JP4522558B2 - スクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法並びに装置 - Google Patents

スクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法並びに装置 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、スクラムジェットエンジンにおける超音速気流内の燃料混合促進方法並びに装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
次世代の高速飛行に必要なエンジンの1つにスクラムジェットエンジンがある。これはマッハ6以上の流れを、空気取り入れ口内で、垂直衝撃波によって亜音速に減速するのではなく、斜め衝撃波により減速し、超音速の状態でその気流に燃料を噴射して混合気体を作り、燃焼させることが主な特徴である。
【0003】
その簡単な原理を、図1に示す。いま、空気導入路P中に流れ込む超音速気流1に対し、空気導入路Pの壁面に開けた穴2から燃料fを矢印で示すように垂直に噴射する。この燃料fの噴射によって、へさき衝撃波3やはく離衝撃波4が発生するが、これらの衝撃波を通過後の気流は、依然として超音速であるため、混合気5の混合効率は、亜音速で燃料が噴射される場合よりも悪い。
【0004】
このような構造では、燃焼に必要な十分な混合が得られないため、これまでいくつかの装置が考案されてきた。その各例を図2、図3および図4に示す。図2において、流入する空気の流れの中にくさび6を配設し、その下流側から下流方向に燃料fを噴射することによって、くさび6の後流によって混合を促進するものがある。
【0005】
あるいは、図3に示すように、流れ方向に急拡大する流路いわゆる後方ステップの流路をつくり、急拡大部ではく離した流れが再付着する位置の近くに燃料噴射口7を設ける場合や、流れと平行に8のように下流方向に燃料fを噴射し、超音速流れにおける混合の低下を改善する工夫がなされている。
【0006】
また、図4に示すように、空気導入路Pの側壁に多数の穴9をあけ、その全ての穴から燃料fを噴射する事によって、一様に混合しようとする提案もなされている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、いずれの方法も、超音速気流内に燃料を直接噴射するため、超音速内における拡散の効果が最も重要な要因となるが、超音速気流内における拡散効率は亜音速流れの場合ほどあまり大きくない。
【0008】
さらに、流路内にくさびを設置したり、急拡大流路を用いることは、それ自体が流れにとって抵抗となるため、いかなる運転状態においても流れの損失は避けられない。
【0009】
また、図4に示す装置の場合、多孔壁のすべての穴から燃料を噴射すると、流路の実行断面積が小さくなり、これによる閉塞あるいは燃料が伴う場合は、熱閉塞が発生する可能性がある。
【0010】
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、超音速気流内に対し直接燃料を噴射するのではなく、気流と燃料の混合を、混合効率の良い亜音速状態で行い、混合が十分なされた予混合ガスを再び超音速気流に戻すことにより、速やかに超音速気流と燃料との混合を促進することを目的とする。
【0011】
【問題を解決するための手段】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、スクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法であり、空気取り入れ口から流入する超音速気流と燃料噴射口から噴射される燃料が混合する領域において、空気あるいは燃料を噴射する噴射口側の壁を多孔壁にし、その外側にキャビティを設置することにより、前記の噴射口から空気や燃料が噴射される場合のみ超音速気流とキャビティ間で多孔壁を通して流れを発生させる。
【0012】
この流れは、圧力差によって、キャビティ内では下流から上流に向かう流れとなるため、これを燃料混合に利用する。
【0013】
このように、多孔壁・キャビティを組み合わせた装置を用いることにより、まず加速段階における低速時の運転状態では、燃料を噴射しないため、気流に対する抵抗を最小限に抑えることができる。さらに、燃料噴射時には、へさき衝撃波下流の高圧力の領域で、超音速気流が多孔壁を通してキャビティ側に流れ込むため、燃料噴射口下流のはく離を低減できる。
【0014】
さらに、このキャビティに押し込まれる気流は、燃料噴射直後の高濃度の一次混合気体であるが、これがキャビティ内を下流から上流に流れる間に亜音速状態での混合となるため、超音速気流中での混合に比べ、より効率のいい混合が実現できる。
【0015】
また、亜音速状態で混合した混合気体は、へさき衝撃波上流の多孔壁にあけられた多数の穴から超音速気流中に噴出されるため、広範囲に分布した細かい燃料噴射となることから、超音速気流中においても、より速やかに混合が行われる。
【0016】
請求項2は、請求項1に記載のへさき衝撃波の位置を、燃料噴射口の位置を調整することによって、流れ方向に変える方法である。このように、へさき衝撃波の位置を変えることにより、運転状態に応じ、超音速気流を一旦減速するための斜め衝撃波の強さを制御する。その結果、キャビティ内を逆流する流量を変えることができる。
【0017】
たとえば、燃料噴射口を上流側に移動すると、へさき衝撃波も上流に移動し、その結果、下流側の圧力の高い領域が広くなり、超音速気流がキャビティに流れ込む流量が増えるため、キャビティからへさき衝撃波上流に吹き出る流量も多くなる。そのため、超音速気流に対して多くの流量が、その流れを偏向させることになり、実質的に斜め衝撃波を発生させるためのランプ角を大きくした場合と同様な効果を奏する。
【0018】
したがって、このように燃料噴射口の位置を変えることによって、ランプ角を変えることに対応させれば、機械的に直接ランプ角を変える必要がなく、その構造も簡単になるため、軽量化が実現でき、機械的可動部分が少なくなることによって信頼性も向上する。
【0019】
請求項3は、スクラムジェットエンジン用燃料混合促進装置であり、矩形あるいは円筒状などの筒状の空気導入路の側壁に燃料噴射口を配設すると共に、燃料噴射口配置領域の壁を多孔壁とし、その外側にキャビティを設置してある。そして、前記燃料噴射口が超音速気流の流れ方向に前後動可能な構造にしてある。
【0020】
従来、超音速気流における混合促進装置は、その構造上の制限により、矩形流路では比較的容易であったランプ角の調整も、円形流路ではその構造がより複雑になるため、スクラムジェットエンジンはこれまでほとんど矩形流路にのみ適用されてきた。
【0021】
これに対し、前記の多孔壁、キャビティおよび燃料噴射口は構造が簡単であると同時に、機械的可動部分が無いので、矩形流路と同じ原理で円形流路にも適用することができる。このように流路の形状に制限がないので、機体設計上も自由度が増し、スクラムジェットエンジンの応用範囲を広げることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に本発明によるスクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法並びに装置が実際上どのように具体化されるか実施形態を説明する。図5に本発明の第一実施形態を示す。
【0023】
本発明は、超音速気流、いわゆる主流が流れ込む空気導入路Pの側壁に多数の孔10を開け、この多孔壁11の外側にキャビティ12を配設してある。燃料fの噴射ノズル13は、多孔壁11の中間に配設されている。しかも、流れ方向(図の左右方向)に移動することができる。
【0024】
まず、超音速流れが流れている状態で、燃料噴射がなければ、通常のダクト内の超音速流れとみなせる。いま、この状態で、噴射ノズル13から燃料fが噴射されると、燃料噴射口を中心としたじょう乱により、へさき衝撃波14が発生するため、その下流(領域15)は、燃料噴射口上流(領域16)に比べ、圧力が高くなる。
【0025】
また、燃料噴射口側の側壁の一部が多孔壁11になっているため、その圧力上昇はキャビティ12内(領域17)まで伝わる。このように、燃料の噴射口下流の高い圧力と噴射口上流との間に圧力差が生じると、それによって、多孔壁11を通して、キャビティ12内(領域17)では、下流側から上流側に向かう流れ18が生じる。
【0026】
この循環は、燃料噴射口下流の流れがキャビティ内に流れ込み、キャビティ内を通って燃料噴射口上流(領域19)に吹き出る流れとなる。
このとき、燃料噴射口下流の流れ5は、燃料が混じった一次混合気体5であり、この一次混合気体5が多孔壁11を通ってキャビティ内で逆流する段階で亜音速における混合が実現される。
【0027】
さらに、亜音速状態で混合された混合気体は、多孔壁11の上流側領域11aから一様に主流に噴出されるため、単一の燃料噴射口から噴射される場合よりも速やかに混合が促進された二次混合気体20となる。
【0028】
また、最初の混合気体5は、多孔壁11の穴10を通して吹き出るが、この穴10の最も上流に位置する列が、流れに対し垂直で、スパン方向に一様であるので、その穴10の列から2次元的な衝撃波21も発生する。
【0029】
すなわち、空気取り入れ口にランプ角をつけなくても、平行なダクトの壁から吹き出る燃料噴射により、斜め衝撃波21を発生させることも可能となる。
【0030】
また、噴射ノズル13を可動式にして、燃料噴射口の位置を流れ方向に変えることにより、キャビティ12内を流れる流量を制御できるため、実質的に衝撃波21の強さを制御することができ、空気取り入れ口にランプ角をつける必要がなくなる。
【0031】
さらに、燃料噴射が無ければ、ダクト(空気導入路P)内に障害物が無くなるため、通常の超音速平行ダクト流れになり、これまで提案されている燃料噴射用ノズルのストラットや急拡大流路などと異なり、流れに対する悪影響を最小限に抑えることができる。
【0032】
次に、燃料噴射口を流れ方向に可動式にした場合の作用を、図6(a)(b)で説明する。すなわち、燃料噴射ノズル13の流れ方向の位置を変えることにより、斜め衝撃波21の強さを変え、運転状態に応じた減速を実現できる。図6(a)は噴射ノズル13が上流側に有る場合、図6(b)は噴射ノズル13が下流側に有る場合である。
【0033】
図6(a)に示すように、噴射ノズル13が上流側に位置している場合は、へさき衝撃波14による圧力上昇の範囲5aは、図6(b)に比べて広いため、キャビティ12内に流れ込む流量5aが多くなる。したがって、キャビティ12内を上流に向かう流量5bも図6(b)に比べて多くなり、多孔壁11の前半領域11aから超音速気流中に吹き出る単位面積あたりの流量5cも多くなる。
【0034】
そのため、超音速気流に発生する衝撃波21に対する偏向角は、図6(a)の場合が図6(b)の場合に比べて大きくなるため、図6(a)の場合により強い斜め衝撃波21が形成される。
【0035】
噴射ノズル13の移動方法は、噴射ノズル13そのものの位置がスライドする構造が好ましい。つまり、一端が閉じられたパイプの側面に燃料噴射用の穴を1個開け、もう一つの端部から燃料を供給し、そのパイプを多孔壁11の中心に埋め込んだ状態が適している。その状態で、噴射ノズル13の位置を変えるのは、そのパイプ全体を流れ方向に移動させるだけで済む。そうすることによって、噴射ノズル13の位置を細かく無段階に調整することも可能となる。
【0036】
なお、多孔壁11の孔各10や燃料噴射ノズル13のサイズは、エンジンの規模にもよるが、例えば1〜10mm程度が適している。空気導入路Pのサイズも、実験段階から実機段階で異なるが、直径が例えば1〜数m程度になるものと考えられる。
【0037】
次に、空気噴流を超音速気流に対し垂直に噴射した場合の3次元数値シミュレーション結果の密度等値面図を図7に示す。
【0038】
図7の1で示す超音速気流が流入して来る流れに対し、3次元的な形状をしたへさき衝撃波14が発生し、その上流側にスパン方向に形状が一様な2次元的斜め衝撃波21が発生しているのがわかる。また、へさき衝撃波14の下流側の等値面は、下壁面に密着していることから、流れがキャビティ12側に流れ込んでいるのがわかる。
【0039】
これに対し、斜め衝撃波21とへさき衝撃波14の間の領域では、等値面が下壁面よりわずかに離れていることから、流れがキャビティ12側から超音速気流側(空気導入路P内)に吹き出しているのがわかる。
【0040】
図8は本発明の第2実施形態を示す斜視図である。本発明の前記実施形態は極めて簡単な構造であるため、これまで主に提案されてきた矩形ダクト内の超音速流れのみでなく、円筒状の流れ場にも容易に応用できる。
【0041】
すなわち、超音速で流入して来る気流1に対し、燃料噴射口13を円周上に複数個配置することにより、前記第1実施形態と全く同じ効果を得ることができる。
【0042】
【発明の効果】
請求項1のように、多孔壁とキャビティを組み合わせた装置を用いることにより、燃料噴射時には、へさき衝撃波下流の高圧力の領域で、超音速気流が多孔壁を通してキャビティ側に流れ込み、次いでキャビティ内を下流から上流に流れる間に亜音速状態での混合となるため、超音速気流中での混合に比べ、より効率のいい混合が実現できる。
【0043】
さらに、亜音速状態での混合気体は、へさき衝撃波上流の多孔壁にあけられた多数の穴から超音速気流中に噴出されるため、広範囲に分布した細かい燃料噴射となることから、超音速気流中においても、より速やかに混合が行われることになる。
【0044】
請求項2のように、燃料噴射口を前後に移動して、へさき衝撃波の位置を変えることにより、運転状態に応じ、キャビティ内を逆流する流量を変えることができる。このように燃料噴射口の位置を変えることによって、従来のランプ角を変えることと対応するが、機械的に直接ランプ角を変える必要がなく、その構造も簡単になるため、軽量化が実現でき、機械的可動部分が少なくなることによって信頼性も向上する。
【0045】
請求項3のように、筒状の空気導入路の側壁に燃料噴射口を配設すると共に、燃料噴射口の配置領域を多孔壁とし、その外側にキャビティを設置し、しかも前記燃料噴射口が前後移動可能にしたため、前記の多孔壁、キャビティおよび燃料噴射口は構造が簡単であると同時に、機械的可動部分が無いので、矩形流路と同じ原理で円形流路にも適用することができる。このように流路の形状に制限がないので、機体設計上も自由度が増し、スクラムジェットエンジンの応用範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来のスクラムジェットエンジンの原理を示す断面図である。
【図2】 従来の混合率改善方法であり、流れの中にくさびを置く例である。
【図3】 従来の混合率改善方法であり、流れ方向に急拡大する流路を形成した例である。
【図4】 従来の混合率改善方法であり、側壁に開けた多数の穴から燃料を噴射する例である。
【図5】 本発明の第一実施形態を示す断面図である。
【図6】 本発明の第二実施形態を示す断面図である。
【図7】 本発明方法における3次元数値シミュレーション結果を示す密度等値面図である。
【図8】 本発明の第三実施形態を示す部分断面側面図である。
【符号の説明】
P 空気導入路
1 超音速気流
f 燃料
3 へさき衝撃波
4 はく離衝撃波
5 一次混合気
10 多数の孔
11 多孔壁
11a 上流側の多孔壁
12 キャビティ
13 燃料噴射ノズル
14 へさき衝撃波
18 上流側に向かう流れ
20 速やかに混合が促進された二次混合気体
21 強い斜め衝撃波

Claims (3)

  1. 空気取り入れ口から流入する超音速気流と燃料噴射口から噴射される燃料が混合する領域において、
    燃料噴射口設置側の壁を多孔壁にすると共に、その外側にキャビティを設置し、
    前記燃料噴射口から噴出される燃料により発生するへさき衝撃波の前後の圧力差を利用することにより、何ら外部動力を用いずに、キャビティ内で超音速気流の下流側から上流側に向かう逆流が発生するように、超音速気流とキャビティ間で多孔壁を通して流れを発生させ、これを燃料混合に利用することを特徴とするスクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法。
  2. 前記の燃料噴射口の位置を超音速気流の流れ方向に前後移動させることによって、前記のへさき衝撃波の発生位置を変えることで、一次混合気が多孔壁からキャビティに流れ込む量を制御し、キャビティ内を逆流する流量を変えることを特徴とする請求項1に記載のスクラムジェットエンジン用燃料混合促進方法。
  3. 矩形あるいは円筒状などの筒状の空気導入路の側壁に燃料噴射口を配設すると共に、
    該燃料噴射口配置領域の壁を多孔壁とし、その外側にキャビティを設置したこと、
    前記燃料噴射口が超音速気流の流れ方向に移動可能としたこと、
    を特徴とするスクラムジェットエンジン用燃料混合促進装置。
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