JP4589474B2 - マグネシウム又はその合金表面の清浄化方法及び防食処理方法 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネシウム又はその合金の酸化物、フラックス、腐食生成物などを除去するための清浄化処理（前処理）方法及びそれに施す防食処理方法に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
マグネシウムやその合金は、自動車などの軽量化対策の素材として注目されているが、防食性を向上させるための表面処理が必須のものとなっている。一般的にはクロメート処理、めっき処理、陽極酸化や塗装などの表面処理が施されている。これらの表面処理を行う前の前処理としては、脱脂処理後、次に示す１）〜３）のような鉱酸によるエッチングや活性化が行われている。
１）クロム酸、硝酸第２鉄、硝酸、硫酸、燐酸、弗酸及びこれらの混酸などによる酸洗処理方法。
２）弗酸及び弗化物溶液によるスマット除去及び表面活性化処理方法。
３）上記１）処理の後、上記２）の活性化処理を行う方法。
しかしながら、上記１）の方法では、強酸性のためエッチング速度が速く、制御が困難といった問題がある。１）及び２）の方法では処理浴に、クロム酸や弗化物を使用するので処理時に発生するミストが人体に有害でありかつ設備を著しく腐食するためこのようなミストに対する排気、洗浄設備が必要である。２）及び３）の方法では均一なエッチング及びスマット除去が難しく、均質な表面が得られないためにその後の表面処理に悪影響を及ぼすとの問題があるだけでなく、工程が煩雑で管理が困難である。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、工程が容易で、前処理としての洗浄化能力及び活性化能力に優れ、かつその後行なう防錆処理の密着性及び防食性を改善することができるマグネシウム又はその合金表面の清浄化方法を提供することを目的とする。
【０００４】
【課題を解決するための手段】
本発明は、マグネシウム又はその合金表面層に濃化したアルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコン等の合金成分でありかつ腐食の原因となる物質を、特定の活性化剤水溶液での処理により選択的に除去でき、これにより、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づくものである。
即ち、本発明は、マグネシウム又はその合金表面を水溶性アミン及び／又はキレート剤を含有する活性化剤水溶液で処理することを特徴とするマグネシウム又はその合金表面の清浄化方法を提供する。
また、本発明は、前記清浄化方法により清浄化したマグネシウム又はその合金表面に防食処理を施すことを特徴とする防食処理方法を提供する。
【０００５】
【発明の実施の形態】
本発明で対象とするマグネシウム及びその合金のうち、マグネシウム合金としては、マグネシウムとＡｌ、Ｍｎ、Ｚｎ、Ｔｈ、Ｒｅ、Ｚｒ、Ｓｉ、Ｃｕ、Ｎｉ、Ｆｅ、Ｙ、Ａｇ、Ｌｉなどの１種又は２種以上の金属との合金があげられる。ここで、合金中のマグネシウムの含有量は９９．９〜８０重量％（以下、％と略称する）とするのがよい。また、マグネシウム及びその合金の形状は、ダイカスト材、鋳造品、射出成形材など任意の形状であってもよい。
本発明の清浄化方法においては、予め、マグネシウム及びその合金の表面に水系のアルカリ脱脂を行うのが好ましく、これらの表面にすでにバフ研磨などの前加工が行われている場合にはあらかじめ溶剤洗浄を行うことが好ましい。水系のアルカリ脱脂剤はｐＨ１０〜１４の高アルカリでかつ金属キレート剤を含有しないタイプのものとするのがよい。このような高アルカリのものを用いると、マグネシウム及びその合金の表層に存在している離型剤、アルミニウムや亜鉛等の不純物を効果的に除去でき、かつ、ランニング時に再付着などの不具合が生じないからである。本発明では、脱脂剤として、ケイ酸塩、リン酸塩、ゼオライト、有機ビルダー等のビルダーと炭酸塩、硫酸塩等の塩類よりなり、エチレンジアミン４酢酸（ＥＤＴＡ）、ニトリロトリ酢酸（ＮＴＡ）等のキレート剤を含まず、苛性ソーダ、苛性カリ等の水酸化アルカリでアルカリ度をｐＨ１０〜１４に調整したものを用いるのがよい。その場合、アルカリ度は遊離アルカリとして０．５〜１．５ｍｏｌ／Ｌとすると良い。すでにキレート剤を含まず調製された既存の脱脂剤に水酸化アルカリを添加したものを用いても良い。また、水溶液のアルカリ性は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ剤を用いて容易に調整することができる。好ましくは、脱脂剤での洗浄条件は、４０〜７０℃の処理温度で、３０秒〜１０分間とし、脱脂剤濃度を５〜２００ｇ／Ｌとするのがよい。脱脂剤は、対象となるマグネシウム材を脱脂液に浸漬、脱脂液の吹き付け、ブラシ洗浄などで行うことができる。
【０００６】
本発明では、活性化処理を行うが、この工程により合金上の酸化物、フラックス、腐食生成物を除去するエッチング工程と、スマットや耐食性劣化の原因となるアルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコン等の合金成分の除去工程を同時に行うことができる。本発明においては、この活性化剤の成分として、水溶性アミン及び／又はキレート剤を使用する。この例としては、蟻酸、酢酸等のモノカルボン酸、蓚酸、マロン酸等のジカルボン酸、乳酸、クエン酸等のオキシ又はケトカルボン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸等の芳香族カルボン酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ピリジンカルボン酸、ピリジンジカルボン酸等のアミン、ＥＤＴＡ、イミノジ酢酸、メルカプトエチルイミノジ酢酸、transシクロヘキサン1,2ジアミンテトラ酢酸等のアミノポリカルボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、グリシルグリシン等のアミノ酸、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン等の抗生物質、アセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、フロイルテノイルメタン等のβ-ジケトン、オキシン、メチルオキシン、オキシンスルホン酸、キノリンカルボン酸、ヒドロキシキノリン、ビピリジン等のオキシン類等の薬品からなる群から選ばれる１種又は２種類以上の混合物が挙げられる。
【０００７】
この時、マグネシウムにおけるキレート安定度定数の値が、アルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコンにおけるその値より小さくなるように薬品を選択することが好ましい。何故なら、アルミニウム、亜鉛、鉄、銅、ニッケルは、スマットや腐食の原因となる不純物であり、これらを優先的にキレートすることによって、スマットの除去や、耐食性の向上が期待できるからである。例えば、エチレンジアミンなどは、マグネシウムの安定度定数が他の金属のそれよりも十分に低いため好ましいが、マグネシウムを殆どキレートしないため、キレート剤である有機カルボン酸やアミノポリカルボン酸などと併用すると、合金上の酸化物、腐食生成物を効果的に除去することができる。この場合、カルボン酸やＥＤＴＡ等、マグネシウムキレート安定度定数がエチレンジアミンより高い薬品を添加することにより、目的に応じて合金上の酸化物、腐食生成物を除去する効果を高めることができるので好ましい。添加剤により薬品のｐＨが変化するが、安定度定数自体がｐＨにより変化するため、これらを考慮して薬品濃度を決定することが重要である。
本発明における活性化剤はアルカリ性のアミン類を主とすることによりアルカリ性の薬品として使用することが望ましいが、これ以外の薬品を用いた場合にもｐＨ調整剤として水酸化アルカリ、炭酸アルカリを添加することができる。尚、水酸化アルカリ、炭酸アルカリを添加剤として用いた時には、処理後に水洗するのが好ましい。
【０００８】
本発明では、水溶性アミンやキレート剤を、０．１〜５００ｇ／Ｌ、好ましくは１〜１００ｇ／Ｌの水溶液となるようにして使用するのが好ましい。ｐＨは、６〜１４以上の範囲で使用するのがよく、ｐＨ１０〜１４が好ましい。液温は、１０〜１２０℃の範囲で使用するのがよく、３０〜９０℃が好ましい。処理時間は１秒〜６０分の範囲で使用するのがよく、１〜１０分が好ましい。マグネシウム又はその合金がダイカストや射出成形等の精密鋳造品の場合には処理時間を短くし、一方、一般的なキャスト等の鋳造品の場合には表面に異物が付着している恐れがあるために、充分な処理を行うのがよい。処理品を速やかに活性化させ、又処理中に表面より発生する気泡により条痕が付くのを防ぐために、マグネシウム及び合金材は処理浴中において揺動するか、液を攪拌することが望ましい。
上記の方法により清浄化されたＭｇ又はＭｇ合金部材には、次いで防食化処理を施すことができる。防食化処理としては、特に限定されないが、クロメート、クロムフリータイプの化成皮膜処理、陽極酸化処理及び塗装などが挙げられる。
【０００９】
【発明の効果】
本発明の清浄化処理方法は、工程が容易で、清浄化能力及び活性化能力に優れ、かつその後行う防錆処理の密着性及び防食性を改善することができる。また、本発明の防食処理方法は、優れた防食性を付与することができる。次に実施例により本発明を説明する。
【００１０】
【実施例】
実施例１
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製：ケイ酸塩と界面活性剤を主体とするアルカリ性ノンキレートタイプの金属用洗浄剤）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加して、アルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン１０ｇ／Ｌ、蓚酸２ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．６）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温６０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１１】
実施例２
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、ＥＤＴＡ４ソーダ５ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ５ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１２．９）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温６０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１２】
実施例３
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン１３ｇ／Ｌ、ＥＤＴＡ２Ｎａ６ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ２ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．９）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を浴温７０℃、５分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１３】
実施例４
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン６ｇ／Ｌ、クエン酸６ｇ／Ｌ、Ｎａ2ＣＯ3 １５ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．８）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温８０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１４】
実施例５
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調整し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、７０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、スルホサリチル酸５ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ １４ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１３．２）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温８０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１５】
比較例１
マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、軽金属用洗浄剤ＡＬ−４７（ディップソール株式会社製：界面活性剤を主体とするアルカリ性ノンキレートタイプの軽金属用洗浄剤）３０ｇ／Ｌ、５０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム１８０ｇ／Ｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記処理液中で浴温９５℃、７．５分間浸漬処理をして、清浄化処理を行った。
【００１６】
比較例２
マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、軽金属用洗浄剤ＡＬ−４７（ディップソール株式会社製）３０ｇ／Ｌ、５０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム２８０ｇ／Ｌ、７０％硝酸１７ｍｌ、５０％弗酸６．５ｍｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記処理液中で浴温２５℃、６０秒間浸漬処理して、清浄化処理を行った。
【００１７】
比較例３
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加して、アルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム１８０ｇ／Ｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記浴中で浴温９５℃、７．５分間浸漬処理をして、清浄化処理を行った。
【００１８】
実施例１〜５及び比較例１、２の清浄化処理を完了した各マグネシウムダイカスト材の外観を次の基準により評価した。
◎：スマットが充分除去されており、白銀色の外観を示す。
○：スマットが充分除去されている
△：表面積の５％以内のスマットが残存するが、その後の表面処理が可能
×：表面積の５％以上のスマットが残存し、その後の表面処理の耐食性に問題がある。
又、実施例１〜５及び比較例１、２の前処理を完了した各マグネシウムダイカスト材に、ディップソール株式会社製マグネシウム用クロメート剤Ｍｇ−１１２６を用いて、濃度３０ｇ／Ｌ、温度２５℃、時間３０秒の処理にてクロメート処理を行った。さらにＪＩＳＺ２３１７に規定される塩水噴霧による試験を実施し、下記の基準で耐塩水噴霧耐食性を評価した。結果をまとめて表−１に示す。
○：試験結果２４時間での腐食面積が５％以内
△：試験結果２４時間での腐食面積が５％以上
×：試験結果１２時間での腐食面積が５％以上
【００１９】
表−１
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネシウム又はその合金の酸化物、フラックス、腐食生成物などを除去するための清浄化処理（前処理）方法及びそれに施す防食処理方法に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
マグネシウムやその合金は、自動車などの軽量化対策の素材として注目されているが、防食性を向上させるための表面処理が必須のものとなっている。一般的にはクロメート処理、めっき処理、陽極酸化や塗装などの表面処理が施されている。これらの表面処理を行う前の前処理としては、脱脂処理後、次に示す１）〜３）のような鉱酸によるエッチングや活性化が行われている。
１）クロム酸、硝酸第２鉄、硝酸、硫酸、燐酸、弗酸及びこれらの混酸などによる酸洗処理方法。
２）弗酸及び弗化物溶液によるスマット除去及び表面活性化処理方法。
３）上記１）処理の後、上記２）の活性化処理を行う方法。
しかしながら、上記１）の方法では、強酸性のためエッチング速度が速く、制御が困難といった問題がある。１）及び２）の方法では処理浴に、クロム酸や弗化物を使用するので処理時に発生するミストが人体に有害でありかつ設備を著しく腐食するためこのようなミストに対する排気、洗浄設備が必要である。２）及び３）の方法では均一なエッチング及びスマット除去が難しく、均質な表面が得られないためにその後の表面処理に悪影響を及ぼすとの問題があるだけでなく、工程が煩雑で管理が困難である。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、工程が容易で、前処理としての洗浄化能力及び活性化能力に優れ、かつその後行なう防錆処理の密着性及び防食性を改善することができるマグネシウム又はその合金表面の清浄化方法を提供することを目的とする。
【０００４】
【課題を解決するための手段】
本発明は、マグネシウム又はその合金表面層に濃化したアルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコン等の合金成分でありかつ腐食の原因となる物質を、特定の活性化剤水溶液での処理により選択的に除去でき、これにより、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づくものである。
即ち、本発明は、マグネシウム又はその合金表面を水溶性アミン及び／又はキレート剤を含有する活性化剤水溶液で処理することを特徴とするマグネシウム又はその合金表面の清浄化方法を提供する。
また、本発明は、前記清浄化方法により清浄化したマグネシウム又はその合金表面に防食処理を施すことを特徴とする防食処理方法を提供する。
【０００５】
【発明の実施の形態】
本発明で対象とするマグネシウム及びその合金のうち、マグネシウム合金としては、マグネシウムとＡｌ、Ｍｎ、Ｚｎ、Ｔｈ、Ｒｅ、Ｚｒ、Ｓｉ、Ｃｕ、Ｎｉ、Ｆｅ、Ｙ、Ａｇ、Ｌｉなどの１種又は２種以上の金属との合金があげられる。ここで、合金中のマグネシウムの含有量は９９．９〜８０重量％（以下、％と略称する）とするのがよい。また、マグネシウム及びその合金の形状は、ダイカスト材、鋳造品、射出成形材など任意の形状であってもよい。
本発明の清浄化方法においては、予め、マグネシウム及びその合金の表面に水系のアルカリ脱脂を行うのが好ましく、これらの表面にすでにバフ研磨などの前加工が行われている場合にはあらかじめ溶剤洗浄を行うことが好ましい。水系のアルカリ脱脂剤はｐＨ１０〜１４の高アルカリでかつ金属キレート剤を含有しないタイプのものとするのがよい。このような高アルカリのものを用いると、マグネシウム及びその合金の表層に存在している離型剤、アルミニウムや亜鉛等の不純物を効果的に除去でき、かつ、ランニング時に再付着などの不具合が生じないからである。本発明では、脱脂剤として、ケイ酸塩、リン酸塩、ゼオライト、有機ビルダー等のビルダーと炭酸塩、硫酸塩等の塩類よりなり、エチレンジアミン４酢酸（ＥＤＴＡ）、ニトリロトリ酢酸（ＮＴＡ）等のキレート剤を含まず、苛性ソーダ、苛性カリ等の水酸化アルカリでアルカリ度をｐＨ１０〜１４に調整したものを用いるのがよい。その場合、アルカリ度は遊離アルカリとして０．５〜１．５ｍｏｌ／Ｌとすると良い。すでにキレート剤を含まず調製された既存の脱脂剤に水酸化アルカリを添加したものを用いても良い。また、水溶液のアルカリ性は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ剤を用いて容易に調整することができる。好ましくは、脱脂剤での洗浄条件は、４０〜７０℃の処理温度で、３０秒〜１０分間とし、脱脂剤濃度を５〜２００ｇ／Ｌとするのがよい。脱脂剤は、対象となるマグネシウム材を脱脂液に浸漬、脱脂液の吹き付け、ブラシ洗浄などで行うことができる。
【０００６】
本発明では、活性化処理を行うが、この工程により合金上の酸化物、フラックス、腐食生成物を除去するエッチング工程と、スマットや耐食性劣化の原因となるアルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコン等の合金成分の除去工程を同時に行うことができる。本発明においては、この活性化剤の成分として、水溶性アミン及び／又はキレート剤を使用する。この例としては、蟻酸、酢酸等のモノカルボン酸、蓚酸、マロン酸等のジカルボン酸、乳酸、クエン酸等のオキシ又はケトカルボン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸等の芳香族カルボン酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ピリジンカルボン酸、ピリジンジカルボン酸等のアミン、ＥＤＴＡ、イミノジ酢酸、メルカプトエチルイミノジ酢酸、transシクロヘキサン1,2ジアミンテトラ酢酸等のアミノポリカルボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、グリシルグリシン等のアミノ酸、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン等の抗生物質、アセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、フロイルテノイルメタン等のβ-ジケトン、オキシン、メチルオキシン、オキシンスルホン酸、キノリンカルボン酸、ヒドロキシキノリン、ビピリジン等のオキシン類等の薬品からなる群から選ばれる１種又は２種類以上の混合物が挙げられる。
【０００７】
この時、マグネシウムにおけるキレート安定度定数の値が、アルミニウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、ニッケル、シリコンにおけるその値より小さくなるように薬品を選択することが好ましい。何故なら、アルミニウム、亜鉛、鉄、銅、ニッケルは、スマットや腐食の原因となる不純物であり、これらを優先的にキレートすることによって、スマットの除去や、耐食性の向上が期待できるからである。例えば、エチレンジアミンなどは、マグネシウムの安定度定数が他の金属のそれよりも十分に低いため好ましいが、マグネシウムを殆どキレートしないため、キレート剤である有機カルボン酸やアミノポリカルボン酸などと併用すると、合金上の酸化物、腐食生成物を効果的に除去することができる。この場合、カルボン酸やＥＤＴＡ等、マグネシウムキレート安定度定数がエチレンジアミンより高い薬品を添加することにより、目的に応じて合金上の酸化物、腐食生成物を除去する効果を高めることができるので好ましい。添加剤により薬品のｐＨが変化するが、安定度定数自体がｐＨにより変化するため、これらを考慮して薬品濃度を決定することが重要である。
本発明における活性化剤はアルカリ性のアミン類を主とすることによりアルカリ性の薬品として使用することが望ましいが、これ以外の薬品を用いた場合にもｐＨ調整剤として水酸化アルカリ、炭酸アルカリを添加することができる。尚、水酸化アルカリ、炭酸アルカリを添加剤として用いた時には、処理後に水洗するのが好ましい。
【０００８】
本発明では、水溶性アミンやキレート剤を、０．１〜５００ｇ／Ｌ、好ましくは１〜１００ｇ／Ｌの水溶液となるようにして使用するのが好ましい。ｐＨは、６〜１４以上の範囲で使用するのがよく、ｐＨ１０〜１４が好ましい。液温は、１０〜１２０℃の範囲で使用するのがよく、３０〜９０℃が好ましい。処理時間は１秒〜６０分の範囲で使用するのがよく、１〜１０分が好ましい。マグネシウム又はその合金がダイカストや射出成形等の精密鋳造品の場合には処理時間を短くし、一方、一般的なキャスト等の鋳造品の場合には表面に異物が付着している恐れがあるために、充分な処理を行うのがよい。処理品を速やかに活性化させ、又処理中に表面より発生する気泡により条痕が付くのを防ぐために、マグネシウム及び合金材は処理浴中において揺動するか、液を攪拌することが望ましい。
上記の方法により清浄化されたＭｇ又はＭｇ合金部材には、次いで防食化処理を施すことができる。防食化処理としては、特に限定されないが、クロメート、クロムフリータイプの化成皮膜処理、陽極酸化処理及び塗装などが挙げられる。
【０００９】
【発明の効果】
本発明の清浄化処理方法は、工程が容易で、清浄化能力及び活性化能力に優れ、かつその後行う防錆処理の密着性及び防食性を改善することができる。また、本発明の防食処理方法は、優れた防食性を付与することができる。次に実施例により本発明を説明する。
【００１０】
【実施例】
実施例１
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製：ケイ酸塩と界面活性剤を主体とするアルカリ性ノンキレートタイプの金属用洗浄剤）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加して、アルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン１０ｇ／Ｌ、蓚酸２ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．６）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温６０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１１】
実施例２
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、ＥＤＴＡ４ソーダ５ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ５ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１２．９）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温６０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１２】
実施例３
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン１３ｇ／Ｌ、ＥＤＴＡ２Ｎａ６ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ２ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．９）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を浴温７０℃、５分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１３】
実施例４
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、エチレンジアミン６ｇ／Ｌ、クエン酸６ｇ／Ｌ、Ｎａ2ＣＯ3 １５ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１０．８）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温８０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１４】
実施例５
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加してアルカリ性の脱脂用水溶液を調整し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、７０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、スルホサリチル酸５ｇ／Ｌ、ＮａＯＨ １４ｇ／Ｌの水溶液を調製して活性剤水溶液とし（ｐＨ１３．２）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、浴温８０℃、３分の条件で活性剤水溶液に浸漬して、清浄化処理を行った。
【００１５】
比較例１
マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、軽金属用洗浄剤ＡＬ−４７（ディップソール株式会社製：界面活性剤を主体とするアルカリ性ノンキレートタイプの軽金属用洗浄剤）３０ｇ／Ｌ、５０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム１８０ｇ／Ｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記処理液中で浴温９５℃、７．５分間浸漬処理をして、清浄化処理を行った。
【００１６】
比較例２
マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、軽金属用洗浄剤ＡＬ−４７（ディップソール株式会社製）３０ｇ／Ｌ、５０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム２８０ｇ／Ｌ、７０％硝酸１７ｍｌ、５０％弗酸６．５ｍｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記処理液中で浴温２５℃、６０秒間浸漬処理して、清浄化処理を行った。
【００１７】
比較例３
ノンキレートタイプの金属用洗浄剤ＰＮ−３６（ディップソール株式会社製）４０ｇ／Ｌに水酸化ナトリウム２０ｇ／Ｌを添加して、アルカリ性の脱脂用水溶液を調製し、マグネシウムダイカスト材（ＡＺ９１Ｄ）を、６０℃、処理時間５分の条件によりアルカリ脱脂処理した。次いで、三酸化クロム１８０ｇ／Ｌの水溶液を調製して処理液とし（ｐＨ１）、これを用いてアルカリ脱脂処理を行ったマグネシウムダイカスト材を、上記浴中で浴温９５℃、７．５分間浸漬処理をして、清浄化処理を行った。
【００１８】
実施例１〜５及び比較例１、２の清浄化処理を完了した各マグネシウムダイカスト材の外観を次の基準により評価した。
◎：スマットが充分除去されており、白銀色の外観を示す。
○：スマットが充分除去されている
△：表面積の５％以内のスマットが残存するが、その後の表面処理が可能
×：表面積の５％以上のスマットが残存し、その後の表面処理の耐食性に問題がある。
又、実施例１〜５及び比較例１、２の前処理を完了した各マグネシウムダイカスト材に、ディップソール株式会社製マグネシウム用クロメート剤Ｍｇ−１１２６を用いて、濃度３０ｇ／Ｌ、温度２５℃、時間３０秒の処理にてクロメート処理を行った。さらにＪＩＳＺ２３１７に規定される塩水噴霧による試験を実施し、下記の基準で耐塩水噴霧耐食性を評価した。結果をまとめて表−１に示す。
○：試験結果２４時間での腐食面積が５％以内
△：試験結果２４時間での腐食面積が５％以上
×：試験結果１２時間での腐食面積が５％以上
【００１９】
表−１
Claims (2)
- キレート剤を含有せず、かつ、ｐＨが１０〜１４であるアルカリ性脱脂用水溶液で処理したマグネシウム又はその合金表面を、水溶性アミン、ジカルボン酸、オキシ又はケトカルボン酸、芳香族カルボン酸、アミノポリカルボン酸、から選ばれる１種又は２種以上を含有するｐＨが１０〜１４の活性化剤水溶液で処理することを特徴とするマグネシウム又はその合金表面の清浄化方法。
- 請求項１記載の方法により清浄化したマグネシウム又はその合金表面に防食処理を施すことを特徴とする防食処理方法。
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