなされておらず、課題の解決にも至っていない。
また、特許文献2には、アリールボレート塩、酸性化合物、ならびに+IVおよび/または+V価のバナジウム化合物からなる重合触媒、該重合触媒およびラジカル重合性単量体からなる歯科用接着材ならびに歯科用修復材料が提案されているが、本文献においても具体的に例示されているラジカル重合性単量体は文献1と同一であり、義歯床裏装用途にまで考慮された設計がなされておらず、課題の解決にも至っていない。
このように上記発明は、歯科用接着材や歯科用セメント用としては有用であるが義歯床裏装材用途へは適用できず、有効な義歯床裏装材用の組成物は未だ提供されていない。
特開2002−187907号公報 特開2003−096122号公報
上述のように、口腔挿入時に臭いや味、粘膜への刺激が少なく、口腔内のような水分の多い環境下で硬化させても該硬化体表面が滑沢に仕上がり、かつ硬化時の変色や硬化体の経時的変色が少ない義歯床裏装材が求められていた。
従って本発明は上記課題を解決し、義歯床裏装用材料として好適に用いることのできる硬化性組成物の提供を目的とする。
本発明者等は、アリールボレート塩−酸を用いる化学重合開始剤系を用いると従来品と比較して組成物の硬化時の変色が少なく、また、得られる硬化体の経時的変色も少なくなる点に着目し、該化学重合開始剤系を用いた硬化性組成物について鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するエチレングリコールユニット含有ラジカル重合性単量体を用いることにより、臭気や苦味がなく、かつアリールボレート塩をよく溶解し、さらには最終的に得られる硬化体の面荒れが極めて少ない組成物が得られることを見出した。さらに、重合開始剤用に使用される酸として固体酸を用いることにより、該酸に由来する酸味もなくなり、その結果、上記課題をすべて解決しうる組成物を見出し本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、
(A)下記一般式(1)
Figure 0004644459
(式中、RおよびRは各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Zは炭素数6〜20の2価の炭化水素基を示し、m及びnは各々独立に1〜14の整数であり、かつm+nは4〜15である)で示されるラジカル重合性単量体、(B)アリールボレート塩及び(C)固体酸としてスルホン酸基を有する架橋型高分子、または該架橋型高分子で被覆あるいは吸着させた無機粒子を含み、
かつ、酸性基を有するラジカル重合性単量体及び下記一般式(2
Figure 0004644459
(式中、R〜R5は各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜8の1価の有機基を示し、xは1〜20の整数を示す。)で示されるラジカル重合性単量体のいずれも含有しないことを特徴とする歯科用硬化性組成物である。
本発明によれば、口腔挿入時に臭いや味、粘膜への刺激が少なく、口腔内のような水分の多い環境下で硬化させても該硬化体表面が滑沢に仕上がり、かつ硬化時の変色や硬化体の経時的変色が少ない歯科用硬化性組成物が得られる。
本発明における歯科用硬化性組成物は、ラジカル重合性単量体として下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を使用することが必須である。
Figure 0004644459
(式中、RおよびRは各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Zは炭素数6〜20の2価の炭化水素基を示し、m及びnは各々独立に1〜4の整数であり、かつm+nは4〜15である)。
上記式(1)において、R、Rは各々独立に、水素原子またはメチル基である。従って上記ラジカル重合性単量体は少なくとも2つの(メタ)アクリル基を有する多官能の重合性単量体である。
上記式(1)において、Zは炭素数6〜20の2価の炭化水素基を示す。該Zの炭素数が5以下の場合には、苦味が生じ、口腔内で硬化させると極めて不快となる。一方、炭素数が20を越えるとアリールボレート塩を充分に溶解させることができない。該Zとしては、好ましくは8〜16の2価の炭化水素基である。また該炭化水素基はハロゲン原子、アシル基、アルコキシ基等の置換基を有していても良いが、その場合には、該置換基の有する炭素原子も含めて上記範囲内にある必要がある。
該Zを具体的に例示すると、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基等の炭素数6〜10のアルキレン基;1,2−シクロペンチルジメチレン基、1,3−シクロペンチルジメチレン基、1,2−シクロペンチルジエチレン基、1,3−シクロペンチルジエチレン基、1,2−シクロヘキシルジメチレン基、1,3−シクロヘキシルジメチレン基、1,4−シクロヘキシルジメチレン基等の脂肪族環状基含有アルキレン基;1,2−シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキシル基、1,4−シクロヘキシル基等のシクロアルキレン基;1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、1,1‘−ジフェニレンエーテル基、1,1’−ジフェニレンメタン基、1,1‘−ジフェニレンプロパン基、1,1’−ジフェニレンヘキサフルオロプロパン基等の2価の芳香族基等が挙げられる。
前記一般式(1)中のmおよびnは、どちらも1〜9の整数であり、mとnの値は同じであっても異なっても良く、mとnの合計が4〜10の範囲から選択される。mとnの合計が4より小さい場合には、本発明の硬化性組成物に用いられるアリールボレート塩の溶解性が充分でなく、硬化活性の高い組成物が得られない。また、mとnの合計が10を上回った場合には、親水性が高くなりすぎて最終的に得られる硬化体表面の面荒れが顕在化する。
上記一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、2,2−ビス(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタアクロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2−(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシフェニル)−2−(4−メタアクロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2−(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシフェニル)−2−(4−メタアクロイルオキシヘキサエトキシフェニル)プロパン、2−(4−メタアクロイルオキシトリエトキシフェニル)−2−(4−メタアクロイルオキシヘプタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタアクロイルオキシジエトキシメチレン)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−メタアクロイルオキシトリエトキシメチレン)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシメチレン)シクロヘキサン、2−(4−メタアクロイルオキシエトキシメチレン)−2−(4−メタアクロイルオキシトリエトキシメチレン)シクロヘキサン、2−(4−メタアクロイルオキシエトキシメチレン)−2−(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシメチレン)シクロヘキサン、2−(4−メタアクロイルオキシジエトキシメチレン)−2−(4−メタアクロリルオキシトリエトキシメチレン)シクロヘキサン、2−(4−メタアクロイルオキシジエトキシメチレン)−2−(4−メタアクロイルオキシテトラエトキシメチレン)シクロヘキサン等が挙げられる。これらラジカル重合性単量体は、単独で使用しても、2種以上を混合して用いてもよい。なお一般にこのようなオキシエチレンユニットの繰り返し単位を有する化合物は、その繰り返し単位が単一のものは入手が困難であり、オキシエチレンユニットの繰り返し単位数(m及びn)が異なる化合物の混合物であり、本発明の歯科用硬化性組成物を調製する場合には、そのような混合物を特に精製せずに使用すればよい。
一方、本発明の歯科用硬化性組成物には、酸性基を有するラジカル重合性単量体及び下記一般式(2)で示すラジカル重合性単量体が配合されていてはならない。
Figure 0004644459
(式中、R〜R5は各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜8の1価の有機基を示し、xは1〜20の整数を示す。)
なお、これら酸性基を有するラジカル重合性単量体、及び上記一般式(2)で示されるラジカル重合性単量体は、前記一般式(1)で示される化合物中の不純物として不可避的に混入してくる場合もある(例えば、メタクリル酸など)。本発明においては、これらラジカル重合性単量体が一般的な不純物量以上に含まれなければよく、通常、全ラジカル重合性単量体中、2質量%以下、好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であればよい。不純物として含まれる量が極めて多い場合には、水や塩基性水溶液で洗浄することにより、これら酸性基を有するラジカル重合性単量体や上記一般式(2)で示されるラジカル重合性単量体は容易に除去できる。
上記酸性基を有するラジカル重合性単量体とは、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸残基等の遊離の酸基、又はこれら酸基に対応する酸無水物基を有するラジカル重合性単量体を指し、より具体的には2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸等が挙げられる。
前記式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を示し、従って、該化合物は(メタ)アクリル酸エステル系の重合性化合物である。該式(2)においてxは1〜20の整数である。xが20を超えると苦味などの味が少なくなるが、水溶性は高く表面荒れの問題は生じるため、xが1〜40のラジカル重合性単量体は配合しないことが好ましく、xの値にかかわらず前記式(2)で示される化合物は配合されていないことが好ましい。
前記式(2)においてRは水素原子又は炭素数1〜8の有機基である。該Rの炭素数が少ないほど水溶性が高く、また苦味も生じやすくなる。該Rを具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トルイル基等のアリール基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基、メタアクロイル基、アクロイル基等のアシル基等が例示される。
上記式(2)において、R〜Rは各々独立に水素原子またはメチル基を示す。即ち、ともに水素原子である場合には、オキシエチレン基、一方が水素原子で他方がメチル基の場合はオキシプロピレン基、ともにメチル基の場合には、3−オキシ−2−ブチレン基を有す化合物である(以下、併せてオキシエチレン基等)。xは該オキシエチレン基等の繰り返し数であり、該xが3以上であるとアリールボレート塩の溶解性に優れるが、一方で上記Rの種類(但し、炭素数8以下の場合)にかかわらず特有の苦味を有する。
前記Rが水素原子である場合には、該化合物は極性が高く、xが1又は2でもアリールボレート塩を良好に溶解するが、一方で極めて水溶性が高く、組成物硬化体の面荒れを生じてしまう。
前記式(2)で示される化合物のうち、Rが水素原子である化合物を具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシエトキシエチルメタアクリレート、8−ヒドロキシジエトキシエチルメタアクリレート、10−ヒドロキシトリエトキシエチルメタアクリレート等が挙げられる。
一方、Rがアルキル基、アリール基、アシル基である場合、xが1又は2のときには水溶性はほとんどないが、特有の臭気や刺激を有するという問題がある。またxが大きくなるにつれ、水溶性が高くなり、苦味も強くなる。
該Rがアルキル基である化合物を具体的に例示すると、2−メトキシエチルメタアクリレート、2−エトキシエチルメタアクリレート、2−ブトキシエチルメタアクリレート、5−メトキシエトキシエチルメタアクリレート、8−メトキシ−ジエトキシエチルメタアクリレート、ω−メトキシヘキサエトキシエチルメタアクリレート、ω−メトキシテトラデカエトキシエチルメタアクリレート等が挙げられる。
該Rがアリール基である化合物を具体的に例示すると、2−フェニルオキシエチルメタアクリレート、2−トルイルオキシエチルメタアクリレート、2−キシリルオキシエチルメタアクリレート、2−(2−フェニルオキシエトキシ)エチルメタアクリレート等が挙げられる。
該Rがアシル基である化合物を具体的に例示すると、エチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、ヘキサエチレングリコールジメタアクリレート、ノナエチレングリコールジメタアクリレート、テトラデカエチレングリコールジメタアクリレート、2−アセチルオキシエチルメタアクリレート、2−プロピオニルオキシエチルメタアクリレート、2−ブチリルオキシエチルメタアクリレート、2−(2−アセチルオキシエチル)エトキシメタアクリレート、2−(2−(2−アセチルオキシエチル)エトキシ)エトキシメタアクリレート、2−(2−(2−アセチルオキシエチル)エトキシ)エトキシメタアクリレート、あるいは下記式
Figure 0004644459
で示される化合物等が挙げられる。
本発明においては、前記式(1)で表されるラジカル重合性単量体を単独で用いることができる。しかしながら本発明の効果を損なわない範囲で、重合して得られる硬化体の機械的強度その他物性に応じて、前記式(2)で示される以外のラジカル重合性単量体を混合して用いても良い。
上記式(1)と混合して使用可能なラジカル重合性単量体としては、上記式(1)および(2)の化合物以外のもので、低刺激性、低臭気かつ味が少ないものであれば何等制限なく用いられるが、一般には(メタ)アクリル酸エステル類が好適に使用される。該(メタ)アクリル酸エステルとしては、ネオペンチルグリコールジメタアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタアクリレート、1,9−ノナンジオールジメタアクリレート、1,10−デカンジオールジメタアクリレート、2,2−ビス(メタアクロイルオキシフェニル)プロパン等の2官能性ラジカル重合性単量体、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、トリメチロールエタントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタアクリレート、トリメチロールメタントリメタアクリレート等の3官能性ラジカル重合性単量体およびペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート等の4官能性のラジカル重合性単量体等が挙げられる。
特に本発明における歯科用硬化性組成物を義歯床裏装用材料として用いる場合には、上記式(1)で示されるラジカル重合性単量体と式(1)又は(2)で示される以外の構造を有する二官能ラジカル重合性単量体とを組み合わせて用いるのが硬化体強度向上の観点から好適であり、中でも上記式(1)で示されるラジカル重合性単量体と、炭素数6〜20のアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが好ましい。該アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートの代表例としてはヘキサメチレンジオールジメタアクリレート、ノナメチレンジオールジメタアクリレートなどが挙げられる。当該その他のラジカル重合性単量体を用いる場合に用いる量としては、アリールボレート塩の溶解性が損なわれない範囲であれば他の物性を考慮して適宜決定すればよい。用いるアリールボレート塩の量などにも依存するが、炭素数6〜20のアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートを配合する場合、一般的には、前記一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体100質量部に対して、該ジ(メタ)アクリレートが10〜400質量部である。
本発明の歯科用硬化性組成物は、上記ラジカル重合性単量体を重合、硬化させるための重合開始剤として、アリールボレート塩−固体酸系のものを使用する。該重合開始剤系は硬化時や硬化後の変色などが少なく、また固体酸を用いることにより、前記酸性基を有するラジカル重合性単量体などの液体であるか、あるいはラジカル重合性単量体と相溶する酸を用いた場合と異なり口腔内で使用しても酸味を生じさせることがほとんどなくなる。
本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる上記アリールボレート塩は、4配位のホウ素化合物であり、かつホウ素原子に結合する4つの有機基のうちの少なくとも1つがアリール基である化合物であり、公知のものが何ら制限無く使用できる。代表的なアリールボレート塩を一般式で示すと、下記一般式(3)で表される。
Figure 0004644459
(但し、R、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基であり、R10、R11は水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、Lは金属陽イオン、第3級又は第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオンまたは第4級ホスホニウムイオンである。)
ホウ素−アリール結合を全く有しないボレート化合物は保存安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため好ましくない。ホウ素−アリール結合が多いほど、保存安定性に優れたものとでき、トリアリールボレート塩又はテトラアリールボレート塩が好ましく、テトラアリールボレート塩が最も好ましい。
上記式(3)において、R、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基である。当該アルキル基は特に限定されるものではなく、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましくは炭素数3〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数4〜20の直鎖アルキル基であり、具体的にはn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基等である。また、当該アルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、あるいはフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基等の炭素数1〜5のアルコキシ基、アセチル基等の炭素数2〜5のアシル基等が例示される。また当該置換基の数及び位置も特に限定されない。
アリール基もまた特に限定されるものではなく、公知のアリール基でよいが、好ましくは単環ないし2又は3つの環が縮合した、置換又は非置換のアリール基であり、当該置換基としては上記アルキル基の置換基として例示された基、ならびにメチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が例示される。
当該置換または非置換のアリール基は具体的には、フェニル基、1−又は2−ナフチル基、1−、2−又は9−アンスリル基、1−、2−、3−、4−又は9−フェナンスリル基、p−フルオロフェニル基、p−クロロフェニル基、(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル基、p−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ブチルフェニル基、m−ブチルフェニル基、p−ブチルオキシフェニル基、m−ブチルオキシフェニル基、p−オクチルオキシフェニル基、m−オクチルオキシフェニル基等が例示される。
アルケニル基も特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数4〜20のアルケニル基であり、またその置換基としては前記アルキル基の置換基として例示されたものが挙げられる。
上記一般式(3)中、R10、R11は水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はフェニル基である。
当該置換基を有していても良いアルキル基又はアルコキシ基は特に限定されるものではなく、また直鎖状でも分枝状でも良いが、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基であり、また置換基としては前記R〜Rにおけるアルキル基の置換基として例示したものが挙げられる。当該置換基を有していてもよいアルキル基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−又はi−プロピル基、n−,i−又はt−ブチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル基等が例示され、置換基を有していてもよいアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、1−又は2−プロポキシ基、1−又は2−ブトキシ基、1−、2−又は3−オクチルオキシ基、クロロメトキシ基等が例示される。
また置換基を有していても良いフェニル基の有する置換基も特に限定されず、具体的には前記前記R〜Rにおけるアリール基の置換基として例示したものが挙げられる。
上記一般式(3)中、Lは金属陽イオン、第3級又は第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンである。
当該金属陽イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属陽イオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属陽イオン等が好ましい金属陽イオンとして例示され、第3級又は第4級アンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等が、第4級ピリジニウムイオンとしては、メチルキノリニウムイオン、エチルキノリニウムイオン、ブチルキノリウムイオン等が、第4級ホスホニウムイオンとしては、テトラブチルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン等が例示される。
重合性単量体への溶解性を考慮すると、第3級又は第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンが好ましく、第3級又は第4級アンモニウムイオンが特に好ましい。
好適に使用されるアリールボレート塩を具体的に例示すると、1分子中に3個のアリール基を有するトリアリールボレート塩としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基は上記と同様)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に4個のアリール基を有するテトラアリールボレート塩としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基は上記と同様)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリ(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、ジ(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
上記アリールボレート塩は1種または2種以上を混合して用いても構わない。
本発明の歯科用硬化性組成物におけるアリールアリールボレート塩の配合量は、ラジカル重合性単量体が硬化するのに充分な量であれば特に制限されないが、硬化速度や得られる硬化体の機械的強度等の物性の点から、一般的には全ラジカル重合性単量体の合計100質量部に対してアリールアリールボレート塩が1〜20質量部、特に2〜10質量部となる量比が好適である。
本発明に用いられる酸として固体酸であるスルホン酸基を有する架橋型高分子、または該架橋型高分子で被覆あるいは吸着させた無機粒子が挙げられる
一方、該固体酸は、pKaが2以下の酸性基であるスルホン酸基を有していれば、他の酸性基、即ち、pKaが2よりも大きい酸性基をさらに有していてもよい。
固体酸のpKa値はハメット指示薬(色素)により測定でき、本発明においても、固体酸が有する酸性基のpKaは色素の呈色反応を利用して判定する。具体的には、2−アミノ−5−アゾトルエンのトルエン溶液に評価したい固体酸を浸漬すると、pKaが2以下であれば固体酸が赤色に呈色し、逆にpKaが2より大きい場合には黄色に呈色することから、該固体酸の有する酸性基のpKaが2以下であるか、あるいは2よりも大きいかが判定できる。
また当該固体酸は、本発明の硬化性組成物に配合されるラジカル重合性単量体、及び水のいずれにも溶解しないものであることが望ましい。該固体酸が水やラジカル重合性単量体に溶解する場合には、歯科用硬化性組成物を口腔へ挿入した際に、酸味を感じやすい。原因は必ずしも明らかではないが、固体酸が水に溶解するものを選択した場合には、歯科用硬化性組成物を口腔へ挿入した際、該固体酸が唾液へ溶け出し、口中に酸味が広がるためと推定される。また、固体酸がラジカル重合性単量体に溶解する場合には、固体酸が粒子状に歯科用硬化性組成物中に存在する場合と比べ、該硬化性組成物と舌の味覚受容器官と接触する割合が増大し、味を感じ易くなるものと推定される。
本発明の歯科用硬化性組成物に配合される固体酸としては、pKaが2以下の酸性基であるスルホン酸基を有する架橋型高分子(の粉末)や、このような架橋型高分子で被覆したり、あるいは吸着させたりした無機粒子などが挙げられる。なお、酸性基を有する非架橋型の高分子の多くは水に溶解してしまうため、本発明における固体酸に相当しないのが一般的である。
pKaが2以下の酸性基であるスルホン酸基を有する架橋型高分子としては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−(メタ)アクリル酸アミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のpKaが2以下の酸性基を有する重合性単量体と、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、N,N−メチレンビスアクリルアミド等の多官能性の重合性単量体とを共重合させた架橋型高分子が好適である。


本発明においては、上記のように固体酸は粉末状のものを用いることが好ましい。より好ましくは粒径が0.01〜100μmの粉末であり、さらに好ましくは0.01〜50μmの粉末である。粒径が小さいほど非酸性ラジカル重合性単量体と混合したときのざらつきが少なく、また硬化性に優れたものとなる。なおむろん、粉末であるとは当該固体酸単体の状態での性状であり、例えば重合性単量体と混合した場合には通常はスラリー状やペースト状となる。
上記のような固体酸を得る方法は特に限定されるものではないが、好適には以下の方法で製造できる。即ち、酸性高分子粉末の場合には、一般的な架橋型の強酸性イオン交換樹脂を必要な大きさになるまで粉砕すればよい。入手したイオン交換樹脂が塩型である場合には、粉砕前に、あるいは粉砕後に塩酸等により酸型に変換すればよい。このような強酸性イオン交換樹脂としては、代表的にはスチレンスルホン酸/ジビニルベンゼン共重合体があり、工業用材料として直径300μmから2mm程度の粒子状あるいは厚さ0.1mm〜1mm程度の膜状で入手が可能である。むろん、公知の方法で合成してもなんら問題はなく、またスチレンスルホン酸/ジビニルベンゼン共重合体以外のものでもよい。粉砕方法としては、一般的に使用される粉砕方法であれば特に制限されないが、らい塊機、ボールミル、振動ボールミル、パルペライザ、ACMパルペライザ、ローラミル、ビクトリミル、フェザーミルジェットミル等による機械的粉砕方法が好適に用いられる。また、粉砕は水や有機溶媒を用いた湿式粉砕法と、それらを用いない乾式粉砕法に大別されるが、いずれの方法も好適に使用できる。湿式粉砕を行なった場合には適宜分散媒を乾燥除去した後で本発明の歯科用硬化性組成物に用いれば良い。
本発明における固体酸としては、その酸量が0.005〜10meq/g−固体酸のものを用いることが好ましく、より好ましくは0.1〜5meq/g−固体酸である。
本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる固体酸の量は特に制限されるものではないが、歯科用硬化性組成物を構成する非酸性ラジカル重合性単量体に対し、0.05〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部の範囲で配合しうる。一般的には、固体酸の有するpKaが2以下の酸性基の量が多いほど、配合する固体酸の量は少なくても良い。
本発明の歯科用硬化性組成物は、前述したように刺激や変色などが少ないという優れた特性を有している。このような特性は種々の歯科用の硬化性組成物において有用であるが、特に義歯床裏装用材料として好適である。
本発明の歯科用硬化性組成物は、全成分を混合すると、固体酸の作用によりアリールボレート塩が分解してラジカルを発生し、該ラジカルの作用により重合性単量体が重合を開始して硬化する。したがって、通常は重合が開始しないように成分をいくつかに分けて包装、キット化して保存し、臨床現場において使用時にそれらを混合するのが一般的である。このときの分離保存形態は重合が開始しない形態であれば特に限定されないが、合成樹脂粉末を含む義歯床裏装材料として使用する場合には、各成分の計量のし易さ、取り扱いの容易さの観点から、合成樹脂粉末を主とする粉材と、重合性単量体を主とする液材とに分けて包装し、そのどちらか一方にアリールボレート塩を、他方に固体酸を各々所定の割合で配合すればよい。固体酸とラジカル重合性単量体を組み合わせた場合には、固体酸が経時的に沈降する可能性も考えられるため、粉材に固体酸を分散し、液成分にアリールボレート塩を溶解する組み合わせがより好適に用いられる。
上記のように、本発明の硬化性組成物をキット化する場合には、合成樹脂粉末を使用することができる。該合成樹脂粉末は、本発明のラジカル重合性単量体に速やかに溶解して粘度上昇するものであれば何等制限ないが、一般に化学的安定性、透明性などの点で、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、ポリブチルメタアクリレート、ポリスチレンおよびそれらの共重合体の粉末が好適に使用される。中でも、ポリエチルメタアクリレートは、前記一般式(1)で表されるラジカル重合性単量体により特に溶解し易いので、ポリエチルメタアクリレートまたはその共重合体を用いるのが特に好ましい。
これら合成樹脂粉末を構成する合成樹脂の分子量や粒子径は特に制限されないが、得られる硬化体の機械的強度やラジカル重合性単量体への溶解性を勘案すると、重量平均分子量が5〜100万の範囲であることが好ましく、また、平均粒子径は1〜100μmであることが好ましい。また、合成樹脂粉末を使用する場合には、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、50〜500質量部、特に100〜200質量部の範囲で用いることが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物には、前記必須成分の他にも流動性を改良したり、得られる硬化体の諸物性および硬化性を制御したりする目的で、無機フィラー;エタノール、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の可塑剤;ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤;色素、顔料、香料等を必要に応じて添加することができる。
本発明における歯科用硬化性組成物は、前述したように粉液混和後のペーストを口腔挿入した際、患者が不快に感じる臭気、刺激、味が極めて少なく、短時間のうちに変色が伴うことなく硬化する。また、得られた硬化体の表面は滑沢であり、適合性や耐汚染性が重視される義歯床裏装用材料として優れた特性を有する。さらに、得られた硬化体は経時的に変色することも少なく、長期に亘って裏装義歯を使用することを可能とする。このような特性は種々の歯科用の硬化性組成物においても義歯床裏装材に限らず有用であり、歯科用接着材、歯科用複合充填修復材等にも好適に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(I)に、固体酸の酸性度(PKa値)の評価方法ならびに固体酸の製造方法を(II)、(III)に、ラジカル重合性単量体へのアリールボレート塩の溶解性試験の方法を(IV)に、組成物あるいは組成物硬化体の評価方法を(V)〜(VIII)に示した。
(I)略称
[ラジカル重合性単量体]
・一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体
CHD;エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジメタアクリレート(下式5;m+n=4,新中村化学製)
Figure 0004644459
BPE−1;エトキシ化ビスフェノールAジメタアクリレート
(下記式(6)においてm+n=10,新中村化学製)
Figure 0004644459
・一般式(2)で示されるラジカル重合性単量体
3G;トリエチレングリコールジメタアクリレート(共栄社化学製)
14G;テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学製)
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(共栄社化学製)
HE;2−エトキシエチルメタアクリレート(東京化成製)
・酸性基を有するラジカル重合性単量体PM;2−メタアクロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタアクロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
・その他のラジカル重合性単量体
BPE−2;エトキシ化ビスフェノールAジメタアクリレート
(前記式(6)においてm+n=2.6,共栄社化学製)
HD;ヘキサメチレンジオールジメタアクリレート(共栄社化学製)
ND;ノナメチレンジオールジメタアクリレート(共栄社化学製)
[アリールボレート塩]
PhB;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩(同人化学社製)
[その他の重合開始剤]
BPO;過酸化ベンゾイル(川口薬品製)
PEAT;ジエチル−p−トルイジン(東京化成製)
[樹脂化合物]
EMA;ポリエチルメタクリレート(積水化成品工業製:EMA35)
(II)固体酸のpKa評価法
固体酸のpKa評価はハメット試薬の呈色により行なった。ハメット試薬は有機色素群であり、各々の試薬溶液へ固体酸を入れると該固体酸のpKa値に応じた発色をする。各ハメット試薬の変色するpKa値は既にわかっているので、各試薬溶液へ固体酸を入れて発色を観察することにより、その固体酸のpKa値の範囲を知ることができる。
ここでは、pKa0.8〜4.8で変色する8種類のハメット試薬のトルエン溶液(0.2wt%)を用いて評価した。予め、評価を行なう固体酸0.1gを5mlのトルエンに分散した分散液を8種類用意した。そこへ上述の各ハメット試薬をスポイトで各々一滴ずつ垂らし、固体酸が沈降するのを待って固体部分の色調を調べた。用いたハメット試薬は、メチルレッド(MR、pKa4.8;和光純薬)、ブロモフェノールブルー(BPB、pKa4.1;和光純薬)、ベンゼン−1−ナフチルアミン(BNA、pKa4.0;和光純薬)、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(MMAB、pKa3.3;和光純薬)、2−アミノ−5−アゾトルエン(AAT、pKa2.0;和光純薬)、チモールブルー(TB、pKa1.7;和光純薬)、ベンゼンアゾジフェニルアミン(BAP、pKa1.5;和光純薬)、クリスタルバイオレット(CV、pKa0.8;和光純薬)である。
(III)固体酸の製造法
製造例1(SA−1の製造)
強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製:ダイヤイオンPK228)をカラムに詰め、1モル/リッターの塩酸水溶液で洗浄して該樹脂中に含まれる金属イオンを除去した。続いて蒸留水により洗浄して余剰の塩酸を除去した。洗浄された樹脂は、減圧下、60℃で恒量となるまで乾燥して粉砕に用いた。樹脂の粉砕は、まず磁性乳鉢にて1次粉砕した後、粉砕によって得られる粉末の平均粒径が10μmになるまでメノウ乳鉢を用いてさらに粉砕した(以下、この粉末をSA−1)。この粉末のpKaを評価したところ、pKaは0.8よりも小さかった。またこの固体酸SA−1の酸当量は2.4meq/gであった。
(IV)アリールボレート塩のラジカル重合性単量体への溶解試験
ラジカル重合性単量体100gに対してPhB3.0gの割合で混合し、室温にて10分間磁気攪拌子を用いて攪拌した。攪拌停止後、液の性状を目視により判定した。液が透明で、沈殿もない場合を○、液が白濁あるいは沈殿が生じた場合を×とした。
(V)官能試験
作製した粉および液を粉液の質量比が2:1となるよう混和してペーストを作製し、該ペーストを口腔内で5分間保持することにより評価を行なった。評価は、○が問題なく口腔内で保持できる。△が保持はできるが不快感を強く感じる。×が口腔内で保持していられないほど問題がある。の3段階で評価した。
(VI)硬化性の評価
組成物の硬化性は、粉4gに対し、液2gの割合で混合したペーストを20×20×2mmの窪みのあるポリテトラフルオロエチレン製モールドへ流し込み、空気に接した面をポリエチレンシートで圧接して37℃で1時間硬化させた。得られた硬化体をモールドから取り出し、37℃の蒸留水中で24時間吸水させた。得られた硬化体のうち、硬度が計測できるほどの硬さに硬化したサンプルに関しては、松沢精機製微小硬度計で100gf、20秒荷重印加の条件でヌープ硬度を測定した。硬度が測定できるほど硬化しなかったサンプルあるいは全く硬化しなかったものに関しては×印で表記した。
(VII)変色試験
粉液を混ぜた直後のペーストの色調から、硬化後の硬化体の色調変化を5段階のスコアで評価した。また、該硬化体を80℃水中に30日間保存し、保存前後の硬化体の変色度合いも同様に評価した。
スコア4 褐色に変色
スコア3 黄色に変色
スコア2 わずかに黄色に変色
スコア1 白濁するのみ
スコア0 変化なし
(VIII)硬化体表面の面荒れ評価
硬化体表面の面荒れは、粉4gに対し、液2gの割合で混合したペーストを20×20×2mmの窪みのあるポリテトラフルオロエチレン製モールドへ流し込み、片面を開放したまま37℃の温水中で1時間硬化させた。得られた硬化体の水に接した面の目視および指によるざらつき評価を行なった。表面が滑沢である場合には○、表面が著しくざらついている場合には×で評価した。
実施例1
10gのCHDに対して0.3gの割合でPhBを溶解し、液成分とした。PhBは完全に溶解して透明な溶液となった。200ml容量のチャック付きポリ袋に20gのEMAおよび0.4gのSA−1を入れ、乾燥空気で袋を膨らませた状態でチャックを閉じ、袋を10分間振ることによりSA−1をEMAに分散させた。
上記方法により作製した液および粉を1:2の質量比で混合してペースト化し、ペーストが硬化する前に臭い、味、刺激の評価を行なった。その結果、ペーストは無味無臭で、口腔内での刺激も感じられなかった。
上記官能試験と同様に調製したペーストを評価方法(VI)に従って硬化させた。硬化前のペーストの色調と得られた硬化体の色調を比較した結果、色調の変化は認められなかった。本硬化体のヌープ硬度は7.2であり、義歯床用裏装材として使用可能な硬度を有していることがわかった。また、評価方法(VIII)に従って、硬化体の面荒れ試験を行なった結果、表面性状は滑沢で○の評価であった。さらに、本硬化体サンプルを半分に切り取り、切片の1つを80℃の温水中で3週間保存し、25℃で保存したもう一つの切片と色調を比較した結果、80℃で保存した硬化体の白濁が若干認められたものの、黄変等の著しい変色は認められなかった。
実施例2〜7
表1に示した組成で液および粉を作製した以外は実施例1と同様な評価を行なった。その結果、実施例1と同様な良好な結果が得られた。
比較例1、2
PhBおよびSA−1からなる重合開始剤成分の代わりにBPOおよびPEATを用いた以外は実施例1と同様な評価を行なった。その結果、液性状、官能試験および硬化体硬度は良好であったが、硬化時に黄変が起こり、さらに80℃保存した硬化体は褐色に変化した。
比較例3
ラジカル重合性単量体としてPMを用い、PhBを粉に配合した以外は実施例1と同様の評価を行なった。その結果、粉および液混合後のペーストが強い酸味を呈しており口腔保持ができなかった。また、硬化体表面の面荒れも著しかった。
比較例4〜6
CHDの代わりに表2に示したラジカル重合性単量体を使用した以外は、実施例1と同様な方法で評価を行なった。この場合、液は濁って懸濁したままであり、PhBの殆どが溶解していなかった。液をよく振り、懸濁液を秤量して、実施例1と同様な評価を行なった。その結果、重合による硬化は起こらず、粉が液に部分溶解した餅状のままであった。
比較例7、8
CHDの代わりにHE又はHEとHDの混合物を用いた以外は実施例1と同様の評価を行なった。実施例1と同様な方法で評価を行なった。この場合、液は濁って懸濁したままであり、PhBの殆どが溶解していなかった。液をよく振り、懸濁液を秤量して、実施例1と同様な評価を行なった。その結果、重合による硬化は起こらず、粉が液に部分溶解した餅状のままであった。
比較例9、10
CHDやBPE−1の代わりに3Gまたは3GとHDの混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の評価を行なった。その結果、硬化体の硬度や変色に関しては良好な結果が得られたが、ペーストの味が著しく苦く、硬化まで口腔挿入していられなかった。
比較例11
CHDやBPE−1の代わりに14Gを用いたこと以外は実施例1と同様の評価を行なった。その結果、ペーストの味が苦く、硬化まで口腔挿入していられなかった。硬化によって硬化体は得られたものの、その硬度は極めて低く、硬度測定ができなかった。さらに、硬化体表面の面荒れが著しいことがわかった。
比較例12
CHDの代わりに14GとHDの混合液を用いた以外は、実施例1と同様の評価を行なった。その結果、比較例12の組成と比較して、硬化体硬度は改善されたものの、苦味や硬化体表面の面荒れは改善されなかった。
比較例13、14
CHDの代わりにHEMAまたはHEMAとHDの混合液を用いたこと以外は実施例1と同様の評価を行なった。その結果、ペーストの臭い、味、刺激、硬化体硬度および硬化体の変色に関しては良好であったが、硬化体表面が著しく面荒れした。
比較例15〜17
CHD50質量部と、3G、14G又はHEMA50質量部の混合液を用いたこと以外は実施例1と同様の評価を行なった。その結果、いずれの場合にも3G、14G又はHEMAを単独で用いた場合と同様の問題を生じた。
Figure 0004644459
Figure 0004644459
以上のように、式(1)で示されるようなラジカル重合性単量体を液成分として用い、且つ式(2)で示されるようなラジカル重合性単量体を実質的に含まない組成物を用いた場合には、ペーストの臭気、味、刺激が極めて低く、患者への負担が低減された特性が得られるばかりでなく、アリールボレート塩および固体酸からなる重合開始剤系を用いることができるようになり、硬化前後や硬化体保存時における変色が著しく低く、さらには硬化体表面が滑沢となるという義歯床裏装用材料として理想的な組成物が得られることがわかった。

Claims (1)

  1. A)下記一般式(1)
    Figure 0004644459

    (式中、RおよびRは各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Zは炭素数6〜20の2価の炭化水素基を示し、m及びnは各々独立に1〜14の整数であり、かつm+nは4〜15である)で示されるラジカル重合性単量体、(B)アリールボレート塩及び(C)固体酸としてスルホン酸基を有する架橋型高分子、または該架橋型高分子で被覆あるいは吸着させた無機粒子を含み
    かつ、酸性基を有するラジカル重合性単量体及び下記一般式(2)
    Figure 0004644459
    (式中、R〜Rは各々独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜8の1価の有機基を示し、xは1〜20の整数を示す。)で示されるラジカル重合性単量体のいずれも配合されていないことを特徴とする歯科用硬化性組成物。
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