JP4626046B2 - セミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

セミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は磁性焼鈍後の磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球温暖化防止や省エネルギー推進などの観点から各種電気機器の高効率化が進められており、回転機や変圧器に使用される鉄心の素材となる電磁鋼板には、低コストであることと共に、優れた磁気特性(低鉄損、高磁束密度)を備えていることが求められている。無方向性電磁鋼板には、鉄心形状に打ち抜いた後、特に焼鈍を施さないで使用されるフルプロセス材と、打ち抜き後に焼鈍を施して磁気特性を改善して使用されるセミプロセス材がある。
【0003】
セミプロセス材は、打ち抜き性を向上させるために、合金元素の添加や結晶組織微細化などにより鋼を硬質にして打ち抜き加工に供する。良好な磁気特性は、打ち抜き後に施す焼鈍(以下、単に「磁性焼鈍」と記す)により、結晶粒を成長させることにより得ることができる。このようなことからセミプロセス材としては、磁性焼鈍時の結晶粒成長性が優れていることが重要とされており、磁性焼鈍により良好な磁気特性を得る方法が種々提案されてきた。
【0004】
鋼に不可避的に含有されるNやSは微細な介在物や析出物を形成し、磁性焼鈍時の結晶粒成長を阻害して鉄損改善を妨げる。例えばNはAl と反応して微細なAlN として析出し、鉄損劣化の原因となる。しかしながら鋼に適量のAl を含有させることにより、Nを粗大なAlN として析出させて無害化することができる。Al には鋼の固有抵抗を増す作用があるので、これによる鉄損改善効果を期待してAl を含有させることもおこなわれている。
【0005】
特開平3−229820号公報には、Pを適量含有した鋼(スラブ)を1170℃以下に加熱して熱間圧延することで、AlN 、MnS 等の再溶解、微細再析出を抑制し、セミプロセス材の打ち抜き加工性と磁性焼鈍後の鉄損を改善する方法が提案されている。
【0006】
特開平10−46254号公報には、磁性焼鈍後の鉄損が低い無方向性電磁鋼板の製造方法が提案されている。これはAl を0.1〜1.0質量%含有する鋼の熱延工程における鋼(スラブ)の加熱温度を980〜1140℃の極めて低い温度とする方法であり、特に鋼のS含有量を0.001質量%以下にする方法が良好であることが記載されている。
【0007】
特開平11−158589号公報には、Al を0.6〜2.0質量%含有し、かつS、OおよびN含有量を低く制限した鋼を熱間圧延し、最終仕上冷間圧延前までに700〜900℃に30分〜10時間加熱する、歪み取り焼鈍後の鉄損が良好な無方向性電磁鋼板の製造方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
電磁鋼板の磁気特性としては、鉄損が低いことに加えて、磁束密度が高いことが重要とされる。セミプロセス材は、磁性焼鈍により結晶粒を成長させることで鉄損を大幅に改善することができる。しかしながら、結晶粒の成長に伴って磁束密度が大きく低下するという問題がある。
【0009】
例えばSi を0.3%程度含有するセミプロセス材に磁性焼鈍を施すと、結晶組織が粒度番号で8〜9前後のものが7以下(粒径でいえば28μm以上)にまで成長する。これに伴い、鉄損は、W15/50 で6w/kg前後から5w/kg前後に向上する。しかしながら磁束密度は鉄損と逆の変化を示し、B50で1.74〜1.76T前後から1.73〜1.75T前後に低下する。
【0010】
磁性焼鈍により磁束密度が低下するのは、結晶粒成長に伴い、磁化が容易な板面に平行な<100>軸のない{111}方位が発達し、<100>軸を有する結晶方位粒が減少するためである。
【0011】
上記例は磁性焼鈍により全体として緩やかに結晶粒が粗大化するいわゆる正常粒成長がおこなわれた場合であるが、磁性焼鈍時に{111}方位またはその近傍の結晶方位を備えた結晶粒が異常粒成長(二次再結晶)し、粗大粒(例えば結晶粒径が100μmを超える)が混在した混粒組織となる場合がある。このような場合にも鉄損は向上するが、磁束密度は、正常粒成長により低下する以上に、さらに大幅に低下する。
【0012】
例えば上記Si :0.3%を含有するセミプロセス材で異常粒成長が生じると、鉄損はW15/50 で4.7〜4.8w/kg前後に向上するが、磁束密度はB50で1.67〜1.69T前後にまで低下する。
【0013】
セミプロセス材を用いて電気機器の高効率化を進めるには、磁性焼鈍による鉄損改善が容易であると共に、異常粒成長による磁束密度の低下を確実に抑制できる材料が望まれていた。
【0014】
上記特開平3−229821号公報に記載の方法においては、打ち抜き性改善のためにSを含有させる必要があるので鉄損改善効果が必ずしも十分ではないうえ、上述したような磁性焼鈍における磁束密度の低下に対して考慮されておらず、磁束密度を積極的に改善することはできない。
【0015】
この意味において、例えば特開平3−229820号公報で提案されている方法においては、磁束密度を積極的に改善することはできない。特開平10−46254号公報に記載の製造方法では、スラブ加熱温度を極めて低くする必要があるために熱間圧延が困難になるうえ、S含有量を10ppm以下にするのも通常の方法では極めて困難である。さらに、磁性焼鈍における磁束密度の低下に対して考慮されておらず、磁束密度を積極的に改善することはできない。
【0016】
特開平11−158589号公報に記載の方法では、仕上冷間圧延前の鋼板に長時間の焼鈍を施す必要があるために、その実施にあたっては箱焼鈍など特殊な設備を要するうえ、その処理に際しても効率よい生産ができない。また、高価なAl を大量に使用するためにコストが高くなるうえ、磁性焼鈍における磁束密度の低下は考慮されておらず、磁束密度を積極的に改善することはできない。
【0017】
以上述べたようにこれまでのセミプロセス材においては、磁性焼鈍後の低鉄損を得るのが容易ではないうえ、安定して高い磁束密度を得ることができないという問題がある。
【0018】
本発明の目的はこれらの問題点を解決し、磁性焼鈍後にも低鉄損、かつ安定して高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板の効率的な製造方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
無方向性電磁鋼板の磁気特性を良好にするには鋼のS含有量を低くする必要がある。しかしながら極低S化するには特殊な工程と費用を必要とするため、比較的容易に、かつ、低コストでセミプロセス材を製造するには、ある程度までSの含有を許容する必要がある。本発明者はこのような観点から許容可能なS限界を種々検討した結果、S含有量としては、0.007%まで許容する必要があるとの結論を得た。
【0020】
次いで、Sを最大0.007%まで含有する鋼について、磁性焼鈍後の磁気特性に対する製造要因の影響について種々研究を重ねた。その結果、適量のTi を含有させた鋼スラブを使用し、これを熱間圧延するに際し、粗圧延後、仕上圧延前の段階において、一定温度範囲に所定時間鋼片を滞留させる処理(以下、単に「仕上前滞留」と記す)を施し、さらに仕上圧延条件を特定範囲に制限して熱間圧延した鋼板を冷間圧延し、仕上焼鈍する方法が、上記問題点の解決に有効であることを見出した。以下に上記知見を得るに至った実験内容を説明する。
【0021】
a.Ti 含有量の影響;
質量%で(以下、化学組成を表す%表示は質量%を意味する)C:0.002%、Si :0.10%、Mn :0.25%、P:0.090%、S:0.005%、Al :0.27%、N:0.0020%を含有し、Ti を0.008%以下の範囲で種々変更した鋼を実験室的に溶解し、鍛造して鋼塊を得た。この鋼塊より厚さが45mmの鋼片を切り出し、1150℃で1時間加熱したのち、3パスの圧延を施して厚さが15mmの鋼片に圧延した後、直ちに900℃に設定した炉に装入して30秒間保持し、次いで880℃で熱間仕上圧延を終了して厚さ:3.0mmの熱延鋼板を得た。この鋼板の両面を研削して厚さが2.3mmの鋼板とし、これを冷間圧延して厚さ:0.50mmの冷延鋼板とし、次いで800℃に急速加熱して15秒間保持する焼鈍を施して無方向性電磁鋼板を得た。これらの鋼板から長さ:28cmのエプスタイン試験片を打ち抜き、750℃で2時間保持する磁性焼鈍を施し、その磁気特性をJIS−C2550に記載のエプスタイン法により測定した。
【0022】
図1に、上記実験で得られたTi 含有量と磁気特性との関係を示す。図1からわかるように、Ti を0.002%以上含有させた鋼は磁性焼鈍後の磁束密度が著しく高い。Ti 含有量が0.002%以上であった試験片は、磁性焼鈍において正常粒成長を示していたが、Ti を含有させなかった場合およびTi 含有量を0.001%とした場合は、磁性焼鈍時に異常粒成長が認められた。また、Ti 含有量が0.007%を超える場合には鉄損がよくなかったが、これはTi 炭窒化物が多量に分散し粒成長を抑制したためと考えられた。
【0023】
これらのことから、異常粒成長が生じると磁束密度が大きく損なわれること、Ti を0.002%以上含有させることにより異常粒成長の抑制が可能なこと、Ti を適量含有させることにより、磁性焼鈍後の鉄損と磁束密度とを共に良好な範囲にすることができること、などが確認された。
【0024】
b.スラブ加熱;
熱間圧延に供する鋳片または鋼片(以下、単に「スラブ」とも記す)を熱間圧延の粗圧延に先だって加熱する際の加熱温度(以下、単に「スラブ加熱温度」と記す)が電磁鋼板の磁気特性に影響する。
【0025】
本発明者は、Ti を0.004%含有し、それ以外は上記a項に記載したのと同様の化学組成を有し、厚さが230mmの連続鋳造スラブを加熱炉に装入して種々の温度に加熱し、粗圧延し、950〜1050℃の温度域で30秒以上滞留させた後、875℃で熱間仕上圧延を終了して厚さが2.3mmの熱延鋼板とした。
これを酸洗し、冷間圧延して厚さ0.50mmの冷延鋼板とし、次いで800℃で焼鈍し、上記a項に記載したのと同様の方法で得られた鋼板の磁性焼鈍後の磁気特性を測定した。
【0026】
図2に、上記実験で得られたスラブ加熱温度と磁気特性との関係を示す。図2からわかるように断面平均温度が1180℃以下の領域で鉄損が顕著に改善される。これは、スラブ加熱温度を低く制限することによりTiN 、AlN 、MnS などの再溶解と、それに伴う熱間圧延時の微細析出が抑制され、磁性焼鈍時の結晶粒成長が促進されたことによる。
【0027】
c.仕上前滞留;
磁性焼鈍時の異常粒成長には、磁性焼鈍前の鋼板に直径が0.2μm以下の微細なAlN またはMnS の存在が大きく影響し、これらの析出物を磁性焼鈍前までに粗大化しておけば、異常粒成長を防止できる、と推測された。これを確認するために以下の実験をおこなった。
【0028】
Ti を0.003%含有した以外は上記a項に記したのと同一である化学組成を備えた連続鋳造スラブより厚さ45mmの鋳片を切り出した。鋼のAr3変態点は945℃であった。この鋳片を1150℃で1時間加熱したのち、3パスの粗圧延を施して厚さ:15mmの鋼片とし、これを900℃に設定した保熱炉に装入して5〜300秒間滞留させた後、3パスの仕上熱間圧延を施して厚さ:3.0mmの熱延鋼板とした。
【0029】
得られた熱延鋼板の両面を研削して厚さ:2.3mmの鋼板とし、これをa項に記載したのと同様の方法で冷間圧延し、焼鈍して厚さ:0.50mmの無方向性電磁鋼板を得た。これらの鋼板の磁性焼鈍後の磁気特性をa項と同様の方法で調査した。
【0030】
表1に、粗圧延終了温度、仕上前での滞留時間、仕上圧延温度および磁性焼鈍後の磁気特性を示す。また、図3に上記磁気特性と仕上前滞留時間との関係を示す。
【0031】
【表1】
Figure 0004626046
【0032】
表2および図3に示すように、粗圧延終了後、仕上圧延開始までの間の滞留時間が長くなるにつれ磁束密度が向上し、鉄損も改善された。滞留時間が10秒に満たない場合には、磁束密度の改善効果が得られなかった。
【0033】
このように、仕上圧延前において、鋼片を高温域で一定時間以上滞留させることにより磁束密度が向上したのは、滞留中にAlN およびMnS の分散状態が変化したためと考えられる。すなわち、γ相領域においてAlN およびMnS を十分に析出させることにより、熱間圧延終了後のα相域におけるAlN またはMnS の微細析出が抑制される。その結果、磁性焼鈍時に析出粒子のオストワルド成長が起こらず、異常粒成長が抑制されたものと推察される。
【0034】
本発明はこれらの知見を基にして完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に記載のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法にある。
【0035】
(1)化学組成が質量%でC:0.004%以下、Si:1.5%以下、Mn:0.20〜1.5%、Al:0.10〜1.0%、Ti:0.002〜0.007%、P:0.20%以下、S:0.007%以下、N:0.0040%以下を含有し、残部がFe および不可避的不純物からなる鋼スラブに熱間圧延を施し、次いで冷間圧延を施したのち、仕上焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法であって、前記熱間圧延が、鋼を粗圧延し、次いで900℃以上、1100℃以下の温度範囲に10秒以上滞留させた後に仕上圧延を開始し、950℃以下、かつAr3変態点未満で仕上圧延を終了することを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0036】
(2)前記粗圧延前の鋼の温度が1100℃以上、1180℃以下であることを特徴とする上記(1)に記載のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を詳細に述べる。
鋼の化学組成;
C:Cは炭化物として析出し、磁気特性を劣化させるので少ないほどよい。C含有量が0.004%を超えると、鉄心として使用中に磁気時効が生じて磁気特性がさらに劣化する。これを防ぐためにC含有量は0.004%以下とする。
【0038】
Si :Si は鋼の固有抵抗を高める作用があり、Si を含有させることにより電磁鋼板の鉄損を小さくすることができる。磁性焼鈍後の鉄損を改善するためにSi を含有させるのが望ましい。しかしながらSi 含有量が1.5%を超えると、磁束密度の低下が著しくなるので、Si 含有量は1.5%以下とする。
【0039】
他方、Si を含有させると鋼の飽和磁束密度が低下し、磁性焼鈍後の磁束密度が低くなる。より優れた磁束密度を必要とする場合には、Si 含有量を1.0%以下とするのが好ましい。さらに好ましくは0.5%以下である。なお磁束密度を必要とする場合にはSi を含有させなくても構わない。
【0040】
Mn :Mn は鋼の固有抵抗を高める作用があり、Mn を含有させることで電磁鋼板の鉄損を小さくすることができる。ただしその効果は単位含有量当たりでSi の約1/2である。さらにMn は鋼のSをMnS として固定し、焼鈍時の結晶粒成長性を向上させる作用もある。本発明が規定する無方向性電磁鋼板では、Sを0.007%まで含有することを許容する。このような鋼の結晶粒成長性を良好に保つために、Mn 含有量は0.20%以上とする。他方Mn 含有量が1.5%を超えると飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が低下するので、Mn 含有量は1.5%以下とする。より高い磁束密度を必要とする場合には、好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下とする。
【0041】
Al :Al はSi と同程度の寄与率で鋼の固有抵抗を高める作用があり、電磁鋼板の鉄損を小さくするのに有効な元素である。さらに、Al を適量以上に含有させることにより、鋼中のNと結合して生じるAlN 析出物を粗大にし、AlN による鋼の粒成長性阻害要因を無害化することができる。
【0042】
Al 含有量が0.10%に満たない場合には上記AlN の粗大化効果が得られず、微細なAlN が多量に分散して磁性焼鈍時の鋼の粒成長性が著しく損なわれる。従ってAl 含有量は0.10%以上とする。他方Al は高価であるうえ、鋼の飽和磁束密度を低くする作用があり、過度にAl を含有させると得られる磁束密度が低くなり過ぎる。従ってAl 含有量は1.0%以下とする。より高い磁束密度を必要とする場合には、好ましくは0.60%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0043】
P:Pは電磁鋼板の磁束密度にさほどの影響がないので必須元素ではないが、鋼を硬質にする作用があるので、鋼板の打ち抜き性を改善するために含有させても構わない。その含有量が0.20%を超えると鋼の脆化が著しくなり、圧延が困難となる場合があるので、Pを含有させる場合でもその上限は0.20%とする。
【0044】
S:Sは微細なMnS として析出して、磁性焼鈍時の結晶粒成長を妨げるうえ、磁気特性を劣化させる作用もあるので少ないほど好ましい。S含有量が0.007%を超えると、本発明が規定する他の条件を満足しても鉄損が十分向上しないので、S含有量は0.007%以下とする。他方、S低減には鋼の精錬時などに特殊な処理を必要とするうえ、技術的にも限界があり、本発明の方法により磁気特性が向上するので、S含有量は0.002%以上とするのが望ましい。
【0045】
N:NはAlN として析出し、磁気焼鈍時の粒成長性を著しく低下させる。これを避けるためにN含有量は0.0040%以下とする。
Ti :Ti は鋼中のN、Cなどと結合して微細なTiN 、TiC として析出し、結晶粒の成長を抑制する作用がある。これらの析出物が過度に多くなると鉄損を損なうので、Ti 含有量は0.007%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
【0046】
他方、これらの析出物は、磁性焼鈍時における異常粒成長を抑制する作用があり、磁性焼鈍後の磁気特性を安定して良好にするには、適量のTi を含有させるのが有効である。本発明においては、磁性焼鈍における異常粒成長を抑制し磁束密度の低下を防止するために、鋼にTi を0.002%以上含有させる。好ましくは0.003%以上である。なお、上記Ti は、鋼を精錬する際にTi を含有する合金をTi 源として添加する方法や、精錬に際してAl脱酸を十分におこない、スラグに含まれるTi 酸化物を還元して溶鋼に含有させる方法でその含有量を調整するのがよい。
【0047】
上記以外はFe および不可避的不純物である。
熱間圧延条件;上記化学組成を有するスラブは、常法により、溶鋼を連続鋳造して製造されるか、鋼塊とした後に分塊圧延などを経て製造される。このスラブは公知の方法により、粗圧延した後、仕上圧延して熱延鋼板とする。
【0048】
粗圧延に供するスラブの温度が後ほど述べる仕上前保定が可能な水準を維持できる場合には、加熱工程を経ることなく仕上圧延に供しても構わない。スラブ温度が低過ぎて仕上前保定が困難である場合は、熱間圧延に供する前に加熱炉に装入してスラブを加熱するのが好ましい。
【0049】
スラブ加熱:粗圧延前にスラブを加熱する場合には、スラブ加熱温度が1180℃を超えるとMnS 、AlN などが鋼中に再溶解し、以降の熱間圧延時に微細に再析出して、磁性焼鈍後の鉄損を損なう場合がある。これを避けるためにスラブ加熱温度は1180℃以下とするのが望ましい。スラブ温度を過度に低くすると圧延が困難となるので、スラブを加熱する場合の加熱温度は1100℃以上とするのがよい。さらに望ましくは1140℃を超える領域である。
【0050】
なお、スラブ加熱温度計測は公知の放射温度計など、任意の方式でおこうことができるが、析出物制御の効果を高めるために、スラブ内部の温度が把握できる公知の熱伝導方程式から求められる加熱炉抽出時のスラブ断面平均温度を用いるのが望ましい。
【0051】
仕上前滞留:粗圧延した鋼片は、粗圧延後仕上圧延開始までの間に、鋼片温度が900℃以上である領域で10秒以上滞留させる。これにより、MnS がγ相域で十分に析出するので、熱延終了後のα相域におけるAlN 、MnS などの微細析出を抑制することができる。その結果、磁性焼鈍時に析出粒子がオストワルド成長しにくくなり、異常粒成長が抑制され、磁性焼鈍後の磁束密度が改善される。
【0052】
滞留温度(鋼片温度)が900℃に満たない場合には、滞留中のMnS 析出が十分ではないので、得られる製品の十分な磁束密度改善効果を得ることができない。好ましくは920℃以上、さらに好ましくは950℃以上である。
【0053】
滞留温度が1100℃を超えると、鋼の化学組成によっては熱間圧延の仕上圧延終了温度がγ相単相域となり、得られる熱延板の結晶粒径が非常に細かくなり、最終製品の磁気特性に不利な集合組織が発達するため、得られる鉄損および磁束密度は極めて劣ったものとなる。従って、滞留温度は1100℃以下とする。
好ましくは1050℃以下である。
【0054】
900〜1100℃の温度域における滞留時間が10秒に満たない場合は、この間のMnS 析出が不十分になるために十分な磁束密度改善効果を得ることができない。好ましくは30秒以上、さらに好ましくは100秒以上である。滞留時間が300秒を超えると磁束密度改善効果が飽和するので滞留時間は300秒以下でよい。
【0055】
上記温度領域で所望の時間滞留させるには、粗圧延後仕上圧延までの間の鋼片を保熱したり、外部かの熱源を用いて加熱したりする方法がよいが、粗圧延後の鋼片の厚さを20mm以上とし、粗圧延を高温(例えば1000℃以上)で終了する方法でも構わない。なぜなら、厚さ20mmの鋼の空冷による冷却速度は0.1〜1℃/秒の間にあり、100秒空冷後の温度降下は100℃と計算されるからである。
【0056】
仕上圧延は900℃以上で開始するのが望ましい。900℃よりも低い場合には仕上圧延終了温度が低くなりすぎて、以下に述べる理由により、磁性焼鈍した際に異常粒成長が生じて磁束密度が著しく低下する場合があるからである。
【0057】
仕上圧延終了温度がAr3変態点以上であると、仕上圧延後の冷却時に鋼がγ→α変態し、熱延板の結晶組織が微細粒となり、最終製品の磁性焼鈍後の集合組織が良好にならず、磁束密度が改善されない。このため、仕上圧延終了温度はAr3変態点未満とする。また、合金元素の含有量が高い場合など、鋼の化学組成によっては、Ar3変態点がない場合がある。しかしながら過度に高い温度で仕上圧延するとスケール疵が増し、良好な製品を得るのが困難となる。従って仕上圧延終了温度は高くても950℃以下とする。
【0058】
仕上圧延終了温度を過度に低くしすぎると、微細な析出物が増し、得られる最終製品を磁性焼鈍した際に異常粒成長が生じて磁束密度が著しく低下する場合がある。これを避けるために、熱延間圧の仕上圧延終了温度は、820℃以上とするのが望ましい。
【0059】
上記以外は公知の方法によればよい。得られた熱延鋼板は、公知の方法により冷間圧延し、仕上焼鈍を施す。その条件は特に限定するものではないが、例えば仕上焼鈍条件は、打ち抜き性を確保するためにJIS粒度番号で8〜10前後の結晶組織が得られるように、冷間圧延後の焼鈍温度は750〜850℃の温度領域とするのがよい。
【0060】
仕上焼鈍後は公知の絶縁被膜、あるいは、打ち抜き性向上のための樹脂被膜などを施しても構わない。磁性焼鈍は、例えば非酸化性雰囲気中で700℃以上のα域に加熱して歪み取りあるいは結晶粒成長に必要な時間保持するなどの、公知の方法によりおこなえばよい。
【0061】
【実施例】
転炉で精錬し、真空処理して得た種々の化学組成を有する鋼を連続鋳造してスラブとした。表2にこれらの化学組成とAr3変態点を示す。なお、表2で鋼aは不可避的不純物としてSi が0.02%混入したものである。
【0062】
【表2】
Figure 0004626046
【0063】
これらのスラブを加熱炉に装入して種々の温度に加熱した後、厚さが230mmの鋼片に粗圧延した。その後、種々の滞留時間を経て仕上熱間圧延に供し、厚さが2.3mmの熱延鋼板とした。ついで、酸洗後、厚さ0.50mmまで冷間圧延し、800℃で15秒間保持する仕上焼鈍を施し、さらに表面に絶縁皮膜を塗布した。これらの鋼板の圧延方向および幅方向に平行に長さが28cmのエプスタイン試験片を採取し、窒素雰囲気中で750℃に加熱して2時間保持する磁性焼鈍を施した後、JIS−C2550の規定によるエプスタイン法により鉄損(W15/50 )および磁束密度(B50)を測定した。また、あわせて結晶組織も調査した。
【0064】
表3にそれぞれの鋼の熱延条件、結晶組織および磁気特性をまとめて示す。
【0065】
【表3】
Figure 0004626046
【0066】
表3に示すように、本発明の規定する条件を満足する鋼板は、結晶組織が正常粒成長をしており、磁性焼鈍後の鉄損は低く、磁束密度は高く、いずれも良好な磁気特性を示した。試験番号7、8および9は仕上前滞留時間が長く、磁束密度が優れていた。試験番号11はスラブ加熱温度が高かったために鉄損がやや劣り、試験番号12はスラブ加熱温度が低かったために磁束密度がやや劣った。
【0067】
これに対し、本発明の規定する条件を満足しなかった鋼板は、異常粒成長が生じて磁束密度が低かったり、結晶組織が好ましくなく、磁性焼鈍後の磁気特性はよくなかった。特に熱延条件がよくなかった試験番号13〜16およびTi 含有量が少なすぎた鋼mを用いた試験番号23では磁性焼鈍において異常粒成長が生じ、磁性焼鈍後の磁束密度が大きく損なわれた。試験番号29ではAl 含有量が少ない鋼tを用いたために、混粒気味の細粒組織となり、特に鉄損がよくなかった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、鋼のS含有量を0.007%まで許容するうえ、鋼の化学組成と熱延条件とを特定範囲に制限することで製造できるので、安価、かつ、容易に実施できる。その結果、磁性焼鈍において異常粒成長が発生せず、良好な鉄損と磁束密度を兼ね備えた、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板が得られる。したがって本発明の製造方法は工業的な利用価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼のTi 含有量と磁性焼鈍後の磁気特性との関係を示すグラフである。
【図2】スラブ加熱温度と磁性焼鈍後の磁気特性との関係を示すグラフである。
【図3】粗圧延後仕上圧延開始までの間の滞留時間と磁性焼鈍後の磁気特性との関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. 化学組成が質量%でC:0.004%以下、Si:1.5%以下、Mn:0.20〜1.5%、Al:0.10〜1.0%、Ti:0.002〜0.007%、P:0.20%以下、S:0.007%以下、N:0.0040%以下を含有し、残部がFe および不可避的不純物からなる鋼スラブに熱間圧延を施し、次いで冷間圧延を施した後、仕上焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法であって、前記熱間圧延が、鋼を粗圧延し、次いで900℃以上、1100℃以下の温度範囲に10秒以上滞留させた後に仕上圧延を開始し、950℃以下、かつAr3変態点未満で仕上圧延を終了することを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 前記粗圧延前の鋼の温度が1100℃以上、1180℃以下であることを特徴とする請求項1記載のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
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