本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、記録用紙などの被記録媒体が駆動ローラと従動ローラとの挟持部から抜け出た直後における被記録媒体の押し出しを防止して、被記録媒体に記録された画像の品質を向上させることが可能なシート搬送装置、及びこれを備えた画像記録装置を提供することにある。
(1) 上記目的を達成するため本発明は、画像記録時にシート状の被記録媒体が載置される水平な第1支持面を有する支持台へ該被記録媒体を搬送するシート搬送装置として構成されている。このシート搬送装置は、第1搬送手段と、回転支持部材と、第1ガイド部材と、第1支持部材と、付勢部材と、第2支持部材とを具備している。第1搬送手段は、駆動ローラ及び該駆動ローラの下方に対向するように配置された従動ローラを有し、上記支持台へ向けて被記録媒体を搬送する。回転支持部材は、上記従動ローラを回転可能に支持する。第1ガイド部材は、上記回転支持部材の搬送方向下流側の端部から上記支持台へ向けて突出されるように上記回転支持部材に設けられている。第1ガイド部材は、搬送される被記録媒体の搬送向きにおける先端を上記支持台に向ける上面を有している。この上面は、上記駆動ローラの軸及び上記従動ローラの軸を含む平面と上記従動ローラにおける上記駆動ローラ側の外周面との交線を通り上記平面に垂直な仮想面と、上記従動ローラの軸の中心を通り上記第1支持面と平行な面と、の間に位置する。第1支持部材は、上記駆動ローラに対して上記従動ローラが接離する方向へ上記回転支持部材を移動可能に支持する。付勢部材は、上記第1支持部材と上記回転支持部材との間に介在されており、上記従動ローラとともに上記回転支持部材を上記駆動ローラ側へ付勢する。第2支持部材は、上記第1支持部材を所定の第1位置と該第1位置よりも搬送方向上流側の第2位置との間で転動可能に支持する。この第2支持部材は、上記第1搬送手段による被記録媒体の搬送時に上記第1支持部材を上記第1位置に転動させ、上記第1搬送手段による被記録媒体の非搬送時に上記第1支持部材を上記第2位置に転動させる。
被記録媒体が第1搬送手段に向けて送給され、その先端が第1搬送手段に到達すると、第1搬送手段の駆動ローラと従動ローラとによって被記録媒体の先端が挟持される。被記録媒体の先端が挟持されると、搬送方向下流側に設定された第1位置側へ第1支持部材を転動させる力が発生する。この力を受けて、第1支持部材が第2位置から第1位置へ転動されて、第1位置で保持される。
被記録媒体の先端が完全に挟持されると、被記録媒体は駆動ローラ及び従動ローラによって所定の圧接力で圧接される。この圧接力は、被記録媒体に対して垂直な方向に作用する。被記録媒体が第1搬送手段によって圧接されると、駆動ローラの回転力が被記録媒体に伝達される。これにより、被記録媒体が支持台へ向けて搬送される。被記録媒体の搬送過程において、例えば、被記録媒体の画像開始位置が支持台上の画像記録位置に到達すると、所定の画像記録手段によって画像記録が行われる。
被記録媒体の搬送が進むと、被記録媒体の後端が第1搬送手段による圧接部から抜け出る。被記録媒体の後端が圧接部から抜け出ようとする際に、被記録媒体に対して垂直方向に作用していた圧接力は、その一部が被記録媒体の搬送方向への成分に分配される。これは、被記録媒体の厚みに起因するものであり、被記録媒体の後端の上側角部に駆動ローラのローラ面が当接し、下側角部に従動ローラのローラ面が当接することにより生じる。
一方、第1支持部材は第2支持部材によって第1位置と第2位置との間で転動可能に支持されている。一般に、剛性の高い物質の転がり摩擦力は極めて小さく、第1支持部材の転がり摩擦力は、被記録媒体と支持台との間に生じる摩擦力より小さい。したがって、上記圧接力の搬送方向成分によって、第1支持部材は第1位置から第2位置へ向けて加速される。なお、被記録媒体が受ける搬送方向下流側への反力は非常に小さい。つまり、付勢部材が記録用紙の厚み分だけ伸びる際に解放される弾性エネルギーの大半は、第1支持部材の運動エネルギーに転換され、被記録媒体を搬送方向下流側へ押し出す仕事に転換されるエネルギーは極めて少ない。したがって、記録用紙が搬送方向下流側へ押し出されることがない。
なお、転がり摩擦係数は滑り摩擦(摺動摩擦)係数に較べて格段に小さく、また、転がり摩擦力は、被記録媒体を搬送方向下流側へ押し出す際に生じる摩擦力と比べても極めて小さい。このような関係があるため、上述したように、被記録媒体の後端が第1搬送手段を抜け出る際に解放される付勢部材の弾性エネルギーのほとんど全てを、第1支持部材を第1位置から第2位置へ転動させる運動エネルギーに転換することができる。
本発明のシート搬送装置においては、被記録媒体の後端が駆動ローラと従動ローラとの圧接部を抜け出る前と抜け出た後とでは、被記録媒体の厚み分だけ従動ローラの上下方向の位置が変動する。したがって、回転支持部材に設けられた第1ガイド部材も、従動ローラの変位に伴って同様に変位する。そのため、如何なる厚みの被記録媒体が搬送されてきても、搬送される被記録媒体の厚みに応じて第1ガイド部材が適切な案内位置に変位される。これにより、被記録媒体の厚みに関係なく、被記録媒体の下面と第1ガイド部材の上端との位置関係を常に一定に保つことができる。つまり、搬送時における被記録媒体の下面と、第1ガイド部材の上端との間隔を常に一定に保つことができる。これにより、例えば、上記間隔を必要最小限の一定値に設定すれば、被記録媒体の後端が上記圧接部を抜け出た際に、第1ガイド部材は、被記録媒体の後端を従動ローラのローラ面に接触しない位置で被記録媒体を支持できる。そのため、従動ローラのローラ面への接触による被記録媒体の押し出しが防止される。また、仮に、被記録媒体の後端が従動ローラのローラ面に接触したとしても、圧接部付近で接触することになるから、被記録媒体を押し出す方向の力は極めて小さいため、 被記録媒体が搬送方向下流側へ押し出されることはない。
(2) 上記第1搬送手段は、上記駆動ローラと上記従動ローラとの圧接部が上記支持台よりも上側となるように配置され、上記支持台の上面に対して被記録媒体を傾斜させて進入させるものである。
この構成によれば、被記録媒体は第1搬送手段によって支持台の上面に押し付けるようにして搬送される。支持台の上面に被記録媒体が押し付けられると、被記録媒体の後端が上方へ反った状態になる。この状態で、被記録媒体の後端が圧接部を抜け出ると、被記録媒体は支持台への押し付けから解放される。このとき、反りが元の状態に戻ろうとして、被記録媒体の後端が勢いづいて下方へ移動する。しかし、第1ガイド部材によって被記録媒体の後端が支持されるため、後端が下方へ移動しても、従動ローラのローラ面に接触することはない。そのため、ローラ面への接触による被記録媒体の押し出しが防止される。
(3) 複数の上記第1ガイド部材が、上記従動ローラの軸方向に沿って並んで配設されている。
この構成により、従動ローラの軸方向、言い換えれば被記録媒体の幅方向に渡って、被記録媒体の後端と従動ローラとの接触を防止することができる。
(4) 本発明のシート搬送装置は、上記回転支持部材に一体に設けられ、上記駆動ローラと上記従動ローラとの圧接部を通るように被記録媒体を案内する第2ガイド部材と、上記第1支持部材に一体に設けられ、上記搬送方向に対して上記従動ローラの軸を位置決めする位置決め部材と、を具備する。
この構成では、従動ローラの軸が位置決め部材で位置決めされている。したがって、上記圧接力の搬送方向成分の力は、従動ローラから位置決め部材を介して第1支持部材に直接伝達される。そのため、第1支持部材の第2位置への転動タイミングが装置間でばらつくことはない。また、一つの装置に複数の従動ローラが設けられている場合は、各装置間において転動タイミングがばらつくことはない。
このように構成されたシート搬送装置では、圧接部で被記録媒体が圧接されているときと圧接されていないときとでは、被記録媒体の厚み分だけ従動ローラの圧接方向(駆動ローラと従動ローラとを結ぶ線分方向)の位置が変動する。従動ローラは回転支持部材に直接支持されており、回転支持部材は第1支持部材に付勢部材を介して支持されているため、従動ローラが変位すると、回転支持部材も変位し、この回転支持部材に設けられた第2ガイド部材も同様に変位する。したがって、従動ローラや回転支持部材に対する第2ガイド部材の相対位置は、搬送される被記録媒体の厚みに関係なく、常に一定となる。また、第2ガイド部材は、第1支持部材、第2支持部材、及び転がり軸受けぞれぞれの寸法公差に影響を受けない。換言すると、従動ローラ、従動ローラの軸、及び回転支持部材の寸法公差のみしか影響を受けない。そのため、寸法公差による第2ガイド部材の位置のばらつきを小さくすることができる。その結果、搬送時における被記録媒体の下面と第2ガイド部材の上端との間隔を高い精度で一定に保つことができる。これにより、第1支持部材、第2支持部材、及び転がり軸受けぞれぞれの寸法公差の累積による従動ローラの露出のばらつきや、駆動ローラと従動ローラと搬送方向の間隔のばらつきに起因する被記録媒体の斜行や詰まりが防止される。
(5) 上記位置決め部材は、上記第1支持部材に突設され、上記駆動ローラの軸方向に隔てられた少なくとも2つの支持リブと、上記支持リブの突出端に形成され、上記従動ローラの軸が挿入される溝とからなることが好ましい。
(6) 上記第2ガイド部材は、上記回転支持部材の上記搬送方向上流側の上面に設けられ、上記圧接部へ被記録媒体を案内するものであることが好ましい。
(7) 上記従動ローラの軸が、上記回転支持部材に一体に設けられていることが好ましい。
これにより、第2ガイド部材は、従動ローラの軸と従動ローラとの取付ガタのみの影響を受けるだけなので、第2ガイド部材の位置のばらつきをより小さくすることができる。
(8) また、上記従動ローラの軸が、上記従動ローラと一体に設けられていてもよい。
これにより、軸と従動ローラとのガタがなくなるため、第2ガイド部材は、従動ローラの軸と回転支持部材の支持部との取付ガタのみの影響を受けるだけなので、第2ガイド部材の位置のばらつきをより小さくすることができる。
(9) 上記第2ガイド部材は、上記搬送方向に延出されている。
これにより、被記録媒体の先端が第2ガイド部材に当接することで、被記録媒体が搬送方向へ導かれる。
(10) 上記第2ガイド部材は、上記従動ローラの軸方向に沿って並んで配設され、上記搬送方向に延びる複数のリブを有する。
これにより、第2ガイド部材と被記録媒体との接触面が小さくなり、被記録媒体をリブ上を滑るようにして円滑に圧接部に案内される。
(11) 本発明のシート搬送装置は、上記第1搬送手段よりも搬送方向下流側に隔てられ、上記第1搬送手段によって搬送された被記録媒体を更に搬送方向下流側へ搬送する第2搬送手段を備えることが好ましい。
これにより、第1搬送手段を通過した被記録媒体の先端が第2搬送手段に到達すると、第1搬送手段及び第2搬送手段の双方によって被記録媒体が搬送される。また、被記録媒体の後端が第1搬送手段を抜けた後は、第2搬送手段のみによって被記録媒体が搬送方向下流側へ搬送される。
(12) 上記第2支持部材は、上記第1支持部材を支持する第2支持面と、上記第1位置で上記第1支持部材の転動を規制する第1規制部材と、上記第2位置で上記第1支持部材の転動を規制する第2規制部材とを有してなる。
この構成によれば、簡易な構造で上記第1支持部材の支持、及び、第1支持部材の転動の規制が可能となる。その結果、従動ローラの支持構造が簡単になる。
(13) 上記第2支持部材は、転がり軸受けを介して上記第1支持部材を転動可能に支持するものが好ましい。
この構成によれば、上記第1支持部材の支持機構を簡単な構成で実現するとともに、転動にかかる摩擦抵抗を小さくすることが可能になる。
(14) 上記転がり軸受けは、上記第2支持部材の上記第2支持面に形成された複数の凹部と、上記凹部に収容された回転体と、上記凹部に上記回転体が収容された状態で、上記第2支持部材に上記第1支持部材が支持された際に上記回転体の周面に当接される上記第1支持部材の被支持部とからなる。
この構成によれば、第1支持部材と第2支持部材との間に介在される部材は回転体だけなので、転がり軸受けの構成を簡素化できる。また、第1支持部材の転動と支持の双方を簡単な構造で実現することができ、更に、第1支持部材を支持する際の安定性を向上させることができる。
(15) 上記第2支持部材は、上記第1支持部材が上記第1位置から上記第2位置に転動するに従って、上記第1支持部材と上記駆動ローラとの相対位置が離反するように上記第1支持部材を支持するものである。
このように構成されているため、付勢部材による付勢力には第1支持部材を搬送方向上流側へ転動させる方向の力の成分が発生する。これにより、第1支持部材が第2位置へ転動して、該第2位置で保持される。被記録媒体の先端が第1搬送手段に到達すると、従動ローラは、被記録媒体の先端を挟持する際に力を受ける。この力が上記付勢力の上流側方向成分と転がり摩擦との和よりも大きい場合は、第1支持部材が第2位置から第1位置へ転動する。上記第1搬送手段によって、一旦、被記録媒体が搬送されると、従動ローラと該従動ローラの軸との間に生じる滑り摩擦力、及び被記録媒体の剛性による変形抵抗によって、第1支持部材は第1位置に保持される。一方、被記録媒体の後端が第1搬送手段による圧接部から抜け出た瞬間において、被記録媒体と従動ローラの接触角度が変化するので、付勢力の搬送方向成分が大きくなる。この付勢力の搬送方向成分は、上記滑り摩擦と転がり摩擦とを合わせたものよりも大きい。また、この時点では、被記録媒体の剛性による変形抵抗は、第1支持部材の転動を妨げる向きに働かない。そのため、被記録媒体の後端が第1搬送手段の圧接部から抜け出た瞬間に、自動的に、第1支持部材が第1位置から第2位置へ転動する。なお、上記第1支持部材と上記駆動ローラとの相対位置が離反する度合いは、第1支持部材や駆動ローラ、従動ローラなどに生じる摩擦力、付勢部材による付勢力などによって適宜設定される。
この場合、この一連の過程において、被記録媒体が受ける搬送方向下流側への反力は、たかだか上記滑り摩擦と転がり摩擦、及び第1部材の加速力を合わせたものにしかならない。この力は、被記録媒体を搬送方向下流側に動かすのに必要な摩擦力と比べて小さくなるように設計することが可能であるため、被記録媒体の微少な押し出しをも防止することができる。
(16) 上記第2支持部材が、上記駆動ローラの軸と平行な公転中心線を中心にして、上記第1支持部材を転動させることが好ましい。
この場合、上記公転中心線が、上記駆動ローラの軸と上記第1位置に上記第1支持部材があるときの上記従動ローラの軸とを含む平面から第2位置側に位置することが好ましい。
(17) 上記公転中心線が、上記駆動ローラの軸と上記第1位置に上記第1支持部材があるときの上記従動ローラの軸とを含む平面から第2位置側に位置することが望ましい。
(18) また、上記公転中心線が、上記駆動ローラの軸と上記第1位置に上記第1支持部材があるときの上記従動ローラの軸とを含む平面上に位置するものであってもよい。
(19) 上記第2支持部材の上記第2支持面が、上記公転中心線を中心として描かれる所定の円筒の外周面と略一致する形状に形成されてなるものであれば、上記公転中心線を中心とする第1支持部材の転動を容易に実現することができる。
(20) 上記第2支持部材は、上記回転支持部材が支持された複数の第1支持部材を上記駆動ローラの軸方向に沿って支持するものであってもよい。
この構成によれば、複数の従動ローラの転動を同期させることができ、被記録媒体の縒れや皺、或いは搬送ずれなどといった不具合を防止することができる。
(21) また、本発明は、上述のいずれかに記載のシート搬送装置と、上記シート搬送装置によって搬送される被記録媒体に対してインクジェット記録方式に基づく画像記録を行う記録ヘッドとを具備する画像記録装置として捉えることもできる。
このような画像記録装置であれば、画像記録中に、被記録媒体の後端が従動ローラのローラ面に接触して被記録媒体が押し出されることがない。これにより、被記録媒体の記録画像中におけるバンディングの発生を防止することができる。また、画像記録中における記録用紙の詰まりや斜行などの搬送不良を防止して、記録画像の品質を向上させることができる。
本発明によれば、被記録媒体の後端が駆動ローラと従動ローラとの圧接部を抜け出た直後における被記録媒体の押し出しを防止することができる。また、画像記録装置において、記録画像におけるバンディングの発生を防止することができる。更にまた、画像記録中における記録用紙の詰まりや斜行などの搬送不良を防止して、記録画像の品質を向上させることができる。
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は本発明が具体化された一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態が適宜変更され得ることは勿論である。
〈図面の説明〉
図1は、本発明の実施形態に係る多機能装置1の外観構成を示す斜視図である。図2は、多機能装置1の内部構成の概略を示す模式断面図である。図3は、搬送ローラ対54の周辺の構成を示す部分断面図である。図4は、プリンタ部2の主要構成を示す平面図である。図5は、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57によって支持された状態を示す斜視図である。図6は、ホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の分解図である。図7は、ピンチローラ48の回転軸65の支持部を示す拡大詳細図である。図8は、ピンチローラホルダ56の移動範囲を説明する部分拡大図であり、(A)にはピンチローラホルダ56が後退位置(第2位置)に位置する状態が示されており、(B)にはピンチローラホルダ56が搬送位置(第1位置)に位置する状態が示されている。図9は、記録用紙を搬送する際の搬送ローラ対54の断面図であり、(A)には記録用紙98を挟持搬送する状態が示されており、(B)には記録用紙99を挟持搬送する状態が示されている。図10は、ピンチローラホルダ56の移動範囲を説明する部分拡大図である。図11は、中心Oを原点とするXY座標における駆動ローラ47及びピンチローラ48の断面を表した模式図である。図12は、図11において記録用紙を挟持している様子を示す模式図である。図13は、従来のシート搬送装置210の構成を示す模式図である。図14は、従来のシート搬送装置210の搬送ローラ対203の拡大図である。
〈多機能装置1の概略〉
図1に示されるように、本実施形態に係る多機能装置1は、下部に配設されたインクジェット記録方式のプリンタ部2(本発明の画像記録装置の一例)と、その上部に配設されたスキャナ部3とを一体的に備えたものである。この多機能装置1は、プリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能、ファクシミリ機能などを有する。本発明のシート搬送装置は、プリンタ部2において、記録用紙(被記録媒体)を画像記録位置まで搬送する機構として具現化されている。なお、本実施形態では、複数の機能を備えた多機能装置1について説明するが、例えば、プリンタ部2のみから構成される所謂プリンタが本発明の画像記録装置として実施されてもかまわない。
プリンタ機能は、不図示のコンピュータから送信された画像データや文書データに基づいて、プリンタ部2が記録用紙に画像や文書を記録する機能である。また、スキャナ機能は、スキャナ部3により読み取られた原稿の画像データを当該装置と有線或いは無線で接続されたコンピュータに転送する機能である。なお、読み取られた画像データをメモリカード等の各種記憶媒体に転送して記憶させることもできる。コピー機能は、スキャナ部3によって読み取られた画像データをプリンタ部2が記録用紙に記録する機能である。ファクシミリ機能は、スキャナ部3により読み取られた画像データを電話回線などを通じてファクシミリ送信する機能である。なお、受信されたファクシミリデータは、プリンタ部2によって記録用紙に記録される。
図1に示されるように、多機能装置1の外観は、高さより横幅及び奥行きが大きい幅広で薄型の直方体に概ね形成されている。多機能装置1の下部のプリンタ部2は、該プリンタ部2のフレームを構成する筐体10を有する。筐体10の前面には開口12が形成されている。開口12の内部には、記録用紙が収容される給紙トレイ20と、画像記録済みの記録用紙が排出される排紙トレイ21とが上下2段に設けられている。筐体10の内部にはリフィルユニットが設けられており、インクを貯留しておくインクカートリッジは上記リフィルユニットに着脱可能に装填されている。なお、リフィルユニット及びインクカートリッジは筐体10内に内蔵されているため、図1には表れていない。
多機能装置1の前面上部には、プリンタ部2やスキャナ部3を動作させるための操作パネル9が設けられている。操作パネル9は、各種操作ボタンや液晶ディスプレイが適宜配設されて構成されている。多機能装置1は、操作パネル9から入力された指示(指示信号)に基づいて動作される。多機能装置1が外部のコンピュータに接続されている場合には、該コンピュータからプリンタドライバ又はスキャナドライバを介して送信される指示(指示信号)に基づいても多機能装置1は動作される。
スキャナ部3は、所謂フラットベッドスキャナ(FBS:Flatbed Scanner)として機能する原稿読取台5を備えている。この原稿読取台5に対して原稿カバー7が装置背面側の蝶番を介して開閉自在に設けられている。原稿読取台5の上面にコンタクトガラスが設けられている。このコンタクトガラスに、読取対象である原稿が載置される。コンタクトガラスの下側には、CIS(Contact Image Sensor)が配設されている。このCISは、多機能装置1の奥行き方向を主走査方向とするものであり、多機能装置1の幅方向に往復動可能に設けられている。なお、本発明では、スキャナ部3は任意の構成であり、本発明に直接関係しないので、本明細書においてはスキャナ部3に関する詳細な説明は省略される。
〈プリンタ部2の概略構成〉
プリンタ部2は、インクジェット記録方式にしたがって記録用紙に画像を記録する。本実施形態のプリンタ部2は、4色のインク、すなわち、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)の各色インクを用いてカラー画像或いはモノクロ画像を記録用紙に記録する。図2に示されるように、プリンタ部2は、給紙装置13、搬送装置14(本発明のシート搬送装置に相当)、画像記録ユニット24を備える。
プリンタ部2の底面に給紙トレイ20が設けられている。給紙トレイ20に複数の記録用紙が積載状に収容されている。給紙トレイ20に積載された記録用紙は、給紙装置13によって一枚ずつ取り出されて用紙搬送路23へ送給される。
給紙トレイ20の奥側(図2の右側)には、装置背面側へ傾斜した分離傾斜板22が配設されている。分離傾斜板22は、給紙トレイ20から送り出された記録用紙を分離して上方へ案内する役割を果たす。分離傾斜板22から上方へ向かって用紙搬送路23が形成されている。用紙搬送路23は、断面視で略横向きのU字形状に形成されている。具体的には、分離傾斜板22から上方へ延びた後に、左方へ湾曲し、多機能装置1の背面側から正面側へと延設され、さらに、画像記録ユニット24を通過して排紙トレイ21へ通じている。したがって、給紙トレイ20に収容された記録用紙は、用紙搬送路23により下方から上方へUターンするように案内されて画像記録ユニット24に至り、画像記録ユニット24により画像記録が行われた後、排紙トレイ21に排出される。
図2に示されるように、用紙搬送路23には、画像記録ユニット24が設けられている。画像記録ユニット24は、インクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」と略称する)30と、この記録ヘッド30を搭載して主走査方向(図2の紙面に垂直な方向)へ往復動するキャリッジ31とを備えている。記録ヘッド30は、プリンタ部2の内部に設けられたインクカートリッジからインクチューブ33(図4参照)を通じてシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)の各色インクが供給され、各色インクを微小なインク滴として選択的に吐出する。キャリッジ31が往復動される間に、記録ヘッド30からインク滴が選択的に吐出されることにより、プラテン34(本発明の支持台に相当)上を搬送される記録用紙に対して画像記録が行われる。
図4に示されるように、プリンタ部2の内部には、一対のガイドレール43,44が設けられている。ガイドレール43,44は、記録用紙の搬送方向(図4の上下方向)と直交する方向(図4の左右方向)に延設されている。一対のガイドレール43,44は、用紙搬送路23の上側において記録用紙の搬送方向に所定距離を隔てられている。ガイドレール43,44を跨ぐようにしてキャリッジ31が設けられている。キャリッジ31は、記録用紙の搬送方向と直交する水平方向へ移動可能に設けられている。記録用紙の搬送方向上流側(以下「上流側」と略称する。)に配設されたガイドレール43は、用紙搬送路23の幅方向の長さがキャリッジ31の往復動範囲より長い平板状のものである。ガイドレール43の搬送方向下流側(以下「下流側」と略称する。)の上面がガイド面43Aであり、ガイド面43Aがキャリッジ31の上流側の端部を摺動可能に支持する。
ガイドレール44は、用紙搬送路23の幅方向の長さがガイドレール43とほぼ同じ長さの平板状のものである。ガイドレール44において、上流側の縁部45は、上方へ向かって略直角に曲折されている。ガイドレール44の下流側の上面がガイド面44Aであり、ガイド面44Aがキャリッジ31の下流側の端部を摺動可能に支持する。また、キャリッジ31は、図示されていないローラ等により縁部45を挟持する。これにより、キャリッジ31が、ガイドレール43,44のガイド面43A,44A上に摺動自在に担持され、ガイドレール44の縁部45を基準として、記録用紙の搬送方向と直交する水平方向に往復動可能となる。
ガイドレール44の上面には、ベルト駆動機構46がガイドレール44に沿って設けられている。ベルト駆動機構46は、用紙搬送路23の幅方向の両端付近にそれぞれ設けられた駆動プーリ35と従動プーリ36との間に、内側に歯が設けられた無端環状のタイミングベルト32が張り渡されたものである。駆動プーリ35の軸に図示しないモータの回転軸が連結されている。上記モータから駆動プーリ35の軸に駆動力が入力されることにより、駆動プーリ35が回転されて、タイミングベルト32が周運動される。タイミングベルト32にキャリッジ31が連結されることにより、ベルト駆動機構46の動作に基づいてキャリッジ31が縁部45を基準としてガイドレール43,44上を往復動される。キャリッジ31に記録ヘッド30が搭載されることにより、記録ヘッド30が、用紙搬送路23の幅方向を主走査方向として往復動可能となっている。
図2乃至図4に示されるように、用紙搬送路23の下側には、記録ヘッド30に対向するように配置されたプラテン34が設けられている。プラテン34は、その底面から鉛直上方へ立設された複数のリブ94により構成されている。リブ94は、記録用紙の搬送方向(図4の上下方向)に沿って延びる細幅の板状部材であり、装置の幅方向(搬送方向に直交する方向)に所定間隔を隔てて複数設けられている。このリブ94は、プラテン34の上流側の端部まで延設されている。図4では、プラテン34の上面のほぼ全域にリブ94が形成されているが、例えば、プラテン34の上流側の端部にのみリブ94が形成されていてもよい。
プラテン34の上面、即ち、複数のリブ94の頂部で形成される面が記録用紙の支持面である。プラテン34に搬送された記録用紙は、複数設けられたリブ94の頂部で支持される。プラテン34の上面(本発明の第1支持面に相当)は水平に形成されている。したがって、プラテン34に搬送された記録用紙は水平に支持される。プラテン34は、キャリッジ31の往復動範囲のうち、記録用紙が通過する中央部分に渡って配設されている。プラテン34の幅は、搬送可能な記録用紙の最大幅より十分に大きいものであり、記録用紙の両端は常にプラテン34の上を通過する。
図3に示されるように、上記リブ94の上流側の端部95には、傾斜面96が形成されている。傾斜面96は、記録用紙が支持されるリブ94の頂部から上流側に向けて下方へ傾斜している。この傾斜面96は、プラテン34に搬送された記録用紙の先端をプラテン34の上面に円滑に案内するよう作用する。
図2に示されるように、用紙搬送路23に搬送装置14が配設されている。搬送装置14は、搬送ローラ対54(本発明の第1搬送手段に相当)と排出ローラ対55とを有する。搬送ローラ対54は、画像記録ユニット24よりも上流側に配置されている。排出ローラ対55は、搬送ローラ対54よりも下流側であって、画像記録ユニット24よりも更に下流側に配置されている。図3に、搬送ローラ対54の周辺の断面構造が示されている。なお、図3では、画像記録ユニット24や筐体10、排出ローラ対55などの図示が省略されている。
搬送ローラ対54は、駆動ローラ47(本発明の駆動ローラに相当)と、該駆動ローラ47に対向するように配置されたピンチローラ48(本発明の従動ローラに相当)とからなる。本実施形態では、ピンチローラ48は、駆動ローラ47の下方に配置されている。図3に示されるように、ピンチローラ48は、ピンチローラホルダ56(本発明の第1支持部材に相当)及び補助ホルダ110(本発明の回転支持部材に相当)によって回転可能に支持されている。ピンチローラ48の支持機構については後段で詳細に述べるが、本実施形態では、ピンチローラ48が駆動ローラ47に対して所定の付勢力で弾性的に押圧するよう支持されている。そのため、ピンチローラ48は駆動ローラ47に圧接されている。駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部(本発明の圧接部に相当)に記録用紙が進入すると、ピンチローラ48は記録用紙の厚み分だけ下方へ退避して該記録用紙を駆動ローラ47とともに挟持する。これにより、駆動ローラ47の回転力が確実に記録用紙へ伝達される。記録用紙は、駆動ローラ47及びピンチローラ48によって挟持されつつ、プラテン34へ向けて搬送される。
なお、本実施形態では、ピンチローラホルダ56は、装置の筐体10を形成する内部フレームに取り付けられたホルダ支持部材57(本発明の第2支持部材に相当)によって記録用紙の搬送方向に転動可能に支持されている。このような転動支持機構が採用されることにより、搬送ローラ対54の挟持部に記録用紙の先端が進入すると、ピンチローラホルダ56は、ピンチローラ48とともに、図8(A)に示される上流側の後退位置(第2位置)から図8(B)に示される下流側の搬送位置(第1位置)まで転動する。また、搬送ローラ対54の挟持部から記録用紙の後端が抜け出ると、ピンチローラホルダ56は、ピンチローラ48とともに、下流側の上記搬送位置から上流側の上記後退位置まで転動する。なお、ホルダ支持部材57及びピンチローラホルダ56の構成、ピンチローラホルダ56やピンチローラホルダ56の支持機構、ピンチローラホルダ56の転動の仕組みについては後段で詳細に説明する。
また、本実施形態では、搬送ローラ対54が記録用紙をプラテン34の上面へ向けて押し付けるようにして斜め上方から搬送することができるように、駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部がプラテン34の上面よりも上側となるように駆動ローラ47及びピンチローラ48が配置されており、更に、ピンチローラ48は、後述するピンチローラホルダ56の転動位置にかかわらず、駆動ローラ47よりも上流側に配置されている。
搬出ローラ対55は、駆動ローラ49と拍車ローラ50とからなる。拍車50は、該駆動ローラ49の上方に対向するように設けられている。拍車50は、駆動ローラ49に圧接されている。駆動ローラ49及び拍車ローラ50によって、記録済みの記録用紙が挟持されて、更に下流側へ搬送される。拍車50も駆動ローラ49に対して上記ピンチローラ48と同様に圧接可能に付勢されたものであるが、拍車50は記録済みの記録用紙と圧接されるため、記録用紙に記録された画像を劣化させないようにローラ面が拍車状に凹凸に形成されている。
駆動ローラ47は、該駆動ローラ47の軸方向の一端に連結されたプーリにモータからの駆動力が伝達されて回転される。また、駆動ローラ49は、駆動ローラ47の上記プーリから図示しない伝達機構を介して駆動力が伝達されて回転される。したがって、これら各駆動ローラ47,49の回転は同期されている。また、駆動ローラ47,49それぞれの外径は同じサイズに形成されている。そのため、各ローラは同じ周速度で回転する。
本実施形態では、駆動ローラ47の回転位置や回転数が、駆動ローラ47の一端に取り付けられた図示しないロータリーエンコーダによって監視される。上記ロータリーエンコーダの検出信号に基づいて上記モータの回転が制御されることにより、駆動ローラ47及び駆動ローラ49が連続回転或いは間欠回転される。これにより、記録用紙が必要に応じて連続搬送され、或いは、所定の改行幅ずつ間欠搬送される。なお、ロータリーエンコーダは、例えば、駆動ローラ47に設けられたエンコーダディスクと、このエンコーダディスクに対向配置されたフォトインタラプタとにより構成することが可能である。
記録用紙がプラテン34上に搬送されると、記録用紙は、搬送ローラ対54によって、所定の改行幅でプラテン34上を間欠して搬送される。その改行毎に記録ヘッド30が走査されて、記録用紙の先端側から画像記録が行われる。画像記録が行われた記録用紙の先端側は、排出ローラ対55の駆動ローラ49及び拍車ローラ50に挟持される。つまり、記録用紙はその先端側を駆動ローラ49及び拍車ローラ50に挟持され、後端側を駆動ローラ47及びピンチローラ48に挟持される。
さらに記録用紙が搬送されると、記録用紙の後端が搬送ローラ対54の挟持部から抜け出して、駆動ローラ47及びピンチローラ48による挟持から開放される。つまり、記録用紙は、排出ローラ対55のみに挟持されて所定の改行幅で間欠して搬送される。記録用紙の所定領域に画像記録が行われた後は、駆動ローラ49が連続的に回転駆動される。これにより、駆動ローラ49及び拍車ローラ50により挟持された記録用紙が排紙トレイ21へ排出される。なお、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48による挟持から開放されると、ピンチローラホルダ56が図8(B)に示される下流側の搬送位置(第1位置)から図8(A)に示される上流側の後退位置(第2位置)へ向けて転動される。
〈ピンチローラ48の支持機構の構成〉
以下、ピンチローラ48の支持機構について詳細に説明する。ピンチローラ48の支持機構は、ホルダ支持部材57、転がり軸受け80(本発明の転がり軸受けに相当)、ピンチローラホルダ56、補助ホルダ110、コイルバネ61(本発明の付勢部材に相当)、及びピンチローラ48によって構成されている。
〈ホルダ支持部材57〉
図5及び図6に示されるように、ホルダ支持部材57は長尺状に形成されている。ホルダ支持部材57は、ポリスチレン樹脂(PS)に代表される合成樹脂で構成されている。このホルダ支持部材57は、転がり軸受け80、ピンチローラホルダ56、補助ホルダ110、コイルバネ61、及びピンチローラ48を支持する土台の役割を果たす。ホルダ支持部材57は、プリンタ部2の内部において、その長手方向131が駆動ローラ47の軸方向に一致し、その短手方向132が記録用紙の搬送方向に一致するように配置される。より詳細には、ホルダ支持部材57は、短手方向132の一方側の側面133を下流側へ向け、他方側の側面134を上流側へ向けて配置される。本実施形態では、4つのホルダ支持部材57が、駆動ローラ47の軸方向へ横並びに一直線上に配置されており、各ホルダ支持部材57それぞれに、ピンチローラホルダ56や補助ホルダ110、ピンチローラ48などの部材が支持されている。なお、以下においては、説明の便宜上、1つのホルダ支持部材57及びこのホルダ支持部材57に支持される各部材の構成について説明する。
ホルダ支持部材57は、プリンタ部2を構成するフレームに固定される。具体的には、ホルダ支持部材57の側面134に設けられた突出状の2つの爪136が上記フレームの図示しない係合溝に嵌め入れられることにより、ホルダ支持部材57が位置決めされる。側面133には、その下端から下流側へ延びる取付座138が設けられている。ホルダ支持部材57がフレームに対して位置決めされた状態で、取付座138に設けられた貫通孔137にネジがねじ込まれると、取付座138がフレームに螺着される。これにより、ホルダ支持部材57がフレームに固定される。
ホルダ支持部材57の上面には、凹陥部139が設けられている。この凹陥部139の底面69(本発明の第2支持面に相当)に転がり軸受け80を介してピンチローラホルダ56を転動可能に支持される。なお、凹陥部139の底面69の実際の形状は、転がり軸受け80やピンチローラホルダ56を支持する機構上、凸凹形状に形成されているが、本明細書においては、特に言及しない限り、ホルダ支持部材57を上側から見た平面図に現れる凹陥部139内の面を「凹陥部139の底面69」と定義する。
凹陥部139の底面69の両端には、係合溝67が形成されている。この係合溝67は、ピンチローラホルダ56に設けられた後述する突出片68と係合する。ホルダ支持部材57の短手方向132における係合溝67の長さは、同短手方向132における突出片68の延設長さより十分長い。後述するように、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57に短手方向132へ移動可能に支持されると、突出片68が係合溝67と係合される。このとき、ピンチローラホルダ56の移動範囲は、係合溝67内において突出片68が移動し得る範囲に規制される。
〈転がり軸受け80〉
転がり軸受け80は、凹陥部139の底面69に設けられた凹部141と、該凹部141に収容されたローラ143(本発明の回転体に相当)とによって構成されている。凹陥部139の底面69には、4つの凹部141が設けられている。ローラ143は、摺動性の高い樹脂などによって円筒状に形成されており、各凹部141それぞれに一つずつ収容される。詳細には、ローラ143は、その軸がホルダ支持部材57の長手方向131に一致するように凹部141内に収容される。凹部141の深さは、概ね、ローラ143の半径程度のサイズに形成されている。したがって、凹部141にローラ143が収容された状態で、ローラ143のローラ面が底面69から露出される。また、凹部141の短手方向132の長さは、少なくとも、ローラ143の直径より大きいサイズに形成されている。このようなサイズに凹部141が形成されているため、凹部141にローラ143が収容された状態で、凹陥部139の底面69にピンチローラホルダ56が載置されると、ピンチローラホルダ56が凹陥部139の底面69に沿って転動可能となる。
なお、本実施形態では、ピンチローラホルダ56を転動可能に支持する転がり軸受け80として、ホルダ支持部材57の底面に凹部141を設け、その凹部141にローラ143を収容させる構成を採用しているが、例えば、ピンチローラホルダ56の底面に凹部141と同様の凹部を設け、この凹部とホルダ支持部材57の底面69との間でローラ143を収容する構成を採用してもよい。また、上述した転がり軸受け80に代えて、ホルダ支持部材57の底面69とピンチローラホルダ56の底面との間に、周知のローラベアリングやボールベアリングを組み込む構成を採用してもかまわない。要するに、ピンチローラホルダ56をホルダ支持部材57で転動可能に支持する機構は、上述の転がり軸受け80に限定されず、ホルダ支持部材57とピンチローラホルダ56との間に発生する摩擦力が十分に小さくなるような転動支持機構であれば、如何なる構成の転動支持機構であっても採用することが可能である。
〈ピンチローラホルダ56〉
図5及び図6に示されるように、ピンチローラホルダ56は、ホルダ支持部材57と同様に、長尺状に形成されている。ピンチローラホルダ56は、ポリアセタール樹脂(POM)などの合成樹脂で構成されている。本実施形態では、後述する補助ホルダ110、コイルバネ61、ピンチローラ48、及びその回転軸65がピンチローラホルダ56に組み付けられて、一つのアッセンブリ(組立体)を構成し、このアッセンブリがホルダ支持部材57の凹陥部139内で支持される。
ピンチローラホルダ56は、ホルダ支持部材57の凹陥部139内に収容される。詳細には、ピンチローラホルダ56は、凹陥部139内において、その長手方向131が駆動ローラ47の軸方向に一致し、その短手方向132が記録用紙の搬送方向に一致するように配置される。
ピンチローラホルダ56の上側、つまり、駆動ローラ47と対向する側には、コイルバネ61を介して後述する補助ホルダ110が支持される。
ピンチローラホルダ56の長手方向131の両端それぞれには、切り欠き76が形成されている。切り欠き76は、平面視で略矩形状に形成されている。これら切り欠き76に、後述する補助ホルダ110の支持アーム111が挿入される。切り欠き76の短手方向132の両側には、掛止リブ70が設けられており、支持アーム111が挿通された際に支持アーム111のフック113が掛止リブ70に掛止される。
ピンチローラホルダ56には、2つのバネ収容室62が設けられている。各バネ収容室62は、各切り欠き76よりも長手方向131の内側に隣接して設けられている。バネ収容室62にコイルバネ61が収容される。これにより、ピンチローラホルダ56において、コイルバネ61が位置決めされる。なお、このコイルバネ61は、所謂圧縮バネとして用いられ、ピンチローラ48の回転軸65を駆動ローラ47側へ押圧可能なバネ長さ及びバネ力を備える。なお、コイルバネ61に代えて板バネやゴムなどの弾性部材を付勢手段として用いてもかまわない。
バネ収容室62よりも長手方向131の内側には、上端に溝78(本発明の溝に相当)を有する位置決めリブ77(本発明の位置決め部材、支持リブに相当)が設けられている。位置決めリブ77は、ピンチローラホルダ56の上面に立設されている。溝78は、位置決めリブ77の上端から上下方向に深く切り込まれて形成されており、側面視で略U字状に形成されている。位置決めリブ77は、ピンチローラ48を短手方向132に位置決めするためのものである。具体的には、後述する補助ホルダ110がピンチローラホルダ56に取り付けられ、更に補助ホルダ110にピンチローラ48の回転軸65が支持された状態で、回転軸65が位置決めリブ77の溝78に挿通されることで、該回転軸65が短手方向132に位置決めされる(図7参照)。位置決めリブ77による回転軸65の位置決め精度は、溝78のサイズと回転軸65のサイズとによって決定される。
ピンチローラホルダ56の底面の長手方向131の中央に、突出片83が設けられている。突出片83は、ホルダ支持部材57の凹陥部139の底面69に形成された係合溝84(図6参照)に挿入されて係合する。突出片83は、ピンチローラホルダ56の底面から下方に突出する細幅形状に形成されている。突出片83及び係合溝84は、短手方向132へ長い形状に形成されている。突出片83が係合溝84に挿入されることで、ホルダ支持部材57においてピンチローラホルダ56が長手方向131に位置決めされる。また、ピンチローラホルダ56の移動範囲が短手方向132、即ち記録用紙の搬送方向へ規制される。
ピンチローラホルダ56の下流側の側面74には、該側面74に対して略垂直方向に突出する第1ガイドリブ75が設けられている。詳細には、第1ガイドリブ75は、図5に示されるように、ピンチローラホルダ56の下流側に設けられたプラテン34へ向けて突出するように側面74に設けられている。第1ガイドリブ75はピンチローラホルダ56と一体に成形されている。また、第1ガイドリブ75は、ピンチローラ48の軸方向、即ち、ピンチローラホルダ56の長手方向に複数設けられている。具体的には、側面74の長手方向131の両端それぞれに1つずつ設けられている。
第1ガイドリブ75の上面は、該第1ガイドリブ75に向けて記録用紙が搬送された場合にその先端をプラテン34側へ向ける役割を果たすガイド面を構成する。この第1ガイドリブ75の上面は平坦であり、ピンチローラホルダ56が第1位置にあるときにプラテン34の上面と概ね水平に形成されている。なお、ピンチローラホルダ56が第1位置以外の位置(第1位置から第2位置に至るいずれかの位置)にあるときは、第1ガイドリブ75は、プラテン34の上面に対して下る向きに傾斜している。
〈補助ホルダ110〉
ピンチローラホルダ56の上側に補助ホルダ110が取り付けられる。補助ホルダ110は、ピンチローラホルダ56及びホルダ支持部材57と同様に、長尺状に形成されている。補助ホルダ110は、ポリアセタール樹脂(POM)などの合成樹脂で構成されている。補助ホルダ110は、その長手方向131が駆動ローラ47の軸方向に一致するようにしてピンチローラホルダ56に取り付けられる。
補助ホルダ110の長手方向131の両端それぞれに、支持アーム111が設けられている。各支持アーム111は、ピンチローラホルダ56において補助ホルダ110を上下方向、つまり、駆動ローラ47に接離する方向へ移動可能に支持する部材である。支持アーム111は、補助ホルダ110の下面から下方へ延出された2本のロッド112を有し、各ロッド112それぞれの先端には、短手方向132の外向きへ突出するフック113が設けられている。各支持アーム111がピンチローラホルダ56の切り欠き76へ押し込まれると、フック113が掛止リブ70によって押圧されて、2本のロッド112それぞれが互いに近づく方向へ撓まされる。これにより、切り欠き76へのフック113の挿通が許容される。フック113が切り欠き76を抜けて掛止リブ70の下端を通り過ぎると、ロッド112が元の状態に復元して、フック113が掛止リブ70の下端に掛止される。これにより、補助ホルダ110がピンチローラホルダ56に取り付けられる。
補助ホルダ110がピンチローラホルダ56に取り付けられた状態で、支持アーム111のロッド112は、補助ホルダ110の移動方向を上下方向へ規制するガイドの役割を果たす。補助ホルダ110の移動範囲は、フック113と掛止リブ70の下端との間隔によって定まる。つまり、ピンチローラホルダ56に補助ホルダ110が取り付けられた状態で補助ホルダ110が下方へ押圧された姿勢では、フック113が掛止リブ70の下端から離間する。一方、補助ホルダ110が上方へ持ち上げられると、フック113が掛止リブ70の下端に掛止される。
補助ホルダ110は、バネ収容室62にコイルバネ61が収容された状態で、コイルバネ61の上からピンチローラホルダ56に取り付けられる。したがって、補助ホルダ110に外力が加えられていない状態では、補助ホルダ110はコイルバネ61の付勢力によって常に上方へ持ち上げられている。逆に、補助ホルダ110に下方への外力が加えられると、コイルバネ61が圧縮されて補助ホルダ110はピンチローラホルダ56に近づく方向へ変位する。なお、本実施形態では、図5に示されるように各部材が組み立てられた状態でプリンタ部2の内部に組み込まれた場合は、ピンチローラ48は駆動ローラ47に押しつけられるため、補助ホルダ110も、ピンチローラ48を介して下方へ押しつけられている。したがって、プリンタ部2の内部に組み込まれた状態では、補助ホルダ110は上述した移動範囲内で上下方向へ移動可能な状態で保持されている。
補助ホルダ110の上面には、7つの第2ガイドリブ66(本発明の第2ガイド部材に相当)が設けられている。これら第2ガイドリブ66は、上流側から搬送されたきた記録用紙の先端を搬送ローラ対54の挟持部へ円滑に案内するために設けられている。第2ガイドリブ66は、補助ホルダ110の上面において短手方向132、つまり搬送方向に延出されており、長手方向131、つまり駆動ローラ47の軸方向へ横並びに配置されている。補助ホルダ110の両端側に配置された第2ガイドリブ66Aは、他の第2ガイドリブ66よりも短手方向132へ長い形状に形成されている。
補助ホルダ110の長手方向131の中央には、下流側の端部60から第1ガイドリブ75と同方向へ、つまり下流側へ突出する第3ガイドリブ64(本発明の第1ガイド部材、第2ガイドリブに相当)が設けられている。第3ガイドリブ64の上面は、第1ガイドリブ75と同様の役割、すなわち、第3ガイドリブ64の上面へ向けて記録用紙が搬送された場合にその先端をプラテン34側へ向ける役割を果たす。また、この第3ガイドリブ64は、搬送ローラ対54の挟持部から抜け出た記録用紙の後端を上記挟持部に近い位置で支持して、記録用紙の後端がピンチローラ48のローラ面に当接しないようにする役割をも果たす。この第3ガイドリブ64は、第1ガイドリブ75の先端と同じ位置まで突出している。
補助ホルダ110の長手方向131の両端それぞれに、軸受け63Aが設けられている。また、第3ガイドリブ64にも軸受け63Bが設けられている。軸受け63A,63Bにピンチローラ48の回転軸65が支持される。軸受け63Aは、端部60から下流側へ突出している。回転軸65の両端が軸受け63Aに支持される。軸受け63Aは溝状に形成されており、その入口付近は、回転軸65の軸径より若干小さく形成されている。したがって、軸受け63Aに回転軸65が押し込まれると、入口付近が撓んで広がることで、回転軸65の軸受け63Aへの挿入が許容される。一旦、軸受け63Aに回転軸65が挿入されると、撓まされた部分がもとの形状に復元して、回転軸65が容易に外れないようになっている。一方、回転軸65の中央部が軸受け63Bに支持される。軸受け63Bは、第3ガイドリブ64の端部60側に設けられた溝状のものであり、回転軸65に対して下方へ荷重がかけられた際に該回転軸65を補助的に支持するものである。
〈ピンチローラ48〉
ピンチローラ48は、図5及び図6に示されるように、摺動性の高い樹脂などによって円筒状に形成されている。ピンチローラ48は、軸方向に内孔を有する筒状に形成されており、この内孔に回転軸65が挿通されている。これにより、ピンチローラ48は、回転軸65に対して回転可能となる。回転軸65は、合成樹脂や金属など、種々の材質のもので構成することができるが、ピンチローラ48の回転を円滑にするために、ステンレス鋼などの鋼材で構成することが好ましい。これにより、軸径が小さいながらも十分な剛性を有する回転軸65を実現することができる。本実施形態では、図示されるように、回転軸65に2つのピンチローラ48が回転可能に支持されている。なお、ピンチローラ48の数や長さは適宜変更することが可能である。
このように、ピンチローラ48が回転軸65に対して回転可能に軸支されているため、必ずしも、溝78内で回転軸65そのものが回転する必要はない。したがって、溝78は、回転軸65がガタ無く嵌め入れられるサイズに形成してもよい。しかしながら、本実施形態では、溝78は、ほぼ抵抗無く回転軸65を回転可能に支持するサイズに形成されている。したがって、仮に、ピンチローラ48と回転軸65とが固着してピンチローラ48が回転軸65に対して回転しなくなっても、補助ホルダ110に対して回転可能である。
なお、本実施形態では、ピンチローラ48、回転軸65、及び補助ホルダ110それぞれを別部材として説明するが、必ずしも各部材が別々に構成されている必要はない。例えば、補助ホルダ110に回転軸65を一体に設けてもよい。この場合、回転軸65が溝78に挿入されると、回転軸65とともに補助ホルダ110が、記録用紙の搬送方向に対して位置決めされる。この構成であれば、ガイドリブ64,66の位置に及ぼす寸法公差は、ピンチローラ48及び補助ホルダ110の2部材のみである。そのため、ガイドリブ64,66の位置のばらつきをより小さくすることができる。なお、回転軸65は、補助ホルダ110と同じ材質に限定されない。例えば、インサート成形によって回転軸65と補助ホルダ110とを一体に形成すれば、回転軸65を鋼材で構成し、補助ホルダ110を合成樹脂で構成することができる。
また、回転軸65がピンチローラ48に一体に設けられていいてもよい。この場合、回転軸65が溝78に挿入されると、回転軸65とともにピンチローラ48が、記録用紙の搬送方向に対して位置決めされる。このように、回転軸65とピンチローラ48とを一体に構成することにより、ガイドリブ64,66の位置に及ぼす寸法公差は、ピンチローラ48及び補助ホルダ110の2部材のみである。そのため、ガイドリブ64,66の位置のばらつきをより小さくすることができる。なお、回転軸65は、ピンチローラ48と同じ材質に限定されない。例えば、インサート成形によって回転軸65とピンチローラ48とを一体に形成すれば、回転軸65を鋼材で構成し、ピンチローラ48を合成樹脂で構成することができる。
このようにピンチローラ48の支持機構が構成されているため、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57によって転動可能に支持される。そして、ピンチローラ48は、ピンチローラホルダ56の転動に伴って変位する。具体的には、図8(A)に示される後退位置(第2位置)と図8(B)に示される搬送位置(第1位置)との間で、ピンチローラホルダ56が転動可能である。
また、本実施形態では、上述したように、第3ガイドリブ64が補助ホルダ110に設けられている。そして、この補助ホルダ110にピンチローラ48が支持されている。したがって、ピンチローラ48と駆動ローラ47とによって記録用紙が挟持された場合は、ピンチローラ48とともに補助ホルダ110及び第3ガイドリブ64が駆動ローラ47から記録用紙の厚み分だけ離反することになる。つまり、ピンチローラ48と同じ変位量だけ第3ガイドリブ64が移動するため、ピンチローラ48と駆動ローラ47とによって記録用紙が挟持されているか否かにかかわらず、ピンチローラ48と第3ガイドリブ64との相対位置は常に一定となる。換言すれば、搬送時において記録用紙の下面と、第3ガイドリブ64の上端との間隔を常に一定に保つことができる。
したがって、例えば、図9(A)に示されるように、コピー用紙などのような薄い記録用紙98が搬送ローラ対54によって搬送される場合であっても、図9(B)に示されるように、はがきなどの厚い記録用紙99が搬送された場合であっても、搬送ローラ対54による記録用紙の搬送中は、ピンチローラ48とともに第3ガイドリブ64も下方へ押し下げられるため、記録用紙の下面と第3ガイドリブ64との間隔T1は常に一定値に保たれる。
このような支持機構が採用されることで、上記間隔T1を常に必要最小限の一定値に設定することができる。そのため、記録用紙の後端がピンチローラ48と駆動ローラ47との挟持部を抜け出た直後でも、第3ガイドリブ64によって記録用紙の後端を上記挟持部の近くで支持することができる。つまり、後端をピンチローラ48のローラ面に接触しない位置で記録用紙を支持することが可能となる。そのため、記録用紙の後端とピンチローラ48のローラ面との接触による記録用紙の押し出しが防止される。また、仮に、後端が下向きに反った記録用紙や波打った状態に湾曲した記録用紙が搬送されたときに、記録用紙の後端が第3ガイドリブ64から垂れ下がってピンチローラ48のローラ面に接触したとしても、上記挟持部付近において記録用紙とローラ面とが略水平状態となるような鋭角をなした状態で接触することになる。したがって、記録用紙を押し出す方向の力は極めて小さい。そのため、記録用紙が下流側へ押し出されることはない。
また、本実施形態では、図9に示されるように、第3ガイドリブ64の上端を後述する仮想面88に近接するように該第3ガイドリブ64が配置されている。搬送ローラ対54は、駆動ローラ47及びピンチローラ48により記録用紙を挟持して搬送するものである。そのため、搬送ローラ対54の搬送方向前後における搬送経路は、駆動ローラ47の軸及びピンチローラ48の回転軸65を含む平面87とピンチローラ48のローラ面(図9において駆動ローラ47側に面しているローラ面)との交線を通り、上記平面87に垂直な仮想面88に概ね一致する。この仮想面88に第3ガイドリブ64の上端を近接させれば、駆動ローラ47とピンチローラ48との挟持部を抜け出た記録用紙の後端をピンチローラ48のローラ面に接触しないように、第3ガイドリブ64で直ちに支持することができる。
また、ピンチローラホルダ56を転動可能に支持する構成では、ピンチローラホルダ56が後退位置に転動すると、プラテン34のリブ94の上流側の端部95とピンチローラホルダ56との間に所定幅の隙間T2(図8(A)参照)が形成される。しかしながら、この隙間T2は、上述した第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64によって塞がれている。そのため、搬送ローラ対54によって搬送された記録用紙が上記隙間T2へ向かったとしても、その進行が第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64に阻まれる。また、これと同時に、記録用紙の先端が第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64によってプラテン34側に向けられる。より詳細には、記録用紙の先端が、リブ94の端部95に形成された傾斜面96に向けられる。したがって、記録用紙は傾斜面96に沿ってリブ94の上面へ向けて円滑に案内される。これにより、プラテン34への記録用紙の安定した搬送が実現され、且つ用紙詰まりが防止される。
本実施形態では、第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64は、図8に示されるように、プラテン34の上流側の端部95まで延設された複数のリブ94と干渉しないように、隣り合うリブ94とリブ94との間に形成された隙間に対応する位置に設けられている。本実施形態では、搬送方向に転動可能に支持されたピンチローラホルダ56の位置に関係なく、第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64がリブ94間の隙間に進入するように該第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64の突出量(突出長さ)が設定されている。言い換えれば、ピンチローラホルダ56がプラテン34から最も離れた位置、即ち、図8(A)に示す後退位置(第2位置)で保持されている場合でも、平面視において、上記プラテン34の端部95と第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64とが交差するように第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64が配設されている。したがって、ピンチローラホルダ56の位置に関係なく、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57に支持された状態で、第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64はリブ94間の隙間に常に挿入されている(図8参照)。また、ホルダ支持部材57上でピンチローラホルダ56が転動した場合は、その転動に伴って第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64は搬送方向に往復移動する。この往復移動の際に、第1ガイドリブ75及び第3ガイドリブ64はリブ94間に形成された隙間に進退される。
また、第1ガイドリブ75は、図8に示されるように、第1ガイドリブ75の上面(ガイド面)がプラテン34の上面より下方に位置するように配設されている。このように配設されているため、第1ガイドリブ75に向かって記録用紙が搬送された場合でも、記録用紙の先端がプラテン34側へ円滑に案内される。そして、プラテン34側に向けられた記録用紙はプラテン34の端部95に形成された傾斜面96を駆け上るようにしてプラテン34へ円滑に案内される。
本実施形態では、第1ガイドリブ75は、第1ガイドリブ75の上面がプラテン34の上面より下方であり、プラテン34の端部95の傾斜面96の下端よりも上方となるように配設されている。したがって、プラテン34への記録用紙の案内がより円滑に行われることになる。
〈ピンチローラホルダ56の移動範囲〉
以下、ホルダ支持部材57におけるピンチローラホルダ56の移動範囲について説明する。
本実施形態では、図10に示されるように、ホルダ支持部材57の凹陥部139の底面69(凹部141の底面を含む)は、ホルダ支持部材57がフレームに取り付けられた状態で、湾曲状に形成されている。この底面69に転がり軸受け80を介在させた状態でピンチローラホルダ56がその底面(本発明の被支持部に相当)から支持される。
図10に示されるように、凹陥部139の底面69は、上流側から下流側へ向けて下り傾斜している。底面69は、駆動ローラ47の中心軸Aを通る鉛直面に含まれ且つ中心軸Aと平行な公転中心Oを中心にして描かれる円筒形状の外周弧と略一致する形状に形成されている。従って、ピンチローラホルダ56は、転がり軸受け80によって底面69に沿って転がり移動する。換言すれば、ピンチローラホルダ56は、公転中心Oを中心にして転がり移動する。このとき、補助ホルダ110は、コイルバネ61によって付勢されているため、ピンチローラホルダ56の転動に伴って、ピンチローラ48は、常に駆動ローラ47に圧接した状態を保ったまま駆動ローラ47の外周面に沿って移動する。なお、公転中心Oは必ずしも中心軸Aを通る鉛直面に含まれている必要はない。公転中心Oは、ピンチローラホルダ56が上流側へ行くほどコイルバネ61の圧縮量が小さくなるように、中心軸Aと、第1位置にピンチローラホルダ56が位置するときのピンチローラ48の中心軸Bとを含む平面よりも第2位置側に設定されていれば足りる。
本実施形態では、図10に示されるように、ピンチローラホルダ56の短手方向132への移動範囲は、公転中心Oを基点として該公転中心Oを通る鉛直面とのなす角が駆動ローラ47の後方側へθ1となる搬送位置から、同鉛直面とのなす角がθ2(>θ1)となる後退位置までの間に制限される。なお、このように短手方向132の前方への移動範囲を制限する突出片68及び係合溝67の下流側の内壁が本発明の第1規制部材に相当し、上記短手方向の後方への移動範囲を制限する突出片68及び係合溝67の上流側の内壁が本発明の第2規制部材に相当する。
上述の如くピンチローラホルダ56及びホルダ支持部材57が構成されることにより、搬送ローラ対54によって記録用紙が挟持されながら搬送されているときは(被記録媒体の搬送時)、ピンチローラホルダ56が搬送位置(図8(B)参照)まで転動され、搬送ローラ対54から記録用紙の後端が抜け出たときは(被記録媒体の非搬送時)、ピンチローラホルダ56が退避位置(図8(A)参照)まで転動する。
〈ピンチローラホルダ56の転動原理〉
続いて、図11及び図12を参照しながらピンチローラホルダ56の転動原理について説明する。ここに、図11は中心Oを原点とするXY座標で駆動ローラ47及びピンチローラ48の断面を表した図、図12は図11において記録用紙(符号Sで示す)を挟持している様子を示す図である。ここでは、駆動ローラ47の回転の中心をA、半径をr1とし、ピンチローラ48の回転の中心をB、半径をr2とする。また、中心AはX軸上に位置し、中心AからX軸の負の方向へ駆動ローラ47の半径r1以上離れた位置に原点Oが位置するものとする。また、原点Oは、凹陥部139の底面69の湾曲形状の中心に一致し、即ち、前記した公転中心Oに一致するものとする。また、ピンチローラホルダ56は、原点Oを中心として反時計回りにX軸からθ1進んだ位置Dと、同様にX軸からθ2(>θ1)進んだ位置Eとの間で転がり移動可能とする。ここに、位置Dが前記した搬送位置(図8(B)参照)に相当し、位置Eが前記した後退位置(図8(A)参照)に相当する。なお、本発明の説明の便宜上、図11及び図12に示す如く、中心O、中心A及び中心Bを定義したが、言うまでもなく、駆動ローラ47、ピンチローラ48及び底面69それぞれの中心位置は上述した位置に限定されない。
いま、ピンチローラ48が任意の位置に移動したときの線分OAと線分OBのなす角をθとする。即ち、角度θが取り得る範囲はθ1≦θ≦θ2である。ピンチローラ48は、ピンチローラホルダ56に圧縮された状態で収容されたバネ61によって駆動ローラ47の方向(線分ABの方向)へ付勢されている。
図示されるように、θ>0の場合は、弧DEの中心Oとピンチローラ48の移動中心Aとが一致していないため、θが大きくなるに連れて、ピンチローラホルダ56は駆動ローラ47から相対的に離反する。従って、θが大きくなるに連れてバネ61は伸長する。即ち、θが大きくなるに連れてバネ61の有する弾性エネルギーEが減少することになる。このとき、ピンチローラ48には、反時計方向であって、中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向に、弾性エネルギーEの減少分dE/dθに比例する大きさのモーメントM1が働く。
一方、ピンチローラ48には、その従動回転に伴って中心Bの周りにその回転方向とは反対方向に摩擦力(摩擦モーメント)M2′が発生する。この摩擦力M2′を中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向の力に変換したモーメントをM2とする。このとき発生する摩擦力M2′は、ピンチローラ48の回転伴って該ピンチローラ48とその回転軸65との摺動面で発生する静止摩擦力である。なお、図11において、モーメントM2は図示されていない。
また、ピンチローラホルダ56がホルダ支持部材57の凹陥部139の底面69を転がり移動することにより、転がり摩擦力(摩擦モーメント)M3′が発生する。この転がり摩擦力M3′は中心O周り、つまり線分OBに垂直な方向に働く。この摩擦力M3′を中心A周り、つまり線分ABに垂直な方向の力に変換したモーメントをM3とする。ここでは、上記転がり摩擦力をモーメントM3とする。なお、図11において、モーメントM3は図示されていない。
更に、駆動ローラ47とピンチローラ48とによって記録用紙が搬送されると、図12に示すように、記録用紙の自重や記録用紙の撓みによる弾性力などの力Wがピンチローラ48の中心方向に向けて働く。この力Wによって、θを小さくする方向にモーメントM4が発生する。特に、本実施形態では、図示するようにプラテン34に対して角度θだけ上方から記録用紙をプラテン34に押し付けるように搬送するため、無視することのできない程度のモーメントM4が発生する。なお、記録用紙の剛性をEIとする。
更にまた、記録用紙の先端が駆動ローラ47及びピンチローラ48による挟持部に進入するとき、或いは記録用紙の後端が上記挟持部から抜け出るときに、記録用紙の厚みhだけバネ61の長さが変化する。具体的には、前者のときは厚みhだけバネ61が縮められ、後者の場合は厚みhだけバネ61が伸長する。従って、この場合も、バネ61の弾性エネルギーが増減して、上述したモーメントM1と同様に、dE/dθに比例する大きさのA周りのモーメントM5が発生する。
ここで、角度θ(θ1≦θ≦θ2)、記録用紙の厚みh、及び記録用紙の剛性EIは変数である。従って、モーメントM1はθ及びhの関数、モーメントM4はθ及びEIの関数、モーメントM5はhの関数でそれぞれ表すことができる。また、モーメントM2及びM3は、厳密にはθ及びhの関数であるが、モーメントM1、M4,M5に較べて極めて小さいため、ここでは定数とみなす。以下において、角度θの関数をM1(θ)、M4(θ)と表す。
駆動ローラ47とピンチローラ48との間に滑りが生じないものとし、駆動ローラ47とピンチローラ48との摩擦力、及びピンチローラ48と記録用紙との摩擦力を十分大きいものとすると、本実施形態では、上記各モーメントM1〜M5は以下に示す関係式を満たす。
即ち、駆動ローラ47及びピンチローラ48により記録用紙が搬送されていない場合は、以下の式(1)が成立する。このとき、モーメントM2は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM3は中心A周りを反時計方向に働く。
M1(θ)+M3>M2 ・・・(1)
従って、この場合は、ピンチローラホルダ56が記録用紙の搬送方向上流側へ転動して、後方へ後退する。そして、θ=θ2の位置(後退位置)でその姿勢が保持される。
記録用紙が駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部に到達し、駆動ローラ47が回転されることにより記録用紙の先端が挟持されると、以下の式(2)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM3は中心A周りを反時計方向に働き、モーメントM5は中心A周りを時計方向に働く。
M1(θ)+M3<M4(θ)+M5 ・・・(2)
このとき、ピンチローラホルダ56は搬送方向下流側へ転動して、θ=θ1の位置(搬送位置)でその姿勢が保持される。
記録用紙の搬送中は、以下の式(3)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM2は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM3は中心A周りを時計方向に働く。
M1(θ)<M2+M3+M4(θ) ・・・(3)
従って、ピンチローラホルダ56がθ=θ1の位置(搬送位置)で継続して姿勢保持される。
記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部から抜け出る場合は、以下の式(4)の関係が成り立つ。このとき、モーメントM3は中心A周りを時計方向に働き、モーメントM5はモーメントM1と同じく、中心A周りを反時計方向に働く。
M1(θ)+M5>M3 ・・・(4)
上記式(4)から理解できるように、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部から抜け出る際に生じるモーメントM1(θ)+M5(左辺)に対してモーメントM3(右辺)のみが摩擦力として働くが、記録用紙の上流側へ転動させようとするモーメントM1(θ)+M5がそれを阻止しようとするモーメントM3よりも大きいため、ピンチローラホルダ56が記録用紙の上流側へ転動される。ここで、モーメントM3は転がり軸受け80による微小な摩擦力である。即ち、モーメントM1(θ)+M5に対してモーメントM3は極めて小さい。従って、この場合はモーメントM1(θ)+M5のほとんど全てがピンチローラホルダ56を記録用紙の上流側へ転動させるように作用するこため、ピンチローラホルダ56が迅速に転動される。なお、一旦ピンチローラホルダ56が後退すると、θ=θ2の位置(後退位置)でその姿勢が保持される。
なお、記録用紙の後端が駆動ローラ47及びピンチローラ48の挟持部から抜け出た後に、ピンチローラホルダ56がθ=θ2(後退位置)の位置に戻らないといった異常が生じた場合でも、駆動ローラ47を逆回転させることにより、以下の式(5)を成立させて、ピンチローラホルダ56をθ=θ2の位置(後退位置)へ転動させることができる。
M1(θ)+M2>M3 ・・・(5)
この場合は、モーメントM2は中心A周りを反時計方向に働き、モーメントM3は中心O周りを時計方向に働く。
上述したように、転がり軸受け80を介してピンチローラホルダ56を転動可能に支持する本多機能装置1において、式(1)〜式(5)の各関係式が成立するようにピンチローラ48やピンチローラホルダ56、ホルダ支持部材57、バネ61などを配設することにより、搬送ローラ対54によって記録用紙が挟持された際にピンチローラホルダ56が搬送方向下流側へ迅速に転動される。また、記録用紙の上記挟持が開放されると、ピンチローラホルダ56が搬送方向下流側へ迅速に転動される。したがって、従来の滑り摩擦を用いた構造と較べて記録用紙の搬送方向への押し出し量を限りなく零とすることができる。その結果、記録用紙に記録される画像の画質の低下を防止することが可能となる。
なお、上述した実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更することができる。