JP4550171B2 - 免疫系活性を調節する及び炎症を阻害するための細胞調節親油性ペプチド - Google Patents
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Description
技術分野
本発明の分野は免疫系細胞の活性を調節及び炎症を阻害するために有用な新規のペプチドにある。
背 景
免疫系は新形成の如き有害な異常に対して身体を救済しながら多種多様な病原体に対して哺乳類宿主を守る細胞及び組成物の異常に複雑な組合せである。免疫系の一つの技は免疫系機能を発揮する細胞、例えば(a)リンパ球、例えば骨髄由来B−リンパ球、胸腺由来Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞、並びに(b)単球食細胞、例えば単球及びマクロファージを包括する。リンパ球は主に特異的免疫反応に関連するが、抗原決定基を特異的に認識し、且つそれを識別するその能力に基づき、単球食細胞は往々にしてファゴサイト−シスを介する外来微生物の一般除去、並びにその微生物自体により直接的に誘導される又は抗原刺激Tリンパ球に応答して誘導されるサイトカインの生産及び分泌に関与する。リンパ球及び単核食細胞の機能は高度に関連しており、そして適切な免疫系機能にとって必須である。
リンパ球細胞の一の重要なサブセットはTリンパ球であり、その名の由来はそれらが胸腺でプロセシングを受けることによる。Tリンパ球は複雑な細胞の群であり、それは細胞死を誘導する様々なメカニズムを有することにより細胞障害性であるか、又はその他の細胞の活性化に機能する様々なサイトカインを分泌することにより活性化性でありうる。細胞障害性Tリンパ球(「CTL」)は特定の主要組織適合性複合体(MHC)に制限して作用し、そしてα及びβ鎖の両者を含んで成り、且つMHCの溝の中のペプチドと結合した特定のMHC複合体に対する特異的親和性を有する細胞表層T細胞レセプターを発現する。CTLは、当該溝の中のペプチドが宿主にとって内因性である場合には細胞に対して通常作用しないようにスクリーニングされる。しかしながら、MHCが外来性であるか、又は溝の中のペプチドが宿主にとって外来性であるとき、CTLはかかる細胞を攻撃し、そしてそれを殺す。免疫系において重要な役割を果たすその他のリンパ球細胞にはB−リンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられ、その両者の活性は免疫系のその他の細胞及び様々なサイトカインポリペプチドにより影響されうる。
単核食細胞は免疫系の第二主要細胞集団を構成し、そして一次機能がファゴサイト−シスである一般リネージを有する細胞から成る。単核食細胞は先祖骨髄幹細胞に由来し、そして成熟及びその後の活性化を経て、様々な形態学的形態、例えば不完全分化型単球細胞及びマクロファージに到ることができうる。単核食細胞の適正な機能は様々なサイトカインタンパク質を生産し、且つそれに応答する能力に依存する。
サイトカイン、例えば様々なインターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、ケモカイン、造血成長因子及び泳動阻害因子は免疫系の多種多様な細胞により産生されるタンパク質の多様性グループである。最も重要には、サイトカインは様々な刺激に応答して様々なリンパ球及び単球食細胞により産生される及び/又は応答する。ほとんどの場合、サイトカインは自然及び特異的な免疫の双方のエフェクター期の際に生産され、そして免疫及び炎症反応の双方を媒介及び調節することを司る。サイトカインは、その他のポリペプチドホルモンと同様に、標的細胞の表層上の特異的なレセプターに対する結合によりその作用を開始し、その活性化は往々にして炎症反応をもたらす。
免疫反応及びサイトカイン誘導型炎症反応の活性化は宿主の健康及び免疫系の適正な機能にとって極めて重要であるが、かかる活性化が望まれない数多くの状況がある。一つの特定の分野は移植であり、MHC抗原のドナーと受容者との間での同一性対合がほとんどない場合である。その他の状況は、自己免疫疾患、例えばインスリン依存性真性糖尿病(IDDM)において認められるように、MHC及び結合ペプチドが共に内因性である細胞を攻撃してしまう点でCTLの一部に不良がある状況である。その他の状況は、サイトカイン媒介炎症反応が宿主の健康に悪影響を及ぼすような場合、例えば敗血症ショック、リウマチ様関節炎、クーロン病、大腸炎等の如き病気に係る炎症反応である。
免疫抑制はCTLの活性化が望まれない状況における汎用のアプローチとなりつつある。しかしながら、免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA、FK506等は様々な望ましくない副作用を有する。更に、様々なアプローチが炎症反応を調節又は阻害するために採用されるが、このようなアプローチの多くは1又は複数の望ましくない作用をも有する。従って、リンパ球、特にCTLの活性化を阻害でき、しかも免疫系に対する万能免疫抑制効果が小さく、且つ副作用が少なく、不慮の感染に対する防御に関して免疫系の大部分を宿主が有するままとする新しい薬剤の同定にかなりの関心がある。更に、有害な炎症反応を抑制又は阻害するように機能する新たな薬剤の同定にかなりの関心がある。
ここ数年において、免疫系活性を調節するうえで有効であり、且つ同種異系移植の寿命を延期するオリゴペプチドが報告されている。これらのオリゴペプチドはヒト白血球抗原−B(HLA−B)α1−ドメインを基礎とし、そして保存アミノ酸配列Arg-X-X-X-Arg-X-X-X-X-Tyrを有し、ここでXと表示する様々なアミノ酸は活性を保持するために比較的わずかな種類のアミノ酸である(例えば、WO95/13288参照)。このようなオリゴペプチドがその活性を発揮するメカニズムはわかっておらず、特にそれらが治癒に未たない用量のシクロスポリンとどのように協奏して同種異系移植の寿命を引き延ばすかは不明である。
更に、T細胞媒介炎症に対する作用を有するのは次式のオリゴペプチド
A−B−C−D−E
と報告されている。ここでAは存在しないか、又は1もしくは2個の疎水性残基であり;Bは正に帯電したアミノ酸;Cは3〜5個の疎水性アミノ酸から成るペプチドであり;Dは正に帯電したアミノ酸であり;そしてEは存在しないか又は8個までの疎水性アミノ酸である。この合成されたペプチドは:Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val;Met-Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu;Leu-Gly-Ile-Leu-Leu-Leu-Gly-Val;Leu-Asp-Ile-Leu-Leu-Leu-Gly-Val;Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Ile-Leu-Val;及びLeu-Arg-Leu-Leu-Leu-Lys-Valである。これらの配列はTCR−αのトランスメンブラン配列の配列上にあると推定されている。このペプチドが移植寿命を延ばす有益な効果を有することはその出願において何ら裏付けされていない。
関連文献
Buelowら、Transplantation 59:649-654(1995)及びその中に引用する文献。Manoliosら、Nature Medicine 3:84-88(1997)はT細胞活性を調節する合理的なデザインにより誘導されたオリゴペプチドを述べる。ClaybergerらのWO95/13288はT細胞活性を調節できるペプチドを述べる。構造活性の関係を利用してコンピューターにより化合物をデザインするための方法を記載した文献には以下のものが挙げられる:GrassyらJ. of Molecular Graphics 13:356-367(1995);HaiechらJ. of Molecular Graphics 13:46-48(1995);YasriらProtein Engineering 11:959-976(1996)及びAshtonらDrug Discovery Today 1:71-78(1996)。
発明の概要
細胞調節ペプチドを提供し、それは(1)様々な免疫系細胞、特にリンパ球、より詳しくはCTLの活性を調節することができる(2)炎症性サイトカインを産生することのできる細胞によるかかるサイトカインの産生を阻害し、その結果有害な炎症反応に関わる症状の処置において有効である、(3)ヘム含有酵素の活性を調節できる及び/又は(4)インスリン依存性真性糖尿病(IDDM)に感受性な宿主のIDDMを遅延させることができ、ここで当該ペプチドはコンピュータープログラムに従うデザインに基づく。化合物の典型例は配列B-X-X-X-B-X-X-X-J-Tyr(ここでBは塩基性アミノ酸、JはGly,B、又は5〜6個の炭素原子の脂肪族疎水性アミノ酸であり、そしてXは脂肪族極性アミノ酸以外の任意のアミノ酸であり、ここで少なくとも3つのXは同一の脂肪族非極性アミノ酸である)、その二量体及びそのD−立体異性体を含んで成り、そして当該アミノ酸配列は環の一部であってよい。
これらのペプチドは、それら単独で、又はその他の免疫抑制剤と組合さって、免疫系リンパ球、特に細胞障害性リンパ球の活性化、特に移植の寿命の延期に有用である。本明細書に記載のペプチドは炎症性サイトカイン(例えば、インターフェロン−γ、IL−1,IL−4,IL−5,IL−6,IL−8,IL−10,IL−12,IL−13,IL−16,MIP1α、等)の産生を阻害するためにも有用であり、かくして様々な障害、例えばリウマチ様関節炎、敗血症ショック、クーロン病、大腸炎、アレルギー反応、自己免疫疾患等に関わる炎症反応を阻害する、ヘムを基礎とする、酵素例えばヘムオキシゲナーゼ、酸化窒素シンターゼ等の活性を阻害する、並びにin vitro及びin vivoの双方においてIDDMの発症のおそれのある患者のIDDMの発症を遅らせるために有用である。ペプチドの投与は移植すべき器官に対してex vivoで又はin vivoで行ってよく、それは任意の慣用の手段、例えば当該ペプチド又は所望のペプチドをコードする核酸をリンパ球活性を実質的に阻害する、炎症性サイトカインの生産及び関連の炎症過程を阻害する、ヘムを基礎とする酵素活性、即ち、炎症反応に以前から関わる活性を阻害する、及び/又はIDDMの発症を遅らせるのに十分な量で直接適用又は投与することによる。
【図面の簡単な説明】
図1はbc1−nLペプチドのコンホメーション立体クラスターの模式図である。描写するコンホメーションはbc1−nL軌道のクラスター分析から得られる。
図2はD2ペプチド対象軌道の主要面に対するペプチド軌道の突き出しの模式図である。
特定の態様の説明
免疫系細胞の活性、特にT及びB細胞、並びに単核食細胞、より詳しくは、CTL及びNK細胞活性をin vitro及びin vivoで調節するための方法及び組成物を提供する。更に、炎症性サイトカインの生産を阻害するのに有効であり、それ故有害な炎症反応に関わる障害の治療的処置、様々ななヘムを基礎とする酵素の活性の阻害、及び/又は自己免疫疾患、例えばIDDMの発症の遅延に有用な方法及び組成物を提供する。CTL及びNK細胞調節ペプチドとしての特定の効果を有するペプチドは関連文献の説明に特定している通り、コンピュータープログラムに従って提供する。Grassyら、前掲に記載の手順に従い、T細胞活性を阻害する能力を有することが以前に見い出された既知のオリゴペプチドに基づいてパラメーターを決定した。例えば、Buelowら、前掲を参照のこと。免疫抑制活性のために必要なコンホメーション空間はYarsiら前掲に記載の手順に従って計算した。
これらのパラメーターを利用し、既知のT細胞阻害活性を有する化合物がこれらのパラメーター内に属することが示され、そして数多くの新規のペプチド化合物を設計及び試験できた。新しいペプチド化合物は既知の活性化合物と同等又は優れた活性を有することが見い出された。既知の活性化合物にはHLA−Bα1ドメイン、特にアミノ酸75〜84及びこの配列の変異体が含まれ、ここで2個以下のアミノ酸が置換され、そのアミノ酸にはR及びYは含まれず、ここで本発明はかかる既知の化合物を包括することは意図しない(例えばWO95/13288及びBuelowら、前掲参照のこと)。更に知られているのはその配列から成る及びその配列と比べ2つより多くの突然変異を有しない配列から成るヒトTCR−αトランスメンブラン領域に基づく配列である。これらの配列は2個の塩基性アミノ酸を含み、ここでこの2個の塩基性アミノ酸は4個の脂肪族疎水性アミノ酸で隔てられている。但し、本出願は3〜5個の疎水性アミノ酸が存在しうることを示唆する。突然変異とは、一のアミノ酸の別のものによる置換又は挿入もしくは欠失を意味し、それぞれを一の突然変異として数える。
本明細書に記載の新規のペプチド化合物の中枢配列において、所望するには2個の塩基アミノ酸は3〜4個の疎水性アミノ酸、特に3個の疎水性アミノ酸により隔てられ、特にN末端が塩基性アミノ酸である場合にそうである。より所望するには、C末端アミノ酸は芳香族アミノ酸、特にチロシンである。特に注目されるのはオリゴペプチド中枢末端アミノ酸の少なくとも一つがオリゴペプチド末端アミノ酸である場合であり、これは当該化合物のモノマー又はオリゴマー形態であってよい。
配列B-X-X-X-B-X-X-X-J-Tyr(ここでBは塩基性アミノ酸、即ち、Lys又はArg、特に少なくとも一の位置、好ましくは両位置においてArgであり、JはGly,B又は5〜6個の炭素原子の脂肪族疎水性アミノ酸、特にGly又はBであり、そしてXは脂肪族帯電アミノ酸以外の任意のアミノ酸、好ましくは極性アミノ酸以外の任意のアミノ酸であり、ここで少なくとも3つのXは同じ脂肪族非極性アミノ酸であり、好ましくは少なくとも4つが同じ脂肪族非極性アミノ酸であり、そしてより好ましくは1個を除く少なくとも全てが同じ脂肪族非極性アミノ酸である)、そのオリゴマー、特にその二量体及びそのD−立体異性体を含んで成る新規の単離されたペプチド化合物を設計し、ここでそのアミノ酸配列は環の一部であってよい。
N末端及びC末端の一方又は双方は往々にして全部で約100以下、通常は全部で約30以下、より通常には約20以下のアミノ酸、往々にして約9以下のアミノ酸で伸長されていてよく、ここでこのアミノ酸は25%未満、より通常には20%未満が極性アミノ酸であり、より詳しくは20%未満が帯電アミノ酸である。更に、このオリゴペプチドの末端アミノ基又はカルボキシル基はエステル、アミド又は置換化アミノ基を供するようにアルキル化又はアシル化により修飾されていてよく、ここでこのアルキル基又はアシル基は約1〜30、通常は1〜24、好ましくは1〜3又は8〜24、特に12〜18の炭素原子数であってよい。
更に含まれるのはこのオリゴペプチドのオリゴマー、特に二量体であり、それはヘッドトゥヘッド、テールトゥテール、又はヘッドトゥテールであってよく、約6より多くのペプチドの反復はないものとする。更に、最大で全てのアミノ酸で、1又は複数個のアミノ酸がD−立体異性体でありうる。
更に、構造的に拘束されたオリゴペプチド、例えば約9〜50、通常は12〜36個のアミノ酸の環状ペプチドを採用してよく、ここで特定のアミノ酸以外のアミノ酸は架橋として存在しうる。ある状況においては、アミノ酸架橋以外を使用してよい。末端システインを有することにより、環を閉じるためにジスルフィド架橋を形成してよい。環形成のための別の方法はChenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5872-5876(1992)及びWuら、Protein Engineering 6:471-478(1993)に見い出せうる。
本発明の目的のため、アミノ酸(大部分は天然アミノ酸又はそれらのD−立体異性体)は以下のカテゴリーに分けられよう:
1.脂肪族
(a)非極性脂肪族
Gly,Ala,Val,nL,Ile,Leu
(b)極性脂肪族
(1)非電荷
Cys,Met,Ser,Thr,Asn,Gln
(2)電荷
Asp,Glu,Lys,Arg
2.芳香族
Phe,His,Trp,Tyr
ここで、Proは非極性脂肪族アミノ酸に含めてもよいが、通常は含めないであろう。“nL”はノルロイシンを意味し、非極性脂肪族アミノ酸は他の異性体で置換することができる。
B-X-X-X-B-X-X-X-J-Tyrペプチド配列中のXにより示される6つのアミノ酸のうち、好ましくは少なくとも3つは5〜6炭素原子の脂肪族アミノ酸であり、より好ましくは少なくとも4つは5〜6炭素原子の脂肪族アミノ酸であり、より好ましくは6炭素原子の脂肪族アミノ酸である。他のアミノ酸は、他の非電荷脂肪族アミノ酸、特に非極性脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸である。
コア配列は、ほとんどの場合親油性、即ち脂肪族非電荷アミノ酸及び芳香族アミノ酸であろうアミノ酸によりいずれかの方向に伸長させることができる。また、上述の通り、そのオリゴヌクレオチドの一方又は両方、通常一方の端は、8〜36、通常8〜24の炭素原子及び2未満のヘテロ原子を脂肪族鎖に含む親油性基、通常、脂肪族又はアルアルキル基で置換することができ、ここでそのヘテロ原子は通常、酸素、窒素及び硫黄である。その鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、必要に応じて脂肪族不飽和の3以下の部位、通常2以下の部位を有する。便利には、市販の脂肪族脂肪酸、アルコール及びアミン、例えばラウリン酸、ミリスチルアルコール、ステアリルアミン等を用いることができる。親油性基は、慣用的な方法に従ってオリゴヌクレオチドの適切な官能基と、頻繁に支持体上での合成の間に、その支持体へのオリゴヌクレオチドの結合の部位により、反応させることができる。
特に関心のある組成物は次式:
Arg-U-X-X-Arg-X-X-X-J-Tyr
(ここで、全ての記号は、Uを除いて先に定義されており、Uは非電荷脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸、特に非極性脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸である)
を有するであろう。
問題の配列は、種々の方法に用いることができる。調査目的のため、それらは、CTLの活性化及び非活性化に関連する生理的経路を分析するために用いることができる。CTL、特に周知のペプチド標的を有するCTL細胞系を、問題のペプチド、特に放射能標識したものに、CTLが制限される抗原提示細胞の存在及び欠如下で組み合わせることができる。CTLによる溶解の後、次に、活性化により試験管内で上昇制御されるマーカーであるマーカーCD69により静止したCTL細胞から活性化CTL細胞を分離することができる。分離は、FACS及び蛍光標識化抗CD69を用いて行うことができる。
最も蛍光の高い細胞、例えば最高25%を単離することにより、次に細胞を溶解し、問題のマーカーに関連するタンパク質を、例えばクロマトグラフィー、非変性電気泳動等により単離することができる。あるいは、電気泳動を用いてタンパク質を分離し、次にその標識化ペプチドと共にウェスタン・ブロット又は他の技術を用いて問題のペプチドが結合するタンパク質を同定することができる。放射能標識のかわりに、いずれかの他の型の標識、通常、小有機分子、例えばビオチン、蛍光剤等を用いることができる。ビオチンを用いる場合、分離の後、アビジンを加えることができ、ここでアビジンは上述の通り標識で標識化される。
問題のペプチドの存在及び欠如下で抗原提示細胞と組み合わされたT細胞を比較することもできる。各々の例においてcDNAライブラリーを調製することができ、代表示差分析、サブトラクション等を、問題のペプチドの存在及び欠如下で活性化されている細胞間の発現の差を検出するために用いることができる。CTLの特定のサブセットが1又は複数のタンパク質、特に表面膜タンパク質の発現又はその欠如により問題のペプチドに対して他のサブセットから異なって応答するか否かを決定することもできる。この方法において、組織内の不要なCTLの攻撃を避けるために、白血球除去法等により除去することができるCTLを同定することができる。
HLA−Bα、ドメインのペプチドは、シャペロンとして機能し、その役割においてシャペロンとして種々の配列と結合することが知られているhsc70に結合することが報告されている。
それらの意図した作用により、特に哺乳動物ホストへの投与のために、問題のペプチドは血流中のそれらの分布を変化させ、血液成分への結合を減少させ又は増加させ、血流中のペプチドの寿命を増加させる等のために広く改変させることができる。問題のペプチドは、血液の生理環境において開裂性又は非開裂性であるリンカーによりこれらの他の成分に結合させることができる。そのペプチドは、官能基、例えばヒドロキシル、チオール、カルボキシル、アミノ等が存在するいずれのペプチドの位置においても連結させることができる。必要に応じて、結合は、N末端又はC末端のいずれかであろう。
そのペプチドは、種々の目的のため広範囲の様々な他のオリゴペプチド又はタンパク質に連結させることができる。例えば、問題のペプチドは、免疫原に共有結合させて問題のペプチドに対する抗体を生産することができ、ここでそれら抗体は相当するコンホメーションを有する他のペプチドの同定のために機能し得る。更に、その抗体は、標的部位への結合について問題のペプチドと競合し得る抗イディオタイプ抗体を調製するのに用いることができる。これら抗イディオタイプ抗体は、次に、問題のペプチドが結合するタンパク質を同定するために用いることができる。
あるいは、問題のペプチドは、内部、又はN−もしくはC−末端における鎖の一部となるように、他のペプチド又はタンパク質と連結させて発現させることができる。問題のペプチドの発現を供することにより、様々な発現後修飾を行うことができる。例えば、適切なコーディング配列を用いることにより、脂質化、例えばプレニル化又はミリストイル化を供することができる。この状態において、問題のペプチドは、リポソームのような脂質膜に結合することができるように、末端において脂質基に結合することができよう。投与のために、リポソームを用いることができ、ここで薬剤はCTL活性化を減少させることにおいて問題のペプチドと共同作用するように、リポソームの内腔に導入することができる。これにより、問題のペプチド及び免疫抑制剤が局所的に作用し得るように、その内腔内に免疫抑制剤を含めることができる。
問題のペプチドはPEG化することができ、ここでポリエチレンオキシ基は血流内での寿命を増加させる。問題のペプチドは、補体に結合しても補体に結合しなくてもよいIgGアイソタイプのFcのような他のタンパク質と、又は毒素、例えばリシン、アブリン、ジフテリア毒素等、特にA鎖と組み合わせることもできる。
問題のペプチドをコードするDNA配列に連結された特定のペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子を調製することによりこれらの組成物を調製することができる。その遺伝子は適切な発現ベクターに導入することができ、適切な宿主内で後に遺伝子が発現される多くの市販の発現ベクターがある。Sambrookら(Molecular Biology:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, NY, 1989)を参照のこと。
問題のペプチドは、化学合成により、又は上述のように、組換え技術を用いることにより調製することができる。種々の市販の装置、例えばApplied Biosystems Inc., Foster City, CA, Beckman等による自動化合成機が利用できる。合成機を用いることにより、天然のアミノ酸は、非天然アミノ酸、特にD−立体異性体、異なる長さ又は官能性を有する側鎖等で置換することができる。組換え技術のために、一本鎖ペプチド又は頭部から尾部へのダイマーへの開裂を許容する介在アミノ酸又は配列と共に、タンデムに複数の問題のペプチドをコードする核酸配列を調製することができる。メチオニンが欠如している場合、1つのアミノ酸開裂を許容する介在メチオニンを有し得る。あるいは、酵素開裂のために特定のプロテアーゼにより認識される共通配列を導入することができる。調製の特定の順番及び様式は、便利さ、経済性、必要とされる純度等により決定されよう。
結合のための便利な官能基、例えばアミド又は置換化アミン形成、例えば還元的アミン化のためのアミノ基、チオエーテル又はジスルフィド形成のためのチオール基、アミド形成のためのカルボキシル基等を含む種々のペプチド又はタンパク質に化学的連結合を供することができる。特に関心があるのは、MAPと呼ばれる、少なくとも、より好ましくは少なくとも3で約60以下のリシン基、特に約4〜20、通常6〜18のリシン単位のポリリシンのペプチドであり、問題のペプチドは、利用できるアミノ基の一般に少なくとも約20%、より通常は少なくとも約50%においてリシンアミノ基に結合して多重ペプチド産物を供する。これにより、問題のペプチドの方向が同じ方向である複数のペプチドが得られ、効果において、尾から尾への二又は多量化を供するために連結基を有する。あるいは、他の天然又は合成ペプチド及びタンパク質を、C末端における問題のペプチドの結合のための骨格を供するために用いることができる。
ほとんどの場合、用いる組成物は、少なくとも20重量%、より通常は少なくとも約75重量%、好ましくは少なくとも約95重量%の要求される産物を含み、治療目的のため、その産物の調製及びその精製の方法に関連する汚染物に関して、少なくとも約99.5重量%であろう。通常、割合(%)は全タンパク質に基づくであろう。
必要に応じて、種々の基を、他の分子又は表面への連結を許容する合成又は発現の間に、ペプチドに導入することができる。これにより、システインはチオエーテルを作るために、ヒスチジンは金属イオン複合体への連結のために、カルボキシル基はアミド又はエステルを形成するために、アミノ基はアミドを形成するために等用いることができる。あるいは、上述の通り、抗体又は天然のレセプターに結合するためのリガンドを含む広範囲の種々の標識を供することができ、ここでそのペプチドは支持体に、又は別の分子に結合させることができる。既に示したように、問題のペプチドはhsc70に結合し、細胞内で見い出される他のタンパク質からのhsc70の単離及び精製を許容する。
問題のペプチドは、CTL及び/又はNK細胞の増殖及び/又は活性化を調節するために用いることができる。リンパ球に問題のペプチドを組み合わせることにより、抗原提示細胞によるCTLの増殖及び/又は活性化は、実験セクションに記載されるように、溶解の割合に基づいて、一般に少なくとも約20%、より通常は少なくとも40%、好ましくは少なくとも約60%だけ調節される。溶解についてのIC50は、一般に、約500μg/ml未満、一般に約200μg/ml未満、及び約0.1μg/ml超、通常、約1μg/ml超であろう。
問題の組成物は、標的抗原提示細胞のT細胞による溶解を阻害するために試験管内で用いることができる。これにより、細胞の混合物の維持を希望する調査において、CTLが活性化され、抗原提示細胞、例えばマクロファージもしくはBリンパ球、又は標的細胞として機能し得る他の細胞、例えば新生物細胞、ウィルス感染細胞等を殺すであろう研究において、研究下で細胞集団が維持され得るように溶解が阻害され得る。
問題の組成物は生体外で用いることもできる。器官、特に固体の器官又は特定の細胞の移植の場合、異種個体であるか同種個体であるかにかかわらず、ドナーの器官は問題のペプチドを含む媒体内に入れることができる。この方法において、そのインプラント内に存在するCTLは移植片対ホストの病気に関与することが防がれるであう。また、問題のペプチドがそのインプラントに結合している間、受容体のCTLは活性化することが防がれるであろう。一般に、ペプチドの濃度は、ペプチドの活性、要求される阻害のレベル、CTL活性に作用する他の化合物の存在等により媒体中で種々であろう。通常、その濃度は、約0.1〜100μg/mlの範囲、より通常は約1〜10μg/mlの範囲であろう。存在し得る他の免疫抑制剤には、シクロスポリンA、FK506、移植片拒絶に関連する形質膜タンパク質のための抗体、例えばCD4,CD8,CD2,LFA−1,ICAM−1,CD28に対する抗体等がある。一般に、存在するなら、通常の投与量の約5%以上、約75%以下、通常10〜60%の範囲で副次的治療投与量が用いられるであろう。入浴媒体の他の成分は、一般に、器官保護溶液に通常用いられる構成物、例えばHBSSであろう。器官を媒体内に維持する時間は一般に、約2〜72時間の範囲であろう。
問題の組成物は、いずれかの慣用的な手段により問題のペプチド組成物を生体内投与するのにも用いることができる。問題の組成物は、移植前に投与することができ、投与は、通常、移植前約14日以降に始め、好ましい3日間の投与内で少なくとも1日の投与量が投与される。問題の組成物は、移植の約6時間前に始まる期間に投与することができ、その後所定のスケジュールで、通常30日を超えず、より通常は20日を超えないで続けることができる。しかしながら、移植後、問題のペプチド組成物は、必要に応じて、器官又は細胞に対する受容体の応答により投与することができる。特定の状況において、問題の組成物はそのインプラントがホスト内に存在する限り、慢性的に投与することができる。
一般に、ペプチド組成物がホストに直接、投与される場合、投与される問題の組成物のボーラスは、ホストの約0.1〜50mg/kg、より通常は約1〜25mg/kgの範囲であろう。ホストは、いずれかの哺乳動物、例えば家畜、ペット、研究動物、霊長類、特にヒトであり得る。その量は、一般に、ペプチドの半減期により調節されよう。ここでその半減期は、一般に少なくとも1分、より通常は少なくとも約10分、必要に応じて約10分〜12時間の範囲であろう。個々の投与又は連続的注入もしくは反復投与で効能が達成され得る限り、短い半減期が許容される。その範囲内のより低い部分での投与量及び更に低い投与量は、そのペプチドが増加された半減期を有し、又はデポ、例えば長期にわたってペプチドを保持するマトリックス、例えばコラーゲンマトリックス内に導入された粒子を含む徐放性組成物として供され、又は実質的に連続的な速度で長期にわたって連続的にペプチドを注入するポンプの使用等の場合に用いられる。
問題のペプチド組成物を、直接試験管内の細胞培養物に、生体外の固体器官もしくは特定の細胞に、又は生体内で哺乳動物ホストに投与することに加えて、問題のペプチドをコードする核酸分子(DNA又はRNA)もそれらに投与することができ、それにより、要求される適用のための問題のペプチドの有効をソースを供する。ほとんどの場合、問題のペプチドをコードする核酸分子は、適切な環境において核酸の発現を促進するよう機能する調節配列の転写制御下で、いくつかの公知の発現プラスミド(Maniatisら、前掲を参照のこと)及び/又はウィルスベクター、好ましくはアデノウィルス又はレトロウィルスベクター(例えば、Jacobsら、J. Virol. 66:2086-2095(1992), Lowenstein, Bio/Technology 12:1075-1079(1944)及びBerkner, Biotehniques 6:616-624(1988))のいずれかにクローン化することができる。このような核酸ベースのビヒクルは、生体外で移植組織に(例えば移植片のための細胞の生体外ウィルス感染)又は生体内の要求される部位に、注入、カテーテル等により直接、投与することができ、又はウィルスベースのベクターの場合、全身に投与することができる。関心のペプチドが特定の組織又は選択された細胞型内でのみ発現されるのを確実にするために任意に組織特異的プロモーターを用いることができる。このような核酸ベースのビヒクルを組換え調製するための方法は、試験管内及び生体内でペプチド生産のための核酸ベースのビヒクルを投与するための技術と同様、公知である。
移植は、いずれかの器官又は細胞、例えば心臓、腎臓、肺、眼、肝臓、消化管、脈管、又は他の器官のような器官、及びβ−島細胞、骨髄細胞、又は他の細胞のような細胞に関し、ここでそれら器官又は細胞は同種又は異種であり、特にクラスI又はII MHC抗原の1又は複数は受容体と比べてドナーにおいて異なる。
それら自体又はコンジュゲートとしての問題のペプチド、又はこのようなペプチドをコードする核酸ビヒクルは、医薬として許容される媒体、例えば塩類溶液、PBS、エタノール水溶液、グルコース、プロピレングリコール等中の製剤として、又は適切な賦形剤内の固体製剤として、一般に薬理的に有効な投与量で調製することができる。それをコードするペプチド又は核酸の濃度は、特定の目的のための慣用的な手順に従って、試験的に決定されよう。製剤は、殺細菌剤、安定剤、緩衝液等を含んでもよい。ホストに投与される量は、投与される対象、投与の目的、例えば予防又は治療、ホストの状態、投与の様式、投与の数及び投与間の間隔により種々であろうし、当業者により経験的に決定することができる。問題のペプチド又は問題のペプチドコンジュゲートを増強するために、ペプチドはカプセル化され、リポソームの内腔に導入され、コロイドとして調製され得、又は生体外又は生体内でペプチドの寿命を増加させる他の慣用的な技術を用いることができる。
問題のペプチドは、炎症性サイトカインの細胞生産を阻害することができる。本発明のペプチドにより阻害される炎症性サイトカインには、例えば、腫瘍壊死因子、例えば腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターフェロン、例えばインターフェロンγ(INF−γ)、インターロイキン(IL)−1,IL−4,IL−5,IL−6,IL−8,IL−10,IL−12,IL−13,IL−16,MIP1α、ケモカイン、造血幹細胞成長因子等が、試験管内及び生体内においてある。それゆえ、問題のペプチドは、種々の疾患、例えば敗血症性ショック、クローン病、大腸炎、慢性関節リウマチ及び他の自己免疫疾患、アレルギー反応、アテローム性動脈硬化症、感染、及び抗炎症性応答が要求される他の多数の病状に関連する炎症応答の予防的及び治療的阻害の両方に用いられよう。
本対象組成物は、ヘム含有酵素の活性を、インビトロ及びインビボの両方で調節することもできる。以下で証明する様に、本対象ペプチドは、ヘム含有酵素、例えばヘムオキシゲナーゼ(HO)、種々のイソ体の酸化窒素シンターゼ(NOS)、シクロオキシゲナーゼ、及びグアニレートシクラーゼなどの活性を調節することができるポルフィリン様構造を擬似している。従って、ヘム含有酵素、例えばヘムオキシゲナーゼの発現を増加調節したい場合に、本対象組成物を用いることができる。このことから、ヘムオキシゲナーゼは、リンパ球の活性調節以外の経路に関与していることがわかる。従って、ヘムオキシゲナーゼの発現を増加調節することによって、ヘムオキシゲナーゼが関与している経路に影響を与えることができる。例えば、Willis et al., Nature Medicine 2:87-89(1996)を参照のこと。
更に、ヘム含有酵素、例えばヘムオキシゲナーゼは、炎症反応における1つの因子であり、そして抗炎症作用を有することが報告されている。従って、種々の生理学的過程におけるヘム含有酵素の役割を評価するために、培養において本対象ペプチドを利用して、本対象ペプチドの存在下及び非存在例えばで細胞応答を比較することができる。敗血症性ショック、クーロン病、大腸炎、例えば潰瘍性及び粘膜性大腸炎、リウマチ様関節炎、アテローム性硬化症、再灌流、感染に伴う炎症反応を低下させるために、本対象ペプチドをインビボで用いることもできる。これらの場合において、本対象ペプチドは、リンパ球活性を調節するために実質的に用いられる。
自己免疫疾患を発症する危険を有する哺乳動物において、この自己免疫疾患の発症を遅らせるためにも、本対象ペプチドを用いる。特に、インスリン依存性糖尿病(IDDM)、リウマチ様関節炎又は全身性エリテマトーデスを発症する危険を有する哺乳動物において、この疾患の発症を遅らせるために、本発明のペプチドは有用である。これらの場合において、本対象ペプチドは、リンパ球活性を調節するために実質的に用いられる。
説明のために、以下の実施例を提供する。
実 験
ペプチド及び擬似ペプチドの免疫抑制活性を予測するため、そして考案するために用いるコンピュータープログラムを以下の通りに開発した。
1.方法論
免疫抑制活性を呈する、又は呈さないペプチドから作られる最初の一組の実験データを基にして、
i.本活性に必要なアミノ酸を有し、そして新しいペプチド又は擬似ペプチドのライブラリーを開発することが可能となる共通配列、
ii.本活性に関与し、そして可変性マッピング技術(Grassy et al., J. of Molecular Graphics 13:356-367(1995))によって一組の制約に変換される一組の生理化学的及び立体構造的特性、
を推定した。
2.可変性マッピング
本方法は、学習用の一組データの結果から推定される生理化学的及び立体構造的制約に基づく。
生理化学的制約
本方法は、前記の生物活性のための特性範囲として規定される生理化学的制約を決定する必要がある。一組の制約を決定するために用いるコンピューターによる方法を可変性マッピングと呼び、以下に記載する。
可変性マッピングによるアプローチ
この定性的技術は、活性及び非活性分子の分布(全体的又は割合的)を、あるパラメーター値の関数として評価することから成る。全グラフの重なり(活性特性)は、あるパラメーターにおいて、活性化合物を導くために必要な制限値(低い方及び/又は高い方)を示す。このグラフ式方法によって、活性と分子特性との定性的な非直線的依存性を判定する。受容体リガント相互作用に関与するそれらの特性に関して、適合性を決定する厳密な偶然事象が存在することは、ある構造的及び生理化学的特性が包含されていることを意味することが明かである。この方法によって、未知の産物の活性を予測するために用いることができる単純な規則が得られる。本規則に従わない数に比べて従う数を示すグラフ式表示によって、研究対象分子の全組において、本分布を本活性と比較することが可能となる。
3.ペプチド及び擬似ペプチドの免疫抑制活性に関与する制約の規定に用いる生理化学的及び立体構造的パラメーター
親油性
ペプチドの親油性をlogPで表した(Pは、水とn−オクタノールとの間のペプチドの分配係数である)。分子logP値を、Ghose et al., J. Chem. Inf. Comput. 29:163(1989)に従って、原子増分logP値を用いて、TSAR2.31によって計算できる。最初の一組のデータの分析から証明される通り、免疫抑制性ペプチドの親油性は、≧−6.85でなければならない。
立体構造指標
Balabanの指標(Balaban, Chem. Phys. 89:399(1982))
連結された分子グラフ(H抑制されたもの)のために計算されるBalabanの指標を、次の通りに計算する:
式中、Mはグラフの辺の数であり、μはグラフのサイクロマティック(cyclomatic)数、すなわちGが非環状になる前に除かなければならない辺の最小数であり、Di−ΣDij(j=1)は2つの頂点間の最短経路の距離マトリックスである。
分子容積
分子容積を、各元素の標準的ファンデルヴァールス半径を仮定して計算した。この計算は、ペプチドの伸長立体構造に対して行われる。
長円体容積
分子の慣性モーメントの3つの成分を決定した後、構成原子の平均原子量を仮定して、この容積を計算する。この計算は、ペプチドの拡張立体構造に対して行われる。
モル屈折度
Ghose et al.前出に従って、原子のモル屈折度を用いて、モル屈折度を計算する。
双極子モーメント
ペプチドの伸長立体構造に対して、このパラメーターを計算する。分子の全体の双極子モーメントをデバイ単位で表わす:
μ=eΣriqi
式中、riは原子iと原点との距離であり、qiは原子iの荷電量である。原子上の荷電量を、荷電量−2の方法(Abrabam and Smith, J. Comput. Aided Mol. Design 3:175-187(1989))を用いて計算する。
KierのChir V4
この指標は、L. B. Kierによって開発された連結指標の1つである。KierのChir V4を、いくつかの過程(Hを含む)で計算する。
a.ペプチドの分子グラフ上の長さ4の全ての部分を決定して、数える。
b.j=1,4、において、以下の式で長さ4の各部分を計算する:
Cs ν=Π〔(∂j ν)〕-0.5
式中、1つの原子において、δi=Zi−hiを、原子価電子総数Ziと、原子iに結合された水素原子数hiとの差として規定する。
c.グラフ上の長さ4のサブグラフの全組に関する全てのこれらの値を合計する:
Kierのカッパアルファ
Kierのカッパアルファ1(Kα 1 )
Aが分子中の原子の総数(Hを含む)とすると、Kα1は、
に等しく、ここで、
であり、riは原子iの共有結合半径であり、rCsp3は炭素sp3の共有結合半径であり、P1は、研究対象ペプチドの分子グラフに沿って、長さ=1の経路の総数である。
Kierのカッパアルファ2(Kα 2 )
Aが分子中の原子の総数(Hを含む)とすると、Kα2は、
に等しく、ここで、
であり、riは原子iの共有結合半径であり、rCsp3は炭素sp3の共有結合半径であり、P2は、研究対象ペプチドの分子グラフに沿って、長さ=2の経路の総数である。
柔軟性Phi
前記の式に基づき、分子の柔軟性を、
Phi=(Kα1)−(Kα2)/A
として規定する。ただしAは原子の総数(Hを含む)である。
原子及び基の計数
次の原子の数も、制約として用いた:
− ペプチド中の酸素原子の数、
− ペプチド中の窒素原子の数。
次の基の数も、制約として用いた:
− エチル基の総数、
− ヒドロキシル基の総数。
4.制約の値
ペプチド又は擬似ペプチドのライブラリーの作成
共通配列Arg-X-X-X-Arg-X-X-X-X-Tyr(Xは、前記の類似式で規定した通りのアミノ酸である)から始めて、前記の生理化学的及び立体構造的パラメーターを計算し、これらのパラメーターが、最初の学習用の組によって規定された制約の範囲内であるか評価した。例えば、X=Leu,nLeu,Trp,Tyr,Gly又はValから始めると、279936分子から成るライブラリーが生じ、その内26個だけが必要とされる制約を満たした。
生物活性を得るために必要な特性の範囲を表1に要約する。
5.ペプチド及び擬似ペプチドの免疫抑制活性に関与する立体構造空間の特性評価
3D構造の空間の自己相関ベクトル
分子構造の自己相関を記述する概念は、Broto et al., Eur. J. Med. Chem. 19:66-70(1984)によって初めて導入された。このベクトルは、基本的に、分子内の原子間距離マトリックスから得られる離散した距離の分布を表す。このベクトルの最初の成分(A0)は、構造体の原子数に等しく、その他の成分A1…Anは、低い方の制限(n−1)Di(式中nは、本ベクトルの2進数の次数(the order of the biu of the vector)であり、Diは距離増分である)によって規定された範囲内の距離によって分離された原子対の数によって規定される。同様に、原子の特性Pの分布を計算することができる。この場合、重味付けした自己相関成分APnを、距離間隔〔(n−1)Di,nDj〕に属する距離間を有する原子i,j上の特性値Pの積の合計によって得る。本ベクトルの成分数は、nmax=(Dmax/Di)+1(式中Dmaxは、構造内の原子間距離の最大値である)によって規定される。
この自己相関ベクトルは、いくつかの有用な特徴を示す:
* このベクトルは、立体構造のデータを実質的に減らす。完全な立体構造は、nの数値の限定された組によって記載される。
* このベクトルは、3D座標データを基にして非常に容易に計算される。従って、分子動態シュミレーション中に、本ベクトルを計算及び保存することができる。一組の完全な距離マトリックスの古典的な保存に比べて、この様な工程に関わる保存サイズの低下によって、普通よりもより長いシュミレーションが可能となる。
* 立体構造の自己相関ベクトルは、移動上及び回転上不変であり、さらに分子の原子の番号付けに無関係である。
* このベクトルは、立体構造における微小変化及び主要変化の両方に感受性を示し、立体構造の変化が大きいほど、ベクトル成分も大きく改修される。この感受性は、計算のために選択された距離増分に依存するが、0.5Å又は1Å(小さな分子)から5Å(大きな分子)までの増分が、通常のシュミレーションのためには良い選択である(Yasri et al., Protein Engineering 11:959-976(1996))。
構造の一部分だけ、又は構造内の特定の原子の組だけ、例えばタンパク質のC8,N原子、重原子などだけを分析することができる。このベクトルは、完全に、構造の情報によって規定されるので、その他を参照することなく、このベクトルを用いて、異なる構造の比較を行うことができる。
3D自己相関ベクトルを用いた分子動態の分析
HLA-B2702,75−84ペプチド(アミノ酸配列Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Ile-Ala-Leu-Arg-Tyr)、並びに、これの種々の活性及び非活性誘導体ペプチドに対して、AMBER4.1を用いて、分子動態シュミレーションを行った。動態における1+1秒のシュミレーションから、103個の立体構造の組が生じる(ピコ秒あたり1立体構造)。各構造に対して、距離増分を1Åとして、TSARによって3D自己相関ベクトルを計算して、立体構造の完全な組を、時間マトリックスに対する3D自己相関ベクトルとして保存した(103×n)。
この研究の目的は、関連文献中に引用した参考において説明された方法論を用いて、活性及び非活性ペプチドの立体構造空間を比較して、免疫抑制活性の原因である立体構造空間を規定することであった。
統計分析
クラスター分析
異なる立体構造を比較するために、重味付けしていない3D自己相関ベクトルの成分によって規定された超空間(hyperspace)におけるこれらの全ての立体構造間の距離マトリックスを決定した。2つの化合物の構造がより類似しているほど、それらの距離はより短くなる。この方法によって、厳正な分子適合の定量がなされる。開始の立体構造を参考として用いると、この距離の数値は、偏差の2乗の平均値の平方根(根平均2乗値)に類似する。
主要成分分析(Principal component analysis, PCA)
PCAは、データ分析のための多次元統計方法であり、分子特性の超空間において分子を表すために適している(分子記述子)。多数の記述子を、元々の記述子の直線的組合せから生じる少数の合成の直行変数に減少させるために、PCAを用いることができる。この方法は、初期情報全体の最大部分を保持する。元来の変数を標準化して、そして古典的なヤコブの変換経路を用いて、共分散マトリックスの対角化を計算した。3D自己相関ベクトルの成分は、異なる立体構造の3D構造の良好な記述を提供するが、これらの成分は、容易に視覚化するにはあまりに多くのデータを含むので、取り扱いにくい。PCAは、データの次元を、可能なかぎり多くの元来の情報を含んでいる2D又は3D表示に減少させることができる。PCAを用いると、免疫抑制ペプチドは、十分に規定された一般的立体構造空間を呈示する。この様な立体構造の明確化に到達できる全てのペプチドは、免疫抑制活性を呈示できる。
ペプチドbcl−nLの生物活性立体構造の立体構造空間座標
図1は、ペプチドbcl−nLの2次元立体構造空間及び関連立体構造を示す。このbcl−nLペプチドは、アミノ酸配列Arg-nL-nL-nL-Arg-nL-nL-nL-Gly-Tyrを有し、「nL」はノルロイシン(以下参照)である。ペプチドbcl−nLの全軌道に対してクラスター分析を適用することによって、選択されたこの構造を得た。
ペプチドbcl−nLの主要立体構造
立体構造空間において、bcl−nLの主要な検査した立体構造(図1の(1),(2),(3),(4)及び(5))の構造特性を表IIに要約する。これらの特性は、3つの最初の主要成分(PCA座標)によって規定される3D空間における座標、及び旋回半径(Rg)に関する。
活性ペプチドの立体構造空間
D2(アミノ酸配列Arg-Val-Asn-Leu-Arg-Ile-Ala-Leu-Arg-Tyr)ペプチドの軌道を、3D自己相関法及び、主要成分分析法によって分析したデータによって記述した。これによって、軌道中に検査された全ての立体構造を含んでいる2つの最初の主要成分によって規定される主要な設計図が提供される。このD2ペプチドの軌道を、軌道の参考として用いて、そして計算された全ての軌道を、その主要な設計図に投影した(図2)。
本免疫抑制ペプチドは、下記の点を特徴とする十分に規定された一般的立体構造空間を呈示する:
PCA次元:
PC1:最小=−2.0;最大=2.0
PC2:最小=−2.0;最大=1.0
PC3:最小=−1.0;最大=1.0
次の組成のペプチドを調製した。
実施例1−ペプチドの増殖阻害活性
6−8週令の成熟オスマウス、C57BL6/J(B6,H-2d)、Balb/c(H-2d)及びCBA/J(H-2k)は、Jackson Laboratory, Bar Harbor, MEから購入した。これらのマウスは、SangStat Medical Corporationの動物施設において、NIHの指針およびDepartment of Healthの規制に従って維持した。
ペプチドは、synt:em(Nimes, France)において、自動ペプチド合成機を用いFmoc法により合成した。全てのペプチドは、アミドとして合成したのち、酢酸塩に変換した。ペプチドは、調製用逆相HPLCで精製し、分析用逆相HPLCで、95%以上均質であることが示された。アミノ酸含量はアミノ酸分析で確認した。使用前に、ペプチドは先ず、DMSO(Sigma)1体積に溶解し、これに培地99体積を加えた。培養中のDMSOの最終濃度は、0.25%未満であった。
脾臓細胞の懸濁液は、低張ショックにより赤血球を溶解したのち調製した。その後、細胞を培地で洗浄し、最終的には、10% FBS含有RPMI-1640(R-10培地)又は無血清AIM-V培地(Gibco, Grand Island, NY)に再懸濁した。
CBAマウスから単離した脾臓細胞(2x105/ウェル)を、96ウェル丸底マイクロカルチャープレート(Nunc, Denmark)中で、最終濃度0.1−1μg/mlの抗CD3モノクローナル抗体(Pharmingen, San Diego)で刺激した。様々な濃度のbcペプチドを培養の最初に加えた。細胞は、37℃、5% CO2で、3日間インキュベートした。細胞を回収する24時間前に、1μCi[3H]-TdR(Amersham, Arlington Heights, IL)を、個々のウエルに添加した。その後、Filtermate 196 Harvester(Packard, Downers Grove, IL)により細胞を回収し、チミジンの取り込みの度合いをTopCount Microplate Scintillation Counter(Packard)により測定した。
これらの試験結果から、ペプチドを含まないPBS/DMSO溶液及び対照ペプチド2705(アミノ酸配列:Arg-Glu-Asp-Leu-Arg-Thr-Leu-Leu-Arg-Tyr)はT細胞の増殖に影響しないのに対し、bcペプチドはT細胞増殖を35%から75%阻害することがわかった。従って、これらのデータは、bcペプチドが顕著なT細胞増殖阻害能を持つことを示している。
実施例2−細胞傷害性T細胞活性に及ぼすbcペプチドの影響
ペプチドが細胞傷害性T細胞活性に及ぼす影響を評価する為に、4x106個のCBA脾臓細胞を、5x106個のマイトマイシン処理B6脾臓細胞と共に、24ウエルプレート(Nuncion Delta, Nunc, Denmark)で10% FBS含有RPMI-1640で6日間培養して、抗B6-CBAエフェクター細胞を調製した。その後、エフェクター細胞を回収し、洗浄した。標的細胞として、C57BL/6Nで誘導したマウスリンパ腫であるEL4(H-2b)を用いた。培養したEL4細胞を維持し、3日に一度継代し、20μlの(51Cr)を添加して37℃で1時間置いた。その後、エフェクター(E)及び標的(T)細胞を、それぞれ、3:1、10:1、30:1、及び100:1のE:T比で、V型組織培養プレート(Nunc, Denmark)に入れた。ペプチドをR-10培地で使用濃度に希釈して、4時間のインキュベーションの初めに添加した。最大放出値を測定する為に、別のウエルに1% Triton X-100を添加した。その後、4時間のインキュベーションを開始する前に、プレートを2分間遠心して細胞間の接触を高めた。インキュベーション後、各々のウエルから上澄み75μlを回収し、TopCount Schintillation Counterで51Crの量をカウントした。細胞溶解の度合いは、下記の式を用いて計算した。
これらの分析で得られた結果から、対照ペプチド2705は、100μg/mlの濃度までT-細胞が媒介する標的細胞の溶解に影響しないのに対し、bcペプチドは用量依存的に細胞媒介性の溶解を阻害することがわかった。bcペプチドによるCTL活性の50%最大阻害は、0.5μg/mlの濃度で観測された。
実施例3−生体内における同種移植片に及ぼすbcペプチドの影響
bcペプチドの免疫抑制活性を血管新生完全不一致マウス心臓同種移植片モデルにおいて評価した。具体的には、Ono and Lindsey, J. Thoracic Cardiovasc. Surg. 7:225(1969)が以前に記載した方法に従って、腹部異所性心臓移植を行った。臓器移植の後、C57B1/6の心臓のレシピエントであるCBAマウスを、毎日、様々な濃度のペプチドで処理した。ペプチドをDMSOに溶解し、腹腔内投与の前にPBSで希釈した(最終DMSO濃度は10%であった)。動物に対し、移植の日から処理を始め、5日目又は9日目まで続けた。移植片の残存は、毎日直接触診により監視し、拒絶は触診可能な心臓の収縮の停止と定義した。心臓同種移植片の残存の延長の統計的有意性は、Mann-Whitney検定により計算した。
これらの解析の結果、対照ペプチド2702.75-84(アミノ酸配列:Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Ile-Ala-Leu-Arg-Tyr)を80mg/kg/day(0-9日目)投与することにより、心臓同種移植片の残存が、10.7±2.6日に延びたのに対しPBS/DMSOで処理した対照動物では8±1.4日であった(p<0.01)。対照ペプチド2702.75-84を、40mg/kg/day投与した場合、対照処置の全てにおいて移植片の残存に効果はみとめられなかった。しかし、これに対して、bcペプチドを1mg/kg/dayという低濃度で投与することにより、50%の移植片が28日以上残存するという、心臓同種移植片の残存の有意な延長が認められた。従って、これらの結果より、bcペプチドが哺乳動物における移植片の残存を向上するに十分な免疫抑制活性を持つことが示された。
実施例4−bcペプチドのhsc70結合能
bcペプチドがhsc70に結合することができるかどうかを調べるため、蛋白結合測定を実施した。具体的には、ペプチド2702.75-84を、炭素原子6個からなるスペーサーを介してN末端にビオチンが結合したビオチン化型で合成した。ELISAプレート(Nunc Maxisorb, Nunc, USA)を、100mMのNa−クエン酸塩バッファー、pH4に溶解した100ng/mlの組換えhsc70(Stressgen, Victoria, Canada)で、4℃で一晩コートした。続いて、残った結合部位を、PBS/0.1% Tween 20(PBS/Tween;Sigma)で、プレートを室温で2時間インキュベートしてブロックした。プレートをPBS/Tweenで3回洗浄して、未結合の物質を除去した。PBS/Tween/1% DMSO中のビオチン化2702.75-84を加えて、プレートを室温で2時間インキュベートし、3回洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ストレプタビジン(ストレプタビジン-HRP)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, PA)0.1μg/mlでインキュベートし、再度洗浄した。結合したストレプタビジン-HRPを、基質バッファー(SangStat, Menlo Park, CA)中のo-フェニレンジアミン(OPD;Sigma)3mg/mlにより検出した。反応を1M HClを添加して終了させ、吸光度(OD490-OD605)をELISAプレートリーダーで測定した。ラベルされていないペプチドの結合は、競合試験で測定した。ビオチン化2702.75-84(3μM)を様々な量のラベルされていないbcペプチドと混合し、hsc70でコートしたプレートに入れ、室温で3時間インキュベートした。結合したビオチン化2702.75-84を上述の如く検出した。
これらの実験結果から、2702.84-75-75-84ペプチド(逆向きダイマー)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによりhsc70及びhsp70が精製されたことがわかった。hsc70でコートしたELISAプレートを、ビオチン化2702.75-84でインキュベートすると、このペプチドのhsc70に対する用量依存的な結合が見られた。ビオチン化2702.75-84のhsc70への結合は、添加する2702.75-84の濃度が増すに従って阻害された。50%最大阻害(IC50)は、7.0±3.0μMで認められたが、bcペプチドについてもこれに近いIC50(IC50=2.5-10μM)が認められ、これによって、bcペプチドがhsc70に効果的に結合することが証明された。
実施例5−ヘムオキシゲナーゼその他のヘム酵素に及ぼすペプチドの影響
bcペプチドのhsp32(ヘムオキシナーゼ)に対する影響を、ペプチド存在下にあるいは不存在下にヘムオキシゲナーゼ(HO)を測定することにより、評価した。具体的には、マウス脾臓試料を、氷上で、0.5% TritonX-100及びプロテアーゼ阻害剤を含むTris-Cl溶解緩衝液(pH7.4)中において均質化した。試料は、使用されるまで小アリコートに氷結された。脾臓均質物を、すべての活性測定のためのHO源として使用した。ビルベリジン還元酵素を、Kutty and Maines, J. Biol. Chem., 256:3956(1981)に記載された方法により、ラット肝臓から精製した。HO活性は、100μlの脾臓均質物を、0.8mMのNADPH、0.8mMのグルコースー6−フォスフェート、1.0単位のG−6−Pデヒドロゲナーゼ、1mMのMgCl2及び10μlのビルベリジン還元酵素と共に、4℃で混合することにより測定した。反応は、ヘミン(2.5mMを20μl)の添加して開始した。反応混合物を30分間、暗中で37℃で培養した。培養期間の終了時に不溶性物質を遠心分離し、上澄みのビリルビン濃度を、Hillman and Beyer, Z. Klin. Chem. 5:92(1981)(Sigma Diagnostics, kit #552)の変形手順により分析した。対照には、NADPH生成系を欠く脾臓試料、及び脾臓均質物を欠くが反応混合物のすべての成分をふくむもの、が含まれていた。
これら実験の結果は、不活性の比較ペプチド2705.75-84に対して、bcペプチド(100μg/ml)は、50%以上のHO活性を阻害することを示した。従って、bcペプチドはヘムオキシゲナーゼ活性を阻害しうる。
bcペプチドはヘムオキシゲナーゼの活性を効果的に阻害することがわかったため、bcペプチドの他のヘム酵素、例えば酸化窒素合成酵素(NOS)に対する効果を調べた。具体的には、bcペプチド及び比較2702ペプチドの、三種の異なるNOSイソ型(神経NOS、内皮NOS及びサイトカイン誘導NOS)に対する生体内の阻害能力を、酵素活性アッセイで分析した。これらの実験の結果は、bcペプチドが、比較2702ペプチドよりも著しく少ないIC50でNOSを阻害しうることを示した。かくして、bcペプチドは、ヘム含有酵素の活性に特に影響を与えるポルフィリン状構造に類似するようであって、そのことはコンピュータモデルを使って確かめられた。
実施例6−炎症性サイトカイン生産に対するbcペプチド介在抑制
炎症性サイトカイン生産に対するbcペプチドの効果を調べるため、RAW264.7マクロファージ細胞を、試験ペプチド(1乃至100μM)の不存在下或いは存在下で、培養中に10μg/mlの細菌のリポポリサッカライド(LPS)で刺激して腫瘍性サイトカイン腫瘍壊死因子−α(TNF-α)(Alleva et al., J. Immunol. 153:1674(1994)及びTonetti et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 230:636-640(1997)参照)を生産させた。24時間のインキュベーションの後、培養上澄み中のTNF-αの量をELISAにより測定した。LPSの添加なしには、RAW264.7細胞はTNF-αの分離可能量を生産できなかった。
これら実験の結果、比較ペプチドD2RP(アミノ酸配列:Arg-Val-Asn-Leu-Pro-Ile-Ala-Leu-Arg-Tyr)は、RAW264.7マクロファージ細胞によるTNF-αの生産を抑制する能力を示さなかったが、bcペプチドは用量依存的にTNF-αの生産を抑制した。かくして、bcペプチドは炎症性サイトカインの生産の抑制に使用することができ、それにより炎症及び炎症に関連する疾患の治療に有用性をもつ。
実施例7−敗血性ショックに対する動物モデルの処理におけるbcペプチドの効果
LPSをマウスに投与することにより、敗血性ショックの認容可能な動物モデルが得られる(Otterbein et al., Amer. J. Physiol, 272(2):1(1997), Albrecht et al., Hepatology 26:1553-1559(1997), Haziot et al., J. Immunol. 154:6529-6532(1995)、及びOtterbein et al., Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 13:595-601(1995)を参照)。そこで、炎症反応と炎症状態(たとえば敗血性ショック)の治療におけるbcペプチドの有用性についてさらなる証拠を提供するために、われわれはLPSの投与後のマウス生存に対するbcペプチドの効果を試験した。すなわち、マウスを20mg/kgのマンニトール中対照ペプチド2750またはマンニトール中bcペプチドあるいはマンニトール単独で処理した。マンニトール中ペプチドあるいはマンニトール単独の投与から16時間後、マウスに100mg/kgのLPSを注射し、マウスの生存状況を一日二回観察した。
これらの実験の結果、マンニトール中の対照ペプチド2750あるいはマンニトール単独で処理したマウスの全てがLPS投与後1日で死んだのに対し、bcペプチドで処理したマウスの50%以上がLPS投与後2日目に生存し、bcペプチドで処理したマウスの25%以上がLPS投与後3日目も生存していた。しかるに、これらのデータはbcペプチドが敗血性ショックのごとき炎症状態の治療に有効であることを示した。
実施例8−生体内遺伝子導入bcペプチド投与によるマウスの異所性心臓移植の生存促進
次に我々は、bcペプチドのプラスミドを介した遺伝子導入による局所的投与がマウスの異所性心臓移植モデルにおける生体内移植後の生存を延ばすことができるかどうかを判定することを目指した。すなわち、C57BL/6ドナーとなる新生仔の心臓をCAB/Jレシピエントマウスの耳介のなかに皮下移植した。bcペプチドあるいは20μgの目的のbcペプチドをコードするプラスミドDNAを、移植時に同種移植片に直接注射した。同種移植片の生存は心電図の観察で確認し、心臓電気活性の中断を拒絶反応と判定した。移植片の生存は日にちで表現した。(平均±SEM)統計的有意性は不対Students’s t−検定により確認した。
1μgの対照ペプチド2702を同種移植片に直接注射しても生存を延長しなかった(未処理の対照が13.9±0.9に対して、13.3±0.75)が、2702ペプチド400μgを注射したところ生存を延長した(22.0±0.58)。対照2702ペプチドをコードするプラスミドDNA 20μgを注射したところ、さらに移植片の生存を30.3±1.03に延長した。同様の結果は、bc1ペプチドをコードする別のプラスミドを用いても得られ(29.0±4.08)、その一方で生体内あるいは生体外で免疫調節活性をもたない対照ペプチド2705をコードするプラスミドを用いた場合は有意義な延長は見られなかった(16.5±0.96)。
これらの結果は生体内でのbcペプチドをコードする遺伝子の導入は、治療を目的としてbcペプチドを到達させる効果的な方法であることを示している。
実施例9−bcペプチドのインシュリン依存型糖尿病(IDDM)の発症遅延効果
本発明におけるペプチドの免疫調節性を示してきたことから、われわれは次にbcペプチドが自己免疫病発症の抑制に対して生体内で有効性を示すかどうか判定することを目指した。一般的自己免疫病のモデルとして、われわれはbcペプチドが生体内でIDDMの発症を遅延あるいは抑制する能力を定量した。すなわち、20mg/kgのbcペプチドを6週齢の非肥満性糖尿病(NOD)の雌のマウスに腹腔内投与し、対照のマウスは未処理で放置あるいは不活性ペプチド化合物で処理したものとした。上記の処理を毎週繰り返し行った。試験動物の血糖値は一週間に一度測定した。試験動物のIDDMの発症は血糖値が200mg/dL以上になることと定義した。
上記実験の結果、70から80%の未処理対照NODマウスは22週齢に達するまでにIDDMを発症した。未処理のものと不活性の対照ペプチドで処理したものの、両対照動物グループの間に違いは見られなかった。しかし、bcペプチドで処理した動物群は、一個体だけ16週までにIDDMを発症し、他の全ての試験動物が24週までにIDDMを発症しなかった。従って、これらの結果はbcペプチドの投与が生体におけるIDDMの発症を遅延する効果があることを示した。
上記の結果から、本件の組成物と方法論がCTLの細胞毒性の実質的な阻害をもたらすことは明らかである。驚いたことに、本件ペプチドはこれまでのオリゴペプチドよりも溶解阻害において実質的に有効性が高い。本件の組成物は、臨床レベルでより少ない量のオリゴペプチドでよいことと、ヘムオキシゲナーゼ活性を阻害するという実質的な利点をもたらす。
本明細書中言及した全ての文献および特許出願は、個々の文献や特許出願が明確に別々に組み込まれているように同程度の参考としてまとめた。
ここに全容を記した本発明は、添付の請求項の理念と範囲から離れることなく多くの変更や修正が可能であることは当業者には明らかである。
Claims (26)
- 前記オリゴペプチドがアミノ酸配列Arg-nL-nL-nL-Arg-nL-nL-nL-Gly-Tyrを有する、請求項1記載の化合物。
- 前記オリゴペプチドが塩形態である、請求項1又は2記載の化合物。
- 前記オリゴペプチドの塩形態が酢酸塩である、請求項3記載の化合物。
- 前記オリゴペプチドがPEG化されている、請求項1又は2記載の化合物。
- 前記オリゴペプチドが脂質化されている、請求項1又は2記載の化合物。
- 請求項1又は2記載のオリゴペプチドをコードする核酸配列を含んでなる核酸分子を含んで成る組成物であって、前記オリゴペプチドが前記核酸分子から発現される、前記組成物。
- 前記核酸分子がウィルス内に含まれている、請求項7記載の組成物。
- 請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物と、医薬的に許容される媒体とを含んで成る医薬組成物。
- リンパ球細胞の活性化を阻害する方法であって、
当該細胞を活性阻害量の請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物とin vitro又はex vivoで合わせることを含んで成り、
ここで当該リンパ球細胞の活性化が阻害される、前記方法。 - 前記合わせる段階が生存固体器官又はリンパ球細胞以外の生存細胞の存在下にある、請求項10記載の方法。
- 前記リンパ球細胞が細胞障害性Tリンパ球である、請求項10記載の方法。
- 炎症性サイトカインタンパク質を生産できる細胞による炎症性サイトカインタンパク質の生産を阻害するための方法であって、
当該細胞を炎症性サイトカイン生産阻害量の請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物とin vitro又はex vivoで合わせることを含んで成り、
ここで当該細胞による当該炎症性サイトカインの生産が阻害される、前記方法。 - 前記合わせる段階が、前記炎症性サイトカインタンパク質を生産できるもの以外の生存固体器官又は生存細胞の存在下にある、請求項13記載の方法。
- 前記炎症性サイトカインタンパク質が腫瘍壊死因子−α、インターフェロン−γ、IL−1,IL−4,IL−5,IL−6,IL−8,IL−10,IL−12,IL−13,IL−16及びMIP1αから成る群より選ばれる、請求項14記載の方法。
- 前記炎症性サイトカインが腫瘍壊死因子−αである、請求項13記載の方法。
- 前記炎症性サイトカインがインターフェロン−γである、請求項13記載の方法。
- 前記炎症性サイトカインがIL−12である、請求項13記載の方法。
- ヘム含有酵素の活性を調節する方法であって、
当該酵素を含むシステムを活性調節量の請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物とin vitro又はex vivoで合わせることを含んで成り、
ここで当該ヘム含有酵素の活性化は調節される、前記方法。 - 前記ヘム含有酵素がヘムオキシゲナーゼ、酸化窒素シンターゼ、シクロオキシゲナーゼ及びグアニル酸シクラーゼから成る群より選ばれる、請求項19記載の方法。
- 前記酵素がヘムオキシゲナーゼであり、前記調節がヘムオキシゲナーゼ活性の増加調節である、請求項20記載の方法。
- 哺乳類受容体に移植されたドナー哺乳類器官又は細胞の寿命を延長するための医薬品の調製のための、請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物の使用。
- 自己免疫疾患の発症のおそれのある哺乳類の当該疾患の発症を遅延させるための医薬品の調製のための、請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物の使用。
- 前記自己免疫疾患がIDDM、リウマチ様関節炎又は全身性エリテマトマーデスである、請求項23記載の使用。
- 哺乳動物における炎症性応答を処置するための医薬品の調製のための、請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物又は請求項7〜8のいずれか1項記載の組成物の使用。
- 前記炎症反応が敗血症性ショック、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、又はクーロン病に関連する、請求項25記載の使用。
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