(第1の実施の形態)
以下、この発明に係る、フレックス燃料機関の燃料供給制御装置の第1の実施の形態について、図1〜図4を参照しつつ説明する。
図1は、この実施の形態の適用対象となるフレックス燃料機関の全体構成及びその燃料供給制御装置の概略構成を示している。なお、このフレックス燃料機関は、車両に搭載される車載用のフレックス燃料機関として構成されており、例えばアルコール(主燃料)とガソリン(副燃料)との混合燃料が供給されている。すなわち、本実施の形態では、主燃料に比べて燃焼性の高い燃料を副燃料として採用している。
図1に示すように、フレックス燃料機関10は、基本的に、外部から吸入される空気の通路である吸気通路11、この吸気通路11を通じて導入される空気と混合燃料との混合気の燃焼に供される燃焼室12、及び、この燃焼室12内での燃焼により生じた排気が排出される排気通路13を備えている。
このうち、吸気通路11は、サージタンク14下流の吸気マニホールド15にて気筒毎に分岐されるとともに、吸気ポート16を介して各気筒の燃焼室12にそれぞれ接続されている。こうした吸気通路11には、そのサージタンク14上流に、吸気通路11内の空気の温度を検出する吸気温センサ17が配設されているとともに、混合燃料を噴射供給するインジェクタ19がその各気筒の吸気ポート16毎に配設されている。さらに、吸気通路11には、吸気ポート16毎に吸入される空気量を逐次検出する図示しないエアーフローメータが配設されている。インジェクタ19により噴射供給される混合燃料は、燃料通路23を介してインジェクタ19に接続された燃料タンク24から燃料供給用の図示しない燃料ポンプにより汲み出されて供給されている。なお、燃料タンク24にはアルコール濃度センサ25が配設されている。このアルコール濃度センサ25は、従来知られた構成を有しており、例えば、燃料タンク24内に貯留された混合燃料の静電容量を検出することで、アルコールが混合燃料に占める割合であるアルコール濃度を検出する。一方、フレックス燃料機関10のシリンダ26の側壁とそのシリンダ26に往復動可能に配設されたピストン27の上面とによって区画形成される上記燃焼室12の上面には、導入された混合気を火花点火する点火プラグ28が配設されている。またシリンダ26の側壁には、機関冷却用の冷却水の流路であるウォータジャケット29が形成されるとともに、そのウォータジャケット29には、その内部を流れる冷却水の温度を検出する水温センサ30が配設されている。
他方、上記排気の排出ポートである排気ポート31を介してこの燃焼室12に接続される排気通路13には、その内部を流れる排気の酸素含有量に基づいて、燃焼室12での燃焼に供された混合気の空燃比を検出する空燃比センサ32が配設されるとともに、その下流側に排気を浄化する触媒装置33が配設されている。
以上のように構成されたフレックス燃料機関10の運転に係る各種制御は、機関制御装置によって実行されている。機関制御装置は、基本的に、機関制御に係る各種演算処理を実行する中央演算装置(CPU)、中央演算装置の制御に使用される各種プログラムやデータが記憶されたメモリ、燃料ポンプ(図示略)やインジェクタ19を駆動するための図示しない駆動回路等々を備えて構成されている。そして機関制御装置は、そうした機関制御の一環として、上記インジェクタ19を通じての燃料供給制御を実行している。なお、こうした燃料供給制御は、上記メモリに記憶されたプログラムを上記中央演算処理装置が実行することで行われるが、ここでは概念的に、機関制御装置のうちの燃料供給制御に実行に係る要素を、燃料供給制御装置1として表すこととする。
この燃料供給制御装置1には、図1に示すように、インジェクタ19や燃料ポンプ(図示略)等の駆動回路に加え、上記水温センサ30や空燃比センサ32をはじめとする当該機関の運転状況を検知する各種センサが接続されている。そして、これらセンサによる検出結果に基づき各種処理を実行している。
詳しくは、図1に示すように、燃料供給制御装置1は、基本的に、濃度変化判定部40、残存燃料供給判定部41、供給量算出部42及び供給制御部43等々を備えている。
このうち、濃度変化判定部40は、上記アルコール濃度センサ25のセンサ出力値を常時監視しつつ、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度に有意な変化が生じたとき、その旨を判定する。詳しくは、例えばアルコールのみ、ガソリンのみ、または、燃料タンク24内に貯留されている混合燃料とはアルコール及びガソリンの混合比率が異なる混合燃料などが燃料タンク24に給油されるなどすると、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度は急激に変化する(切替わる)。濃度変化判定部40は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値を所定時間(第5判定期間)毎に繰り返し取り込んでおり、その都度、記憶保持部42dに記憶保持する。そして、濃度変化判定部40は、今回の処理においてアルコール濃度センサ25から取り込んだセンサ出力値と、前回の処理(上記所定時間前)においてアルコール濃度センサ25から取り込んで記憶保持部42dに記憶保持していたセンサ出力値(学習値)との間に、例えば10%(第6判定値)を超える急激な変化が生じることをもって、有意な変化が生じた旨判定する。有意な変化が生じた旨判定すると、濃度変化判定部40は、後述する残存燃料供給判定部41にその旨出力する。なお、本実施の形態では、基本的に、当該機関10の運転が終了しても、記憶保持部42dに記憶保持された学習値等は消去されることなく記憶保持される。
残存燃料供給判定部41は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨を上記濃度変化判定部40から受けると、燃料タンク24から燃焼室12に至る燃料通路23に残存する混合燃料である残存燃料が、インジェクタ19を通じて全て噴射供給されたか否かを判定する。なお、この噴射供給に係る判断処理については、図3を交えて後述する。
供給量算出部42は、図1に示されるように、基本供給量算出部42a、供給量換算部42b、学習値更新部42c、記憶保持部42d及び空燃比補正部42eを有しており、当該フレックス燃料機関10の暖機完了後の機関稼働中にあっては、基本的に、空燃比フィードバック制御に基づいて、燃焼室12への混合燃料の供給量を算出している。空燃比フィードバック制御では、上記空燃比センサ32のセンサ出力値に基づき、吸気通路11を通じて導入された空気と噴射供給された混合燃料との混合気の空燃比が所望とする値(目標空燃比)となるように、インジェクタ19を通じての燃焼室12への混合燃料の噴射供給量を算出する。
このうち、基本供給量算出部42aは、当該フレックス燃料機関10の吸入空気量QAや機関冷却水温THWを含む機関運転状態に基づいて、燃焼室12への副燃料の基本供給量Tmを算出する。詳しくは、基本供給量算出部42aは、まず、上記エアフローメータの出力値に基づいて吸入空気量QAを算出し、上記水温センサ29のセンサ出力値である機関冷却水温THWに基づいて水温補正項FWLを算出する。そして、基本供給量算出部42aは、吸入空気量QAに対する燃料噴射量換算定数TINJをもとに、算出式「基本供給量Tm=吸入空気量QA×燃料噴射量換算定数TINJ×水温補正項FWL」を通じて基本供給量Tmを算出する。なお、こうした基本供給量Tmの算出方法は一例であって、この算出方法に限らず、既存の算出方法をそのまま利用することができる。そのため、ここでのこれ以上の説明を割愛する。
ところで、上記基本供給量算出部42aにて算出された基本供給量Tmは、アルコール濃度0%の混合燃料、すなわち、ガソリン100%の混合燃料を噴射供給することを前提として算出されている。しかしながら、燃料タンク24に給油される混合燃料がアルコール濃度0%の混合燃料であることはほとんどなく、そうしたアルコール濃度が異なる混合燃料を上記基本供給量Tmだけ供給しても、所望の機関出力を得ることはできない。
そのため、燃焼室12に実際に供給される混合燃料のアルコール濃度に応じて基本供給量Tmを換算する必要がある。ちなみに、主燃料(アルコール)は、副燃料(ガソリン)よりも燃焼性能が劣るため、同一の機関出力を得るには、混合燃料のアルコール濃度が高いほど、燃焼室12に混合燃料を多く供給する必要がある。
そこで、本実施の形態では、供給量換算部42bは、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値(正確には、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値)及び記憶保持部42dに記憶保持されている図2に示す対応図に基づいて噴射増量係数Kdを取得するとともに、燃焼室12への副燃料の供給量である基本供給量Tmを、燃焼室12への混合燃料の供給量である換算供給量Tcへ、換算式「換算供給量Tc=基本供給量Tm×噴射増量係数Kd」に基づき換算している。
詳しくは、図2に、混合燃料のアルコール濃度と噴射増量係数との関係を示す。例えばアルコール濃度「100%」の混合燃料とは、主燃料「100%」及び副燃料「0%」の混合比で混合された混合燃料を意味し、インジェクタ19を通じてこの混合燃料を吸入空気に噴射供給する場合には、図2に示すように、噴射増量係数Kdは「1.65」となる。したがって、換算供給量Tcは、基本供給量Tmのおよそ「1.65倍」として算出される。ちなみに、この値は、副燃料「100%」の混合燃料を吸入空気に噴射供給する場合の理論空燃比「14.7」を、主燃料「100%」の混合燃料を吸入空気に噴射供給する場合の理論空燃比「8.9」で除した値となっている。
また、例えばアルコール濃度「0%」の混合燃料とは、主燃料「0%」及び副燃料「100%」の混合比で混合された混合燃料を意味し、インジェクタ19を通じてこの混合燃料を吸入空気に噴射供給する場合とは、ガソリン濃度「100%」の混合燃料をインジェクタ19を通じて吸入空気に噴射供給する場合を意味するため、基本供給量算出部42aが上記基本供給量Tmを算出するに当たり前提としていたアルコール濃度の混合燃料が噴射供給される場合である。この場合、換算する必要はないため、噴射増量係数Kdは、図2に示すように、「1.0」となる。すなわち、換算供給量Tcは、基本供給量Tmと同一となる。
同様に、例えばアルコール濃度「30%」の混合燃料とは、主燃料「30%」及び副燃料「70%」の混合比で混合された混合燃料を意味し、インジェクタ19を通じてこの混合燃料を吸入空気に噴射供給する場合には、噴射増量係数Kdは、図2に示すように、「1.2」となる。したがって、換算供給量Tcは、基本供給量Tmのおよそ「1.2倍」となる。このように、供給量換算部42bは、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値、及び、図2に示した、混合燃料のアルコール濃度と噴射増量係数Kdとの略直線的な関係、並びに、上記換算式に基づいて、上記基本供給量Tmを上記換算供給量Tcに換算する。これにより、混合燃料のアルコール濃度が変化した場合であっても、ガソリン100%の混合燃料を基本供給量Tmだけ噴射供給することで得られたであろう、所望の機関出力を実際に得ることができるようになる。
また、燃料タンク24内の混合燃料に濃度変化があったとしても、燃焼室12内に取り込まれる混合気を構成する混合燃料の濃度までもが即座に変化するわけではない。燃料タンク24からインジェクタ19までの燃料通路23に変化前濃度の混合燃料が残存しているため、少なくとも、インジェクタを介してこの残存燃料を吸入空気に全て噴射するまで、燃焼室12内に供給される混合燃料の濃度は変化前濃度のままである。そのため、学習値更新部42cは、上記残存燃料が供給された旨残存燃料供給判定部41にて判定されるとき、上記有意な変化が生じた旨判定される前に取り込まれたアルコール濃度センサ25のセンサ出力値(変化前濃度に相当する値)から、上記有意な変化が生じた旨判定された後に取り込まれたアルコール濃度センサ25のセンサ出力値(変化後濃度に相当する値)に、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を更新している。詳しくは、図3を交えて後述する。
また、空燃比補正部42eは、所定の空燃比フィードバック条件が成立することを条件に、上記換算供給量Tcを、当該フレックス燃料機関10の排気が理論空燃比を維持する供給量である最終供給量TAUに、上記空燃比センサ32のセンサ出力値に基づき補正する。
具体的には、上記フィードバック条件として、例えば、「当該フレックス燃料機関10が始動時でないこと」、「燃焼室12への混合燃料の供給を一時的に停止する燃料カット中でないこと」、「燃焼室12への混合燃料の供給量を一時的に増量する高負荷時でないこと」、「当該フレックス燃料機関10の機関冷却水温THWが零度以上であること」、及び、「空燃比センサ32が活性状態であること」の全ての条件が満足されることを採用している。こうした空燃比フィードバック条件が成立すると、空燃比補正部42eは、補正式「最終供給量TAU=換算供給量Tc×空燃比補正係数Kaf」によって最終供給量TAUを算出する。なお、こうした最終供給量TAUの算出方法も一例であって、この算出方法に限らず、既存の算出方法をそのまま利用することができる。そのため、ここでのこれ以上の説明を割愛する。
また、供給制御部43は、上記空燃比フィードバック条件が成立するとき、上記インジェクタ19及び図示しない燃料ポンプを駆動することで、上記供給量算出部42によって算出された上記最終供給量TAUの混合燃料を吸入空気に噴射する。こうして形成された混合気が燃焼室12内に取り込まれることにより、最終供給量TAUの混合燃料が燃焼室12に供給される。これにより、当該フレックス燃料機関10では、基本的に、その暖機完了後の機関稼働中、空燃比フィードバック制御が実行されており、空燃比センサ32のセンサ出力値は、燃料タンク24に貯留された混合燃料のアルコール濃度に応じた目標空燃比近傍で、僅かにリッチになったりわずかにリーンになったりすることを繰り返し、安定して推移する。一方、供給制御部43は、上記空燃比フィードバック条件が成立しないとき、上記インジェクタ19及び図示しない燃料ポンプを駆動することで、上記供給量算出部42によって算出された上記換算供給量Tcの混合燃料を吸入空気に噴射する。こうして形成された混合気が燃焼室12内に取り込まれることにより、換算供給量Tcの混合燃料が燃焼室12に供給される。
以上のようにして構成された燃料供給制御装置1によって実行される燃料供給制御処理のうち、記憶保持部42dに記憶保持される学習値の更新に係る学習値処理手順の一例を図3に示す。なお、この学習値更新処理は所定時間(第5判定期間)毎に繰り返し実行されている。
この学習値更新処理が開始されると、上記濃度変化判定部40は、ステップS101の処理及びステップS103の判断処理を通じて、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じたか否かを判定する。具体的には、上記濃度変化判定部40は、まず、ステップS101の処理として、上記アルコール濃度センサ25からセンサ出力値を取り込み、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度を検出する。上記濃度変化判定部40は、続くステップS103の判断処理として、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値と、今回の処理においてアルコール濃度センサ25から取り込んだセンサ出力値(今回値)との間に、例えば10%(第6判定値)を超える急激な変化が生じたか否かを判断する。
ここで、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に急激な変化が生じていない(ステップS103の判断処理において「NO」である)とき、上記濃度変化判定部40は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じていないと判断する。そして、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を更新することなく、この処理を一旦終了する。
一方、ステップS103の判断処理において「YES」であるとき、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に急激な変化が生じたため、濃度変化判定部40は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意に変化が生じたと判断し、残存燃料供給判定部41にその旨出力する。ただし、燃料タンク24に貯留される混合燃料に濃度変化があったとしても、燃焼室12内に取り込まれる混合気を構成する混合燃料の濃度までもが即座に変化するわけではない。通常、燃料タンク24からインジェクタ19までの燃料通路23に変化前濃度の混合燃料が残存しているため、少なくとも、インジェクタ19を介してこの残存燃料を全て噴射するまで、燃焼室12内に供給される混合燃料の濃度は変化前濃度のままである。すなわち、有意な変化が生じた後、燃焼室12内に供給される混合燃料の濃度が実際に変化するまでに時間を要することになる。当然のことながら、そうした時間は、当該フレックス燃料機関10の運転状況によって変化するため、そうした時間を予め正確に知ることは難しい。
そこで、上記有意な変化が生じた旨受けた残存燃料供給判定部41は、まず、続くステップS105の判断処理として、上記空燃比フィードバック条件が成立するか否かを判断する。すなわち、本実施の形態では、残存燃料供給判定部41は、空燃比センサ32のセンサ出力値に基づき、残存燃料が全て噴射供給されたか否かについて判定しようとしている。
ここで、残存燃料供給判定部41は、空燃比フィードバック条件が成立しないとき(ステップS105の判断処理において「NO」)、残存燃料の噴射供給に係る判定を行うことができないとして、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じてはいるものの、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、そのままこの処理を一旦終了する。しかしながら、空燃比フィードバック条件が成立するとき(ステップS105の判断処理において「YES」)、残存燃料の噴射供給に係る判定を行うことができるとし、続くステップS107の判断処理において、記憶保持部42dに記憶されている学習値の大きさと、先のステップS101の処理にて取り込んだアルコール濃度センサ25のセンサ出力値(今回値)とを比較する。
今回値が学習値よりも小さいとき(ステップS107の判断処理において「YES」)、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度が低濃度側に変化した、換言すれば、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のガソリン濃度が高濃度側に変化したことを意味する。そのため、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨の判定時以後、残存燃料を全て噴射供給するまでにあっては、当該フレックス燃料機関10の排気は理論空燃比近傍を安定して推移するものの、残存燃料を全て噴射供給して以後にあっては、当該フレックス燃料機関10の排気は、理論空燃比近傍から大きくリッチ側に偏ることになる。すなわち、空燃比センサ32のセンサ出力値にリッチ側への有意な変動が生じることになる。(ちなみに、空燃比フィードバック条件が成立しているため、当該フレックス燃料機関10の排気は、変化後濃度に対応する理論空燃比に徐々に近づいていき、やがて、変化後濃度に対応する理論空燃比近傍で安定して推移する。)
したがって、残存燃料供給判定部41は、ステップS109の判断処理を通じて、空燃比センサ32のセンサ出力値にリッチ側への有意な変動が継続して生じる期間が所定時間(第4判定期間)を経過したか否かを判定する。リッチ側への有意な変動が継続して生じる期間が第4判定期間を超えるとき(ステップS109の判断処理において「YES」)、残存燃料が噴射供給され、さらには、燃焼室12で混合気が燃焼消費されたことを意味するため、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を、先のステップS101の処理にて取り込んだアルコール濃度センサ25のセンサ出力値に更新した上で、この処理を一旦終了する。一方、リッチ側への有意な変動が継続して生じる期間が第4判定期間を超えないとき(ステップS109の判断処理において「NO」)、学習値更新部42cは、まだ、残存燃料が噴射供給され、さらには、燃焼室12で混合気が燃焼消費されていないことを意味するため、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、当該学習値更新処理を一旦終了する。
逆に、今回値が前回値よりも大きいとき(ステップS107の判断処理において「NO」)、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度が高濃度側に変化した、換言すれば、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のガソリン濃度が低濃度側に変化したことを意味する。そのため、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨の判定時以後、残存燃料を全て噴射供給するまでにあっては、当該フレックス燃料機関10の排気は理論空燃比近傍を安定して推移するものの、残存燃料を全て噴射供給して以後にあっては、当該フレックス燃料機関10の排気は、理論空燃比近傍から大きくリーン側に偏ることになる。すなわち、空燃比センサ32のセンサ出力値にリーン側への有意な変動が生じることになる。
したがって、残存燃料供給判定部41は、ステップS113の判断処理として、空燃比センサ32のセンサ出力値にリーン側への有意な変動が継続して生じる期間が所定時間(第4判定期間)を経過したか否かを判定する。リーン側への有意な変動が継続して生じる期間が第4判定期間を超えるとき(ステップS113の判断処理において「YES」)、残存燃料が噴射供給され、さらには、燃焼室12で混合気が燃焼消費されたことを意味するため、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を、先のステップS101の処理にて取り込んだアルコール濃度センサ25のセンサ出力値に更新した上で、この処理を一旦終了する。一方、リッチ側への有意な変動が継続して生じる期間が第4判定期間を超えないとき(ステップS113の判断処理において「NO」)、学習値更新部42cは、まだ、残存燃料が噴射供給され、さらには、燃焼室12で混合気が燃焼消費されていないことを意味するため、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、当該学習値更新処理を一旦終了する。
これにより、当該機関10の暖機完了後の機関稼働中にあって(空燃比フィードバック制御実行中)は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定されて以後第4判定期間が経過するまで、基本供給量Tmは、更新される前の学習値(変化前のアルコール濃度に相当する値)に基づき、換算供給量Tcに換算されることになる。一方、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定されて以後、さらに第4判定期間経過後には、基本供給量Tmは、更新された後の学習値(変化後のアルコール濃度に相当する値)に基づき、換算供給量Tcに換算されることになる。
なお、第4判定期間は、例えば、当該フレックス燃料機関10がアイドル運転状態にあるときに、残存燃料を供給するのに必要とされる期間に予め定められている。当該フレックス燃料機関10がアイドル運転状態にあるとき、残存燃料量の減少速度が最も低い、すなわち、残存燃料を全て噴射供給するのに最も長期間を有する。第4判定期間をこうした期間に設定するため、残存燃料が供給されたことを確実に把握することができるようになる。なお、この第4判定期間としては、このような期間に限らず、この期間よりも短い期間に定めることしてもよい。
図4は、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度よりも高濃度の混合燃料を給油した場合について、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度(アルコール濃度センサ25のセンサ出力値(今回値))、燃焼室12に供給される混合燃料のアルコール濃度、及び、当該燃料供給制御装置(供給量換算部42b)が基本供給量Tmを換算供給量Tcに換算するに当たり使用する学習値の変化態様を併せて示したタイミングチャートである。
同図4に示されるように、燃料タンク24には、例えばアルコール濃度「d1%」の混合燃料が貯留されており、時刻t11において、アルコール濃度が「d1%」よりも高濃度の混合燃料が給油されたとする。
このとき、燃料タンク24内に貯留される混合燃料のアルコール濃度、すなわち、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値(今回値)は、図4中に長二点鎖線にて示すように、高濃度側へ即座に変化し始め、例えば時刻t13においてアルコール濃度「d3%」となって安定する。すなわち、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値は、軌道「(t11,d1)→(t13,d3)→(t16,d3)」をたどって変化する(切り換わる)。
一方、燃焼室12に供給される混合燃料のアルコール濃度は、図4中に長一点鎖線にて示すように、例えば時刻t14以後に高濃度側へ変化し始め、例えば時刻t16においてアルコール濃度「d3%」となって安定する。すなわち、燃焼室12に供給される混合燃料のアルコール濃度は、軌道「(t11,d1)→(t14,d1)→(t16,d3)」をたどって変化する。
このように、変化前のアルコール濃度の混合燃料が燃料通路23に残存していることに起因して、濃度変化開始時刻に時間差が生じる。なお、時刻t11から時刻t14までの期間が、インジェクタ19を介して残存燃料を全て吸入空気に噴射供給し、その混合気が燃焼室12で燃焼消費されるのに要する時間である。そして、従来技術のように、当該燃料供給制御装置が供給量を算出するに当たり、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値をそのまま即座に使用すると、時刻t11から時刻t16までの間、燃焼室12に実際に供給される混合燃料のアルコール濃度が、算出するに当たり使用された濃度と一致しなくなる。そのため、理論空燃比から外れ、エミッションを悪化させることにもなる。
一方、本実施の形態では、まず、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値が「d2(=d1+10)%」を超える時刻t12において、濃度変化判定部40がアルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨判定するとともに、残存燃料供給判定部41にその旨出力する。しかしながら、残存燃料供給判定部41は、インジェクタ19を介して残存燃料を全て吸入空気に噴射供給し、その混合気が燃焼室12で燃焼消費されていないため、学習値更新部42cにその旨を出力することをせず、学習値更新部42cは、残存燃料が燃焼消費された旨を受けていないため、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を更新せず、そのまま維持する。すなわち、記憶保持部42dに記憶保持された学習値は「d1%」のままである。したがって、供給量換算部42bは、基本供給量Tmを換算供給量Tcへ換算するに当たり、アルコール濃度「d1%」を使用する。こうした状態は、時刻t14まで継続する。
この時刻t14以降において、濃度変化前の混合燃料が全て燃焼消費され、変化後の混合燃料が実際に供給され始める。しかし、基本供給量Tmを換算供給量Tcへ換算するに当たり使用されるアルコール濃度は「d1%」に維持されているため、空燃比センサ32のセンサ出力値にリーン側への有意な変動が生じることになる。そのため、残存燃料供給判定部41は、同有意な変動が継続して生じる期間が上記第4判定期間を経過した時刻t15に、残存燃料を燃焼消費したと判定し、学習値更新部42cにその旨出力する。その旨受けた学習値更新部42cは直ちに、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を今回値(d3%)に更新する。したがって、供給量換算部42bは、基本供給量Tmを換算供給量Tcへ換算するに当たり、アルコール濃度「d3%」を使用することになる。
以上のことから、当該燃料供給制御装置が供給量の算出に際し使用する混合燃料のアルコール濃度は、経路「(t11,d1)→(t15,d3)→(t16,d3)」をたどって変化する。
このように、本実施の形態では、記憶保持部42dに記憶保持される学習値が学習値更新部42cによって更新される時期は、早くても、空燃比センサ32のセンサ出力値に有意な変動が生じた時点を起点として第4判定期間が経過した時刻t15である。そのため、残存燃料が燃焼され、濃度変化後(d3%)の混合燃料が燃焼室12へ供給され始めても、第4判定期間が経過するまでは、供給量換算部42bは、変化前濃度(d1%)に対応する値に基づいて基本供給量を換算供給量に換算することとなる。したがって、この第4判定期間が経過する時点t15までにあっては、記憶保持部42dに記憶保持された学習値(d1%)は、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度(d1%→d2%へ変化中)と乖離してしまう。さらには、第4判定期間が経過する時刻t15以後であっても過渡期間が経過する時刻t16まで、記憶保持部42dに記憶保持された学習値(d3%)は、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度(d2%→d3%へ変化中)と乖離してしまう。
しかしながら、従来技術では、既述したように、エミッションが悪化する期間は、混合燃料の濃度変化時から残存燃料が燃焼消費されるまでの期間(時刻t11〜時刻t16)であった一方、本実施の形態では、エミッションが悪化する期間は、最長でも、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度変化の過渡期間(時刻t14〜時刻t16)に限られる。すなわち、本実施の形態によれば、エミッションが悪化する期間の短縮を図ることができるようになる。また、残存燃料を燃焼消費した旨を燃料通路23の容量に関係なく判定することができるようにもなる。
なお、本発明に係る燃料供給制御装置1は、上記第1の実施の形態で例示した構成に限られるものではなく、本実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実行することもできる。
上記第1の実施の形態では、既述したように、残存燃料が全て噴射供給され、燃焼消費されたか否かについて、空燃比センサ32のセンサ出力値に基づいて判定しようとしていた。しかしながら、例えば当該機関10の冷間始動時にあっては、空燃比センサ32はまだ活性化されていないため、空燃比フィードバック制御を行うことはできない。また例えば、空燃比センサ32の故障時にあっては通常、フェイルセーフ処理として、空燃比センサ32のセンサ出力値が一定値に固定されため、やはり、空燃比フィードバック制御を行うことはできない。したがって、上記第1の実施の形態では、空燃比フィードバック条件が成立しないとき、すなわち、先のステップS105の判断処理において「NO」であるとき、残存燃料の燃焼消費に係る判定を行うことができないとし、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じてはいるものの、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、そのまま学習値更新処理を終えていた。しかし、こうした学習値更新処理に限らない。図3に対応する図として図5に示すように、ステップS105の判断処理において「NO」であるとき、ステップS121の判断処理を追加することとしてもよい。すなわち、学習値更新部42cは、空燃比フィードバック条件が成立していなくとも(ステップS105の判断処理において「NO」)、続くステップS121の判断処理において、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定される時点を起点として第1判定期間が経過したか否かを判断し、第1判定期間が経過するとき(ステップS121の判断処理において「YES」)、続くステップS111の処理として、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を上記今回値に更新することとしてもよい。
こうした変形例では、図4に対応する図として図6に示すように、まず、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値が「d2(=d1+10)%」を超える時刻t12において、濃度変化判定部40がアルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨判定するとともに、残存燃料供給判定部41にその旨出力する。残存燃料供給判定部41は、その旨受けた時刻t12を起点として第1判定期間が経過する時刻t17までにおいては、残存燃料が燃焼消費された旨の判定をしない。学習値更新部42cは、その旨を受けていないため、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を更新することなくそのまま維持する。すなわち、記憶保持部42dに記憶保持された学習値は「d1%」のままである。したがって、供給量換算部42bは、基本供給量Tmを換算供給量Tcへ換算するに当たり、アルコール濃度「d1%」を使用する。こうした状態は、時刻t17まで継続する。この期間(時刻t11〜時刻t17)、記憶保持部42dに記憶保持された学習値は、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度と一致する。
一方、残存燃料供給判定部41は、時刻t17においては、残存燃料が実際に全て燃焼消費されていなくても、残存燃料が燃焼された旨残存燃料供給判定部41にて判定され、学習値更新部42cは、その旨を受けるため、記憶保持部42dに記憶保持された学習値を上記今回値に更新する。すなわち、記憶保持部42dに記憶保持された学習値は「d3%」に更新される。したがって、供給量換算部42bは、基本供給量Tmを換算供給量Tcへ換算するに当たり、アルコール濃度「d3%」を使用する。したがって、時刻t17以降、記憶保持部42dに記憶保持された学習値は、残存燃料を燃焼消費するに要する期間(時刻t11〜時刻t14)及び燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度変化の過渡期間(時刻t14〜時刻t16)が経過するまでにおいては、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度と乖離してしまうものの、これら期間(時刻t11〜時刻t14及び時刻t14〜時刻t16)の経過後においては、燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度(d3%)と一致することになる。
このように、従来技術では、エミッションが悪化する期間は、混合燃料の濃度変化時である時刻t11から残存燃料が燃焼消費される時刻t14までの期間であった一方、上記変形例では、混合燃料を燃焼消費するに要する期間(時刻t11〜時刻t14)と燃焼室12内に実際に供給される混合燃料の濃度変化の過渡期間(時刻t14〜時刻t16)とを合わせた期間から、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨判定するのに要した期間(時刻t11〜時刻t12)及び第4判定期間(時刻t12〜時刻t17)を減じた期間に、エミッションが悪化する期間を短縮することができるようになる。
他にも、図3及び図5に対応する図として図7に示すように、そもそも、残存燃料が全て噴射供給され、燃焼消費されたか否かについての判定を、空燃比センサ32のセンサ出力値に基づかない学習値更新処理に変更してもよい。換言すれば、上記ステップS105〜S109及びステップS113の処理を割愛してもよい。詳しくは、図7に示されるように、学習値更新部42cは、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨を受けると(ステップS103の判断処理において「YES」)、空燃比フィードバック条件の成否に係る判断を実行することなく、続くステップS131の判断処理において、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定される時点を起点として第1判定期間が経過したか否かを判断し、第1判定期間が経過するとき(ステップS131の判断処理において「YES」)、続くステップS111の処理として、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を上記今回値に更新することになる。こうした学習値更新処理によっても、所期の目的を達成することはできる。
なお、そうした第1判定期間も、当該フレックス燃料機関10が最大出力状態にあるときに、残存燃料を供給するのに必要とされる期間よりも長期間に予め定められていることとするのが望ましい。通常、燃料通路23の容量を予め計測しておくことができる。また、当該フレックス燃料機関10が最大出力状態にあるとき、最も多量の混合燃料が必要とされるため、燃料を消費する速度は最も早く、そうした速度を予め計測しておくこともできる。これら燃料通路23の容量(残存燃料量)及び燃料消費速度に基づき、残存燃料を全て噴射供給するに必要な最短時間を予め算出しておくことが可能である。そのため、こうした最短時間よりも長期間に上記第1判定期間を定めておけば、最小限ながらも確実に、エミッションの悪化を抑制することができるようになる。
(第2の実施の形態)
次に、この発明に係るフレックス燃料機関の燃料噴射制御装置の第2の実施の形態について、図8を参照しつつ説明する。ここで、図8は、先の図5に対応する図であって、本実施の形態の、学習値更新処理の処理手順を示すフローチャートである。この図8に示されるように、この実施の形態も、先の第1の実施の形態(正確にはその変形例)に準じた処理手順を実行している。
ただし、この実施の形態では、図8に示されるように、残存燃料供給判定部41は、空燃比フィードバック条件が成立しないとき(ステップS105の判断処理において「NO」)、先のステップS121の判断処理に替えて、ステップS211の処理及びステップS213の判断処理を実行している。
詳しくは、先のステップS105の判断処理において「NO」であるとき、残存燃料供給判定部41は、続くステップS211の処理として、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値及び予め計測しておいた燃料通路23の容量に基づいて、当該フレックス燃料機関10が残存燃料を燃焼消費するのに要する吸入空気量(第2判定量)を算出する。そして、残存燃料供給判定部41は、続くステップS213の判断処理として、上記エアーフローメータの出力値に基づき算出される吸入空気量QAの積算値が上記第2判定量を超えるか否かを判定する。ここで、積算吸入空気量が第2判定量を超えると判断されるとき(ステップS213の判断処理において「YES」)、残存燃料を燃焼消費するに要する吸入空気量が燃焼室12内に導入されたことから、残存燃料は燃焼消費されたことを意味する。したがって、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を今回値に更新する。一方、先のステップS213の判断処理において「NO」であるとき、残存燃料はまだ燃焼消費されていないことを意味する。したがって、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、一連の学習値更新処理を一旦終了することとなる。こうした構成によっても、空燃比フィードバック条件の不成立時においては、先の第1の実施の形態の変形例に準じた効果を得ることができるようになる。
なお、本発明に係る燃料供給制御装置1は、上記第2の実施の形態で例示した構成に限られるものではなく、本実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実行することもできる。
上記第2の実施の形態も、先の第1の実施の形態の変形例として示した図7に対応する図として図9に示すように、残存燃料が全て噴射供給され、燃焼消費されたか否かについての判定を、空燃比センサ32のセンサ出力値に基づかない学習値更新処理に変更してもよい。換言すれば、ステップS105〜S109及びステップS113の処理を割愛してもよい。
詳しくは、図9に示されるように、学習値更新部42cは、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨を受けると(ステップS103の判断処理において「YES」)、残存燃料供給判定部41は、続くステップS221の処理として、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値及び予め計測しておいた燃料通路23の容量に基づいて、当該フレックス燃料機関10が残存燃料を燃焼消費するのに要する吸入空気量(第2判定量)を算出する。そして、残存燃料供給判定部41は、続くステップS223の判断処理として、上記エアーフローメータの出力値に基づき算出される吸入空気量QAの積算値が上記第2判定量を超えるか否かを判定する。ここで、積算吸入空気量が第2判定量を超えると判断されるとき(ステップS223の判断処理において「YES」)、残存燃料を燃焼消費するに要する吸入空気量が燃焼室12内に導入されたことから、残存燃料は燃焼消費されたことを意味する。したがって、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を今回値に更新する。一方、先のステップS223の判断処理において「NO」であるとき、残存燃料はまだ燃焼消費されていないことを意味する。したがって、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、一連の学習値更新処理を一旦終了することとなる。こうした学習値更新処理によっても、所期の目的を達成することはできる。
なお、通常、混合燃料を燃焼消費するに要する吸入空気量は、その濃度に応じて大きく変化するため、上記第2の実施の形態(図8)及びその変形例(図9)では、混合燃料の濃度(学習値)に基づきその都度算出していた(ステップS221の処理)が、これに限らず、第2判定量を一定値に固定しておくこととしてもよい。通常、アルコール濃度が低いほど、混合燃料を燃焼消費するに要する吸入空気量が多くなるため、例えばアルコール濃度0%の残存燃料を燃焼消費するに要する吸入空気量を、そうした一定値(第2判定量)として採用することもできる。
(第3の実施の形態)
次に、この発明に係るフレックス燃料機関の燃料噴射制御装置の第3の実施の形態について、図10を参照しつつ説明する。ここで、図10は、先の図5及び図8に対応する図であって、本実施の形態の学習値更新処理の処理手順を示すフローチャートである。この図10に示されるように、この実施の形態も、先の第1の実施の形態(正確にはその変形例)及び第2の実施の形態に準じた処理手順を実行している。
ただし、この実施の形態では、図10に示されるように、残存燃料供給判定部41は、空燃比フィードバック条件が成立しないとき(ステップS105の判断処理において「NO」)、先のステップS121あるいはステップS211及びS213の処理に替えて、ステップS311の判断処理を実行している。
詳しくは、先のステップS105の判断処理において「NO」であるとき、残存燃料供給判定部41は、続くステップS311の処理として、上記供給量換算部42bによって換算される換算供給量Tcの積算量が燃料通路23の容量に余裕を含めた第3判定量を超えるか否かを判定する。ここで、換算供給量Tcの積算量が第3判定量を超えると判断されるとき(ステップS311の判断処理において「YES」)、第3判定量分の混合燃料を噴射供給したことから、残存燃料を全て噴射供給したことを意味する。したがって、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を今回値に更新する。一方、先のステップS311の判断処理において「NO」であるとき、第3判定量分の混合燃料をまだ噴射供給していないことから、残存燃料はまだ全て噴射供給されていないことを意味する。したがって、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、一連の学習値更新処理を一旦終了することとなる。こうした構成によっても、空燃比フィードバック条件の不成立時においては、先の第1の実施の形態の変形例及び先の第2の実施の形態に準じた効果を得ることができるようになる。
なお、本発明に係る燃料供給制御装置1は、上記第3の実施の形態で例示した構成に限られるものではなく、本実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実行することもできる。
上記第3の実施の形態も、先の第1の実施の形態の変形例として示した図7及び第2の実施の形態の変形例として示した図9に対応する図として図11に示すように、残存燃料が全て噴射供給されたか否かについての判定を、空燃比センサ32のセンサ出力値に基づかない学習値更新処理に変更してもよい。換言すれば、ステップS105〜S109及びステップS113の処理を割愛してもよい。
詳しくは、図11に示されるように、学習値更新部42cは、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨を受けると(ステップS103の判断処理において「YES」)、残存燃料供給判定部41は、続くステップS321の処理として、上記供給量換算部42bによって換算される換算供給量Tcの積算量が燃料通路23の容量に余裕を含めた第3判定量を超えるか否かを判定する。ここで、換算供給量Tcの積算量が第3判定量を超えると判断されるとき(ステップS321の判断処理において「YES」)、第3判定量分の混合燃料を噴射供給したことから、残存燃料は全て噴射供給されたことを意味する。したがって、続くステップS111の処理として、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を今回値に更新する。一方、先のステップS321の判断処理において「NO」であるとき、第3判定量分の混合燃料をまだ噴射供給していないことから、残存燃料はまだ全て噴射供給されていないことを意味する。したがって、学習値更新部42cは、記憶保持部42dに記憶保持されている学習値を更新することなく、一連の学習値更新処理を一旦終了することとなる。こうした学習値更新処理によっても、所期の目的を達成することはできる。
なお、そうした第2判定量も、燃料通路23の容量に余裕を含めた量に予め定めていたが、これに限らず、余裕を割愛した値を採用してもよい。
(他の実施の形態)
上記各実施の形態(変形例を含む)では、アルコール濃度センサ25を燃料タンク24に配設していたが、その配設位置はここに限らない。したがって、残存燃料量も、燃料通路23の容量に限らない。アルコール濃度センサ25の配設位置としては、他に、燃料タンク24内に貯留された混合燃料を燃焼室12に供給する燃料通路23に配設することとしてもよい。この場合、残存燃料量は、アルコール濃度センサ25の配設箇所からインジェクタ19までの燃料通路23の容量となる。また、そうしたアルコール濃度センサ25の濃度検出原理も、混合燃料の静電容量に基づく必要はない。要は、混合燃料に主燃料が占める割合である濃度を検出することができれば、アルコール濃度センサ25の濃度検出原理やそれに伴って変わる構成についても任意である。
上記各実施の形態(変形例を含む)では、濃度変化判定部40は、学習値と今回値との間に、例えば10%を超える急激な変化が生じることをもって、有意な変化が生じた旨判定していたが、第6判定量は「10%」に限らない。要は、アルコール濃度センサ25のセンサ出力値に有意な変化が生じた旨を判定することができればよいのであって、「10%」に限らず任意である。
上記各実施の形態(変形例を含む)では、基本供給量Tmを算出する基本供給量算出部42a及び基本供給量Tmを換算供給量Tcに換算する供給量換算部42bを含んで供給量算出部42を構成していたが、これに限らない。要は、有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定されて以後、残存燃料が供給された旨残存燃料供給判定部41にて判定されるまで、有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定される前の変化前濃度に基づいて燃焼室12内への混合燃料の供給量を算出するとともに、残存燃料が供給された旨残存燃料供給判定部41にて判定されて以後、有意な変化が生じた旨濃度変化判定部40にて判定された後の変化後濃度に基づいて、燃焼室12内への混合燃料の供給量を算出するよう、供給量算出部42を構成すればよい。
上記各実施の形態(変形例を含む)では、主燃料としてアルコールを、副燃料としてガソリンを、それぞれ採用していたが、これに限らない。他に例えば、主燃料としてアルコール濃度の高い混合燃料を、副燃料としてアルコール濃度の低い(ガソリン濃度の高い)混合燃料を、それぞれ採用することとしてもよい。要は、主燃料と、該主燃料よりも燃焼性能の高い副燃料を用いるフレックス燃料機関であれば、この発明を同様に適用することができる。