JP4621563B2 - 皮膚用保水シート - Google Patents
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Description
美容フェイスマスクに利用される保水シートの基材としては、一般に、不織布などの繊維材料が使用されている。不織布などの基材に、水溶性コラーゲンやゼラチンなどの保水性材料を塗工したり含浸させたりすることも行われている。この水溶性コラーゲンは、本来は不溶性であるコラーゲンを、酵素やアルカリなどで処理して水溶性にしたものである。
そこで、基材の材料としてコラーゲンを用いることにより、柔軟性があって、しかも、表面粗さの生じない保水シートが提案されている。すなわち、特許文献1には、魚由来の真皮コラーゲン成分含有水性液の成形シートが提案されている。この魚由来コラーゲンシートは、柔らかくて触感が良く、生体親和性が高いという利点があるので、フェイスマスクや止血材シートなど皮膚に貼り付けて使用する用途に適する、とされている。そして、特許文献2には、魚類のうろこに由来する水溶性コラーゲンを乾燥させたコラーゲンフィルムを、美容用コラーゲンマスクや医療用人工皮膚代替品などに利用することが提案されている。
そこで、本発明の課題は、皮膚への馴染みと張り感、しっとり感に優れ、美容用途や医療用途などに極めて適した皮膚用保水シートとその製造方法を提供することである。
すなわち、特許文献1、2のいずれの製法でも、コラーゲン含有液を、塗工したり型に流し込んだりして層状にしたあと、空気乾燥や凍結乾燥などの乾燥方法で乾燥させることで、成形シートを得ている。そのため、得られたコラーゲンシートを保水シートとして使用するためには、シート重量の10〜35倍に当たる大量の水分を含浸させる必要があるが、いったん乾燥させた硬いコラーゲンシートに、あとで水分を含浸させても、コラーゲン組織が本来持っている十分な保水性、強度、キメの細かさや整いを取り戻すことのできないことが分かった。乾燥によりこのようなことの起きる理由は、乾燥の過程で、コラーゲン分子あるいはコラーゲン線維同士に化学的な結合が生じたり、ミクロ構造あるいは三次元構造に変化が生じたりして、コラーゲン組織本来の十分な保水性、強度とキメの細かさや整いが失われてしまうことにあると推定できる。
特許文献1、2のいずれの製法でも、上で述べたように、成形シートに機械的強度を付与するための乾燥工程において一旦は水分を除去しておきながら、使用時には再び水分を与える(水戻し)という2度の手間がかかり、しかも、使用者において、この水戻しにある程度の熟練を要する面倒さを与えるという問題もある。
本発明者は、大量の水を含んで湿潤状態にある成形シートに機械的強度を与えるための処理において、このような種々の問題を生む乾燥を施すこと以外の手段がないか、さらに、種々検討を重ね、実験を重ねた。その結果、大量の水を含んで湿潤状態にある成形シートを化学的に凝固させることにすれば、得られた成形シートは含水状態のままで機械的強度を持つことができることを見出し、本発明を完成した。
本発明にかかる皮膚用保水シートは、上記において、不溶性コラーゲンが哺乳類由来のコラーゲンであって変性温度35〜50℃であることができる。
そして、本発明にかかる皮膚用保水シートの製造方法は、保水状態で皮膚に当てて使用するシートの製造方法であって、不溶性コラーゲンの微細物を3〜8重量%含有する水懸濁液を調製する工程(a)と、前記水懸濁液をシート状に成形し含水状態のまま凝固させる工程(b)と、を含み、得られた成形シートを乾燥する工程は含まない、ことを特徴とする。
保水シートを製造するのに用いるコラーゲン原料としては、通常のコラーゲン原料が使用できる。
コラーゲン原料には、哺乳類、魚類、鳥類その他の生物の生体組織が使用できる。原料生物の種類、生体組織の部位などによって、コラーゲン原料の特性や機能が異なることがあり、得られる保水シートの特性や性能も変わってくる。
例えば、前述した特許文献1、2で提案されているコラーゲン製の皮膚用保水シートでは、いずれも、そのコラーゲン原料として魚類由来のコラーゲンを使用している。その理由として、特許文献1では、魚類由来のコラーゲンは、牛や豚などの哺乳類由来のコラーゲンに比べて、柔らかくて触感に優れるシートが得られるからであると説明されている。しかし、魚類由来のコラーゲンは、コラーゲン線維のフィブリル構造や3重螺旋構造が変形したり分解したりすることの目安となる、いわゆる「変性温度」が低い。魚類由来のコラーゲンは、通常、その変性温度が20℃以下であるから、人間の皮膚温である36℃程度近くになると、必然的に変性が起こってしまう。25℃程度の常温室内環境でも変性が生じてしまう。そのため、人の皮膚に当てて使用すると、体温によってコラーゲンの変性が生じ、シート特性が悪くなってしまうことがあり、場合により、その対策が必要となる。このような変性は水の存在下で一層起こり易くなるので、含水状態で長期間保存する場合もその対策が求められる。
哺乳類には、一般的なコラーゲン製品の原料である牛や豚、羊などの家畜類が挙げられる。通常、人間よりも体温の高い哺乳類は、人間の体温よりも高い変性温度のコラーゲンを供給することができる。変性温度のより好ましい条件は、40〜45℃である。変性温度が高いほど、皮膚に貼り付けて使用しているとき、および、流通保管などの取り扱い中に、コラーゲンの変性あるいはシートの特性低下が生じ難い。
コラーゲン原料には、不溶性コラーゲンのみを含有するもののほか、不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの両方を含むものもある。不溶性コラーゲンが十分な割合で含まれるコラーゲン原料を用いる必要がある。
通常の各種コラーゲン製品やゼラチン製品などを製造するのに利用されている原料のうち、上記条件にあてはまるものを使用することができる。
<コラーゲン原料>
前記したコラーゲン原料から得られるコラーゲンであって、可溶化処理を受けていないコラーゲンを意味し、水溶性を持たない。すなわち、水溶性コラーゲンではない。
通常のコラーゲン製品の製造工程では、コラーゲン原料に対してコラーゲン分解酵素やアルカリなどによるコラーゲンの可溶化処理を行い、水溶性コラーゲンを抽出して、コラーゲン水溶液の形態で使用することが多いが、本発明では、上記のような可溶化処理を行わないコラーゲン、すなわち、不溶性コラーゲンを用いるのである。もっとも、コラーゲン原料には、少量(例えば、1〜5重量%程度)であれば、水溶性コラーゲンが含まれていても良い。したがって、本発明に用いられるコラーゲン原料には、発明の目的を阻害しない範囲で、原料由来で不可避的に存在する水溶性コラーゲンが含まれていても構わないし、保水シートの成形性や使用時の特性を向上させるために、不溶性コラーゲンに対し少量の水溶性コラーゲンを添加しておくこともできるのである。原料由来で水溶性コラーゲンが入り込むのは、不溶性コラーゲンの製造過程で、不溶性コラーゲンが少量、可溶化してしまうなどによる。
コラーゲン原料から不溶性コラーゲンを製造し保管している間は、不溶性コラーゲンが可溶化し難いように、適切なpH条件に設定しておくことが望ましい。通常、pH5〜8に設定しておけばよい。不溶性コラーゲンの微細物が水懸濁液の状態であれば、適量のpH調整剤を加えておくことができる。
<製造方法>
具体的には、コラーゲン原料として、動物の皮を用いる場合、原料皮を脱毛し洗浄したあと、脱灰し、pHを調整して皮を膨潤させ、膨潤した皮を細断したり粉砕したりすれば、不溶性コラーゲンの微細物を得ることができる。
〔保水シートの製造〕
以下の工程で保水シートが得られる。
上記で得た不溶性コラーゲン微細物の水懸濁液は、保水シートを得るための成形原料となるが、成形方法に合うように水分量を調整すれば、所望の割合で不溶性コラーゲンを含有する水懸濁液となる。一般的には、不溶性コラーゲンを3〜8重量%含有する水懸濁液を調製しておく。好ましくは、不溶性コラーゲンを5〜7重量%含有する水懸濁液を調製しておく。不溶性コラーゲンの含有量が少な過ぎると、シート状に成形することが困難であったり、強度的に弱いシートしか得られなかったりする。不溶性コラーゲンの含有量が多過ぎると、流動性が悪くなって成形が難しくなったり、保水性能が悪くなったりする。
水懸濁液には、水以外の液体成分および固体成分を添加しておくことができる。添加材料としては、成形凝固によるシート製造に有用な成分がある。例えば、凝固反応に寄与する化合物や、流動性を調整する化合物などが挙げられる。水以外の溶媒成分を配合しておくこともできる。保水シートの用途において必要な成分を添加しておけば、成形凝固された保水シートに、水とともにそれらの必要成分が含有された状態になる。このような添加剤としては、例えば、保水シートの変質を防ぐ防腐剤や殺菌剤などがある。美容作用や化粧機能のある材料もある。香料や着色剤などもある。医療用途に有用な医薬成分を添加することもできる。血液凝固作用のある薬剤や皮膚の殺菌作用のある薬剤が挙げられる。
不溶性コラーゲンが分散された水懸濁液をシート状に成形し含水状態のままで凝固させる。これらの作業は、不溶性コラーゲンが、できるだけ可溶化したり変性したりしないようにして行うことが望ましい。
成形においては、水懸濁液を、バットのような容器に薄く溜めれば、容器形状に対応する形を取る。ペースト状を呈する水懸濁液を、所定の口金形状を有する押出ノズルから押し出せば、所望の断面形状で連続した帯状に成形される。基板や基材シートの上に水懸濁液を流して膜を形成させることもできる。ローラや走行する基材シートを水懸濁液に漬けて引き上げることで、一定厚みの液層を形成させることもできる。このとき、従来、ソーセージなどのコラーゲンケーシングの成形に使用されていた成形装置や成形技術を転用することができる。
凝固工程は、成形工程のあとで成形物に対して行うこともできるし、成形と同時に行うこともできる。成形シートは高含水状態のままで凝固させる。
コラーゲンの等電点よりもアルカリ側のpH環境では、コラーゲンが凝固する。コラーゲンの等電点は、コラーゲン原料や製造条件などで変わるが、通常、pH7〜9である。そこで、コラーゲンを凝固させるには、pH4〜5に調整すればよい。pH調整剤としては、通常のコラーゲン製品において使用されている各種の化合物が使用できる。中性塩の高濃度水溶液が使用できる。具体的には、塩酸やクエン酸などが挙げられる。コラーゲン微細物含有水懸濁液の成形シートは、塩溶液に浸漬したり、アンモニアガス雰囲気中に晒したりして凝固させることもできる。
なお、コラーゲン成形シートには、通常のコラーゲンケーシング製造における架橋剤や硬化剤の添加は、コラーゲンの柔軟性や保水性、皮膚への密着性などを損なうので採用しない。そして、言うまでもないが、成形シートは、使用段階までは、これを乾燥させてしまうと、本発明の目的は達成できない。
〔保水シート〕
凝固により得られた保水シートは、不溶性コラーゲンとともに大量の水を含有する高含水状態にある。通常、不溶性コラーゲンの含有量は3〜8重量%であり、後述する添加剤の量は少ないので、含有水分量すなわち保水量は90重量%以上に達する。不溶性コラーゲンの含有量は、好ましくは5〜7重量%である。
保水シートは、製造時に所定の形状に成形されていてもよいし、成形後に裁断したりプレス打ち抜きしたりして、目的とする用途に適した所定形状に加工することもできる。例えば、美容フェイスマスクの場合、顔の形に合わせた外形や目などに対応する切り欠きなどを加工することができる。このような形状加工は、含水状態で行う必要がある。また、過剰な熱が加わらないようにしておく。
保水シートの表面に、添加剤を含む水や液体を塗工したり添加剤を散布したりすることで、添加剤成分を保水シートの保水液中に拡散させることができる。添加剤が配合された水性液に、保水シートを浸漬することで、添加剤成分を保水シートの内部に浸透させることもできる。
〔保水シートの用途〕
保水シートは、保水状態で皮膚に当てて使用される。
具体的には、美容用途において、フェイスマスク、パックシート、しわ取りシートなどが挙げられる。医療用途において、止血材シート、創傷保護シート、湿布シート、皮膚貼付薬支持シートなどが挙げられる。
〔実施例1〕
コラーゲン原料として、湿重量10kgの新鮮な豚皮を用いた。豚皮コラーゲンの変性温度は、約45℃である。
コラーゲン原料を水中、界面活性剤および炭酸ソーダの存在下で撹拌することにより脱脂および脱灰を行った。脱脂脱灰物を、水洗したあと、冷却しながら5〜10mmの大きさに細断した。細断片に水を加え、マイクロカッターで微細化し、コラーゲン線維の微細物の水縣濁液(コラーゲン濃度10重量%)を得た。コラーゲン濃度が6重量%になるように水分量を調整した。得られたペースト状のコラーゲン懸濁液は、粘度700Pa・sであった。
得られたコラーゲン成形シートを、含水状態のままで、アンモニアガスと接触させた。アンモニアによってpH7.5に調整されたコラーゲン成形シートは凝固した。その後、水洗により、残存する過剰のアンモニアや不純物を除去して、保水シート7.5kgを得た。得られた保水シートの保水量は93重量%、不溶性コラーゲンの含有量は5重量%、厚さは0.6mmであった。
保水シートは、含水状態のままで、20×50mmの大きさに裁断して、上で述べた十分な量の水を含む状態のまま、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
市販の美容用フェイスマスク「ドライフェイスマスク」(商品名、石井産業株式会社製)を、20×50mmに切り取って用いた。この市販品は、コットン100%の不織布からなる。この不織布シートに、十分な量の水を含浸させて、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
〔比較例2〕
比較例1と同じ市販品の不織布シートを20×50mmに切り取ったあと、水溶性コラーゲンの0.6%水溶液を十分な量、含浸させて、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
実施例1で得られた保水シートを、凍結乾燥機「Freezone6(製品名、LABCONCO社製)」を用い、3日間かけて凍結乾燥させた。得られた凍結乾燥シートに、もう一度、十分な量の水を含浸させて、試験シートとし、以下の性能評価試験を行った。
〔性能評価試験〕
<保水性能>
含水状態の試料シートを下記の測定環境に放置して、経時的に水分を蒸散させながら、60分経過後に残存する水分量(60分後残存率)を見て、保水性能を評価した。
60分後残存率は、試験シートの含水状態における初期の全重量(W1)と、60分経過後の全重量(W2)と、試料シートを完全に乾燥させたときの乾燥重量(W3)から、下式で求めることができる。
60分後残存率(%)=〔(W2−W3)/(W1−W3)〕×100
<官能試験>
モニター10名が、各試料シートを肌に貼り付け、10分間保持したあと、剥がし、そのときの使用感を、下記(1) 〜 (5)の項目について、○、△、×の3段階で評価した。3段階の各印は、下記の項目の感覚が、「○:ある。」、「△:ややある。」、「×:なし。」をそれぞれ表す。評価はモニター10名中の多数で決めた。
(2) しっとり感
(3) 張り感
(4) 透明感
(5) なめらか感
上記各項目中、「密着感」は、試験片貼付け時の皮膚感覚で見ることとし、主として皮膚に対する馴染みに関係し、「しっとり感」は、試験片保持中の皮膚感覚で見ることとし、主として保水性と皮膚に対する馴染みに関係し、「張り感」は、試験片保持中の皮膚感覚で見ることとし、主として保水性と基材のキメの細やかさや整いに関係し、「透明感」は、試験片保持中の視覚的感覚で見ることとし、主として保水性とキメの細やかさや整いに関係し、「なめらか感」は、試験片剥がし時の皮膚感覚で見ることとし、主として基材のキメの細やかさや整いに関係する。
本発明の保水シートである実施例1の評価結果を、水を含浸させただけの不織布シートである比較例1、それに水溶性コラーゲンを含浸させた不織布シートである比較例2の各評価結果を対比すれば、本発明の保水シートは、市販品の保水シートに比べて、保水性、皮膚への馴染み、張り感としっとり感のいずれにおいても優れていることが分かる。
実施例1の評価結果と、実施例1の保水シートを凍結乾燥させた比較例3の評価結果とを比べると、実施例1のほうが、密着感、しっとり感、張り感、透明感およびなめらか感のいずれにおいても勝っている。比較例3のこの結果から、本発明品と同じ材料、製造方法で得られたコラーゲンシートであっても、いったん乾燥させてしまうと、その後にいくら吸水させても、元の特性を取り戻すことが難しいことが分かる。このことから、本発明において、成形・凝固によって得られた保水シートであることは、特許文献1、2で従来知られている凍結乾燥コラーゲンシートに比べて、皮膚への馴染み、張り感、しっとり感、そして、保水性のいずれにおいても優れていることが分かる。
Claims (4)
- 保水状態で皮膚に当てて使用するシートであって、
不溶性コラーゲンの微細物を水に懸濁させた状態で成形し含水状態のまま凝固させてなり、乾燥させることなくして使用に供される、前記不溶性コラーゲンの含有量が3〜8重量%のシートである、
ことを特徴とする、皮膚用保水シート。 - 前記不溶性コラーゲンが、哺乳類由来のコラーゲンであり、変性温度35〜50℃である、請求項1に記載の皮膚用保水シート。
- 保水状態で皮膚に当てて使用する請求項1または2に記載のシートの製造方法であって、
不溶性コラーゲンの微細物を3〜8重量%含有する水懸濁液を調製する工程(a)と、
前記水懸濁液をシート状に成形し含水状態のまま凝固させる工程(b)と、
を含み、得られた成形シートを乾燥する工程は含まない、
ことを特徴とする、皮膚用保水シートの製造方法。 - 前記工程(a)においては、前記水懸濁液を粘度300〜1000Pa・sに調整し、
前記工程(b)においては、前記水懸濁液を、塩化ナトリウム、硫酸ソーダ、硫酸アンモニウム、アンモニアからなる群から選ばれる凝固剤を含有する凝固浴中に、厚さ0.3〜0.8mmのシート状に押出成形して凝固浴中で含水状態のシートを凝固させる、
請求項3に記載の皮膚用保水シートの製造方法。
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