JP4633496B2 - 新規微生物 - Google Patents
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Description
海洋に流出した石油はオイルフェンス、油回収機、油吸着材などによる物理的回収法と油ゲル化剤、乳化分散剤等の油処理剤による化学的処理方法がある(非特許文献1参照)。
物理的処理は海洋生態系に及ぼす影響は少ないと思われるが、化学的処理は油処理剤等の毒性や海洋生物など生態系への影響を十分考慮する必要がある。しかし、このような物理的・化学的な除去・処理を行っても完全ではなく、未回収の流出油は蒸発したり、光や酸素による物理・化学的な変化を受けるが、最終的には海水や海底堆積物中の微生物の生分解性に基づく自然生態系の自浄作用によって分解される(非特許文献2参照)。
そこで、バイオレメディエーション技術を開発するためには、現場環境における石油等の有害環境汚染物質分解微生物や汚染物質分解促進微生物の分布や種類、およびその分解能や分解促進メカニズムなどを調べ、有害物質汚染環境に対する自然浄化能の見積もりやそのメカニズムを解明する必要がある。さらに、バイオレメディエーション技術を適用するためには、有害物質汚染環境中の微生物相や有害物質分解微生物や有害物質分解促進微生物のモニタリング、解析・評価やバイオレメディーエション技術による有害物質汚染環境の浄化・修復過程を的確に解析・評価する方法が求められている。
微生物によるこれらの炭化水素の分解性は一般にn-アルカン>分枝アルカン>低分子量芳香族炭化水素>シクロアルカンの順に低下する(非特許文献7参照)。 現場環境に流出した石油の微生物分解は最初に易分解性の飽和分や低分子量芳香族炭化水素の分解が起こり、非常に分子量の大きい芳香族炭化水素、RE、ASは分解され難く、その生分解速度はきわめて遅いといわれている(非特許文献8参照)。
さて、海洋環境から分離された石油分解微生物は、細菌25属、菌類27属、放線菌など多くの属種が知られている(非特許文献2参照)。最近、新属新種でPAHを特異的に分解するCycloclasticus pugetii (非特許文献9参照)、また脂肪族炭化水素を分解するAlcanivorax borkumensis(非特許文献10参照)どが報告されている。また、海洋環境から分離されたPAH分解細菌としては、これまでにCycloclasticus pugetii 以外にSphingomonas sp. AJ1(非特許文献11参照)、Neptunomonas naphovorans(非特許文献12)、Lutibacterium anuloederans(非特許文献13参照)およびVibrio cyclotrophicus(非特許文献14参照)などいくつかの報告がある。
例えば、海洋に流入した石油中の直鎖状炭化水素、n-アルカンの場合、石油分解微生物によりアルコール、アルデヒド、脂肪酸などを経由して逐次酸化、分解される(非特許文献15参照)。また、石油成分のPAHの一つであるフェナントレン(PHE)の場合は、例えばPseudomonas sp.により、主として3, 4- ジヒドロキシフェナントレン、1,2-ジヒドロキシナフタレンサルチル酸、カテコールなどを経由して分解される(非特許文献16参照)。このように、石油成分は最初に石油分解微生物により酸化、分解され、種々の分解代謝中間物が生成されるが、これらの分解代謝物は石油分解菌以外の様々な分解菌によっても利用、分解され、最終的に石油は微生物菌体と炭酸ガスに分解、浄化される(非特許文献2参照)。
上記のことから、最近複数の分解細菌から構成されている微生物コンソーシアによる原油の分解に関する研究が行われている(非特許文献17参照)。また、内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)作用が疑われているノニルフェノール(NP)分解菌、Sphingomonas属細菌によるNPの分解は、NP分解細菌単一種の純粋培養系より、NP分解細菌とNP非分解細菌の混合培養系の方が、NPが速やかに分解されるといわれている(非特許文献18参照)。
すなわち、本発明は新規微生物および /または新規微生物と環境汚染物質分解微生物の複合微生物機能を用いた石油等有害物質汚染環境の浄化方法、ならびに上記新規微生物、あるいはThalassospira属に属する有用細菌の検出、定量方法を提供するものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
(2) Thalassospira sp. MAI8菌株。
(3) 上記(1)または(2)に記載の微生物と環境汚染物質分解能を有する微生物が共存していることを特徴とする、混合培養物。
(4) 環境汚染物質分解能を有する微生物がSphingomonas属、Sphingobium属、Novosphingobium属および Shpingopyxis属の細菌であることを特徴とする、請求項3に記載の混合培養物。
(5) 環境汚染物質分解能を有する微生物が炭化水素分解能を有する微生物であることを特徴とする、上記(3)に記載の混合培養物。
(6) 炭化水素分解能を有する微生物がSphingomonas属、Sphingobium属、Novosphingobium属および Shpingopyxis属の細菌であることを特徴とする、上記(5)に記載の混合培養物。
(7) 配列番号1の塩基配列を有する16S rRNA遺伝子。
(8) 配列番号1の塩基配列の一部を有し、かつ塩基長10〜50bpのDNA、または該DNAに相当するリボヌクレオチド配列を有するRNAからなることを特徴とする、DNAまたはRNAプローブ。
(9) 上記(1)または(2)に記載の微生物由来のDNAまたはRNAと特異的にハイブリダイズすることを特徴とする、上記(8)に記載のプローブ。
(10) 配列番号2または3に記載の塩基配列、または該塩基配列に対応するリボヌクレオチド配列を有することを特徴とする、DNAまたはRNAプローブ。
(11) Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌を検出または定量するために用いることを特徴とする、上記(8)〜(10)のいずれかに記載のDNAまたはRNAプローブ。
(12) Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌が石油分解促進細菌であることを特徴とする、上記(8)〜(10)のいずれかに記載のDNAまたはRNAプローブ。
(13) Thalassospira sp.MAI8菌株を検出および/または定量するために用いることを特徴とする、上記(8)〜(10)のいずれかに記載のDNAまたはRNAプローブ。
(14) 上記(8)〜(10)のいずれかに記載のRNAまたはDNAプローブを用いて、Thalassospira属 に属する細菌を検出および/または定量する方法。
(15) 検出または定量される細菌が、Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌であることを特徴とする上記(14)に記載の方法。
(16) Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌が石油分解促進細菌であることを特徴とする、上記(15)に記載の方法。
(17) 検出および/または定量される細菌が上記(1)または(2)に記載の微生物であることを特徴とする、上記(14)に記載の方法。
(18) 上記(8)〜(10)のいずれかに記載のRNAまたはDNAプローブを用いて、Thalassospira属に属する有用細菌をスクリーニングする方法。
(19)スクリーニングされる細菌がThalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌であることを特徴とする、上記(18)記載の方法。
(20) Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌が石油分解促進細菌であることを特徴とする、上記(19)に記載の方法。
(21) スクリーニングされる細菌が上記(1)または(2)に記載の微生物であることを特徴とする、上記(19)に記載の方法。
(22) 配列番号1の塩基配列との相同性、または上記(9)〜(11)のいずれかに記載のRNAまたはDNAプローブを用いたDNA/DNAまたはDNA/RNAハイブリダイゼーション、または該DNAプローブをプライマーとして用いてPCRを行うことを特徴とする、上記(1)または(2)のいずれかに記載のThalassospira属細菌を同定する方法。
(23) 同定される細菌がThalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌であることを特徴とする、上記(22)に記載の方法。
(24) Thalassospira属に属する環境汚染物質分解促進細菌が石油分解促進細菌であることを特徴とする、上記(23)に記載の方法。
(25) 環境汚染物質で汚染された環境を、上記(1)または(2)のいずれかに記載の微生物と環境汚染物質分解微生物との混合培養系で処理することを特徴とする、汚染環境の浄化方法。
(26) 環境汚染物質が石油または石油由来のものであることを特徴とする、上記(25)に記載の方法。
(27) 上記(14)〜(17)のいずれかに記載の方法を用いて、有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価および診断する方法
(28) 上記(14)〜(17)のいずれかに記載の方法を用いて、有害物質汚染環境の浄化及乃至修復過程を解析し、評価する方法。
〔微生物〕
本発明の微生物は、日本海流出重油汚染沿岸海域の一つである石川県沿岸の最も汚染された地点の海水試料から単離したことに基づく。これにより得られた菌株は具体的には、MAI8菌株(受託番号FERM P-19588)である。本菌株は天然海水、好ましくは無菌的に採取した海水を微生物源として、例えばPAHを唯一の炭素源・エネルギー源としてNSW培地(表1-B;T. Higashihara、 A. Sato and U. Shimizu: An method for the enumeration of marine hydrocarbon degrading bacteria. Bulletin of Japanese Society of Scientific Fishiereies、 44、 1127-1134、 1978)を用いた集積培養法により分離したものである。
本菌株の表現形質による分類・同定や16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析や塩基配列相同性解析を行った結果、MAI8菌株はThalassospira属の新種であることが明らかとなり、Thalassospira属のThalassospira sp. MAI8菌株と命名した。 この菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERM P-19588(Thalassospira属 MAI8菌株)として寄託されている。
上述のように本MAI8菌株(FERM P-19588)はThalassospira属に属する新種である。このThalassospira属は、A. Lopez-Lopezらによって2002年に提唱された新属で、Alphaproteobacteria のRhodospirillaceae科に属する。現在、報告されている種は、新属新種のThalassospira lucentensis の1属1種のみである(A. Lopez-Lopez, M. J. Pujalte, S. Benlloch, M. Mata-Roig, R. Rossello-Mora, E. Garay and F. Rodriguez-Valera: Thalassospira lucentensis gen. nov., sp. nov., a new marine member of the α-Proteobacteria. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 52, 1277-1283, 2002) 。Thalassospira lucentensis は地中海の海水試料から、低栄養培地を用いて長期間連続培養を行った集積培養液から分離された菌株である。本菌株は低栄養条件で分離された細菌であるが、炭水化物、有機酸およびアミノ酸を幅広く利用することができる。しかし、本Thalassospira lucentensisに関して、石油等環境汚染物質分解能や環境汚染物質分解促進機能など応用面での有用な機能については全く報告されていない。
一方、Thalassospira lucentensisは、「生きているが培養できない」といわれている分離、培養の困難な細菌を分離すために、従来の一般的な分離法とは違った方法、すなわち低栄養培地を用いて、13℃で3ヶ月連続培養を行った集
積培養液から分離された菌株である。
以上のことから、Thalassospira属の細菌は、いずれも従来の分離法では分離、培養が困難な細菌であると考えられる。
重油汚染沿岸海域で重油分解に係わる微生物群集の構成メンバーとして重要な働きをしていると推察される炭化水素分解促進細菌が、これまでにThalassospira属細菌に見出されなかったことは、Thalassospira属細菌が難分離、難培養の細菌であることによるものと推察される。
本発明では、上述のことから、従来の一般的な分離法では分離できない難分離、難培養性の石油等環境汚染物質分解促進微生物を分離する新たな手法を提供するとともに、環境汚染物質の分解、除去にきわめて有効であるThalassospira属の新種である環境汚染物質分解促進微生物を提供するのである。
〔MAI8 菌株の環境汚染物質分解促進機能〕
したがって、MAI8菌株(FERM P-19588)は非炭化水素分解細菌であるが、炭化水素分解細菌、ANI7A菌等とともに、重油汚染沿岸海域で重油分解に係わる微生物群集の構成員として、前記のように炭化水素の分解促進に重要な働きをしているものと推察される。また、実施例1に示したようにC重油やANの集積培養系においても、それらの炭化水素を分解する微生物コンソーアの一員として炭化水素の分解に貢献しているものと思われる。
以上のことから、該MAI8菌株は石油等環境汚染物質分解微生物に添加し、分解微生物と混合培養することにより、環境汚染物質の分解を著しく促進することができることから、環境汚染物質の分解、除去などにきわめて有効である。
また、図4に示したようにPAH分解細菌にMAI8菌株を添加した微生物コンソーシアでは、PAH分解細菌単独に比べ、増殖速度がきわめて速いことから、PAH分解細菌の増殖に必要なビタミンなどの増殖因子や有機物等をMAI8菌株が供給し、PAH分解細菌の増殖や炭化水素分解を促進していることも考えられる。
〔微生物コンソーシアによる環境汚染物質の分解〕
例えば、[背景技術]で述べたように、脂肪族炭化水素分解菌、Acinetobacter sp.、Rhdococcus sp.、単環芳香族炭化水素分解菌、Pseudomonas putida および多環芳香族炭化水素分解菌、 Sphingomonas sp.の4種類の炭化水素分解菌で構成された微生物コンソーシアによる原油の分解が報告されている(S. Komukai-Nakamura et. al.: . Construction of bacterial consortia that degrade arabian light crude oil., J. Fer. Bioeng.82, 570-574, 1996)。また、炭化水素分解菌、アルカニボラックス属細菌(Alcanivorax borkumensis)と炭化水素非分解菌、バチルス属細菌(Bacillus sp.)からなる微生物コンソーシアによる重油の分解が報告されている(重油分解方法、特開2001-37466、公開日:平成13年2月13日)。
2001)。
上述の研究事例は、環境汚染物質分解菌は、分解中間物や分解代謝物などの有機物スキャベンジャーや分解菌の増殖に必要なビタミン類、栄養素の供給者と混合培養することにより、汚染物質の分解活性が発現したり、分解活性が著しく促進されることを示している。
以上のことから、本MAI8菌株は有機物スキャベンジャー や分解菌の増殖に必要なビタミン類などの栄養素の供給者としての機能を有すると考えられる。
したがって、本MAI8菌株は環境汚染物質分解微生物に添加して、混合培養することにより、環境汚染物質の分解活性を著しく促進することができるきわめて有用な微生物である。
前述のMAI8 菌株とともに分離され、MAI8 菌株と混合培養することにより、PAHの分解活性が促進されるPAH分解細菌、ANI7A菌株はSphingomonas属に属する細菌である(FERM P-19095、新規微生物、特開2004-159599、2004年 6月10日参照)。
Sphingmonas属細菌は、 前記NP以外にビフェニール等環境ホルモン、クロロフェノール、ヘキサクロロシクロヘキサン等の有機塩素化合物、キシレン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素、除草剤等の農薬、ポリエチレングリコール等の合成高分子化合物など非常に広範な種々の環境汚染物質に対する強力な分解能を有することが明らかにされている。(Sphingmonas属細菌の最新の知見をまとめた特集号、「The genus Sphingomonas」、Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 23(No.4/5), 231-445, 1999)。この種々の環境汚染物質分解能を有するSphingmonas属のある種のものは、増殖にビタミンのような微量な増殖因子を要求することが知られている(K. Fujiiら: Profile of a Nonylphenol-degrading Microflora and Its Potential for Bioremedial Applications, J. Biochem., 128, 909-916, 2002)。したがって、当該MAI8菌株をSphingomonas 属細菌等環境汚染物質分解微生物に添加し、混合培養することにより汚染物質の分解を促進させることが可能である。
さらに、本本MAI8菌株は、[背景技術]で述べたようなCycloclasticus属、 Neptunomonas属 、Lutibacterium 属およびVibrio属などの PAH等環境汚染物質分解微生物と本発明の微生物、MAI8菌株を混合培養することにより汚染物質の分解を促進させることもできる。
次ぎに、油濁環境や有害物質汚染環境の浄化に本微生物を利用する場合は、本発明の微生物と有害環境汚染物質分解微生物を混合培養して環境汚染物質分解微生物コンソーシアとして利用することができる。例えば、有害汚染物質の中間分解物や代謝産物によって増殖や汚染物質の分解が抑制・阻害される有害汚染物質分解微生物、または増殖や有害物質の分解にビタミン、有機栄養素等の増殖因子を要求する有害汚染物質分解微生物に、本発明の微生物を加えて構築した有害環境汚染物質分解微生物コンソーシアとしても利用することもできる。
本発明の微生物や本発明の微生物を含む環境汚染物質分解微生物コンソーシアの培養に用いる培地は、これらの微生物が良好に増殖し、かつPAH、石油等有害環境汚染物質分解能が発現できる培地であれば、いかなる組成の培地でもよい。本発明の微生物の炭素源としては、炭水化物、ピルビン酸等の有機酸、酵母エキス、廃糖蜜などを用いることができる。環境汚染物質分解促進能を有する本発明の微生物が利用できる炭素源であれば、いかなる物質でもよい。また、環境汚染物質分解微生物コンソーシアの炭素源としては、前記以外の炭素源として、汚染物質分解微生物が炭素源として利用できるPAH、原油、重油等の石油製品、船舶や工場からの流出油などの環境汚染物質を利用することができる。本発明の微生物や本発明の微生物を含む環境汚染物質分解微生物コンソーシアの窒素源としては、微生物に利用される有機・無機化合物であればよい。有機窒素源としてはペプトン、肉エキス、コンステイプリカー、脱脂大豆、カゼンインなどが、無機窒素源としてはアンモニウム塩、硝酸塩、尿素などが利用できる。無機塩類としては、各種のリン酸塩、塩化ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、カルシウム、亜鉛、モリブデンなどを添加してもよい。また、増殖因子として、ビタミン類、アミノ酸類があり、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、コンステイプリカーなど前記栄養因子を含有する天然有機栄養物を添加してもよい。
なお、これらの微生物を効率よく大量に培養するときは、必ずしもPAH等環境汚染物質を含む培地で培養する必要はなく、Marine Broth (Difco) やNutrient Broth (Difco) のような有機栄養培地でもよい。
培養は好気的条件、例えば振とう培養法、通気撹拌培養法が好適であるが、
適宜液体静置培養を組み合わせてもよいし、また液体静置培養でもよい。培地のpHは5-9、好ましくは6-8であればよい。培養温度は15-37℃、好ましくは20-30℃であればよい。
本発明の微生物を含有する石油等環境汚染物質分解微生物コンソーシアを用いた浄化方法としては、PAH、石油等環境汚染物質に汚染された海洋、湖沼、河川、廃液などに、本発明の微生物と石油等環境汚染物質分解微生物との混合培養の培養液、生菌体、凍結乾燥菌体を散布すればよい。この場合、有機または無機の窒素、リンなどの栄養源とこれらの微生物を混合した栄養・微生物製剤として、また本発明者らが開示したアルギン酸を用いた栄養源含有固定化担体(特開2001-37466、公開日:2001.12.13)、ポリアクリルアミドゲル、ポリウレタンフォームなど公知の微生物固定化担体を用いて、これらの微生物を固定化した各種の微生物製剤を利用することができる。この場合栄養源とこれらの微生物を同時に固定化した方が好ましい。また、上記に示した汚染環境や環境汚染物質を含む廃液などに環境汚染物質分解微生物が存在する場合は、本発明の微生物を単独で、分解微生物コンソーシアと同様な方法で利用することができる。
次ぎに、核酸プローブやそれを用いた石油等有害環境汚染物質分解促進微生物の検出・定量方法、スクリーニング方法、同定方法、およびこの検出・定量法を用いた有害環境汚染物質汚染のモニタリング、解析・評価方法などについて説明する。
例えば、一般に非汚染海域に分布する炭化水素分解微生物の割合は全微生物数の1%以下であるが、油濁海域ではその比率がしばしば10%以上なるといわれている(R. M. Atlas: Petroleum biodegradation and oil spill bioremediation、 Marine Pollution Bulltetin、 31、 178-182、 1995、R. M. Atlas and R. Bartha: Hydrocarbon Biodegradation and Oil Spill Bioremediation. Advances in Microbiolbial Ecology、 Ed. K. C. Marshall、 Plenum Press、 New York、Vol. 12、 287-338、 1992)。 一般に微生物群集全体に占める分解微生物の割合は石油等有害物質汚染の程度を反映し、その指標になるといわれている(Atlas、 R. M.: Microbial degradation of petroleum hydrocarbons: an environmental perspective. Microbial. Rev.、 45、 180-209、 1981)。
以上のことから、炭化水素無添加の対照培地においても、寒天中の微量な有機物を利用してコロニーを形成する細菌が存在するため、寒天平板培地で特定の炭化水素分解細菌を選択的かつ正確に計数することは困難である。加えて特定分解微生物を検出するには、寒天平板法にて目的微生物を分離し、分類・同定(属、種レベル)を行う必要があり、さらに長時間を要し多数の分離微生物を分類・同定することは困難である。
以上のことから、本発明においては、本発明の上記新規微生物を特異的に検出・計数することが可能なDNAプローブを新たに作製した。以下DNAプローブを作製する工程について説明する。
MAI8 菌株の16S rRNA遺伝子(配列番号1)の塩基配列情報に基づいて、種々の用途に適したRNAおよびDNAプローブを設計することができる。プローブの塩基配列および長さは検出、定量、スクリーニング、あるいは同定の対象とするThalassospira 属微生物の範囲に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の上記新種の微生物のみをスクリーニングしたい場合には、該微生物の16S rRNA遺伝子の特異的部分の塩基配列によりプローブを設計すればよく、さらに近縁種をも含めてスクリーニング範囲を広げたいときには、近縁種の16S
rRNA遺伝子と共通な塩基配列部分を含むよう、例えば塩基配列の長さを短縮する等プローブを設計する。また、塩基配列部分の選択あるいはその長さを調節することによりさらに、プローブの菌株特異性を低下させれば、さらに広い範囲の有用細菌をスクリーニングすることができる。
hybridization)により、試料(例えば、石油等有害物質で汚染された海、河川、湖沼、排水・廃液などの環境試料水)中、あるいは多数の微生物群の中から、Thalassospira属に属する、本発明の上記新種微生物、その近縁種、あるいは該近縁種の石油等環境汚染物質分解促進細菌を検出および/または定量したり、また、スクリーニングするためには、例えば、配列番号1の塩基配列の塩基番号 1210-1231の領域(Escherichia coliの16S rDNAの塩基配列における5’末端からの位置(ナンバーリングシステム)では、1264-1285の領域)などから選択される領域に対応する塩基長10-50bp、好ましくは塩基長15-25bpのプローブを設計するとよい。一例として以下のプローブを挙げることができる。
(1)5'-tgggattcgccacctgtcgcca-3'(MAI8-1264*, 22mer)(配列番号2)
3'-accctaagcggtggacagcggt-5'(配列番号1の該16S rDNA部分塩基配列)(配列番号4)
(2)5'-ggatcgaagacttggtgagccg-3'(MAI8-259*, 22mer)(配列番号3)
3'-cctagcttctgaaccactcggc-5' (配列番号1の該16S rDNA部分塩基配列)(配列番号5)
(なお、*(数字)はEscherichia coliの16S rDNA塩基配列における5'末端からの位置(ナンバーリングシステム)を示す(Noller H. F. and C. R. Woese, 1981. Science, 212:403-411)。
プローブは、公知の方法、例えば、ホスホルアミド法またはトリエステル法により合成することができる。あるいは、(DNA・RNAプローブともに、)DNA自動合成機により合成してもよい。
なお、本発明のRNAプローブは、上記DNAプローブに相当するリボヌクレオチド配列を有する。すなわち、上記(1)、(2)のDNAプローブの塩基配列を例にとると、該塩基配列に相当するとは、該塩基配列中の塩基T(チロシン)がU(ウラシル)に変換されたリボヌクレオチド配列を有するという意味である。
本発明のRNAまたはDNAプローブを用い、種々のハイブリダイゼーション法(サザンブロット法、ノーザンブロット法、コロニーハイブリダイゼーション、ドットハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション(例えば、FISH法)などにより、Thalassospira属に属する、本発明の新種微生物、その近縁種、あるいは該近縁種のPAH 、石油等有害環境汚染物質分解促進細菌種の汚染物質分解促進細菌を検出および/または定量したり、スクリーニングすることができる。
本発明のDNAプローブを用いて、石油等環境汚染物質で汚染された現場の水や海水から石油等環境汚染物質分解促進微生物を検出・定量する方法の一例について以下に説明する。有害物質汚染現場から水や海水試料を採取し、この試料中に存在する微生物をフィルター(孔径0.2μm)に固定し、これを蛍光色素等で標識した配列番号2または3の塩基配列を有するDNAプローブとハイブリダイズさせ、プローブを洗い落とした後、蛍光顕微鏡で観察して、DNAプローブとハイブリダイズし、標識した蛍光を呈している特定の分解促進微生物を選択的に検出または計数を行う。
上述したように、環境が汚染されれば、分解微生物と分解促進微生物はセットとして、その割合が増大してくるので、これにより、環境汚染の指標とすることが可能となる。
さらに、配列番号1の塩基配列情報や配列番号2または3を用いて、Thalassospira属の本発明の新種の微生物およびその近縁種、およびThalassospira属の本発明の新種の微生物およびその近縁種の石油等有害物質分解促進細菌を同定することができる。例えば、配列番号1の塩基配列との相同性、または請求項8〜10いずれかに記載のRNAまたはDNAプローブを用いたDNA/DNAまたはDNA/RNAハイブリダイゼーションにより同種の菌であることが同定できる。さらに、上記プローブの塩基配列(DNA断片)をプライマーとして用いて、PCRを行うことによって菌種の同定を行うこともできる。すなわち、同定の対象となる菌体を溶菌して、上記プローブの塩基配列をもつDNA断片をプライマーとして添加した後、PCR増幅する。そのPCR産物を電気泳動等により16S rDNAの増幅が確認されれば、対象とした菌には、用いたDNA断片に相補的な遺伝子部分を有していることになる。すなわち、同種の菌であることが特定できる。
石油等有害物質汚染環境の指標となる特定の分解微生物やその分解促進微生物の挙動、およびそれらが全微生物群集に占める割合(優占度)を、簡単、迅速にモニタリングすることが可能になれば、汚染の程度、および汚染環境の修復、回復の程度などを、その汚染環境の診断が高精度かつ早期に可能になる。 例えば、環境中に石油分解微生物や PAH分解微生物およびそれら分解微生物に対応する分解促進微生物がある時期に優占度が上昇していれば、その環境は石油やPAHで汚染されている可能性が高いと判断できるし、その微生物群集全体として石油やPAH分解能が高まっていると判定できる。さらに、その優占度の変化を長期間にモニタリングし、その変遷の周期性や季節性を把握しておけば、その変化が突発的なものかどうか、その負荷が船舶事故や工場排水の流入など人為的なものかどうかを推定できる。 本発明のDNAプローブとPHA分解微生物、例えばANI7A菌株のDNAプローブをセットとして用いて、油濁環境中の全微生物群集中のPAH分解微生物とその分解促進微生物の優占度を同時に調べることにより、環境中の炭化水素成分、PAHの比率、濃度および消長など汚染の度合を高精度で把握でき、汚染物質の自然浄化過程やバイオ環境修復過程の解析・評価が可能になる。
〔実施例1〕炭化水素分解促進細菌の分離
炭化水素分解促進細菌MAI8菌株は、PAH分解微生物の集積培養液から分離された菌株である。以下MAI8菌株の具体的な分離方法について述べる。
1)PAH分解微生物の分離源試料
日本海重油流出事故で石川県沿岸域で最も汚染された地点、Stn.19(珠洲西海海岸、長橋)で1998年6月11日に採取された海水試料に無機栄養塩を加えた系(SW+N+P、表1-A)に0.5%C重油を添加して、20℃で65日培養し、分解試験を行った。この65日の分解試験培養液中の分解細菌数のMPN計数培養(培地:表1-C)で、C重油で良好な増殖を示した希釈段階のもっとも高い試験管の培養液を、0.5%C重油を含む滅菌(SW+N+P)培地に接種し、20℃にて培養期間12-17日で3回集積培養を繰り返した後、さらにC重油を加えたNSW培地(表1-B)を用いて、前記同様に、培養期間9-17日で4回集積培養を繰り返した培養液を下記AN分解細菌の集積培養の種菌として用いた。
前記C重油集積培養液0.1mlを種菌として、0.1% (w/v) ANを添加したNSW培地(表1-B)10mlを含む大型試験管に接種し、20℃で8日間振とう培養によりAN分解細菌の集積培養を行った。
3) PAH分解細菌の分離に用いた平板培地と培養法
AN 分解細菌およびPHE分解細菌の分離は、0.1%(w/v)ANをNSW寒天培地に添加した(NSW+AN)平板培地(表1-D)およびMarine Agar 2216 (Difco製) (MA)平板培地を用いて、20℃で平板培養により行った。なお、平板培地に形成されたコロニー形態は実体顕微鏡で観察した。
NSW培地:文献参照(T. Higashihara、 A. Sato and U. Shimizu: An method for the enumeration of marine hydrocarbon degrading bacteria、 Bulletin of Japanese Society of Scientific Fishiereies、 44、 1127-1134、 1978)
前記2)項のAN分解細菌の集積培養液を(NSW+AN)平板培地に塗抹し、20℃、8日間培養した。この平板培養培地に形成されたコロニーを釣菌し、さらにその分離菌株を (NSW+AN)平板培地とMA平板培地を用いて、平板分離培養を2回繰り返し、(NSW+AN)平板培養培地から8菌株、MA平板培養培地から8菌株、合計16菌株を分離した。なお、平板培養は20℃、16日間行った。
MAI8 菌株は、上記MA平板培養培地から分離した8菌株の中から選択し、純粋培養株とした。
なお、実施例2に示した混合培養系を構成するPAH分解細菌、Sphingomonas sp. ANI7A菌株(FERM P-19095)は、MAI8菌株を分離した同じ集積培養液を塗抹した上記(NSW+AN)平板培養培地から分離された8菌株の中から選択し、純粋培養株とした菌株である。
MAI8菌株の表現形質による菌学的性質や16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析の結果を以下に示す。
MAI8菌株の菌学的性質を表2に示した。
を参考にして分類・同定を行った。
その結果、MAI8菌株はNaCl要求性の海洋性グラム陰性桿菌で、細胞形態やキノン系から海洋性光合成細菌の可能性も考えられたが、本菌株は光合成能を持たず、さらに形態的に類似しているRhodospirillum属細菌とはGC含量が異なっていた。従って、前述のように表現形質の性状からは、本菌株を既知の属種に分類同定できず、新たな属種の可能性が示唆された。
しかし、最近新属新種として提案されたThalassospira属の性質に類似していることから、Thalassospira属に属することが推察された。しかし、新属、新種のThalassospira lucentensisとは、コロニーの色調など表現形質による分類学的性状が違っていた(A. Lopez-Lopez、 M. J. Pujalte、 S. Benlloch、 M. Mata-Roig、 R. R-Mora、 E. Garay and F. R-Valera: Thalassospira lucentensisgen. nov.、 sp.、nov.、 a new marine member of the α-Proteobacteria. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、 52、 1277-1283、 2002)。
一方、「細菌の種は系統的にほぼ70%またはそれ以上のDNA-DNA相同性を示す菌株である」と定義されている(国際細菌分類命名委員会特別委員会報告、L. G. Wayne、 D. J. Brenner、 R. R. Colwell、 P. A. D. Grimont、 O. Kandler、 M. I. Krichevsky、 L. H. Moore、 W. E. C. Moor、 R. G. E. Murray、 E. Stackebrandt、 M. P. Starr and H. G. Truper: Report of the ad hoc committee on reconciliation of approaches to bacterial systematics. International Systematic Bacteriology、 37、 463-464、 1987)。Stackerbrandtらは、上記定義におけるDNA-DNA相同性と16S rRNA遺伝子の相同性との関係について、DNA-DNA相同性と16S rRNA遺伝子の相同性の比較からDNA-DNA相同性70%以上のものと16S rRNA遺伝子の相同性97%以上のものは対応するとし、16S rRNA遺伝子の相同性97%以上のものを同一の種とみなされると述べている(Stackebrandt、 E. and Goebel、 B. M.: Taxonomic note: a place for DNA-DNA reassociation and 16SrRNA sequence analysis in the present species definition in bacteriology. Int. J. Syst. Bacteriol.、44、 846-849、1994)。
MAI8菌株(FERM P-19588)の炭化水素培地における増殖試験には、唯一の炭素源として0.1%(w/v) ANを添加したNSW培地(表1-B)からクエン酸鉄を除いた(NSW-Fe)培地を用いた。このANを添加した(NSW-Fe)培地10 mlをキャップ付ネジ口試験管(直径18mm)に加え、20℃で振とう培養(45 rpm)を行った。
また、Cycloclasticus pugetii ATCC 51542菌株の炭化水素培地における増殖試験には、唯一の炭素源として0.1%(w/v) Biphenyl(BP)を添加した(NSW-Fe)培地10 mlをキャップ付ネジ口試験管(直径18mm)に加え、上記と同様に20℃で振とう培養(45 rpm)を行った。
培養液中での微生物の増殖は、濁度計(富士工業ADS-DW型)を用いて、660 nmで培養液の濁度を測定し、デジタル表示された値を吸光度(OD)の値に換算した。なお、OD値は同一培養条件の試験管2本の各OD値の平均値で示した。 また、培養液中の残存AN量の測定法は、下記〔実施例4〕に示した。
ANI7A菌株とMAI8菌株からなる微生物コンソーシアによるPHE分解試験には、炭素源として0.1%(w/v) PHEを添加したNSW培地(表1-B)を用いた。PHEとNSW培地10mlをシリコセン付L字型試験管(直径18mm)に加え、20℃で振とう培養(45 rpm)を行った。
培養液中のPHEおよびAN(実施例3)の定量は培養液を等量のジクロロメタンで2回抽出後、25ml定容量とした。この抽出液の一定量を下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。なお、内部標準物質としてはn-ヘキサデカンを用いた。
1. カラム
液相: TC-70(GLサイエンス製キャピラリーカラム); 長さ:30mx0.25mm;
液相の膜厚:0.25 μm
2. キャリヤガス(N2)
流速:1ml/min
3. 測定条件
試料注入口温度:250 ℃
イニシャル温度:120 ℃
昇温速度:10 ℃/min (260 ℃まで);260 ℃で8min保持
検出器: FID
炭化水素の残存率は同一条件で振とう培養を行った菌無接種の対照培地中の残存炭化水素量を基準に求めた。なお、残存率は同一培養条件の試験管3本または4本の各残存率の平均値で示した。
MAI8菌株単独ではPHE分解性は認められなかった。一方、PAH分解細菌ANI7A菌株単独でのPHE分解率は28%(培養28日)であった。しかし、ANI7A菌株にMAI8菌株を添加した微生物コンソーシアでは、PHE分解率は45%(培養28日)と、ANI7A菌株単独に比べ、PHE分解が大きく促進されることが分かった。
また、図4に示したようANI7A菌株とMAI8菌株の微生物コンソーシアは、ANI7A菌株単独に比べ、PHE添加培地で増殖速度がきわめて速く、かつ高い増殖を示した。このことは、MAI8菌株によりPHEの分解が著しく促進されることが、この高い増殖を示すことからも明らかにされた。
また、図4に示したようにPAH分解細菌にMAI8菌株を添加した微生物コンソーシアでは、PAH分解細菌単独に比べ、増殖速度がきわめて速いことから、PAH分解細菌の増殖に必要な増殖因子としてのビタミン類や有機物などをMAI8菌株が供給し、PAH分解細菌の増殖や炭化水素分解を促進していると考えられる。
以上のことから、MAI8菌株は炭化水素分解細菌の分解中間物や分解代謝物などの有機物スキャベンジャーとして、また炭化水素分解細菌の増殖に必要なビタミン類や栄養素の供給者として、この両者の相乗的な働きにより炭化水素の分解が著しく促進されているということができる。
したがって、MAI8菌株は非炭化水素分解細菌であるが、炭化水素分解細菌ANI7A菌などとともに、重油汚染沿岸海域で重油分解微生物群集の構成員として、前記のように炭化水素の分解促進に重要な働きをしており、また、前述のC重油やANの集積培養系においても、これらの炭化水素分解微生物コンソーシアの一員として炭化水素の分解に貢献しており、以上のことから、該MAI8菌株は、石油等環境汚染物質分解細菌に添加し分解細菌と混合培養することにより、環境汚染物質の分解を著しく促進することができ、環境汚染物質の分解、除去などにきわめて有効である。
石川県流出油汚染沿岸域より採取した試料から、集積培養を経て純粋分離に成功した細菌Thalassospira sp. MAI8菌株(FERM P-19588)の16S rDNA塩基配列情報(配列番号1)の中から、Stahl and Amann (Development and Application of Nucleic Acid Probes. In: Nucleic Acid Techniques in Bacterial Systematics. Ed.: E. Stackebrandt and M. Goodfellow, John Wiley and Sons, Chichester, pp. 205-248, 1991)により示された高次構造による障害が見られないと考えられる領域から、この菌種に特異的な配列を選抜し、該配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、その5‘末端をTRITCや Cy 5等の蛍光色素により標識化し、最終的に配列番号2に示した配列を有する非放射性標識DNAプローブ(MAI8-1264)および配列番号3に示す非放射性標識DNAプローブ(MAI8-259)を作製した。
実施例5の上記各プローブの使用にあたっては、Thalassospira sp. MAI8菌株を標的微生物、Sphingomonas subterranean IFO16086(標準菌株)などを対照微生物として、Maruyama and Sunamura(Simultaneous direct counting of total and specific microbial cells in seawater, using a deep-sea microbe as biomarker. Applied and Environmental Microbiology, 66: 2211-2215, 2000)に記載した装置および手法を用い、FISH法にて実際にその有効性を確認した。供試菌株の培養、固定およびハイブリダイゼーションの方法については、「新規低温細菌を検出するためのプローブ」(特開2000-33680公報、公開日2000.12.5)に準じた。ただしハイブリダイゼーションは、40%ホルムアミド存在下で42℃で行い、洗浄温度は42℃で行った。試料の蛍光顕微鏡観察によるプローブの有効性を表3に示す。
一方、Bacteriaドメインに特異的なプローブEUB338の場合は、B励起での観察においても、MAI8および2種類の対照菌株とも、それぞれEUB338の5’末端をラベルしたFITC由来の緑色蛍光を発した。
以上のことから、油濁環境由来微生物の16S rRNA遺伝子塩基配列からデザインした2つのプローブは、Thalassospira sp. MAI8を特異的に検出する上で、その高次構造に起因する結合上の妨害も見られず、実際に極めて有効であることが示された。
Claims (15)
- Thalassospira sp. MAI8菌株(FERM P-19588)。
- 請求項1に記載の微生物と環境汚染物質分解能を有する微生物が共存していることを特徴とする、混合培養物。
- 環境汚染物質分解能を有する微生物がSphingomonas属、Sphingobium属、Novosphingobium属および Shpingopyxis属の細菌であることを特徴とする、請求項2に記載の混合培養物。
- 環境汚染物質分解能を有する微生物が炭化水素分解能を有する微生物であることを特徴とする、請求項3に記載の混合培養物。
- 炭化水素分解能を有する微生物がSphingomonas属、Sphingobium属、Novosphingobium属およびShpingopyxis属の細菌であることを特徴とする、請求項4に記載の混合培養物。
- 配列番号1の塩基配列を有する16S rRNA遺伝子。
- 配列番号2に記載の塩基配列、または該塩基配列に対応するリボヌクレオチド配列を有することを特徴とする、DNAまたはRNAプローブ。
- Thalassospira sp.MAI8菌株(FERM P-19588)を検出および/または定量するために用いることを特徴とする、請求項7に記載のDNAまたはRNAプローブ。
- 請求項7に記載のRNAまたはDNAプローブを用いて、Thalassospira sp.MAI8菌株(FERM P-19588)を検出および/または定量する方法。
- 請求項7に記載のRNAまたはDNAプローブを用いて、Thalassospira sp.MAI8菌株(FERM P-19588)をスクリーニングする方法。
- 請求項7に記載のRNAまたはDNAプローブを用いたDNA/DNAまたはDNA/RNAハイブリダイゼーション、または該DNAプローブをプライマーとして用いてPCRを行うことを特徴とする、請求項1に記載の微生物を同定する方法。
- 環境汚染物質で汚染された環境を、請求項1に記載の微生物と環境汚染物質分解微生物との混合培養系で処理することを特徴とする、汚染環境の浄化方法。
- 環境汚染物質が石油または石油由来のものであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
- 請求項9に記載の方法を用いて、有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価および診断する方法。
- 請求項9に記載の方法を用いて、有害物質汚染環境の浄化及乃至修復過程を解析し、評価する方法。
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