図1は、本発明の実施の一形態の非放射性誘電体線路と平面線路との接続構造を有する伝送線路2の構成を模式的に示す斜視図である。以下、非放射性誘電体線路と平面線路との接続構造を、単に「接続構造」という。図2は、電磁波の伝播方向Xに沿う誘電体線路7およびストリップ導体部13の軸線A1を含み、誘電体線路7と第1および第2平板導電体部8a,8bとの積層方向Zに沿う仮想一平面における伝送線路2の断面図である。図3は、図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。図4は、図2の切断面線IV−IVから見た断面図である。
伝送線路2は、非放射性誘電体線路(NRDガイド)3と、平面線路であるマイクロストリップ線路4とを含んで構成される。非放射性誘電体線路3の、電磁波の伝播方向(線路の延在方向)Xにおける第1端面5と、マイクロストリップ線路4の電磁波の伝播方向Xにおける第1端面6とが突き合わされて、非放射性誘電体線路3とマイクロストリップ線路4とが結合される。
非放射性誘電体線路3は、電磁波が伝播する誘電体線路7と、誘電体線路7を挟持して設けられ、すなわち誘電体線路7の両側に設けられる一対の平板導電体部8a,8bとを含んで構成される。以下、一対の平板導電体部8a,8bをそれぞれ、第1および第2平板導電体部8a,8bという。
誘電体線路7は、電磁波の伝播方向Xに垂直な断面形状が矩形状に形成される。誘電体線路7の前記断面形状は、完全な矩形からややずれていても構わないが、少なくとも第1および第2平板導電体部8a,8bと接する面は、できるだけ平坦でありかつ平行度が高いのが望ましい。本実施の形態では誘電体線路7は、直方体形状に形成され、すなわち電磁波の伝播方向Xは、直線状に延びる。誘電体線路7の電磁波の伝播方向Xのうち、マイクロストリップ線路4に臨む端面9は、伝播方向Xに垂直に形成される。
誘電体線路7は、誘電体を用いて形成される。誘電体線路7は、ガラス、単結晶、セラミックスまたは樹脂によって形成される。ガラスとしては、石英ガラス、結晶化ガラスなどが用いられる。単結晶としては、水晶、サファイア、MgOまたはLaAlO3などが用いられる。セラミックスとしては、アルミナ、フォルステライト、コーディライトなどが用いられる。樹脂としては、エポキシ樹脂、含フッ素樹脂、液晶ポリマーなどが用いられる。
第1および第2平板導電体部8a,8bは、板状に形成され、予め定める間隔L1をあけて設けられる。本実施の形態では、第1および第2平板導電体部8a,8bは同じ大きさに形成され、厚さ方向を一致させ、相互に対向させて設けられる。第1および第2平板導電体部8a,8bの相互に臨む表面は平面に形成される。第1および第2平板導電体部8a,8bは、可及的に平行に配置して、第1および第2平板導電体部8a,8bの相互に臨む表面を誘電体線路7に密着させるのが好ましい。
予め定める間隔L1は、第1および第2平板導電体部8a,8bに挟まれる領域のうち誘電体線路7を除く部分において、第1および第2平板導電体部8a,8b間から、第1および第2平板導電体部8a,8bに平行に偏波した電磁波が遮断されるように設定される。すなわち、第1および第2平板導電体部8a,8bに挟まれる領域のうち誘電体線路7を除く部分を伝播する電磁波の波長の2分の1以下に選ばれる。
また誘電体線路7の幅は、LSEモードのカットオフ周波数が、伝播させる電磁波の周波数、すなわち使用周波数未満になるように選ばれる。誘電体線路7の電磁波の伝播方向Xに垂直な断面は、第1および第2平板導電体部8a,8bに接する辺が短辺となる矩形状に形成される。誘電体線路7の前記矩形状の断面における長辺の長さL2は、前記予め定める間隔L1に等しい。誘電体線路7の前記矩形状の断面における短辺の長さL3に対する長辺の長さL2の比を、短辺の長さL3を小さくしたり、長辺の長さL2を大きくしたりして、LSMモードがカットオフとなりLSEモードのみが伝播する状態となるまで大きくする。誘電体線路7の前記矩形状の断面における短辺の長さL3に対する長辺の長さL2の比、すなわちL2/L3は、伝送線路2を後述する各移相器に用いる場合には、好ましくは、可及的に大きくしてLSEモードがカットオフ付近で伝播するように設定することが望ましい。
第1および第2平板導電体部8a,8bは、体積抵抗率が10−4Ω・m以下、好ましくは10−5Ω・m以下の良導体によって形成され、たとえば金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、チタン(Ti)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)およびクロム(Cr)からなる群から選ばれるいずれか1つ、または前記郡から選ばれる少なくとも2つを含む合金またはこれらの積層体、あるいはITO
(Indium Tin Oxide)、酸化錫、酸化イリジウム、SrRuO3などの酸化物導電体によって形成される。
第1および第2平板導電体部8a,8bは、電磁波の伝播方向Xと、第1および第2平板導電体部8a,8bならびに誘電体線路7の積層方向Zとの2つの方向に垂直な幅方向Yに、誘電体線路7の前記幅方向Yの端部から外方に予め定める距離L4の位置まで延びる。前記予め定める距離L4は、誘電体線路7の外側(Y方向の外方)に広がる電磁界強度が1/10に減衰するよりも大きな値に選ばれる。
非放射性誘電体線路3は、さらに接続導体部11を含んで構成される。接続導体部11は、第1および第2平板導電体部8a,8bに接続される。接続導体部11は、板状に形成され、誘電体線路7の前記幅方向Yの一方に、前記予め定める距離L4離間して設けられ、誘電体線路7に沿って延び、第1および第2平板導電体部8a,8bに前記積層方向Zの両端部がそれぞれ接続される。接続導体部11は、第1および第2平板導電体部8a,8bと同様の物質によって形成される。
接続導体部11を形成することによって、第1および第2平板導電体部8a,8bとを電気的に接続することができ、かつ第1および第2平板導電体部8a,8bと、マイクロストリップ線路4の後述する接地導体部14とを電気的に好適に接続することができる。
マイクロストリップ線路4は、ストリップ誘電体部12と、ストリップ誘電体部12に設けられるストリップ導体部13と、接地導体部14とを含んで構成される。ストリップ導体部13と接地導体部14とは、所定の間隔L5をあけて設けられる。接地導体部14は、ストリップ導体部13に沿って設けられる。接地導体部14とストリップ導体部13との間にストリップ誘電体部12を挟んで設けられる。ストリップ導体部13と接地導体部14とは、前述した第1および第2平板導電体部8a,8bと同様の物質によって形成される。
ストリップ誘電体部12は、低誘電率を有する誘電体を用いて形成され、前述した誘電体線路7と同様の物質によって形成される。ストリップ誘電体部12は、誘電体線路7の誘電率に等しい誘電率を有する誘電体によって形成される。ストリップ誘電体部12を誘電体線路7の誘電率よりも低い誘電率を有する誘電体によって形成することによって、反射の小さい接続構造とすることができる。ストリップ誘電体部12は、前記幅方向Yの両面が平面に形成され、本発明の実施の形態では直方体形状を有する。ストリップ誘電体部12の前記幅方向Yの第1表面部15には、前記積層方向Zの中央部16にストリップ導体部13が積層して形成される。ストリップ導体部13は、直方体形状を有する。ストリップ導体部13は、前記伝播方向Xに沿って延びる。ストリップ導体部13の前記積層方向Zの長さL6は、誘電体線路7の前記積層方向Zの長さ、すなわち第1および第2平板導電体部8a,8bの間隔L1未満に選ばれる。
ストリップ誘電体部12の前記幅方向Zの第2表面部17には、接地導体部14が形成される。接地導体部14は、第2表面部17の全面にわたって形成される。
ストリップ導体部13の電磁波の伝播方向Xにおける端面のうち、非放射性誘電体線路3に臨む端面18と、誘電体線路7の前記端面9とを突き合わせて、非放射性誘電体線路3とストリップ導体部13とが結合される。マイクロストリップ線路4は、非放射性誘電体線路3のLSEモードに結合する。ストリップ導体部13の前記端面18の中央は、誘電体線路7の前記端面9の中央に連なる。ストリップ誘電体部12の積層方向Zの寸法は、第1および第2平板導電体部8a,8bの外表面間の長さに等しく選ばれる。
ストリップ導体部13の伝播方向Xに垂直な断面における長手方向と、誘電体線路7の伝播方向Xに垂直な断面における長手方向とが一致するように、ストリップ導体部13と誘電体線路7とが接続される。これによって、ストリップ導体部13と第1および第2電極23a,23bとの接触を避けることができ、ストリップ導体部13の設計の自由度を向上させることができる。
ストリップ誘電体部12は、非放射性誘電体線路3の第1端面5に接触して設けられる。接地導体部14は、接続導体部11に接触し、接続導体部11に連なって設けられる。
ストリップ導体部13と接地導体部14との間隔L5、ならびにストリップ導体部13の積層方向Zの長さL6および幅方向Yの長さL7は、マイクロストリップ線路4の特性インピーダンスが、非放射性誘電体線路3の特性インピーダンスと整合するように選ばれる。
以上のように伝送線路2では、ストリップ導体部13の近傍の電磁界モードが、非放射性誘電体線路3のLSEモードに近似しているので、すなわちマイクロストリップ線路4における高周波の電磁界分布が非放射性誘電体線路3のLSEモードの電磁界分布に近似しているので、マイクロストリップ線路4を非放射性誘電体線路3のLSEモードと結合させることができ、非放射性誘電体線路3とマイクロストリップ線路4との接続部において、電磁界が非放射性誘電体線路3およびマイクロストリップ線路4のうちの一方から他方に円滑に移行する。したがって、接続損失が低減し、すなわち伝送損失を低減することができる。またLSEモードで結合するので、LSMモードを用いる場合に必要であるモード抑制回路が不必要となり、小型化することができる。
本実施の形態の伝送線路2では、平面線路をマイクロストリップ線路4によって実現しているが、本発明の実施の他の形態では、平面線路をトリプレート線路(ストリップ線路)、コプレーナ線路またはグランド付きコプレーナ線路によって実現してもよい。このような構成としても、平面線路がマイクロストリップ線路4である場合と同様の効果を達成することができる。
また本発明の他の実施の形態では、前記伝送線路2において、非放射性誘電体線路3の第1および第2平板導電体部8a,8b間で、誘電体線路7の前記幅方向Yの両側に、誘電体線路7の誘電率よりも低い誘電率を有する低誘電率誘電体部を設けてもよい。第2誘電体部は、第1および第2平板導電体部8a,8bおよび誘電体線路7に接触して設けられる。第2誘電体部は、誘電体線路7と同様の物質によって形成される。低誘電率誘電体部を設けることによって、誘電体線路7を伝播する電磁波の、第1および第2平板導電体部8a,8bに挟まれる部分のうち誘電体線路7を除く部分における波長を、低誘電率誘電体部を設けない場合(空気によって形成する場合)と比較して短縮することができ、これによって非放射性誘電体線路3を小型に形成することができる。また低誘電率誘電体部によって平板導電体部が機械的に支持されるので、機械的な強度を向上させることができる。
図5は、本発明の実施の一形態の誘電体導波路デバイスである移相器20の構成を模式的に示す斜視図である。図6は、位相制御部21の電磁波の伝播方向Xに垂直な仮想一平面における断面図である。移相器20は、前述した図1に示される実施の形態の接続構造を有する伝送線路2の構成と類似し、前記伝送線路2において、誘電体線路7が印加電界に応じて誘電率が変化する変化部を有し、さらに第2誘電体部22ならびに第1および第2電極23a,23bを付加した構成であるので、同様の構成には、同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
移相器20は、誘電体線路7が印加電界に応じて誘電率が変化する変化部を有するように構成される前記伝送線路2と、第2誘電体部22と、第1および第2電極23a,23bとを含んで構成される。伝送線路2のうち、非放射性誘電体線路3と、第2誘電体部22と、第1および第2電極23a,23bとによって、誘電体線路7を伝播する電磁波の位相を変化させるための位相制御部21が構成される。
誘電体線路7は、誘電体から成り、印加電界に応じて誘電率が変化する変化部を含んで形成される。本実施の形態では、誘電体線路7は変化部から成り、たとえばBa(1−x)SrxTiO3(略称BST:チタン酸ストロンチウムバリウム)、Mg(1−x)CaxTiO3、Zn(1−x)SnxTiO3、BaO−PbO−Nd2O3−TiO
3、またはBi1.5Zn1.0Nb1.5O7などによって形成される。誘電体線路7は、印加電界が大きくなるに連れて、すなわち印加される電界強度が高くなるに連れて、誘電率が小さくなる。
第2誘電体部22は、前述した低誘電率誘電体部によって構成され、非放射性誘電体線路3の第1および第2平板導電体部8a,8b間で、誘電体線路7の前記幅方向Yの両側に設けられ、誘電体線路7の誘電率よりも低い誘電率を有する。第2誘電体部22は、誘電体線路7に電界が印加されている電界印加時、および誘電体線路7に電界が印加されていない電界無印加時において、誘電体線路7のうち最も誘電率が低い部分の誘電率よりも低い誘電率を有する。第2誘電体部22は、第1および第2平板導電体部8a,8bおよび誘電体線路7に接触して設けられる。第2誘電体部22は、誘電体線路7と同様の物質によって形成される。前記固体物質によって形成される第2誘電体部22を設けることによって、誘電体線路7を伝播する電磁波の、第1および第2平板導電体部8a,8bに挟まれる部分のうち誘電体線路7を除く部分における波長を、空気中における波長と比較して短縮することができ、これによって非放射性誘電体線路3を小型に形成することができる。また第2誘電体部によって平板導電体部が機械的に支持されるので、機械的な強度を向上させることができる。
第1および第2電極23a,23bは、第1および第2平板導電体部8a,8bが離間する方向(積層方向Z)、および誘電体線路7における電磁波の伝播方向Xに互いに垂直な方向(幅方向Y)で、誘電体線路7を挟んで設けられる。第1および第2電極23a,23bは、誘電体線路7に電界を印加するための電極である。
第1および第2電極23a,23bは、第2誘電体部22に埋設して設けられる。第1および第2電極23a,23bは板状に形成され、その厚さ方向が、幅方向Yに沿って設けられる。第1および第2電極23a,23bは、前記軸線A1に関して回転対象に設けられる。第1および第2電極23a,23bは、第1および第2平板導電体部8a,8bにそれぞれ予め定める距離L8離間して設けられ、かつ誘電体線路7に予め定める距離L9離間して設けられる。予め定める距離L8は、第1および第2平板導電体部8a,8bおよび第1および第2電極23a,23bが短絡しない程度に選ばれる。
誘電体線路7に効果的に電界を印加するには、第1および第2電極23a,23bの間隔をなるべく狭くするのがよいが、あまりその間隔を狭くしすぎて第1および第2電極23a,23bが誘電体線路7に近づきすぎるとLSEモードの電磁界が第1および第2電極23a,23bの影響を受け、カットオフ周波数が高くなり、LSEモードが伝送しなくなる。したがって予め定める距離L9は、LSEモードが伝送する範囲で、誘電体線路7への印加電界を可及的に大きくすることができるように選ばれる。
誘電体線路7に効果的に電界を印加するには、第1および第2電極23a,23bによって挟まれる誘電体線路7の幅方向Yの厚さL3をなるべく薄くすることが好ましい。非放射性誘電体線路3は、LSEモードが伝播するように構成され、LSEモードを伝播させる場合は、LSMモードを伝播させる場合に比べて、前記厚さL3を薄くすることができるので、前記厚さL3を薄くして、誘電体線路7に効果的に電界を印加することができる。また、LSEモードがカットオフに近づくように、なるべく前記厚さL3を薄くすれば、誘電体線路7を伝播する高周波信号の伝播定数が大きく変化するので、電界によって誘電体線路7を伝播する高周波信号の位相を一層効果的に大きく変化させることができる。
第1および第2電極23a,23bは、第1および第2平板導電体部8a,8bと同様の物質によって形成されるか、または不純物が添加されていない、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)および砒化ガリウム(GaAs)などの半導体材料、あるいは窒化タンタルおよびNiCr合金などの高抵抗材料を用いて形成される。
第1および第2電極23a,23bは、LSEモードの電磁界に影響しない程度に、その厚さL10を誘電体線路7を伝播させるべき電磁波の周波数に対する表皮深さに比べて薄くするとよい。第1および第2電極23a,23bは、その厚さL10が、誘電体線路7を伝播させるべき電磁波の周波数に対する表皮厚さ未満に選ばれる。表皮厚さを「δ」とし、透磁率を「μ」とし、導電率を「σ」とし、角周波数を「ω」としたとき、表皮厚さは、式(1)で表される。なお、ω=2πf(fは、周波数)である。導体内に電磁波が進入すると、前記表皮厚さのところで振幅が1/eになる。
これによって、第1および第2電極23a,23bを第2誘電体部22に埋め込んだときに、第1および第2電極23a,23bによる損失を低減することができる。また第1および第2電極23a,23bの間隔をより近づけて設けることができるので、より低電圧で移相器20を駆動することができる。本実施の形態における第1および第2電極23a,23bの体積抵抗率は、10−5Ω・m以上、好ましくは10−4Ω・m以上に選ばれる。
第2誘電体部22に埋め込まれる第1および第2電極23a,23bの抵抗率は、10−5Ω・m以上かつ108Ω・m以下に選ばれるのが好ましい。第1および第2電極23a,23bの抵抗率が10−5Ω・m未満になると、電極中の電磁波の減衰が大きくなり、損失が大きくなって好ましくない。第1および第2電極23a,23bの抵抗率が10−5Ω・mよりもさらに小さくなると所望のモードがカットオフになって伝播しなくなってしまう。逆に第1および第2電極23a,23bの抵抗率が108Ω・mを超えて大きくなりすぎると、第1および第2電極23a,23bによって挟まれる誘電体との抵抗率の差が小さくなり、電圧降下のために所望の電圧が誘電体に印加できなくなってしまう。
第1および第2電極23a,23bの厚さは、第1および第2電極23a,23bに用いる材質の抵抗率によって決定され、厚すぎると損失が大きくなり、さらに厚くなると所望のモードがカットオフになって伝送しなくなってしまう。薄すぎると電圧降下のために所望の電圧が誘電体に印加できなくなってしまう。たとえば第1および第2電極23a,23bとして、抵抗率が1×10−4(Ω・m)のもの(材質としてTaNを用いる場合を想定)および抵抗率が1×10−3(Ω・m)のものを想定した場合において、電磁界解析をそれぞれ行ったときの、77GHzの電磁波に対する1mmあたりの電極による損失を、表1に示す。
表1および表2に示す電磁界解析の結果から、電極の抵抗率が1×10−4(Ω・m)の場合で実用上は、電極の厚さを30nm以下とするのが好ましく、電極の抵抗率が1×10−3(Ω・m)の場合で実用上は、電極の320nm以下とするのが好ましい。ここでは、実用上好ましいという基準を損失3dBとしている。これによって、第1および第2電極23a,23bの全体に電子が移動して、誘電体線路7に均一に電界を印加することができる。
移相器20は、さらに電圧印加手段25を含んで構成される。電圧印加手段25は、一対の第1および第2電極23a,23b間に予め定める範囲の電圧を印加する電気回路によって実現される。電圧印加手段25は、第1および第2電極23a,23bに接続されて、それぞれの電極に所定の電位を与えて、第1および第2電極23a,23b間に電圧を与える。これによって、第1および第2電極23a,23bに挟まれる誘電体線路7に電界が印加される。電圧印加手段25は、たとえば分圧器を含んで構成され、分圧器によって分圧された電圧を第1および第2電極23a,23bに与える。電圧印加手段25は、複数段階の電圧を前記第1および第2電極23a,23bに印加することができる。電圧印加手段25は、伝播する電磁波の周波数よりも低い周波数の交流電圧、または直流電圧を第1および第2電極23a,23bに印加する。電圧印加手段25は、シフトすべき位相量に応じた電圧を第1および第2電極23a,23bに印加する。
電圧印加手段25によって、第1および第2電極23a,23b間に電圧を印加し、また印加する電圧の大きさを予め定める範囲で変化させることによって、誘電体線路7を導波する電磁波の位相を、印加する電圧の大きさ、すなわち印加電界の大きさに応じて変化させることができる。誘電体線路7を形成する誘電体は、印加電界が大きくなると誘電率が小さくなり、これによって誘電体線路7を導波する電磁波の位相を変化させることができる。
また第1および第2電極23a,23bの伝播方向X方向の長さは、必要な位相変化が得られる長さに選ばれる。
図7は、移相器20の製造工程を示す模式図であり、図7(1)〜図7(3)は各工程終了後の位相制御部21が形成される部位の断面図である。図8は、図7(1)の切断面線VIII−VIIIから見た断面図である。
まず、図7(1)に示すように、基板26の厚さ方向の第1表面26a上に、接続導体部11および接地導体部14となる第1導電体膜27aを積層して形成する。基板26は、たとえばMgO単結晶によって形成される。位相制御部21を形成する部分では、第1導電体膜27aに積層して、所定の位置に第2電極23bとなる第2導電体膜27bを埋め込んだ第1誘電体膜28aを積層し、マイクロストリップ線路4を形成する部分では、第1導電体膜27aに積層してストリップ誘電体部12となる第2誘電体膜28bを積層し、第2誘電体膜28bに積層してストリップ導体部13となる第3導電体膜27cを積層して形成する。第2導電体膜27bは、複数形成され、基板26の厚さ方向に垂直な所定の方向に相互に所定の間隔をあけて設けられる。第3誘電体膜28cは、複数形成され、基板26の厚さ方向に垂直な所定の方向に相互に所定の間隔をあけて設けられる。第1誘電体膜28aに積層して、誘電体線路7を形成するための第3誘電体膜28cが形成される。第3誘電体膜28cに積層して、所定の位置に第1電極23aとなる第4導電体膜27dを埋め込んだ第4誘電体膜28dを形成する。第3導電体膜27cは、複数形成され、基板26の厚さ方向に垂直な所定の方向に相互に所定の間隔をあけて、第2導電体膜27bと平行に形成される。
第1、第2および第4誘電体膜28a,28b,28dは、同じ物質を用いて形成され、ガラス、単結晶、セラミックスまたは樹脂によって形成される。第1〜第4導電体膜27a,27b,27c,27dは、同じ物質を用いて形成され、たとえば金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、チタン(Ti)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)およびクロム(Cr)からなる群から選ばれるいずれか1つによって形成される。第3誘電体膜28cは、たとえばBa(1−x)SrxTiO3(略称BST)、Mg(1−x)CaxTiO3、Zn(1−x)SnxTiO3、BaO−PbO−Nd2O3−TiO3、またはBi1.5Zn1.0Nb1.5O7などによって形成される。第1〜第4誘電体膜28a〜28dおよび第1〜第4導電体膜27a〜27dの作製には、真空蒸着、スパッタリングまたはCVD(Chemical Vapor
Deposition)などの周知の薄膜形成方法を使用することができる。第2〜第4導電体膜
27b〜27dのように、パターン形成が必要な場合には、フォリソグラフィを用いてパターン形成し、位相制御部21を形成する部分では、第2および第4導電体膜27b,27dに積層して、薄膜形成を続けるようにすればよい。
第1〜第4誘電体膜28a〜28dおよび第1〜第4導電体膜27a〜27dを作製することによって、図7(1)に示すように、第1導電体膜27a、第1誘電体膜28b、第3導電体膜27b、第3誘電体膜28b、第4誘電体膜28dおよび第4導電体膜27dが積層される部分を含んで構成される移相器形成部分29aと、隣接する移相器形成部分29aの間および複数の移相器形成部分29aの配列方向の端部で第1導電体膜27a、第1誘電体膜28b、第3誘電体膜28bおよび第4誘電体膜28dのみが積層されて成る非移相器形成部分29bとが所定の方向に並んで一体に形成される。
次に、図7(2)に示すように、非移相器形成部分29bを、第1導電体膜27aが露出するようにエッチングして、移相器形成部分29aの間に空間を形成して、複数の島状の移相器形成部分29aを形成する。エッチングには、ケミカルドライエッチング、リアクティブイオンエッチングまたはウェットエッチングなどの周知のエッチング方法を使用することができる。
最後に、図7(3)に示すように、エッチングよって露出した移相器形成部分29aのうち位相制御部21となる部分の側面に、第1および第2平板導電体部8a,8bとなる第5導電体膜27eを作製する。第5導電体膜27eの作製には、真空蒸着、スパッタリングまたはCVDなどの周知の薄膜形成方法およびフォトリソグラフィが用いられる。以上のようにして、非放射性誘電体線路3および位相制御部21が形成される。
なお、前記製造行程において、位相制御部21とマイクロストリップ線路4とは同時に作製される。すなわち、接地導体部14と、接続導体部11とを、第1導電体膜27aによって同時に作製し、ストリップ誘電体部12となる第2誘電体膜28bと、第1誘電体膜28aの一部とを同時に作製し、第2導電体膜27bを形成し、第2導電体膜27bを覆って第1誘電体膜28aの残部を作製した後、第2誘電体膜28bに第3誘電体膜28cを積層してから、第3誘電体膜28c、第4誘電体膜28dおよび第4導電体膜27dを形成すればよい。このように位相制御部21とマイクロストリップ線路4とを同時に形成すれば、小型であって、位相特性が安定した移相器20を確実に作製することができる。
ここでは、基板26上に移相器20を複数作製することができるが、隣接する移相器20の間の基板26の境界部をダイシングして、個別に切り出してもよい。
また第2誘電体部22の一部およびストリップ導体部13とは、石英ガラス、結晶化ガラスなどのガラス、水晶、サファイア、MgOおよびLaAlO3などの単結晶、アルミナ、フォルステライト、コーディライトなどのセラミックス、またはエポキシ樹脂、含フッ素樹脂、液晶ポリマーなど樹脂から成る低誘電体基板を用いて形成されてもよい。この場合、低誘電体基板の厚さ方向の第1表面上に接続電極部11および接地導体部14となる第1導電体膜27aを形成し、低誘電体基板の厚さ方向の第2表面上に第3誘電体膜28cを形成する。この場合、低誘電体基板を分断した後、第1および第2平板導電体部8a,8bを形成する。
以上のように移相器20では、誘電体線路7は、電界に応じて誘電率が変化する誘電体によって形成され、誘電体線路7に電界を印加するための第1および第2電極23a,23bが、第1および第2平板導電体部8a,8bが離間する方向(積層方向Z)、および誘電体線路7における電磁波の伝播方向Xに互いに垂直な方向で、誘電体線路7を挟んで設けられる。非放射性誘電体線路3は、LSEモードで用いられるので、LSMモードで用いる場合と比較して、誘電体線路7の幅方向Yの厚さを薄く構成することができる。誘電体線路7の幅方向の厚さを薄く構成することによって、第1および第2電極23a,23bを近づけて設けることができるので、電界印加効率を向上することができる。これによって線路長が短くても低い電圧で所望の位相変化を得ることができ、また前記接続構造によって、LSEモードの高周波信号を、平面線路であるマイクロストリップ線路4に良好に取り出すことができるので、小型であって平面回路基板上への実装性が良好である移相器20を実現することができる。また第1および第2電極23a,23bが、誘電体線路7を伝播する電磁波の周波数に対する表皮厚さよりも薄く形成され、第2誘電体部22に埋設して設けられるので、伝播するモードに影響を与えることなく、第1および第2電極23a,23bを近接して設けることができ、電界印加効率を向上することができる。また、機械的な駆動部分がないため、耐久性に優れた信頼性の高い移相器20を実現することができる。
本発明のさらに他の実施の形態では、前述した移相器20において、第1および第2電極23a,23bを誘電体線路7に接触して設けてもよい。前述したように第1および第2電極23a,23bの厚さを表皮厚さよりも薄く形成することによって、誘電体線路7に接触させてもLSEモードを伝播させることができる。誘電体線路7に電界を印加する際には、誘電体線路7に均一に電界を印加することが望ましい。第1および第2電極23a,23bを誘電体線路7に接触して設ける、すなわち前記予め定める距離L9を零(0)に選ぶことによって、第1および第2電極23a,23bの全体に電子が移動して、誘電体線路7により均一に電界を印加することができる。
本実施の形態の移相器20では、平面線路をマイクロストリップ線路4によって実現しているが、本発明の実施の他の形態では、平面線路をトリプレート線路(ストリップ線路)、コプレーナ線路またはグランド付きコプレーナ線路によって実現してもよい。このような構成としても、平面線路がマイクロストリップ線路4である場合と同様の効果を達成することができる。
図9は、本発明の実施の一形態の移相器30の断面図である。図9は、電磁波の伝播方向Xに沿う誘電体線路7およびストリップ導体部13の軸線A1を含み、誘電体線路7と第1および第2平板導電体部8a,8bとの積層方向Zに沿う仮想一平面における断面図である。図10は、図9の切断面線X−Xから見た断面図である。図11は、図9の切断面線XI−XIから見た断面図である。図12は、図9の切断面線XII−XIIから見た断面図である。図13は、図9の切断面線XIII−XIIIから見た断面図である。
移相器30は、前述した図5に示される実施の形態の移相器20の構成と類似し、移相器20の構成において、基本的にはマイクロストリップ線路4をストリップ線路31に代えた構成であるので、同様の構成には、同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
移相器30は、位相制御部32と、ストリップ線路31とを含んで構成される。位相制御部32は、前述した位相制御部21の第1および第2平板導電体部8a,8bの間で、前記幅方向Yにおいて前記誘電体線路7を挟んで接続導体部11とは反対側に、第2接続導体部33が形成される。第2接続導体部33は、接続導体部11と同様の大きさおよび物質によって形成され、前記軸線A1に関して対称に形成される。第2接続導体部33は、接続導体部11に平行に形成される。第1および第2平板導電体部8a,8b、接続導体部11、ならびに第2接続導体部33は、軸線A1まわりに連なって形成される。
ストリップ線路31は、ストリップ誘電体部34と、ストリップ誘電体部34に設けられるストリップ導体部13と、接地導体部35とを含んで構成される。ストリップ導体部13と接地導体部35とは、所定の間隔をあけて設けられる。
ストリップ誘電体部34は、ストリップ導体部13の位相制御部32に臨む端部13aを除く残余の部分を前記軸線A1まわりに外囲する。ストリップ誘電体部34は、前述したストリップ誘電体部12と同様の物質によって形成され、接地導体部35は、前述した接地導体部14と同様の物質によって形成される。ストリップ誘電体部34は、直方体形状を有する。ストリップ誘電体部34の積層方向Zおよび幅方向Yの表面部には、接地導体部35が形成される。
ストリップ導体部13は、前記端部13aを除く残余の部分が、ストリップ誘電体部34に埋め込まれて設けられる。ストリップ導体部13は、幅方向Yおよび積層方向Zにおいてストリップ誘電体部34の中央部に設けられる。
ストリップ導体部13は、ストリップ導体部13の位相制御部32に臨む端部13aであって、ストリップ誘電体部34の位相制御部32に接触する端面36よりも、位相制御部32側に突出する突出部37を有する。誘電体線路7のストリップ線路31に臨む端部38には、前記突出部37が挿入される挿入孔39が形成される。挿入孔39は、突出部37と同じ大きさに形成される。突出部37は、前記挿入孔39に挿入して設けられる。突出部37は、インピーダンス整合のために挿入孔39に挿入される。ストリップ導体部13の幅方向Yの長さL7および積層方向Zの長さL6、ならびに突出部37および挿入孔39の伝播方向Xに沿う方向の長さL11は、ストリップ線路31の特性インピーダンスが、非放射性誘電体線路3の特性インピーダンスと整合するように選ばれる。突出部37および挿入孔39の伝播方向Xに沿う方向の長さL11は、伝播する電磁波の、突出部37における波長の約(2n−1)/4(nは自然数)に選ばれる。これによって、誘電体線路7とストリップ誘電体部34との界面で反射した電磁波と、突出部37の先端と誘電体線路7との界面で反射した電磁波との位相差を、π(rad)として、反射波を打ち消
すことができ、位相制御部32とストリップ線路31との界面における反射が低減され、損失を低減することができる。また反射波の打ち消し合いの効果を上げるためには、反射波の振幅が等しいことが望ましく、ストリップ導体部13の前記長さL6およびL7は、誘電体線路7とストリップ誘電体部34との界面で反射した電磁波と、突出部37の先端と誘電体線路7との界面で反射した電磁波との振幅が等しくなるように選ばれる。
ストリップ誘電体部12と誘電体線路7および第2誘電体部22とは接触して接続される。接地導体部35は、第1および第2平板導電体部8a,8bに接触して設けられ、また接続導体部14および第2接続導体部33に接触して設けられる。本発明の実施の形態では、第1および第2平板導電体部8a,8b、ならびに接続導体部14および第2接続導体部33と、接地導体部35とは伝播方向Xに連なる。
ストリップ線路31は、位相制御部32に含まれる非放射性誘電体線路3のLSEモードに結合する。ストリップ導体部13と、誘電体線路7とは同軸に設けられ、ストリップ導体部13の伝播方向Xに垂直な断面における長手方向と、誘電体線路7の伝播方向Xに垂直な断面における長手方向とが一致するように、ストリップ導体部13と誘電体線路7とが接続される。
以上のように移相器30では、ストリップ線路31の高周波の電磁界分布が、非放射性誘電体線路3のLSEモードの電磁界分布に近似するので、ストリップ線路31と位相制御部32との接続部において、電磁界が円滑に移行するので接続損失を低減することができる。またLSEモードの高周波信号をストリップ線路31に良好に取り出すことができるので、移相器30の平面回路基板上への実装性が良好であり、移相器30と、平面回路基板に実装されて、移相器30を通過する高周波信号を利用する電子回路との電気的な接続の信頼性を向上させることができる。また、移相器30では、誘電体線路7の電磁波の伝播方向Xにおける端部38に、ストリップ導体部13の電磁波の伝播方向Xにおける端部13aが、伝播方向Xに沿って非放射性誘電体線路3を伝播する電磁波の波長のこの端部13aにおける波長の(2n−1)/4(nは自然数)となる長さ挿入されるので、位相制御部32とストリップ線路31との界面における反射が低減され、損失を低減することができる。
移相器30において、ストリップ誘電体部34には電界が印加されないので、ストリップ誘電体部34は、誘電体線路7と同じ物質を含んで形成されてもよい。このようにストリップ誘電体部34が、誘電体線路7と同じ物質を含んで形成される場合の移相器30の製造方法を以下に述べる。
図14は、移相器30の製造工程を示す模式図であり、図14(1)〜図14(3)は各工程終了後の位相制御部32が形成される部位の断面図である。図15は、図14(1)の切断面線XV−XVから見た断面図である。
まず、図14(1)に示すように、基板26の厚さ方向の第1表面26a上に、接続導体部11および接地導体部35の一部となる第1導電体膜27aを積層して形成する。位相制御部32を形成する部分では、第1導電体膜27aに積層して、所定の位置に第2電極23bとなる第2導電体膜27bを埋め込んだ第1誘電体膜28aを積層し、ストリップ線路31を形成する部分では、第1導電体膜27aに積層してストリップ誘電体部34の一部を形成するための第2誘電体膜28bを積層する。第1誘電体膜28aの厚さと第2誘電体膜28bの厚さとは等しく形成される。第1誘電体膜28aと第2誘電体膜28bの両者に積層して、誘電体線路7を形成するための第3誘電体膜28cの一部が形成される。第3誘電体膜28cに積層して、ストリップ導体部13となる第3導電体膜27cを形成し、第3導電体膜27cを覆うように第3導電体膜27cの残部が形成される。第2導電体膜27bは、複数形成され、基板26の厚さ方向に垂直な所定の方向に相互に所定の間隔をあけて設けられる。第3誘電体膜28cは、複数形成され、基板26の厚さ方向に垂直な所定の方向に相互に所定の間隔をあけて設けられる。
位相制御部32を形成する部分では、第3誘電体膜28cの前記残部に積層して、所定の位置に第1電極23aとなる第4導電体膜27dを埋め込んで第4誘電体膜28dを形成する。ストリップ線路31を形成する部分では、第3誘電体膜28cの前記残部に積層して、ストリップ誘電体部12の残部となる第5誘電体膜28eを積層する。第4誘電体膜28dの厚さと第5誘電体膜28eの厚さとは等しく形成される。
第1、第2、第4および第5誘電体膜28a,28b,28d,28eは、同じ物質を用いて形成される。第1〜第4導電体膜27a,27b,27c,27dは、同じ物質を用いて形成される。第1〜第4誘電体膜28a〜28dおよび第1〜第4導電体膜27a〜27dの作製には、真空蒸着、スパッタリングまたはCVDなどの周知の薄膜形成方法を使用することができる。第2〜第4導電体膜27b〜27dのように、パターン形成が必要な場合には、フォリソグラフィを用いてパターン形成し、位相制御部21を形成する部分では、第2および第4導電体膜27b,27dに積層して、薄膜形成を続けるようにすればよい。
第1〜第4誘電体膜28a〜28dおよび第1〜第4導電体膜27a〜27dの作製することによって、図14(1)に示すように、第1導電体膜27a、第1誘電体膜28b、第3導電体膜27b、第3誘電体膜28b、第4誘電体膜28dおよび第4導電体膜27dが積層される部分を含んで構成される移相器形成部分29aと、隣接する位相制御部形成部29aの間および複数の移相器形成部分29aの配列方向の端部で第1導電体膜27a、第1誘電体膜28b、第3誘電体膜28bおよび第4誘電体膜28dのみが積層されて成る非移相器形成部分29bとが所定の方向に並んで一体に形成される。
次に、図14(2)に示すように、非移相器形成部分29bを、第1導電体膜27aが露出するようにエッチングして、移相器形成部分29aの間に空間を形成して、複数の島状の移相器形成部分29aを形成する。エッチングには、ケミカルドライエッチング、リアクティブイオンエッチングまたはウェットエッチングなどの周知のエッチング方法を使用することができる。
最後に、図14(3)に示すように、エッチングよって露出した移相器形成部分29aの側面および基板26から離反する端面に、第1および第2平板導電体部8a,8b、第2接続導体部33ならびに接地導体部35の残部となる第5導電体膜27eを作製する。第5導電体膜27eは、第1、第2および第4誘電体膜28a,28b,28dと同じ物質によって形成される。第5導電体膜27eの作製には、真空蒸着、スパッタリングまたはCVDなどの周知の薄膜形成方法およびフォトリソグラフィが用いられる。以上のようにして、非放射性誘電体線路3および位相制御部32が形成される。
なお、前記製造行程において、位相制御部32とストリップ線路31とは同時に作製される。すなわち、接地導体部14と、接地導体部35の一部とを、第1導電体膜27aによって同時に作製し、ストリップ誘電体部34の一部となる第2誘電体膜28bと、第1誘電体膜28aの一部とを同時に作製し、第2導電体膜27bを形成し、第2導電体膜27bを覆って第1誘電体膜28aの残部を作製する。この後、第1および第2誘電体膜28a,28bに第3誘電体膜28cの一部を積層してから、第3導電体膜27cを形成し、第3導電体膜27cを覆って第3誘電体膜28cの残部を形成し、第4誘電体膜28dの一部を形成し、第4導電体膜27dを形成した後、第4誘電体膜28dの残部と第5誘電体膜28eとを同時に形成すればよい。このように位相制御部32とストリップ線路31とを同時に形成すれば、小型であって、位相特性が安定した移相器30を確実に作製することができる。また前述したように移相器30を作製すると、ストリップ線路31のストリップ誘電体部34にストリップ導体部13を挟んで電界に応じて誘電率が変化する誘電率変化層が形成されることとなるが、この誘電体変化層には、第1および第2電極23a,23bによって電界が印加されないので、誘電率が変動することはなく、通常の誘電体としての働きをする。したがって、ストリップ誘電体部34に誘電率変化層が含まれていても支障を与えることはない。
ここでは、基板26上に移相器30を複数作製することができるが、隣接する移相器30の間の基板26の境界部をダイシングして、個別に切り出してもよい。
また第2誘電体部22の一部およびストリップ誘電体部34の一部とは、石英ガラスなどのガラス、水晶、サファイア、MgOおよびLaAlO3などの単結晶、結晶化ガラスおよびアルミナ、フォルステライト、コーディライトなどのセラミックス、またはエポキシ、含フッ素樹脂、液晶ポリマーなど樹脂から成る低誘電体基板を用いて形成されてもよい。この場合、低誘電体基板の厚さ方向の第1表面上に接続電極部11および接地導体部35の一部となる第1導電体膜27aを形成し、低誘電体基板の厚さ方向の第2表面上に第3誘電体膜28cを形成する。この場合、低誘電体基板を分断した後、第1および第2平板導電体部8a,8bならびに接地導体部35の残部を形成する。
図16は、本発明の実施のさらに他の形態の移相器40の構成を模式的に示す斜視図である。図17は、電磁波の伝播方向Xに沿う誘電体線路7およびストリップ導体部13の軸線A1を含み、誘電体線路7と第1および第2平板導電体部8a,8bとの積層方向Zに垂直な仮想一平面における断面図である。図18は、図17の切断面線XVIII−XVIIIから見た断面図である。図19は、図18の切断面線XIX−XIXから見た断面図である。図20は、図18の切断面線XX−XXから見た断面図である。
本発明の実施の形態の移相器40は、前述した図9に示す実施の形態の移相器30と同様の構成を有し、平面線路がストリップ線路31とコプレーナ線路41とを含んで構成される点が異なるのみであって、他の部分は同様であるので、同様の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
移相器40は、移相器30の前記ストリップ線路31の、前記電磁波の伝播方向Xにおいて、位相制御部32とは反対側の端部42に、コプレーナ線路41の電磁波の伝播方向Xの端部43が接続されて成る。コプレーナ線路41は、ストリップ線路31のTEMモードと結合する。
コプレーナ線路41は、ストリップ線路31のストリップ導体部13に連なる第2ストリップ導体部44と、第2ストリップ導体部44の積層方向Zにそれぞれ所定の間隔L12をあけて設けられるコプレーナ接地導体部45a,45bと、第2ストリップ導体部44と、コプレーナ接地導体部45a,45bとが設けられるコプレーナ誘電体部46と、コプレーナ接地導体部45a,45bを相互に接続するコプレーナ接地導体接続導体部47とを含んで構成される。
第2ストリップ導体部44は、ストリップ導体部13の伝播方向Xにおける突出部37とは反対側の端部51に接続される。第2ストリップ導体部44は、ストリップ導体部13と同様の物質によって形成される。第2ストリップ導体部44は、直方体形状に形成され、積層方向Zの厚さは、ストリップ導体部13の積層方向Zの厚さと等しく選ばれる。第2ストリップ導体部44の伝播方向Xの軸線は、前記軸線A1である。
コプレーナ誘電体部46は、直方体状に形成され、ストリップ誘電体部34に連なる。コプレーナ誘電体部46は、ストリップ誘電体部34と同様の物質によって形成される。コプレーナ誘電体部46の前記幅方向Yの第1表面52上に第2ストリップ導体部44およびコプレーナ接地導体部45a,45bが形成される。
コプレーナ接地導体部45a,45bは、前記積層方向Zの厚さが、第2ストリップ導体部44の厚さと等しく形成される。コプレーナ接地導体部45a,45bは、コプレーナ誘電体部46の積層方向Zの端部まで延びて形成される。
第2ストリップ導体部44の積層方向Zの寸法L13と、第2ストリップ導体部44とコプレーナ接地導体部45a,45bとの間の間隔L12とは、ストリップ線路31の特性インピーダンスと、コプレーナ線路41の特性インピーダンスが整合するように選ばれる。
コプレーナ接地導体接続導体部47は、コプレーナ誘電体部46の前記積層方向Zの端面上および幅方向Yの第2表面46a上に設けられ、コプレーナ誘電体部46を外囲する。コプレーナ接地導体接続導体部47は、コプレーナ接地導体部45a,45bと同様な物質によって形成され、コプレーナ線路41の積層方向Zの両端部においてコプレーナ接地導体部45a,45bと接続される。またコプレーナ接地導体接続導体部47は、伝播方向Xにおいてストリップ線路31の接地導体部35に連なって形成される。
ストリップ線路31のストリップ導体部13の幅方向Yの寸法L6とコプレーナ線路41の第2ストリップ導体部44の積層方向Zの寸法L13とが異なる場合には、ストリップ導体部13の第2ストリップ導体部44との接続部位にストリップテーパ部53を形成する。ストリップテーパ部53は、電磁波の伝播方向Xに沿って、積層方向Zの長さが変化する。図18では、ストリップ導体部13の寸法L6が、第2ストリップ導体部44の寸法L13よりも大きい場合を示しており、この場合、ストリップテーパ部53は、第2ストリップ導体部44に向かうに連れて、徐々に積層方向Zの寸法が一定の割合で小さくなるように形成される。
またストリップ線路31の前記端部42には、コプレーナ接地導体部45a,45bに連なる接地テーパ部54a,54bが形成される。接地テーパ部54a,54bは、コプレーナ接地導体部45a,45bから伝播方向Xに離反するに連れて、徐々に積層方向Zの寸法が一定の割合で小さくなるように形成される。接地テーパ部54a,54bのコプレーナ接地導体部45a,45bに接続される部位の積層方向Zの長さは、コプレーナ接地導体部45a,45bの積層方向Zの長さに等しく選ばれる。接地テーパ部54a,54bのストリップ導体部13に臨む部位は、伝播方向Xにおいてコプレーナ線路41から離反するに連れて、積層方向Zの外方に離反する。このように接地テーパ部54a,54bを形成することによって、ストリップ線路31とコプレーナ線路41との接続部において、緩やかにモード変換させることができるので、さらに接続損失が低減でき、良好な整合状態が得られる。
ストリップテーパ部53および接地テーパ部54a,54bの電磁波の伝播方向Xに沿う長さL14,L15はそれぞれ、コプレーナ線路41における電磁波の波長の8分の1以上に選ばれる。このように前記長さL14を選ぶと、ストリップ線路31と、コプレーナ線路41とにおける反射特性が、伝播させる電磁波の周波数を76.5GHzとしたときに、−13dB以下となるので好ましい。ただし前記長さL14は、小型化の点から、コプレーナ線路41における電磁波の波長の8分の1以上を満たす最低限の長さにすることが好ましい。
ストリップ線路31の伝播方向Xの長さL16は、非放射性誘電体線路3とストリップ線路31との接続部分からの反射波と、ストリップ線路31とコプレーナ線路41の接続部分からの反射波との位相差がπ(rad)となるように、ストリップ線路31における電磁
波の波長の(2m−1)/4(mは自然数)選ばれる。これによって伝播方向Xに沿って、非放射性誘電体線路3からストリップ線路31へ入射する接続界面で反射する反射波とストリップ線路31からコプレーナ線路41へ出力する接続界面で反射して戻っていく反射波が打ち消し合い、反射波を打ち消すことができ、反射特性を向上させることができる。ストリップ線路31の伝播方向Xの長さL16は、誘電体線路7とストリップ誘電体部34との界面で反射した電磁波の強度と、突出部37の先端と誘電体線路7との界面で反射した電磁波の強度を比較したとき、誘電体線路7とストリップ誘電体部34との界面で反射した電磁波の強度がより大きい場合は、ストリップ導体部13の前記突出部37を除く部分の長さであり、突出部37の先端と誘電体線路7との界面で反射した電磁波の強度がより大きい場合は、ストリップ導体部13の前記突出部37を含む部分の長さである。
以上のような移相器30によれば、前述した移相器20と同様の効果を達成することができ、さらにコプレーナ線路41の近傍の電磁界モードは、擬似TEMモードであり、ストリップ線路31のTEMモードと近似しているので、ストリップ線路31とコプレーナ線路41との接続部において、電磁界がストリップ線路31およびコプレーナ線路41のうちの一方から他方に円滑に移行する。非放射性誘電体線路3にコプレーナ線路41を直接接続するよりも、ストリップ線路31を挟んでコプレーナ線路41を接続する方が、接続部における損失が低減する。非放射性誘電体線路3とコプレーナ線路41とを直接接続する構造では、伝送する電磁波の周波数が75〜80GHzの場合、反射が−3dB以上になり、また、接続損失は6dB〜8dBとなる。非放射性誘電体線路3とコプレーナ線路41との間にストリップ線路31を挟んで構成する本実施の形態の構成では、伝送する電磁波の周波数が75〜80GHzの場合、反射が−15dB以下となり、接続損失は0.3dB〜0.4dBとなり、非放射性誘電体線路3とコプレーナ線路41とを直接接続するよりも、良好な特性を得ることができる。またコプレーナ線路41を設けることによって、基板上に設けられる高周波回路から非放射性誘電体線路3への高周波信号の入力、および基板上に設けられる高周波回路への非放射性誘電体線路3からの高周波信号の出力を好適に行うことができる。
以上のように移相器40では、前述した移相器30と同様の効果を達成することができるとともに、ストリップ線路31にコプレーナ線路41が接続されていることによって、LSEモードの高周波信号を平面線路であるコプレーナ線路41に良好に取り出すことができる。したがって小型であって平面回路基板上への実装性が良好である移相器40を実現することができ、またさらに実装部品などとの接続が容易となる。
図21は、本発明の実施のさらに他の形態の移相器110の構成を模式的に示す断面図であり、電磁波の伝播方向Xに沿う誘電体線路7およびストリップ導体部13ならびに第2ストリップ導体部44の軸線A1を含み、誘電体線路7と第1および第2平板導電体部8a,8bとの幅方向Yに垂直な仮想一平面における断面図である。なお図21では、理解を容易にするために、第2誘電体部22およびストリップ誘電体部34を省略して示している。図22は、図21の切断面線B1−B1から見た移相器110の断面図である。図23は、移相器110の一部を切欠いて模式的に示す斜視図である。図24は、図21の切断面線B2−B2から見た断面図であり、位相制御部32の断面を示す。図25は、図21の切断面線B3−B3から見た断面図であり、ストリップ線路31と第1電極23aに接続される電極接続配線124を含んで示す。図26は、図21の切断面線B4−B4から見た断面図であり、コプレーナ線路41と電極接続配線124を含んで示す。図27は、図21の切断面線B5−B5から見た断面図であり、コプレーナ線路41を示す。図28は、図21の切断面線B6−B6から見た断面図であり、ストリップ線路31の電極接続配線124を含まない部分を示す。
本実施の形態の移相器110は、前述した図16〜図20に示す実施の形態の移相器40に類似し、位相制御部32と平面線路112とを含んで構成され、平面線路112がストリップ線路31とコプレーナ線路41とを含んで構成されるので、移相器40と同様の構成には、同様の参照符号を付して、異なる部分のみ説明する。
移相器110では、位相制御部32の電磁波の伝播方向Xの両端部に、平面線路112a,112bがそれぞれ形成されている。各平面線路112a,112bは、それぞれストリップ線路31およびコプレーナ線路41とを含んで形成される。以後、平面線路112a,112bのうち不特定の一方を示すときに平面線路112と記載する。
前述の実施の形態の移相器40では、位相制御部32の誘電体線路7にストリップ導体部13が挿入され、第1および第2電極23a,23bの間にストリップ導体部13が設けられているが、本実施の形態の移相器110では、位相制御部32にはストリップ導体部13が挿入されず、すなわち誘電体線路7には、挿入孔39が形成されない。すなわち移相器110では、移相器40と異なり、ストリップ導体部13は、第1および第2電極23a,23bに挟まれる領域を除いて形成される。移相器110では、第1電極23aは、位相制御部32の伝播方向Xの両端面から予め定める距離L20離間して形成され、伝播方向Xにおいて、ストリップ導体部13に予め定める距離L20離間する。予め定める距離L20は、第1電極23aとストリップ導体部13とが、幅方向Yにおいてオーバーラップしないように、すなわち重ならないように選ばれる。これは、第1電極23aとストリップ導体部13とが、幅方向Yにおいてオーバーラップしてしまうと、第1電極23aに電圧が印加されてストリップ導体部13が埋め込まれる第1平面線路誘電体部114の誘電率が変化した状態では、平面線路112のインピーダンスが変化してしまい反射が大きくなって伝送損失の原因になるためである。予め定める距離L20は、第1電極23aとストリップ導体部13とが、幅方向Yにおいてオーバーラップしないで、かつ必要な位相の変化量が確保できる範囲であれば、どの様に選ばれてもよい。本実施の形態において位相制御部32は、非放射性誘電体線路3に第1および第2電極23a,23bが設けられている部位である。
移相器110では、誘電体線路7に効果的に電界を印加するために、誘電体線路7に第1および第2電極23a,23bをそれぞれ接触させて設けている。前述した各実施の形態では、誘電体線路7と第1および第2電極23a,23bとの間を予め定める距離L9だけあけているが、本実施の形態のように誘電体線路7に第1および第2電極23a,23bを接触させても、第1および第2電極23a,23bの厚さを表皮厚さ未満とすることによって、LSEモードの電磁界に与える影響を可及的に低減することができる。
ストリップ線路31のストリップ誘電体部34およびコプレーナ線路41のコプレーナ誘電体部46を含んで成る平面線路誘電体部113は、第1誘電体部分である第1平面線路誘電体部114と、第2誘電体部分である第2平面線路誘電体部115と、第3平面線路誘電体部116を含んで構成される。
第1平面線路誘電体部114は、誘電体線路7と同じ物質から成り、電界を印加することによって誘電率が変化する。第1平面線路誘電体部114は、ストリップ導体部13と、第2ストリップ導体部44のうち、非放射性誘電体線路3側、すなわち位相制御部32側の一部とを覆い、残部が露出するようにストリップ導体部13に沿って設けられ、誘電体線路7に伝播方向Xの端面を付き合わせて、誘電体線路7に連なって設けられる。第1平面線路誘電体部114は、ストリップ導体部13と、第2ストリップ導体部44の位相制御部32側の部分を覆って設けられる第1部分117と、第2ストリップ導体部44の位相制御部32とは反対側の部分が露出し、第2ストリップ導体部44が積層して設けられる第2部分118とを含んで構成される。第1部分117は、ストリップ導体部13および第2ストリップ導体部44が埋め込まれた状態での幅方向Yの外径寸法が、誘電体線路7の幅方向Yの寸法に等しく、厚み方向Zの外径寸法が、誘電体線路7の厚み方向Zの寸法に等しい。第1部分117の幅方向Yの外表面は、誘電体線路7の幅方向Yの外表面に連なり、第1部分117の厚み方向Zの外表面は、誘電体線路7の厚み方向Zの外表面に連なる。第1部分117は、接地テーパ部54aおよびコプレーナ接地導体部45a,45bのストリップ線路31側の部分も覆う。
第1部分117は、ストリップ線路31からコプレーナ線路41側に突出して、外部に露出する。第1部分117のうち、外部に露出する部分を、露出部分119という。露出部分119は、第2ストリップ導体部44のうちストリップ線路31側の部分と、コプレーナ接地導体部45a,45bのうちストリップ線路31側の部分とを一体的に覆う。露出部119は、コプレーナ線路41のストリップ線路31側の端部から予め定める距離L21の範囲に形成される。予め定める距離L21は、0〜λ/2の範囲内で決定され、反射が最小となる長さとする。
第1平面線路誘電体部114の伝播方向Xにおける位相制御部32とは反対側の端部で、かつコプレーナ線路41を構成する部分のストリップ線路31とは反対側の端部では、第1部分117に連なる第2部分118が、ストリップ導体部13の幅方向Yの一方側の表面を露出させて、ストリップ導体部13を保持する。第1部分117の厚み方向Zの外表面は、第2部分118の厚み方向Zの外表面に連なり、第1部分117の幅方向Yのストリップ導体部13が露出する側とは反対側の外表面は、第1部分117の幅方向Yのうち露出する側とは反対側の外表面に連なる。
第2平面線路誘電体部115は、第2誘電体部22と同じ物から質成り、第1平面線路誘電体部114の幅方向Yの他方側に積層して設けられ、第2誘電体部22のうち、幅方向Yで、誘電体線路7の他方側に設けられる部分(以下、第2誘電体部分22bという)に連なって、第2誘電体部分22と一体に形成される。
第3平面線路誘電体部116は、第2誘電体部22と同じ物質から成り、第1平面線路誘電体部114の幅方向Yの一方側に積層して設けられ、第2誘電体部22のうち、幅方向Yで、誘電体線路7の一方側に設けられる部分(以下、第1誘電体部分22aという)に連なって形成される。
第1および第2平面線路誘電体部114,115の間には導体部121が設けられる。導体部121は、第2電極23bと同じ物質から成り、第2電極23bの伝播方向Xの端部に連なって形成される。導体部121は、平面線路112の非放射性誘電体線路3を含む位相制御部32とは反対側の端部まで延びて形成される。導体部121の厚さは、一様に形成され第2電極23bと同じ厚さに形成される。導体部121は直方体形状に形成され、積層方向Zの寸法は第2電極23bの寸法に等しく選ばれる。第2電極23bおよび導体部121は一体に形成され、第2電極23bおよび導体部121から成る金属体は直方体の板状に形成される。
平面線路112のうち前記第1部分117が形成される部分が、非放射性誘電体線路3およびストリップ線路31の整合部と、ストリップ線路31およびコプレーナ線路41の整合部とを形成する。ストリップ線路31は、非放射性誘電体線路3のLSEモードに結合し、コプレーナ線路41は、ストリップ線路31のTEMモードと結合する。
第1平面回路112aにおいて、第1平面線路誘電体部114のうちコプレーナ線路41のストリップ線路31とは反対側の端部120には、第1平面線路誘電体部114を幅方向Yに貫通するビアホール122が設けられる。ビアホール112には、接続導体123が設けられ、コプレーナ接地導体部45a,45bと、導体部121とをそれぞれ電気的に接続する。これによって導体部121と、コプレーナ接地導体部45a,45bとが導通するので、コプレーナ接地導体部45a,45bまたはコプレーナ接地導体接続部47を、外部の接地部にワイヤボンディングすることによって、導体部121および接続導体123を介して、第2電極23bに所定の電位を与えることができ、すなわち接地することができる。接続導体123の製法としては、第1平面線路誘電体部114に、第1表面52から幅方向Yで第2電極23bに向かってビアホール112の直径が小さくなるようにテーパを作製することによって、コプレーナ接地導体部45a,45bを作製する成膜工程において、コプレーナ接地導体部45a,45と同時に接続導体123を作製することができる。この場合には、接続導体123は、コプレーナ接地導体部45a,45と同様の物質によって形成される。接続導体123は、前述のように成膜工程において作製してもよいが、導電性接着剤を用いて作製してもよい。
一対の電極23a,23bのうち第1電極23aには、電極接続配線124が接続される。電極接続配線124は、第2平面回路112bに設けられる。電極接続配線124は、伝搬方向Xに沿って配置される第1延在部125と、第1延在部125の第1電極23aとは反対側の端部に連なり、積層方向Zに延びる第2延在部126とを含んで構成される。第1延在部125と第2延在部126とは、T字状に連なる。前記第1延在部125の積層方向Zの寸法L18と第2延在部126の伝播方向Xの寸法L19とは、第2ストリップ導体部44の積層方向Zの寸法L13と等しく選ばれるか、またはそれ未満に形成される。電極接続配線124は、第1電極23aから露出部分119まで延在する。電極接続配線124は、第1部分117に積層して設けられ、ストリップ線路31では第1部分117と第3平面線路誘電体部116との間に設けられる。第2延在部126は、露出部分119に設けられて露出する。第2延在部126の積層方向Zの両端部には、金属からなるワイヤボンディング用のパッド127がそれぞれ設けられる。
第1延在部125は、第1部分117のうちストリップ導体部13に積層される部分、および第2ストリップ導体部44に積層される部分に積層して設けられる。すなわち第1延在部125の積層方向Zの中央と、ストリップ導体部13および第2ストリップ導体部44の積層方向Zの中央とを、積層方向Zに垂直な仮想一平面上に配置する。第1延在部125を、第1部分117のうちストリップ導体部13に積層される部分、および第2ストリップ導体部44に積層される部分に積層して設けることによって、第1延在部125と第2電極23bとの間にストリップ導体部13および第2ストリップ導体部44のいずれかが介在されることになり、伝送損失を抑えることができる。
パッド127は、露出部分119のうちコプレーナ接地導体部45a,45bに積層される部分に積層して設けられる。パッド127および接続導体123は、電圧印加25に電気的に接続される。パッド127に電位を与えることによって、コプレーナ接地導体部45a,45bとの間に電界が印加されるが、パッド127と第2電極との間に電界が印加されるよりも、第1部分126のうち電界が印加される部分を小さくすることができる。第1部分126は、電界の印加によって誘電率が変化する物質によって形成されているが、電界が印加される部分を小さくすることによって、パッド127に電位が与えられたときに、コプレーナ線路41の特性の変化に与える影響を低減することができる。
第1電極23aは、非放射性誘電体線路3に形成され、またストリップ導体部13とは、幅方向Yに重ならないように形成される。これによって、第1および第2電極23a,23b間に電界を印加したときに、平面線路112において、第1平面線路誘電体部114の誘電率が変化せず、平面線路112における物性変化を防止することができ、非放射性誘電体線路3と、平面線路112との整合を保つことができる。
電極接続配線124およびパッド127は、第1電極23aと同じ物質によって形成され、また第1電極23aの厚さと同じ厚さに形成される。
移相器110では、コプレーナ線路41のコプレーナ接地導体部45a,45bと、ストリップ線路31の接地導体部35と、位相制御部32の接続導体部11および第2接続導体部33とは、電気的に接続される。これによって、コプレーナ線路41の接地導体部45a,45bと、ストリップ線路31の接地導体部35と、位相制御部32の接続導体部11および第2接続導体部33との電位を揃えることができ、移相器110の特性をより安定させることができる。
コプレーナ接地導体接続導体部47は、移相器110の伝播方向Zの両端面上にも形成される。コプレーナ接地導体接続導体部47の移相器110の伝播方向Zの両端面上に形成される端面形成部分131と、第2ストリップ導体部44とは離間して設けられる。
移相器110は、前述の実施の形態の移相器40と同様に作製され、薄膜形成方法およびフォトリソグラフィならびにエッチングを用いて作製される。まず基板に接続導体部11と、接地導体部35の一部と、コプレーナ接地導体接続部47の一部となる導電体膜を積層し、この誘電体膜に、位相制御部32の第2誘電体部分22bと、ストリップ線路31およびコプレーナ線路41の第2平面線路誘電体部115との前駆体を積層し、これに第2電極23bおよび導体部121を積層した後、誘電体線路7のうち接続導体部11側の部分と、第1平面線路誘電体部114のうちストリップ導体部13および第2ストリップ導体部14よりも第2平面線路誘電体部115側の部分との前駆体を積層し、これにストリップ導体部13および第2ストリップ導体部14を積層して作製する。次に、第1平面線路誘電体部114のうちの残余の部分を作製するための前駆体を積層して形成し、第3平面線路誘電体部116の前駆体を形成した後、移相器とすべき部分を除いてエッチングして、第1および第2平板導電体部8a,8bと、第2接続導体部33と、接地導体部35の残余の部分と、コプレーナ接地導体接続部47の残余の部分を形成する。このように位相制御部32、ストリップ線路31およびコプレーナ線路41を同時に作製することによって、小型であって、位相特性が安定した移送器110を確実に作製することができる。また前述した実施の形態と同様に、基板上に複数の移相器110を同時に作製することができるが、隣接する移相器110の間の境界部をダイシングして、個別に切り出してもよい。
以上のように移相器110では、非放射性誘電体線路3をLSEモードで使用することによって、第1および第2電極23a,23bによって挟まれる誘電体線路7の厚さを薄くして、第1および第2電極23a,23bによる電界の印加効率を高くすることができるので、位相制御部32の伝播方向の線路長が短くても、小さい電圧で所望の位相変化を得ることができる。また位相制御部32ではLSEモードで伝播する高周波信号を、擬似TEMモードで高周波信号が伝播するコプレーナ線路41に良好に取り出すことができる。したがって、小型であって平面回路基板上への実装性が良好な移相器を実現することができる。
また前述した第2誘電体部分22bおよび第2平面線路誘電体部115は、石英ガラス、結晶化ガラスおよびランタンアルミネートなどのガラス、水晶、サファイア、MgOおよびLaAlO3などの単結晶、アルミナ、フォルステライトおよびコーディライトなどのセラミックス、エポキシ樹脂、含フッ素樹脂、液晶ポリマーなどの樹脂などから成る低誘電率基板を用いて形成されてもよい。この場合、接続電極部11と、接地導体部14と、接続導体部47の一部とを低誘電率基板に成膜する。
また移相器110では、ストリップ線路31の高周波の電磁界分布が、非放射性誘電体線路3のLSEモードの電磁界分布に近似することによって、ストリップ線路31と非放射性誘電体線路3との接続部で電磁界が円滑に移行するので、接続損失を小さくすることができ、同様にストリップ線路31のTEMモードの電磁界分布が、コプレーナ線路34の電磁界分布に近似することによって、ストリップ線路31とコプレーナ線路34との接続部で電磁界が円滑に移行するので、接続損失を小さくすることができる。したがって、移相器110における電磁界の損失が抑制される。
さらに移相器110では、第1平面線路誘電体部114は、この第1平面線路誘電体部114を形成する物質と同じ物質から成る誘電体線路7に連なり、第2平面線路誘電体部115は、この第2平面線路誘電体部115を形成する物質と同じ物質から成る第2誘電体部分22bに連なり、第1および第2平面線路誘電体部114,115の間に設けられる導体部121が、この導体部121を形成する物質と同じ物質から成る第2電極23bに連なり、平面線路112の非放射性誘電体線路3とは反対側の端部まで延びて形成されるので、非放射性誘電体線路3と平面線路112とにおいて、同じ物質から成る部位が伝播方向におけて連続する。非放射性誘電体線路と平面線路との接続構造においては、接続部分において伝播方向Xに連なる非放射性誘電体線路の材質と平面線路の材質とが異なる場合と比較して、コプレーナ線路41を伝播する擬似TEMモードから、マイクロストリップ線路31を伝播する擬似TEMモード、さらには非放射性誘電体線路3を伝搬するLSEモードに良好に結合され、異なる線路の接続部位における電磁波の反射を低減して、伝送損失をさらに低減することができる。
また非放射性誘電体線路3を含む位相制御部32および平面線路112において、伝播方向で連なる部位を、同じ物質によって形成するので、異なる物質から成る部位を接触させて作成する場合と比較して、製造プロセスを低減することができる。また位相制御部32および平面線路112との接続部において隙間が発生すると、ショートが発生するおそれがあるが、位相制御部32および平面線路112が成膜プロセスを用いて一体的に作製されるので、位相制御部32および平面線路112との接続部において、隙間が発生することが防止され、信頼性の高い移相器を実現することができる。
また第1平面線路誘電体部113は、ストリップ導体部13を覆い、さらに第2ストリップ導体部44のうち、ストリップ線路31に含まれる部位と、コプレーナ線路44に含まれる部位との接続部分まで覆って設けられるので、ストリップ線路31と、コプレーナ線路33との接続部分における連続性を向上させて、ストリップ線路31とコプレーナ線路44との接続部位における電磁波の反射を低減することができる。
また電極接続配線124に電位を与えることによって、この電極接続配線124を介して第1電極23aに電位を与えて、これによって誘電体線路7に電界を印加することができる。第1電極23aが、誘電体線路7および第2誘電体部22の間に埋め込まれていても、第1電極23aに所定の電位を与えることができる。
本実施の形態では、平面線路としてストリップ線路31およびコプレーナ線路34について例示したが、平面線路としては、たとえばマイクロストリップ線路などを用いてもよく、この場合であっても、ストリップ線路31およびコプレーナ線路34を用いたときと、同様の作用効果を得ることができる。
本発明の他の実施の形態では、移相器110において、移相器40のように、位相制御部32の誘電体線路7にストリップ導体部13が挿入され、第1および第2電極23a,23bの間にストリップ導体部13が設けられている構成としてもよい。
図29は、本発明の実施のさらに他の形態の移相器140の構成を示す断面図である。本実施の形態の移相器140は、前述した実施の形態の移相器110と同様の構成であるので、同様の構成には同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
移相器140は、移相器110の構成に加えて、第2ストリップ導体部44の、伝播方向Xにおいて第1ストリップ導体部13とは反対側の端部に、ワイヤボンディング用のパッド141が設けられる。パッド141は、第2ストリップ導体部44と同様の物質から成り、同様の厚みに形成される。パッド141は、コプレーナ接地導体部45a,45bおよびコプレーナ接地導体接続部47から離間して設けられる。パッド141の積層方向Xの幅は、第2ストリップ導体部44よりも大きく選ばれ、パッド141を設けることによって、ボンディングワイヤを接続しやすくすることができる。コプレーナ線路の中心導体、すなわち第2ストリップ導体部44の積層方向Zの幅が100μm以下となる場合に、パッド141が必要になる。コプレーナ線路41のうち、延在方向Xにおいてパッド141が形成される部分と、残余の部分とのインピーダンスが極端に異なる場合には、インピーダンスを変換させ整合を取るような構造、たとえば第2ストリップ導体部44の幅がパッド141の幅に等しくなるまで積層方向Zに徐々に大きくなるようなテーパ部を形成すればよい。
図30は、本発明の実施のさらに他の形態の移相器150の構成を示す断面図である。本実施の形態の移相器140は、前述した実施の形態の移相器110と同様の構成であるので、同様の構成には同様の参照符号を付して、その説明を省略する。移相器140は、移相器110の構成に加えて、コプレーナ線路41のストリップ線路31とは反対側の端部に、マイクロストリップ線路151を設けた構成である。マイクロストリップ線路151は、第2ストリップ導体部44の第1ストリップ導体部13とは反対側の端部に接続される第3ストリップ導体部152を有する。マイクロストリップ線路151は、コプレーナ線路41からコプレーナ接地導体部45a,45bを除いた構成と同様である。第3ストリップ導体部151は、第2ストリップ導体部44から離反するに連れて、積層方向Zの寸法が大きくなるテーパ部152と、テーパ部152の第2ストリップ導体部44とは反対側に連なるストリップ導体本体153とを有する。このような構成にすることによって、コプレーナ線路41とマイクロストリップ線路151とを結合して、マイクロストリップ線路151から移相器150への高周波信号の入出力を行うことができる。前記テーパ部152を設けることによって、コプレーナ線路41とマイクロストリップ線路31との間で、緩やかにモード変換させることができるので、接続損失が低減でき、良好な整合状態が得られる。
本発明のさらに他の実施の形態では、前記移相器30,40,110,140,150において、第1および第2平板導電体部8a,8bと、接続導体部11および第2接続導体部33とは不連続に形成されてもよく、また接続導体部11、接地導体部35およびコプレーナ接地導体接続導体部47が不連続に形成されてもよく、またストリップ誘電体部34の積層方向Zが、接地導体部35に覆われず、露出する構成であってもよい。
移相器40において、コプレーナ誘電体部46は、誘電体線路7と同じ物質を含んで形成されてもよい。このようにコプレーナ誘電体部46が、誘電体線路7と同じ物質を含んで形成される場合の移相器40の製造方法を以下に述べる。このような移相器40は、移相器30と同様にして形成することができ、前述した移相器30の製造方法において、第1導電体膜27aが接地導体部14と、接地導体部35の一部と、コプレーナ接地導体接続導体部47の一部とを含み、第2誘電体膜28bがストリップ誘電体部34の一部と、コプレーナ誘電体部46とを含み、第3導電体膜27cがストリップ導体部13と、第2ストリップ導体部44と、コプレーナ接地導体部45a,45bと、接地テーパ部54a,54bとを含むように形成すればよく、第3導電体膜27cのうち、コプレーナ線路41を形成する部位を除いて、すなわち第2ストリップ導体部44と、コプレーナ接地導体部45a,45bと露出させて、第3誘電体膜28cの残部を形成して、第3誘電体膜28cの残部に第4および第5誘電体膜28d,28eを積層すればよい。また露出した移相器形成部分29aの側面に形成される第5導電体膜27eが第1および第2平板導電体部8a,8b、第2接続導体部33、接地導体部35の残部およびコプレーナ接地導体接続導体部47の残部を含むように形成すればよい。また前述したように移相器40を作製すると、コプレーナ誘電体部46に第2ストリップ導体部44およびコプレーナ接地導体部45a,45bが電界に応じて誘電率が変化する誘電率変化層に積層して形成されることとなるが、この誘電体変化層には、第1および第2電極23a,23bによって電界が印加されないので、誘電率が変動することはなく、通常の誘電体としての働きをする。したがって、ストリップ誘電体部34に誘電率変化層が含まれていても支障を与えることはない。以上のように、位相制御部32とストリップ線路31とコプレーナ線路41とを同時に形成すれば、小型であって、位相特性が安定した移相器40を確実に作製することができる。
また第2誘電体部22の一部およびストリップ誘電体部34の一部とコプレーナ誘電体部46とは、石英ガラス、結晶化ガラスおよびランタンアルミネートなどのガラス、水晶、サファイア、MgOおよびLaAlO3などの単結晶、アルミナ、フォルステライトおよびコーディライトなどのセラミックス、エポキシ樹脂、含フッ素樹脂、液晶ポリマーなど樹脂から成る低誘電体基板を用いて形成されてもよい。この場合、低誘電体基板の厚さ方向の第1表面52上に接続電極部11および接地導体部35の一部ならびにコプレーナ接地導体接続導体部47の一部となる第1導電体膜27aを形成し、低誘電体基板の厚さ方向の第2表面上に第3誘電体膜28cを形成する。この場合、低誘電体基板を分断した後、第1および第2平板導電体部8a,8b、接地導体部35の残部ならびにコプレーナ接地導体接続導体部47の一部の残部とを形成する。
また本発明のさらに他の実施の形態において、前述した各実施の形態の移相器20,30,40,110,140,150において、第1および第2電極23a,23bを誘電体線路7に埋め込んで形成してもよい。第1および第2電極23a,23bは、誘電体部22に電界を印加可能に設けられる。また第1および第2電極23a,23bの厚さは、誘電体線路7を伝播する電磁波の周波数に対する表皮厚さ未満に選ばれる。これによって、第1および第2電極23a,23bを誘電体線路7に埋め込んだときに、第1および第2電極23a,23bによる損失を低減することができる。このような構成であっても、移相器20,30,40と同様の効果を達成することができ、さらに前述の移相器20,30,40よりも第1および第2電極23a,23bの間隔をより近づけて設けることができるので、より低電圧で移相器を駆動することができる。本実施の形態における第1および第2電極23a,23bの体積抵抗率は、10−5Ω・m以上、好ましくは10−4Ω・m以上に選ばれる。
また誘電体線路7に第1および第2電極23a,23bを埋め込んで設ける場合、複数の第1および第2電極23a,23bを、積層方向Zに所定の間隔をあけて、第1電極23aと第2電極23bとが厚さ方向に交互に積層されるように形成してもよい。この場合接続導体部11および第2接続導体部33は形成せずに、第1電極23aは、第1平板導電体部8aに接続され、第2電極23bは、第2平板導電体部8bに接続される。電圧印加手段25を第1および第2平板導電体部8a,8bに接続することによって、第1および第2平板導電体部8a,8bを介して、各第1電極23aと第2電極23b間に電圧を印加することができる。
第1電極23aおよび第2電極23bの数は、多くしたほうが、印加できる電界強度が大きくなるので、より低電圧でスイッチを動作させることができて好ましいが、第1電極23aおよび第2電極23bの数を多くすると損失が大きくなる。電極を積層した場合では、電極の厚さの総和によって損失が決定される。電極の抵抗率が1×10−4(Ω・m)の場合で実用上は、電極の厚さの総和を30nm以下とするのが好ましく、電極の抵抗率が1×10−3(Ω・m)の場合で実用上は、電極の厚さの総和が320nm以下とするのが好ましい。
前述した各実施の形態の移相器では、第1および第2電極23a,23bに電圧を印加したときのカットオフ周波数をfcとし、誘電体線路7を伝播する電磁波の周波数をfとしたとき、fcとfとは、1.03<f/fc<1.5を満たすように選ばれる。このように位相変化の大きいカットオフ周波数近傍で用いるので、短い線路長でも大きな位相変化が得られ、移相器を小型にすることができる。また同時に、電磁波の伝播方向に垂直な方向における誘電体線路7の断面寸法も小さくなることから、第1および第2電極23a,23bを相互に近接させることができ、低い電圧で大きな電界強度が得られることによって、低電圧で移相器を動作させることができる。カットオフ周波数付近の電磁波、すなわち1.03<f/fc<1.5を満たす周波数の電磁波を誘電体線路7に導波させると、カットオフ周波数から離反した周波数の電磁波、すなわちf/fc≧1.5を満たす電磁波を誘電体線路7に導波させる場合と比較して、単位長さあたりの伝送損失は大きくなるが、単位長さあたりの位相変化が大きいので、所定の位相変化を得るために必要な線路長を短くすることができ、これによって移相器による伝送損失を結果的に小さくすることができる。
また前述した各実施の形態の移相器では、誘電体線路7は、誘電率が変化する物質から成るが、本発明の実施のさらに他の形態において、誘電体線路7は、誘電率が変化する物質から成る変化部を含む構成であればよい。前記変化部は、電界強度が高くなる部分に形成されるのが好ましく、たとえば幅方向Yおよび積層方向Zの中央部に形成される。このような構成すると、誘電体線路7のうち変化部が占める割合と、誘電体線路7のうち変化部が形成される領域とに応じて、同じ大きさで移相器を作製したときに得られる位相変化量が決定され、誘電体線路7全体が誘電率が変化する物質から成る場合よりも、位相変化量は小さくなるが、前述の実施の形態と同様に、小型な移相器を提供することができる。
図31は、本発明の実施の一形態の高周波送信器60の構成を示す模式図である。高周波送信器60は、前述した図1に示す実施の形態の移相器20と、高周波発振器61と、伝送線路62と、送信用アンテナ63と、スタブ64とを含んで構成される。高周波発振器61は、ガンダイオードを利用したガン発振器、またはインパットダイオードを利用したインパット発振器またはFET(Field Effect Transistor)などを利用したMMIC
(Microwave Monolithic Integrated Circuit)発振器などを含んで構成され高周波信号
を発生する。伝送線路62は、マイクロストリップ線路またはストリップ線路によって構成される。伝送線路62の高周波信号の伝送方向の第1端部62aは高周波発振器61に接続され、伝送線路62の高周波信号の伝送方向の第2端部62bは送信用アンテナ63に接続される。送信用アンテナ63は、バッチアンテナまたはアレイアンテナによって実現される。高周波信号の伝送方向は、電磁波の伝播方向である。
移相器20は、高周波信号が誘電体線路7を通過するように、前述した非放射性誘電体線路3およびマイクロストリップ線路4が伝送線路62に接続されて、伝送線路62に挿入される。スタブ64は、たとえばオープンスタブによって実現され、高周波発振器61の特性調整回路として機能する。スタブ64は、高周波信号の伝送方向における移相器20の上流側および下流側のうち少なくとも一方で、前記伝送線路62に設けられる。
さらに具体的に述べると、伝送線路62は、第1および第2伝送線路68,69を含んで構成される。第1伝送線路68の高周波信号の伝送方向における第1端部68aは、高周波発振器61に接続され、第1伝送線路68の高周波信号の伝送方向における第2端部68bは、移相器20の位相制御部21に接続される。第2伝送線路69の高周波信号の伝送方向における第1端部69aは、移相器20のマイクロストリップ線路4に接続され、第2伝送線路69の高周波信号の伝送方向における第2端部69bは、送信用アンテナ63に接続される。
高周波発振器61で発生した高周波信号は、第1伝送線路68、移相器20の誘電体線路7およびストリップ導体部13、ならびに第2伝送線路69を通過して、送信用アンテナ63に与えられ、送信用アンテナ63から電波として放射される。
高周波送信器60では、高周波発振器61と送信用アンテナ63の途中にはスタブ64が設けられ、高周波発振器61の伝送線路62への接続部や送信用アンテナ63の伝送線路62への接続部における不整合を整合できるようになっている。これによって接続部での反射を小さく抑えることができ、安定な発振特性が得られるとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い送信出力が得られる。ただし、スタブ64を設けても、たとえば高周波発振器を接続するためのワイヤーおよび/またはバンプの形状ばらつき、および伝送線路62の配線幅のばらつきなどによって一律に整合することができない。高周波送信器60では、伝送線路62に、伝送線路62を伝送される高周波信号の電磁波が誘電体線路7を通過するように、前記移相器20が挿入されるので、たとえば高周波発振器61を接続するためのワイヤーおよび/またはバンプの形状ばらつき、および伝送線路の配線幅のばらつきなどによって伝送線路62に起因して発生する位相のずれを個々に調整して整合をとることができ、安定な発振特性を持つとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い送信出力を持つ高周波送信器60を実現することができる。また移相器20を前述したように小型で、かつ低電圧で動作させることができるので、移相器20を設けても高周波送信器60を小型に形成することができ、また移相器20に電圧を与えるための構成が複雑化してしまうことを抑制することができる。
高周波送信器60では、移相器20を用いているが、前記移相器20に変えて、前述した実施の形態の移相器30,40,110,140,150など、前述した各実施の形態の移相器のうちのいずれか1つを用いてもよい。このように構成しても、同様の効果を達成することができる。また高周波送信器60において、前記伝送線路62は、マイクロストリップ線路およびストリップ線路の他に、コプレーナ線路、グランド付きコプレーナ線路、スロット線路、導波管または誘電体導波管などによって実現されてもよい。
図32は、本発明の実施の一形態の高周波受信器70の構成を示す模式図である。図14に示す前述した実施の形態の高周波送信器60と同様の構成には、同一の参照符号を付して、その説明を省略する場合がある。
高周波受信器70は、前述した実施の形態の移相器20と、高周波検波器71と、伝送線路62と、スタブ64と、受信用アンテナ73とを含んで構成される。高周波検波器71は、たとえば、ショットキーバリアダイオード検波器、ビデオ検波器またはミキサMMICなどによって実現される。
伝送線路62の高周波信号の伝送方向の第1端部62aは、高周波検波器71に接続され、伝送線路62の高周波信号の伝送方向の第2端部62bは、受信用アンテナ73に接続される。受信用アンテナ73は、パッチアンテナまたはホーンアンテナによって実現される。
移相器20は、高周波信号が誘電体線路7を通過するように、伝送線路62に挿入される。スタブ64は、高周波信号の伝送方向における移相器20の上流側および下流側のうち少なくとも一方で、前記伝送線路62に設けられる。
受信用アンテナ73によって外部から到来する電波を捕捉すると、受信用アンテナ73は電波に基づく高周波信号を伝送線路62に与え、移相器20の誘電体線路7を通過して、高周波検波器71に受信した高周波信号が与えられる。高周波検波器71は、高周波信号を検波して、高周波信号に含まれる情報を検出する。
受信用アンテナ73によって捕捉した高周波信号は、伝送線路62に伝送されて高周波検波器71によって検波される。受信用アンテナ73と高周波検波器71の途中にはスタブ64が設けられ、高周波検波器71の伝送線路62への接続部や受信用アンテナ73の伝送線路62への接続部における不整合を整合できるようになっている。これによって接続部での反射を小さく抑えることができ、安定な検波特性が得られるとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い検波出力が得られる。スタブ64を設けても、たとえば高周波検波器71を接続するためのワイヤーおよび/またはバンプの形状ばらつき、および伝送線路62の配線幅のばらつきなどによって一律に整合することができない。高周波受信器70では、伝送線路62には、伝送線路62を伝送される高周波信号の電磁波が前記誘電体線路7を通過するように、前記移相器20が挿入されるので、たとえば高周波検波器71を接続するためのワイヤーおよび/またはバンプの形状ばらつき、および伝送線路の配線幅のばらつきなどによって伝送線路62に起因して発生する位相のずれを個々に調整して、整合をとることができ、安定な検波特性を持つとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い検波出力を持つ高周波受信器70を実現することができる。また移相器20を前述したように小型で、かつ低電圧で動作させることができるので、移相器20を設けても高周波受信器70を小型に形成することができ、また移相器20に電圧を与えるための構成が複雑化してしまうことを抑制することができる。
高周波受信器70では、移相器20を用いているが、前記移相器20に変えて、前述した実施の形態の移相器30,40,110,140,150など、前述した各実施の形態の移相器のうちのいずれか1つを用いてもよい。このように構成しても、同様の効果を達成することができる。また高周波受信器70において、前記伝送線路62は、マイクロストリップ線路およびストリップ線路の他に、コプレーナ線路、グランド付きコプレーナ線路、スロット線路、導波管または誘電体導波管などによって実現されてもよい。
図33は、本発明の実施の一形態の高周波送受信器80を備えるレーダ装置90の構成を示す模式図である。レーダ装置90において、図31および図32に示す前述した実施の形態の高周波送信器60および高周波受信器70と同様の構成には、同一の参照符号を付して、その説明を省略する場合がある。レーダ装置90は、高周波送受信器80と、距離検出器91を含んで構成される。
高周波送受信器80は、前述した実施の形態の移相器20と、高周波発振器61と、第1〜第5伝送線路81,82,83,84,85と、分岐器86と、分波器87と、送受信用アンテナ88と、ミキサ89と、スタブ64とを含んで構成される。送受信用アンテナ88は、パッチアンテナまたはホーンアンテナによって実現される。第1〜第5伝送線路81,82,83,84,85は、前述した伝送線路62と同様の構成を有する。
第1伝送線路81の高周波信号の伝送方向の第1端部81aは、高周波発振器61に接続され、第1伝送線路81の高周波信号の伝送方向の第2端部81bは、分岐器86に接続される。移相器20は、高周波信号が誘電体線路7を通過するように、第1伝送線路81に挿入される。スタブ64は、高周波信号の伝送方向における移相器20の上流側および下流側のうち少なくとも一方で、前記第1伝送線路81に設けられる。
分岐器86は、第1、第2および第3端子86a,86b,86cを有し、第1端子86aに与えられる高周波信号を、第2端子86bおよび第3端子86cに選択的に出力する。分岐器86は、たとえば高周波スイッチ素子によって実現される。分岐器86には、図示しない制御部から制御信号が与えられ、制御信号に基づいて第1端子86aおよび第2端子86b、または第1端子86aおよび第3端子86cを選択的に接続する。レーダ装置90は、パルスレーダによって実現される。前記制御部は、第1端子86aおよび第2端子86bを接続して、パルス状の高周波信号を第2端子86bから出力させた後、第1端子86aおよび第3端子86cを接続して、高周波信号を第3端子86cから出力させる。第2端子86bには、第2伝送線路82の高周波信号の伝送方向の第1端部82aが接続される。前記第3端子86cには、第4伝送線路84の高周波信号の伝送方向の第1端部84aが接続される。
分波器87は、第4、第5および第6端子87a,87b,87cを有し、第4端子87aに与えられる高周波信号を第5端子87bに出力し、第5端子87bに与えられる高周波信号を第6端子87cに出力する。第2伝送線路82の高周波信号の伝送方向の第2端部82bは、前記第4端子87aに接続される。前記第5端子87bには、第3伝送線路83の高周波信号の伝送方向の第1端部83aが接続される。第3伝送線路83の高周波信号の伝送方向の第2端部83bは、送受信用アンテナ88に接続される。
前記第6端子87cには、第5伝送線路85の高周波信号の伝送方向の第1端部85aが接続される。第4伝送線路84の高周波信号の伝送方向の第2端部84bと、第5伝送線路85の高周波信号の伝送方向の第2端部85bとは、ミキサ89に接続される。分波器87は、ハイブリッド回路によって実現される。ハイブリッド回路は、方向性結合器であって、マジックT、ハイブリッドリングまたはラットレースなどによって実現される。
高周波発振器61で発生した高周波信号は、第1伝送線路81および移相器20の誘電体線路7を通過して、分岐器86、第2伝送線路82、分波器87、および第3伝送線路82を介して送受信用アンテナ88に与えられ、送受信用アンテナ88から電波として放射される。また、高周波発振器61で発生した高周波信号は、第1伝送線路81および移相器20の誘電体線路7を通過して、分岐器86および第4伝送線路84を介してミキサ89にローカル信号として与えられる。
送受信用アンテナ88によって外部から到来する電波を受信すると、送受信用アンテナ88は電波に基づく高周波信号を第3伝送線路83に与え、分波器87、第5伝送線路85を介してミキサ89に与えられる。
ミキサ89は、第4および第5伝送線路84,85から与えられる高周波信号を混合して中間周波信号を出力する。ミキサ89から出力される中間周波信号は、距離検出器91に与えられる。
距離検出器91は、前述した高周波検波器71を含んで構成され、高周波送受信器80から放射され、測定対象物によって反射された電波(エコー)を受信して得られる前記中間周波信号に基づいて、高周波送受信器80から測定対象物までの距離、たとえば送受信用アンテナ88と測定対象物との間の距離を算出する。距離検出器91は、たとえばマイクロコンピュータによって実現される。
高周波送受信器80では、高周波信号が前記誘電体線路7を通過するように、前記第1伝送線路81に、前記移相器20が挿入されることによって、たとえば配線幅のばらつきなどによって伝送線路62に起因して不所望に変化する高周波信号の位相を調整して、たとえば安定な発振特性を持つとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い送信出力を持つ高周波送受信器80を実現することができ、また、たとえば安定な検波特性を持つとともに、挿入損失が小さく抑えられるために高い検波出力を持つ高周波送受信器80を実現することができ、また、たとえばミキサ89によって生成される中間周波数信号の信頼性を向上させることができる。また移相器20を前述したように小型で、かつ低電圧で動作させることができるので、移相器20を設けても高周波送受信器80を小型に形成することができ、また移相器20に電圧を与えるための構成が複雑化してしまうことを抑制することができる。
レーダ装置90では、前記高周波送受信器80からの中間周波信号に基づいて、距離検出器が探知対象物までの距離を検出するので、検知対象物までの距離を正確に検出することができる。
前記分岐器86は、方向性結合器によって実現されてもよく、この場合第1端子86aに与えられる高周波信号は、第2端子86bおよび第3端子86cに分岐して出力される。この場合には、前述した構成と比較して、送受信用アンテナ88から出力される電波の電力が低くなるが、分岐器86を制御する必要がないので装置の制御が簡単になる。
本実施の形態では、第1伝送線路81に移相器20が挿入されるが、本発明のさらに他の実施では、移相器20は、第1〜第5伝送線路81〜85の少なくともいずれか1つに、高周波信号が前記誘電体線路7を通過するように挿入されてもよい。このような構成であっても、同様の効果を達成することができる。
また高周波送受信器80では、移相器20を用いているが、前記移相器20に変えて、前述した実施の形態の移相器30,40,110,140,150など、前述した各実施の形態の移相器のうちのいずれか1つを用いてもよい。このように構成しても、同様の効果を達成することができる。
また本発明の実施のさらに他の形態では、前記分波器87は、サーキュレータによって実現されてもよく、この様な構成であっても、同様の効果を達成することができる。
図34は、本発明の実施の形態の移相器20を備えるアレイアンテナ装置99を含むレーダ装置100の構成を示す模式図である。本発明の形態において、前述実施の形態と同様の構成には、同様の参照符号を付してその説明を省略する。レーダ装置100は、アレイアンテナ装置99と、高周波送受信器109と距離検出器91を含んで構成される。
アレイアンテナ装置99は、アンテナ素子101とこのアンテナ素子101に付加される移相器20とによって構成される移相器付アンテナ素子105が配列されて設けられるアンテナアレー体102と、各移相器付アンテナ素子105に接続される伝送線路107とを含んで構成される。本発明の実施の形態では、複数のアンテナ素子101は、放射方向を揃えて、一列に並べられる。アンテナ素子101は、配列方向Rに沿って、相互に等しい間隔をあけて設けられる。
アンテナ素子101は、たとえばスロットアンテナ、マイクロストリップアンテナ、ホーンアンテナまたは反射鏡アンテナによって実現される。本発明の実施の形態では、アレイアンテナ装置99は、8つのアンテナ素子101と、8つの移相器20とを有する。
伝送線路107は、分岐器103を含んで構成され、入力部104から入力される高周波信号を分岐器103によって複数に分岐して、各移相器付アンテナ105に与える。伝送線路107は、マイクロストリップ線路、ストリップ線路、コプレーナ線路、グランド付きコプレーナ線路、スロット線路、導波管または誘電体導波管などによって実現される。
高周波送受信器109は、前述した各実施の形態の高周波送受信器80によって構成されてもよく、また高周波送受信器80において移相器を備えないものであってもよく、アレイアンテナ装置99に高周波信号を与え、かつアレイアンテナ装置99によって捕捉した高周波信号を受信する従来からの高周波送受信器によって構成されてもよい。
伝送線路107と、各移相器付アンテナ素子105のアンテナ素子101との間には、それぞれ移相器20が設けられる。伝送線路107を伝播する高周波信号は、移相器20の誘電体部22を通過してアンテナ素子101に与えられる。各移相器20によって、高周波信号の位相をずらすことによって、各アンテナ素子から放射される電波の位相を調整して、図34に示すように等位相面を配列方向Rの第1方向R1から第2方向R2に向かうにつれて、隣接するアンテナ素子101から放射される電波の位相を、Δφずつずらすことによって、放射ビーム106の方向を正面からアンテナ素子101の配列方向Rの第1方向R1または第2方向R2に角度θだけ傾けることができる。
移相器20は、小型でかつ低電圧で動作させることができるので、アレイアンテナ装置99が大型化することがない。アレイアンテナ装置99は、移相器20を備えることによって、放射ビームの方向を変更することができ、これによってアンテナ素子101を機械的に動作させることなく、放射ビームの方向を変更することができ、利便性を向上させることができる。またレーダ装置100が大型化することなく、また放射ビームの方向を容易に変更することができるので、利便性の高いレーダ装置を実現することができる。
またアレイアンテナ装置99では、移相器20を用いているが、前記移相器20に変えて、移相器30,40,110,140,150および前述した各実施の形態の移相器のうちのいずれか1つを用いてもよい。このように構成しても、同様の効果を達成することができる。
本発明の実施の一形態の誘電体導波路デバイスである高周波スイッチは、前述した各実施の形態の移相器のいずれかと同じ構成を有する。以下、「高周波スイッチ」を、単に「スイッチ」という。このようなスイッチでは、第1および第2電極23a,23bに電圧を印加することによって、非放射性誘電体線路3におけるカットオフ周波数を変更することができる。誘電体線路7に印加される電界に応じて、非放射性誘電体線路3におけるカットオフ周波数が、誘電体線路7を伝播する電磁波の周波数より低くなる伝播状態と、前記電磁波の周波数より高くなるカットオフ状態とを切り替え可能であるので、第1および第2電極23a,23bに印加する電圧を変化させることによって、前記伝播状態と前記カットオフ状態とを容易に切り替えることができる。スイッチング態様がOFF状態の時は、カットオフ状態になるので、本質的に高いON/OFF比を得ることができる。また、機械的な駆動部分がないため、耐久性に優れた信頼性の高い高周波スイッチを実現することができる。また前記構成によって、低い電圧でカットオフ周波数を変化させることができるスイッチを実現することができる。また前記接続構造によって、LSEモードの高周波信号を、平面線路に良好に取り出すことができるので、平面回路基板上への実装性が良好である高周波スイッチを実現することができる。また、機械的な駆動部分がないため、耐久性に優れた信頼性の高い高周波スイッチを実現することができる。
本発明の実施の一形態の誘電体導波路デバイスである減衰器は、前述した各実施の形態の移相器のいずれかと同じ構成を有する。このような減衰器では、第1および第2電極23a,23bに電圧を印加することによって、非放射性誘電体線路3におけるカットオフ周波数を変更して、伝播特性を変化させることができる。誘電体線路7に印加される電界に応じて、非放射性誘電体線路3における伝播特性を変化させることによって、高周波信号を減衰することができ、また前記接続構造によって、LSEモードの高周波信号を、平面線路に良好に取り出すことができるので、平面回路基板上への実装性が良好である減衰器を実現することができる。減衰器は、前述した移相器と同様にカットオフ周波数をfcとし、使用周波数をfとしたとき、1.03<f/fc<1.5となるように、好ましくは、1.03<f/fc<1.2となるように形成される。また第1および第2電極23a,23bに与える電圧を小さくしても、変化部に大きな電界強度の電界が与えられ、またカットオフ周波数近傍の減衰特性を用いることから、伝送線路の線路長が短くても、変化部に大きな電界強度の電界が与えられ、伝送線路の線路長が短くても電磁波を十分に減衰させることができるので、小型で、かつ低電圧で動作させることができる減衰器を実現することができる。また、機械的な駆動部分がないため、耐久性に優れた信頼性の高い減衰器を実現することができる。
図35は、本発明の実施の他の形態の高周波送信器160の構成を示す模式図である。高周波送信器160は、前述した図31の高周波送信器60の移相器20に代えて、高周波スイッチ161を設け、スタブ64を除いた構成であるので、同様の構成には、同様の参照符号を付してその説明を省略する。スイッチ161は、前述した実施の形態の移相器30,40,110,140,150など、前述した各実施の形態の移相器のいずれかと同じ構成を有する。
スイッチ161は、前述した非放射性誘電体線路3と、マイクロストリップ線路4、ストリップ線路31、コプレーナ線路41またはマイクロストリップ線路151とが高周波伝送線路62に接続されて、高周波伝送線路62に挿入され、伝播状態とすることによって高周波伝送線路62に伝送される高周波信号を透過し、カットオフ状態とすることによって高周波伝送線路62に伝送される高周波信号を遮断する。
スイッチ161が伝播状態のとき、高周波発振器61が発生した高周波信号は、伝送線路62に伝送されて、スイッチ161の誘電体線路7を通過して送信用アンテナ63に与えられ、電波として放射される。またスイッチ161がカットオフ状態のとき、高周波発振器61が発生した高周波信号は、スイッチ161を透過しないので送信用アンテナ63には伝送されない。スイッチ161の伝播状態とカットオフ状態とを切換えることによって、送信用アンテナ63からパルス信号波を放射することができる。大きなON/OFF比を得ることができるとともに、耐久性に優れた信頼性の高い高周波スイッチを用いることによって、信頼性の高い高周波送信器を実現することができる。電圧印加手段が、所定の情報に基づいて、スイッチ161に電圧を印加して、スイッチ161をON/OFFすることによって、所定の情報に対応した電波を送信用アンテナ63から放射させることができる。
本発明の実施の他の形態のレーダ装置では、図33に示される前述したレーダ装置90において、高周波送受信器80における移相器20を前記スイッチ161に代えて構成してもよい。第1伝送線路81に挿入されるスイッチ161を伝播状態とすることによって、高周波発振器61が発生した高周波信号は、第1伝送線路81に伝送されて分岐器86の第1端子86aに与えられ、分岐器86の第2端子86bから第2伝送線路82に与えられ、分波器87の第4端子87aに与えられて、分波器87の第5端子87bから第3伝送線路83に与えられて、送受信用アンテナ88から放射される。また第1伝送線路81に挿入されるスイッチ161がカットオフ状態となると、高周波発振器61が発生した高周波信号はスイッチ161を透過しないので、遮断されて、送受信用アンテナ88からは放射されない。スイッチ161の伝播状態とカットオフ状態とを切換えることによって、送受信用アンテナ88からパルス信号波を放射することができる。大きなON/OFF比を得ることができるとともに、耐久性に優れた信頼性の高いスイッチ161を用いることによって、信頼性の高い高周波送受信器を実現することができる。本実施の形態では、第1伝送線路81にスイッチ161が挿入されるが、本発明のさらに他の実施では、スイッチ161は、第1〜第3伝送線路81〜83の少なくともいずれか1つに、挿入されてもよい。このような構成であっても、第1〜第3伝送線路81〜83の少なくともいずれか1つに挿入されるスイッチ161を全て伝播状態とし、また第1〜第3伝送線路81〜83の少なくともいずれか1つに挿入されるスイッチ161のうち1つでもカットオフ状態とすることによって、送受信用アンテナ88からパルス信号波を放射することができ、前述のレーダ装置と同様の効果を達成することができる。
本発明の実施のさらに他の形態のレーダ装置は、前記各実施の形態のレーダ装置において、高周波送受信器80を構成する分岐器86を、2つのスイッチ161によって構成してもよい。
図36は、スイッチ161によって構成される分岐器86の構成を示す模式図である。2つのスイッチ161を、第1スイッチ161Aおよび第2スイッチ161Bという。第1スイッチ161Aは、伝播状態とすることによって第1端子86aおよび第2端子86b間で高周波信号を透過し、かつカットオフ状態とすることによって第1端子86aおよび第2端子86b間で高周波信号を遮断する。第2スイッチ161Bは、伝播状態とすることによって第1端子86aおよび第3端子86c間で高周波信号を透過し、かつカットオフ状態とすることによって第1端子86aおよび第3端子86c間で高周波信号を遮断する。第1および第2スイッチ161A,161Bの、電磁波の伝播方向Xにおける第1端部同士を接続して第1端子86aとする。また第1スイッチ161Aの電磁波の導波方向Xにおける第2端部を第2端子86bとする。また第2スイッチ161Bの電磁波の導波方向Xにおける第2端部を第3端子86cとする。
第1および第2スイッチ161A,161Bには、図示しない制御部から制御信号が与えられ、制御信号に基づいて第1スイッチ161Aが伝播状態のときに、第2スイッチ161Bをカットオフ状態とし、第1スイッチ161Aがカットオフ状態のときに、第2スイッチ161Bを伝播状態とすることによって、第1端子86aから入力される高周波信号を、第2および第3端子86b,86cから選択的に出力することができる。レーダ装置90は、パルスレーダによって実現される。前記制御部は、第1および第2スイッチ161A,161Bを制御して、第1端子86aおよび第2端子86bを接続して、パルス状の高周波信号を第2端子86bから出力させた後、第1および第2スイッチ161A,161Bを制御して、第1端子86aおよび第3端子86cを接続して、高周波信号を第3端子86cから出力させる。大きなON/OFF比を得ることができるとともに、耐久性に優れた信頼性の高いスイッチ161を用いて分岐器86を構成することによって、信頼性の高い高周波送受信器を実現することができる。
本発明の実施のさらに他の形態のレーダ装置は、前記各実施の形態のレーダ装置において、高周波送受信器80を構成する分波器87を、2つのスイッチ161によって構成してもよい。
図37は、スイッチ161によって構成される分波器87の構成を示す模式図である。分波器87は、2つのスイッチ161を含んで構成される。2つのスイッチ161を、第3スイッチ161Cおよび第4スイッチ161Dという。第3スイッチ161Cは、伝播状態とすることによって第4端子87aおよび第5端子87b間で高周波信号を透過し、かつカットオフ状態とすることによって第4端子87aおよび第5端子87b間で高周波信号を遮断する。第4スイッチ161Dは、伝播状態とすることによって第5端子87bおよび第6端子87c間で高周波信号を透過し、かつカットオフ状態とすることによって第5端子87bおよび第6端子87c間で高周波信号を遮断する。第3スイッチ161Cの、電磁波の伝播方向Xにおける第1端部を、第4端子87aとする。また第3および第4スイッチ161C,161Dの、電磁波の伝播方向Xの第2端部同士を共通に接続して、第5端子87bとする。第4スイッチ161Dの電磁波の伝播方向Xの第1端部を、第6端子87cとする。
第3および第4スイッチ161C,161Dには、図示しない制御部から制御信号が与えられ、制御信号に基づいて第3スイッチ161Cが伝播状態のときに、第4スイッチ161Dをカットオフ状態とし、第3スイッチ161Cがカットオフ状態のときに、第4スイッチ161Dを伝播状態とすることによって、第4端子87aから入力される高周波信号を、第5端子87bから出力し、第5端子87bから入力される高周波信号を、第6端子87cから出力することができる。前記制御部は、第3および第4スイッチ161C,161Dを制御して、第4端子87aおよび第5端子87bを接続して、パルス状の高周波信号を送受信用アンテナ88に伝送した後、第3および第4スイッチ161C,161Dを制御して、第5端子87bおよび第6端子87cを接続して、送受信用アンテナ88によって捕捉した高周波信号を第6端子87cから出力させる。制御部は、第1および第3スイッチ161A,161Cが伝播状態となり、かつ第2および第4スイッチ161B,161Dがカットオフ状態となるように、または、第1および第3スイッチ161A,161Cがカットオフ状態となり、第2および第4スイッチ161B,161Dが伝播状態となるように、第1〜第4スイッチ161A〜161Dを制御する。大きなON/OFF比を得ることができるとともに、耐久性に優れた信頼性の高いスイッチ161を用いて分波器87を構成することによって、信頼性の高い高周波送受信器を実現することができる。
前述した各実施の形態において、前記変化部は、印加電界に応じて寸法が変化する圧電素子によって構成されてもよい。印加電圧に応じて、電圧の印加方向において圧電素子の寸法が変化する、すなわち圧電素子の前記電圧の印加の方向における厚さが変化することによって、カットオフ周波数を変化させることができ、前述した実施の形態と同様の効果を達成することができる。圧電素子は、たとえば水晶、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、Pb(Zr,Ti)O3、BaTiO3、LiNbO3またはSbSIなどによって形成される。
なお、本発明は以上の実施の形態の例および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何等差し支えない。すなわち本発明の実施のさらに他の形態では、前述した各実施の形態を組み合わせてもよい。