JP4575872B2 - 建築物の壁構造とその施工方法、建築用壁パネル - Google Patents

建築物の壁構造とその施工方法、建築用壁パネル Download PDF

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Description

本発明は、建築物の壁構造とその施工方法、建築用壁パネルに関し、詳しくは、住宅等の建築物における外壁などの壁構造と、このような壁構造を施工する方法と、壁構造の構築に利用される建築用壁パネルとを対象にしている。
住宅などの建築物における外装壁材に、ポリマーセメント硬化材からなるタイルやパネル状の壁材を使用することは、良く知られている。
ポリマーセメント硬化材は、通常のセメント系硬化材に比べて、ビニル系ポリマーなどの樹脂材料が含まれているために、機械的強度や耐候性、表面品質などが向上するとされている。
特許文献1には、水、セメント、油性物質であるスチレンモノマーなどで構成されるセメント含有逆エマルジョン組成物を成形し養生硬化させて、壁面外装材、パネル等の建築用材料を製造する技術が示されている。
セメント系の外装材を壁面などに施工するには、通常、釘打ちやねじ釘による取付固定が行われている。
例えば、特許文献2には、外壁を構築する建築用複合パネルの鋼枠部に、木材からなるスペーサ材を介して、ねじ釘でセメント板などの外装面材を取付固定する技術が示されている。木材からなるスペーサ材が、比較的に脆い外装面材の取付強度や耐久性を高めるとされている。
特開2003−252670号公報 特開2002−364149号公報
前記した従来技術のように、ねじ釘のねじ込み、あるいは、釘打ちによって、ポリマーセメント硬化材を壁面に取付固定する方法は、作業の手間がかかったり、十分な取付強度や耐久性を確保するのが難しかったりするという問題がある。
ポリマーセメント硬化材には、予め正確な位置および形状の取付孔を設けておく必要があったり、ねじ釘も適切にねじ込まなければ十分な強度を発揮させ難かったりする。
そこで、ねじ釘のねじ込みや釘打ちを全く用いないか補助的に用いるだけにして、ポリマーセメント硬化材を下地面に接着によって取付固定することが考えられた。
ところが、前記特許文献1に開示されたようなポリマーセメント硬化材を、木質材料からなる下地面に接着しようとすると、接着が十分に行えないという問題が発生した。
近年、環境問題などの観点から建築用接着剤としては、溶剤系接着剤に代えて水系接着剤が使用されることが多い。木質材料の接着には、水系接着剤が優れた性能を発揮することができる。しかし、ポリマーセメント硬化材の表面は、非常に強い撥水性を示すために、水系接着剤による濡れや含浸が悪く、十分な接着強度が発現しないのである。
特に、接着時には十分な強度が発現しても、建築物の壁構造が屋外環境に晒されていると、強度が低下してしまう。これは、ポリマーセメント硬化材と木質材料との熱変形挙動の違いを接着層で吸収することができなかったり、雨などの水分が作用することで接着機能が低下したりして、接着部分が剥がれてしまうものと推定できる。建築物の壁構造に要求される長期間にわたる接着機能の維持を果たすことができなかった。
本発明の課題は、ポリマーセメント硬化材からなる壁材を接着によって木質材に支持させて壁構造を構築する技術を改良して、ポリマーセメント壁材を木質材に強固に接着固定できるようにすることである。
本発明にかかる建築物の壁構造は、建築物の壁面を木質材に支持されたポリマーセメント壁材で構築する壁構造であって、前記建築物の壁面に配置された前記木質材と、前記木質材の表面に配置され、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなる前記ポリマーセメント壁材と、アクリル−ウレタン系水性接着剤からなり前記ポリマーセメント壁材と前記木質材とを接合する接着層とを備える。
各構成について具体的に説明する。
〔ポリマーセメント壁材〕
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材で構成された壁材である。
基本的には、通常のポリマーセメント硬化材と共通する技術が適用される。前記した特許文献1に記載の技術や、特開2003−252670号公報、さらには本件特許出願人他が先に特許出願している特願2004−117158号明細書、特願2005−082022号明細書などに記載の技術が適用できる。
<ポリマーセメント材料>
重合性のあるビニル系単量体と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含む。
セメントは、ポリマーセメント硬化材の基本的な機械的強度などの特性を決める主体となる材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。通常、水とその他の固形分などを全て含めたポリマーセメント材料の全量に対して、10〜40体積%が配合される。
ビニル系単量体は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともにポリマーセメント硬化材の骨格構造を構築し、ポリマーセメント硬化材の特性を向上させる。ビニル系単量体は疎水性の液状物質であり、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。ビニル系単量体の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が有用である。ビニル系単量体は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。ビニル系単量体の重合反応を促進させるために、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、ビニル系単量体の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。水とビニル系単量体を配合し、撹拌混合すれば、目的のW/Oエマルジョンが得られる。ビニル系単量体に加えて、別の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておく。W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水およびビニル系単量体に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。乳化剤の使用量は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
セメントに骨材を組み合わせて用いることができる。骨材としては、通常のセメント系硬化材と同様の材料が使用できる。例えば、シリカ発泡体、アルミノシリカバルーン、フライアッシュバルーン、ガラス発泡体、その他の多孔質状骨材や軽量骨材を使用すれば、セメント系硬化材が取り扱い易く、建築外装材などに好適である。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどもある。骨材は、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜50体積%を配合しておくことができる。好ましくは10〜50体積%である。
骨材に加えて別の補強材を配合しておくこともできる。具体的には、いわゆるセメント用の補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。補強材は、セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
その他にも、通常のセメント系硬化材の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<ポリマーセメント材料の調製>
前記した各材料と水を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
<ポリマーセメント材料の成形および硬化>
通常の建材製造における成形技術および硬化技術が適用される。
成形方法として、注型成形、押出成形、プレス成形、射出成形などが挙げられる。押出成形で板状の成形品を得たあと、プレス成形で表面に凹凸形状を成形するなど、複数の成形技術を組み合わせることもできる。
ポリマーセメント成形体の形状は、ポリマーセメント硬化材を使用する用途や要求される機能などに合わせて設定できる。一般的な建材では、平坦な板状のものや棒状、柱状をなすものなどがある。屈曲板状や湾曲板状のものもある。表面に凹凸模様があるもの、貫通孔や凹溝などの機能構造を有するものなどもある。
ポリマーセメント成形体を養生硬化させることで、ポリマーセメント硬化材が得られる。基本的には、通常のセメント系硬化体の製造技術における養生硬化装置、養生硬化条件が適用される。例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用される。ビニル系単量体の重合による骨格構造の形成が良好に行えるように処理条件を設定する。
<ポリマーセメント壁材の形状構造>
ポリマーセメント壁材は、前記のようにして得られるポリマーセメント硬化材であって、目的とする壁構造を構築するのに適した形状や構造を備えている。通常の建築用壁材、外装板材、外壁ボードなどで採用されている形状や構造が適用できる。
基本的な形状は、矩形などの平坦な板状である。また、屈曲板状や湾曲板状のものもある。矩形以外の多角形や曲線形状を有するものもある。装飾用の凹凸形状や、他の部材と連結するための連結構造、使用状態で各種の機能を果たすための細部形状などを設けておくことができる。
ポリマーセメント壁材の背面側には、ポリマーセメント壁材を支持する木質材に接着するための接着面を備えておく。接着面は通常は平坦面である。接着機能を向上させるために、粗面にしておいたり、凹凸を設けておいたりすることもできる。木質材に対して接着と同時に係合する係合構造や位置決め構造などを設けておくこともできる。
ポリマーセメント壁材の寸法は、施工する壁構造によって異なるが、通常、長さ45〜300cm、厚さ1〜4cmの範囲に設定される。
〔アクリル−ウレタン系水性接着剤〕
ポリマーセメント壁材と木質材とを良好に接着できれば、通常の建築技術分野において知られているアクリル−ウレタン系水性接着剤が使用できる。
アクリル−ウレタン系水性接着剤は、基本的には、通常のウレタン系水性接着剤と同様の材料や製造技術で得られるものであるが、水溶性ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含む点に特徴がある。両樹脂の組み合わせによって、ポリマーセメント壁材と木質材との接着性を向上させることができる。具体的には、水性接着剤であるから木質材に対する接着性が良好であるのは勿論のこと、撥水性が強いポリマーセメント壁材の表面に対しても、接着剤が良好に濡らしたり含浸されたりし易くなることによって、良好な接着性能を発揮するものであると推定できる。
特に、エチレン酢酸ビニル共重合体50〜60重量%と水溶性アクリル樹脂1〜5重量%と水溶性ウレタン樹脂1〜5重量%と粘性付与剤1〜5重量%と無機フィラー5〜10重量%と水30〜50重量%とを含む主剤と、ウレタンポリマー85〜95重量%と4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート5〜15重量%とを含む架橋剤とを、主剤:架橋剤=100:5〜100:15の割合で含むものが好ましい。
〔壁構造〕
通常の建築物における壁構造に適用できる。
建築物の室内と屋外とを仕切る外壁のほか、室内あるいは屋外において複数の空間を仕切る各種の壁構造に適用できる。一般的には垂直で平坦な壁面であるが、傾斜壁、湾曲壁、屈曲壁などもある。
建築物の壁面は、コンクリートなどからなる躯体構造、木柱や鉄骨柱、梁などの骨組構造、パネル状の壁材を組み合わせて構成するパネル壁などがある。何れの場合も、壁面の構造強度を負担したり負荷を支えたりする構造体の表面部分に、木質材で支持されたポリマーセメント壁材を配置することで、壁構造が構築される。ポリマーセメント壁材に、建築物に加わる負荷の一部を負担させる場合もある。
<木質材>
木質材は、ポリマーセメント壁材と壁構造の本体部分との間に介在して、ポリマーセメント壁材を支持することができる。面状をなす板材であってもよいし、細い桟材を枠状や格子状に組み合わせて構成されていてもよい。通常の壁構造における壁下地材あるいは下地桟と共通する技術が適用できる。木質材が、前記した壁構造の骨組構造を構成する柱や梁であってもよい。この場合は、木質材が、建築物の負荷を支える機能と、ポリマーセメント壁材を支持する機能とを兼ね備えることになる。
木質材の材料は、通常の建築用木材が使用される。むく材のほか、集成材や貼り合せ材なども使用できる。木質材料の粉体や細片を圧縮成形したものや、木質材料に合成樹脂材料や無機材料を加えて成形したものもある。
<接着層>
アクリル−ウレタン系水性接着剤で構成される。
流動状の接着剤を、木質材とポリマーセメント壁材との何れか一方あるいは両方に、層状に塗工したりビード状に吐出したり、ドット状に配置したりしたあと、木質材とポリマーセメント壁材とを押圧することで、一定の層状をなす接着層が構成される。接着層が硬化することで、木質材とポリマーセメント壁材とが強力に接合される。
接着剤の付与手段としては、通常の建築技術における接着剤供給技術が採用できる。例えば、ロールコーター装置を用いたスプレッダーロールや、ビード吐出ノズルを用いたビード塗布などの技術が適用できる。なお、工場などで大量生産する場合に用いる装置と、建築物の施工現場で使用される器具とは異なる場合がある。
接着層を形成する際の接着剤の供給量は、接着剤の配合や要求性能、供給手段などによっても異なるが、通常、300〜700g/mの範囲に設定できる。接着層を構成する接着剤の一部は、木質材あるいはポリマーセメント壁材に含浸されることがあるので、接着材の供給量がそのまま接着層の厚さを決めるわけではない。最終的に形成された壁構造における接着層の厚さを、100〜500μmの範囲に設定できる。接着層が薄過ぎると十分な接着が果たせないし、接着層が分厚過ぎても却って接着性能は低下する。
<ポリマーセメント壁材>
ポリマーセメント壁材は、接着層を介して木質材に接着されていれば、配置構造は、通常の壁面外装材などと同様に設定できる。
ポリマーセメント壁材同士は、合いじゃくりなどの継手構造で互いに連結しておくことができる。ポリマーセメント壁材の固定がより確実になり防水機能を高めることもできる。
ポリマーセメント壁材の表面には、各種の塗装やコーティングを施すことができる。塗装やコーティングは、ポリマーセメント壁材を壁構造に施工する前に行っておくこともできるし、壁構造に施工されたあと、ポリマーセメント壁材で構成された壁面の全体に塗装やコーティングを施すこともできる。
<接着作業>
以下の工程を含む方法が採用できる。
工程(a):建築物の壁面に木質材を配置する。
前記したとおり、通常の壁構造施工と同様の作業で、木質材を配置すればよい。
工程(b):木質材の表面のうちポリマーセメント壁材と接合されるところにアクリル−ウレタン系水性接着剤を塗工する。
例えば、桟状に配置された木質材であれば、前面の全体に帯状あるいは枠状をなすように、接着剤を配置すればよい。面状に配置された木質材であれば、全面に接着剤を塗工してもよいし、ポリマーセメント壁材の外周縁が当接される個所に沿って線状あるいは枠状に接着剤を配置しておくだけでもよい。
工程(c):ポリマーセメント壁材を、木質材のうちアクリル−ウレタン系水性接着剤の塗工面に押圧して、木質材にポリマーセメント壁材を接合させる。
接着剤を木質材の側に配置し、ポリマーセメント壁材には接着剤を付与しないでおけば、ポリマーセメント壁材の取り扱いが行い易くなる。ポリマーセメント壁材の側端などから接着剤が漏れたり、作業者などが接着剤に触れたりすることが少なくなる。
木質材の表面にビード状に盛り上がった状態で接着剤を付与したあと、ポリマーセメント壁材を強く押圧すると、接着剤のビードが押し潰されると同時にポリマーセメント壁材に含浸され易くなり、良好な接着性能を発揮できるようになる。
〔壁パネル〕
建築物の壁構造を、予め製造された壁パネルを並べて施工することで構築できる。
基本的には、通常の建築技術における壁パネルを構成する材料として、ポリマーセメント壁材と木質材とを用い、接着層を介してポリマーセメント壁材を木質材に支持させればよい。それ以外の構造については、特に限定されない。
壁パネルは、ポリマーセメント壁材と接着層と木質材とだけで構成することもできる。壁構造のうち、最表面に配置され外装材となるポリマーセメント壁材から強度構造体となる部分を経て内装材までを含む壁構造の全体を備える壁パネルも構成できる。このような複数の構造部分が複合化された壁パネルは、複合壁パネルとも呼ばれる。
複合化された壁パネルとして、木質材からなる木質枠体と、木質枠体の表面に配置され、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント壁材と、木質枠体とポリマーセメント壁材との間に配置され、アクリル−ウレタン系水性接着剤からなり木質枠体とポリマーセメント壁材とを接合する接着層とを備える建築用壁パネルが構成できる。
この建築用壁パネルでは、木質材からなる木質枠体を、壁パネルの構造強度を負担する構造体としても機能させることができる。木質枠体のうち、ポリマーセメント壁材が配置される面とは反体面に、内装下地材や内装仕上げ材を配置しておくことができる。
本発明にかかる建築物の壁構造は、ポリマーセメント壁材をアクリル−ウレタン系水性接着剤からなる特定の接着層で木質材とを接合していることにより、従来の水性接着剤を用いた場合に比べて、格段に強固な接着構造が構成できる。
特に、接着時点における接着強度だけではなく、壁構造を構築したあと、建築物の施工環境において晒される熱や水などの過酷な環境条件が長期間にわたって続いても、実用的に十分な接着性能を維持することができる。
その結果、従来、一般的な採用されていた釘止めなどによる取付固定に比べても、耐久性に劣ることのない壁構造が、釘打ちなどの作業の手間を多くかけることなく、効率的に短い作業時間で構築することが可能になる。建築物施工の工期短縮、コスト削減にも貢献できることになる。
〔建築用壁パネル〕
図1、2に示す実施形態は、建築物の壁構造を構築するのに用いられる建築用壁パネルを示している。
壁パネル10は、全体が矩形の盤状をなしている。外形寸法は、例えば、縦250cm×横90cm×厚さ11.5cmである。壁パネル10の基本構造は、木質材20を組み立てた矩形の枠体からなる。矩形枠体の中央には木質材20による補強がなされている。木質材20は、概略断面寸法が、幅3cm×厚さ8.5cmである。図1に示すように、木質材20からなる枠体の側端面には、合いじゃくり構造の継手が形成されており、壁パネル10を順次並べて、合いじゃくり継手によって連結し、建築物の壁面全体を構築する。
図2に示すように、木質材20からなる枠体のうち、壁面に施工されたときに上下辺に配置される個所に、木質材20を一部矩形に切り欠いて通気路22が設けられている。壁面の下方から上方へと通気が良好になされ、壁内部における結露などが防止できる。例えば、通気路22の内幅を10cmに設定できる。
木質材20からなる枠体の内側空間には、ガラスウールなどからなる断熱材50が充填されている。図示を省略しているが、枠体の内側空間には、配管や配線その他の内部設備が埋め込み設置される場合もある。
木質材20からなる枠体のうち、建築物の屋内側になる面には、内装材60が配置されている。内装材60は、合板や石膏ボードなどで構成されており、木質材20の表面に、釘打ち、ねじ止め、接着などで接合されている。なお、屋内空間の内装仕上げとなる壁紙や表装仕上げ材については、壁パネル10の製造段階では設けずにおくことができる。建築物の壁面を構築したあと、壁面全体を構成する複数の壁パネル10にわたって、最終的な内装仕上げ施工を施せば、屋内空間に壁パネル10の継ぎ目が目立たない。
木質材20からなる枠体のうち、建築物の屋外側になる面には、概略矩形板状をなすポリマーセメント壁材40が配置されている。ポリマーセメント壁材40の概略寸法を、例えば、縦250cm、横90cm、厚さ3.5cmに設定できる。図2では、ポリマーセメント壁材40の表面は平坦に表されているが、外観意匠性を高める凹凸模様などを設けておくことができる。
ポリマーセメント壁材40は、アクリル−ウレタン系水性接着剤からなる接着層30で木質材20の表面に接合されている。図2に示すように、木質材20の表面にアクリル−ウレタン系水性接着剤を塗工して接着層30を配置したあと、その上にポリマーセメント壁材40の裏面を押し当てて強く押圧することによって、ポリマーセメント壁材40を木質材20に強固に接合させている。接着層30は、例えば、300μmの厚さに設定できる。但し、接着層30を構成する接着剤の一部は、木質材20あるいはポリマーセメント壁材40に含浸されているので、前記厚さは、含浸部分を除いた厚さである。
このような構造を備えた壁パネル10は、予め工場などで生産しておく。建築現場に搬入した壁パネル10を、建築物の設計にしたがって基礎構造の上に並べて立設していけば、複数の壁パネル10で構成される壁構造が構築できる。
〔現場施工による壁構造〕
図3に示す実施形態は、建築物を構築する現場において建築物の壁面にポリマーセメント壁材を施工する場合である。
建築物の外壁内部構造70に、桟状に設置された木質下地材72を介して、板状のポリマーセメント壁材40を並べて取付固定する際に、ポリマーセメント壁材40と木質下地材72との間に接着層30が配置される。
外壁内部構造70は、詳細な構造の図示を省略しているが、柱や梁などの骨組部材、断熱材、サイディング下地板などで構成されている。木質下地材72は、例えば、20mm×50mmの矩形断面を有する木桟材を、縦45cm、横45cmのピッチ間隔で、外壁内部構造70に固定する。外壁内部構造70への木質下地材72の固定は、釘打ちあるいは接着の何れで行ってもよい。接着の場合は、通常の木質材用接着剤を使用することができる。
ポリマーセメント壁材40は、例えば、縦45cm×横300cm×厚さ30mmの矩形板状をなしており、木質下地材72の配置間隔にしたがって、ポリマーセメント壁材40の外周部分が木質下地材72の表面に当接するように配置される。
接着層30は、予め、木質下地材72の表面にアクリル−ウレタン系水性接着剤を塗工しておき、その上にポリマーセメント壁材40を押し当てて接着すればよい。接着層30の厚さを、例えば、300μmに設定する。
本発明で用いるアクリル−ウレタン系水性接着剤および比較接着剤を用いて、ポリマーセメント壁材と木質材との接着性能を評価した。
〔ポリマーセメント壁材〕
ポルトランドセメントを20体積部、水を55体積部、ビニルモノマーソリューション〔VMS;ビニルモノマー(スチレン)と乳化剤(ソルビタンモノオレート)とを、前者対後者の体積比率が5:2となるように混合した混合物〕を7体積部、補強繊維(ポリプロピレン繊維)を2体積部、軽量骨材(アルミナシリケートバルーン)を20体積部で配合し、比重1.1のポリマーセメント材料を調製した。
ポリマーセメント材料を押出成形して、縦2000mm×横900mm×厚さ35mmの矩形板状をなすポリマーセメント成形体を調製した。ポリマーセメント成形体をプレス成形して表面模様などの細部形状を成形したあと、蒸気養生で硬化させ、ポリマーセメント硬化材を得た。養生条件は、60℃で約10時間保持した後、90℃まで昇温させ、90℃で約9時間保持したあと、放冷した。
得られたポリマーセメント硬化材を、ポリマーセメント壁材として用いる。
〔実施例1:アクリル−ウレタン系水性接着剤〕
<配合>
主剤:EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体) 50重量部、
水溶性アクリル樹脂 2重量部、
水溶性ウレタン樹脂 2重量部、
粘性付与剤 1重量部、
無機フィラー 1重量部、
水 40重量部。
架橋剤:ウレタンプレポリマー 90重量部、
4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート 10重量部。
主剤/架橋剤=100/10で混合して用いる。
〔比較例1〕
市販のビニルウレタン系水性接着剤(製品名ピーアイボンド、オーシカ社製)。
〔接着性能試験〕
図1、2に示す構造の建築用壁パネルを製造した。このとき、木質材へのポリマーセメント壁材の接着に、前記実施例および比較例の接着剤を用いた。塗工量は、500g/mであった。
接着剤の塗工しポリマーセメント壁材の貼り合せたあと、圧締圧力10N/cmで10時間以上圧締した。圧締を解除したあと十分に養生した(圧締開始から7日間)。
得られた壁パネルを、以下に説明する種々の環境条件に晒したあと、引張剪断試験を行って、各接着剤の性能を評価した。
<環境条件>
常態:壁パネルを製造し養生終了した段階で、20±15℃で引張剪断試験を行った。
耐水B:20±15℃の水中に水面下5cmの深さで7日間浸漬したあと、60±3℃で48〜72時間乾燥放置し、さらに20±15℃で1時間調整したあと、引張剪断試験を行った。
耐熱:60±3℃の乾燥器中に7日間放置したあと、20±15℃で1時間調整し、引張剪断試験を行った。
耐水A:20±15℃の水中に水面下5cmの深さで7日間浸漬したあと、濡れたままの状態で、引張剪断試験を行った。
熱水:20±15℃の水中に水面下5cmの深さで8時間浸漬したあと、60±3℃で16時間乾燥放置する工程を1サイクルにして合計サイクルを行なったあと、20±15℃、65±20%RHで1時間調整し、引張剪断試験を行った。
<試験結果>
各試験の結果を、下表に示す。
Figure 0004575872
<評価>
(1) 外部環境の影響を受けていない「常態」では、実施例1および比較例1の何れも、壁パネルに要求される引張剪断強度を有している。この段階では、比較例1のほうが、高い強度を有している。
(2) ところが、建築物の壁構造が晒される環境条件に相当する「耐水B」、「耐熱」、「耐水A」、「熱水」などを経たあとの引張剪断強度をみると、比較例1は強度低下が著しい。実施例1でも、ある程度の強度低下は生じているが、比較例1よりも明らかに高い強度を維持できている。
特に、実施例1は、「常態」では比較例1よりも強度が低かったにも関わらず、過酷な環境を経たあとでは、比較例1よりも格段に高い強度を維持しており、長期間にわたって使用される建築物の壁構造において、実用的に優れた性能を発揮できることが裏付けられた。
(3) 基材破壊率をみると、比較例1では0%になっている場合が多いが、実施例1では100%のままであるか少なくとも40%を示している。
基材破壊率は、引張剪断試験での破壊が、接着面で生じたのではなく基材そのものの破壊によって生じた割合を示すので、基材破壊率が大きいほど、接着性能が優れていることを意味する。
したがって、実施例1は、比較例1に比べて、接着性能、特に接着耐久性が格段に優れていることが裏付けられた。
〔IRシャワー試験〕
実施例1の外壁パネルに対して、繰り返し熱水環境に晒すIRシャワー試験を行い、試験後の反り量(mm)を測定した。
ポリマーセメント壁材と木質材との接着剥離が生じると、ポリマーセメント壁材の熱変形に伴って発生する反りが大きくなる。したがって、本試験における反り量が少ないほど、ポリマーセメント壁材と木質材とが強固に接着されていることを示す。
<試験条件>
表面加熱(IRランプ)60℃、8Hrのあと散水(常温水)16Hrに晒すことを1サイクルとして、合計42サイクルを行なった。
<試験結果>
試験時間が1008時間(42サイクル)経過したあとにおける実施例1の反り量≒−3mmであり、極めて反りの少ないものであった。
同様の試験を、溶剤系ウレタン接着剤(比較例2)を使用して行ったところ、反り量≒−3mmとなった。また、前記比較例1の接着剤を使用した場合は、反り量≒−5mmであった。実施例1において、主剤に水溶性ウレタン樹脂を配合しない接着剤(比較例3)を調製して、同様の試験を行った。その結果は、反り量≒−5.5mmであった。
水性接着剤である比較例1、比較例3は、実施例1に比べると、長期使用における接着性能が劣るものとなる。実施例1は、溶剤系接着剤である比較例2と同等の高い接着性能を示す上に、接着作業および施工後における溶剤の蒸発による問題が解消できる。
本発明において、水溶性ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを組み合わせることが、有効であることが裏付けられた。
本発明は、例えば、住宅等の建築物における外壁の施工に利用できる。ポリマーセメント壁材による優れた外観意匠性や耐久性などを良好に発揮させることができるとともに、施工作業も容易で能率的に壁構造を構築することが可能になる。
本発明の実施形態を表す壁パネルの断面図 壁パネルの一部切欠正面図 別の実施形態を表す壁構造の断面図
符号の説明
10 壁パネル
20 木質材
22 通気路
30 接着層
40 ポリマーセメント壁材
50 断熱材
60 内装材
70 外壁内部構造
72 木質下地材

Claims (4)

  1. 建築物の壁面を木質材に支持されたポリマーセメント壁材で構築する壁構造であって、
    前記建築物の壁面に配置された前記木質材と、
    前記木質材の表面に配置され、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなる前記ポリマーセメント壁材と、
    アクリル−ウレタン系水性接着剤からなり前記ポリマーセメント壁材と前記木質材とを接合する接着層と、
    を備える建築物の壁構造。
  2. 前記ポリマーセメント材料が、ビニル系単量体としてスチレン系単量体を含み、
    前記アクリル−ウレタン系水性接着剤が、エチレン酢酸ビニル共重合体40〜60重量%と水溶性アクリル樹脂1〜5重量%と水溶性ウレタン樹脂1〜5重量%と粘性付与剤1〜5重量%と無機フィラー5〜10重量%と水30〜50重量%とを含む主剤と、ウレタンポリマー85〜95重量%と4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート5〜15重量%とを含む架橋剤とを、主剤:架橋剤=100:5〜100:15の割合で含むものである
    請求項1に記載の建築物の壁構造。
  3. 請求項1〜2の何れかに記載の壁構造を施工する方法であって、
    前記建築物の壁面に木質材を配置する工程(a)と、
    前記木質材の表面のうち前記ポリマーセメント壁材と接合されるところに,前記アクリル−ウレタン系水性接着剤を塗工する工程(b)と、
    前記ポリマーセメント壁材を、前記木質材のうち前記アクリル−ウレタン系水性接着剤の塗工面に押圧して、木質材にポリマーセメント壁材を接合させる工程(c)と、
    を含む壁構造の施工方法。
  4. 建築物の壁構造を構築する壁パネルであって、
    木質材からなる木質枠体と、
    前記木質枠体の表面に配置され、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント壁材と、
    前記木質枠体と前記ポリマーセメント壁材との間に配置され、アクリル−ウレタン系水性接着剤からなり木質枠体とポリマーセメント壁材とを接合する接着層と、
    を備える建築用壁パネル。
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