JP4520616B2 - きのこの人工培養基及びそれを用いたきのこの人工栽培方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、きのこの人工培養基及びそれを用いたきのこの人工栽培方法に関する。
なお、本発明で使用する部や%は特に規定のないかぎり質量基準である。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来、きのこの栽培は、くぬぎ、ぶな、及びならなどの原木を利用した、ほだ木栽培がほとんどであり、そのため、気象条件により収穫が左右されることが多いという課題があった。
【0003】
また、最近では、ほだ木栽培用の原木切り出しのための労働力が不足していることなどによって、原木の入手が困難になりつつあるという課題があった。
さらに、ほだ木栽培では栽培期間が長いこと、即ち、種菌の接種から、きのこの収穫までに1年半から2年も要することにより、生産コストが相当高くつくという課題があった。
【0004】
近年、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、まいたけ、しめじ、及びしいたけなどの栽培として、鋸屑に米糠を配合した培養基を用い、瓶又は箱で栽培を行う菌床人工栽培方法が確立され、一年を通して、四季に関係なく安定して、きのこが収穫できるようになっている。
即ち、従来は農家での副業的性格が強く、小規模生産に頼っていたきのこ栽培が、現在では大規模専業生産が可能となり、かつ、原料が入手しやすい菌床人工栽培方法に移りつつある。
【0005】
しかしながら、菌床人工栽培方法においても、きのこを大量に連続栽培するには、いまだ収率も低く、かつ、栽培期間がかなり長いため、その生産コストは安価とはいえず、今後これら生産性の改善が切望されている。
【0006】
例えば、(Al2O3)X(SiO2) (ただし、式中のXは1以上の数)で示される化合物を前記の人工培養基に含有したものや、(MgO)W(Al2O3)X(SiO2)y(ただし、式中のWは1〜3の数、Xは1〜5の数、yは0〜3の数)で示される化合物を前記の人工培養基に含有したもの、あるいは、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、酸化第一鉄、酸化第二鉄、及び四三酸化鉄から選ばれるいずれか一種類の化合物を人工培養基に添加したものがあるが、充分な収率できのこを生産することができていないのが現状である(特開平03−210126号公報、特開平03−058716号公報、及び特開平07−322754号公報)。
【0007】
本発明者は、エトリンガイト、カルシウムアルミネート、アルミノケイ酸カルシウム、及びスラグ粉等の化合物を人工培養基に含有させることにより、きのこの収率が飛躍的に向上することを提案した(特開平11−155364号公報、特開平11−187762号公報、特開平11−243773号公報、及び特開平11−299347号公報)。
【0008】
本発明者は、さらに誠意検討を重ねた結果、特定の化合物を使用することにより、低価格で、しかも高収率できのこを栽培できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、SiO220〜60%、MgO30〜70%、及びAl2O3 10〜40%の化学組成で、ガラス化率が50%以上のアルミノケイ酸マグネシウムであって、前記アルミノケイ酸マグネシウムの使用量が、前記人工培養基100部中、0.1〜10部であることを特徴とするきのこの人工培養基であり、さらに、硫酸塩を含有してなる該きのこの人工培養基であり、これらの人工培養基を用いてなるきのこの人工栽培方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0011】
本発明で使用するSiO220〜60%、MgO30〜70%、及びAl2O3 10〜40%の化学組成で、ガラス化率が50%以上のアルミノケイ酸マグネシウム(以下、SMAという)とは、きのこの収率を向上するために必要なもので、ケイ石、ケイ砂、石英、及びケイ藻土等のシリカ原料、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、及び炭酸マグネシウム(MgCO3)等のマグネシア原料、アルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア、長石、及び粘土等のアルミナ原料、苦土橄欖石、蛇紋石、滑石、及び石綿等のシリカとマグネシアの原料、スピネル等のマグネシアとアルミナの原料、粘土鉱物やろう石等のシリカとアルミナの原料、並びに、緑泥石やアルミナ系柘榴石等のシリカ、マグネシア、及びアルミナの原料を所定の割合で配合した後、ロータリーキルンなどで焼成したり、電気炉や高周波炉等で溶融して得られるものである。SMA中のSiO2含有率は20〜60%、MgO含有率は30〜70%、及びAl2O3含有率は10〜40%であり、SiO2含有率が30〜60%、MgO含有率が30〜60%、及びAl2O3含有率が10〜35%がより好ましい。この範囲外ではきのこの収率が向上しない場合がある。なお、前記のシリカ原料、マグネシア原料、及びアルミナ原料中には、CaO、Fe2O3、TiO2、K2O、及びNa2Oなどの不純物が含まれているが、SiO2、MgO、及びAl2O3が本発明の化学組成の範囲内であれば特に制限されるものではない。SMAの具体的な化合物としては、SiO220〜60%、MgO30〜70%、及びAl2O3 10〜40%のガラス質や、2MgO・2Al2O3・5SiO2などの結晶質が挙げられるが、少量の添加量で、きのこの収率が向上することから溶融物を急冷して得られるガラス質が好ましい。SMAのガラス化率は高ければ高いほど、きのこの収率が向上することから好ましい。具体的には、50%以上であり、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。なお、ガラス化率(χ)は、SMAを1,000℃、2時間加熱後、5℃/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折法により結晶鉱物のメインピークの面積S0を求め、SMAの結晶のメインピーク面積Sから、χ(%)=100×(1−S/S0)の式を用いて求めた。SMAの粒度は、少量の添加量で、きのこの収率が向上することから細かいほど好ましい。具体的には、SMAの平均粒子径は、1mm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、10μm以下が最も好ましい。SMAの平均粒子径が1mmを超えると、きのこの収率の向上が得られない場合がある。SMAの使用量は、人工培養基100部中、0.1〜10部が好ましい。この範囲外では、きのこの収率の向上がみられない場合がある。
【0012】
本発明において、SMAに硫酸塩を併用することは、きのこの収率をさらに向上する面から好ましい。
硫酸塩としては、無水セッコウ、半水セッコウ、二水セッコウ、無水硫酸アルミニウム、含水硫酸アルミニウム、無水硫酸鉄、含水硫酸鉄、無水硫酸ナトリウム、含水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、含水硫酸マグネシウム、無水硫酸リチウム、及び含水硫酸リチウムなどが好ましい。このうち、無水セッコウが収率向上の面から最も好ましい。
硫酸塩の粒度は、少量の添加量で、きのこの収率が向上することから細かいほど好ましい。具体的には、硫酸塩の平均粒子径は、1mm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、10μm以下が最も好ましい。硫酸塩の平均粒子径が1mmを超えると、きのこの収率の向上が得られない場合がある。
硫酸塩の使用量は、人工培養基100部中、0.01〜20部が好ましく、0.1〜10部がより好ましい。20部を超えて添加しても、収率の向上は望めない場合がある。
【0013】
本発明で使用する人工培養基としては、鋸屑、もみ殻、コーンコブ、バガス、パルプ廃材、ビート粕、及びデンプン粕等の基材に、米糠、もろこし粉砕物、及びフスマなどの栄養源の一種又は二種以上を混合した混合物に、SMA、又は、SMAと硫酸塩を混合したものを含有させたものを使用することが可能である。
きのこの種類、栽培環境、及び条件等に応じて、基材や栄養源の種類、それらの配合割合は任意に変化するもので特に限定されるものではないが、栄養源の使用量は、例えば、基材100部に対して、10〜150部が、きのこを高収率で得る面からより好ましい。
【0014】
本発明の人工培養基を用いて、きのこを栽培する方法は、各々の環境や状況等に応じて任意に変えることができるので特に限定されるものではないが、通常、SMA、又は、SMAと硫酸塩を含有した人工培養基に水を加えて、人工培養基の水分含有量を50〜70%に調整し、必要に応じて殺菌・冷却後、菌を接種し、各々のきのこについて通常採用されている培養工程や生育条件に従って行うことが好ましい。
【0015】
例えば、ぶなしめじ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を22〜26℃で約30日間培養後、24〜28℃で40〜50日間熟成し、菌かき後に温度14〜17℃、湿度95〜100%で20〜25日間育成を行って、ぶなしめじを栽培し収穫する。
また、しいたけ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を20〜25℃で約30日間培養後、26〜30℃で40〜50日間熟成し、その後、温度13〜17℃で1〜3日間低温処理し、温度17〜20℃、湿度90〜95%で約10日間発生を行ってしいたけを収穫し、この際に第1回目の収穫後に再び発生にかけて第2回目のしいたけの収穫を行うことも可能である。
【0016】
本発明では、基材や栄養源の他にも、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、卵殻粉末、貝殻粉末、及び消石灰等を併用することも可能である。
【0017】
本発明で栽培されるきのこは人工栽培できるきのこであり、例えば、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ、エリンギ、及びしいたけなどが挙げられる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実験例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実験例1
シリカ原料、マグネシア原料、及びアルミナ原料を所定の割合で混合し、高周波炉で溶融後、急冷し、表1に示すSMAを合成し、粉砕し、平均粒子径10μmにして使用した。
広葉樹鋸屑250g、針葉樹鋸屑250g、米糠500g、及び水140mlをビニール袋に入れ充分に混合し、水分含水率65%の混合物を調製した。
調製した混合物とSMAからなる人工培養基100部中、SMAを3部添加混合した人工培養基500gをプラスチック製850mlの広口瓶に圧詰めした。
広口瓶の中央に直径約2cmの穴を開け、打栓後、120℃で90分間殺菌した。冷却後、ひらたけの鋸屑種菌を植菌し、暗所、温度25℃、湿度55%の条件下で30日間培養した。
次に、栓を外して培養基の上部から約1cm菌かきして菌糸層を除いた後、水道水20mlを添加して充分に吸水させた。4時間放置後、上部に残った水を取り除いて、温度15℃、湿度95%、照度20ルックスの条件下で、7日間培養して子実体原基を形成させ、さらに照度を200ルックスに上げて、10日間培養を続け、SMAの組成とガラス化率が子実体収量に及ぼす影響について検討した。結果を表1に併記する。
【0020】
<使用材料>
シリカ原料:二酸化ケイ素、試薬SiO2
マグネシア原料:酸化マグネシウム、試薬MgO
アルミナ原料:酸化アルミニウム、試薬Al2O3
広葉樹鋸屑:ぶな材の鋸屑
針葉樹鋸屑:すぎ材の鋸屑
米糠 :市販品
【0021】
<測定方法>
コントロール対比:(SMA+硫酸塩)添加の子実体収量(g)/(SMA+硫酸塩)無添加の子実体収量(g)×100(%)
【0022】
【表1】
【0023】
表1から明らかなように、人工培養基に、SMAを添加することにより、ひらたけの収率が向上した。
【0024】
実験例2
表2に示すSMAタを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0025】
【表2】
【0026】
表2から明らかなように、人工培養基に、SMAの使用量が5部の場合、最もひらたけの収率が向上した。
【0027】
実験例3
表3に示す平均粒子径のSMAタを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0028】
【表3】
【0029】
表3から明らかなように、SMAの平均粒子径が小さくなるほど、ひらたけの収率が向上した。
【0030】
実験例4
人工培養基100部中、SMAタを3部と表4に示す硫酸塩を用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0031】
<使用材料>
硫酸塩a :無水セッコウ、平均粒子径10μm
硫酸塩b :二水セッコウ、平均粒子径10μm
硫酸塩c :無水硫酸アルミニウム、平均粒子径10μm
硫酸塩d :硫酸アルミニウム18水塩、平均粒子径10μm
硫酸塩e :無水硫酸マグネシウム、平均粒子径10μm
【0032】
【表4】
【0033】
表4から明らかなように、人工培養基に、SMAと硫酸塩を併用することにより、ひらたけの収率が向上した。
【0034】
実験例5
広葉樹鋸屑350g、針葉樹鋸屑350g、米糠300g、及び水135mlをビニール袋に入れ充分に混合し、水分含水率63%の混合物を調製した。
さらに、蛇紋石、ボーキサイトの原料を用い、最大電力負荷5,000kVAの直接通電式溶融炉で溶融し、溶融体を水中に落下させて急冷し、表5に示す化学分析値を持つSMAを製造した。
このSMAのX線回折結果は、結晶のピークが認められず、ガラス化率100%であった。
調製した混合物、SMA、及び硫酸塩からなる人工培養基100部中、表6に示すSMAと硫酸塩aを添加混合した人工培養基500gをプラスチック製850ml広口瓶に圧詰めした。
広口瓶の中央に直径約2cmの穴を開け、打栓後、120℃で90分間殺菌した。冷却後、ぶなしめじの種菌を植菌し、温度23℃にて30日間培養後、さらに、26℃にて45日間熟成を行った。
次に、菌かきをした後、温度15℃、湿度95%の条件下で生育を行い、21日後にぶなしめじを収穫した。結果を表6に併記する。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
表6から明らかなように、人工培養基に、SMA、又は、SMAと硫酸塩を併用することにより、ぶなしめじの収率が向上した。
【0038】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したとおり、本発明による栽培方法によれば、きのこを高収率で得ることが可能となった。
Claims (3)
- SiO220〜60質量%、MgO30〜70質量%、及びAl2O3 10〜40質量%の化学組成で、ガラス化率が50%以上のアルミノケイ酸マグネシウムを含有してなるきのこの人工培養基であって、前記アルミノケイ酸マグネシウムの使用量が、前記人工培養基100質量部中、0.1〜10質量部であることを特徴とするきのこの人工培養基。
- さらに、硫酸塩を含有してなることを特徴とする請求項1記載のきのこの人工培養基。
- 請求項1又は2記載の人工培養基を用いてなるきのこの人工栽培方法。
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