JP4576204B2 - 流体式変速機のクラッチシリンダ - Google Patents

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本発明は、例えば自動車などに装備される流体式変速機のクラッチシリンダに関する。
従来の流体式変速機では、エンジンの動力をトランスミッションと接続したり切り離したりするための油圧式のクラッチシリンダが用いられている。このクラッチシリンダは、シリンダケースの内部に軸方向へスライド可能に収容された筒状のクラッチピストンと、このクラッチピストンに環状芯金の円筒部が外嵌装着された芯金付きのシールリングと、前記シリンダケースとで囲まれる環状空間が油圧室として形成され、この油圧室に操作油を供給することにより、クラッチピストンをシリンダケースの案内面に沿って移動させ、多板クラッチを押圧して動力を伝達し、逆に油圧室から操作油を排出することにより多板クラッチの押圧を解除して動力を遮断する。
このような油圧式のクラッチシリンダの例として、図5に示されるものがある。このクラッチシリンダにおいて、シールリング300は、環状円筒部320とその軸方向一端から径方向内向きに延びる環状板部330とを有する芯金310と、芯金310の環状円筒部320と環状板部330とが連接する角部の外周部に加硫接着されたアウターリップ340とを有する。アウターリップ340はクラッチピストン100に対向するシリンダケース200に接触されている。このシールリング300では、芯金310の環状円筒部320をクラッチピストン100の外周面に嵌合させており、アウターリップ340と同一素材の弾性体350を膜状に環状板部330の内側面にまで回り込ませ、この膜状の弾性体350をクラッチピストン100に接触させることによって、金属製のクラッチピストン100とシールリング300の金属製の芯金310との嵌め合い面から操作油が染み出すことを防止している(特許文献1参照)。
特開2003−139249号公報
しかしながら、前記特許文献1においては、クラッチピストン100に嵌合させるシールリング芯金310の環状円筒部320の嵌合幅が狭いために嵌合力が不足し、シールリング300がクラッチピストン100から抜けて密封性が確保できなくなるおそれがある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、クラッチピストンからシールリングが抜けるのを防止することができ、その密封性を良好に維持することができる流体式変速機のクラッチシリンダを提供することを目的としている。
本発明の流体式変速機のクラッチシリンダは、シリンダケースと、このシリンダケースの内部に軸方向へスライド可能に収容された筒状のクラッチピストンと、このクラッチピストンに環状芯金の円筒部が外嵌装着された芯金付きのシールリングとを備え、前記クラッチピストン、シールリング及びクラッチシリンダで囲まれる環状空間が油圧室として形成され、前記クラッチピストンを当該油圧室の油圧に応じて軸方向にスライドさせることにより、多板クラッチを動力伝達状態と動力遮断状態とに切り替え操作する流体式変速機のクラッチシリンダであって、前記芯金が外嵌されるクラッチピストンの外周面に円周方向に沿って溝を設け、前記芯金の内周面には、前記溝に係止されることで、前記クラッチピストンのスライド動作によって前記シールリングが前記クラッチピストンから軸方向に抜けるのを阻止する突起が設けられていることを特徴としている。
本発明によると、クラッチピストンの外周面に設けた溝に、シールリングの芯金の円筒部に設けた突起を係止させているので、シールリングがクラッチピストンから抜けるのを防止することができる。
本発明の流体式変速機のクラッチシリンダにおいて、シールリングの突起が、軸方向断面において突起先端側が先細となる三角形状であることが好ましい。この場合には、芯金の円筒部をクラッチピストンに押し込む際に、突起の傾斜面をクラッチピストンに当接させて円筒部を徐々に押し込むことができるので、当該円筒部をクラッチピストンに容易に嵌合することができる。
本発明の流体式変速機のクラッチシリンダにおいて、シールリングが、シリンダケース側に接触されるアウターリップと、前記クラッチピストンに弾性変形した状態で接触されるインナーリップとを有していることが好ましい。この場合には、インナーリップを弾性変形した状態でクラッチピストンに押し付けているので、密封性がさらに向上する。
本発明によれば、流体式変速機のクラッチピストンの溝に、シールリングの芯金の突起を係止させているので、シールリングがクラッチピストンから抜けるのを防止することができる。従って、油圧室の密封性を良好に維持することができる。
以下、本発明の流体式変速機のクラッチシリンダの実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の流体式変速機のクラッチシリンダにおける要部の上半分を示す断面図であり、図2は、シールリングを示す断面図である。
図1に示す流体式変速機のクラッチシリンダは、シリンダケース2と、その内部に収容されたクラッチピストン1と、これらの対向すきまを密封するシールリング3とを備えている。
クラッチピストン1及びシリンダケース2は、金属板を屈曲して製作された筒状部材であり、軸方向断面が互いに略相似形になっている。クラッチピストン1及びシリンダケース2は、いずれも、大径筒部11,21の一端から径方向内向きに屈曲して大径環状板部12,22を形成し、この大径環状板部12,22の内端から小径筒部13,23を形成するとともに、この小径筒部13,23からさらに径方向内向きに屈曲して小径環状板部14,24を形成している。
そして、シリンダケース2の内周側にクラッチピストン1が所定の対向すきまを介して挿入されており、シリンダケース2に対してクラッチピストン1が軸方向に移動可能になっている。このシリンダケース2の端部とクラッチピストン1の端部との対向すきまには、クラッチピストン1に取り付けられたシールリング3で仕切られることによって環状空間が形成されており、この環状空間が油圧室4として構成されている。
クラッチピストン1は、図示していないコイルスプリングによって図1の左方向へ弾性的に付勢されており、油圧室4に操作油を供給することにより図1の右側へスライドし、油圧室4内の操作油を回収することによりコイルスプリングの付勢力で図1の左側へスライドする。このスライド動作により、図示していない多板クラッチを操作して動力を伝達する状態にしたり、あるいは引き離して動力を遮断する状態にしたりする。ここで、多板クラッチは、図示しない複数枚のドライブプレート、図示しない複数枚のドリブンプレートおよび図示しない1枚のリテーナプレートからなる公知のものである。
そして、クラッチピストン1の小径筒部13の外周面には、円周方向に沿って溝15が設けられている。この溝15は、シールリング3の後述する芯金31の突起32を係止させるためのものであり、前記外周面の円周方向に沿って全周に設けられており、その軸方向断面形状は矩形状になっている。
シールリング3は、芯金31にゴム等の弾性素材からなるアウターリップ33及びインナーリップ34を加硫接着した構成である。芯金31は、円筒部35の一端に径方向内向きの環状板部36を一体形成した断面L形のものであり、前記円筒部35の内周面がクラッチピストン1の小径筒部13に外嵌被着されており、この状態で前記環状板部36がクラッチピストン1の小径環状板部14に当接している。
図2に示すように前記アウターリップ33は、芯金31における円筒部35と環状板部36との境の角部の外周側に径方向斜め外向きに延びる状態で被着されており、インナーリップ34は、芯金31における環状板部36の内側面(クラッチピストン1に当接する側の面)の内周側でクラッチピストン1側へ向けて径方向斜め内向きに延びる状態で被着されている。
芯金31の円筒部35の内周面には、断面が三角形状の突起32が設けられている。この突起32はクラッチピストン1の溝15に係止されており、これによりシールリング3がクラッチピストン1から抜けるのが阻止されている。さらに詳述すると、突起32は前記円筒部35の内周面の全周に設けられており(図2参照)、その軸方向の断面形状は、突起先端側が先細となる三角形状となっている。特にこの実施の形態においては、芯金31の環状板部36側の一辺が円筒部35に対して直角に延びる直角三角形状(逆止爪状)となっており、当該一辺がクラッチピストン1の溝15の側面に係止されている。このように突起32を逆止爪状にすることにより、突起32を溝15に確実に係止させることができ、ひいては、シールリング3がクラッチピストン1から抜けるのをより確実に阻止することができる。
また、前記突起32の断面形状が三角形状であるので、シールリング3をクラッチピストン1に外嵌すべく円筒部35をクラッチピストン1に押し込む際に、突起32の他辺側の傾斜面をクラッチピストン1に当接させて円筒部35を徐々に押し込むことができる(図3参照)。このため、当該円筒部35をクラッチピストン1に容易に嵌合することができる。
芯金31の内側面の内周側は、外周側よりも外側へ後退した段差形状となるように屈曲され、さらにこの段差部37は内側から外側へ向けて薄肉とされている。この段差部37の薄肉部38にインナーリップ34が配置されている。このことにより、インナーリップ34の突出長さを可及的に長くすることができ、従ってクラッチピストン1に対する接触締め代を大きくすることが可能である。すなわち、クラッチピストン1にシールリング3を嵌合装着する際に、これらの精度誤差により嵌合深さが浅くなったときでも、インナーリップ34をクラッチピストン1の小径環状板部14に押し付けた状態で接触させることができる。
前記アウターリップ33は、シリンダケース2の小径円筒部23の内周面に弾性変形した状態で圧接され、インナーリップ34は、クラッチピストン1の小径環状板部14の外側面に弾性変形した状態で圧接されており、アウターリップ33、インナーリップ34にはともに弾性変形した状態になるような所定の締め代を持たせている。このため、両リップ33,34による密封性がさらに向上する。なお、アウターリップ33及びインナーリップ34の傾き度合い、締め代等は、必要に応じて適宜に管理される。
なお、突起32は、芯金31の円筒部35の内周面に等配で複数箇所設けることもでき(図4参照)、その軸方向の断面形状についても前記した三角形状以外の種々の形状を採用することができる。また、溝15はクラッチピストン1の小径筒部13の外周面に沿って等配で複数箇所設けてもよく、この場合は、少なくとも突起32と同じ数を設ければよい。さらに、クラッチピストン1の外周面に突起を設け、芯金31の円筒部35の内周面に溝を設けることも可能である。
本発明の流体式変速機のクラッチシリンダにおける要部の上半分を示す断面図である。 シールリングを示す断面図である。 シールリングの芯金の円筒部をクラッチピストンに押し込む途中を示す断面図である。 突起の他の実施の形態を示す断面図である。 従来の流体式変速機のクラッチシリンダにおける要部の上半分を示す断面図である。
符号の説明
1 クラッチピストン
2 シリンダケース
3 シールリング
31 芯金
32 突起
33 アウターリップ
34 インナーリップ

Claims (3)

  1. シリンダケースと、このシリンダケースの内部に軸方向へスライド可能に収容された筒状のクラッチピストンと、このクラッチピストンに環状芯金の円筒部が外嵌装着された芯金付きのシールリングとを備え、前記クラッチピストン、シールリング及びシリンダケースで囲まれる環状空間が油圧室として形成され、前記クラッチピストンを当該油圧室の油圧に応じて軸方向にスライドさせることにより、多板クラッチを動力伝達状態と動力遮断状態とに切り替え操作する流体式変速機のクラッチシリンダであって、
    前記芯金が外嵌されるクラッチピストンの外周面に円周方向に沿って溝を設け、
    前記芯金の内周面には、前記溝に係止されることで、前記クラッチピストンのスライド動作によって前記シールリングが前記クラッチピストンから軸方向に抜けるのを阻止する突起が設けられていることを特徴とする流体式変速機のクラッチシリンダ。
  2. 前記シールリングの突起が、軸方向断面において突起先端側が先細となる三角形状である請求項1に記載の流体式変速機のクラッチシリンダ。
  3. 前記シールリングが、シリンダケース側に接触されるアウターリップと、前記クラッチピストンに弾性変形した状態で接触されるインナーリップとを有している請求項1又は2に記載の流体式変速機のクラッチシリンダ。
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