このような従来のカソード防食施設遠隔監視システムによると、現時点で、カソード防食施設が故障・不具合無く稼働しているか否か、且つカソード防食状況が正常か否かの判断を遠隔的に行うことが可能になる。しかしながら、将来的にも防食対象パイプラインの健全性を常に維持するためには、現時点でのカソード防食施設の稼働状態及び防食対象の防食状況を把握するだけでは不十分であり、防食対象パイプラインの健全性を脅かす予兆を察知して、未然に健全性を脅かす要因を排除することが重要になる。
外部電極,直流電源装置等からなるカソード防食施設(外部電源施設)の寿命は、防食対象であるパイプラインの寿命より短いので、防食対象パイプラインの健全性を維持するためには、適当な時期にカソード防食施設を更新することが必要になる。
そして、カソード防食施設を更新するためには、例えば、外部電源施設の外部電極を再設置する場合には、通常百数十メートルの掘削工事を伴うことから、長期の施工期間と多くの施工経費を要することになり、即座の対応が極めて困難である。従って、前述した遠隔監視システムでカソード防食施設の稼働不良が監視できたとしても、不良の施設を更新するためには所定の時間が掛かるので、その間そのカソード防食施設が担っている防食対象区間は腐食リスクの高い状態が続くことになる。
また、カソード防食施設の設置情報から設置年数を把握することは可能であるが、防食対象パイプラインとカソード防食施設の周辺環境変化を設置年数の経過と共に随時把握することは極めて困難である。したがって、周辺環境変化によって当初予定の稼働状態とは異なる状況でカソード防食施設の稼働がなされ、施設の劣化状態から当初計画とは異なる時期に更新が必要になることもある。このように、カソード防食施設の設置情報のみでは、多数存在するカソード防食施設に対して計画的な更新を行うことができないという問題がある。
また、外部電源施設の出力方法としては、制御点の管対地電位が防食電位よりマイナスの設定電位になるように直流電源装置の出力を制御する「定電位制御方式」、所要防食電流の最大値を常時出力するように、外部電極と防食対象パイプラインとの間に直流電源装置によって常時定電圧を印加する「定電圧(無制御)方式」、制御点にプローブ流入直流電流密度制御用のプローブとプローブ直流電流密度計測評価用のプローブを設置して、制御点のプローブ流入直流電流密度がカソード防食管理基準に合格する設定値になるように直流電源装置の出力を制御する「プローブ流入直流電流密度制御方式」がある。
このような各種の出力制御方式によって稼働する外部電源施設では、防食対象パイプライン自身の腐食要因変化(塗覆装欠陥部の発生,他金属体との接触(メタルタッチ)の発生等)や周辺環境の変化によって、各防食対象区間で稼働するカソード防食施設の稼働状態が変化することになる。
しかしながら、従来のカソード防食施設遠隔監視システムでは、遠隔監視データとして得られる防食対象パイプラインの管対地電位やプローブ直流電流密度によって、現時点で防食対象が防食管理上適正な状態にあるか否かを把握することはできるが、防食対象の健全性を脅かす予兆を察知するために、カソード防食施設の稼働状態変化(出力電圧及び出力電流)が有効に活用されておらず、常時監視しているカソード防食施設の稼働状態データが防食対象パイプラインの健全性評価に効果的に活用されていない問題があった。
本発明は、このような事情に対処することを課題とするものである。すなわち、防食対象パイプラインに設置された複数のカソード防食施設が適正に稼働している状況を把握することで防食対象パイプラインの健全性を評価するに際して、カソード防食施設の稼働状態の変化から防食対象パイプラインの健全性を脅かす予兆を早期に把握すること、また、カソード防食施設の稼働状態の変化からカソード防食施設の故障・不具合を未然に察知すること、更には、更新に時間と経費を要するカソード防食施設の計画的更新を可能にすること、等が本発明の目的である。
このような目的を達成するために本発明は、以下の特徴を有する。
一つには、防食対象となるパイプラインに設置された複数のカソード防食施設が適正に稼働している状況を把握することで前記防食対象の健全性を評価する防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記カソード防食施設の出力電圧値と出力電流値とを時系列的に取得する出力値取得手段と、取得した前記出力電圧値を同時期の前記出力電流値で除した値である回路抵抗値を時系列的に求める回路抵抗値演算手段と、前記回路抵抗値の長期的な変化傾向から前記カソード防食施設の更新必要性を判断する防食施設更新判断手段と、を備えることを特徴とするものである。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記出力値取得手段は、計測データから所定計測期間内での平均値を求める平均値算出手段を備え、前記出力電圧値と前記出力電流値は、出力電圧と出力電流の計測データからそれぞれ求められる平均値であることを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記防食施設更新判断手段は、設定経過時間前後の前記回路抵抗値の差分を求め、該差分の上昇傾向によって前記カソード防食施設の更新必要性を判断することを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記防食施設更新判断手段は、前記カソード防食施設の定格出力電圧を前記防食対象の所要防食電流で除して求めた許容最大回路抵抗に、前記回路抵抗値が近づく状況によって、前記カソード防食施設の更新必要性を判断することを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記出力電流値に基づいて、評価期間内の前記カソード防食施設の稼働状態を評価する稼働状態評価手段と、前記出力電流値と前記カソード防食施設の定格電流との対比に基づいて、評価期間内の前記カソード防食施設の負荷状態を評価する負荷状態評価手段を備え、前記防食施設更新判断手段の判断結果が更新要の場合に、前記稼働状態評価手段と前記負荷状態評価手段の評価結果に基づいて前記カソード防食施設の更新優先順位を設定する更新優先順位設定手段を備えることを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記稼働状態評価手段は、評価期間内の全日数に対する前記出力電流値が所定時間以上発生している稼働日数の割合によって計算される稼働率を求め、該稼働率を基準値と比較することで前記稼働状態を評価することを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記負荷状態評価手段は、評価期間内の前記稼働日数に対する前記カソード防食施設における定格電流に日平均の前記出力電流値が近づいた日数の割合によって計算される負荷率を求め、該負荷率を基準値と比較することで、前記負荷状態を評価することを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記出力電流値の短期的な変動状況に基づいて前記防食対象の突発的な不具合発生を検知する防食対象不具合検知手段を備えることを特徴とする。
また一つには、前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置において、前記防食対象不具合検知手段は、設定された短期の経過時間前後における前記出力電流値の差分が許容範囲以上になり、且つその後の短期の経過時間前後の差分が許容範囲以内であることを検出して、前記不具合発生を検知することを特徴とする。
更には、防食対象となるパイプラインに設置された複数のカソード防食施設のそれぞれに設置されて前記カソード防食施設を監視する監視部と、該監視部からの計測データを収集する計測データ収集部と、該計測データ収集部によって収集された計測データに基づいて前記パイプラインの健全性を評価する健全性評価部とを備えた防食対象パイプラインの健全性遠隔評価システムであって、前記監視部は、前記カソード防食施設の稼働状態を示す出力電圧と出力電流とを少なくとも計測する稼働状態計測制御手段と、前記稼働状態計測制御手段によって計測された計測データを前記計測データ収集部に送信するデータ送信手段とを備え、前記計測データ収集部は、前記データ送信手段によって送信された前記計測データを受信するデータ受信手段と、該データ受信手段によって受信された前記計測データを記憶させるデータ記憶手段とを備え、前記健全性評価部は、記憶された前記計測データから出力電圧値と出力電流値とを時系列的に取得する出力値取得手段と、取得した前記出力電圧値を同時期の前記出力電流値で除した値である回路抵抗値を時系列的に求める回路抵抗値演算手段と、前記回路抵抗値の長期的な変化傾向から前記カソード防食施設の更新必要性を判断する防食施設更新判断手段とを備えることを特徴とする。
また、前述した防食対象パイプラインの健全性遠隔評価システムにおいて、前記健全性評価部は、前記出力電流値の短期的な変動状況に基づいて前記防食対象の突発的な不具合発生を検知する防食対象不具合検知手段を備えることを特徴とする。
また、防食対象となるパイプラインに設置された複数のカソード防食施設が適正に稼働している状況を把握することで前記防食対象の健全性を評価する防食対象パイプラインの健全性評価方法において、前記カソード防食施設の出力電圧値と出力電流値とを時系列的に取得する稼働状態取得処理と、取得した前記出力電圧値を同時期の前記出力電流値で除した値である回路抵抗値を時系列的に求める回路抵抗値演算処理と、前記回路抵抗値の長期的な変化傾向から前記カソード防食施設の更新必要性を判断する防食施設更新判断処理と、を行うことを特徴とする。
また、前述した防食対象パイプラインの健全性評価方法において、前記防食施設更新判断処理に先立って、前記出力電流値の短期的な変動状況に基づいて前記防食対象の突発的な不具合発生を検知する防食対象不具合検知処理を行うことを特徴とする。
また、防食対象となるパイプラインに設置された複数のカソード防食施設が適正に稼働している状況を把握することで前記防食対象の健全性を評価する防食対象パイプラインの健全性評価プログラムであって、前記カソード防食施設の稼働状態を計測した計測データが記憶された記憶部と該記憶部に記憶された計測データを演算処理する演算処理部を少なくとも備えたコンピュータを、記憶された前記計測データから前記カソード防食施設の出力電圧値と出力電流値とを時系列的に取得する出力値取得手段、取得した前記出力電圧値を同時期の前記出力電流値で除した値である回路抵抗値を時系列的に求める回路抵抗値演算手段、前記回路抵抗値の長期的な変化傾向から前記カソード防食施設の更新必要性を判断する防食施設更新判断手段、として機能させることを特徴とする。
また、前述した防食対象パイプラインの健全性評価プログラムにおいて、前記コンピュータを、前記出力電流値の短期的な変動状況に基づいて前記防食対象の突発的な不具合発生を検知する防食対象不具合検知手段として更に機能させることを特徴とする。
このような特徴を有する防食対象パイプラインの健全性評価装置,健全性遠隔評価システム,健全性評価方法,健全性評価プログラムによると、以下の作用を得ることができる。
先ず、カソード防食施設の出力電圧値と出力電流値が時系列的に取得されて、この取得された出力電圧値と出力電流値とで回路抵抗値が時系列的に求められる。カソード防食施設の出力電圧を出力電流で除した値である回路抵抗は、カソード防食施設のアノード(外部電源施設では外部電極)の接地抵抗、カソード(防食対象物)の接地抵抗、アノード/カソード間の電解質電気抵抗、及びケーブル・ネジ類等の電気抵抗の総和であると考えることができる。外部電源施設においては、前述のように求められた回路抵抗値の時系列的な変動は、主として、外部電極の消耗劣化に伴うアノード接地抵抗の増大と防食対象パイプラインに対する腐食要因付加(塗覆装欠陥部の発生やメタルタッチの発生)によるカソード接地抵抗の低下に因るものと考えることができる。
ここで、前者のアノード接地抵抗の増大は長期間で徐々に変化する現象であり、後者のカソード接地抵抗の低下は突発的に変化する現象として分けて捉えることができるので、徐々に増大する回路抵抗値の長期的な変化傾向から外部電極の消耗劣化状態を把握することが可能になり、これによって外部電源施設の更新必要性を判断することが可能になる。
この際に、カソード防食施設稼働時に計測される出力電圧と出力電流の計測データから所定計測期間内での平均値を求め、この各平均値を前述した出力電圧値と出力電流値にして、この出力電圧値を出力電流値で除して前述の回路抵抗値を求めることで、短時間での時系列変動を排除した長期的な変化傾向を適正に把握することが可能になる。
そして、カソード防食施設を更新するか否かの判断は、設定経過時間前後の回路抵抗値の差分を求め、この差分の上昇傾向によって判断することができる。すなわち、前述した差分が連続して上昇傾向にある場合等には回路抵抗値が徐々に上昇して外部電源施設の外部電極の劣化が進行していることが把握できるので、その上昇度合を考慮して、外部電極更新の要否を判断することができる。
また、外部電源施設を更新するか否かの判断は、直流電源装置が防食対象物に対して所要防食電流を供給できるか否かによって判断すべきであるから、カソード防食施設の定格出力電圧を防食対象の所要防食電流で除して求めた許容最大回路抵抗に増加傾向にある前述した回路抵抗値が近づく状況によって判断することがより好ましい。この際に、前述の許容最大回路抵抗を回路抵抗値が超えた段階で判断をするのではなく、前述の許容最大回路抵抗より低い値(例えば、許容最大回路抵抗×0.8(安全率))を閾値に設定することによって、カソード防食施設の故障・不具合を未然に察知することが可能になる。
そして、カソード防食施設の更新判断の結果が更新要の場合には、カソード防食施設の稼働状態と負荷状態の評価に応じて、複数存在するカソード防食施設の更新優先順位付けを行う。ここでは、カソード防食施設の稼働状態が常時稼働であることを確認した上で、負荷状態が高負荷のものを優先する。高負荷のものは回路抵抗値の上昇率が高くなり、前述の閾値を超えてから許容最大回路抵抗に到達するまでの期間が短いことが予測されるので、これを優先して更新することでカソード防食施設の故障・不具合を未然に防ぎ、カソード防食施設の稼働停止によって防食対象が無防食状態になる期間を極力短くすることができる。また、負荷状態の評価を考慮することで、一つの防食対象パイプラインに設置されるカソード防食施設の負荷を平準化することが可能になる。
この際、稼働状態の評価は、評価期間内の全日数に対する前記出力電流値が所定時間以上発生している(ゼロではない)稼働日数の割合によって計算される稼働率を求め、この稼働率を基準値と比較することで評価する。この稼働率が100%であることを確認することで、カソード防食施設が常時稼働していることを確認することができる。
また、負荷状態の評価は、評価期間内の前記稼働日数に対する前記カソード防食施設における定格電流に日平均の前記出力電流値が近づいた日数の割合によって計算される負荷率を求め、該負荷率を基準値と比較することで評価する。すなわち、定格電流近くの出力電流を持続しながら稼働している場合には負荷率が高くなる。
一方、前述した後者のカソード接地抵抗の低下は、メタルタッチの発生や防食対象パイプラインの塗覆装が損傷した時点で突発的に生じ、出力電流値が急に増加することになる。したがって、出力電流値の短期的な変動状況に基づいてメタルタッチ等の防食対象に対する突発的な不具合発生を検知することができる。このような出力電流値の短期的な変動状況に基づく不具合発生が検知された場合には、その時点では防食対象の防食状況(管対地電位或いはプローブ直流電流密度)はカソード防食管理基準を満たしていることが多いが、この検知を防食対象の健全性を脅かす予兆として捉えて、適切な対策を講じることが重要になる。
また、この際に増加した出力電流値は、メタルタッチ等の原因が解消されない限り下がることはないので、前述した防食対象の不具合検知は、設定された短期の経過時間前後における出力電流値の差分が許容範囲以上になり、且つその後の短期の経過時間前後の差分が許容範囲以内であることを検出することで、不具合発生を検知することができる。これによって、外乱による出力電流の変動と不具合発生による変動を識別することができる。
そして、本発明は、従来技術で示した遠隔監視システムのシステム構成を採用することで、複数のカソード防食施設が設置された防食対象パイプラインに対して適正な健全性評価を行うことができる遠隔評価システムを構築することができる。
また、前述の作用又は機能は、汎用コンピュータに組み込んだプログラムの実行によって実現することができる。これによって、インターネット等の既存ネットワーク回線に汎用コンピュータを接続して構成される端末機に前述した防食対象パイプラインの健全性評価装置の機能を付加することが可能になり、設置場所を選ばず、どこからでも防食対象の遠隔監視が可能になる。
本発明は、以上の特徴を具備することで、防食対象パイプラインに設置された複数のカソード防食施設が適正に稼働している状況を把握することで防食対象パイプラインの健全性を評価するに際して、カソード防食施設の稼働状態の変化から防食対象パイプラインの健全性を脅かす予兆を察知することができる。また、カソード防食施設の稼働状態の変化からカソード防食施設の故障・不具合を未然に察知することができる。更には、更新に時間と経費を要するカソード防食施設の計画的更新を可能にすることができる。また、カソード防食施設の稼働状態の変化から防食対象パイプラインの接地抵抗の低下を遠隔監視し、防食対象の健全性を脅かす要因を早期に把握することが可能になる。
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は、防食対象であるパイプライン1の健全性評価装置を含む防食対象パイプラインの健全性遠隔評価システムの構成を示す説明図である。ここでは、遠隔評価システムを例にして説明するが、健全性評価装置としては、記録されたカソード防食施設の稼働状態を計測したデータを対象にして、このような遠隔評価システムとは切り離された単独の装置であってもよい。
図1において、カソード防食施設10は、ここでは外部電源方式を用いた施設(外部電源施設)を例示しており、塗覆装が施されたパイプライン1の近傍の地中に埋設された外部電極11が直流電源装置12を介してパイプライン1に接続されたものである。また、カソード防食施設10の稼働によるパイプライン1の防食状況を把握するために、パイプライン1に近接して埋設されたプローブ13と照合電極14がそれぞれ電流計15或いは電圧計16を介してパイプライン1に電気的に接続されている。
ここで、外部電極11は、深さD1(通常120m)の掘削された縦穴11a内に深さD2(通常90m)まで黒鉛粉末11bを詰めて、その中に埋め込まれており、この外部電極11と直流電源装置12とを電気的に接続する導線を通すためのPVCパイプ11cが縦穴11a内に配置され、このPVCパイプ11cの周囲にはこれを固定するための砂利11dが詰められている。また、直流電源装置12は、例えば、商用交流電源から供給される交流電圧を直流に変換する整流器を備えると共に調整可能な内部抵抗を備えるものであって、外部電極11側をプラス極に、パイプライン1側をマイナス極にして、直流電圧を供給することができるものである。
このようなカソード防食施設によると、印加された直流電圧(出力電圧)V分だけ、外部電極11がパイプライン1に対してプラス側の電位になり、その逆にパイプライン1はマイナス側の電位になる。したがって、外部電極11がアノード、パイプライン1がカソードになって、直流電源装置12の出力電流Iに相当する防食電流がパイプライン1に供給されることになる。
この際に、このカソード防食施設10によるパイプライン1の防食状況は、パイプライン1と照合電極14との間の電位VP/S(「管対地電位」)とプローブ13に流入する直流電流(プローブ直流電流IP)から求められるプローブ直流電流密度によって評価することができる。そして、通常は、照合電極14が飽和硫酸銅電極によって構成されている場合には、管対地電位VP/Sが−0.85V以下で且つ過防食を起こさない範囲内に、プローブ直流電流密度がカソード防食管理基準の範囲内になるように、出力電圧Vの調整がなされている。
このようなカソード防食施設10は、各パイプライン1の絶縁継手で区画された防食対象区間毎に設けられ、各パイプライン1に対して複数のカソード防食施設10が設けられている。そして、このようなカソード防食施設の個々に監視部20が設けられている。
この監視部20は、カソード防食施設10(直流電源装置12)の出力電圧Vと出力電流Iを計測し、必要に応じて、パイプライン1の防食状況の指標となる管対地電位VP/Sやプローブ直流電流密度を計測する稼働状態計測制御手段21を備えている。また、この稼働状態計測制御手段21は、前述した各計測値の取得に加えて、パイプライン1の防食状況の指標となる計測値に基づいて直流電源装置12の出力電圧を制御するものであってもよい。
更に、監視部20は稼働状態計測制御手段の計測データを後述する送信先に送信するデータ送信手段22を備えている。このデータ送信手段22は、例えば、無線パケット網等の通信網2に無線接続されており、デジタル無線通信によって通信網2に計測データを送信するものである。
そして、通信網2は、図示省略のゲートウェイ等によってインターネット3と接続されており、インターネット3との間でデータを送受信することができるようになっている。インターネット3には、電子メールサーバ4及びウェブサーバ5が接続されると共に、後述する健全性評価装置30が接続されており、更には、遠隔モニタ用端末機(携帯用コンピュータ)6が適宜接続可能な状態になっている。
すなわち、カソード防食施設10の監視部20から送信された計測データは、インターネット3を介してウェブサーバ5及び健全性評価装置30に送信され、計測データ及び健全性評価装置30による評価結果が、電子メールサーバ4に送られると共にウェブサーバ5のホームページに登録されることになる。そして、遠隔モニタ用端末機6によって、インターネット3を介してウェブサーバ5上のホームページにアクセスすることで、遠隔モニタ用端末機6によって各カソード防食施設10からの計測データ及び健全性評価装置30の評価結果を閲覧できるようにしている。
また、インターネット3に送信された計測データ及び健全性評価装置30の評価結果は、電子メールサーバ4にも送信され、定期的又は必要に応じて、計測データ及び健全性評価装置30の評価結果に係る情報を電子メールによって各遠隔モニタ端末機6に送信できるようにしている。
なお、前述の説明では外部電源方式を用いたカソード防食施設について説明したが、外部電源方式を用いた施設に換えて強制排流法等の防食施設を採用している場合にも同様に監視装置20を設けて出力電圧,出力電流等を送受信することができる。
次に、図2によって、カソード防食施設10の監視装置20によるデータ計測方法及びデータ送信方法について説明する。図2はカソード防食施設10の監視部20におけるデータ計測及びデータ送信のタイムチャートの一例を示したものである。
カソード防食施設10の監視部20は、例えば、常時計測される計測データを2時間の基本計測期間毎に送信している。この2時間の基本計測期間の内、例えば1時間59分30秒をデータの計測に使用する計測期間に充て、残りの30秒をデータの送信に使用する送信期間に充てている。
そして、図示の例では、計測期間は更に1秒間隔のサブ計測期間に分けられており、1時間59分30秒(7170秒)の計測期間内には7170個のサブ計測期間が存在することになる。ここで監視部20の稼働状態計測制御手段21は、出力電圧V,出力電流I,管対地電位VP/S,プローブ直流電流IPの4つのデータを計測するので、サブ計測期間の最初の100m秒を出力電圧Vの計測に充て、次の100m秒を出力電流Iの計測に充て、次の100m秒を管対地電位VP/Sの計測に充て、次の100m秒をプローブ直流電流IPの計測に充てている。そして、サブ計測期間の残りの時間をV,I,VP/S,IP各計測データの平均値,最大値及び最小値、並びに最大値,最小値の各計測時刻を求めるデータ処理に充てている。
出力電圧V,出力電流I,管対地電位VP/S,プローブ直流電流IPの計測では、例えば、0.1m秒のサンプリング間隔で計測データの取得がなされて100m秒の間に1000個のデータが取得される。これらの計測データは、一旦稼働状態計測制御手段21内の内部メモリに記憶される。そして、データ処理の期間に内部メモリからデータを読み出してサブ計測期間毎の平均値,最大値及び最小値、並びに最大値,最小値の各計測時刻を求めて、これらを更に内部メモリに記憶させる。
一つの基本計測期間終了後の送信期間では、各サブ計測期間で求めた出力電圧V,出力電流I,管対地電位VP/S,プローブ直流電流IPの平均値,最大値及び最小値、並びに最大値,最小値の各計測時刻を時系列データとして、通信網2に送信する。
図3は、健全性評価装置30の構成を示したブロック図である。健全性評価装置30は、入出力部30A,演算処理部30B,記憶部30Cをハードウエア構成として備えたコンピュータによって構成することができ、必要に応じて、演算処理部30Bに演算処理結果を表示する表示装置30Dが接続されている。そして、健全性評価装置30は、計測データ収集部31と健全性評価部32をソフトウエア構成として備えている。ここでは遠隔評価システムを構築することを前提にして、計測データ収集部31を備える例を説明するが、遠隔評価システムとは切り離した単独の健全性評価装置30では、計測データ収集部31は必須構成ではなく、健全性評価部32に計測データを直接供給する手段(記録媒体等からデータを読み取る手段等)が有ればよい。
計測データ収集部31は、データ受信手段31Aとデータ記憶手段31Bからなる。データ受信手段31Aは入出力部30Aの受信機能を働かせて監視部20のデータ送信手段22によって送信された計測データを受信する機能を有するものであり、データ記憶手段31Bは受信した計測データを記憶部30Cに記憶させる機能を有するものである。
健全性評価部32は、出力値取得手段32A、回路抵抗値演算手段32B、防食施設更新判断手段32Cを基本要素として備えており、更に付加的要素として、稼働状態評価手段32D,負荷状態評価手段32E,防食対象不具合検知手段32F、演算結果出力手段32G等を備えている。
出力値取得手段32Aは、計測データからカソード防食施設10の出力電圧値と出力電流値とを時系列的に取得する機能を有する。具体的には、基本計測期間毎に送られてくる出力電圧Vと出力電流Iの計測データ(サブ計測期間毎の平均値データ)から平均値算出手段32A1(計測データから所定計測期間内での平均値を求める)によって基本計測期間内の平均値を求める。すなわち、2時間の1基本計測期間には出力電圧V,出力電流Iの計測データがそれぞれ7170個存在することになるが、これらの総和を求めて(1/7170)を乗じることで、基本計測期間内の平均化された出力電圧値と出力電流値が求められる。このようにして求めた出力電圧値と出力電流値を1対にして1基本計測期間毎に定められた記憶領域に記憶させることで、基本計測期間(2時間)単位の時系列的な出力電圧値と出力電流値を取得することができる。また、記憶部30Cの記憶容量が大きい場合には、送られてきたサブ計測期間毎の平均値データをそのままサブ計測期間に対応した記憶領域に対応させて記憶することで、更に精細な時系列データを取得することもできる。
回路抵抗値演算手段32Bは、取得した出力電圧値を同時期の出力電流値で除した値である回路抵抗値を時系列的に求める機能を有する。直流電源装置12の出力電圧Vを出力電流Iで除した値は、カソード防食施設10における全ての外部電極11(アノード)の接地抵抗、防食対象物であるパイプライン1(カソード)の接地抵抗、アノード/カソード間の電解質電気抵抗、及びケーブル・ネジ類等の電気抵抗が含まれる値で、通常、カソード防食施設10(外部電源施設)の外部電極11は複数個有るので、直流電源装置12の稼働時における外部電極11の一個ずつの値を総和した値が求められることになり、直流電源装置の総回路抵抗と称されるものである。回路抵抗値演算手段32Bによって求められる回路抵抗値は前述した総回路抵抗に相当するものである。回路抵抗値は基本計測期間毎に求めることができるが、長期的な変動傾向を把握する必要があるので、月平均値或いは年平均値を求めて、これらの時系列変化を把握できるようにする。
図4は、記憶部30C内に記憶された出力電圧値,出力電流値,回路抵抗値のアドレスマップの一例を模式化して示したものである。アドレスマップは、基本計測期間毎に割り振られた4つの記憶領域[tn0],[tn1],[tn2],[tn3]がセットになって基本計測期間の時系列順に配列された構造を有しており、その一つの記憶領域[t10]…[tn0]には、所定の基本計測期間における開始又は終了時刻T1…Tnがそれぞれ記憶され、記憶領域[t11]…[tn1]には、各基本計測期間における出力電圧値(平均値)a1…anが記憶され、記憶領域[t12]…[tn2]には、各基本計測期間における出力電流値b1…bnが記憶され、記憶領域[t13]…[tn3]には、各基本計測期間における回路抵抗値c1…cnが記憶される。
したがって、この実施形態では、出力値取得手段32Aにおいては、時刻Tnとその時刻に対応する計測データを演算処理して求められた出力電圧値an,出力電流値bnが、それぞれ記憶領域[tn0],[tn1],[tn2]に記憶され、[t10]…[tn0],[t11]…[tn1],[t12]…[tn2]の記憶領域がそれぞれ全体の計測期間内の各値(時刻Tn,出力電圧値an,出力電流値bn)で埋められることになる。
そして、回路抵抗値演算手段32Bでは、記憶領域[tn1]から取得した出力電圧値anと記憶領域[tn2]から取得した出力電流値bnとによって、cn=an/bnの演算を行い、その演算結果を記憶領域[tn3]に記憶する動作がなされる。これによって、記憶領域[t13]…[tn3]には時系列的に並べられた回路抵抗値c1…cnがそれぞれ記憶されることになる。
次に、防食施設更新判断手段32Cは、回路抵抗値の長期的な変化傾向からカソード防食施設10の更新必要性を判断する機能を有する。前述した直流電源装置の総回路抵抗は、外部電源施設の外部電極(アノード)及びバックフィル(充填材)の消耗を主原因として稼働時間の経過と共に徐々に高くなっていく。そこで、この総回路抵抗に相当する回路抵抗値の長期的な変化傾向を演算処理することでカソード防食施設10の更新必要性を判断することができる。
この際、判断対象のカソード防食施設10に対して所要防食電流Inと許容最大回路抵抗Rpを以下のように定義する。
所要防食電流Inは、防食対象であるパイプライン1の管対地電位VP/Sが防食電位(照合電極14が飽和硫酸銅電極によって構成されている場合には、−0.85V)になるのに必要な最小限の防食電流、或いは、カソード防食対象物に電気的に接続されたすべてのプローブ13(塗覆装欠陥部を模擬したもの)に流入するプローブ流入直流電流密度がプローブ直流電流密度を指標としたカソード防食管理基準に合格するために必要な最小限の防食電流を指す。この所要防食電流Inはカソード防食対象物に対して大きな環境変化(高圧交流送電線の新設等)が無く、後述する突発的なカソード防食対象物に対する不具合(塗覆装欠陥の形成・拡大、メタルタッチの発生)等がなければ、変動幅の小さい値になる。この所要防食電流Inは、通常、カソード防食施設10の設置時又は定期点検(半年に1回等)時の管対地電位VP/S又はプローブ直流電流密度IPの計測結果に基づいて設定される。
これに対して、直流電源装置12には定常的な出力電圧の限界値である定格電圧Vmaxが存在するので、この定格電圧Vmaxを所要防食電流Inで除した値を許容最大回路抵抗Rp(=Vmax/In)と定義する。
図5は、時系列的に取得した回路抵抗値の年間平均を縦軸に、カソード防食施設10設置後の経過年数(年)を横軸にして、回路抵抗値の長期的な変動の一例を示したグラフである。ここで、例として、定格電圧Vmaxが60V、定格電流が30A、所要防食電流が2Aの外部電源施設を対象にすると、前述した許容最大回路抵抗Rpは30Aになる。図示のように、回路抵抗値は経過年数と共に徐々に増大することになるので、この回路抵抗値が許容最大回路抵抗Rpに近づく状況を判断材料にして、カソード防食施設10の更新必要性を判断することができる。
この際、許容最大回路抵抗Rpを回路抵抗値が超えた場合には直流電源装置12の定格電圧Vmaxを出力しても所要防食電流Inが得られなくなるが、外部電源方式のカソード防食施設10の更新を即座に行うことは極めて困難であるから、防食対象パイプライン1の健全性維持を考えると、回路抵抗値が許容最大回路抵抗Rpに至る前にカソード防食施設10の更新必要性を判断する必要がある。そこで、防食施設更新判断手段32Cは、許容最大回路抵抗Rpに安全率(例えば、70〜80%)を掛けた値を閾値に設定し、この設定閾値に時系列的に取得した回路抵抗値が達した時点で更新必要性の判断を出力するように機能する。
また、防食施設更新判断手段32Cは、設定経過時間前後の回路抵抗値の差分を求め、この差分の上昇傾向によってカソード防食施設10の更新必要性を判断するものであってもよい。すなわち、図5に示すように、経過年数15年目の回路抵抗値とそれらから3年(設定経過時間:ΔY)経過した後の回路抵抗値との差分ΔRを求め、その上昇傾向(ΔR/ΔY)が続くことを前提にして回路抵抗値が許容最大回路抵抗Rpに至る経過年数を予測する。そして、その予測された経過年数に安全率を掛けた経過年数に至った時点で、更新必要性の判断を出力するように機能する。
また、健全性評価装置30では、複数のカソード防食施設10が評価対象になっているので、複数のカソード防食施設10に対して同時期に更新必要性の判断が出力されることがあり得る。これに対して、防食施設更新判断手段32Cに、以下に示す更新優先順位設定手段32C1を付加することもできる。
更新優先順位設定手段32C1は、防食施設更新判断手段32Cの判断結果が更新要の場合に、後述する稼働状態評価手段32Dと負荷状態評価手段32Eの評価結果に基づいて、更新対象となっている複数のカソード防食施設10に対して、更新優先順位を設定するものである。
ここで、稼働状態評価手段32Dは、時系列的に取得した出力電流値に基づいて評価期間内のカソード防食施設の稼働状態を評価するものであって、評価期間内の全日数に対する出力電流値が所定時間以上発生している稼働日数の割合によって計算される稼働率を求め、この稼働率を基準値と比較することで稼働状態を評価するものである。
すなわち、例えば、直流電源装置12の点検月(評価期間)において、{(出力電流値がゼロを超えた日)/(点検月の日数)}×100(%)で稼働率を定め、稼働率が100%か否かで稼働状態を評価する。出力電流値は前述した例では基本計測期間の2時間毎に取得されるが、この基本計測期間内で出力電流値がゼロを超えたら、当該日は稼働したものとみなし、評価期間内の全日で稼働したとみなされた場合を稼働率100%とする。
ここで、更新優先順位を設定する際には稼働率が高い(100%)のものを優先し、稼働率が低いもの(100%に満たないもの)は優先順位を下げる。故障・不具合が起きていないにも拘わらず稼働率が低いカソード防食施設10は、周辺環境の変化や防食対象自身の更新等によって防食の必要性が低下したものと考えることができるので、このようなカソード防食施設10に対しては更新の優先順位付けを低く設定する。
しかしながら、近年の外部電源施設は、踏切部・車両基地等の対地漏れ抵抗の低い箇所近傍に埋設された防食対象の、いわばローカルなカソード防食を目的として設置されることもある。これに対しては、踏切部であれば、車両の通過時に発生するレール漏えい電流による腐食リスクを排除するために、車両基地であれば車両が車両基地に入庫したときに発生する車両基地内のレール流入電流による腐食リスクを排除するために、外部電源施設の直流電源装置12が稼働するようになっている場合がある。このような場合、ある時間稼働するだけで外部電源施設の設置目的は達成されることになるので、直流電源装置の出力電流値が2時間の基本計測期間内においてゼロを超えたら、その外部電源施設は、当該日に稼働したとみなし、前述の稼働率を計算する。
また、負荷状態評価手段32Eは、出力電流値とカソード防食施設10の定格電流との対比に基づいて、評価期間内のカソード防食施設10の負荷状態を評価するものであり、評価期間内の稼働日数に対するカソード防食施設における定格電流に日平均の出力電流値が近づいた日数の割合;{(カソード防食施設における定格電流に日平均の出力電流値が近づいた日数)/(評価期間内の稼働日数)}×100(%)、具体的には、{(出力電流値が定格電流の80%以上を示した日)/(点検月において出力電流値がゼロを超えた日)}×100(%)で負荷率を定め、この負荷率を基準値と比較することで、前記の負荷状態を評価するものである。
ここで、優先順位を設定する際には、負荷率が高いものを優先し、負荷率が低いものは優先順位を下げる。負荷率が高いものは、回路抵抗値が設定閾値を超えてから許容最大回路抵抗Rpに至るまでの時間が短いことが予測されるので、このようなカソード防食施設10の更新を優先して行うことで、防食対象パイプライン1の健全性維持を確保する。
より具体的には、稼働状態評価手段32Dは、記憶部30Cに記憶された出力電流値を取得して1基本計測期間毎にゼロを超えているか否か判断し、ゼロを超えている場合にはフラグを立てる。この動作を1日分(12基本計測期間)行って、少なくとも一つのフラグが立っている場合には、その日を稼働日とみなし、別のフラグを立てる。そして、この動作を1評価期間(例えば1月)行って、別のフラグのカウント値と1計測期間内の日数カウント値によって、その1評価期間内の稼働率を計算する。出力電流値が記憶部30Cに記憶される毎に随時前述の動作を繰り返して、1評価期間毎に稼働率を出力する。
一方、負荷状態評価手段32Eは、記憶部30Cに記憶された1基本計測期間毎の出力電流値を1日分(12基本計測期間)取得して、1日分の平均値を算出し、その平均値がカソード防食施設10の定格電流(予め記憶部30Cに記憶されている)の80%以上か否かを判断し、80%を超えている場合はフラグを立てる。この動作を1評価期間(例えば1月)行って、フラグのカウント値と前述した稼働状態評価手段32Dにおける稼働日数のカウント値によって、その1評価期間内の負荷率を計算する。出力電流値が記憶部30Cに記憶される毎に随時前述の動作を繰り返して、1評価期間毎に負荷率を出力する。
また、防食対象不具合検知手段32Fは、出力電流値の短期的な変動状況に基づいて防食対象の突発的な不具合発生を検知するものであり、特には、設定された短期の経過時間前後における出力電流値の差分が許容範囲以上になり、且つその後の短期の経過時間前後の差分が許容範囲以内であることを検出して、不具合発生を検知するものである。
具体的には、防食対象不具合検知手段32Fは、前述した負荷状態評価手段32Eと同様にして出力電流値の1日分の平均値を算出し、日毎の平均値の差分を求める。そして、その差分と基準値とを比較して、日毎の差分が許容範囲以内であることを確認する。そして、日毎の差分が許容範囲を超えた場合で、次の日毎の差分が許容範囲以内になった場合、つまり、出力電流値の平均値が一旦上昇した後、その上昇値を維持するような状態になったことを検出して、不具合発生を検知する。
図6は出力電流値の日平均値の変動例を示したグラフである。この例では、4日目から5日目の間に出力電流値の日平均値がΔIだけ大きく上昇し、その後はその上昇した値がほぼ維持されていることが判る。
このような出力電流値の変動は、防食対象であるパイプライン1に塗覆装欠陥部が形成された場合、或いは防食対象パイプライン1に他の鋼管等が接触するメタルタッチが発生した場合等に生じることが知られており、その変動の特徴は、短期的に上昇した出力電流値の値が上昇後に維持されることにある。すなわち、塗覆装欠陥部の形成やメタルタッチの発生は、それによって出力電流値の上昇を招くが、これらの現象が解消されない限り出力電流値が低下することはないので、上昇した後にその値が維持される変動状況の検出、つまり、設定された短期の経過時間前後における出力電流値の差分が許容範囲以上になり、且つその後の短期の経過時間前後の差分が許容範囲以内であることの検出によって、メタルタッチ等の突発的な不具合発生を検知することができる。
図7は、前述した健全性評価装置30の処理フローの一例を示したものである。ここでは、一つのカソード防食施設10についての処理動作を説明するが、同様の処理が異なるカソード防食施設についても並列処理で行われている。
先ず、カソード防食施設10の一つが選択されて処理が開始されると、出力値取得手段32Aによって、基本計測期間(2時間)毎のデータ受信(S1)が実行され、1回のデータ受信で基本計測期間が2時間の例では7170個の出力電圧V,出力電流I,管対地電位VP/S,プローブ直流電流IPの各データ(サブ計測期間毎の平均値等)が受信される。
そして、1回のデータ受信(S1)毎に、下記式によって基本計測期間毎の平均値(出力電圧値V0(式1−1),出力電流値I0(式1−2))が求められる(平均値算出:S2)。また、加えて、基本計測期間毎の管対地電位VP/Sの平均値,基本計測期間毎のプローブ直流電流密度が求められる。
そして、求められた各データが記憶部30Cの所定の記憶領域に記憶される(データ記憶:S2)。図8(a)は、この際に設定される記憶領域の形態例を示したものである。ここでは、以後の説明に用いる出力電圧値V0(n),出力電流値I0(n)について説明するが、管対地電位VP/S,プローブ直流電流IPに関しても同様に記憶領域が形成されることになる。この例では、基本計測期間の2時間毎に一組の出力電圧値V0(n),出力電流値I0(n)が求められることを前提に、24時間(1日)分の記憶領域が設定されている。すなわち、基本計測期間終了時刻Tn,出力電圧値V0(n),出力電流値I0(n)を一組にして、12組のデータが時系列的に記憶可能な記憶領域が設定されている。
そして、基本計測期間毎の出力電流値I0が求められると、I0>0によって稼働状態確認(S4)が行われ、稼働状態が確認された場合(I0>0がYES)には稼働状態確認フラグF1がF1=1にセットされ(フラグセット:S5)、稼働状態が確認されなかった場合には、稼働状態確認フラグF1は既定値0が保持される。
ここまでの処理ステップS1〜S5が1回のデータ受信毎(2時間毎)に行われ、これが24時間単位で繰り返される(24時間経過?:S6)。そして、図8(a)に示した記憶領域に各データが格納された24時間経過毎に、出力値取得手段32Aにより、次式によって出力電圧値V0と出力電流値I0の日平均値VDA(式2−1),IDA(式2―2)が求められる(日値平均算出:S7)。
その後、回路抵抗値演算手段32Bによって、回路抵抗値RDA=VDA/IDAが実行される(回路抵抗値算出:S8)。すなわち、この回路抵抗値RDAは、出力電圧値の日平均値VDA,出力電流値の日平均値IDAが算出される度に、同日の日平均値VDA,IDAによって求められることになる。
そして、一日分の処理(S1〜S6)が終わった段階で、稼働状態評価手段32Dにより、稼働状態確認フラグF1>0によって稼働日の抽出がなされる(稼働日抽出:S9)。つまり、一日分の処理(S1〜S6)が終わった段階でF1>0がYESの場合には、その日を稼働日とみなして、稼働日抽出フラグF2=1をセットして(フラグセットS10)、次処理に移行し、F1>0がNOの場合には、非稼働日とみなして、稼働日抽出フラグF2のセットは行わず結果記憶ステップS13に移行する。
また、稼働日抽出フラグF2=1にセットされた場合には、負荷状態評価手段32Eによって負荷状態の確認(S11)がなされ、求められた出力電流値の日値平均値IDAと評価対象のカソード防食施設10における直流電源装置12の定格電流との比較がなされる。そして、IDA>(定格電流)×0.8(安全率80%)がYESの場合には、高い負荷状態であるという評価がなされて、負荷状態確認フラグF3=1がセットされ、IDA>(定格電流)×0.8(安全率80%)がNOの場合には、高い負荷状態ではないという評価がなされて、負荷状態確認フラグF3のセットは行わず結果記憶ステップS13に移行する。
そして、ステップS7〜S12の演算処理の結果が記憶部30Cの所定の記憶領域に記憶される(結果記憶:S13)。図8(b)は、この際に設定される記憶領域の形態例を示したものである。この例では、1日毎に、一組の出力電圧値の日平均値VDA(n),出力電流値の日平均値IDA(n),回路抵抗値RDA(n)が求められ、その日の稼働状態及び負荷状態の確認がなされることを前提にして、1点検月分の記憶領域が時系列的に設定されている。すなわち、計測日(DATE),出力電圧値の日平均値VDA(n),出力電流値の日平均値IDA(n),回路抵抗値RDA(n),稼働日抽出フラグF2,負荷状態確認フラグF3を一組にして、一月分組のデータが時系列的に記憶可能な記憶領域が設定されている。
ここで、結果記憶(S13)が日毎になされる段階で、防食対象不具合検知手段32Fによる処理(S14〜S16)が逐次実行される。すなわち、出力電流値の日平均値IDAの3日目が記憶された後(n≧3)に、処理S14〜S16が実行されることになり、n日目のIDA(n)が記憶された後に、出力電流値差分計算(S14)が実行され、ΔIDA(n−2)=│IDA(n−1)−IDA(n−2)│,ΔIDA(n−1)=│IDA(n)−IDA(n−1)│が求められる。
そして、防食対象不具合検知の第I段階(S15)では、ΔIDA(n−2)>(許容範囲設定値)の判断がなされ、ΔIDA(n−2)>(許容範囲設定値)がNOの場合には、不具合無しとの評価がなされる。また、ΔIDA(n−2)>(許容範囲設定値)がYESの場合には、防食対象不具合検知の第II段階の評価がなされ(S16)、ΔIDA(n−1)>(許容範囲設定値)がNOの場合に、防食対象パイプライン1にメタルタッチ等の不具合が生じたと評価して、防食状況確認/対策措置(S30)が行われることになる。
また、ステップS16でΔIDA(n−1)>(許容範囲設定値)がYESの場合には、ステップS15でΔIDA(n−2)>(許容範囲設定値)がNOの場合と同様に、不具合無しとの評価がなされ、引き続きデータ受信S1からの処理を行う。
つまり、防食対象不具合検知手段32Fでは、3日分の出力電流値の日平均値IDA(n−2),IDA(n−2),IDA(n)に基づいて不具合の検知がなされ、1日目と2日目の間で出力電流値が許容範囲設定値を超えて大きく変動し、2日目と3日目の間で出力電流値が直前で変動した値を維持した場合に、評価対象の防食対象パイプライン1にメタルタッチ等の不具合が発生したものと評価する。メタルタッチや塗覆装欠陥部の発生による出力電流値の上昇は一旦上昇した後はそれが維持される状態になるので、この変動状態を検出することでメタルタッチ等の不具合発生を検知する。
また、1日目と2日目の間で出力電流値が許容範囲設定値を超えて大きく変動したが、2日目と3日目の間でも出力電流値が再び大きく変動して元の状態に戻った場合や、3日間とも大きな変動が無かった場合には、防食対象パイプライン1に不具合がなかったものと評価する。
このような防食対象の不具合検知を初めの3日目以降毎日行って、防食対象パイプライン1にメタルタッチ等の不具合が生じているか否かを早期に発見し、このような不具合が発見された場合には、計測済みの管対地電位VP/S及びプローブ直流電流IPから防食状況を確認し、速やかにその原因を究明してそれに応じた対策措置を講じる(S30)。
そして、防食対象不具合検知手段32Fが不具合を検知しなかった場合には、1月が経過するまで処理ステップS7〜S16が繰り返し実行され(点検月(1月)経過?:S17)、一月経過毎に次のS18〜S21の処理が行われ、防食施設更新判断手段32Cによる判断が行われる(S22)。
すなわち、防食施設更新判断手段32Cによる判断処理に先立って、防食対象パイプライン1の突発的な不具合発生を検知する防食対象不具合検知処理(S15,S16)が実行され、不具合発生が検知されなかった場合に、防食施設更新判断処理(S22)が行われることになる。
この防食施設更新判断処理(S22)について説明すると、先ず、点検月1月分の演算結果が結果記憶(S13)として記憶部30Cの所定の記憶領域に記憶された段階で、出力電圧値,出力電流値,回路抵抗値の月平均値VMA,IMA,RMAが算出される(月平均算出:S18)。
また、稼働率αを計算すると共に(稼働率計算:S19)、負荷率βを計算する(負荷率計算:S20)。稼働率αは、α=ΣF2/(点検月の日数)で計算することができ、負荷率βは、β=ΣF3/ΣF2で計算することができる。月平均値VMA,IMA,RMA及び稼働率α,負荷率βの計算結果は、随時1月毎に記憶部30Cの所定の記憶領域に記憶される(結果記憶:S21)。
そして、防食施設更新判断手段32Fの処理として、回路抵抗値の月平均値RMAを設定閾値と比較する(防食施設更新判断:S22)。ここでの設定閾値は、前述した許容最大回路抵抗RPに安全率(例えば80%)を乗じた値であって、RMA>(設定閾値)=RP×0.8を判断し、RMA>(設定閾値)がNOの場合には評価期間終了か否かの判断処理(S23)に移行し、RMA>(設定閾値)がYESの場合には、防食施設の更新が必要と見なして、次の更新優先順位付け処理(S40)に移行する。
なお、この例では、回路抵抗値の月平均値RMAを判断対象にしているが、月平均値RMAを1年間分記憶した後に回路抵抗値の年平均値を求め、その年平均値を判断対象にして設定閾値との比較を行うようにしても良い。
処理ステップS23において、評価期間が終了していない場合は引き続き基本計測期間(2時間)毎のデータ受信(S1)からの処理が進行され、評価期間が終了した場合には処理を終了する。
更新優先順位付け処理S40について図9を参照にして説明する。この更新優先順位付け処理S40は、複数のカソード防食施設10に対して図7に示した処理が並列処理で行われた結果、防食施設更新判断処理(S22)において更新の必要性が有り(RMA>設定閾値がYES)と判断されたものが複数集められ状態で処理が開始される(S41)。
この例では、先ず、更新対象のカソード防食施設の防食効果距離が短い(10km未満)場合や更新対象のカソード防食施設の同じ防食対象区間内にバックアップ防食施設が存在する場合など、当面の更新必要性が無い場合の確認がなされる(更新必要性確認:S42)。そして、更新必要性が無いと判断された場合には、再び図7に示した処理フローのデータ受信(S1)に戻って、遠隔評価が継続される(S43)。
また、更新必要性が有ると判断された場合には、処理ステップS19で求めた稼働率αが100%未満であるか否かが判断され(S44)、100%未満である場合(稼働率α<100%がYESの場合)には更新優先順位を最下位(第5番目)に設定する。
稼働率αが100%の場合(稼働率α<100%がNOの場合)には、処理ステップS20で求めた負荷率βが設定された高さ(ここでは80%)未満であるか否かが判断され(S45)、80%未満の場合(負荷率β<80%がYESの場合)には、防食施設の劣化速度が遅いと見なして更新優先順位を低く設定する。そして、これに対して更新対象施設の設置年数に対する判断がなされ(S46)、例えば、設置後20年未満であれば第4番目の更新優先順位の設定がなされ、設置後20年を超えていれば第3番目の更新優先順位が設定される。
負荷率βが80%を超えている場合(負荷率β<80%がNOの場合)には、高負荷率稼働によって防食施設の劣化速度が速いと見なすことができるので、更新優先順位を高く設定する。そして、これに対して更新対象施設の設置年数に対する判断がなされ(S47)、例えば、設置後20年未満であれば第2番目の更新優先順位の設定がなされ、設置後20年を超えていれば第1番目の更新優先順位が設定される。
以上説明した健全性評価装置30の防食施設更新判断手段32C,更新優先順位設定手段32C1,防食対象不具合検知手段32F等の評価結果或いは演算処理の結果は、演算結果出力手段32Gによって、健全性評価装置30の表示装置30Dに出力表示されると共に、入出力部30Aからインターネットを介して電子メールサーバ4及びウェブサーバ5に送信されて所定のホームページに登録される。したがって、健全性評価装置30が設置された管理施設では、健全性評価装置30の表示装置30D等から評価結果等を遠隔的に把握することが可能であり、また、インターネットに接続可能な遠隔モニタ用端末機(携帯用コンピュータ)6によって、ウェブサーバ5上のホームページにアクセスすることで、各カソード防食施設10に対する評価結果を遠隔的に閲覧することができる。
また、防食対象不具合検知手段32Fによって突発的な防食対象パイプライン1の不具合が検知された場合には、電子メールサーバ4から各遠隔モニタ用端末機6に警報電子メールを送ることができるので、突発的な防食対象パイプライン1の不具合に対して早期に対応することが可能になる。
なお、前述した実施形態では、カソード防食施設10として外部電源方式の施設を例に示しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、強制排流方式等の他の防食施設を同様に対象とすることができる。
以上説明した本発明の実施形態によると、カソード防食施設10の出力電圧値Vと出力電流値Iが時系列的に取得されて、この取得された出力電圧値Vと出力電流値Iとで回路抵抗値の月平均値RMA或いは年平均値が時系列的に求められる。そして、徐々に増大する回路抵抗値の月平均値RMA或いは年平均値の長期的な変化傾向から外部電極11の消耗劣化状態を把握することが可能になり、これによって外部電源施設の更新必要性を判断することが可能になる。
この際に、カソード防食施設稼働時に計測される出力電圧値Vと出力電流値Iの計測データから所定計測期間内での平均値(月平均値又は年平均値)を求め、それによって前述の回路抵抗値の月平均値RMA或いは年平均値を求めることで、短時間での時系列変動を排除した長期的な変化傾向を適正に把握することが可能になる。
また、カソード防食施設10を更新するか否かの判断は、直流電源装置が防食対象物に対して所要防食電流を供給できるか否かによって判断され、カソード防食施設10の定格出力電圧Vmaxを防食対象の所要防食電流Inで除して求めた許容最大回路抵抗RPに増加傾向にある前述した回路抵抗値RMAが近づく状況によって判断する。この際に、許容最大回路抵抗RPを回路抵抗値RMAが超えた段階で判断をするのではなく、許容最大回路抵抗RPより低い値(例えば、許容最大回路抵抗×0.8(安全率))を閾値に設定することによって、カソード防食施設10の故障・不具合を未然に察知することが可能になる。
そして、カソード防食施設10の更新判断の結果が更新要の場合には、カソード防食施設10の稼働状態と負荷状態の評価に応じて、複数存在するカソード防食施設10の更新優先順位付けを行う。ここでは、カソード防食施設10の稼働状態が常時稼働(稼働率α100%)であることを確認した上で、負荷状態が高負荷のもの(負荷率βが高い者)を優先する。高負荷のものは回路抵抗値RMAの上昇率が高くなり、前述の閾値を超えてから許容最大回路抵抗RPに到達するまでの期間が短いことが予測されるので、これを優先して更新することでカソード防食施設10の故障・不具合を未然に防ぎ、カソード防食施設10の稼働停止によって防食対象が無防食状態になる期間を極力短くすることができる。また、負荷状態の評価を考慮することで、再設置に際しては、一つの防食対象パイプラインに設置されるカソード防食施設10の負荷を平準化することが可能になる。
一方、出力電流値IDAの短期的な変動状況に基づいてメタルタッチ等の防食対象に対する突発的な不具合発生を検知することができる。防食対象不具合検知手段32Fによって出力電流値IDAの短期的な変動状況に基づく不具合発生が検知された場合には、その時点では防食対象の防食状況(管対地電位VP/S或いはプローブ直流電流密度)はカソード防食管理基準を満たしていることが多いが、この検知を防食対象の健全性を脅かす予兆として捉えて、適切な対策を講じることが重要になる。
また、この際に増加した出力電流値IDAは、メタルタッチ等の原因が解消されない限り下がることはないので、前述した防食対象の不具合検知は、設定された短期の経過時間前後における出力電流値の差分が許容範囲以上になり、且つその後の短期の経過時間前後の差分が許容範囲以内であることを検出することで、不具合発生を検知することができる。これによって、外乱による出力電流の変動と不具合発生による変動を識別することができる。
このように、本発明の実施形態は、防食対象パイプライン1に設置された複数のカソード防食施設10が適正に稼働している状況を把握することで防食対象パイプライン1の健全性を評価するに際して、カソード防食施設10の稼働状態の変化から防食対象パイプライン1の健全性を脅かす予兆を察知することができ、カソード防食施設10の稼働状態の変化からカソード防食施設の故障・不具合を未然に察知することができる。更には、更新に時間と経費を要するカソード防食施設10の計画的更新を可能にすることができる。また、カソード防食施設10の稼働状態の変化から防食対象パイプライン1の接地抵抗の低下を出力電流値の変動として遠隔監視し、防食対象の健全性を脅かす要因を早期に把握することが可能になる。