JP4622784B2 - 剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、主として自動車のサイドシル、センターピラー、サイドフレーム、クロスメンバーなど、剛性の板厚感受性指数が1に近いコラム状の構造部材に好適な剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境問題への関心の高まりを受けて、自動車の排ガス規制が行われるなど、自動車における車体の軽量化は極めて重要な課題となっている。車体の軽量化には、鋼板の高強度化により板厚を減少させること(薄肉化)が有効な方法であるが、最近では、鋼板の高強度化が顕著に進んだ結果、板厚2.0mmを下回るような薄鋼板の使用が増加してきている。
しかし、さらなる高強度化によって軽量化を図るためには、薄肉化による車体剛性の低下を同時に抑制することが不可欠になってきている。剛性には車体構造が最も大きな影響を与えるので、構造上剛性の低下を抑制することが効果的であるが、基本的な構造を変更することは容易ではない。また、スポット溶接がなされる部材に対しては、溶接点の増加や、ウエルドボンドによる接合あるいはレーザ溶接への切り替えなど溶接条件を変更することも有効であるが、コストが増加するという問題を伴う。さらに、剛性が必要な部分に樹脂などを貼り付けるなどの方法もあるがコスト増を招く。さらにまた、部材の断面などの形状を変えることも有効ではあるが、設計上の問題やプレス上の問題などがある。
そこで、部材に使用される鋼板の剛性を高めれば、部材形状や溶接条件を変更することなく、部材の剛性を高めることができることになる。特に、自動車のコラム状の構造部材に対しては、自動車の走行中に曲げ荷重がかかることから、曲げ剛性を高めることが必要であり、それには鋼板のヤング率を高めることが有効である。
ヤング率は、集合組織に大きく支配され、体心立方格子である鋼の場合は、原子の稠密方向である<111>方向に高く、逆に原子密度の小さい<100>方向に小さいことが知られている。結晶方位に異方性のない通常の鉄のヤング率はおよそ210GPa程度であることが知られているが、結晶方位に異方性を持たせ、特定方向の原子密度を高めることで、その方向のヤング率を高めることができる。しかし、自動車車体の曲げ剛性を考える場合には、様々な方向から荷重が加わるため、特定方向のみでなく、各方向に高いヤング率を有する鋼板が求められる。
鋼板のヤング率に関しては、これまで、集合組織を制御することで特定方向のヤング率を高めた鋼板の検討が種々なされてきている。例えば、特許文献1には、NbあるいはTiを添加した極低炭素鋼を用い、熱間圧延時にAr3変態点〜(Ar3変態点+150℃)での圧下率を85%以上とし、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進することで、熱間圧延後に{311}<011>および{332}<113>を発達させ、その後の冷間圧延、再結晶焼鈍により{211}<011>を発達させて、圧延方向に対して直角方向のヤング率を高める技術が開示されている。特許文献2には、Nbが添加されたC量が0.05質量%以下の低炭素鋼を、950℃以下の仕上圧延開始温度、(Ar3変態点-50℃)〜(Ar3変態点+100℃)の仕上圧延終了温度で熱間圧延し、オーステナイトの再結晶を抑制することで、ヤング率を低下させる{100}の発達を抑制し、圧延方向に対して直角方向のヤング率を高めた熱延鋼板の製造方法が開示されている。特許文献3には、SiとAlを添加してAr3変態点を高めたC量が0.05質量%以下の低炭素鋼を、Ar3変態点以下での圧下率を60%以上として熱間圧延し、{211}<110>を発達させることで、圧延方向に対して直角方向のヤング率を高めた熱延鋼板の製造方法が開示されている。特許文献4には、固溶(C+N)が10ppm以上の鋼を、200〜500℃の温度域で20%以上の圧下率で圧延し、再結晶焼鈍を行うことで、(110)[001]方位を発達させ、圧延方向に対して45〜67.5°の方向でのヤング率を高める方法が開示されている。特許文献5には、C量が0.01〜0.1質量%の鋼にTi、Mo、Wを添加し、10〜30nmの微細な炭化物を析出させた深絞り性に優れた高張力冷延鋼板が開示されている。
なお、下記の非特許文献1は、後述の[発明を実施するための最良の形態]で述べるODF解析のためのADC法に関する。
特開平5-255804号公報 特開平5-247530号公報 特開平9-53118号公報 特開昭58-9932号公報 特開2003-321733号公報 Phys. Status Solid (b), 134 (1986) 447
しかしながら、上記の従来技術には、次のような問題がある。すなわち、特許文献1〜4の技術では、鋼板の一方向のみのヤング率を高めることには有効であるが、各方向に高いヤング率を有する鋼板が必要な自動車の構造部材の剛性向上には適用できない。特許文献5の技術では、析出が微細なため冷間圧延時の圧延負荷が高く、操業上の困難を伴う他、高ヤング率化の達成も困難である。
その他、特許文献1の技術では、C量が0.01質量%以下の極低炭素鋼を用いるため引張強度がせいぜい450MPa程度と低く、さらなる高強度化を図るのが困難である、特許文献3では、フェライト域での圧延を行うため結晶粒が粗大化してしまい、加工性が著しく低下する、特許文献4では、200〜500℃で温間圧延を行う必要があり、また、通常の熱間圧延に比べて圧延荷重が非常に高くなることから、製造コストが増大する、などの問題もある。
本発明は、引張強度が590MPa以上、圧延方向に対して90°方向のヤング率が230GPa以上、かつ圧延方向、圧延方向に対して45°方向、および圧延方向に対して90°方向の平均のヤング率が210GPa以上である剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らが、引張強度が590MPa以上の高強度薄鋼板の高ヤング率化について検討したところ、C、Ti、Mo量を適正に制御した鋼を用い、熱間圧延後高温で巻取ることで析出物を粗大化してフェライト分率を高めるとともに、析出物として固定されないC量を大きく減少させ、冷間圧延での圧下率を適正化して、(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位を発達させ、焼鈍時に析出物の再固溶を抑制して粒成長を制御し、フェライト分率を高めるとともに、主方位である(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位の集合組織を発達させることにより、圧延方向に対して90°方向のヤング率を向上させつつ、全方向のヤング率も向上させることができることを見出した。ここで、[1-10]は(1,-1,0)の方向を表す。
本発明は、こうした知見に基づいてなされたものであり、質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.3%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.0%以下、N:0.01%以下、Ti:0.05〜0.2%、Mo:0.1〜0.4%を含有し、C、N、S、Ti、Moの含有量が下記の(1)〜(2)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、面積率で90%以上のフェライト相を含有するミクロ組織を有し、かつ鋼板の1/4板厚における板面の(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF解析強度fが10以上であることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板を提供する。
Ti-1/Mo=0.4〜0.6・・・・・(1)
C-(12/47.9)×Ti-1-(12/95.9)×Mo<0.010・・・・・(2)
ここで、Ti-1=Ti-(47.9/14)×N-(47.9/32.1)×Sであり、式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
本発明の高強度薄鋼板では、さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.2%、V:0.01〜0.5%から選ばれた少なくとも1種の元素を含有できる。その場合は、上記の(2)式に代わり、C、N、S、Nb、Ti、Mo、Vの含有量が下記の(3)式を満たす必要がある。
C-(12/47.9)×Ti-1-(12/92.9)×Nb-(12/95.9)×Mo-(12/50.9)×V<0.010・・・・・(3)
ただし、式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
本発明の高強度薄鋼板では、さらに、質量%で、Cr:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%、Cu:0.1〜2.0%、W:0.1〜2.0%の中から選ばれた少なくとも1種の元素を含有できる。
本発明の高強度薄鋼板は、例えば、上記の組成からなる鋼を、鋳造し、Ar3変態点以上の仕上圧延終了温度で熱間圧延し、500℃以上の巻取温度で巻取った後、酸洗を行い、20〜85%の範囲の圧下率で冷間圧延を行った後、焼鈍を行うに際し、室温から820℃までを平均1℃/s以上の昇温速度で加熱し、加熱温度を900℃以下として820〜900℃の温度範囲に下記の(4)式を満たすような時間v(s)滞留させることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法により製造できる。
Figure 0004622784
ここで、F(w)は、鋼板が820℃になってから820〜900℃の温度範囲内に滞留する時間v(s)内の任意の時間w(s)のときの温度(℃)を表す。
本発明により、自動車のサイドシル、センターピラー、サイドフレーム、クロスメンバーなど、剛性の板厚感受性指数が1に近いコラム状の構造部材に好適な、引張強度が590MPa以上、圧延方向に対して90°方向のヤング率が230GPa以上、かつ圧延方向、圧延方向に対して45°方向、および圧延方向に対して90°方向の平均のヤング率が210GPa以上である剛性に優れた高強度薄鋼板を製造できるようになった。
以下に、本発明である高強度薄鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
1)成分(以下の「%」は、「質量%」を表す。)
C:Cは、Ti、Moと複合炭化物を形成することで、高強度化、高ヤング率化に寄与する。このような効果を得るため、C量は0.02%以上とする。一方、Ti、Moで固定されないC量が多くなると低温変態相の生成が促進され、フェライト相が減少し、剛性が低下する。それゆえ、多量のCが添加された場合には、それに応じてTi、Moの添加量を多くする必要があるが、複合炭化物の効果が飽和するとともに合金コストが増加するので、C量は0.15%以下、好ましくは0.10%以下とするとともに、Ti、Moで固定されないC量を表す上記(2)式の左辺を0.010未満とする必要がある。
Si:Siは、その量が0.3%を超えるとAr3変態点を上昇させ、Ar3変態点以上での圧延を困難にする。また、鋼板の溶接性を劣化させたり、熱延加熱時にスラブ表面でファイヤライトの生成を促進し、いわゆる赤スケールと呼ばれる熱延鋼板の表面欠陥の発生を助長させる。さらに、冷延鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が化成処理性を劣化させ、溶融亜鉛めっき鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が不めっきを誘発する。したがって、Si量は0.3%以下とする。なお、Siはフェライトを安定化させる元素であり、フェライト相を増加させて高剛性化に寄与するので、このためにはSi量は0.1%以上とすることが望ましい。
Mn:Mnは、固溶強化元素として作用して、鋼の高強度化に寄与する。このような効果を得るためには、Mn量を1.0%以上とする必要がある。一方、Mn量が2.5%を超えると鋼板の溶接性を劣化させるともに、熱間圧延や冷間圧延時の圧延荷重を増加させて製造コストの上昇を招く。したがって、Mn量は2.5%以下とする必要がある。
P:Pは、0.05%を超えて含有されると粒界に偏析して鋼板の延性や靭性を低下させるとともに、溶接性を劣化させる。また、本発明の鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施す場合には、Pは合金化速度を遅滞させる。したがって、P量は0.05%以下とする。なお、Pは固溶強化元素として高強度化に有効な元素であるとともに、Siを添加した鋼において赤スケールの発生を抑制する作用も有するので、P量は0.01%以上とすることが好ましい。
S:Sは、0.01%を超えて多量に含有されると熱間での延性を著しく低下させ、熱間割れを誘発し、鋼板の表面性状を著しく劣化させる。また、強度にほとんど寄与しないばかりか、粗大なMnSとして析出し、穴広げ性などの延性を低下させる。したがって、S量は0.01%以下とする。なお、その量は少ないほど好ましいが、穴広げ性をより向上させる観点からは0.005%以下とすることがより好ましい。
Al:Alは、フェライト安定化元素であり、1.0%を超えて含有されると鋼のAr3変態点を大きく上昇させることから、Ar3変態点以上での圧延を困難にする。したがって、Al量は1.0%以下とする。なお、フェライト生成元素であるAlは、フェライト相を増加させて高剛性化に寄与するので、このためにはAl量は0.2%以上とすることが望ましい。
N:Nは、0.01%を超えて多量に含有されると熱間圧延中にスラブ割れを誘発し、鋼板に表面疵が発生する恐れがある。さらに、高温でTiと粗大な窒化物を形成することからTiの添加効果を減少させて製造コストの増大を招く。したがって、N量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とする。
Ti、Mo:TiとMoは、複合炭化物を形成することで高剛性化、高強度化に寄与することから、Ti量は0.05%以上、Mo量は0.1%以上とし、上記(1)式のTi-1/Moを0.4〜0.6とする必要がある。なお、TiはNやSと高温で粗大な析出物を形成するが、上記Ti-1はこれらNやSと結合しないTiの量を表すものである。一方、Ti量が0.2%を超えたり、Mo量が0.4%を超えると、その効果が飽和することから、Ti量は0.2%以下、およびMo量は0.4%以下とする。
残部は、Feおよび不可避的不純物とすることが好ましいが、他の微量元素を含有しても、本願発明の効果を損なうものではない。他の微量元素としては、例えばCa、REM等が挙げられ、これらの元素は、硫化物系介在物の形態を制御することで鋼板の伸びフランジ性向上に寄与する。したがって、特に限定はしないが、この効果を得るためには、Ca、REMのうち1種以上を含み、これらの含有量の合計を0.001%以上とすることが好ましい。また、Ca、REMの含有量の合計が0.01%を超えると効果が飽和することから、これらの含有量の合計は0.01%以下とするのが好ましく、より好ましくは、0.005%以下である。また、不純物元素としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下である。
上記成分元素に加え、下記の元素のうちから選ばれた少なくとも1つの元素を含有させることができる。
Nb、V:Nb、Vは、微細な炭化物を形成することで高剛性化、高強度化に寄与する。そのためには、Nb量を0.005%以上、V量を0.01%以上とする必要がある。一方、Nb量が0.2%を超えたり、V量が0.5%を超えるとその効果が飽和するとともに、熱間圧延や冷間圧延時の圧延荷重を増加させる。したがって、Nb量は0.2%以下、V量は0.5%以下とする。なお、Nb、Vを添加した場合は、上記(2)式の代わりに上記(3)式の左辺を用いて計算される固溶Cを0.010%未満とする必要がある。
Cr、Ni、B:Cr、Ni、Bは、焼入れ性を高めることで高強度化に寄与する。このような効果を得るには、Cr量を0.05%以上、Ni量を0.05%以上、B量を0.0005%以上とする必要がある。一方、Cr量が1.0%を超えると、Ni量が1.0%を超えると、またB量が0.00030%を超えると、フェライトの生成を抑制し、剛性を低下させる。したがって、Cr量は1.0%以下、Ni量は1.0%以下、B量は0.00030%以下とする必要がある。
Cu:Cuは、微細な析出物を形成することで高強度化に寄与する。この効果を得るためには、Cu量を0.1%以上とする必要がある。一方、Cu量が2.0%を超えると熱間での延性を低下させて、熱間圧延時の割れにともなう表面欠陥を誘発するとともに、焼入れ性の効果も飽和する。したがって、Cu量は2.0%以下とする必要がある。なお、Cuを添加する場合、熱間圧延時の割れが発生し易いが、これを防止するためには、前述のNiを合わせて添加するのが好ましい。
W:Wは、固溶元素や炭化物として存在することで、剛性を向上させる。この効果を得るためには、W量を0.1%以上とする必要がある。一方、W量が2.0%を超えると合金コストが増加することから、W量は2.0%以下とする必要がある。
2)ミクロ組織
フェライト相を増加させることで、特に、圧延方向、圧延方向に対して45°方向、圧延方向に対して90°方向の平均の剛性を向上させることができることから、フェライト相の面積率を90%以上、好ましくは95%以上とする必要がある。なお、フェライト相以外のその他の相は、極力少ない方が好ましいが、特に規定する必要はなく、上記フェライト相の面積率を満足すれば、本発明の効果を阻害することはない。
3)集合組織
(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位の集合組織を発達させることで、剛性を向上させることができることから、鋼板の1/4板厚における板面の(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF(Orientation Distribution Function)解析強度fを10以上とする必要がある。
ここで、(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF解析強度fは、加工歪みの影響を除去するため化学研磨により1/4板厚まで減厚したのち、シュルツ法により(110)、(200)、(211)極点図を求め、非特許文献1に記載されたADC法によりODF解析を行い、φ1=0°、φ2=45°において、Φが25°、30°、35°、45°のときの解析強度の平均値である。
本発明が対象とする薄鋼板の中には、熱延鋼板や冷延鋼板の他に、合金化を含む溶融亜鉛めっき材や電気亜鉛めっき材などの表面処理を施した鋼板も含まれる。
4)製造方法
本発明の高強度薄鋼板は、例えば、上記のような成分組成からなる鋼を、スラブ鋳造し、熱間圧延を行い熱延鋼板とし、巻取った後、酸洗し、冷間圧延を行って冷延鋼板とし、焼鈍を行って製造されるが、以下にその詳細を説明する。
4-1)仕上圧延終了温度
熱間圧延時の仕上圧延の圧延終了温度(仕上圧延終了直後の温度)がAr3変態点を下回ると、フェライト粒が粗大化したり、巻取温度が低い場合には未再結晶の組織となって、剛性を向上させる集合組織を発達させることができない。したがって、仕上圧延終了温度はAr3変態点以上とする必要がある。
なお、仕上圧延を行うに際し、Ar3変態点直上での圧延を行うと{112}<111>の結晶方位からなる未再結晶のオーステナイト組織を発達させ、その後の冷却過程において{112}<111>未再結晶オーステナイトからフェライト変態させることで{113}<110>のフェライト方位を発達させることができ、冷間圧延、焼鈍後に(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位を高めることができ、剛性をより向上させることができる。それには、(Ar3変態点+100)℃以下における合計圧下率を50%以上として仕上圧延を行い、かつ仕上圧延終了温度をAr3変態点〜(Ar3変態点+50)℃の温度範囲とすることが好ましい。また、仕上圧延を行うに際し、潤滑圧延を行うと高剛性化に不利な剪断歪による集合組織の発達を抑制できる。
4-2)巻取温度
熱間圧延後の鋼板を巻取るにあたり、巻取温度が500℃を下回ると、低温変態相が生成して、その後の冷間圧延において剛性を向上させる集合組織を発達させることができなくなったり、炭化物が微細に析出して、その後の冷間圧延時の負荷が増加するとともに、焼鈍時には微細な炭化物が容易に固溶し、高剛性化への寄与が小さくなる。したがって、巻取温度は500℃以上、好ましくは600℃以上、より好ましくは650℃以上とする必要がある。一方、巻取温度が700℃を超えるとスケールが成長することで歩留まりの低下を招くことから、巻取温度は700℃以下とすることが好ましい。
巻取り後の熱延鋼板は、スケールを除去するため冷間圧延前に酸洗を行う必要がある。なお、酸洗条件は通常の条件で行えばよい。
4-3)冷間圧延時の圧下率
酸洗後の熱延鋼板を冷間圧延する際に、その圧下率を最適化することで、剛性の向上に有効な(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位に回転させることができる。このような方位を発達させるには圧下率を20〜85%とする必要がある。一方、圧下率が高い場合は、圧延荷重が高くなり操業上のコストが増加することから、圧下率は60%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。
4-4)焼鈍時の昇温速度
焼鈍時の昇温速度が極端に遅いと、昇温途中でフェライトの再結晶が促進し、(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位以外の集合組織を有する粒が成長することから、焼鈍時の昇温速度は室温から820℃までの平均での1℃/s以上とする必要がある。なお、昇温速度は、特に上限を設けるものではないが、大きな昇温速度を得るには急速加熱設備等が必要となり製造コストが上昇するため、平均で30℃/s未満とすることが好ましい。
4-5)焼鈍時の加熱温度
焼鈍時の加熱温度が820℃未満だと、焼鈍後に未再結晶が残り、加工性が著しく低下するので、加熱温度は820℃以上とする必要がある。一方、加熱温度が900℃を超えると、(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位以外の集合組織を有する粒が成長することから、加熱温度は900℃以下とする必要がある。
4-6)焼鈍加熱時の滞留時間
焼鈍時の加熱温度が本発明範囲内であっても、長時間滞留させると(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位以外の集合組織を有する粒が成長することから、820〜900℃の温度範囲に上記(4)式を満たすような時間v(s)滞留させる必要がある。ここで、(4)式は、所定の集合組織を得ることができるような滞留時間を求めた実験式である。なお、820〜900℃の温度範囲では、上記滞留時間v(s)を満足しさえすればよく、この温度範囲における熱履歴は、特に規定する必要はなく、製造設備に合わせ設定すればよい。
焼鈍時の加熱後の冷却は、特に規定されないが、冷却速度が遅いと粒成長により強度低下を招くことから、3℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。一方、冷却速度が速くなると、フェライトの生成が抑制され、剛性が低下することから、100℃/s以下の冷速速度で冷却することが好ましく、30℃/s以下の冷速速度で冷却することがより好ましい。
なお、焼鈍後は、形状を矯正するとともに、加工により結晶が回転することでさらに剛性を向上させることができるので、0.3%以上の伸び率で調質圧延を行うことができる。
発明の実施に当たっては、目的とする強度レベルに応じた化学成分の鋼を、通常の転炉法、電炉法などで溶製する。溶製された鋼は、スラブに鋳造後、そのまま、あるいは一旦冷却後再加熱して熱間圧延される。焼鈍時には、冷却途中で過時効処理を行ってもよいし、一旦冷却した後、再加熱して過時効処理を行ってもよい。溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合には、溶融亜鉛中に浸漬させることでめっきすることもできるし、浸漬後、めっき層の合金化処理のため500℃以上の再加熱を行うこともできる。
表1に示す成分組成を有する鋼A〜Pを溶製し、スラブに鋳造した後、スラブを再加熱して表2〜3に示す熱延条件で熱延鋼板を作製した。ここで、表1のAr3変態点は、発明者らが求めた実験式である900-200×C0.5+40×Si-30×Mn+40×Al-10×Cr+30×Mo-15×Ni-20×Cu+10×Wより求めた(ただし、各元素記号は各元素の含有量を表す。)。その後、酸洗し、表2〜3に示す圧下率で冷間圧延し、表2〜3に示す焼鈍時の加熱条件で加熱を行い、加熱後は820℃から10℃/sの平均冷却速度で冷却して鋼板1〜32を作製した。なお、焼鈍時の冷却途中で350℃で150sの時効処理を行って冷延鋼板を、あるいは冷却途中の470℃で溶融亜鉛めっき後、500〜550℃に再加熱して合金化処理を行って合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
そして、鋼板の板厚断面を研磨後ナイタール腐食してSEM観察を行い、3ヶ所の30×30μm域を画像処理して、フェライト相の面積率を測定した。また、上記した方法で、鋼板の1/4板厚における板面の(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF解析強度fを測定した。さらに、圧延方向に対して0°、45°および90°方向を長手方向としてそれぞれ10×60mmの試験片を切り出し、横振動型の共振周波数測定装置を用いて、American Society for Testing Materialsの基準(C1259)に従い、各々の方向のヤング率E0、E45、E90(GPa)を測定し、平均ヤング率Eave[=(E0+2E45+E90)/4]を求めた。さらにまた、圧延方向に対して90°方向の引張特性値を、JIS 5 号引張試験片を用い、引張速度1mm/分で求めた。
結果を表2〜3、図1〜2に示す。本発明例は、いずれもTSが590MPa以上、圧延方向に対して90°方向のヤング率E90が230GPa以上、かつ圧延方向に対して0°、45°および90°方向の平均ヤング率Eaveが210GPa以上であり、剛性に優れた高強度薄鋼板であることがわかる。
Figure 0004622784
Figure 0004622784
Figure 0004622784
平均ヤング率Eaveと(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF解析強度fとの関係を示す図である。 平均ヤング率EaveとTi-1/Moとの関係を示す図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.3%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.0%以下、N:0.01%以下、Ti:0.05〜0.2%、Mo:0.1〜0.4%を含有し、C、N、S、Ti、Moの含有量が下記の(1)〜(2)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、面積率で90%以上のフェライト相を含有するミクロ組織を有し、かつ鋼板の1/4板厚における板面の(113)[1-10]〜(223)[1-10]方位における平均のODF解析強度fが10以上であることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板;
    Ti-1/Mo=0.4〜0.6・・・・・(1)
    C-(12/47.9)×Ti-1-(12/95.9)×Mo<0.010・・・・・(2)
    ここで、[1-10]は(1,-1,0)の方向を表し、Ti-1=Ti-(47.9/14)×N-(47.9/32.1)×Sであり、式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  2. さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.2%、V:0.01〜0.5%から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、上記の(2)式に代わり、C、N、S、Nb、Ti、Mo、Vの含有量が下記の(3)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板;
    C-(12/47.9)×Ti-1-(12/92.9)×Nb-(12/95.9)×Mo-(12/50.9)×V<0.010・・・・・(3)
    ここで、式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  3. さらに、質量%で、Cr:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%の中から選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。
  4. さらに、質量%で、Cu:0.1〜2.0%を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。
  5. さらに、質量%で、W:0.1〜2.0%を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組成からなる鋼を、鋳造し、Ar3変態点以上の仕上圧延終了温度で熱間圧延し、500℃以上の巻取温度で巻取った後、酸洗を行い、20〜85%の範囲の圧下率で冷間圧延を行った後、焼鈍を行うに際し、室温から820℃までを平均1℃/s以上の昇温速度で加熱し、加熱温度を900℃以下として820〜900℃の温度範囲に下記の(4)式を満たすような時間v(s)滞留させることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法;
    Figure 0004622784
    ここで、F(w)は、鋼板が820℃になってから820〜900℃の温度範囲内に滞留する時間v(s)内の任意の時間w(s)のときの温度(℃)を表す。
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