JP4561019B2 - 巻線異常検査方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁力式駆動装置の固定子および可動子のうち少なくとも一方に備えられた巻線の短絡、レアー、巻数違い等の異常を、インパルス電圧試験により検査する巻線異常検査方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、磁力式駆動装置の巻線の異常を検査するための試験として、特開昭57−169685号公報等にて記載されているインパルス電圧試験が採用されている。
【0003】
この試験の従来方法を説明すると、正常な巻線であるマスタ巻線と検査対象となる被検査巻線とにインパルス電圧を印加し、このインパルス電圧に対するマスタ巻線の過渡電圧の波形と被検査巻線の過渡電圧の波形とを比較する。そして、図6(a)に示すように両電圧波形がほぼ一致している場合には被検査巻線が正常であると判定する。一方、図6(b)に示すように両電圧波形が大きくずれている場合には被検査巻線が異常であると判定する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、磁力式駆動装置の回転子が、例えば鉄心に磁石を内蔵して構成されている場合等においては、固定子と回転子との位置関係により巻線のインダクタンスは図3に例示するように変化する。そして、被検査巻線の電圧波形はインダクタンスの値に応じて変化するものであるため、被検査巻線が正常であっても、回転子の位置が僅かにずれただけで被検査巻線の電圧波形は変化してしまい、図6(c)に示すように両電圧波形が大きくずれてしまう。
【0005】
従って、図6(b)に示すように被検査巻線の異常に起因して両電圧波形が大きくずれている場合と、図6(c)に示すように回転子の位置ずれに起因して両電圧波形が大きくずれている場合とを識別することが困難となる。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、巻線異常検査の確実性を向上させることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、磁力式駆動装置(20)の固定子(21)および可動子(22)のうち少なくとも一方に備えられ、固定子(21)と可動子(22)との位置関係によりインダクタンスが変化する巻線(21U)を検査対象とし、この巻線(21U)の異常をインパルス電圧試験により検査する巻線異常検査方法において、可動子(22)の位置の変化に対するインダクタンスの変化率が最小となるように固定子(21)と可動子(22)とを位置決めし、この位置決め状態でインパルス電圧試験を行うことを特徴としている。
【0008】
これにより、可動子(22)の位置がずれた場合におけるインダクタンスの変化量を小さくできるので、インパルス電圧試験における巻線(21U)の電圧波形の変化のうち位置ずれに起因する変化を小さくできる。よって、巻線(21U)の異常に起因する変化を容易に識別でき、巻線(21U)の異常検査の確実性を向上できる。
【0009】
ここで、インダクタンスの変化率が最小となる位置としては、インダクタンスが最大となる位置(図3に例示するx1の位置)と、最小となる位置(図3に例示するx2の位置)とが挙げられる。そして、x1の位置から所定量Δxだけずれた場合と、x2の位置から所定量Δxだけずれた場合とでは、前者の場合の方が、位置ずれに起因する電圧波形の変化量を小さくできる。
【0010】
この理由を以下に説明する。位置ずれしていない状態の巻線(21U)のインダクタンスと、位置ずれによるインダクタンスの変化量ΔLとの比率Rが大きいほど、位置ずれに起因する電圧波形の変化量が大きくなってしまうことが分かっている。そして、図3に例示するように、x1からΔxだけずれた場合の前記比率をR1とし、x2からΔxだけずれた場合の前記比率をR2とすると、R1の方がR2より小さいことが以下に証明するように明らかである。
【0011】
すなわち、R1=ΔL1/L1、R2=ΔL2/L2であり、R1とR2との差を式で示すと、(R1−R2)=(ΔL1・L2−ΔL2・L1)/(L1・L2)となる。ここで、ΔL1=ΔL2であるから、(R1−R2)=ΔL1・(L2−L1)/(L1・L2)となる。そして、ΔL1>0、L1>0、L2>0であるとともにL2<L1であるから、(R1−R2)<0となり、R1<R2であることが証明される。
【0012】
従って、請求項に記載の発明のように、位置決め状態における固定子(21)と可動子(22)との位置関係を、インダクタンスが最大となる位置に設定すれば、位置ずれに起因する電圧波形の変化量をより一層小さくでき、巻線(21U)の異常検査の確実性をより一層向上できる。
【0013】
また、請求項に記載の発明のように、固定子(21)に対して回転運動する回転子(22)を可動子とした磁力式駆動装置(20)に適用された巻線を、検査対象となる巻線(21U)として好適である。
【0014】
ここで、回転子(22)に磁石(22b)を内蔵した磁力式駆動装置(20)においては、回転子(22)の磁気異方性が特に顕著になるので、固定子(21)と回転子(22)との位置関係による巻線(21U)のインダクタンスの変化が大きくなる。よって、請求項に記載の発明のように、回転子(22)に磁石(22b)を内蔵した磁力式駆動装置(20)に適用された巻線を、検査対象となる巻線(21U)として好適である。
また、請求項4に記載の発明では、磁石を有する回転子(22)を備えるブラシレスモータ(20)の固定子(21)に備えられ、固定子(21)と回転子(22)との位置関係によりインダクタンスが変化する巻線(21U)を検査対象とし、この巻線(21U)の異常をインパルス電圧試験により検査する巻線異常検査方法において、回転子(22)の位置の変化に対するインダクタンスの変化率が最小となるように固定子(21)と回転子(22)とを位置決めし、この位置決め状態でインパルス電圧試験を行うことを特徴としている。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図1ないし図6に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るインパルス試験機の概略構成図であり、10は、正常な巻線であるマスタ巻線11aとマスタロータ12とからなるマスタワークであり、20は、検査対象である被検査巻線21Uと被検査ロータ(回転子)22とからなる回転機(磁力式駆動装置)である(回転機20の構造は後に詳述する)。
【0018】
30は、1000V〜3000Vの高電圧を発生する高電圧発生装置(この装置の構成は後に詳述する)であり、高電圧発生装置30からの出力をスイッチ40、41により短時間に切り替えて、マスタ巻線11aと被検査巻線21Uとにインパルス電圧を印加する。
【0019】
そして、印加されたインパルス電圧に対するマスタ巻線11aの過渡電圧と、印加されたインパルス電圧に対する被検査巻線21Uの過渡電圧との電圧差を差増幅器50により検出する。そして、検出された電圧差が所定の値を超えると巻線異常判定器60によりマスタ巻線11aと被検査巻線21Uとは電気的に異なる状態であると判断し、被検査巻線21Uが、短絡、レアー、巻数違い等の異常であると判断する。
【0020】
図2は、回転機20の構造を示す平面図であり、回転機20のステータ(固定子)21は、磁路をなすステータ鉄心21aと、ステータ鉄心21aに備えられる複数のティース21bと、ティース21bに巻き付けられた巻線21U、21V、21Wとから構成されている。なお、本実施形態の巻線はスター結線された三相巻線であり、21UはU相巻線、21VはV相巻線、21WはW相巻線を示している。
【0021】
また、回転機20の被検査ロータ22は、磁路をなすロータ鉄心22aと、ロータ鉄心22aに内蔵された永久磁石22bとから構成されており、周知のIPM(Interior Permanent Magnet)型のロータである。従って、被検査ロータ22は磁気異方性を有しており、ステータ21とロータ22との位置関係によって、巻線21U、21V、21WのインダクタンスLは変化する。
【0022】
図3は、U相巻線21UのインダクタンスLの変化を示すものであり、インダクタンスLとロータ位置との関係を示す特性図である。そして、図3中の符号x1に示す被検査ロータ22の位置は、ロータ22とステータ21との位置関係が図4(a)に示す状態であるときの位置を示しており、インダクタンスの変化率が最小であり、かつ、インダクタンスの値が最大となる位置である。
【0023】
また、符号x2に示す被検査ロータ22の位置は、ロータ22がx1の位置から反時計回りに90°回転した位置を示しており、インダクタンスの変化率が最大となる位置である。
【0024】
また、また、符号x3に示す被検査ロータ22の位置は、ロータ22がx1の位置から反時計回りに180°回転した位置(図4(b)に示す位置)を示しており、インダクタンスの変化率が最小であり、かつ、インダクタンスの値が最小となる位置である。
【0025】
ここで、被検査ロータ22がx1の位置からΔxだけずれた場合には、インダクタンスはΔL1だけ変化し、x2の位置からΔxだけずれた場合には、インダクタンスはΔL2だけ変化する。また、x3の位置からΔxだけずれた場合には、インダクタンスはΔL3だけ変化する。そして、図3から明らかなように、x1およびx2におけるインダクタンスの変化率は最小であるため、インダクタンスの変化量ΔL1およびΔL2はΔL3に比べて極めて小さい値となる。
【0026】
図5は、インパルス試験機の高電圧発生装置30の回路構成図であり、この高電圧発生装置30は、DC電源31、スイッチ32、コンデンサ33、34およびサイリスタ35から構成されている。
【0027】
次にインパルス試験機による検査手順を説明すると、はじめに、インパルス試験機にマスタワーク10および回転機20を取り付ける。そして、インダクタンスの変化率が最小となるようにマスタステータとマスタロータ12とを位置決めし、また、インダクタンスの変化率が最小となるように被検査ステータ21と被検査ロータ22とを位置決めする。本実施形態では、図3に示すx1の位置に各ロータ12、22を位置決めし、インダクタンスの値が最大となるように設定している。
【0028】
次に、高電圧発生装置30を作動させる。具体的には、先ず、DC電源31に接続されたスイッチ32を一時的にONして、コンデンサ33を充電した後、スイッチ32をOFFする。次に、サイリスタ34をONすると、スイッチ40がONとなるように切り替えられている状態において、コンデンサ33に充電された電気がコンデンサ34およびマスタ巻線11aに流れ、マスタ巻線11aが有するインダクタンスL1とコンデンサ34とが共振し、マスタ巻線11aの両端には1000V〜3000Vの高電圧が印可される。
【0029】
一方、スイッチ41がONとなるように切り替えられている状態においても同様にして、被検査巻線21Uが有するインダクタンスL1とコンデンサ34とが共振し、被検査巻線21Uの両端には1000V〜3000Vの高電圧が印可される。そして、マスタ巻線11aに印加された高電圧に対する過渡電圧の波形は、図6の実線に示すように振動する波形となり、被検査巻線21Uに印加された高電圧に対する過渡電圧の波形は、図6の点線に示すように振動する波形となる。
【0030】
そして、マスタロータ12および被検査ロータ22がx1の位置からずれていない場合において、被検査巻線21Uがレアー等の異常を有しない正常な状態である場合には、図6(a)に示すように、マスタ巻線11aの電圧波形と被検査巻線21Uの電圧波形とはほぼ一致することとなる。従って、差増幅器50により検出される電圧差が所定の値に比べて非常に小さい値となり、巻線異常判定器60により被検査巻線21Uは正常であると判断される。
【0031】
一方、被検査巻線21Uが異常を有する状態である場合には、図6(b)に示すように、マスタ巻線11aの電圧波形と被検査巻線21Uの電圧波形とは大きくずれることとなる。従って、差増幅器50により検出される電圧差が所定の値を超える大きい値となり、巻線異常判定器60により被検査巻線21Uは異常であると判断される。
【0032】
そして、このようにU相巻線21Uを検査した後、V相巻線21VおよびW相巻線21も、U相巻線21Uと同様の手順により検査する。
【0033】
ここで、例えば、各ロータ12、22の位置決めをx3の位置に設定すると、仮に被検査ロータ22がx3の位置からΔxだけずれると、インダクタンスの変化量は非常に大きい変化量ΔL3となってしまう。従って、被検査巻線21Uが正常であっても図7に示すような電圧波形となり、図6(b)に示すように被検査巻線21Uの異常に起因して両電圧波形が大きくずれている場合と、図7に示すように被検査ロータ22の位置ずれに起因して両電圧波形が大きくずれている場合とを識別することが困難となる。
【0034】
これに対し、本実施形態によれば、各ロータ12、22の位置決めを、インダクタンスの変化率が最小となる位置x1に設定しているので、仮に被検査ロータ22がx1の位置からΔxだけずれてしまっても、インダクタンスの変化量L1はΔL3に比べて非常に小さい値となる。よって、被検査巻線21Uの異常に起因する電圧波形のずれを容易に識別でき、巻線の異常検査の確実性を向上できる。
【0035】
ところで、位置ずれしていない状態の被検査巻線21Uのインダクタンスと、位置ずれによるインダクタンスの変化量ΔLとの比率Rが大きいほど、位置ずれに起因する電圧波形の変化量が大きくなってしまう。そして、x1からΔxだけずれた場合の前記比率をR1とし、x2からΔxだけずれた場合の前記比率をR2とすると、R1の方がR2より小さい。
【0036】
従って、本実施形態のように、各ロータ12、22の位置決めを、インダクタンスの値が最大となる位置x1に設定すれば、x2に設定した場合に比べて、位置ずれに起因する電圧波形の変化量を小さくでき、より一層巻線の異常検査の確実性を向上できる。
【0037】
(他の実施形態)
本発明は、回転機20のステータ21とロータ22との位置関係により巻線21UのインダクタンスLが変化する回転機20の巻線21Uであれば、本発明の検査方法を適用できる。従って、上記実施形態では、IPM型のロータ22を備える回転機20の巻線21Uを試験対象としているが、例えば、SPM(Surface Permanent Magnet)型のロータ22を備える回転機20の巻線をも試験対象にできる。
【0038】
また、上記実施形態では、ステータ21側に巻線を備えた回転機20を適用対象としているが、ロータ22側に巻線を備えた回転機20を適用対象としても、本発明の検査方法を適用できる。
【0039】
また、上記実施形態では、ロータ22の励磁手段として、巻線を用いた回転機20を適用対象としており、このような回転機としては周知の巻線同期モータ、巻線型誘導モータ等が挙げられるが、ロータ22の励磁手段として、磁石を用いた回転機20(例えば、周知の永久磁石モータ、ブラシレスモータ等)を適用対象としても、本発明の検査方法を適用できる。
【0040】
ところで、周知のSR(Switched Reluctance)回転機等のように磁気異方性が大きい回転機であるほど、固定子と回転子との位置関係による巻線のインダクタンス変化は大きく、従来の検査方法では巻線異常検査の確実性を著しく損なうこととなる。よって、SRのように磁気異方性が大きい回転機に本発明の検査方法を適用して好適である。
【0041】
また、上記実施形態では、磁力式駆動装置として、ロータ22を可動子とした回転機20を適用対象しているが、本発明はこれに限られることなく、可動子が直線的に運動する磁力式駆動装置(例えば、周知の電磁リレースイッチ、リニアモータ等)を適用対象としても、本発明の検査方法を適用できる。
【0042】
また、本発明の検査方法を、電動コンプレッサのモータとして適用された回転機20の巻線の検査に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る、インパルス試験機の概略構成図である。
【図2】図1に示す回転機の構造を示す平面図である。
【図3】図1に示す被検査巻線のインダクタンスLとロータ位置との関係を示す特性図である。
【図4】ステータとロータとの位置関係を示す平面図であり、(a)は図3のx1に示す位置関係の平面図であり、(b)は図3のx3に示す位置関係の平面図である。
【図5】図1に示すインパルス試験機の高電圧発生装置の回路構成図である。
【図6】図1に示す被検査巻線の両端の電圧と時間との関係を示す特性図であり、(a)は巻線正常時における特性図、(b)は巻線異常時における特性図、(c)はロータ位置ずれ時における特性図である。
【符号の説明】
20…回転機、21…ステータ、22…ロータ、21U…被検査巻線。

Claims (4)

  1. 磁力式駆動装置(20)の固定子(21)および可動子(22)のうち少なくとも一方に備えられ、前記固定子(21)と前記可動子(22)との位置関係によりインダクタンスが変化する巻線(21U)を検査対象とし、
    この巻線(21U)の異常をインパルス電圧試験により検査する巻線異常検査方法において、
    前記可動子(22)の位置の変化に対する前記インダクタンスの変化率が最小となるように前記固定子(21)と前記可動子(22)とを位置決めし、この位置決め状態で前記インパルス電圧試験を行うものであり、
    前記位置決め状態における前記固定子(21)と前記可動子(22)との位置関係を、前記インダクタンスが最大となる位置に設定したことを特徴とする巻線異常検査方法。
  2. 検査対象となる前記巻線(21U)は、前記固定子(21)に対して回転運動する回転子(22)を前記可動子とした前記磁力式駆動装置(20)に適用された巻線であることを特徴とする請求項記載の巻線異常検査方法。
  3. 検査対象となる前記巻線(21U)は、前記回転子(22)に磁石(22b)を内蔵した前記磁力式駆動装置(20)に適用された巻線であることを特徴とする請求項に記載の巻線異常検査方法。
  4. 磁石を有する回転子(22)を備えるブラシレスモータ(20)の固定子(21)に備えられ、前記固定子(21)と前記回転子(22)との位置関係によりインダクタンスが変化する巻線(21U)を検査対象とし、
    この巻線(21U)の異常をインパルス電圧試験により検査する巻線異常検査方法において、
    前記回転子(22)の位置の変化に対する前記インダクタンスの変化率が最小となるように前記固定子(21)と前記回転子(22)とを位置決めし、この位置決め状態で前記インパルス電圧試験を行うことを特徴とする巻線異常検査方法。
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