JP4570202B2 - 乳酸菌の低温感受性変異株、それを用いて得られる植物発酵物もしくは果実発酵物およびそれらの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペディオコッカス属に属する乳酸菌の低温感受性変異株、該変異株を用いて野菜もしくは果実を発酵させた発酵物(飲食品)およびそれら発酵物の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
野菜ジュースを乳酸菌を利用して発酵させ、風味および保存性を高めようとする提案は、種々なされている。例えば、特公昭58−15109号公報には、ラクトバチルス・ブレビスによる野菜ジュースの発酵が、特開平5−84065号公報には、ラクトバチルス・プランタラムによるニンジンジュースの発酵が、特開平7−170933号公報には、エンテロコッカス属菌による緑黄色野菜の発酵が、それぞれ提案されている。
【0003】
しかしながら、之等各公報に提案されている発酵物は、いずれも発酵後に殺菌して乳酸発酵を停止させなければ、その低温保存中にも酸度の上昇が見られ、これに伴って風味の劣化を招く不利がある。
【0004】
また、上記殺菌処理として、一般には加熱殺菌操作が考えられるが、野菜ジュースにかかる加熱殺菌操作を採用すれば、これに起因して異臭が付与されることが知られており、また、野菜自体の栄養素も破壊されてしまう不利がある。加熱殺菌に替わる処理としては、保存料の添加が考えられるが、通常保存料として用いられている化学物質の添加は、それ自体、飲食品にとって望ましいことではない。
【0005】
一方、特許第2904879号では、漬物に代表される植物発酵物において、殊に、製造直後の漬物の好ましい酸味を、保存料の添加なしに、保存流通中も一定に維持することを可能にする技術として、ラクトバチルス・プランタラムの低温感受性菌株を用いた発酵法が提案されている。この方法によれば、発酵後の低温保存中の酸度上昇は抑制されるが、発酵による味や香りの改善は不十分であり、官能的に優れた発酵物の生成については検討されていない。また発酵物の保存温度は10℃以下に制限されており、現在のチルド流通過程においては、該温度を超える可能性は否定できず、その場合、風味劣化、酸度上昇等の不利が伴われる危険は避けられない。
【0006】
尚、上記ラクトバチルス・プランタラムの低温感受性菌株は、ある種の変異処理により創生されている。しかして、現在、多種の変異処理技術は知られているが、かかる変異処理による低温感受性菌株の創生は、他のラクトバチルス属でも成功例の報告はない。勿論、分類学上ラクトバチルス属とは明確に区別される他の属に属する乳酸菌、その他の菌でのかかる低温感受性変異株の創生も報告はなく、既知のいかなる変異処理技術をどの属に属する菌に適用することによって所望の変異株が得られるかについての確立された知見は皆無である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記ラクトバチルス・プランタラムに代って、野菜および果実の発酵に利用でき、該利用によって、加熱処理や保存料の添加なしに、酸度上昇や風味劣化を防止して、官能的に優れた植物発酵物を提供できる新たな低温感受性乳酸菌、これを利用した発酵技術を提供することにある。
【0008】
本発明者は、上記課題より鋭意研究を行なった結果、25〜40℃では旺盛な生育が認められるが、低温条件では生育が微弱になるかまたはほぼ停止され、乳酸の生成が極めて少なくなる低温感受性のペディオコッカス属変異株の作出、分離に成功すると共に、この変異株の利用によれば、上記課題を解決した野菜や果実の発酵技術が提供できることを見出した。本発明は、これの知見をもとにして完成されたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、ペディオコッカス属菌の低温感受性変異株であって、GAMブイヨン培地で予め前培養して生育を安定させた菌を2容量%同培地に接種し、13℃で7日間培養したとき、乳酸酸度の上昇が0.05%以下である、ペディオコッカス属低温感受性変異株が提供される。
【0010】
特に、本発明によれば、上記乳酸酸度の上昇が0.02%以下であるペディオコッカス・ペントサセウスDT23株または同乳酸酸度の上昇が0.05%以下であるペディオコッカス・ペントサセウスDT4株である上記変異株が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、野菜または果実の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁、酵素処理物並びに之等の希釈物および濃縮物からなる群から選ばれる少なくとも1種の植物処理物に上記ペディオコッカス属低温感受性変異株の少なくとも1種を作用させて発酵させた後、低温で保存することを特徴とする植物発酵物の製造法、特に、発酵温度が20〜40℃であり、保存温度が13℃以下である上記植物発酵物の製造法および該製造法によって得られる植物発酵物が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に係わるペディオコッカス属に属する低温感受性変異株は、25〜40℃では旺盛な生育を行うが、低温(即ち13℃以下)では生育をほぼ中止し、乳酸の生成が極めて少なくなる微生物であり、その代表的な種としては、ペディオコッカス・ペントサセウスを例示できる。
【0013】
該ペディオコッカス・ペントサセウス変異株の代表例としては、ペディオコッカス・ペントサセウスDT23株およびペディオコッカス・ペントサセウスDT4株が挙げられる。
【0014】
之等は、埼玉県和光市の理化学研究所微生物系統保存施設より入手したペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885(Pediococcus pentosaceus JCM5885)を親株として、変異処理(例えば、NTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を用いる変異処理)によって創生することができる。之等は、本発明者によりそれぞれDT23株およびDT4株と命名され、平成12年4月20日に、工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)に、FERM P−17820号およびFERM P−17819号として寄託されている。
【0015】
以下、之等各菌株の菌学的性質を示す。これらの菌学的性質は、バージェイズ・マニュアル・オブ・システマテクック・バクテリオロジー(Bergey′s Mannual of Systematic Bacteriology)第2巻(1986年)記載の方法に準拠した。尚、その他の記載のない菌学的性質は、基本的に親株であるペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885と一致するものである。
DT23株の菌学的性質:
A.形態的性状:
(1)細胞の形,大きさ:球菌、1.0μm
(2)運動性:なし
(3)胞子の有無:なし
(4)グラム染色:陽性
(5)細胞の多形成の有無:なし
B.培地上の生育状態:
(1)GAM寒天培地:30℃、3日間で直径約1.5〜2.0mm、円形、白色のコロニーを形成する。
(2)GAM寒天穿刺培地:穿刺にそって成育、表面にもわずかに生育する。
(3)GAMブイヨン培養:30℃、3日間で混濁し、底部に沈澱する。
C.生理的性質:
(1)カタラーゼ:陰性
(2)生成乳酸:DL型
(3)グルコース発酵形式:ホモ
(4)アルギニンの加水分解:陽性
(5)耐塩性:4%食塩中及び6.5%食塩中:成育
18%食塩中:成育せず
(6)成育温度:50℃:成育せず
40℃:成育
(7)ミルクの酸性化および凝固:なし
(8)オキシダーゼ:陰性
(9)糖類の資化性:下記表1に示す通りである。
【0016】
【表1】
【0017】
DT4株の菌学的性質:
本菌株の菌学的性質は、上記したDT23株の菌学的性質と全て同一である。
【0018】
上記変異株DT23株およびDT4株の菌学的性質を、親株であるペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885株のそれと対比して検討した結果、親株は、10℃で生育するのに対して、両変異株はその生育が認められない点において本質的相違が認められる。また、両変異株間の相違としては、GAMブイヨン培地で予め前培養して生育を安定させた菌を2容量%同培地に接種し、13℃で7日間培養したとき、乳酸酸度の上昇が、DT23株では0.02%以下であり、DT4株では0.05%以下であった。尚、親株の乳酸酸度の上昇は上記培養期間中、7日で0.09〜0.11%程度の範囲内にある。
【0019】
上記各変異株を含む本発明の低温感受性変異株の作出は、基本的には増殖活性の高い菌体の懸濁液に変異剤を加えて変異処理を行ない、変異剤を除去してから培養し、この培養菌について前記した適当な増殖温度(たとえば30℃程度)で旺盛な生育を示し、低温(たとえば約10℃以下)で生育がほぼ中止するものを選び出すことにより行うことができる。この変異処理は、一般的な文献、例えば「Experiments in Molecular Genetics」(Jeffery H.Miller)、出版社Cold Spring Harbor Laboratory(1972)を参照して行なうことができる。
【0020】
変異処理に用いる変異剤としては、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(以下、NTGと略称する)が代表的であるが、エチルメタンスルホネート、アクリジンオレンジ等の変異剤、紫外線照射、X線照射等も可能である。
【0021】
さらに、これらの変異処理を数回繰り返すことにより、より効率よく変異株を分離することができる。
【0022】
本発明に係わる変異株は、上記した代表的2種の菌株をはじめとして、植物醗酵の分野において、生育至適温度において旺盛な生育を示し、低温度では感受性を示し生育不良を起こすペディオコッカス属に属する全てを包含する。
【0023】
以下、上記変異株を利用した本発明植物発酵物の製造につき詳述する。
【0024】
本発明方法において、本発明変異株を作用させる対象としての原料植物処理物としては、野菜または果実の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁、酵素処理物並びに之等の希釈物および濃縮物からなる群から選ばれるものを使用する。ここで野菜および果実としては、特に制限はなく通常のものから適宜選択することができる。その例としては、例えばリンゴ、桃、バナナ、イチゴ、ブドウ、スイカ、オレンジ、ミカンなどの果実類およびカボチャ、ニンジン、トマト、ピーマン、セロリ、ホウレンソウ、有色サツマイモ、コーン、ビート、ケール、パセリ、キャベツ、ブロッコリーなどの野菜類を挙げることができる。
【0025】
野菜または果実の切断物、破砕物および磨砕物は、例えば上記野菜または果実を洗浄後、必要に応じて熱湯に入れるなどしてブランチング処理した後、クラッシャー、ミキサー、フードプロセッサー、パルパーフィニッシャー、マイコロイダー等を用いて、切断、破砕、磨砕することにより調整できる。搾汁は、例えばフィルタープレス、ジューサーミキサー等を用いて調整でき、また上記磨砕物を濾布等を用いて濾過することによっても調整できる。酵素処理物は、上記切断物、破砕物、磨砕物、搾汁にセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロトペクチン分解酵素等を作用させることにより調整できる。
【0026】
本発明において原料とする植物処理物には、上記切断物、破砕物、磨砕物、搾汁および酵素処理物に加えて、これらの希釈物および濃縮物も包含される。ここで、希釈物には、水で1〜50倍に希釈したものが含まれる。また、濃縮物には、例えば凍結濃縮、減圧濃縮などの手段により濃縮して得られる1〜100倍濃縮物が包含される。
【0027】
本発明変異株を利用した発酵(上記植物処理物を用いた本発明変異株の培養)は、ペディオコッカス属菌その他の乳酸菌の培養に慣用される培地を用いて、常法に従って実施することができる。該培地としては、乳酸菌保存培地(日水製薬社製)やGAMブイヨン培地(日水製薬社製)などの乳酸菌の培養に通常用いられる各種のものから選択できる。
【0028】
上記発酵は、原料野菜処理物の所定量を含む上記培地に本発明変異株を接種して、静置培養もしくは緩やかな攪拌培養により実施することができる。発酵温度は、用いる変異株の生育温度範囲から適宜選択できる。通常20〜40℃程度、好ましくは25〜37℃程度から選択されるのがよい。発酵時間は、原料植物処理物の種類や採用される発酵条件、得られる発酵物に要求される品質などに応じて適宜決定することができる。一般には、10〜72時間の範囲で選ばれるのが適当である。
【0029】
安定した発酵を行なわせるために、予めスターターを用意し、これを植物処理物に接種して、発酵させる方法が推奨される。ここでスターターとしては、例えば代表的には、予め90〜121℃、5〜20分間、通常の殺菌処理を行なった植物処理物、酵母エキスを添加した10%脱脂粉乳などに、上記乳酸菌培養培地で培養した変異株を接種し、上記条件で培養したものが、好適なものとして挙げられる。このようにして得られるスターターは、通常変異株を107〜109個/g培養物程度含んでいる。
【0030】
発酵に際しては、雑菌の繁殖を防ぐために変異株の初発菌数が105〜107個/g程度となる範囲で菌を接種するのが望ましい。これは植物処理物に上記スターターを0.1〜10.0重量%接種することにより行ない得る。
【0031】
植物処理物に由来する雑菌の増殖は、接種する変異株により抑制されるが、より完全に雑菌の増殖を抑えるためには、予め90℃10分程度の加熱殺菌を行なうことができる。この加熱処理により、異臭の発生が防止され、栄養素の低減も最小限に抑えられた本発明の所望の発酵物を得ることができる。
【0032】
上記スターターを利用した発酵は、通常、25〜37℃の発酵温度条件下に、約10〜48時間で、所望の発酵物を得ることができる。
【0033】
望ましい発酵に達した時点で、直ちに低温、好ましくは10℃以下、通常0〜10℃にて保存して、変異株のそれ以上の増殖を抑制する。
【0034】
かくして、本発明所期の植物発酵物を得ることができる。得られる発酵物は、後記実施例に示すように、従来の方法によって得られるものでは13℃の保存でも乳酸菌数あるいは酸度が日数とともに上昇して最終的には発酵過多になり、好ましくない状態になるのに対して、保存料を添加することなしに製造直後の好ましい品質、特に酸味あるいは風味を維持しているものである。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、低温感受性を示す本発明ペディオコッカス属低温感受性変異株を利用することに基づいて、低温保存中にも酸度の上昇が顕著に抑制された品質良好な植物発酵物を得ることができる。
【0036】
【実施例】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものでない。
【0037】
【実施例1】
低温感受性変異株の分離
ペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885をGAMブイヨン培地(日水製薬社製)で34℃の培養を一晩行なうことによってリフレッシュさせたものを更に、GAMブイヨン培地5mlに2容量%接種し、34℃で静置培養した。
【0038】
菌数が109/ml付近に達した時点で培養を終了し、遠心分離(5000rpm、10分、4℃)により菌体を分離し、上澄を除去し、0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)により洗浄し、この一連の操作を2度繰り返した。
【0039】
遠心分離(5000rpm、10分、4℃)により沈殿させた菌体(109/ml)に、0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に溶解させた500μg/mlNTG溶液5mlを加え、よく懸濁させ、30℃で20分間反応させた。
【0040】
反応終了後、遠心分離(5000rpm、10分、4℃)により菌体を沈殿させ、上澄を除去し、0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)により洗浄し、該洗浄操作を3回繰り返した。その後、得られた菌体を5mlの0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に懸濁した(109/ml)。更に菌体を滅菌水により107倍に希釈し、これをBCPプレートカウントアガー培地(日水製薬社製)に1ml接種して、34℃で3日間培養した。
【0041】
形成されたコロニーを新しいBCP加プレートカウントアガー培地(同上)にレプリカし、13℃で3日間培養し、生育が認められないものを選抜した。ここで「生育が認められない」とは、コロニー形成能が肉眼的に弱いことをいい、選抜したコロニー数は、50/約2000であった。
【0042】
選抜した菌を34℃で5回継代培養した後も、13℃での生育が微弱なものの中からDT23株とDT4株を分離した。
【0043】
かくして得られたDT23株およびDT4株の菌学的性質は、前述したとおりである。
【0044】
【実施例2】
低温感受性変異株と低温非感受性株の生育および酸生成速度の比較(1)GAMブイヨン培地での培養
実施例1で分離した低温感受性変異株2株および親株(低温非感受性株)について、GAMブイヨン培地での37℃および13℃における成育状況を以下のように比較検討した。
【0045】
即ち、各株をGAMブイヨン培地に初発菌数が107/mlになるように接種し、37℃および13℃で7日間それぞれ培養した。
【0046】
そして、経時的に660nmの吸光度の増加を測定することにより菌の生育を比較し、また培養液を精秤し、0.1M水酸化ナトリウム水溶液で滴定した値を乳酸に換算することにより乳酸酸度を求めた。
【0047】
図1は、親株を用いて得られた上記結果を示すグラフであり、縦軸は660nmにおける吸光度および乳酸酸度(%)を、横軸は培養日数(日)を示す。図中、(1)は13℃での培養による吸光度の結果を、(2)は37℃での同結果を、(3)は13℃での培養による乳酸酸度の結果を、また(4)は37℃での同結果をそれぞれ示す。
【0048】
図2は、本発明変異株DT4を用いて得られた上記結果を、図1と同様にして示すグラフであり、図中、(1)は13℃での培養による吸光度の結果を、(2)は37℃での同結果を、(3)は13℃での培養による乳酸酸度の結果を、また(4)は37℃での同結果をそれぞれ示す。
【0049】
図3は、本発明変異株DT23を用いて得られた上記結果を、図1と同様にして示すグラフであり、図中、(1)は13℃での培養による吸光度の結果を、(2)は37℃での同結果を、(3)は13℃での培養による乳酸酸度の結果を、また(4)は37℃での同結果をそれぞれ示す。
【0050】
図1〜3から明らかなように、本発明変異株DT23およびDT4は、37℃では親株と同様の生育を示し、また同等の乳酸酸度を示すが、13℃では、親株が良好な生育を示すのに対して、生育が極めて微弱であり、酸度の上昇も極めて微弱であることが判る。
【0051】
【実施例3】
低温感受性変異株と非低温感受性菌(親株)の野菜および果実中における酸度生成量の比較
野菜および果実処理物を、下記表2に示す割合で混合し、121℃で10分間殺菌後、実施例2で用いたと同一の各菌をそれぞれ1白金耳接種し、34℃で17時間静置培養してスターターを調製した。
【0052】
尚、各処理物は以下の通り調製、入手した。
【0053】
ニンジン汁;ニンジンを洗浄後、そのまま煮沸水で5分間ブランチングし、ジューサーミキサーにより搾汁したもの。
【0054】
トマトペースト;トマトを沸騰水中で5分間ブランチングした後、皮を剥き、フードプロセッサーによりペースト状に磨砕したもの。
【0055】
カボチャペースト;カボチャを沸騰水浴中で5分間ブランチングした後、皮を剥き、フードプロセッサーによりペースト状に磨砕したもの。
【0056】
リンゴ果汁及び柑橘混合果汁;市販品(寿高原食品および宮崎農協果汁製)。
【0057】
【表2】
【0058】
次いで、予め90℃20分間加熱殺菌した表2に記載の各野菜および果実処理物混合物に、上記で調製したスターター(各野菜および果実処理物混合物と同じ混合物を用いて調製したもの)を2%(v/v)接種し、34℃で17時間静置培養を行なった。
【0059】
培養後、速やかに13℃まで温度を下げ、25日間13℃で保存した。
【0060】
保存期間中、経時的にサンプリングし、保存日数の経過に伴う酸度の変化を前記実施例2と同様にして測定した。
【0061】
結果を、図4に示す。
【0062】
図4は、縦軸に酸度(%)を、横軸に保存日数(日)をとり、試験した親株(図中(1)と表示)、本発明変異株DT4株(図中(2)と表示)および本発明変異株DT23株(図中(3)と表示)の経時的酸度変化をプロットしたグラフである。
【0063】
図4より、本発明変異株を用いて得られた発酵物は、いずれも、13℃で25日間保存した際、親株を用いて同様にして得られた発酵物に比して酸度の増加が少ない(増加酸度約0.05%以下)ことが明らかである。また、これらは官能的にも優れた風味を有していたのに対して、親株を用いて得られた発酵物は13℃25日間保存期間中に酸度が増加(増加酸度約0.2%)し、風味の変化(発酵臭の増加を伴う)が認められた。
【0064】
【実施例4】
下記表3に示す野菜および果実処理物混合物を、本発明変異株2株(DT23株およびDT4株)を用いて発酵させた(各変異株を用いた場合をそれぞれ「本発明A」および「本発明B」とする)。また、比較のため、親株であるペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885株(これを用いた場合を「比較a」とする)、他の乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムJCM1149株(これを用いた場合を「比較b」とする)およびラクトバチルス・カゼイJCM1134株(これを用いた場合を「比較c」とする)(両者とも埼玉県和光市の理化学研究所微生物系統保存施設より入手)を用いて同様に発酵させた。
【0065】
【表3】
【0066】
尚、カボチャペースト、リンゴ果汁及び柑橘混合果汁は、表2記載のものと同一である。キャベツ汁、ホウレンソウ汁、赤ビート汁は、各野菜を洗浄後、沸騰水浴中で5分間ブランチングし、ジューサーミキサーにより搾汁して調製した。
【0067】
発酵は、以下の通り実施した。即ち、先ず表3に示す野菜および果実処理物混合物を、121℃で10分間殺菌後、これに各乳酸菌をそれぞれ1白金耳接種し、30℃で16時間静置培養してスターターを調製した。
【0068】
次いで、予め90℃20分間加熱殺菌した表3に記載の各野菜および果実処理物混合物に、上記で調製した各スターター(各野菜および果実処理物混合物と同じ混合物を用いて調製したもの)を2%(w/w)接種し、30℃で16時間静置培養を行ない、その後、13℃で10日間低温保存して、本発明発酵物を得た。
【0069】
得られた各発酵物について、味、香り、発酵臭および総合評価の各項目を、無作為に選出したパネラー10名による5段階試験により以下の通り評価した。
5:非常によい、4:良い、3:普通、2:悪い、1:非常に悪い
結果を下記表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4より、本発明変異株を用いて得られた発酵物(本発明AおよびB)は、いずれも、親株を用いた場合(比較a)および他の乳酸菌を用いた場合(比較bおよびc)とは異なって、全ての項目において優れたものであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2に従う試験に従って、ペディオコッカス・ペントサセウスJCM5885株をGAMブイヨン培地で培養した時の菌の成育及び酸の生成過程を示すグラフである。
【図2】実施例2に従う試験に従って、本発明変異株DT4株をGAMブイヨン培地で培養した時の菌の成育及び酸の生成過程を示すグラフである。
【図3】実施例2に従う試験に従って、本発明変異株DT23株をGAMブイヨン培地で培養した時の菌の成育及び酸の生成過程を示すグラフである。
【図4】実施例3に従う試験に従って、低温感受性変異株と非低温感受性菌を培養し、その後13℃で保存した時の酸度変化を比較したグラフである。
Claims (4)
- ペディオコッカス属菌の低温感受性変異株であって、GAMブイヨン培地で予め前培養して生育を安定させた菌を2容量%同培地に接種し、13℃で7日間培養したとき、乳酸酸度の上昇が0.05%以下であるペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)DT4株(FERM P−17819)、または乳酸酸度の上昇が0.02%以下であるペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)DT23株(FERM P−17820)である変異株。
- 野菜または果実の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁、酵素処理物並びに之等の希釈物および濃縮物からなる群から選ばれる少なくとも1種の植物処理物に請求項1に記載の変異株の少なくとも1種を作用させて発酵させた後、低温で保存することを特徴とする、植物発酵物の製造法。
- 発酵温度が20〜40℃であり、保存温度が13℃以下である、請求項2に記載の方法。
- 請求項2または請求項3に記載の方法によって得られる植物発酵物。
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