以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1Aには、本発明の実施例である眼内挿入用レンズ(以下、単にレンズと記す)の挿入器具を示す。図1Aの上側の図は上面図、下側の図は側面図である。また、図2には、挿入器具の本体に対して押出し軸を組み付ける前の状態を示す。図2の上側の図は上面図、下側の図は側面図である。なお、以下の説明において、ノズル側を先端側又は先方といい、ノズル側とは反対側を後端側又は後方という。また、先端側と後端側に延びる方向を軸方向といい、軸方向に直交する方向を上下方向や左右方向又は径方向という。さらに、軸方向に平行でノズル付き本体の内側空間又はレンズの中心を通る軸を中心軸とし、該中心軸回りの方向を周方向という。
挿入器具2は、基本的には、ノズル付き本体(以下、単に本体という)12と、押出し軸16とで構成されている。本体12は、挿入器具2を手で持つのに適した外径を有する手持ち部としての外筒部12aと、該外筒部12aよりも先端側に設けられ、後述するレンズ保持部材28を収容するレンズ収容部12bと、該レンズ収容部12bよりも先端側に設けられた挿入筒部としてのノズル部12cとを有する。該本体12は、一体成形部品である。外筒部12aの後部には、押出し軸16を押し込み操作する際に、手で支える部分としてのツバ部12dが形成されている。
本体12は中空形状を有し、その後端開口12iからレンズ保持部材28と押出し軸16とが挿入される。
外筒部12aは、その先端からツバ部12dと外筒部12aとの間の位置までの部分に円筒形状の第1内周面12gを有する。第1内周面12gの後方には、該第1内周面12gよりも若干内径が小さな円筒形状の第2内周面12mが形成されている。さらに、第2内周面12mよりも後方には、後端側ほど内径が広がる円錐面12fが形成されている。円錐面12fの後方には、後端開口12iまで、第1内周面12gより内径が大きな円筒形状の第3内周面が形成されている。
ノズル部12cは、先端方向に向かって徐々に内外径が小さくなっていく形状を有し、先端開口12jから所定の長さの部分までは、眼球に形成された切開創を通して眼内に挿入される眼内挿入部分として、ノズル部12cのうち最も細く形成されている。そして、この眼内挿入部分の後端外周には、ゴム等の弾性部材で作られたカバーリング(Oリング)13が取り付けられている。ノズル部12cにおけるカバーリング13の後側には、該カバーリング13の後方への移動を阻止するために挿入部分よりも外径が大きい段部12c1が形成されている。このカバーリング13の機能については後述する。
レンズ収容部12bは、基本的に、軸方向視において、上下方向の寸法が横方向の寸法よりも小さな中空平板状の断面形状を有する。但し、外筒部12aとの境界付近であるレンズ収容部12bの下面後部は、補強のために後方に向かって径が大きくなる半円錐形状を有している。また、レンズ収容部12bを後端開口12iから挿入するため、外筒部12aとレンズ収容部12bの内面のつなぎ目をテーパー形状とすることで、保持部材28の挿入時に案内形状が存在し挿入を容易に行うことができる。
レンズ収容部12bは、その後端からレンズ保持部材28の挿入を受け入れ可能で、挿入後のレンズ保持部材28を安定的に保持可能な内面形状を有する。
図1Bおよび図1Cにそれぞれレンズ収容部12bおよびノズル部12cの軸直交方向断面を示すように、レンズ収容部12bからノズル部12cにかけての周壁12b1,12c4は、開口および隙間を持たない一体壁として構成されている。言い換えれば、その内部空間を囲む四方(上下左右)の壁が周方向に連続し、穴等の開口や組み合わせ部に隙間ができる分割可能又は開閉可能な部位を持たないように一体に形成されている。
なお、本実施例では、本体12を少なくともレンズ収容部12bからノズル部12cにかけての周壁12b1,12c4が開口や隙間を持たないように一体成形部品として製作した場合について説明するが、本発明はこの場合に限らない。例えば、先端から後端にかけて上下に2分割された部品を熱溶着や接着によって接合することで本体12を構成するように一体化し、本体12として完成した後(レンズ保持部材28の挿入前)は少なくともレンズ収容部12bとノズル部12cの周壁に隙間等を持たない一体部品となるように製作してもよい。また、分割形成されたレンズ収容部12b、ノズル部12cおよび外筒部12aを熱溶着や接着によって接合することで、本体12として完成した後(レンズ保持部材28の挿入前)は少なくともレンズ収容部12bからノズル部12cにかけての周壁に隙間等を持たない一体部品となるように製作してもよい。
図1Aの上面図に点線で示すように、外筒部12aの先端付近の周壁には小さな穴12hが形成されている。この穴12hは、本体12の製造上、すなわち本体12を樹脂で一体成形する際に、本体12の内面を形成するための型を支持する部材を配置するために必然的に形成されてしまう穴である。
本実施例では、この穴12hを完全に塞ぐために、外筒部12aの外周にゴム等の弾性部材で作られたOリング32を取り付けている。これにより、本体12は、外筒部12aの後端開口12iとノズル部12cの先端開口12j以外に開口を有さない状態となる。したがって、後述するように、後端開口12iを押出し軸16に設けられたシールキャップ14によって隙間なく塞ぎ、かつ先端開口12jを後述するキャップ34により隙間なく塞ぐことで、本体12内に粘弾性物質や生理食塩水等の液体を漏れがないように収容し、レンズ1とともに保管しておくことが可能な密閉空間を形成することができる。
なお、外筒部12aの外周面におけるOリング32の取り付け面は、その先端側および後端側よりも径が小さい。これにより、Oリング32が外筒部12a上で軸方向に移動することが阻止される。このOリング32が設けられた位置は、挿入器具2を持つ手術者の手が触れることが多い位置である。このため、Oリング32は、穴12hを塞ぐ機能とともに、挿入器具2を持つ手を滑りにくくする機能を有する。但し、穴12hを塞がなくても液体の流れに直接影響を及ぼさないようであれば、機能面では特に問題は無い。
レンズ保持部材28は、レンズ1を下側から支える第1の保持部材28Aと、該第1の保持部材28Aに組み合わされて、レンズ1を上側から押さえる第2の保持部材28Bとを有する。
まず、レンズ保持部にて保持されるレンズ1の構成について説明する。レンズ1は、上面視において円形形状を有し、レンズとしての機能を有する光学部1aと、該光学部1aの先端側および後端側の部分から延出した支持部1bとにより構成されている。
支持部1bは、該レンズ1が眼内に挿入された後、光学部1aを眼内で弾性的に支持するための線状の部分である。
光学部1aの周囲には、互いに平行な上下の面を有する辺縁部1cがリング状に形成されている。
図3に示すように、第1の保持部材28Aは、一部を除き、レンズ1の光学部1aの中心Oを通る中心軸CAについて左右方向にて対称形状となるように形成されている。第1の保持部材28Aの下部における左右には、支持面28aが形成されている。該支持面28aは、左右方向における外側よりも内側が下がるように傾斜した斜面として形成されている。
ここで、図3の上面図において、レンズ辺縁部1cのうち光学部1aの中心Oから先端方向にある位置(中心軸CA上の位置)を0°位置とする。左右の支持面28aは、レンズ辺縁部1cのうち0°位置から周方向両側に周方向角度60°後退した位置(60°位置、以下同様に表記する)と90°後退した90°位置との間の円弧領域に当接し、該円弧領域を下から支える。
また、第1の保持部材28Aの軸方向中間部の左右には、レンズ辺縁部1cのうち支持面28aによって支持される円弧領域よりも後方である135°位置から165°位置までの間の円弧領域を支持する支持突起28bが形成されている。両支持突起28bの間の空間は、押出し軸16(押し軸部16c)が通過するための空間である。該空間はわずか30°の角度範囲であるので、両支持突起28bは、レンズ辺縁部1cの180°位置を中心とした90°の角度範囲の円弧領域を支持しているとみなすこともできる。つまり、第1の保持部材28Aは、左右の60°位置と180°位置とを含む120°間隔の3箇所でレンズ辺縁部1cを支持していることと等価である。
なお、各支持突起28bは、レンズ辺縁部1cが載置される水平面と、この水平面の後方においてレンズ辺縁部1cの外周端面に当接又は近接する垂直面とを有し、レンズ辺縁部1cを下から支えるとともに、レンズ1の後方への移動を阻止する。
さらに、第1の保持部材28Aの先端側の左右には、レンズ辺縁部1cの外周端面における60°位置に当接又は近接する垂直面28eが形成されている。該垂直面28eは、レンズ1の押出し前の状態において光学部1aの先端方向への移動を阻止するためのものである。
なお、第1の保持部材28Aの先端における上部には、右側から左側(図3の上面図における下側から上側)に向かって延びるアーム28cが形成されており、さらに該アーム28cの左端には、先端側の支持部1bを下側から支えるための突起28dが先端方向に延びるように形成されている。
また、第1の保持部材28Aの後部には、後端側の支持部1bを下側から支えるための斜面28fが、後端側ほど上に位置するように形成されている。
次に、第2の保持部材28Bの構成について説明する。第2の保持部材28Bは、第1の保持部材28Aの上側に配置される。第1および第2の保持部材28A,28Bは、レンズ1を保持した状態でレンズ収容部12b内に挿入されることで、該レンズ収容部12b内の天井面と底面との間に挟まれることにより、互いに位置ずれがないように保持される。
第2の保持部材28Bは、図には表れていないが、中心軸CAについて左右方向に対称形状に形成されている。第2の保持部材28Bの下面における左右には、レンズ辺縁部1cのうち左右の90°位置から120°位置までの円弧領域と、135°位置から165°位置までの円弧領域とに当接又は近接する押さえ突起28gが形成されている。180°位置を挟んだ左右の押さえ突起28gの間には、押出し軸16(押し軸部16c)が通過するための空間が形成されている。押さえ突起28gの先端側の部分は、レンズ辺縁部1cのうち第1の保持部材28Aに設けられた支持面28aに当接する円弧領域よりも後方の円弧領域を上から押さえ、後端側の部分は、レンズ辺縁部1cのうち第1の保持部材28Aに設けられた支持突起28bによって下から支えられる円弧領域を上から押さえる。
図3の側面図に示すように、第2の保持部材28Bを第1の保持部材28Aの上側に組み合わせることで、レンズ辺縁部1cは、60°位置から90°位置までの円弧領域が第1の保持部材28Aの支持面28aによって下から支えられ、90°位置から120°位置までの円弧領域が第2の保持部材28Bの押さえ突起28gの先端側部分によって上から押さえられる。また、135°位置から165°位置までの円弧領域は、第1の保持部材28Aに設けられた支持突起28bの水平面と第2の保持部材28Bに設けられた押さえ突起28gの後端側部分によって上下方向において挟まれるように保持される。このような保持構造により、レンズ1はその光学部1aが水平状態を保ち、自重や外力による実質的な応力がかからない状態で支持される。
ここにいうレンズ1の光学部に実質的に応力が作用しない状態とは、光学部に全く応力が作用しない状態だけでなく、保持状態でレンズ1が長期間保管されたとしても、眼内挿入後の光学部1aの光学作用に影響を与えるような変形が残らない程度に微小な応力が作用する状態も含む意味である。言い換えれば、光学部1aの光学的機能に影響するような応力や変形が生じない状態をいう。
また、レンズ1は、レンズ辺縁部1cの外周端面のうち60°位置に当接する垂直面28eと、135°位置から165°位置までの範囲に当接する支持突起28bの垂直面とによって、先端方向および後方への位置ずれが阻止される。しかも、レンズ辺縁部1cの先端側は、左右の垂直面28eが60°位置に設けられることで、120°開放されている。このため、レンズ1の押出し時には、レンズ1をレンズ保持部材28からスムーズに先端方向に移動させることができる。
また、第2の保持部材28Bの押さえ突起28gのうちレンズ辺縁部1cを押さえる部分よりも後方には、第1の保持部材28Aの斜面28fに平行に延び、該斜面28fとの間で後端側の支持部1bを挟む傾斜部が形成されている。さらに、第1の保持部材28Aの垂直面28eは、先端側の支持部1bの外側面に沿って先端方向に延びるように形成されている。この垂直面28eによる先端側支持部1bとの当接と、斜面28fおよび押さえ突起28gの傾斜部による後端側支持部1bの挟み込みとによって、レンズ1の回転が阻止される。
なお、本発明では、レンズ保持部材の形状は上述したものに限らず、光学部に実質的に応力がかからない状態でレンズを保持できるものであればどのようなものよい。また、レンズについても、光学部と線状の支持部を有するものに限らず、光学部と平板状の支持部とを有するものであってもよい。
図20には、従来タイプの挿入器具の図を示す。上側の図は上面図であり、下側の図は側面図である。該挿入器具102の本体112は、外筒112aと、該外筒112aの先端に組み付けられたレンズ保持部材112bと、レンズ保持部材112bの下面から先方に延びるようにレンズ保持部材112bに組み付けられたノズル112cとからなる複数の部品によって構成されている。また、レンズ保持部材112bの上面には開口112hが形成されており、該開口112hを通してレンズ保持部材112bの内部にレンズ1が装填される。そして、レンズ保持部材112bには、開口112hを塞ぐようにカバー部材124が取り付けられる。
このような従来タイプの挿入器具102には、上記複数の部品の組み合わせ部に隙間ができる。また、本実施例のレンズ収容部12bに対応するレンズ保持部材112bには、レンズ1を装填するための開口112hが形成され、カバー部材124で覆われても該開口112hから外部に通ずる隙間ができる。
したがって、本体112内に粘弾性物質や生理食塩水等の液体を注入すると、隙間から液体が漏れ出る。特に、粘弾性物質より粘性が低い生理食塩水は、注入するとただちに漏れが始まり、本体112内に手術に必要な量を保持しておくことは難しい。また、粘弾性物質は、その粘性により漏れ量は少量であるものの、挿入器具102を持つ手を滑り易くする可能性があるため、漏れはない方がよい。
図1Aおよび図2に示すように、押出し軸16は、その後端側から、Dカット軸部16aと、円筒部16bと、押し軸部16cとを有する。Dカット軸部16aは、軸方向視における断面が円形の上部を平面状にカットした非回転対称形状であるいわゆるDカット形状を有する。Dカット軸部16aには、該Dカット軸部16aに対して軸方向に移動可能にゴム等の弾性部材で作られたOリング(第2の弾性部材)43が取り付けられている。
円筒部16bは、Dカット軸部16aの円筒形状部分と同じ又はそれよりも小さい外径を有し、該円筒部16bの外周には、ゴム等の弾性部材で作られたシールキャップ(第1の弾性部材)14が取り付けられている。シールキャップ14は、円筒部16b上に取り付けられるリング部14aと、該リング部14aの先端から先端方向に向かって径が小さくなる円錐部14bとを有する。円錐部14bの先端には、押し軸部16cを通す穴が形成されている。
押し軸部16cは、ノズル部12cの内部通路を通過できる程度に細い外径を有し、その先端には、上下二股に分かれた形状を有するレンズ把持部16dが設けられている。レンズ把持部16dは、レンズ収容部12b内にてレンズ保持部材28により保持されたレンズ1の光学部1aの後端を上下から挟むように保持する。これにより、該レンズ1を押出し軸16によって確実に先端方向に押すことができる。
ここで、図20に示した挿入器具に代表される従来タイプの挿入器具にも、押出し軸の外周にゴム製のリングが取り付けられており、該ゴムリングは押出し軸の移動に伴って本体の内面に対して摺動する。但し、このゴムリングは、押出し軸の操作に対して適度な摺動感(操作抵抗感)を付与することを目的とするものであり、本体内に収容された液体の漏出を防ぐシール機能を持っていない。
これに対し、本実施例のシールキャップ14は、シール機能を主たる目的とするものであり、該シール機能を達成するような圧接力で本体12の内周面に圧接することで、摺動感も付与している。
本実施例では、このシール機能を実現するために、シールキャップ14におけるリング部14aの軸方向幅を2mm以上の寸法に設定し、さらにリング部14aの先端側に、リング部14aと押出し軸16の円筒部16bとの間の隙間からの液漏れを回避するために、円錐部14bを設けている。さらに、本実施例では、図1Aに示す押出し軸16の押し込み操作前の状態(組み立て完了状態や保管状態)において、本体12の内周面のうちシールキャップ14のリング部14aが圧接する第2内周面12mの内径を、それよりも先端側の第1内周面12gの内径よりも小さく設定している。第2内周面12mの内径を小さく設定することで、シールキャップ14のリング部14aとの圧接力を高めることができ、シール機能を高めることができる。つまり、後述するように本体12内に注入された液体が漏れ出ないように挿入器具2を保管することができる。そして、本体内周面12g、12mは円形であることが望ましい。
なお、シールキャップ14のリング部14aの外周面は、単純な円筒面としてもよいが、よりシール機能を高めるために、半円形断面を有するリング形状を設けたり、該リング形状を軸方向に複数設けたりしてもよい。
また、前述したように、押出し軸16の先端にはレンズ1の光学部1aの上下面を挟むレンズ把持部16dが設けられており、押出し軸16が本体12に対して回転した状態で押し込み操作が行われると、レンズ把持部16によって適正に光学部1aを押すことができなくなる。このため、特に押出し軸16の押し込み操作前において、押出し軸16の本体12に対する回転が阻止される必要がある。しかも、押し込み操作前や一旦押し込み操作を開始した後において押出し軸16が本体12に対して抜けてしまうと、その後の押出し軸16の本体12への再挿入が適切に行われるとは限らないため、そのような抜けを防止する必要もある。これらの点で、挿入器具2の押出し軸16に要求される機能は、一般的な注射器に必要な単純なシール機能と異なる。
このため、本実施例では、前述したように第2内周面12mの内径を小さく設定し、これによりシールキャップ14のリング部14aと第2内周面12mとの圧接力、つまりは摩擦力が大きくなることを利用して、押出し軸16が本体12に対して回転したり抜けたりし難い構成を実現している。
なお、本実施例では、シールキャップ14と本体12との圧接により生ずる摩擦を利用して、押出し軸16の本体12に対する回転や抜けを制限する場合について説明したが、これ以外の方法で押出し軸の回転や抜けを制限するようにしてもよい。例えば、押出し軸16のDカット軸部16aの外周形状と相似な内周形状を本体12に形成し、これらの平面部の当接によって押出し軸16の本体12に対する回転を阻止することも可能である。また、Dカット軸部16aと円筒部16b(シールキャップ14)との間にできる段差部を、本体12に形成した当接面に当接させることで、押出し軸16の本体12からの抜けを阻止してもよい。
また、本実施例のシールキャップ14と本体12の内周面との関係は、図21に示すように、従来タイプの挿入器具に適用することも可能である。図21(上側の図は側面図、下側の図は上面図)では、本実施例のシールキャップ14に対応するダブルシールリング44を押出し軸116に設け、本体112の後端部の内周面(組み立て完了状態にてダブルシールリング44)が圧接する部分をそれよりも先端側の内周面の内径より小さくした構成を示している。
このように構成された挿入器具2の組み立て手順について、図4(上側の図は上面図、下側の図は側面図)を用いて説明する。まず、レンズ1をレンズ保持部材28に保持させる。次に、Oリング32およびカバーリング13をそれぞれ、本体12の外筒部12aおよびノズル部12cの外周に取り付ける。但し、組み立て後に行われる本体2内への液体注入に際して穴12hが使用される場合には、Oリング32を穴12hを塞がない位置にずらしておくとよい。
そして、レンズ収容部12b内に、後端開口12iを通して、後方からレンズ保持部材28を挿入する。レンズ収容部12b内に挿入されたレンズ保持部材28は、その外面と該レンズ収容部12bの内面との当接によって周方向および軸方向においてほとんどガタなく保持される。
次に、Oリング43およびシールキャップ14を取り付けた押出し軸16を、後端開口12iから本体12内に挿入する。押出し軸16は、レンズ把持部16dがレンズ収容部12b内におけるレンズ1の若干後方に達するまで挿入される。このとき、シールキャップ14のリング部14aの外周面が外筒部12aの第2内周面12mに圧接し、前述したシール機能および回転・抜け抑制機能を果たす。
また、Oリング43を、外筒部12aの内周に形成された円錐面12fに当接させる。Oリング43の機能については後述する。
以上のようにして組み立てられた挿入器具2には、後述するように、ヒアルロン酸ナトリウムといった粘弾性物質や生理食塩水(薬剤を溶かしたものも含む)等の液体が注入される。この液体注入方法について以下に説明する。なお、注入される液体としては、ヒアルロン酸ナトリウムや生理食塩水以外に、親水性(水溶性)高分子の液体がある。例えば、合成高分子では、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンイミン(PEI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デキストラン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチル化澱粉(HEPES)、ポリ燐酸が挙げられる。
また、天然高分子では、多糖類では、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸ナトリウム(HA)、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、デキストリン、ヘパリン、キトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、多糖類以外では、ポリペプチド、ポリ核酸などが挙げられる。
これらのうち、生体適合性、得られる分子量の多様性などの観点から多糖類を用いるのが好ましい。
次に、粘弾性物質より粘性が低い生理食塩水等の液体を本体12内に注入するいくつかの方法について説明する。
図5には、第1の液体注入方法を示している。注射器35に入れた液体を、ノズル部12cの先端開口12jに挿入した注射針を通して注入する。この際、先端開口12j内に注射針が入り易くなるように、注射針を先端開口12jに案内するガイド部品30をノズル部12cに取り付けるようにするとよい。また、このとき、Oリング32は、本体12に形成された穴12hを塞ぐように配置される。
本体12内に注入された液体は、本体12に先端開口12j以外に外部に開放された開口がないため、先端開口12jを下に向けてもほとんど漏れ出ない。このことは、以下に示す液体注入方法でも同様である。
図6には、第2の液体注入方法を示している。滅菌されたビーカー等の容器36に液体を入れておき、ノズル部12cを液体内に挿入した状態で押出し軸16を後方へ引く。本体2が先端開口12jを除いて密閉されているため、注射器と同様に本体2内に液体を注入することができる。
押出し軸16のレンズ把持部16dは、レンズ収容部12内におけるレンズ1の若干後方に達するまで挿入されている必要があり、その位置関係でレンズ光学部を確実に押すことができる。このため、注射器と同様に液体を注入するためには、押出し軸を2軸にし、レンズ把持部16dが存在しないシールキャップ14の付いた押出し軸に穴をあけ、その内部にレンズ把持部16dが存在する押出し軸16を組み込める構成にする。そして、レンズ把持部16dを有する押出し軸16はその位置に固定された状態で、シールキャップ14を有する押出し軸を後方に引く。これにより、押出し軸16のレンズ把持部16dを、レンズ収容部12における若干後方に達する位置で固定させて注射器と同様に液体を注入しておくことが可能である。
図7には、第3の液体注入方法を示している。Oリング32を本体12に形成されている穴12hからずらし、該穴12hに注射器35の針や液体供給装置を挿入し、液体を本体12内に注入する。その後、穴12hを塞ぐようにOリング32を移動させる。針や液体供給装置の先端を挿入しやすいように、穴12hが存在する外周面にテーパーを設け、挿入時の案内の役割をつけることで更に使い勝手は向上する。
図8には、第4の液体注入方法を示している。この方法では、Oリング32を、穴12hに嵌め込まれる弾性部材で作られた栓(蓋)33に代えて使用する。そして、注射器35の針を栓33に刺し、本体12内へ注射器内の液体を注入する。栓33は、その弾性によって注射針が抜かれた後の穴を閉じるため、液漏れ防止が可能である。なお、栓33を穴12hから抜けにくくするために、栓33の形状を工夫するとよい。例えば、栓33のうち穴12hに嵌め込まれる部分を、下側ほど太い形状とするとよい。また、栓33を本体12に接着してもよい。
図9には、第5の液体注入方法を示している。第3の方法と同様に、穴12hに注射器35の針や液体供給装置を挿入し、液体を本体12内に注入する。その後、穴12hを塞ぐように蓋(栓)33′を本体12に取り付け、穴12hから液体が漏れ出ないようにする。蓋33′を穴12hから抜けにくくするために、蓋33′の形状を工夫するとよい。例えば、蓋33′のうち穴12hに嵌め込まれる部分を、下側ほど太い形状とするとよい。また、蓋33′を本体12に接着してもよい。
但し、栓33やOリング32を用いずに使用しても、液体の流れに直接影響を及ぼさないようであれば、特に問題はない。
以上説明した液体注入方法によれば、手術の直前や挿入器具の工場出荷前に本体2内に液体を簡単に注入することができる。そして、工場出荷前に液体を注入し、その後、出荷、運送および保管される場合には、その間における液体の外部への漏出を防止するために、図10に示すキャップ34をノズル部12cに被せるとよい。
キャップ34は、その先端部および周壁部には開口を有さず、後端部に開口部を有する。後端部の内側には、弾性部材で作られたシールリング27が取り付けられている。シールリング27がノズル部12c(レンズ収容部12bでもよい)の外周面に密着するようにキャップ34を取り付けることで、ノズル部12cの周囲には閉じた空間が形成される。したがって、仮に先端開口12jからキャップ34内に液体が漏れ出ても、それが外部に漏れ出ることはない。また、液体の蒸発やノズル部12cの破損をも防止できる。したがって、レンズ1とともに液体を挿入器具2内に保持した状態で長期間保管しておくことも可能となる。
手術時には、キャップ34が取り付けられていた場合はこれを取り外し、ノズル部12cの先端(眼内挿入部)を眼球に形成した切開創から眼内に差し込む。そして、押出し軸16を本体12に対して押し込む。これにより、本体12内の液体がノズル部12cの先端開口12jから眼内に注入され始め、また、レンズ把持部16dによって光学部1aが挟まれたレンズ1がレンズ保持部材28上から先端方向に移動し始める。レンズ1はノズル部12c内を移動するにしたがって小さく折り畳まれるように変形し、先端開口12jから眼内に押し出される。
ここで、ノズル部12cから眼内に液体を注入することによって、眼圧が上昇し、前房が膨らむことで、レンズ1の挿入空間が形成されることが期待できる。しかし、図11に示すように、ノズル部12cを眼球15上の切開創口15aに挿入した状態では、切開創口15aの方がノズル部12cよりも大きな面積を有するため、創口15aの辺縁とノズル部12cの外周面との間に隙間(ノズル部12c外の領域)20ができる。このため、一旦眼内に注入された液体が該隙間20から流出してしまい、特に、本体12内に注入されていた液体の量がそれほど多くない場合(例えば、0.5〜2.5ml程度)では、眼圧を上昇させることができず、前房を十分に膨らませることができない。
そこで、本実施例では、ノズル部12cの先端付近に設けられたカバーリング13を眼球15に押し付けることで、創口15a内の隙間20を覆うことができるようにしている。このとき、カバーリング13によって隙間20を完全に覆う(塞ぐ)ようにしてもよいし、隙間20の一部のみを覆うようにしてもよい。これにより、隙間20からの液体の流出を制限(阻止又は流出量を少なく)することができ、本体12内に注入されていた液体がそれほど多い量でなくても(少量であっても)、確実に眼圧を上昇させて前房を十分に膨らませることができる。なお、眼圧が高くなりすぎた場合には、カバーリング13を眼球15から離すように挿入器具2を後方にずらすことで、もとの大きさの隙間20から液体が流出するため、眼圧を低くすることができる。
このように、本実施例によれば、手術者の手元での操作だけで、レンズ1の眼内への挿入を行うことができるとともに眼圧をコントロールすることもできる。
なお、本実施例では、眼球15の切開創口15aにおける隙間20を覆うために、ノズル部12cとは別部材としてのカバーリング13を用いる場合について説明したが、ノズル部12cにカバーリング13と同等の機能を有するリング形状部を一体成形するようにしてもよい。
以下、カバーリング13およびこれと同等の機能を有するカバーリング形状部の機能に関する実験結果およびノズル部12cの先端形状の最適化に関する実験結果を示す。
実験1:まず、図12(上側の図は上面図、下側の図は側面図)に示すように、生理食塩水等の液体を供給する装置19をチューブ18を介して挿入器具2′に接続して実験を行った。このとき、挿入器具2′には、カバーリング13又はこれに相当する形状は設けなかった。また、押出し軸16′の内部に液体が通過する流路を設け、その押出し軸16′にチューブ18を接続した。
液体供給装置19から挿入器具2′(ノズル部12c)を介して液体を連続的に眼球内に注入したところ、眼圧は上昇して前房に液体が満たされ、水晶体後嚢が硝子体側へ移動した(前房が膨らんだ)ことが確認された。このように、液体供給装置19から連続的に所定の流量の液体を眼球に供給できる場合は、カバーリング13又はこれに相当する形状をノズル部12cに設けなくてもよいことが分かった。
実験2:図13に示すように、予め液体を25ml、本体12内に注入した挿入器具2を用いて実験を行った。本実験では、カバーリング13又はこれに相当する形状をノズル部12cに設けなかった。この場合、押出し軸16を押し込んで本体12内のほとんどの液体を眼内へ注入しても、眼圧は切開創を作成したときの眼圧からほとんど上昇せず、水晶体後嚢も硝子体側へ移動しなかった。眼圧が上昇しない理由を検討した結果は、切開創は線状にナイフで作成されるため、ここに立体的なノズル部12cを挿入することで、図11に示した隙間20が形成され、図14に示すように、その隙間20から液体Lが漏れ出すためであることが判明した。
実験3:実験2で使用した挿入器具2のノズル部12cにカバーリング13を取り付け、図15に示すように、カバーリング13を眼球15における切開創口15a付近の部分と密着させて、実験2と同様の実験を行った。この場合、眼圧は上昇し、水晶体後嚢が硝子体側へ移動した。これは、切開創口15a内におけるノズル部12cの外側に隙間20はできるが、カバーリング13が眼球15における切開創15aの周囲に密着することで、隙間20から液体が流れ出てもカバーリング13でシールされ、外部への漏出が止められるためであることが確認された。特に、カバーリング13の断面が円形であることから、カバーリング13は眼球15における切開創15aの周囲にリング状に線接触する。このため、面接触によってシールを行うよりも容易かつ確実にシール効果を得ることができたと考えられる。
なお、前述したようにノズル部12cに段差部12c1を設けることで、カバーリング13がノズル部12c上で後方に移動することが阻止でき、また、ノズル部12c上でカバーリング13の傾きを許容することで、カバーリング13の眼球15への密着状態を安定的に維持することができた。
実験4:図16Aに示すように、ノズル部12cに、カバーリング13とほぼ同形状のリング形状部12c2を一体形成して、実験2,3と同様の実験を行った。この場合、リング形状部12c2に柔軟性(フレキシビリティ)がほとんどなかったため、リング形状部12c2はその一部を眼球15に密着させることはできるが、他の部分を眼球15に密着させることができず、眼球15とリング形状部12c2との間の隙間から外部に液体が漏れ出た。このため、眼圧はほとんど上昇しなかった。
しかし、図16Bに示すように、リング形状部(カバーリング形状部)12c3をその厚さが0.3mm程度で柔軟性を有する形状とすることで、該カバーリング形状部12c3の全周を眼球15に密着させることができ、シールリング13と同等のシール効果が得られることが分かった。
実験5:図17A,17Bには、本実験で用いた挿入器具のノズル部12cの断面形状を示している。図11に示したように、切開創口15aに円形又は楕円形断面を有するノズル部12cを挿入すると、切開創口15aは、菱形に近い形状に開く。そして、ノズル部12cと創口15aの辺縁部との間に三角形に近い形状の隙間20が生じる。
このため、本実験では、この隙間20をほぼ埋めることができる凸形状の切開部カバー形状12c4,12c5を有するノズル部12c′,12c″を作製し、実験2〜4と同様の実験を行った。この場合、ノズル部12c′,12c″と切開創口15a内の辺縁部との間にできる隙間が小さく又はほとんどなくなるため、眼球15からの液体の漏れが少なく又はほとんどなくなって眼圧は上昇した。
このように、ノズル部自体を、隙間20を埋めることができる形状とすることで、カバーリング13やカバーリング形状部12c3をノズル部12cに設けるのと同等なシール効果を得られることが分かった。
なお、凸形状の切開部カバー形状12c4,12c5を有するノズル部にカバーリング13やカバーリング形状部12c3を設ければ、さらに高いシール効果を得ることができると考えられる。
実験7:実験3および実験4のように、ノズル部12cカバーリング13やカバーリング形状部12c3を設けることで、眼圧を上昇させることができるが、逆に眼圧が高くなりすぎた場合に適度な眼圧に調整するための構成も設けられていればより良い。
本実験では、図18に示すように、ノズル部12cにおけるカバーリング13やカバーリング形状部12c3よりも先端側に、穴37やスリット38といった開口を設けた。また、ノズル部12cの先端に斜め形状部39を設けた。
眼圧が高くなりすぎた場合は、穴37、スリット38又は斜め形状部39の一部が眼外に露出するように挿入器具2を眼球に対して若干引くことで、本体12からノズル部12cの先端開口12iに向かう液体や眼内の液体が該穴37等から眼外に排出される。このため、容易に眼圧調整を行うことができる。
再び眼圧が低下しすぎたために眼圧を高める際には、穴37等が眼内に位置し、カバーリング13やカバーリング形状部12c3を眼球に密着させればよい。
実験8:ノズル部12cを線状の切開創に挿入する際、まだ眼圧は低く、切開創が開いていないため、たとえノズル部12cの先端がある程度斜め形状になっていても挿入しにくい。一方、ノズル部12cを線状の切開創に挿入し易くするために、ノズル部12cの先端を過度に斜めの形状に形成しただけでは、ノズル部12c内でのレンズ1の移動抵抗(摩擦抵抗)が増大し、レンズ1に過度の負荷がかかる等の弊害が生ずる。
そこで、ノズル部12cの先端形状を様々に変えて実験を行った。そのうちの1つが、図19(上側の図が側面図、下側の図が下面図)に示す形状である。図19では、まずノズル部12cの先端部下側に斜め形状部41を設けた。その斜め形状部41の先端(ノズル部12cの先端)から該斜め形状部41の後端までの周壁を以下、先端周壁Tという。そて、この先端周壁Tを、全周にわたって、該先端周壁Tよりも後方の周壁に対して、先細り形状となる方向に10°以上大きく傾斜したテーパー面40とした。これにより、ノズル部12cを眼圧の低い眼球の切開創へも挿入し易くなった。
一方、先端周壁のそれよりも後方の周壁に対する傾斜角度が9度以下であった場合は、切開創への挿入が難しかった。
また、10°以上のテーパー面40が、斜め形状部41の後端よりも後方から形成された場合は、該テーパーによってノズル部内の空間が小さくなりすぎるため、レンズ1がノズル部内空間を通過する際の摩擦抵抗が過度に増加してしまう。
これに対し、本実験のように、斜め形状部41の後端から先端側にテーパー面40を形成することで、レンズ1がノズル部12c内を通過する際の摩擦抵抗の増加を抑えることができる。しかも、斜め形状部41の後端をレンズ1が超えると、該レンズ1の変形が解除され、該変形によってレンズ1に発生していた応力が開放されるため、摩擦抵抗は低減する。これにより、ノズル部12cを眼圧の低い眼球の切開創へも挿入し易く、しかもレンズ1にかかる負荷も小さいノズル部12cを実現することができた。
実験9:実験3,4で説明したカバーリング13やカバーリング形状部12c3、凸形状切開部カバー形状12c4、12c5をノズル部に設ける構成は、本実施例の挿入器具に限らず、図20で示したような従来タイプの挿入器具にも適用することが可能である。図20の挿入器具のノズル部にカバーリング13を設けた挿入器具を図22に示す。但し、本実験例では、粘弾性物質を潤滑剤として使用した。
挿入器具102のノズル部112cにカバーリング13を設け、実験3,4と同様に、眼球15にカバーリング13を密着させた。これにより、眼内の粘弾性物質の切開創口からの流出量を減少させることができた。
なお、図22の挿入器具102の押出し軸116上には、先に説明したOリング43が取り付けられている。このように、Oリング43を図20に示した従来タイプの挿入器具102に使用してもよい。
次に、Oリング43の機能について、図23Aおよび図23Bを用いて説明する。図23Aに示すように、挿入器具2の組み立て完了状態(押出し軸16の押し込み操作前)では、外筒部12aの後端部の内周に形成された円錐面12fに当接したOリング43と、押出し軸16に固定されたシールキャップ14(リング部14a:第1の弾性部材)とは互いに接近している。しかし、この状態でも、本体12に対して押出し軸16がシールキャップ14のリング部14aとOリング43の2箇所で支持されていることになるため、シールキャップ14のリング部14aのみで押出し軸16が支持されている場合に比べて、押出し軸16の本体12に対する上下左右方向の変位が抑えられる。
この状態から、図23Bに示すように、押出し軸16を先端方向に押し込むと、押出し軸16に固定されたシールキャップ14は押出し軸16とともに先端方向に移動するが、押出し軸16に対して軸方向に移動可能に取り付けられたOリング43は、円錐面12fによって先端方向への移動が阻止されるため、該円錐面12fに当接する位置に留まる。これにより、シールキャップ14のリング部14aとOリング43間の距離Lが広がる。このため、押出し軸16の押し込み操作前の状態よりも、押出し軸16の本体12に対する上下左右方向の変位がより小さく抑えられる。したがって、押出し軸16の先端(レンズ把持部16d)を、レンズ保持部材28によって保持されたレンズ1の光学部1aに対して正確に導くことができ、レンズ1を適切に押し出すことができる。
なお、Oリング43は、押出し軸16上に取り付けておいてもよいが、本体12の内周に固定しておいてもよい。また、Oリング43に相当する部材を、1箇所だけでなく、複数箇所に設けてもよい。さらに、複数のOリング43を軸方向に隣接配置して本体12の内周面と押出し軸16の外周面とに圧接させることによりシール機能を持たせれば、シールキャップ14のシール機能と相まって、本体12の後端開口12iからの液漏れをより確実に防止することができる。
また、Oリング43に相当する弾性部材を、本体における押出し軸上のシールキャップよりも先端側に固定する等して、押出し軸の先端方向への移動に伴ってOリングとシールキャップに相当する複数の弾性部材間の間隔が最も広い状態から適度に広い状態まで狭まるようにしてもよい。この場合でも、シールキャップに相当する弾性部材のみが設けられている場合に比べて、押出し軸の本体に対する上下左右方向の変位を小さく抑えることができ、レンズを適切に押し出すことができる。
なお、上記実施例では、挿入器具の工場出荷前(病院に納入される前)に予めレンズ1をレンズ収容部12bに装填しておくいわゆるプリロードタイプの挿入器具について説明した。しかし、本発明はこれ以外の挿入器具にも適用することができる。例えば、挿入器具とレンズとが別々に保管され、手術の直前にレンズ1が装填されるタイプの挿入器具にも本発明を適用することができる。