以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[車両の構成]
まず、本発明の実施形態に係る車両の概略構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両100の概略構成を示すブロック図である。なお、図1では、紙面左が車両100の前方を示し、紙面右が車両100の後方を示す。
車両100は、エンジン1と、左右前輪3fL、3fRと、左右後輪3rL、3rRと、バッテリ5と、インバータ6、21と、コントローラ7と、ブレーキシステム8と、ブレーキペダル11と、ブレーキペダル操作量センサ13と、モータ20と、を備える。上記の車輪3fL、3fR、3rL、3rRには、モータ4fL、4fR、4rL、4rRがそれぞれに設置され、更に、摩擦ブレーキ9fL、9fR、9rL、9rRもそれぞれに設けられている。また、車輪3fL、3fR、3rL、3rRには、角速度センサ10fL、10fR、10rL、10rRもそれぞれ設けられている。エンジン1にはモータ20が接続されている。
なお、以下の説明では、前後対称に配置された構成要素については、前後の区別が必要な場合は符号に「f」、「r」を付し、前後の区別が不要な場合は「f」、「r」を省略する。同様に、左右対称に配置された構成要素については、左右の区別が必要な場合は符号に「L」、「R」を付し、左右の区別が不要な場合は「L」、「R」を省略する。よって、符号に付加された「f」、「r」、「L」、「R」を省略して示した場合は、前後左右のものを全て含むものとする。
エンジン1は、燃焼室内の混合気を爆発させて動力を発生する内燃機関である。図1に示す車両100は、エンジン前置き方式のものを示している。エンジン1としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどを用いることができる。なお、車両100がエンジン1を有することは必須ではなく、本発明を電動モータなどの駆動源を有する電気自動車(Electric Vehicle)に適用してもよい。また、エンジン1の代わりに燃料電池を駆動源として用いてもよい。
モータ4は、前後左右輪3に別個に設けられている。モータ4は、前後左右輪3に対して駆動力又は回生制動力を付与する。即ち、車両100においては、モータ4によって前後左右輪3を独立に駆動及び回生が可能なように構成されている。
モータ4へは、バッテリ5に充電された電力がインバータ6を介して供給される。これによって、モータ4は前後左右輪3に駆動力を付与する。また、モータ4は、回生によって発生した電力をインバータ6を介してバッテリ5に供給する。この場合、モータ4は、前後左右輪3に回生制動力を付与する。図1においては、矢印S7fL、S7fR、S7rL、S7rRで示すように、モータ4とインバータ6との間で電力の授受が行われる。
バッテリ5は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池などの2次電池であり、矢印S6で示すようにインバータ6との間で電力の授受を行う。なお、バッテリ5の容量(即ち、充電量)に対応する信号S2は、コントローラ7によって取得される。
インバータ6は、主として発電電力量を制御する装置であり、電源ケーブルなどを通じてバッテリ5及びモータ4と接続されている。インバータ6は、バッテリ5より電力の供給を受けると、これをモータ4を駆動するのに適した3相交流電圧に変換する。そして、インバータ6は、その変換後の3相交流電圧をモータ4に供給し、各モータ4を独立に駆動する。なお、インバータ6によるモータ4の駆動制御は、コントローラ7からの制御信号S4に基づいてなされる。更に、インバータ6は、車両100の減速時などにモータ4から発生する電力の供給を受けると、その電力をバッテリ5の充電を行うのに適した直流電圧に変換して、バッテリ5の充電を行う。
なお、バッテリ5は、エンジン1がモータ20を必要に応じて駆動することにより充電される。この場合、モータ20の駆動によって発生した電力は矢印S10aで示すようにインバータ21に供給され、インバータ21はこの電力を矢印10bで示すようにバッテリ5に供給する。
ブレーキシステム8は、油圧系のシステムにて構成される。ブレーキシステム8は、図示しないマスターシリンダやハイドロユニットなどを備える。ブレーキシステム8へは、運転者によるブレーキペダル11の操作量に応じたブレーキ圧力が伝達される。そして、ブレーキシステム8は、コントローラ7から供給される制御信号S5に基づいて、ブレーキペダル11からのブレーキ圧力を制御して、摩擦ブレーキ9を動作させる。この場合、ブレーキシステム8は、矢印S8fL、S8fR、S8rL、S8rRで示す油路を通じて油圧を摩擦ブレーキ9に伝達する。
ブレーキペダル操作量センサ13は、運転者によるブレーキペダル11の操作量(即ち、踏み込み量)を検出する。そして、ブレーキペダル操作量センサ13は、この操作量に対応する信号S32をコントローラ7に供給する。コントローラ7は、ブレーキペダル11の操作量に対応する信号S32を取得すると共に、ブレーキペダル11の踏み込み速度も取得することができる。コントローラ7は、この信号S32や車両100の走行状態などに基づいて、ブレーキシステム8に制御信号S5を供給する。コントローラ7によるブレーキシステム8の制御の詳細は後述する。
摩擦ブレーキ9は、ドラムブレーキやディスクブレーキなどにて構成される。摩擦ブレーキ9は、ブレーキシステム8より供給される油圧によって駆動され、前後左右輪3に制動力を付与する。この場合、摩擦ブレーキ9は、ブレーキシステム8より供給される油圧の値に応じた制動力を前後左右輪3に付与する。
角速度センサ10は、前後左右輪3の各々に設けられている。角速度センサ10は、前後左右輪3の回転の角速度(回転速度)を検出し、検出した角速度に対応する信号S1fL、S1fR、S1rL、S1rRをコントローラ7に供給する。
コントローラ7は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インタフェイスなどを含んで構成される。コントローラ7は、ブレーキペダル操作量センサ13から供給される信号S32に基づいて、各車輪3毎に左右輪に独立に付与すべき制動力(以下、「要求制動力」と呼ぶ。)を決定する。また、コントローラ7は、角速度センサ10から供給される信号S1と、バッテリ5から供給される信号S2と、を取得する。本実施形態においては、コントローラ7は、車両状態としてこれらの量を取得し、それに基づいて、各車輪3毎に、モータ4の回生による制動力(即ち、「回生制動力」)と摩擦ブレーキ9による制動力(即ち、「摩擦ブレーキ制動力」)の配分を導出する。詳しくは、コントローラ7は、摩擦ブレーキ制動力が最小となるように両制動力の配分を導出する。よって、摩擦ブレーキ9による摩擦熱としてエネルギーが無駄に消費されなくなり、摩擦ブレーキ9による摩擦損失を抑制することが可能となる。
以上のように、コントローラ7は、車両100の車両状態を取得する車両状態取得手段、及びモータ4の回生の制動力と摩擦ブレーキ9の制動力の配分を導出する配分導出手段として機能する。この場合、コントローラ7は、導出方法として、例えば所定のマップなどを参照して上記の配分を求めるか、又は所定の演算式などを使用して上記の配分を算出するか、若しくはそれらを両方組み合わせて上記の配分を求める。また、モータ4、バッテリ5、インバータ6、コントローラ7、ブレーキシステム8、摩擦ブレーキ9、角速度センサ10、及びブレーキペダル操作量センサ13はブレーキ制御装置を構成する。
[コントローラの構成]
次に、本実施形態に係るコントローラ7の構成とコントローラ7が行う処理について説明する。
まず、図2を用いて、本実施形態に係るコントローラ7が行う制御の基本概念について説明する。図2は、旋回時の車両100に制動力(以下、単に「制動力」として用いた場合は、「摩擦ブレーキ制動力」と「回生制動力」を合わせた力を意味するものとする)を付与した場合の車両の様子を概略的に示している。なお、車両100は、前輪3fが操舵可能なものを示している。また、説明の便宜上、前輪の左右輪3fのみに制動力を付与しているものとする。
図2に示すように、車両100は矢印A3で示す方向(左方向)に旋回している。車両100が旋回しているため、前輪の左右輪3fの角速度は異なる。具体的には、旋回時において外輪となる右輪3fRのほうが、内輪となる左輪3fLよりも角速度は大きい。一般的に、モータ4は車輪の角速度が大きくなると出力するトルクが小さくなる傾向にあることが知られている。したがって、左旋回時においては、右輪3fRに設けられたモータ4fRによる回生制動力が小さくなる。
ここで、モータ4から得ることができる回生制動力は、バッテリ5の容量(充電量)に依存する。そのため、バッテリ5の容量が少なければ、車両100の制動時には、回生制動力よりも摩擦ブレーキ制動力に頼る必要がある。反対に、バッテリ5の容量が十分であれば回生制動力を大きく用いることが可能となる。
以上のように、車両100の旋回方向、左右輪の角速度、バッテリ5の容量などを含む車両状態を考慮に入れて車両100に制動力を付与する必要がある。即ち、車両状態に基づいて、車両100に付与する摩擦ブレーキ制動力と回生制動力の配分を左右輪に対して導出することが好適である。
本実施形態に係るコントローラ7は、上記の性質を考慮しつつ、摩擦ブレーキ9の制動力が最小となるように前輪の左右輪3fに付与する摩擦ブレーキ制動力と回生制動力の配分を導出する。図2に示す例では、破線の矢印(A1RとA1L)が回生制動力を示し、実線の矢印(A2RとA2L)が摩擦ブレーキ制動力を示している。図2に示すように、本実施形態に係るコントローラ7は、車両100の車両状態に応じて、車輪に付与する摩擦ブレーキ制動力と回生制動力の配分を左右輪で変えている(なお、矢印の長さは正確ではない)。これにより、摩擦ブレーキ9による摩擦損失を抑制すると共に、効果的にモータ4fを利用することが可能となる。なお、コントローラ7による具体的な配分の導出方法は後述する。
図3は、本実施形態に係るコントローラ7の構成を示すブロック図である。コントローラ7は、要求制動力算出部71と、車両状態取得部72と、配分導出部75と、コントローラユニット76と、を備える。また、配分導出部75は、マップ作成部73と配分決定部74を有する。
要求制動力算出部71は、運転者によるブレーキペダル11の操作量や車両100の走行状態などに応じて、左右輪に付与すべき要求制動力を算出する。この場合、要求制動力算出部71は、ブレーキペダル操作量センサ13より信号S32としてブレーキペダル11の操作量又は踏み込み速度を取得し、角速度センサ10より信号S1として左右輪の角速度を取得する。要求制動力算出部71は、この他にも車両100の走行状態に対応する種々のパラメータを取得して、要求制動力を算出する。以上のようにして算出された要求制動力に対応する信号S11は、配分決定部74に供給される。
車両状態取得部72は、前述した角速度センサ10から供給される信号S1と、バッテリ5から供給される信号S2と、図示しないメモリなどに記憶されたモータ4の最大出力(以下、「最大出力」はパワーを示すものとする)とを取得する。モータ4の最大出力は、モータ4の固有値であり、同一のモータでは同一の値となる。車両状態取得部72は、これら取得した車両状態を信号S12としてマップ作成部73に供給する。
配分導出部75は、前述したようにマップ作成部73と配分決定部74を有する。ここでは、簡単に配分導出部75の処理について説明する。マップ作成部73は、車両状態取得部72から供給された車両状態に基づいてマップを作成し、このマップを信号S13として配分決定部74に供給する。このマップは、左右輪の角速度と、バッテリ5の容量と、モータ4の最大出力とに基づいて作成され、モータ4が出力可能なトルクを示すものである。
配分決定部74は、要求制動力算出部71より供給された要求制動力に基づいて、マップ作成部73より供給されたマップを利用して、摩擦ブレーキ制動力と回生制動力との配分を決定する。特に配分決定部74は、摩擦ブレーキ制動力が最小となるように要求制動力の配分を決定する。つまり、配分決定部74は、マップが示すモータ4が出力可能なトルクを考慮して、モータ4が最大限に利用されるようにし、摩擦ブレーキ制動力が最小となるような配分を決定する。こうして決定された配分は、信号S14としてコントローラユニット76に供給される。なお、本例では「配分」は摩擦ブレーキ制動力と回生制動力のそれぞれの値であるが、その代わりに、配分決定部74は両者の配分比を導出することとしてもよい。
コントローラユニット76は、取得した配分、即ち回生制動力と摩擦ブレーキ制動力を、実際に車両100が出力できるようにするために、個々の構成要素が取り扱うことができる信号に変換し、この信号を構成要素に供給する。具体的には、コントローラユニット76は、摩擦ブレーキ制動力に応じた制御信号S5をブレーキシステム8に供給し、回生制動力に対応する信号S4をインバータ6に供給する。なお、車両100が摩擦ブレーキ9やモータ4以外の駆動源(以下、「その他の駆動源15」と呼ぶ)を有する場合には、コントローラユニット76は、その他の駆動源15にも制動力に対応する信号S15を供給する。
ブレーキシステム8は、取得した制御信号S5に応じた油圧S8を摩擦ブレーキ9に供給する。また、インバータ6は、取得した信号S4に対応する電力をバッテリ5から取得して、取得した電力を変換した電力S7をモータ4に供給する。
こうして、摩擦ブレーキ9は要求された摩擦ブレーキ制動力を車両100に付与し、モータ4は要求された回生制動力を車両100に付与する。これにより、車両100は、摩擦損失を最小限に抑えつつ、車両100の車両状態に応じた効率の良いブレーキ制御が行われることになる。
[配分導出方法]
以下では、前述した配分導出部75で行われる配分導出方法について具体的に説明する。
まず、マップ作成部73におけるマップの作成方法について、図4を用いて説明する。なお、図4は、説明の便宜上、前輪3fに関するマップのみについて示しているが、後輪についても基本的に同様のマップを使用することができる。
図4は、横軸に右輪3fRに付与するトルク(以下、単に「右輪トルク」と呼ぶ)を示し、縦軸に左輪3fLに付与するトルク(以下、単に「左輪トルク」と呼ぶ)を示している。なお、図4では、右輪トルク、左輪トルクは、いずれも回生トルクを「正」として示している。
モータ4fRが出力する右輪トルクを「TMR」とし、モータ4fLが出力する左輪トルクを「TML」とする。また、モータ4fRの最大出力(パワー)を「PMR」とし、モータ4fLの最大出力を「PML」とする。これらの最大出力PMR、PMLは、前述したようにモータ4fR、4fLが有する固有値である。通常、左右輪には同一のモータが使用されるため、モータ4fR、4fLの最大出力PMR、PMLは同一の値である。更に、右輪3fRの角速度を「ωR」とし、左輪3fLの角速度を「ωL」とする。この場合、モータ4fR、4fLから出力されるトルクTMR、TMLは、最大出力PMR、PML及び角速度ωR、ωLを用いて表された条件式(1)、(2)を満たしている。
TMR≦PMR/ωR 式(1)
TML≦PML/ωL 式(2)
式(1)、(2)より、モータ4より出力されるトルクTMR、TMLは、角速度ωR、ωLが大きくなるほど小さくなることがわかる。式(1)よりモータ4fRから出力されるトルクTMRの最大値は「PMR/ωR」であり、図4中の直線MRにて表すことができる。つまり、モータ4fRから出力されるトルクは、図4において直線MRの左側の領域に位置する。また、式(2)より、モータ4fLから出力されるトルクTMLの最大値は「PML/ωL」であり、図4中の直線MLにて表すことができる。つまり、モータ4fLから出力されるトルクは、図4において直線MLの下側の領域に位置する。
更に、上記した最大出力PMR、PMLは、バッテリ5の容量(充電量)を「PSOC」とすると、以下の条件式(3)を満たしている。式(3)は、モータ4fR、4fLがバッテリ5の容量PSOC以上のパワーを出すことができないことを示している。
PMR+PML≦PSOC 式(3)
ここで、式(3)に上記の式(1)と式(2)を代入すると、条件式(4)が得られる。
ωRTMR+ωLTML≦PSOC 式(4)
式(4)は、図4中の直線Sにて表される。即ち、図4において、モータ4fRとモータ4fLから出力させるトルク(以下、このトルクに対応する図4のマップ上の位置をモータ4fの「使用点」と呼ぶ)は、直線Sの左下の領域に位置する。バッテリ5の容量PSOCのみを考えた場合(即ち、上記のモータ4fR、4fLの最大出力を考慮しない場合)、モータ4fRから出力される右輪トルクTMRの最大値は「PSOC/ωR」となり、モータ4fLから出力される左輪トルクTMLの最大値は「PSOC/ωL」となる。
以上の条件式(1)〜(4)より、モータ4fR、4fLから出力されるトルクTMR、TML、即ちモータ4fの使用点は、図4中の領域Rで示す範囲内に制限されることがわかる。
このように、マップ作成部73は、角速度ωR、ωLと、バッテリ5の容量PSOCと、モータ4fR、4fLの最大出力PMR、PMLと、に基づいて、モータ4fR、4fLが出力可能なトルクTMR、TMLに関するマップを作成する。
次に、配分決定部74における処理について説明する。配分決定部74は、マップ作成部73が作成したマップを用いて、要求制動力を満たす摩擦ブレーキ制動力と回生制動力を決定する。以下では、配分決定部74が、摩擦ブレーキ制動力と回生制動力の配分として、配分比ではなく、両者の値そのものを決定する処理について説明する。
図5は、図4と同様に、横軸に右輪トルクを示し、縦軸に左輪トルクを示しており、回生トルクを正方向としてモータ4fR、4fLが出力可能なトルクのマップ(領域Rで示す)を示している。なお、説明の便宜上、以下の例では、車両100は左方向に旋回しているものとし、前輪3fに付与する制動力のみについて説明する。
図5(a)は、要求制動力を満たす摩擦ブレーキ制動力と回生制動力を決定する過程を示している。本実施形態では、配分決定部74は、摩擦ブレーキ制動力が最小となるようにモータ4fによる回生制動力(即ち、モータ4の使用点)を決定する。以下、具体的にモータ4fの使用点の決定手順について説明する。
いま、要求制動力が点T1にて示す位置にあるものとする。この点T1の座標を「(α、β)」とする。即ち、右輪3fRに付与すべき要求制動力は「α」であり、左輪3fLに付与すべき要求制動力は「β」である。この場合、右輪3fRの要求制動力は右輪トルクTMRの最大値PMR/ωRよりも大きく、且つ、左輪3fLの要求制動力βは左輪トルクTMLの最大値PML/ωLよりも大きい。
ここで、摩擦ブレーキ制動力を最小とするためには、回生制動力を最大限に利用するようにモータ4fR、4fLが出力するトルクTMR、TMLを決定する必要がある。したがって、モータ4fの使用点は、領域Rの境界線を成す線分S1(太字で示す)上に位置することになる。
次に、モータ4fの使用点が位置すべき線分S1上の最適な位置の決定方法について説明する。ここで、線分S1上の点として、任意の点Pを考える。この場合も、モータ4fRが右輪3fRに付与する右輪トルクを「TMR」とし、モータ4fLが左輪3fLに付与する左輪トルクを「TML」とする。また、摩擦ブレーキ9fRが右輪3fRに付与するトルクを「TBR」とし、摩擦ブレーキ9fLが左輪3fLに付与するトルクを「TBL」とする。
要求制動力T1を満たすためには、上記のモータ4fR、4fL及び摩擦ブレーキ9fR、9fLがそれぞれ出力するトルクTMR、TML、TBR、TBLは、「α=TMR+TBR」、及び「β=TML+TBL」を満たす必要がある。このとき、摩擦ブレーキ9fによるトルクの合計値を「TB」としたとき、摩擦ブレーキ9fによるトルクの合計値TBは、モータ4fR、4fLによるトルクTMR、TMLを用いて以下の式(5)のように表すことができる。なお、式(5)は、TMRとTMLの関係式として式(4)を用いて変形している(モータ4fの使用点は線分S1上に位置するためである)。
TB=TBR+TBL
=(α−TMR)+(β−TML)
=α+β−(TMR+TML)
=α+β−{(1−ωR/ωL)×TMR+PSOC/ωL}
=(ωR/ωL−1)×TMR+(α+β−PSOC/ωL) 式(5)
ここで、車両100が左旋回を行っているためωR>ωLであり、式(5)の右辺の第一項は正の値になることを考慮すると、モータ4fRが右輪3fRに付与するトルクTMRを最小にすれば、摩擦ブレーキ9fR、9fLによるトルクの合計値TBが最小になることがわかる。この場合、線分S1上でTMRが最小になるのは、点Pが線分S1の左側の端点に位置する場合、即ち図5(b)に示すように、線分S1上の点P1の位置が、最もトルクTMRが小さくなる位置である。モータ4fの使用点を点P1にすると、トルクTMRは「(PSOC−PML)/ωR」となり、トルクTMLは「PML/ωL」となる。このトルクTMLは、領域Rの範囲にて最大の値である。
以上のように、配分決定部74は、取得したマップを参照し、モータ4fR、4fLが出力可能なトルクTMR、TMLを最大限に利用し、摩擦ブレーキ9fR、9fLによるトルクTBR、TBLを最小にするモータ4fの使用点を決定する。こうして決定されたモータ4fの使用点から定まる摩擦ブレーキ制動力と回生制動力を車両100に付与することにより、摩擦ブレーキ9を使用することによる摩擦損失が抑制される。
右輪3fRに付与すべき要求制動力(即ち、「α」)と左輪3fLに付与すべき要求制動力(即ち、「β」)の相対的な大きさによって、モータ4の使用点の決定方法は異なる。これを、図6を用いて具体的に説明する。
図6は、横軸に右輪トルクを示し、縦軸に左輪トルクを示しており、モータ4fR、4fLが出力可能なトルクに関するマップを示している。なお、図4、5と同様に、左右輪トルクとも回生トルクを正方向に示している。車両100は、左方向に旋回しているものとする。また、右輪3fRに付与すべき要求制動力を「α」とし、左輪3fLに付与すべき要求制動力を「β」とする。
図6で示すように、モータ4fRから出力されるトルクTMRの最大値を示す直線MRと、モータ4fLから出力されるトルクTMLの最大値を示す直線MLと、バッテリ5の容量によるモータ4fR、4fLが出力可能なトルクの制限を示す直線Sと、によって領域R1、R2、R3、R4、R5を定義する。以下では、要求制動力が位置する領域にて場合分けして、摩擦ブレーキ制動力が最小になるようにして決定されるモータ4fの使用点について説明する。
まず、要求制動力が領域R1に位置する場合について説明する。この場合は、右輪3fRに付与すべき要求制動力αはトルクTMRの最大値PMR/ωRよりも小さく、左輪3fLに付与すべき要求制動力βはトルクTMLの最大値PML/ωLよりも小さい。更に、要求制動力は、バッテリ5の容量から定まるモータ4fR、4fLが出力可能な範囲内にある。即ち、領域R1は前述した領域Rに一致しており、要求制動力はこの領域R内にあるので、要求制動力を回生制動力のみでまかなうことができる。摩擦ブレーキ制動力を最小とするためには、右輪3fR及び左輪3fLに摩擦ブレーキ制動力を付与せずに、回生制動力のみを付与すればよい。具体的には、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=αになり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=βになる。
次に、要求制動力が領域R2に位置する場合について説明する。この場合は、右輪3fRに付与すべき要求制動力αはトルクTMRの最大値PMR/ωRよりも大きく、且つ、左輪3fLに付与すべき要求制動力βはトルクTMLの最大値PML/ωLよりも大きい。つまり、「α>PMR/ωR」、且つ「β>PML/ωL」である。この要求制動力は、図5にて示した点T1に相当するものである。左旋回中であるので、前述のように摩擦ブレーキ制動力が最小となるためにはモータ4fの使用点は点P1になる。即ち、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=(PSOC−PML)/ωRであり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=PML/ωLである。以上より、要求制動力が領域R2に位置する場合には、回生制動力と摩擦ブレーキ制動力の両方が右輪3fR及び左輪3fLに付与される。
次に、要求制動力が領域R3に位置する場合について説明する。この場合は、右輪3fRに付与すべき要求制動力αはトルクTMRの最大値PMR/ωRよりも小さく、且つ、左輪3fLに付与すべき要求制動力βはトルクTMLの最大値PML/ωLよりも大きい。つまり、「α<PMR/ωR」、且つ「β>PML/ωL」である。この場合は、摩擦ブレーキ制動力を最小とするためには、モータ4fを用いる使用点を線分S2(領域R1を成す境界線と直線MLが重なり合う線分)上、又は線分S1上に位置させれば良い。但し、前述のように左旋回中であるので、線分S1上に位置させる場合は点P1に位置させればよい。具体的には、モータ4fを用いる使用点が線分S2に位置する場合は、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=αとなり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=PML/ωLとなる。一方、モータ4fを用いる使用点が点P1に位置する場合は、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=(PSOC−PML)/ωRとなり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=PML/ωLとなる。以上より、要求制動力が領域R3に位置する場合には、右輪3fRには回生制動力のみ、又は回生制動力と摩擦ブレーキ制動力が付与され、左輪3fLには回生制動力と摩擦ブレーキ制動力が付与される。
次に、要求制動力が領域R4に位置する場合について説明する。この場合は、右輪3fRに付与すべき要求制動力αはトルクTMRの最大値PMR/ωRよりも大きく、且つ、左輪3fLに付与すべき要求制動力βはトルクTMLの最大値PML/ωLよりも小さい。つまり、「α>PMR/ωR」、且つ「β<PML/ωL」である。この場合は、摩擦ブレーキ制動力が最小となるためには、モータ4fを用いる使用点を線分S1上、又は線分S3(領域R1を成す境界線と直線MRが重なり合う線分)上に位置させればよい。但し、前述のように左旋回中であるので、線分S1上に位置させる場合は点P1に位置させればよい。具体的には、モータ4fを用いる使用点が点P1に位置する場合は、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=(PSOC−PML)/ωRとなり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=PML/ωLとなる。一方、モータ4fを用いる使用点が線分S3に位置する場合は、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=PMR/ωRとなり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=βとなる。以上より、要求制動力が領域R4に位置する場合には、右輪3fRには回生制動力と摩擦ブレーキ制動力が付与され、左輪3fLには回生制動力のみが付与される。
次に、要求制動力が領域R5に位置する場合について説明する。この場合は、右輪3fRに付与すべき要求制動力αはトルクTMRの最大値PMR/ωRよりも小さく、且つ、左輪3fLに付与すべき要求制動力βはトルクTMLの最大値PML/ωLよりも小さい。尚且つ、要求制動力はバッテリ5の容量により定義されるモータ4fR、4fLが出力可能な範囲外にある。即ち、要求制動力は、直線MRと直線MLと直線Sにて囲まれた領域に位置する。この場合は、摩擦ブレーキ制動力が最小となるためには、モータ4fを用いる使用点を線分S1上に位置させればよいが、前述のように左旋回中であるので線分S1上では点P1に位置させればよい。よって、モータ4fRが出力すべき右輪トルクはTMR=(PSOC−PML)/ωRとなり、モータ4fLが出力すべき左輪トルクはTML=PML/ωLとなる。以上より、要求制動力が領域R5に位置する場合には、右輪3fRには回生制動力と摩擦ブレーキ制動力が付与され、左輪3fLには回生制動力のみが付与される。
なお、上記では前輪の左右輪3fに付与する制動力の配分導出方法について説明したが、後輪の左右輪3rについても同様の方法で配分を導出することができる。この場合、上記のように前輪の左右輪3fのみに関して配分を導出し、車両100に制動力を付与してもよいし、前輪の左右輪3f及び後輪の左右輪3rのそれぞれに関して配分を導出して制動力を付与してもよい。更に、上記では車両100が左方向に旋回する場合のモータ4fの使用点の決定方法について示したが、車両100が右方向に旋回する場合にも、同様の手順でモータ4fの使用点を決定することができる。この場合には、図6においてモータ4fの使用点を線分S1上に決定する場合には、点P1に位置させる代わりに点P2に位置させればよい。
[ブレーキ制御処理]
次に、本実施形態に係るブレーキ制御処理について説明する。
図7は、前述したコントローラ7が行うブレーキ制御処理を示すフローチャートである。ここで、「ブレーキ制御処理」とは、コントローラ7が、上記したモータ4の使用点を決定し、モータ4の使用点により定まる摩擦ブレーキ制動力と回生制動力を摩擦ブレーキ9及びモータ4から出力させる制御をいう。この場合、コントローラ7は、摩擦損失を抑制するために、摩擦ブレーキ制動力が最小になるようなモータ4の使用点を決定する。
図7に示すブレーキ制御処理は、運転者がブレーキペダル11を操作したとき(踏み込んだとき)に開始する。具体的には、コントローラ7は、ブレーキペダル操作量センサ13からの信号S32を取得したときにブレーキ制御処理を開始する。
具体的に、ブレーキ制御処理の開始後の処理について説明する。まず、ステップS101では、コントローラ7は、運転者によるブレーキペダル11の踏み込み量や車両100の走行状態などに応じて、左右輪の各々に付与すべき要求制動力を算出する。具体的には、コントローラ7は、ブレーキペダル操作量センサ13よりブレーキペダルの操作量(ブレーキペダル11の踏み込み速度でもよい)信号S32として取得し、角速度センサ10より信号S1として角速度を取得する。以上の処理は、コントローラ7内の要求制動力算出部71が行い、算出された要求制動力に対応する信号S11は、コントローラ7内の配分決定部74に供給される。そして、処理はステップS102に進む。
ステップS102では、コントローラ7は、左右輪3の角速度と、バッテリ5の容量と、モータ4の最大出力とを取得する。具体的には、コントローラ7は、角速度センサ10から供給される信号S1と、バッテリ5から供給される信号S2と、メモリなどに記憶されたモータ4の最大出力(パワー)とを取得する。即ち、コントローラ7は、車両100の車両状態を取得する。以上の処理は、コントローラ7内の車両状態取得部72が行い、これらの取得した値はコントローラ7内のマップ作成部73に供給される。そして、処理は、ステップS103に進む。
ステップS103では、コントローラ7は、ステップS102にて取得した車両状態を用いて前述の手法によりマップを作成する。具体的には、コントローラ7は、角速度と、バッテリ5の容量と、モータ4の最大出力とに基づいて、モータ4が出力可能なトルクに関するマップを作成する。この処理は、コントローラ7内のマップ作成部73が行い、作成されたマップは信号S13としてコントローラ7内の配分決定部74に供給される。そして、処理はステップS104に進む。
ステップS104では、コントローラ7は、ステップS101にて取得した要求制動力と、ステップS103にて取得したマップとに基づいてモータ4の使用点を決定する。具体的には、前述のように、コントローラ7は、取得したマップを参照して、モータ4が出力可能な回生制動力を最大限に利用し、摩擦ブレーキ9による制動力を最小にするモータ4の使用点を決定する。以上の処理は、コントローラ7内の配分決定部74が行う。そして、処理はステップS105に進む。
ステップS105では、コントローラ7は、ステップS104にて決定されたモータ4の使用点からモータ4の回生制動力を決定する。そして、処理はステップS106に進む。
ステップS106では、コントローラ7は、ステップS104にて決定されたモータ4の使用点と、ステップS101にて取得した要求制動力とに基づいて摩擦ブレーキ9の摩擦ブレーキ制動力を決定する。そして、処理はステップS107に進む。なお、ステップS105及びS106の処理も、コントローラ7内の配分決定部74が行う。
ステップS107では、コントローラ7は、決定された回生制動力をモータ4に出力させ、決定された摩擦ブレーキ制動力を摩擦ブレーキ9に出力させる。具体的には、コントローラ7内のコントローラユニット76が、ブレーキシステム8に摩擦ブレーキ制動力に対応する制御信号S5を供給し、且つ、インバータ6に回生制動力に対応する制御信号S4を供給する。そして、ブレーキシステム8は、取得した制御信号S5とブレーキペダル11から伝達されるブレーキ圧力に基づいた油圧を摩擦ブレーキ9に供給する。また、インバータ6は、取得した信号S4に対応する電力S7をモータ4に供給する。以上により、摩擦ブレーキ9は要求された摩擦ブレーキ制動力を車両100に付与し、モータ4は要求された回生制動力を車両100に付与する。これにより、摩擦ブレーキによる制動は最小となり、摩擦熱による無駄なエネルギー消費が低減される。即ち、摩擦ブレーキ9による摩擦損失が抑制される。
以上の処理が終了すると、運転者がブレーキペダル11を操作中であれば、コントローラ7はステップS101に戻り再度処理を行う。一方、運転者がブレーキペダル11の操作を終了していれば、コントローラ7はブレーキ制御処理を終了する。
なお、上記の実施形態では、図1に示すように、本発明を4輪全てにモータを備える車両に適用しているが、本発明の適用はこれには限られない。即ち、左右の前輪のみ、又は、左右の後輪のみにモータを備える車両にも本発明を適用することができる。また、図1の例ではモータの他にエンジンを備える車両を例示しているが、エンジンを有しない車両に適用することも可能である。
また、本発明の適用は電動モータには限られず、電動モータの代わりに油圧モータを用いることも可能である。