JP4539037B2 - 強化ガラス板およびその製造方法並びに製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化ガラス板およびその製造方法並びに製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題への社会的関心が高まり、自動車業界においては、省燃費の自動車が強く求められているため、車体を軽量化するなどの対応が必要となった。そのため、自動車部品の軽量化が今まで以上に求められ、自動車用窓ガラスに対してもその例外ではない。
【0003】
自動車用窓ガラスには、搭乗者の安全を確保するため、フロントガラスには合わせガラス、一部の車種を除きドアガラスやリアガラス等には強化ガラス板が用いられている。そこで、強化ガラス板の重量を軽量化する、つまり、薄板化することが自動車の軽量化につながる。
【0004】
自動車用強化ガラス板は、一般的に以下に説明するように風冷強化によって製造される。まず、ガラス板を加熱炉に搬入し、軟化点近くまで加熱する。ガラス板を成形後に炉外に取り出し、または炉外に取り出した後に成形し、直ちに冷却風をガラス板の表面に吹き付けて急冷する。冷却風は、ガラス板の両面に配設された複数の冷却用ノズルからガラス板に向けて吹き付けられる。このとき、ガラス板の表面層の方が内部の層よりも温度降下が速いため、断面方向の内部と表面に温度差が発生し、それに起因して、表面に引張、内部に圧縮の方向の熱応力が発生する。しかし、ガラスは軟化点近くの温度のとき粘性流動を起こしているため、応力の緩和現象により熱応力は緩和消失し、ガラス板の断面方向の内部と表面に温度差が存在するものの、ほとんど応力のない状態になる。
【0005】
ガラスは室温では弾性であるため、冷却が進み最終的にガラス板が室温状態になれば、高温時に緩和した熱応力の分だけ力の方向が逆転して、ガラス板の表面に残留圧縮応力層を、内部に残留引張応力層を形成し、強化ガラス板となる。
【0006】
以上のように強化ガラス板は製造されるため、強化ガラス板の残留応力の大きさは、急冷時にガラス板の断面方向の内部と表面に発生する温度分布よる熱応力の発生状態とその緩和現象に依存する。そのため、ガラス板の板厚が薄いほど、ガラス板の表面とガラス板の内部の温度差を大きくする事が難しく、残留応力は小さくなってしまう。ガラス板の表面の残留圧縮応力の低下による弊害は、ガラス板の強度の低下である。ガラス板の内部の残留引張応力の低下による弊害は、ガラス板が割れた際に破片の数が少なくなり、破片の面積が大きくなることである。破片が大きくなると、ガラスに鋭角ができ、割れた際に危険である。
【0007】
そこで、自動車用強化ガラス板の法規には、強化ガラス板に局部的な衝撃を与えて強化ガラス板を破砕させた際の破片の状態についての規定が定められている。つまり、強化ガラス板の破砕時に50×50mmの正方形の区域内での破片数が最多値となる領域と最少値となる領域を選定し、これらの領域での破片数の最少値と最多値が許容範囲に入ることが規定されており、この基準を満たさないものは自動車用強化ガラス板として使用できない。また他に、細長い破片である細片(スプライン)は長さが75mmを超えないことや破片の許容最大面積についても規定がある。こうした、自動車用強化ガラス板の破砕時の破片についての規定は、ECEの標準規格やJIS規格等にある。
【0008】
つまり、強化ガラス板の破砕時の破片数は内部残留引張応力に依存するため、ガラス板の板厚が薄くするということは、従来の強化ガラス板の製造方法に比べて、より残留応力が発生する製造方法を用いないと、自動車用の強化ガラス板として定められた法規を満足するために必要となる残留応力が得られなくなる。
【0009】
現在主流の自動車用強化ガラス板の板厚は約2.8〜5mmである。自動車用強化ガラス板の軽量化を図る場合、それより板厚を薄くすることである。薄板ガラスを強化する方法として、ガラス板の断面方向の内部と表面に充分な温度差を与えるために、冷却能(ガラス板を冷却手段によって冷却する能力値)を現在主流の板厚(2.8〜5mm)の強化ガラス板製造時より高めるということが考えられる。ここでいう薄板ガラスとは、現在使用されている自動車用の強化ガラス板の板厚よりも薄いガラス板のことである。
【0010】
風冷強化の場合、冷却能を高めるには、冷却風の風圧を上げる、もしくはノズル先端をガラス板に接近させる等の手段が必要となる。しかし、冷却風の風圧を上げるには、ブロア能力を上げなければならなく、多大な経費がかかるとともに騒音等の問題的もある。
【0011】
また、例えば、図11の従来の強化ガラス板の製造装置の概略断面図に示すように、ノズル先端41bをガラス板39に接近させることは、冷却リング42がノズル先端41bに衝突する等の治具等との干渉の問題があり、限界がある。また、強化ガラス板を製造する際は、急冷時にガラス板の表面の冷却状態に極端な斑(応力パターン)ができないようにするため、ガラス板を摺動させる必要があるが、複曲面を有するガラス板は、ノズル先端をガラス板に接近させることにより摺動させられなくなる。
【0012】
薄板ガラスを強化する別の方法として、冷却開始時のガラス板の温度を高温化することが考えられる。ガラス板の温度が高くなれば、冷却時にガラス表面とガラス中央の温度差を大きくする事ができ、充分な残量応力を得ることも可能と考えられるが、高温ガラス板の搬送、成形に起因する光学品質の悪化という別の問題が発生するため、ガラス板の高温化にも限界がある。
【0013】
その他の方法として、薄板ガラスの強化方法として、コンプレッサエアを用いた方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。特許文献1の方法は、急冷時にガラス板に吹き付けるブロアエアにコンプレッサエアを追加することにより、コンプレッサエアの衝撃波を利用して、ブロアエアで効率的にガラス板を急冷し、ガラス板の表面とガラス板の中央の温度差を大きくし、薄板ガラスを強化する方法である。
【0014】
特許文献2の方法は、ブロアエアにコンプレッサエアを部分的に追加し、「冷却し難い部分」にのみコンプレッサエアを吹き付け、ガラス板の「冷却し難い部分」を他の部分より高い冷却能で冷却し、ガラス板を全面にわたって均等に冷却するというものであり、特許文献1の発明の問題点である設備コストや稼動コストを削減できるというものである。
【0015】
【特許文献1】
特公平6−24995号公報(第2−5図)
【特許文献2】
特開2001−26434号公報(第1−4図)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1の方法は、新たにコンプレッサエアを導入するため、現状の設備を大幅に改造しなければならなく、安定したコンプレッサエアを供給するためには大型のレシーバタンク等の設置が必要となるため、多大な費用とともに設備も過大化してしまい、稼動コストもアップする。
【0017】
また、軟化点近くまで加熱されたガラス板を急冷すると、ガラス板の表面層と内部の層の温度差に起因してガラス板の表面に引張方向の熱応力が発生する。ガラス板は粘性流動を起こしているので、応力の緩和現象により、熱応力は緩和消失していくのだが、この方法では冷却能が高すぎるため、冷却開始直後に発生する熱応力が大きすぎ、緩和速度が熱応力の発生速度に追いつかず、ガラス板の表面に緩和しきれなかった熱応力が引張応力として生じている状態になる。それによりガラス板の表面に存在する微細な傷が発展し、ガラス板が破砕してしまう冷却割れと呼ばれる現象が発生することがある。このため、冷却能を高めただけでは、冷却開始直後にガラス板の表面に発生する引張応力が増大し、従来より冷却割れが発生し易くなるという問題が発生する。
【0018】
また、同じくコンプレッサエアを使用した特許文献2にも問題がある。特許文献2でいう「冷却し難い部分」とは、ガラス板の中央部としている。しかし、ガラス板の中央部の明確な定義はなく、実施の形態に記載されている中央部は、ガラス板の一辺から反対側の辺までの中央の帯状の領域のことを示している。つまり、特許文献2の発明では、ガラス板で最も微細な傷が多い縁部をコンプレッサエアのような高い冷却能によりで冷却しているため、冷却開始直後のガラス板の表面に発生する引張応力値が大きくなり、縁部からクラックが発展し冷却割れが発生する問題を抱えている。
【0019】
また、特許文献1の発明に比べると設備コストや稼動コストを削減できるが、現状の設備を大幅に改造しなければならなく、設備コストや稼動コストは現状よりも高くなる。さらに、コンプレッサエアは騒音の問題もある。
【0020】
以上のように、強化ガラス板の規格を満足する所望の残留応力を、板厚が2.8mm以下のガラス板に形成させるために、高い冷却能で強化すると、冷却割れや、設備費のアップ等の問題を引き起こす。
【0021】
そこで本発明の目的は、ガラス板が薄板化しても、安全規格を満足する自動車用強化ガラス板を提供することと、ガラス板の薄板化に伴う高冷却能化に起因する冷却割れを減少させる強化ガラス板の製造方法と設備費を低く抑えた製造装置を提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
ここで、本発明の原理について説明する。
強化ガラス板を破砕した場合、クラックの発生とともに弾性波が発生し、ガラス板内部を四方八方に伝搬する。この弾性波は、クラックの進行速度の約2倍(1.7〜2.3倍)の速さで強化ガラス板内部を伝搬し、ガラス板の周縁部で反射された後、遅れて進行して来たクラックの先端と衝突する。その結果、クラックの進行は分岐し、強化ガラス板の周縁領域(弾性波とクラックとの衝突地点よりも外側の領域)における破片の大きさは、中央領域(弾性波とクラックとの衝突地点よりも内側の領域)における破片の大きさよりも微細なものとなる。したがって、強化処理に際しては、中央領域と周縁領域とで強化の度合いに差を設けることができ、すなわち中央領域における冷却能を周縁領域における冷却能より高くするとよい。
【0023】
そこで、このような原理を踏まえるとともに、上述の従来技術の課題を解決すべく本発明は、ガラス板の表面に形成された残留圧縮応力層と、このガラス板の内部に形成された残留引張応力層とで構成され、これらの層における残留応力のバランスにより強度の増強された強化ガラス板であって、前記強化ガラス板は、その周縁部を包含する正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、前記中央領域における平均表面圧縮応力は、前記周縁領域における平均表面圧縮応力よりも大きいことを特徴とする強化ガラス板を提供する。
【0024】
また、本発明に係る強化ガラス板の一態様は、以下の構成を採ることができる。すなわち、前記強化ガラス板の周縁領域における平均表面圧縮応力は、90MPa以上であることが好ましい。また、前記中央領域と前記周縁領域との境界は、前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生するとともに前記強化ガラス板を前記クラックの進行速度の1.7〜2.3倍の速度で伝搬し、前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ線によって規定されることが好ましい。
【0025】
また、前記中央領域における平均表面圧縮応力は、前記周縁領域における平均表面圧縮応力よりも8〜47%大きいことが好ましい。また、前記強化ガラス板の厚さは、2.8mm以下であり、前記中央領域における平均表面圧縮応力は、100MPa以上であり、前記周縁領域における平均表面圧縮応力は、90MPa以上であることが好ましい。
【0026】
また、本発明は、ガラス板を軟化点近くまで加熱した後、このガラス板の表面を冷却手段を使って冷却することにより、前記ガラス板の表面に残留圧縮応力層を形成し、かつ内部に残留引張応力層を形成する強化ガラス板の製造方法であって、前記強化ガラス板は、その周縁部を包含する正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、前記中央領域を冷却するための第1の冷却手段の冷却能を、前記周縁領域を冷却するための第2の冷却手段の冷却能よりも16〜78%高くしたことを特徴とする強化ガラス板の製造方法を提供する。
【0027】
また、本発明に係る強化ガラス板の製造方法の一態様は、以下の構成を採ることができる。すなわち、前記中央領域と前記周縁領域との境界は、前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生するとともに前記強化ガラス板を前記クラックの進行速度の1.7〜2.3倍の速度で伝搬し、前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ線によって規定されることが好ましい。また、前記第1の冷却手段の冷却能は、520W/cm2℃以上であり、前記第2の冷却手段の冷却能は、350W/cm2℃以上であることが好ましい。
【0028】
また、本発明は、ガラス板を軟化点近くまで加熱するための加熱炉と、このガラス板の表面に冷却媒体を吹き付けるための複数のノズルを有した冷却手段とを備え、前記加熱されたガラス板の表面に前記冷却媒体を吹き付けることで、前記ガラス板の表面に残留圧縮応力層を形成し、かつ内部に残留引張応力層を形成する強化ガラス板の製造装置であって、前記強化ガラス板は、その周縁部を包含しかつ正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、前記中央領域を冷却するノズルの先端と前記ガラス板の表面との距離は、前記周辺領域を冷却するノズルの先端と前記ガラス板の表面との距離よりも10〜50mm短いことを特徴とする強化ガラス板の製造装置を提供する。
【0029】
また、本発明に係る強化ガラス板の製造装置の一態様は、以下の構成を採ることができる。すなわち、前記中央領域と前記周縁領域との境界は、前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生するとともに前記強化ガラス板を前記クラックの進行速度の1.7〜2.3倍の速度で伝搬し、前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ線によって規定されることが好ましい。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。実施の形態1は、本発明が提供する強化ガラス板の例であり、実施の形態2は、本発明の製造方法の例であり、実施の形態3、4は、本発明の製造装置の例である。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の強化ガラス板を示す概念図である。強化ガラス板1は、その形状が正方形であり、正面視で周縁領域とこの領域を除く中央領域とを有する。中央領域とは、図1に示す強化ガラス板1の中央付近の領域9のことであり、周縁領域とは、領域9を除いた強化ガラス板1の周縁部周辺の領域のことである。
【0032】
領域9について、以下、詳細に説明する。強化ガラス板は、表面に圧縮応力層、内部に引張応力層を有する。強化ガラス板に局部的な衝撃を与えることによって、クラックが表面に発生する。そのクラックが圧縮応力層を通過して引張応力層に到達すると、引張応力によりガラス板の四方八方に進行し、強化ガラス板が破砕することになる。その際に、弾性波が発生し、強化ガラス板の周縁部に向けて伝播する。
【0033】
弾性波は、クラックが引張応力層に到達しガラス板の四方八方へ進行を開始するのと同時に発生し、発生点から同心円状に伝播する横波である。弾性波の伝播速度はクラックの進行速度よりも速い。実施の形態1では、図1のように、強化ガラス板1の重心Aにおいて破砕した場合を想定して、弾性波の伝播速度がクラックの伝播速度の2倍として領域9の大きさを決定している。
【0034】
図1において、強化ガラス板1が重心Aを起点に破砕した場合に、重心Aからガラス板1の下縁部の点Bに至る直線7沿いに伝播した弾性波は、点Bで正反射し、直線8に沿って伝播する。よって、重心Aを起点に強化ガラス板1の下縁側に向かって直線6沿いを進行したクラックは、直線8沿いを伝播してきた弾性波と点Cで衝突することになる。
【0035】
このように強化ガラス板1の下縁で正反射してきた弾性波と重心Aを起点に下縁側に向かって進行してきたクラックとの衝突点を結んだ線が破線2である。同様に強化ガラス板1の左縁で正反射してきた弾性波と重心Aを起点に左縁側に向かって進行してきたクラックとの衝突点を結んだ線が破線3であり、強化ガラス板1の上縁で正反射してきた弾性波と重心Aを起点に上縁側に向かって進行してきたクラックとの衝突点を結んだ線が破線4であり、強化ガラス板1の右縁で正反射してきた弾性波と重心Aを起点に右縁側に向かって進行してきたクラックとの衝突点を結んだ線が破線5である。破線2〜5が境界線となってできる閉じた領域が右上がりの斜線でハッチングした領域9である。
【0036】
図2は、図1の強化ガラス板1の重心A、弾性波とクラックの衝突点E、強化ガラス板1の下縁部の点Dを通る直線10に沿って表面圧縮応力の分布を表したグラフである。実施の形態1を実線で示し、従来例を破線で示す。実施の形態1の領域9においては、その表面圧縮応力の平均値が周縁領域の表面圧縮応力の平均値よりも大きく形成されている。
【0037】
図2に示すように、実施の形態1では重心Aから衝突点Eの領域9内の表面圧縮応力が、衝突点Eから点Dの周縁領域の表面圧縮応力より8〜47%大きく形成されている。それに対して、従来例では、表面圧縮応力がガラス板の全面でほぼ一定である。なお、実際には、加熱されたガラス板に複数のノズルの開口孔から冷却風を吹き付けて製造された強化ガラス板は、冷却風の噴流がガラス板に衝突する点(以下、直下点という)がガラス板に散在しており、各直下点の間の点とでは、表面圧縮応力が異なっており、表面圧縮応力の分布は、ある程度上下にばらつく。
【0038】
実施の形態1の強化ガラス板1では、領域9の平均した表面圧縮応力が周縁領域の平均した表面圧縮応力より8〜47%大きければ、表面圧縮応力の分布は変動しても構わない。また、衝突点E付近の表面圧縮応力は、ステップ状に変化してもよいし、ある程度の勾配をもって領域9の表面圧縮応力から周縁領域の表面圧縮応力まで変化してもよいし、前述のように、上下にばらついても構わない。
【0039】
次に、表面圧縮応力の測定方法について図を用いて説明する。表面圧縮応力の測定は、バイアスコープ法という散乱光光弾性を用いたバビネ型表面応力計を用いる。図3に表面応力計の原理を示した概略断面図を示す。
【0040】
強化ガラス板1の表面をそれよりも高屈折率の液状の媒質17で覆い、媒質17側からプリズム11を介して臨界角θで直線偏光を偏光面45°の角度で入射させる。入射光13の一部は表面伝播光14となり強化ガラス板1の内部の表面近傍に沿って伝わる。表面伝播光14は各経路の各点で屈折し、その一部を媒質17側に屈折射出光15として送り出す。この屈折射出光15を使い経路の各点における表面伝播光14の光路差を測定する。
【0041】
一般に入射光13とその反射光16が表面伝播光14に比べて非常に強いので、測定に妨げとなる入射光13および反射光16を遮るためプリズム11の中心に遮蔽板12を設ける。入射した直線偏光は、応力の入った表面を伝播するに従い、表面に垂直に振動する波と、表面に水平に振動する波との間に光路差を増し、直線偏光−楕円偏光−円偏光−楕円偏光−直線偏光(入射光と偏光面が直交)−楕円偏光−円偏光−楕円偏光−直線偏光(入射光と偏光面が平行)とこの変化を繰り返す。この変化は屈折射出光15にそのまま反映するので、屈折射出光15を偏光フィルターを通して観察すると、表面伝播光14の経路が明暗の繰り返しに見える。
【0042】
そこで、屈折射出光15の一部を図3に示していないバビネ補正器を通して観察すると、表面圧縮応力がない状態では、光路差が変化しないため、図4(a)に示すように、バビネ補正器の水晶クサビ上の干渉縞18は、傾斜せずに観察される。表面圧縮応力がある状態では、図4(b)に示すように、バビネ補正器の水晶クサビ上の干渉縞18は、光路差の増加とともに連続的に右または左に移動するため、干渉縞18は傾斜して観察される。
【0043】
ここで、バビネ補正器の水晶クサビに投影された表面伝播光14の経路をΔLとし、その間に変化した光路差をΔRとすると、F:表面圧縮応力、C:装置の感度定数、Δn:光路差(nm/cm)、KC:光弾性定数(nm/cm/MPa)として、
Δn=ΔR/ΔL=tanφ
F=C・Δn/KC
となる。以上のようにして、表面圧縮応力を求める。
【0044】
また、光路差を計測する機器として有限会社折原製作所製BTP−H表面応力計を用いることが好ましい。また、ガラスに接触するサイズが11×6mmで、最大測定領域が5×6mmであるプリズムを用いることが好ましい。光弾性定数KCは、2.68nm/cm/MPaとして計算することが好ましい。
【0045】
測定点としては、表面圧縮応力が最大値に近いと予想される点とその点に最も近い位置にある表面圧縮応力が最小値に近いと予想される点を選んで、各点で少なくとも互いに直交する2方向について測定し、その平均値を先程測定した表面圧縮応力が最大値に近いと予想される点の測定値とする。
【0046】
加熱されたガラス板に複数のノズルの開口孔から冷却風を吹き付けて製造された強化ガラス板の場合は、ノズルの開口孔が千鳥配列だとすると、ノズルの開口孔の直下点が表面圧縮応力が最大値に近いと予想される点となり、ノズルの開口孔の直下点と、この点の最も近くにある他の開口孔の直下点のうちお互いに最も近い点である2点とで形成される三角形の重心の点が表面圧縮応力が最小値に近いと予想される点となる。
【0047】
よって、実施の形態1の強化ガラス板では、図1の直線10沿いに前述の測定点を重心Aから点Dまで測定し、または直線10上に前述の測定点がなければ、直線10に最も近い測定点を直線10沿いに測定し、領域9内で測定した表面圧縮応力の平均値が、周縁領域内で測定した表面圧縮応力の平均値よりも8〜47%大きくなる。従来例は、領域9の表面圧縮応力の平均値が、周縁領域の表面圧縮応力の平均値の1.08倍未満の大きさである。実施の形態1では、直線10沿いに測定点を選んだが、測定点を選ぶ基準としては、測定する各直下点の間隔が略等間隔に並び、その間隔も狭くなるようにし、さらに最も多くの測定点が得られるように、重心Aからガラス板の周縁部まで直線を引き、その直線沿いに測定点を選ぶことが好ましい。
【0048】
ここで、実施の形態1の破砕試験の評価について説明する。前述したように、自動車用窓ガラスに用いる強化ガラス板は、安全規格を満足しなければ使用できない。そのため、破砕試験の評価は重要となる。破砕試験では、JIS R 3212にガラスを割る衝撃点が「点1」〜「点4」まで定められており、破片が最も粗くなる衝撃点は、本発明者等の試験および経験的な事実からガラス板のほぼ中心点である「点3」であることがわかっているので、実施の形態1では、「点3」、つまり重心Aでの破砕試験について従来例と比較した。
【0049】
図5は、強化ガラス板1を重心Aを起点に破砕した場合の50×50mmの正方形の領域内(破砕数測定領域)の破片数の変化を、図2と同様に破片数測定領域の正方形の中心線が図1の直線10と重なるように重心Aから点Dに向かってずらしていって計測したグラフである。実施の形態1を実線で示し、従来例を破線で示す。領域9では、実施の形態1の表面圧縮応力が従来例の表面圧縮応力より大きいため、破片数も多くなる。周縁領域では、実施の形態1の表面圧縮応力が、従来例の表面圧縮応力より小さいにも関わらず、破片数は多くなる。これは、強化ガラス板1が破砕した際に、進行中のクラックの先端が縁部で反射してきた弾性波の影響を受けるため、周縁領域に進行するクラックの数が増えて、従来例の表面圧縮応力より小さくても、周縁領域の破片数は、従来例よりも増加する。
【0050】
つまり、強化ガラス板のクラックの進行は、ガラス板の内部の残留引張応力によりエネルギが増加し、ガラス内の音速に達すると分岐するのだが、クラックの先端はガラス板の周縁部で正反射してきた弾性波と衝突すると、エネルギ的にゆらぎが生じ、それによってもクラックが分岐するため、クラックが弾性波と衝突した後に進行する領域では、50×50mmの領域内で計測する破片数が多くなる。
【0051】
そのため、安全規格を満足する強化ガラス板は、中央領域の残留応力が、自動車用強化ガラス板の安全規格を満足する破砕数が得られる値であれば、周縁領域は強度的に満足する値があれば充分である。実施の形態1のような応力分布を有する強化ガラス板は、安全規格を満足した自動車用強化ガラス板として用いることができる。
【0052】
なお、実施の形態1の強化ガラス板1は、正方形であったが、本発明の強化ガラス板は、他の形状であっても同様の効果が得られる。
【0053】
また、実施の形態1の強化ガラス板1の板厚が2.8mm以下の場合には、本発明者等の試験および経験的な事実から、強度的に周縁領域は、90MPa以上の平均表面圧縮応力が好ましく、安全規格を満たす50×50mmの領域内で計測する破片数を得るために、領域9は、100MPa以上の平均表面圧縮応力であることが好ましい。
【0054】
また、領域9はある程度大きくなったり、小さくなったりしてもよい。実施の形態1では、弾性波の伝播速度はクラックの進行速度の2倍として領域9を規定しているが、弾性波の伝播速度が、クラックの進行速度の1.7〜2.3倍と変化させて領域9を規定しても、強化ガラス板の性能としては、あまり大きな違いが無いことが本発明者等の試験および経験的な事実から確認されている。
【0055】
つまり、図6において、強化ガラス板1の下辺で正反射してきた弾性波と重心Aから伝播してきたクラックの伝播との衝突点を結んだ破線2では、点線2aと2bのように幅があってもよく、同様に強化ガラス板1の他の辺で正反射した弾性波とクラックとの衝突点を結んだ破線でも3aと3b,4aと4b,5aと5bのように幅があってもよい。よって、領域9の最大の大きさは、図2に示す右上がりの斜線でハッチングした領域であり、領域9の最小の大きさは、左上がりの斜線でハッチングした領域であり、この最大と最小の範囲内に領域9を規定すればよい。
【0056】
(実施の形態2)
実施の形態2は、実施の形態1の強化ガラス板1を製造するための好ましい方法であり、以下に説明する。実施の形態2は、ガラス板を軟化点近くまで加熱し、このガラス板の表面に冷却手段を使って冷却することにより、ガラス板の表面に圧縮応力層を形成し、かつ内部に引張応力層を形成する強化ガラス板の製造方法である。冷却する対象となるガラス板は、正面視で中央領域と周縁領域とを有している。中央領域は、図1で示した領域9の決定方法と同様にして、計算機シミュレーションを用いて求める。
【0057】
実施の形態2の強化ガラス板の製造方法は、強化するガラス板を軟化点近くまで加熱し、冷却手段によって冷却するのだが、ガラス板の中央領域を冷却する冷却手段の冷却能を、ガラス板の周縁領域を冷却する冷却手段の冷却能よりも16〜78%高くしてガラス板を冷却する。中央領域を冷却する冷却手段と、周縁領域を冷却する冷却手段は、互いに別々のもので独立してそれぞれ中央領域と周縁領域を冷却してもよいし、中央領域を冷却する冷却手段と、周縁領域を冷却手段は同じもので、中央領域への冷却能を高めるように調節したもの、または、周縁領域への冷却能を低く調節したものでもよい。
【0058】
これにより、領域9を周縁領域よりも速く冷却することになり、冷却中のガラス板の断面方向の内部と表面の温度差は、周縁領域より中央領域の方が大きくなる。よって、中央領域に形成される残留応力が、周縁領域に形成される残留応力より大きくなり、実施の形態1の強化ガラス板1を製造できる。
【0059】
また、ガラス板の周縁部の面取りを施した加工部は微小な傷が多く、この部分からクラックが進行することで冷却割れが起こることが多い。前記強化ガラス板の製造方法によれば、中央領域への冷却能は大きいがガラス板の周縁領域の冷却能は低いままで、周縁領域が中央領域より遅く冷えるため、周縁領域の冷却開始直後のガラス板の表面に発生する引張応力が低減し、周縁領域が起点となる冷却割れを減少させることができる。
【0060】
なお、冷却手段は、冷却風をガラス板に吹き付ける風冷でもよいし、微細で無数の水滴からなるミストをガラス板に吹き付けるミスト冷却でもよいし、冷媒となるものを直接ガラス板に接触させる接触冷却でもよい。
【0061】
また、ガラス板を加熱するときに、中央領域を周縁領域よりも高い温度まで加熱して、ガラス板全面にほぼ均一な冷却能で冷却しても、同様の強化ガラス板が得られる。この場合は、周縁領域は従来の温度と略同じなので、ガラス板を高温に加熱した際に、搬送が困難になるという問題を解決する。
【0062】
(実施の形態3)
実施の形態2の強化ガラス板の製造方法を実施するための好ましい装置の一例について以下に説明する。
【0063】
実施の形態3は、加熱したガラス板の両面に対向配置された風箱と、この風箱のガラス板側に配設された複数のノズルとを少なくとも有し、加熱されたガラス板に向けて複数のノズルから噴出する冷却風を吹き付ける強化ガラス板の製造装置である。複数のノズルは、ノズルの開口孔がガラス板に対して垂直に向き千鳥配列となるように、および、ガラス板の形状に概略一致するように複数並べて、ガラス板の全面に開口孔から噴出する冷却風を吹き付けられるように、風箱に設けられている。
【0064】
図7は、ガラス板19の中央領域とノズルの開口孔との位置関係を示した概略図である。図7に示すガラス板19は、その形状が正方形であり、正面視で中央領域と周縁領域を有している。
【0065】
まず、図1で示した領域9の決定方法と同様にして、計算機シミュレーションを行い、強化するガラス板19の中央領域を求める。このとき、図6に示した範囲内での中央領域を求めてもよい。次に、ガラス板19を加熱し冷却する際に、ガラス板19の中央領域を冷却する冷却風がどのノズルの開口孔から吹き付けられるのかを求める。その位置関係を求めた結果が図7である。
【0066】
図7は、クラックと弾性波が衝突する線20〜23を求めたガラス板19と、実施の形態3で用いる風箱に配設されている、複数の開口孔24が設けられた複数のノズル25との位置関係を示した概略図である。
【0067】
線20はガラス板19の重心で破砕したときのクラックとガラス板19の下縁で反射してきた弾性波との衝突点を結んだ線で、線21はクラックとガラス板19の左縁で反射した弾性波との衝突点を結んだ線で、線22はクラックとガラス板19の上縁で反射した弾性波との衝突点を結んだ線で、線23はクラックとガラス板19の右縁で反射した弾性波との衝突点を結んだ線である。図7の結果は、冷却能を高める領域を示しており、この領域にあるノズルを中央領域のノズルと呼ぶ。
【0068】
実施の形態3では、中央領域のノズルを延長して、開口孔とガラス板19との距離を周縁領域のノズルよりも近づけることにより、中央領域の冷却能を周縁領域の冷却能よりも高める。中央領域のノズル26を延長した風箱の概略斜視図が図8である。実施の形態3では、中央領域のノズル26は、周縁領域のノズル28よりも10〜50mm延長している。中央領域の開口孔27の分布は、正面視で、周縁領域の開口孔の間隔と同じである。中央領域のノズルを延長することにより、中央領域の冷却能が、周縁領域の冷却能より16〜78%高くなる。特に、ガラス板19の板厚が2.8mm以下の場合に、ガラス板19の冷却開始温度が640℃であれば、中央領域の冷却能は、520W/cm2℃以上となることが好ましく、周縁領域の冷却能は、350W/cm2℃以上となること好ましい。
【0069】
図9は、図8の風箱を用いた本実施の形態3の強化ガラス板の製造装置を示す概略側面図である。実施の形態3の強化ガラス板の製造装置は、ガラス板19の両面に対向配置された風箱30a、30bと、この風箱30a、30bのガラス板19側に配設された複数のノズル26a、26b、28a、28bとを少なくとも有し、加熱されたガラス板19に向けて前記複数のノズル26a、26b、28a、28bの開口孔から配管32a、32bから送風されてくる冷却風を吹き付ける実施の形態3の強化ガラス板の製造装置である。図9では、ガラス19は曲がっておらず成形されていないが、ガラス板19が曲がっていても構わなく、その場合は、ガラス板とノズル先端の距離が一定になるように、ノズルと風箱の形状もガラス板の曲率に合わせればよい。
【0070】
加熱炉にて軟化点近くまで加熱されたガラス板19を、風箱30a、30b間に搬送する。この場合、ガラス板19は、駆動機構に連結された吊具31の搬送手段に鉛直状態に保持されて、風箱30a、30b間に搬送される。風箱30a、30b間にガラス板19が搬送されると、各ノズルの開口孔から冷却風がガラス板19に吹き付けられる。このようにして、周縁領域より中央領域の冷却能を高くしてガラス板19を冷却することにより、実施の形態3の装置は、中央領域に形成される残留応力が、周縁領域に形成される残留応力より8〜47%大きい実施の形態1の強化ガラス板を製造することができる。
【0071】
また、ガラス板19の中央領域への冷却能は高いが周縁領域への冷却能は低いままなので、周縁領域が中央領域より遅く冷えるため、周縁領域の冷却開始直後のガラス板19の表面に発生する引張応力が低減し、周縁領域が起点となる冷却割れを減少させることができる。
【0072】
また、実施の形態3の強化ガラス板の製造装置は、ノズルを延長しているだけなので、風冷強化装置自体に大きな改造や増設もなく、経費を低く抑えることができる。
【0073】
(実施の形態4)
実施の形態3の鉛直方向にガラス板を吊って冷却するのではなく、成形されて曲がっているガラス板をリング上に水平に載置して冷却する実施の形態4の強化ガラス板の製造装置の一例について以下に説明する。図10は、実施の形態4の強化ガラス板の製造装置の一例を示す概略断面図である。図10の本実施の形態4の強化ガラス板の製造装置は、ガラス板33の両面に対向配置された風箱34a、34bと、この風箱34a、34bのガラス板33側に配設された複数のノズルとを少なくとも有し、加熱されたガラス板33に向けて前記複数のノズルから噴出する冷却風を吹き付ける強化ガラス板の製造装置である。
【0074】
複数のノズルは、ノズルの開口孔がガラス板33に対して垂直に向き千鳥配列となるように、および、ガラス板33の形状に概略一致するように複数並べて、ガラス板38の全面に開口孔から噴出する冷却風を吹き付けられるように、風箱34a、34bに設けられている。この複数のノズルの先端が図10に示す35a、35b、36a、36bである。
【0075】
ガラス板33は、自動車の窓ガラスに用いられるような形状であり、正面視で中央領域と周縁領域を有している。中央領域は、図1に示した領域9の決定方法と同様にして、計算機シミュレーションで求められる。
【0076】
さらに、従来の強化ガラス板の製造装置は、図11に示すように、ガラス板39とノズルの先端41a、41bとの距離がガラス板のどの位置でもほぼ一定であるのに対し、実施の形態4の強化ガラス板の製造装置は、ガラス板33の中央領域を冷却するノズル37a、37bの先端36a、36bが、ガラス板33の周縁領域を冷却するノズルの先端35a、35bよりもガラス板33側に10〜50mm接近している。
【0077】
加熱炉にて軟化点近くまで加熱され、必要に応じて曲げ成形されたガラス板33は、風箱34a、34b間に搬送される。この場合、ガラス板33は駆動機構に連結されたリング38等の適宜の搬送手段に、水平状態で保持されて、風箱34a、34b間に搬送される。
【0078】
風箱34a、34b間にガラス板33が搬送されると、各ノズルの開口孔から所定の温度、圧力の冷却風が、ガラス板33に向けて吹き付けられる。こうして、中央領域へ吹き付けるノズル37a、37bの先端36a、36bを周縁領域へ吹き付けるノズルの先端35a、35bよりガラス板33側に10〜50mm接近させることにより、周縁領域より中央領域の冷却能を16〜78%高くしてガラス板を冷却しているため、中央領域に形成される残留応力が、周縁領域に形成される残留応力より8〜47%大きい強化ガラス板を製造できる。特に、ガラス板33の板厚が2.8mm以下の場合に、ガラス板33の冷却開始温度が640℃であれば、中央領域の冷却能は、520W/cm2℃以上であることが好ましく、周縁領域の冷却能は、350W/cm2℃以上であることが好ましい。
【0079】
また、ガラス板33の中央領域への冷却能は高いが周縁領域への冷却能は低いままなので、周縁領域が中央領域より遅く冷えるため、周縁領域の冷却開始直後のガラス板33の表面に発生する引張応力が低減し、周縁領域が起点となる冷却割れを減少させることができる。
【0080】
さらに、複曲面を有する形状のガラス板を強化する場合に、図11に示すように、すべてのノズルの先端41a、41bをガラス板39に接近させると、ノズル先端41bと急冷中のガラス板39を保持する治具である冷却リング42が接触する可能性があるため、接近距離に限界があり、またガラス板39の水平方向の摺動もできない状況になるが、図10に示すように中央領域のみノズルの先端36a、36bを接近させることによって、冷却リング38との接触や摺動性の問題を解決することができる。
【0081】
また、実施の形態4の製造装置は、ノズルの先端を延長しているだけなので、風冷強化装置自体に大きな改造や増設もなく、経費を低く抑えることができる。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、以下に記載する効果が得られる。本発明に係る強化ガラス板は、中央領域の平均表面圧縮応力が周縁領域よりも大きいため、中央領域における冷却能のみ上げればよく製造し易いという利点がある。すなわち、冷却媒体を噴射するノズルの先端を、周縁領域においては中央領域よりも遠ざけることができ、ガラス板を摺動させる際にガラス板のエッジがノズルの先端と接触することを防ぐことができる。
【0083】
また、周縁領域における平均表面圧縮応力を90MPa以上にしたり、中央領域の平均表面圧縮応力を周縁領域よりも8〜47%大きくしたりすることにより、安全法規をクリアできるレベルの残留応力がガラス板に形成される。
【0084】
また、本発明の強化ガラス板の製造方法においては、急冷時に強化ガラス板の中央領域を冷却する冷却手段の冷却能を周縁領域を冷却する冷却手段の冷却能よりも16〜78%高くすることにより、強化ガラス板の中央領域の残留応力が周縁領域の残留応力よりも8〜47%大きい強化ガラス板を製造することができる。また、中央領域は高い冷却能となるが周縁領域の冷却能は低いままで、中央領域より遅く冷えるため、周縁領域の冷却開始直後のガラス板の表面に発生する引張応力を低減でき、冷却媒体の噴射時にガラス板が割れることを防ぐことができる。
【0085】
また、本発明に係る強化ガラス板の製造装置においては、急冷時に強化ガラス板の中央領域を冷却するノズルの先端を周縁領域を冷却するノズルの先端よりも10〜50mm延長することにより、強化ガラス板の中央領域を冷却する冷却手段の冷却能が周縁領域を冷却する冷却手段の冷却能よりも16〜78%高くなり、強化ガラス板の中央領域の残留応力が周縁領域の残留応力よりも8〜47%大きい強化ガラス板を製造することができるとともに、冷却割れを減少できる。さらに、ノズルを延長しているだけなので、既存の製造装置に大きな改造や増設もなく容易に実施でき、経費を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】中央領域と周縁領域とを示す概念図である。
【図2】実施の形態1の表面圧縮応力の分布を表したグラフである。
【図3】表面応力計の原理を示した概略断面である。
【図4】(a)射出光15を観察したときの応力無しの場合の概略図、(b)射出光15を観察したときの応力有りの場合の概略図である。
【図5】実施の形態1の50×50mmの正方形の領域内の破片数の変化を表したグラフである。
【図6】実施の形態1の中央領域を求めた概念図である。
【図7】実施の形態3の中央領域とノズルの開口孔との位置関係を示した概略図である。
【図8】実施の形態3で用いる吹口の概略斜視図である。
【図9】実施の形態3で用いる強化ガラス板の製造装置を示す概略側面図である。
【図10】本実施の形態4の強化ガラス板の製造装置の概略断面図である。
たグラフである。
【図11】従来の強化ガラス板の製造装置の概略断面図である。
【符号の説明】
A:重心
B:強化ガラス板1の周縁部
C:クラックと弾性波の衝突点
D:強化ガラス板1の周縁部
E:クラックと弾性波の衝突点
ΔL:表面伝播光の経路
ΔR:ΔLの間に変化した光路差
θ:臨界屈折角
φ:干渉縞の傾斜角
1:強化ガラス板
2〜5,2a〜5a,2b〜5b:クラックと弾性波との衝突点を結んだ線
6:クラックの進行
7:弾性波の伝播
8:正反射してきた弾性波の伝播
9,9a,9b:中央領域
10:評価ライン
11:プリズム
12:遮蔽版
13:入射光
14:表面伝播光
15:屈折射出光
16:反射光
17:光屈折率の媒質
18:干渉縞
19:ガラス板
20〜23:クラックと弾性波との衝突点を結んだ線
24:ノズルの開口孔
25:ノズル
26,26a,26b:延長したノズル
27:延長したノズルの開口孔
28,28a,28b:周縁領域のノズル
29:周縁領域のノズルの開口孔
30,30a,30b:風箱
31:吊具
32a,32b:配管
33:ガラス板
34a,34b:風箱
35a,35b:周縁領域のノズル先端
36a,36b:中央領域のノズル先端
37a,37b:ノズル延長部
38:リング
39:ガラス板
40a,40b:風箱
41a,41b:ノズル先端
42:リング
Claims (8)
- ガラス板の表面に形成された残留圧縮応力層と、このガラス板の内部に形成された残留引張応力層とで構成され、これらの層における残留応力のバランスにより強度の増強された強化ガラス板であって、
前記強化ガラス板は、その周縁部を包含する正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、
前記中央領域と前記周縁領域との境界線は、
前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の1.7倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線と
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の2.3倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線の間の幅を持った領域に含まれ、
前記中央領域における平均表面圧縮応力は、前記周縁領域における平均表面圧縮応力よりも大きいことを特徴とする強化ガラス板。 - 前記強化ガラス板の周縁領域における平均表面圧縮応力は、90MPa以上である請求項1に記載の強化ガラス板。
- 前記中央領域における平均表面圧縮応力は、前記周縁領域における平均表面圧縮応力よりも8〜47%大きい請求項1または2に記載の強化ガラス板。
- 前記強化ガラス板の厚さは、2.8mm以下であり、
前記中央領域における平均表面圧縮応力は、100MPa以上であり、
前記周縁領域における平均表面圧縮応力は、90MPa以上である請求項1〜3の何れか一項に記載の強化ガラス板。 - ガラス板を軟化点近くまで加熱した後、このガラス板の表面を冷却手段を使って冷却することにより、前記ガラス板の表面に残留圧縮応力層を形成し、かつ内部に残留引張応力層を形成する強化ガラス板の製造方法であって、
前記強化ガラス板は、その周縁部を包含する正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、
前記中央領域と前記周縁領域との境界線は、
前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の1.7倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線と
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の2.3倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線の間の幅を持った領域に含まれ、
前記中央領域を冷却するための第1の冷却手段の冷却能を、前記周縁領域を冷却するための第2の冷却手段の冷却能よりも16〜78%高くしたことを特徴とする強化ガラス板の製造方法。 - 前記第1の冷却手段の冷却能は、520W/cm2℃以上であり、
前記第2の冷却手段の冷却能は、350W/cm2℃以上であることを特徴とする請求項5に記載の強化ガラス板の製造方法。 - ガラス板を軟化点近くまで加熱するための加熱炉と、このガラス板の表面に冷却媒体を吹き付けるための複数のノズルを有した冷却手段とを備え、前記加熱されたガラス板の表面に前記冷却媒体を吹き付けることで、前記ガラス板の表面に残留圧縮応力層を形成し、かつ内部に残留引張応力層を形成する強化ガラス板の製造装置であって、
前記強化ガラス板は、その周縁部を包含しかつ正面視で環状の周縁領域と、この周縁領域の内周側を占有する中央領域とを有し、
前記中央領域と前記周縁領域との境界線は、
前記強化ガラス板が、その重心を起点として破砕された場合に、
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の1.7倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線と
前記重心から前記周縁部に向かって進行するクラックの先端と、前記クラックと同時に発生する弾性波の強化ガラス板の伝搬速度をクラックの進行速度の2.3倍とした場合の前記強化ガラス板の周縁部で正反射して来た弾性波とが衝突する点を結んだ一つの線の間の幅を持った領域に含まれ、
前記中央領域を冷却するノズルの先端と前記ガラス板の表面との距離は、前記周辺領域を冷却するノズルの先端と前記ガラス板の表面との距離よりも10〜50mm短いことを特徴とする強化ガラス板の製造装置。 - 前記中央領域の冷却能は、520W/cm2℃以上であり、前記周辺領域の冷却能は、350W/cm2℃以上であることを特徴とする請求項7に記載の強化ガラス板の製造装置。
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