以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1はステアリングギヤ比を制御すると共に各車輪の制駆動力の制御及び左右前輪の舵角の制御により車輌の挙動を制御する挙動制御装置の一部として構成された本発明による車輌用操舵制御装置の実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の従動操舵輪としての左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の駆動輪としての左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
ステアリングホイール14は操舵入力手段側部材としてのアッパステアリングシャフト22、転舵角可変装置24、操舵輪側部材としてのロアステアリングシャフト26、ユニバーサルジョイント28を介してパワーステアリング装置16のピニオンシャフト30に駆動接続されている。転舵角可変装置24は補助転舵駆動用の電動機32を含み、アッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することにより、ステアリングギヤ比の制御及び挙動制御の目的で左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置として機能し、舵角制御用電子制御装置34により制御される。
図示の実施例に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機36と、電動機36の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構38とを有する。電動式パワーステアリング装置16は電動式パワーステアリング装置(EPS)制御用電子制御装置40によって制御され、ハウジング42に対し相対的にラックバー18を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵力発生装置として機能する。尚補助操舵力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
各車輪の制動力は制動装置42の油圧回路44によりホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路44はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル48の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ50により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く挙動制御用電子制御装置52により個別に制御される。
図示の実施形態に於いては、図2に示されている如く、転舵角可変装置24は操舵入力手段側部材としてのアッパステアリングシャフト22及び操舵輪側部材としてのロアステアリングシャフト26の軸線56に整合して延在する実質的に円筒状のハウジング58を含み、ハウジング58はその上端の連結部58Aに於いてアッパステアリングシャフト22の下端に連結されている。
ハウジング58内には電動機32が収容され圧入により固定されており、電動機32は電動機ハウジング62に固定されたステータ64と、電動機ハウジング62の両端に配置された軸受66及び68により回転可能に支持されたロータ70とを有している。ロータ70は大径の永久磁石部70Aを有し、永久磁石部70Aの周りのステータ64にはコイル72が巻回されている。
ロータ70の下部シャフト70Bは軸受68を貫通して軸線56に沿って延在し、減速装置74を介してロアステアリングシャフト26の上端に連結されている。ロータ70の上部シャフト70Cは軸受66を貫通して軸線56に沿って延在し、上部シャフト70Cの上端には外周面に周方向に互いに隔置された複数個のロック溝を有するロックホルダ76が固定されている。
ハウジング58の内面にはロックホルダ76に対向してプランジャ式のロック装置78が固定されている。ロック装置78は軸線56に垂直に径方向に延在しハウジング58の内面に固定されたガイド筒80と、ガイド筒80内に往復動可能に配置されたプランジャ82と、プランジャ82をロックホルダ76へ向けて径方向内方へ付勢する圧縮コイルばね84と、ガイド筒80の周りに巻回されたソレノイド86とを有している。
ロック装置78はソレノイド86に対する通電が制御されることによりロックオン状態とロックオフ状態とに切り替わり、ソレノイド86が消勢されているときにはプランジャ82がロックホルダ76のロック溝に嵌入して電動機32のロータ70の回転を阻止することによりアッパステアリングシャフト22及びロアステアリングシャフト26の相対回転を阻止するロックオン状態になる。これに対しソレノイド86が付勢されると、プランジャ82が圧縮コイルばね84のばね力に抗して径方向外方へ駆動され、これによりロックホルダ76のロック溝より離脱して電動機32のロータ70の回転を許容するロックオフ状態になる。
ロータ70の永久磁石部70Aと軸受66との間の上部シャフト70Cには外周面に複数のN極及びS極が交互に配設された永久磁石ディスク88が固定されており、電動機6ハウジング62の内面には永久磁石ディスク88と共働してロータ70の回転角度φ、従ってアッパステアリングシャフト22とロアステアリングシャフト26との間の相対回転角度θreを検出する回転角度センサ90が永久磁石ディスク88に対向して固定されている。
図示の実施形態に於いては、ハウジング58の連結部58Aの周りにはスパイラルケーブル装置92が配置されている。スパイラルケーブル装置92は連結部58Aの周りに環状に延在し車体94に固定されたアウタ給電部材96と、図2には示されていないがアウタ給電部材96の内側にて連結部58Aに固定されたインナ給電部材と、外端にてアウタ給電部材96に固定され内端にてインナ給電部材に固定されインナ給電部材の周りに渦巻き状に数回巻回されたスパイラルケーブル98とを有している。
スパイラルケーブル98はゴムや樹脂の如き弾性を有する電気絶縁性の被覆中に複数の導線98A〜98Cを内蔵し、導線98A〜98Cの一端はそれぞれ電動機36のコイル72、ロック装置78のソレノイド86、回転角度センサ90に接続され、導線98A〜98Cの他端は舵角制御用電子制御装置34に接続されている。
かくして転舵角可変装置24はロック装置78がロックオフ状態にあるときには電動機32の回転によってアッパステアリングシャフト22に対しロアステアリングシャフト26を相対的に回転させることにより、操舵伝達比としてのステアリングギヤ比を変更し、ロック装置78がロックオン状態にあるときにはアッパステアリングシャフト22とロアステアリングシャフト26とを一体的に接続し、それらの相対回転を阻止する。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト22には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ100が設けられており、図2に示されている如く、操舵角θを示す信号はCAN102を経て舵角制御用電子制御装置34及び挙動制御用電子制御装置52へ入力される。転舵角可変装置24の回転角度センサ90により検出された相対回転角度θreを示す信号も舵角制御用電子制御装置34へ入力される。尚回転角度センサ90はロアステアリングシャフト26の回転角度θsを検出するセンサに置き換えられ、相対回転角度θreは操舵角の差θs−θとして求められてもよい。
また舵角制御用電子制御装置34及び挙動制御用電子制御装置52には横加速度センサ106により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、ヨーレートセンサ108により検出された車輌のヨーレートγを示す信号、車速センサ110により検出された車速Vを示す信号がCAN102を経て入力され、圧力センサ112により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び圧力センサ114FL〜114RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が挙動制御用電子制御装置52へ入力される。
尚舵角制御用電子制御装置34、EPS制御用電子制御装置40、挙動制御用電子制御装置52はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ100、回転角度センサ90、横加速度センサ106、ヨーレートセンサ108はそれぞれ車輌の左旋回方向への操舵又は転舵又は旋回の場合を正として操舵角θ、相対回転角度θre、横加速度Gy、ヨーレートγを検出する。
後述の如く、挙動制御用電子制御装置52は、後述の如く図4に示されたフローチャートに従って車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するためのステアリングギヤ比Rgを演算し、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及びステアリングギヤ比Rgに基づき暫定目標舵角δstを演算する。
また挙動制御用電子制御装置52は、車輌の走行に伴い変化する操舵角θの如き運転操作量及び車輌の横加速度Gyの如き車輌状態量に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動を安定化させるための車輌の目標ヨーモーメントMt及び車輌の目標減速度Gxbtを演算する。
そして挙動制御用電子制御装置52は、目標ヨーモーメントMtを所定の比率にて左右前輪の舵角制御による目標ヨーモーメントMtsと各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbとに配分し、目標ヨーモーメントMtsに基づき左右前輪の目標転舵角Δδmtを演算すると共に、暫定目標舵角δstと目標転舵角Δδmtとの和を左右前輪の目標舵角δtとして演算し、目標舵角δtを示す信号をCAN102を経て舵角制御用電子制御装置34へ出力する。
特に挙動制御用電子制御装置52は、当技術分野に於いて周知の如く、車輌がスピン状態にあるときには、車輌を減速させると共に車輌に旋回抑制方向のヨーモーメントを付与するよう車輌の目標ヨーモーメントMt及び車輌の目標減速度Gxbtを演算し、従ってこの場合の目標転舵角Δδmtの転舵方向は旋回方向とは逆方向、即ち切り戻し方向であり、挙動制御により車輌の挙動が安定化する過程に於いては左右の前輪は相対的に旋回方向、即ち切り増し方向へ転舵される。
また挙動制御用電子制御装置52は、当技術分野に於いて周知の如く、車輌がドリフトアウト状態にあるときには、車輌を減速させると共に車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを付与するよう車輌の目標ヨーモーメントMt及び車輌の目標減速度Gxbtを演算するが、この場合には前輪の横力が飽和状態にあり前輪を切り増し転舵しても横力を増大させることができないので、目標ヨーモーメントMtの全てを各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbに配分し、目標転舵角Δδmtは0に演算される。
また挙動制御用電子制御装置52は目標減速度Gxbt及び目標ヨーモーメントMtbに基づき各車輪の目標制動圧Ptiを演算し、各車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう油圧回路44を制御する。
また挙動制御用電子制御装置52は何れかの車輪の制動スリップ量が過大になると、当技術分野に於いて公知の要領にて当該車輪の制動スリップ量が所定の範囲内になるよう当該車輪の制動圧Piを制御することによってアンチスキッド制御を行い、また何れかの駆動輪の加速スリップ量が過大になると、当技術分野に於いて当該駆動輪の加速スリップ量が所定の範囲内になるよう当該車輪の制動圧Piを制御することによってトラクション制御を行う。
舵角制御用電子制御装置34は、フローチャートとしては示されていないが、左右前輪の目標舵角δtに基づき転舵角可変装置24の目標相対回転角度θretを演算し、目標相対回転角度θretと回転角度センサ64により検出される実際の相対回転角度θreとの偏差Δθreが0になるよう転舵角可変装置24の電動機32を制御する。
従って舵角制御用電子制御装置34は、車輌の挙動が安定である場合や車輌がドリフトアウト状態にある場合には、目標転舵角Δδmtは0であるので、左右前輪の舵角が暫定目標舵角δstになるよう転舵角可変装置24を制御し、これにより運転者の操舵操作に応じて所定の操舵特性にて左右の前輪10FL及び10FRを転舵するステアリングギヤ比制御を行う。
また舵角制御用電子制御装置34は、車輌がスピン状態にある場合には、ステアリングギヤ比制御を行うと共に、左右前輪を暫定目標舵角δstに対し相対的に目標転舵角Δδmt転舵し、これにより車輌にアンチスピンヨーモーメントを付与して車輌のスピン状態を低減する。
また車輌が左右の路面の摩擦係数が大きく異なる走行路を走行する場合の如く、挙動制御用電子制御装置52により左右輪の一方についてのみアンチスキッド制御又はトラクション制御が行われる場合には、舵角制御用電子制御装置34は、左右輪の制動力差又は駆動力差に起因するヨーモーメントを相殺する車輌偏向防止ヨーモーメントを付与すべく左右前輪の目標転舵角Δδmtを演算し、左右前輪を暫定目標舵角δstに対し相対的に目標転舵角Δδmt転舵し、これにより車輌の偏向を低減する。
また舵角制御用電子制御装置34は、後述の如く図3に示されたフローチャートに従って転舵角可変装置24のロック装置78の作動を制御し、特に転舵角可変装置24の負荷が基準値以上であるときにはロック装置78により転舵角可変装置24を機械的にロックし、これによりアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転を阻止するが、基準値は左右前輪の舵角の制御による挙動制御が実行されるときには舵角の制御による挙動制御が実行されることなくステアリングギヤ比制御のみが実行される場合に比して高い値に設定される。
また挙動制御用電子制御装置52は、舵角制御用電子制御装置34によりロック装置78がロックオン状態に設定され、左右前輪の転舵制御が禁止されているときには、目標相対回転角度θretを0に低減し、目標ヨーモーメントMtの全てを各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbに配分し、各車輪の制動力の制御により目標ヨーモーメントMtに対応するヨーモーメントを車輌に付与して車輌の挙動を安定化させる。
また舵角制御用電子制御装置34は、ロック装置78がロックオン状態にある状況に於いてロック解除条件が成立したときには、まずロック装置78に対しロック解除指令を出力し、しかる後回転角度センサ90により検出される回転角度φに基づきロック解除指令を出力する前後の回転角度φの変化量が基準値以上であるか否かの判別により、ロック装置78のロック状態が解除されたか否かを判定する。そして舵角制御用電子制御装置34は、ロック装置78のロック状態が解除されたと判定したときには左右前輪の転舵制御を許可し、ロック装置78のロック状態が解除されたと判定しないときには左右前輪の転舵制御を許可しない。
更にEPS制御用電子制御装置40には、図1には示されていない操舵トルクセンサより操舵トルクTsを示す信号、操舵角センサ100より操舵角θを示す信号、車速センサ110より車速Vを示す信号が入力され、EPS制御用電子制御装置40はこれらの情報に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生するよう電動式パワーステアリング装置16を制御し、舵角制御用電子制御装置34による左右前輪の舵角の制御を補助すると共に、左右前輪の舵角の制御による操舵反力の変動を低減するよう電動式パワーステアリング装置16を制御する。
またEPS制御用電子制御装置40は、例えば操舵トルクTsや電動式パワーステアリング装置16の電動機36に対する制御電流に基づき電動式パワーステアリング装置16の負荷を判定し、電動式パワーステアリング装置16の負荷が基準値以上になると電動機36に対する制御電流の通電を停止し、電動式パワーステアリング装置16による操舵アシストを停止する。
尚、上述の操舵輪の舵角制御によるステアリングギヤ比制御及び挙動制御、制動力の制御による挙動制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、アンチスキッド制御又はトラクション制御中のヨーモーメント相殺の舵角制御、操舵アシスト力及び操舵反力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
次に図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於ける転舵角可変装置24のロック制御ルーチンについて説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。またロック判定フラグFnはロック装置78がロックオン状態にあるか否かに関するものであり、0はロック装置78がロックオン状態にあることを示し、1はロック装置78がロックオフ状態にあることを示す。
まずステップ10に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはロック判定フラグFnが0であるか否かの判別、即ちロック装置78がロックオン状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
ステップ30に於いては後述の図4に示されたフローチャートに従ってロック装置78のロックオン状態が解除されたと判定されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ40に於いてロック装置78のロックオン状態が継続され、肯定判別が行われたときにはステップ50に於いてロック判定フラグFnが1にセットされる。
ステップ60に於いては例えば図4に示されたフローチャートに従って演算される左右前輪の目標舵角δtの絶対値がそれらの最大可能転舵角δmax(正の定数)以上であるか否かの判別により、左右前輪がそれらの最大可能転舵角以上に転舵されようとする状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70へ進む。
ステップ70に於いては後述の図5に示されたフローチャートに従って左右前輪の舵角の制御による挙動制御が実行されているか否かの判別、即ち後述の挙動制御の目標転舵角Δδmtの絶対値が正の値であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはそのままステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
ステップ80に於いては左右前輪の舵角の制御による挙動制御が開始される可能性が高い状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ90に於いて後述のステップ110の判別に於ける基準値θreoが標準値θreon(正の定数)に設定され、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて基準値θreoが標準値よりも高い値θreoh(正の定数)に設定される。
尚左右前輪の舵角の制御による挙動制御が開始される可能性が高い状況であるか否かの判別は、例えば後述の図5に示されたフローチャートに従って行われる各車輪の制動力の制御によるスピン抑制の挙動制御、各車輪の制動力の制御によるドリフトアウト抑制の挙動制御、何れかの車輪についてのアンチスキッド制御、何れかの駆動輪についてのトラクション制御、左右一方の車輪についてのアンチスキッド制御又はトラクション制御の実行に伴う車輌偏向防止ヨーモーメント発生のための舵角制御の何れかが実行されているか否かの判別により行われてよい。
ステップ110に於いてはアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の目標相対回転角度θretと実際の相対回転角度θreとの偏差Δθreの絶対値が基準値θreo以上であるか否かの判別により、転舵角可変装置24の負荷が高い状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
ステップ120に於いてはステップ110の肯定判別が基準時間Tc(正の定数)以上継続して行われたか否かの判別、即ち転舵角可変装置24の高負荷状態が基準時間Tc以上継続しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130に於いてロック装置78のロックオフ状態が継続され、肯定判別が行われたときにはステップ140に於いてロック装置78がロックオン状態に切り換えられると共に、ロック判定フラグFnが0にリセットされる。
次に図4に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於けるロック装置78のロック解除判定ルーチンについて説明する。尚ロック解除判定フラグFunはロック装置78のロックオン状態が解除されたと判定されたか否かに関するものであり、0はロックオン状態が解除されと判定されていないことを示し、1はロックオン状態が解除されたと判定されたことを示す。
まずステップ210に於いては当技術分野に於いて公知の要領にてロック装置78のロックオン状態を解除すべき条件が成立しているか否かの判別、例えばロック装置78の負荷がロック解除基準値以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ250へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ220へ進む。
ステップ220に於いてはステップ210に於ける肯定判別が2回目以降であるか否かの判別、即ち既に後述のステップ240及び250が実行されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ240へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
ステップ230に於いてはロック装置78のロックオン状態の解除を確認すべく、転舵角可変装置24の電動機32に対し該電動機を所定量回転させる回転指令信号が出力され、或いは運転者により操舵操作が行われているときには通常のステアリングギヤ比の制御が実行される。
ステップ240に於いては回転角度センサ90によりロック解除指令出力直前に検出された回転角度φoが現在の回転角度φに設定されると共に、ロック装置78に対しロックオン状態を解除すべき指令信号が出力されることにより、ロック部材としてのプランジャ82がロックオン状態の位置よりロックオフ状態の位置へ移動され、ステップ250に於いてはロック解除判定フラグFunが0にリセットされ、しかる後ステップ305へ進む。
ステップ260に於いてはロック解除判定フラグFunが1であるか否かの判別、即ちロック装置78のロックオン状態が解除されたと既に判定されたか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ290へ進み、否定判別が行われたときにはステップ270へ進む。
ステップ270に於いてはロック解除指令出力直前の回転角度φoと現在の回転角度φとの偏差の絶対値が基準値φ1(正の定数)以上であるか否かの判別、即ち電動機32が基準値以上回転したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ305へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ280に於いてロック解除判定フラグFunが1にセットされる。
ステップ290に於いては電動式パワーステアリング装置16が正常に作動しているか否かの判別、即ち操舵アシストが正常に行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ305へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ295へ進む。
ステップ295に於いては図1には示されていない温度センサにより検出される転舵角可変装置24の電動機32の温度Tmが基準値Tmo以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ305に於いてロック装置78のロック状態が解除されていないと判定された後ステップ40へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ300に於いてロック装置78のロック状態が解除されたと判定された後ステップ50へ進む。
次に図5に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於ける左右前輪の舵角制御及び各車輪の制動力の制御による車輌の挙動制御ルーチンについて説明する。尚図5に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ310に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ320に於いては車速Vに基づき図5に示されたグラフに対応するマップよりステアリングギヤ比Rgが演算され、下記の式1に従って所定の操舵特性を達成するための左右前輪の暫定目標舵角δstが演算される。
δst=θ/Rg ……(1)
尚暫定目標舵角δstは運転者の操舵操作に対応する舵角δw(=θ/Rgo)と所定の操舵特性を達成するための制御転舵角δcとの和である。また操舵特性の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、ステアリングギヤ比Rgは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよく、例えば操舵に対する車輌の過渡応答性を向上させるべく操舵速度によっても変化されてよい。
ステップ330に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSが演算され、ステップ340に於いてはスピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動制御が必要な状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ360へ進み、否定判別が行われたときにはステップ350に於いて左右前輪の目標転舵角Δδmtが0に設定された後ステップ430へ進む。
ステップ360に於いてはスピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動を安定化させるための車輌の目標ヨーモーメントMt及び車輌の目標減速度Gxbtが当技術分野に於いて公知の要領にて演算される。
ステップ370に於いては図2に示されたフローチャートに従って設定されるフラグFnが0であり左右前輪の転舵制御が禁止され又は当技術分野に於いて公知の他の転舵制御禁止条件が成立しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ400へ進み、否定判別が行われたときにはステップ380へ進む。
ステップ380に於いては目標ヨーモーメントMt及び配分比Rb(0よりも大きく1よりも小さい正の定数)に基づき下記の式2及び3に従って左右前輪の舵角制御による目標ヨーモーメントMts及び各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbが演算される。尚配分比Rbは車輌の走行状況に応じて可変設定されてもよい。
Mts=(1−Rb)Mt ……(2)
Mtb=Rb・Mt ……(3)
ステップ390に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて目標ヨーモーメントMtsを達成するための左右前輪の目標転舵角Δδmtが演算され、しかる後ステップ430へ進む。
ステップ400に於いては各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbが目標ヨーモーメントMtに設定され、ステップ410に於いては左右前輪の目標舵角δtが現在の舵角δaに設定され、ステップ420に於いては目標舵角δtを示す信号が舵角制御用電子制御装置34へ送信され、しかる後ステップ440へ進む。
ステップ430に於いては下記の式4に従って左右前輪の目標舵角δt、即ち操舵特性の制御及び左右前輪の舵角制御による車輌の挙動制御を達成するための左右前輪の目標舵角δtが演算され、目標舵角δtを示す信号が舵角制御用電子制御装置34へ送信される。
δt=δst+Δδmt ……(4)
ステップ440に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて目標ヨーモーメントMtb及び車輌の目標減速度Gxbtを達成するための各車輪の目標制動力が演算されると共に、各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう制御される。
かくして図示の実施例によれば、ロック装置78がロックオン状態にあり、ロック判定フラグFnが0であるときにはステップ20に於いて肯定判別が行われ、ステップ30に於いてロック装置78のロックオン状態が解除されたと判定されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ40に於いてロック装置78のロックオン状態が継続され、肯定判別が行われたときにはステップ50に於いてロック判定フラグFnが1にセットされる。
従ってロック装置78のロックオン状態が解除されたと判定されない限りロック判定フラグFnが0に維持され、図5に示されたフローチャートのステップ370に於いて肯定判別が行われるので、ロック装置78がロックオン状態にあるにも拘らずステアリングギヤ比の制御及び挙動制御による左右前輪の転舵制御が開始される虞れを効果的に低減することができ、またロック部材としてのプランジャ82の位置を検出するセンサは不要であるので、転舵角可変装置24の構造が複雑しそのコストが増大することを確実に回避することができる。
また図示の実施例によれば、ロック装置78のロックオン状態が解除されたと判定されたか否かの判別は、ロック装置78のロックオン状態を解除すべき条件が成立しているときに(ステップ210)、まずステップ240に於いてロック装置78に対しロックオン状態を解除すべき指令信号が出力され、しかる後ステップ230に於いて転舵角可変装置24の電動機32が回転駆動され、ステップ270に於いてロック解除指令出力直前の回転角度φoと現在の回転角度φとの偏差の絶対値が基準値φ1以上であるか否かの判別により、電動機32が基準値以上回転したか否かの判別が行われ、電動機32が基準値以上回転したと判別されたときにステップ300に於いてロック装置78のロック状態が解除されたと判定される。
従ってプランジャ82の位置を検出するセンサを要することなくロック装置78のロック状態が解除されたことを正確に判定することができ、特にステップ230に於いて転舵角可変装置24の電動機32が所定量回転駆動される場合には、通常のステアリングギヤ比の制御により回転駆動される場合に比して、ロック装置78のロック状態の解除判定を確実に且つ速やかに行うことができる。
また図示の実施例によれば、ステップ295に於いて転舵角可変装置24の電動機32の温度Tmが基準値Tmo以下であると判別された場合に、ステップ300に於いてロック装置78のロック状態が解除されたと判定されるので、ロック装置78のロック状態が解除された直後に電動機32の温度が高いことに対処して再度ロック装置78がロックオン状態に切り替えられることを確実に防止することができる。
尚図示の実施例によれば、ロック装置78がロックオン状態にないときにはステップ20に於いて否定判別が行われ、ステップ70〜100に於いて左右前輪の舵角の制御による挙動制御が実行されているとき又は左右前輪の舵角の制御による挙動制御が開始される可能性が高い状況であるときにはステップ110の判別の基準値θreoが標準値θreonよりも高い値θreohに設定される。
そしてステップ110及び120に於いてアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の目標相対回転角度θretと実際の相対回転角度θreとの偏差Δθreの絶対値が基準値θreo以上である状況が基準時間Tc以上継続しているか否かの判別により、転舵角可変装置24の高負荷状態が基準時間Tc以上継続しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130に於いてロック装置78のロックオフ状態が継続され、肯定判別が行われたときにはステップ140に於いてロック装置78がロックオン状態に切り換えられると共に、ロック判定フラグFnが0にリセットされる。
ロック装置78のロックオフ状態が継続され、ロック判定フラグFnが1であるときには、図5に示されたフローチャートチャートのステップ370に於いて否定判別が行われ、ステップ310〜360及びステップ380〜440の処理により左右前輪の目標舵角δtが所定のステアリングギヤ比特性を達成するための左右前輪の暫定目標舵角δstと左右前輪の舵角の制御により車輌に所要のヨーモーメントを付与するための目標転舵角Δδmtとの和に演算され、目標舵角δtを示す信号が舵角制御用電子制御装置34へ送信され、左右前輪の舵角が目標舵角δtになるよう転舵角可変装置24が制御される。
これに対しロック判定フラグFnが0にリセットされると、図5に示されたフローチャートチャートのステップ370に於いて肯定判別が行われ、ステップ400に於いて各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbが目標ヨーモーメントMtに設定され、ステップ410に於いて左右前輪の目標舵角δtが現在の舵角δaに設定され、ステップ420に於いて目標舵角δtを示す信号が舵角制御用電子制御装置34へ送信され、これにより転舵角可変装置24による左右前輪の転舵駆動は行われない。
従って図示の実施例によれば、左右前輪の舵角の制御による挙動制御が実行されているときには、基準値θreoが標準値よりも高い値θreohに設定されるので、ステアリングギヤ比の制御のみが行われる場合に比して、転舵角可変装置24の負荷が高い領域まで左右前輪の転舵制御を行うことができ、これにより左右前輪の舵角の制御による挙動制御を効果的に行うことができ、またステアリングギヤ比の制御のみが行われる場合には基準値θreoが標準値θreonに設定され、標準値θreonは低い値であってよいので、ステアリングギヤ比の制御のみが行われる場合に転舵角可変装置24に過剰の負荷が作用することを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、左右前輪の舵角の制御による挙動制御が実行されているとき、左右前輪の舵角の制御による挙動制御が開始される可能性が高いとき、ロック装置78のロック状態が解除されていないと判定されたときには、転舵角可変装置24による左右前輪の転舵駆動が行われないだけでなく、換言すれば転舵角可変装置24の目標転舵角Δδtが0に低減されるだけでなく、ロック装置78の作動によりアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転が機械的に阻止されるので、転舵角可変装置24に転舵負荷が作用することを確実に防止することができると共に、運転者の操舵操作を確実に転舵角可変装置24を介して左右前輪に伝達させることができる。
また図示の実施例によれば、ロック装置78がロックオン状態にあるときには、図5に示されたフローチャートのステップ370に於いて肯定判別が行われ、ステップ400に於いて各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbが目標ヨーモーメントMtに設定されると共に、ステップ410に於いて左右前輪の目標舵角δtが現在の舵角δtaに設定され、これにより左右前輪の転舵制御は実行されず、各車輪の制動力の制御により目標ヨーモーメントMtに対応するヨーモーメントが車輌に付与され、車輌の挙動が安定化される。
従って挙動制御は必要であるが、転舵角可変装置24に過剰の負荷が作用することを防止すべく左右前輪の舵角の制御による挙動制御が行われない場合には、左右前輪の転舵制御による挙動制御が実行されないことを各車輪の制動力の制御による挙動制御によって確実に補填し、車輌の挙動を確実に安定化させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、ステップ230に於いて転舵角可変装置24の電動機32に対し該電動機を所定量回転させる回転指令信号が出力され、或いは運転者により操舵操作が行われているときには通常のステアリングギヤ比の制御が実行されるようになっているが、通常のステアリングギヤ比の制御が実行は省略されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ290に於いて電動式パワーステアリング装置16が正常に作動しているか否かの判別が行われ、ステップ295に於いて転舵角可変装置24の電動機32の温度Tmが基準値Tmo以下であるか否かの判別が行われるようになっているが、これらの判別の少なくとも一方が省略されてもよい。
また上述の実施例に於いては、転舵角可変装置24は電動機32によりアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転させることにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動的に転舵するようになっているが、操舵入力手段に対し相対的に操舵輪を転舵駆動し操舵伝達比を制御することができ、実際の転舵量や操舵伝達比を検出手段により検出し得る限り、転舵角可変装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
また上述の実施例に於いては、転舵角可変装置24のロック装置はアッパステアリングシャフト22に対しロアステアリングシャフト26が相対的に回転することを機械的に阻止するようになっているが、ロック装置は転舵角可変装置24に於ける相対回転を阻止し得る限り、例えば電磁力により相対回転を阻止するものであってもよい。
また上述の実施例に於いては、車輌の挙動を安定化させるための車輌の目標ヨーモーメントMt及び車輌の目標減速度Gxbtが演算され、目標ヨーモーメントMtが所定の比率にて左右前輪の舵角制御による目標ヨーモーメントMtsと各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbとに配分され、目標ヨーモーメントMtsに基づき左右前輪の目標転舵角Δδtが演算されるようになっているが、車輌の挙動を安定化させるための目標転舵角Δδtは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよい。
また上述の実施例に於いては、制駆動力の制御による挙動制御は各車輪の制動力が制御され車輌に所要のヨーモーメントが付与されることにより車輌の挙動を制御するようになっているが、制駆動力の制御による挙動制御は各車輪の制動力及び駆動力が制御されることにより行われるものであってもよく、また制駆動力の制御による挙動制御が省略されてもよい。