本発明は、ステアリングホイール等への操舵入力にしたがって操向輪を転舵する車両用操舵装置の技術分野に属する。
ステアリングホイールの反力トルクと操向輪の転舵角を自由に設定可能である従来のステア・バイ・ワイヤ方式による車両用操舵装置において、ステアリングホイールと操向輪を連結するコラムシャフトの間に、システム故障(異常)が発生した場合に安全性を確保するため、機械式のバックアップを設けることが一般的に知られている。
しかし、機械式バックアップとしてコラムシャフトやコラムシャフトに類するシャフトを用いると、ステア・バイ・ワイヤ方式によるステアリングシステムのメリットである、コックピット配置の自由度を確保できない。
そこで、コックピット配置の自由度を確保するために、機械的バックアップとして比較的配置の自由度を持たせることができるケーブル式バックアップ機構を用いたステア・バイ・ワイヤ方式によるステアリングシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−225733号公報
しかしながら、従来のステア・バイ・ワイヤ方式によるステアリングシステムにあっても、ステアリングホイールと操向輪とが常に機械的に連結された周知のステアリングシステムと同様に、ラック部分は剛体シャフトであり、ステアリングラック軸が一本のシャフトとして構成され、転舵時にラックストローク量は左右が常に同じになる。
このため、転舵時に、本来は左右一方の操向輪については切り角に余裕があるにもかかわらず、ラックストローク量が同じであるため、最大転舵角の小さい方の操向輪がストッパに当たれば、その影響を受け、もう一方の操向輪も止まってしまい、それ以上転舵できなくなる。この影響は、車両の最小旋回半径を制限する要因となっているという問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、転舵時に左右のラックストローク量に差を持たせることで、従来システムと同じステアリングレイアウトにしても最小旋回半径をさらに小さくすることができる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では、操作入力手段への操舵入力を、直接または間接的にステアリングラック軸へ伝達し、伝達された力による前記ステアリングラック軸の移動により左右の操向輪を転舵させる車両用操舵装置において、
前記ステアリングラック軸を、互いに車幅方向に離間した左ラック移動部と右ラック移動部とに分割し、左右の操向輪を転舵する時、左右のラックストローク量に差を持たせる転舵角変換機構を設け、
前記転舵角変換機構は、左右のピニオンシャフトの端部にそれぞれ形成されたピニオンギヤ部と、前記左右のラック移動部にそれぞれ形成されたラックギヤ部とを有し、
前記ステアリングラック軸を、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右非対称となるように構成されたバリアブルラックとし、
前記左右のピニオンシャフト間で回転力を伝達する回転力伝達手段を設けた。
よって、本発明の車両用操舵装置にあっては、ステアリングラック軸が、左ラック移動部と右ラック移動部とに分割され、左右の操向輪を転舵する時、転舵角変換機構により、左右のラックストローク量に差が持たせられるため、従来システムと同じステアリングレイアウトにしても最小旋回半径をさらに小さくすることができる。
以下、本発明の車両用操舵装置を実現する実施の形態を、図面に示す実施例1,実施例2,実施例3,実施例4,実施例5,実施例6,実施例7,実施例8,実施例9,実施例10,実施例11に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車両用操舵装置を示す全体システム図であり、この実施例1は、左右分離のバリアブルラックを転舵角変換機構とし、3つのプーリを有するケーブル式バックアップ機構と1つのクラッチ機構と2つの転舵アクチュエータとを有するステア・バイ・ワイヤ・ステアリングシステムの例である。
実施例1の車両用操舵装置は、図1に示すように、ステアリングホイール1(操作入力手段)と、操舵反力アクチュエータ2と、クラッチ機構3と、ケーブル式バックアップ機構4と、転舵アクチュエータ5,5と、バリアブルラック6,6(転舵角変換機構)と、を備えている。
前記ステアリングホイール1には、第1コラムシャフト7が連結されていて、この第1コラムシャフト7の途中位置には、ステア・バイ・ワイヤシステムの正常時に、図外のコントローラからの指令を受けてステアリングホイール1に操舵反力を付与する操舵反力アクチュエータ2が設けられている。
前記クラッチ機構3は、前記第1コラムシャフト7と、前記ケーブル式バックアップ機構4の操舵側プーリ4aに連結される第2コラムシャフト8との間の位置に介装されている。なお、クラッチ機構3としては、図外のコントローラからの指令により締結・解放の制御が可能な電磁クラッチ等が適用される。
前記ケーブル式バックアップ機構4は、前記クラッチ機構3を締結するステア・バイ・ワイヤシステムの異常時、ステアリングホイール1と図外の操向輪とを機械的に連結するバックアップ機構であり、第2コラムシャフト8と左右のピニオンシャフト9,9との間に介装されている。このケーブル式バックアップ機構4は、前記第2コラムシャフト8に連結された円筒状の操舵側プーリ4aと、前記左右のピニオンシャフト9,9にそれぞれ連結された円筒状の転舵側プーリ4b,4bと、操舵側プーリ4aと一方の転舵側プーリ4bとを連結する第1ケーブル4cと、操舵側プーリ4aと他方の転舵側プーリ4bとを連結する第2ケーブル4dと、両転舵側プーリ4b,4bとを連結する第3ケーブル4eと、により構成されている。なお、各ケーブル4c,4d,4eは、アウターチューブとインナーケーブルとから構成されている。
前記転舵アクチュエータ5,5は、前記左右のピニオンシャフト9,9のそれぞれの途中位置に設けられていて、ステア・バイ・ワイヤシステムの正常時に、図外のコントローラからの指令を受けて左右のピニオンシャフト9,9を回転駆動する。
前記バリアブルラック6,6は、ステアリングラック軸10を、左ラック移動部10aと右ラック移動部10bとに分割し、両ラック移動部10a,10bの端部に設けられる図外の左右の操向輪を転舵する時、左右のラックストローク量に差を持たせる転舵角変換機構である。このバリアブルラック6,6は、左ラック移動部10aと右ラック移動部10bにそれぞれ形成され、外側(操向輪側)のギヤピッチを最小とし、内側に向かうにしたがってギヤピッチを大きくしたラックギヤ部6a,6aと、前記左右のピニオンシャフト9,9の端部にそれぞれ形成されたピニオンギヤ部6b,6bと、によって、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右非対称となるように構成されている。
次に、作用を説明する。
[転舵作用]
従来のステアリングシステムでは、1本のステアリングラック軸により左右の操向輪を転舵するものであるため、図2のAに示すように、左右の操向輪のうち右側の操向輪がストッパに当たってしまうと、左側の操向輪については、まだ転舵角の限界に達していないにもかかわらず、右側の操向輪と同じ転舵角位置で止まってしまう。
これに対し、実施例1では、左右分割した左ラック移動部10aと右ラック移動部10bと左右のバリアブルラック6,6により、左右のラックストローク量に差を持たせるようにしたため、図2のBに示すように、左右の操向輪のうち転舵余裕のある左側の操向輪については、右側の操向輪よりさらに転舵角を増すように転舵される。
この結果、右側の操向輪の転舵角が限界に達しても、左側の操向輪の転舵角が、右側の操向輪の転舵角よりも大きな角度となり、幾何学的に左右の操向輪での円旋回の中心位置がほぼ一致し、旋回半径が実質的に短くなるため、設計的に全く同じレイアウトを持つ車両であっても、最小旋回半径をさらに小さくすることが可能となる。
また、実施例1では、ステアリングラック軸が分割されており、分割された左ラック移動部10aと右ラック移動部10bのそれぞれに、左右のピニオンシャフト9,9からの入力による左右ラック移動部10a,10bの動きが可変となるようなバリアブルラック6,6が形成してある。
一般的な左右独立のシステムでは、分割されているラック移動部のそれぞれを独立にコントロールし、作動させなければならない。これは、ストローク量を変えたいといった場合でも、同じことである。
しかし、実施例1の構成では、図3に示すように、可変式のバリアブルラック6,6を形成することにより、2本あるピニオンシャフト9,9に同じ回転数を加えれば良く、独立にコントロールする必要もなく、複雑なシステムも必要とならないため、全体の構成が簡易なものとなる。
[バリアブルラックの設定]
図4はハンドル角(ここでは、ステアリングホイール1や転舵アクチュエータ5,5からピニオンシャフト9,9への入力と考えている。)に対する左右ストローク量の絶対値特性であり、図4中の実線は一方のストローク量(図2では右側の操向輪)、点線はもう一方のストローク量(図2では左側の操向輪)を示している。
実施例1では、左右分割した左ラック移動部10aと右ラック移動部10bと左右のバリアブルラック6,6により、図4の特性に示すように、同じハンドル角を与えても左右のラックストローク量に差を持たせることができる。そして、左右のバリアブルラック6,6のラックギヤ6a,6aの切り方は、図4の円径表示に示すように、自由に設定できるものとする。また、左右のバリアブルラック6,6のラックギヤ6a,6aの切り方に関しては、図1に示すように、ラック中心部から操向輪に向かって疎→密になる場合だけでなく、逆に、ラック中心部から操向輪に向かって密→疎にラックギヤ6a,6aを切ることも考えられる。
[ステア・バイ・ワイヤシステム]
まず、実施例1の場合、ステア・バイ・ワイヤと呼ばれるシステムであり、機械式バックアップ機構としてケーブル式バックアップ機構4を採用している。このケーブル式バックアップ機構4では、各ケーブル4c,4d,4eを自由に配索することができ、コラムシャフトが通らない場所でも、多少の障害物は回避して従来と同等のステアリング機能を実現することができる。
ステア・バイ・ワイヤシステムが正常である時には、クラッチ機構3が解放され、ステアリングホイール1への操舵入力時には、検出される操舵角に応じて左右の転舵アクチュエータ5,5に対し同じ駆動指令による制御が行われ、左右のピニオンシャフト9,9から左右のバリアブルラック6,6に対しアクチュエータ駆動力が入力される。なお、クラッチ機構3の解放に伴い、検出されるトルク等に応じて操舵反力アクチュエータ2によりドライバーに対し模擬の操舵反力を与える制御が同時に行われる。また、切り離すクラッチ機構3が1つであるため、ケーブル式バックアップ機構4は転舵部と共に連れ回ることになる。
一方、ステア・バイ・ワイヤシステムが異常であるバックアップモード時には、クラッチ機構3が締結され、ステアリングホイール1への操舵入力は、第1コラムシャフト7→クラッチ機構3→ケーブル式バックアップ機構4→左右のピニオンシャフト9,9を経過し、バリアブルラック6,6に伝達される。なお、左右の操向輪が路面から受けた転舵抵抗は、上記とは逆の経路によりステアリングホイール1へ伝達され、ドライバーに対する操舵反力となる。
上記のように、ステア・バイ・ワイヤシステムが正常であるか、異常であるかにかかわらず、ステアリングホイール1に対し所定の角度を入力すると、左ラック移動部10aと右ラック移動部10bの移動により左右の操向輪を転舵するものであるため、正常時のようにステア・バイ・ワイヤ方式により自由に転舵特性を設定できる場合は勿論のこと、フェイルによりバックアップモードとなっても、上記のように、最小旋回半径を得ることができる。
なお、転舵アクチュエータ5,5が左右に設けられている理由は、各ケーブル4c,4d,4eは、一般的に剛性が低いため、2つの転舵アクチュエータ5,5により、擬似的に剛性感を高めるためである。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用操舵装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) ステアリングホイール1への操舵入力を、直接または間接的にステアリングラック軸10へ伝達し、伝達された力による前記ステアリングラック軸10の移動により左右の操向輪を転舵させる車両用操舵装置において、前記ステアリングラック軸10を、左ラック移動部10aと右ラック移動部10bとに分割し、左右の操向輪を転舵する時、左右のラックストローク量に差を持たせる転舵角変換機構を設けたため、転舵時に左右のラックストローク量に差を持たせることで、従来システムと同じステアリングレイアウトにしても最小旋回半径をさらに小さくすることができる。
(2) 前記転舵角変換機構を、前記左右のピニオンシャフト9,9の端部にそれぞれ形成されたピニオンギヤ部6b,6bと、前記左右のラック移動部10a,10bにそれぞれ形成されたラックギヤ部6a,6aとを有し、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右非対称となるように構成されたバリアブルラック6,6としたため、分割された左右のラック移動部10a,10bのそれぞれにバリアブルラック6,6を形成するだけの簡単な構成により、転舵時に左右のラックストローク量に差を持たせることができる。
(3) 前記ステアリングホイール1を有する操舵部と前記左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、3つの円筒状のプーリ4a,4b,4bを有するケーブル式バックアップ機構を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、クラッチ機構3が切り離されたシステム正常時に、2つの転舵アクチュエータ5,5に対する同じ駆動指令により左右のラックストローク量に差を持たせることができると共に、剛性感を高めることができる。また、システムフェイル時のバックアップモードにおいても、左右のラックストローク量に差が持たせられるため、最小旋回半径を得ることができる。
実施例2は、クラッチ機構をケーブル式バックアップ機構を挟んで2つ設けると共に、左右のラック移動部を駆動する転舵アクチュエータを1つにした例である。
すなわち、図5に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と前記左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、2つの円筒状の操舵側プーリ4aと転舵側プーリ4bを有するケーブル式バックアップ機構4を備え、該ケーブル式バックアップ機構4を挟んだ操舵部と転舵部にそれぞれ1つのクラッチ機構3,3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。
前記転舵部側のクラッチ機構3は、転舵側プーリ4bが設けられたピニオンシャフト11と左側のピニオンシャフト9との間に介装されている。また、ステア・バイ・ワイヤによる操舵時に1つの転舵アクチュエータ5により右側のピニオンシャフト9を回転駆動する伝達機構は、ラックギヤ部12a,12aを形成した連結シャフト12と、該連結シャフト12のラックギヤ部12a,12aに螺合するピニオンギヤ部9a,9aを形成したピニオンシャフト9,9により構成されている。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明すると、この実施例2においても、実施例1と同様に、ステア・バイ・ワイヤの通常制御時にも、バックアップモード時にも、共に最小旋回半径を得ることができる。そして、クラッチ機構3,3が切り離されるステア・バイ・ワイヤの通常制御時には、ケーブル式バックアップ機構4の連れ回りがなく、連れ回りによる摩擦によるケーブル摩耗の現象を無くすことができる。
さらに、剛性の高い連結シャフト12にすることにより、ケーブルのように低剛性の対策の必要が無く、実施例1に比べ、転舵アクチュエータ5の個数を半分にできる構成を確立することができる。なお、実施例2の図5においては、システムを分かりやすくするために、転舵アクチュエータとしては、極力最小限の個数を表記した。これはあくまで最小限であり、システムの安全性を確保するために当然に2つの転舵アクチュエータをピニオンシャフトに設ける等、複数の転舵アクチュエータを用いることもあり得る。
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1),(2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(4) ステアリングホイール1を有する操舵部と前記左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、2つの円筒状の操舵側プーリ4aと転舵側プーリ4bを有するケーブル式バックアップ機構4を備え、該ケーブル式バックアップ機構4を挟んだ操舵部と転舵部にそれぞれ1つのクラッチ機構3,3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、ステア・バイ・ワイヤの通常制御時には、ケーブル式バックアップ機構4の連れ回りがなく、ケーブル式バックアップ機構4の耐久性を確保することができると共に、転舵アクチュエータ5の個数を1つにしてシステム構成の簡略化を図ることができる。
実施例3は、実施例1,2のステア・バイ・ワイヤ方式に代え、直結方式のステアリングシステムにバリアブルラックを採用した例である。
すなわち、図6に示すように、ステアリングホイール1が端部に設けられたコラムシャフト7と左右のピニオンシャフト9,9の一方とを一体に形成し、左右のピニオンシャフト9,9の他方へは、ラックギヤ部12a,12aが形成された連結シャフト12を介して連結し、前記左ラック移動部10aと右ラック移動部10bへは常に機械的にトルク伝達する直結方式としている。前記ピニオンシャフト9,9には、連結シャフト12のラックギヤ部12a,12aに螺合するピニオンギヤ部9a,9aが形成されている。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明すると、実施例1,2のステア・バイ・ワイヤ方式に代え、直結方式のステアリングシステムにバリアブルラック6,6を採用したものであり、これは、左右のラック移動部10a,10bに螺合している左右のピニオンシャフト9,9同一の回転数で回転することができるために可能となっている。つまり、前記2本のピニオンシャフト9,9に同一の回転数を与えることができるシステムや機構には、本発明のバリアブルラック6,6を適用することができる。
実施例3の場合は、ステアリング・バイ・ワイヤ方式のように自由に転舵特性を設定することができないが、単純に最小旋回半径を小さくする手段として有効である。
なお、左右のラック移動部10a,10bに螺合している左右のピニオンシャフト9,9に同一の回転数を与える手段は、実施例2,3の連結シャフト12に限らず、ケーブルやチェーンやベルト等でも構わない。また、実施例3では操舵力のアシスト機構を省略したが、周知のモータアシスト機構や油圧アシスト機構を採用して良いのは勿論である。
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1),(2)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(5) ステアリングホイール1が端部に設けられたコラムシャフト7と左右のピニオンシャフト9,9の一方とを一体に形成し、左右のピニオンシャフト9,9の他方へは、ラックギヤ部12a,12aが形成された連結シャフト12を介して連結し、前記左ラック移動部10aと右ラック移動部10bへは常に機械的にトルク伝達する直結方式としたため、通常のステアリングシステムに対しても最小旋回半径を達成するバリアブルラック6,6を採用することができる。
実施例4は、転舵角変換機構として、バリアブルラックに代え、円錐筒状のテーパプーリを適用した例である。
すなわち、図7に示すように、転舵角変換機構を、左右のピニオンシャフト9,9の端部にそれぞれ設けられ、ケーブル巻き付け径がラックストロークに応じて変化し、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右非対称となるように構成された左右の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’としている。
そして、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状の操舵側プーリ4aと2つの円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右対称となるように構成されたラック&ピニオン6’,6’を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。
前記円筒状の操舵側プーリ4aには、図8に示すように、2本の第1ケーブル4c及び第2ケーブル4dの端部を両端位置に固定し、2本のケーブル4c,4dのうち、一方をケーブル溝に沿わせて右巻きとし、他方をケーブル溝に沿わせて左巻きとするというように、互いに逆方向に巻き付けてある。
前記左右の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’は、図9に示すように、両転舵側テーパプーリ4b’,4b’の小径部分にはそれぞれ端部を固定した第1ケーブル4c及び第2ケーブル4dが巻き付けられ、両転舵側テーパプーリ4b’,4b’の大径部分には両端部を固定した第3ケーブル4eが巻き付けられている。
そして、左右の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’の直径は、図10に示すように、両転舵側テーパプーリ4b’,4b’の軸方向対応位置において、両転舵側テーパプーリ4b’,4b’の直径の和が一定となるように設定されている。つまり、左側の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’については、上端径をd2とし中間径をd0とし下端径をd1し、右側の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’については、上端径をd1とし中間径をd0とし下端径をd2としている。なお、d1<d0<d2の関係である。
また、左右の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’の回転数は、図11に示すように、両転舵側テーパプーリ4b’,4b’の軸方向対応位置において、その和が同じになるように設定している。つまり、左右の転舵側テーパプーリ4b’,4b’のプーリ回転数をそれぞれn1,n2とし、中立位置でのプーリ回転数をn0とした場合、転舵位置が左フル転舵位置や中立位置や右フル転舵位置にかかわらず、n1+n2=2×n0の式が成立するように設定されている。尚、他の構成は実施例1と同様であるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明すると、例えば、右切りの場合、図12に示すように、円筒状の操舵側プーリ4aが右に所定の回転角度で回転した場合、第1ケーブル4cは、左側の転舵側テーパプーリ4b’からケーブルを外しながら操舵側プーリ4aに巻き込む。よって、操舵側プーリ4aへの巻き込み径は一定であるのに対し、左側の転舵側テーパプーリ4b’からケーブルを外すときの巻き付け径は徐々に小さくなるので、転舵側テーパプーリ4b’の回転数が大きくなる。一方、右側の転舵側テーパプーリ4b’については、その逆で、第2ケーブル4dは、操舵側プーリ4aからケーブルを外しながら右側の転舵側テーパプーリ4b’に巻き込む。よって、操舵側プーリ4aからの巻外し径は一定であるのに対し、右側の転舵側テーパプーリ4b’がケーブルを巻き込むときの巻き付け径は徐々に大きくなるので、転舵側テーパプーリ4b’の回転数が小さくなる。なお、第3ケーブル4eは、左右の転舵側テーパプーリ4b’,4b’を回転連動させ、回転数関係として、上記(n1+n2=2×n0)の関係を保つ。
よって、ラックストロークの関係をみると、例えば、実施例4のシステムで転舵側プーリを円筒状とした場合には、図13(a)に示すように、右切り時も左切り時も左右のラックストロークが同じになるものの、実施例4の場合、左右に円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’を採用したため、図13(b)に示すように、外側に伸びる方が、内側に縮む方よりラックストロークが大きくなる。なお、図7に示す左右の転舵側テーパプーリ4b’,4b’の上下関係を反対にすると、図13(c)に示すように、外側に伸びる方が、内側に縮む方よりラックストロークを小さくすることができる。
次に、効果を説明する。
実施例4の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
(6) 転舵角変換機構を、左右のピニオンシャフト9,9の端部にそれぞれ設けられ、ケーブル巻き付け径がラックストロークに応じて変化し、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右非対称となるように構成された左右の円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’としているため、ケーブル式バックアップ機構4のプーリ形状を変更するだけの簡単な構成により、転舵時に左右のラックストローク量に差を持たせることができる。
(7) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状の操舵側プーリ4aと2つの円錐筒状の転舵側テーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ピニオンシャフト回転量に対するラックストローク量の関係が左右対称となるように構成されたラック&ピニオン6’,6’を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、クラッチ機構3が締結されるバックアップモード時に、左右のラックストローク量に差が持たせられ、最小旋回半径を得ることができる。
実施例5は、転舵角変換機構として、ラック移動部が外側にストロークするときのストローク量を増加させるバリアブルラックとテーパプーリとの両方を共に適用した例である。
実施例1,2での電磁クラッチによる摩擦式クラッチ機構に代え、電磁式メカニカルクラッチによる摩擦式クラッチ機構を採用した例である。
すなわち、図14に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって疎→密になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。すなわち、実施例4とは、バリアブルラック6,6を適用しているか否かの点でのみ相違する。
次に、作用を説明すると、ラック中心部から操向輪側に向かって疎→密になるバリアブルラック6,6の適用により、実施例1と同様に、左右のラック移動部10a,10bのうち、外側にストロークする移動部のストローク量が大きくなり、内側にストロークするストローク量が小さくなるという作用を示す。この作用は、クラッチ機構3が切り離されているステア・バイ・ワイヤシステムの正常時にも実現される。
そして、クラッチ機構3が締結されるバックアップモード時には、実施例4と同様に、左右の円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’により、左右のラック移動部10a,10bのうち、外側にストロークする移動部のストローク量が大きくなり、内側にストロークするストローク量が小さくなるという作用を示すことで、バリアブルラック6,6でのストローク差動作用との相乗作用により、さらに、ラック移動部が外側にストロークするときのストローク量を増加させることができる。
次に、効果を説明する。
実施例5の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1)および実施例2の(6)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(8) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって疎→密になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、バックアップモード時、バリアブルラックとテーパプーリの一方のみを適用した場合に比べ、ラック移動部が外側にストロークするときのストローク量をさらに増加させることができる。
実施例6は、転舵角変換機構として、ラック移動部が内側にストロークするときのストローク量を増加させるバリアブルラックとテーパプーリとの両方を共に適用した例である。
すなわち、図15に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって密→疎になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。すなわち、実施例5のテーパプーリ4b’,4b’とバリアブルラック6,6の特性とは、逆の特性を持つテーパプーリ4b’,4b’とバリアブルラック6,6を適用している点で相違する。
次に、作用を説明すると、ラック中心部から操向輪側に向かって密→疎になるバリアブルラック6,6の適用により、左右のラック移動部10a,10bのうち、内側にストロークする移動部のストローク量が大きくなり、外側にストロークするストローク量が小さくなるという作用を示す。この作用は、クラッチ機構3が切り離されているステア・バイ・ワイヤシステムの正常時にも実現される。
そして、クラッチ機構3が締結されるバックアップモード時には、左右の円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’により、左右のラック移動部10a,10bのうち、内側にストロークする移動部のストローク量が大きくなり、外側にストロークするストローク量が小さくなるという作用を示すことで、バリアブルラック6,6でのストローク差動作用との相乗作用により、さらに、ラック移動部が内側にストロークするときのストローク量を増加させることができる。
次に、効果を説明する。
実施例6の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1)および実施例2の(6)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(9) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bをそれぞれ駆動する2つの転舵アクチュエータ5,5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって密→疎になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、バックアップモード時、バリアブルラックとテーパプーリの一方のみを適用した場合に比べ、ラック移動部が内側にストロークするときのストローク量をさらに増加させることができる。
実施例7は、実施例4のシステムにおいて、2つの転舵アクチュエータの1つを省略した例である。
すなわち、図16に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックストロークに対し左右が対称ピッチに構成されたラック&ピニオン6’,6’を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。なお、実施例4に対し2つの転舵アクチュエータ5,5を、1つの転舵アクチュエータ5とした点でのみ構成的に相違する。
次に、作用を説明すると、クラッチ機構3を切り離しての操舵時、左右のピニオンシャフト9,9の一方に設けられた転舵アクチュエータ5により、左側のピニオンシャフト9は直接駆動され、右側のピニオンシャフト9は、テーパプーリ4b’→第3ケーブル4e→テーパプーリ4b’を伝達して駆動される。
次に、効果を説明する。
実施例7の車両用操舵装置にあっては、実施例4の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(10) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックストロークに対し左右が対称ピッチに構成されたラック&ピニオン6’,6’を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、1つの転舵アクチュエータ5のみによる簡単な構成で左右のラック移動部10a,10bを駆動することができる。
実施例8は、実施例5のシステムにおいて、2つの転舵アクチュエータの1つを省略した例である。
すなわち、図17に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって疎→密になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。なお、実施例4に対し2つの転舵アクチュエータ5,5を、1つの転舵アクチュエータ5とした点でのみ構成的に相違する。また、作用的にも実施例5と実施例7の作用と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例8の車両用操舵装置にあっては、実施例5の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(11) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって疎→密になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、1つの転舵アクチュエータ5のみによる簡単な構成で左右のラック移動部10a,10bを駆動することができる。
実施例9は、実施例6のシステムにおいて、2つの転舵アクチュエータの1つを省略した例である。
すなわち、図18に示すように、ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって密→疎になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としている。なお、実施例6に対し2つの転舵アクチュエータ5,5を、1つの転舵アクチュエータ5とした点でのみ構成的に相違する。また、作用的にも実施例6と実施例7の作用と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例9の車両用操舵装置にあっては、実施例6の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(12) ステアリングホイール1を有する操舵部と左右のラック移動部10a,10bを有する転舵部とを連結する機械式バックアップとして、1つの円筒状のプーリ4aと2つの円錐筒状のテーパプーリ4b’,4b’を有するケーブル式バックアップ機構4を備え、前記操舵部に1つのクラッチ機構3を備え、前記転舵部に左右のラック移動部10a,10bを駆動する1つの転舵アクチュエータ5を備え、ラックギヤピッチがラック中心部から操向輪側に向かって密→疎になるバリアブルラック6,6を前記左右のラック移動部10a,10bに備えたステア・バイ・ワイヤ方式としたため、1つの転舵アクチュエータ5のみによる簡単な構成で左右のラック移動部10a,10bを駆動することができる。
実施例10は、実施例2のシステムにおいて、左右のピニオンシャフトにウォームホイールを設け、このウォームホイールに、転舵アクチュエータのウォームギヤと連結シャフトのウォームギヤ部とをそれぞれ接続した例である。
すなわち、実施例10では、図19に示すように、左右のピニオンシャフト9,9には、ウォームホイール9b,9bが設けられている。左右の転舵アクチュエータ5,5は、電動モータであり、このモータの出力軸には、ウォームホイール9b,9bと螺合するウォームギヤ5a,5aが設けられている。また、連結シャフト20の両端には、ウォームホイール9b,9bと螺合するウォームギヤ部20a,20aが形成されている。なお、連結シャフト20は、ケーシング21に設けられたベアリング21a,21aにより両端付近を回動自在に支持されている。
図20は、図19のA矢視図であり、図20に示すように、転舵アクチュエータ5のウォームギヤ5aと、連結シャフト20のウォームギヤ部20aとは、ウォームホイール9bを挟んで対向する位置で、ウォームギヤ9bと螺合している。なお、他の構成は実施例2と同様であるので、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
図21は、実施例2のシステムにおいて、転舵アクチュエータ5,5を左右のピニオンシャフト9,9にそれぞれ設けた例である。この場合、連結シャフト12を保持するためのラックチューブや、連結のガタをなくすため、例えば、図22に示すように、ラックギヤ部21aをピニオンギヤ部9bに押し付けるリテーナなどが必要となる。よって、連結シャフト12をストロークさせるとき、摺動抵抗が大きくなるという問題がある。
また、この連結シャフト12には、左右バリアブルラック6,6の軸力がそのままかかるため、左右バリアブルラック6,6と同等の強度が必要となり、重量増を招くという問題がある。さらに、このシステムでは、連結シャフト12と左右バリアブルラック6,6という2種類のラック&ピニオン機構を持つため、コストも高くなるという問題がある。
これに対し、実施例10では、連結シャフト20のウォームギヤ部20aとピニオンシャフト9のウォームホイール9bとの噛み合いにより、連結シャフト20の両端が支持されているため、ラック&ピニオン機構のようなガタ対策のためのリテーナが不要であり、ウォーム&ウォームホイール(ウォームホイール9bとウォームギヤ部20a)により増加する摺動抵抗が小さく抑えられる。
また、ウォームホイール9bとウォームギヤ部20aのギヤ比により、連結シャフト20にかかるトルクが小さくなるため、単純な構造で小型化が図れ、ウォーム&ウォームホイールにより増加する重量を小さくできる。さらに、ウォームギヤ部20aは、図21のシステムのように軸方向には動作せず、回転動作のみであるため、ラックチューブのようなラックを保持するための大きな構造物を必要とせず、巻き込み防止のために十分な程度のチューブにより保護すればよい。
また、連結シャフト20のウォームギヤ部20aを、転舵アクチュエータ5のウォームギヤ5aと螺合するピニオンシャフト9のウォームホイール9bと接続したため、構成部品が少なく、追加したウォーム&ウォームホイールにより増えるコストを小さく抑えることができる。
次に、効果を説明する。
実施例10の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1),(2)と実施例2の(4)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(13) 左右のピニオンシャフト9,9にウォームホイール9b,9bを設け、これらウォームホイール9b,9bと螺合するウォームギヤ部20a,20aが形成された連結シャフト20を介して左右のピニオンシャフト9,9を連結したため、連結シャフト20により発生する摺動抵抗を小さく抑えることができる。さらに、剛性の高い連結シャフト20による連結機構をウォームホイール9bとウォームギヤ部20aで構成して単純化することにより、作動特性、重量およびコストスペックを良くすることができる。
実施例11は、実施例3のシステムにおいて、左右のピニオンシャフトにウォームホイールを設け、このウォームホイールに、転舵アクチュエータのウォームギヤと連結シャフトのウォームギヤ部とをそれぞれ接続した例である。
すなわち、実施例11では、図23に示すように、ステアリングホイール1が端部に設けられたコラムシャフト7と左右のピニオンシャフト9,9の一方とを一体に形成し、左右のピニオンシャフト9,9にウォームホイール9b,9bを設け、これらウォームホイール9b,9bと螺合するウォームギヤ部20a,20aが形成された連結シャフト20を介して左右のピニオンシャフト9,9を連結している。なお、他の構成は実施例3または実施例10に示したものと同じであるため、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。また、作用的にも実施例3と実施例10の作用と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例11の車両用操舵装置にあっては、実施例1の(1),(2)と実施例3の(5)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
(14) ステアリングホイール1が端部に設けられたコラムシャフト7と左右のピニオンシャフト9,9の一方とを一体に形成し、左右のピニオンシャフト9,9にウォームホイール9b,9bを設け、これらウォームホイール9b,9bと螺合するウォームギヤ部20a,20aが形成された連結シャフト20を介して左右のピニオンシャフト9,9を連結したため、連結シャフト20により発生する摺動抵抗を小さく抑えることができる。さらに、剛性の高い連結シャフト20による連結機構をウォームホイール9bとウォームギヤ部20aで構成して単純化することにより、作動特性、重量およびコストスペックを良くすることができる。
(他の実施例)
以上、本発明の車両用操舵装置を実施例1〜実施例11に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例では、ステア・バイ・ワイヤ式及び直結式のステアシステムへの適用例を示したが、例えば、操舵系の途中位置にステアリングギヤ比を可変に制御する手段を有するステアリングシステムや4輪を転舵する4WSシステム等にも適用することができる。
実施例1の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
従来装置と本発明装置での転舵角作用の対比説明図である。
実施例1装置での転舵角作用説明図である。
実施例1装置でのハンドル角に対する左右ストローク量の絶対値特性図である。
実施例2の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例3の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例4の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例4の車両用操舵装置における操舵側のプーリを示す図である。
実施例4の車両用操舵装置における転舵側のテーパプーリを示す図である。
実施例4の車両用操舵装置における2つのテーパプーリの直径設定関係を示す図である。
実施例4の車両用操舵装置における2つのテーパプーリのプーリ回転数設定関係を示す図である。
実施例4の車両用操舵装置において右切りの場合のケーブル式バックアップ機構の作用説明図である。
従来と本発明のラックストロークの対比関係を示す図である。
実施例5の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例6の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例7の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例8の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例9の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
実施例10の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
図19のA矢視図である。
実施例2のシステムに転舵アクチュエータを2つ設けた車両用操舵装置を示す全体システム図である。
図21のB−B断面図である。
実施例11の車両用操舵装置を示す全体システム図である。
符号の説明
1 ステアリングホイール(操作入力手段)
2 操舵反力アクチュエータ
3 クラッチ機構
4 ケーブル式バックアップ機構
4a 操舵側プーリ
4b 転舵側プーリ
4b’テーパプーリ
4c 第1ケーブル
4d 第2ケーブル
4e 第3ケーブル
5 転舵アクチュエータ
6 バリアブルラック(転舵角変換機構)
6a ラックギヤ部
6b ピニオンギヤ部
7 第1コラムシャフト
8 第2コラムシャフト
9 ピニオンシャフト
10 ステアリングラック軸
10a 左ラック移動部
10b 右ラック移動部