この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う波長多重伝送システム1の概略構成図である。
図1を参照して、波長多重伝送システム1は、伝送路50と、送信部8と、受信部9とからなる。
伝送路50は、1310nmを零分散とするSMFからなり、送信部8および受信部9と接続される。
送信部8は、外部から受けた複数のデータ信号1,2,・・・,nおよび2つの基準信号を互いに異なる光信号波長を持つ複数の光信号により伝送路50を介して受信部9へ送信する。送信部8から送信された複数の光信号は、波長多重化されて同一の光ファイバを伝搬する。
受信部9は、伝送路50から送信された複数の光信号を受けて、複数のデータ信号1,2,・・・,nおよび2つの基準信号に復調する。また、受信部9は、復調された2つの基準信号間の相対的な遅延時間を測定し、その遅延時間に基づいて伝送路50の波長分散を算出する。そして、受信部9は、その算出された伝送路50の波長分散を相殺するように所定の波長分散を各光信号に与える。
データ信号1,2,・・・,nはデジタル信号であり、一定周期毎に「0」または「1」のデータが供給される。このデータが供給される一定周期の逆数がビットレート、すなわちデータ信号の周波数となる。
また、送信部8は、光源20.1,20.2,・・・,20.nと、発振器90と、掛算器100.1,100.2と、光変調器30.1,30.2,・・・,30.nと、合波器40とからなる。
光源20.1,20.2,・・・,20.nは、レーザ発振器で構成され、互いに異なる光信号波長λ1,λ2,・・・,λnのレーザ光を発生する。そして、光源20.1,20.2,・・・,20.nは、その発生したレーザ光をそれぞれ光変調器30.1,30.2,・・・,30.nへ出力する。
発振器90は、データ信号1,2,・・・,nのいずれの周波数よりも低い周波数の正弦波信号を発生し、その正弦波信号からなる同一の基準信号を掛算器100.1,100.2へそれぞれ出力する。
掛算器100.1,100.2は、発振器90から受けた基準信号をデータ信号1,nにそれぞれ重畳する。そして、掛算器100.1,100.2は、その重畳した信号をそれぞれ光変調器30.1,30.nへ出力する。
光変調器30.1,30.2,・・・,30.nは、基準信号が重畳されたデータ信号1、データ信号2,3,・・・,n−1、基準信号が重畳されたデータ信号nをそれぞれ受けて、光信号波長λ1,λ2,・・・,λnのレーザ光を光強度変調して光信号を生成する。そして、光変調器30.1,30.2,・・・,30.nは、その生成した各光信号を合波器40へ出力する。
合波器40は、光変調器30.1,30.2,・・・,30.nから受けた各光信号を合成して伝送路50へ出力する。
一方、受信部9は、光カプラ120.1,120.nと、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nと、復調部80.1,80.2,・・・,80.nと、光電気変換器140.1,140.nと、帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)160.1,160.nと、位相比較器180と、制御部200とからなる。
分波器60は、伝送路50と接続され、合波器40から送信される複数の光信号を受ける。そして、分波器60は、その複数の光信号を波長に応じて各光信号に分離する。すなわち、分波器60は、その複数の光信号を光信号波長λ1,λ2,・・・,λnの各光信号に分離して光カプラ120.1、分散補償手段70.2,70.3,・・・,70.n−1、光カプラ120.nへそれぞれ出力する。
光カプラ120.1,120.nは、分波器60から受けた光信号を2つに分配し、その分配した光信号を分散補償手段70.1,70.nおよび光電気変換器140.1,140.nへそれぞれ出力する。
分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nは、制御部200から受けた制御指令に応じて、光信号波長λ1,λ2,・・・,λnの各光信号に所定の波長分散を与える。そして、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nは、所定の波長分散を与えた各光信号を復調部80.1,80.2,・・・,80.nへそれぞれ出力する。
なお、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nは、制御指令に応じて波長分散を変化できるものであればよく、一例として、長手方向に屈折率変化が形成されたファイバブラッググレーティングから構成されるものや、表面形状を自在に変更できるミラーとレンズとから構成されるものなどが挙げられる。
復調部80.1,80.2,・・・,80.nは、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nから各光信号を受けてデータ信号1,2,・・・,nに復調する。
光電気変換器140.1,140.nは、光カプラ120.1,120.nからそれぞれ受けた光信号を電気信号に変換する。そして、光電気変換器140.1,140.nは、その電気信号を帯域通過フィルタ160.1,160.nへ出力する。
帯域通過フィルタ160.1,160.nは、光電気変換器140.1,140.nからそれぞれ受けた電気信号のうち所定周波数以下の成分のみを通過させる。ここで、発振器90の周波数成分を通過させ、データ信号1,nの周波数成分を遮断するように帯域通過フィルタ160.1,160.nを選定する。すると、帯域通過フィルタ160.1,160.nは、それぞれ基準信号を抽出できる。さらに、帯域通過フィルタ160.1,160.nは、その抽出した各基準信号を位相比較器180へ出力する。
位相比較器180は、帯域通過フィルタ160.1,160.nから受けた2つの基準信号を比較して位相差を検出する。そして、位相比較器180は、その検出した位相差を制御部200へ出力する。
制御部200は、位相比較器180から受けた位相差に基づいて光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された2つの基準信号間の相対的な遅延時間を測定する。さらに、制御部200は、後述する波長分散算出手段により伝送路50の波長分散を算出する。
なお、実施の形態1においては、一例として、各データ信号のビットレートは80Gbit/s、すなわち各データ信号の周波数は80GHzであり、基準信号は950MHzである。また、光信号波長は、1550nmを中心として±15nmの範囲に等間隔で16波長とする。
(データ信号と基準信号との重畳送信)
図2は、波長多重伝送システム1の送信部8における各部位の時間波形を示した図である。
図2(a)は、データ信号1の時間波形を示す。
図2(b)は、発振器90から出力される基準信号の時間波形を示す。
図2(c)は、掛算器100.1から出力される基準信号が重畳されたデータ信号1の時間波形を示す。
図2(a)を参照して、データ信号1は、ビット周期毎に「0」または「1」が供給される。なお、図2(a)では、一例として、ビット周期毎に必ず「0」に戻るRZ(Return to Zero)信号を示すが、「1」が連続する場合には「0」に戻らないNRZ(Non Return to Zero)信号を用いてもよい。
図2(b)を参照して、発振器90から出力される基準信号は、データ信号1の周波数より低い周波数の正弦波信号である。
図2(c)を参照して、掛算器100.1は、データ信号1と基準信号とを重畳して出力する。したがって、掛算器100.1の出力信号の包絡線は、発振器90から出力される基準信号と一致する。
ここで、データ信号により光強度変調されて生成される光信号は、伝送路50を伝搬する過程で減衰する。そのため、光信号が所定のレベル以上、いわゆるスレッシュホールド以上の強度を維持できる距離が伝送可能距離となる。
したがって、基準信号が重畳されたデータ信号において、基準信号による変調度が大きいと、「1」の信号に割当てられる光強度が低下して伝送誤りが生じやすいため、伝送可能距離が制約される。
一方、基準信号による変調度が小さいと、光信号が伝搬する過程で生じる光損失の時間的変動などにより、復調した包絡線に生じるノイズが大きくなり、基準信号間の相対的な遅延時間の測定誤差が大きくなる。
そこで、データ信号における基準信号による変調度は、5%〜10%にするのが望ましい。なお、変調度とは、データ信号の最大振幅に対する基準信号の最大振幅である。
上述のような光強度変調を実現する光変調器30.1,30.nは、一例として、リチウムニオベイトで構成される。
リチウムニオベイトは、印加される電圧、すなわちバイアス電圧と光信号の透過率との間に一定の関係を有する。したがって、バイアス電圧を変化させることで光信号の透過率、つまり光信号の強度を制御できる。
なお、リチウムニオベイトの透過率は、バイアス電圧に対して周期的に変化するため、基準信号が重畳されたデータ信号の最大値を透過率が最大となるバイアス電圧値と対応させることにより、リチウムニオベイトを挿入することによる光損失を最小限にできる。
(波長分散算出手段)
図3は、伝送路50における光信号の波長分散および遅延時間の関係を示す図である。
図3(a)は、波長と波長分散との関係を示す図である。なお、図3(a)は、単位距離あたりの波長分散を示す。
図3(b)は、波長と遅延時間との関係を示す図である。
図3(a)を参照して、実施の形態1に従う伝送路50は、1310nmにおいて零分散となる。
図3(b)を参照して、波長分散は遅延時間を波長で微分した値であるので、波長の異なる2つの光信号間の相対的な遅延時間は、波長分散を2つの波長間で積分した値となる。なお、絶対的な遅延時間は、伝送路50の距離に応じて決まる。
図4は、光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された2つの基準信号間の相対的な遅延時間を示す図である。
図4を参照して、光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された2つの基準信号間には、光信号波長λ1,λnの波長分散に応じた遅延時間Δtが生じる。
なお、実施の形態1では、基準信号の周波数は950MHzであるので、位相差1°あたり約3psの遅延時間に相当する。したがって、データ信号の周波数である80GHzに比較して1/1000以下の周波数の基準信号を用いても十分な測定精度が得られる。すなわち、低速な位相比較器による遅延時間の測定が可能である。
次に、光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された基準信号間の相対的な遅延時間を用いて、伝送路50の波長分散を算出する。
図5は、SMFにおける波長分散の温度依存関係の一例を示す図である。
図5を参照して、波長分散は、波長分散特性を維持したまま、温度に応じて波長軸上をシフトする。
そこで、光信号波長λ1,λnを含む伝送路50の波長分散特性をf(λ)=a+bλで示される一次式とすると、aは温度に依存する変動値、bは温度に依存しない固定値となる。ここで、bは、波長分散スロープと呼ばれる値である。
光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された基準信号間の相対的な遅延時間Δtは、波長分散特性f(λ)をλ1からλnの範囲で積分することにより求められるので、aをΔt,λ1,λn,bを用いて表すことができる。すると、波長分散特性f(λ)は、以下のようになる。
なお、基準信号を送信する光信号波長は任意に選択すればよいが、高精度に波長分散を算出するためには、波長間隔を広くすることが望ましい。また、基準信号を送信する光信号は2以上であればよく、特に2つの光信号に限られない。
(分散補償手段)
制御部200は、得られた波長分散特性f(λ)を用いて、光信号波長λ1,λ2,・・・,λnの各光信号における波長分散を算出する。さらに、制御部200は、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nに対して、各光信号の波長分散を相殺するように制御指令を出力する。
ここで、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nは、互いに独立して各光信号に所定の波長分散を与える。
図6は、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nにより所定の波長分散を与えられた各光信号の特性を示した図である。
図6(a)は、各光信号の波長成分スペクトルを示す図である。
図6(b)は、各光信号の遅延時間を示す図である。
図6(a)を参照して、各光信号の時間波形はパルス状であるため、各光信号のスペクトルは広がりをもつ。そのため、各光信号に含まれる波長成分間の相対的な遅延時間が時間波形の歪みを生じる。
図6(b)を参照して、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nは、入力される光信号に含まれる波長成分に対してそれぞれ所定の波長分散を与えて、光信号に含まれる波長成分間の相対的な遅延時間を零にする。
一般的に、データ信号は互いに独立であるので、各光信号間に相対的な遅延時間が生じていても復調時に問題は生じない。
上述のように、実施の形態1における分散補償手段は、算出された伝送路50の波長分散特性f(λ)に応じて、各光信号にそれぞれ所定の波長分散を与える、いわゆるフィードフォワード型の制御方式を採用する。フィードバック型と比較してシステムの構成がシンプルとなるからである。
そのため、実施の形態1における制御部200は、分散補償手段70.1,70.nで所定の波長分散が与えられる前の光信号から復調された2つの基準信号間の相対的な遅延時間を測定する。
このように、分散補償手段において所定の波長分散が与えられていない光信号から2つの基準信号を復調することにより、分散補償手段に影響されず、伝送路50における波長分散を算出できる。
実施の形態1によれば、データ信号の周波数より低い周波数の周期信号である基準信号を用いて伝送路において生じた相対的な遅延時間を測定するため、データ信号間の遅延時間を検出する場合に比較して低速な位相比較器で済む。よって、コストを抑制した波長多重伝送システムを実現できる。
また、実施の形態1によれば、データ信号とは無関係に基準信号を送信するので、データ信号の構造およびビットレートなどには制約がなく、汎用性が高く適応範囲の広い波長多重伝送システムを実現できる。
さらに、実施の形態1によれば、基準信号をデータ信号に重畳して送信するので、基準信号を単独で送信する場合に比較して光信号を有効に利用することができる。よって、データ伝送量を維持しながら伝送路の波長分散をリアルタイムに監視し、それに応じた分散補償が行える波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態2]
上述の実施の形態1においては、データ信号と基準信号とを電気的に重畳して、その重畳信号で光強度変調して光信号を生成する場合について説明した。
一方、実施の形態2においては、データ信号と基準信号とを光学的に重畳する場合について説明する。
図7は、この発明の実施の形態2に従う波長多重伝送システム2の概略構成図である。
図7を参照して、波長多重伝送システム2は、伝送路50と、送信部10と、受信部9とからなる。
送信部10は、図1に示す波長多重伝送システム1の送信部8において、掛算器100.1,100.2を光変調器220.1,220.2に変更したものである。
光変調器30.1,30.nは、データ信号1,nをそれぞれ受けて、光信号波長λ1,λnのレーザ光を光強度変調して光信号を生成し、その生成した光信号を光変調器220.1,220.2へそれぞれ出力する。
光変調器220.1,220.2は、光変調器30.1,30.nからそれぞれ受けた光信号を基準信号でさらに光強度変調して合波器40へ出力する。
実施の形態2における光変調器30.1,30.nは、データ信号を受けてデジタル変調すればよいので、2値変調、すなわちレーザ光をスイッチングできればよく、レーザ光の光強度を連続的に変化させる必要はない。
実施の形態2によれば、実施の形態1における効果に加えて、光強度を連続的に変化させることができない光変調器からなる既存の波長多重伝送システムに本発明を適用する場合において、送信部では、基準信号で光強度変調を行う光変調器を挿入するだけでよい。よって、既存の波長多重伝送システムを利用して、伝送路の波長分散をリアルタイムに監視し、それに応じた分散補償が行える波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態3]
上述の実施の形態1においては、任意に選択した光信号に対して基準信号を重畳する場合について説明した。
一方、実施の形態3においては、すべての光信号に対して基準信号を重畳する場合について説明する。
図8は、この発明の実施の形態3に従う波長多重伝送システム3の概略構成図である。
図8を参照して、波長多重伝送システム3は、伝送路50と、送信部12と、受信部13とからなる。
送信部12は、図1に示す波長多重伝送システム1の送信部8において、掛算器100.1,100.2を光変調器220に変更したものである。
光変調器220は、合波器40から受けた合成された複数の光信号をさらに基準信号で光強度変調して伝送路50へ出力する。
受信部13は、図1に示す波長多重伝送システム1の受信部9において、光信号波長λ1,λnの光信号に対するのと同様に、光信号波長λ2,・・・,λn−1の各光信号に対する光カプラ120.2,・・・,120.n−1、光電気変換器140.2,・・・,140.n−1および帯域通過フィルタ160.2,・・・,160.n−1を追加したものである。
光カプラ120.1,120.2,・・・,120.nは、分波器60から受けた各光信号を2つに分配し、その分配した光信号を分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nおよび光電気変換器140.1,140.2,・・・,140.nへそれぞれ出力する。
光電気変換器140.1,140.2,・・・,140.nは、光カプラ120.1,120.2,・・・,120.nから受けた各光信号を電気信号に変換する。そして、光電気変換器140.1,140.2,・・・,140.nは、その各電気信号を帯域通過フィルタ160.1,160.2,・・・,160.nへ出力する。
帯域通過フィルタ160.1,160.2,・・・,160.nは、光電気変換器140.1,140.2,・・・,140.nから受けた各電気信号から基準信号の周波数成分を通過させて、基準信号を抽出する。さらに、帯域通過フィルタ160.1,160.2,・・・,160.nは、その抽出した各基準信号を位相比較器180へ出力する。
位相比較器180は、帯域通過フィルタ160.1,160.2,・・・,160.nから受けたn個の基準信号を比較して相互間の位相差を検出する。そして、位相比較器180は、その検出した基準信号相互間の位相差を制御部200へ出力する。
制御部200は、位相比較器180から受けた基準信号相互間の位相差と発振器90の周波数とから各光信号により伝送された基準信号相互間の相対的な遅延時間を測定する。
さらに、制御部200は、実施の形態1と同様に、任意に選択した2つの基準信号間の相対的な遅延時間から伝送路50の波長分散を算出できる。
一方、制御部200は、基準信号相互間の相対的な遅延時間を用いて伝送路50の波長分散を算出することもできる。
一例として、基準信号の遅延時間をΔt(λ)=aλ2+bλ+c+dλ−1+eλ−2という多項式で近似する。測定した基準信号相互間の相対的な遅延時間を用いて、この多項式を最小二乗法などにより最適化し、各定数a,b,c,dおよびeを求める。最適化の精度を向上させるためには、すべての測定結果を用いることが望ましい。
さらに、波長分散特性f(λ)は、遅延時間Δt(λ)を波長λで微分したものであり、f(λ)=2aλ+b−dλ−2−2eλ−3となるから、この式に求めた各定数を代入することで、波長分散特性f(λ)を得ることができる。
制御部200は、得られた波長分散特性f(λ)を用いて、実施の形態1と同様に分散補償を行う。
なお、基準信号の遅延時間として近似する多項式は、上述の多項式に限られず、さらに次数の多い多項式を用いてもよい。
実施の形態3によれば、実施の形態1における効果に加えて、1つの光変調器を用いてすべての光信号に対して基準信号を重畳させることができるため、各光信号について光変調器を設ける場合に比較してコストを抑制した波長多重伝送システムを実現できる。
また、実施の形態3によれば、すべての光信号により伝送された基準信号相互間の相対的な遅延時間を測定できるため、それらの測定値を用いて伝送路の波長分散を精度よく算出できる。よって、各光信号に対して高精度で分散補償できるため、伝送誤りがより少ない波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態4]
上述の実施の形態1においては、固定周波数の基準信号を送信する場合について説明した。
一方、実施の形態4においては、基準信号の周波数を複数の周波数に切換えて送信する場合について説明する。
図9は、異なる周波数の基準信号における位相比較器180の動作を示す図である。なお、図9(a)および図9(b)における基準信号間の相対的な遅延時間Δtは同一である。
図9(a)は、基準信号の周波数が高い場合を示す。
図9(b)は、基準信号の周波数が低い場合を示す。
図9(a)を参照して、光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された基準信号間に相対的な遅延時間Δtが生じている場合において、位相比較器180は、遅延時間Δtが基準信号の1周期を超えていると、実際より1周期ずれた位相差ω1を検出する。したがって、制御部200は、遅延時間を正しく測定できない。
そこで、遅延時間Δtが基準信号の1周期以内に収まるまで基準信号の周波数を低くすると、位相比較器180は遅延時間に相当する位相差を検出できるため、制御部200は遅延時間を正しく測定できる。
図9(b)を参照して、図9(a)と同じ遅延時間Δtが生じている場合において、位相比較器180は、遅延時間Δtに相当する位相差ω2を検出する。
つまり、位相比較器180を用いた場合には、基準信号の1周期が測定可能範囲となる。
一方、制御部200は、基準信号の周波数fおよび基準信号間の位相差ωを受けて、Δt=(1/f)×(ω/360°)より遅延時間を測定するので、位相比較器180が同じ精度で位相差を検出する場合には、周波数の高い基準信号を用いた方が精度よく測定できる。
そこで、制御部200は、周波数の高い基準信号において検出された位相差ω1が何周期ずれているかを検出して、その検出したずれ周期分をω1に加算することで遅延時間を精度よく測定できる。
よって、実施の形態4においては、送信部は、所定の期間毎に基準信号の周波数を複数に切換えて送信し、受信部は、各周波数における基準信号間の位相差を検出する。さらに、受信部は、最も高い周波数における位相差が何周期ずれているかを、その他の低い周波数における位相差に基づいて検出し、遅延時間を測定する。
このように、基準信号の周波数を切換えることにより、制御部200は、最も高い周波数における測定精度を維持しつつ、最も低い周波数における測定可能範囲で遅延時間を測定できる。
図10は、この発明の実施の形態4に従う波長多重伝送システム4の概略構成図である。
図10を参照して、波長多重伝送システム4は、伝送路50と、送信部14と、受信部15とからなる。
送信部14は、図1に示す波長多重伝送システム1の送信部8において、発振器90を可変型発振器92に変更し、制御部202を追加したものである。
可変型発振器92は、制御部202からの周波数切換指令に応じて、出力する正弦波信号の周波数を複数の周波数に切換える。
制御部202は、所定の期間毎に可変型発振器92に対して周波数切換指令を出力する。
受信部15は、図1に示す波長多重伝送システム1の受信部9において、周波数検出器94を追加したものである。
周波数検出器94は、帯域通過フィルタ160.nから出力される基準信号を受けて、基準信号の周波数を検出する。さらに、周波数検出器94は、その検出結果を制御部200へ出力する。
実施の形態4においては、一例として、制御部202は、可変型発振器92の周波数を2種類の周波数f1,f2(但し、f1=f2×2とする)に切換える。
図11は、この発明の実施の形態4に従う基準信号間の相対的な遅延時間を測定するフローチャートである。
図11を参照して、制御部200は、周波数検出器94から検出信号を受けて基準信号の周波数がf1であるか否かを判断する(ステップS100)。
基準信号の周波数がf1でない場合(ステップS100においてNOの場合)には、制御部200は、周波数がf1となるまで待つ(ステップS100)。
基準信号の周波数がf1である場合(ステップS100においてYESの場合)には、制御部200は、基準信号間の位相差ω1を検出する(ステップS102)。
次に、制御部200は、周波数検出器94から検出信号を受けて基準信号の周波数がf2であるか否かを判断する(ステップS104)。
基準信号の周波数がf2でない場合(ステップS104においてNOの場合)には、制御部200は、周波数がf2となるまで待つ(ステップS104)。
基準信号の周波数がf2である場合(ステップS104においてYESの場合)には、制御部200は、基準信号間の位相差ω2を検出する(ステップS106)。
さらに、制御部200は、位相差ω2が180°以上であるか否かを判断する(ステップS108)。f1=f2×2であるので、周波数f1の1周期は、周波数f2の半周期と一致する。そのため、遅延時間が周波数f2の半周期以上、つまり位相差ω2が180°以上であれば、遅延時間は周波数f1の1周期を超えていることになる。
位相差ω2が180°以上である場合(ステップS108においてYESの場合)には、制御部200は、周波数f1における位相差をω1+360°として遅延時間を測定する(ステップS110)。すなわち、周波数f2における位相差ω2から、遅延時間が周波数f1の1周期を超えているとわかるので、制御部200は、検出された位相差ω1に1周期分の位相差を加算して、Δt=(1/f1)×((ω1+360°)/360°)より遅延時間を測定する。
位相差ω2が180°以上でない場合(ステップS108においてNOの場合)には、制御部200は、周波数f1における位相差ω1から遅延時間を測定する(ステップS112)。つまり、周波数f2における位相差ω2から、遅延時間が周波数f1の1周期以下であるとわかるので、制御部200は、検出された位相差ω1を用いて、Δt=(1/f1)×(ω1/360°)より遅延時間を測定する。
上述のように、制御部200は、周波数f1における測定精度を維持しながら、周波数f2における測定可能範囲(1/f2)まで遅延時間を測定できる。
さらに、周波数、切換数および周波数比を適切に選定することにより、測定精度および測定可能範囲を任意に決定することができる。例えば、f1=f2×3となるように切換周波数を選定すると、制御部200は、周波数f1における位相差ω1が2周期分ずれても遅延時間を測定できる。
なお、制御部200が周波数切換指令を送信部14の制御部202へ送信し、その指令を受けて、制御部202が基準信号の周波数を切換える方式を採用してもよい。
実施の形態4によれば、実施の形態1における効果に加えて、基準信号の切換周波数を適切に選択することにより、遅延時間の高精度な測定が必要で、かつ伝送距離が長く広い範囲の測定が必要な場合にも対応できる。よって、高いビットレートで長距離伝送を行っても伝送誤りを抑制できる波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態5]
上述の実施の形態1においては、分散補償手段はそれぞれの光信号に対して独立に所定の波長分散を与える場合について説明した。
一方、実施の形態5においては、すべての光信号に対して一括で所定の波長分散を与える場合について説明する。
図12は、この発明の実施の形態5に従う波長多重伝送システム5の概略構成図である。
図12を参照して、波長多重伝送システム5は、伝送路50と、送信部8と、受信部17とからなる。
受信部17は、図1に示す波長多重伝送システム1の受信部9において、分散補償手段70.1,70.2,・・・,70.nを分散補償手段70に変更したものである。
分散補償手段70は、伝送路50と接続され、合波器40から受けた波長多重化された複数の光信号に対して、制御部200から受けた制御指令に応じた所定の波長分散を与える。そして、分散補償手段70は、波長分散を与えた複数の光信号を分波器60へ出力する。
図13は、分散補償手段70により所定の波長分散を与えられた光信号の特性を示した図である。
図13を参照して、分散補償手段70は、光信号波長λ1,λ2,・・・,λnの光信号相互間の相対的な遅延時間が零となるようにすべての波長帯域にわたり所定の波長分散を与える。
そこで、制御部200は、フィードバック型の制御方式を構成する。つまり、制御部200は、位相比較器180から光信号波長λ1,λnの光信号により伝送された2つの基準信号間の位相差を受けて相対的な遅延時間を測定し、分散補償手段70で所定の波長分散が与えられた後の光信号に残る波長分散を算出する。さらに、制御部200は、その光信号に残る波長分散が零となるように分散補償手段70へ制御指令を出力する。
最終的には、制御部200は、光信号に残る波長分散が零となるような制御指令を出力して平衡する。
また、伝送路50の波長分散が変動した場合には、制御部200は、その変動分を相殺するようにフィードバックをかけて、光信号に残る波長分散を零に維持する。
実施の形態5によれば、実施の形態1における効果に加えて、分散補償手段により所定の波長分散が与えられた光信号を直接監視して、光信号に残る波長分散を零にできるため、確実に分散補償が行える波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態6]
上述の実施の形態1においては、基準信号をデータ信号に重畳して送信する場合について説明した。
一方、実施の形態6においては、基準信号をデータ信号とは独立に送信する場合について説明する。
図14は、この発明の実施の形態6に従う波長多重伝送システム6の概略構成図である。
図14を参照して、波長多重伝送システム6は、伝送路50と、送信部18と、受信部19とからなる。
送信部18は、図1に示す波長多重伝送システム1の送信部8において、掛算器100.1,100.2を削除したものである。
光変調器30.1,30.nは、発振器90から出力される基準信号を受けて、光信号波長λ1,λnのレーザ光を光強度変調して光信号を生成し、その生成した光信号を合波器40へ出力する。
受信部19は、図1に示す波長多重伝送システム1の受信部9において、光カプラ120.1,120.nおよび帯域通過フィルタ160.1,160.nを削除したものである。
なお、実施の形態6においては、データ信号との重畳を考慮する必要がないので、光変調器30.1,30.nは、ダイナミックレンジ(最小光強度と最大光強度との差)が大きくなるように光強度変調を行うのが望ましい。
一方、光電気変換器140.1,140.nは、光信号波長λ1,λnの光信号を受けて、基準信号の電気信号を生成する。上述の実施の形態1〜5とは異なり、基準信号はデータ信号と重畳されずに送信されるので、帯域通過フィルタ160.1,160.nにより基準信号を抽出する必要はない。
以下、実施の形態1〜5と同様に、制御部200は、基準信号間の相対的な遅延時間を測定し、伝送路50の分散補償を算出する。
実施の形態6によれば、基準信号による光強度変調の最大振幅は制約されないので、最大のダイナミックレンジで光強度変調を行うことで復調時のノイズを低減できる。よって、遅延時間の測定誤差が少なく伝送路の波長分散を高精度に算出する波長多重伝送システムを実現できる。
また、実施の形態6によれば、光カプラや帯域通過フィルタなどを設けて基準信号を抽出する必要がないので、シンプルでかつコストを抑制した波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態7]
上述の実施の形態1〜6においては、復調された基準信号をそのまま位相比較器に入力して遅延時間を測定する場合について説明した。
一方、実施の形態7においては、復調した基準信号を安定化する位相同期回路を含む場合について説明する。
光信号が伝送路50を伝搬する過程で、伝送路の温度変化などにより、光信号の受ける光損失は変動する。そのため、光信号の包絡線から復調される基準信号の最大振幅には変動が生じる。そこで、遅延時間を精度よく測定するためには、基準信号を安定化した後に位相比較することが望ましい。
そこで、実施の形態7においては、基準信号を安定化する位相同期回路を設ける。
図15は、この発明の実施の形態7に従う位相同期回路228の概略構成図である。
図15を参照して、位相同期回路(Phase Lock Loop:PLL回路)228は、位相比較器230と、増幅器232と、電圧制御発振器234とからなり、入力される信号と出力する信号とでフィードバックループを構成する。
位相比較器230は、外部から入力される信号と電圧制御発振器234から出力される信号とを比較して位相差を検出し、その検出した位相差を増幅器232へ出力する。
増幅器232は、ループフィルタ機能を備え、位相比較器230から位相差の信号を受けて、所定の周波数成分のみを通過させて、電圧制御発振器234へ出力する。
電圧制御発振器234は、増幅器232から受けた位相差の信号に応じて、周波数の周期信号を外部および位相比較器230へ出力する。
位相同期回路228は、フィードバックループを構成するため、入力される信号の最大振幅に変動が生じても、基準信号と同期した安定な信号を出力できる。また、位相同期回路228は、位相比較器230および増幅器232を最適に選定することで、所定の周波数成分のみを通過させる帯域通過フィルタとしての機能も果たす。
そこで、上述した受信部9,13,15,17のいずれにおいても、帯域通過フィルタ160.1,160.nを位相同期回路228.1,228.nにそれぞれ変更するか、または帯域通過フィルタ160.1,160.nと位相比較器180との間に位相同期回路228.1,228.nをそれぞれ挿入することにより、復調した基準信号を安定化することができる。
また、上述した受信部19においては、光電気変換器140.1,140.nと位相比較器180との間に位相同期回路228.1,228.nをそれぞれ挿入することにより、復調した基準信号を安定化することができる。
実施の形態7によれば、復調した基準信号の最大振幅に変動が生じても位相同期回路内のフィードバックループにより基準信号と同期した安定な信号が得られるので、遅延時間の測定誤差が少なく波長分散を高精度に算出する波長多重伝送システムを実現できる。
[実施の形態8]
上述の実施の形態1〜7においては、基準信号間の相対的な遅延時間の測定値をそのまま用いて、分散特性を求める場合について説明した。
一方、実施の形態8においては、測定された基準信号間の相対的な遅延時間を平均化処理した値を用いて、分散特性を求める場合について説明する。
伝送路50の分散特性の変動要因は、主として温度である。そのため、伝送路50の波長分散の変動時定数はそれほど小さくない。
一方、基準信号間の相対的な遅延時間は基準信号の周期毎に測定可能である。
よって、測定した基準信号間の相対的な遅延時間を平均化処理して、伝送路50の波長分散の変動時定数と対応させることが有効である。
そこで、実施の形態8においては、制御部200は、測定した遅延時間を平均化処理する移動平均回路を備える。
図16は、この発明の実施の形態8に従う移動平均回路242の概略構成図である。
図16を参照して、移動平均回路242は、遅延素子236.1,236.2,236.3と、加算器238.1,238.2,238.3と、割算器240とからなる。
遅延素子236.1,236.2,236.3は、入力された信号を一定期間だけ遅延させて出力する。
加算器238.1,238.2,238.3は、入力された2つの信号を加算して出力する。
割算器240は、入力された信号を所定の値で割り算を行い出力する。
移動平均回路242は、外部から入力される遅延時間の測定値と、その遅延時間の測定値から一定期間ずつ以前の遅延時間の測定値とを平均して出力する。
したがって、移動平均回路242は、低域通過フィルタとして機能する。
なお、実施の形態8においては、一例として移動平均回路242を説明したが、特にこれに限られることなく、所定の時間毎に平均化処理を行う回路や低域通過フィルタでもよい。
実施の形態8によれば、波長分散の変動の時定数に相応しい期間毎に遅延時間を測定するので、瞬間的に生じた遅延時間の測定誤差により不必要な波長分散を光信号に与えることもない。よって、安定して分散補償が可能な波長多重伝送システムを実現できる。
なお、上述の実施の形態1〜8においては、データ信号の周波数よりも低い周波数の正弦波信号を基準信号とする場合について説明したが、特に正弦波信号に限られることなく、方形波信号、ランプ波および三角波信号などでもよい。
また、上述の実施の形態1〜8においては、受信部に分散補償手段を備える波長多重伝送システムについて説明したが、特にこれに限られることなく、送信部または伝送路に分散補償手段を設けてもよい。また、伝送路の波長分散をリアルタイムに監視すること自体が有効な技術である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1,2,3,4,5,6 波長多重伝送システム、8,10,12,14,18 送信部、9,13,15,17,19 受信部、20.1,20.2,・・・,20.n 光源、30,30.1,30.2,・・・,30.n,220.1,220.2 光変調器、40 合波器、50 伝送路、60 分波器、70,70.1,70.2・・・,70.n 分散補償手段、80.1,80.2,・・・,80.n 復調部、90 発振器、92 可変型発振器、94 周波数検出器、100.1,100.2 掛算器、120.1,120.2,・・・,120.n 光カプラ、140.1,140.2,・・・,140.n 光電気変換器、160.1,160.2,・・・,160.n 帯域通過フィルタ(BPF)、180 位相比較器、200,202 制御部、228,228.1,228.n 位相同期回路、230 位相比較器、232 増幅器、234 電圧制御発振器、236.1,236.2,236.3 遅延素子、238.1,238.2,238.3 加算器、240 割算器、242 移動平均回路、λ1,λ2,・・・,λn 光信号波長、Δt 基準信号間の相対的な遅延時間、f1,f2,f3 基準信号の周波数、ω1,ω2 位相差。