JP4065942B2 - 新規微生物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は環境汚染物質を分解、除去することのできるSphingomonas属に属する新種の細菌に関する。この細菌を利用して多環芳香族炭化水素(PAH)等有害環境汚染物質で汚染された水または土壌の浄化方法に関する。ならびに、本発明はSphingomonas属に属する特定の細菌や有害環境汚染物質分解能を有する細菌の検出、定量方法に関する。さらに、石油等有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価、診断する方法、および有害物質汚染環境の浄化・修復過程を解析・評価する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年,石油による海洋の汚染は海洋の生態系や水産生物などに悪影響を及ぼすことなどから世界的な環境問題となっている。
海洋に流出した石油はオイルフェンス,油回収機,油吸着材などによる物理的回収法と油ゲル化剤,乳化分散剤等の油処理剤による化学的処理方法がある(非特許文献1参照)。
物理的処理は海洋生態系に及ぼす影響は少ないと思われるが,化学的処理は油処理剤等の毒性や海洋生物など生態系への影響を十分考慮する必要がある。しかし,このような物理的・化学的な除去・処理を行っても完全ではなく,未回収の流出油は蒸発したり,光や酸素による物理・化学的な変化を受けるが,最終的には海水や海底堆積物中の微生物の生分解性に基づく自然生態系の自浄作用によって分解される(非特許文献2参照)。
近年、このような微生物を利用した環境調和型の生物学的油濁浄化技術(バイオレメディエーション)の開発が注目されている(非特許文献3、4参照)。このバイオレメディエーション技術は自然界で営まれている微生物による生分解プロセスを促進させて汚染物質を分解除去する技術である。
そこで、バイオレメディエーション技術を開発するためには、現場環境における石油等の有害環境汚染物質分解微生物の分布や種類,およびその分解能などを調べ、有害物質汚染環境に対する自然浄化能の見積もりやそのメカニズムを解明する必要がある。さらに、バイオレメディエーション技術を適用するためには、有害物質汚染環境中の微生物相や有害物質分解微生物のモニタリング、解析・評価やバイオレメディーエション技術による有害物質汚染環境の浄化・修復過程を的確に解析・評価する方法が求められている。
例えば、原油は複雑な数千にも及ぶ各種の炭化水素の混合物であり、石油中に存在する炭化水素は化学構造によって、飽和炭化水素と芳香族炭化水素に分けられるが、さらに前者はパラフィン(n-パラフィン、分枝パラフィン)とシクロパラフィン(単環、多環)に、後者は単環と多環芳香族炭化水素に分類されている(非特許文献5参照) 。
また石油は炭化水素組成により,飽和分(SA),芳香族分(AR),レジン分(RE),アスファルテン分(AS)にも分けることができる(非特許文献6参照 )。
微生物によるこれらの炭化水素の分解性はn-アルカン>分枝アルカン>低分子量芳香族炭化水素>シクロアルカンの順に低下する(非特許文献7参照)。
現場環境に流出した石油の微生物分解は最初に易分解性の飽和分や低分子量芳香族炭化水素の分解が起こり,非常に分子量の大きい芳香族炭化水素,RE,ASは分解され難く,その生分解速度はきわめて遅いといわれている(非特許文献8参照)。
また、発明者らの調査でも、日本海重油流出事故で汚染された現場海域海水中の微生物群集による重油の分解性は、重油中のSAは比較的よく分解されるが、難分解性の多環芳香族炭化水素(PAH)等を含むARの分解は少なく、縮合した芳香族環構造で分子量の大きいREや ASはほとんど分解されないことが認められた(非特許文献9 、10参照)。
重油など重質油に含まれるPAHは発ガン性、変異原性を有し、難分解性であることから、これらを短期間で効率的に分解する微生物や安全な環境調和型の生物学的分解・除去技術の確立が求められている。海洋環境から分離された多環芳香族炭化水素(PAH)分解細菌としては、これまでにSphingomonas sp. AJ1(非特許文献11)Cycloclasticus pugetii、非特許文献12参照)、Neptunomonas naphovorans(非特許文献13)、Lutibacterium anuloederans(非特許文献14)およびVibrio cyclotrophicus(非特許文献15参照)などいくつかのは報告がある。しかし、優れたPAH分解活性を有し、実用化できるようなものは得られていない。以上は石油汚染について主に説明したが、このほかにも化学薬品の流出事故あるいは工場排水、廃棄物の投棄に伴う有害物質による環境汚染等に対しても早急な対策を講じなくてはならず、この場合においても、上記したPAH乃至環境ホルモン等を有効に分解する技術の重要性はますます増大しており、そのための有用細菌の探索も盛んに行われている。
そして、これらの環境汚染浄化技術における有用微生物の探索には、該探索を迅速、簡便かつ正確に行えるような探索技術が望まれている。
【非特許文献1】
海洋油流出対応,国際タンカー船主汚染防止連盟(Response to Marine Oil Spills, The International Tanker Owners Pollution Federation Ltd.1993石油連盟,p.I3-I5, 東京, 1997」
【非特許文献2】
「月刊海洋」第30巻10号(1998)第613 - 621頁」
【非特許文献3】
「Marine Pollution Bulletin」第26巻(1993)第476-481頁」
【非特許文献4】
「Crit. Rev. Microbiol.」第19巻(1993)第217-242頁」
【非特許文献5】
「石油と微生物」第 1号(1968)第2-24頁」
【非特許文献6】
「石油製品の品質と規格」(1997)第142-153頁」
【非特許文献7】
「Microbiol. Rev. 」第54巻(1990)第305-315頁」
【非特許文献8】
「Advances in Microbial Ecology (ed. K.C. Marshall), PlenumPress, New York」第12(1992)第287-338頁」
【非特許文献9】
「平成10年度環境保全研究成果集、環境庁企画調整局環境研究技術課編」(1999)第48-II, 1-9,頁」
【非特許文献10】
第14回日本微生物生態学会大会講演要旨集、P.41、1998
【非特許文献11】
「J. Fer. Bioeng.」第82巻(1996),第570-574頁」
【非特許文献12】
「Int. J. Syst. Bacteriol.,第45巻(1995)第116-123頁」
【非特許文献13】
「Appl. Environ. Microbiol.第65巻(1999)第251-259頁」
【非特許文献14】
「Appl. Environ. Microbiol.」第 67巻(2001)第5585-5592頁」
【非特許文献15】
「Int. J. Syst. Evol. Microbiol.,第51巻(2001)第61-66頁」
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に、流出石油あるいは廃棄物等に含まれるPAH等の環境汚染物質を分解する能力を有するSphingomonas属に属する新種の細菌、該環境汚染物質で汚染された水または土壌の浄化方法を提供することにある。また、本発明はSphingomonas属に属する上記新種細菌、あるいはPAH等の環境汚染物質分解能を有する有用細菌の検出、定量方法、石油、廃棄物等による有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価、診断する方法、ならびにバイオレメディーエション技術による有害物質汚染環境の浄化・修復過程を解析・評価する方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を行った結果、日本海流出重油汚染沿岸海域の海水からPAH分解能を有するSphingomonas属に属する新種の細菌を見出し、さらに本細菌を特異的に検出、定量できる遺伝子プローブの作製に成功して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は新規微生物、および新規微生物を用いた石油等有害物質汚染環境の浄化方法、ならびに上記新規微生物、あるいはSphingomonas属に属する有用細菌の検出、定量方法を提供するものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0005】
(1)Sphingomonas sp. ANI7A菌株(FERMP−19095)またはSphingomonas sp. ANI7P菌株(FERMP−19096)
(2)配列番号1または配列番号2の塩基配列を有する16S rDNA。
(3)環境汚染物質で汚染された環境を上記(1)に記載の微生物で処理することを特徴とする、汚染環境の浄化方法。
(4)環境汚染物質が石油または石油由来のものである上記(3)に記載の方法
(5)上記(1)に記載の微生物を用いてアントラセンまたはフェナントレンを分解することを特徴とする、アントラセンまたはフェナントレンの分解方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
〔微生物〕
本発明の微生物は、日本海流出重油汚染沿岸海域の一つである石川県沿岸の最も汚染された地点の海水試料から単離したことに基づくに基づく。これにより得られた菌株は具体的には、ANI7A 菌株(受託番号FERMP-19095)とANI7P菌株(受託番号FERMP-19096)の2種である。これらの菌株は天然海水、好ましくは無菌的に採取した海水を微生物源として、例えばPAHを唯一の炭素源・エネルギー源としてNSW培地(表2;T. Higashihara, A. Sato and U. Shimizu: An method for the enumeration of marine hydrocarbon degrading bacteria. Bulletin of Japanese Society of Scientific Fishiereies, 44, 1127-1134, 1978)を用いた集積培養法により分離したものである。詳細な分離法を実施例1に示した。
【0007】
ANI7A 菌株およびANI7P菌株は、いずれもアントラセン(AN)、フェナントレン(PHE)等のPAHを分解することができる。以下これらの菌株の表現形質による分類・同定や16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析について説明する。
ANI7A菌株の菌学的性質を表1に示した。
【表1】
Figure 0004065942
これらの菌学的性質に基づき、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology, Volume 1(1984) ( Krieg, N. R., and Holt, J. G.: Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology Vol. 1. Williams & Wilkins, Maryland , 1984) およびBergey's Manual of Determinative Bacteriology, Ninth Edition (1994) (Holt, G., Krieg, N.R., Sneath, P.H.A., Staley, J.T., and Williams, S.T. (eds.): Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th ed.). Williams and Wilkins, Maryland, 1994)
を参考にして分類・同定を行った結果、ANI7A菌株はSphingmonas属に属する細菌と同定された。
【0008】
次ぎに、ANI7A菌株とANI7P菌株について述べる。
Aタイプコロニー(実施例1参照)から得られた純培養株、ANI7A菌株のコロニー形態(NSW+AN二層培地(表2)、20℃、26日培養)は、コロニー形状:円形(circular)、大きさ:2.0mm、表面:平滑(smooth)、隆起状態:半レンズ状(convex)、周縁:全縁(entire)、色調:light brown(コロニー中心部の色調が縁部より濃い)であった。一方、Pタイプコロニーからの純培養株、ANI7P菌株の上記培養条件下でのコロニー形態は、コロニー形状:円形(circular)、大きさ:1.8 mm、表面:平滑(smooth)、隆起状態:半レンズ状(convex)、周縁:全縁(entire)、色調:light brown(コロニー色調は全体に均質で光沢がある)であった。このようにANI7A菌株とANI7P菌株のコロニー形態は類似しているが、コロニーの色調、光沢が異なり、また培地の種類や培養期間によっては両菌株のコロニーの隆起状態が異なっていた。
【0009】
上記のようにANI7A菌株とANI7P 菌株のコロニー形態は若干違っていた。しかし、両菌株の16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析を行った結果、両菌株の16S rDNAの塩基配列の相同性は99.7%であつたことから、ANI7A菌株とANI7P 菌株は同一種と推定された。ANI7A菌株およびANI7P 菌株の16SrDNAの塩基配列を配列表の配列番号1と2に示した。また、図1にANI7A菌株およびANI7P 菌株の分子系統樹を示した。
【0010】
なお、表現形質に基づく分類・同定は、本発明者らが開示している「重油分解方法」(特開2001-37466公報(公開日2001.2.13)およびR.M.Smibert and N.R.Kreig: Phenotypic Characterization. Methods for General and Molecular Bacteriology (P.Gerhardt, R.G.E.Murray, W.A.Wood and N.R.Krieg),p.607-654, American Society for Microbiology, Washington,D.C.(1994)に述べている方法に準じて行った。また、16S rDNAの配列決定は本発明者らが開示している「新規低温細菌を検出するためのDNAプローブ」(特開2000-333680公報(公開日2000.12.5)に述べている方法に準じて行った。さらにDNAデーターベースより入手したSphingomona属および代表的な微生物種の塩基配列を並列させてアライメント処理を行い、比較不能なギャップを取り除いた後、NJ法により分子系統解析を実施した。得られた系統樹の各分岐の確度は、100回のブーストラップ解析により算出した(Maruyama, A., D. Honda, H. Yamamoto, K. Kitamura and T. Higashihara : Phylogenetic analysis of psychrophilic bacteria isolated from the Japan Trench, including a description of the deep-sea species Psychrobacter pacificensis sp. nov. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology. 50, 835-846, 2000)。
【0011】
ANI7A菌株およびANI7P 菌株の分子系統樹の位置は表現形質による分類位置と同様に、Sphingomonasに属することを示した。さらにANI7A菌株と最も分子系統的に近縁なSphingomonas subarctiaと本菌株の16S rDNAの相同性は95.8%であつた。
一方、「細菌の種は系統的にほぼ70%またはそれ以上のDNA-DNA相同性を示す菌株である」と定義されている(国際細菌分類命名委員会特別委員会報告、L. G. Wayne, D. J. Brenner, R. R. Colwell, P. A. D. Grimont, O. Kandler, M. I. Krichevsky, L. H. Moore, W. E. C. Moor, R. G. E. Murray, E. Stackebrandt, M. P. Starr and H. G. Truper: Report of the ad hoc committee on reconciliation of approaches to bacterial systematics. International Systematic Bacteriology, 37, 463-464, 1987)が、Stackerbrandtらは、上記定義におけるDNA-DNA相同性と16SrDNAの相同性との関係について、DNA-DNA相同性と16SrDNAの相同性の比較からDNA-DNA相同性70%以上のものと16SrDNAの相同性97%以上のものは対応するとし、16S rDNAの相同性97%以上のものを同一の種とみなされると述べている(Stackebrandt, E. and Goebel, B. M.: Taxonomic note: a place for DNA-DNA reassociation and 16SrRNA sequence analysis in the present species definition in bacteriology. Int. J. Syst. Bacteriol., 44, 846-849, 1994)。
【0012】
以上のことから、ANI7A菌株およびANI7P 菌株はSphingomonas 属の新種として、Sphingomonas 属ANI7A菌株およびANI7P菌株と命名した。
これらの菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号FERMP-19095(Sphingomonas 属ANI7A菌株)および受託番号FERMP-19096(Sphingomonas 属ANI7P菌株)として寄託されている。
また、上記の16S rDNAの相同性と種の関係からみれば、ANI7A菌株または ANI7P菌株と16SrDNAの相同性において97%以上の菌株であれば、これら菌株と同一種とみなされ、本発明に包含される。
【0013】
〔Sphingmonas属微生物の機能〕
Sphingmonas属はYabuuchiらによつて1990年に提唱された新属で、細胞膜にスフィンゴ糖脂質を有し、キノン系はユビキノンQ10で、黄色のカロチノイド色素(Nostoxanthin)を生成すことが特徴としてあげられている(Yabuuchi, E., Yano, I., Oyaizu, H., Hashimoto, Y., Ezaki, T., and Yamamoto, H.: Proposals of Sphingomonas paucimobilis gen. nov. and comb. nov., Sphingomonas parapaucimobilis sp.nov., Sphingomonas yanoikuyae sp. nov., Sphingomonas adhaesiva sp. nov. , Sphingomonas capsulata comb. nov., and two genospecies of the genus Sphingomonas. Microbiol. Immunol., 34, 99-119, 1990)。
最近、Sphingmonas属細菌は、ビフェニール(BP)等環境ホルモン、クロロフェノール、ヘキサクロロシクロヘキサン等の有機塩素化合物、キシレン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素、除草剤等の農薬、ポリエチレングリコール等の合成高分子化合物など非常に広範な種々の環境汚染物質に対する強力な分解能を有することが明らかにされるとともに、さらに新たな環境汚染物質分解能の発見が期待されることなどから世界的に注目されている(Sphingmonas属細菌の最新の知見をまとめた特集号、「The genus Sphingomonas」、Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 23(No.4/5), 231-445, 1999)。我が国においても、Sphingmonas属細菌は、きわめて強力な有害環境汚染物質の分解能を有し、バイオレメディエーションの切り札として注目されている細菌群であることから、環境浄化にSphingmonas属細菌の能力を利用する研究を進展させるため、この細菌の生態(構造と機能)、分解能(酵素と遺伝子、分子育種)、使用法(汚染源への細菌導入または栄養源供給)、工学的側面(増殖制御、環境制御、複合微生物系制御)等の総合的研究(文部科学省、科学研究費補助金、特定領域研究)の提案に向けての調査研究が行われている(シンポジウム 科学研究費補助金基盤研究(C)(企画調査)「スフィンゴモナス属細菌を用いる環境浄化システム構築基盤−スフィンゴモナス属細菌とバイオレメディーエション」講演要旨集、2001)。また、このシンポジウムを端緒に「環境微生物研究会(スフィンゴモナス研究会)」が設立された。
【0014】
海洋環境から単離されたSphingomonas 属のPAH分解細菌としては、PHE分解細菌(Komukai-Nakamura, S., Sugiura, K., Yamauchi-Inomata, Y., Toki, H., Venkateswaran, K. , Yamamoto, S., Tanaka, H., and Harayama, S.: Construction of bacterial consortia that degrade Arabian light crude oil. J. Fer. Bioeng., 82, 570-574 , 1996、 Berardesco, G., Dyhrman, S., Gallagher, E. and Shiaris, M.P.: Spatial and temporal variation of phenanthrene-degarding bacteria in intertidal sediments. Appl. Environ. Microbiol., 64, 2560-2565, 1998)や2-methyphenathrene分解細菌が知られている(Gilewicz, M., Nimatuzahroh, Nadalig, T., Budzinski, H., Doumenq, P., Michotey, V., and Bertrand, J. C.: Isolation and characterization of a marine bacterium capable of utilizing 2-metylpheanathrene. Appl. Microbiol. Biotechnol., 48, 528-533 1997)。また、海洋環境から得られたSphingomonas 属細菌の中にはPAH以外にトルエン、キシレン等芳香族炭化水素など各種の炭化水素を分解する細菌が報告されている(R. Cazicchiol, F. Fegatella, M. Ostrowski, M. Eguchi, J. Gottschal: Sphingomonads from marine environments, Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 23, 268-272, 1999)。さらに、Sphingomonas aromaticiborans F199菌株はトルエン、o, m, p-キシレン、p-クレゾール、ナフタレン、ビフェニール(BP)、ジベンゾチオフェン、フルオレン、サリチル酸、安息香酸などを分解し、一種一菌株で多様な有害物質分解能を有している(J.K. Fredrickson, F. J. Brockman, D. J. Workman, S. W. Li and T. O. Stevens: Isolation and characterization of a subsurface bacterium capable of growth on toluene, naphthalene, and other aromatic compounds, Appl. Environ. Microbiol., 57, 796-803, 1991; J.K. Fredrickson, D. L. Balkwill, G. R. Drake, M. F. Romine, D. B. Ringelberg and D. C. White: Aromatic-degrading Sphingomonas isolates from the deep subsurface, Appl. Environ. Microbiol., 61, 1917-1922, 1995; D. L. Balkwill, G. R. Drake, R. H. Reeves, J.K. Fredrickson, D. C. White, D. C. Ringelberg, D. P. Chandler, M. F. Romine, D. W. Kennedy and C. M. Spadoni, Taxonomic study of aromatic-degrading bacteria from deep-terrestrial-subsurface sediments and description of Sphingomonas aromaticvorans sp. nov., Sphingomonas subterranea sp. nov. and Sphingomonas stygia sp. nov., Int. J. Syst. Bacteriol., 47, 191-201, 1997)。
【0015】
本発明のANI7A菌株およびANI7P菌株は、日本海重油流出事故で汚染された沿岸海域の海水試料から分離された微生物で、いずれもアントラセン(AN)やフェナントレン(PHE)の分解能を有していることから、現場油濁海域の浄化に働いているものと推察された。また、ANI7A菌株およびANI7P菌株の近縁種Sphingomonas subarctiaはポリクロロフェノール分解細菌であることが報告されている(Nohynek, L. J., Nurmiaho-Lassila, E. L., Suhonen, E. L., Busse, H. J., Mohammadi, M., Hantula, J., Rainey, F. and Salkinoja-Salonen, M.S: Description of chlorophenol-degrading Pseudomonas sp. strains KF1, KF3, and NKF1 as new species of the genus Sphingomonas, Sphingomonas subarctica sp. nov. Int. J. Syst. Bacteriol., 46, 1042-1055, 1996)。
【0016】
上記のことから、本発明のSphingomonas属に属する新種の微生物は、PAHを含む石油や有害物質の分解能を有し、これらにより汚染された環境の浄化に利用できるきわめて有用な微生物である。また、Sphingomonas属細菌は上述のように非常に広範な環境汚染物質に対する強力な分解能を有することから、本発明のSphingomonas属の新種の微生物もPAH 分解能以外に環境ホルモン、有機塩素化合物、農薬、合成高分子化合物などの有害環境汚染物質分解能を有するものということができ、極めて有用な微生物であり、有害物質で汚染された環境浄化に利用することができる。
【0017】
〔他の微生物〕
次ぎに、油濁環境や有害物質汚染環境の浄化に本微生物を利用する場合は、本発明の微生物を単独で使用してもよく、また本発明の微生物と例えば脂肪族炭化水素分解細菌Alcanivorax属細菌や公知の炭化水素分解微生物、また有害環境汚染物質分解能を有する微生物と混合して環境汚染物質分解微生物コンソーシアとして利用することもできる。さらに、石油等有害汚染物質の分解効率を促進するため、本発明の微生物を含む分解微生物コンソーシアに、有害汚染物質の中間分解物や代謝産物を分解する非有害汚染物質分解微生物を加えた複合微生物系を構築し、利用することもできる。
【0018】
〔培地〕
本発明の微生物や本発明の微生物を含む環境汚染物質分解微生物コンソーシアの培養に用いる培地は、これらの微生物が良好に増殖し、かつPAH分解能や環境汚染物質分解能が発現できる培地であれば、いかなる組成の培地でもよい。炭素源としては、PAHを唯一の炭素源・エネルギー源として用いることができるが、PAHを含む原油、灯油、軽油、重油等の石油製品、船舶や工場からの流出油なども利用することができる。さらに、炭水化物、ピルビン酸のような有機酸、廃糖蜜なども用いることができる。これらはPAHや石油類と混合して用いると効果的な場合もある。また、疎水性のPAHや石油類を微生物によって分解され易くするため、これらにTween 80のよう界面活性剤を添加し、さらに超音波発生機にて乳化・分散させる場合もある。PAHを微量なエタノールやアセトンに溶解して添加することもできる。窒素源としては、微生物に利用される有機・無機化合物であればよい。有機窒素源としてはペプトン、肉エキス、コンステイプリカー、脱脂大豆、カゼンインなどが、無機窒素源としてはアンモニウム塩、硝酸塩、尿素などが利用できる。無機塩類としては、各種のリン酸塩、塩化ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、カルシウム、亜鉛、モリブデンなどを添加してもよい。また、増殖因子として、ビタミン類、アミノ酸類があり、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、コンステイプリカーなど前記栄養因子を含有する天然有機栄養物を添加してもよい。
なお、これらの微生物を効率よく大量に培養するときは、必ずしもPAH等環境汚染物質を含む培地で培養する必要はなく、Marine Broth (Difco) やNutrient Broth (Difco) のような有機栄養培地でもよい。
【0019】
〔培養方法〕
培養は好気的条件、例えば振とう培養法、通気撹拌培養法が好適であるが、適宜液体静置培養を組み合わせてもよいし、また液体静置培養でもよい。培地のpHは5-9、好ましくは6-8であればよい。培養温度は15-37℃、好ましくは20-30℃であればよい。
【0020】
〔本発明の微生物を用いた環境汚染物質の分解手段〕
本発明の微生物および本発明の微生物を含有する石油等環境汚染物質分解微生物コンソーシアを用いた浄化方法としては、PAHを含む石油等の環境汚染物質に汚染された海洋、湖沼、河川、廃液などに、これらの微生物の培養液、生菌体、凍結乾燥菌体を散布すればよい。この場合、有機または無機の窒素、リンなどの栄養源とこれらの微生物を混合した栄養・微生物製剤として、また本発明者らが開示したアルギン酸を用いた栄養源含有固定化担体(特開2001-37466、公開日:2001.12.13)、ポリアクリルアミドゲル、ポリウレタンフォームなど公知の微生物固定化担体を用いて、これらの微生物を固定化した各種の微生物製剤を利用することができる。この場合栄養源とこれらの微生物を同時に固定化した方が好ましい。
【0021】
〔環境汚染物質分解微生物の検出、定量、スクリーニング、同定及び環境評価方法〕
次ぎに、核酸プローブやそれを用いた石油等有害環境汚染物質分解微生物の検出・定量方法、スクリーニング方法、同定方法、およびこの検出・定量法を用いた有害汚染物質汚染のモニタリング、解析・評価方法などについて説明する。
先に述べた汚染物質分解微生物を用いた環境調和型の生物学的環境浄化技術、すなわちバイオレメディエーション技術には,一般に海等の汚染環境に欠乏している窒素(N),リン(P)などの栄養製剤を散布し,現場に生息している土着分解微生物の活性を高める方法(バイオスティミュレーション,Biostimulation)と分解微生物製剤等を散布する方法がある(バイオオーギュメンテーション,Bioaugmentation)(R. M. Atlas and R. Bartha: Hydrocarbon Biodegradation and Oil Spill Bioremediation. Advances in Microbial Ecology (ed. K.C. Marshall), PlenumPress, New York, 12, 287-338,1992、K. Lee et al.: Bioaugmentation and biostimulation: a paradox between laboratory and field results. In Proceedings of the 1997 International Oil Spill Conference, p 697-705, American
Peteroleum Institute,Washington.D.C., 1997 )。この環境浄化技術を確立するためには、栄養源や微生物を散布した場合、現場環境における石油等有害物質分解微生物を定性的、定量的に把握し、汚染浄化に関与する微生物群集の挙動や機能を解明する必要がある。これまでに、石油で汚染された沿岸海域や航路海域に石油分解微生物が最も多く分布していることが報告されている(Atlas, R. M.: Microbial degradation of petroleum hydrocarbons: an environmental perspective. Microbial. Rev., 45, 180-209, 1981)。
例えば、一般に非汚染海域に分布する炭化水素分解微生物の割合は全微生物数の1%以下であるが、油濁海域ではその比率がしばしば10%以上なるといわれている(R. M. Atlas: Petroleum biodegradation and oil spill bioremediation, Marine Pollution Bulltetin, 31, 178-182, 1995、R. M. Atlas and R. Bartha: Hydrocarbon Biodegradation and Oil Spill Bioremediation. In: Advances in Microbiolbial Ecology, Ed. K. C. Marshall, PlenumPress, New York, 12, 287-338, 1992)。 一般に微生物群集全体に占める分解微生物の割合は石油等有害物質汚染の程度を反映し、その指標になるといわれている(Atlas, R. M.: Microbial degradation of petroleum hydrocarbons: an environmental perspective. Microbial. Rev., 45, 180-209, 1981)。
【0022】
また、木材処理施設から排出されるクレオソート(約85%の多環芳香族炭化水素 [PAHs] を含有する)で汚染された港湾の堆積物中のPAH分解菌数が調査されている(A. D. Geiselbrecht et al: Enumeration and Phylogenetic Analysis of Polycyclic Aromatic Hydrocarbon-Degrading Mairne Bacteria from Puget Sound Sediment, Appl. Environ. Microbiol., 62, 3344-3349, 1996)。それによると、MPN培養計数法により計数された、PAH分解菌数は、汚染サイトで104〜107 MPN/g (乾燥重量)、非汚染サイトで103〜104 MPN/g (乾燥重量)であった。一方、堆積物中の全菌数は109 /g (乾燥重量)程度で、汚染サイトと非汚染サイト間でほとんど差がみられなかったという。すなわち、クレオソート汚染サイトでは、PAH分解菌が非汚染サイトの10-1000倍多いというだけでなく、全微生物群集に占める割合も1%程度にまで増大していた。このように、環境が汚染されたことを反映して微生物群集に占める分解菌群の割合が増大していることが見出されており、分解菌の比率は汚染環境のよい指標になると考えられる。
【0023】
しかし、従来の石油やPAH等の有害物質分解微生物の計数法は、上記報告のように平板培養法やMPN(最確数)法を用いた培養法によるものである。この培養法は、いずれも多大な労力と時間を要する。また、寒天平板培地を用いる計数法では, 炭化水素無添加の対照培地において,試料中の細菌が寒天中の不純物を利用して増殖し, コロニーを形成する。微量の増殖因子として酵母エキス(0.01%)を添加した寒天平板培地を用いた計数では、炭化水素培地と炭化水素無添加培地の両培地において微小なコロニーが生成し,その数やコロニーの大きさで炭化水素分解細菌と非分解細菌の違いを明らかにすることができなかったといわれている(T. Higashihara, A. Sato and U. Shimidu: An MPN method for the enumeration of marine hydrocarbon degrading bacteria, Bull. Japan. Soc. Sci. Fish., 44, 1127-1134, 1978)。以上のことから,炭化水素無添加の対照培地においても,寒天中の微量な有機物を利用してコロニーを形成する細菌が存在するため,寒天平板培地で特定の炭化水素分解細菌を選択的かつ正確に計数することは困難である。
加えて特定分解微生物を検出するには、寒天平板法にて目的微生物を分離し、分類・同定(属、種レベル)を行う必要があり、さらに長時間を要し多数の分離微生物を分類・同定することは困難である。さらに、自然界に生息する微生物の内、これら従来の分離・培養法で検出できる微生物の数は極めて少ない。すなわち、蛍光DNA染色剤で染色し顕微鏡下で計数する直接顕微鏡計数法(たとえば、J. E. Hobbie, R.J. Daley,and S. Jasper: Appl. Environ. Microbiol. 33:1225-1228, 1977やK. G. Porter and Y. S. Feig: Limnol. Oceanogr. 25: 943-948, 1980)で得られた全菌数と比較して、分離・培養可能な微生物の割合は1%以下でしかないと考えられる(R. I. Amann, W. Ludwig and K-H. Schleifer: Phylogenetic Identification and In Situ Detection of Individual Microbial Cell without Cultivation, Microbial. Rev., 59, 143-169, 1995)。したがって、従来の培養法では現場環境中に生息する微生物の1%程度を対象とした特定分解微生物や微生物相の調査しかできず、環境微生物群集中の分解微生物が十分に反映されていないという大きな欠点があった。
【0024】
近年 、分子生物学的手法に基づく分子微生物生態学が発展し 、従来のように分離・培養法に依存せず 、分子・細胞レベルで 、環境中の微生物群集構造や多様性の解析が可能になってきている(I. M. Head, J.R. Saunders and R. W. Pickup: Microbial evolution, diversity,and ecology: a decade of ribosomal RNA analysis of uncultivated microorganisms, Microb. Ecol., 35, 1-21, 1998. 渡辺一哉, 二又裕之:環境中で働く微生物, 化学と生物, 38,230-236, 2000、丸山明彦:海洋微生物の分子・細胞レベルでの解析,海洋微生物,月刊海洋,号外No.23, 162-170, 2000、
浦川秀敏,大和田紘一:核酸を用いた培養に依存しない微生物群集解析手法,海洋微生物,月刊海洋,号外No.23, 176-182, 2000)。この分子生物学的手法による微生物群集解析手法は 、石油等の有害物質汚染環境やバイオレメディエーション技術による環境修復過程の分解微生物群の挙動や微生物群集構造の変遷を把握するために必要不可欠であり、最近それらの技術が開発されつつある。
最近、全微生物や環境汚染物質分解微生物等の特定微生物を対象として、それらに特異的なDNAプローブを用い、従来の分離・培養法に依存しない分子遺伝学的な検出および定量化が試みられている。 例えば、分離・培養法によらず細胞レベルで分解微生物等の特定微生物を検出する場合には、蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH法:fluorescence in situ hybridization)が用いられている(R. I. Amann, W. Ludwig and K-H. Schleifer: Phylogenetic Identification and In Situ Detection of Individual Microbial Cell without Cultivation, Microbial. Rev., 59, 143-169, 1995)。すなわち、DNAプローブを用いて、FISHを行うことにより 、微生物群集中の特定の分解微生物細胞のみを特異的に検出・計数することができる。直接顕微鏡計数法で求めた全菌数と比較することにより 、全微生物群集中の 特定微生物の定量的比率を算出することができる。さらに、水環境試料を対象とし、細胞レベルで全群集に占める分解微生物等の特定微生物の割合を解析する場合には、FISH-DC法が有効である(A. Maruyama and M. Sunamura: Simultaneous direct counting of total and specific microbial cells in seawater, using a deep-sea microbe as biomarker. Applied and Environmental Microbiology, 66: 2211-2215, 2000)。また、DNAプローブを用いた分子レベルでの特定分解微生物の定量的解析手法としては 、核酸ハイブリダイゼーション法がある(D. A. Stahl, B. Flesher, H. R. Mansfield and L. Montgomery : Use of phylogenetically based hybridization probes for studies of ruminal microbial ecology. Appl. Environ. Microbiol., 54, 1079-1084, 1988)。この方法は環境試料や微生物試料から核酸を抽出し 、核酸試料をナイロン膜フィルター上に固定し 、次ぎに放射性同位体(RI)等で標識したDNAプローブを加えて 、ハイブリダイゼーションを行い 、膜上に固定さている核酸と相補的に結合した標識プローブの放射能強度等を測定し 、プローブと特異的に結合した核酸濃度から特定微生物の定量化をはかる方法である。
【0025】
最近 、丸山らはRIを用いない蛍光ドットブロットハイブリダイゼーション法による相対分子定量法を開発している(A.Maruyama, K, Kitamura, H. Ishiwata, M. Matsuo, T. Higashihara, and R. Kurane: Molecular specification and quantification of predominant microbes in oil contaminated seawater. 9th International Symposium on Microbial Ecology(Amsterdam), Abstract, p.375, 2001、丸山明彦:分離培養困難な環境微生物へのアプローチ,バイオサイエンスとインダストリー, 60, 31-34, 2002)。
以上のようなことから、本発明においては、本発明の上記新規微生物を特異的に検出・計数することが可能なDNAプローブを新たに作製している。以下DNAプローブを作製する工程について説明する。
【0026】
〔プローブ〕
ANI7A菌株または/およびANI7P 菌株の各16S rDNA(ANI7A菌株;配列番号1、ANI7P 菌株;配列番号2)の塩基配列情報に基づいて、種々の用途に適したRNAおよびDNAプローブを設計することができる。プローブの塩基配列および長さは検出、定量、スクリーニング、あるいは同定の対象とするSphingomonas 属微生物の範囲に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の上記新種の微生物のみをスクリーニングしたい場合には、該微生物の16S rDNAの特異的部分の塩基配列によりプローブを設計すればよく、さらに近縁種をも含めてスクリーニング範囲を広げたいときには、近縁種の16S rDNAと共通な塩基配列部分を含むよう例えば塩基配列の長さを短縮する等プローブを設計する、また、塩基配列部分の選択あるいはその長さを調節することによりさらに、プローブの菌株特異性を低下させれば、さらに広い範囲の有用細菌をスクリーニングすることができる。
本発明のプローブは 例えばFISH法(fluorescence in situ hybridization)により、試料(例えば、石油等有害物質で汚染された海、河川、湖沼、排水・廃液などの環境試料水)中、あるいは多数の微生物群の中から、Sphingomonas属に属する、本発明の上記新種微生物、その近縁種、あるいは該近縁種の石油分解細菌を検出および/または定量したり、また、スクリーニングするためには、例えば、配列番号1の塩基配列の塩基番号 565-615の領域(Escherichia coliの16S rDNAの塩基配列における5’末端からの位置(ナンバーリングシステム)では、630-680の領域)などから選択される領域に対応する塩基長10-50bp、好ましくは塩基長15-25bpのプローブを設計するとよい。一例として以下のプローブを挙げることができる。
Figure 0004065942
(なお、*(数字)はEscherichia coliの16S rDNA塩基配列における5'末端からの位置(ナンバーリングシステム)を示す(Noller H. F. and C. R. Woese, 1981. Science, 212:403-411)。
プローブは、公知の方法、例えば、ホスホルアミド法またはトリエステル法により合成することができる。あるいは、DNA自動合成機により合成してもよい。
【0027】
また、プローブは、アイソトープ(32P、35Sなど)、蛍光色素(ビオチン/アビジン、ジゴキシゲニン/抗ジゴキシゲニン-ローダミン、
Fluorescein-isothiocyanate (FITC)、LuciferYellow CH、Rhodamine 123、Acridine orange、Pyronin Y、Ethidium bromide、Propidium iodide、Ethidium homodimer、BOBO-1、POPO-1、TOTO-1、YOYO-1、Carboxyfluorescein diacetate (CFDA)、Fluorescein diacetate (FDA)、Carboxyfluorescein diacetate-acetoxymethylester (CFDA-AM)、5-cyano-2,30ditolyl tetrazolium chloride (CTC)、Tetramethylrhodamine isothiocyanate(TRITC)、Sulforhodamine 101 acid chloride (Texas Red)、Cy3、Cy5、Cy7、2-hydroxy-3-naphtoic acid-2'-phenylanilide phosphate (HNPP)など)、化学発光などで標識するとよい。
【0028】
〔Sphingomonas属の有用細菌のスクリーニング及び検出、定量〕
本発明のRNAまたはDNAプローブを用い、種々のハイブリダイゼーション法(サザンブロット法、ノーザンブロット法、コロニーハイブリダイゼーション、ドットハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション(例えば、FISH法)などにより、Sphingomonas属に属する、本発明の新種微生物、その近縁種、あるいは該近縁種の石油分解細菌種の石油分解細菌を検出及び/または定量したり、スクリーニングすることができる。
本発明のDNAプローブを用いて、石油や環境汚染物質で汚染された現場の水や海水から石油等汚染物質分解微生物を検出・定量する方法の一例について以下に説明する。有害物質汚染現場から水や海水試料を採取し、この試料中に存在する微生物をフィルター(孔径0.2μm)に固定し、これを蛍光色素等で標識した配列番号3の塩基配列を有するDNAプローブとハイブリダイズさせ、プローブを洗い落とした後、蛍光顕微鏡で観察して、DNAプローブとハイブリダイズし、標識した蛍光を呈している特定の分解微生物を選択的に検出または計数を行う。
上記したように、環境が汚染されれば、分解菌群の割合が増大してくるのでこれにより、環境汚染の指標とすることが可能となる。
【0029】
また、本発明のDNAプローブを用い、コロニーハイブリダイゼーション手法、ブロットハイブリダイゼーション手法、フローサイトメトリー法などにより、多数の微生物群の中からSphingomonas属の本発明の新種の微生物およびその近縁種、およびSphingomonas属の石油分解細菌、とくにSphingomonas属の本発明の新種の微生物およびその近縁種の石油分解細菌をスクリーニングすることができる。
【0030】
〔Sphingomonas属菌の同定〕
さらに、配列番号1または2の塩基配列情報や配列番号3、4または5を用いて、Sphingomonas属の本発明の新種の微生物およびその近縁種、およびSphingomonas属の本発明の新種の微生物およびその近縁種の石油等有害物質分解細菌を同定することができる。例えば、配列番号1または配列番号2の塩基配列との相同性、または請求項5〜7いずれかに記載のRNAまたはDNAプローブを用いたDNA/DNAまたはDNA/RNAハイブリダイゼーションにより同種の菌であることが同定できる。さらに、上記プローブの塩基配列(DNA断片)をプライマーとして用いて、PCRを行うことによって菌種の同定を行うこともできる。すなわち、同定の対象となる菌体を溶菌して、上記プローブの塩基配列をもつDNA断片をプライマーとして添加した後、PCR増幅する。そのPCR産物を電気泳動等により16S rDNAの増幅が確認されれば、対象とした菌には、用いたDNA断片に相補的な遺伝子部分を有していることになる。すなわち、同種の菌であることが特定できる。
【0031】
〔有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価〕
石油等の有害物質汚染環境の指標となる特定の分解微生物の挙動、およびそれが全微生物群集に占める割合(優占度)を、簡単、迅速にモニタリングすることが可能になれば、汚染の程度、および汚染環境の修復、回復の程度などを、その汚染環境の診断が高精度かつ早期に可能になる。 例えば、環境中に石油分解菌や
PCB分解菌がある時期に優占度が上昇していれば、その環境は石油やPCBで汚染されている可能性が高いと判断できるし、その微生物群集全体として石油やPCB分解能が高まっていると判定できる。さらに、その優占度の変化を長期間にモニタリングし、その変遷の周期性や季節性を把握しておけば、その変化が突発的なものかどうか、その負荷が船舶事故や工場排水の流入など人為的なものかどうかを推定できる。 本発明のDNAプローブを用いて、油濁環境中の全微生物群集中のPAH分解微生物の優占度を調べることにより、環境中の炭化水素成分、PAHの比率、濃度および消長など汚染の度合を把握でき、汚染物質の自然浄化過程やバイオ環境修復過程の解析・評価が可能になる。
【0032】
【実施例】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【実施例1】
1)PAH分解微生物の分離源試料
日本海重油流出事故で石川県沿岸域で最も汚染された地点、Stn.19(珠洲西海海岸、長橋)で1998年6月11日に採取された海水試料に無機栄養塩を加え系(SW+N+P)(表2-A)に0.5%C重油を添加して、20℃で65日培養し、分解試験を行った。
この65日の分解試験培養液中の分解細菌数のMPN計数培養(培地:表2-C)で、C重油で良好な増殖を示した希釈段階のもっとも高い試験管の培養液を、0.5%C重油を含む(SW+N+P)培地に接種し、20℃にて培養期間12-17日で3回集積培養を繰り返した後、さらにC重油を加えたNSW培地(表2-B)を用いて、前記同様に、培養期間9-17日で4回集積培養を繰り返した培養液を下記AN分解細菌の集積培養の種菌として用いた。
【表2】
Figure 0004065942
2) PAH分解細菌の集積培養
前記C重油集積培養液0.1mlを種菌として、0.1% (w/v) ANを添加したNSW培地(表2-B参照)10mlを含む大型試験管に接種し、20℃で8日間振とう培養によりAN分解細菌の集積培養を行った。
3) PAH分解細菌の分離に用いた平板培地と培養法
AN 分解細菌およびPHE分解細菌の分離は、0.1%(w/v)ANをNSW寒天培地に添加した(NSW+AN)平板培地(表2-D)、2%寒天NSW下層培地にANまたはPHEのエタノール溶液を添加した1%アガロースNSW上層培地を被せた二層平板培地(表2:NSW+AN二層培地、NSW+PHE二層培地)およびMarine Agar 2216 (Difco製) (MA)平板培地を用いて、20℃で平板培養により行った。なお、平板培地に形成されたコロニー形態は実体顕微鏡で観察した。
また、使用したNSW+AN二層平板培地は、以下の2%寒天NSW下層培地(1)に(シャーレ、直径9cm)、アントラセン(AN)を加えた1%アガロースNSW上層培地(2)5ml(約50℃保温)をすばやく添加して、下層培地表面全体に上層培地を均一に広げて調製したものである。
(1). 2%寒天NSW下層培地
表2NSW培地に2%濃度の寒天を添加した培地15-20mlを直径9cmのシャーレに加えて平板培地を調製する。
(2). AN添加1%アガロースNSW上層培地
1%アガロースを添加したNSW培地5mlを含む試験管をオートクレーブ滅菌後、約50℃に保温し、その試験管にろ過滅菌した0.1%ANエタノール(99.5%、脱水エタノール)溶液0.2mlを添加し、すばやく撹拌して均一に分散させる。
なお、本二層平板培地の調製法は下記文献に記載されている方法に準じて行った。
Bogardt, A. H. and Hemmingsen, B. B.: Enumeration of phenanthrene-degrading bacteria by an overlayer technique and its use in evaluation of petroleum-contaminated sites. Appl. Environ. Microbiol., 58, 2579-2582(1992).
NSW培地:文献参照(T. Higashihara, A. Sato and U. Shimizu: An method for the enumeration of marine hydrocarbon degrading bacteria, Bulletin of Japanese Society of Scientific Fishiereies, 44, 1127-1134, 1978)
【0033】
4)PAH分解細菌の分離
前記2)項のAN分解細菌の集積培養液を(NSW+AN)平板培地に塗抹し、20℃、8日間培養した。この平板培養培地に形成されたコロニーを釣菌し、さらにその分離菌株を (NSW+AN)平板培地とMA平板培地を用いて、平板分離培養を2回繰り返し、16菌株を分離した。なお、平板培養は20℃、16日間行った。
さらに、これらの分離菌株を、0.1%ANを添加したNSW培地5mlを加えたキャップ付ねじ口試験管(直径18mm)にて40日振とう培養を行った結果、ANの部分分解物と推定されるpale purplish pink系の色素を生成し、AN分解性が示唆されるANI7菌株を見出した。なお、本菌株はNSW+AN平板培養培地からの分離菌株である。
【0034】
5) ANI7菌株の純粋分離
上記ANI7菌株を0.1%ANまたは0.1%PHE を添加したNSW培地を用いて、約1ヶ月 - 1.5ヶ月間、振とう培養後、この培養液をMA平板培地に塗抹し、培養した結果、いずれの培養液においてもYellow系の色調の濃いコロニー(Aタイプ)と色調の薄いコロニー(P タイプ)の2種類のコロニーが混在していた。そこで、本菌株の純粋分離を行った。純粋分離は、MA平板培地、NSW+AN平板培地およびNSW+AN二層培地を用いた平板培養と0.1%ANまたは0.1%PHE を添加したNSW培地を用いた液体培養を数回繰り返すことにより行った。なお、AタイプはAN添加NSW培地、P タイプはPHE添加NSW培地を用いた液体培養系から、それぞれの純培養株としてANI7A菌株(受託番号FERM P-19095)とANI7P菌株((受託番号FERM P-19096)の分離に成功した。なお、分離菌株の純粋性試験には上記の平板培地以外に、NSW+PHE二層培地も用いた。
また、純粋分離したANI7A菌株とANI7P菌株は、いずれもAN添加NSW培地を用いた液体培養でAN の部分酸化物由来と推定されるPale pink-Pale purplish pink系の色素を、またPHE添加NSW培地ではDull yellow-pale yellow orange系の色素を生成した。さらに、両菌株のPAH分解性を調べた結果、いずれもANやPHEを分解することが確認された(実施例2参照)。また、ANI7A菌株については、ビフェニール(BP)を添加したNSW培地を用いた液体培養でBPの部分酸化物と推定されるPale yellow green-Pale yellow系の色素を生成した。
【0035】
【実施例2】
ANI7A菌株およびANI7P菌株のPAH分解試験には、炭素源として0.1%(w/v) ANまたは0.1%(w/v) PHEを添加したNSW培地(表2-B)を用いた。このANまたはPHEを添加したNSW培地5 mlをキャップ付ネジ口試験管(直径18mm)に、または前記NSW培地10mlをシリコセン付L字型試験管(直径18mm)に加え、20℃で振とう培養(45 rpm)を行った。
培養液中のANおよびPHEの定量は培養液と等量のジクロロメタンで2回抽出後、25ml定容量とした。この抽出液の一定量を下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。なお、内部標準物質としてはn-ヘキサデカンを用いた。
GCの分析条件(本体:島津GC-17A)
1. カラム
液相: TC-70(GLサイエンス製キャピラリーカラム); 長さ:30mx0.25mm;
液相の膜厚:0.25μm
2. キャリヤガス(N2)
流速:1ml/min
3. 測定条件
試料注入口温度:250 ℃
イニシャル温度:120 ℃
昇温速度:10 ℃/min (260 ℃まで);260 ℃で8min保持
検出器: FID
炭化水素の分解率は同一条件で振とう培養した菌無接種の対照培地中の残存炭化水素量を基準に求めた。なお、分解率は同一培養条件の試験管3本または4本の各分解率の平均値で示した。
【0036】
シリコセン付L字型試験管(直径18mm)にて20℃で60日振とう培養を行った場合、ANI7A菌株のANおよびPHEの分解率は8%と21%であった。また、キャップ付ネジ口試験管(直径18mm)を用いて、20℃、34日振とう培養を行った場合、ANI7A菌株のPHEの分解率は 22%であった。さらに、後者の培養条件下におけるANI7P菌株のPHE分解率は19%であり、ANI7A菌株とほぼ同程度であった。また、両菌株からなる微生物コンソーシアのPHE分解率は、後者の培養条件で23%で、各単一菌株の分解率と大差はなく、両菌株を組み合わせたコンソーシアによるPHE分解の促進効果はみられなかった。ANI7A菌株とANI7P菌株はコロニー色調は異なるが、分子系統解析からSphingomonas 属の同一種とみなされたことから、PHE分解能にも顕著な差はみられなかったものと推察された。
また、ANI7A菌株は、0.1%(w/v) BPを添加したNSW培地を用いたシリコセン付L字型試験管による前者の培養条件で、培養1日目からBPの部分酸化物と推定されるPale yellow green -Pale yellowの色素を生成した。、ANI7P菌株についてはこのBP分解試験を行わなかったが、上記したようにAN17A菌株とAN17P菌株とは、同じ細菌種で、ともにPHEを分解することから、AN17P菌株もBP分解能を有すると考えられる。
【0037】
【参考例1】
Sphingomonas sp. ANI7A菌株検出用DNAプローブの調製
石川県流出油汚染沿岸域より採取した試料から、集積培養を経て純粋分離に成功したPAH分解細菌Sphingomonas sp. ANI7A菌株(FERM P-19095)の16S rDNA塩基配列情報(配列番号1)の中から、Stahl and Amann (Development and Application of Nucleic Acid Probes. In: Nucleic Acid Techniques in Bacterial Systematics. Ed.: E. Stackebrandt and M. Goodfellow, John Wiley and Sons, Chichester, pp. 205-248, 1991)により示された高次構造による障害が見られないと考えられる領域から、この菌種に特異的な配列を選抜し、該配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、その5’末端をTRITCやCy5等の蛍光色素により標識化し、最終的に配列番号3に示した配列を有する非放射性標識DNAプローブ(SPG645)、配列番号4に示す非放射性標識DNAプローブ(SPG643)及び配列番号5に示す非放射性標識DNAプローブ(SPG634)を作製した。
【0038】
【参考例2】
実施例3記載のDNAプローブを用いたSphingomonas属微生物の検出、計数法実施例3の上記各DNAプローブの使用にあたっては、Sphingomonas sp. ANI7A菌株を標的微生物、Sphingomonas subterranea IFO16086(標準菌株)などを対象微生物とし、Maruyama and Sunamura(Simultaneous direct counting of total and specific microbial cells in seawater, using a deep-sea microbe asbiomarker. Applied and Environmental Microbiology, 66: 2211-2215, 2000)に記載した装置及び手法を用い、FISH法にて実際にその有効性を確認した。供試菌株の培養、固定及びハイブリダイゼーションの方法については、特開2000-333680に準じた。ただしこの際のハイブリダイゼーションは、50%ホルムアミド存在下で42℃で行い、洗浄処理は42℃で行った。試料の蛍光顕微鏡観察によるプローブの有効性を表3に示す。
【表3】
Figure 0004065942
【0039】
今回デザインしたプローブSPG645、 SPG643, およびSPG634の場合、UV励起では各細胞中 DNAにDAPIが普遍的に結合した結果として、DAPI由来の青色蛍光が ANI7A菌および対照菌株として供した2種類Sphingomonas subterranea (IFO16086) 、Psychrobacter pacificensis NIBH P2K18)とも観察することができた。しかし、同視野をG励起で観察すると、ANI7A菌株のみがプローブSPG645、SPG643、およびSPG634 と相補的な配列を持つため、プローブの5’末端をラベルしたTRITC由来の赤色蛍光を発した。
一方、Bacteriaドメインに特異的なプローブEUB338の場合は、B励起での観察においても、ANI 7Aおよび2種類の対照菌株とも、それぞれEUB338の5’末端をラベルしたFITC由来の緑色蛍光を発した。
以上のことから、今回、油濁環境由来の微生物16S rDNA塩基配列からデザインした3つのプローブは、ANI7A菌株またはその近縁種を特異的に検出する上で、その高次構造に起因する結合上の妨害も見られず、実際に大変有効であることが示された。
【0040】
【発明の効果】
本発明は、環境汚染物質、特に石油、廃棄物あるいはこれらに含まれるPAH等有害環境汚染物質の分解能を有するSphingomonas属に属する新規微生物を提供するものであり、本発明の新規微生物を利用して、上記環境汚染物質で汚染された海洋、湖沼、河川、廃液などを効率よく浄化することができる。また、本発明によれば、上記新規微生物の16S rDNA/RNA から調製したプローブにより、Sphingomonas属に属する上記環境汚染物質分解能を有する細菌の検出・定量を簡便迅速に行うことが可能となり、この細菌の検出・定量方法により、世界的な環境問題になっているPAH等有害物質汚染環境のモニタリング、解析・評価、診断、ならびにバイオレメディーエション技術によるPAH等有害物質汚染環境の浄化・修復過程を解析・評価することができるきわめて有益な技術を提供できた。
【0041】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】Sphingomonas sp.AN17A株、及び同AN17P株の各16SrDNAの分子系統解析に基づき作成された分子系統樹である。

Claims (5)

  1. Sphingomonas sp. ANI7A菌株(FERMP−19095)またはSphingomonas sp. ANI7P菌株(FERMP−19096)。
  2. 配列番号1または配列番号2の塩基配列を有する16S rDNA。
  3. 環境汚染物質で汚染された環境を請求項1に記載の微生物で処理することを特徴とする、汚染環境の浄化方法。
  4. 環境汚染物質が石油または石油由来のものである請求項3に記載の方法。
  5. 請求項1に記載の微生物を用いてアントラセンまたはフェナントレンを分解することを特徴とする、アントラセンまたはフェナントレンの分解方法。
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