JP4566096B2 - リン酸化糖及び/又はそれらの塩を用いたpH調整剤 - Google Patents

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本発明は、高温加熱条件下において、安定な緩衝領域を無機リン酸よりも広い範囲で維持することができる、リン酸結合オリゴ糖及び/又はそれらの塩を用いたpH調整剤及びその用途に関するものである。
食品衛生法でのpH調整剤の定義は「食品を適切なpH領域に保つ目的で使用される添加物及びその製剤。ただし、中華麺類にかんすいの目的で使用される場合を除く。」とされており、pH調整機能を有する組成物は広く食品及び食品加工品に使用されている。
特に、食品の風味、色調、食感、酵素の活性、微生物の生育、添加物の機能などはpHに影響され、pH調整剤の機能は食品のpHを適切な範囲に調整することにより、食品の品質の安定化、保存性の向上に大きく寄与する。また、「保存料」、「日持ち向上剤」、「酸化防止剤」、「増粘剤」等の食品添加物製剤の副剤としての性能の向上及び製剤の安定性のためにも多用されている。
従来、麺類、漬け物、米飯、嗜好食品などの食品を劣化させずに長期保存性を付与するために、食品の製造過程でpH調整する方法が多数提案されている。例えば、麺類のゆで液及び浸漬液のpH調整する方法として「リンゴ酸及びリンゴ酸ナトリウムを使用する方法」(特許文献1)、「グルコン酸塩、グルコノデルタラクトン、クエン酸塩及びクエン酸を使用する方法」(特許文献2)などがある。
また、一般に加工食品を含む多くの食品は、微生物の繁殖を抑え、食品の保存性を高めるために加熱処理されることが多い。特に密封容器入り飲料製品は、長期間の保存が可能であることを必要とされるため、100℃以上、時には150℃もの高温で加熱殺菌するレトルト殺菌、超高温瞬間殺菌(UHT殺菌)といわれる商業的殺菌を施すことが必須となっている。
しかしながら、このような高温での殺菌を施すことは、製品中に存在する微生物を死滅させる一方で、食品素材成分の分解により酸性成分を増加させ、これにより製品のpHを低下させ酸味を増大し、或る種の人にとっては胸焼けを生じさせてしまうこともある。
更に、酸性原料素材に乳原料を添加して製造するようなもの、例えば乳入りコーヒー飲料などの場合においては、乳原料と調合に供する際のコーヒー抽出物のpHを何らかの方法で上昇させなければ、乳タンパク質が等電点沈澱を起こしてしまうおそれがある。
これらの問題を解決するため、現在一般的に使用されている手段として、殺菌前に炭酸水素ナトリウムに代表されるような食品用アルカリ剤をpH調整剤として添加して、コーヒー抽出液を中和する方法が用いられている。
しかしながら、コーヒーを含む密閉容器入り飲料や食品の天然、自然といったイメージを保持したいという目的も含め、天然由来のpH調整機能を有する食品素材は殆どなく、前記食品用アルカリ剤に頼らねばならない状況にある。
特開昭54−41340号公報 特開2002−34529号公報
本発明は、加熱条件下においてもアルカリ剤などの化学物質の添加を行うことなく食品、医薬品、化粧品、香料品などのpHを中性付近に調整し、かつ食品、医薬品、化粧品、香料品などの製造において、種々の処理工程後のpHを適した範囲に保持することができるpH調整剤及びその用途を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、リン酸結合オリゴ糖及び/又はそれらの塩が加熱条件下でも、無機リン酸よりも優れたpH緩衝能を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)リン酸結合オリゴ糖及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有するpH調整剤であって、60℃以上での処理を含む方法に用いられるpH調整剤。
(2)リン酸結合オリゴ糖の塩がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びその他の2価金属塩から選ばれる少なくとも1種を含有する前記(1)に記載のpH調整剤。
(3)前記(1)又は(2)に記載のpH調整剤を含有する食品、飲料、飼料、肥料、口腔衛生品、化粧品、医薬品、入浴剤又は洗剤。
(4)コーヒー飲料である前記(3)に記載の飲料。
(5)リン酸結合オリゴ糖及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有するコーヒー飲料。
(6)60℃以上での処理工程を含み、pH調整剤としてリン酸結合オリゴ糖及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を用いる、食品、飲料、飼料、肥料、口腔衛生品、化粧品、医薬品、入浴剤又は洗剤の製造方法。
(7)飲料がコーヒー飲料である前記(6)に記載の方法。
(8)60℃以上での工程を含む工程において、pH調整剤としてリン酸結合オリゴ糖及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を用いるpH調整方法。
食品、飲料、化粧品、医薬品など、及びその製造におけるpHの管理は製造工程、製品保存期間中における品質保持の上で重要な管理項目である。
本発明によれば、加熱条件下において、安定な緩衝領域を無機リン酸塩よりも広い範囲で維持することができる。
本発明は、食品、飲料、飼料、肥料、口腔衛生品、化粧品、医薬品、入浴剤、洗剤用品などの分野で広く利用することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
リン酸結合オリゴ糖は、リン酸基の結合したオリゴ糖であり、例えば、リン酸基の結合した多糖類(以下「リン酸結合多糖類」という。)を酵素や酸で分解することで製造される。リン酸結合多糖類としては、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉のようにもともとリン酸基を有している天然のリン酸結合多糖類の他に、化学合成によって、例えば多糖類のリン酸化反応より多糖類にリン酸基を導入したリン酸結合多糖類が挙げられる。化学合成によるリン酸結合多糖類の原料となる多糖類としては、例えば、澱粉、ガラクツロナンなどのペクチン質、ガラクトマンナンなどの植物ガム質、グルコマンナンなどの粘質性物、ポリデキストロースなどの合成多糖類、好ましくは澱粉が挙げられる。この際の使用澱粉としては、トウモロコシ、小麦などの種子澱粉やタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉などの根茎類の澱粉など、広く一般に利用されている植物起源の澱粉だけでなく、どのような種類、起源の澱粉、更には加工澱粉も使用することができる。
澱粉由来のリン酸結合オリゴ糖は、例えば以下のようにして製造できる。
<馬鈴薯澱粉原料からのリン酸結合オリゴ糖の製造>
馬鈴薯澱粉の場合には0.05〜0.1重量%のリンが結合リンとして存在することが知られている。馬鈴薯澱粉はこのように含まれる結合リンが少なく、酵素分解、つまり液化・糖化反応で生成したリン酸結合オリゴ糖は糖化液全糖中の1重量%程度である。よって工業的にリン酸結合オリゴ糖を製造するには特開平10−84985号公報に開示されているように、馬鈴薯澱粉を液化、糖化した後、濾過、活性炭処理、イオン交換処理を行い、アニオン交換樹脂に吸着したリン酸結合オリゴ糖を塩化カリウム、水酸化ナトリウム等の溶液で溶出させている。これにより純度の高いリン酸結合オリゴ糖溶液が得られる。
<化学合成リン酸結合澱粉からのリン酸結合オリゴ糖の製造>
結合リンの高いリン酸結合澱粉は食品添加物として認められており、化学合成で得られるリン酸結合澱粉を原料とする場合は、特開平11−255803号公報で開示しているようにリン酸結合澱粉をα−アミラーゼで分解すれば、リン酸結合オリゴ糖を得ることができる。更に、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどの糖化酵素で低分子化してもよい。得られたリン酸結合オリゴ糖を含む溶液は、必要に応じて活性炭処理、脱塩処理などの通常の精製処理技術により純度を高くすることができる。脱塩処理の方法としては、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理、ナノフィルトレーション(NF)膜処理などが用いられる。
本発明で用いるリン酸結合オリゴ糖としては、その分子内に少なくとも1個のリン酸基を有するもので、かつ水溶性であれば特に限定されるものではないが、平均重合度2〜8、結合リン0.03〜5重量%のものが好ましく、更に、平均重合度3〜6、結合リン0.05〜4.5重量%のものがより好ましい。
本発明で用いるリン酸結合オリゴ糖の塩における金属イオンとしてはNa、Kなどのアルカリ金属、Ca、Mgなどのアルカリ土類金属(好ましくはMg)、及びFe、Zn、Mn、Cu、Se、Cr、Mo等の栄養成分として機能する金属が挙げられるが、その中でも特にナトリウム、カリウムが好ましい。
本発明のpH調整剤には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、固結防止剤、賦形剤、酸化防止剤、食塩、香料、各種エステル類、糖類、接着剤などの添加剤を配合してもよい。本発明のpH調整剤は、各種の固結防止剤、賦形剤もしくは媒体と適宜混合することができ、常法により粉剤、顆粒剤、錠剤又は水溶液などの液剤などにして用いられる。
本発明のpH調整剤は、食品、飲料、飼料、肥料、口腔衛生品、化粧品、医薬品、入浴剤、洗剤等の様々な製品に使用でき、pH調整に適用される製品の種類は限定されない。
pH調整されるべき製品に本発明のpH調整剤を添加する方法は、特に限定されず、対象となる製品の製造時、加工時、保存時などに、製品又はその素材に混合、散布、噴霧など任意の手段により行うことができ、使用方法は限定されるものではない。
本発明のpH調整剤の添加量は、pH調整されるべきものの種類や処理時間などの製造方法、変色防止や保存性向上などの使用目的に応じて、適宜増減させてもよく、有効な添加量は試験を行って、適宜定めることが望ましい。
本発明のpH調整剤のpH緩衝領域は、pH緩衝系を構成する酸成分、塩基成分によって異なるが、有効なpH緩衝領域はpH3.0〜9.0、特に有効な領域はpH5.0〜8.0である。また、本発明のpH調整剤を各種タンパク質類、アミノ酸類、脂質類、糖類やそれら混合物など、他の化合物と混合して用いた場合、pH3.0未満の酸性領域、又はpH9.0を超えるアルカリ性領域においてpHを緩衝させることができる場合がある。本発明は、pH緩衝領域によって限定されるものではない。
本発明における加熱条件は、60℃以上であれば特に制限はないが、好ましくは60℃〜200℃、更に好ましくは100℃〜150℃である。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
馬鈴薯澱粉を水と混合して澱粉濃度30重量%のスラリーを調製し、水酸化カルシウムを添加してpH6.3に調整した。次いで耐熱性α−アミラーゼ(商品名ターマミル120L、ノボノルディスク バイオインダストリー社製)を対澱粉0.05重量%添加してクッカーに導入した。クッキング温度を105℃、圧力を1.0kg/cm(ゲージ圧)に保持してから高温滞留塔に導き、加圧下、105℃で5分間保持した後、熟成槽に移して95℃で2時間保持することにより液化を行った。得られた糖化液を減圧下で60℃に冷却した後、シュウ酸を添加してpHを4.5に調節した。続いて、グルコアミラーゼとプルラナーゼの混合剤(商品名デキストロザイム、ノボルノディスク バイオインダストリー社製)を対澱粉0.1重量%添加して60℃、40時間反応させて澱粉の分解を行った。
得られた馬鈴薯澱粉糖化液をフィルタープレスにてろ過し、活性炭を充填した脱色塔に清澄液を通液して脱色した。得られた糖液を強酸性カチオン交換樹脂(レバチットS−100WS)、弱塩基性アニオン交換樹脂(レバチットMP−64WS)、強酸性カチオン交換樹脂(レバチットSP−112WS)、強塩基性アニオン交換樹脂(レバチットMP−600)に順次通液した。通液終了後、樹脂に純水を通液して糖液を押し出した。次いで、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂の順に塩化カリウム溶液を通液してリン酸結合オリゴ糖を溶出した。溶出は2重量%濃度の塩化カリウム溶液を強塩基性アニオン交換樹脂にはSV=3、弱塩基性アニオン交換樹脂SV=2の通過速度で通液することにより行った。溶出液量が樹脂容量と同量の溶出画分から回収を始め、樹脂容量の2倍までを回収した。引き続き回収液100Lに粉末活性炭を500g添加し、50℃で2時間保持した後、フィルターろ過により粉末活性炭を除去した。この液を食塩阻止率50%のNF膜(日本電工社製 NTR−7450)でBrix.22まで濃縮し、水酸化カリウムを添加してpHを7.3に調整した。次いで、サニタリーフィルターで除菌ろ過後、スプレードライヤーにて粉末化してpH調整機能を有するリン酸結合オリゴ糖カリウム塩8kgを得た。本製品の結合リン、無機リン、カリウムはそれぞれ乾燥固形分当たり、3.9、0.05、7.5重量%であった。
[実施例1]
製造例1で調製した馬鈴薯澱粉由来のリン酸結合オリゴ糖カリウム塩1.0gにイオン交換水99.0gを加え、リン酸結合オリゴ糖カリウム塩の1重量%水溶液を作成し、この溶液を121℃で20分間加熱処理した。この水溶液のpHは6.3であった。この1重量%リン酸結合オリゴ糖カリウム塩水溶液20mlに、0.1規定濃度のHCl水溶液又は0.1規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、pH変化を測定した。pH滴定曲線を図1に示す。pH調整機能を有するリン酸結合オリゴ糖カリウム塩を含む溶液はpH4.5〜8.0で明らかなpH緩衝領域を有しており、溶液20mlに対して、0.1規定濃度のHCl水溶液では180μlまで、0.1規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液では80μl当量までもpH緩衝効果を示していた。
[比較例1]
リン濃度が12.7mMとなるよう調製したリン酸二水素カリウム水溶液を作成し、この溶液を121℃で20分間加熱処理した。水溶液のpHは6.2であった。このリン酸二水素カリウム水溶液20mlに、0.1規定濃度のHCl水溶液又は0.1規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、pH変化を測定した。pH滴定曲線を図1に示す。この溶液のpH緩衝領域はpH6.0〜7.5であり、溶液20mlに対して、0.1規定濃度のHCl水溶液では15μlまで、0.1規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液では150μl当量までしかpH緩衝効果を示さなかった。
[実施例2]
焙煎コーヒー豆粉砕物に10倍量の水を加え、95℃で抽出して得た抽出液をBrix.1.25になるように希釈調製した。この時のコーヒー液のpHは5.00であった。希釈調製したコーヒー抽出液に、製造例1で調製したリン酸結合オリゴ糖カリウム塩を2重量%となるように添加したところpHは6.96にまで上昇していた。そして、市販の成分無調整牛乳を10重量%、砂糖を5重量%となるように加え、180ml容器に充填した後、121℃で20分間レトルト殺菌を施した。この結果、コーヒー液のpHは6.86まで低下していたが、食品用アルカリ剤、例えば、炭酸水素ナトリウムに由来する塩味やぬめり感がなく、自然でまろやかな香味、風味を有していた。
[比較例2]
実施例2で得られたBrix.1.25に希釈調製したコーヒー抽出液(pH5.00)に市販の成分無調整牛乳を10重量%、砂糖を5重量%となるように加え、180ml容器に充填した後、121℃で20分間レトルト殺菌を施した。この結果、コーヒー液のpHは4.58にまで低下してしまい、酸味の目立った香味、風味となってしまっていた。
[比較例3]
実施例2で得られたコーヒー抽出液にアルカリ剤として炭酸水素ナトリウムを500ppmとなるよう添加することにより、pHを6.95にまで上昇させ、市販の成分無調整牛乳を10重量%、砂糖を5重量%となるように加えた。その後、処理コーヒーを180ml容器に充填した後、121℃で20分間レトルト殺菌を施した。この結果、コーヒー液のpHは6.23にまで低下し、炭酸水素ナトリウムに由来する塩味やぬめり感が感じられ、香味、風味ともに乏しいものであった。
pH滴定曲線を示す図である。

Claims (4)

  1. 60℃以上での工程を含むコーヒー飲料の製造工程において、pH調整剤として馬鈴薯澱粉から製造されるリン酸結合オリゴ糖のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種を用い、かつ、リン酸結合オリゴ糖のカルシウム塩を用いないpH調整方法。
  2. リン酸結合オリゴ糖のアルカリ金属塩がカリウム塩である請求項1記載のpH調整方法。
  3. pH調整剤としてアルカリ剤を用いない請求項1又は2に記載のpH調整方法。
  4. アルカリ剤が炭酸水素ナトリウムである請求項3記載のpH調整方法。
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