以下、添付した図面を参照して、本発明に係る液体吐出装置について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る液体吐出装置ヘッドを備えた画像形成装置としてのインクジェット記録装置の第1実施形態の概略を示す全体構成図である。
図1に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド(液体吐出ヘッド)12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排出する排紙部26とを備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示省略)が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(図示省略)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
図2に示すように、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、ここで主走査方向及び副走査方向とは、次に言うような意味で用いている。すなわち、記録紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時、(1)全ノズルを同時に駆動するか、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動するか、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動するか、等のいずれかのノズルの駆動が行われ、用紙の幅方向(記録紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字をするようなノズルの駆動を主走査と定義する。そして、この主走査によって記録される1ライン(帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向という。
一方、上述したフルラインヘッドと記録紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。そして、副走査を行う方向を副走査方向という。結局、記録紙の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
また本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(図示省略)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
次に、印字ヘッド(液体吐出ヘッド)のノズル(液体吐出口)の配置について説明する。インク色毎に設けられている各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを表すものとし、図3に印字ヘッド50の平面透視図を示す。
図3に示すように、本実施形態の印字ヘッド50は、インクを液滴として吐出するノズル51、インクを吐出する際インクに圧力を付与する圧力室52、図3では図示を省略した共通流路から圧力室52にインクを供給するインク供給口53を含んで構成される圧力室ユニット54が千鳥状の2次元マトリクス状に配列され、ノズル51の高密度化が図られている。
図3に示す例においては、各圧力室52を上方から見た場合に、その平面形状は略正方形状をしているが、圧力室52の平面形状はこのような正方形に限定されるものではない。圧力室52には、図3に示すように、正方形の場合その対角線の一方の端にノズル51が形成され、他方の端にインク供給口53が設けられている。
また、図4は他の印字ヘッドの構造例を示す平面透視図である。図4に示すように、複数の短尺ヘッド50’を2次元の千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、これらの複数の短尺ヘッド50’全体で印字媒体の全幅に対応する長さとなるようにして1つの長尺のフルラインヘッドを構成するようにしてもよい。
図5はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60は印字ヘッド50にインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、補充口(図示省略)からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を替える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じて吐出制御を行うことが好ましい。なお、図5のインクタンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図5に示したように、インクタンク60と印字ヘッド50を繋ぐ管路の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは印字ヘッド50のノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図5には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10の印字ヘッド50に対して、ノズルの乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニット61は、図示を省略した移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示しない昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。昇降機構は、電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aのノズル領域をキャップ64で覆うようになっている。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示を省略したブレード移動機構により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル面50A)に摺動可能である。ノズル面50Aにインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル面50Aに摺動させることでノズル面50Aを拭き取り、ノズル面50Aを清浄化するようになっている。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、そのノズル51近傍のインク粘度が上昇した場合、粘度が上昇して劣化したインクを排出すべく、キャップ64に向かって予備吐出が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内のインク)に気泡が混入した場合、印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われ、粘度が上昇して固化した劣化インクが吸い出され除去される。
すなわち、印字ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用の圧電素子(図示省略、後述)が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(圧電素子の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かって圧電素子を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル面50Aの汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
また、ノズル51や圧力室52内に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、上述したような吸引動作を行う。
すなわち、ノズル51や圧力室52のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル51内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、圧電素子を動作させてもノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、印字ヘッド50のノズル面50Aに、キャップ64を当てて圧力室52内の気泡が混入したインク又は増粘インクをポンプ67で吸引する動作が行われる。
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。なお、図5で説明したキャップ64は、吸引手段として機能するとともに、予備吐出のインク受けとしても機能し得る。
また、好ましくは、キャップ64の内側が仕切壁によってノズル列に対応した複数のエリアに分割されており、これら仕切られた各エリアをセレクタ等によって選択的に吸引できる構成としてもよい。
なお、後述するように、不吐出検出手段による検出結果に応じてこのようなパージ、あるいは吸引というようなヘッド(ノズル)の回復動作が適宜行われる。
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す主要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(図示省略)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなどの磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒーター89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがってヒーター89を駆動するドライバである。このヒーター89は、後乾燥部42用のヒーター及びインク加熱用のヒーターを含んでいる。インク加熱用のヒーター89は、詳しくは後述するが、インク粘度が上昇して不吐出の虞があるときに、インクを加熱してインク温度を上昇させてインク粘度を下げ、不吐出を防止するものである。このインク加熱用のヒーター89は、特に限定されず、インクタンク60に設けられてインク全体の温度を上げるようにしてもよいし、各印字ヘッド50毎(例えば各印字ヘッド50へのインク供給路等)に設けられ各印字ヘッド50毎にインク温度を制御するようにしてもよい。さらに、各圧力室52毎あるいは複数の圧力室52を含む領域毎のインク温度を制御できるようにしてもよい。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該印字データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド50の圧電素子を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサー(図示省略)を含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のバラツキなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供するものである。
なお、吐出状態(気泡混入や溶媒の揮発等による吐出不良)を検出する手段(不吐出検出部120)として、印字ヘッド50の圧力室52内のインク圧力を検出することで吐出不良を検出する圧力センサが設けられている。特に本実施形態は、各圧力室52に対して圧力センサ素材を2層に配置し、各圧力室52に対し一つの圧力センサ素材のみが圧力センサとして機能するように電気配線を工夫したものである。また、不吐出検出部120に対して、圧力センサの検出タイミングを調整する検出タイミング調整部122、検出信号の差分を取る差分信号算出部124及び検出信号を補正する信号補正部126が設けられている。これらについて、詳しくは後述する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行うようになっている。また、吐出状態に影響を与える周囲環境の変化を測定する手段として、例えば周囲温度の変化を測定する温度センサ25を印字ヘッド50に備えるようにしてもよい。この場合プリント制御部80は、例えば温度センサ25が検出したインク温度を用いて、予め設定されているインク特性に応じたインク温度とインク粘度との関係から、インク粘度を算出し、吐出状態を判断する。他に吐出状態に影響を与える周囲環境の変化としては、湿度、気圧などが考えられる。
また、プリント制御部80は、印字検出部24あるいはこの他に設置された不吐出検出部120からの検出信号を受けて、必要に応じてシステムコントローラ72を介してメンテナンスユニット61を駆動して印字ヘッド50の回復動作(メンテナンス)を行う。
本実施形態では、印字ヘッドの高密度化を実現するために、まず、例えば図3に示したように、圧力室52(ノズル51)を2次元マトリクス状に配置してノズル51の高密度化(例えば2400npi)を図っている。次に、圧力室52にインクを供給する共通液室を振動板の上側に配置し、インクのリフィル性を重視して、この共通液室から直接圧力室52へインクを供給するようにして流路抵抗となるような配管をなくしてインク供給系を高集積化するようにしている。さらに、圧力室52を変形する圧電素子の電極(個別電極)に駆動信号を供給する圧電素子配線を、各個別電極から垂直に立ち上げて、共通液室の中を貫通するようにして上部のフレキシブルケーブル等の配線へと接続するようにしている。
図7に、このような高密度化された印字ヘッド50の一部を、簡単化して斜視透視図で示す。
図7に示すように、本実施形態の印字ヘッド50においては、ノズル51とインク供給口53を有する圧力室52の上側に、圧力室52の上面を形成する振動板56が複数の圧力室52に共通の1枚のプレートとして配置されている。また、振動板56上の各圧力室52に対応する部分には、上下を電極で挟んだピエゾ等の圧電体で構成される圧電素子58(圧力発生手段)が配置され、圧電素子58はその上面に個別電極57を有している。
そして、この個別電極57の端面から外側へ電極接続部としての電極パッド59が引き出されて形成され、電極パッド59上に柱状の駆動配線90が圧電素子58が形成される面に対して垂直に立ち上がって形成されている。この垂直に立ち上がった駆動配線90の上には多層のフレキシブルケーブル92が配置され、前述したヘッドドライバ84からこれらの配線を介して駆動信号が圧電素子58の個別電極57に供給されるようになっている。
また、圧力室52の底面の下側には、圧力室52内のインク圧力を検出するための不吐出検部120(圧力センサ)としての圧力センサ素材94が設けられている。圧力センサ素材94としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、P(VDF−TrFE)(ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体)等の圧電素子層が好適に例示される。
PVDFは、上記振動板56と同様に、複数の圧力室52に対して共通の多層のプレートとして配置され、各圧力室52下側の圧力検出範囲にそれぞれ電極を配置して各圧力室52毎の圧力を検出することができるようになっている。電極は、印刷による形成や、蒸着、スパッタにより金属を付けて不要部をエッチング的方法による形成や、不要部をメタルマスクを用いて蒸着、スパッタにより金属を付ける方法によって形成する。
また、本実施形態では、圧力センサ素材94は、圧力室52の下側に2層に形成される。すなわち、PVDFのプレートが2枚配置され、その間に絶縁層が形成され、各PVDFのプレートの両面を電極で挟むように形成される。なお、圧力センサ素材94は2層に配置されているが、各1つの圧力室52に対して実際に圧力を検出するセンサとして機能する有効検出部(圧力を受けて検出信号を発生する受圧部)となるのは2層のうちの1つのみであり、2層のPVDFのうちの一方にのみ検出に有効な電極が対向して配置されるようになっている。例えば、2次元マトリクス状に配列された各圧力室52の列毎に交互に、2層のPVDFの上層、下層に電極を振り分けて配置する。これにより、PVDFの各層についてみると、各層において対応する圧力室52の列に対し、1列おきに電極が配置されるようになっている。またこのとき、電極が配置されない空いた部分に、各電極から引き出された電気配線を(水平方向に)通すようにすることで、電気配線の高密度化が実現される。
また図7に示すように、振動板56とフレキシブルケーブル92との間の柱状の駆動配線90が垂直に立ち並んで形成された空間は、ここから各インク供給口53を介して各圧力室52にインクを供給するための共通液室55となっている。
なお、ここに示した共通液室55は、図3に示した全ての圧力室52にインクを供給するように、圧力室52が形成された全領域に渡って形成される1つの大きな空間となっているが、共通液室55は、このように一つの空間として形成されるものには限定されず、いくつかの領域に分かれて複数に形成されていてもよい。
この垂直に柱のように立ち上がった駆動配線90は、その形状からエレキ柱と呼ぶ場合もある。このように、駆動配線(エレキ柱)90は、共通液室55の中を貫通するように形成される。
なお、ここに示した駆動配線90は、各圧電素子58(の個別電極57)に対して1つずつ形成され、一対一に対応しているが、配線数(エレキ柱の数)を削減するために、いくつかの圧電素子58に対する配線をまとめて1つの駆動配線90とするように複数の圧電素子58に対して1つの駆動配線90が対応するようにしてもよい。この場合、複数の圧電素子58の個別電極に接続された複数の配線は各々独立(絶縁)された状態で束ねて、1つの駆動配線90として構成する。このように柱状の駆動配線90の本数を減らすと共通液室55中におけるインクの流路抵抗を減少させることができる。
図7に示すように各圧力室52においては、ノズル51が底面に形成され、ノズル51と対角をなす角部の上面側にインク供給口53が設けられている。インク供給口53は振動板56を貫いており、その上の共通液室55と圧力室52はインク供給口53を介して真っ直ぐに連通している。これにより、共通液室55と圧力室52を流体的に直接繋ぐことが出来る。
上述したように、振動板56は各圧力室52に共通に1枚のプレートで形成されている。そして、振動板56の各圧力室52に対応する部分に、圧力室52を変形させるための圧電素子58が配置されている。圧電素子58に電圧を印加して駆動するための電極(共通電極と個別電極)が圧電素子58を挟むようにその上下面に形成されている。
振動板56を例えばSUS等の導電性の薄膜で形成して、振動板56が共通電極を兼ねるようにしてもよい。このとき、圧電素子58の上面には個々の圧電素子58を個別に駆動するための個別電極57が形成される。
上述したように、この個別電極57から電極パッド59を引き出して形成し、電極パッド59の上に垂直に立ち上がり共通液室55を貫通する駆動配線90(エレキ柱)が形成される。柱状の駆動配線90の上には多層のフレキシブルケーブル92が形成されており、駆動配線90が柱となって多層フレキシブルケーブル92を支え、振動板56を床、多層フレキシブルケーブル92を天井として、共通液室55としての空間が確保されるようになっている。また、図示は省略したが、各駆動配線90からそれぞれ個別の配線に接続されて個々の個別電極57に駆動信号が供給され、各圧電素子58が駆動されるようになっている。
また、図7では図示を省略したが、共通液室55はインクで満たされるため、共通電極としての振動板56、個別電極57、駆動配線90及び多層フレキシブルケーブル92のインクと接触する面はそれぞれ絶縁性の保護膜で覆われている。
図8に、本実施形態の印字ヘッド50の一部を拡大して、正面透視断面図として示す。
図8に示すように、圧力室52の上面を形成する振動板56の上に圧電素子58が形成され、その上に圧電素子58上の個別電極57と電気的に接続する柱状の駆動配線90が形成され、その上に多層フレキシブルケーブル92が形成されている。そして、柱状の駆動配線90によって形成される振動板56と多層フレキシブルケーブル92との間の空間が共通液室55となっており、インク供給口53を介して共通液室55から圧力室52にインクが供給されるようになっている。
また、圧力室52の下側には圧力センサ素材94が形成されている。圧力センサ素材94は、上層96と下層98の2層で構成されている。上層96と下層98の間には絶縁層が形成され、上層96、下層98のうち一方にのみに対して電極が配置され、有効検出部として機能し、その電極から検出信号を取り出す電気配線(対)100(あるいは102)が引き出され、印字ヘッド50外のコネクタ104に接続している。
圧力センサ素材94の下側には、ノズル流路106aが形成されたSUSのノズル流路プレート106が形成され、ノズル流路プレート106の下にはノズル51が形成されたノズルプレート108が形成されている。また、圧力センサ素材94を構成する上層96、下層98にも、圧力室52とノズル流路106aを連通するための穴96d、98dがそれぞれ形成されている。
図9に、このような印字ヘッド50を構成する圧電素子58より下側を構成する各要素を分解して側面図で示す。
図9に示すように、本実施形態の印字ヘッド50は、各種薄膜層を積層して形成されている。この積層の下の方から説明すると、まず図9に示すようにノズル51が形成されたノズルプレート108が接着層110を介してSUSのノズル流路プレート106に接合されている。ノズル流路プレート106の上には、接着を兼用した絶縁層112が積層され、その上には圧力センサ素材94の下層98としてのPVDF98aが形成される。下層98(PVDF98a)を有効検出部として機能させる場合には、2つの電極98bと98cでPVDF98aの両面を挟むようにして下層圧力センサ95が構成される。
また、下層圧力センサ95の上には絶縁層114を介して圧力センサ素材94の上層96としてのPVDF96aが形成される。上層96(PVDF96a)を有効検出部として機能させる場合には、PVDF96aを2つの電極96bと96cとで両面を挟んで上層圧力センサ93が構成される。しかし、実際には一つの圧力室52に対応する下層98及び上層96の両方の部分にこのように同時に電極98b、98c及び96b、96cが形成されているのではない。PVDF98a及び96aはそれぞれ1枚のプレートとして全面に両方が積層されているが、各圧力室52に対してどちらか一方のPVDF98aあるいは96aのみを圧力センサ(上層圧力センサ93あるいは下層圧力センサ95)として使用するため、電極98b、98c及び96b、96cは一つの圧力室52の下にはどちらか一方(の組)のみが配置されるようになっている。例えば、図9に示した圧力室52に対しては、下層のPVDF98aに対する電極98b、98cはここでは配置されていないものとして破線で表示し、上層のPVDF96aのみに対して電極96bと96cが対向して配置されているとしている。
また上層圧力センサ93の上に、接着層を兼用した絶縁層116が積層され、その上に平面形状が略正方形状の圧力室52が形成され、圧力室52の上には絶縁層118が貼り付けられた振動板56が形成される。また、振動板56上には圧電素子(ピエゾ)58が形成される。
なお、各要素の寸法を例示すると、各層の厚さは以下の通りである。例えば、ノズルプレート108は50μm、接着層110は2μm、ノズル流路プレート(SUS)106は80μmである。また、接着層を兼用した絶縁層112、116及び絶縁層114、118は5μm、電極98b、98c、96b、96cは1μm、PVDF98a、96aは20μmである。また、圧力室52の高さは150μmである。
なお、実際の製造工程においては、PVDF98a、96aに対し電極98b、98c及び96b、96c、絶縁層112、114、116を付けて一体化したシートをSUSのノズル流路プレート106とともに積層するようにする。また、あるいは、ノズル流路プレート106のSUS基板に順次各層を形成して、その後他のSUS基板とともに積層するようにしてもよい。その後駆動配線90等を取り付けるようにする。
図10に、上層圧力センサ93を平面透視図で示し、図11に下層圧力センサ95を平面透視図で示す。図10及び図11においては、図の横方向を主走査方向すなわち印字ヘッド50の長手方向とし、図の縦方向を副走査方向すなわち印字ヘッド50の短手方向として表示している。
また、図10に示す上層圧力センサ93の圧力センサ素材であるPVDF96aには、ノズル流路106a(図8参照)に連通する(小さな白丸で表された)穴96dが、2次元マトリクス状のノズル配置に沿って形成されており、同様に図11に示す下層圧力センサ95の圧力センサ素材であるPVDF98aにも、ノズル流路106aに連通する(小さな白丸で表された)穴98dが、2次元マトリクス状のノズル配置に沿って形成されている。そして、図10に符号Aで示された穴と、図11に符号A’で示された穴とが一致するものとする。
まず、図10に示した上層圧力センサ93において、図の縦方向に並んだノズル配列に対応する穴96dの列に沿って、1列置き(図に示す例では左側から数えて偶数列)に、各ノズル51に対応する圧力室52に対応する位置に電極96b、96cが形成される。電極96bと96cは、PVDF96aを両面から挟んで同じ位置に形成されるので、図では表側に形成された電極96bのみが表示されている(これに対応する電極96cはその真下に形成される。)。
また、電極96bから図に実線で表す電気配線100aが引き出され、電極96cからは図に破線で表す電気配線100bが引き出される。各電気配線100a、100bは、ノズル51に対応する穴96dを回避して引き出され、電極96b(96c)の形成されていない列に沿って副走査方向に引き出され、ヘッド外のコネクタ104に接続されている。
また、図11に示す下層圧力センサ95も、今説明した上層圧力センサ93と同様に形成され、ただ各圧力室52に対応して形成される電極98b(98c) の位置が、上層圧力センサ93とは1列だけずれている。すなわち、図11に示す下層圧力センサ95の例では、ノズル51に対応する穴98dの列の(図の左から数えて)奇数列に対して電極98b(98c)が形成されている。
そして、電極98bから図に実線で示す電気配線102aが引き出され、電極98cから図に破線で示す電気配線102bが引き出され、それぞれ穴98dを回避して、電極98b(98c)の形成されていない列に沿って、副走査方向に引き出され、ヘッド外のコネクタ104に接続されている。
このように、本実施形態においては、従来1層で構成されていた圧力センサ素材94を上層96と下層98の2層構造とし、図10及び図11に示すように、2次元マトリクス状のノズル配列に対応した配列の主走査方向に1列置きに圧力センサを機能させる電極を配置して、副走査方向に並ぶ電極間に隙間を設け、この部分に各電極から引き出した電気配線を配線するようにしている。
例えば、2400dpiの場合に、圧力センサを本実施形態のように2層構造とする場合を考える。圧力室は縦横0.5mm間隔で並んでおり、圧力室サイズ(これは圧力センサ(圧力センサ素材の有効検出部)のサイズと同等である。)を縦横0.3mmとすると、本実施形態のように2層構造としない場合、もともとの配線可能な隙間は、0.5−0.3=0.2mmである。一方、マトリクス状に配置された圧力室の副走査方向の配列数は、0.5mmピッチで2400dpiとすると、0.5/(25.4/2400)=47.2よって略48個となる。さらに、このヘッドの短手方向(副走査方向)の両方向から配線を引き出すとすると、片側からは48個の半分で24個となるが、このうち1個は他のセンサの隙間を通さなくてよいので、最終的には24から1を引いて23個となる。よって、本実施形態のように2層構造としない場合には、配線のピッチは0.2(mm)/23=約8.7(μm)となり、線幅はこの約半分であるが、これは技術的に困難な配線ピッチである。
これに対して、本実施形態において2層にして電極を1列置きにすることにより、1列分空くために増える配線可能な隙間は0.5mmとなる。この部分には、吐出のための圧力室からノズルへの流路(ノズル流路)が形成されるので、このノズル流路の直径0.1mmは配線できない(ただし、センサがノズル側に無ければこれは考慮しなくてもよい)。従って、センサを2層にして電極を1列置きにすることによる配線可能な隙間は0.2+0.5−0.1=0.6mmとなる。
このように、本実施形態によれば、配線可能な隙間は0.6mmとなるので、配線ピッチは、0.6(mm)/23=26(μm)となり、これは現実的に可能なピッチとなる。このように、本実施形態によれば、圧力センサからの電気配線を高密度化することが可能となる。
なお、上述した実施形態においては、圧力センサ素材を2層としたが、本発明においては圧力センサ素材の積層数は2層に限定されるものではない。求めるセンサ配置密度によっては3層以上であってもよい。また2層構造の場合に、電極を主走査方向に1列置きに配置したが、一般に圧力センサ素材がn層の場合には、電極は主走査方向に(n−1)列置きに配置する。
このように、圧力センサ素材を多層構造(上に示した例では2層構造)にすることにより、配線密度の問題は改善されたが、圧力センサ素材を多層化することにより、例えば図10及び図11に示すように、各層の配線部に対し垂直方向に他の層の検出部電極が配置されるため、この検出部と配線間でコンデンサーが形成されてしまい、圧力検出時にクロストーク信号が発生するという問題がある。
この問題のクロストーク信号は、配線の構造から、影響を受ける側の配線の+と−の線には同相の信号が発生する。また、検出部と配線間の距離(厚み)の差から電圧振幅は少し異なり、略厚みに比例した振幅となる。
このクロストーク発生という問題に対して、いくつかの解決方法が考えられ、以下これについて説明する。
まず、第1の解決方法は、センサ配線の+と−の電極からの信号の差分をとり、クロストーク成分をキャンセルするものである。
例えば、図10に示す上層圧力センサ93の電極96b、96cから引き出された+の電気配線100aのクロストーク信号Aと、−の電気配線100bのクロストーク信号Bに対して、差分信号算出部124において、その差分A−Bをとる。ここで本来の信号は、+と−の電極に逆の極性の信号として発生しているので、差分をとることで、単純には2倍の大きさになる。つまり、S−(−S)=2Sである。
図12に、このような+電極のクロストーク信号Aと−電極のクロストーク信号Bの振幅の違いやディレイを考慮しないで差分A−Bを取った場合のグラフを示す。
しかし、このとき+と−の配線のクロストーク信号は、電圧振幅が少し異なるので、差分信号算出部124においては、これがほぼ同じになるように+と−の配線信号の増幅率を異ならせてクロストーク分の電圧振幅が同じになるようにしてから差分をとるようにすることが好ましい。
またさらに、圧力室52から遠いと発生タイミングがやや遅れるので、差分信号算出部124において、逆に圧力室52から近い側の電極(上の例でいうと電極96b)の信号をこれとほぼ同じだけ遅らせてから差分をとることが望ましい。ここで本来の信号にもディレイと増幅が行われるが、実は、クロストーク信号だけでなく、本来の信号も圧力室から遠い側の方が出力が小さく、また時間も遅れが生じており、クロストーク信号と一緒にディレイと増幅が行われることでより望ましい信号になる。
図13に、+電極のクロストーク信号Aと、−電極のクロストーク信号Bの振幅の違いやディレイを考慮して差分A−Bを取った場合のグラフを示す。
また、センサの深さ方向によって信号出力の大きさが変わるので、配線の幅をそれが位置する深さによって変えるようにする。例えば、クロストーク源から遠い方の配線の幅を広くし、クロストーク源に近い方の配線幅を狭くする。これにより、クロストークによって発生する電荷量を+側、−側で同等とし、差分を求めることにより、確実にクロストーク成分をキャンセルすることができる。
次にクロストークの第2の解決方法について説明する。第2の解決方法は、クロストークを起こす元となるセンサ列である隣り合ったセンサ列が同時に圧力検出を行わないように測定タイミング、すなわち測定用アクチュエータの駆動タイミングをずらすようにしてクロストークの発生を防止するものである。
上に述べたような2層構造の圧力センサ素材94とした場合においては、隣り合ったセンサ列は上層96と下層98に分かれているので、検出タイミング調整部122により、例えば上層96と下層98のセンサによる検出を交互に行うように検出タイミングを調整することが好ましい。
次にクロストークの第3の解決方法について説明する。第3の解決方法は、+または−電極の信号単独について考えた場合に、各列の個々のセンサが同時に圧力検出をすると、クロストークを起こす元となるセンサが増えるので、個々のセンサの圧力検出タイミングを少しずらして、上述したクロストーク信号にすることによって、クロストークの影響を無視できる程度にするものである。
この場合、結果として同時に多数のセンサで圧力検出しないように構成する。さらに、圧力検出信号は減衰する正弦波状なので、上述した少しずつタイミングのずれた微小な信号の位相がそれぞれ1/2周期ずつずれるようにして、クロストーク信号を合成した波形の振幅が小さくなるようにする。この周期は各圧力室52の共振周期に等しい。
そこで、検出タイミング調整部122により、1つの圧力センサの配線に沿って配列しているアクチュエータの駆動タイミングを各圧力室の共振周期の1/2ずつずらして圧力検出するように検出タイミングを調整する。
図14に、各圧力室52の駆動タイミングを圧力室52の共振周期の1/2ずらした状態のクロストーク信号のグラフを示す。
図14(a)は、1つの圧力室52からのクロストーク信号を表し、図14(b)は、4つの圧力室52からの位相がそれぞれ1/2周期ずつずれたクロストーク信号を合成した状態を示すものである。図14(b)中に符号Cで示した部分のように、複数の信号が重なった部分は振幅が小さい。
次にクロストークの第4の解決方法について説明する。第4の解決方法は、クロストークを与える側のセンサから検出される信号と、クロストークを受ける側のクロストーク信号には相関があるので、事前にこれらの信号の相関を測定(または理論的に予想)しておき、実際の検出時には、クロストークを与える側のセンサから検出された信号からクロストーク量を推定して、クロストークを受ける側のクロストーク信号をキャンセルするようにするものである。
実際に、この第4の解決方法を実行する場合には、信号補正部126においてソフト的な演算によってクロストーク信号をキャンセルするようにしてもよいし、または信号補正部126をオペアンプなどの電気回路によってハード的に構成して、クロストーク信号をキャンセルするようにしてもよい。
次にクロストークの第5の解決方法について説明する。第5の解決方法は、上層96、下層98間等の層間に電気的なシールド層(グランドに落とす)を設けることで、電界を遮断することで、クロストークの影響をなくすようにするものである。
このとき、シールド層自身の厚みと、シールド層とセンサ電極間の絶縁の層を追加する必要があるので、センサ層全体がわずかに、例えば15μm程度厚くなる。
最後にクロストークの第6の解決方法について説明する。第6の解決方法は、上層圧力センサ93の配線は下層圧力センサ95の有効検出部(受圧部)を、また下層圧力センサ95の配線は上層圧力センサ93の有効検出部(受圧部)をさけて配線することにより、クロストークの影響をなくすようにするものである。
この方法は、特に配線引き出しの端部から遠い側にある圧力室に好適に適用することができる。
以上述べたように、本実施形態によれば、従来1層で構成されていた圧力センサ素材を2層構造(あるいは求めるセンサ配置密度によっては3層以上の多層構造)とし、さらに、主走査方向(ヘッド長手方向)に1列置き(圧力センサ素材の層がn層の場合には(n−1)列置き)にセンサ(有効検出部)を配置し、副走査方向(ヘッド短手方向)に並ぶセンサ列間に隙間を設け、この部分に配線することにより、高密度なセンサ配置を可能とするとともに、現実的な配線ピッチでセンサを構成することが出来る。
また、多層センサ構造において、センサ配線の+と−の電極からの信号の差分をとることにより、クロストークにより発生する信号をキャンセルすることでクロストークの影響をなくすることができる。
さらにこのとき、+と−の配線信号の増幅率を異ならせてクロストーク分の電圧振幅が同じになるようにしてから差分をとるようにしたり、圧力室から近い側の電極の信号を時間的に遅延させてから差分をとったり、または配線の幅を深さ方向の位置によって変えるようにすることで、クロストークにより発生する信号を、差分をとる際に確実にキャンセルすることができる。
また、隣り合ったセンサ列(クロストークを起こす元となるセンサ列)が同時に圧力検出を行わないように、測定タイミング(測定用アクチュエータ駆動タイミング)をずらすようにすることで、クロストークの影響を抑えることができる。
また、クロストークを起こす元となるセンサのアクチュエータ駆動タイミングを各圧力室の共振周期の1/2ずつずらして圧力検出を行うようにすることで、クロストークの信号同士が互いにキャンセルし合い、クロストークの影響を抑えることができる。
また、クロストークを与える側のセンサから検出される信号と、クロストークを受ける側のクロストーク信号の相関を測定(または理論的に予想)しておき、検出時にクロストークを与える側のセンサから検出された信号からクロストーク量を推定して、クロストークを受ける側のクロストーク信号分をキャンセルすることにより、クロストークの影響を抑えることができる。
また、上層、下層等の層間に電気的なシールド層を設けることでクロストークの影響を抑えることができる。
またさらに、上層の配線は下層の受圧部を避けて配線するようにし、かつ下層の配線は上層の受圧部を避けて配線するようにすることで、クロストークの影響を抑えることができる。
以上、本発明の液体吐出装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
10…インクジェット記録装置、12…印字部、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、20…デカール処理部、22…吸着ベルト搬送部、24…印字検出部、26…排紙部、28…カッター、30…加熱ドラム、31、32…ローラー、33…ベルト、34…吸着チャンバー、35…ファン、36…ベルト清掃部、40…加熱ファン、42…後乾燥部、44…加熱・加圧部、45…加圧ローラー、48…カッター、50…印字ヘッド、50A…ノズル面、51…ノズル、51a…ノズル流路、52…圧力室、53…インク供給口、54…圧力室ユニット、55…共通液室、56…振動板(共通電極)、57…個別電極、58a…圧電体、58…圧電素子、59…電極パッド、60…インクタンク、62…フィルタ、64…キャップ、66…ブレード、67…吸引ポンプ、68…回収タンク、70…通信インターフェース、72…システムコントローラ、74…画像メモリ、76…モータドライバ、78…ヒータドライバ、80…プリント制御部、82…画像バッファメモリ、84…ヘッドドライバ、86…ホストコンピュータ、88…モータ、89…ヒータ、90…駆動配線、92…多層フレキシブルケーブル、93…上層圧力センサ、94…圧力センサ素材、95…下層圧力センサ、96…上層、98…下層、100…電気配線、120…不吐出検出部、122…検出タイミング調整部、124…差分信号算出部、126…信号補正部