JP4621348B2 - ノルボルネン系モノマーの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノルボルネン系モノマーの製造方法に関し、詳しくは、熱可塑性ノルボルネン系樹脂の製造原料として好適なノルボルネン系モノマーの収率の高い製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノルボルネン系モノマーを重合して得られる重合体は、透明性、低吸水性などに優れた樹脂として、光学レンズ、医療器材、食品容器などの分野で使用されてきている。ノルボルネン系モノマーの中でも、特にテトラシクロドデセン、ノルボルネンなどのモノマーを重合して得られる樹脂の成形品は透明性、低吸水性などに加えて耐熱性にも優れるので、一層需要が広がりつつある。
【0003】
特開平1−149738号公報には、ジシクロペンタジエンまたはシクロペンタジエンとノルボルネン、エチレンなどを含むジエノフィル化合物とを熱処理してディールス・アルダー反応させることにより、テトラシクロドデセン、ノルボルネンなどのノルボルネン類混合物を合成する方法が開示されている。
しかし、この方法によるとノルボルネン類混合物を合成する際に、ジシクロペンタジエンとシクロペンタジエンとが反応してシクロペンタジエン(以下、CPDと記すことがある。)3量体が生成する。
CPD3量体には、炭素−炭素二重結合を、2個のノルボルネン環に各1個有するペンタシクロ〔7.4.0.12,5 .19,12.08,13〕−3,10−ペンタデカジエン(フルオレン型)と、ノルボルネン環と5員環に各1個有するペンタシクロ〔7.4.0.12,5 .17,13.08,12〕−3,10−ペンタデカジエン(ベンゾインデン型)2種の異性体があり、通常、両者は混在する。しかし、フルオレン型CPD3量体が、生成物の類混合物に混入すると、重合反応時に架橋反応を起こすため、得られる重合体が高分子量化して溶剤への溶解性を低下させたり、ゲルを発生させるなどの問題を引き起こす。
【0004】
その後、ノルボルネン類混合物中のフルオレン型CPD3量体の量を低減する方法として下記が提案された。特開平7−173085号公報は、ジシクロペンタジエンまたはシクロペンタジエンとジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させて得られる生成混合物につき複数回減圧蒸留してフルオレン型CPD3量体含有量を50〜5,000ppmに制御することを提案している。また、国際公開WO97/33848号公報は、ノルボルネンおよび置換ノルボルネン誘導体を得るためにジシクロペンタジエンなどの環状ジエンとスチレン、1−ブテンなどのオレフィン化合物とをディールス・アルダー反応させる際に、初期仕込みの環状ジエンを低濃度とし、かつ、反応進行とともに環状ジエンを徐々に追加する手法を採ることにより、反応中の環状ジエンを希薄状態にして二量化、三量化するのを阻止することを提案している。
しかし、これらの方法は、いずれも高価な付帯設備と煩雑な操作を要し、生産性、生産コストに問題を有するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フルオレン型CPD3量体含有量の少ないノルボルネン系モノマーを簡便な操作で、かつ、高収率で得ることができるノルボルネン系モノマー製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、シクロペンタジエン類とジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させてノルボルネン系モノマーを合成するにあたり、立体異性体の一方であるエキソ体の含有率の少ないジシクロペンタジエン類を用いることにより、CPD3量体の生成を抑制することができ、テトラシクロドデセン、ノルボルネンなどのノルボルネン系モノマーを、簡単な操作で、しかも高収率で得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、
(1)エキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類を分解して得られるシクロペンタジエン類と、ジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含むノルボルネン系モノマーの製造方法、
(2)シクロペンタジエン類を温度40〜130℃、圧力440〜640kPaにて二量化反応させてエキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類を得、次いで該ジシクロペンタジエン類を分解して得られるシクロペンタジエン類と、ジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含むノルボルネン系モノマーの製造方法、
(3)前記ジシクロペンタジエン類および前記ジエノフィル化合物を反応器内に連続的に供給して反応させる請求項1記載のノルボルネン系モノマーの製造方法、および、
(4)シクロペンタジエン類を温度40〜130℃、圧力440〜640kPaにて二量化反応させて得られる、エキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類、
が提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、新たなノルボルネン系モノマーの製造方法を提供するものである。
本発明の製造方法は、シクロペンタジエン類とジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含むノルボルネン系モノマーの製造方法であり、その際にエキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類を分解して得られるシクロペンタジエン類を用いることを特徴とする。
上記製造方法で得られるノルボルネン系モノマーは、CPD三量体の含有量の少ないノルボルネン系モノマー類である。
これらのノルボルネン系モノマーの具体例としては、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン(慣用名ノルボルネン。以下、NBと略記することがある。)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン;
【0008】
5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミド、5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]−ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−デカ−3,7−ジエン、トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−ウンデカ−3,7−ジエンもしくはトリシクロ[4.4.0.12,5 ]−ウンデカ−3,8−ジエン、トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−ウンデカ−3−エンなどのノルボルナン環を付帯しないノルボルネン系モノマー;
【0009】
さらに下記に挙げる分子量150〜240のモノマーの製造には本発明は特に有効である。
テトラシクロ[7.4.0.110,13 .02,7 ]−トリデカ−2,4,6、11−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう。以下、MTFと記すことがある。)、テトラシクロ[8.4.0.111,14 .03,8 ]−テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう)などのノルボルナン環を付帯しないノルボルネン系モノマー;および、
【0010】
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう。以下、TCDと略記する。)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.12,5 .17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−カルボキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.11,8 .13,6 .02,7 .09,13]−ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6 .110,13 .02,7 ]−ペンタデカ−4,11−ジエンなどのノルボルナン環を付帯するノルボルネン系モノマーなどが挙げられる。
本発明の方法は、これらのノルボルネン系モノマーを、シクロペンタジエン類とジエノフィル化合物とのディールス・アルダー反応により、単独にまたは数種を同時に製造し得るものである。
【0011】
本発明に使用するジシクロペンタジエン類は、トリシクロ[4.3.0.12,5 ] −デカ−3,7−ジエン(慣用名でジシクロペンタジエンという。以下、DCPDと略記する。)またはメチル基、エチル基などの炭素数1〜8のアルキル基を置換基として環に1個または複数個有するDCPD誘導体である。
DCPD類には、立体異性体としてエキソ(exo)体とエンド(endo)体とがある。DCPDは加熱すると下式(1)のようにCPDに分解するが、その温度はエキソ体のDCPD類は190℃以上であり、エンド体のDCPD類は150〜160℃である。
【0012】
【化1】
【0013】
通常、工業的に製造されるDCPDはエキソ体を1〜5重量%含有するが、本発明に使用するDCPDは、エキソ体の含有率が0.8重量%以下、好ましくは0.6重量%以下、さらに好ましくは0.4重量%以下のものである。本発明では、大部分がエンド体であるDCPD類を使用するので、ディールス・アルダー反応時に容易に分解するため、実質的な反応原料成分はCPD類である。ここで、CPD類とは、CPDまたは置換基としてメチル基、エチル基などの炭素数1〜8のアルキル基を環に1個もしくは複数個有するCPD誘導体である。
【0014】
DCPD類は、CPD類を二量化して製造されるが、エキソ体のDCPD類が0.8重量%以下になるようにするためには、この二量化反応を、好ましくは40〜130℃、より好ましくは50〜120℃に、圧力を、好ましくは440〜640kPa、より好ましくは490〜590kPaにそれぞれ保持すればよい。保持する時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1.5時間以上である。上記範囲の温度においても、低温ほど長い保持時間を要する。温度または/および圧力が高すぎるとエキソ体のDCPD類が増大するおそれがある。また、低すぎると生成したDCPD類が粘稠化して反応工程で移送等が困難になり、ディールス・アルダー反応が進行しにくくなるおそれがある。
【0015】
エキソ体含有率が0.8重量%を越えるDCPD類を使用すると、エキソ体DCPD類がCPD類に分解しないために、ディールス・アルダー反応時に分解したCPD類と反応して、下式(2)によりCPD3量体が生成する。
【0016】
【化2】
【0017】
CPD3量体の沸点(10mmHg:120〜130℃)は、ディールス・アルダー反応の生成物であるノルボルネン系モノマーの中で、特に、前記した分子量150〜240のモノマーに沸点が近くて蒸留による分離が困難なため、CPD3量体の生成が例え数モル%の比較的少量であっても、反応生成物から該CPD三量体を除去して目的とするノルボルネン系モノマーを得ようとする場合、その収率は往々にして大幅な低下を来す。また、精製が困難なため精製後のノルボルネン系モノマーにCPD3量体がしばしば残留し、ノルボルネン系モノマーを重合反応に使用すると、前記の架橋反応を惹起して熱可塑性樹脂を製造する場合に障害となる。
本発明の方法によると、CPD3量体がほとんど生成しないので、目的とするノルボルネン系モノマーの生成率が高く、また、簡便な精製によって高収率で単離できるのである。
また、分子量が150〜240のものより低分子量の前記ノルボルネン系モノマーを本発明方法で得た場合は、それらにはCPD3量体がほとんど含まれていないので、上記同様熱可塑性樹脂の製造に適する他、ディールス・アルダー反応用ジエノフィルとしてDCPD類と反応させ、高分子量のノルボルネン系モノマーを高収率で製造するのに有効である。
【0018】
本発明で使用するジエノフィル化合物としては、鎖状および環状の脂肪族ならびに芳香族のオレフィンならびにジエンが含まれる。かかるジエノフィル化合物の例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ブテン−2、イソブテン、ペンテン−1、ペンテン−2、2−エチルプロピレン、3−ジメチルプロピレン−1、3−ジメチルプロピレン−2、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンなどの脂肪族オレフィン類;ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、デカジエン、ドデカジエンなどの脂肪族ジエン類;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどの脂環族オレフィン類;シクロヘキサジエン、シクロオクタジエンなどの脂環族ジエン類(CPD類を除く);スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族類;ジヒドロジシクロペンタジエン、NB、メチルノルボルネン、エチルノルボルネン、ブチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、ビニルノルボルネンなどのノルボルネン化合物(DCPD類を除く)などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合して使用することができる。混合して使用する場合は、反応後に生成物を蒸留で分離しやすいように、例えばエチレンとNBのように分子量が大きく離れているものの組み合わせであることが好ましい。
上記ジエノフィル化合物は、一般化して下式(3)で表すことができる。
【0019】
【化3】
【0020】
ここで、AおよびBは、水素原子または、互いに結合して環を形成する炭素数1〜20の炭化水素基であり、該環は、水素原子、炭素原子、ハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子、窒素原子からなる置換基を有していてもよい。XおよびYは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、または、ハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基を示し、互いに結合して環を形成してもよい。
【0021】
本発明の製造方法は、上記のエキソ体含有率が0.8重量%以下であるDCPD類を分解して得られるCPD類と、ジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含む。
ジシクロペンタジエン類とジエノフィル化合物の使用比率は、前者1モルに対して後者2〜12モルが好ましく、より好ましくは5〜9モルである。ジエノフィル化合物の使用量が過度に少ないと、DCPD類が分解したCPD類相互の反応が優先的に進行してCPD3量体を過剰に生成するおそれがある。逆に、ジエノフィル化合物の使用量が過度に多いと、未反応のジエノフィル化合物が過剰に残存して目的生成物の収率を低下させる可能性があるので好ましくない。
【0022】
本発明におけるディールス・アルダー反応は、限定されず、通常のディールス・アルダー型の熱付加反応と同様に行うことができる。
反応の方法としては、回分式の場合は、次に示す方法が挙げられる。例えば、DCPD類単独またはDCPD類とジエノフィル化合物とを、窒素などの不活性ガス雰囲気下で反応させる。反応温度は、好ましくは120〜250℃、より好ましくは130〜230℃、特に好ましくは150〜210℃の温度である。反応圧力は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2〜15MPaである。反応時間は、好ましくは0.1〜4時間、より好ましくは0.5〜3時間である。
連続式(流通式)の場合は、DCPD類とジエノフィル化合物を前記の使用比率で反応器内に連続的に供給してディールス・アルダー反応を行う。その際、両原料成分は、予め混合してから、また、温度120〜140℃に予め加熱してから、反応器に供給することが好ましい。反応温度および反応圧は上記回分反応と同様の条件を、また、滞留時間は上記回分反応の反応時間に相当する時間になるよう両原料成分の供給速度を調整する。
【0023】
本発明方法においては、エキソ体含有率が0.8重量%以下であるDCPD類の分解生成物であるCPD類を使用するので、該CPD類と式(3)で表されるジエノフィル化合物との間で下式(4)で表されるディールス・アルダー反応が行われ、高い反応率でCPD3量体の少ないノルボルネン系モノマーを生成することができる。本発明方法におけるCPD3量体の生成量は、原料DCPD類に対して、通常、1.5モル%以下、好ましくは1.0モル%以下、より好ましくは5,000ppm以下である。
【0024】
【化4】
【0025】
ここで、A、B、XおよびYは、式(3)におけるA、B、XおよびYとそれぞれ同じ意味を有する。
本発明におけるディールス・アルダー反応を例示する。CPDに対して、ジエノフィル化合物としてエチレンを反応させる場合、ディールス・アルダー反応による下式(5)が示すように、NBが生成する。
【0026】
【化5】
【0027】
CPDに対して、ジエノフィル化合物としてブタジエンを反応させる場合は、ディールス・アルダー反応により下式(6)が示すようにビニルノルボルネンが生成する。
【0028】
【化6】
【0029】
CPDに対して、ジエノフィル化合物としてNBを反応させる場合は、ディールス・アルダー反応により下式(7)が示すようにTCDが生成する。
【0030】
【化7】
【0031】
これは、式(5)において、生成したNBがさらにCPDと反応して、式(7)によってTCDが微量副生する反応も起こり得ることを意味する。
また、CPDに対してジエノフィル化合物としてビニルノルボルネンを反応させる場合は、ディールス・アルダー反応により8−エチリデンテトラシクロドデセンが生成する。従って、式(6)の反応において、生成したビニルノルボルネンがさらにCPDと反応して8−エチリデンテトラシクロドデセンが微量生成する反応も起こり得ることを意味する。
このように、本発明方法による反応が行われた後の成分組成としては、主成分の目的ノルボルネン系モノマーの他、場合により副生する微量の高次反応生成物および未反応原料成分が含まれる。
一般に、目的のノルボルネン系モノマーと高次反応生成物とは分子量が大きく異なるので沸点も離れているため(例えば、NB:常圧下で96℃、TCD:219℃)、簡便な精製蒸留によって単離することができる。
【0032】
ディールス・アルダー反応終了後の生成物を精製する手順としては、先ず、未反応のCPD類および炭素数2〜5の低級ジエノフィルを使用した場合はそれらを第1の蒸留塔で塔頂留分として分離する。第1の蒸留塔は、塔頂部を圧力10〜90kPa、温度30〜90℃に、塔底部を圧力20〜100kPa、温度70〜180℃に条件設定することが好ましい。製造するノルボルネン系モノマーが単独の場合は精製は1つの蒸留塔で足りるが、複数のモノマーを製造したり、高次反応生成物がある場合は、次いで、塔底留分を第2の蒸留塔で精製する。
第2の蒸留塔の条件としては、生成物の高温による分解を避けるため通常、減圧度を強くして運転する。塔頂部を圧力0.5〜15kPa、温度60〜120℃で、塔底部を圧力1〜20kPa、温度80〜150℃の範囲として、塔頂から目的のノルボルネン系モノマーを、塔底から高次反応成分を留出するように調整する。第2の蒸留塔の塔低留出成分が多い場合は、塔頂、塔底の条件を途中の段でそれらを分離できるよう調整する。
【0033】
本発明により製造されたノルボルネン系モノマーは、開環重合、付加重合などの公知の方法によって熱可塑性の重合体の製造に利用することができる。
開環重合は、通常、重合触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウムのごとき白金族のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる系、または、チタン、バナジウム、モリブデン、タングステンなどの遷移金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなるメタセシス触媒を用い、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素などの溶媒中で、温度−50〜100℃、圧力0〜5MPaにて、1分〜100時間で行う。
単量体の濃度は、溶液中1〜50重量%が好ましい。
DCPDのように開環重合後も二重結合が残る場合は、耐熱性などの向上のために有機溶媒の溶液中で水素化触媒を用いて水素化することも行われる。
【0034】
ノルボルネン系モノマーの付加重合、またはノルボルネン系モノマーと共重合可能なエチレン、プロピレンなどα−オレフィンとの付加重合は、チタン、ジルコニウム、またはバナジウムを含有する化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系の存在下で、−50〜100℃、圧力0〜5MPaで重合する方法が採られる。
また、開環重合の1種に、DCPDのようなジオレフィンノルボルネン系モノマーにメタセシス重合触媒を少なくとも含有する反応原液を成形型内に入れて塊状重合することにより、架橋反応を伴った硬質成形体を得る方法も可能である。
【0035】
開環重合および付加重合による重合体は、透明性、低吸水性などに優れるので射出成形、押出成形、圧縮成形、インフレーション成形、キャスト成形などにより、光学レンズ、プリズム光拡散板、光ファイバーなどの光学製品;液薬容器、アンプル、バイアル、医療用輸液チューブなどの医療器材;抗吸湿変形精密機器などに特に好適である。
上記塊状重合によると、重合と成形とが同時に行えるので、機器用ハウジング、浄化槽などの大型容器;パーツ類などの精密機器部品などに利用される。
【0036】
【実施例】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらの例中の部数および%は、特記しない限り重量基準である。
各種測定は次の方法によった。
(1)DCPDのエキソ体含有率
ガスクロマトグラフィーによる。FDI検出器使用。
(2)ディールス・アルダー反応生成物の分析
ガスクロマトグラフィーによる。FDI検出器使用。
【0037】
実施例1
CPD(純度99.5%)500部を予備混合器に入れ、温度115℃、圧力500kPaで2時間保持(エージング)した。二量化反応により生成したDCPDのエキソ体含有率が0.1%になったことを確認した後、DCPD100部およびノルボルネン(NB)800部を混合容器に入れて混合した。
この混合液をオートクレーブに直結した配管の途中で140℃に予備加熱し、エチレンで6MPaに加圧した該オートクレーブに定量ポンプにて40部/hrで導入した。オートクレーブ内の温度を210℃に制御し、エチレンはオートクレーブ圧力が6MPaを維持するよう連続供給しつつ、ディールス・アルダー反応を進行させた。混合液のオートクレーブ内の滞留時間(反応時間)は30分以内とし、オートクレーブの他方の配管から目的とする反応生成物を含む反応液を40部/hrで取り出した。
反応後の反応液を第1蒸留塔(段数14)に送り、塔底部温度145℃、塔頂部温度50℃、塔内圧力24kPaで精製して塔頂から未反応DCPDを分け、次いで、塔底留分を第2蒸留塔(段数18)にて、塔底部温度160℃、塔底部圧力2.4kPa、塔頂部温度98℃、塔頂部圧力1.7kPaで精製して、NBとTCDを分離した。
反応結果および精製結果を表1に記す。
【0038】
実施例2および比較例1、2
CPDのエージングの温度を、それぞれ120℃、140℃および150℃に変更し、DCPD類中のエキソ体含有率を、それぞれ0.8%、1.0%及び1.2%に変更した他は実施例1と同様の反応を計3種行った。それぞれの反応結果および精製結果を表1に記す。
【0039】
実施例3
CPD(純度99.5%)を、温度89℃、圧力500kPaで2時間保持(エージング)して得られたエキソ体含有率0.78%のDCPDを用い、反応温度118℃、滞留時間4時間とし、オートクレーブを初期は窒素置換し、反応中はエチレン加圧を行わずに常圧で反応させた他は実施例1と同様に行った。反応結果および精製結果を表1に記す。
比較例3
CPD(純度99.5%)を、温度145℃、圧力500kPaで2時間保持(エージング)して得られたエキソ体含有率1.1%のDCPDを用いた他は実施例3と同様に行った。反応結果および精製結果を表1に記す。
【0040】
【表1】
【0041】
注
*1:CPD3量体生成率(モル%)は、生成したCPD3量体の量の、仕込みDCPD量に対するモル基準の割合。
*2:DCPD未反応率(pモル%)は、残留したDCPDおよび残留したCPDの重量の合計の、仕込みDCPD重量に対する割合。
*3:TCD選択率(モル%)は、生成したTCDのモル数の、変化したDCPDのモル数の2倍、即ち、仕込みDCPDモル数×(100−p)×2 除した割合。
*4:NB選択率は、存在するNBから未反応NBを減じて求まる生成NBのモル数の、変化したDCPDのモル数の2倍、即ち、仕込みDCPDモル数×(100−p)×2で除した割合。未反応NBは、仕込みNBのモル数から生成TCDのモル数を減じたモル数として求まる。
*5:TCD+NB生成率は、TCDおよびNBの生成に与ったCPDのモル数を、変化したDCPDのモル数2倍、即ち、仕込みDCPDモル数× (100−p)で除した割合。TCD選択率とNB選択率の和に一致する。
*6:精製後TCD+NB収率は、CPD3量体の濃度を5000ppmまでに低減する生成工程を経た後のTCDおよびNBの生成率。
【0042】
表1に示すように、エキソ体の含有率が0.1%および0.8%であるDCPDを、エチレン加圧下でNBとディールス・アルダー反応させると、CPD3量体が生成せず、エチレンの影響でNBもモル比でTCDの略半量生成し、両者の合計の生成率は99.2%および98.2%と高い値となり、これらの精製後の収率はTCD、NB合計で96.2%および95.3%の高い値となった(実施例1および2)。
これに対して、エキソ体の含有率が1.0%および1.2%と、0.8%を超える量を含有するDCPDを用いると、CPD3量体が各々3.4モル%、5.1モル%生成し、TCDおよびNBの合計の生成率は数%づつ低下し、90モル%前後に低下した。精製前の生成率の低下度はさほど大きくないものの、CPD3量体が数モル%生成したことによる精製の困難度の増加は大きく、そのため精製後の収率は70モル%前後と大幅に低下した(比較例1および2)。
また、エキソ体含有量が0.78%と1.1%のDCPDを用い、反応器をエチレン加圧をせずに反応させた場合、前者(実施例3)ではCPD3量体が生成せず、TCDのみを97.1モル%の選択率で得、これを精製してTCDのみの収率で94.2モル%の高い値を得た。しかし、後者(比較例3)ではCPD3量体が7モル%生成したため、NBの副生はなくても精製後のTCD収率は63.8%と低い値であった。
実施例3は、CPD3量体を生成せず、目的の精製TCDを後収率で得られるという効果に加えて、本発明のもう一つの効果を表わしている。それは、従来、TCDを得ることが目的であっても、DCPDと反応させるジエノフィル化合物としてNBの他に実施例1、2のようにエチレンのごときオレフィンを加えてCPD3量体の生成抑制を図る必要があり、そのためNBも副生した(特公平1−60011号公報第6欄参照)。本発明によれば、オレフィンの添加を必ずしも要さずに、CPD3量体の副生なしにノルボルネン系モノマーを得ることができた。
【0043】
実施例4、5および比較例4、5
CPD(純度99.5%)500部を予備混合器に入れ、温度を117℃、120℃、145℃および170℃の4点に振り、圧力をいずれも500kPaとして各2時間保持する4種の実験を行った。DCPDのエキソ体含有率が各々0.4%、0.8%、1.1%および1.4%であることを確認した後、それぞれDCPD100部およびインデン(以下、IDと記す。)200部を混合容器に入れて混合した。これらの混合液をそれぞれ、窒素置換したオートクレーブに一方の配管から、流路の途中で140℃に予熱させてから定量ポンプにて40部/hrで導入した。オートクレーブ内の温度を180℃に制御しつつ、オートクレーブの他方の配管から目的とする反応生成物を含む反応液を40部/hrで取り出した。滞留時間は各2時間であった。いずれも反応器の圧力は常圧である。
反応後の各反応液を実施例1と同様にして蒸留塔2基で精製して、下式(8)により生成する1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(MTF)を得た。
反応結果および精製結果を表2に記す。
【0044】
【化8】
【0045】
【表2】
【0046】
注
*1および*2は、表1におけると同じ。
*7:MTF生成率は、生成したMTFのモル数の、変化したDCPDのモル数の2倍、即ち、仕込みDCPDモル数×(100−p)×2で除した割合。
*8:精製後MTF収率は、CPD3量体の濃度を5000ppmまでに低減する生成工程を経た後のTCDおよびNBの生成率。
【0047】
表2に示すように、エキソ体含有量が0.8%以下であるDCPDを用いて反応器をエチレン加圧をせずに反応させると、CPD3量体が生成せず、または0.2モル%の極めて微量の生成で済み、MTFを90モル%弱の高生成率で得ることができ、精製後のMTFも85モル%前後の高収率であった(実施例4、5)。しかし、エキソ体含有量が0.8%を超えるDCPDを用いると、CPD3量体が3〜6モル%生成したため、MTFの生成率が数モル%低下し、CPD3量体の混入のため精製後のMTF収率は65%前後に大きく低下した(比較例4、5)。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、CPD3量体の含有量の少ないノルボルネン系モノマーを簡便な操作で高収率で得ることができる。
Claims (3)
- エキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類を分解して得られるシクロペンタジエン類と、ジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含むノルボルネン系モノマーの製造方法。
- シクロペンタジエン類を温度40〜130℃、圧力440〜640kPaにて二量化反応させてエキソ体の含有率が0.8重量%以下であるジシクロペンタジエン類を得、次いで該ジシクロペンタジエン類を分解して得られるシクロペンタジエン類と、ジエノフィル化合物とをディールス・アルダー反応させることを含むノルボルネン系モノマーの製造方法。
- 前記ジシクロペンタジエン類および前記ジエノフィル化合物を反応器内に連続的に供給して反応させる請求項1記載のノルボルネン系モノマーの製造方法。
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