(第1実施形態)
図1は第1実施形態による車両用空調装置の冷凍サイクルRを示す。車両用空調装置の冷凍サイクルRは冷媒を吸入、圧縮、吐出する圧縮機1を有し、この圧縮機1には動力断続用の電磁クラッチ2が備えられている。圧縮機1には電磁クラッチ2およびベルト3を介して車両エンジン4の動力が伝達されるので、電磁クラッチ2への通電を空調用制御装置5により断続することにより圧縮機1の運転が断続される。
圧縮機1から吐出された高温、高圧の過熱気相冷媒は高圧側熱交換器をなす凝縮器6に流入し、図示しない冷却ファンより送風される外気と熱交換して冷却され凝縮する。凝縮器6は凝縮部6aと、凝縮部6aを通過した後の冷媒の気液を分離して液冷媒を溜めるとともに液冷媒を導出する受液器6bと、受液器6bからの液冷媒を過冷却する過冷却部6cとを一体に構成した周知のものである。
この過冷却部6cからの過冷却液冷媒は減圧手段をなす膨張弁7により低圧に減圧され、低圧の気液2相状態となる。膨張弁7は冷房用熱交換器をなす蒸発器8の出口冷媒の過熱度を調節するように弁7aの開度(冷媒流量)を調節する温度式膨張弁である。特に、本例では、蒸発器8の出口冷媒が流れる蒸発器出口冷媒通路7bをボックス型のハウジング7c内に構成して、蒸発器8の出口冷媒の感温機構をハウジング7c内に一体構成するタイプの温度式膨張弁7を用いている。
蓄冷ユニット9は図1の2点鎖線枠内の機器を図2に示す1つのタンク部材10の内部に一体的に構成しているものであって、タンク部材10は上下方向に延びる円筒状の形状であり、その下部に低温の低圧液冷媒を溜める液冷媒タンク部10aを一体に構成している。
そして、タンク部材10内部において、液冷媒タンク部10aの上方部に蓄冷熱交換器11を構成している。この蓄冷熱交換器11は具体的には、蓄冷材11a’を封入した多数の蓄冷材容器11aをその容器相互間に冷媒が流通する隙間部を形成する状態で配置している。この多数の蓄冷材容器11aの上下両側に冷媒流通穴を有する保持板11b、11cを配置し、この保持板11b、11cの外周部をタンク部材10の内壁面に固定している。
ここで、蓄冷材容器11aの形態は具体的には図3(a)に示す冷媒流れ方向に沿って細長く延びる円筒状からなる円筒(スティック)タイプ、図3(b)に示すボールタイプ、図3(c)に示すカプセルタイプのいずれでもよい。蓄冷材容器11aは樹脂製の薄膜状パック部材、あるいはアルミニュウム等の金属板材で形成することができる。
蓄冷材容器11a内に封入する蓄冷材11a’としては、低圧冷媒により冷却されて相変化(液相→固相)して凝固潜熱を蓄冷できる材料、すなわち、低圧冷媒温度よりも高い温度で凝固する材料を選択する。
ここで、低圧冷媒温度は蒸発器8でのフロスト防止のために、通常3〜4℃程度の温度に制御され、また、冷房時における車室内吹出空気温度の目標上限温度は冷房フィーリングの確保、蒸発器8からの悪臭防止等のために、通常は12℃〜15°程度の温度に設定される。
従って、蓄冷材11a’としては、凝固点が上記低圧冷媒温度と冷房時吹出空気温度の目標上限温度との間に位置する材料が好ましく、具体的には、凝固点が6℃〜8℃程度のパラフィンが最適である。もちろん、低圧冷媒温度を0℃以下に制御すれば、蓄冷材11a’として水(氷)を使用することもできる。
蓄冷材11a’の蓄冷状態(凝固状態)を維持するためには、タンク部材10内部を蓄冷材11a’の凝固点以下の低温状態に維持する必要があるため、タンク部材10は断熱タンクとして構成する必要がある。従って、タンク部材10は断熱性に優れた樹脂タンク、あるいは金属タンク表面に断熱材を貼り付けたもの等を用いる。
なお、蓄冷熱交換器11をシェルアンドチューブタイプの熱交換器として構成してもよく、その場合はシェル(タンク)内部に配置されるチューブにサイクル低圧冷媒を流通させ、そして、シェル(タンク)内部においてチューブの外側空間に蓄冷材11a’を充填してサイクル低圧冷媒により冷却すればよい。
次に、蓄冷ユニット9と冷凍サイクル冷媒通路との接続関係を説明すると、タンク部材10の上面には、膨張弁7の弁部7aを通過して減圧された低温の低圧冷媒が流入する入口パイプ12が配置してある。この入口パイプ12は冷媒流入部を構成するものであって、この入口パイプ12からタンク部材10内において蓄冷熱交換器11の上面部に低温の低圧冷媒が流入する。
タンク部材10内において蓄冷熱交換器11の下面部には第1逆止弁13が配置してある。この第1逆止弁13の入口13bは蓄冷熱交換器11の下方空間に常時連通しており、第1逆止弁13の弁体13aに対して入口13bから出口13cの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体13aが弁座部13dから開離して開弁状態となる。逆に、弁体13aに対して出口13cから入口13bの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体13aが弁座部13dに圧着して閉弁状態となる。ストッパ13eは弁体13aの全開位置を規定するものである。
タンク部材10の中心部には出口通路部をなす出口パイプ14が蓄冷熱交換器11の中心部を貫通して上下方向に延びるように配置されている。この出口パイプ14の上端側はタンク部材10の上面を貫通してタンク外部へ取り出され、図1に示すように蒸発器8の入口部に接続される。
一方、出口パイプ14の下端側は液冷媒タンク部10aの液冷媒貯留領域まで垂下しており、そして、出口パイプ14の下端部に液冷媒循環用のポンプ手段をなす電動ポンプ15が設けてある。この電動ポンプ15はその底面部側に吸入口15aを配置し、この吸入口15aから液冷媒タンク部10aの液冷媒を吸入して出口パイプ14を通して蒸発器8に循環させるものである。
出口パイプ14には上下方向の中間部に接続口14aが開口し、この接続口14aに第1逆止弁13の出口13cを接続している。従って、膨張弁7の弁部7aの出口通路から入口パイプ12、蓄冷熱交換器11、第1逆止弁13、および出口パイプ14を経て蒸発器8の入口に至る冷媒通路が形成され、蓄冷熱交換器11は蒸発器8の入口側通路に直列に設けられている。
また、タンク部材10の上面には、蒸発器8出口からの冷媒をタンク部材10内に流入させる冷媒流入部をなす冷媒戻しパイプ16が設けてある。この冷媒戻しパイプ16の一端側(上端側)は蒸発器8の出口冷媒配管17に接続してあり、冷媒戻しパイプ16の他端側(下端側)はタンク部材10の上面を貫通してタンク部材10内に配置された第2逆止弁18に接続される。
より具体的に説明すると、蒸発器8の出口冷媒配管17は膨張弁7内部の蒸発器出口冷媒通路7bに接続されるものであり、この蒸発器出口冷媒通路7bよりも上流側部位にて冷媒戻しパイプ16の一端が出口冷媒配管17に接続される。また、タンク部材10内の空間の最上部に第2逆止弁18が配置され、第2逆止弁18の入口18bが冷媒戻しパイプ16の他端側(下端側)に接続される。第2逆止弁18の出口18cは蓄冷熱交換器11の上面部に対向配置されている。
第2逆止弁18は第1逆止弁13と同様のものであり、第2逆止弁18の弁体18aに対して入口18bから出口18cの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体18aが弁座部18dから開離して開弁状態となる。逆に、弁体18aに対して出口18cから入口18bの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体18aが弁座部18dに圧着して閉弁状態となる。ストッパ18eは弁体18aの全開位置を規定するものである。
なお、本例では、蓄冷ユニット9のタンク部材10の上面に膨張弁7を配置して、膨張弁7も蓄冷ユニット9の一部分として一体化し、膨張弁7と蓄冷ユニット9を一体状態にて車両に搭載するようにしてある。
蓄冷ユニット9はタンク部材10内部の低温状態を維持するためにはタンク部材10内部への熱の侵入をできるだけ抑制した方が良い。そのためには、蓄冷ユニット9を車室内、例えば、車室内前部の計器盤内側等に設置した方が良い。しかし、車室内のスペース的制約から車室内に蓄冷ユニット9の搭載スペースを確保できない場合は、蓄冷ユニット9を車室外、例えば、エンジンルーム等に設置することになる。
図4は空調室内ユニット20を示すものであり、空調室内ユニット20は通常、車室内前部の計器盤内側に搭載される。空調室内ユニット20の空調ケース21は車室内へ向かって送風される空気の通路を構成するものであり、この空調ケース21内に蒸発器8が設置されている。
空調ケース21において、蒸発器8の上流側には送風機22が配置され、送風機22には遠心式送風ファン22aと駆動用モータ22bが備えられている。送風ファン22aの吸入側には内外気切替箱23が配置され、この内外気切替箱23内の内外気切替ドア23aにより外気(車室外空気)または内気(車室内空気)が切替導入される。
空調ケース21内で、蒸発器8の下流側にはエアミックスドア24が配置され、このエアミックスドア24の下流側には車両エンジン4の温水(冷却水)を熱源として空気を加熱する温水式ヒータコア25が暖房用熱交換器として設置されている。
そして、この温水式ヒータコア25の側方(上方部)には、温水式ヒータコア25をバイパスして空気(冷風)を流すバイパス通路26が形成されている。エアミックスドア24は回動可能な板状ドアであり、温水式ヒータコア25を通過する温風とバイパス通路26を通過する冷風との風量割合を調節するものであって、この冷温風の風量割合の調節により車室内への吹出空気温度を調節する。従って、エアミックスドア24は車室内への吹出空気の温度調節手段を構成する。
温水式ヒータコア25からの温風とバイパス通路26からの冷風を空気混合部27で混合して、所望温度の空気を作り出すことができる。さらに、空調ケース21内で、空気混合部27の下流側に吹出モード切替部が構成されている。すなわち、車両フロントガラス内面に空気を吹き出すデフロスタ開口部28、車室内乗員の上半身側に向けて空気を吹き出すフェイス開口部29、および車室内乗員の足元に向けて空気を吹き出すフット開口部30を吹出モードドア31〜33により開閉するようになっている。
蒸発器8の温度センサ34は空調ケース21内で蒸発器8の空気吹出直後の部位に配置され、蒸発器吹出温度Teを検出する。ここで、蒸発器温度センサ34により検出される蒸発器吹出温度Teは、通常の空調装置と同様に、圧縮機1の電磁クラッチ2の断続制御や、圧縮機1が可変容量型である場合はその吐出容量制御に使用され、これらのクラッチ断続制御や吐出容量制御により蒸発器8の冷却能力を調節して、蒸発器8の吹出温度を制御する。
図1に示すように、空調用制御装置5には、上記の温度センサ34の他に、空調制御のために、内気温Tr、外気温Tam、日射量Ts、温水温度Tw等を検出する周知のセンサ群35から検出信号が入力される。また、車室内計器盤近傍に設置される空調制御パネル36の操作スイッチ群の操作信号も空調用制御装置5に入力される。
空調制御パネル36には乗員により手動操作される温度設定スイッチ、風量切替スイッチ、吹出モードスイッチ、内外気切替スイッチ、圧縮機1のオンオフ信号を発生するエアコンスイッチ等の種々な操作スイッチ群(図示せず)が備えられている。
また、空調用制御装置5はエンジン用制御装置37に接続されており、エンジン用制御装置37から空調用制御装置5には車両エンジン4の回転数信号、車速信号等が入力される。
エンジン用制御装置37は周知のごとく車両エンジン4の運転状況等を検出するセンサ群38からの信号に基づいて車両エンジン4への燃料噴射量、点火時期等を総合的に制御するものである。さらに、本実施形態の対象とするエコラン車においては、車両エンジン4の回転数信号、車速信号、ブレーキ信号等に基づいて停車状態を判定すると、エンジン用制御装置37は、点火装置の電源遮断、燃料噴射の停止等により車両エンジン4を自動的に停止させる。
また、エンジン停止後、運転者の運転操作により車両が停車状態から発進状態に移行すると、エンジン用制御装置37は車両の発進状態をアクセル信号等に基づいて判定して、車両エンジン4を自動的に始動させる。なお、空調用制御装置5は、車両エンジン4停止後の放冷冷房モードの時間が長時間に及び、蓄冷熱交換器11の蓄冷熱量による冷房を持続できない状態になった時、すなわち、蒸発器吹出温度Teが所定の目標上限温度まで上昇した時は、エンジン再稼働要求の信号をエンジン用制御装置37に出力する。
空調用制御装置5およびエンジン用制御装置37はCPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータと、その周辺回路にて構成されるものである。なお、空調用制御装置5およびエンジン用制御装置37を1つの制御装置として統合してもよい。
次に、上記構成において第1実施形態の作動を説明する。図5は車両走行時の通常冷房・蓄冷モード時の作動を示すものであり、この通常冷房・蓄冷モード時では車両エンジン4によって圧縮機1を駆動することにより冷凍サイクルRが運転される。
従って、圧縮機1から吐出された高圧気相冷媒が凝縮器6にて冷却され、過冷却状態の液冷媒となって膨張弁7に流入する。この膨張弁7の弁部7aで高圧液冷媒が減圧されて低温低圧の気液2相状態となり、入口パイプ12から蓄冷ユニット9のタンク部材10内に流入する。この流入冷媒はタンク部材10内において蓄冷熱交換器11の上面部から多数の蓄冷材容器11a相互間の隙間部を下方へと流れる。
ここで、蓄冷熱交換器11の下面部に位置する第1逆止弁13の弁体13aに対して入口13bから出口13cの方向(順方向)に冷媒圧力が作用して、第1逆止弁13が開弁するので、蓄冷熱交換器11の下側空間が第1逆止弁13を介して出口パイプ14の中間部の接続口14aに連通する。
また、通常冷房・蓄冷モード時は液冷媒循環用の電動ポンプ15の作動が不要であるため、空調制御装置5の出力により電動ポンプ15が停止している。このため、電動ポンプ15が流通抵抗となり、蓄冷熱交換器11の下側空間の冷媒が電動ポンプ15を介して出口パイプ14の下端部に流入する量は僅少である。
従って、蓄冷熱交換器11の下側空間の冷媒の大部分は第1逆止弁13を介して出口パイプ14の中間部の接続口14aに流入する。このとき、第2逆止弁18の弁体18aに対しては出口18cから入口18bの方向(逆方向)に冷媒圧力が作用して、第2逆止弁18は閉弁状態を維持する。
出口パイプ14に流入した低圧冷媒は蒸発器8の入口部に流入し、蒸発器8において空調ケース21内の送風空気から吸熱して蒸発し、気相冷媒となる。この気相冷媒は、蒸発器8の出口冷媒配管17および膨張弁7内部の蒸発器出口冷媒通路7bを経て圧縮機1に吸入され、再度圧縮される。蒸発器8にて吸熱された冷風はフェイス開口部29等から車室内へ吹き出して車室内を冷房する。
次に、通常冷房・蓄冷モード時における蓄冷ユニット9のタンク部材10内部での冷媒の挙動をより具体的に説明すると、夏期の高外気温時に冷房を始動する場合には蒸発器8の吸い込み空気温度が40℃以上にも及ぶ高温となり、蒸発器8の冷房熱負荷が非常に大きくなる。このような冷房高負荷条件の下では、蒸発器8の出口冷媒の過熱度が過大となり、膨張弁7の弁部7aの開度が全開となり、冷凍サイクルの低圧圧力が上昇する。
そのため、蓄冷ユニット9の蓄冷熱交換器11に流入する低圧冷媒の温度が蓄冷熱交換器11の蓄冷材11a’の凝固点(6〜8℃程度)より高い温度となる。従って、蓄冷材11a’は低圧冷媒との熱交換で凝固せず、蓄冷材11a’から顕熱分を吸熱するだけである。その結果、冷房高負荷条件では低圧冷媒が蓄冷熱交換器11にて吸熱する熱量は僅少量となる。そのため、低圧冷媒のほとんどは蓄冷熱交換器11を持たない通常の空調装置と同様に蒸発器8にて車室内吹出空気から吸熱して蒸発する。
なお、冷房高負荷時には、通常、図4の内外気切替箱23から内気を吸入する内気モードが選択されるから、冷房始動後の時間経過により蒸発器8の吸い込み空気温度が低下し、冷房熱負荷が低下する。これにより、蒸発器8の出口冷媒の過熱度が減少するので、膨張弁7の弁部7aの開度が減少し、冷凍サイクルの低圧圧力が低下し、低圧冷媒温度が低下する。
そして、低圧冷媒温度が蓄冷熱交換器11の蓄冷材11a’の凝固点より低下すると、蓄冷材11a’の凝固が開始され、低圧冷媒は蓄冷材11a’から凝固潜熱を吸熱するので、蓄冷材11a’からの吸熱量が増加する。しかし、蓄冷材11a’がこのように凝固潜熱を蓄冷する段階に至った時点では、既に、冷房熱負荷の低下により低圧冷媒温度が十分低下し、車室内吹出空気が十分低下している。
従って、蓄冷材11a’への凝固潜熱の蓄冷作用によって、冷房高負荷条件における急速冷房性能(クールダウン性能)が大きく阻害されることがない。換言すると、蓄冷熱交換器11を冷房用蒸発器8の冷媒回路に直列接続しても、冷房高負荷条件における急速冷房性能を、僅少量低下させるだけであり、良好に発揮できる。
そして、冷房熱負荷が低下して蓄冷材11a’が凝固する時には、サイクル内の循環冷媒流量が減少し、蓄冷ユニット9のタンク部材10内での冷媒流速が低下して、気液2相状態の低圧冷媒の気液分離が起こりやすくなる。これにより、タンク部材10の下部に形成されている液冷媒タンク部10aに液冷媒が重力により落下し、徐々に溜まっていく。
図2は液冷媒タンク部10aに液冷媒が最大量溜まった状態を示している。すなわち、液冷媒タンク部10aにおける貯留液冷媒の液面が上昇して、第1逆止弁13の設置高さに到達すると、液冷媒タンク部10aの液冷媒は第1逆止弁13を通して蒸発器8に送り込まれるから、第1逆止弁13の設置高さより貯留液冷媒の液面が上昇することはない。換言すると、第1逆止弁13は貯留液冷媒の最大量を決める役割を果たしている。
次に、信号待ち等の停車時に車両エンジン4を自動的に停止する場合について説明すると、停車時には空調作動状態(送風機22の作動状態)であっても、車両エンジン4の停止に伴って冷凍サイクルRの圧縮機1も強制的に停止状態となる。そこで、空調用制御装置5ではこの停車時のエンジン(圧縮機)停止状態を判定して、蓄冷ユニット9内の電動ポンプ15に給電し、電動ポンプ15を作動させる。
これにより、タンク部材10下部の液冷媒タンク部10aに溜まっている液冷媒を電動ポンプ15が吸入して、出口パイプ14を介して蒸発器8の入口側に液冷媒を吐出する。この電動ポンプ15による液冷媒の吸入、吐出作用によって、第1逆止弁13には冷媒圧力が逆方向に作用して第1逆止弁13は閉弁する。これに反し、第2逆止弁18には冷媒圧力が順方向に作用して第2逆止弁18は開弁する。
そのため、図6の矢印に示すように、液冷媒タンク部10a→電動ポンプ15→出口パイプ14→蒸発器8→出口冷媒配管17→冷媒戻しパイプ16→第2逆止弁18→蓄冷熱交換器11→液冷媒タンク部10aからなる冷媒循環回路で冷媒が循環する。
従って、蒸発器8では液冷媒タンク部10aからの液冷媒が送風機22の送風空気から吸熱して蒸発するので、圧縮機停止後においても蒸発器8の冷却作用を継続でき、車室内の冷房作用を継続できる。蒸発器8で蒸発した気相冷媒の温度は蓄冷熱交換器11の蓄冷材11a’の凝固点より高いので、蓄冷材11a’は気相冷媒から融解潜熱を吸熱して固相から液相に相変化(融解)する。これにより、気相冷媒は蓄冷材11a’により冷却され凝縮する。この液冷媒は重力により落下して液冷媒タンク部10aに蓄えられる。
そして、蓄冷材11a’が液相に相変化していくことにより、液冷媒タンク部10a内の液冷媒量が減少していくが、液冷媒タンク部10a内の液冷媒が残存している間、停車時(圧縮機停止時)の車室内冷房作用を継続できる。
なお、信号待ちによる停車時間は通常、1〜2分程度の短時間であるから、蓄冷材11a’として、凝固点=6℃、凝固潜熱=229kJ/kgのパラフィンを、420g程度用いることにより、1〜2分程度の停車時の間、車室内冷房作用を継続できることを確認している。
次に、第1実施形態の作用効果を説明する。
(1)前述の従来技術(特開2000−313226号公報)では、比較的容積の大きい蓄冷熱交換器40と蓄液タンク43とを別体に構成する必要があり、また、蓄液タンク43と電動ポンプ42とを別体に構成する必要があって、車両搭載スペースが増大し、空調装置の車両搭載性が悪化するが、第1実施形態では、蓄冷熱交換器11を蒸発器8の入口側に直列接続する冷媒回路構成とし、そして、タンク部材10の内部に蓄冷熱交換器11を配置するとともに、タンク部材10の下部に液冷媒タンク部10aを一体に形成し、膨張弁7出口からの低圧冷媒が蓄冷熱交換器11と熱交換した後に蒸発器8に導入されるようにしている。
しかも、第1実施形態によると、電動ポンプ15と液冷媒タンク部10aとの間に従来技術の3方分岐配管44のような特別の分岐配管を設定する必要がないので、電動ポンプ15をタンク部材10下部の液冷媒タンク部10aの液冷媒中に直接、浸漬するように配置できる。
以上により、従来技術の蓄冷熱交換器40、蓄液タンク43および電動ポンプ42に相当する部分を1つのタンク部材10に一体化できる。これにより、蓄冷および放冷冷房機能のための蓄冷ユニット9を極めてコンパクトに構成できる。従って、このコンパクトな1つの蓄冷ユニット9を車両空調用の一般的な冷凍サイクルに追加するだけでよく、空調装置の車両搭載性を従来技術より大幅に向上できる。
(2)停車時の放冷冷房モード時に、蒸発器8の出口からの冷媒をタンク部材10内に流入させる冷媒流入部、すなわち、冷媒戻しパイプ16を蓄冷熱交換器11の上部に設け、蓄冷熱交換器11の下部に電動ポンプ15および液冷媒タンク部10aを配置しているから、蓄冷熱交換器11で凝縮した液冷媒を重力にて速やかに液冷媒タンク部10aに落下できる。
このため、蓄冷熱交換器11の蓄冷材容器11aの表面に液冷媒が淀むことがない。この結果、蓄冷熱交換器11において気相冷媒と蓄冷材容器11aとが直接、接する伝熱面積を常に確保できる。
これにより、放冷冷房モード時に気相冷媒と蓄冷材容器11aとの間の熱交換を効率よく行うことができるので、蓄冷熱交換器11における気相冷媒の凝縮能力を常に良好に維持できる。従って、放冷冷房モード時に蒸発器8への液冷媒供給流量を良好に確保して、放冷冷房能力を良好に発揮できる。
また、上記のように、蓄冷熱交換器11をタンク部材10内にて液冷媒タンク部10aの上方に配置することにより、蓄冷熱交換器11表面での液冷媒の淀みを防止できるので、蓄冷熱交換器11自体を蒸発器8を内蔵する空調室内ユニット20の上方に配置するという必要性はなく、車両搭載上、配置レイアウトの自由度が増して非常に有利である。
(3)タンク部材10内において蓄冷熱交換器11の下方に電動ポンプ15および液冷媒タンク部10aを配置して、電動ポンプ15を液冷媒タンク部10aの液冷媒中に直接、浸漬するように配置するから、車両が何時停車しても、放冷モード開始と同時に電動ポンプ15はその駆動直後から直ちに液冷媒を吸入、吐出できる。従って、放冷モード時に電動ポンプ15がガス冷媒を吸入して蒸発器8への冷媒供給流量が低下するといった不具合が発生せず、車両の停車直後から即時、放冷冷房の機能を良好に発揮できる。
(4)車両走行時の通常冷房・蓄冷モード時に、膨張弁7出口からの低圧冷媒をタンク部材10内に流入させる冷媒流入部、すなわち、入口パイプ12をタンク部材10の上部に設け、そして、タンク部材10内において蓄冷熱交換器11の下側に逆止弁13を設けて、蓄冷熱交換器11の下側の冷媒が逆止弁13および出口パイプ14を通して蒸発器8の入口側に導入されるようにしている。
従って、通常冷房・蓄冷モード時においても、低圧冷媒が蓄冷熱交換器11の上部から下部へと重力方向に沿ってスムースに冷媒が流れ、蓄冷熱交換器11下側の逆止弁13および出口パイプ14を通して低圧冷媒を蒸発器8の入口側にスムースに導入できる。
そして、蓄冷熱交換器11の蓄冷完了後の余剰液冷媒は下方の液冷媒タンク部10aへ重力によりスムースに落下させることができる。また、液冷媒タンク部10aに溜まる余剰液冷媒の最大液面高さ(最大液冷媒貯留量)を前述のように蓄冷熱交換器11下側の逆止弁13の位置によって規定できるので、逆止弁13の位置まで余剰液冷媒の液面高さが上昇すると、これ以後は、余剰液冷媒が気液混合状態となって蒸発器8に導入される。すなわち、液冷媒タンク部10aが存在しない状態と等価の状況で冷凍サイクルは作動する。
(5)次に、本実施形態による「冷房用蒸発器8に対して蓄冷熱交換器11を直列接続する」ことの有利さを従来技術との対比により詳述する。前述の従来技術(特開2000−313226号公報)では、空調用冷凍サイクルRにおいて蓄冷材40aを内蔵する蓄冷熱交換器40を冷房用蒸発器8と並列に設けているので、蓄冷熱交換器40の冷媒通路を冷凍サイクルの運転状況に応じて電磁弁41により開閉することが必須となる。
これに反し、本実施形態によると、冷房用蒸発器8に対して蓄冷熱交換器11を直列接続しているから、夏期の冷房始動時のように冷房熱負荷が非常に高い条件においても、サイクル循環冷媒流量の全量が冷房用蒸発器8を通過するから、蓄冷熱交換器11の追加により冷房用蒸発器8への循環冷媒流量が減少することはない。
しかも、蓄冷熱交換器11における蓄冷材11a’の凝固点を前述のように冷房時吹出空気温度の目標上限温度(12〜15℃程度)よりも低い温度(6〜8℃程度)に設定することにより、冷房高熱負荷条件における低圧冷媒の温度よりも蓄冷材11a’の凝固点が低い温度となる。このため、冷房高熱負荷条件では蓄冷材11a’は低圧冷媒との熱交換で凝固せず、顕熱分の吸熱が僅かに行われるだけである。
そのため、低圧冷媒の大部分は蓄冷熱交換器11を持たない通常の空調装置と同様に蒸発器8にて車室内吹出空気から吸熱して蒸発する。つまり、蓄冷熱交換器11への冷媒流れの切替のための特別の操作を行わなくても、冷房高熱負荷条件における冷房用蒸発器8の最大冷却能力を良好に発揮できる。
その結果、車両走行時の通常冷房・蓄冷モードと、停車時の放冷冷房モードとの間での冷媒流れは、電磁弁に比して大幅に低コストで小型な逆止弁13、18によって切り替えることができる。
(6)また、蓄冷熱交換器11における蓄冷材11a’の凝固が完了し、蓄冷完了状態になると、蓄冷熱交換器11における低圧冷媒の吸熱はほとんどなくなるが、蓄冷熱交換器11を冷房用蒸発器8の入口側に配置しているため、膨張弁7は蒸発器8の出口冷媒の過熱度を感知して冷媒流量を調節できる。従って、蓄冷完了後においても、蒸発器8の冷房熱負荷に応じた適切な冷媒流量を蒸発器8に供給できる。
なお、第1実施形態において、蓄冷熱交換器11をもし蒸発器8の出口側に配置すると、蓄冷材11a’の蓄冷完了状態では蒸発器8の出口冷媒が過熱度を持っていても蒸発器8の出口冷媒が蓄冷材11a’により冷却されて過熱度が小さくなってしまい、その結果、膨張弁7の開度が減少して、蒸発器8の冷房熱負荷に対して冷媒流量が過小になるという不具合が生じるが、蓄冷熱交換器11を冷房用蒸発器8の入口側に配置することにより、このような不具合が生じない。
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、減圧手段として膨張弁7を用い、膨張弁7により蒸発器8の出口冷媒の過熱度を調節する冷凍サイクルについて説明したが、第2実施形態は蒸発器8の出口側(圧縮機1の吸入側)にアキュムレータを配置し、このアキュムレータにおいて蒸発器出口冷媒の気液を分離して液冷媒を溜めて、気相冷媒を圧縮機1に吸入させるアキュムレータ式の冷凍サイクルに蓄冷熱交換器11を組み合わせるものである。
図7〜図10は第2実施形態を示すもので、前述の図1、図2、図5、図6に対応するものであり、第1実施形態と同等部分には同一符号を付して説明を省略する。また、制御装置5、37等の電気制御部は第1実施形態と同じであるので、図7〜図10ではこの電気制御部の図示を省略している。
アキュムレータ式の冷凍サイクルにおいては、蒸発器8の出口側にタンク状のアキュムレータを配置するので、第2実施形態ではこのアキュムレータに着目して蓄冷ユニット9をアキュムレータと一体に構成する。
すなわち、第2実施形態では、図8に示すように蓄冷ユニット9のタンク部材10の上面部に蒸発器8の出口からの冷媒を受け入れる入口パイプ120を設け、この入口パイプ120により蒸発器8の出口冷媒をタンク部材10内の上部に流入させる。従って、入口パイプ120により蒸発器出口冷媒の流入部が構成される。
一方、タンク部材10の下部に液冷媒を溜める液冷媒タンク部10aを一体に形成している。蓄冷熱交換器11は第1実施形態と同様のものであり、タンク部材10内の上部に配置され、入口パイプ120からの流入冷媒が多数の蓄冷材容器11a相互の隙間部を通過して下方へ流れる。
タンク部材10の内部には、第1、第2の2つの出口パイプ141、142が配置してある。第1出口パイプ141は通常のアキュムレータにおける出口パイプに相当するものであり、そのため、第1出口パイプ141はU状に曲げ形成され、U状の底部にオイル戻し穴141aを開口し、このオイル戻し穴141aから液冷媒中に含まれる圧縮機潤滑用オイルを吸い込むようになっている。
また、第1出口パイプ141のU状一端部に気相冷媒吸入口141bを設け、この気相冷媒吸入口141bをタンク部材10内の下部の液冷媒タンク部10aに溜まる液冷媒よりも上方の空間に開口する。これにより、タンク部材10内の上部の気相冷媒を気相冷媒吸入口141bから第1出口パイプ141内に吸入するようになっている。第1出口パイプ141の他端側はタンク部材10の上面部からタンク外部へ取り出して、圧縮機1の吸入側に接続するようになっている。
また、第1出口パイプ141において、気相冷媒吸入口141bの下流側(下方側)には冷媒中の水分を吸収する乾燥剤を内蔵する乾燥剤ユニット141cが配置してある。
一方、第2出口パイプ142は停車時の放冷冷房モード時の冷媒循環回路の出口通路部を構成するものであり、その下端部を液冷媒タンク部10aの液冷媒中に位置させ、第2出口パイプ142の下端部に液冷媒循環用ポンプ手段をなす電動ポンプ15を設け、電動ポンプ15の下端部の吸入口15aから液冷媒を吸入して第2出口パイプ142に吐出する。電動ポンプ15は本例も液冷媒タンク部10aの液冷媒中に浸漬するように配置されている。
第2出口パイプ142の他端側もタンク部材10の上面部からタンク外部へ取り出してあり、第2出口パイプ142のうちタンク部材10の上面部の上方部位に逆止弁18を配置している。これにより、第2出口パイプ142の他端側は、逆止弁18を介して蒸発器8の入口配管143に接続してある。この入口配管143は減圧装置70の出口側と蒸発器8の入口側との間を結合する配管である。
逆止弁18は図2の第2逆止弁18と同様のものであり、弁体18aに対して入口18bから出口18cの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体18aが弁座部18dから開離して開弁状態となる。図8は逆止弁18の開弁状態を示す。逆に、弁体18aに対して出口18cから入口18bの方向に冷媒圧力が作用するときは弁体18aが弁座部18dに圧着して閉弁状態となる。
第2出口パイプ142には、第1出口パイプ141の気相冷媒吸入口141bの上方側と蓄冷熱交換器11の下方側との間に板部材142aを設け、この板部材142aにより気相冷媒吸入口141bの周辺部の液冷媒液面に上方から冷媒流が衝突することを防止している。それにより、冷媒流衝突による冷媒液面の波立ちを防止するとともに、気液分離後の気相冷媒を圧縮機吸入側に確実に戻すことができる。
なお、第2実施形態はアキュムレータ式の冷凍サイクルに関するものであって、アキュムレータタンクの役割を兼ねるタンク部材10にて蒸発器出口冷媒の気液を分離して液冷媒を溜める。そして、第1出口パイプ141の気相冷媒吸入口141bから気相冷媒を吸入して圧縮機1の吸入側に送り込むことができる。
従って、蒸発器出口冷媒の過熱度の調節を行わなくても圧縮機1の液冷媒圧縮を防止できるので、第2実施形態では減圧装置70としてキャピラリチューブ、オリフィス等の固定絞り、あるいは高圧冷媒圧力に応動する可変絞り等を使用することができる。これらの減圧装置70は、過熱度制御機構を持つ温度式膨張弁7に比して構成が簡素で、安価である。
図9は第2実施形態による車両走行時の通常冷房・蓄冷モードであり、車両エンジン4により圧縮機1が駆動されることにより、図9の矢印で示す回路、すなわち、圧縮機1の吐出側→凝縮器6→減圧装置70→入口配管143→蒸発器8→入口パイプ120→蓄冷熱交換器11→第1出口パイプ141→圧縮機1の吸入側に至る回路にて冷媒が循環し、蒸発器8にて低圧冷媒が空調ケース21内の送風空気から吸熱して蒸発することにより送風空気が冷却され車室内の冷房を行うことができる。
また、蓄冷熱交換器11において蓄冷材11a’を低圧冷媒により冷却して凝固させることにより蓄冷材11a’への蓄冷を行う。なお、通常冷房・蓄冷モードでは、電動ポンプ15は第1実施形態と同様に停止しており、また、逆止弁18は閉弁している。
図10は第2実施形態による停車時の放冷冷房モードであり、このときは電動ポンプ15を作動させ、図10の矢印で示す回路により冷媒を循環させる。すなわち、タンク部材10下部の液冷媒タンク部10a内の液冷媒を電動ポンプ15にて吸入、吐出することにより、電動ポンプ15→第2出口パイプ142→逆止弁18(開弁状態)→入口配管143→蒸発器8→入口パイプ120→蓄冷熱交換器11→液冷媒タンク部10aに至る回路にて冷媒が循環する。
これにより、液冷媒タンク部10aの貯留液冷媒を蒸発器8に循環するとともに、蒸発器8で蒸発した気相冷媒を蓄冷熱交換器11により冷却、液化させることにより、第1実施形態と同様に第2実施形態でも停車時の放冷冷房機能を良好に発揮できる。
ところで、第2実施形態においても、液冷媒タンク部10aを一体形成したタンク部材10内に、蓄冷熱交換器11および電動ポンプ15を一体化しているから、第1実施形態と同様に蓄冷ユニット9の車両搭載性を向上できる(前述の(1)の作用効果)。
また、第2実施形態において、タンク部材10内の上部に蓄冷熱交換器11を配置し、蓄冷熱交換器11の下方に電動ポンプ15および液冷媒タンク部10aを配置すること、蒸発器8出口からの冷媒流入部をなす入口パイプ120をタンク部材10の上部に配置すること等も第1実施形態と同様であり、そのため、第2実施形態でも第1実施形態の前述の(2)〜(5)の作用効果を同様に発揮できる。
ところで、第2実施形態はアキュムレータ式の冷凍サイクルであるため、蒸発器8の出口側に蓄冷熱交換器11を直列接続している。これは次の理由による。すなわち、アキュムレータ式の冷凍サイクルでは、減圧装置70をキャピラリチューブ、オリフィス等の固定絞り、あるいは高圧冷媒圧力に応動する可変絞り等により構成することができ、膨張弁7を使用する必要がない。従って、蒸発器8の出口側に蓄冷熱交換器11を直列接続しても、前述の蒸発器出口冷媒の過熱度調節の不具合が生じない。
そして、蒸発器8の冷媒通路を流れる冷媒流れには必ず圧力損失が発生するので、蒸発器8の入口側に比して出口側の方が冷媒圧力(蒸発圧力)が低下する。ここで、アキュムレータ式の冷凍サイクルでは、アキュムレータ部、本実施形態ではタンク部材10内部に冷媒の気液界面が形成され冷媒が飽和状態になっているので、蒸発器8内の冷媒が過熱状態にならない。従って、蒸発器8の出口側では冷媒圧力の低下に伴って冷媒温度(蒸発温度)が必ず入口側よりも低下する。
この結果、アキュムレータ式の冷凍サイクルにおいて、蒸発器8の出口側に蓄冷熱交換器11を直列接続することにより、蓄冷材11a’をより低温の冷媒にて冷却でき、蓄冷材11a’と冷媒との温度差を拡大して熱交換効率を向上でき、蓄冷材11a’の凝固をより短時間で完了できる。
(第1、第2実施形態の変形例)
なお、第2実施形態では、図8に示すように蓄冷ユニット9のタンク部材10内にU状に曲げ形成した第1出口パイプ141を配置し、第1出口パイプ141の一端部をタンク部材10の上面部から外部へ取り出すように構成しているが、図8に2点鎖線で図示するように第1出口パイプ141をタンク部材10の底面部から外部へ取り出すように構成してもよい。
また、第2実施形態において逆止弁18は電動ポンプ15の停止時、すなわち、通常冷房・蓄冷モード時に閉弁することにより、蒸発器8の入口配管143から低圧冷媒が第2出口パイプ142側へ逆流することを防止するものであるから、電動ポンプ15自身の停止時の流通抵抗により低圧冷媒の上記逆流を実用上問題のないレベルに低下できるのであれば、逆止弁18を廃止してもよい。
また、第1実施形態では、タンク部材10の下部の断面積をタンク部材10の上部よりも小さくして液冷媒タンク部10aを形成している。また、第2実施形態では、タンク部材10の下部の断面積をタンク部材10の上部の断面積と同一にして液冷媒タンク部10aを形成している。
しかし、車両搭載上の都合等により液冷媒タンク部10aの高さ寸法を縮小したい場合には、タンク部材10の下部の断面積をタンク部材10の上部よりも大きくして液冷媒タンク部10aをタンク部材10の上部よりも水平方向に拡大する形状とし、これにより、液冷媒タンク部10aの必要容積を確保するようにしてもよい。
また、第1、第2実施形態では、いずれも図2、図8に示すように、液冷媒タンク部10aの内部に電動ポンプ15を配置しているが、液冷媒タンク部10aの液冷媒をタンク外部に取り出す出口パイプ14、142のうちタンク外部の部位に電動ポンプ15を配置しても良い。この場合、出口パイプ14、142を液冷媒タンク部10aの下方側に取り出し、電動ポンプ15を液冷媒タンク部10aの下方側に配置すれば、電動ポンプ15の吸入側に液冷媒が充満した状態で電動ポンプ15を始動できる。
(第3実施形態)
第1実施形態では、図2に示すようにタンク部材10の内部において蓄冷熱交換器11の下方側に第1逆止弁13を配置し、車両走行時の通常冷房・蓄冷モード時に第1逆止弁13の入口13bから蓄冷熱交換器11の下方側の冷媒を吸入し、この吸入冷媒を蒸発器8の入口側に導入するようにしている。このため、液冷媒タンク部10aの貯留液冷媒の液面が前述したように第1逆止弁13の設定高さよりも上昇しないようになっている。故に、第1実施形態では、停車時の放冷冷房モードに必要な液冷媒量を貯留するに必要な容積を持った液冷媒タンク部10aを蓄冷熱交換器11の下方側に形成する必要が生じる。このことがタンク部材10の小型化の大きな阻害要因となる。
そこで、第3実施形態では、液冷媒タンク部10aの容積が同一であっても、第1実施形態に比較してタンク部材10を小型化できるようにするものである。
図11は第3実施形態を示すものであり、図2(第1実施形態)と同等部分には同一符号を付して説明を省略し、以下第1実施形態との相違点について説明する。タンク部材10の底面部の中心部に下方へ円筒状に突き出すポンプ収納部10bを形成し、このポンプ収納部10b内に電動ポンプ15を収納し、固定している。
このポンプ収納部10bの内周面と電動ポンプ15の外周面との間には所定間隔の冷媒流路10cを形成してポンプ収納部10b底部の液溜め部10dまで液冷媒が流入するようになっている。そして、電動ポンプ15の吸入口15aをポンプ底面部に配置して液溜め部10dの液冷媒を吸入するようになっている。また、電動ポンプ15の吐出口15bはポンプ上面部に配置して出口パイプ14の下端部に接続される。
蓄冷熱交換器11は、前述の図3(a)の円筒(スティック)タイプの蓄冷材容器11aを多数本上下方向に配置した構成になっているが、第3実施形態では、タンク部材10内における蓄冷熱交換器11の設置場所をタンク部材10の底面部に近接した部位に引き下げている。具体的には、蓄冷熱交換器11の下端部とタンク部材10の底面部との間に、例えば、4mm程度の微小間隔hのみが設定されるように蓄冷熱交換器11の設置場所を引き下げている。蓄冷熱交換器11の下方にはこの微小間隔hにより液溜め空間10eが構成される。
そして、出口パイプ14の接続口14aおよび第1逆止弁13を、蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位に配置している。この出口パイプ14の接続口14aおよび第1逆止弁13の周囲を蓄冷熱交換器11の上方空間と仕切るための仕切り部材110を蓄冷熱交換器11の中心部に設けている。
この仕切り部材110は円板状の上面蓋部111と上面蓋部111の下側に位置する円筒部112とを有し、この円筒部112の内側に第1逆止弁13を配置するとともに、出口パイプ14は上面蓋部111を貫通して上下方向に延びるように配置されている。円筒部112の下端部は開口部113を形成しているので、第1逆止弁13の入口13bはこの開口部113により液溜め空間10eのみに連通し、蓄冷熱交換器11の上方空間とは連通しないようになっている。
第3実施形態によると、第1逆止弁13の入口13bを蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位に配置しているから、車両走行時の通常冷房・蓄冷モード時にタンク部材10内に貯留される液冷媒の液面Lが第1逆止弁13の入口13b付近の高さまで上昇することができる。これにより、タンク部材10内部において蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位まで液冷媒の貯留領域となる。
従って、第3実施形態では、タンク部材10内底面部付近の液溜め空間10eのみならず、蓄冷熱交換器11の多数本の蓄冷材容器11a相互間の空間をも利用して液冷媒タンク部10aを構成できる。この結果、液冷媒タンク部10aの容積が同一であっても、第3実施形態のタンク部材10の高さ寸法を図2の第1実施形態に比較して大幅に縮小でき、タンク部材10を小型化できる。これにより、蓄冷ユニット9の車両搭載性を向上できる。
ところで、第3実施形態によると、蓄冷熱交換器11の多数本の蓄冷材容器11a相互間の空間をも利用して液冷媒タンク部10aを構成するので、蓄冷材容器11aの下側部分が液冷媒中に浸漬することになり、このことから車両走行時の蓄冷能力および停車時の放冷能力の低下が懸念されるが、実際は以下の工夫により上記能力低下をほとんど問題とならないレベルに抑制できる。
先ず、蓄冷能力について述べると、出口パイプ14の接続口14aおよび第1逆止弁13の周囲を仕切り部材110により仕切って、第1逆止弁13の入口13bを仕切り部材110下端の開口部113により液溜め空間10eのみに連通し、入口13bが蓄冷熱交換器11の上方空間とは連通しないようにしている。
このため、車両走行時の蓄冷時には、膨張弁7の弁部7aで減圧された低温低圧の冷媒が入口パイプ12からタンク部材10内に流入した後、この流入冷媒が直接第1逆止弁13の入口13bに向かうことが仕切り部材110により阻止される。
これにより、この流入冷媒はタンク部材10内において蓄冷熱交換器11の上面部から多数の蓄冷材容器11a相互間の隙間部を下方へと流れ、タンク部材10内底面部付近の液溜め空間10eに到達し、しかる後、冷媒は開口部113を通過して第1逆止弁13の入口13bに吸入される。
このように、蓄冷時にはタンク部材10内への流入冷媒が必ず蓄冷材容器11a相互間の隙間部を下方へと流れて蓄冷材容器11aの下側部分の表面に接している液冷媒を流動させ、撹拌する。これにより、蓄冷材容器11aの下側部分が液冷媒域に浸漬していても、蓄冷材容器11aの下側部分の表面における熱伝達率の低下を、実際上ほとんど問題とならないレベルに抑制でき、必要な蓄冷能力を確保できる。
次に、放冷能力について説明すると、停車時の放冷時には電動ポンプ15を作動させて、液溜め部10dの貯留液冷媒を吸入して蒸発器8に導入し、蒸発器8で蒸発した気相冷媒を蓄冷熱交換器11に還流し、この蓄冷熱交換器11にて気相冷媒を冷却して凝縮させる。ここで、蓄冷熱交換器11における気相冷媒の凝縮量は、蓄冷熱交換器11での伝熱面積等の熱交換器仕様と、蓄冷材11a’の融点等の物性により求めることができる。
そして、この気相冷媒の凝縮量よりも電動ポンプ15による液冷媒循環量が多くなるように電動ポンプ15の吐出能力を設定することにより、放冷時に液冷媒の液面Lを蓄冷熱交換器11の下端部よりも下方へ下げることができる。これにより、蒸発器8出口から還流する気相冷媒を蓄冷熱交換器11の蓄冷材容器11aの表面全体で効率よく冷却して凝縮させることができるので、放冷能力の低下を防止できる。
(第4実施形態)
上記第3実施形態では、蓄冷熱交換器11の中心部にて、蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位に出口パイプ14の接続口14aおよび第1逆止弁13を配置しているが、第4実施形態では、図12に示すように、出口パイプ14の接続口14aおよび第1逆止弁13を蓄冷熱交換器11の下方側の液溜め空間10eに配置している。
一方、第1逆止弁13の入口13bに入口配管13fを接続し、この入口配管13fの先端側を円筒状の仕切り部材110内に挿入して、入口配管13fの先端開口13gを円筒状の仕切り部材110内において蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位に配置している。
これにより、第4実施形態では第1逆止弁13を蓄冷熱交換器11の下方側の液溜め空間10eに配置していても、液冷媒の液面Lを入口配管13fの先端開口13gの位置、すなわち、蓄冷熱交換器11の上下方向の中間部位まで上昇させることができる。従って、第3実施形態と同様に、蓄冷熱交換器11の多数本の蓄冷材容器11a相互間の空間をも利用して液冷媒タンク部10aを構成できる。この結果、第4実施形態においても、蓄冷熱交換器11の下方側の液溜め空間10eの容積を図2の第1実施形態に比較して大幅に縮小でき、タンク部材10を小型化できる。
また、第3実施形態に比較すると、第4実施形態では円筒状の仕切り部材110の容積を大幅に縮小できるので、その分だけ、蓄冷熱交換器11の容積を増大して蓄冷材充填量の増加を図ることができる。
なお、第3実施形態および第4実施形態では、蓄冷熱交換器11の蓄冷材容器11aを図3(a)に示す円筒状タイプのもので構成する例について説明したが、蓄冷熱交換器11の蓄冷材容器11aを図3(b)に示すボールタイプ、あるいは図3(c)に示すカプセルタイプのもので構成してもよい。
(第5実施形態)
図13は第5実施形態であり、蓄冷熱交換器11の蓄冷材容器11aを図3(b)に示すボールタイプのもので構成し、このボールタイプの蓄冷材容器11aを第1逆止弁13、出口パイプ14および電動ポンプ15の周囲空間に直接、密に配置している。すなわち、多数のボールタイプの蓄冷材容器11aを互の球面が密着するように上記周囲空間に敷き詰めてある。従って、多数のボールタイプの蓄冷材容器11a相互の球面同士の間には微小な空隙からなる冷媒流路が迷路状に形成される。
蓄冷熱交換器11の下端部とケース10の底面部との間に微小間隔hを設定して、液溜め空間10eを形成している。電動ポンプ15はこの液溜め空間10eの液冷媒を吸入するようになっている。
第5実施形態では、第3、第4実施形態における仕切り部材110を廃止している。しかし、入口パイプ12の開口端12aを第1逆止弁13の入口13bと反対方向、図13の例では右方向に向けているので、入口パイプ12の開口端12aから低圧冷媒は第1逆止弁13の入口13bと反対方向に向かって流出する。しかも、第1逆止弁13の周囲には多数のボールタイプの蓄冷材容器11aを密に敷き詰め、多数の蓄冷材容器11a相互の球面同士の間に微小な空隙からなる冷媒流路を迷路状に形成しているので、車両走行時の蓄冷時に、入口パイプ12の開口端12aから流出した低圧冷媒は、この蓄冷材容器11a相互の迷路状冷媒流路を通過した後に、第1逆止弁13の入口13bに向かって流れる。
以上のことから、仕切り部材110を廃止しても、入口パイプ12から流出した低圧冷媒が直ちに第1逆止弁13の入口13bに向かって流れることはなく、第1逆止弁13の入口13bから離れた部位から低圧冷媒が蓄冷材容器11a相互の迷路状冷媒流路を通過するので、蓄冷熱交換器11のうちかなり広範囲の蓄冷材容器11a相互間の冷媒流路を低圧冷媒が通過する。この結果、蓄冷材容器11aの下側部分が液冷媒域に浸漬する構成であって、かつ、仕切り部材110を廃止しても、第3、第4実施形態に対する蓄冷能力の低下を僅少量に抑制できる。
なお、放冷時には第3、第4実施形態と同様に気相冷媒の凝縮量よりも電動ポンプ15による液冷媒循環量が多くなるように電動ポンプ15の吐出能力を設定することにより、第3、第4実施形態と同等の放冷能力を確保できる。
第5実施形態によると、第1逆止弁13を蓄冷熱交換器11の内部に配置するとともに、電動ポンプ15も、その大部分を蓄冷熱交換器11の内部に配置する構成であるから、第3、第4実施形態よりも一層タンク部材10を小型化できる。特に、タンク部材10の全高さ寸法の短縮効果が大である。
また、仕切り部材110を廃止して第1逆止弁13の周囲に多数のボールタイプの蓄冷材容器11aを直接、密に敷き詰めているから、仕切り部材110の仕切り空間による蓄冷材充填容積の減少が発生せず、蓄冷材充填量を増加することができる。
(第6実施形態)
第6実施形態は蓄冷ユニット9の体格の大部分を占める蓄冷熱交換器11の小型化に関するものである。蓄冷熱交換器11は、所定の蓄冷および放冷能力を発揮するために、この蓄冷、放冷能力に対応した大きな伝熱面積が必要となる。そして、この伝熱面積を確保しつつ、蓄冷材充填量を増加して蓄冷容量を増大しようとすると、蓄冷熱交換器11がどうしても大型化し、且つ、熱交換器重量も増えて、蓄冷ユニット9の車両搭載性が悪化する。
そこで、第6実施形態では蓄冷熱交換器11の伝熱構成の工夫によって蓄冷熱交換器11の小型化を図るものである。図14、図15は第6実施形態による蓄冷熱交換器11の具体例を示し、図16は第6実施形態による蓄冷熱交換器11を蓄冷ユニット9内に組み込んだ例を示す。図16は、図1に示す膨張弁サイクル、すなわち、減圧手段として膨張弁7を用いて蒸発器出口冷媒の過熱度制御を行う冷凍サイクルRに適用した場合の蓄冷ユニット9を示している。
第6実施形態による蓄冷熱交換器11は一般にシェルアンドチューブタイプと称される熱交換器構成を基本にしている。すなわち、蓄冷熱交換器11は円筒状のタンク部材であるシェル11dと、このシェル11dに固定され、冷媒流路を構成するチューブ11eと、このチューブ11eに熱的に一体に結合され、チューブ11eの拡大伝熱面を構成するフィン11fとを有している。
シェル11dは円筒状本体部11gの上端部および下端部を上蓋部11hおよび下蓋部11iにより密封した構成になっている。シェル11dの外径は図16に示すように蓄冷ユニット9のケース部材10の内周面に嵌合するように設定され、シェル11dはケース部材10の内周面に固定される。
チューブ11eは本例では円管状のものであり、フィン11fは円形の平板形状からなるプレートフィンである。フィン11fにはチューブ挿入用のバーリング穴11jが開けてある。平板状のフィン11fは所定のフィンピッチPfにて多数枚積層され、バーリング穴11jに円管状のチューブ11eを挿入した後に、円管状のチューブ11eを拡管することにより、フィン11fとチューブ11eとを機械的に一体に固定する。この機械的な固定と同時に、フィン11fとチューブ11eとを熱的にも一体に結合するようになっている。
そして、フィン11fとチューブ11eの固定後に、チューブ11eがシェル11dに対して上下方向に延びる縦置きとし、多数枚のフィン11fとチューブ11eとの結合体をシェル11d内部に収容し、かつ、チューブ11eの上端部および下端部がシェル11dの上側および下側へそれぞれ突き出すようにシェル11dに対して組み付ける。
この組み付けにおいて、チューブ11eの上端部付近および下端部付近の部位はシェル11dの上蓋部11hおよび下蓋部11iにそれぞれろう付け等の接合手段によりシールして固定される。
チューブ11eとフィン11fとは熱伝導率のよい金属例えば、アルミニュウムにて成形される。また、シェル11dの各部11g、11h、11iもアルミニュウム等の金属で成形される。
密封ケース構造をなすシェル11dの一部、例えば、上蓋部11hに蓄冷材注入口11kを設け、この注入口11kからシェル11dの内部に蓄冷材11a’を注入するようになっている。シェル11dの内部において蓄冷材11a’は平板状のフィン11f相互間の間隙(フィンピッチPfによる間隙)に充填される。蓄冷材11a’の注入終了後に、注入口11kはプラグ11mにより密封される。
ここで、蓄冷材11a’は、車両用空調装置の蓄冷という用途であるため、4℃〜8℃程度の融点を有し、過冷却の発生しない物性を有するものが好ましい。このような物性を満足するものとして具体的にはパラフィン(n−テトラデカン)が好適である。
ところで、蓄冷材11a’として用いるパラフィンは、金属に比べて熱伝導率がかなり小さいので、蓄冷能力および放冷能力を高めるためにはパラフィンの層を薄くして、伝熱面積を大きくすることが望ましい。このために、蓄冷熱交換器11をシェルアンドチューブタイプの熱交換器構成として、フィン11f相互間の微小間隙部(フィンピッチPfによる間隙部)にパラフィンを薄膜状に充填するようにしている。
ここで、フィンピッチPfは後述するように蓄冷熱交換器11の伝熱性能の確保と小型化のために0.5〜2mm程度の範囲が好ましく、より具体的には1.5mm付近の値に設定する。
また、蓄冷材11a’は、蓄冷モード・放冷モードの変化に伴って相変化し、それに伴って密度が変化し、体積が変化する。この蓄冷材11a’の体積変化によって平板状のフィン11fには応力が発生し、蓄冷熱交換器11の金属疲労の原因となる。
そこで、積層された多数枚の平板状のフィン11fを上下方向に貫通する貫通穴11nを図14に示すように各フィン11fに設けている。これにより、放冷モード時に蓄冷材11a’が固相状態から液相状態に相変化するときに蓄冷材11a’の体積が増加しても、フィン間の液相の蓄冷材11a’を貫通穴11nを通してフィン外部へスムースに移動させることができる。
なお、図14では、貫通穴11nを円形の平板形状からなるプレートフィン11fの中心部に1箇所のみ設ける例を図示しているが、実際には、液相の蓄冷材11a’のスムースな移動のために貫通穴11nを所定間隔にて複数箇所設けることが好ましい。
また、シェル11dの円筒状本体部11gの内周面と、平板状フィン11fの外周端との間には、所定間隔B(例えば2mm程度)を有する断熱用の隙間部11pを設けている。この隙間部11pは、蓄冷ユニット9を車室外の高温環境(例えば、エンジンルーム等)に設置しても蓄冷材11a’の蓄冷熱の断熱作用を確保できるようにするためのものである。
チューブ11eとして、前述のように本例では円管状のもの(丸チューブ)を用いており、チューブ設置本数を増やして冷媒側伝熱面積を確保するためには円管状チューブ11eの内径は4mm程度以下が好ましい。なお、チューブ11eとして偏平チューブあるいは偏平多穴チューブを採用することも可能である。偏平チューブの場合は冷媒側伝熱面積を確保するために内径1mm程度の等価直径を持つものが好ましい。
次に、第6実施形態による作用効果を説明する。なお、第6実施形態による蓄冷熱交換器11を持つ蓄冷ユニット9全体の作動は第1実施形態(図2)と同じであるので、説明を省略する。
第6実施形態による蓄冷熱交換器11では、熱交換器基本構成をシェルアンドチューブタイプの熱交換器構成として、平板状のフィン11f相互間の微小間隙部(フィンピッチPfによる間隙部)にパラフィンを薄膜状に充填していることが第1の特徴であり、この第1の特徴は以下の検討に基づいて案出されてものである。
本発明者は、先ず、蓄冷熱交換器11が車両停車時における放冷冷房のために用いられるという前提の下に、蓄冷材11a’に潜熱蓄冷する際の伝熱隔壁の形態として、(1)1次元的な面構成、(2)2次元的な面構成、(3)3次元的な面構成のいずれが小型化のために最も有利であるか比較検討することにした。
そこで、上記(1)〜(3)の伝熱隔壁の代表例として、図17に示す(1)平面・積層タイプ(平行平板タイプ)、(2)円筒タイプ(図3(a)のタイプ)、(3)ボールタイプ(図3(b)のタイプ)を取り上げ、この3種類の伝熱隔壁(1)〜(3)について、同一蓄冷材重量(600g)の下、同一の蓄冷、放冷能力が得られる形状別の伝熱面積をコンピュータシュミレーションにより算出し、比較検討してみた。図17の伝熱面積はこのコンピュータシュミレーションによる算出結果を示す。
なお、図17の算出例では、蓄冷材として、パラフィン(融点:5.9℃のn−テトラデカン)を使用しており、また、各形状の伝熱隔壁は板厚0.3mmのアルミニュウム合金材を使用している。
図17において、(1)平面・積層タイプ(平行平板タイプ)の伝熱隔壁は、第6実施形態によるシェルアンドチューブタイプの蓄冷熱交換器11における平行平板タイプのプレートフィンf11により構成できる。従って、図17の(1)におけるd寸法は、図14のフィンピッチPfからプレートフィンf11の板厚分(0.3mm)を減算した値である。
図17に示す各形状の伝熱隔壁の伝熱面積の比較から明らかなように、同一の蓄冷、放冷能力を発揮するに必要な伝熱面積を、(1)平面・積層タイプ(平行平板タイプ)の伝熱隔壁により最も小さくできることが分かる。すなわち、平面・積層タイプの伝熱隔壁が熱交換器小型化のために最も有利であることが分かる。
これは次の理由による。すなわち、相変化により蓄冷を行う場合に蓄冷材の厚みを小さくすることが有利であるが、上記3種類の伝熱隔壁の伝熱面積を同一とした場合に、円筒タイプ(2)であると蓄冷材の厚み(図17の内径dに相当)が平面・積層タイプ(1)の2倍に増加し、また、ボールタイプ(3)であると蓄冷材の厚み(図17の内径dに相当)が平面・積層タイプ(1)の3倍に増加するので、伝熱性能が同一とならず、平面・積層タイプ(1)→円筒タイプ(2)→ボールタイプ(3)の順に伝熱性能が低下してしまうからである。
図17の検討結果から、第6実施形態のように平面・積層タイプ(1)の伝熱隔壁、すなわち、平板状のフィン11fを持つシェルアンドチューブタイプの蓄冷熱交換器11を構成することにより、円筒タイプ(2)やボールタイプ(3)の伝熱隔壁を持つ蓄冷熱交換器に比較して、熱交換器体格(図17の占有体積)を10〜25%程度小型化でき、車両搭載性の向上にとって非常に有利である。図17の占有体積の単位[L]はリットルを示す。
なお、図17において、充填率は、蓄冷熱交換器の占有体積に対する伝熱隔壁と蓄冷材の合計体積の比率である。円筒タイプ(2)やボールタイプ(3)の伝熱隔壁の場合は、その隔壁形状自体により充填率が必然的に決まるが、第6実施形態による平面・積層タイプ(1)の伝熱隔壁の場合は、その隔壁形状自体により充填率が必然的に決まらないので、冷媒チューブ11eの存在を考慮して充填率=0.9の値を適用している。
ところで、図17の比較検討では、上述のように、各形状の伝熱隔壁の板厚を同一条件、具体的には板厚t=0.3mmを適用しているが、第6実施形態によるシェルアンドチューブタイプの熱交換器構成であると、冷媒チューブ11eのみに冷媒圧力が作用し、伝熱隔壁(拡大伝熱面)をなす平板状のフィン11fには冷媒圧力が作用しない。このため、平板状のフィン11fには、冷媒圧力に対する耐圧強度確保のための板厚が要求されない。
従って、第6実施形態では、蓄冷熱交換器11を構成するに当たり、平板状のフィン11fを構成する金属として熱伝導率の良いアルミニュウム合金を用いることにより、平板状のフィン11fの板厚について冷媒チューブ11eよりも一層を薄肉化することができる。具体的には、冷媒チューブ11eの板厚=0.3mmとし、一方、平板状のフィン11fの板厚は0.1mm程度まで薄肉化することができる。そして、平板状のフィン11fの板厚を0.1mm程度まで薄肉化してもフィン効率の低下は無視できるほど小さい。
なお、比較例(2)、(3)の伝熱隔壁の場合はいずれも蓄冷材容器を構成し、その外表面側に冷媒通路が形成され、伝熱隔壁の外表面側に冷媒圧力が直接作用するので、耐圧強度確保の観点から薄肉化がしにくい。
以上のように、第6実施形態のシェルアンドチューブタイプの熱交換器構成であると、伝熱隔壁をなす平板状フィン11fの板厚を冷媒通路をなすチューブ11eの板厚よりも小さい値に独立に設定できるので、熱交換器占有体積を図17の検討結果よりも実際には一層小さくでき、熱交換器体格を効果的に小型化でき、且つ、軽量化も達成できる。
次に、平板状のフィン11fのフィンピッチPfについて言及すると、フィンピッチPfは次の理由から0.5mm〜2mmの範囲が好適である。すなわち、フィンピッチPfを2mmよりも大きくすると、前述した蓄冷材11a’の厚さ拡大による伝熱性能の低下、ひいては、蓄冷、放冷能力の低下が顕著となり、この能力低下を補うためには伝熱面積の拡大、ひいては熱交換器体格の増大を生じるので、フィンピッチPfは2mm以内とすることが好ましい。
また、逆に、フィンピッチPfを小さくすると、伝熱性能としては十分であっても、蓄冷材単位体積当たりのフィン配置数量が必然的に増加してしまうので、熱交換器体格の小型化、軽量化のために不利となる。このため、フィンピッチPfは、実際上は0.5mm以上とすることが好ましい。
ところで、第6実施形態によると、蓄冷熱交換器11においてチューブ11eが上下方向に縦配置され、冷媒がチューブ11e内を上方から下方へと流れるから、放冷時にチューブ11e内で冷却され凝縮した液冷媒は重力の影響により下方の液冷媒タンク部10aへ速やかに落下する。
これにより、チューブ11e内面の凝縮液膜を常に薄く保つことができるので、放冷時の凝縮液膜による伝熱性能の低下を抑制でき、放冷性能を有効に発揮できる。
また、第6実施形態では積層された多数枚の平板状フィン11fを上下方向に貫通する貫通穴11n(図14)を各フィン11fに設けて、この貫通穴11nを通して液相の蓄冷材11a’が移動しやすくしている。このため、蓄冷時に蓄冷材11a’が液相状態から固相状態に相変化するに伴って蓄冷材体積が減少する際は、貫通穴11nを通して液相の蓄冷材11a’をフィン外部からフィン間にスムースに補給できる。従って、フィン間にて蓄冷材11a’を効率よく冷却して短時間で蓄冷を完了できる。
一方、放冷時には蓄冷材11a’が固相状態から液相状態に相変化するに伴って蓄冷材体積が増加するが、その際に、貫通穴11nを通して液相の蓄冷材11a’をスムースにフィン間からフィン外部へ押し出すことができる。このため、蓄冷材11a’の相変化(体積変化)に伴う過大な応力がフィン11fに発生することを回避できる。これにより、フィン11fとチューブ11eとの接合部の金属疲労を防止して、この接合部の耐久性を向上できる。
また、第6実施形態では、シェル11dの円筒状本体部11gの内周面と、平板状フィン11fの外周端との間には断熱用の隙間部11pを設けて、蓄冷材11a’の蓄冷熱の断熱作用を効果的に発揮できる。
この断熱作用について詳述すると、シェル11dの円筒状本体部11gは図16に示すように蓄冷ユニット9のケース部材10の内壁面に直接嵌合しているので、ケース部材10外部の高温雰囲気の熱がケース部材10および円筒状本体部11gの壁面を通して円筒状本体部11g内側に侵入して、隙間部11pの温度が上昇する。
これにより、隙間部11pに位置する蓄冷材11a’の温度が融点以上の温度になり、蓄冷材11a’は液相状態を維持する。ここで、パラフィン、水等の蓄冷材11a’の熱伝導率λは、固相状態よりも液相状態の方が大幅に小さくなる。例えば、パラフィンの場合、固相時の熱伝導率λ=0.28W/mKであり、これに対し、液相時の熱伝導率λ=0.14W/mKであり、固相時の熱伝導率λの1/2に減少する。
従って、隙間部11pに位置する蓄冷材11a’が常にほぼ液相状態として存在することにより、蓄冷材11a’が自身の熱伝導率の低さから断熱作用を効果的に発揮できる。このため、シェル11dの円筒状本体部11gとフィン11f部分との間に大きな温度差が発生しても、シェル11d側からの侵入熱量を効果的に低減できる。
そのため、蓄冷ユニット9が蓄冷材11a’の融点よりも十分温度が高い高温雰囲気に配置されても、蓄冷ユニット9外部への冷熱損失を効果的に抑制できる。これによって、蓄冷ユニット9のケース部材10に別途設ける断熱材を不要にしたり、断熱材を別途設ける場合でも断熱材使用量を大幅に低減できる。
以上の説明から理解されるように、第6実施形態によると、車両エンジン停止時の放冷冷房の実現に必要な主要構成部品を液溜めのための共通のケース部材10内にすべて収納した一体化ユニットからなる蓄冷ユニット9において、その体格の大部分を占める蓄冷熱交換器11を効果的に小型化でき、蓄冷ユニット9の車両搭載性を向上できる。
(第7実施形態)
なお、第6実施形態は図16に示すように、減圧手段として膨張弁7を用いて蒸発器出口冷媒の過熱度制御を行う膨張弁サイクルに適用した場合の蓄冷ユニット9に関するものであるが、第6実施形態による蓄冷熱交換器構成は図7(第2実施形態)に示すアキュムレータサイクルにも同様に適用できる。
図18は第7実施形態を示すもので、図7に示すアキュムレータサイクルに第6実施形態の蓄冷熱交換器構成を適用したものである。図18に示す第7実施形態の蓄冷ユニット9は、図8に示す第2実施形態の蓄冷ユニット9において、蓄冷熱交換器構成を第6実施形態の蓄冷熱交換器構成に置換したものに相当する。従って、図18において図8および図16と同等部分に同一符号を付して、第7実施形態の具体的説明は省略する。
(第8実施形態)
第6実施形態による蓄冷熱交換器構成においては、図14、15に示すように1枚の円形平板状のフィン11fに多数本のチューブ11eを挿入する挿入穴(図14の例ではバーリング穴)11jを設け、この各挿入穴11jにチューブ11eを挿入し、この各挿入穴11j部分にて多数本のチューブ11eを1枚の円形平板状のフィン11fに一体に接合しているが、第8実施形態では図19、図20に示すように複数本の各チューブ11eごとにそれぞれ分割した円形平板状のフィン11fを一体に接合している。
第6実施形態のように、多数本のチューブ11eの挿入穴11jを設けた円形平板状のフィン11fを多数枚積層し、この多数枚の積層フィン群の各挿入穴11jにチューブ11eを挿入し接合する組付構造では、挿入穴11jの内径とチューブ11eの外形の寸法バラツキ、挿入穴11jの穴ピッチのバラツキ等の影響を受けて、組付作業が困難になることがある。
これに対し、第8実施形態では各チューブ11eごとにそれぞれ対応して円形平板状のフィン11fを分割成形し、各チューブ11eごとにフィン11fを多数枚積層し、この多数枚の積層フィン群の挿入穴11jにチューブ11eを挿入し接合する。すなわち、各チューブ11e単位でチューブ11eとフィン11fの組付を行う。
その後に、各チューブ11e単位の組付体を、各チューブ11eが上下方向に向くように縦配置として集合し、この組付体のうちフィン11f結合部分をシェル11d内に収納するとともに、各チューブ11eの上端部付近及び下端部付近をシェル11dの上蓋部11h(図14参照)、下蓋部11i(図14参照)にシール固定する。
第8実施形態によると、各チューブ11e単位でチューブ11eとフィン11fとを独立に組付を行うことができるから、上述のごとき寸法バラツキがあってもチューブ11eとフィン11fとの組付作業を容易に行うことができる。
なお、チューブ11eとフィン11fとの接合は、第6実施形態と同様にチューブ拡管、ろう付け等の手段により行えばよい。
(第9実施形態)
第8実施形態では、各チューブ11eごとに分割成形した円形平板状のフィン11fを多数枚積層し、この多数枚の積層フィン群の挿入穴11jにチューブ11eを挿入し接合しているが、第9実施形態では、図21に示すように平板状のフィン11fを円管状チューブ11eの外周面上に鍛造加工により一体成形している。
第9実施形態による平板状のフィン11fは、チューブ長手方向と垂直な面から微小角度傾斜した螺旋状の形態で円管状チューブ11eの外周面上に一体成形する。このため、円管状チューブ11eの外周面上に螺旋状に連続する平板状のフィン11fを効率よく一体成形できる。
なお、第9実施形態によると平板状のフィン11fは螺旋状に連続する形態となるため、上記第6〜第8実施形態のように、平板状のフィン11fを平行平板配置するものとフィン配置形態が相違することになるが、螺旋状に連続する平板状のフィン11fの螺旋ピッチPf’を前述のフィンピッチPfと同様な範囲(0.5〜2.0mm)に設定することにより、上記第6〜第8実施形態と同様に蓄冷熱交換器11を小型化できる。
なお、第8、第9実施形態による蓄冷熱交換器構成を、図16に示す膨張弁サイクル用の蓄冷ユニット9、および図18に示すアキュムレータサイクル用の蓄冷ユニット9のいずれにも同様に適用できることはもちろんである。
(他の実施形態)
なお、上記の各実施形態では、停車時に車両エンジン4を停止する制御を行う車両に搭載される車両用空調装置について説明したが、例えば、車両走行用の動力源として、車両エンジン4と電動モータの両方を備えるハイブリッド車に本発明を適用してもよい。ハイブリッド車では、車両走行時にも走行条件に応じて(例えば減速時、低負荷走行時等に)車両エンジン4を停止する場合もあるので、この車両走行時における車両エンジン4の停止時にも上記各実施形態の放冷モードを実施すればよい。