JP4587612B2 - ピンタンブラー錠 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピンタンブラー及びドライバーピンを有するピンタンブラー錠に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ピンタンブラー錠は鍵の偽造が困難なこと、解錠用道具を用いたピッキング等の不正解錠を防止することができること等から多用されている。
【0003】
かかるピンタンブラー錠は、図5に示すように、例えばシリンダー11内に鍵挿入口を有するロータ13を回転可能に挿入し、上記シリンダー11及びロータ13に連通して複数のピン穴が軸方向と直角あるいは並行に設けられ、上記各ピン穴に鍵12の形状に合わせたキーコードによって長さの異なるピンタンブラー14とドライバーピン15がコイルバネ16によって摺動可能に付勢されている。
【0004】
また、ドリル等による不正破壊を防止するため、鍵挿入口付近には焼き入れを施した鋼材からなるリング18、ピン19、すり鉢状の案内部20等の不正破壊防止部品を取り付けたり、高硬度の鋼球をロータの前方に回転可能に収容し該鋼球によってドリルの接近を阻止するようにしている。
【0005】
このピンタンブラー錠を施錠、解錠するには、鍵挿入口に正規に鍵12が挿入し、回転されたとき、鍵12とピンタンブラー14が摺動してピンタンブラー14とドライバーピン15の当接点がロータ13の外周面に移動するため、ロータ13の拘束が解除され、ロータ13は回転可能となり、各ピンタンブラー14とドライバーピン15の当接面がシリンダー11とロータ13間の回転面に一致したとき解錠する仕組みである。
【0006】
上記ピンタンブラー錠に備えられたピンタンブラー14及びドライバーピン15は、直径が約2mm、長さが約3〜6mmと非常に小さく高精度な加工が要求されることから、金属を加工してなり、その表面にコーティングを施して耐久性の向上を図っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近年、ピンタンブラー錠は、不正解錠を防止するためにピンタンブラー及びドライバーピンの配列を3列、4列とより多く配列する傾向にあり、それに伴いピンタンブラー及びドライバーピンの数も多くなっている。
【0008】
従来の図5に示すピンタンブラー錠におけるピンタンブラー14やドライバーピン15は、金属からなるため、マンションや病院の共通出入り口等の鍵の抜き差しが非常に多い場所では、ピンタンブラー錠の表面にコーティングを施していても、摩耗しやすく長期間の使用に供することができないという欠点を有していた。
【0009】
また、上記ピンタンブラー14は、金属からなるため、摩耗した部分から海辺や人間から発する汗等の塩分に起因する腐食が生じやすいという欠点を有していた。
【0010】
さらに、上記ピンタンブラー14のように表面に摩耗や腐食が生じた場合、シリンダー11ごと交換する必要があるため、メンテナンス作業に手間がかかり、コストが高くなるという欠点を有していた。
【0011】
またさらに、ドリル等による不正破壊については、ドリルのツール材質も様々なものが市販されるようになり、焼き入れの鋼材からなる不正破壊防止部品では対応できない場合が生じている。
【0012】
本発明は、上述の欠点に鑑みなされたもので、その目的は、摩耗、腐食が極めて少なく、長期間の使用に共することができるピンタンブラー及びドライバーピンを有するピンタンブラー錠を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明のピンタンブラー錠は、シリンダー内に鍵挿入口を有するロータを回転可能に挿入し、上記シリンダー及びロータに連通する複数のピン穴が設けられ、該ピン穴にピンタンブラー及びドライバーピンがコイルバネによって摺動可能に付勢され、上記鍵挿入口より挿入される鍵とピンタンブラーとの摺動によって操作するピンタンブラー錠であって、上記ピンタンブラーの少なくとも鍵と接する部分をセラミックスで形成したことを特徴とするものである。
【0014】
また、上記ドライバーピンをセラミックスで形成したことを特徴とするものである。
【0015】
さらに、上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンの表面粗さがRaで1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のピンタンブラー錠。
【0016】
またさらに、上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンのSUS304材に対する動摩擦係数が0.7以下のセラミックスにて形成することを特徴とするものである。
【0017】
さらにまた、上記鍵挿入口付近にセラミックスからなる不正破壊防止部品を備えたことを特徴とするものである。
【0018】
本発明のピンタンブラー錠によれば、ピンタンブラーの少なくとも鍵と接する部分をセラミックスで形成したことから、鍵の抜き差しの回数が増加しても摩耗し難く、長期間にわたり施錠、解錠を確実に行うことができる。
【0019】
また、ピンタンブラーの摩耗や腐食を有効に防止して、シリンダーの交換等のメンテナンス作業を削減できることから経済性に優れたピンタンブラー錠を提供することができる。
【0020】
さらに、本発明のピンタンブラー錠によれば、上記ドライバーピンをセラミックスで形成したことから、ピンタンブラーと同様、摩耗や腐食を有効に防止し、より長期間の使用に供することができるピンタンブラー錠を得ることができる。
【0021】
またさらに、上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンの表面粗さがRaで1.0μm以下、且つSUS304材に対する動摩擦係数を0.7以下とすることができることから、ピンタンブラーの下面と鍵、ピンタンブラーの上面とドライバーピンの下面及びドライバーピンの上面とシリンダーの内壁との摺動がスムーズに行うことができるとともに、耐摩耗性の優れたピンタンブラー錠を得ることができる。
【0022】
さらにまた、上記鍵挿入口付近にセラミックスからなる不正破壊防止部品を備えたことから、ドリル等の侵入を防止して信頼性の高ものとし、且つ構造的にも簡素化できることから、設計の簡素化および製造コストを低減することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明のピンタンブラー錠の一実施形態を示す斜視図であり、同図(b)は、(a)の一部を破断した破断図である。
【0025】
本発明のピンタンブラー錠は、ケーシングとなる円筒形のシリンダー1と、該シリンダー1内に鍵挿入口を有するロータ3を回転可能に挿入し、上記シリンダー1及びロータ3に連通する複数のピン穴が軸方向と直角に設けられ、各ピン穴にピンタンブラー4及びドライバーピン5がコイルバネ6によって摺動可能に付勢され、コイルバネ6の他端は封止ピン7によって閉鎖されている。
【0026】
ここで、上記ピンタンブラー4の少なくとも鍵と摺動する部分をセラミックスで形成することが重要であり、例えば図2(a)〜(i)に示すようにピンタンブラー4の下面の4a〜4iにあたる部分を酸化アルミニウム質焼結体、ジルコニア質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体等のセラミックスで形成することから、鍵の抜き差しの回数が非常に多い病院やマンションの共通出入り口等に使用されるピンタンブラー錠においても、摩耗や腐食が生じることはなく長期間の使用に供することができる。
【0027】
なお、上記ピンタンブラー4は、図2に示すように少なくとも鍵と直接摺動する部分である4a〜4iを上記セラミックスによって形成すればよく、その場合、セラミックスからなる4a〜4iに真鍮やステンレス材等の金属からなる部材をロックタイト等の接着剤によって接合することによって得ることができる。
【0028】
さらに、上記ピンタンブラー4の上面はドライバーピン5と接触しており、上記ピンタンブラー4とドライバーピン5との当接面がシリンダー1とロータ3間の回転面に一致したとき解錠する仕組みである。
【0029】
上記ドライバーピン5は、図3に示すような形状となっており、セラミックスで形成されていることが好ましく、ピンタンブラー4と同様、摩耗や腐食を有効に防止し、より長期間の使用に供することができる。
【0030】
またさらに、上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンは、その表面粗さがRaで1.0μm以下、SUS304材に対する動摩擦係数が0.7以下とすることが好ましく、ピンタンブラーの下面と鍵、ピンタンブラー4の上面とドライバーピン5の下面及びドライバーピンの上面とシリンダー1の内壁との摺動をスムーズに行うことができるとともに、耐摩耗性が優れたものとすることができる。
【0031】
上記ピンタンブラー4、ドライバーピン5は、例えば酸化アルミニウム質焼結体で形成されている場合、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)等の原料粉末に適当な有機バインダーを添加混合して原料粉末を調整するとともに、該原料粉末をプレス成形によって所定形状に成形した後、前記成形体を約1600℃の温度で焼成することによって製作でき、焼成後バレル研磨を施すことによって、その表面粗さをRaで0.1μm以下、SUS304材に対する動摩擦係数を0.7以下とすることができる。
また、ダイヤモンドコンパウンドを用いたバフ研磨を施すことによって、さらに表面粗さ及び動摩擦係数を小さくすることができ、より耐摩耗性の優れたピンタンブラー錠を得ることができる。
【0032】
さらに、上記鍵挿入口付近にセラミックスからなる不正破壊防止部品としてC型リング8、ピン9、すり鉢状の案内部10を備えたことから、ドリル等の侵入を防止することができる。
【0033】
これら不正破壊防止部品は、酸化アルミニウム質焼結体、ジルコニア質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体等の高硬度のセラミックスで形成することから、C型リング8、ピン9、案内部10のうち少なくとも1つを備えればドリル等の侵入を有効に防止することができ、構造的にも簡素化できることから、製造コストを低減することができる。
【0034】
なお、上記C型リング8、ピン9、案内部10の不正破壊防止部品は、少なくとも1つを鍵挿入口の付近に備えればよく、特に上記すり鉢状の案内部10を備えることによってドリルの侵入を有効に防止することができる。また、上記案内部10をセラミックスで形成する場合、鍵挿入口の角部をR加工しておくことが好ましく、3点曲げ強度が800MPa以上のセラミックスから成る場合はR0.3以上、3点曲げ強度が900MPa以上のセラミックスから成る場合はR0.2以上と加工しておくことによってドリル等の侵入の衝撃により耐えうることができ、さらにC型リング8、ピン9を備えることによって、より信頼性の高いピンタンブラー錠を得ることができる。
【0035】
また、上記ピンタンブラー4、ドライバーピン5及び不正破壊防止部品であるC型リング8、ピン9及び案内部10を形成するセラミクッスは、そのビッカース硬度(Hv)が10GPa以上であることが好ましく、繰り返しの使用に際しても摩耗が少なく、耐食性に優れ、長期間の使用に供するピンタンブラー錠を得ることができる。
【0036】
さらに、上記ピンタンブラー4、ドライバーピン5、不正破壊防止部品を形成するセラミックスは、ジルコニア質焼結体で形成することがより好ましく、ジルコニア質焼結体は機械的強度、硬度が高いことから、表面粗さ、動摩擦係数を容易に小さくすることができる。
【0037】
なお、本発明のピンタンブラー錠は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能である。
【0038】
【実施例】
次に、本発明の作用効果を実施例に基づいて示す。
【0039】
(実施例1)
まず、表1に示す如く材質でピンタンブラーを形成し、各ピンタンブラーをシリンダーとロータ内に装着させピンタンブラー錠試料を準備し、各試料の鍵の挿し抜きテストを実施した。
【0040】
また、比較例として、従来のピンタンブラー錠に使用されている真鍮にルブコート(黒鉛と二硫化モリブデンの焼き付き塗装)を施したピンタンブラー錠試料を準備した。
【0041】
そして各ピンタンブラー錠試料に鍵を挿し抜きし、引っかかりを評価した。
その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなように、従来例である真鍮からなるピンタンブラーを用いたピンタンブラー錠試料では、鍵の挿し抜き回数が30万回以上となると、鍵の挿し抜きに引っかかりが生じ始めた。
これに対し、酸化アルミニウム質焼結体、ジルコニア質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化珪素質焼結体からなるピンタンブラーを用いたピンタンブラー錠試料では、挿し抜き回数が60万回においてもスムーズな挿し抜き状態を維持することが可能であることが判った。
【0044】
(実施例2)
次いで、表2に示す如く材質でピンタンブラーを形成し、ポット式のバレル研磨を0.5〜1時間行い、その表面粗さをRaで1.0及び0.5としたピンタンブラーを得た。また、研磨時間を4時間以上として、その表面粗さをRaで1.5としたピンタンブラーを得た。各ピンタンブラーをシリンダーとロータ内に装着させピンタンブラー錠試料を準備し、各試料の鍵の挿し抜きテストを実施した。
【0045】
その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から明らかなように、ピンタンブラーの表面粗さがRaで1.5μmのピンタンブラー錠試料では、鍵の挿し抜き回数が7万回で引っかかりが生じる。
【0048】
これに対し、表面粗さがRaで1.0μmのピンタンブラー錠試料では、鍵の挿し抜き回数が25万回までは鍵の挿し抜きに引っかかりが生じることはなく、30万回程から鍵の挿し抜きに引っかかりが生じ始めることが判った。
【0049】
また、従来例である真鍮からなるピンタンブラーを用いたピンタンブラー錠試料では、表面粗さが小さい試料の方が引っかかりが生じやすくなっていることが判った。
(実施例3)
次いで、表3に示す如く材質でピンタンブラーを形成し、ポット式のバレル研磨を0.5〜1時間として、その動摩擦係数を0.7及び0.5の試料を得、研磨時間を4時間以上として、その動摩擦係数を1.5としたピンタンブラーを得、各ピンタンブラーをシリンダーとロータ内に装着させピンタンブラー錠試料を準備し、各試料の鍵の挿し抜きテストを実施した。
【0050】
なお、各ピンタンブラーの摩擦係数は、東洋測器EFM−III(鈴木式摩擦摩耗試験機)に装着して測定を行った。
【0051】
その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3から明らかなように、ピンタンブラーの動摩擦係数が1.2のピンタンブラー錠試料では、シリンダーとロータ内に引っかかり、ロータを回転させることができなくなった。
【0054】
これに対し、動摩擦係数が0.7以下であるピンタンブラー錠試料は、25万回程度まで引っかかりが生じることはなく、さらに動摩擦係数が0.5のピンタンブラー錠試料では、60万回の挿し抜きにおいてもスムーズに作動することが判った。
【0055】
【発明の効果】
本発明のピンタンブラー錠によれば、ピンタンブラーの少なくとも鍵と接する部分をセラミックスで形成したことから、鍵の抜き差しの回数が増加しても摩耗し難く、長期間にわたり施錠、解錠を確実に行うことができる。
【0056】
また、ピンタンブラーの摩耗や腐食を有効に防止して、シリンダーの交換等のメンテナンス作業を削減できることから経済性に優れたピンタンブラー錠を提供することができる。
【0057】
さらに、本発明のピンタンブラー錠によれば、上記ドライバーピンをセラミックスで形成したことから、ピンタンブラーと同様、摩耗や腐食を有効に防止し、より長期間の使用に供することができるピンタンブラー錠を得ることができる。
【0058】
またさらに、上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンの表面粗さがRaで1.0μm以下、且つSUS304材に対する動摩擦係数を0.7以下とすることができることから、ピンタンブラーの下面と鍵、ピンタンブラーの上面とドライバーピンの下面及びドライバーピンの上面とシリンダーの内壁との摺動がスムーズに行うことができるとともに、耐摩耗性の優れたピンタンブラー錠を得ることができる。
【0059】
さらにまた、上記鍵挿入口付近にセラミックスからなる不正破壊防止部品を備えたことから、ドリル等の侵入を防止して信頼性の高ものとし、且つ構造的にも簡素化できることから、設計の簡素化および製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明のピンタンブラー錠の一実施形態を示す斜視図であり、(b)は(a)の一部を破断した破断図である。
【図2】(a)〜(i)は本発明のピンタンブラー錠におけるピンタンブラーを示す斜視図である。
【図3】本発明のピンタンブラー錠におけるドライバーピンを示す斜視図である。
【図4】本発明のピンタンブラー錠における不正破壊防止部品を示す斜視図である。
【図5】(a)は従来のピンタンブラー錠を示す斜視図であり、(b)は(a)の一部を破断した破断図である。
【符号の説明】
1:シリンダー
2:鍵
3:ロータ
4:ピンタンブラー
5:ドライバーピン
6:コイルバネ
7:封止ピン
8:C型リング
9:ピン
10:案内部
Claims (5)
- シリンダー内に鍵挿入口を有するロータを回転可能に挿入し、上記シリンダー及びロータに連通する複数のピン穴が設けられ、該ピン穴にピンタンブラー及びドライバーピンがコイルバネによって摺動可能に付勢され、上記鍵挿入口より挿入される鍵とピンタンブラーとの摺動によって操作するピンタンブラー錠であって、上記ピンタンブラーの少なくとも鍵と接する部分をセラミックスで形成したことを特徴とするピンタンブラー錠。
- 上記ドライバーピンをセラミックスで形成したことを特徴とする請求項1に記載のピンタンブラー錠。
- 上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンの表面粗さがRaで1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のピンタンブラー錠。
- 上記ピンタンブラー及び/またはドライバーピンのSUS304材に対する動摩擦係数が0.7以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のピンタンブラー錠。
- 上記鍵挿入口付近にセラミックスからなる不正破壊防止部品を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のピンタンブラー錠。
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