JP4615754B2 - 体積型ホログラム記録用感光性組成物及び体積型ホログラム記録用感光性媒体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は体積型ホログラムを記録できる新規感光性組成物、それを用いた体積型ホログラム記録媒体、及び、当該記録媒体を用いて作製した体積型ホログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
体積型ホログラムを製造するための感光性組成物としては、デュポン社のオムニデックスシリーズが唯一量産レベルで市販されている。この材料はラジカル重合モノマーとバインダーポリマー、光ラジカル重合開始剤、増感色素を主成分とするが、ラジカル重合モノマーとバインダーポリマーの屈折率差を利用したものである。すなわち、フィルム状に形成された該感光性組成物を干渉露光すると、光が強い部分にてラジカル重合が開始され、それに伴いラジカル重合モノマーの濃度勾配ができ、光が弱い部分から強い部分にラジカル重合モノマーの拡散移動が起こる。結果として干渉光の光の強弱に応じて、ラジカル重合モノマーの疎密ができ、屈折率の差として現れる。この材料系は現状報告されている体積型ホログラム用フォトポリマーとしては最も性能は良いが、耐熱性、透明性に問題が指摘されている。
【0003】
また、ラジカル重合とカチオン重合を併用した材料系が報告されている。例えば特許第2873126号では、高屈折率ラジカル重合性モノマーとしてジアリルフルオレン骨格を有するモノマー及び該ラジカル重合性モノマーより屈折率が小さいカチオン重合性モノマーを使用した系が開示されている。この系では、ホログラム露光時にラジカル重合により高屈折率成分が重合し、次いで定着露光でカチオン重合により像を固定する。
【0004】
また、カチオン重合を利用した材料系が、例えばUSP5759721等に開示されている。この材料系ではラジカル重合系における酸素阻害がないという利点があるが、カチオン重合の感度(Photospeed)は悪く、また、長波長領域に感度を持たせることが困難という問題がある。
【0005】
また、特許第2953200号には、無機物質ネットワークと光重合性モノマーを併用した材料系が開示されている。ネットワークを形成し得る無機材料をバインダーとして用いる場合には、耐熱性、対環境性、機械強度に優れると共に、光重合性の有機モノマーとの屈折率差を大きく取れるという利点があるが、この材料系で形成したホログラム記録膜はどちらかと言えば脆くて、柔軟性や加工適性、コーティング適性に劣るという問題、及び、無機バインダーと有機モノマーの相溶性が良くないので、均一な塗工材料を調製するのが困難だという問題がある。
【0006】
また、特表2000−508783号では、固体マトリックスに金属超微粒子を分散した材料がホログラム記録材料として開示されているが、マトリックスに流動性を持たせる必要があり、固形性が悪く問題がある。
【0007】
また、高屈折率の芳香環含有バインダーポリマーと低屈折率のフッ素含有モノマーを組み合わせ使用した公知例としては、特に、特開平5−210343、特開平5−210344、特開平5−257416がある。しかし、この組み合わせでは、重合反応性が十分でないために干渉露光時の感度があまり高くない。フッ素含有モノマーの重合性を上げるために多官能のアクリレートを添加することも記載されているが、この方法はフッ素含有モノマーが元来有している低屈折率性を損なうものである。さらに、この組み合わせにおいては、フッ素含有モノマーの重合体が高い割合で存在する強露光部は機械的に脆く、また、芳香環含有バインダーポリマーを用いているために黄変を生じ易いなどの問題がある。
【0008】
また、フッ素含有アクリル系モノマーとフッ素を含有しないアクリル系モノマーからなる低屈折率のバインダーポリマーと、高屈折率の芳香環含有モノマーを組み合わせ使用した公知例としては、特開平6−67588がある。しかし、この例においても、フッ素含有アクリル系モノマーの低屈折率性がフッ素を含有しないアクリル系モノマーとの共重合によって損なわれ、さらに、芳香環含有モノマーの芳香環により黄変を生じ易いという問題がある。
【0009】
体積型ホログラムの性能を示す指標として、屈折率変調量(Δn)がある。この値はKogelnikの結合波理論により計算される。前述の通り、様々な体積型ホログラム記録材料が知られているが、いずれもそのホログラム性能を示す屈折率変調量(Δn)は最大で0.06程度であり、新規の光学素子等に応用する際に、更にΔnの向上が要望されている。
【0010】
また、光学素子等の広範な分野への応用を視野に入れると、屈折率差、感度、透明性などのホログラム記録性能だけでなく、膜強度や耐熱性などの物理的性質を含む諸性能を十分に満たす材料系が要望されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
体積型ホログラムを形成するために上記したような様々な材料系が開示されているが、いずれの材料系も干渉露光を行うために光重合開始剤を必要としているので、最終的に得られた体積型ホログラム膜に光重合開始剤又はその分解物が残留し、当該体積型ホログラム膜の物性又は光学的特性に悪影響を与えるおそれがある。また、コスト削減の観点からも、光重合開始剤の使用を減らし又は全く不要とすることが望まれている。
【0012】
本発明は上記実状を考慮して成し遂げられたものであり、その第一の目的は、干渉露光時に光重合開始剤を少量しか使用しなくても又は全く使用しなくても重合反応が進行させることができる体積型ホログラム記録材料、及び、体積型ホログラム記録媒体を得ることにある。
【0013】
また、本発明の第二の目的は、最終的に得られる体積型ホログラム膜中に光重合開始剤又はその分解物の残留が少ないか又は全く存在しない体積ホログラムを得ることにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明により提供される体積型ホログラム記録用感光性組成物は、必須成分として、バインダーポリマー、及び、自発的な光重合反応性を有する光重合性化合物を含有することを特徴としている。
【0015】
また、本発明により提供される体積型ホログラム記録用感光性媒体は、必須成分として、バインダーポリマー、及び、自発的な光重合反応性を有する光重合性化合物を含有する体積型ホログラム記録材料層を基材上に設けたことを特徴としている。
【0016】
本発明の体積型ホログラム記録用感光性組成物及び体積型ホログラム記録用感光性媒体は、屈折率変調成分として、干渉露光時に光重合開始剤が共存していなくても強露光部において自発的に重合し得る化合物を用いるので、光重合開始剤を減量し又は全く使用せずに体積型ホログラムを形成することができる。
【0017】
従って、コスト削減を図ることができ、経済性に優れている。また、体積型ホログラム記録用感光性組成物又は体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層が人や動物の皮膚に接触した時に、光重合開始剤が悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。
【0018】
さらに、当該体積型ホログラム記録用感光性組成物及び体積型ホログラム記録用感光性媒体を用いて最終的に得られる体積型ホログラム膜は、光重合開始剤又はその分解物の残留が少ないか又は全くないので、光重合開始剤又はその分解物が体積型ホログラム膜の膜物性や光学的特性に悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。
【0019】
本発明においては、光重合開始剤を実質的に含有しない体積型ホログラム記録用感光性組成物を用いて体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層を形成し、干渉露光後には光重合開始剤又はその分解物を実質的に含有していない体積型ホログラム膜を得るのが好ましい。
【0020】
前記自発的光重合性化合物としては、ドナー/アクセプター光重合系に属するドナー化合物とアクセプター化合物とを組み合わせて含有するのが好ましい。
【0021】
特に、前記ドナー化合物として下記式1で表されるビニルジオキソラン骨格を有する化合物、及び、前記アクセプター化合物として下記式2で表されるマレイミド骨格を有する化合物を用いる組み合わせでは、重合収縮が少なく、寸法安定性に優れた体積型ホログラム膜が得られるので有用である。
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
前記マレイミド骨格を有する化合物として、一分子中にマレイミド骨格を二以上有する化合物を用いる場合には、ドナー/アクセプター系の光重合により架橋結合を形成し得るので好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明により提供される体積型ホログラム記録用感光性組成物は、必須成分として、バインダーポリマー、及び、自発的な光重合反応性を有する光重合性化合物を含有することを特徴とするものである。
【0026】
本発明においてバインダーポリマーとしては、体積型ホログラムに求められる一般的な性質、すなわち透明性、膜物性、干渉露光時の強露光部に生成する光重合性化合物の重合体との屈折率差などの物性が満足できると共に、干渉露光時に光重合性化合物の自発的な重合反応の進行を阻害しないものが用いられる。
【0027】
バインダーポリマーとして具体的には、ポリメタアクリル酸エステル又はその部分加水分解物;ポリ酢酸ビニル又はその加水分解物;ポリビニルアルコール又はその部分アセタール化物;トリアセチルセルロース;ポリイソプレン;ポリブタジエン;ポリクロロプレン;シリコーンゴム;ポリスチレン;ポリビニルブチラール;ポリクロロプレン;ポリ塩化ビニル;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレン;ポリ−N−ビニルカルバゾール又はその誘導体;ポリ−N−ビニルピロリドン又はその誘導体;スチレンと無水マレイン酸の共重合体またはその半エステル;アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリルニトリル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等の共重合可能なモノマー群の少なくとも1つを重合成分とする共重合体;上記各バインダーポリマー単体の二以上を含有する混合物を用いることができる。好ましくは、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの部分アセタール化物であるポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
干渉露光により生じた屈折率変調を促進し或いは記録されたホログラムを安定化させる工程として加熱により重合性成分を移動させる工程等があるが、そのためにはこれらのマトリックスポリマーは、完全硬化する前において好ましくはガラス転移温度が比較的低く、モノマー移動を容易にするものであることが必要である。具体的には、ガラス転移温度が180℃以下であることが好ましい。
【0029】
本発明において自発的な光重合反応性を有する光重合性化合物(自発的光重合性化合物)は、干渉露光時に強露光部の屈折率を変調させて干渉縞を形成するための成分(屈折率変調成分)であり、当該自発的光重合性化合物を重合させて得られる重合体の屈折率が上記バインダーポリマーの屈折率と異なるものを用いる。自発的光重合性化合物は、重合体となった時にバインダーポリマーよりも屈折率が大きくなっても小さくなっても良いが、両者の屈折率差が少なくとも0.01以上あることが望ましい。
【0030】
光重合反応には、光照射により重合性化合物が重合反応の活性を直接獲得して自発的に重合を開始、進行する狭義の光重合反応と、光照射を受けても直接的には活性化しない重合性化合物と、光照射によりラジカルやカチオンなどの活性種を発生させる光重合開始剤とを共存させ、光照射により光重合開始剤から活性種を発生させ、当該活性種の作用によって重合性化合物の重合反応を開始、進行させる広義の光重合反応とがある。
【0031】
本発明において用いられる自発的光重合性化合物とは、上記分類における狭義の光重合反応を起こし得る化合物であり、可視領域又は不可視領域の光照射を受けた時にそれ自体が光重合活性を直接的に獲得し、光重合開始剤が共存していなくても自発的に光重合を開始、進行し得る成分である。
【0032】
自発的光重合性化合物の反応形式は特に限定されず、例えば、光照射によりラジカル重合やカチオン重合を自発的に引き起こす化合物であってもよい。また、自発的光重合性化合物の感度波長は可視領域に限定されず、本発明においては、紫外線や電子線等の電離放射線を含む不可視領域の光照射に感度を有するものも、自発的光重合性化合物として用いることができる。
【0033】
自発的光重合性化合物として、具体的には、ドナー/アクセプター光重合系に属するドナー化合物とアクセプター化合物を組み合わせて用いることができる。
【0034】
ドナー/アクセプター光重合系においては、水素供与(電子供与)性であるドナー化合物と水素受容(電子受容)性であるアクセプター化合物とが、光による相互作用により自発的に重合反応を開始、進行するので、光重合開始剤を必要としない。
【0035】
ドナー化合物としては、トリエチレングリコールジビニルエーテル、フルフリルビニルエーテル、4‐プロペニルオキシメチル‐1,3‐2‐ジオキソラノン等のビニルエーテル類、N‐ビニルピロリドン等が例示される。
【0036】
また、アクセプター化合物としては、マレイミド、N‐メチルマレイミド、N‐フェニルマレイミド、p‐カルボメトキシフェニルマレイミド、N,N’-アルキレンジマレイミド、N,N’-オキシアルキレンジマレイミド等のマレイミド類、ジメチルフマレート、ジアリルマレイネート、ジメチルマレイネート等が例示される。
【0037】
ドナー化合物として下記式1で表されるビニルジオキソラン骨格を有する化合物と、アクセプター化合物として下記式2で表されるマレイミド骨格を有する化合物とを用いる組み合わせでは、重合収縮が少なく、寸法安定性に優れた体積型ホログラム膜が得られるので有用である。
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
式1で表されるビニルジオキソラン骨格を有する化合物としては、下記式1aで表されるビニルジオキソラン化合物を例示することができる。
【0041】
【化9】
(式中、R1及びR2は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、メチルやブチルなどのアルキル基、アルキレンオキシド基、フェニルやナフチルなどの芳香族基、シクロヘキシルやシクロオクチルなどの脂環式基、フラン、ピロール、ピラン、チオピランなどの複素環基、及び、それらから誘導される基から選ばれる。)
一方、式2で表されるマレイミド骨格を有する化合物としては、下記式2aで表されるマレイミド化合物を例示することができる。マレイミド骨格を有する化合物のなかでも、一分子中にマレイミド骨格を二以上有するものは多官能であり、ドナー/アクセプター系の光重合により架橋結合を形成し得るので好ましい。多官能マレイミド化合物としては、式2aに含まれる化合物のうち、N‐置換基であるR1がマレイミド‐N’‐置換体のものを例示することができ、具体的には、N,N’-アルキレンジマレイミドやN,N’-オキシアルキレンジマレイミド等のN,N’-ジマレイミド類が含まれる。
【0042】
【化10】
(式中、R1は水素、ヒドロキシル基、メチルやブチルなどのアルキル基、アルキレンオキシド基、フェニルやナフチルなどの芳香族基、シクロヘキシルやシクロオクチルなどの脂環式基、フラン、ピロール、ピラン、チオピランなどの複素環基、それらのマレイミド‐N’‐置換体、及び、それらから誘導される基から選ばれる。)
【0043】
自発性光重合性化合物としては、光重合性基を含有するオリゴマーやポリマーを使用することも可能であるが、干渉露光時には屈折率変調成分の分子量が小さいほどホログラム記録材料層中で容易に強露光部へ移動すると考えられることから、モノマーを用いる方が好ましい。
【0044】
本発明においては、体積型ホログラム記録用感光性組成物の屈折率変調成分として、干渉露光時に光重合開始剤が共存していなくても強露光部において自発的に重合し得る化合物を用いるので、光重合開始剤を減量し又は全く使用せずに体積型ホログラムを形成することができる。従って、コスト削減を図ることができ、経済性に優れている。また、体積型ホログラム記録用感光性組成物が人や動物の皮膚に接触した時に、光重合開始剤が悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。当該体積型ホログラム記録用感光性組成物を用いて最終的に得られる体積型ホログラム膜は、光重合開始剤又はその分解物の残留が少ないか又は全くないので、光重合開始剤又はその分解物が体積型ホログラム膜の膜物性や光学的特性に悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。
【0045】
本発明においては、光重合開始剤を実質的に含有しない体積型ホログラム記録用感光性組成物を用いて体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層を形成し、干渉露光後には光重合開始剤又はその分解物を実質的に含有していない体積型ホログラム膜を得るのが好ましい。しかしながら、本発明の体積型ホログラム記録用感光性組成物には、干渉露光時の感度を向上させる目的で、必要に応じて少量の光重合開始剤を配合することができる。
【0046】
光重合開始剤を用いる場合には、自発的光重合性化合物の反応形式に合わせて、当該反応形式を促進することのできる活性種を発生させるものを適宜選択する。上記ドナー/アクセプター光重合系に対しては、例えば、光ラジカル重合開始剤として、1,3‐ジ(t‐ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’‐テトラキス(t‐ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、N‐フェニルグリシン、2,4,6‐トリス(トリクロロメチル)‐s‐トリアジン、3‐フェニル‐5‐イソオキサゾロン、2‐メルカプトベンズイミダゾール、及び、イミダゾール二量体類などを用いることができ、光カチオン重合開始剤として、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、混合配位子金属塩(例えば、(η6‐ベンゼン)(η5‐シクロペンタジエニル)鉄(II)、シラノール‐アルミニウム錯体)などを用いることができる。また、光重合開始剤は、記録されたホログラムの安定化の観点から、ホログラム記録後に分解処理されるのが好ましい。
【0047】
ホログラムの利用分野としては最も一般的なのは可視像としてのホログラムである。そのような可視像としてのホログラムを記録するために、特に可視レーザー光、例えば、アルゴンイオンレーザー(458nm、488nm、514.5nm)、クリプトンイオンレーザー(647.1nm)、YAGレーザー(532nm)等を選択的に使用する場合や、或いは、干渉露光の感度を向上させるために、光重合反応を起こし得る波長帯域を広げたい場合には、各レーザー光波長における感度を向上させる目的で、可視光増感色素を添加することができる。可視光増感色素は、光重合開始剤のように重合を開始するための活性種を発生させるのではないが、可視光領域に吸収波長を有し、重合系の反応性を向上させる成分である。
【0048】
可視光増感色素としては、チオピリリウム塩系色素、メロシアニン系色素、キノリン系色素、スチリルキノリン系色素、ケトクマリン系色素、チオキサンテン系色素、キサンテン系色素、オキソノール系色素、シアニン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム塩系色素等が例示される。可視光増感色素は、光学素子のような高透明性が要求される場合には、ホログラム記録後の後工程、加熱や紫外線照射により分解等により無色になるものが好ましい。
【0049】
本発明の体積型ホログラム記録用感光性組成物には、必要に応じて上記以外の成分を配合してもよい。例えば、ホログラム膜の製品の膜強度を向上させる目的で、上記バインダーポリマーとは別に比較的少量のバインダー成分を配合することが出来る。
【0050】
屈折率変調成分である自発的光重合性化合物は、バインダーポリマー100重量部に対して10〜1000重量部、好ましくは10〜100重量部の割合で使用される。自発的光重合性化合物としてドナー/アクセプター光重合系を利用する場合には、バインダーポリマー100重量部に対してドナー化合物とアクセプター化合物の合計量が10〜1000重量部、好ましくは10〜100重量部の割合となるようにする。ドナー化合物とアクセプター化合物相互の配合比は、通常であれば両者の反応等量換算で1:1またはその付近となるように調節すればよいが、両者の反応性を考慮して適宜調節する。
【0051】
本発明において光重合開始剤は必要ないが、干渉露光の感度を向上させるために用いる場合には比較的少量とし、具体的にはバインダーポリマー100重量部に対して0.1〜8重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で使用される。
【0052】
可視光増感色素は、バインダーポリマー100重量部に対して0.01〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部の割合で使用される。
【0053】
上記したような各材料を、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール等、またはそれらの混合溶剤に溶解することにより、本発明に係る体積型ホログラム記録用感光性組成物としての塗布液を調製することができる。ただし、自発的光重合性化合物が常温で液状の場合には、塗工溶剤の使用量を減らすことができ、塗工溶剤が全く必要ない場合もある。
【0054】
上記塗布液を、スピンコーター、グラビアコーター、コンマコーター、バーコーター等の方法により適切な基材フィルム、ガラス基板等の支持体に塗布し、乾燥させることによってホログラム記録材料層が形成され、体積型ホログラム記録用感光性媒体が得られる。体積型ホログラム記録材料層の厚みは1〜100μm、好ましくは10〜40μmとするのが良い。
【0055】
体積型ホログラム記録用感光性媒体の基材フイルムとしては、透明性を有するものであり、ポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリフッ化エチレン系フイルム、ポリフッ化ビニリデンフイルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、エチレン−ビニルアルコールフイルム、ポリビニルアルコールフイルム、ポリメチルメタクリレートフイルム、ポリエーテルスルホンフイルム、ポリエーテルエーテルケトンフイルム、ポリアミドフイルム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合フイルム、ポリエチレンテレフタレートフイルム等のポリエステルフイルム、ポリイミドフイルム等の樹脂が例示され、膜厚としては2〜200μm、好ましくは10〜50μmである。
【0056】
また、乾燥後の体積型ホログラム記録材料層に粘着性がある場合、保護フィルムとして、上記基材フィルムで例示されているフィルムをラミネートすることができる。この場合、ラミネートフィルムの体積型ホログラム記録材料層との接触面は、後から剥がしやすいように離型処理されていても良い。
【0057】
こうして得られた体積型ホログラム記録用感光性媒体は基材フィルム上にホログラム記録材料層を設けたものであり、当該ホログラム記録材料層は、必須成分として、バインダーポリマー、及び、自発的な光重合反応性を有する光重合性化合物を含有してなるものである。また、当該ホログラム記録材料層には、必要に応じて可視光増感色素も含有している。
【0058】
本発明に係る体積型ホログラム記録用感光性媒体には、従来から知られている方法により干渉露光を行って体積型ホログラムを形成することが出来る。
【0059】
例えば、体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層にホログラム原版を向き合わせて密着させ、透明基材フィルム側から可視光、或いは紫外線や電子線のような電離放射線を用いて干渉露光を行うことにより体積型ホログラムが形成される。
【0060】
また、干渉露光による屈折率変調を促進し或いは重合反応を完結させるために、干渉露光後に紫外線による全面露光や加熱等の処理を適宜行うことができる。
【0061】
本発明における体積型ホログラム記録用感光性組成物の体積型ホログラム記録メカニズムは、従来から言われているメカニズムと基本的に同様であると考えられる。すなわち、フィルム状に形成された該感光性組成物を干渉露光すると、光が強い部分にて光重合が開始され、それに伴い自発的光重合性化合物の濃度勾配ができ、光が弱い部分から強い部分に自発的光重合性化合物の拡散移動が起こる。ただし本発明においては、光重合開始剤が少量しか又は理想的には全く共存しない状態で、自発的光重合性化合物が重合を開始、進行する。その結果、干渉光の光の強弱に応じて自発的光重合性化合物及び/又はその重合体の疎密ができ、屈折率の差として現れる。この屈折率差が干渉縞となり、体積型ホログラムが形成される。
【0062】
Kogelnikの理論より計算されるΔnは感材中に入射した干渉光に応じて形成される屈折率分布における屈折率差を示すものであるが、このΔnが大きい程、優れたホログラムとなる。本発明においても、このKogelnikの理論より計算されるΔnにより、干渉露光の強露光部と弱露光部又は非露光部の間の屈折率差を評価することが出来る。干渉露光の強露光部と弱露光部又は非露光部の間の屈折率差は、どちらの屈折率が大きくてもよいが、両者の屈折率差が少なくとも0.01以上あることが望ましい。
【0063】
このようにして本発明に係る体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層は干渉露光により干渉縞を生じてホログラム層となり、体積型ホログラムが得られる。
【0064】
また、上述したところから明らかなように、本発明における体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層は、光重合開始剤を必要としない自発的光重合性化合物を屈折率変調成分として用いており、最終的に得られるホログラム膜には、光重合開始剤又はその残留物が少量しか又は全く存在しない。従って、体積型ホログラム膜の物性や光学的特性が光重合開始剤又はその残留物により悪影響を受ける恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く使用しない場合には、そのような悪影響の恐れが全くない。
【0065】
【実施例】
次に本発明を実施例に基づき説明する。
【0066】
(実施例1)
(1)体積型ホログラム記録用感光性組成物溶液の調製
下記成分及び溶剤を混合し、体積型ホログラム記録用感光性組成物溶液を調製した。
【0067】
<体積型ホログラム記録用感光性組成物溶液の組成>
・ポリメチルメタクリレート(Elvacite 2041、デュポン製):100重量部
・4,4’‐ジマレイミドビスフェノール:30重量部
・p‐グリシジルオキシスチレン:30重量部
・3‐エチル‐5‐[(3‐エチル‐2(3H)‐ベンゾチアゾリリデン)エチリデン]‐2‐チオキソ‐4‐オキサゾリジノン(NK‐1473、(株)林原生物化学研究所製):0.02重量部
・メタノール:30重量部
・メチルエチルケトン:30重量部
【0068】
(2)体積型ホログラム記録用感光性媒体の作製
上記溶液を38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製ルミラーT‐60)上にバーコーターを使用して、乾燥膜厚20μmとなるように塗布し、体積型ホログラム記録用感光性媒体を作製した。
【0069】
次に、体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層側をミラーにラミネートし、PET側から514.5nmアルゴンイオンレーザー光を入射して干渉露光を行い、体積型ホログラムを記録した。
【0070】
次に、加熱、紫外線重合により干渉縞を固定し、体積型ホログラムを得た。分光評価結果から計算した結果、屈折率変調量Δnは0.027であった。
【0071】
【発明の効果】
本発明の体積型ホログラム記録用感光性組成物及び体積型ホログラム記録用感光性媒体は、屈折率変調成分として、干渉露光時に光重合開始剤が共存していなくても強露光部において自発的に重合し得る化合物を用いるので、光重合開始剤を減量し又は全く使用せずに体積型ホログラムを形成することができる。
【0072】
従って、コスト削減を図ることができ、経済性に優れている。また、体積型ホログラム記録用感光性組成物又は体積型ホログラム記録用感光性媒体のホログラム記録材料層が人や動物の皮膚に接触した時に、光重合開始剤が悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。
【0073】
さらに、当該体積型ホログラム記録用感光性組成物及び体積型ホログラム記録用感光性媒体を用いて最終的に得られる体積型ホログラム膜は、光重合開始剤又はその分解物の残留が少ないか又は全くないので、光重合開始剤又はその分解物が体積型ホログラム膜の膜物性や光学的特性に悪影響を及ぼす恐れが少ないか、或いは、光重合開始剤を全く用いない場合には、そのような恐れが全くなくなる。
Claims (8)
- 光重合開始剤を実質的に含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の体積型ホログラム記録用感光性組成物。
- 更に、可視光増感色素を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の体積型ホログラム記録用感光性組成物。
- 前記マレイミド骨格を有する化合物として、一分子中にマレイミド骨格を二以上有する化合物を含有することを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の体積型ホログラム記録用感光性組成物。
- 前記体積型ホログラム記録材料層が、光重合開始剤を実質的に含有しないことを特徴とする、請求項5に記載の体積型ホログラム記録用感光性媒体。
- 前記体積型ホログラム記録材料層が、更に、可視光増感色素を含有することを特徴とする、請求項5又は6に記載の体積型ホログラム記録用感光性媒体。
- 前記マレイミド骨格を有する化合物として、一分子中にマレイミド骨格を二以上有する化合物を含有することを特徴とする、請求項5乃至7の何れか1項に記載の体積型ホログラム記録用感光性媒体。
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