JP4491037B1 - 水性溶液移動用管状構造物及びその製造方法 - Google Patents

水性溶液移動用管状構造物及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】管状構造物の内壁を完全に超疎水化することによる、洗浄不要の管状構造物、およびその簡便且つ効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】管状固体基材(X)の内壁表面が超疎水性被膜で被覆されてなる管状構造物であって、該超疎水性被膜が、シリカナノファイバー(B)に疎水性基(C)が結合してなるナノ構造体(Y)からなるものである水性溶液移動用管状構造物、及び管状固体基材(X)の内表面にポリエチレンイミン骨格を有するポリマー層を形成させ、これとシリカソース液と接触させた後、疎水化処理を行なうことで、該基材(X)の内壁を超疎水性表面にする水性溶液移動用管状構造物の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、水性溶液移動に用いる管状構造物に関するものであり、詳しくはその内壁が完全に水を弾く超疎水性被膜で覆われることにより、水性溶液を流した後でも当該管状構造物の内壁を洗浄することなく、そのまま繰り返し使用可能な管状構造物とその製造方法に関する。
固体表面を超疎水性化する、即ち水滴の接触角を大きくすることによって、水が該固体表面で付着出来なくなり、自己洗浄とも言える表面機能を発現させることができる。特に、水接触角が170°以上の固体表面では、水滴は該表面で転がり、水との接触痕跡を残さずに清浄な状態を長く維持することになる。言い換えれば、超疎水性表面を有する容器などに水性溶液を流した後でも、その容器の内壁には該溶液の液滴すら残さず完全に清潔な状態を保つことができる。従って、容器を洗浄することなく繰り返し使用することができる。
自然界の蓮の葉は自己洗浄機能を有する最も代表的な例である。蓮の葉は超疎水性(超撥水性とも言う)を有するが、その機能は葉っぱの表面構造と深く関係している。即ち、ナノファイバーが表面全体に広がりながら表層を形成し、その上にナノファイバーの会合体のようなミクロンサイズの凸起物が一定距離で最表面層を作りあげており、且つこれらのナノファイバーの表面に疎水性ワックスが存在する。このことで、水は表面付着できずに蓮の葉の表面で転がり、その転がりの力で表面汚れ等を落とす、所謂自己洗浄機能を発現する。
蓮の葉を模倣することで、超疎水性を示すフラットな固体表面構築は多く検討されて来ている。例えば、カーボンナノチューブを基材表面に規則的に配列させることで、接触角を170°以上に上げることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、白金コートされたシリコン表面に、電気化学プロセスでポリピロールのナノファイバーを成長させ、表面接触角を170°以上にすることが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。また、ガラス基材表面に400℃以上の温度で、酸化亜鉛のナノ結晶シーズ膜を形成させた後、その上でロッド状の酸化亜鉛のナノファイバーを無数に成長させることで超疎水性を発現している(例えば、非特許文献3参照。)。
単純な方法としては、例えば、ポリプロピレンの溶液に一定の貧溶剤を加え、それを基材表面にキャストし、温度調整することにより、ポリプロピレンのナノ粒子からなるネットワーク構造を形成させ、それにより接触角を160°まで上げたことが報告されている(例えば、非特許文献4参照。)。また、ケイ素、ホウ素、ナトリウムの酸化物からなるガラスに相分離構造を持たせ、それをさらに化学処理でエッチングすることにより、その表面に凹凸構造を誘導した後、最後に、表面にフッ素化合物を反応させることで超疎水性を発現できることも示されている(例えば、特許文献1参照。)。さらに、ポリアリールアミンとポリアクリル酸との積層膜を作製したのち、その表面を化学法で処理することで表面ポーラス構造を誘導し、その上にシリカナノ粒子を固定した後、最後にフッ素化アルキル残基を有するシランカップリング剤で処理することで、超疎水性表面を構築することも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
上記で提案されている方法の中で、無機材質をベースにする超疎水性表面の場合、ナノ構造を備える表面荒さを作製する工程は煩雑であり、コストも高い。また、有機ポリマーをベースにする超疎水性表面の場合、コストは低いが、得られた超疎水性表面の耐溶剤性、耐腐食性が低く、実用上の問題がある。更に上記で提案されている方法は平面状固体表面で作製されることを特徴とするが、管状基材の内壁という限られた空間を無機材質系超疎水性表面で被覆させた例はない。
特表2008−508181号公報 米国特許出願公開第2006/029808号明細書
Sun et al.,Acc.Chem.Res.,2005,38,644−652 Li et al.,J.Mater.Chem.,2008,18,2276−2280 Feng et al.,J.Am.Chem.Soc.,2004,126,62−63 Erbil et al.,Science,2003,299,1377−1380
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、管状構造物の内壁を完全に超疎水化することによる洗浄不要の管状構造物、およびその簡便且つ効率的な製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、有機物であるポリマーと無機物であるシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなるファイバー状のナノ構造体が管状基材内表面全体に広がり、それが内壁を完全に被覆するほどの被膜として基材上に複雑構造のナノ界面を形成させた後、その表面を疎水化処理することにより、超疎水性表面を有する管状構造物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、管状基材の内壁表面が、管状固体基材の内壁表面が超疎水性被膜で被覆されてなる管状構造物であって、該超疎水性被膜が、シリカナノファイバーに疎水性基が結合してなるナノ構造体からなるものであることを特徴とする水性溶液移動用管状構造物とその製造方法を提供するものである。
本発明の超疎水性表面を有する管状構造物は、ガラス、無機金属酸化物、プラスチックなどの基材を主とし、水性溶液を流した後であっても該溶液が付着することがないため、洗浄・乾燥等の後処理を必要としないものである。又、該構造物の製造方法は汎用の設備で実施可能であり、簡便且つ低コストで製造することができる。従って、本発明で提供する水性溶液移動用管状構造物は、精密合成装置を用いる化学産業をはじめとし、医療などの分野へも応用することができる。
実施例1で得た疎水化処理前の走査型電子顕微鏡写真である。 実施例1で得た、疎水化処理後のガラスチューブ管内を流れる水滴の一瞬一瞬の高速カメラ写真である。図2の3番目では水滴接触角の計算を示した。 実施例2で硝酸銅溶液を流した後、ピペットを洗浄して得た溶液のデジタル写真である。aは超疎水性内壁のピペットからの洗浄液、bは普通ガラスピペットからの洗浄液。 実施例2で硝酸銅溶液を流した後、ピペットを洗浄して得た溶液のUV−Visスペクトルである。aは超疎水性内壁のピペットからの洗浄液、bは普通ガラスピペットからの洗浄液。 実施例3で硝酸コバルト溶液を流した後、ピペットを洗浄して得た溶液のUV−Visスペクトルである。aは超疎水性内壁のピペットからの洗浄液、bは普通ガラスピペットからの洗浄液。
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで得られる、ナノファイバーを基本ユニットにした複雑形状のシリカ含有ナノ構造体を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報参照。)。
この技術の基本原理は、溶液中で直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。この手法で得られるシリカ含有ナノ構造体は基本的にナノファイバーを構造形成のユニットとするものであり、それらユニットの空間的配列によって全体の構造体の形状を誘導するため、ナノレベルの隙間が多く、表面積が大きい。これはちょうどナノレベルで荒い表面構造形成を満たす効率的なプロセスになるものと考えられる。
上記で提案した溶液中での直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体の生長を、任意形状の固体基材の表面にて進行させ、基材上にポリマーの結晶性会合体の層が形成できれば、その固体基材上にシリカとポリマーとが複合化された新しい表面を有するナノ構造物を構築することができると考えられる。
従って、上記課題解決の根本的な問題は、如何に固体基材の表面に直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの自己組織化会合体の安定な層(被膜)を形成させるかだけになる。ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの重要な特徴は、塩基性であること、そして極めて高い極性を有することである。従って、直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーは金属基材、ガラス基材、無機金属酸化物基材、極性表面を有するプラスチック基材、セルロース基材など多くの電子受容体基材類や、ルイス酸性基材類、酸性基材類、極性基材類、水素結合性基材類等の様々な表面と強い相互作用力(吸着力)を有する。本発明者らは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーのこの特徴を生かし、管状固体基材内表面と一定濃度、一定温度のポリエチレンイミン骨格含有ポリマーとの分子溶液と接触(浸漬)させることにより、溶液中の該ポリマーが管状固体基材内表面に吸引され、結果的には該ポリマーの分子会合体からなる層が、固体基材内表面の接触させた部分の全面に渡り容易に形成できることを見出した。更にこのようにして得られたポリマー層を内壁に有する管状固体基材とシリカソース液とを接触させることで、管状固体基材内面を複雑な構造を有するシリカとポリマーとが複合してなるナノ構造体で被覆させることができ、そのナノ構造体のシリカの部分に疎水性基を有するシラン類を化学結合させることにより、管状固体基材内面に超疎水性を発現する表面を構築した。
なお、本発明においてナノ構造体とは、ナノメートルオーダーの繰り返し単位(ユニット)からなるファイバー形状を有する構造体のことを言うものである。ナノ構造体(y1)は上記したポリマーとシリカとを主構成成分とするナノファイバーからなる構造体であり、ナノ構造体(y2)はシリカを主構成成分とするナノファイバーからなる構造体である。このナノ構造体(y1)、(y2)を疎水化処理することによって、超疎水性被膜を形成するナノ構造体(Y)を得ることができる。
本発明の水性溶液移動用管状構造物(以下構造物と略す)は、管状固体基材(X)の内壁表面が超疎水性被膜で被覆されてなり、超疎水性被膜がシリカナノファイバー(B)に疎水性基(C)が結合してなるナノ構造体(Y)からなるものである。詳しくは、管状固体基材(X)の内壁表面がポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカとを含有するファイバー形状のナノ構造材(y1)、または該ナノ構造体(y1)中のポリマー(A)を焼成により除去して得られるファイバー状のナノ構造材(y2)によって被覆され、その構造体表面に疎水性基(C)が結合したものである。
[管状固体基材(X)]
本発明において使用する管状固体基材(X)としては、後述する直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)が吸着できるものであれば、素材・大きさ等は特に限定されず、例えば、ガラス、金属、金属酸化物などの無機材料系基材、樹脂(プラスチック)、セルロース、繊維、紙などの有機材料系基材等、更にはガラス、金属、金属酸化物、プラスチック表面を化学処理した基材などを使用できる。
無機材料系ガラス基材としては、特に限定することではないが、例えば、耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラス)、ソーダライムガラス、クリスタルガラス、鉛や砒素を含まない光学ガラスなどのガラスを好適に用いることができる。ガラス基材の使用においては、必要に応じ、表面を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液でエッチングして用いることができる。
無機材料系金属基材としては特に限定しないが、例えば、鉄、銅、アルミ、ステンレス、亜鉛、銀、金、白金、またはこれらの合金などからなる基材を好適に用いることができる。
無機材料系金属酸化物基材としては、特に限定することではないが、例えば、酸化スズ、酸化銅、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなどを好適に用いることができる。
樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカボナート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、セルロースなどの各種ポリマーの加工品を用いることができる。各種ポリマーの使用においては、必要に応じ、内壁表面を化学処理したものであっても、硫酸またはアルカリ等で処理したものであっても良い。
管状固体基材(X)の最小内径は、その内表面に後述する超疎水性被膜を形成させる必要があるため10μmであり、それ以上のものであれば特に制限することなく好適に用いることができる。本発明における管状構造物とは、必ずしもその内径は均一な管状固体基材を用いる必要はなく、更に、水性溶液の出入り口として2箇所以上を有する形状である必要もなく、例えば、フラスコ・ビーカー等の水性溶液を一時的に保持してからその他の容器等に移し変えるために用いる水性溶液移動用管状構造物であっても良い。
後述する、本発明の構造物の製造方法において、焼成工程によりポリマー(A)を除去する場合には、焼成温度において変質しない素材からなる管状固体基材を用いる必要があることは勿論である。
[ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明において、管状固体基材(X)上に形成するポリマー層には、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を用いることを必須とする。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定なポリマー層を形成できる点から好ましく、該直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマーとしては、単独重合体であっても共重合体であっても、ポリエチレンイミン骨格部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であると、安定なポリマー層を基材(X)上に形成することができる点から好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献参照。)により得ることができる。
後述するように、前記ポリマー(A)は様々な溶液に溶解して用いることができるが、この時、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)以外に、該ポリマー(A)と相溶するその他のポリマーと混合して用いることができる。その他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリプロピレンイミンなどを挙げることができる。これらのその他のポリマーを用いることにより、得られる構造物中の表面にあるナノ構造体(Y)の厚み、即ち超疎水性被膜の厚みを容易に調整することが可能となる。
[シリカナノファイバー(B)]
本発明で得られる管状構造物の内壁表面は、前記ポリマー(A)とシリカとを主構成成分とするシリカナノファイバー〔以下、ナノ構造体(y1)という〕、またはシリカを主構成成分とするシリカナノファイバー〔以下、ナノ構造体(y2)という〕で被覆されてなるものであることが大きな特徴である。シリカ形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。尚、「主構成成分とする」とは、意図的に第三成分を混在させない限り、原料中の不純物や副反応等に由来する物質以外に、その他の成分を含まないことを言うものである。
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
[ポリマー(A)とシリカとを含有するナノ構造体(y1)]
ポリマー(A)とシリカとを含有するナノ構造体(y1)は、基本的にはポリマー(A)がシリカでコートされた構造のシリカナノファイバー(B)であり、それが基材表面での空間配列を変えながら、全体を覆った状態を構成し、複雑構造を形成する。例えば、ナノファバーが管状固体基材(X)上の内表面全体に主として該ファイバーの長軸が垂直方向を向いて生えているような芝状(ナノ芝)または若干垂直方向よりも倒れている田んぼ状(ナノ田んぼ)、ナノファイバーが基材上全面で横倒れているような畳状(ナノ畳)、ナノファイバーが基材上の全面でネットワークを形成し、ネット状構造になっているスポンジ状(ナノスポンジ)など、多様多種の階層構造を構成することができる。
上記ナノ芝状またはナノ田んぼ状、ナノ畳状、ナノスポンジ状等の高次構造における、基本ユニットのシリカナノファイバー(B)の太さは10〜200nmの範囲であり、そのアスペクト比は2以上である。ナノ芝状、ナノ田んぼ状におけるナノファイバーの長さ(長軸方向)は50nm〜2μm範囲に制御することができる。
管状固体基材(X)内面を被覆する際の厚さは、シリカナノファイバー(B)の空間配列状態とも関連するが、概ね50nm〜20μm範囲で変化させることができ、用いる管状固体基材の内径等によって調整することが好ましい。ナノ芝状では、ナノファイバーが真っすぐ立ち伸びる傾向が強く、ファイバーの長さが基本的に厚みを構成し、一本一本のファイバーの長さはかなり揃った状態であることが特徴である。ナノ田んぼ状では、ナノファイバーが斜めに伸びる傾向が強く、被膜厚みはファイバーの長さよりは小さい。また、ナノ田んぼ状の層の厚さは、ナノファイバーの横倒れの重なり状態で決定されることが特徴である。ナノスポンジ状の層の厚さはナノファイバーが規則性を有する複雑な絡みで盛り上がる度合いにより決まることが特徴である。ネットワークを形成している場合には、その重なり状態等によって厚みが決定される。
ナノ構造体(y1)中、ポリマー(A)の成分は5〜30質量%で調整可能である。ポリマー(A)成分の含有量を変えることで、空間配列構造(高次構造)を変えることもできる。
[シリカを主構成成分とするナノ構造体(y2)]
上記で得られるポリマー(A)とシリカとを含有するナノ構造体(y1)を、管状固体基材(X)ごと焼成することで、ポリマー(A)が除去された、シリカを主構成成分とするナノ構造体(y2)であるシリカナノファイバー(B)で被覆された構造物を得ることができる。このとき、焼成によりポリマー(A)は消失するが、シリカはその構造を維持したままである。従って、ナノ構造体(y1)の空間配置によってナノ構造体(y2)の形状も決定される。すなわち、例えば、ナノファバーが固体基材上の全面に主として該ファイバーの長軸が垂直方向を向いて生えているような芝状(ナノ芝)または若干垂直方向よりも倒れている田んぼ状(ナノ田んぼ)、ナノファイバーが基材上全面で横倒れているような畳状(ナノ畳)、ナノファイバーが基材上の全面でネットワークを形成しているスポンジ状(ナノスポンジ)など、多様多種の階層構造を構成している。
[疎水化処理]
本発明では、超疎水性表面とするために疎水性基でシリカナノファイバー(B)であるナノ構造体(y1)又はナノ構造体(y2)の表面を修飾しなければならない。当該修飾は、疎水性基を有する化合物との接触で容易に行なうことができる。
前記疎水性基としては、例えば、炭素数1〜22のアルキル基、置換基を有していても良い芳香族基(置換基としては、炭素数1〜22のアルキル基、フッ素化アルキル基、部分フッ素化アルキル基等の疎水性基)、炭素数1〜22のフッ素化アルキル基、炭素数1〜22の部分フッ素化アルキル基等が挙げられる。
これらの疎水性基を効率的に前記シリカナノファイバー(B)に修飾させるためには、当該疎水性基を有するシランカップリング剤を単独、又は混合して用いることが好ましい。
前記シランカップリング剤として、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1〜22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類が挙げられる。
また、表面張力低下に有効なフッ素原子を有するものとして、(部分)フッ素化アルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン等を用いることもできる。
また、芳香族基を有するシランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン等を、取り上げることができる。
又、上記化学結合による疎水性基の導入以外、水中不溶性のポリアクリレート類ポリマー、ポリアミド類ポリマー、炭素数1〜22のアルキル基を有する長鎖アルキルアミン類化合物などをシリカナノファイバー(B)に物理吸着させることで、疎水性基を導入することもできる。
[超疎水性表面を有する管状構造物の製造方法]
本発明の構造物の製造方法は、管状固体基材(X)の内壁に、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を含有する溶液を接触させ、該管状固体基材(X)の内表面にポリマー層を形成させる工程(1)と、前記で得られたポリマー層を有する管状固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触させ、管状固体基材(X)内表面のポリマー層中にシリカナノファイバー(B)を生成させる工程(2)と、前記工程(2)で得た管状固体基材(X)内表面のシリカナノファイバー(B)を、疎水性基を有するシランカップリング剤(C’)で処理する工程(3)と、を有することを特徴とし、これらの工程を経て、ポリエチレンイミンが表面組成に含まれた超疎水性表面をする管状構造物を製造することができる。
更に、本発明の構造物の製造方法は、前記工程(2)の後、シリカナノファイバー(B)でその内表面が被覆されている管状固体基材(X)を焼成し、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を加熱除去する工程(3’)を行なってから、疎水性基を有するシランカップリング剤(C’)で処理する工程(4)を行なうことを特徴とするものであり、ポリエチレンイミンが表面組成に含まれていない超疎水性表面を有する構造物を製造することができる。
工程(1)において使用するポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は前述のポリマーを使用できる。また、該ポリマー(A)の溶液を得る際に使用可能な溶媒としては、該ポリマー(A)が溶解するものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノールやエタノールなどの有機溶剤、あるいはこれらの混合溶媒などを適宜使用できる。
溶液中における該ポリマー(A)の濃度としては、管状固体基材(X)上にポリマー層を形成できる濃度であれば良いが、所望のパターン形成や、基材表面へ吸着するポリマー密度を高くする場合には、0.5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましく、5質量%〜50質量%の範囲であるとより好ましい。
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中には、該溶剤に可溶でポリマー(A)と相溶可能な前述のその他のポリマーを混合することもできる。その他のポリマーの混合量としては、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の濃度より高くても低くても良い。
また、工程(1)においてポリマー層を作製するには、管状固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる。接触法としては、所望の管状固体基材(X)をポリマー(A)の溶液に浸漬することが好適である。
浸漬法では、基材状態により、基材を溶液中に入れる、または溶液を基材中に入れる方式で、基材と溶液を接触させることができる。浸漬の際、ポリマー(A)の溶液の温度は加熱状態であることが好ましく、概ね50〜90℃の温度であれば好適である。管状固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる時間は特に制限されず、基材(X)の材質に合わせて、数秒から1時間で選択することが好ましい。基材の材質がポリエチレンイミンと強い結合能力を有する場合、例えば、ガラス、金属などでは数秒〜数分でよく、基材の材質がポリエチレンイミンと結合能力が弱い場合は数十分から1時間でも良い。
管状固体基材(X)とポリマー(A)の溶液を接触した後、該基材をポリマー(A)の溶液から取り出し、室温(25℃前後)に放置すると、自発的にポリマー(A)の集合体層が該基材(X)の表面に形成される。あるいは、該基材(X)をポリマー(A)の溶液から取り出してから、ただちに4〜30℃の蒸留水中、または室温〜氷点下温度のアンモニア水溶液中に入れることにより、自発的なポリマー(A)の集合体層を形成させても良い。
工程(2)においては、工程(1)経由で形成したポリマー層とシリカソース液(B’)とを接触させ、ポリマー層表面にシリカ(B)を析出し、ポリマー(A)とシリカ(B)とのナノ構造体(y1)を形成させる。
この時用いる、シリカソース液(B’)としては、前述した各種のシリカソースの水溶液や、アルコール類溶剤、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの水性有機溶剤溶液、またはこれらと水との混合溶剤溶液を用いることができる。また、pH値が9〜11の範囲に調整した水ガラス水溶液も用いることができる。用いるシリカソース液(B’)には、シリカ以外の金属アルコキシドを混合することもできる。
また、シリカソースとしてのアルコキシシラン類化合物は、無溶剤のバルク液のままでも使用可能である。
ポリマー層が形成した固体基材をシリカソース液(B’)と接触させる方法としては、浸漬法を好ましく用いることができる。浸漬する時間は5〜60分であれば十分であるが、必要に応じ時間を更に長くすることもできる。シリカソース液(B’)の温度は室温でもよく、加熱状態でも良い。加熱の場合、シリカを管状固体基材(X)の表面にて規則的に析出させるため、温度を70℃以下に設定することが望ましい。
シリカソースの種類、濃度などの選定により、析出されるシリカとポリマー(A)とのナノ構造体(y1)の構造を調整することができ、目的に応じて、シリカソースの種類や濃度を適宜に選定することが好ましい。
ナノ構造体(y1)中のポリマー(B)を加熱焼成によって除去し、ナノ構造体(y2)とする場合、焼成温度は300〜600℃に設定することができる。この工程を行なう場合には、管状固体基材(X)はガラス、金属酸化物、金属など耐熱性無機材質から選択することになる。
加熱焼成時間としては1〜7時間の範囲であることが望ましいが、温度が高い時は短時間焼成でよく、温度が低い時は、時間を長くすること等、適宜調整することが好ましい。
上記で得られたナノ構造体(y1)又はナノ構造体(y2)で被覆されている管状固体基材(X)を、前述した疎水性基を有するシランカップリング剤と接触させる工程を経て、表面を超疎水性に変換する。
このとき、疎水性基を有するシランカップリング剤はクロロホルム、塩化メチレン、シクロヘキサノン、キシレン、トルエン、エタノール、メタノールなどの溶剤に溶解させて用いることができる。これらの溶剤は単独または混合して用いることもでき、またシランカップリング剤の濃度は1〜5wt%に調整することが好ましい。
さらに、上記溶液は、1〜5wt%のアンモニア水のエタノール溶液と混合して用いることが望ましい。混合の際の体積比としては、シランカップリング剤溶液の1当量に対し、アンモニア水エタノール溶液を5〜10当量の範囲にすることが好適である。
シランカップリング剤との接触は、上記で得られた混合溶液中に浸漬する方法によることが好ましく、シランカップリング剤のアルキルシランがナノ構造体(y1)又はナノ構造体(y2)であるシリカナノファイバー(B)表面にSi−O−Si結合で導入され、最終のナノ構造体(Y)からなる超疎水性表面を有する管状構造物に変換できる。
上記溶液中に浸漬する時間は1時間〜3日の範囲で、溶液中のシランカップリング剤の濃度やアンモニアの濃度などにより適宜選択することが好ましい。一定濃度の溶液中、浸漬時間を長くするにつれて、接触角を徐々に大きくすることができ、一定時間経過後では接触角は最高の数値180°近くなる。この数値が現れる時点で、表面の疎水性残基導入が飽和状態であるとみなすことができる。目的とする疎水性のレベルによって、浸漬時間を選択することができる。
[水性溶液]
本発明で得られる管状構造物は、水性溶液を流した状態での内壁にその水性溶液が一切残存しないことが大きな特徴であり、使用後の洗浄を一切必要としない。水性溶液としては、水溶性無機化合物、特に、金属イオン類を含む水溶液を好適に用いることができる。
また、水性溶液としては、水溶性有機色素、水溶性アミノ酸、水溶性糖類、水溶性ビタミン、水溶性タンパク質、DNA、水溶性薬物などを含む水溶液も用いることができる。更にまた、水溶性有機化合物、例えば、水酸基を含むアルコール化合物、カルボン酸基を含む有機酸化合物、アミノ基を含むアミン化合物、アミド化合物などを含む水溶液であっても、好適に用いることができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
[走査電子顕微鏡によるナノ構造体の形状分析]
単離乾燥したナノ構造体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
[管内表面での水滴の接触角測定]
管状基材内壁表面での水の接触角は、水滴が管内を移動する時の高速カメラ(MotionPro X4, Integrated Design Tools, Inc.社製)イメージ図から測定した。
[板状ガラス表面での水滴の接触角測定]
超疎水性表面を有するガラス表面の接触角はOCA20, DataPhysics, Germany社製の接触角測定機器により測定した。
合成例1
<直鎖状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000,平均重合度5,000,Aldrich社製)3gを、5モル/Lの塩酸15mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水、日本電子株式会社製、AL300、300MHz)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は2.2g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
実施例1[超疎水性表面を有する管状構造物]
上記合成例1で得たポリマーL−PEIを蒸留水中に加え、90℃まで加熱し、4%の水溶液を調製した。ソーダライム材質のガラスピペット(内径6mm、長さ5cm)とシリンジをゴム管で連結し、該ガラス管中に一定目安のところまで前記加温したポリマー水溶液を吸い取ってから、30秒間静置した後、該ポリマー水溶液をシリンジの押し力で排出した。この操作でガラス管内壁にL−PEIポリマー層が形成された。該ガラス管を室温にて5分間静置したのち、ガラス管を20mLのMS51/水(体積比1/1)のシリカソース液中に30分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥した。この作業後、ガラス管に薄青色の反射色が見えた。
MS51:テトラメトキシシランの4量体(コルコート社製)
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図1にはガラス管内壁表面のSEM写真の結果を示した。内壁には、ナノファイバーをユニット構造とする緻密な配列膜が形成した。上記方法で得たガラスピペットを3mLの20%濃度のデシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液、30mLエタノール、0.6mLのアンモニア水(濃度28%)で調製された混合溶液に室温下24時間浸漬した。ピペットを取り出し、表面をエタノールで洗浄後、窒素ガスを流しながら乾燥させた。このようにして得たピペットを27°の傾きで固定し、その中に水滴80μLを落としたところ、水滴は一瞬で管内を流れ出た。水滴の流れを超高速カメラで観察したところ(図2)、水滴は丸々の球状で管内を転がりながら流れた。この時の水滴流れる速度は55.2cm/秒であった。高速カメラ写真における水滴が流れる時、即ち動的過程での一瞬の接触角を図2−3の方法で計算したところ、175°であった。尚、同様な方法により板状ガラス表面で作製した皮膜上での静的接触角は179.6°であった。
[超疎水性表面からなる管状構造物を用いる塩化ナトリウム水溶液移動]
この超疎水性を示すピペットを用い、10%の塩化ナトリウム水溶液移動試験を行なった。毎回一定重さ(十数mg単位)の溶液を吸い取り、その溶液を他のガラス管に移し、溶液移動に伴う液体の重さ変化を調べた。20回繰り返した時の溶液移動でも、移動された溶液の重さには全く変化がなかった。即ち、超疎水性内壁を有するピペットを用いた場合、吸い取った溶液をピペット中付着などのロスなしに完璧に移すことができた。
比較として、普通のピペットで同様な試験を行なったところ、溶液移動後ピペット内壁には必ず液滴が付着残存し、その残存量は吸い取った溶液の2wt%に相当した。
この結果は超疎水性内壁表面を有するピペットは塩化ナトリウム水溶液の輸送後でも洗浄の必要がなく、そのまま繰り返し使用できることを示唆する。
実施例2 [ガラス管内壁が超疎水性表面からなる管状構造物]
上記実施例1と同様にして、ピペット内壁にポリマー層を形成させた後、シリカソース液中に30分間浸けることにより、ガラス製のピペット管内にシリカナノファイバーからなる被膜を形成させた。
このガラス管を500℃で1時間焼成し、内壁被膜中のポリマーを除去した後、3mLの20%濃度のデシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液、30mLエタノール、0.6mLのアンモニア水(濃度28%)で調製された混合溶液に室温下24時間浸漬した。ピペットを取り出し、表面をエタノールで洗浄後、窒素ガスを流しながら乾燥させた。このようにして得たピペットを27°の傾きで固定し、その中を流れる水滴の動的過程での一瞬の接触角を実施例1と同様な方法で計算したところ、176°であった。
[超疎水性表面からなる管状構造物を用いる硝酸銅水溶液移動]
上記実施例2で得たピペット中に20wt%の硝酸銅水溶液2mLを吸い取り、それを室温下1時間静置させた後、吸い取った溶液を押し出した。この際、ピペット内壁には水滴残存が一切なかった。ピペット内壁を1mLの蒸留水で洗浄し、その洗浄液を集めて1滴のエチレンジアミンを加えた後、吸収スペクトル測定を行なった。銅イオン由来の吸収は全く観察されなかった。
比較に、通常のピペットを用い、同様な実験を行なった。洗浄後の液から、銅イオン由来の強い吸収が625nmに現れた。
図3に集めた液のデジタル写真、図4にUV−Visスペクトルを示した。上記結果は、超疎水性内壁表面を有するピペットに高濃度の硝酸銅水溶液を流しても、銅イオンの残留が一切起こらないことを強く示唆するものである。
実施例3 [洗浄不要のガラス管内壁が超疎水性表面からなる管状構造物を用いる硝酸コバルト水溶液の移動]
実施例2と同様な方法で得た超疎水性のピペットを用い、20wt%の硝酸コバルト水溶液2mLを吸い取り、それを室温下1時間静置させた後、吸い取った溶液を押し出した。この際、ピペット内壁には水滴残存が一切なかった。ピペット内壁を1mLの蒸留水で洗浄し、その洗浄液を集めて1滴のエチレンジアミンを加えた後、吸収スペクトル測定を行なった。コバルトイオン由来の吸収は全く観察されなかった。
比較に、通常のピペットを用い、同様な実験を行なった。洗浄後の液から、コバルトイオン由来の吸収が300〜800nm渡りに広く現れた。図5にはUV−Visスペクトルを示した。
実施例4 [ガラス管内壁が超疎水性表面からなる管状構造物]
焼成処理ところまでは、上記実施例2と同様な方法で行なった。焼成処理後のピペットを3mLの20%濃度の3−ヘプタフルオロプロピルオキシプロピルトリメトキシシランのクロロホルム溶液、30mLエタノール、0.6mLのアンモニア水(濃度28%)で調製された混合溶液に室温下24時間浸漬した。ピペットを取り出し、表面をエタノールで洗浄後、窒素ガスを流しながら乾燥させた。このようにして得たピペットを27°の傾きで固定し、その中を流れる水滴の動的過程での一瞬の接触角を実施例1と同様な方法で計算したところ、178°であった。
[超疎水性表面からなる管状構造物を用いる有機色素水溶液移動]
上記実施例4で得たピペット中に0.5wt%のテトラ(p−スルホン酸フェニル)ポルフィリンの水溶液2mLを吸い取り、それを室温下1時間静置させた後、吸い取った溶液を押し出した。この際、ピペット内壁には水滴残存が一切なかった。ピペット内壁を2mLの蒸留水で洗浄し、その洗浄液を集めて吸収スペクトル測定を行なった。テトラ(p−スルホン酸フェニル)ポルフィリン由来の吸収は全く観察されなかった。
比較に、通常のピペットを用い、同様な実験を行なった。洗浄後の液から、テトラ(p−スルホン酸フェニル)ポルフィリン由来の強い吸収が440nmに現れた。上記結果は、超疎水性内壁表面を有するピペットに有機色素水溶液を流しても、色素の残留が一切起こらないことを強く示唆するものである。
本発明で提供する水性溶液移動用管状構造物は、その内壁に水性溶液を一切付着することがないため、マイクロ流路、マイクロリアクター、水性溶液輸送/移動装置、血液循環装置、精密分析測定装置、医療器具など、産業及び医療など幅広い分野への応用展開が可能である。

Claims (6)

  1. 管状固体基材(X)の内壁に、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を含有する溶液を接触させ、該管状固体基材(X)の内表面にポリマー層を形成させる工程(1−1)と、
    前記工程(1−1)で得られたポリマー層を有する管状固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触させ、管状固体基材(X)内表面のポリマー層中にシリカナノファイバー(B)を生成させる工程(1−2)と、
    前記工程(1−2)で得た管状固体基材(X)内表面のシリカナノファイバー(B)を、疎水性基を有するシランカップリング剤(C’)で処理する工程(1−3)と、
    を有することを特徴とする水性溶液移動用管状構造物の製造方法。
  2. 管状固体基材(X)の内壁に、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を含有する溶液を接触させ、該管状固体基材(X)の内表面にポリマー層を形成させる工程(2−1)と、
    前記工程(2−1)で得られたポリマー層を有する管状固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触させ、管状固体基材(X)内表面のポリマー層中にシリカナノファイバー(B)を生成させる工程(2−2)と、
    前記工程(2−2)で得たシリカナノファイバー(B)でその内表面が被覆されている管状固体基材(X)を焼成し、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を加熱除去する工程(2−3)と、
    前記工程(2−3)で得た焼成後の管状固体基材(X)内表面のシリカナノファイバー(B)を、疎水性基を有するシランカップリング剤(C’)で処理する工程(2−4)と、
    を有することを特徴とする水性溶液移動用管状構造物の製造方法。
  3. 前記シリカナノファイバー(B)の太さが10〜200nmの範囲で、且つ長さが50nm〜2μmの範囲で、アスペクト比が2以上である請求項1〜の何れか1項記載の水性溶液移動用管状構造物の製造方法
  4. 前記疎水性基(C)が、炭素数1〜22のアルキル基、置換基を有していても良い芳香族基(置換基としては、炭素数1〜22のアルキル基、フッ素化アルキル基、部分フッ素化アルキル基等の疎水性基)、炭素数1〜22のフッ素化アルキル基及び炭素数1〜22の部分フッ素化アルキル基からなる群から選ばれる1種以上の疎水性基である請求項1〜の何れか1項記載の水性溶液移動用管状構造物の製造方法
  5. 前記管状固体基材(X)が、ガラス又はプラスチックからなるものである請求項1〜の何れか1項記載の水性溶液移動用管状構造物の製造方法
  6. 管状固体基材(X)の内壁表面が超疎水性被膜で被覆されてなる管状構造物であって、
    該超疎水性被膜が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)がシリカでコートされた、該ポリマー(A)とシリカとを含有するファイバー形状のナノ構造体(y1)に疎水性基(C)が結合してなるナノ構造体(Y)からなるものであることを特徴とする水性溶液移動用管状構造物。
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