JP4484967B2 - Dna診断試験の方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は突然変異による欠陥などの起こり得る遺伝子変異型の検出を目的とする、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、次いで得られる断片の電気泳動による分離を用いるDNA診断試験に関する。より詳細には、好ましくは変性勾配ゲル中での二次元電気泳動による分離と組み合わせた新規かつ改良された多重PCR法に関する。
本発明は、特に、生まれながらの欠陥(birth defects)(例えば嚢胞性繊維症)や成人慢性病(例えば癌)に至る遺伝的素因等の遺伝性疾患を患う患者におけるDNA突然変異の存在を調べるための試験に関する。より詳細には、本発明は、新規な2工程ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅による遺伝子断片の迅速な調製及びそれに続く効率的かつ正確な突然変異の検査に関する。
発明の背景
突然変異による欠陥を有する遺伝子(遺伝子変異型又は対立遺伝子)は、DNA診断試験により同定することができる。遺伝子変異型は親から子へ移転することができる。遺伝子変異型の一部は極めて強い効果を有しており、独力で疾病を惹起することができる。その例としては、嚢胞性繊維症を惹起する嚢胞性繊維症膜内外コンダクタンス調節(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator,CFTR)遺伝子の多数の突然変異型がある。他の遺伝子変異型には他の遺伝子座由来の遺伝子変異型と組んで作用するものがある。その例としては、心臓病や癌などの普通の(ポリジーン型の)疾病の多くが挙げられる。初期の段階で、すなわち、胚由来の細胞中で遺伝子欠陥を試験する(出生前の試験)ことが可能であるが、はるかに遅い段階、すなわち、若年、成人又は老人の個体由来の細胞でも試験することができる。
DNA診断試験により、しばしばそれが発症する前に疾病についての情報が得られる。これは疾病の管理、例えば防止や処置を非常に容易にする。例えば、疾病の経過、治療への応答などを予測するため癌や感染症起因体中の特定の遺伝子変異型の存在を試験することが可能である。また、子孫に遺伝するのを見たくない特定の遺伝子変異型を持つ個体を試験すること(キャリア試験)も可能である。最後に、遺伝性の遺伝子にコードされた疾病の素因について如何なる時点(出生前から老令まで)でも個体を試験することができる。このスペクトルの一端にある一例は嚢胞性繊維症であり、そのための出生前試験やキャリア・スクリーニングが既に比較的普通になっている。このスペクトルの他の端は癌や神経変性疾患のような後期発症疾病に関するものである。
DNA診断試験は個々の遺伝子の配列の完全性の分析に関する。現在では、これは正確な試験が労働集約的な遺伝子の配列決定すなわちコードの解読を必要とするので費用がかかる。これまでは、費用−効果的な一般に利用できる標準化されたDNA診断システムは存在しなかった(総説としては、コットン(Cotton),1993,現在の突然変異検出法,Mutat.Res.285:125-144)。費用−効果的であり広く受け入れられるためにはDNA診断システムは正確で(95%より高い)かつ高い処理量を有しそして労働集約的でないものでなければならない。
分析技術の一般的背景
はじめに、順序として、PCR増幅に関する一般的技術及び電気泳動による断片の分離に関する一般的技術そしてこの技術がこれまで適用されてきた分野及び現在それを適用している分野について簡単に概説する。
血液由来などの細胞の試料を、まず化学的及び物理的に処理して細胞ゲノム中の総DNA量の約2%を占めるに過ぎない遺伝子を担うDNA鎖を抽出し、残りのDNAは残留物に残す。各細胞は各遺伝子の2個のコピーを持ちそして遺伝子は文字コードとしての文字A、C、G及びTの配列によって同定される建築ブロックすなわち塩基対により同定され得るが、これらの遺伝子は長いDNA鎖の極く小さな部分を構成するのでそれらを検査するためにはそれらの同一物の多数のコピーを作って増幅しなければならない。これは、DNA鎖対を加熱−分離すなわち変性させ、適当なプライマーと混合して、後にもっと詳しく論ずるが、検討すべき遺伝子断片(例えば、遺伝子エキソンすなわちコード領域)のはじめ及び終わりに結合すなわちアニーリングさせ、そして十分量の建築ブロックを添加して遺伝子エキソンのコピーを作らせることにより行われる。上記工程のこのサイクルを連続して反復することにより、このエキソンの集積的複写が行われ純粋なそして増幅された量のエキソンが形成される。このプロセスは一般に上に述べたポリメラーゼ連鎖反応すなわちPCR増幅と呼ばれる。もっと詳しい総説としては、例えば、ハインとシルバーマン(Hein and Silverman)著、分子病理学、カロリナ・アカデミック・プレス、1994、第2章、臨床研究室における分子技法とその自動化、5-31頁(Winn-Deen)がある。
この段階で、次の順序として正常からの突然変異があるかどうかを調べるため遺伝子エキソンを検査すなわち分析することになる。これは一般にDNAの精製された断片を電気泳動により、好ましくはサイズと塩基対配列の両方に基づいて、分離することにより行われる。これは共同出願人であるビーグ(Vijg)とウイッターリンデン(Uitterlinden,A.G.)による、二次元DNAタイピング:ゲノム分析への平行的アプローチ、エリス・ホルウッド、1994、特に33-40頁にもっと詳細に記述されている
電気泳動はDNA断片の分離だけでなく、エレクトロホレーシス1993,14,1091-1198にも述べられているように、例えばタンパクの分析のような遺伝子以外の物質の分離にも使用されてきた。装置はパーキン・エルマー社製のABIプリズム377DNAシークェンサーなどの蛍光色素標識を用いる一次元DNA分離用として提供され、また共同出願人であるビーグ(Vijg)とムラート(Mullaart,E.)らによるオランダ国のインゲニーB.V.社の装置を記述する、Nature 365,30 September,1993、二次元DNAタイピングによるゲノム平行分析、469-471頁に述べられているように、二次元DNAタイピング用として提供されている。精製されたDNA断片を導入する適当なゲル媒体(後に論ずる)に最初の次元(仮に水平とする)の電場を適用することにより、サイズによる断片の分離が引き起こされ、大きな粒子はより小さな粒子よりもゆっくり動く。ゲル中に配置された連続的に濃度を増す尿素/ホルムアミドのような化学的勾配をつけた、又はその方向に設けられた温度勾配をつけた直交方向(縦)に電場をかけることにより、DNA断片は、それが融解しその結果配列により定められる特定の縦の位置でゲル媒体中に固定されるまで、移動(今度は縦に)する。DNA断片の全体が融解するのを防止するため、後者にはAとTよりも融解に対してもっと抵抗性のあるGとCのみからなるヌクレオチドに(電気泳動処理の前に)結合させることができる。このいわゆるGC−クランプは各断片をこの断片のエキソン部分の配列によって専ら決められる位置に効果的に固定する。この配列が、例えばAT対をGC対で置換することにより一つの位置だけ変えられると、それはより遅く又はより早く融解し、そのため正常な対照断片とは異なる縦の位置に固定されるようになる。
このような二次元遺伝子走査(TDGS)は費用−効果的で広く受け入れられるDNA診断システムとなる見込みがある。このシステムでは、上述のように、所与のDNA試料からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により得られる多数のDNA断片がサイズと塩基対配列の両方に基づいて電気泳動により分離される。このシステムは、第2の次元の分離が変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)に基づいているので極めて正確(すなわち、99%)である。実際、DGGEはこのように高い精度をもった唯一のシステムである(シェフィールド(Sheffield)ら,1993,1塩基置換の検出のための1本鎖コンホーメーション・ポリモルフィズム分析の感度,Genomics 16,325-332、グロムペ(Grompe),1993,核酸の未知の突然変異の迅速な検出,Nature Genet.5,111-117、グルトベルク(Guldberg)ら,1993,デンマークにおけるフェニルケトン尿症の分子的分析:突然変異の99%が変性勾配ゲル電気泳動により検出された,Genomics 17,141-146)。TDGSのための自動装置は一部入手可能でありそして一部開発中である。TDGSは1以上の遺伝子から得られるDNA断片中の起こり得る突然変異のすべてを、高い処理量でそして最少の人手の介入で、同時に検出することを可能とする。
DNA診断にTDGSを広く適用する場合の一つの主要な障害は同一反応チューブ中で多くの断片を同時にPCRにより増幅すること(多重PCR)が困難なことである。実際、関連する複数の遺伝子断片を増幅するPCRプライマー部位を見つけ出すことや、PCRと変性勾配ゲル電気泳動の両方の要求、すなわち、最適のPCR反応と増幅された断片の最適の融解挙動、を同時に満たすことなどは、しばしば不可能でさえある。現在行われている手順は、PCRにより、標的DNAの領域、通常遺伝子のタンパクコード領域(エキソン)を増幅することで始める。この増幅反応は別々に行われる、例えば、1個の遺伝子中の27個のエキソンを分析するときは、27回の別個のPCR反応を行わなければならない。実務上は、1個のチューブ中で2〜3個のPCR反応を一緒に行うことは通常可能である(例えば、エドワードとギブス(Edwards and Gibbs),1994,多重PCR:利点、開発、及び応用,PCR法及び応用3,S65-S75)。
被験者の個体数が多くそして2個以上の遺伝子が同じTDGS試験を同時に受けるときは、ピペッティング工程や行われるべき個々の反応の総数が極めて高くなることは明らかである。これはこの試験の労働集約性を増加させ、そして試験をより一層複雑なものとしその結果人為的過ちの機会を高めることにもなる。実際、この複雑さからみて、すべてのピペッティング工程が自動的になされる完全な実験室自動化でさえもこの問題を解決しないであろう。
同一チューブ中同一反応条件の下で多重の断片を同時にPCR増幅することができないという問題はTDGSが臨床試験の基準、すなわち実験室使用者への親切さに合致するための重要な技術的ハードルである。多重化、すなわち、幾つかのPCR増幅を多重のプライマーセットを用いて一つの反応で行うことにより、PCR反応の数を減らすことは重大な発展である。
多重化に対する現在の取組みは、ときには反応条件を別々に定めたプライマーの幾つかのセットを組み合わせるという至って単純なものである。しかしながら、多重PCRは、多くの場合、増幅されるべき領域、その断片の相対的サイズ、プライマーの動力学、そして多重の断片を収容するためのPCR実験条件の最適化などについての慎重な考慮の基に発展させなければならない。
鍵となる問題はプライマーの位置決めである。遺伝子診断において、エキソン配列、スプライス部位及び調節領域の増幅が一般に目的とされる。エキソンを増幅するPCR反応のためのプライマーはエキソンに隣接するイントロン配列中に置くのが理想的である。これは断片長又は増幅の質を調節するためのある種の余白を提供し並びにスプライス部位に影響を与える突然変異についての情報を提供する。これらはプライマーの選択における第1の制限である。
次いで、プライマーは標的配列以外の部位における非特異的増幅が起こらないように位置決めすべきである。実際、ヒトゲノムは3×109塩基対長であり、これは標的配列と非標的配列の間の偶然の配列相同性が生ずる十分な機会を与える。この問題は多重化に典型的なものではなく、一度に1個の断片のみを増幅したい場合にも起こり得る。これはプライマーの選択における第2の制限である。
多重化に際して、プライマーはその予想されるハイブリッド形成動力学が多重反応における他のプライマーのそれと類似するように選択すべきである。これはプライマーの選択における第3の制限である。鋳型として総ゲノムDNAを用いたときのプライマー選択に対するこれらの制限が、多重グループが通常小さい(5未満が代表的)ことの理由である。
TDGSにおける最適分離については、プライマーの選択における第4の恐るべき制限がある。TDGSは平均して100bp〜600bpのDNA断片を必要とする。2個のプライマーのうちの一つは、PCRによって形成される断片中の最高融解ドメインとしてのGC−クランプを付与すべきGCの豊富な断片に結合させるべきである。これは第2(変性勾配)の次元のゲル中で突然変異を検出するための最高の感度を保証するために不可欠である(マイヤーズ(Myers)ら,1985,GCクランプに結合したDNA断片中の1塩基置換のほとんどすべてが変性勾配ゲル電気泳動により検出され得る,Nucl.Acids Res.13,3131-3145、マイヤーズ(Myers)ら,1987,変性勾配ゲル電気泳動による1塩基変化の検出及び位置決定,Meth.Enzymol.,155,501-527)。次いで、プライマーは標的断片が1個の領域のみを含み、それに結合しているGC−クランプよりも容易に(低い尿素/ホルムアミド濃度又は低い温度で)融解するように位置決めすべきである。結局、PCR(多重化はいうまでもなく)と最適融解プロフィルの両方に最適なPCR条件を実現することは不可能ではないにしても困難であることが明らかになった(例えば、ブランクェット(Blanquet)ら,1993,変性勾配ゲル電気泳動及びポリメラーゼ連鎖反応直接配列決定によるRB1遺伝子における生殖系列突然変異の同定,Hum.Molec.Genet.2,975-979によるRB DGGE設計と本発明の設計とを比較せよ。)。
本発明はいわゆる長鎖−PCRと短鎖−PCRの組み合わせを含む。最近、PCR増幅法はゲノムDNA由来の大きな断片(40kbまで)の増幅を可能とするまで発展した。本発明者らはこの発展を利用し長鎖−PCRを用いて可能な最少数の断片中で標的遺伝子(単数又は複数)のコード領域のすべてをまず増幅する。これらの長い増幅体を鋳型として用い、次に多重方式中でTDGSにおいて要求される小さな断片をPCR増幅する。このようにして標的配列がまず共存するゲノムDNAから増幅により分離される、そして小さなPCR断片は同一の条件下でこの予め精製された鋳型から得ることができる。
上記の手順を用いると、PCR増幅体の最適融解挙動にのみ基づいて選択されたプライマーセットはPCRにおいても最適挙動を示しそして広範な多重化さえも可能とした。この現象は一部には長鎖−PCRにより予め精製されたことに起因するともいえる。実際、長鎖−PCRは他のゲノムDNA配列に比べ標的配列の量を顕著に増加させ、それによって反応の複雑さを大きく減少させそして反応の特異性を増大させている。
上に述べた現象は精製された鋳型の調製による複雑さの低減により説明することができるけれども、正確な説明をすることはできない。事実、この効果の程度の大きさは驚くべきものでありそしてPCR最適化に関与する諸因子の再評価が必要となる。しかしながら一つのことだけは明らかである。本発明だけが効率的なTDGS試験を設計し実行することを可能とすることである。なぜなら、プライマーは今や融解プロフィルのみに基づいて選択することができそして多重化は極めて容易になるからである。
本発明は一般的にも適用可能である。実際、それぞれのPCRベースの診断反応ではプライマーの選択が重要な問題でありそして多くの潜在的なプライミング部位が悪い結果を与えることが明らかとなっている。多重化はこの場合さらに別の問題を生じさせる。そしてこれが多重化が広く用いられない理由である。長鎖−PCR/短鎖−PCR2工程増幅システムはこの問題に対する直接的かつ単純な解決を提供する。
発明の目的
本発明の目的は、従って、上述の諸困難を回避するDNA診断試験のための新規なそして改良された方法及び装置を提供することにある。
さらなる目的は、長鎖及び短鎖多重PCRを用いる2工程多重ポリメラーゼ連鎖反応増幅とそれに続くサイズと塩基対配列の両者に基づく二次元電気泳動による断片の分離により遺伝子中の突然変異の新規な検出法を提供することである。
他の諸目的は以下に説明し請求の範囲との関連で指摘することにする。
【図面の簡単な説明】
本発明はこれから添付の図面と関係させて説明する。
図1は本発明を実施するためのプロセス工程の順序を例示する。
図2はGC−クランプがある場合とない場合のRBエキソン12に対する融解曲線を示す(すなわち、網膜芽腫(retinal blastoma)遺伝子)。
図3は腫瘍サプレッサー遺伝子RBの地図を示し、長鎖−PCR反応及び短鎖−PCR反応のためのPCRプライマーの位置を示す。
図4は示された条件での2−Dゲル電気泳動パターンにおける短鎖−PCR断片の予測された位置についてのコンピューター印刷を示す。
図5は理論的に予測されたパターンとの対応を示す実際のゲル分離パターンを示す。
図6は、鋳型としてエキソン18〜23に対する長鎖−PCR産物を用いたときは短鎖−PCR断片の6個すべてが得られ(レーン7〜12)、一方鋳型として総ゲノムDNAを用いた場合はほとんどの産物は失われている(レーン1〜6)ことを示す。図6は、長鎖−PCR(レーン13)にとっては出発物質は僅か5ngの総ゲノムDNAで十分であることそしてすべての短鎖−PCR産物が鋳型として長鎖−PCR産物を用いることにより得られる(レーン20〜24)ことをも示す。
図7は野生型(同型接合の、正常の)断片及び幾つかの異型接合の突然変異体の断片の詳細を示す。
発明の概要
要するに、重要な側面では、本発明はDNA由来の予め決定されている遺伝子エキソン類を分析する方法を包含しており、該方法は遺伝子エキソン類の連続したグループにプライマー対を添加し、次いで第一工程である比較的長鎖の多重ポリメラーゼ連鎖反応として一本の共通のチューブ中でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行う工程、遺伝子エキソン類それぞれに対する別のプライマー対を添加し、第二工程である短鎖多重ポリメラーゼ連鎖反応として該共通のチューブ中でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行う工程、及びこれらの遺伝子断片を電気泳動により分離する工程を含む方法である。
好ましくかつベストモードの技術について以下に説明する。
好ましい態様についての説明
本発明は、前述したように、遺伝子(単数又は複数)中の考えられる突然変異のすべてを同時に検出することを目的とし、最少の数の2工程多重PCR反応を得られる断片の自動化された二次元分離と組み合わせることによる正確かつ効率的な突然変異検出試験の設計に関する。
表1はモデルとしてRB(網膜芽腫)腫瘍サプレッサー遺伝子を選んだ場合のTDGS試験の設計における異なる工程を列挙している。第一に、遺伝子配列をデータベース(例えば、ゲンバンク)から取り出し、そして標的領域、すなわち、エキソン、スプライス部位、調節部位を決める。次いで、長鎖−PCRにより増幅され得る、すなわち少なくとも20kbまで(TAKARA LA PCR Kit産物挿入物)の、考えられる最小数の断片としてすべての標的領域が得られるようにプライマーの位置決めを行う。長鎖−PCRのためのプライマー配列を選択する際の一般的ガイドラインが幾つか記載されている(フォードとローズ(Foord and Rose,1994,長距離PCR、PCR Methods and Applications 3,S149-S161)が、最適なプライマーを決定するには未だに経験的な方法が必要である。
表1.TDGS試験の設計
1.データベースから配列を取り出す。
2.増幅体の数を可能な限り最少とすることにより、必要な領域(例えば、コード配列、スプライス部位、調節領域、突然変異多発域)のすべてをカバーするように、長鎖−PCRのためのプライマーの位置決めをする。
3.以下の基準に従って短鎖−PCRのためのプライマーの位置決めをする。
a.必要な標的配列が100bpと600bpの間の増幅体によりカバーされるべきであること。
b.増幅体は最適の融解挙動をもつべきであること、すなわち、増幅体は一つの最低融解ドメインとプライマーの一つに結合させたGC−クランプから成るものであるべきこと。
c.2−Dゲルの全体にわたって増幅体の最適な分布が得られること。
d.類似の反応動力学を示すこと。
4.鋳型として長鎖−PCR産物を用いて組まれたプライマーセットのそれぞれに対しPCR条件を別々に組み立てること。
5.プライマーセットを配合しそして反応成分を調節することにより多重共−増幅条件を設定すること。
表1の3項−そこでは長鎖−PCR断片を鋳型として使用するが−に示すように、短鎖−PCRのためのプライマーは100bp〜600bpの断片が生ずるように選ばれる。ここにおける主な選択基準はもちろんこれらの断片の融解挙動である。理想的な状況では、各増幅体は唯1個の融解ドメインをもつべきであり、それは増幅体に結合しているGC−クランプよりも低い(より不安定な)ものであるべきである。30〜40bpのGC−クランプの結合は、それを一方のプライマーの一部とすることにより行われる(シェフィールド(Sheffield)ら,1989,1塩基置換の検出のための1本鎖コンホーメーション多形性分析の感度,Genomics 16,325-332)。最適融解挙動はコンピューター・プログラム(例えば、MELT87;ラーマンとシルバーシュタイン(Lerman and Silverstein),1987,DNA融解のコンピューターシミュレーション及び変性勾配ゲル電気泳動へのその応用,Meth.Enzymol.155,482-501)を用い候補標的配列それぞれについて決定される。RBのエキソン12との関連で、GC−クランプにより最適化された融解挙動を持つ増幅体の1例を図2に示す。
一般に、2−Dゲル全体にサイズとDGGE次元の両面で最適な分布を与えるプライマー群の集合が選択される。2−Dゲルの高い分解能(5〜10bpのサイズの差が容易に分離される)のおかげで、これは概して困難すぎることではない。実際、50断片又はそれ以下で、スポットの分布はほとんど問題がなく、それ故プライマー類はそれらの融解挙動に従って単純に選択することが可能である。
図3はRB遺伝子のために選ばれた増幅体の集合を、鋳型として使用した長鎖−PCR断片と共に示す。短鎖−PCR断片を合わせれば、RBコード領域の90%を越える部分が表示されている。
図4及び図5は、図3に示した増幅体がカバーするRB遺伝子の24個のエキソンに対する理論的スポット分布及び経験的スポット分布を示す。相違はあるが、殊にエキソン11を表すスポットが最も顕著であるが、全体として融解プログラムはスポットの位置を正確に予測するというのがわれわれの結論である。
最初の長鎖−PCR工程がなければ、最適融解基準は鋳型として総ゲノムDNAを用いるPCRに適用される別のプライマー設計基準と通常衝突してしまうことを認識するのが重要である。実際、RB遺伝子について、DGGEでの最適分離とPCRでの最適プライマー決定の両者を満足する条件を選ぶことは困難であることが見出された。長鎖−PCRと表示される前−精製工程はTDGSにおけるPCRプライマーの最適セットの設計にとって不可欠の条件(conditio sine qua non)であることは明らかである。
試験の構成ができ上がったとき、多重構成の中で2工程PCR増幅を行う。本発明の核心となるのは多重PCR反応を設計し実施する可能性である。多重PCRを成功させるために第1の長鎖−PCR工程が必要であることは図6に示す結果によって証明される。図6では、左側の6個のレーンが、種々の量の総ゲノムDNAを鋳型として用い、RB遺伝子のエキソン18〜23(6断片)の多重PCRを行った後に得られたPCR産物を含む。実際に望まれる長さの産物が得られていないことが明らかである。後者(レーン1〜6)は、同一の多重PCR反応であるが今度は長鎖−PCR産物を鋳型として用いて行われたときの産物が泳動された場合のレーン7〜12とは対照的である。長鎖−PCRは異なるサイクルで行われた、そして多重PCRを成功させるのに十分な鋳型を作るためには5〜10サイクルしか必要とされないことが明らかである。
レーン13〜19は長鎖−PCR産物を鋳型として用い出発原料の量を変えて、すなわち長鎖−PCR反応において使用される総ゲノムDNAの量を変えて得られた多重短鎖−PCR産物を含む。すべての産物を得るのに5ngの総ゲノムDNAで十分であることは興味深い。臨床の試料は十分な量で入手できないことがしばしばある(例えば、乳癌の針生検)から、これは重要な結果であり、DNAの極めて少量で試験を成功させることができることを示すものである。
最後に、図6のレーン20〜24は6個の長鎖−PCRセットに対応する5回の多重PCR(長鎖−PCRグループ1と6は一緒にした。図3及び後に論ずる表2を見よ)の産物を含む。PCR条件及び/又はプライマー類をさらに調節すると、この遺伝子のためのさらに少ない数の多重セットさえ得ることも可能となるはずである。実際、RB遺伝子の全体をコードする領域を唯1回のPCR反応で増幅できないという理由はないのである。第2のPCRの後、断片をヘテロ2本鎖の形成を容易にさせるため変性/再生の完全な1ラウンドを受けさせることができる。表2にはRBの場合のTDGS用プライマー対のリストが示してある。エキソンの番号は表の最も左側に、6個のエキソングループ(0から24〜27まで)のための長鎖PCRプライマーのコード及び個々の27個のエキソンのための短鎖PCRプライマー類と共に示してある。
PCRに続いて、断片の混合物を変性勾配ゲル中で2−D電気泳動にかける(図1)。自動化装置が入手できれば、このプロセスは大いに単純化される。ここに用いる装置は、人手の介入なしに一時に10枚のゲルを泳動させることができる、すなわち、レーンを切り取りそしてこれらを第2のゲル上に載せる。実験条件の最適化に関するすべての実験は手動の装置を用いて行われた。2−D電気泳動の後、ゲルをガラス板の間から取り出し、エチジウムブロマイド又は他の染料で染色する。
Figure 0004484967
Figure 0004484967
この結果得られたパターンは、記録され(documented)、そして、突然変異が起こっているかどうかについて(肉眼分析及び画像分析により)評価された。適用された条件、すなわち、GC−クランプ形成及びヘテロ2本鎖形成の下では、異型接合型の突然変異は4個のスポット、すなわち2個のホモ2本鎖変異型と2個のヘテロ2本鎖変異型を生ずる(図7に例示)。後者は必ずしも分離されていない。突然変異は同型接合型の状態でも起こり得るから、ヘテロ2本鎖分子が存在することを確認するためPCR前に各試料を対照の試料と混合することが必要となり得る。
DNA診断試験において遺伝子断片の正確かつ効率的な調製及び検査を行うため、本発明の態様の構成方法及び使用方法の詳細を以下に提供する。この記述は、例示的な遺伝子あるいはモデルとなる遺伝子、すなわち既に論じた腫瘍サプレッサー遺伝子RBに焦点を置いているが、これは本発明を具体的に限定するものと解すべきではない。この同じ手順は、当技術分野において熟練した者の視界内で、他の遺伝子についても使用することができ、及び/又は同一チューブ内でもっと多くのPCR断片を一緒にするために使用することができ、これも本発明の範囲内にはいるものと考えるべきである。
A.RB2工程PCR・TDGS試験の設計
配列の取り出し。 RB遺伝子の配列はデータベース、すなわち、ゲンバンクから取り出す。標的領域、すなわち、エキソン、スプライス部位、調節領域を決める。
多重長鎖−PCRのためのプライマー選択。 長鎖−PCRのためのプライマー対の位置決めは、長鎖−PCRによりなお増幅され得る可能な最少の数の断片により標的領域のすべてをカバーするようになされる。長鎖−PCRプライマー類も、多重長鎖−PCRにおいて最高の特異性、最適のアニーリング温度そして最小の自己−相補性をもつように、例えばプライマー設計ソフトウエアを用いて、選択される。長鎖−PCR多重性を設計することは、プライマーの位置決めのためのスペースが広いので、比較的容易である。
多重短鎖−PCRのためのプライマーの選択。 短鎖−PCRのためのプライマー対は下記の基準に基づいて選択される。
a.必要な標的配列は100bpと600bpの間の増幅体によりカバーされるべきであること。
b.増幅体は最適融解挙動をすべきこと、すなわち一つの最低融解ドメインとプライマーの一つに結合したGC−クランプから成るべきこと。
c.2−Dゲル全体にわたる増幅体の最適分布が得られること。
d.類似の反応動力学を示すこと。
上の基準bは、総ゲノムDNAに適用すると、標準的プライマー設計基準としばしば衝突する。実際、本発明は、RB遺伝子における突然変異の検出のための迅速で正確でかつ実用的な道具としてTDGSの設計及び実施のために必要かつ十分であることが証明された。
多重グループは様々な多重反応におけるプライマーの挙動に基づいて経験的に選択される。RBの場合は、多重グループは長鎖−PCRに従って作成された。すなわち、鋳型としての1本の長鎖−PCR断片を用い、すべての短鎖PCRが1個の多重グループとして一緒に増幅された。二つの長鎖−PCRグループが実際に組み合わされて一つの多重グループとされた。短鎖−PCR断片のすべてを一緒に増幅することもできる。前に説明したように、表2は長鎖及び短鎖PCRに使用されるプライマー対、断片サイズ、アニーリング温度、融解温度及び5種の異なる多重グループをリストする。
B.PCR反応及びヘテロ2本鎖形成
プライマー類(脱保護されそして脱塩されたもの)は様々な出所から得ることができる。本発明者らのプライマー類はギブコBRL社から入手した。長期間の貯蔵のためには、例えば、プライマーを超純水中100μMの貯蔵溶液の形で−20℃に保存すべきである。短期間の使用の場合は、本発明者らは超純水中12.5μMの溶液として−20℃で保存した。
PCR反応は、試料の上に油を重層する必要をなくすための加熱された蓋を具備したジーンEサーモサイクラー(テクネ社、ケンブリッジ、UK)中、サーモウエル・チューブ(コスター社、ケンブリッジ、UK)中で行った。多重長鎖PCR反応(6個の断片)は、鋳型として5〜500ngのゲノムDNA及び0.2μMの各プライマーを用い、LA・PCRキット(宝酒造社製)を使用して100μlの容量で実施した。PCR反応は製造業者の指示に従って行う。条件は次のとおりであった。まず、94℃で1分の1サイクル、続いて98℃で20秒及び68℃で12分(サイクル当たり10秒ずつ増加させる)の30サイクル、そして最後に72℃で12分の1サイクル。このPCR産物はさらに使用するために−20℃に保存する。
短鎖PCR反応は、2μlの長鎖−PCR産物、0.2〜0.5μMの各プライマー、0.25mMのdNTPs、2.5〜4.5mMのMgCl2、3ユニットのTaqポリメラーゼ(ギブコBRL社製又はプロメガ社製)を含む50μl容量中で、同じジーンEサーモサイクラーを用いて行う。PCRの条件は次のとおりである。94℃で2分の1サイクル、次いで94℃で40秒、41℃で40秒、69℃で2分(サイクル当たり2秒ずつ増加させる)の30サイクル、そして最後に72℃で10分の1サイクル。
短鎖PCRの後に、断片を変性/再生の完全な1ラウンドによりヘテロ2本鎖形成に導く。すなわち、98℃で10分、55℃で30分、41℃で30分である。
PCR及びヘテロ2本鎖形成の後、チューブの内容物を混合しそして1/10量の負荷用緩衝液を添加する。エチジウムブロマイド染色で計算すると、通常、5〜6回の実施に十分な試料が含まれる。総容量がスロットの容量に対して多すぎるときは試料(負荷用緩衝液を添加する前に)をエタノール沈澱させもっと少ない量に再溶解させねばならない。
C.二次元電気泳動
手動及び自動両方の2−D電気泳動装置が既に述べたようにインゲニー社(Ingeny B.V.)(ライデン、オランダ)から入手できる。手動の電気泳動においては、DNA断片の混合物をまず0.75mmの厚さの9%PAAゲルを用い45℃で5〜6時間泳動させてサイズにより分離した。分離のパターンは10分間エチジウムブロマイドで染色しそしてUV光によるDNA断片の損傷を保護するためにガラス板の上に置かれたゲルのUV透過照明により可視化した。レーンの中央部分(従って端を含まない)にある100〜600bpの領域を素早く切り取り、そして0〜60%(RB)又は30〜90%(p53)の尿素/ホルムアミド(UF)勾配を含む1mm厚の9%PAAゲルに載せた。勾配はシンプル・グラディエント・フォーマー(ギブコBRL社製)を用いて作成した。電気泳動は60℃、200Vで7.5〜11時間行った。電気泳動の後、ゲルを0.5μg/mlのエチジウム・ブロマイドで15〜20分染色しそしてさらに水中で15分間脱染色した。得られたパターンをポラロイドカメラを用いてUV照射の下で記録した。
自動化2−D電気泳動においては、自動化2−D電気泳動装置に附属して来るゲル形成装置中で、製造業者の指示(インゲニー社、ライデン、オランダ)に従い一時に10枚作成された。重合の後、ゲル(ガラス板の間の)をゲル形成箱から取り出し湿ったティシューできれいにする。次いでこれを製造業者の指示に従い装置中に、すなわち、シリコンのサイドシールを施した2個のゲル保持カセット中に置く。45℃に加温した緩衝液を含むこの装置を電源を切った1−Dモード中に置く。負荷用緩衝液を添加した後、試料(40μlまで)を自動化2−D電気泳動装置中のゲルのV型穴の中に負荷する。9%アクリルアミド、0.25%TAEのゲルを0〜60%の尿素/ホルムアミド勾配と共に用いた。第1の次元は45℃、180Vで4時間行う。第2の次元は60℃、200Vで7.5〜11時間行った。電気泳動の後、ゲルをエチジウムブロマイドで染色しそして手動装置で述べたと同様にUV照射の下でパターンを記録した。
要するに、本発明は2工程(長鎖及び短鎖)多重ポリメラーゼ連鎖反応増幅に続く2−次元電気泳動分離との関連で記述されているが、本発明は1−次元電気泳動やPCR−増幅された標的配列を必要とする他の突然変異検出法と共に用いても有用である。
この技術分野で熟練した者にとってはさらなる改良も生ずるであろうが、このような改良も附属する請求の範囲に規定したように本発明の範囲内に入ると考えるべきである。

Claims (10)

  1. DNA由来の予め決定されている遺伝子エキソンを分析する方法であって、遺伝子エキソンの連続するグループのそれぞれに対応するプライマー対を添加し、続いて第1工程である長鎖多重ポリメラーゼ連鎖反応として1本の共通のチューブ内でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行う工程、この遺伝子エキソンのそれぞれに対応するプライマー対をさらに添加しそして第2工程である多重ポリメラーゼ連鎖反応としてその共通のチューブ内でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行い100〜600bpの遺伝子断片を生じさせる工程、及びその遺伝子断片を電気泳動的に分離する工程を含む方法。
  2. 該方法が遺伝子断片を1次元に沿ってサイズに基づき電気泳動的に分離するものである、請求項1記載の方法。
  3. 該方法が、直交する次元に沿って配列特異的な位置に遺伝子断片を分布させるため、直交する次元に沿いそして温度勾配又は化学的変性勾配に沿って遺伝子断片を塩基対配列に基づく更なる電気泳動的分離に付し、そしてこれらの位置を正常な遺伝子断片の位置と比較して遺伝子の突然変異を検出するものである、請求項2記載の方法。
  4. プライマーが蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド・プライマーである、請求項3記載の方法。
  5. ポリメラーゼ連鎖反応に用いるヌクレオチド構成単位が蛍光的に標識されているものである、請求項3記載の方法。
  6. 電気泳動による分離が変性勾配ゲル中で行われるものである、請求項3記載の方法。
  7. 該方法が、断片を分離するため、ゲルに尿素とホルムアミドの勾配を適用するものである、請求項6記載の方法。
  8. 該方法が、断片を分離するため、ゲルに温度勾配を適用するものである、請求項6記載の方法。
  9. 長鎖−PCR遺伝子エキソングループが網膜芽腫遺伝子のエキソン1〜2、3〜6、7〜11、12〜17、18〜23及び24〜27である、請求項3記載の方法。
  10. DNA由来の予め決定されている遺伝子エキソンを分析する方法であって、遺伝子エキソンの連続するグループのそれぞれに対応するプライマー対を添加し、続いて第1工程である長鎖多重ポリメラーゼ連鎖反応として1本の共通のチューブ内でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行う工程、及びこの遺伝子エキソンのそれぞれに対するプライマー対をさらに添加しそして第2の工程である多重ポリメラーゼ連鎖反応としてその共通のチューブ内でそれらのポリメラーゼ連鎖反応増幅を行い100〜600bpの遺伝子断片を生じさせる工程を含む方法。
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