JP4615677B2 - 拡散アルミニド皮膜の厚さ及びアルミニウム含量を制御する方法 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は拡散アルミニド保護皮膜を形成する方法に関する。具体的には、本発明はコーティングプロセス中のアルミニウム活量を制御することによって拡散アルミニド皮膜の厚さ及びアルミニウム含量を制御する方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
ガスタービンエンジン内の作動環境は熱的にも化学的にも過酷である。鉄基、ニッケル基及びコバルト基超合金の開発並びに酸化、高温腐食等から超合金を保護することができる耐酸化性環境皮膜の使用によって、高温性能は格段の進歩を遂げた。
【０００３】
拡散アルミニド皮膜は特にガスタービンエンジンの超合金部品に広く用いられている。かかる皮膜は、概して、化学蒸着法（ＣＶＤ）やスラリーコーティング等で堆積したアルミニウムを拡散させるような方法、或いはパック拡散浸透法(pack cementation)やアバブパック法(above-pack)や気相蒸着法のような拡散プロセスによって形成される。図１に示す通り、拡散アルミニド皮膜１２は一般に２つのはっきりと識別できる層域を有しており、その最外層はＭＡｌ（ただし、Ｍは基板材料に応じて鉄、ニッケル又はコバルトである）で表される耐環境性金属間化合物を含む付加層１６である。ＭＡｌ金属間化合物は、堆積アルミニウム及び基板１０から鉄、ニッケル又はコバルトが外側に拡散することの所産である。付加層１６の下は拡散層１４であり、成膜反応中に拡散勾配及び基板１０の局所領域での元素溶解度の変化の結果生じた各種の金属間層と準安定相からなる。空気中での高温暴露時に、付加層１６は保護酸化アルミニウム（アルミナ）スケール又は層（図示せず）を形成して、拡散皮膜１２とその下の基板１０の酸化を防ぐ。
【０００４】
拡散処理には一般に部品表面をアルミニウム含有ガス組成物と反応させることが必要とされる。パック拡散浸透プロセスでは、アルミニウム含有原料（ドナー）物質とハロゲン化アンモニウムやハロゲン化アルカリ金属塩のようなキャリアー（活性剤）と焼成アルミナのような不活性充填材との粉体混合物を加熱することによってアルミニウム含有ガス組成物を発生させる。粉体混合物の構成成分を混合し、パックして処理すべき部品の周囲にプレスする。しかる後、部品と粉体混合物を十分な温度に加熱して活性剤が気化し原料物質と反応して揮発性ハロゲン化アルミニウムを生じると、ハロゲン化アルミニウムが部品表面で反応して拡散アルミニド皮膜を生じる。気相蒸着法のアルミニウム含有原料物質はアルミニウム合金粒子又はハロゲン化アルミニウムとすることができる。原料物質がハロゲン化アルミニウムの場合、別個に活性剤を使用する必要はない。原料物質はアルミナイジングすべき表面と接触しないようにしておく。パック拡散浸透法と同様、気相アルミナイジング処理（ＶＰＡ）もハロゲン化アルミニウムが部品表面で反応して拡散アルミニド皮膜を生じるような温度で実施される。
【０００５】
基材上での拡散アルミニド皮膜の成長速度はそのプロセスのアルミニウム活量に依存する。一般に、ＣＶＤ法並びに原料物質が一定合金組成の粒子（例えばチャンク又はペレット）の形態にあるようなＶＰＡ法では、原料物質と十分な活性剤が利用可能な限り、アルミニウム活量は一定である。対照的に、パック拡散浸透法及びその他のアバブパック法では、時間経過とともに利用可能なアルミニウム原料物質及び／又は活性剤が減少する結果、アルミニウム活量は時間経過とともに制御できずに減少する。さらに厄介な問題として、パック拡散浸透法及びアバブパック法における活性剤の消耗速度は、例えば大量の粉体の加熱にしばしば必要とされる予熱時間の延長のようなプロセスに関連した変更に伴って増大する。その結果、アルミニド皮膜の厚さは、パック拡散浸透法及びアバブパック法よりもＶＰＡ及びＣＶＤ法のほうが制御し易い。しかし、既存のアルミナイジング法ではコーティング作業時に皮膜のアルミニウム含量を制御することはできない。
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
アルミニド皮膜の最終的厚さとアルミニウム含量の両方を制御するには、拡散プロセス時にアルミニウム活量を制御する必要がある。皮膜の厚さ及びアルミニウム含量を制御できた場合の一つの利点は、皮膜成長を最小限することができるとともに、元の基板表面近傍でのアルミニウム含量は比較的低いが皮膜表面でのアルミニウム含量が高いことを特徴とするアウトワード(outward)型アルミニド皮膜を提供することで耐環境性を最大限にできることである。もう一つの利点は、未被覆（例えば新たな補修金属）表面と被覆（例えば未補修）表面を共に有する補修部品のコーティングの際、元の皮膜上に皮膜を追加すると皮膜の厚さが厚くなりすぎてしまいかねない場合にみられる。しかし、上述の通り、従来技術には、拡散アルミニドコーティングプロセスに際してアルミニウム活量を正確に制御できる方法がなかった。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
本発明は、概括的には、ガスタービンエンジン用部品のような基板上に拡散アルミニド皮膜を形成する方法を提供する。この方法は、基板を適当なコーティングチャンバー内に配置し、不活性又は還元性ガスをコーティングチャンバ内へ流し、次いで、気相蒸着法のような実質的に一定のアルミニウム活量でのアルミナイジング法を用いて基板をアルミナイジングすることからなる。アルミナイジングプロセス中、コーティングチャンバ内の非反応アルミニウムの量は、未反応アルミニウムの一部が上記ガスによってコーティングチャンバから掃去されるようにコーティングチャンバ内を流れるガス流速を変えることによって制御される。その結果、ガス流速が高いほどコーティングチャンバから掃去される未反応アルミニウムの量は多くなり、アルミナイジング速度及び得られたアルミニド皮膜のアルミニウム含量は減少する。対照的に、流速が低いほどコーティングチャンバから掃去される未反応アルミニウム量は減り、アルミナイジング速度が増すとともに生じたアルミニド皮膜内のアルミニウム含量は高くなる。
【０００８】
以上の観点から、本発明の方法で製造できる拡散アルミニド皮膜は、その厚さが正確に制御できるだけでなく、皮膜厚さを通してアルミニウム含量をも制御できる。その結果、拡散アルミニド皮膜の製造に当たっては、具体的用途に合わせてその厚さとアルミニウム含量をあつらえることができる。例えば、元の基板表面近傍で比較的アルミニウム含量が低く皮膜表面に向かって次第にアルミニウム含量が増加することを特徴とするアウトワード型アルミニド皮膜として最初に堆積させることで皮膜成長速度が低く、耐環境性の向上した皮膜が製造できる。
【０００９】
本発明では、表面補修を施した部品のように部品の拡散アルミニド皮膜を回復することもできる。かかる状況下では、アルミニウム活量は、基板中へのアルミニウムの拡散が皮膜成長の律速段階となるような範囲に調節される。部品の未被覆（例えば補修）表面では、アルミニウムレベルは合金化学によって支配されるので皮膜成長の駆動力は大きい。元のアルミニド皮膜を保持した部品表面については、アルミニウム成長の駆動力は皮膜に残存するアルミニウムレベルの関数である。既存の皮膜中のアルミニウムレベルが高い領域は皮膜成長が低いが、既存の皮膜でアルミニウムが消尽した領域は僅かな皮膜成長でアルミニウム含量が増加する。その結果、元の皮膜のこうした表面で皮膜が厚くなりすぎるのが避けられる。
【００１０】
以上の利点に加えて、本発明の提供するコストパフォーマンスに優れたアルミナイジング法は既存のアルミナイジングプロセス及び装置と適合する。さらに、本発明の方法は、本発明の利益を必要としない他の部品のプロセスの流れを妨げることなく、選択的に実施できる。
【００１１】
本発明のその他の目的及び利点は以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【００１２】
【発明の実施の形態】
本発明は、概括的には、熱的及び化学的に過酷な環境で作動し、そのため酸化及び高温腐食に付される部品に適用し得る。かかる部品の典型例には、ガスタービンエンジンの高圧及び低圧タービンノズル、ブレード及びシュラウドがある。本発明の利点をガスエンジンタービン装置に関して説明するが、本発明の教示内容は、部品を環境から保護するのにアルミニド皮膜を使用し得るあらゆる部品に遍く適用可能である。
【００１３】
図１は本発明の方法で製造できるアウトワード型拡散アルミニド皮膜１２を示す。皮膜１２は基板１０の上に示してあり、基板１０は通例皮膜１２で保護される部品の母材である。基板１０（つまり部品）の典型的な材料にはニッケル基、鉄基及びコバルト基超合金があるが、その他の合金も使用し得る。アルミニド皮膜１２は一般に拡散層域１４の上にある付加層１６として特徴付けられ、付加層１６はニッケルアルミニドβ相（ＮｉＡｌ）のような耐酸化性ＭＡｌ金属間化合物相を含む。付加層１６は、アルミナイジング前に他の金属が基板１０上に堆積その他の方法で存在しているか否かに応じて、他の金属間化合物相も含んでいることがある。例えば、白金が基板１０にメッキされている場合には、付加層１６はＰｔＡｌ₂又はＭＡｌ相に固溶した白金を含んでいることがある。インワード(inward)型拡散アルミニド皮膜は、一般に、厚い付加層が主に元の基板表面の下に向かって広がる点で図１に示すアウトワード型皮膜１２と異なるが、その他の点では組成上類似している。どちらのタイプの拡散アルミニド皮膜も、エンジン環境への暴露時に表面に酸化アルミニウムスケール（図示せず）を形成する。酸化物スケールはアルミニド皮膜１２及び基板１０の酸化を防ぐ。皮膜１２の好適な厚さは通例約２５〜１２５μｍ（約０．００１〜０．００５インチ）である。
【００１４】
本発明では、皮膜１２はアルミニウム活量が実質的に一定であることを特徴とするアルミナイジング法で形成される。気相堆積法は本発明での使用に特に適しているといえるが、実質的に一定のアルミニウム活量を与える他のＶＰＡ法であれば本発明の方法に使用できるし或いは開発できると予見できる。
【００１５】
気相蒸着法は当技術分野で周知であり、慣用的には、コーティングチャンバ（レトルト）内で不活性又は還元性雰囲気中で実施され、チャンバは、被覆すべき部品とアルミニウム原料（ドナー）物質と１種類以上の活性剤とを含んでいて、活性剤は該原料物質と共にコーティング蒸気（例えば揮発性ハロゲン化アルミニウム）を発生し、そのコーティング蒸気が部品表面で反応して拡散アルミニド皮膜を生じる。ただし、本発明では、アルゴン等の不活性ガス又は水素等の還元性ガスは、皮膜の具体的要件が満足されるように皮膜の成膜速度及びアルミニウム含量を調整できるように、チャンバ内を流れる未反応アルミニウムの量が変わる速度で流す。チャンバへのガス流量を増すと、排出口を通してチャンバから「掃去」される未反応アミンの量が増え、コーティングプロセスのアルミニウム活量が効果的に低下する。逆に、ガス流量を減らすと、チャンバ内に留まる未反応アルミニウムの量が増え、プロセスのアルミニウム活量が効果的に高まる。その他の点では、慣用コーティング材料の使用、約９５０℃〜約１１５０℃のコーティング温度及び約２〜約１０時間のコーティング時間を始めとして慣用のコーティング条件をチャンバ内で使用し維持することができる。
【００１６】
本発明を実施するに当たり、コーティングプロセスの望ましい最高アルミニウム活量はコーティングプロセスに用いられる原料物質及び活性剤の選択によって定まり、所定の時間における有効アルミニウム活量はチャンバ内へのガス流量を調量することによって制御される。例えば、最低アルミニウム含量２５重量％の原料物質の使用及び活性剤としてのフッ化アルミニウムの使用は比較的高いアルミニウム活量を与えるが、これはアルゴンガスを最小流速１０ＳＣＦＨ（約０．２８３ｍ³／ｈｒ）でチャンバに流すことによって有効に下げることができる。
【００１７】
本発明の方法の恩恵が受けられる用途は、エンジン稼働時の部品について皮膜成長ポテンシャルが最小となるのが望まれるものである。稼働時の皮膜成長を最小限にするには、アウトワード型アルミニド皮膜が好ましく、アウトワード型アルミニド皮膜では、皮膜形成時のニッケル拡散は、後で高温に暴露されたときに皮膜からのアルミニウムと基板からのニッケルとの相互拡散（すなわち皮膜成長）が最小となるようなものである。ただし、耐環境性を高めるため皮膜表面では高アルミニウム含量が望ましい。こうした事情では、原料物質及び１種類以上の活性剤は、コーティング時に高い最大アルミニウム活量を与えるように選択される。コーティング中は、アルミニウム活量を効果的に下げてコーティングプロセスの大半で望ましいアウトワード型皮膜構造が生じるように、比較的高いガス流速（例えば約２０ＳＣＦＨ（約０．５７ｍ³／ｈｒ））が選択される。次いで、コーティング作業の終点に向けてガス流速を落とすか或いは全く止めて、アルミニウム活量を増加させ、皮膜外表面がアルミニウムに富むようにする。
【００１８】
本発明の別の用途では、タービン翼形部のような部品は稼働現場から返却されたときに補修され、その一例はブレード先端の溶接補修である。ブレード先端の新たな金属はブレードの決まった最小皮膜厚さを満たすような十分な皮膜を必要とする。しかし、補修されていないブレードの表面領域は依然として元のアルミニド皮膜の全部又は一部を有しており、未被覆領域と同じコーティング条件に付されれば、許容最大厚さを超えてしまう可能性が高い。本発明では、コーティングチャンバへのガス流速を、皮膜表面での皮膜成長を最小限に抑制しながらブレードの未被覆金属表面での皮膜成長を促すように調整する。
【００１９】
本発明を完成するに至った研究の過程において、容積約１．１３ｍ³のレトルト内で、拡散アルミニド及び白金アルミニド皮膜で被覆された表面と未被覆表面を有するタービンブレードを、原料物質としてのＣｒＡｌ合金及び活性剤としてのフッ化アルミニウムを使用して処理した。レトルト中にアルゴンガスを１０〜３０ＳＣＦＨ（約０．３〜約０．９ｍ³／ｈｒ）の流速で吹き込みながら、ブレードを約１０３８〜１０８０℃で約２〜６時間の気相アルミナイジングによってコーティングした。レトルト内のアルミニウム活量をアルミニウム原料及び活性剤によって定めてブレードの未被覆表面へのアルミニウムの拡散が皮膜の最大成長速度を決定するようにし、同時にレトルトを流れるガス流速を調節してブレードの被覆領域の上に生じる皮膜成長を最小にした。その結果、アルミニウム皮膜の最終厚さは、ブレードの所定の最小及び最大限界値の範囲内に収まった。
【００２０】
本発明を好ましい実施形態に関して説明してきたが、当業者が他の形態を採用し得ることは自明である。例えば、アルミニド皮膜の組成を開示した以外の組成にすることができるし、アルミニド皮膜の恩恵を受ける表面を有する様々な部品に本発明の方法を応用することもできる。従って、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図１】 アウトワード型拡散アルミニド皮膜を有する基板の断面図である。

Claims (8)

1. 拡散アルミニド皮膜（１２）の形成方法であって、当該方法が、
   基板（１０）をコーティングチャンバー内に配置し、
   不活性又は還元性ガスをコーティングチャンバ内へ流し、次いで
   上記ガスによって未反応アルミニウムの一部がコーティングチャンバから掃去され、しかもガス流速が高いほどコーティングチャンバから掃去される未反応アルミニウムの量が多くなるようにコーティングチャンバ内を流れるガス流速を変えることによってコーティングチャンバ内の未反応アルミニウム量を制御しながら、実質的に一定のアルミニウム活量でのアルミナイジング法を用いて基板（１０）をアルミナイジングすることによって基板（１０）上に拡散アルミニド皮膜（１２）を生じさせる
   各段階を含んでなる方法。
2. 前記アルミナイジング法が気相蒸着法である、請求項１記載の方法。
3. 上記基板（１０）が超合金である、請求項１又は請求項２記載の方法。
4. 前記気相蒸着法が９５０℃〜１１５０℃で２〜１０時間実施される、請求項２記載の方法。
5. 上記基板（１０）がガスタービンエンジン部品である、請求項１記載の方法。
6. 拡散アルミニド皮膜（１２）の形成中に、拡散アルミニド皮膜（１２）がその内側部分よりもその外側部分で高いアルミニウム含量を有するようにコーティングチャンバを流れるガス流速を減らす、請求項１記載の方法。
7. 前記アルミナイジング段階の前に、基板（１０）の第一表面部分は拡散アルミニド皮膜（１２）を有しているが、基板（１０）の第二表面部分は拡散アルミニド皮膜を有していない、請求項１記載の方法。
8. 前記ガスがアルゴンであって、前記ガス流速が１０〜３０ＳＣＦＨ（０．３〜０．９ｍ³／ｈｒ）である、請求項２記載の方法。

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