JP4606350B2 - 電気車の接線力推定方法 - Google Patents
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Description
なお、図9は接線力係数あるいは接線力のすべり速度に対する一般的な特性を示す図であり、横軸はすべり速度、縦軸は接線力(接線力係数)を示し、破線はレール面乾燥時、実線はレール面湿潤時の接線力を示している。
図示の如く、接線力の最大値を超えないトルクを主電動機で発生している場合は、空転・滑走は発生せず、接線力の最大値より左側の微小なすべり速度の粘着領域で電気車は走行する。もし、最大値より大きなトルクを発生するとすべり速度は増大し、接線力が低下するので、ますますすべり速度が増大する空転・滑走状態になるが、車輪およびレールが乾燥状態では主電動機で発生するトルクは接線力の最大値を超えないように車両の性能が設定されるので、空転・滑走は発生しない。
このような再粘着制御の実現を目的とした方法として、主電動機の回転速度を主電動機に印加される電圧・電流から推定し、この推定速度情報と主電動機発生トルクの演算値を入力情報として、最小次元外乱オブザーバを用いて車輪・レール間の接線力に対応した主電動機トルクを制御周期毎に推定して、空転・滑走検知時の推定トルクを用いて主電動機の発生トルクを制御する方式が、提案されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)。
この制御方式によって、良好な乗り心地を保ちつつ、主電動機の発生トルクを極力接線力の最大値近傍に維持することができつつある。
図8は台車のピッチング振動が電動機速度に与える影響を説明する図である。
図8(a)に示すように時計回りの台車枠の回転によって、同一台車内の前の動輪と後ろの動輪に同位相で電動機速度を増速させる方向の影響が出る。また、反対に図8(b)に示すように、反時計回りの台車枠の回転によって、同一台車内の前の動輪と後ろの動輪に同位相で電動機速度を減速させる方向の影響が出る。
この台車ピッチング振動の影響は、固有周波数で数Hz前後から20Hz近傍の固有周波数で発生することが多い。
図6は従来の最小次元外乱オブザーバを用いた接線力推定結果によって再粘着制御を行ったときの再粘着制御状態を示す図(その1)であり、図7は従来の最小次元外乱オブザーバを用いた接線力推定結果によって再粘着制御を行ったときの再粘着制御状態を示す図(その2)であり、図6、図7において、(a)はトルク指令値、(b)は接線力に対応したトルクの推定値、(c)は動輪速度、車両速度を示し、また、ts1は空転検知時点を示す。
図6(b)、図7(b)に示すように、空転検知に至る前においてピッチング振動に伴って、推定結果が振動することになる。
したがって、空転検知のタイミングによって、動輪が再粘着したときに指令するトルク算定の基礎となる空転検知時の接線力に対応した電動機トルクの推定値が、接線力に対応したトルクの真値(一点鎖線と点線で示す)に対して大きくなったり小さくなったりする。
一方、空転検知時の接線力に対応した電動機トルクの推定値tau_lが、図7(b)に示すように真値に対して小さな値になった場合は、図7(c)に示すように確実に再粘着させることはできるが、再粘着後に指令するトルクがその時点における粘着係数に対応したトルクより小さくなってしまい、粘着力の有効利用の観点からは不十分な結果となることが考えられる。
このため、空転検知字の接線力に対応したトルクの推定値を用いて再粘着制御を行っても、この推定値は空転検知時点よりも遅れ時間分だけ遡った推定値となって、空転検知時の接線力の真値よりも大きな値となることから、図6に示した制御状態と同様な制御となり、やはり粘着力の有効利用が図れないことになってしまう。
このように台車ピッチング振動の影響は、近年の電車において常時起こる訳ではないが、しばしば経験するところである。このようなピッチング振動の影響を受けることなく接線力に対応した電動機トルクを推定して、これに基づいたより粘着力の有効利用可能な再粘着制御の実現が望まれる。
このため、空転している動輪をなかなか再粘着させることができないか、あるいは再粘着させることはできてもすぐに空転状態に移行し、再粘着した時点の粘着係数に対応したトルクを指令することができず、粘着力の有効利用が図れなくなることになる。
本発明は上述した点に鑑み創案されたものであって、その目的とするところは、台車のピッチング振動の影響を殆ど受けることなく、車輪・レール間の接線力に対応した電動機トルクを推定できるようにした、電気車の接線力推定方法を提供することである。
(1)電気車の主電動機軸の回転角速度と主電動機の発生トルクの演算値または計測値を入力情報として、台車の一つのピッチング振動固有角周波数を考慮に入れた以下の式(1−1)から式(1−4)に示す状態方程式に基づき、台車のピッチング振動の影響を受けないようにした、接線力に対応したトルクの推定値を求める。
(1)本発明の電気車の接線力推定装置では、台車の一つのピッチング振動固有周波数あるいは二つのピッチング振動固有周波数を考慮に入れて接線力の推定しているので、接線力の推定値に台車のピッチング振動周波数で振動する成分が重畳することがなくなる。
このため、常時車輪・レール間の接線力に対応したトルクを推定することができ、空転検知時の接線力に対応したトルクの推定値は真値に近い値となる。
この空転検知時の接線力に対応したトルクの推定値を用いて再粘着制御を行うことにより、台車振動の影響を受けることなく、粘着力の利用率の高い再粘着制御を実現することができ、どのような台車構造の電気車であっても、常に高い加速性能を得ることができる。
(2)再粘着制御に伴うトルク制御によってピッチング振動を発生しやすい台車が用いられた電気車であっても、台車ピッチング振動の影響を受けることなく車輪・レール間の接線力に対応したトルクの推定値を得ることができる。
以下、本発明の第1、第2の実施例について説明する。
図1は台車の一つのピッチング振動固有角周波数を考慮に入れた式(1−1)から式(1−4)に示す状態方程式をもとに、公知のGopinathの設計法を用いて実現した本発明の第1の実施例の接線力推定装置の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、本実施例の接線力推定装置は、係数器11〜係数器18、係数器110,111,113,114,116、加算器120〜加算器125、1次遅れ演算器19、積分器112、積分器115で構成されている。
本実施例の接線力推定装置は、主電動機の回転角速度ωm 、主電動機発生トルクの演算値あるいは計測値τm を入力として、接線力に対応したトルクの推定値τL ^、接線力に対応したトルクの時間微分値の推定値τL ' ^、接線力に対応したトルクの2階時間微分値の推定値τL " ^を求めている。
なお、図中では時間微分値をドット一つ、2階時間微分値をドット2つで示すが、以下の文中では、表記上の都合から時間微分値を「’」、2階時間微分値を「”」を付して示す。また、「^」は推定値を表しており、図中ではτ等の上に付しているが、以下の文中では表記上の都合からτ等の後ろに付している。
すなわち、前記式(1−1)はピッチング振動固有角周波数ω0 で振動する成分を表し、式(1−3)は振動成分を含まない直流成分を表している。
そのため、τL " の推定値であるτL " ^はω0 で振動する成分の推定値を意味し、τL の推定値τL ^は振動成分を含まないことになる。したがって、接線力に対応したトルクの推定値τL ^を用いて再粘着制御を行えば、振動成分の影響を受けることが無くなる訳である。
図2に示す高次外乱オブザーバを用いて接線力に対応したトルクを推定する接線力推定装置を再粘着制御に組み込んで制御したときの制御状態の例から分かるように、接線力に対応したトルクの真値に非常に近い推定値が常時得られる。
すなわち、図2(b)に示すように接線力に対応したトルクの推定値は、ピッチング振動の影響を受けて脈動しているものの脈動は非常に小さく、空転検知時点でのトルクの推定値tau_h1,tau_h2は接線力の真値(一点鎖線で示す)に非常に近いので、トルク指令値が常に粘着限界トルクに近い値となる。
このため、その後、再粘着させるためのトルク引き下げ量が小さいにもかかわらず、図2(c)に示すように確実に再粘着させることができ、また、再粘着後に指令するトルクが粘着限界トルクに近いので、空転速度が小さくなり、粘着力の利用率が高くなる。
以上のように、本実施例の接線力推定装置を用いて再粘着制御をすることにより、空転検知したときの接線力の推定値をもとに、確実に再粘着させることのできる範囲内でトルクの絞込みを極力小さくすることができ、また再粘着後に指令するトルクは空転検知時の接線力に極めて近い値とすることができる。このため、台車振動の影響を受けることなく、粘着力の利用率の高い再粘着制御を実現できることになる。
また、図4は、特許文献1あるいは特許文献2に記載されている従来の最小次元外乱オブザーバを用いて接線力に対応したトルクを推定する推定装置を再粘着制御に組み込んで、電気車を1電動台車で表した台車モデルで、電気車を加速したときの再粘着制御のシミュレーションを行った結果の例である。
図3、図4において、横軸は時間(s)、縦軸のτcmd はトルク指令値、τL ^は接線力に対応したトルクの推定値、μ^は接線力係数の推定値、μ1-2 は動輪1、動輪2の接線力係数の真値、μ' ^は接線力係数の時間微分値の推定値、vt は車両速度、vd ' ^は動輪速度の時間微分値の推定値である。
特に、両図とも時刻5秒時点から一回、インパルス状の衝撃垂直荷重を軸距に相当する距離、台車が走行する時間差をおいて、各動輪軸に加えて台車振動を発生させているが、この時点におけるトルクの推定値τL ^を比較すると明らかに図3の方が小さく、高次外乱オブザーバを用いて接線力に対応したトルクを推定する方が、従来に比べて台車振動の影響を受けにくいことが分かる。
以上の説明では、空転する場合について説明してきたが、滑走現象の場合にも同様に適用できることはいうまでもない。
また以上では、状態方程式(1−1)から(1−4)をもとにGopinathの設計法を用いて接線力推定装置を構成した実施例について述べたが、この方法に限定する必要はなく、他の設計法を用いて接線力推定装置を構成してもよい。
本発明の第2の実施例では、台車の二つのピッチング振動固有角周波数を考慮に入れた前記式(2−1)〜式(2−6)に示す状態方程式に基づき、接線力に対応したトルクの推定値を求める。
図5は、台車の二つのピッチング振動固有角周波数を考慮に入れた式(2−1)から式(2−6)に示す状態方程式をもとに、公知のGopinathの設計法を用いて実現した本発明の第2の実施例の接線力推定装置の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、本実施例の接線力推定装置は、係数器21〜29,211〜223、1次遅れ演算器224、1次遅れ演算器228、積分器225〜積分器227、加算器229〜加算器242で構成されている。
本実施例の接線力推定装置は、前記第1の実施例と同様、主電動機の回転角速度ωm 、主電動機発生トルクの演算値あるいは計測値τm を入力として、接線力に対応したトルクの推定値τL ^、接線力に対応したトルクの時間微分値の推定値τL ' ^、接線力に対応したトルクの2階時間微分値の推定値τL " ^を求めている。
そのため、τ(4) の推定値はω0 またはω1 で振動する成分の推定値を意味し、τL の推定値τL ^は振動成分を含まないことになる。したがって、接線力に対応したトルクの推定値τL ^を用いて再粘着制御を行えば、振動成分の影響を受けることが無くなる訳である。
そのため、空転検知時の接線力に対応したトルクの推定値を用いてその後の再粘着制御を行うので、さらなる再粘着制御性能の向上が実現できることになる。
しかし、その差は最小次元外乱オブザーバを用いた場合と第1の実施例の接線力推定装置を用いた場合の再粘着制御性能の差ほどは差が生じないので、これ以上の図を用いた説明は割愛する。
以上の説明では、空転する場合について説明してきたが、滑走現象の場合にも同様に適用できることはいうまでもない。また、本実施例の状態方程式(2−1)から(2−6)をもとにGopinathの設計法を用いて接線力推定装置を構成した実施例について述べたが、この方法に限定する必要はなく、他の設計法を用いて接線力推定装置を構成してもよい。
110,111,113,114,116 係数器
112,115 積分器
120〜125 加算器
19 1次遅れ演算器
117〜119 係数器
21〜29 係数器
211〜223 係数器
224,228 1次遅れ演算器
225〜227 積分器
229〜242 加算器
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