JP4616929B1 - 月形芯及びこれを用いた靴の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】靴の生産性の向上に供する月形芯及びこれを用いた靴の製造方法を提供する。
【解決手段】この月形芯11は、天然皮革を鞣した皮革14と、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸させてなる含浸紙15とを接着により貼り合わせた月形芯本体12の表裏両面に、塗着状態においてその塗膜に微小の気孔が形成されるように配合された熱可塑性を有する所定の接着剤13が塗布されていることから、製靴工程において、製甲に装入する前に当該月形芯11を水に浸漬させることで、月形芯本体12に水分を含浸させることが可能となる。これにより、ホットプレスによって製甲の踵周りの成型を行う際に、金型の熱により月形芯本体12に含浸した水分が蒸発することで発生する水蒸気によって製甲の踵周りの金型に対する密着性の向上し、当該成型性の向上に供される。
【選択図】図3

Description

本発明は、例えば革靴において靴後部の表革と裏革との間に介装される月形芯及びこれを用いた靴の製造方法に関するものである。
近年では、以下の特許文献1に記載されたような月形芯を用いることにより、靴の製造作業性の向上に供されている。
すなわち、この月形芯は、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着により貼り合わせたものの表裏両面に、熱可塑性樹脂からなる接着剤を塗布し、これを乾燥させることによって造られたものである。かかる月形芯の場合には、製靴工程において、そのまま、いわゆる製甲の表革と裏革の間に単に装入するのみで、当該月形芯を装入した製甲の踵周りを加熱及び加圧することによって行う踵周りの成型と同時に当該月形芯の接着を行うことが可能となるため、製靴工程において月形芯に接着剤を塗布するといった煩雑な作業の省略が図れ、靴の生産性の向上に供されている。
特公平06−77524号公報
しかしながら、前記従来の月形芯も、前記接着剤が塗布されている点を除けば、通常の月形芯と何ら変わらないため、前述のような踵周りの成型後、靴型に被嵌した状態で半日(10〜15時間)程度保持することによって靴の形状の定着を図る必要があり、その結果、当該靴の生産性を向上させることが困難であった。
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであって、靴の生産性の向上に供する月形芯及びこれを用いた靴の製造方法を提供することを目的としている。
請求項1に記載の発明は、鞣し革と、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸させてなる含浸紙とを接着により貼り合わせた月形芯本体の表裏両面に熱可塑性を有する接着剤を塗布してなる月形芯において前記接着剤の塗膜に、前記月形芯本体を外部へ臨ませる気孔を形成し、該気孔を介して外部から月形芯本体に水分が浸透可能となるように構成したことを特徴としている。
この発明によれば、製靴工程において製甲内に装入する直前に当該月形芯を水に浸漬させて月形芯本体に水分を含浸させることにより、その後の踵周りの成型を行う際に、加熱により月形芯本体に含浸した水分が蒸発することによるいわゆるスチーム作用によって当該踵周りの金型に対する密着性が高められ、当該踵周りの成型性を向上させることが可能となる。
また、上述のようにして月形芯本体に水分を吸収させることにより、月形芯が軟化して当該月形芯の柔軟性の確保に供されると共に、当該月形芯の表面に塗着された前記接着剤によるべたつきの抑制にも供される。これにより、当該月形芯の製甲内への装入作業性も良好となる。
請求項2に記載の発明は、タンニン鞣し革屑を乾式粉砕したタンニン鞣し革屑繊維を含有する再生皮革紙と、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸させてなる含浸紙とを接着により貼り合わせた月形芯本体の表裏両面に熱可塑性を有する接着剤を塗布してなる月形芯において前記接着剤の塗膜に、前記月形芯本体を外部へ臨ませる気孔を形成し、該気孔を介して外部から月形芯本体に水分が浸透可能となるように構成した
この発明によれば、製靴工程において製甲内に装入する直前に当該月形芯を水に浸漬させて月形芯本体に水分を含浸させることにより、その後の踵周りの成型を行う際に、加熱により月形芯本体に含浸した水分が蒸発することによるいわゆるスチーム作用によって当該踵周りの金型に対する密着性が高められ、当該踵周りの成型性を向上させることが可能となる。
また、上述のようにして月形芯本体に水分を吸収させることにより、月形芯が軟化して当該月形芯の柔軟性の確保に供されると共に、当該月形芯の表面に塗着された前記接着剤によるべたつきの抑制にも供される。これにより、当該月形芯の製甲内への装入作業性も良好となる。
請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の月形芯において、前記接着剤の主成分をエチレン酢酸ビニルと水分によって構成し、前記水分の配合割合を52〜57重量%となるように設定することにより、前記接着剤の塗膜に前記気孔が自動的に形成されるようにしたことを特徴としている。
この発明によれば、このような割合で前記接着剤を配合したことで、従来に比べて当該接着剤の主成分であるエチレン酢酸ビニルの濃度が薄くなるため、当該接着剤の塗膜に気孔が自動的に発生することとなる
請求項に記載の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の月形芯を用いた靴の製造方法であって、前記月形芯を水に浸漬させることによって前記月形芯本体に水分を含浸させる第1工程と、該第1工程において水分を含浸させた前記月形芯を製甲の表革と裏革との間に装入する第2工程と、該第2工程において前記月形芯を挿入した製甲の踵周りを加熱しつつ加圧することによって該踵周りの成型を行いつつ前記月形芯の前記両革への接着を行う第3工程と、を有することを特徴としている。
この発明によれば、成型前に月形芯本体に水分を含浸させ、該月形芯本体に水分を含浸させた状態で製甲に装入してホットプレスを用いて踵周りの成型を行うことで、加熱により月形芯本体に含浸した水分が蒸発することによるいわゆるスチーム作用によって当該踵周りの金型に対する密着性が高められ、当該踵周りの成型性を向上させることが可能となる。
また、製甲内に装入する直前に月形芯を水に浸漬させることで、月形芯本体に水分が含浸することとなって当該月形芯の柔軟性の確保に供されると共に、表面に塗着された前記接着剤によるべたつきの抑制にも供される。これにより、当該月形芯の製甲への装入作業性を容易に行うことが可能となる。
請求項に記載の発明は、請求項に記載の靴の製造方法において、前記第3工程の後、該第3工程において成型した前記踵周りを外側から擦る又は叩くことによって該踵周りの形状の仕上げを行う第4工程を設けたことを特徴としている。
この発明によれば、製甲の成型を行った後の工程において、靴の踵周りを、いわゆるパウンディング装置を用いて外側から擦ったり叩いたりすることで、当該踵周りを、より早く靴型に沿った形状に仕上げることができる。
請求項に記載の発明は、請求項に記載の靴の製造方法であって、前記第1工程において、前記月形芯を、3〜20秒の間、水に浸漬させることを特徴としている。
この発明によれば、月形芯を前記所定時間だけ水に浸漬させることで、月形芯本体に適量の水分、すなわち十分な前記スチーム作用が得られ、かつ、前記成型後の乾燥性が良好となるような適量の水分を含浸させることが可能となる。
請求項に記載の発明は、請求項に記載の靴の製造方法であって、前記第1工程において、前記月形芯本体に0.10〜0.20gの水分を含浸させることを特徴としている。
この発明によれば、月形芯本体に適量の水分、すなわち十分な前記スチーム作用が得られ、かつ、前記成型後の乾燥性が良好となるような適量の水分を含浸させることが可能となる。
請求項1に記載の発明によれば、前記製甲の踵周りの成型性が向上する結果、その後の工程における靴型の早期の離脱が可能となって、靴の生産性の向上が図れると共に、その製造された靴についても、所望とするほぼ靴型通りの形状を確保することができ、当該靴の品質の向上にも供される。
また、月形芯の製甲内への装入作業性が向上することによっても、靴の生産性の向上に寄与することができる。
請求項2に記載の発明によれば、前記製甲の踵周りの成型性が向上する結果、その後の工程における靴型の早期の離脱が可能となって、靴の生産性の向上が図れると共に、その製造された靴についても、所望とするほぼ靴型通りの形状を確保することができ、当該靴の品質の向上にも供される。
また、月形芯の製甲内への装入作業性が向上することによっても、靴の生産性の向上に寄与することができる。
請求項に記載の発明によれば、接着剤を従来通り塗布するのみで気孔が自動的に形成されることから、当該気孔の形成に伴い、月形芯の製造作業の煩雑化を招来するおそれもない
請求項に記載の発明によれば、第3工程における前記製甲の踵周りの成型性が向上する結果、その後の工程における靴型の早期の離脱が可能となって、靴の生産性の向上が図れると共に、その製造された靴についても、所望とするほぼ靴型通りの形状を確保することができる。
さらには、第2工程における月形芯の製甲内への装入作業性が向上することによっても、靴の生産性の向上に寄与することができる。
請求項に記載の発明によれば、靴の踵周りの形状をより早く仕上げることが可能になることから、その後の靴型の離脱(取り外し)時期を早めることができ、靴の生産性のさらなる向上に供される。
請求項に記載の発明によれば、月形芯本体に適量の水分を含浸させることが可能になることから、前記製甲の踵周りの成型作業の直前に月形芯を水に浸漬させたことによるメリット(製甲の踵周りの成型性の向上等)を享受しつつ、当該月形芯本体に水分を含浸させたことによる不具合(成型後の月形芯の乾燥性の低下)の発生を抑制することができる。
請求項に記載の発明によれば、月形芯本体に適量の水分を含浸させることで、前記製甲の踵周りの成型作業の直前に月形芯を水に浸漬させたことによるメリット(製甲の踵周りの成型性の向上等)を享受しつつ、当該月形芯本体に水分を含浸させたことによる不具合(成型後における月形芯の乾燥性の低下)の発生を抑制することができる。
本発明の第1実施形態に係る月形芯を靴に装着した状態を示す斜視図である。 図1に示す月形芯単体を示す斜視図である。 図2のA−A線断面図である。 図3に示す接着剤の塗膜の拡大図である。 図4に示す接着剤の組成及び配合に係る表である。 月形芯の含浸量と、靴の踵周りの成形性及び月形芯の接着性との関係に係る実験結果を示す表である。 本発明の第2実施形態に係る月形芯を靴に装着した状態を示す斜視図である。 図7に示す月形芯単体を示す斜視図である。 図8のB−B線断面図である。
以下に、本発明に係る月形芯及びこれを用いた靴の製造方法の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、本発明を紳士用革靴に適用したものを示している。
図1〜図6は本発明に係る月形芯及びこれを用いた靴の製造方法の第1実施形態を示しており、まず、本発明に係る月形芯について説明すれば、この月形芯11は、図1に示すように、靴1の踵1aの側部を包囲するように靴後部における表革2と裏革3との間に介装されるもので、その全体が図2に示すような前記踵1aの側部に沿うように湾曲形成され、図3に示すように、タンニン鞣し革等からなる皮革14とパルプ木材を抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙15とを接着により貼り合わせてなる月形芯本体12の表裏両面の全体に、熱可塑性を有する所定の接着剤13を塗布して、これを乾燥させたものである。なお、本実施形態では、図2に示すように、皮革14の内側面に含浸紙15を貼り付ける形態を例に説明するが、必ずしもこのような実施形態に限定されるものではなく、皮革14の外側面に含浸紙15を貼り付けることとしてもよい。
前記月形芯本体12は、その厚さが約2.2mmに設定されていて、1.1mm厚にそれぞれ漉いた皮革14と含浸紙15とを貼り合わせることによって構成されている。そして、この月形芯本体12は、図4に示すように、断面が先細り状となるように周縁部12a全体が漉き加工され、図3に示すように、含浸紙15の面積が皮革14の面積に対し小さくなるように設定されている。なお、本実施形態に係る月形芯本体12は、前記湾曲部を中心としてほぼ対称に形成されており、長手方向の一端側12bと他端側12cとがほぼ同じ長さとなるように設定されている。
また、前記含浸紙15は、木材パルプ単体を抄造した原紙、木材パルプと皮屑とを混抄した原紙、又は木材パルプ、皮屑及び合成繊維を混抄した原紙を、いわゆるSBR系合成ラテックス又はアクリル系樹脂が配合された樹脂剤に浸漬(ディッピング)することで、かかる樹脂を前記原紙に含浸させて、これを乾燥させたものである。なお、当該含浸紙13の成分比としては、木材パルプ85%〜60%に対し、上記樹脂15%〜40%となっている。
ここで、前記皮屑は、靴や鞄その他の皮材料を素材とする分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であり、このシェービング屑を粉砕機で粉砕して繊維状に解繊したもの(いわゆるコラーゲン繊維)である。なお、この皮屑の混抄率は、対木材パルプ比10%〜90%の範囲内であればいくらでもよいが、望ましくは、対木材パルプ比50%が良好である。
また、前記合成繊維についても、前記皮屑と同様に、端材として廃棄されたものを裂断し解繊して使用する。なお、この合成繊維の混抄率については、対木材パルプ及び皮屑比15%を上限とし、望ましくは、対木材パルプ及び皮屑比5%〜8%が良好である。
前記接着剤13は、図5の配合表に示すように、その主成分がエチレン酢酸ビニルと水とによって構成されたエチレン酢酸ビニル変性エマルジョンであり、その配合割合は、エチレン酢酸ビニルが43〜48重量%、水が52〜57重量%となっている。かかる配合割合は、従来の接着剤の配合割合と比べ、主として、エチレン酢酸ビニルを5%減少させ、水を5%増加させたものとなっている。このように、従来に比べて水分を多く配合しエチレン酢酸ビニルの濃度を下げることにより、月形芯本体12への塗着状態において、その塗膜に微小の気孔13aが多数形成され、これによって、外部からの月形芯本体12への水分の浸透が可能となっている。
さらには、前記接着剤13には、上述した主成分のほかに、可塑剤として、フタル酸ジノルマルブチルが、対主成分比1%〜11%の割合で添加されると共に、場合によっては、エチレングリコールも、対主成分比10%以下の割合で添加される。
ここで、前記接着剤13につき、前記各気孔13aを介しての水分の浸透率、つまり浸漬(浸水)時間Tと含水量Wtとの関係について調べてみると、図6の表に示すような結果となった。なお、この実験では、月形芯11全体を水中に浸漬させ、所定時間Tの経過後に引き上げて重量W2を測定し、該重量W2から予め測定した当該月形芯11の乾燥重量(水に浸漬させる前の重量)W1を差し引くことにより、前記含水量Wtを調査した。
この実験によれば、浸漬時間Tが1〜2秒では、含水量Wtは0.05gと、ほとんど含水せず、浸漬時間Tが3〜20秒になると、含水量Wtが0.10〜0.20gとなって、当該含水量Wtが徐々に増大することとなる。そして、浸漬時間Tが25〜300秒になると、含水量Wtが0.60〜1.05gとなって、前記浸漬時間Tが20秒以下の場合と比べて当該含水量Wtが大幅に増大することとなり、さらに浸漬時間Tが600〜1800秒になると、含水量Wtが1.60〜2.85gと、前記浸漬時間Tが25〜300秒の場合と比べて当該含水量Wtがより一層増大する、という結果が得られた。
以下、本実施形態に係る月形芯11を用いた靴の製造方法について説明するが、靴型の製作から製甲4の製作まで、及び釣り込みから仕上げまでの各工程については周知のものと同様であることから説明を省略し、以下では、本発明にとって特徴的な工程、つまり月形芯11に係る工程についてのみ説明する。
すなわち、いわゆる釣り込み工程の前段階において、前記月形芯11を製甲4に装入する直前に、水が貯留された容器内に当該月形芯11を投入し、当該月形芯11全体を水に3〜20秒間浸漬させる(本発明に係る第1工程)。このように、月形芯11の全体を水に浸漬させることで、接着剤13に形成された前記多数の気孔13aを介し、主として月形芯本体12を構成する皮革14に水分が浸透することとなる。
続いて、この水に浸漬させた月形芯11を、製甲4の踵部における表革2と裏革3との間に、底側から装入する(本発明に係る第2工程)。なお、この月形芯11の装入に伴い、いわゆる先芯(図示外)についても、前記月形芯11の装入前又は後において、該月形芯11と同様に、製甲4の爪先部における表革2と裏革3との間に装入する。
次に、前記月形芯11や前記先芯が装入された製甲4を、踵成型機としてのいわゆるホットプレス(図示外)にセットし、該ホットプレスによって製甲4の踵1a周りの成型を行いつつ、当該製甲4の表革2及び裏革3と月形芯11との接着を行う(本発明に係る第3工程)。具体的には、前記ホットプレスにて110〜120℃に加熱された金型(上下型)に月形芯11をセットし、この月形芯11を、前記金型によって挟み込み、下型が6kPa、上型が2〜3kPaの圧力をもって約10秒間加圧することにより、表革2と裏革3に月形芯11を圧締しつつ、踵1a周りの成型を行う。
すると、この際、前記第1工程にて月形芯本体12(特に皮革14)に含浸させた水分が前記金型の熱により蒸発し、これによって、製甲4の踵1a周りが蒸された状態となる。すなわち、かかる水蒸気によるいわゆるスチーム作用により、月形芯11はもとより、踵1a周りの表革2及び裏革3までもが軟化し、これによって、表革2及び裏革3を含む当該製甲4の踵1a周りの全体が前記金型に対してより馴染む(密着する)こととなる。この結果、当該踵1a周りの形状を、所望とするほぼ靴型通りの形状に成型することが可能となる。
続いて、前述のホットプレスによる成型作業が終了した製甲4は、その後、予め中底が仮止めされた前記金型とほぼ同形状からなる靴型(図示外)に被せられ、周知の釣り込み工程及び底付け工程を経て靴底5が装着された後、後記の仕上げ工程へ移行する直前に、いわゆるパウンディング装置にかけられ、該パウンディング装置により当該靴1(製甲4に相当する部分)の踵1a周りを外側から擦ったり叩いたりすることで、当該踵1a周りの形状に係る最終的な仕上げが行われる(本発明に係る第4工程)。かかる仕上げ加工を行うことで、靴1が前記靴型に対しより一層密着することとなり、当該加工後における靴1の前記靴型からの離脱を早めることに供される。
そして、かかる仕上げ加工の終了した靴1は、前記靴型が装入された状態で所定時間Tx(具体的には4〜5時間)保持されることによって形状の定着が図られ、当該所定時間Txの経過後、前記靴型を取り外し、最後の仕上げ工程へと移行して中敷の取付や皺取り等が行われた後、完成となる。
このように、本実施形態では、前記月形芯本体12に水分を含浸させたものを用いて靴の製造を行うことで、前述のようなスチーム作用によって製甲4の踵1a周りの成型性の向上に供されることとなるが、当該成型性は月形芯本体12の含水量Wtに応じて変化することが実験的に確認された。以下に、月形芯本体12の含水量Wtが前記成型性に及ぼす影響について、図6に示す表に基づいて説明する。
なお、この実験では、製甲4の踵1a周りの「成型性」はもちろん、月形芯11を水に浸漬させたことによって生ずる特有の課題である「接着強度」及び「成型後の乾燥性」についても評価することとし、それぞれの評価は、良好を示す「○」と、不良を示す「×」と、良好ではないものの不良にも該当しない中間の評価を示す「△」の3段階によって行うこととした。
すなわち、この実験によれば、まず、「接着強度」については、浸漬時間Tに関わらず、つまり月形芯本体12の含水量Wtに関わらず、水分を含浸しない月形芯11を用いて行う従来の場合と同様に良好なものであって、十分な接着強度を有していることが確認された。
また、「成型性」については、浸漬時間Tが2秒以下、つまり月形芯本体12の含水量Wtが0.05g以下では、未だ月形芯11の剛性が高く、成型性が劣る結果となる一方、浸漬時間Tが3秒以上、つまり月形芯本体12の含水量Wtが0.10g以上になると月形芯11の十分な軟化に供され、良好な成型性が得られる結果となった。この結果から、当該成型性の向上に供される月形芯11を得るには所定量以上の含水量Wtが必要であって、当該成型性の向上に供される適正な含水量Wtとしては0.10g以上が望ましい、ということが実験的に確認された。
また、「成型後の乾燥性」については、浸漬時間Tが20秒以下、つまり月形芯本体12の含水量Wtが0.20g以下においては、当該含水量Wtが比較的少ない分、成型直後に乾燥が完了するといった良好な乾燥性が得られるが、浸漬時間Tが25〜300秒、つまり月形芯本体12の含水量Wtが0.60〜1.05gになると、靴の生産性に大きく影響するほどではないものの当該乾燥性が若干低下することとなり、さらに浸漬時間Tが600秒以上、つまり月形芯本体12の含水量Wtが1.60g以上になってしまうと、靴の生産性の十分な向上が図れないほど当該乾燥性が著しく低下してしまう結果となった。この結果から、当該成型後の十分な乾燥性を得るには含水量Wtを所定量以下に抑える必要があり、当該成型後の十分な乾燥性の確保に供される適正な含水量Wtとしては0.20g以下が望ましい、ということが実験的に確認された。
したがって、これらの「接着強度」、「成型性」及び「成型後の乾燥性」の各評価を考慮してみると、月形芯本体12の含水量Wtが0.05〜1.05gであれば本発明のメリットは享受できるものの、前述のようなスチーム作用を活用しつつ高い靴の生産性を確保するためには、当該範囲の中でも含水量Wtが0.10〜0.20g(浸漬時間Tにすると3〜20秒)であることが望ましいといえる。
以上のように、本実施形態によれば、製靴工程において製甲4に装入する前に月形芯11を水に浸漬させて月形芯本体12(特に皮革14)に水分を含浸させることで、ホットプレスによって製甲4の踵1a周りの成型を行う際に、前記金型の熱により月形芯本体12に含浸した水分が蒸発することによる前述のようなスチーム作用によって、当該製甲4の踵1a周りの前記金型に対する密着性を高めることができ、その結果、その後の工程における靴1からの前記靴型の早期離脱(取り外し)が可能となって当該靴1の生産性の向上が図れる(具体的には、従来の2倍以上の生産性が得られる。)と共に、その製造された靴1についても、所望とするほぼ靴型通りの形状を確保することができ、当該靴1の品質の向上にも供される。
なお、この際、前記月形芯11の水への浸漬時間Tを3〜20秒として前記月形芯本体12の含水量Wtを0.10〜0.20gとすることで、当該月形芯本体12に適量の水分を含浸させることが可能となり、これによって、前記製甲4の踵1b周りの成型作業直前に月形芯11を水に浸漬させたことによるメリット(製甲4の踵1b周りの成型性の向上等)を享受しつつ、当該月形芯本体12に水分を含浸させたことによる不具合(成型後の月形芯11の乾燥性の低下)の発生を抑制することができる。特に、前記月形芯11の水への浸漬時間Tを3秒として前記月形芯本体12の含水量Wtを0.10gとすることにより、靴の生産性を最大限に向上させることができる。
また、前記製甲4への装入前に月形芯11を水に浸漬させて月形芯本体12に水分を含浸させることにより、接着剤13が塗着されることによって剛性が高くなってしまった月形芯11の軟化が図れ、これによって、当該月形芯11の十分な柔軟性を確保することが可能となる。さらには、前記製甲4への装入前に月形芯11全体を水に浸漬させて当該月形芯11(接着剤13の塗膜)の表面に水分を付着させることで、月形芯本体12の表面に塗着した接着剤13によるべたつきを抑制することにも供される。この結果、月形芯11の製甲4への装入作業性の向上が図れ、かかる点からも、靴の生産性の向上に寄与することができる。
図7〜図9は本発明に係る月形芯の第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯本体12の構成を変更したものである。なお、本実施形態についても、基本的な構成は前記第1実施形態と同様であることから、説明の便宜上、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付して説明を省略し、前記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
すなわち、本実施形態に係る月形芯21は、前記月形芯本体12の皮革14を、タンニン鞣し革屑繊維を主成分とする再生皮革紙24に置換したもので、この再生皮革紙24と含浸紙15とを貼り合わせてなる月形芯本体22の表裏両面に前記接着剤13を塗布することによって構成されている。
前記再生皮革紙24は、タンニン鞣し革の加工時に発生する革屑を繊維状に解繊した革屑繊維90〜55重量%と天然パルプ5〜40重量%と合成繊維5〜20重量%とを混合したものに、水性エマルジョン樹脂10〜50重量%を添加したものである。なお、本実施形態では、再生皮革紙24につき、上記革屑繊維と天然パルプと合成繊維を所定の割合で混合したものを例に説明するが、当該再生皮革紙24には、必ずしも合成繊維を配合する必要はなく、上記革屑繊維と天然パルプのみによって構成することも可能であり、この場合は、上記革屑繊維を95〜50重量%、天然パルプを5〜50重量%の割合で混合したものに、水性エマルジョン樹脂を添加する。
ここで、前記革屑繊維は、靴や鞄など、皮革材料を素材として加工する分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であって、このシェービング屑を所定の粉砕機によって粉砕し繊維状に解繊して得られるいわゆるコラーゲン繊維である。なお、前記革屑の元となる皮革については、その部位や動物の種類等は特に限定されるものではなく、いかなる動物の皮革でもよく、また、いかなる部位の皮革でも使用可能である。
前記天然パルプには、通常、木材パルプを用いるが、場合によっては、良質の古紙を用いてもよい。
前記合成繊維としては、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、PP(ポリプロピレン)繊維、レーヨン繊維等、抄紙用に加工されたものであれば、いかなる繊維も使用可能である。ここで、使用する繊維は、これらのうち1種類であってもよく、また、再生皮革紙12の諸物性を調整する目的で、2種類以上の繊維を使用してもよい。
前記水性エマルジョン樹脂としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)系、アクリル系、スチレンアクリル系、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)系、酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル系、又は塩化ビニル系のものであって、ガラス転位温度が−50℃〜+50℃のものが使用可能である。その他、紙力増強剤として、カチオン性ポリアクリルアミド系等のカチオン性高分子化合物、メラミン樹脂(コロイド状のもの)等を添加してもよい。また、これら以外に、着色剤として、無機顔料や有機顔料、酸化鉄等を添加して調色することも可能である。
以上のようにして構成される前記再生皮革紙24も、天然皮革を鞣してなる前記皮革14とほぼ同様の性質が得られることから、本実施形態に係る月形芯21についても、前記第1実施形態に係る月形芯11と同様の配合で構成した接着剤13を使用することにより、前記第1実施形態に係る月形芯11とほぼ同様の作用効果が得られる。
また、本実施形態に係る月形芯21では、月形芯本体22の構成について、天然皮革からなる前記皮革14に代えて再生皮革紙24を用いることにより、廃棄物の再利用による廃棄物の排出量の増大化の抑制に供され、自然環境保全にも貢献することができる。
本発明は前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば本発明に係る前記各月形芯11,21については、前記各実施形態にて例示した紳士用革靴以外の靴に適用することも可能である。
また、本発明は、前記接着剤13を従来と同様の配合により構成し、前記各月形芯本体12,22の片面又は両面の一部の範囲に例えばマスキングする等して当該接着剤を塗布しない領域を設けることによって前記各月形芯本体12,22に対して外部から水分が浸透可能となるように構成することも可能であり、この場合であっても、前記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
11…月形芯
12…月形芯本体
13…接着剤
14…皮革(鞣し革)
15…含浸紙

Claims (7)

  1. 鞣し革と、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸させてなる含浸紙とを接着により貼り合わせた月形芯本体の表裏両面に熱可塑性を有する接着剤を塗布してなる月形芯において
    前記接着剤の塗膜に、前記月形芯本体を外部へ臨ませる気孔を形成し、該気孔を介して外部から月形芯本体に水分が浸透可能となるように構成したことを特徴とする月形芯。
  2. タンニン鞣し革屑を乾式粉砕したタンニン鞣し革屑繊維を含有する再生皮革紙と、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸させてなる含浸紙とを接着により貼り合わせた月形芯本体の表裏両面に熱可塑性を有する接着剤を塗布してなる月形芯において
    前記接着剤の塗膜に、前記月形芯本体を外部へ臨ませる気孔を形成し、該気孔を介して外部から月形芯本体に水分が浸透可能となるように構成したことを特徴とする月形芯。
  3. 前記接着剤の主成分をエチレン酢酸ビニルと水分によって構成し、前記水分の配合割合を52〜57重量%となるように設定することにより、前記接着剤の塗膜に前記気孔が自動的に形成されるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の月形芯。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の月形芯を用いた靴の製造方法であって、
    前記月形芯を水に浸漬させることによって前記月形芯本体に水分を含浸させる第1工程と、
    該第1工程において水分を含浸させた前記月形芯を製甲の表革と裏革との間に装入する第2工程と、
    該第2工程において前記月形芯を挿入した靴の踵周りを加熱しつつ加圧することによって該踵周りの成型を行いつつ前記月形芯の前記両革への接着を行う第3工程と、を有することを特徴とする靴の製造方法
  5. 前記第3工程の後、該第3工程において成型した前記踵周りを外側から擦る又は叩くことによって該踵周りの形状の仕上げを行う第4工程を設けたことを特徴とする請求項4に記載の靴の製造方法。
  6. 前記第1工程において、前記月形芯を、3〜20秒の間、水に浸漬させることを特徴とする請求項4に記載の靴の製造方法。
  7. 前記第1工程において、前記月形芯本体に0.10〜0.20gの水分を含浸させることを特徴とする請求項4に記載の靴の製造方法。
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