JP4502594B2 - 歯車の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は歯車製造方法に関し、特に車両用動力伝達装置における終減速歯車対を形成するハイポイド歯車の製造に適用して好適な歯車製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
駆動側回転軸に設けられた駆動歯車と、被駆動側回転軸に設けられた被駆動歯車とを噛み合わせることにより、対をなす2つの歯車を介して駆動側回転軸の回転は被駆動側回転軸に伝達される。それぞれの歯車としては、平歯車、傘歯車およびハイポイド歯車などがあり、車両用の動力伝達装置に組み込まれる歯車は伝達トルクが大きいので、このような歯車の歯面には大きな面圧が加わることになり、歯面の強度を高める必要がある。一方、歯車を介して駆動側回転軸から被駆動側回転軸に対して動力を伝達する時には対をなす歯車相互間の歯面が滑り接触するので、駆動歯車から被駆動歯車に対する動力伝達効率は、歯面に加わる面圧と歯面の摩擦係数とに大きく依存している。特に、車両の動力伝達装置の終減速歯車対としては、駆動歯車と被駆動歯車の回転中心軸が相互に交わらずかつ平行でもないハイポイド歯車が使用されており、ハイポイド歯車は歯面の滑り量が大きいので、面圧のみならず歯面の摩擦係数を低減することが動力伝達効率を向上する上で重要な要素となっている。摩擦係数を低減するには、歯車対の歯面間に潤滑油膜が所望の厚みで形成されるようにする必要がある。
【0003】
歯車素材を創成歯切りにより加工された歯車は、従来、表面を硬化するために浸炭焼き入れ処理などの表面硬化処理が施され、次いでラッピング加工により表面を研磨した後に、歯車の初期なじみを改善するためにリューブライト処理が行われる。リューブライト処理は、回転伝達時に対となる2つの歯車の表面にリン酸塩被膜を形成する化学処理である。歯車のうち、特に車両の動力伝達装置に使用される歯車は強度が要求されることから、歯面を浸炭焼き入れ処理して表面を硬化させる処理に加えて、歯面に残量応力を発生させるためにショットピーニング処理を施すことが特許文献1および2に記載されるように提案されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−169324号公報
【0005】
【特許文献2】
特開平11−48036号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
歯車対のうち車両の終減速歯車対として使用されるハイポイド歯車は、両方の歯車が偏心して噛み合うことから歯面の滑り量が大きく、しかも大きな動力が伝達されるので歯面に加わる面圧も大きくなる。そのため、歯面の強度を高めるだけでなく、両方の歯車の歯面間に充分な潤滑油を保持させるようにすることが歯車を介しての動力伝達効率を向上させる上で重要なことであることが判明した。
【0007】
しかしながら、従来のように、ショットピーニング処理により歯車(歯元)に残留応力を発生させた後に表面を化学研磨加工やバレル処理によって平坦化させると、歯車対の歯面間に潤滑油を充分に保持することができず、動力伝達効率を向上させることに限度があった。
【0008】
本発明の目的は、歯面強度を維持しつつ歯面に潤滑油を充分に保持することができるディンプルを形成し、歯車対の動力伝達効率を向上することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の本発明の歯車の製造方法は、切削工具により歯車を切削加工する歯切り加工工程と、歯切り加工された歯車の歯面に粒子を吹き付けて歯面にそれぞれ潤滑油を収容する多数のディンプルを加工する噴射加工工程と、前記噴射加工工程で得られた歯面に硬化層を形成する表面硬化処理工程と、前記表面硬化処理工程後、歯面の前記ディンプル相互間を研磨加工して尖端部を取り除いて平坦面を形成する表面研磨加工工程とを有し、潤滑油を収容するディンプルと平坦な摺動面とを有する歯面を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の歯車の製造方法は、弾性担体に粒子が付着された複合粒子を歯面に吹き付ける鏡面ショットピーニングまたは粒子を直接吹き付けるショットピーニングにより前記ディンプルを加工することを特徴とする。また、本発明の歯車の製造方法は、弾性担体に粒子が付着された複合粒子を歯面に傾斜させて吹き付ける鏡面ショットピーニングまたは粘弾性担体と研磨砥粒との流動性混合物を研磨材とした砥粒流動加工により前記平坦面を加工することを特徴とする。さらに、本発明の歯車の製造方法は、浸炭処理により前記表面硬化処理を行うことを特徴とする。また、本発明の歯車の製造方法は、車両用動力伝達装置におけるハイポイド歯車を加工することを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、歯切り加工された歯車の歯面には噴射加工としてのショットピーニング加工や鏡面ショットピーニング加工により多数のディンプルが形成され、そのディンプルの部分に潤滑油を収容することができる。噴射加工によって歯面に発生した尖端部は、歯面に表面硬化処理により硬化層を形成した後に表面研磨加工としての砥粒流動加工や鏡面ショットピーニング加工により除去されてディンプル相互間に平坦面が形成され、歯車の噛み合い時における接触面積が増加されて面圧強度を高めることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は歯車の一例であるハイポイド歯車を示す斜視図であり、図1には駆動側回転軸10に設けられたハイポイドピニオン歯車11と、図示しない被駆動側回転軸に設けられたハイポイドリング歯車12とが噛合って歯車対となった状態が示されている。この歯車対が車両の動力伝達装置に使用されるときには、駆動側回転軸10は変速機出力軸に連結され、ハイポイドリング歯車12はデファレンシャルのケースに取り付けられることになる。ハイポイドピニオン歯車11の回転中心軸O1と、ハイポイドリング歯車12の回転中心軸O2は、偏心量Eだけずれて直角となっており、回転中心軸が相互に交わらずかつ平行ともなっておらず、動力伝達時の歯面の滑り量が、平歯車や傘歯車の歯面に比して大きくなっている。
【0015】
図2(A)〜図2(C)はそれぞれ歯車11,12の製造方法を示す工程図である。図2(A)に示す製造方法について説明すると、まず、歯切り加工21において歯車素材に歯車が形成される。歯車はホブ盤を用いたホブ切り、あるいはピニオンカッタやラックカッタを用いた歯切りにより切削加工される。ホブ切りはホブと歯車素材との相対運動によって歯車を削り出すようにした創成歯切り法であり、ホブは円筒面上にラックの歯形をした切れ刃がねじ状に形成された工具で、このホブの回転とともに一定の比率で歯車素材を回転させ、同時にホブを歯車軸方向に送ることにより歯車の創成歯切りが行われる。歯車のうち歯筋がねじれた曲線となっているハイポイド歯車は、環状カッタを用いた創成歯切りや、円錐ホブを用いた創成歯切りにより歯切り加工される。
【0016】
次いで、歯切り加工された歯車の歯面には噴射加工の一種であるショットピーニング加工22により粒子を吹き付けて歯面にそれぞれ潤滑油を収容するための多数のディンプルを加工する。噴射加工に用いる粒子としては、鋼球やセラミックス球が用いられ、空気噴出ノズルや回転羽根を備えた噴射装置により粒子が歯面に吹き付けられる。
【0017】
表面に多数のディンプルが形成された歯車は、表面硬化処理工程としての浸炭処理23により、歯車素材の鋼の炭素含有率が増加して歯車の表面に硬化層が形成される。浸炭処理後に熱処理を行って浸炭部を硬化させるようにしても良い。
【0018】
ショットピーニング加工後の歯面には、ディンプル相互間にシャープに尖った尖端部が形成されることになる。そこで、ディンプル間に平坦な摺動面を形成するために、歯車は表面研磨加工としての砥粒流動加工24により尖端部が除去される。このようにして、潤滑油を収容するディンプルと平坦な摺動面とが形成された歯面を有する歯車11,12が製造される。
【0019】
図3(A)は歯切り加工21が終了した後の歯車11の表面粗さを示す断面図であり、表面には鋭利な山と谷とが形成されている。図3(B)は噴射加工としてのショットピーニング加工22が終了した後の歯車11の表面粗さを示す断面図であり、谷の部分が広げられて歯面には多数のディンプル31が形成されており、ディンプル31の間には鋭利に突出した尖端部32が形成されている。図3(C)は表面研磨加工としての砥粒流動加工24が終了した後の歯車11の表面粗さを示す断面図であり、尖端部32が除去されてディンプル31以外の部分には平坦面33が形成されている。
【0020】
このように、歯面に平坦面33が形成されると、歯面の噛合い面積が大きくなり、面圧強度を高めることができる。また、歯面には多数のディンプル31が形成されるので、歯車を用いて動力伝達を行う際に歯面間に多量の潤滑油が保持されて歯面間の摩擦係数が低減し、動力伝達効率を高めることができる。
【0021】
図4は砥粒流動加工24に使用する砥粒流動加工機を示す概略図である。砥粒流動加工は粘弾性担体と研磨砥粒との流動性混合物を研磨材とした加工であり、加圧された流動性混合物の流れの中に被加工物を配置することにより、被加工物の表面を研磨加工することができ、尖端部32を除去して歯車11,12に平坦な摺動面つまり平坦面33を形成することができる。図4に示されるように、被加工物である歯車11はホルダー41に配置されるようになっており、このホルダー41の両側に固定されるチューブ42,43の中に流動性を有する流動性混合物44が充填される。流動性混合物44に圧力を加えるとともに歯車11の表面に沿って流動性混合物44を流すために、それぞれのチューブ42,43にはピストン45,46が組み込まれており、それぞれのピストン45,46は図示しないエアシリンダや油圧シリンダに連結されたピストンロッド47,48により同期して駆動されるようになっている。
【0022】
このように流動性混合物44に圧力を加えて被加工物の表面に流すと、流動性混合物44を構成する粘弾性担体が圧縮された状態となって被加工面に圧接移動しながら尖端部32を除去して平坦面33が形成される。ただし、流動性混合物44を加圧した状態で被加工物表面に沿って流すことができる装置であれば、砥粒流動加工機としては他のタイプのものを使用するようにしても良い。
【0023】
図2(B)に示す歯車製造方法は、図2(A)に示すショットピーニング加工22と砥粒流動加工24に代えて、それぞれ鏡面ショットピーニング加工22aを噴射加工として用い、さらに鏡面ショットピーニング加工24aを表面研磨加工として用いた場合である。鏡面ショットピーニング加工22a,24aは、弾性担体に粒子が付着された複合粒子を被加工面に吹き付ける加工であり、粒子を直接被加工面に吹き付けるショットピーニング加工22と相違する。
【0024】
図5は鏡面ショットピーニング加工24aに使用する研磨加工装置を示す概略図であり、この研磨加工装置は回転羽根51が回転自在に組み込まれた噴射機52を有し、噴射機52には噴射ノズル53が設けられている。この噴射ノズル53から被加工物である歯車11(12)には研磨材である複合砥粒54が回転羽根51により吹き付けられるようになっている。噴射機52に設けられたホッパ部55に複合砥粒54を供給するために、噴射機52に隣接させてコンベア56が配置されており、砥粒貯留部57に供給された複合砥粒54はコンベア56によりホッパ部55に搬送される。
【0025】
複合砥粒54は、弾性と粘着性とを有するコア材つまり弾性担体の表面に砥粒粒子が付着された研磨材であり、ディンプル相互間に平坦面を研磨加工する場合には、たとえば、平均粒径が0.2〜0.5mmの弾性担体に砥粒径が5〜6μmの砥粒粒子を付着した複合砥粒を使用することができる。そのような複合砥粒を使用して、噴射速度を2000m/minで噴射量650gr/secの条件で歯車11,12の表面に噴射したところ、尖端部32が除去されて平坦面33を歯面に形成することができた。ただし、複合砥粒を構成する弾性担体や砥粒粒子の径はディンプル相互間の尖端部粗さなどの条件により任意に設定することができる。
【0026】
ディンプル相互間に平坦面を研磨加工する場合には、噴射ノズル53は被加工面に対して所定の傾斜角度θで傾斜させて複合粒子を吹き付けることになる。これに対して、図4に示す噴射機52を使用して歯面に多数のディンプルを加工する場合、つまりこの噴射機52を噴射加工のためのショットピーニングとして使用する場合には、複合砥粒を構成する弾性担体と砥粒粒子の組成や粒子径を相違させるとともに、たとえば噴射ノズル53の傾斜角度θをゼロあるいはほぼゼロとして歯面つまり被加工面に対して垂直あるいはほぼ垂直に砥粒を吹き付けるようにする。このように、条件を変えることにより、図5に示す噴射装置を使用してディンプルを加工することもできる。
【0027】
図2(C)に示す歯車製造方法は、図2(A)に示す砥粒流動加工24に代えて、図2(B)と同様に鏡面ショットピーニング加工24aを表面研磨加工に使用した加工方法である。鏡面ショットピーニング加工24aとしては、図5に示す噴射機52を使用することができる。
【0028】
図2(B)および図2(C)に示す製造方法によって歯車11,12を製造したところ、図2(A)に示した製造方法と同様の動力伝達効率が得られる歯車を製造することができた。このように、ショットピーニング加工などの噴射加工により歯面に多数のディンプル31を形成し、浸炭処理後の歯面に砥粒流動加工や鏡面ショットピーニング加工により尖端部32を除去すると、図3(C)に示すような表面粗さの歯面が形成され、面圧を維持しつつ潤滑油の保持効果が優れて動力伝達効率を向上することができる歯車が得られた。
【0029】
しかも、このような製造方法を用いると、表面研磨加工としての砥粒流動加工や鏡面ショットピーニング加工を行う際に、歯車には加工熱が発生しないので、熱変形や変質を起こさせることはない。さらに、従来のように歯車の初期なじみを良くするためのリューブライト処理が不要となり、製造コストをも低減することができる。
【0030】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、歯切り加工された歯車の歯面には噴射加工としてのショットピーニング加工や鏡面ショットピーニング加工により多数のディンプルが形成され、そのディンプルの部分に潤滑油を収容することができる。噴射加工によって歯面に発生した尖端部は表面研磨加工としての砥粒流動加工や鏡面ショットピーニング加工により除去されてディンプル相互間に平坦面が形成され、歯車の噛み合い時における接触面積が増加されて面圧強度を高めることができる。これにより、歯車対を介して回転軸の動力伝達効率を高めることができる。また、歯車の使用条件によってはリューブライト処理が不要となり、歯車の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】歯車の一例であるハイポイド歯車を示す斜視図である。
【図2】(A)〜(C)はそれぞれ歯車の製造方法を示す工程図である。
【図3】(A)は歯切り加工が終了した後の表面粗さを示す断面図であり、(B)はショットピーニング加工が終了した後の表面粗さを示す断面図であり、(C)は砥粒流動加工が終了した後の表面粗さを示す断面図である。
【図4】砥粒流動加工に使用する砥粒流動加工機を示す概略図である。
【図5】鏡面ショットピーニング加工に使用する噴射加工装置を示す概略図である。
【符号の説明】
11 歯車(ハイポイドピニオン歯車)
12 歯車(ハイポイドリング歯車)
21 歯切り加工
22 ショットピーニング加工
22a 鏡面ショットピーニング加工
23 浸炭処理
24 砥粒流動加工
24a 鏡面ショットピーニング加工
31 ディンプル
32 尖端部
33 平坦面

Claims (5)

  1. 切削工具により歯車を切削加工する歯切り加工工程と、
    歯切り加工された歯車の歯面に粒子を吹き付けて歯面にそれぞれ潤滑油を収容する多数のディンプルを加工する噴射加工工程と、
    前記噴射加工工程で得られた歯面に硬化層を形成する表面硬化処理工程と、
    前記表面硬化処理工程後、歯面の前記ディンプル相互間を研磨加工して尖端部を取り除いて平坦面を形成する表面研磨加工工程とを有し、
    潤滑油を収容するディンプルと平坦な摺動面とを有する歯面を形成することを特徴とする歯車の製造方法。
  2. 請求項記載の歯車の製造方法において、弾性担体に粒子が付着された複合粒子を歯面に吹き付ける鏡面ショットピーニングまたは粒子を直接吹き付けるショットピーニングにより前記ディンプルを加工することを特徴とする歯車の製造方法。
  3. 請求項または記載の歯車の製造方法において、弾性担体に粒子が付着された複合粒子を歯面に傾斜させて吹き付ける鏡面ショットピーニングまたは粘弾性担体と研磨砥粒との流動性混合物を研磨材とした砥粒流動加工により前記平坦面を加工することを特徴とする歯車の製造方法。
  4. 請求項のいずれか1項に記載の歯車の製造方法において、浸炭処理により前記表面硬化処理を行うことを特徴とする歯車の製造方法。
  5. 請求項のいずれか1項に記載の歯車の製造方法において、車両用動力伝達装置におけるハイポイド歯車を加工することを特徴とする歯車の製造方法。
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