JP4597388B2 - 電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法 - Google Patents
電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体製造分野、医薬製造分野、原子力や火力などの発電分野、食品工業などの各種の産業又は研究所施設において使用される省電力兼スケール発生防止型電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
脱イオン水を製造する方法として、従来からイオン交換樹脂に被処理水を通して脱イオンを行う方法が知られているが、この方法ではイオン交換樹脂がイオンで飽和されたときに薬剤によって再生を行う必要があり、このような処理操作上の不利な点を解消するため、薬剤による再生が全く不要な電気式脱イオン法による脱イオン水製造方法が確立され、実用化に至っている。
【0003】
近年、カチオン交換膜及びアニオン交換膜を離間して交互に配置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜で形成される空間内に一つおきにイオン交換体を充填して脱塩室とする従前型の電気式脱イオン水製造装置に代えて、その脱塩室の構造を抜本的に改造した省電力型の電気式脱イオン水製造装置が開発されている。
【0004】
この省電力型の電気式脱イオン水製造装置は、一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間イオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置してなるものであり、電圧を印加しながら一方の小脱塩室に被処理水を流入し、次いで、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室に流入すると共に、濃縮室に濃縮水を流入して被処理水中の不純物イオンを除去し、脱イオン水を得るものである。このような構造の電気式脱イオン水製造装置によれば、2つの小脱塩室のうち、少なくとも1つの脱塩室に充填されるイオン交換体を例えばアニオン交換体のみ、又はカチオン交換体のみ等の単一イオン交換体もしくはアニオン交換体とカチオン交換体の混合交換体とすることができ、イオン交換体の種類毎に電気抵抗を低減し、且つ高い性能を得るための最適な厚さに設定することができる。
【0005】
一方、このような電気式脱イオン水製造装置に流入する被処理水中の硬度が高い場合、電気式脱イオン水製造装置の濃縮室において炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等のスケールが発生する。スケールが発生すると、その部分での電気抵抗が上昇し、電流が流れにくくなる。すなわち、スケール発生が無い場合と同一の電流値を流すためには電圧を上昇させる必要があり、消費電力が増加する。また、スケールの付着場所次第では濃縮室内で電流密度が異なり、脱塩室内において電流の不均一化が生じる。また、スケール付着量が更に増加すると通水差圧が生じると共に、電圧が更に上昇し、装置の最大電圧値を越えた場合は電流値が低下することとなる。この場合、イオン除去に必要な電流値が流せなくなり、処理水質の低下を招く。更には、成長したスケールがイオン交換膜内にまで侵食し、最終的にはイオン交換膜を破ってしまう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような問題を解決する一つの対策として、硬度が低い被処理水を電気式脱イオン水製造装置に流入させる方法がある。このような硬度が低い被処理水では、濃縮室内は溶解度積に達しないため、スケールの発生は起こり得ない。しかし、実際には、このような硬度が低い被処理水を通水処理した場合においても、濃縮室において炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等のスケールが発生することがあった。この場合、前述と同様、深刻な問題が発生する。
【0007】
従って、本発明の目的は、スケール発生の問題を、被処理水からの対策ではなく、電気式脱イオン水製造装置の構造面から解決し、長期間の連続運転においても、濃縮室内にスケールが発生しない電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、省電力型電気式脱イオン水製造装置の濃縮室に陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床を交互に積層充填すれば、長期間の連続運転においても、濃縮室内にスケールが発生しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明(1)は、一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間アニオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置してなる電気式脱イオン水製造装置において、前記濃縮室は陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に積層充填して形成される電気式脱イオン水製造装置を提供するものである。かかる構成を採ることにより、濃縮室のアニオン交換体単床領域ではアニオン交換膜を透過したアニオンは濃縮水中に移動せず、導電性の高いアニオン交換体を通り、カチオン交換膜まで移動し、ここで初めて濃縮水中に移動する。同様に、カチオン交換体単床領域ではカチオン交換膜を透過したカチオンは濃縮水中に移動せず、導電性の高いカチオン交換体を通り、アニオン交換膜まで移動し、ここで初めて濃縮水中に移動する。このため、濃縮室内において、例えば、液中の炭酸イオンやカルシウムイオンなどの濃度勾配が大きく低減し、炭酸カルシウムなどのスケールが発生し難くなる。また、2つの小脱塩室のうち、少なくとも1つの脱塩室に充填されるイオン交換体を例えばアニオン交換体のみ、又はカチオン交換体のみ等の単一イオン交換体もしくはアニオン交換体とカチオン交換体の混合交換体とすることができ、イオン交換体の種類毎に電気抵抗を低減し、且つ高性能を得るための最適な厚さに設定することができる。また、濃縮室はより導電性が高まり、脱塩室の入口側から出口側の全体に渡り電流密度を均一化でき、消費電力を更に低減できる。
【0010】
また、本発明(2)は、一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間イオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置してなる電気式脱イオン水製造装置において、前記濃縮室は陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に積層充填して形成され、且つ前記中間イオン交換膜と前記他側のアニオン交換膜で区画される一方の小脱塩室に充填されるイオン交換体は、アニオン交換体であり、前記一側のカチオン交換膜と前記中間イオン交換膜で区画される他方の小脱塩室に充填されるイオン交換体は、カチオン交換体とアニオン交換体の混合体であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置を提供するものである。かかる構成を採ることにより、前記発明と同様の効果を奏する他、アニオン成分を多く含む被処理水、特に、シリカ、炭酸等の弱酸性成分を多く含む被処理水を十分に処理することができる。
【0011】
また、本発明(3)は、前記濃縮室の厚さが、0.5〜5.0mmである前記(1)又は(2)記載の電気式脱イオン水製造装置を提供するものである。かかる構成を採ることにより、電気抵抗を低減すると共に、スケールの発生を防止し、通水差圧を上昇させることの無い最適な濃縮室厚さを決定することができる。
【0012】
また、本発明(4)は、一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間アニオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床を交互に積層充填された濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置し、電圧を印加しながら一方の小脱塩室に被処理水を流入し、次いで、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室に流入すると共に、濃縮室に濃縮水を流入して被処理水中の不純物イオンを除去し、脱イオン水を得る脱イオン水の製造方法を提供するものである。かかる構成を採ることにより、前記(1)と同様の効果を奏する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態における電気式脱イオン水製造装置について図1を参照して説明する。図1は電気式脱イオン水製造装置の1例を示す模式図である。図1に示すように、カチオン交換膜3、中間イオン交換膜5及びアニオン交換膜4を離間して交互に配置し、カチオン交換膜3と中間イオン交換膜5で形成される空間内にイオン交換体8を充填して第1小脱塩室d1 、d3 、d5 、d7 を形成し、中間イオン交換膜5とアニオン交換膜4で形成される空間内にイオン交換体8を充填して第2小脱塩室d2 、d4 、d6 、d8 を形成し、第1小脱塩室d1 と第2小脱塩室d2 で脱塩室D1 、第1小脱塩室d3 と第2小脱塩室d4 で脱塩室D2 、第1小脱塩室d5 と第2小脱塩室d6 で脱塩室D3 、第1小脱塩室d7 と第2小脱塩室d8 で脱塩室D4 とする。また、脱塩室D2 、D3 のそれぞれ隣に位置するアニオン交換膜4とカチオン交換膜3で形成されるイオン交換体8aを充填した部分は濃縮水を流すための濃縮室1とする。これを順次併設して図中、左より脱塩室D1 、濃縮室1、脱塩室D2 、濃縮室1、脱塩室D3 、濃縮室1、脱塩室D4 を形成する。また、脱塩室D1 の左にカチオン交換膜3を経て陰極室2aを、脱塩室D4 の右にアニオン交換膜4を経て陽極室2bをそれぞれ設ける。また、中間イオン交換膜5を介して隣合う2つの小脱塩室において、第2小脱塩室の処理水流出ライン12は第1小脱塩室の被処理水流入ライン13に連接されている。
【0014】
このような脱塩室は2つの枠体と3つのイオン交換膜によって形成される脱イオンモジュールからなる。すなわち、第1枠体の一側の面にカチオン交換膜を封着し、第1枠体の内部空間にイオン交換体を充填し、次いで、第1枠体の他方の面に中間イオン交換膜を封着して第1小脱塩室を形成する。次に中間イオン交換膜を挟み込むように第2枠体を封着し、第2枠体の内部空間にイオン交換体を充填し、次いで、第2枠体の他方の面にアニオン交換膜を封着して第2小脱塩室を形成する。第1脱塩室及び第2小脱塩室に充填されるイオン交換体としては、特に制限されないが、被処理水が最初に流入する第2小脱塩室にはアニオン交換体を充填し、次いで、第2小脱塩室の流出水が流入する第1小脱塩室にはアニオン交換体とカチオン交換体の混合イオン交換体を充填することが、アニオン成分を多く含む被処理水、特に、シリカ、炭酸等の弱酸性成分を多く含む被処理水を十分に処理することができる点で好ましい。
【0015】
また、濃縮室1は、陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に積層充填される。単床イオン交換体の積層方法としては、特に制限されず、陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床の2床、陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に複数積層される複床のいずれであってもよい。また、濃縮室に充填されるイオン交換体としては、特に制限されず、イオン交換樹脂、イオン交換繊維などイオン交換基を有するものであればよい。また、該イオン交換体はイオン交換基を有しているものであれば、再生品や使用済のものであってもよい。また、イオン交換体に導電性物質を添加することにより、さらに濃縮室の導電性を高めることができる。添加する導電性物質の形状としては、特に制限されず、繊維でも粒状のものでもよい。導電性繊維としては、例えば、炭素繊維あるいはナイロン系、アクリル系、ポリエステル系などの合成繊維を単独で又は練り込んで複合繊維として、表面をカーボンブラックでコーティングしたものが挙げられる。また、粒状の導電性物質としては、小粒の黒鉛、小粒の活性炭などが挙げられる。
【0016】
濃縮室へのイオン交換体の充填方法としては、例えば、イオン交換体としてイオン交換樹脂を使用する場合、電気式脱イオン水製造装置を製造後、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合樹脂のスラリーを濃縮室にポンプで送り、混床で充填し、静置後、比重差を利用してアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂に分離する方法、あるいは、イオン交換体としてイオン交換繊維などの定型部材を使用する場合、電気式脱イオン水製造装置の組み立て時に順次充填する方法などが使用できる。
【0017】
濃縮室へのイオン交換体の充填量としては、特に制限されないが、濃縮室に適度な密度で且つ均一に充填できる量が好ましい。充填密度が低すぎると、当該室を区画する両側のイオン交換膜同士の電気的導通が得られず、イオンの移動がなく、濃縮水中のイオン濃度勾配を低減することができないし、また、導電性を高めることができず、充填が不均一であると電流の偏りが発生する。一方、充填密度が高すぎると、濃縮水の通水差圧が許容以上に上昇する。また、濃縮室の厚さは、0.5〜5.0mm、好ましくは、1.0〜2.5mmとすることが好ましい。濃縮室の厚さが0.5mm未満であると、例え、陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床を交互に積層して充填しても、スケール発生防止効果が得られ難くなり、通水差圧も発生し易い。また、5.0mmを越えると、電気抵抗が高くなり消費電力が増大する。
【0018】
前記電気式脱イオン水製造装置は、通常、以下のように運転される。すなわち、陰極6と陽極7間に直流電流を通じ、また被処理水流入ライン11から被処理水が流入すると共に、濃縮水流入ライン15から濃縮水が流入し、かつ陰極水流入ライン17a、陽極水流入ライン17bからそれぞれ陰極水、陽極水が流入する。被処理水流入ライン11から流入した被処理水は第2小脱塩室d2 、d4 、d6 、d8 を流下し、イオン交換体8の充填層を通過する際に不純物イオンが除去される。更に、第2小脱塩室の処理水流出ライン12を通った流出水は、第1小脱塩室の被処理水流入ライン13を通って第1小脱塩室d1 、d3 、d5 、d7 を流下し、ここでもイオン交換体8の充填層を通過する際に不純物イオンが除去され脱イオン水が脱イオン水流出ライン14から得られる。また、濃縮水流入ライン15から流入した濃縮水は各濃縮室1を上昇し、カチオン交換膜3及びアニオン交換膜4を介して移動してくる不純物イオン、更には後述するように、濃縮室内のイオン交換体を介して移動してくる不純物イオンを受け取り、不純物イオンを濃縮した濃縮水として濃縮室流出ライン16から流出され、さらに陰極水流入ライン17aから流入した陰極水は陰極水流出ライン18aから流出され、陽極水流入ライン17bから流入した陽極水は、陽極水流出ライン18bから流出される。上述の操作によって、被処理水中の不純物イオンは電気的に除去される。
【0019】
次に、本発明の電気式脱イオン水製造装置の濃縮室におけるスケール発生防止作用を図2〜図4を参照して説明する。図2は図1の電気式脱イオン水製造装置を更に簡略的に示した図、図3及び図4は図2の電気式脱イオン水製造装置の濃縮室における不純物イオンの移動を説明する図をそれぞれ示す。図2において、被処理水が最初に流入する第2小脱塩室d2 、d4 、d6 にはアニオン交換体(A)を充填し、第2小脱塩室の流出水が流入する第1小脱塩室d1 、d3 、d5 にはカチオン交換体とアニオン交換体の混合イオン交換体(M)を充填し、4つの濃縮室1には脱塩室の通水方向に沿って順に、アニオン交換体単床(A)とカチオン交換体単床(C)を交互に4床充填してある。
【0020】
図3において、濃縮室1のアニオン交換体単床領域1aではアニオン交換膜aを透過した炭酸イオンなどのアニオンは濃縮水中に移動せず、導電性の高いアニオン交換体Aを通り、カチオン交換膜cまで移動し、アニオン交換体Aとカチオン膜Cの接点101において始めて濃縮水中に移動する(図3中、右向き矢印)。このため、炭酸イオンなどのアニオンはカチオン交換膜cに電気的に引き寄せられた状態で、濃縮室1から排出される。すなわち、アニオン交換体単床領域1aにおける炭酸イオンなどのアニオンについて、濃縮水中の濃度勾配は図4の記号Xのように分布する。一方、アニオン交換体単床領域1aにおいて、カチオン交換膜cを透過したカルシウムイオンなどのカチオンは濃縮水中を移動する。このため、カルシウムイオンの濃度が最も高くなる部分において、スケールを形成する対イオンである炭酸イオンはアニオン交換体単床部分を移動するためスケールを発生し難い。
【0021】
同様に、濃縮室1のカチオン交換体単床領域1bではカチオン交換膜cを透過したカルシウムイオンなどのカチオンは濃縮水中に移動せず、導電性の高いカチオン交換体Cを通り、アニオン交換膜aまで移動し、カチオン交換体Cとアニオン膜aの接点102において始めて濃縮水中に移動する(図3中、左向き矢印)。このため、カルシウムイオンなどのカチオンはアニオン交換膜aに電気的に引き寄せられた状態で、濃縮室1から排出される。すなわち、カチオン交換体単床領域1bにおけるカルシウムイオンなどのカチオンについて、濃縮水中の濃度勾配は図4の記号Yのように分布する。一方、アニオン交換膜aを透過した炭酸イオンなどのアニオンは濃縮水中を移動する。このため、炭酸イオンの濃度が最も高くなる部分において、スケールを形成する対イオンであるカルシウムイオンはカチオン交換体単床部分を移動するためスケールを発生し難い。このようなイオン移動は、マグネシウムイオン、水素イオン、水酸化物イオンにおいても同様である。また、濃縮室内部にアニオン交換体単床領域1aとカチオン交換体単床領域1bを積層することによって、カチオン交換体が充填された部分に移動してきたアニオンは導電性の低い濃縮水を移動するよりも、導電性の高いアニオン交換膜を伝わり、アニオン交換体単床領域1aまで達し、ここで導電性の高いアニオン交換体を移動する。このイオンの移動形態はカチオンについても同様である。すなわち、濃縮水中を通って対面のイオン交換膜付近に移動するイオンはほとんどなく、ほとんどのイオンはカチオン交換体、アニオン交換体を通って対面のイオン交換膜付近まで移動する。
【0022】
従来の電気式脱イオン水製造装置では、イオン交換体を再生する目的で印加している電流が水の電気分解を促進し、イオン交換体無充填の濃縮室のイオン交換膜表面でpHシフトを引き起こし、アニオン交換膜近傍ではpHが高く、カチオン交換膜近傍ではpHが低くなり、且つ、図5に示すように炭酸イオンとカルシウムイオンが共に、高い濃度勾配で接することから、濃縮室側のアニオン交換膜表面でスケールが発生し易くなっていた。しかしながら、本例では、前述の如く、濃縮水中のカチオン濃度が最も高いと思われるアニオン交換膜a表面近傍の濃縮水中には、高い濃度の炭酸イオンなどのアニオンが存在しないから、濃縮室内において、炭酸イオンとカルシウムイオンが結合して炭酸カルシウムを生成することがない(図4参照)。従って、本例の電気式脱イオン水製造装置を長時間連続運転しても、濃縮室にスケールが発生することはない。
【0023】
また、濃縮室1はイオン交換体8aの均一充填により両側に位置するカチオン交換膜3とアニオン交換膜4を電気的に導通するため、導電性が高まり、脱塩室の入口側から出口側の全体に渡り電流密度を均一化でき、消費電力を低減できる。
【0024】
本発明において、被処理水の第1小脱塩室及び第2小脱塩室での流れ方向は、特に制限されず、上記実施の形態の他、第1小脱塩室と第2小脱塩室での流れ方向が異なっていてもよい。また、被処理水が流入する小脱塩室は、上記実施の形態例の他、先ず、被処理水を第1小脱塩室に流入させ、流下した後、第1小脱塩室の流出水を第2小脱塩室に流入させてもよい。また、濃縮水の流れ方向も適宜決定される。
【0025】
本発明の脱イオン水製造方法に用いる被処理水としては、特に制限されず、例えば井水、水道水、下水、工業用水、河川水、半導体製造工場の半導体デバイスなどの洗浄排水又は濃縮室からの回収水などを逆浸透膜処理した透過水、また、半導体製造工場等のユースポイントで使用された回収水であって、逆浸透膜処理がされていない水が挙げられる。このようにして供給される被処理水の一部を濃縮水としても使用する場合、脱塩室に供給される被処理水及び濃縮室に供給される濃縮水を軟化後、使用することがスケール発生を更に抑制できる点で好ましい。軟化の方法は、特に限定されないが、ナトリウム形のイオン交換樹脂等を用いた軟化器が好適である。
【0026】
【実施例】
実施例1
下記装置仕様及び運転条件において、図1と同様の構成で3個の脱イオンモジュール(6個の小脱塩室)を並設して構成される電気式脱イオン水製造装置を使用した。被処理水は、工業用水の逆浸透膜透過水を用い、その硬度は、80μgCaCO3/l であった。また、被処理水の一部を濃縮水及び電極水として使用した。運転時間は2000時間であり、2000時間後の濃縮室内のスケール発生の有無を観察した。また、同時間における抵抗率17.9MΩ-cm の処理水を得るための運転条件を表1に示す。
【0027】
(運転の条件)
・電気式脱イオン水製造装置;試作EDI
・中間イオン交換膜;アニオン交換膜
・第1小脱塩室;幅300mm、高さ600mm、厚さ3mm
・第1小脱塩室に充填したイオン交換樹脂;アニオン交換樹脂(A)とカチオン交換樹脂(K)の混合イオン交換樹脂(混合比は体積比でA:K=1:1)
・第2小脱塩室;幅300mm、高さ600mm、厚さ8mm
・第2小脱塩室充填イオン交換樹脂;アニオン交換樹脂
・濃縮室;幅300mm、高さ600mm、厚さ2mm
・濃縮室充填イオン交換樹脂;カチオン交換樹脂(IR124 ) 単床とアニオン交換樹脂(IRA402BL) 単床の交互に積層の4床
・装置全体の流量;1m3 /h
【0028】
比較例1
濃縮室にイオン交換体を充填しない以外は、実施例1と同様の方法で行った。運転時間は2000時間であり、2000時間後の濃縮室内のスケール発生の有無を観察した。また、同時間における抵抗率17.9MΩ-cm の処理水を得るための運転条件を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、スケール発生の問題を、被処理水からの対策ではなく、電気式脱イオン水製造装置の構造面から解決でき、長期間の連続運転においても、濃縮室内にスケール発生を認めることなく、安定した運転ができる。また、濃縮室内の導電性が高まり、脱塩室の入口側から出口側の全体に渡り電流密度を均一化でき、消費電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における電気式脱イオン水製造装置を示す模式図である。
【図2】図1の電気式脱イオン水製造装置を簡略的に示した図である。
【図3】濃縮室における不純物イオンの移動を説明する図である。
【図4】濃縮室における不純物イオンの濃度勾配を示す図である。
【図5】イオン交換体無充填の濃縮室(従来型)における不純物イオンの濃度勾配を示す図である。
【符号の説明】
D、D1 〜D4 脱塩室
d1 、d3 、d5 、d7 第1小脱塩室
d2 、d4 、d6 、d8 第2小脱塩室
1 濃縮室
2 電極室
3 カチオン膜
4 アニオン膜
5 中間イオン交換膜
6 陰極
7 陽極
8 イオン交換体
8a カチオン交換体単床とアニオン交換体単床の積層床
10、 電気式脱イオン水製造装置
11 被処理水流入ライン
12 第2小脱塩室の処理水流出ライン
13 第1小脱塩室の被処理水流入ライン
14 脱イオン水流出ライン
15 濃縮水流入ライン
16 濃縮水流出ライン
17a、17b 電極水流入ライン
18a、18b 電極水流出ライン
101 炭酸イオンが濃縮水中に初めて移動する点
102 カルシウムイオンが濃縮水中に初めて移動する点
Claims (4)
- 一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間アニオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置してなる電気式脱イオン水製造装置において、前記濃縮室は陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に積層充填して形成されることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
- 一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間イオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置してなる電気式脱イオン水製造装置において、前記濃縮室は陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床が交互に積層充填して形成され、且つ前記中間イオン交換膜と前記他側のアニオン交換膜で区画される一方の小脱塩室に充填されるイオン交換体は、アニオン交換体であり、前記一側のカチオン交換膜と前記中間イオン交換膜で区画される他方の小脱塩室に充填されるイオン交換体は、カチオン交換体とアニオン交換体の混合体であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
- 前記濃縮室の厚さが、0.5〜5.0mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の電気式脱イオン水製造装置。
- 一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間アニオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に陰イオン交換体単床と陽イオン交換体単床を交互に積層充填された濃縮室を設け、これらの脱塩室及び濃縮室を陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室の間に配置し、電圧を印加しながら一方の小脱塩室に被処理水を流入し、次いで、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室に流入すると共に、濃縮室に濃縮水を流入して被処理水中の不純物イオンを除去し、脱イオン水を得ることを特徴とする脱イオン水の製造方法。
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