JP4639325B2 - 高強度多孔質アパタイトセラミックス及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、多孔質アパタイトセラミックスの高強度化技術に関するものであり、更に詳しくは、高気孔率で高強度の多孔質アパタイトセラミックスを製造することを可能とする高強度化された多孔質アパタイトの調製方法に関するものである。
本発明は、例えば、骨充填材、薬物担体等に広く使われている生体適合性アパタイトセラミックスの製造技術及びその用途の技術分野において、従来、骨充填材用多孔質アパタイトセラミックスとして実用化されているものは、高気孔率(約60%)であるが、曲げ強度が十分ではない(約8MPa)ことを踏まえ、高気孔率で、しかも高強度を有し、しかも早期に骨と同化する特性を有する、高強度化された多孔質アパタイセラミックスを製造することを可能とする新しい多孔質アパタイセラミックスの高強度化技術を提供するものとして有用である。
本発明による高強度多孔質アパタイトセラミックスは、早期に骨と同化する骨充填材、薬物担体等に好適に利用し得る新素材を提供し、アパタイトセラミックスの利用を大きく拡大する可能性を有するものである。
リン酸カルシウム化合物であるアパタイトは、生体適合性、生体活性に優れるとされ、例えば、骨充填材、治療用薬物担体等に広く使われている。従来、これらの分野では、骨欠損部等に埋入された際、早い骨伝導、骨同化を図るため、骨細胞が侵入する200μm程度以上の気孔を有し、気孔率が60%程度の多孔質アパタイトセラミックスが使用されている。しかしながら、多孔質アパタイトセラミックスの気孔径、気孔率が大きくなると、緻密質アパタイトセラミックスと比べ、幾何級数的にその強度は低下する。緻密質アパタイトセラミックスの曲げ強度は100MPaを越えるが、骨充填材用の多孔質アパタイトセラミックスとして実用化されているものは、気孔率60%で十分ではなく、多孔質アパタイトセラミックスの高強度化が求められていた。
多孔質アパタイトセラミックスを得る方法としては、1)珊瑚をリン酸水溶液中で水熱処理することで珊瑚の骨格を活用した多孔質セラミックスを作製する方法、2)アパタイト粉体を分散した水溶液(スラリー)に発泡剤を加え、吸水性の鋳型に入れ成形する間に、発泡させ、得られた多孔質アパタイト成形体を焼成する方法、3)発泡ポリマーにアパタイト粉体を分散した水溶液(スラリー)を充填し、加熱して発泡ポリマーを燃焼除去する方法、4)可燃性の有機物をアパタイト成形体に分散し、焼成して有機物を除去し大気孔を作る方法、5)アパタイトの原料を含むモノマーに重合開始剤を加え、粘性の高い成形体とし、ガスなどを導入してバブリングさせて気孔を導入し、焼成する方法、などの多くの方法が報告されている。
また、多孔質アパタイトセラミックスに、例えば、200μm程度の大きな気孔を導入するには、a)珊瑚の骨格や発泡ポリマーなどの大気孔を有する鋳型を活用する方法、b)可燃性の有機物を燃焼除去する方法、c)焼成前に大気孔を導入しておく方法、などが好適に利用されている。そして、可燃性の有機物や発泡ポリマーを利用する方法では、アパタイトの粉末を水系溶液に分散したスラリーが用いられる。一般に、これらの方法では、原料粉末の平均粒径が小さいものを用いることで、粒径が小さい焼結体を得ることができる、とされている。
スラリーの調製においては、粉体の分散性を保持しつつ、固形(粉体)分の割合を高める努力がなされる。これは、固形分の割合が高いほど、成形体の相対密度が高く、焼成することで高強度の緻密体が得られるためである。一方、スラリーに含まれる粉体の量が多くなると、粉体の分散性が低下し、スラリーの粘性が高く、スラリーの流動性が損なわれ、結果として、成形体の均一性が低下し、強度低下につながる、という問題が生じる。また、分散する粉体の平均粒径が小さく、比表面積が大きいと、スラリーの粘性は高くなり、スラリーの固形分の割合を高くすることは困難になる(非特許文献1参照)、という問題がある。例えば、数μm以上の平均粒径を有する粉体では、スラリーの固形分として67wt%程度まで高めることができる(非特許文献2参照)が、数μm程度の平均粒径の粉体では50wt%程度である(非特許文献3参照)。
F.Lelievre et al.,Sci, Mat.Med.,7,89(1996) R.R.Rao et al.,J.Am.Ceram.Soc.,84,1710(2002) M.Toriyama et al.,J.Mater.Sci.,30 ,3216(1995)
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来製品と同程度の高気孔率を有し、従来製品よりもはるかに高い強度を有し、しかも早期に骨と同化する特性を有する、高強度化された多孔質アパタイトセラミックスを製造することを可能とする新しい多孔質アパタイトセラミックスの製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、アパタイトの原料粉体として、平均粒径が1μm以下であって、14m/g以上の比表面積を有する特定の粉体を用いることにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
本発明は、多孔質アパタイトセラミックスの高強度化を実現する、高気孔率で、高強度を有する多孔質アパタイトセラミックスの新規な製造方法及び該方法により得られる高強度化多孔質アパタイトセラミックスを提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)可燃性の鋳型に、アパタイトの原料粉体を含むスラリーを充填して、焼成することにより多孔質体を製造する方法において、
1)アパタイトの原料粉体として、平均粒径が大きくても1μmであり、14m/g又はそれより大きくても38m /gを超えない比表面積を有する微細化されたアパタイト粉体を用いること、
2)アパタイトの原料粉体の、リン酸に対するカルシウムのモル比の値が、1.2〜2.0であること、
3)アパタイトの原料粉末を含むスラリーの固形分が、40〜70重量%である、特定の固形成分の割合のスラリーを用いること、
4)スラリーを減圧下で充填すること、
5)それにより、気孔率が少なくても50%で、曲げ強度が少なくても12MPaである、高気孔率で、高い曲げ強度を有する多孔質アパタイトセラミックスを製造すること、
を特徴とする高強度多孔質アパタイトセラミックスの製造方法。
(2)900〜1300℃で焼成する、前記(1)に記載の製造方法。
(3)可燃性の鋳型が、発泡ポリマー材料からなる鋳型である、前記(1)に記載の製造方法。
(4)アパタイトの原料粉末を含むスラリーが、分散剤を含む、前記(1)に記載の製造方法。
(5)アパタイトの原料粉末として、焼成することでアパタイトに変わり、リン酸に対するカルシウムのモル比の値が1.2〜2.0である原料粉末を用いる、前記(1)に記載の製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により、平均粒径が大きくても1μmであり、14m/g又はそれより大きくても38m /gを超えない比表面積を有する微細化されたアパタイト粉体を焼成することにより製造された高強度多孔質アパタイトセラミックスであって、気孔率が少なくとも58%の高気孔率で、曲げ強度が少なくとも12MPaの高曲げ強度で、高い気孔率と高い曲げ強度を共に有することを特徴とする高強度多孔質アパタイトセラミックス。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、平均粒径が1μm以下で、比表面積が14m/g以上のアパタイト粉体を用い、固形成分の割合が比較的低いスラリーを用いて、発泡ポリマーなどの可燃性の鋳型に充填し、焼成することで多孔質アパタイトセラミックスの高強度化を図ることを特徴とするものである。本発明では、アパタイトの原料粉末としては、アパタイトのほか、組み合わせて焼成することでアパタイトに変わる、リン酸とカルシウムを含むものであれば特に限定されるものではないが、リン酸に対するカルシウムのモル比の値(カルシウム/リン酸)が1.2〜2であり、大きな比表面積を有するものが用いられる。
アパタイトあるいはアパタイトの原料となる粉体を水に分散することでスラリーを得る。本発明では、アパタイトあるいはアパタイトの原料となる粉体は、リン酸に対するカルシウムのモル比の値が1.2〜2であり、平均粒径が1μm以下、比表面積が14m/g以上、即ち、平均粒径が1μmより小さく、比表面積が14m/gより大きい、微細化されたアパタイト粉体であることが重要である。平均粒径が1μm以下、比表面積が14m/g以上に微細化されたアパタイト原料粉体の調製方法及び手段は、任意の方法及び手段を使用することが可能であり、それらは、特に制限されない。スラリーの固形分の割合としては、スラリーが粘性流動をすれば特に限定されるものではなく、また、スラリーに適当な分散剤を加えて粘性を低くして用いることもできるが、40〜70重量%のものが好適に使用し得る。
スラリーは、発泡ポリマー等の可燃性の鋳型に充填される。この場合、ポリマー中に空気が取り残されないように、スラリーを減圧下で充填するが、スラリーの充填は、10〜70℃の範囲内、特に室温程度でも行うことができ、その時間は、特に限定されるものではない。発泡ポリマー等の可燃性の鋳型の材料としては、好適には、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン等が用いられるが、これらに制限されない。本発明では、アパタイトのスラリーを充填したポリマーを加熱し、ポリマーを燃焼除去するが、焼成温度は、アパタイトの焼成に必要な900〜1300℃で行うことができる。アパタイトは、900℃では焼成収縮が進み、1100℃ではほぼ完了し、また、1200℃を越えると一部分解を始めるため、好適には1100〜1200℃で焼成を行う。本発明の方法により、気孔率が50%以上で、曲げ強度が12MPa以上の、高気孔率で、高い曲げ強度を有し、しかも早期に骨と同化する性質を有する高強度化された多孔質アパタイトセラミックスが得られる。
本発明により、1)骨伝導性、骨吸収性に優れる多孔質アパタイトを調製することができる、2)平均粒径が1μm以下、比表面積14m/g以上の微細化されたアパタイト粉体を用いるので、平均粒径が数倍のアパタイト粉体を用いた場合と比べ、スラリーの固形分の割合は小さく、粘性も高いが、このスラリーを発泡ポリマーに充填し、焼成することで、強度が約2倍の顕著な高強度化を図ることができる、3)従来の装置で、原料粉体を微細な粉体に変えるだけで、大きな強度向上効果が得られるため、製品の製造においてランニングコストダウンを果たすことができる、4)本発明の方法は、特に、少量多品種が特長である生体関連材料等の製造に適している、5)本発明による高強度多孔質アパタイトセラミックスは、例えば、早期に骨と同化する骨充填材、薬物担体等に好適に利用し得る、という格別の効果が奏される。
次に、本発明を実施例と比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
水酸アパタイト粉体(平均粒径0.38μm、比表面積38m/g)を固形分48重量%となるように、水に分散して得られたスラリーを、発泡ウレタンに充填し、1200℃で3時間焼成した。焼成して得られた多孔体は、気孔率60.5%、曲げ強度17.6(6)MPaであり、従来の多孔質アパタイトの2倍の値を示した。
比較例
水酸アパタイト粉体(平均粒径3.4μm、比表面積10m/g)を固形分60重量%となるように、水に分散して得られたスラリーを、発泡ウレタンに充填し、1200℃で3時間焼成した。焼成して得られた多孔体は、気孔率56%、曲げ強度9MPaであった。
水酸アパタイト粉体(平均粒径0.38μm、比表面積38m2/g)を固形分48重量%となるように、水に分散して得られたスラリーを、発泡ウレタンに充填し、1300℃で3時間焼成した。焼成して得られた多孔体は、曲げ強度16.8(6)MPaで、従来の多孔質アパタイトの2倍の値を示したが、気孔率は43%であった。この場合、1100℃で3時間焼成すると、気孔率は58%であったが、曲げ強度は12MPa程度であった。
以上詳述したように、本発明は、多孔質アパタイトセラミックスの高強度化技術に係るものであり、本発明により、高気孔率で、しかも高い曲げ強度を有する高強度化された多孔質アパタイトセラミックスを製造し、提供することができる。本発明による高強度多孔質アパタイトセラミックスは、早期に骨と同化する骨充填材、薬物担体等に好適に利用し得る。また、本発明によれば、従来の装置で、原料粉体を微細な粉体に変えるだけで、所定の効果が得られるため、製品の製造において、ランニングコストダウンを果たすことができる。本発明の方法は、特に、少量多品種が特長である生体関連材料等の製造に適している。本発明により、骨誘導、骨同化に優れた新しいタイプの高強度多孔質アパタイトセラミックスの提供が可能となり、例えば、骨再生医療の技術分野で待望されていた新素材の提供が可能となる。

Claims (6)

  1. 可燃性の鋳型に、アパタイトの原料粉体を含むスラリーを充填して、焼成することにより多孔質体を製造する方法において、
    1)アパタイトの原料粉体として、平均粒径が大きくても1μmであり、14m/g又はそれより大きくても38m /gを超えない比表面積を有する微細化されたアパタイト粉体を用いること、
    2)アパタイトの原料粉体の、リン酸に対するカルシウムのモル比の値が、1.2〜2.0であること、
    3)アパタイトの原料粉末を含むスラリーの固形分が、40〜70重量%である、特定の固形成分の割合のスラリーを用いること、
    4)スラリーを減圧下で充填すること、
    5)それにより、気孔率が少なくても50%で、曲げ強度が少なくても12MPaである、高気孔率で、高い曲げ強度を有する多孔質アパタイトセラミックスを製造すること、
    を特徴とする高強度多孔質アパタイトセラミックスの製造方法。
  2. 900〜1300℃で焼成する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 可燃性の鋳型が、発泡ポリマー材料からなる鋳型である、請求項1に記載の製造方法。
  4. アパタイトの原料粉末を含むスラリーが、分散剤を含む、請求項1に記載の製造方法。
  5. アパタイトの原料粉末として、焼成することでアパタイトに変わり、リン酸に対するカルシウムのモル比の値が1.2〜2.0である原料粉末を用いる、請求項1に記載の製造方法。
  6. 前記請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により、平均粒径が大きくても1μmであり、14m/g又はそれより大きくても38m /gを超えない比表面積を有する微細化されたアパタイト粉体を焼成することにより製造された高強度多孔質アパタイトセラミックスであって、気孔率が少なくとも58%の高気孔率で、曲げ強度が少なくとも12MPaの高曲げ強度で、高い気孔率と高い曲げ強度を共に有することを特徴とする高強度多孔質アパタイトセラミックス。
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