JP4487229B2 - fθレンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、炭酸ガスレ−ザのビームを走査し、集光して被処理物に照射し高速で穴を穿孔するための加工用fθレンズに関する。fθレンズは、ビーム入射角がθの平行ビームが像面でh=fθの線形変位を持つようにしたレンズのことである。等速度でパルスレ−ザビームを走査して被処理物に複数の穴を開けようとする場合にfθレンズは不可欠である。
【0002】
通常の1枚レンズはθの平行ビームは像面でh=ftanθの変位をもつ。ビームを等角速度で走査したとき基板の上に等間隔の穴を穿孔しようとするとftanθレンズでは役に立たない。θが大きいときの穴間隔が広くなりすぎるからである。
【0003】
fθレンズは、レ−ザプリンターやレ−ザCOMシステム(計算機出力マイクロシステム)などには用いられてきた。回転するポリゴンミラーによってビームを走査しfθレンズで集光し感光ドラムに照射する。プリンタ用のfθレンズはすでに実用化され広く普及している。レ−ザプリンタ用のfθレンズと、本発明が対象にするレ−ザ加工用のfθレンズとは多くの違いがある。プリンタ用のレ−ザ光源はAlGaAs半導体レ−ザである。これら小型の半導体レ−ザは弱い可視、近赤外光を出す。波長は短く、レ−ザパワーは弱い。テレセントリック性がなくても良い。だから可視光を通す屈折率の低い(2以下)石英やガラスが使われる。
【0004】
これに反して本発明が目的とするレ−ザ加工用のfθレンズは状況が大きく相違する。炭酸ガスレ−ザやYAGレ−ザなどのパワーの強いものを光源とする。ビームパワー密度が極めて大きい。しかも波長は炭酸ガスレーザでは10μm程度もあり赤外光である。石英やガラスはこれらのレーザに対して不透明なのでレンズ材料として使えない。しかも穴を被処理物に開けるためにレ−ザビームを使うのだからレンズにはテレセントリック性が不可欠となる。
【0005】
本発明の目的はプリント基板に等間隔で微小穴を高速穿孔するために必要なfθレンズを提供することである。プリント基板穿孔とfθレンズの関係が必ずしも分かりやすいものでないから、プリント基板穿孔の現状の技術をまず説明する。
【0006】
近年の電子機器の高性能化、高機能化に呼応して、プリント基板への部品実装がますます高密度となってきている。そのためプリント基板の高密度化、多層化が急速に進んでいる。プリント基板の製造において、高速の微細穴開け加工技術が不可欠である。プリント基板はエポキシ樹脂などの板に銅パターンを描き多数の穴を穿孔したものである。ここでは穴開けを問題にする。
【0007】
プリント基板の穴開けは、従来も現在もドリルによる機械的な穿孔が主流である。微小尖端をもつドリルを回転させ、プリント基板に対して上下変位、水平変位させながら次々と経時的に穴を穿つ。一つ一つプリント基板を移動させて穴を開けるから随意の位置に穴を開けることができる。柔軟性があって実績もある。しかしドリルを上下動させプリント基板も水平移動させなければならず穴穿孔に時間がかかる、という難点がある。それに、ドリル刃はあまり細くすると折れるので100μm以下の直径の穴を穿つことはできない。
【0008】
そこで機械的手段に代わるものとしてレ−ザ穴開け加工が有望視されている。これは高密度パワーを有するパルスレ−ザのビームを左右上下に振って基板にあて、ビームパワーによって基板の一部を焼き切って微小穴を開けるものである。ビームを左右上下に走査するためには2つのガルバノミラーを用いる。
【0009】
高繰り返しの短パルスレ−ザをx軸廻りのガルバノミラーとy軸廻りのガルバノミラーで高速に偏向し、それをfθレンズでテレセントリックに集光してプリント基板に照射し、レ−ザ光の熱によって穴を開ける。ガルバノミラーの慣性が抵抗となるが、ドリル等に比べて格段に軽いし回転変位でよいので高速にビームを走査することができる。それだけでなく、ビームを絞ることによって100μm以下の微細の穴をも容易に穿つことができる。高速性、微細性において機械穿孔に比べ優れている。この穿孔技術に必要なものはガルバノミラーとfθレンズである。本発明はこのうちfθレンズに関する。ビームの傾斜角θと、像面での中心点からの変位hが比例するためにfθレンズが必要となる。
【0010】
加工の対象となるプリント基板の材質は、エポキシ、ポリイミドなどである。光源は炭酸ガスレ−ザである。炭酸ガスレ−ザは幾つもの発振波長がある。10.6μmがよく知られているが、エポキシなどには9μm代のものが適している。だからプリント基板穿孔のため利用できる波長範囲は9μm〜11μmである。
【0011】
【従来の技術】
レ−ザプリンタ用のfθレンズはAlGaAsレ−ザの可視、近赤外光(0.6μm〜0.8μm)を対象にしており可視光を通す石英、ガラスを材料とする。レ−ザパワーは弱い。レンズ屈折率は2以下である。本発明は、レ−ザ加工用のfθレンズであり、9μm〜11μmの波長を通すのだから石英などを使えない。Ge、ZnSe、ZnS、GaAsなどに限られる。屈折率は2以上である。
【0012】
レ−ザプリンタ用の公知技術は多数存在する。しかし、これらを挙げると煩雑になる。それにレ−ザプリンタ用fθレンズは、レ−ザ加工用fθレンズと全く異なるのであまり参考にならない。だから、ここではプリンター用のfθレンズについては簡単に述べる。
【0013】
▲1▼特開昭58−88716号「高解像力を有する等速度走査用レンズ」は、屈折率が1.6〜1.8のガラスレンズを4群組み合わせたレ−ザプリンタ用fθレンズを提案した。第1群〜第4群のレンズの凹凸の向き、正負の別などを指定している。
【0014】
▲2▼特開昭58−17408号「等速度走査用レンズ」は、屈折率が1.66のガラスよりなる6枚組のfθレンズを提案した。光源は0.6328μmのヘリウムネオンレ−ザである。6つのレンズを幾つかの不等式によって限定している。
【0015】
▲3▼特開平4−93910号「テレセントリックなfθレンズ」は、屈折率が1.5〜1.8のガラスレンズの4群を組み合わせてプリンタ用fθレンズとした。
【0016】
▲4▼特公平6−79103号「テレセントリックfθレンズ」は、屈折率が1.5〜1.8のガラスよりなる5枚組のプリンタ用fθレンズを提案した。光源はヘリウムネオンレ−ザ(0.6328μm)とアルゴンレ−ザ(0.488μm)である。異なる二波長を使うので、それらに対し色消しレンズになっている。
【0017】
▲5▼特開昭61−30243号「f・θレンズ」もレ−ザプリンタ、ファクシミリのポリゴンミラー走査装置の後に設ける4群レンズよりなるfθレンズを提案している。屈折率が1.4〜1.7のガラスレンズである。光源はヘリウムネオンレ−ザ(0.6328μm)と、YAG(1.064μm)である。これも二波長を使うから色消ししなければならない。
【0018】
▲6▼特許第2558255号「テレセントリックf・θレンズ」は、レ−ザCOMシステムのfθレンズを提供する。7枚〜11枚のガラスレンズの組よりなる。レンズは、屈折率1.5〜1.8であるガラスを材料としている。光源はヘリウムネオンレ−ザ(0.6328μm)である。
【0019】
▲7▼特許第2576095号「テレセントリックf・θレンズ」は、レ−ザCOM用のfθレンズを提案した。レンズ枚数は6枚〜9枚である。
【0020】
このようにプリンター用、レ−ザCOM用のfθレンズは数多く提案され製造され使用されている。実績もある。これらは可視光、近赤外光を対象にする。光源はAlGaAsの半導体レ−ザ、He−Neレ−ザなどでビームパワーは弱く1mW以下である。いずれも可視光を通すガラスをレンズとする。レ−ザビームが弱いので熱膨張、熱放散などは問題にならない。レンズは屈折率が1.5〜1.8で極めて低い。可視光に対して高い屈折率の材料が得難いからである。テレセントリック性をもつfθレンズも提案されているが、プリンタ用だからテレセントリック性は本来不要である。このように条件が全く異なるから、ほとんど本発明の参考にはならない。
【0021】
直近の技術は本発明者の手になる以下のものである。
【0022】
▲8▼特願平11−226430号「fθレンズ」は、炭酸ガスレ−ザ、YAGなどの赤外光を用いたレ−ザ加工用のfθレンズである。これは3群のレンズよりなる。3枚〜4枚組のレンズである。それぞれの群には限定がある。
第1群…物界側に凸の正レンズ
第2群…物界側に凹の負レンズ
第3群…正レンズのみの1成分、或いは物界側から順に正レンズと負レンズ又は正レンズと正レンズよりなり、全体として正の屈折力をもつ。
【0023】
物界側というのはレ−ザビームが入射してくる方を意味する。レ−ザビームが抜けてゆく方(被処理物)を像界側と呼ぶ。正レンズというのは集光性のレンズということで焦点距離が正であるレンズを言う。負レンズというのは発散性のレンズで焦点距離が負であるレンズを言う。正の屈折力というのは集光性があるということで正レンズだという事である。
【0024】
第1群レンズの焦点距離をf1、第2群レンズの焦点距離をf2、第3群レンズの焦点距離をf3とし、全体系の焦点距離をf、全体系の前側焦点から後側焦点までの距離をdとして、
【0025】
−2.2≦f2/f≦−0.3
0.4≦f3/f≦0.9
1.8≦d/f≦2.4
【0026】
という条件を満たすようにレンズの曲面が決定されている。
【0027】
レンズの材料はGe、ZnSe、GaAsなどである。加工性の点で、特にZnSeとGeが推賞されている。Geは炭酸ガスレ−ザ赤外光に対して屈折率が高いという利点がある。9μm〜11μmの光に対しGeの屈折率は約4である。屈折率が大きいと、同じ焦点距離に対しレンズの曲率を少なくできる。だから収差も少なくなり設計、製造が容易になる。同じ波長帯に対してZnSeの屈折率は約2.4である。実施例1〜実施例6のレンズ材料を列挙すると、
【0028】
実施例1=ZnSe+ZnSe+Ge+ZnSe
実施例2=ZnSe+ZnSe+Ge+ZnSe
実施例3=ZnSe+ZnSe+Ge+ZnSe
実施例4=ZnSe+ZnSe+Ge
実施例5=ZnSe+ZnSe+ZnSe+ZnSe
実施例6=ZnSe+ZnSe+ZnSe+ZnSe
【0029】
となっている。4枚レンズを使う実施例は最後の2枚が第3群を構成している。実施例1〜4において第3群のレンズにGeを使用している。第3群の屈折率は0.4≦f3/f≦0.9という条件があって屈折力の強いレンズで構成しなければならない。それでGeが起用されているのである。しかし、GeでなくてZnSeによって第3群を構成している実施例5、6もある。これらは球面レンズでなくて非球面レンズとしている。
【0030】
【発明が解決しようとする課題】
レ−ザ穴開け技術への要求が高度化しており、穴位置許容精度が±20μmであったものが、±10μmという、より精密なものが求められている。また穴の形状、サイズ、傾きなどの穴品質が安定しているということも強く求められる。
【0031】
先述のようにGeは屈折率が高いので、特に強い屈折力を必要とする第3群のレンズにGeを使うのが適切であった。本発明者が特に有望視しているのは従来例▲8▼の実施例1〜3として提示したZnSe+ZnSe+Ge+ZnSeというように3番目にGeレンズを利用するものである。しかし温度変動のことを考えると全てをZnSeにした方が良い。Geは温度による屈折率変化が大きいからである。
【0032】
ここで問題にするのは温度変動でなく、炭酸ガスレ−ザ光の波長ばらつきである。同じレ−ザを使う限り、波長の分散は少なく波長による屈折率分散は問題にならない。しかし、そうでなくて、異なるレ−ザに同一のfθレンズを取り付けようとする場合レ−ザごとの発振波長のばらつきが問題になってくる。
【0033】
実際、波長=9.4μmの炭酸ガスレ−ザといっても、発振波長は厳密に表記通りでない。本発明者が、あるメーカーの9.4μm炭酸ガスレ−ザの波長を実測してみたところ、9.11μm〜9.37μmの範囲で波長が変動した。ばらつき範囲は実に0.26μmにもなる。このような波長ばらつきは小さいものであるが、レ−ザ穴開けの対象がますます微細になると、そのような波長の相違によって焦点距離などが狂ってくるということもあり、穴開けの誤差が許容できないということも起こり得る。
【0034】
レ−ザ穴開けというものがまだ実用化されていないということもあって、炭酸ガスレ−ザ波長のばらつきによってfθレンズの焦点距離が食い違うというような問題に気付いているものは本発明者以外にはいない。それに炭酸ガスレ−ザの波長ばらつきは先述のように0.3μmの程度であり、波長そのものに比較して1/30である。それが穴開けの品質に影響するということは一層気付かれていないのである。だから炭酸ガスレ−ザの波長ばらつきを排除できるfθレンズというものについての先行技術は存在しない。ZnSeレンズを使ったレ−ザ穴開け用のfθレンズで波長分散を問題にした先行例はない。
【0035】
しかし別異の技術分野には、レンズ材料の波長分散を打ち消すようにした技術がいくつかある。技術分野が異なるのであまり参考にはならないが、共通する部分もあるからここで概観しておく。
【0036】
▲9▼田中康弘「回折素子の光ディスク光学系への応用」光技術コンタクト、Vol.37、No.7(1999)、p482−487
これは、回折素子と屈折型レンズを組み合わせた3つの技術が述べられている。そのうち対物レンズの色収差を回折レンズを用いて補正する色収差補正対物レンズというものが本発明に最も近いと思われる。書き換え可能の光ディスクシステムでは、同じ半導体レ−ザ(例えば780nm)によって書き込みと読み出しを行う。同じ半導体レ−ザだから書き込みでも読み出しでも同一の波長の光を出すと思われるがそうでない。半導体レ−ザのパワーを大きく上げると波長変動が発生する。そこで半導体レ−ザの光を集光して光ディスクに当てる対物レンズは色消しをする必要がある。低分散のガラスを使う(dn/dλが小さい)という方法、あるいは2枚以上のレンズを組み合わせて色消しをするという方法があった。しかし、それではコスト高になるしサイズも大きくなる。分散のある1枚の対物レンズで半導体レ−ザ波長変動に対応する色消しレンズを作りたい。
【0037】
そのために、屈折型レンズの表面に回折型のレンズを形成し、両者の波長分散が互いに打ち消し合うようにしている。屈折型レンズは波長が増えるほど焦点距離が短くなり(dn/dλが負だから)、回折型レンズは波長が増えるほど焦点距離が長くなるから、両者を組み合わせると波長変動があっても焦点距離変動はなくなるという思想である。ガラスの屈折率分散を示すアッベ数νdは
【0038】
【数2】
【0039】
によって与えられる。ここで3つの光はいずれもフラウンホーファー線の光線で、C線は656nm、F線は486nm、d線は587nmである。分母は可視光域での170nmの波長差に対する屈折率の差である。分子はその範囲での屈折率の1からのズレである。光学ガラスのアッベ数は大体50前後であると述べている。回折型レンズにアッベ数と同様のものと考えるとすると、それは波長に置き換えることができて、
【0040】
【数3】
【0041】
だということになる、と述べている。λd=587nm、λF=486nm、λC=656nmであるから、νg=587/(486−656)=−3.45である。光学ガラスのアッベ数は50前後で正であるし、回折型レンズのアッベ数νgはマイナスで−3.45なので符号が違うから色消しできる。屈折力はほとんどが屈折型レンズから出ると述べている。▲9▼は1枚ガラスレンズの範囲で色消ししようとしている。どのようにしたのかという具体的な説明はない。レンズ設計には高屈折率法を用いたとあるだけである。これは可視光の場合であり本発明のような赤外光を対象にしない。赤外光については次の従来例がある。
【0042】
(10) 鈴木等「赤外光学系への応用」、光技術コンタクト、Vol.37、No.7(1999)、p488−492
これは赤外線によって対象物を観察する赤外撮像装置のレンズの改良を与える。物体は温度に依存した緩やかな発光スペクトル(プランク分布)を持っているから中心波長によって物体の温度がわかる。撮像系であるから入力の赤外線の波長は3μm〜14μmの範囲に広く分布していて、波長の厳密に定まったレ−ザを光源とするものと事情が全く違う。赤外用の材料は、Si、Ge、ZnS、ZnSeなどがあるが、高価である。
【0043】
赤外カメラの需要者は半導体など民生産業でなく、防衛、宇宙関係などであるから軽量化、小型化が特に重要である。カバーすべき波長の範囲が10μmを越えて広いので波長による屈折率分散の影響が表面化する。温度の分解能が問題になり、0.1Kの精度で遠隔物体の温度を検知するには、レンズ系にも厳しい条件が課される。波長分散によって焦点距離が食い違わないようにしなければならない。波長の相違による屈折率差にもとづく焦点距離の狂いは、従来は屈折率分散の違う複数枚のレンズを組み合わせ(GeとZnSe、SiとGeなど)て消去(色消し)するようにしていた。
【0044】
しかし軽量化のためにはそれは許されず、レンズ1枚の内部で色消しすることが特に望まれる。そこで、従来例(10)は、回折型素子を屈折型レンズの表面に組み合わせる。同心円状の縞(輪帯)を屈折型レンズの表面に造形して、回折により色消しをしようとする。可視光でないからフラウンフォーファー線C、F、dによって定義したアッベ数は使えない。代わりに分散νs、νdoeを次のように定義して用いている。色消しの条件は、
【0045】
【数4】
【0046】
だとしている。式(6)が色消しの条件である。同じレンズに屈折型、回折型の両面の性質を兼ねさせているから、(6)のように簡明な式で色消し条件を表現することができる。第1輪帯の半径をhとする(図6)。図7に示すように、回折型レンズ焦点距離fdoeまで、レンズ中心と輪帯の尖点とからの回折光の光路長差が丁度λなので、
【0047】
【数5】
【0048】
であるが、hがλよりずっと大きいから、
【0049】
【数6】
【0050】
となる。これらから第1輪帯の半径hは、
【0051】
【数7】
【0052】
となる、と言う。Geレンズの場合の計算を示してみる。焦点距離がf=200mm、赤外光の波長を10μm、Ge屈折率をn=4として、分散をΔλ/Δn=2μm/0.0009として、第1輪帯の半径hは
【0053】
h=36.5mm (10)
【0054】
となる。直径が100mm(半径50mm)のGeレンズであれば、第2輪帯まであれば良いということになり、輪帯の数はたったの2本である。波長ばらつきが2μm(=Δλ)もあったとしても、第2輪帯のGeハイブリッドレンズで色収差を防ぐことができる、と主張している。fdoe=133mであり、fc=200mm(0.2m)とは著しい違いがある。
【0055】
このように回折型にするための同心円の輪帯の数が少ないから加工が容易であり、可視レンズより赤外レンズで色収差補正レンズが実現できたのはそのせいであると述べている。図6にそのような2輪帯のレンズを示す。この従来例はGeを材料に選んでおり、2輪帯で色収差補正が可能であると楽観的な計算をしている。もしもこれが本当であるとすれば、炭酸ガスレ−ザの波長のばらつきは2μmもない(先述の場合でも0.2μm程度)から、2輪帯のGeレンズで充分だということになろう。
【0056】
本発明はZnSeの赤外レンズを採用するが、GeとZnSeでは同様のことになろうと推測される。
【0057】
(11)特開平10−197820号「回折型色収差補正走査光学系」は、可視光を発生する半導体レ−ザをポリゴンミラーによって反射し角度を変え、これを可視光用のfθレンズで収束して対象物に照射するプリンタ用のfθレンズに関する。3枚レンズよりなるfθレンズである。1枚目のレンズは、物界側に凹で正屈折力をもち、2枚目のレンズは物界側に平坦で正屈折力をもつ、3枚目のレンズは物界側に凹であり正の屈折力をもっている。だから3枚とも全部正の屈折力をもつレンズである。
【0058】
1枚目がポリゴンミラー側に凹であるというのはプリンタ用のfθレンズにはよく見られる性質である。可視光(たとえば780nm)を対象するガラスレンズの場合、屈折率が低く(1.5〜1.7)、屈折力が不足するので、ポリゴンミラー側(物界側)に覆いかぶさるような形状が選ばれる。そして半導体レ−ザの波長ばらつきが30nmもあるから(780±30nm)半導体レ−ザによってそのfθレンズの焦点距離が変わってしまうという事を問題にしている。そこで1枚目の凹の正屈折力の物界側面に回折型のレンズ面を付与して半導体レ−ザの波長のばらつきに対処しようとしている。
【0059】
本発明のfθレンズは、1枚目は物界側に凸であるからそもそもそこから違うが、光源波長ばらつきを問題にして回折素子による色消しを提案しているのでここに述べる。実施例で述べているもののレンズは石英系ガラスであり屈折率は1.48である。
【0060】
従来例(11)は、fθレンズの1枚目の石英ガラスレンズに回折輪帯を付けるが、半径hに対して、光路長の付加量Δφ(h)というものを考える。単位は波長λである。Δφ(h)は、hの2次関数、4次関数というように解析的に与えられない。h=1、2、…、42mmまでの整数に対して、付加量Δφ(h)が表3に与えられている。これがいかなる関数関係にあるのか説明がない。
【0061】
だからhが整数でない場合は内挿するしかない。さらに連続的な付加量Δφ(h)から、輪帯の高さΔφ’(h)を求めるには、
【0062】
Δφ’(h)=(MOD(Δφ(h)+C,±1)−C) (11)
【0063】
によるとしている。MOD(a,b)というのはaをbで割った値の余りを示す。ここではb=1としているから付加量Δφ(h)が1増加するごとに一つの輪帯が発生するのである。Cは輪帯境界位置の位相を決めるための定数(0≦C<1)だとしている。
【0064】
付加量Δφ(h)が一般的に与えられていないので、差分付加量Δφ’(h)もたった一通りのものしかない。それが、はたして複数材料の複数レンズの波長分散を打ち消しうるものかはハッキリしない。どのようにすれば、回折輪帯の作用が、屈折によるレンズの波長依存性を打ち消すのか?全く説明がない。
【0065】
その5つのレンズの全部が同じパラメータ、材質の場合はこれでよいのかもしれないが、5つレンズの材料、パラメータが少しでも異なるともはやどうして良いのかわからない。
【0066】
連続的な付加量Δφ(h)が重要であるが、この関数関係とレンズの材料分散dn/dλの関係を全く説明していない。そもそも従来例(11)はどのレンズの分散についても記述がない。
【0067】
だから、従来例(11)から色収差を補正する技術を学ぶことは不可能である。しかしながら、これが本発明の発想に最も近いのでさらに子細に検討する必要がある。
【0068】
表3によれば、最大半径のh=42mmで、付加量Δφ(h)は−481.407である。つまり半径42mm(直径84mm)のレンズで輪帯数が481輪あるということである。
【0069】
前の従来例(10)で輪帯数が2で少なすぎるということを述べた。従来例(10)にしても(11)にしてもレンズ材料分散dn/dλと、輪帯数Mの関係について正確な知識をもっていない。
【0070】
材料分散についての記述が従来例(11)に全くないのは材料分散の重要性を見落としているからである。だから(11)もレンズ材料分散dn/dλが分からないで回折型面の設計をしている。いわば手探りの設計であると言えよう。これは誤りである。輪帯数が多すぎるのである。
【0071】
それと、回折レンズの焦点距離が2662.2mmである、という第22段落の記述が計算間違いを濃厚に示唆する。
【0072】
全体のレンズ焦点距離はf=200mm(16段落)であるから、回折型レンズの焦点距離はたったの13倍にしかすぎない。輪帯数Mが多いということと、回折型レンズの焦点距離が短いということは実は同一のことである。後にわかるが輪帯数Mは回折型レンズの焦点距離fdに反比例するからである。公知技術(11)は輪帯数が多すぎ、回折型レンズ焦点距離が短すぎて、過剰打ち消しになっている。回折型レンズの焦点距離変化が優越し、波長分散はなんら解消されていないのである。つまり(11)によっては、回折型レンズと屈折型レンズの組み合わせによって光源波長変動を過剰に打ち消すのでかえって不安定動作にしているということである。とてものことに従来例(11)は参考にならない。しかしここで計算するのは手間が二重になるから、(11)の錯誤発明であることの証明は後に述べることにしよう。
【0073】
【課題を解決するための手段】
本発明のfθレンズは、物界側に凸のZnSe正レンズよりなる第1群、物界側に凹のZnSe負レンズよりなる第2群、像面側に凸のZnSe正レンズと物界側に凸のZnSe正レンズよりなる第3群よりなり、一つあるいは二つの群のレンズに屈折型レンズ面と回折型レンズ面を組み合わせたハイブリッドレンズ面を含ませ、焦点距離の波長依存性を打ち消している。図8に焦点のズレを打ち消し合うことを説明した。
【0074】
ハイブリッドレンズというのは、通常の連続球形(球面、非球面を含む)をもつ屈折型レンズと、回折型レンズの混合レンズのことである。必ずしも熟した言葉でないが、この明細書ではハイブリッドレンズという用語を用いることにする。
【0075】
このfθレンズは3群のレンズからなるが、そのうちどれか一つあるいは二つの群のレンズをハイブリッドレンズにする。第1群レンズの両面をハイブリッドレンズにすることが可能である。あるいは第2群レンズの両面をハイブリッドレンズにするということもありうる。第3群は1枚あるいは2枚レンズからなる。だから第3群の1枚のレンズをハイブリッドレンズにすることもありうる。さらに第3群の2枚のレンズの4面のうちの2〜3面をハイブリッドレンズにしてもよい。
【0076】
回折型レンズの形状は複雑であるが、本発明者の表記法に従えば、位相差φ(r)を与える曲面係数β2によって回折型レンズを表記できる。そして全体のレンズ系の焦点距離をfとしたとき、曲面係数の総和は負であって、−20/f(mm−2)≦Σβ2≦−6.6/f(mm−2)とするのである。
【0077】
【発明の実施の形態】
回折型レンズというのはフレネルレンズ(Fresnel lens)とも呼ばれる。凸曲面、凹曲面を位相差が2πになる高さで同心状に面を切断して0に戻し、ステップ状の微小輪帯を多数表面に形成したものであり全体として膨らみをもたないが光線を曲げる作用がある。ハイブリッドレンズというのは屈折型レンズの表面に回折型レンズ面を付与したものである。ハイブリッド性というのは屈折型レンズに回折型レンズを付与することをいう。
【0078】
本発明者の先願にかかるfθレンズの構成を見ると、第1群から第3群をなす4枚のレンズの形状、構成と、fθレンズのような特性が複雑に且つ密接に関係しているということがわかる。従って、どのレンズにでもハイブリッド性を入れたらいいというものではない。ハイブリッド性を入れることによってレンズ間のバランスを乱してしまうことがある。
【0079】
性能的に最も良いのは全てのレンズにハイブリッド性を入れて、個々のレンズの内部で波長依存性を打ち消すようにするということであろう。しかし全てのレンズをハイブリッド面に加工するとコストアップになって現実的でない。最小数の面のハイブリッド化によって波長依存性をなくすということが最も望ましい。
【0080】
fθレンズの構成を波長依存性の観点から見直すと、第1群と第2群をなす2枚のレンズと、第3群をなす2枚のレンズを前群と後群の二つのグループに分けることができる。
【0081】
フレネルレンズ(回折型レンズ)というのは連続する凸面あるいは凹面を位相差が2πになるところで切断し位相差を0に戻すようにして2πの倍数を与える半径で切って同心非連続面としたものである。どの程度の回折成分を含ませるのがよいのか?これが問題である。
【0082】
実施例では厳密な例を挙げるが実施例だけでは発明を定義できないから、ここで回折成分の比率について説明する。これは概算であって、どのレンズに回折型成分を入れるかによって多少の相違はある。
【0083】
回折型のレンズ(フレネルレンズ)の場合、焦点距離は波長に反比例する。これは後にも述べる。すると焦点距離fdの波長分散は必ず
【0084】
【数8】
【0085】
である。屈折型レンズfrはそのような簡単な関係はなくて、
【0086】
【数9】
【0087】
となるが、frは1/(n−1)に比例するから、
【0088】
【数10】
となるわけである。屈折率分散(dn/dλ)は負であるから、式(14)は正、(12)は正となり、だから、屈折型レンズと回折型レンズによって波長分散を打ち消すことができるのである。合成したレンズの焦点距離は
【0089】
【数11】
【0090】
打ち消しの条件は、これをλによって微分して右辺がdf/dλ=0ということである。波長が変動しても焦点距離が不変だということはそういうことである。λを乗じて、
【0091】
【数12】
【0092】
で与えられるから、
【0093】
【数13】
【0094】
となる。frはfにだいたい等しい(厳密に比例配分できる)ので、
【0095】
【数14】
【0096】
というように、回折型レンズの焦点距離を求めることができる。これは重要な式である。単純であるが、従来例(10)、(11)はこのような簡明な関係を知らないので誤った道を進んだのである。これは後に述べるように、
【0097】
【数15】
【0098】
であるが、複数枚の回折型レンズを使う場合は、これの和をとって、等号を≒キゴウに変えて
【0099】
【数16】
【0100】
とすればよい。等号から略等号への変化はややわかりにくいが以下のようなことである。同じレンズにおいて屈折型レンズと回折型レンズがあれば、式(18)のように等号条件で打ち消し合うが、異なるレンズに分かれてβ2が割り振られている場合は、その効果が幾分減少あるいは増大してしまう。それは2枚レンズの焦点距離が、式(15)からずれるということに起因する。
【0101】
だから複数面に回折型レンズを配分する場合は、(18)のような厳密な等号がなりたたない。回折型レンズがいくつかのレンズに分配されているときは略等号になる。等号は1枚レンズの場合は厳密な条件を与えるが、複数枚に分配されたときはその近傍に最適値があるということである。
【0102】
Σβ2は負であるから
【0103】
【数17】
【0104】
これが回折型レンズの比率を与える式だということになる。最も重要な式である。これも略等号の意味に注意すべきである。単一レンズなら、等号がジャスト打ち消しの条件を与える。複数枚に回折型レンズ面を分配するのでジャストの近傍に最適打ち消しの条件が存在するということを言っているのである。ところがβ2の総和の絶対値|Σβ2|が大きすぎると今度は回折型の波長分散(λ/fd)(dfd/dλ)=−1が強烈に現れる。Σβ2の最適打ち消しの値は1であるが、打ち消し効果のあるのは式(20)の右辺の0.5〜1.5倍の間にある。Σβが0であると屈折型レンズの波長分散だけになる。反対に(20)の2倍のΣβ2は回折型レンズの反対方向の波長分散(df/dλが正)が、もとの屈折型レンズの波長分散(df/dλが負)を打ち消して回折型レンズの分散が全面的に現れてしまう。互いに打ち消し合うためには、Σβ2の下限は、式(20)の右辺の1.5倍程度、Σβ2の上限は、式(20)の右辺の0.5倍程度ということである。
【数18】
【0105】
すると正確な屈折率の波長分散(dn/dλ)がどれほどかということが問題になる。
【0106】
ZnSeのnの9μm〜11μmでの波長依存性は、表1の通りである。
【0107】
【表1】
【0108】
同じデータをグラフにしたものが図5である。温度は20℃、圧力は1気圧である。横軸は波長で9μm〜11μmの範囲を示す。縦軸はZnSe屈折率である。 これによると、この範囲で屈折率の波長微分は、
【0109】
【数19】
【0110】
である。その値を代入して
【0111】
−20/f≦Σβ2≦−6.6/f (mm−2) (23)
【0112】
となる。ここでfはmm単位で、β2はmm−2単位で表現されたものである。最適値は−13.3/fである。ZnSeレンズを使う限りどのような焦点距離fにも妥当する式である。
【0113】
たとえば、f=100mmという場合は、
【0114】
−0.2≦Σβ2≦−0.066 (mm−2) (24)
【0115】
これはΣβ2が負であるべきこと、波長分散をなくすという条件では、その上限が−0.066だという事を意味している。−0.3とか−0.4とすると、回折型レンズの方が少々優勢になり過剰打ち消しをしているということである。−0.03とか−0.02とすると、回折型レンズの作用が弱くて打ち消しができていないということを意味する。
【0116】
【実施例】
4枚のZnSeレンズよりなる炭酸ガスレ−ザ用のfθレンズを設計製作した。レンズ材料はZnSeであるから、屈折率は2.411である。炭酸ガスレ−ザ波長は、9.1μm、9.3μm、9.5μmとした。 これらの3波長に対して色消しをするということがfθレンズ設計の目的になる。
【0117】
ガルバノミラーによってパルス炭酸ガスレ−ザのビームをx方向、y方向に走査するが、レ−ザは中心波長が9.3μmであり±0.2μmの波長ばらつきがある。対象物は銅箔付きポリイミドシートである。
【0118】
加工サイズは50mm×50mmである。レ−ザのパルス幅は200μs、一つの穴を穿孔するためのパルス数は5ショットである。パルスレ−ザの1ショット当たりパワーは6.6mJである。一つの穴の直径は200μmである。
【0119】
仕様
焦点距離;f=100mm
Fナンバー;4
走査領域;50mm×50mm
波長; λ=9.1μm、λ=9.3μm(中心波長)、λ=9.5μm
テレセントリックエラー;5度以下
【0120】
本発明のfθレンズの構成を図1に示す。第1群レンズL1(S1、S2)は物界側に凸で正の屈折力をもつ。S1は非球面、S2は球面である。第2群レンズL2(S3、S4)は物界側に凹で負の屈折力をもつ。S3は非球面、S4は球面である。第3群の第3レンズL3(S5、S6)は像面側に凸で正の屈折力をもつ。S5は球面、S6は非球面である。第3群第4レンズL4(S7、S8)は物界側に凸で正の屈折力をもつ。S7,S8ともに非球面である。
【0121】
球面の場合は、表1にそのデータ(曲率半径)を載せる。非球面の場合のデータは表2にそのデータ(非球面係数)を掲載する。ZnSe屈折率は波長によって異なるが、ここでは中心波長(9.3μm)の値を記した。厚み・間隔というのは、物界側焦点(前側焦点)から第1レンズまでの距離、第1レンズ厚み、第1・第2レンズ間距離、第2レンズ厚み、…、第Mレンズ厚み、第Mレンズから像面(後側焦点)までの距離、というようにレンズ間隔、厚みを連続して交互に並べたものである。
【0122】
【表2】
【0123】
レンズ面のS1、S3、S6、S7、S8の非球面データを表3に示す。半径rでのレンズ面の高さをZ(r)で表しZ(r)が次の関数によって表現される。その係数が非球面係数である。
【0124】
【数20】
【0125】
半径rの2乗、4乗、6乗、8乗、10乗の項までを採用している。精度を上げるために12乗以上もとることもできるが、ここでは10乗までに止めた。
【0126】
【表3】
【0127】
この実施例では、第3レンズのS6面と第4レンズのS7、S8面に回折面をもうけている。面の形状は様々の表現の方法があるが、ここでは面上半径rでの、レンズを面と直角に透過する光線の外界透過時と比較した時の位相差φ(r)(ラディアン)をrの二次関数として表す事にした。その係数をβ2とする。その位相差は
【0128】
φ(r)=β2r2 (26)
【0129】
と表現できる。これは光の位相によって厚みを表現したものである。空気中との屈折率の差が(n−1)であるから、厚みがdであると、光路長差はd(n−1)となり、それを波長λで割ると位相差になるから位相差はφ(r)=2πd(r)(n−1)/λによって表現される。だから位相差分布を厚みの分布d(r)に直すこともできる。これだけなら単に二次曲面にすぎないが、回折型とするので、位相差が±2πとなる所で曲面を切って0に戻すようにする。同心円状になるが同心円の半径の増加分は等しくない。
【0130】
(ア) β2が正(凹レンズに対応)だと仮定すると、m番目の同心円の半径rmは、
【0131】
β2rm 2=2πm (27)
【0132】
である。つまり、
【0133】
rm=(2πm/β2)1/2 (28)
【0134】
である。r=rmでは、φが2πから0に不連続変化する。r=rm〜rm+1での位相面Δφm(r)は、
【0135】
Δφm(r)=β2r2−β2rm 2 (29)
【0136】
によって与えられる。この式にr=rm+1を代入すると、
【0137】
Δφm(rm+1)=β2rm+1 2−β2rm 2=2π (30)
【0138】
である。これを0に戻して、Δφm+1(rm+1)=0とする。以下同様に繰り返す。これが、β2が正の時のフレネルレンズの作製方法である。
【0139】
(イ) β2が負の場合(凸レンズに対応)も同様であるが、+2πでなく−2πで曲面を切って輪帯にするという点が違う。m番目の同心円の半径rmは、
【0140】
β2rm 2=−2πm (31)
【0141】
である。つまり、
【0142】
rm=(−2πm/β2)1/2 (32)
【0143】
である。r=rmでは、φが−2πから0に不連続変化する。r=rm〜rm+1での位相面Δφm(r)は、
【0144】
Δφm(r)=β2r2−β2rm 2 (33)
【0145】
によって与えられる。この式でrm+1を代入すると、
Δφm(rm+1)=β2rm+1 2−β2rm 2=−2π (34)
【0146】
である。これを0に戻して、Δφm+1(rm+1)=0とする。以下同様に繰り返す。これがβ2が負の時のフレネルレンズの作製方法である。
【0147】
逆に回折型レンズの方から見れば、同心円状の輪帯の不連続線において、微少曲面の終端と次の曲面の始端を連続させたとき、連続曲面が2次曲面となり、厚み関数d(r)=β2λr2/2π(n−1)によって表現される、ということである。そして、これに2π(n−1)/λを乗じることによって位相差の面内分布φ(r)=β2r2が求められる。つまり既製の回折型レンズの微小輪帯から位相差φ(r)=β2r2を求めることができる。
【0148】
位相差φ(r)を2πごとに切るとは限らず、π或いはπ/2で切る場合もある。それは回折の次数を随意に選ぶためである。ここでは一次回折だけをとるので位相差を2πごとに切って、2π→0に戻すようにしている。
【0149】
2πで切ることによってできる回折型レンズは、屈折型の曲面を持つとした場合の焦点距離frと、一次回折による焦点距離fdが等しくなるのである。だから一次回折の方向へのみ光が集中して、0次回折や高次回折が現れない。この点は少し分かりにくいから、より詳しく述べる。
【0150】
位相差の面内分布がφ(r)=β2r2であるから、もしも連続面をもつ屈折型レンズだとすると、厚み分布はλ/2π(n−1)をφ(r)にかけて
【0151】
d(r)=λφ(r)/2π(n−1)=λβ2r2/2π(n−1)(35)
【0152】
となる。中心付近のレンズ曲率半径ρは、2乗の係数の逆数の半分であるから、
【0153】
ρ=−π(n−1)/λβ2 (36)
【0154】
となる。ここで−が付くのは凸面をρ正、凹面をρ負と定義するからである。薄肉レンズの焦点距離frは
【0155】
fr=ρ/(n−1)=−π/λβ2 (37)
【0156】
である。
【0157】
一方回折格子としたときの条件は、r=rm+1とr=rmからの光の焦点までの距離差が−λ(一次回折)なので、光線の傾きをθmとして、回折条件は
【0158】
−(rm+1−rm)sinθm=λ (38)
【0159】
であるから、
【0160】
sinθm=−λ(2mβ2/π)1/2 (39)
【0161】
となる。回折型レンズの焦点距離は、
【0162】
fd=rm /sinθm=−π/λβ2 (40)
【0163】
となる。つまり2πで位相差φ(r)を刻むと、式(37)と式(40)のように屈折型レンズの焦点距離frと回折型レンズとしたときの焦点距離fdが合致する(fr=fd)。これは屈折方向と一次回折が合致するからである。だから本発明では、φ(r)=β2r2を2πごとに刻んでフレネルレンズの不連続半径rmを求める(もちろん他の可能性もある)。そして屈折型レンズの表面に、式(33)の位相差に対応する厚みΔd(r)を加え鋸歯状のレンズ面としている。
【0164】
Δdm(r)=λ(β2r2−β2rm 2)/2π(n−1) (41)
【0165】
つまり回折型レンズの表面は極めて複雑な形状をしているが、実際にはたった一つのパラメータβ2によって指定することができる。
【0166】
β2の符号は重要である。ここでβ2が正だと凹面となり、焦点距離は負になる。β2が負だと凸面となり、焦点距離は正になる。本発明ではfθレンズが正の屈折力をもつから、波長分散を打ち消すためには、回折型のレンズのβ2は全体として負でなければならない。
【0167】
この実施例では3つの面S6、S7、S8に同心回折面(フレネルレンズ)を付与している。
【0168】
【表4】
【0169】
S6、S7の回折面のβ2は負(−0.08995,−0.1568)であるが、S8のβ2は正(+0.1165)である。全体としてβ2は負でなければならない。S8は凹面でβ2を負にしにくいから正にしている。これは収差を補正するためという目的もある。全体として負であるという点は変わらない。
【0170】
輪帯の数は、レンズの半径をRとして、最大位相φmax=β2R2を2πで割ることによって与えられる。輪帯数β2R2/2πは、レンズ有効半径を50mmとすると、S7で62輪帯、S8で44輪帯、S6で36輪帯である。だから2輪帯でよしとするGeレンズの従来例(10)は計算間違いだろうと思われる。2輪帯程度で色収差を除けるものではない。どのレンズのどの面に回折面を入れるかということは色収差以外の各種の収差のバランスを考慮して決める必要がある。この実施例において総和は、
【0171】
Σβ2=−0.13025 (42)
【0172】
となっている。式(23)では、屈折型レンズの分散を打ち消すための回折型レンズの位相係数の和Σβ2の上限が−6.6/fで、下限が−20/fであることを述べた。f=100mmの場合は、上限が−0.066で、下限が−0.2であるとすでに示した。また最適値が−0.13であると先述した。実施例の和Σβ2は、その範囲に含まれる。−0.13025というのは計算した最適値にほとんど等しい。
【0173】
走査範囲は50mm×50mmであるが、そのうちの全部の点で波面収差を示すことができない。そこで、原点(0、0)と隅点(25mm、25mm)を対角線とする正方形(0、0)、(0、25mm)、(25mm、0)、(25mm、25mm)の4点での、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmに対する波面収差の測定値のRMS(二乗平均の平方根;Root Mean Square)を示す表を以下に記す。単位は波長λである。いずれもλ/14以下の波面収差であるから十分に使用に耐えるものである。
【0174】
【表5】
【0175】
図2はこの実施例におけるfθレンズにおいて、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対する球面収差を示す。縦軸は光線高さ0〜12.5mmを示し1目盛りは1.25mmである。横軸は縦収差(mm)で、一目盛りは0.04mmである。9.1μm〜9.5μmの波長域で、縦収差は0.04mm以下である。
【0176】
図3はこの実施例におけるfθレンズにおいて50mm×50mmの範囲において炭酸ガスレ−ザを走査した場合の、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対するfθ性を示す。縦軸はx軸上の0〜25×21/2mmの位置を示し1目盛りは2.5×21/2mmである。横軸は歪(%)を示す。1目盛りは0.01%である。ビーム位置が25×21/2mmの近くにおいても、波長9.1μm〜9.5μmに対してfθからのずれは0.06%以下である。
【0177】
図4は実施例におけるfθレンズにおいて50mm×50mmの範囲において炭酸ガスレ−ザを走査した場合の、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対する非点収差を示す。ΔMがメリディオナル(meridional ray focus)焦点のズレ、ΔSがサジタル(sagittal ray focus)焦点のズレを示す。縦軸はx軸上の0〜25mmの位置を示し1目盛りは2.5mmである。横軸は非点収差(mm)を示す。一目盛りは0.05mmである。波長9.1μm〜9.5μmに対してΔM、ΔSとも0.11mm以下である。
【0178】
前述のように波長9.4μm、パルス幅200μs、ワンショットエネルギー6.6mJのパルスレ−ザ光をガルバノミラーで走査し、本発明のfθレンズで集光し、銅箔付きポリイミド基板(50mm×50mm)に直径200μmの穴を穿孔した。穴径のばらつきは±4%以下であった。穴の真円度は96%以上であった。
【0179】
ここで従来例(11)特開平10−197820号の誤りについて述べる。これは回折型レンズ焦点距離fdと、全体焦点距離fの倍率がたったの13倍であると先に述べた。さらに輪帯数が481輪もあって多すぎるということを述べた。これは過剰打ち消しであることを予告した。回折型レンズの波長分散が、もとの屈折型波長分散の何倍にもなり、かえって有害であるということである。式(17)は全体波長fと回折型レンズ焦点距離fdの比率が、正規化屈折率分散に等しいということを述べている。つまり、
【0180】
【数21】
【0181】
λ=780nm、n=1.48を代入すると
【0182】
【数22】
【0183】
波長が1μm変わると、屈折率が0.05も変化するということである。石英ガラスの材料分散がこのように大きいはずがない。本発明はZnSeを対象にしており、材料分散が−0.006μm−1だということを先に述べた。波長域が違うから単純に比較できないかもしれないが、石英の波長分散がZnSeの波長分散の8倍というのは首肯できない。これは波長分散の値を間違えているという意味ではない。[新版物理定数表]飯田修一、大野和郎、神前煕、熊谷寛夫、沢田正三(朝倉書店出版)によると、溶融石英の1013nmでの屈折率は1.450242で、706nmで1.455145となっている。これから計算した溶融石英の屈折率の分散はdn/dλ=−0.016/μmである。先行技術(11)のレンズの材料がはっきりしないが、屈折率が1.4〜1.5となっているから石英ガラスだろうと推測される。だから分散はこの程度であろう。先行技術(11)はそのようなことは知っていてΔφ(h)の表3を作成したのである。ということは本発明の式(17)、(20)のような関係を使っていないということである。
【0184】
同じことであるが、直径100mmのレンズで輪帯数が481輪あるということは、β2=−481×2π/502=−1.2mm−2ということであり、これも絶対値が大きすぎる。従来例(11)は、屈折型レンズの波長分散の10倍〜5倍もの逆方向の分散に悩まされるということになろう。481輪も苦労してレンズ面に溝を掘って加工しても、それはどのような改善をももたらさない。そんなことはしない方がよいのである。過ぎたるは及ばざるより悪いのである。(11)はだから先行技術としては誤りであって本発明を成すに当たって当業者の参考にはならない。
【0185】
【発明の効果】
パルス炭酸ガスレ−ザの光をガルバノミラーによって二次元的走査し、これを集光してプリント基板に照射して高速で穴を穿孔するためのZnSe製のfθレンズにおいて、複数枚のレンズ面を回折型レンズ面として、波長による焦点距離変動を打ち消している。たとえ、炭酸ガスレ−ザの発振波長ばらつきがあっても、これによって焦点距離が変動しないから、所定の位置に精度良く穴を穿孔加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例にかかる炭酸ガスレ−ザ走査用fθレンズの形状、面名称を示す配置図。第1群レンズL1、第2群レンズL2、第3群レンズL3、L4を含む。面はS1、S2、…、S8まで定義される。傾斜角の異なる3種類のビームが、傾斜角ごとに決まる像点に収束することが示される。
【図2】 同じ実施例におけるfθレンズにおいて波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対する球面収差図。縦軸は光線高さ0〜12.5mmを示し1目盛りは1.25mmである。横軸は縦収差(mm)で、1目盛りは0.04mmである。縦収差は0.04mm以下である。
【図3】 同じ実施例におけるfθレンズにおいて50mm×50mmの範囲において炭酸ガスレ−ザを走査した場合の、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対するfθ収差図。縦軸はx軸上の0〜25×21/2mmの位置を示し1目盛りは2.5×21/2mmである。横軸はfθ歪(%)を示す。1目盛りは0.01%である。ビーム位置が25×21/2mm近くにおいても、波長9.1μm〜9.5μmに対してfθからのズレは0.06%以下である。
【図4】 同じ実施例におけるfθレンズにおいて50mm×50mmの範囲において炭酸ガスレ−ザを走査した場合の、波長9.1μm、9.3μm、9.5μmのビームに対する非点収差図。ΔMがメリディオナル(meridional ray focus)焦点のズレ、ΔSがサジタル(sagittal ray focus)焦点のズレを示す。縦軸はx軸上の0〜25×21/2mmの位置を示し1目盛りは2.5×21/2mmである。横軸は非点収差(mm)を示す。1目盛りは0.05mmである。波長9.1μm〜9.5μmに対してΔM、ΔSは0.11mm以下である。
【図5】 9μm〜11μmの波長域におけるZnSeの屈折率を示すグラフ。横軸は波長、縦軸はZnSe屈折率である。
【図6】 鈴木等「赤外光学系への応用」、光技術コンタクト、Vol.37,No.7(1999)p488−492が提案している、赤外域での10μm±2μmの波長変動を打ち消すため2輪帯の回折型レンズ面を付与したGeレンズの断面図。
【図7】 鈴木等「赤外光学系への応用」、光技術コンタクト、Vol.37,No.7(1999)p488−492が提案している、赤外域での10μm±2μmの波長変動を打ち消すため回折型レンズ面の焦点距離fdoeと波長λ、輪帯の半径hの関係を示す説明図。
【図8】 連続曲面を有する屈折型レンズと、平坦であるが多数の同心の輪帯を有するフレネルレンズ(回折型レンズ)とを、組み合わせてハイブリッドレンズとしたときに波長変動による焦点の位置ズレが打ち消しあうということを説明する図。
Claims (3)
- レンズ材質がZnSeであって、物界側から順に、第1群、第2群、第3群のレンズ群によって構成され、第1群が物界側に凸の正レンズであり、第2群が物界側に凹の負レンズであり、第3群が物界側から順に像面側に凸の正レンズと物界側に凸の正レンズとを含み、第1群〜第3群のうち1群或いは2群が屈折型レンズと回折型レンズを組み合わせたハイブリッドレンズであり、光源の波長をλ、ZnSeレンズの屈折率をn、全レンズ系の焦点距離をf、レンズの中心からの半径をrとして、回折型レンズの不連続点において傾斜面の始端と終端を連続させて作成した曲面が透過光に与える位相差φ(r)をφ(r)=β 2 r 2 によって表現したとき、複数のレンズに付与された回折型レンズの曲面係数β 2 の総和が、
- レンズ材質がZnSeであって、物界側から順に、第1群、第2群、第3群のレンズ群によって構成され、第1群が物界側に凸の正レンズであり、第2群が物界側に凹の負レンズであり、第3群が物界側から順に像面側に凸の正レンズと物界側に凸の正レンズとを含み、第1群〜第3群のうち1群或いは2群が屈折型レンズと回折型レンズを組み合わせたハイブリッドレンズであり、光源の波長をλ、ZnSeレンズの屈折率をn、全レンズ系の焦点距離をf、レンズの中心からの半径をrとして、回折型レンズの不連続点において傾斜面の始端と終端を連続させて作成した曲面が透過光に与える位相差φ(r)をφ(r)=β 2 r 2 によって表現したとき、複数のレンズに付与された回折型レンズの曲面係数β 2 の総和が、−20/f(mm −2 )≦Σβ 2 ≦−6.6/f(mm −2 )であり、屈折型レンズと回折型レンズの波長分散が互いに打ち消すようにすることによって、波長範囲9μm〜12μmでの焦点距離の波長依存性を低減したことを特徴とするfθレンズ。
- 第3群が二つの正レンズを含み、これらの正レンズの第2面〜第4面がハイブリッドレンズ面であることを特徴とする請求項1に記載のfθレンズ。
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