JP4642457B2 - 積層フロック加工方法及び積層フロック加工物 - Google Patents

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本発明は、成形体、布帛、フィルムなどを含めた各種成形物の表面にフロック(毛羽状の短繊維、パイルともいう)を複数層に重ねて植毛する積層フロック加工方法及び積層フロック加工物に関する。
フロック加工方法は、従来から成形物の表面をビロード状、スエード調に形成するため、成形物表面にフロックを植毛する手段として広く利用されている。その多くはベースとなる基材の表面に接着剤を塗布しその表面に0.5〜5mmの長さのフロックの一端をを差し込み垂直に固着させるものであって、自動車の内装、椅子張り、ケース類・玩具、衣料用布帛などの表面加工に用いられていた。接着剤表面にフロックを万遍なく差し込み固着させる手段には、主として高電圧の静電気を利用する方法が用いられているが、このほかにも散布、吹付けや振動などを利用する方法が用いられている。
特開2000−025135号公報
従来の静電気植毛やスプレーガンによるフロック加工方法は、実施上の制約から長いフロックを植毛できなかった。すなわち、フロックが長いとフロック同士が交絡し均一な分散状態を得られない、植毛されなかった余分なフロックのリサイクル率が低くコスト高になる等の理由により、実際に使用できるフロックの長さは比較的短いものに限られていた。例えば、分散性の点から繊度3.3dtexのナイロン6短繊維からなるフロックの実用的な加工範囲は繊維長1.5mm程度までである。また、繊度が1.1dtexのナイロン6からなるフロックを使用する場合には、繊維長が1mmを超えるようになるとフロックの利用率が低下しコストアップが問題になる。繊度の大きなフロックを用いればナップ(表面毛羽)長さの大きなフロック加工品に加工することができるが、柔軟性の乏しい剛直なものになる。これらの制約のために、従来のフロック加工方法による植毛表面は、変化に乏しい単調なものになり、深みのある、あるいは凹凸等のある変化に富んだ表面に加工することができないという欠点があった。本発明は、前記の欠点の解決を課題に、研究・試行錯誤を繰り返して完成されたものである。
本発明に係るフロック加工方法は、フロックを3層、4層と多層に重ねて植毛することにより前記の課題を解決するものである。すなわち、接着剤を塗布した基材表面に静電気、散布、吹付け、振動等を用いてフロックを植毛し接着剤を硬化させて形成した1層目の植毛面上に、2層目の植毛層として、接着剤を塗布しフロックを植毛し、接着剤が半ば硬化した状態で植毛面をブラッシングして2層目に植毛された直立状態のフロックを傾け・寝かせると共に、必要により一部のフロックを掻き取って接着剤を硬化させ、あらたな植毛層を積層形成する。本発明においては、さらに前記の2層構成の積層フロック加工品の植毛面に、3層目の植毛層として、接着剤を塗布しフロックを植毛し、接着剤が半ば硬化した状態で植毛面をブラッシングして3層目に植毛された直立状態のフロックを傾け・寝かせると共に、必要により一部のフロックを掻き取って接着剤を硬化させ、あらたな植毛層を積層形成する。以下同様にして任意の複数層から構成された積層フロック加工物を加工することができる。
本発明に係る積層フロック加工方法を利用することにより、フロック加工物は、1層目のフロックの多くが直立した状態で、2層目以降のフロックが、植毛され、接着剤が半ば硬化した状態で刷毛等を用いブラッシング若しくは形押しにより傾けられ寝かされ、あるいは一部が掻き取られることにより、植毛面に凹凸を生じバルキィになって変化に富んだものになる。さらに、各層に植毛するフロックの種類を任意に替えることができるので、ブラッシングによって各層のフロックを表面に出現させ、フロック加工物に変化に富んだ独特の色相や風合い、感触等を付与できる効果を奏する。すなわち、層毎のフロックの素材や特性、色相を適宜に組み合わせて所望の感触、風合いを容易に表現できるようになり、とくに3層、4層と層の数を重ねることによって植毛面を深みのあるものにすることができる。
本発明を具体的な事例を挙げつつ説明する。まず、本発明積層フロック加工物に使用する繊維の種類は、各層において特段の制限はなく、木綿、絹、羊毛などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン等、従来から植毛に利用されているフロックを、目的に応じて適宜に選択し、組み合わせて用いることができる。各層毎に繊度、繊維長、染色などが異なるフロックを用いてもよく、また、種類の異なるフロックを混合して用いることもできる。一方で本発明においては、各層で使用するフロックのいずれもが最終的に本発明の積層フロック加工物の色相、風合などの決め手になると共に、多様な積層フロック加工物を可能にするので、その選択は極めて重要である。
本発明においては、一般に硬いフロックを基材面に近い下層に、柔らかなフロックを上層、すなわち表面層側に配することが多い。たとえば、各層に同一素材のフロックを植毛する場合、繊度の大きなあるいは繊維長の大きなフロックを下層に配して、上層になるに従って繊度の小さな、あるいは繊維長の短いフロックからなる植毛層を重ねる。従来から試みられている繊維長の長いフロックを用い単一層に植毛するのに較べて、ラフな感じの外観に対してソフトな感触をもった、バルキーな風合いのフロック加工を施すことができる。羊毛と絹とを組み合わせて用いる場合には、羊毛フロックを下層に絹フロックを上層に重ねるとよい。
本発明に使用する接着剤は、通常のフロック加工用の接着剤であればよく、特別なものを要しない。接着剤の塗布にも特別な手段を必要とせず公知の手段、例えばスプレーガンや捺染スクリーンを用いて塗布する。各層に使用する接着剤は同じものでよいが、好ましくは1層目を形成する植毛層に多少堅くても接着力の強いものを用いる。2層目以降の植毛層には、風合いとの兼ね合いで少々柔軟な接着剤の利用が好ましく、かつ使用する接着剤の量は可能な限り少量に留めることが望ましい。塗布量は、少なすぎるとフロックが剥落しやすく、多すぎると植毛面が剛直になるので、フロックの選定と共に経験と試作とにより慎重に決める必要がある。一般に塗布にはスプレーガンを用いる。植毛には静電気法、散布法、吹付法や振動法を随時、選択して用いればよい。
本発明に係る積層フロック加工方法について、図1を参照し具体的に説明する。図1は本発明の加工手順を判りやすく模式的に例示したものであり、その記載によって本発明を限定するものではない。まず、フロック加工を施す基材1の表面に適量の接着剤2を塗布し、フロック3を、例えば静電気により飛翔させ一端を接着剤2中に差し込んで直立させ、接着剤2を硬化させて、図1(a)に例示されるようなフロックを直立させた、従来の一般的な植毛加工の表面状態にする。
ついで2層目のフロックを植毛するため、図1(b)に例示したように1層目の植毛面に2層目の接着剤4を塗布する。通常、塗布量は1層目の場合に較べて少量でよい。直立状態にある1層目のフロックの一部が2層目に塗布した接着剤4により傾くが、大部分は直立状態を維持できる程度に塗布することが望ましい。そして2層目の接着剤層に2層目のフロック5を植毛する。植毛手段にとくに制限はなく、スプレー法など実施が容易で有利な手段を適宜に選択すればよい。フロック5を植毛した後、接着剤4が半ば硬化した半硬化の状態、一般的には接着剤4が完全硬化するのに要する時間の数〜数十分の1の時間が経過した時に、植毛表面をブラッシングし、あるいは形押しして接着剤4が完全硬化する前にフロック5を傾斜させ寝かせ、必要によりフロック5の一部を掻き取る。フロックの一部を掻き取ることによって植毛面をバルキーにすることができる。
本発明積層フロック加工方法においては、前記の接着剤が半ば硬化した状態でのブラッシングあるいは形押しする操作が重要である。ブラッシングのタイミング、強さなどの具体的な操作条件は、所望の風合い、選択した接着剤の硬化特性、塗膜の厚さ、フロックの剛性などによって決まるものであるが、現実には経験と試作とによって判断することになる。そして接着剤4を硬化させ、図1上から4番目に例示されるような2層構成の積層フロック加工物に加工する。
さらに前記2層構成の積層フロック加工物の植毛面に3層目の接着剤6を塗布し(図1(c)に例示)、フロック7を植毛し、3層目の接着剤6が半ば硬化した状態の時に、植毛面をブラッシングし、あるいは形押しして接着剤6が完全硬化する前にフロック7を傾斜させ寝かせ、必要によってはフロック7の一部を掻き取った後、接着剤4を硬化させて、図1(d)に示されるような本発明3層構成の積層フロック加工物に加工する。同様にして4層目を、以下同様にして所要数のフロック層に積層することができる。
本発明に係る積層フロック加工物の外観、感触などの特長を具現するには、とくに3,4層構成の積層フロック加工物が好適である。本発明においては、容易に部分的に異なる構成のフロックを配することも容易である。目的によっては、任意の層においてブラッシングに替え植毛面を形押ししてもよく、両者を併用することもできる。また、植毛面の一部をマスキングしてブラッシングし、あるいは部分的に形押しすることによって植毛面に立体的な模様を付加することもできる。
スプレーガンを用い、ポリプロピレン樹脂製自動車用大型内装部品の表面にプライマー(プライマーKBK65K2−K:日本NSC(株)製)を厚さ約10μmに塗布してプライマー処理を施した。その上に、従来の植毛加工法に従いスプレーガンを用いてアクリル共重合樹脂接着剤((ヨドゾールAA76:日本NSC(株)製)を厚さ60〜80μmを塗布した。さらに、ハンドタイプの植毛機を用い、濃緑色に染色した繊維長0.8mm、繊度1.7dtexのナイロン66とこれと同色の繊維長1.0mm、繊度1.7dtexのナイロン66とを1:0.5の比率で混合したフロックを植毛し、80℃の雰囲気下30分間、加熱・乾燥して1層目の植毛を行った。
つぎにアクリル共重合エマルジョン(テイサンレジンA3611:帝国化学産業(株)製)を厚さ20〜40μmに塗布した。そのあとで、黄緑色に染色した繊維長0.5mm、繊度0.9dtexのナイロン66からなるフロックをハンドタイプの植毛器を用いて2層目の植毛を行い、80℃の雰囲気下3分間、加熱・乾燥した後の、半ば硬化した状態の植毛表面を刷毛でブラッシングして植毛を傾け寝かした後、80℃の雰囲気下30分間加熱・乾燥して接着剤を硬化させて2層目のフロック加工を行った。さらに2層目のフロック加工面に、3層目の接着剤として2層目に用いたのと同じアクリル共重合エマルジョンを厚さ10〜20μmにスプレー塗布した後、黄緑色に染色した繊維長0.5mm、繊度3.3dtexのレーヨンからなるフロックを前記と同じ植毛機を用い3層目の植毛を行った。そして、80℃の雰囲気下3分間、加熱・乾燥して接着剤を半ば硬化させ、植毛表面を刷毛でブラッシングして植毛を傾け寝かし、フロックの一部を掻き取った後、80℃の雰囲気下30分間加熱・乾燥して接着剤を硬化して、3層構成の多層フロック加工部品に仕上げた。 その結果、繊度の大きなナイロン66層と小さいナイロン66層にレーヨン層を積層することによる、独特の表面効果のあるフロック部品に加工することができた。
本発明は、従来のフロック加工品と同様の産業分野に幅広く利用できるのは当然であるが、従来品に比較してフロック加工に立体的な要素が付加され、素材の多様な組合せが可能になって、所望の外観、色相、感触、風合いを現出し易いので、とくに高級品向けの利用可能性が高いものと期待される。
本発明の加工手順を判りやすく模式的に例示した図面
符号の説明
1: 基材 2: 1層目に塗布された接着剤
3: 1層目に植毛されたフロック 4: 2層目に塗布された接着剤
5: 2層目に植毛されたフロック 6: 3層目に塗布された接着剤
7: 3層目に植毛されたフロック

Claims (7)

  1. 接着剤を塗布した基材表面に静電気、散布、吹付け、振動等を用いてフロックを植毛し接着剤を硬化させて形成した1層目の植毛面上に、 2層目の植毛層として、接着剤を塗布しフロックを植毛し接着剤が半ば硬化した状態で植毛面をブラッシングして2層目に植毛された直立状態のフロックを傾け・寝かせて接着剤を硬化させ、あらたな植毛層を積層形成した積層フロック加工品の植毛面に、 3層目の植毛層として、接着剤を塗布しフロックを植毛し接着剤が半ば硬化した状態で植毛面をブラッシングして3層目に植毛された直立状態のフロックを傾け・寝かせて接着剤を硬化させて、3層目の植毛層を積層形成する、ことを特徴とする積層フロック加工方法。
  2. 請求項1に記載の積層フロック加工方法を繰り返して所要数の植毛層を積層形成する、ことを特徴とする積層フロック加工方法。
  3. ブラッシングにより直立状態のフロックを傾け・寝かせると共にフロックの一部を掻き取った後、接着剤を硬化させる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フロック加工方法。
  4. 1層目に使用する接着剤の塗布厚さよりも2層目以降の各層に使用する接着剤の塗布厚さを小さくする、ことを特徴とする請求項1、2又は3のいずれかに記載の積層フロック加工方法。
  5. 1層目に使用するフロックの繊維長よりも2層目以降に使用するフロックの繊維長を短くする、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層フロック加工方法。
  6. 2層目以降を形成する際、任意の層において、ブッラシングに替え接着剤が半ば硬化した状態で植毛面を形押しして直立状態のフロックを傾け・寝かせる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層フロック加工方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の積層フロック加工方法を用いて表面加工された、ことを特徴とする積層フロック加工物。
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