JP4565223B2 - 芳香族炭化水素の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は芳香族炭化水素の製造法に関する。さらに詳しくは、芳香族カルボン酸またはその酸無水物、そのエステル等の誘導体から芳香族炭化水素を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族カルボン酸あるいはそのエステルや塩は、それらを原料として用いる種々の技術分野において廃棄物中に含有される。また、芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とするポリエステル、特にテレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とするポリエチレンテレフタレート(PET)は、繊維、フィルムあるいはボトルに多量に用いられ、使用後廃棄される量も非常に多く、資源再利用の面からも、社会問題になっている。すなわち、これらのPETボトルは使い捨てされているのが現状であり資源枯渇、最終処分場の不足の問題からもリサイクルが必須となっている。現在PET樹脂のリサイクルはマテリアルリサイクルが主になっているが、高コストであることや、リサイクル製品の市場規模が限界に近い状態にあることから、新たなリサイクル技術の開発が求められている。
【0003】
プラスチックのリサイクル法の一つとして油化が挙げられる。油化の商業プラントが日本において3箇所稼動している。しかしPETはポリスチレンやポリエチレンなどとは異なり、熱分解しても大部分が油化せず、テレフタル酸や安息香酸などの昇華性物質が発生する。これらの物質は配管の閉塞や腐食の原因となるため、廃プラスチックからPETをあらかじめ取り除いているのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸またはその酸無水物やそのエステルあるいはその塩から芳香族炭化水素を製造する方法を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とする芳香族ポリエステルから芳香族炭化水素を製造する方法を提供することにある。
【0006】
本発明のさらに他の目的は、上記芳香族ポリエステルを回収PETボトルの如き回収品に求めて、これらの回収品から芳香族炭化水素を製造する方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、芳香族カルボン酸のカルシウム塩を、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法(以下、第1方法という)により達成される。
【0009】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、芳香族カルボン酸またはその酸無水物もしくはそのエステルを、水酸化カルシウムまたは生石灰の存在下、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法(以下、第2方法という)により達成される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とする芳香族ポリエステルを、水酸化カルシウムまたは生石灰の存在下、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法(以下、第3方法という)により達成される。
【0011】
【発明の好ましい実施形態】
以下、本発明について詳述する。以下、第1方法について先ず説明する。
【0012】
本発明において、芳香族カルボン酸としては、芳香族モノ−あるいはジ−、トリ−、テトラ−の如きポリカルボン酸が用いられる。その具体例としては、安息香酸、トルイル酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸の如きベンゼンカルボン酸類;4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、3,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の如きビフェニルカルボン酸類;1−、2−、3−または4−ナフトエ酸、1,5−、1,7−または2,6−ナフタレンジカルボン酸の如きナフタレンジカルボン酸類;1−アントラセンモノカルボン酸、2,7−アントラセンジカルボン酸の如きアントラセンカルボン酸類等を挙げることができる。これらのうち、ベンゼンカルボン酸類およびナフタレンカルボン酸類が好ましく、とりわけベンゼンカルボン酸類がさらに好ましい。
【0015】
香族カルボン酸のカルシウム塩は不活性雰囲気中で熱分解に付される。
【0016】
不活性雰囲気は、例えば窒素ガス、ヘリウム、アルゴンあるいは炭酸ガス等の不活性ガスを挙げることができる。
【0017】
また、熱分解は600900℃、好ましくは600〜800℃で行われる。下限より低い温度では、転換率が低すぎ、上限より高い温度では炭化水素化合物以外のガス生成物の生成が多くなり好ましくない。
【0018】
さらに、芳香族カルボン酸の金属塩は、水蒸気雰囲気中で水蒸気分解に付すこともできる。水蒸気雰囲気は、水蒸気以外の不活性ガスを含有することができる。不活性ガスとしては、熱分解時の上記不活性ガスと同じものを挙げることができる。
【0019】
不活性ガスと水蒸気との混合割合は例えば水蒸気分圧が0.03〜1、好ましくは0.05〜1となるようにすることができる。
【0020】
水蒸気雰囲気および温度としては、前記不活性雰囲気および熱分解温度と同じ条件を採用することができる。水蒸気分解の方が熱分解よりも好ましく、熱分解の場合よりも芳香族炭化水素の選択率が向上する。
【0021】
本発明の上記第1方法により得られる生成物は、使用した芳香族カルボン酸カルシウム塩の当該芳香族基に相当する芳香族炭化水素、およびその他に一酸化炭素、二酸化炭素、水素、炭酸カルシウムあるいは酸化カルシウム等である。また、さらに主生成物としての上記芳香族炭化水素とは異なる種々の他の炭化水素類が僅かに副生することが多い。
【0022】
次に、第2方法について説明する。
【0023】
第2方法では、原料として芳香族カルボン酸またはその酸無水物もしくはそのエステルが用いられる。
【0024】
芳香族カルボン酸としては、第1方法について前記したものと同じものを用いることができる。この場合にも、ベンゼンカルボン酸類およびナフタレンカルボン酸類が好ましく、とりわけベンゼンカルボン酸類がさらに好ましい。また、これらのエステルとしては、例えば脂肪族アルコールあるいは芳香族ヒドロキシ化合物とのエステルを挙げることができる。脂肪族アルコールおよび芳香族ヒドロキシ化合物は、モノオール化合物でもジオール化合物の如きポリオール化合物でもよく、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノールの如き炭素数1〜6の脂肪族モノオール化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールの如き炭素数2〜4の脂肪族ジオール化合物、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールの如き炭素数3〜5の脂肪族ポリオール化合物、フェノール、クレゾール、ナフトールの如き芳香族モノオール化合物、ハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2,6−ジヒドロキシナフタレンの如き芳香族ジオール化合物の如き芳香族ポリオール化合物を好ましいものとして挙げることができる。
【0025】
また、酸無水物としては、上記芳香族カルボン酸の分子内酸無水物および分子間酸無水物のいずれも使用できる。例えば、無水安息香酸、無水フタル酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物等を挙げることができる。酸無水物としては、ベンゼンカルボン酸類の酸無水物が好ましい。酸無水物は特に水蒸気分解において好ましく用いられる。また、不活性雰囲気中での熱分解においても例えば触媒や不活性ガスと一緒に系内に導入される水分が十分なときには使用することができる。
【0026】
エステルとしては、芳香族カルボン酸の全てのカルボキシル基がエステル化されている化合物および芳香族カルボン酸の一部のカルボキシル基がエステル化されているハーフエステルのいずれであってもよい。
【0027】
エステルとしては、ベンゼンカルボン酸類またはナフタレンカルボン酸類のエステルが好ましく、とりわけベンゼンカルボン酸類のエステルがさらに好ましい。
【0028】
また、触媒としては、
【0029】
酸化カルシウムまたは、生石灰が用いられる
【0030】
これらのカルシウム化合物は、単独であるいは2種一緒にして使用することができる。
【0031】
これらのカルシウム化合物は、芳香族カルボン酸またはその酸無水物もしくはそのエステルである原料化合物1重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部で用いられる。
【0032】
反応に際し、原料化合物と触媒とは緊密に混合された状態にあるのが好ましい。
【0033】
反応は、原料を不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめることで行われる。
【0034】
不活性雰囲気、熱分解の温度、水蒸気雰囲気、水蒸気分解の温度としては、第1方法において記載した条件と同じ条件を採用することができる。第2方法によっても、第1方法と同様の生成物が得られる。
【0035】
最後に、第3方法について説明する。
【0036】
第3方法では、原料として芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とする芳香族ポリエステルが用いられる。かかる芳香族ポリエステルとしては、例えばエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位としてなるポリエチレンテレフタレート、ポリ(エチレンテレフタレート/イソフタレート)、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰返し単位としてなるポリテトラメチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰返し単位としてなるポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、エチレンテレフタレートとエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートとを主たる繰返し単位としてなるポリ(エチレンテレフタレート/エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)、1,3−フェニレンテレフタレートを主たる繰返し単位としてなるポリ(1,3−フェニレンテレフタレート)等を挙げることができる。これらの具体例からわかるように、芳香族ポリエステルとしては、単独重合体および共重合体のいずれでもよく、共重合体は芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とするかぎり、脂肪族ジカルボン酸例えばアジピン酸等をジカルボン酸成分として含有するものであってもよい。また、ここでは芳香族ポリエステルとは全芳香族ポリエステルを包含する意味で用いられていることも理解される。これらの芳香族ポリエステルは、例えば0.01〜10mmの粒状物として用いられる。
【0037】
これらの芳香族ポリエステルは1種単独であるいは2種以上一緒に用いることができる。
【0038】
触媒であるカルシウム化合物としては、第2方法において記載したものと同じものを用いることができる。
【0039】
これらの触媒は芳香族ポリエステル100重量部当り、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部で用いられる。
【0040】
反応に際し、原料混合物と触媒は緊密に混合された状態で用いられる。
【0041】
反応は、芳香族ポリエステルを、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめることで行われる。不活性雰囲気、熱分解の温度、水蒸気雰囲気、水蒸気分解の温度としては、第1方法において記載した条件と同じ条件を採用することができる。
【0042】
第3方法によっても第1方法と同様の生成物が得られる。
【0043】
例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合、望ましい水蒸気分解反応としては、テレフタル酸成分はベンゼンを生成し、カルボン酸基部分は二酸化炭素を生成しそしてエチレングリコール部分は一酸化炭素と水素を生成する。
【0044】
第3方法によれば、PETボトル、PET製シャンプーボトル、PET製リンスボトル、ポリエステル繊維および布、X線フィルム、ビデオテープ、カセットテープあるいは各種プリペイドカードなどの芳香族ポリエステルを素材とする成形品(使用済み品、回収品、産廃品等を含む)から、相当する芳香族炭化水素を取得することができる。この際、これらの回収品が着色しているか否かあるいは他の素材例えば磁性物質、銀、酸化チタン等を含有しているか否かはほとんど問題とならない。多くの場合、着色物質や他の素材は、一酸化炭素、二酸化炭素等の芳香族炭化水素以外の生成物に変換されるかあるいはそのまま他の素材として廃棄されるかあるいは、回収され場合によって芳香族炭素水素を生成するものにあっては本発明の目的物として評価される。このように他の素材も含有する状態で、そのまま本発明の原料として使用できることも、本発明の優れた利点の1つである。
【0045】
本発明の方法は、例えば流動式あるいは半流動式で有利に行うことができる。例えば、原料例えばPET粉末と触媒である水酸化カルシウム粉末の混合物を600〜900℃に外部から加熱された、固定された反応管中に不活性ガスあるいは不活性ガスと水蒸気とともに導入する方法、この方法において、固定された反応管を傾斜した反応管に換え、これを回転させて、混合物を管壁に沿って上方から下方へ移動させつつ分解する方法、あるいは反応容器へ上方から混合物を導入し、下方から不活性ガスあるいはそれと水蒸気との混合物を導入し、混合物を不活性ガスあるいは混合物で反応容器中に浮遊させながら分解する方法あるいは触媒の流動層内へPETフレークを不活性気体で導入する方法やPETフレークと水のスラリーをポンプ導入する方法等を挙げることができる。
【0046】
以下、実施例を挙げ本発明を詳述する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0047】
【実施例】
なお、実施例中、炭素回収率(%)およびベンゼン環回収率(%)は次のように定義される。
【0048】
炭素回収率(%)=(液体生成物中の全炭素分/原料中の全炭素分)×100ここで、液体生成物とは、氷冷トラップおよび液体窒素トラップに捕集された成分をいう(ベンゼン環回収率についても同じ)。
【0049】
ベンゼン環回収率(%)=(液体生成物中のベンゼン環のモル数/原料中のベンゼン環のモル数)×100
ここで、ベンゼン環のモル数とは、ベンゼン環の如き単環は1モル、ビフェニルやナフタレン環の如き多環または縮環ではその環数の数のモルと数えるものとする(ビフェニルやナフタレン環はいずれも2モルである)。
【0050】
実施例1〜6
図1に示した装置を用いて、表1に示す反応条件下で、試料(テレフタル酸カルシウム、TPA−Ca)を熱分解または水蒸気分解した。
【0051】
試料の導入は、水蒸気分解では十分水蒸気と接触させるため、0.7gを約20分かけ、ゆっくりとリアクター上部から導入した。試料の導入後は10分間温度を保ったまま放置した。分解生成物は氷冷トラップ、液体窒素トラップおよびガスパックにて捕集した。氷冷トラップ、液体窒素トラップで捕集した液体状熱分解生成物はエタノールで希釈し、GC−MS、GC−FIDにより定性、定量分析を行った。またガスパックで捕集した気体状熱分解生成物はGC−TCDにより定性、定量分析を行った。結果を表2に示した。
【0052】
【表1】
Figure 0004565223
【0053】
【表2】
Figure 0004565223
【0054】
表2から次のことがわかる。残渣量は、すべての温度において、水蒸気を添加すると減少した。特に700℃、800℃の高温ではその差が顕著に現れた。水蒸気雰囲気下600℃において残渣量が減少しなかった原因は、試料が完全に分解されなかったためと思われる。その傍証として、600℃水蒸気雰囲気下での残渣は灰色であったが、700℃、800℃では完全に白色であった。液体生成物は、すべての温度において水蒸気を添加すると増加した。液体生成物のうち、大部分はベンゼンであり、700℃のとき最も多く生成した。その他の生成物はすべてベンゼン誘導体であり、TPA−Caの構造から考えると、これらの生成物は一度ベンゼンが生成したのち、二次的に生成したものと考えられる。またヘリウム雰囲気下、水蒸気雰囲気下で生成物の変化は見られなかった。気体生成物は液体生成物と同様、すべての温度域において水蒸気を添加した方が増加した。特に700℃、800℃の高温においてその差が顕著であった。また注目すべき点として、水蒸気を添加したものが水素および二酸化炭素が多量に生成し、一方で一酸化炭素が少量しか生成しなかった。
【0055】
また、表3に液体生成物として回収された炭素の回収率と、TPA−Ca中に存在するベンゼン環の回収率を示した。
【0056】
【表3】
Figure 0004565223
【0057】
表3からわかるように、いずれの温度においても水蒸気雰囲気下において分解した方が炭素回収率、ベンゼン回収率が向上した。最もベンゼン環の回収率が高いのは水蒸気雰囲気下、700℃で分解したものであり、炭素回収率56.01%、ベンゼン環回収率74.43%に達した。以上のことからTPA−Caを水蒸気雰囲気下において熱分解することによりベンゼンの回収率が大幅に向上できることがわかった。
【0058】
実施例7および比較例1
図1に示した装置を用いて、He雰囲気下、700℃でテレフタル酸/Ca(OH)2=1/10(重量比)において、テレフタル酸の熱分解を、実施例1と同様にして実施した。結果を表4に示した。
【0059】
【表4】
Figure 0004565223
【0060】
実施例8〜12
図1に示した装置を用いて、表5に示す反応条件下で、試料(PET)を熱分解または水蒸気分解した。
【0061】
水蒸気分解では、試料の導入は十分水蒸気と接触させるため、約15分かけ、ゆっくりとリアクター上部から導入した。試料の導入後は10分間温度を保ったまま放置した。分解生成物は氷冷トラップ、液体窒素トラップおよびガスパックにて捕集した。氷冷トラップ、液体窒素トラップで捕集した液体状熱分解生成物はエタノールで希釈し、GC−MS、GC−FIDにより定性、定量分析を行った。またガスパックで捕集した気体状熱分解生成物はGC−TCDにより定性、定量分析を行った。
【0062】
【表5】
Figure 0004565223
【0063】
表6に、ヘリウム雰囲気中、700℃での反応で得られた分解生成物の定量結果を示した。
【0064】
【表6】
Figure 0004565223
【0065】
なお、表6において残渣はバランスとして算出した。
【0066】
実施例9(PET/Ca(OH)2=1/1)と実施例8(PET単独)を比較すると固体生成物は増加し、気体生成物は減少している。これはガス成分中の二酸化炭素がPET単独では17.10%であるのに対し、PET/Ca(OH)2=1/1では6.16%と大幅に減少しているためである。これは熱分解により発生した二酸化炭素がCa(OH)2に吸収され残渣中に固定されたためであると考えられる。しかしCa(OH)2の混合比が増加するに従い二酸化炭素は増加する。これはCa(OH)2が分解して水が生成することにより、水性ガス反応および水性ガスシフト反応の影響が大きくなり、残渣中の炭素が二酸化炭素に変換されるためだと考えられる。また、ベンゼン環回収率および液体生成物としての炭素回収率はいずれもCa(OH)2の混合割合が増加するにつれ大幅に上昇し、PET単独ではそれぞれ58.13%、41.42%であったがPET/Ca(OH)2=1/10ではそれぞれ89.70%、55.01%に達した。以上より液体生成物の収率およびベンゼン環の回収率はいずれもPET/Ca(OH)2の値が大きくなるほど大きな値となることが示された。
【0067】
実施例13〜17
実施例8〜12と同様にして、ヘリウム雰囲気中、PET/Ca(OH)2=1/5(重量比)において、反応温度を変えて実施した。得られた分解生成物の定量結果を表7に示した。
【0068】
【表7】
Figure 0004565223
【0069】
表7には実施例11を再掲した。表7から、固体生成物の生成量は、600℃では大きな差は確認されなかったが、温度が上がるにつれ水蒸気雰囲気下の方が減少した。これは水性ガス反応C+H2O→CO+H2−118.7kJ/molにより残渣中の炭素が一酸化炭素および水素に変換されたためだと考えられる。水性ガス反応は式に示したように吸熱反応であり、高温であるほど有利である。従って高温において固体生成物は減少したと考えられる。しかし水蒸気雰囲気下の方が一酸化炭素の生成量が少ない。これは水性ガスシフト反応CO+H2O→CO2+H2+41kJ/molにより一酸化炭素が二酸化炭素に変換されたためであろう。水性ガスシフト反応は式で示したように発熱反応であるため高温では不利であるが、実験条件では水蒸気分圧が94%と高いため十分反応すると考えられる。この傍証として水蒸気雰囲気下では二酸化炭素が多く生成している。液体生成物はヘリウム雰囲気下、700℃において最も多く生成し、52.10%であった。液体生成物は600、700℃においてはHe雰囲気下の方が多くなったが800℃ではわずかに水蒸気雰囲気下の方が多くなった。気体生成物ではすべての温度において水蒸気雰囲気下の方が多くなった。これは上記のように水性ガス反応および水性ガスシフト反応により残渣中の炭素が二酸化炭素に変換されたためであると考えられる。
【0070】
700℃、ヘリウム雰囲気下においてベンゼン環、炭素回収率ともに最大値を示し、それぞれ84.29%、52.10%となった。ベンゼン環回収率、炭素回収率ともに温度による影響は小さく、600℃、700℃ではほぼ同じ値を示した。ヘリウム雰囲気下、800℃では600℃、700℃と比較してベンゼン環回収率、炭素回収率ともに減少したのに対し、水蒸気雰囲気下ではわずかに増加した。各温度、各雰囲気における液体生成物中のベンゼンの選択性は、すべての温度において水蒸気雰囲気下の方が高い値を示し、800℃のとき最大値、78.31%を示した。水蒸気雰囲気下、ヘリウム雰囲気下ともに温度が高くなるに従い、選択率も高くなった。
【0071】
実施例18および19
実施例11における触媒Ca(OH)2に代えCaOを用い、PET対CaO混合比を1/5とし、700℃で、実施例10と同様に反応を行った。結果を表8に示した。
【0072】
【表8】
Figure 0004565223
【0073】
実施例20および21
実施例11と同様の表9に示す条件下に、X線フィルムとビデオテープを熱分解に付した。結果を表9に示した。なお、X線フィルムとビデオテープはいずれも約3mm程度の大きさにして用いた。
【0074】
【表9】
Figure 0004565223

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実施するために用いられる反応装置の例の説明図である。
【符号の説明】
1 試料
2 試料保持器
3 ビニールホース
4 水流ポンプ
5 水
6 流量計
7 石英綿
8 電気炉
9 網
10 氷冷エタノールトラップ
11 液体窒素冷却トラップ
12 ガスパック

Claims (4)

  1. 芳香族カルボン酸のカルシウム塩を、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法。
  2. 芳香族カルボン酸またはその酸無水物もしくはそのエステルを、水酸化カルシウムまたは生石灰の存在下、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法。
  3. 芳香族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とする芳香族ポリエステルを、水酸化カルシウムまたは生石灰の存在下、600〜900℃の温度において、不活性雰囲気中で熱分解せしめるかあるいは水蒸気雰囲気中水蒸気分解せしめる、ことを特徴とする芳香族炭化水素の製造法。
  4. 熱分解あるいは水蒸気分解を水蒸気分圧0.03〜1において行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造法。
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