本発明は、特に太陽電池用多結晶シリコンを鋳造するのに適した鋳造装置、及びこれを用いた多結晶シリコンインゴットの鋳造方法と多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコン基板、太陽電池素子に関する。
太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系などに分類される。このうち、現在市場で流通しているのはほとんどが結晶系シリコン太陽電池である。この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型、多結晶型に分類される。単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質がよいために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所がある。また、最近では多結晶シリコン基板の品質の向上やセル化技術の進歩により、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されている。
一方、量産レベルの多結晶シリコン太陽電池は低コストであったため、従来から市場に流通してきたが、近年環境問題が取りざたされる中でさらに需要が増してきている。
多結晶シリコン太陽電池に用いる多結晶シリコン基板は一般的にキャスティング法と呼ばれる方法で製造される。このキャスティング法とは、離型材を塗布した黒鉛などからなる鋳型内のシリコン融液を冷却固化することによってシリコンインゴットを形成する方法である。このシリコンインゴットの端部を除去したり所望の大きさに切断して切り出し、切り出したインゴットを所望の厚みにスライスして太陽電池を形成するための多結晶シリコン基板を得る。
特許文献1に開示されたシリコンなどを鋳造する従来の鋳造装置を図6に示す。図6において1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、2はノズル、3は出湯口、4aは上部加熱手段、4bは側部加熱手段、6は出湯口を塞ぐシリコン原料、7はノズル加熱手段、9は鋳型を示す。
鋳造装置の上部にシリコン原料を溶融するための溶融坩堝1aが保持坩堝1bに保持されて配置され、溶融坩堝1aと保持坩堝1bの底部にはシリコン融液を出湯するための出湯口3を有するノズル2が設けられ、その周囲にはノズル加熱手段7が設置される。また、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの上部と側部にはそれぞれ上部加熱手段4a、側部加熱手段4bが配置され、、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの下部にはシリコン融液が注ぎ込まれる鋳型9が配置される。溶融坩堝1aは耐熱性能とシリコン融液中に不純物が拡散しないことなどを考慮して、例えば高純度の石英などが用いられる。保持坩堝1bは石英などでできた溶融坩堝1aがシリコン融液近傍の高温で軟化してその形状を保てなくなるため、これを保持するためのものであり、その材質はグラファイトなどが用いられる。上部加熱手段4a、側部加熱手段4b、ノズル加熱手段7は、例えば抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどが用いられる。
上記の溶融坩堝1a、保持坩堝1bの下部に配置された鋳型9はグラファイトや炭素繊維強化材料などからなり、その内側に窒化珪素などを主成分とする離型材(不図示)を塗布して用いられる。また、この鋳型9の周りには抜熱を抑制するため鋳型断熱材(不図示)が設置される。鋳型断熱材は耐熱性、断熱性などを考慮してカーボン系の材質が一般的に用いられる。また、鋳型9の下方には注湯されたシリコン融液を冷却・固化するための冷却板(不図示)が設置される場合もある。なお、これらはすべて真空容器(不図示)内に配置される。
図6で示されるように、溶融坩堝1aの底部に設けたノズル2の出湯口3をシリコン原料6で塞いでおき、その上で溶融坩堝1a内にシリコン原料を投入する。その後上部加熱手段4aと側部加熱手段4bで溶融坩堝1a内の上部のシリコン原料から下部のシリコン原料へと徐々に溶解させる。このときノズル加熱手段7は駆動させず、ノズル2の出湯口に近い原料は低温に保って、溶融坩堝1aの中で溶解されたシリコン融液が出湯するのを防ぐ。その後、溶融坩堝1a内のシリコン原料がすべて溶解したのちに、ノズル加熱手段7を駆動させ、出湯口を塞ぐシリコン原料6を最後に溶解させるというものであった。(例えば、特許文献1参照)。このようにすることによって、溶融坩堝1aのシリコン原料が完全に融液となった瞬間に出湯が開始されることからシリコン原料溶解後の出湯を効率よく行うことができる。また、溶融坩堝1aの底部から垂下するようにノズル2を設けることにより、出湯したシリコン融液の飛散を防止している。
また、特許文献2に記載されているシリコンなどを鋳造する従来の別の鋳造装置を図7に示す。図7において1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、3は出湯口、4aは上部加熱手段、4bは側部加熱手段、8は蓋部材、9は鋳型を示す。
この鋳造装置においても基本的な構造は図6に示す従来の鋳造装置と同じで、鋳造装置の上部にシリコン原料を溶融するための溶融坩堝1aが保持坩堝1bに保持されて配置され、溶融坩堝1aと保持坩堝1bの底部にはシリコン融液を出湯するための出湯口3が設けられ、この出湯口3に冷却手段として可動式の水冷金属板から成る蓋部材8を設けている。また、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの上部と側部にはそれぞれ上部加熱手段4a、側部加熱手段4bが配置され、、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの下部にはシリコン融液が注ぎ込まれる鋳型(不図示)が配置される。
図7に示されるように、上部加熱手段4aと側部加熱手段4bで溶融坩堝1a内の上部のシリコン原料から下部のシリコン原料へと徐々に溶解させる。そして、冷却手段として用いられる蓋部材8によって出湯口3に流れ落ちてきたシリコン融液が再度凝固するため、シリコン融液が出湯するのを防ぐ。その後、溶融坩堝1a内のシリコン原料がすべて溶解したのちに、蓋部材8を取り去ることで、シリコン融液を出湯させるという方法であった。この方法においても、溶融坩堝1aのシリコン原料が完全に融液となった瞬間に出湯が開始されることからシリコン原料溶解後の出湯を効率よく行うことができる。
いずれの場合においても出湯口周囲に加熱手段若しくは冷却手段に代表される出湯制御装置を設けることで溶融坩堝1a内の融液の出湯温度を制御することが可能になる。
出湯後は、鋳型内のシリコンを底部から冷却して一方向凝固させた後、炉外に取り出せる温度まで温度制御しながら徐冷し、最終的に炉外に取り出して鋳造が完了する。
特開平11−43318号公報
特開2000−105083号公報
特開2003−247783号公報
しかしながら、上述したような鋳造装置では、出湯口周囲に加熱手段若しくは冷却手段に代表される出湯制御装置の設置が必要であるために初期投資が嵩むほか、装置全体が大型化、複雑化してしまうといった問題があった。
また、これらの従来装置では、溶融坩堝1a内のシリコン原料が完全に融液になったことを確認できないため、溶融坩堝内のシリコン原料を全て溶解して出湯させるには、溶解に十分な時間をかけなければならないという問題があった。
また、出湯制御装置の稼動から融液の出湯までに生ずる時間のばらつきを避けることができず、溶融坩堝内におけるシリコン融液の出湯温度を精確に再現させることが困難であるという問題があった。
これらの解決策として、例えば特許文献3には、溶融坩堝の底部に径が2mmから10mmの出湯口を設け、その上に出湯口を塞ぐシリコン原料であらかじめ出湯口を塞いでおき、上部のシリコン原料から下部のシリコン原料を徐々に溶解して、最後に出湯口を塞ぐシリコン原料を溶解させ、シリコン融液を出湯させる方法が開示されている。しかしながら、溶融坩堝の出湯口を塞ぐシリコン原料がいびつであったり、熱により出湯口そのものが変形してしまったりすると、完全に融液になる前に僅かにシリコン融液が漏れ出して固まってしまい、歩留りを落とすといった問題があった。また、上記方法では溶融坩堝内におけるシリコン融液の出湯温度を精確に制御することができなかった。
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、鋳造装置の構造と機構に起因して、溶解時間が短縮できず、溶解時間がばらついてしまい、融液の保持、温度の制御ができず、完全溶解前に出湯漏れが発生するといった問題点を解消し、特に、鋳造装置の大型化、複雑化を図ることなく簡便な手法でシリコン融液の出湯温度の制御を精確に行うことができる鋳造装置を提供することを目的とする。
そして、本発明の別の目的は、上述の鋳造装置を用いた多結晶シリコンインゴットの鋳造方法を提供し、高品質と低コストの両立を果たした多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコン基板とこれを用いた太陽電池素子を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る鋳造装置は、内部にシリコン原料を保持して溶融させる溶融坩堝と、前記溶融坩堝内の前記シリコン原料を加熱してシリコン融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口を覆うように垂下して備えられ、鉛直下方に対して垂直に切断したときの内断面が略円形状であるノズルと、前記ノズルの内部に配置されたシリコン栓と、前記ノズルの下方に備えられた鋳型と、を具備し、前記加熱手段は、前記ノズルよりも上方に配置され、前記ノズルは、その内面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有し、その内面の両テーパー角が5度以上30度未満であり、前記シリコン栓は、その外周面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有するとともに、前記シリコン栓の両テーパー角は、前記ノズルの内面の両テーパー角以下であり、さらに、前記シリコン栓の下端面の中央部が内側に窪んだ凹形状を有し、該凹形状の窪みの深さが5mm以上である。
本発明の一形態に係る多結晶シリコンインゴットの鋳造方法は、前記鋳造装置を用いた多結晶シリコンインゴットの鋳造方法であって、前記シリコン栓のサイズを調整することにより、前記ノズルの内部におけるこのシリコン栓の位置を規定する栓位置調整工程と、前記溶融坩堝の内部に保持した前記シリコン原料を前記加熱手段によって加熱してシリコン融液にする溶融工程と、前記溶融工程で生成したシリコン融液の一部を前記ノズルの内部に下降させ、前記栓位置調整工程によって位置決めを行った前記シリコン栓の近傍で凝固させるノズル内凝固工程と、前記シリコン融液によって、前記シリコン栓及び前記ノズル内で凝固したシリコンを溶解し、前記溶融坩堝内の前記シリコン融液を前記鋳型に出湯させる出湯工程と、を含む。
本発明の一形態に係る多結晶シリコンインゴットは、前記多結晶シリコンインゴットの鋳造方法を用いて形成したものである。
本発明の一形態に係る多結晶シリコン基板は、前記多結晶シリコンインゴットをスライスして得られたものである。
本発明の一形態に係る太陽電池素子は、前記多結晶シリコン基板を用いて形成されたものである。
以上のように、本発明に係る鋳造装置は、内部にシリコン原料を保持して溶融させる溶融坩堝と、前記溶融坩堝内の前記シリコン原料を加熱してシリコン融液とするための加熱手段と、前記溶融坩堝の底部に設けられた出湯口と、前記出湯口を覆うように垂下して備えられ、鉛直下方に対して垂直に切断したときの内断面が略円形状であるノズルと、前記ノズルの内部に配置されたシリコン栓と、前記ノズルの下方に備えられた鋳型と、を具備し、前記加熱手段は、前記ノズルよりも上方に配置され、前記ノズルは、その内面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有するので、整流されたシリコン融液を、周囲に飛散させることなく、鋳型に出湯させることができ、シリコン栓をノズル内の所定の位置に設置でき、出湯開始のタイミングのバラツキを抑えることができるため、シリコン融液の出湯温度のバラツキを抑えることができる。
本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法によれば、出湯温度を任意に設定できる本発明の鋳造装置を用いて行うようにしたので、インゴット鋳造時の条件設定の自由度が格段に向上し、底面積の広いインゴットや高さの高いインゴットをその品質を落とすことなく製造することができるようになる。また、簡単な装置構成で出湯温度を制御することが可能となり、もって種々の鋳造条件に柔軟に対応することができると共に設備への投資を最小限に止めることができるので低コストである。
本発明の多結晶シリコンインゴットは、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法を用いて作製したので、低コストとなり、さらに一方向凝固性に優れた高品質なものとなる。
本発明の多結晶シリコンインゴットをスライスして得られる本発明の多結晶シリコン基板は、低コストであるとともに、その結晶粒が底部から垂直に成長した柱状晶をその結晶成長方向に対し法線方向に輪切りにした形状を呈し、基板の面内において、均一な電気的特性を有するものとなる。
本発明の太陽電池素子は、本発明の多結晶シリコン基板を用いて形成されているので、基板の厚み方向に電界を形成したときに、基板内部で発生したキャリアの進行方向と結晶粒界とがほぼ平行に位置するようになり、キャリアの再結合を防止する効果に優れ、太陽電池として高い特性を有するとともに、均一な品質特性を得ることが可能となる。
以下、各請求項に関わる発明を添付図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明に係る鋳造装置の一実施形態を示す縦断面図であり、1aは溶融坩堝、1bは保持坩堝、2はノズル、3は出湯口、4aは上部加熱手段、4bは側部加熱手段、5はノズル内に設置するシリコン栓、9は鋳型を示す。
図1に示すように、溶融坩堝1aは、投入されたシリコン原料を内部に保持して加熱溶解してシリコン融液10を鋳型9に注湯するものである。なお、溶融坩堝1aで溶解されて鋳型9に注湯されたシリコン融液10が冷却・凝固したシリコンインゴットは、例えば太陽電池用多結晶シリコン基板材料などに用いられる。
溶融坩堝1aは通常、高純度の石英などが用いられるが、シリコン原料の融解温度以上の温度において、融解、蒸発、軟化、変形、分解などを生じにくく、かつ太陽電池特性を落とさない純度であれば特に限定されない。また、溶融坩堝1aは高温になると軟化して、形を保てないために、グラファイトなどからなる保持坩堝1bで保持される。また、溶融坩堝1a、保持坩堝1bの寸法は、一度に溶解する溶解量に応じたシリコン原料を内包できる寸法とする。シリコン原料の溶解量は、およそ1kgから150kgの範囲である。
溶融坩堝1a、保持坩堝1bの上部と側部にはそれぞれ上部加熱手段4a、側部加熱手段4bが配置されている。これらの上部加熱手段4a、側部加熱手段4bによって、溶融坩堝1a内部のシリコン原料を加熱溶融して、シリコン融液10とするのである。なお、これらの加熱手段としては、例えば、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどを用いることができる。
溶融坩堝1aの底部にはシリコン融液10を下方に配置された鋳型9に出湯させる出湯口3が設けられている。そして出湯口3を覆うように垂下して、鉛直下方に対して垂直に切断したときの内断面が略円形状であるノズル2も設けられている。
鋳型9は、ノズル2の下方に配置され、上方に向かって開放した開放部を有し、出湯したシリコン融液10をこの開放部によって受けるとともに、その内部においてこのシリコン融液10を保持しつつ、下方から上方へ向けて一方向凝固させる役割を有する。この鋳型9は、例えば黒鉛や炭素繊維強化炭素材料(C/C材)等から成り、例えば、繰り返して使用可能な分割・組立式の鋳型9として構成されている。
鋳型9の内表面部には離型材9aを設けておくことが望ましい。この離型材9aは、例えば、窒化珪素(Si3N4)の粉体をPVA(ポリビニルアルコール)水溶液で混ぜ合わせて鋳型9の内面に塗布することによって形成することができる。窒化珪素の粉体としては、0.4〜0.6μm程度の平均粒径を有するものが用いられ、このような窒化珪素と濃度が5〜15重量%程度のPVA水溶液に混合してスラリー状とすれば、へら、刷毛、ディスペンサー等で塗布しやすくなるので好ましい。なお、窒化珪素の粉末に対して二酸化珪素の粉体を混合しても良く、後のプロセスにおいて離型材9aがシリコン融液中に混入することを低減できる。また、あらかじめ鋳型9を構成する各部材の内面側にスクリーン印刷等で塗布しておいたものを組み立てて、鋳型9を形成するようにしても良い。このような離型材9aを設けることによって、シリコン融液が凝固した後に鋳型9の内壁とシリコンインゴットとが融着することが少なくなり、組立式の鋳型9を構成する各部材を繰り返して使用できるようになる。
鋳型9の周りには、鋳型側面からの抜熱を抑制するため鋳型断熱材11が設置される。鋳型断熱材11は耐熱性、断熱性等を考慮してカーボンフェルト等の材質が一般的に用いられる。また、鋳型9の下方には注湯されたシリコン融液を下方から抜熱して冷却・固化するための金属板等から成る冷却板12を設置しても良い。
なお、これらの鋳造装置は、真空容器(不図示)内に配置し、不活性ガス等の還元雰囲気下で行うようにすることが、不純物の混入や酸化を防ぐ点で望ましい。
溶融坩堝1aの底部に設ける出湯口3の位置は溶融坩堝1a内の最低部であれば、図上の如何なる位置でも構わないが、溶融坩堝1a内での水平方向の温度分布を考慮して中心位置に設けることが望ましい。出湯初期においては、出湯口3を通過するシリコン融液10は液位による圧力によって押し出されるが、出湯後期には液位による圧力がほとんどなくなるために、自重による落下で出湯口3から流れ出るようになる。したがって、無駄なく出湯させるためには、溶融坩堝1aの底部はある一定以上の傾斜があるほうが好ましい。また、溶融坩堝1aの本体の形状は特に限定されるものではない。
ノズル2は保持坩堝1bにぶつからない範囲で、熱によりノズル2の形状が変化しない程度の強度を持たせるために、肉厚を厚くすることが望ましい。そして、鉛直下方に対して垂直に切断したときの内断面が略円形状とすれば、かかる応力を均一にすることができ、整流した融液の流れを均一化できるので望ましい。ノズル2の先端の開口部は少なくとも直径1mmの球が通過できる大きさを有することが望ましい。融点近傍のシリコンは粘性が高いため、この大きさよりも小さければシリコン融液10を鋳型9に円滑に出湯させることが困難である。
さらに、ノズル2内には、溶融坩堝1a内のシリコン原料を保持し、溶解したシリコン原料が出湯口3から漏れないようにするためにシリコン栓5が配置される。このシリコン栓5はシリコン原料を加工したものである。ノズル2より上方に位置するように配設された、上部加熱手段4a及び側部加熱手段4bによって、溶融坩堝1a内のシリコン原料が上部から下部へと徐々に溶解させていき、最後にノズル2内にあるこのシリコン栓5が溶解して、シリコン融液10が出湯するので、シリコン原料が完全に溶解される前に出湯漏れが起こらないようにする役割を有している。
本発明においては、上部加熱手段4a及び側部加熱手段4bは、ノズル2より上方に設置することが望ましい。その理由としては、低い位置に配置した場合、ノズル2が直接加熱されてしまうため、溶融坩堝1a内のシリコン原料が全て溶解する前にシリコン栓5が溶解し、シリコン融液10が出湯されてしまい、融液温度を任意の加熱状態にすることができない恐れがあるからである。
また、図1に示すように、ノズル2は、その内面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有している。このような構成とすれば、ノズル2の内面が下方に向かって先細なテーパー形状を有しているため、整流されたシリコン融液10を、周囲に飛散させることなく、鋳型9に出湯させることができる。そして、シリコン栓5のサイズを変えることによって、このシリコン栓5のノズル内における位置を垂直方向に変化させることが可能である。これによって、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の出湯温度を制御することができる。その理由として、以下のように推測する。
まず、ノズル2内のシリコン栓5への入熱は、ほぼ溶融坩堝1a内のシリコン融液10からの熱伝導のみであると考えることができる。そして、鋳造装置の構造上、ノズル2は下方に向かうにつれて抜熱が大きくなる。したがって、ノズル2内において下方に位置しているシリコン栓5が融点に到達するには、上方に位置している場合よりも、シリコン融液10の温度は高くなければならない。その結果、ノズル2内のシリコン栓5の垂直方向の位置により、シリコン融液10の出湯温度を制御できると考えられる。
なお、ノズル2の内面の両テーパー角θが5度以上30度未満となるようにすることが望ましい。この範囲にある両テーパー角θを持つノズル2にすることで精度よくシリコン栓5を所定の位置に設置することができ、出湯開始のタイミングのバラツキを抑えることができるため、シリコン融液10の出湯温度のバラツキを抑えることができる。
なお、両テーパー角θがこの範囲未満であればシリコン栓5の加工精度のズレが、シリコン栓5の設置位置のズレに大きく影響するため、精度よくシリコン融液10の出湯温度を制御することができなくなる恐れがある。その結果、シリコン栓5の高い加工精度が要求され、高コストとなる可能性がある。また、両テーパー角θがこの範囲以上であるとノズル2内に設置するシリコン栓5の大きさがノズル内の設置位置によって大きく変わり、特にノズル上端部では、シリコン栓5が大きくなり、シリコン栓5の溶解時間のバラツキが生じるため、精度よくシリコン融液10の出湯温度を制御することができなくなる恐れがある。
図1に示したシリコン栓5の要部拡大図を図2(a)に示す。図2(a)に示すように、外周面の全面がノズル2の内面と接触してシリコン融液10が流出しないような構成とすることが望ましい。あるいは、図2(b)のように、シリコン栓5aのように、外周面の少なくとも一部が、ノズル2の内面に対応して嵌合する形状に加工されて、シリコン融液10の流出を防げるようにすることが望ましく、極めて簡単な方法により、本発明の効果を良好に奏することができる。
また、シリコン栓5は、下方に向けてテーパー形状となったノズル2の内面に対応させて、シリコン栓5の外周面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有し、この両テーパー角は、ノズル2の内面の両テーパー角θ以下とすることが望ましい。
図3(a)に示すように、シリコン栓5bの外周面の両テーパー角がノズル2の両テーパー角θより小さい場合、シリコン栓5bの上端面が溶融してシリコン栓5cが下方に落下し、シリコン栓5bの位置がずれるが、シリコン栓5bの最上部でノズル2内を栓をするので、シリコン融液10はすぐには出湯しない。それに対して、図3(b)に示すように、シリコン栓5cの外周面の両テーパー角がノズル2の両テーパー角θより大きい場合、シリコン栓5cの外周部分、すなわちノズル2と接している部分にシリコン融液10が入り込んで、外周部からも溶融するので、シリコン栓5cがすぐに溶融してなくなってしまったり、シリコン栓5cの外周部からシリコン融液漏れが生じてしまったりする恐れがある。
そして、本発明に係るシリコン栓5は、その下端面の中央部が内側に窪んだ凹形状を有していることが望ましい。図4に示すように下端面の中央部が凹形状とすることで、先んじてシリコン栓5dの中央部が溶融してドーナツ状となるため、そのノズル2の内部においてシリコン栓5dを設置した位置で確実に出湯が開始される。その結果、狙いどおりの出湯温度で正確に出湯することができる。凹形状の窪みの深さは、5mm以上あったほうが望ましい。5mm未満では先んじて中央部が溶融しない可能性があるからである。
このような本発明に係るシリコン栓5(5a〜5d)は、最終的に溶解して融液となりシリコンインゴットの中に入るため、原料シリコンと同レベルの純度のものを用いることが望ましい。例えば本発明により作製された多結晶シリコンや、原料に用いる多結晶もしくは単結晶シリコンの塊などを使用すればよい。これらの塊を旋盤加工、研削加工、研磨加工もしくはこれらの組み合わせにより加工してシリコン栓5を得る。また不純物の混入を防ぐため前記機械加工の後に化学薬品によるエッチングや洗浄を適宜加えてもよい。
次に、本発明に係る鋳造装置において、さらに好ましい態様を示す。図8は本発明に係る鋳造装置の別の実施形態の縦断面図であり、基本的な構成は図1と同じであるが、鋳型9と溶融坩堝1aの間に、鋳型加熱手段13をさらに設けている点が異なる。この鋳型加熱手段13は、例えば、カーボンヒーターなどによって構成され、鋳型9に出湯したシリコン融液10の表面を適度に加熱することによって、鋳型9に対して下方から上方に向かって上昇する温度勾配を付与し、シリコン融液10を鋳型9の下部から徐々に上方向に向かって一方向凝固させる機能を有するほか、ノズル2の内部に配置されたシリコン栓5を溶解するように配設されている。
すなわち、溶融坩堝1a内部のシリコン原料が加熱されてシリコン融液10となっても、ノズル2の内部に配置されたシリコン栓5の部分の温度が、シリコンの融点(約1420℃)より低く保たれれば、シリコン融液10が鋳型9内に出湯することはない。ここで鋳型9内のシリコン融液10に高さ方向の温度勾配を付与するための鋳型加熱手段13によって、ノズル2の内部に配置されたシリコン栓5が溶解されるようにすれば、簡単な装置構成で、容易に出湯開始のタイミングを任意に図ることができるので、タイミングのバラツキを抑えることができ、ひいてはシリコン融液の出湯温度のバラツキを抑えることが可能となる。
なお、鋳型加熱手段13によって、ノズル2の内部に配置されたシリコン栓5を溶解可能とするためには、鋳型加熱手段13とシリコン栓5との位置関係を調整すれば良いが、本発明においては、上述したようにノズル2は、その内面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有しているので、シリコン栓5のサイズを変えるだけで、容易にこのシリコン栓5のノズル内における位置を垂直方向に変化させることが可能である。このようにシリコン栓5のサイズを調整して鋳型加熱手段13から適正な距離に配置してやることによって、鋳型加熱手段13をほんの僅か加熱してやるだけでノズル2の所定領域の温度をシリコンの融点以上に上げ、シリコン栓5を容易に溶解することが可能となる。
また、ノズル2の長さをある一定値以上とすれば、ノズル2の内部に配置したシリコン栓5を溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度の影響を小さくできるので、坩堝内でシリコン融液10をシリコンの融点よりも高い過熱状態に保持してもノズル2の先端の温度を適正に保ち、シリコン栓5が溶解するのを防ぐことができる。具体的には、溶融坩堝1aの出湯口3の直径が5mm以上20mm以下の範囲においては、ノズル2の長さを溶融坩堝1aの下面から50mm以上100mm以下の範囲とすれば良い。ノズル2の長さがこの範囲より小さいときには、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度とノズル2の先端との差が小さくなるので出湯制御が難しいという問題がある。逆に、この範囲より大きくしても、鋳型加熱手段13を用いた出湯制御に対しては、特に問題はないが効果が薄く、ノズル2を大きくするための余計な費用がかかる。この長さの範囲とすることで、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の保持温度をより精密に制御することが可能となり、出湯させたい時には鋳型加熱手段13の出力を上げるだけで容易にノズル2内のシリコンを溶解させ、シリコン融液10を鋳型9に出湯させることができる。
次に、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法について説明する。これは、図1や図8に例示した本発明の鋳造装置を用いて行われるものであり、シリコン栓5のサイズを調整することにより、ノズル2の内部におけるこのシリコン栓5の位置を規定する栓位置調整工程を備えている。すなわち、本発明の鋳造装置に係るノズル2は、その内面が下方に向かって先細となったテーパー形状を有しているので、シリコン栓5のサイズを変えれば、容易にこのシリコン栓5のノズル2内における位置を垂直方向に変化させることができる。この栓位置調整工程を設け、ノズル2内における位置を規定することによって、既に上述したとおり、ノズル2内のシリコン栓5の垂直方向の位置によって、シリコン融液10の出湯温度を制御できる。したがって、この栓位置調整工程は、シリコン融液の出湯温度を調整する工程であると見なすこともできる。
また、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法は、図8に例示した鋳造装置を用いて行う場合には以下に示す三つの工程を備えるようにすることが望ましい。
(1)溶融工程:溶融坩堝1aの内部に保持したシリコン原料を加熱手段によって加熱してシリコン融液10にする。
(2)ノズル内凝固工程:溶融工程で生成したシリコン融液10の一部をノズル2の内部を下降させ、栓位置調整工程によって位置決めを行ったシリコン栓5の近傍で凝固させる。
(3)ノズル加熱工程:鋳型加熱手段13によって、シリコン栓5及びノズル2内で凝固したシリコン融液10を加熱溶解し、溶融坩堝1a内のシリコン融液10を鋳型9に出湯させる。
この場合、ノズル内凝固工程で一旦、溶融坩堝1a内のシリコン融液10は、ノズル2内を下降して、シリコン栓5の近傍で凝固し、ノズル2を塞ぐようにしているため、確実に出湯を防ぐことができる。さらに、鋳型加熱手段13の出力を上げるだけで容易にノズル2内のシリコン栓5とその近傍の凝固したシリコンを溶解させて、出湯させることができる。
シリコン栓5を溶解させた後は、鋳型加熱手段13を所定の加熱状態に保持し、鋳型9を上方から加熱する。このとき、鋳型9の周囲の鋳型断熱材11によって、鋳型9の側面からの抜熱を抑制しつつ、鋳型9を底部から冷却する冷却板12などとの協同作用により、鋳型9に対して下方から上方に向けて適正な温度勾配を付与することができる。これによって、鋳型9の内部に出湯されたシリコン融液を下方から上方に向けて一方向凝固させて、多結晶シリコンインゴットを作製することができる。
多結晶シリコンインゴットの一方向凝固性を向上させるためには、鋳型9の内表面の温度に対して、出湯されるシリコン融液10の温度を適正な範囲で高い状態とすることが重要である。シリコン融液10の温度が鋳型9の内表面温度に対して低すぎると、鋳型9にシリコン融液10を注湯するのと同時に低温の鋳型内面(側面及び底面)に沿って融液が冷却される結果、急速に初期凝固層が形成され、これを下地として多結晶シリコンが成長するため、一方向凝固が阻害されてしまうからである。逆に鋳型9の内表面温度を低くしてシリコン融液10との温度差を大きくしようとすると、一方向凝固に必要な温度勾配を得ることができない恐れがある。
これに対して、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法は、ノズル2の内部に配置されたシリコン栓5に対して、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度の影響を小さくした本発明の鋳造装置を用いて行われる。したがって、坩堝内でシリコン融液10をシリコンの融点よりも高い過熱状態に保持できるから、鋳型9の内表面の温度に対してシリコン融液10の温度を必要十分に高くすることができ、初期凝固層の影響を少なくして一方向凝固性に優れた多結晶シリコンインゴットを製造することができる。
上述のように、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法によれば、出湯温度を任意に設定できる本発明の鋳造装置を用いて行うようにしたので、インゴット鋳造時の条件設定の自由度が格段に向上し、底面積の広いインゴットや高さの高いインゴットをその品質を落とすことなく製造することができるようになる。したがって、この本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法を用いて作製した本発明の多結晶シリコンインゴットは、一方向凝固性に優れたものとなる。そして、特許文献1や特許文献2に記載された加熱若しくは冷却手段に代表される出湯制御装置を伴わなくとも出湯温度を制御することが可能となり、もって種々の鋳造条件に柔軟に対応することができると共に設備への投資を最小限に止めることができるため、安価な太陽電池用の多結晶シリコンインゴットの製造が期待できる。
また、本発明の多結晶シリコン基板は、本発明の多結晶シリコンインゴットを凝固方向に対して略直交する方向にスライスして得られる。上述したように本発明の多結晶シリコンインゴットは、一方向凝固性に優れているため、これをスライスして得られる本発明の多結晶シリコン基板は、その殆どの結晶粒が底部から垂直に成長した柱状晶をその結晶成長方向に対し法線方向に輪切りにした形状を呈し、基板の面内において、均一な電気的特性を有するものとなる。
さらに、この本発明の多結晶シリコン基板は、上述したように一方向凝固性に優れているため、殆どの結晶粒が底部から垂直に成長した柱状晶をその結晶成長方向に対し法線方向に輪切りにした形状となり、凝固・冷却中にシリコン凝固層に入る熱応力誘起転位が大きく抑制されるので、この基板を用いて形成された本発明の太陽電池素子は、基板の厚み方向に電界を形成したときに、基板内部で発生したキャリアの進行方向と結晶粒界とがほぼ平行に位置するようになる。その結果、本発明の太陽電池素子は、キャリアの再結合を防止する効果に優れ、太陽電池として高い特性を有するとともに、均一な品質特性を得ることが可能となる。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
例えばシリコン栓5を溶解させる方法としては上部加熱手段4a及び側部加熱手段4bを用いて溶融坩堝1a内に投入されるシリコン原料を上方から徐々に溶解させて最後にシリコン栓5を溶解させるようにしても構わないし、溶融坩堝1a中のシリコン原料の溶解中は、例えば側部加熱手段4bの下に、グラファイトなどの断熱板(加熱防止手段)などを配置し、シリコン栓5の加熱を阻害しておき、完全に溶解したあと断熱板を移動させることによりシリコン栓5を加熱溶解し、シリコン融液10を出湯させることも可能である。また冷却水やガスなどの冷却手段、例えばノズル2の出湯口の付近を冷却水で冷却したり、シリコン栓5にガスを吹付けたりする手段によってシリコン栓5の加熱を阻害しておき、溶融坩堝1a中のシリコン原料が完全に溶解したあと、冷却水やガスを止めることによりシリコン栓5を加熱溶解し、シリコン融液10を出湯させることも可能である。このように、シリコン栓5の加熱を阻害すれば、シリコン栓5は側部加熱手段4bや上部加熱手段4aの影響を受けないので、溶融坩堝1a内のシリコン原料を短時間で溶融させるために上部加熱手段4a、側部加熱手段4bを同時に有効に稼動させることが可能になる。
そして、シリコン栓5を加熱する加熱手段をさらに別に設けても良い。このようにすることにより、その他の部分の影響を考慮することなく、シリコン栓5を溶解させることが可能になるとともに、短時間でシリコン栓5を溶解させることができるようになるため、溶融坩堝1aの中のシリコン融液10の出湯のタイミングを任意に図ることが可能になる。
上述で説明した図1に示す本発明の実施形態を有する鋳造装置を用いて以下のような実験を行った。
石英からなる溶融坩堝1aをグラファイトからなる保持坩堝1bで保持し、溶融坩堝1a内に100kgのシリコン原料を投入した。ノズル2は筒状で、内面が下方に向かって先細な形状であり、上端部から下端部までの直線距離を60mmとし、ノズル2先端の出湯口の径は10mmの円形状とした。溶融坩堝1aの上部に上部加熱手段4aを設け、側部にはノズル2より上方に側部加熱手段4bを設置し、これらの加熱手段によって溶融坩堝1a内のシリコン原料を溶解させた。ノズル2内には、シリコン栓5が設置されており、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度を上昇させ、シリコン栓5を溶解し、溶融坩堝1a下部に配設された鋳型9内にシリコン融液10を注湯した。
ノズル2は、その内面の両テーパー角θを本発明の好ましい範囲内である10度と、本発明の範囲内であるが好ましい範囲外の35度の2種類とした。シリコン栓5は、それぞれ上述のノズル2の内面に対応して嵌合する形状に外周面を加工して、シリコン融液10の流出を防げるようにしたもの2種類を用意し、これらのシリコン栓5のサイズを変え、ノズル最上端部から2mmずつのピッチで下方へずらしていった。溶融坩堝1aに設置した熱電対にて出湯温度を測定し、おのおのの設置位置で3回鋳造を行ったときの、ノズル2内のシリコン栓5の位置と出湯温度との関係を示す散布図をそれぞれ図5(a)、(b)に示す。
図5(a)は、本発明の好ましい範囲内であるノズル2の両テーパー角θが10度の結果であり、シリコン栓5におけるノズル2最上端からの位置と出湯温度には高い相関が見られた。また、ノズル2内の同一箇所における出湯温度のバラツキは熱電対の誤差範囲である5℃以内に入っており、出湯温度のバラツキを抑制できることが確認された。
一方、図5(b)は、本発明の範囲内であるが好ましい範囲外であるノズル2の両テーパー角θが35度の結果であり、シリコン栓5におけるノズル2最上端からの位置と出湯温度に若干の相関が見られ、ノズル内の同一箇所における出湯温度のバラツキが±10℃程度以上で若干大きくなる結果となった。
以下の条件を変えた以外は実施例1と全く同様にして実験を行った。
ノズル2の内面の両テーパー角θを3度、5度、10度、25度、32度、45度の6種類用意した。ノズル2内に設置するシリコン栓5は上端面を水平、下端面を凹形状とし深さは5mmであり、その外周部はテーパー加工を行い、ノズル2の内面の両テーパー角θに対応させた。そして、シリコン栓5の径を変えたものを作製し、ノズル最上端部から10、30、50mmの位置に設置した。溶融坩堝に設置した熱電対にて出湯温度を測定し、それぞれの鋳造装置にて5回鋳造を行った結果をそれぞれ表1に示す。
表1より、試料No.4〜6、7〜9、10〜12はノズル2の両テーパー角θが5度から25度の本発明の好ましい範囲内の試料であり、ノズル2内に設置するシリコン栓5の位置により出湯温度を制御する幅が広く、また、すべての設置位置において出湯温度のバラツキが±10℃未満であり、出湯温度の制御を精度よく行うことができた。
しかし、試料No.1〜3、13〜15、16〜18はノズル2の両テーパー角θが3度又は32度、45度の本発明の範囲内ではあるが好ましい範囲外の試料であり、ノズル2内に設置するシリコン栓5の位置により出湯温度を制御する幅が若干狭く、シリコン栓5をノズル最上端部から10、30mmの位置に設置したときの出湯温度のバラツキが±10℃〜±16℃であり、実用上は許容しうるものの若干不満足な結果となった。
なお、試料No.19〜21は、本発明の範囲内である試料No.8の条件であるノズル2の両テーパー角θ10度に対して、シリコン栓5の外周部の両テーパー角を、5度、8度、12度の3条件で同様の評価を行った結果である。試料No.19、20、8は、シリコン栓5の外周部の両テーパー角が、ノズル2の両テーパー角θ以下のときは、出湯温度のバラツキが小さかったが、試料No.21はシリコン栓5の外周部の両テーパー角が、ノズル2の両テーパー角θよりも大きい場合であり、やや出湯温度のバラツキが大きかった。
上述で説明した図8に示す本発明の実施形態を有する鋳造装置を用いて、以下のような実験を行った。
坩堝としては、石英からなる溶融坩堝1aをグラファイトからなる保持坩堝1bで保持したものを用いた。ノズル2は筒状で、その内面が下方に向かって先細な形状であり、ノズル2先端の出湯口の径は10mmの円形状とした。ノズル2の内面の両テーパー角θは15度とした。ここで、溶融坩堝1aの下面からノズル2の先端までの長さLを20、50、75、100mmと変化させた4種類の試料を準備した。なお、溶融坩堝1a側の出湯口3の大きさは直径20mmの円形状である。
これらの4種類の試料を用い、本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法に係る栓位置調整工程に基づいて、ノズル2の先端からほぼ5mm内側に入った位置となるように、シリコン栓5のサイズを加工し、ノズル2内に設置した。
その後、溶融坩堝1a内に100kgのシリコン原料を投入し、加熱手段4(上部加熱手段4a、側部加熱手段4b)によって、このシリコン原料を溶融し、シリコン融液10とした。シリコン融液10の温度については、シリコンの融点(1420℃)を超えた過熱状態の所定温度まで上昇させ、ノズル先端温度の関係と自然出湯の有無について調査した。なお、ノズル先端温度及び溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度については、いずれも赤外線放射温度計による表面温度測定によりモニタしながら行った。さらにノズル2の下方には出湯したシリコン融液を受け得るように黒鉛製の鋳型9を配置した。
溶融坩堝1aの内部の過熱状態としたシリコン融液10の温度として、1427℃、1477℃、1527℃、1577℃の4条件で行った結果を図9に示す。図9は、溶融坩堝1a内のシリコン融液の温度とノズル先端温度及び自然出湯の有無の関係を示すグラフ図である。同図において、横軸はシリコン融液の温度(℃)、縦軸はノズル2の先端温度(℃)である。L20はノズル2の長さが20mmの試料であり、L50、L75、L100も同様にノズル2の長さを変えた試料を示している。また、図9の下方の斜線を付した箇所は、ノズル2の内部でシリコン栓5及び溶融坩堝1aから下降してシリコン栓5の近傍で凝固したシリコンが溶解せずに融液が保持されている状態を指し、上方の斜線を付していない箇所は溶解してシリコン融液10が自然出湯した状態を指す。
図9より、ノズル長さが20mmの場合(L20)は、融液保持領域(斜線部)との交わりが小さいことから、シリコン融液10の温度とノズル先端温度の差が小さく出湯制御が比較的難しかった。それに対して、ノズル長さが50mmの場合(L50)は、シリコン融液10の温度が1460℃(シリコン融点+40℃)まで保持可能であった。さらに、ノズル長さが70mmの場合(L70)は、シリコン融液10の温度を1520℃(シリコン融点+100℃)まで保持可能であった。そして、ノズル長さが100mmの場合(L100)は、シリコン融液10の温度を1570℃(シリコン融点+150℃)に保持してもノズル先端温度が融点を超えず、自然出湯しないことがわかった。
シリコン融液10の温度がシリコンの融点よりも150℃以上高い場合には、主に石英ガラス等で形成されている坩堝の変形が無視できなくなる恐れがあるため、実質的には、通常の融点付近に保持した融液を坩堝内で保持する鋳造条件ではノズル長は50mmで良く、何らかの理由で融液温度を150℃までの範囲で融点より高く保持したい場合には100mmのノズルが好ましいことがわかった。
また、鋳型加熱手段13によるノズル2の加熱に関しては、最も厳しい条件(L100のノズル2を使用し、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度を1427℃に保持した場合−ノズル先端温度は1352℃)でも、鋳型加熱手段13の出力を上げ、この鋳型加熱手段13の表面温度を1500℃に上昇させてから2分以内にノズル先端温度がシリコンの融点を超え、ノズル2内のシリコン栓5等を溶解して、シリコン融液10を容易に出湯させ得ることを確認した。他の条件ではこれより短い時間で出湯させることが可能である。
実施例3と全く同様の装置構成により、以下のような2条件(条件A、条件B)で実験を行った。
条件Aとして、ノズル長さLが100mmのとき、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度を上昇させ1490℃で1時間維持したが自然出湯は見られなかった。その後、鋳型加熱手段13のヒーター出力を上昇させたところ、出湯操作開始(鋳型上部加熱手段の出力UP)から2分後に出湯が開始され、ノズル2の下方に配置された鋳型9にシリコン融液10を注湯した。
次に条件Bとして、ノズル長さLが50mmの坩堝を使用し、溶融坩堝1a内のシリコン融液10の温度を上昇させ、1450℃で1時間維持したが自然出湯は見られなかった。その後、鋳型加熱手段13のヒーター出力を上昇させたところ、出湯操作開始(鋳型上部加熱手段の出力UP)から1分後に出湯が開始され、ノズル2の下方に配置された鋳型9にシリコン融液10を注湯した。
なお、比較のため、従来条件として特許文献3に示す従来の鋳造装置(ノズルの内面に先細となったテーパー形状を設けない)を用いて同様に出湯操作を行ったが、溶融坩堝内のシリコン融液の温度を上昇させ、融点を超えたときに、わずかに自然出湯し、鋳型の内部で凝固する現象が観察された。また、操作毎に出湯温度のバラツキが見られた。
なお、これらの出湯に先立って、鋳型9の内表面温度を900℃に保持した状態としている。
出湯後、鋳型9の下方に配された冷却板12及び鋳型加熱手段13によって、鋳型9に対して下方から上方に向けて所定の温度勾配を付与しながら出湯したシリコン融液10を鋳型9の内部に保持しつつ一方向凝固させ、条件A、条件B、従来条件の3種類の多結晶シリコンインゴットを作製した。
その後、多結晶シリコンインゴットから所定領域を250μmの厚さでスライスして多結晶シリコン基板を得た。この多結晶シリコン基板を観察したところ、条件A、条件Bに係る試料は、その殆どの結晶粒が底部から垂直に成長した柱状晶をその結晶成長方向に対し法線方向に輪切りにした形状を呈しており、良好に一方向凝固していた。それに対して、従来条件に係る多結晶シリコン基板は、出湯時のシリコン融液10の温度を高目に制御できていないため、出湯と同時に低温の鋳型側面に沿って大きな初期凝固層が形成された結果、鋳肌に接した側の結晶は結晶成長方向に対し斜めにスライスされ、結晶粒はアスペクト比の大きな横長の形状を呈し、本発明に係る多結晶シリコン基板と比べて、一方向凝固性が悪いことが明かであった。
これらの基板を用いて、一般的なバルク型太陽電池素子を作製し、太陽電池素子の変換効率を特性評価した。
その結果、条件Aにおいては変換効率16.2%、条件Bにおいては変換効率15.8%となったが、従来条件では、15.4%であった。
以上のように、本発明に係る多結晶シリコン基板を用いて形成した太陽電池素子は、従来条件のものよりも良好な特性が得られた。これは、本発明の鋳造装置、及び本発明の多結晶シリコンインゴットの鋳造方法を用いて形成された多結晶シリコンインゴットのうち、実質的に太陽電池用基板として使用される部分の一方向凝固性が向上したために、凝固・冷却中に多結晶シリコンインゴットに入っていた熱応力誘起転位が大きく抑制されたものと推測される。
以上のように実施例により本発明の効果を確認することができた。
本発明に係る鋳造装置の一実施形態を示す概略断面構造図である。
(a)、(b)は、本発明に係るシリコン栓の実施形態を示す部分拡大図である。
(a)、(b)は、本発明に係るシリコン栓の作用を示す部分拡大図である。
本発明に係るシリコン栓の他の実施形態を示す部分拡大図である。
(a)は、本発明に係る鋳造装置を使用した場合におけるノズル内のシリコン栓の位置と出湯温度との関係を示す散布図であり、(b)は、本発明以外の鋳造装置を使用した場合におけるノズル内のシリコン栓の位置と出湯温度との関係を示す散布図である。
従来の鋳造装置の一実施形態を示す概略断面構造図である。
従来の鋳造装置の他の実施形態を示す概略断面構造図である。
本発明に係る鋳造装置の一実施形態を示す概略断面構造図である。
本発明に係る鋳造装置を用いたときの、溶融坩堝内のシリコン融液の温度と、ノズル先端温度及び自然出湯の有無の関係を示すグラフ図である。
符号の説明
1a:溶融坩堝
1b:保持坩堝
2:ノズル
3:出湯口
4:加熱手段
4a:上部加熱手段
4b:側部加熱手段
5、5a、5b、5c、5d:シリコン栓
6:シリコン原料
7:ノズル加熱手段
8:蓋部材
9:鋳型
9a:離型材
10:シリコン融液
11:鋳型断熱材
12:冷却板
13:鋳型加熱手段
θ:ノズルの内面の両テーパー角