JP4631109B2 - 育苗方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルトレイ等の育苗器、及びその育苗器を用いた育苗方法の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、育苗器において、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けたものがあり、この孔は、そこから潅水された水を排出するので水分過多による根腐れを防止するものとなる。ところで、図4に示されるように、例えば、育苗器aの苗収容部bの底部cが地面Gに接地した状態、或は、若干地中に押し込まれた状態として、水稲の苗を育苗器aの苗収容部bで育成する場合、苗の根Lが苗収容部bの底部cの孔dを通って地中に伸びる。これにより、苗は地中から適宜水分等を吸収できるので大きい苗に成育できる。しかし、これゆえに育苗器aは地面Gに強固に張りついた状態となる。そのため、育苗した苗を移植するため育苗器aを地面Gから取り上げるときには、地中に伸びた根を切って取り上げることになり、かなり労力を要する。なお、このときの根切りをしやすくするため従来金網eを育苗器aの下に予め敷いておいて育苗する方法がとられているが、これでも、根切りは結局必要であり、育苗器aの取り上げは容易でない。図4中、fは床部(床土)、gは種籾、hは苗の葉茎部を示す。
【0003】
そこで、特開平9−224487号公報に示されるように、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート(具体的には、銅化合物を含有させたシートで、その銅化合物により根の伸長が止められる)上に育苗器を置いて育苗することにより、苗の根が苗収容部の底部の孔を通って下方に伸びないようにした育苗方法が考えられた。なお、この育苗方法では、シート上に育苗器を置いて育苗すると苗収容部内の床部が乾燥しやすいので潅水を頻繁に行わなければならず育苗が容易に行えないので、特に乾燥し枯れやすい状態となりやすい育苗後半期では、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗することで、育苗が容易に行えるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報記載の育苗方法では、苗収容部の底部の底面は、上記シート上面に接触した状態で置かれていたので、苗の根は苗収容部の底部の孔から下方に出ることはほとんどない。そのため、移植時に育苗器を地面から取り上げるのは容易に行えるのだが、苗の根は苗収容部の底部の孔から下方に出ていないゆえに苗が苗収容部から抜けやすく、育苗器の搬送途中などで苗を落としてしまうことがあった。
【0005】
一方、従来のように苗の根が苗収容部の底部の孔を通って下方に伸びた状態に育苗した場合は、その下方に伸びた根を切って育苗器を地面から取り上げるが、切った根の端部は少し苗収容部の底部の孔から出た状態となる。その孔から出た根が、苗が苗収容部から抜けようとするときの抵抗となり、そのため、育苗器の搬送途中に苗が抜け落ちることは生じにくい。
【0006】
また、玉ねぎの苗では、水稲の苗ほど根は多く発生しないため、水稲の苗のように床部で根巻きを充分に起こさせることができなくなるので、機械移植を適確に行えるようにするため苗を苗収容部から取出したとき床部が崩れないよう凝固剤を用いて床部を固めることが移植する前に行われる。ここで、凝固剤として、アルギン酸ナトリウムを含むものを使用した場合、凝固剤を水に溶かして溶液とし、それを育苗器の苗収容部内の床土にかけると、アルギン酸ナトリウムが床土内のカルシュウム成分とイオン交換してアルギン酸カルシュウムとなり、これが糊状になって床土を固めることになる。ところで、圃場に移植後、苗の活着を良くし苗の初期成育を促進するため、また、移植時や移植直後に天候が悪く低温が続いた場合に成育を回復するため、移植する苗の床土に肥料を含ませておくと良い。しかし、床土に肥料を添加しておくと、肥料中のリン酸が床土内のカルシュウム成分と反応してリン酸カルシュウムが形成される。このため、肥料を添加した後で凝固剤により床土を固める場合、床土内のカルシュウム成分の多くが肥料のリン酸と結合してしまい凝固剤のアルギン酸ナトリウムが充分に形成されなくなる。したがって、充分に床土を凝固できない状況が生じる。また、床土を凝固剤で凝固させてから肥料を添加した場合は、床土が凝固しているため肥料が床土に充分に保持されず流出してしまい、肥料の効果を充分に得にくい。
【0007】
そこで、この発明は、育苗時に苗収容部の底部の孔から出た根が地中に伸びて育苗器が容易に取り上げられなくなることがないようにし、なお且つ、育苗器の搬送途中などで苗が苗収容部から抜け落ちにくいようにし、苗の初期成育を促進できるようにする育苗方法を得ることを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための方法及び手段】
この発明は、上記課題を解決するために、以下の方法及び手段を講じた。
まず、請求項1の発明は、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、育苗器の苗収容部内の床土に、リン酸を5%以下の含有比で含有する肥料を添加し、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤を供給することを特徴とする育苗方法としたのである。
【0009】
また、請求項2の発明では、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、育苗器の苗収容部内の床土に、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤の溶液中にリン酸を5%以下の含有比で含有する肥料を添加したものを供給することを特徴とする育苗方法としたものである。
【0010】
また、請求項3の発明では、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、リン酸を5%以下の含有比で含有する肥料の水溶液を育苗器の苗収容部内の床土に注入するか、或はリン酸を5%以下の含有比で含有する肥料の水溶液を貯めてそこに育苗器を漬け、その後、育苗器をアルギン酸ナトリウムを含む凝固剤の溶液中に浸すことを特徴とする育苗方法としたものである。
【0011】
【作用】
本発明の育苗方法によると、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けた育苗器を、底面が設置平面に接触せずに上方に浮いた状態で、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、該育苗器の下側を水に浸した状態で育苗するものとなる。すると、苗収容部で育成される苗の根は、苗収容部の底部の孔から出て上記シートに触れるまで伸びてそこで止まる。また、苗収容部の底部底面より下方に突出する突出部によって苗収容部の底部底面が設置平面に接触せずに上方に浮いた状態で設置される。
【0012】
【発明の効果】
本発明の育苗方法により、育苗器の苗収容部で育成される苗の根は、苗収容部の底部の孔から出て下方に伸びるが、上記シートに触れたところで止まりシート下方の地中には伸びないから、育苗器を容易に取り上げられ、なお且つ、育苗器の搬送途中などで苗が苗収容部から抜け落ちることが生じにくくなる。また、育苗器は、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設け、該底部の底面より下方に突出する突出部を設けて該突出部により苗収容部の底部底面が設置平面に接触せずに上方に浮いた状態で設置されるようにしたので、育苗器を設置平面に単に置くだけで、苗収容部の底部底面が設置平面に接触せずに上方に浮いた状態で設置でき、上記育苗方法を容易且つ適確に実施できる。
【0013】
そして、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤を用いて苗の床土を適度に凝固できて、機械移植する場合に、育苗器の苗収容部からの苗の取り出し及びその後の苗の移送、圃場への植え込みが適確に行えるようになり、しかも、その床土に肥料を含ませて、移植後の苗の活着を良くし苗の初期成育を促進でき、また、移植時や移植直後に天候が悪く低温が続いた場合に成育を回復させられ、良好な栽培が行えるようになる。
【0014】
【実施例】
この発明の実施例を図に示しながら以下詳細に説明する。
育苗器1は、ポット状の苗収容部2を多数、左右前後に整列した状態で設けていて、その苗収容部2の上端開口部2aは隣接する苗収容部2の上端開口部2aと連結した状態に設け、全体として平面視外形を長方形状に設けている。苗収容部2の底部2bには苗を苗収容部2から取出すときに苗押出し棒を挿し込むことでできるように孔2cを設けている。この育苗器1は、合成樹脂材料を成型して設けたもので可撓性を有し、長手方向においてある程度湾曲させられる。したがって、移植機に搭載した場合に、育苗器1を湾曲させて反転搬送しその湾曲部或はその付近で、苗収容部2の底部2bの底面側から苗押出し棒を機械的に挿し込んで苗を取出すことができ、また、育苗器1の上面側から箸状の苗抜き取り爪を床部に挿し込んでつまんで抜き取ることができる。なお、移植機を用いずに、作業者が苗の葉茎部Nを持って引き抜くこともできる。
【0015】
そして、この育苗器1は、上記のように苗収容部2の底部2bに上下に貫通する孔2cを設けたものであって、しかも、該底部2bの底面より下方に突出する突出部2dを設けて該突出部2dにより苗収容部2の底部2b底面が設置平面Bに接触せずに上方に浮いた状態で設置されるように設けている。
【0016】
突出部は、一例としては図2に示すように、各苗収容部2の底部2bの外周部から下方に筒状にのびる突出部2bとして設けられ、また、別例としては、育苗器1の上端開口部2aを連結する部分の下面から棒状のものを下方に複数本脚状に突出する突出部(図示省略)として設けられる。なお、図2に示すような突出部2bとすれば、設置面に起伏があっても、多数設けた苗収容部2のそれぞれが確実に設置平面Bに接触せずに上方に浮いた状態で設置できる。また、突出部2dが、苗収容部2の補強リブとして機能して、育苗器の強度アップも図れる。
【0017】
シート3は、苗の根Lが触れるとそこで根Lの伸長が止まるように機能するシートで、具体的には、銅化合物を含有するシートであり、その銅化合物が苗の根Lに作用してその伸長を止めるのである。
【0018】
そして、この発明では、苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けた育苗器を用いて図1、図2に示すように育苗する。
即ち、苗収容部2の底部2b底面が設置平面Bに接触せずに上方に浮いた状態で、根Lが触れるとそこで根Lの伸長が止まるように機能するシート3上に設置し、育苗器1の下側を水Wに浸した状態で育苗する。このようにして育苗すると、苗収容部2で育成される苗の根Lは、苗収容部2の底部2bの孔2cから出て上記シート3に触れるまで伸びてそこで止まる。
【0019】
なお、孔2cから出た部分の根Lの外周面から水平方向放射状に細いヒゲ状の根L’が伸びる。この根は、苗が苗収容部2から抜け落ちようとするときの抵抗を大きくする。
【0020】
よって、この育苗方法により、育苗器1の苗収容部2で育成される苗の根Lは、苗収容部2の底部2bの孔2cから出て下方に伸びるが、上記シート3に触れたところで止まりシート3下方の地中には伸びないから、育苗器1を容易に取り上げられ、なお且つ、育苗器1の搬送途中などで苗が苗収容部2から抜け落ちることが生じにくくなる。
【0021】
また、苗収容部2の底部2b底面が設置平面Bに接触せずに上方に浮いた状態でシート3上に設置するために、そのような状態で育苗器1をシート3上に支持する支持具を設けて上記のように設置しても良いが、上記突出部2dを設けた育苗器1を用いれば、育苗器1を設置平面Bに単に置くだけで、苗収容部2の底部2b底面が設置平面Bに接触せずに上方に浮いた状態で設置でき、上記育苗方法を容易且つ適確に実施できる。
【0022】
なお、育苗器1の下側を水に浸した状態で育苗するため、一例として図1に示すように、板材4や丸パイプ等を平面視方形状に枠組みして設置平面B上に設置し、その上に防水シート5を敷き詰めて構成したプール6を設けておく。このプール6内に、前記シート3を敷き、その上に育苗器1を載せて育苗する。育苗器1は、事前に各苗収容部2…内に床土等の床材7を詰め、種子(種籾)Sを播種しておく。このようにしてプール6内に水Wを入れれば、育苗器1の下側を水に浸した状態で育苗できる。なお、水Wは、播種後7〜10日の育苗初期段階ではプール6内に貯めず潅水を適宜繰り返し、その後、水Wを貯めて育苗器1の下側(育苗器1の上下巾下側3分の2程度が好ましい)が水に浸る状態とする。水Wは常時新たな水を供給しつづける。ところで、以上のような育苗は、水稲の苗の育苗に適する。また、育苗器1の下側を水に浸した状態で育苗するために、上記の構成のプール6を用いることに限定されるものではない。
【0023】
また、図2に示す筒状の突出部2dには、溝2d’或は孔を設けており、筒内に水が入りやすいようになっている。これにより、苗収容部2内の床材7に水が浸透しやすく、良好な育苗が行える。
【0024】
ところで、多数の苗収容部2を設けた育苗器にあって、苗収容部2の底部2bの孔2c’を図3に示すような形状に形成すると、この育苗器は、図4に示す状態で育苗する場合に、水稲の苗の育苗と玉ねぎの苗の育苗との両方に用いて良好に育苗できるものとなる。
【0025】
即ち、水稲の苗では、機械移植を適確に行えるようにするため苗を苗収容部から取出したとき床部が崩れないよう床部での根巻きを起こさせて育苗する。そのため、苗の根は前記のように地中に伸ばさせて育苗するものの、その地中に伸びる根を少なくして床部内で伸びる根を多くし根巻きを十分におこさせる必要があり、よって、苗収容部の底部の孔は比較的小さくして苗の根が通りにくくした方が良いのである。一方、玉ねぎの苗では、水稲の苗ほど根は多く発生しない。また、玉ねぎの苗は、根が多く発生しないため地中に伸びる根を多くしないと苗を充分な大きさに成長させられない。また、水稲の苗のように床部で根巻きを充分に起こさせることができなくなるので、機械移植を適確に行えるようにするため苗を苗収容部から取出したとき床部が崩れないよう凝固剤を用いて床部を固めることが行われる。そこで、玉ねぎの苗では、苗収容部の底部の孔は比較的大きくして苗の根が通りやすくした方が良いのである。そして、以上のようなことを踏まえると、水稲の苗の育苗と玉ねぎの苗の育苗とで、苗収容部の底部の孔形状の異なる専用の育苗器をそれぞれ設けることになるが、これだと別々の成形型を必要とし製造面でコスト的に不利であり、稲作と玉ねぎ作を両方行う農家にとっても別々の育苗器を購入しなければならず、農家側としてもコスト的に不利である。
【0026】
なお、一般に、ポット状の苗収容部で作物の苗を育成した場合、苗の根は、苗収容部の側部内周面を這いながら下方に降りていくようにして伸びていく傾向がある。そこで、苗収容部の底部の孔にあって苗収容部の側部内周面に近い側の孔の径を変えれば苗収容部の底部の孔を通る根の量が変るものと推測し、実験をしてみた。すると、3本の切りかき9a・9b・9cの端部に形成した3つの円形状の孔部10a・10b・10cのうち2つを、他の孔の径(具体的には直径1.5mm)に比べて大径(具体的には直径3.0mm)にしてみると、玉ねぎの苗の育苗では、充分に根が地中に伸び良好に育苗できたが、水稲の苗の育苗では、根が地中に伸びすぎて根巻きの形成が不充分となった。次に、大径にするのを1つの孔部10aのみにしてみると、水稲の苗の育苗では、根が地中に伸び且つ根巻きの形成も充分なものとなり、玉ねぎの苗の育苗では、根が充分に地中に伸びず苗を大きく育苗できなかった。
【0027】
そこで、図3に示すように、多数の苗収容部2を設けた育苗器にあって、苗収容部2の底部2bの孔2c’を、平面視で底部中心部に円形状の孔部8を形成し、そこから放射状に複数方向(ここでは3方向)にのびる切りかき9a・9b・9cを形成し、その端部に更に円形状の孔部10a・10b・10cを形成し、更に、円形状の孔部にあって、底部中心部に円形状の孔部8と一つの切りかき9aの端部に形成した円形状の孔部10aを、他の孔よりも大径に形成すると、水稲の苗の育苗で、根が地中に伸び且つ根巻きの形成も充分なものとなり、玉ねぎの苗の育苗で、根が充分に地中に伸び良好に育苗できたのである。これにより、このような形状の孔2c’を形成した育苗器は、水稲の苗の育苗と玉ねぎの苗の育苗との両方に用いて良好に育苗できるものとなり、製造面で、また、稲作と玉ねぎ作を両方行う農家にとって、低コスト化が図れる。
【0028】
また、玉ねぎの苗では、上記したように、水稲の苗ほど根は多く発生しないため、水稲の苗のように床部で根巻きを充分に起こさせることができなくなるので、機械移植を適確に行えるようにするため苗を苗収容部から取出したとき床部が崩れないよう凝固剤を用いて床部を固めることが移植する前に行われる。ここで、凝固剤として、アルギン酸ナトリウムを含むものを使用した場合、凝固剤を水に溶かして溶液とし、それを育苗器の苗収容部内の床土にかけると、アルギン酸ナトリウムが床土内のカルシュウム成分とイオン交換してアルギン酸カルシュウムとなり、これが糊状になって床土を固めることになる(尚、凝固剤溶液添加後、乾燥が必要)。ところで、圃場に移植後、苗の活着を良くし苗の初期成育を促進するため、また、移植時や移植直後に天候が悪く低温が続いた場合に成育を回復するため、移植する苗の床土に肥料を含ませておくと良い。しかし、床土に肥料を添加しておくと、肥料中のリン酸が床土内のカルシュウム成分と反応してリン酸カルシュウムが形成される。このため、肥料を添加した後で凝固剤により床土を固める場合、床土内のカルシュウム成分の多くが肥料のリン酸と結合してしまい凝固剤のアルギン酸ナトリウムが充分に形成されなくなる。したがって、充分に床土を凝固できない状況が生じる。また、床土を凝固剤で凝固させてから肥料を添加した場合は、床土が凝固しているため肥料が床土に充分に保持されず流出してしまい、肥料の効果を充分に得にくい。
【0029】
そこで、リン酸含有量の少ない肥料(肥料の主要成分である窒素・リン酸・カリの含有比にあって窒素分が多くてリン酸が相対的に少なくなっている肥料であって、具体的には、リン酸含有比が0〜5%の肥料)を、凝固剤添加前或は凝固剤添加時に育苗器の苗収容部内の床土に添加すれば、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤で床土を凝固する場合に床土を適度に凝固でき、しかも、添加した肥料成分も床土にしっかりと保持されるようになる。したがって、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤を用いて苗の床土を適度に凝固できて、機械移植する場合に、育苗器の苗収容部からの苗の取り出し及びその後の苗の移送、圃場への植え込みが適確に行えるようになり、しかも、その床土に肥料を含ませて、移植後の苗の活着を良くし苗の初期成育を促進でき、また、移植時や移植直後に天候が悪く低温が続いた場合に成育を回復させられ、良好な栽培が行えるようになる。
【0030】
なお、上記凝固剤及び上記肥料の添加の方法は、一例としては、アルギン酸ナトリウムを含む上記凝固剤の溶液中に、リン酸含有量の少ない上記肥料を添加したものを、育苗器の苗収容部内の床土にかけるという方法がある。また、別例として、リン酸含有量の少ない上記肥料を水溶液として育苗器の苗収容部内の床土に注入し、或は該肥料水溶液を貯めておいてそこに苗を育成した育苗器を漬けて、その後、その育苗器をアルギン酸ナトリウムを含む上記凝固剤の溶液中に浸すという方法もある。
【0031】
図5及び図6には、潅水装置を示している。
この潅水装置20は、電動式の或はガソリンエンジンで駆動される走行車体21と、ポンプ22aとタンク22bと、散水部23とを備える。散水部23は、走行車体20から左右に(左右両方或は左右一方に)のびるブーム24・24と、該ブーム24.24に複数設けた散水ノズル24a…とを備える。
【0032】
このような潅水装置20で育苗中の苗に潅水するときは、例えば、図5に示すように、図4に示すような複数のポット状苗収容部bを有する育苗器aを、通路25を空けて設置した栽培テーブル26上に複数並べて置いて育苗しているとしたら(なお、栽培テーブル26を用いずに地面の上に置いて育苗する場合もあるが)、この潅水装置20を通路25にいれてそこを走行させ、このとき、散水部23は、栽培テーブル26上の育苗器1…の上方に位置し散水ノズル24a…から下方に散水しながら車体進行方向Dに移動するものとなる。このようにして、育苗器1で育苗中の苗hに潅水する。
【0033】
ところで、上記のようにして潅水した場合、従来、野菜の苗のように葉が広い苗では、葉が邪魔になって葉の下方の苗の床部に水がかかりにくく均一な潅水が容易に行えなかった。特に、前述のように複数のポット状苗収容部を有する育苗器1で苗を育成した場合には、散水された水は育苗器上面にあって平面方向に容易に移動しにくいので、各苗収容部の床部に均一に潅水することは容易でなかった。
【0034】
そこで、この潅水装置20では、自走しながら散水するとき、散水対象となる苗nの葉部に接触しながら走行車体20とともに移動する移動体27を走行車体20に設けたのである。これにより、移動体27は潅水対象となる苗Nの葉部を車体進行方向Dに倒し、そして、そのような状態にした苗nに散水部23が散水することになって、苗nの床部tに充分に水がかかり、均一な潅水ができるようになる。
【0035】
尚、上記移動体27の苗nの葉部との接触部の位置は、散水ノズル23…の位置に対し車体進行方向Dと略同位置、或は若干前側に位置させて設けると、より顕著な効果が得られる。更に、移動体27の位置を車体進行方向Dに沿って前後方向に或は上下方向に調節可能に設けることで、苗の位置にあわせて適当に調節でき、また、自走速度に対応して適当な位置に調節でき、適確な散水が行えるようになる。また、移動体27の苗nの葉部との接触部は、図では、固定のブラシ25aで構成しているが、固定の横長棒状体で構成しても良いし、ロール状ブラシなどの回転体で構成しても良く、更に、そのような別形態の接触部を交換可能に設けてもよい。要するに、苗の種類にあわせて適当な形態の接触部にして適確な散水が行えるようにできるのである。
【0036】
図7には、紙製の育苗器を示している。
この育苗器30は、その苗収容部31の外側面のみに肥料32を添加したものである。これにより、育苗中、苗の根33が添加した肥料32に直接触れないので肥料焼けを起こさないし、また、育苗中必要となる肥料として育苗器に添加することができ、良好な育苗が可能となる。なお、肥料32を添加したため紙製の育苗器の苗収容部31は腐蝕しやすくなって、根33が苗収容部31を貫通しやすくなり、圃場に苗収容部31とともに苗を移植した後、苗の根張りが良好となり、良好な栽培が行える。なお、この育苗器30は、図では、苗収容部31を複数連結して設けたものとして記載しているのであるが、苗収容部31が単一のものであっても良い。また、図では、苗収容部31の開口部31a側を下にした状態で育苗箱の底板34上に載せた状態で育苗しているが、図4に示すような状態、即ち、苗収容部31の底部31bを下にして育苗しても良い。図中符号35は、苗収容部31内に詰めた床部材である。
【0037】
図8には、所謂マルチ栽培を行うためマルチシートで畝を被覆した状態を示している。
ここでは、マルチシート40に紙製のものを用いて畝41を被覆し、更に、そのマルチシート40の上からネット(網体)42を張っている。これまで、ビニール製のマルチシートでは、腐蝕することがないので収穫後にマルチシートを回収しなければならないのだが、収穫後にはマルチシートは土中に埋もれてしまっている部分が多くなっているので、シートは容易に引き剥がすことができずシート回収に多大な労力を要していた。そこで、上記のように紙製のマルチシート40を用いると徐々に腐蝕していくので、前記のような問題は解消される。しかし、紙製のマルチシート40は、畝41を被覆しただけでは、風で飛ばされるので、ビニール製のマルチシートのときにも行っていたように土43を上に盛って止める必要がある。しかし、上に盛った土43の水分が紙のマルチシート40に染み込んでいき、その水が染み込んだ部分の強度がかなり低下する。そのため、風を受けてシート40が土43を盛ったところから破れ、シート40が畝41から剥がれてしまうことがしばしばあった。しかし、上記のようにネット42を上から張ることにより、シート40が畝41から剥がれること生じにくくなり、紙製のマルチシート40を用いて良好なマルチ栽培が行えるようになる。なお、ネット42を、腐蝕可能な繊維材(例えば、ジュート等)で設けたものであれば、収穫後にそれを回収する必要もなく、紙製マルチシート40とともに畑にすき込むことが可能となる。また、腐蝕しない材料(ビニール等)で設けたものであれば、収穫後回収を要するが、ネットであるため比較的容易に畝から引き剥がすことができ、ビニール製のマルチシートを用いた場合に比べ、かなり省力化が図れる。
【0038】
なお、耕耘、畝立て、マルチシート張り、播種と順に作業を行う播種マルチ装置が知られているが、この播種マルチ装置に、播種後にネットを張る装置を設ければ、上記のように紙製のマルチシート40とネット42を張る作業が機械的に行え、省力化が図れる。
【0039】
また、紙製のマルチシート40にあって、畝41を被覆した後、土を盛って止める個所となる部分に相当する部分(例えば、マルチシート40の両端部)に、腐蝕可能な繊維材(例えば、天然のものであればジュート等が考えられる)で補強する(例えば、繊維材をネット状にして張りつける)ことにより、前記のように盛り土によって破れることが生じにくくなる。そして、補強のために用いた繊維材は腐蝕可能なので、収穫後にそれを回収する必要もなく、紙製マルチシート40とともに畑にすき込むことが可能となる。
【0040】
なお、上記の腐蝕可能な繊維材を紙製のマルチシート40の製造時に混抄させると、シート全体を補強でき、土を任意の個所に盛れるので、畝の形状・大きさに制約をうけない。
【0041】
図9及び図10には、育苗台を示している。
この育苗台50は、置床育苗する際に用いる育苗台である。従来、育苗のため成形した畝の上に、播種した後の育苗箱或は育苗器を置いて育苗するという置床育苗をすると、根の根が育苗箱或は育苗器の底部に設けた孔から下方に出て畝の土中にのびていくので、苗箱を置いた畝その土中の養分、水分を得ながら苗が成育していくことになり、苗の床部が乾燥しにくく育苗が比較的容易に行えるという利点がある。このように置床育苗した場合、育苗後に苗箱或は育苗器を畝から取り上げる場合、苗箱或は育苗器の下から畝にのびた根を切って取り上げれば移植後に新根が出やすいのであるが、その根切り作業が容易に行えないので根切りをせずに取り上げることがほとんどであった。
【0042】
しかし、図9に示すような育苗台50を畝51上に置いて置床育苗をすると、根切りが容易に行える。この育苗台50は、脚部52…と苗箱或は育苗器CAを載せる桟53…を設けており、しかも、その桟53…の上端は、鋭角な形状に(例えば、断面山形形状に)設けている。このように設けた育苗台50を、図10に示すように、畝51をまたぐようにして設置し、その後、桟53…の間を土で埋めて桟53…の上端部が少しあらわれる程度の状態にする。このようにした後、桟53…上に苗箱或は育苗器CAを載せて育苗する。育苗後、苗箱或は育苗器CAを取り上げる場合、苗箱或は育苗器CAを、又は、育苗台50を、桟53…がのびる方向と交差する方向D’にずらすことで、苗箱或は育苗器CAの下から畝51の土中にのびた根を容易に切ることができる。また、根切りした後は、育苗台50上に苗箱或は育苗器CAを複数載せたまま育苗台50を運搬すれば、育苗台50を苗箱或は育苗器CAの運搬枠として利用できる。なお、図9に示すように、脚部52…の下端部52a…を広口にしておけば、他の育苗台50の脚部52…の上端部52b…を嵌入させて係合でき、育苗台50を複数上下の積み重ねることも容易且つ確実に行え、運搬効率が向上する。また、桟53…を設けている台部50aの両端部或は一端部(畝をまたいで設置したときに畝に沿う方向の端部)の下側に、係合部材(例えば、滑車等)54・54を設け、育苗台50の設置時に、畝51上に予めレールLを敷いて、そのレールLの上方に前記係合部材54・54が位置するようにして育苗台50を設置し、育苗後に苗箱或は育苗器CAを運搬するとき、畝に沿う方向の一端側を持上げたとき前記係合部材54・54がレールLに係合して育苗台50を若干浮かせて支持する状態となるよう設ける。このようにすれば、育苗台50の一端部を持上げて、畝51上に敷いたレールLに沿って容易に移動でき、運搬作業が容易になる。図中、符号55…は、苗箱或は育苗器CAを置いた畝51上をトンネル上にシートで被うための支柱56…をさし込んでその支柱56…を支える係合部であり、これを利用することで所謂トンネル育苗のための支柱56…の設置が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】育苗状態を示す一部断面側面図。
【図2】育苗状態を示す部分断面側面図。
【図3】育苗器の一構成を示す部分平面図。
【図4】従来の育苗状態を示す部分断面側面図。
【図5】潅水装置の正面図。
【図6】潅水装置の要部の断面側面図。
【図7】紙製育苗器での示す育苗状態を示す部分断面側面図。
【図8】紙製マルチシートの敷設状態を示す断面図。
【図9】育苗台の斜視図。
【図10】育苗台を設置した状態を示す断面図。
【符号の説明】
1:育苗器
2:苗収容部
2b:底部
2c:孔
2d:突出部
3:シート
B:設置平面
L:根
W:水

Claims (3)

  1. 苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、育苗器の苗収容部内の床土に、リン酸を5%以下の含有比で含有する肥料を添加し、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤を供給することを特徴とする育苗方法。
  2. 苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、育苗器の苗収容部内の床土に、アルギン酸ナトリウムを含む凝固剤の溶液中にリン酸を5%以下の含有比で含有する肥料を添加したものを供給することを特徴とする育苗方法。
  3. 苗収容部の底部に上下に貫通する孔を設けると共に底部の底面より下方に突出する突出部を設けた育苗器を、根が触れるとそこで根の伸長が止まるように機能するシート上に設置し、育苗器の底面が前記突出部により設置平面に接触せずに上方に浮いた状態となり、育苗器の下側を水に浸した状態で育苗し、移植する前に、リン酸を5%以下の含有比で含有する肥料の水溶液を育苗器の苗収容部内の床土に注入するか、或はリン酸を5%以下の含有比で含有する肥料の水溶液を貯めてそこに育苗器を漬け、その後、育苗器をアルギン酸ナトリウムを含む凝固剤の溶液中に浸すことを特徴とする育苗方法。
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