JP4483089B2 - 成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、耐熱性あるいは耐食性が必要とされる用途で、特に成形性が求められる部材に用いるのに適した、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のCr含有鋼、例えばステンレス鋼は、耐熱性あるいは耐食性等の性能が優れていることから、これらの性能が必要とされる用途に広く使用されており、加えて、成形等の加工を施すような用途に使用される場合には、優れた加工性を具備することも必要になる。
【0003】
ステンレス鋼の加工性を向上させるための従来の手段としては、鋼成分、熱間圧延条件、冷間圧延条件、又は焼鈍条件を最適化する方法を用いるのがほとんどであり、特に鋼成分の最適化する方法を用いて加工性を向上させた例としては、特許第2945058号公報記載の如く、γポテンシャル値(以下、「γP値」という。)を制御した技術がある。
【0004】
ここで、「γP値」とは、マルテンサイトの生成と成分組成との関係式として知られているCasto&Tricotの式に、鋼中に含有する各成分量を代入することによって算出した値を意味する。
【0005】
特許第2945058号公報記載の技術は、鋼成分を適正に調整して高周波溶接部近傍の熱影響部にマルテンサイトを適量析出させて高周波溶接部の局所的な強度低下を補うようにするとともに、γP値が大きくなるように各成分量を調整して、溶接後に加工を施した場合の加工割れを防止したものである。
【0006】
しかしながら、上掲公報記載の技術のようにγP値を大きく設定した場合、冷延板あるいは熱延板を溶接すると、短時間ではあるものの高温に加熱されてオーステナイト相(γ相)が生成やすくなり、その後の冷却によってマルテンサイト相が生成して硬化する結果、十分な加工性が得られなかった。
【0007】
一方、γP値を小さく設定した場合には、熱間圧延時にγ相を有効に活用することができないため、均質な熱延組織が得られず、結果として、熱延板あるいは冷延板の成形性、特にリジング特性を有効に向上させることはできなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板及びその製造方法を提案することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、発明者らが鋭意検討を行ったところ、鋼成分、特にCu成分量の適正化と、γP値の適正化を図れば、冷延板あるいは熱延板を溶接後に冷却してもマルテンサイトをほとんど生成することなく軟質にして溶接熱影響部(HAZ)での加工性が向上するとともに、熱延直前の鋼スラブ中に十分なγ相を生成させることによって、鋼板の成形性を顕著に向上できることを見出し、この発明を完成するに至った。以下にこの発明を完成するに至った経緯を説明する。
【0010】
図1(a)は、表1のNo.1の成分組成を有する鋼スラブ(板厚:200mm)を溶製したのち、各鋼スラブに対し、加熱温度:900〜1200℃、保持時間:20分から5時間の範囲内で異なる加熱・保持条件を適用し、その後、熱間圧延を施すことによって5.5mmの熱延板にした後、焼鈍、酸洗、冷間圧延(圧下率:73%)、焼鈍、酸洗を順次行い、1.5mmの冷延焼鈍板とし、各冷延焼鈍板のランクフォード値(r値)を測定し、平均r値を算出したときの値を、スラブ加熱温度(℃)に対してプロットしたときのものである。平均r値は、圧延方向のr値をrL、圧延方向に対して45度方向のr値をrDおよび圧延方向に対し垂直方向のr値をrCとするとき、以下の式によって求められる。
平均r値=(rL+rC+2×rD)/4
尚、図1(a)で示すプロット曲線は、大きな変化が認められる代表的なもの(保持時間:20分、30分及び3時間)についてだけ示してある。例えば、保持時間が3時間を超える場合には、3時間の場合とほぼ同様なプロット曲線であるため、図示は省略してある。
【0011】
図1(a)に示す結果から、スラブ加熱温度が950〜1150℃でその保持時間が30分以上である場合に、1.5以上の高い平均r値が得られているのがわかる。
【0012】
また、図1(b)は、上記の加熱温度及び保持時間でスラブを加熱した後に水冷したときに生成したマルテンサイト量がスラブ加熱・保持時に得られたオーステナイト量(γ量)と同量であると推定し、スラブ加熱後に水冷した時に生成したマルテンサイト量を測定することにより、スラブを加熱・保持した時のγ量を求め、スラブ加熱に対してプロットしたものである。
【0013】
図1(b)に示す結果から、図1(a)に示す平均rのプロット曲線に対応して同様の形状をしたプロット曲線となり、スラブ加熱温度が950〜1150℃でその保持時間が30分以上である場合に、20%以上の高いγ量が得られているのがわかる。
このような知見から、スラブに十分なγ相を生成させるには、適切なスラブ加熱温度及び保持時間が必要であり、優れた成形性を得るのに必要なγ量は20%以上であることがわかった。
【0014】
また、発明者らはγP値にも着目し、γP値が高い鋼スラブ(例えば、後述するような比較鋼スラブ5)の場合、スラブ加熱で十分なγ量を確保できるため、得られる熱延鋼板や冷延鋼板の加工性については優れているものの、熱延板や冷延板を溶接して短時間加熱した場合でもγ相が生成しやすくなって、冷却時にマルテンサイト相が生成してHAZでの加工性が劣化することがわかった。そして、溶接のような非平衡状態の加熱・冷却条件では、マルテンサイト相が生成しないγP値の範囲を見出し、この発明を完成するに至った。
【0015】
従って、発明者らは、(1)スラブを30分以上加熱・保持するような平衡状態時には、20%以上のγ量が生成でき、かつ(2)熱延板や冷延板を溶接する場合のような非平衡状態時には、γ相がほとんど生成しないようにするには、鋼成分、特にCu成分と、γP値の適正化を図ることが重要であることを見出し、この発明を完成させるに至ったのである。
【0016】
すなわち、この発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、
C:0.02%以下、
Si:2%以下、
Mn:1%以下、
Cr:6〜20%、
Ni:1%以下、
N:0.02%以下、
Al:0.001〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜5%、
P:0.06%以下、S:0.02%以下で、かつP:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方を満足し、並びに、
Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有し、かつ、
下記(1)式中に、鋼中に含有する上記各成分の量(質量%)を代入することによって算出したγp値が20〜70の範囲を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板。
【0017】
記
γp値=420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn
−11.5Cr−11.5Si−12Mo−23V−47Nb−49Ti−52Al+189 ‐‐‐‐(1)
【0018】
(2)Mo:3質量%以下をさらに含有する前記(1)に記載のCr含有耐熱耐食鋼板。
(3)B:0.01質量%以下をさらに含有する前記(1)又は(2)に記載のCr含有耐熱耐食鋼板。
【0019】
(4)質量%で、
C:0.02%以下、
Si:2%以下、
Mn:1%以下、
Cr:6〜20%、
Ni:1%以下、
N:0.02%以下、
Al:0.001〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜5%、
P:0.06%以下、S:0.02%以下で、かつP:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方を満足し、並びに、
Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有し、かつ、
下記(1)式中に、鋼中に含有する上記各成分の量(質量%)を代入することによって算出したγP値が20〜70の範囲を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、950〜1150℃の温度域に加熱して0.5〜5時間保持してから熱間圧延を施すことを特徴とする、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
【0020】
記
γP値=420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn
−11.5Cr−11.5Si−12Mo−23V−47Nb−49Ti−52Al+189 ‐‐‐‐(1)
【0021】
(5)Mo:3質量%以下をさらに含有する前記(4)に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
(6)B:0.01質量%以下をさらに含有する前記(4)又は(5)に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
(7)加熱前あるいは加熱・保持中の前記スラブに0.1〜20%の加工歪みを付加する前記(4)、(5)又は(6)に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明が鋼中に含有する各成分の含有量を上述した範囲に限定した理由について説明する。尚、以下の説明では、各成分の含有量の単位を%で記載するが、これは、特に示さない限り質量%を意味する。
【0023】
C:0.02%以下
Cは、成形性を劣化させる元素であり、その含有量が0.02%を超えると、靱性および成形性の劣化が顕著になるため、C含有量は0.02重量%以下とした。
【0024】
Si:2%以下
Siは、耐酸化性および耐食性を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、Si含有量が2%を超えると、加工硬化が顕著になり、成形性が劣化する。
このため、Si含有量は2%以下とした。尚、より一層成形性を向上させる必要がある場合には、Si含有量を1%以下とすることが好ましい。
【0025】
Mn:1%以下
Mnは、鋼の脱酸剤として知られているが、過剰な添加はMnSを形成し、成形性や酎食性を低下させることになるから、Mn含有量は1%以下とした。
【0026】
P:0.06%以下、S:0.02%以下で、かつP:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方を満足すること
Pは、冷廷板の母材靱性を劣化させる元素であるが、0.06%以下であれば問題ないため、P含有量の上限を0.06%とした。
Sは、伸びおよびr値を低下させ成形性を劣化させるとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を劣化させる元素であり、その含有量の上限を0.02%とした。
【0027】
しかしながら、P及びSの含有量を上記範囲に限定しても、特に溶接熱影響部(HAZ)で十分な靱性が得られない場合があった。
そこで、発明者らは、PとSの含有量が上記範囲内で異なる種々の鋼スラブを作製し、PとSの含有量と靱性の良否との関係を明確にするため検討を行った。
【0028】
図2は、S含有量を縦軸、P含有量を横軸にとり、MIG溶接後のHAZで粒度を測定した結果である。尚、粒度の測定は、JIS G 0552によって行い、図2中の「○」は、粒度No.であるG.S.No.が3.5以上の場合、「△」は、G.S.No.が2.5以上3.5未満の場合、「×」は、G.S.No.が2.5未満の場合であり、G.S.No.は数値が大きいほど結晶粒が小さいことを意味する。
図2の結果から、P含有量が0.02%以下でかつS含有量が0.002%以下である場合に、HAZで結晶粒が粗大化しているのがわかる。そして、HAZで結晶粒が粗大化すると、十分な靱性が得られないこともわかった。
このため、この発明では、P及びSの含有量を、P:0.06%以下、S:0.02%以下とするとともに、P:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方、好適には双方を満足する範囲に限定した。
【0029】
Cr:6〜20%
Crは、耐酸化性及び耐食性を向上させるのに有効な元素であり、6%以上含有させることが必要である。しかしながら、Crは成形性の点からは好ましくない元素であり、特にCr含有量が20%を超えると、成形性が顕著に劣化する。このため、Cr含有量は6〜20%とした。この発明では、耐酸化性及び耐食性と成形性のいずれをより重視するかによって、Cr含有量を6〜20%の範囲内で適宜選択すればよい。尚、この発明では、前記(1)式を満足させる必要があるが、この(1)式を満足させるには、高Cr含有量になればなる程、他の元素も多量に含有させなければならず、高価になるため、Cr含有量は、好ましくは16%以下、より好ましくは13%以下とする。
【0030】
Ni:1%以下
Niは、靱性を向上させるのに有効な元素であり、その含有量を0.1%以上とすることが好ましい。しかしながら、Ni含有量が1%を超えても靱性の更なる向上効果が認められず、コストの上昇を招くだけであるので、Ni含有量は1%以下とした。
【0031】
N:0.02%以下
Nは、鋼の靱性および成形性を劣化させる元素であり、その含有量が0.02%超えになると、靱性および成形性の劣化が顕著となる。そのため、N含有量は0.02以下とした。
【0032】
Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有すること
この発明では、Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有させる必要がある。
【0033】
Ti:5×(C+N)超え1%以下
Tiは、TiC、TiNとなって固溶CとNを固定し、成形性を向上させるのに有効な元素であり、その含有量は、C含有量とN含有量の総和の5倍以上、すなわち5×(C+N)以上とする必要がある。Ti含有量が5×(C+N)未満だと、固溶C、Nを十分に固定しきれないからである。一方、Ti含有量が1%を超えると、粗大なTi(C,N)を析出して、表面性状を劣化させる。このため、Ti含有量は、5×(C+N)超え1%以下とした。尚、Tiは、高価な元素であるため、その含有量は、好ましくは、0.02%以上、15×(C+N)以下とする。
【0034】
Nb:5×(C+N)超え1%以下
Nbは、NbC、NbNとなって析出し、高温強度、成形性、耐食性、溶接部の粒界腐食性を高めるのに有効な元素であり、その含有量は、C含有量とN含有量の総和の5倍以上、すなわち5×(C+N)以上とする必要がある。Nb含有量が5×(C+N)未満だと、NbC、NbNが生成せず、固溶C、Nを固定しきれないからである。一方、Nb含有量が1%を超えると、ラーベス相(Fe2Nb)が多量に析出して、鋼の靱性と表面性状を劣化させる。このため、Nb含有量は、5×(C+N)超え1%以下とした。
【0035】
Al:0.001〜0.5%
Alは、溶接時に表面保護スケールを生成し、大気中からのC、N、Oの侵入を防ぎ、溶接部の靱性を向上させるのに有効な元素であり、その含有量は0.001%以上にする必要がある。一方、Al含有量が0.5%を超えると、加工性の劣化が著しくなる。このため、Al含有量は0.001〜0.5%とした。
【0036】
V:0.01〜0.5%
Vは、成形性を向上させるのに有効な元素であり、その含有量は0.01%以上にする必要がある。一方、V含有量が0.5%を超えると、粗大なV(C,N)を析出して、表面性状を劣化させる。このため、V含有量は0.01〜0.5%とした。尚、V含有量は、成形性と表面性状の点から、好ましくは、0.05%以上、20×(C+N)以下とする。
【0037】
Cu:0.01〜5%
Cuは、この発明にとって最も重要な元素である。Cu含有量は、0.01%未満であると、たとえ他の限定がこの発明の適正範囲内であっても、スラブ加熱時に十分なγ相を生成することができず、冷延板や熱延板の特性が向上しないが、Cu含有量が0.01%以上であると成形性が顕著に向上する。一方、Cu含有量が1%を超えると、ε−Cuの析出により脆化する。このため、Cu含有量は0.01〜1%とした。尚、この発明においては、上記した各元素を上記適正範囲に限定することが、必須の構成となるが、MoやBを必要に応じて適宜添加することができる。
【0038】
Mo:3%以下
Moは、固溶強化元素であり、高温強度の向上に有効であり、また酎食性に対しても効果的である。従って、より高温強度、耐食性を高める必要がある場合には、Moを添加してもよい。しかしながら、Moは、高価な元素であり、コスト高を招くため、その添加量を3%以下とすることが好ましい。
【0039】
B:0.01%以下
Bは、2次加工性向上に有効な元素であるため、必要に応じて鋼中に添加することができるが、その添加量が0.01%を超えると、多量のBNが生成して加工性、表面性状が劣化する。そのため、B添加量は0.01%以下にすることが好ましい。尚、表面性状を重視する場合には、0.0003〜0.0015%の範囲とすることがより好ましい。
【0040】
また、この発明では、上記鋼成分の適正化に加えて、さらに下記(1)式中に、鋼中に含有する上記各成分の量(質量%)を代入することによって算出したγp値が20〜70の範囲を満足する必要がある。
γP値=420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn
−11.5Cr−11.5Si−12Mo−23V−47Nb−49Ti−52Al+189 ‐‐‐‐(1)
【0041】
すなわち、γP値が20未満であると、例えばスラブ加熱条件をこの発明の適正範囲に制御してもγ相がほとんど生成しないため、冷延板の加工性を向上させることができないからであり、また、γP値が70を超えると、冷延板あるいは熱延板をミグ溶接(MIG welding)、マグ溶接(MAG welding)又はティグ溶接(TIG welding)した場合の、特にHAZにマルテンサイトが生成して著しく硬化するため、HAZを含む鋼板の加工性が劣化するからである。一方、γP値を20〜70の範囲にすれば、冷延板や熱延板を溶接して短時間加熱したときのような非平衡状態ではγ相がほとんど生成せず、結果としてマルテンサイト相が生じないため、HAZを含む鋼板の加工性が劣化するのを防止できる。
また、溶接時に大入熱となる程、HAZにおいてマルテンサイトが生成しやすくなるが、γP値が小さければ、マルテンサイト相は生成しにくくなるため、良好な溶接範囲は広がるため、γP値はHAZの加工性を考慮すると低い程好ましく、70以下、より好ましくは68未満とする。
【0042】
尚、この発明では、γP値を20〜70の範囲にするとともに、鋼組成をこの発明の上記適正範囲内に制限することによって、スラブ加熱のように高温−長時間処理した平衡状態では、γ相を20%以上生成することができる。発明者らは、このような平衡状態と非平衡状態でのγ相の生成挙動を詳細に研究することにより、この発明を完成することに成功したのである。
【0043】
また、この発明の製造方法の主な特徴は、上記組成で溶製したスラブを、950〜1150℃の温度域に加熱して0.5〜5時間保持してから熱間圧延を施すことにある。
【0044】
スラブ加熱条件:950〜1150℃で0.5〜5時間保持
この発明では、スラブを950〜1150℃の温度域に加熱し0.5〜5時間保持することが必要である。
スラブ加熱温度が上記範囲外であると、たとえ0.5〜5時間の範囲内で加熱したとしても、γ相はほとんど生成しないが、スラブを950〜1150℃の温度域で0.5時間以上加熱すると、図1(b)でも示したように、20%以上のγ相を生成させることができ、この結果、冷延板の平均r値の向上や熱延板の組織の均質化が図れる。このため、この発明では、スラブは950〜1150℃の温度域に加熱し0.5時間以上加熱することが必要である。一方、上記温度域での保持時間が5時間を超えると、生産性が劣化するため、前記保持時間の上限を5時間とした。尚、前記保持時間の下限は、r値向上の点から、好ましくは1時間、より好ましくは2時間とする。
【0045】
また、この発明では、加熱前あるいは加熱・保持中のスラブに0.1〜20%の加工歪みを付加することが好ましい。すなわち、この段階での歪み付加によって、γ相の生成を促進させ、無歪みの状態よりも短時間でγ相を得ることができる。その効果は0.1%以上の歪みで認められ、また、20%を超える歪みを付加しても、それ以上の促進効果は認められなくなるからである。
【0046】
さらに、この発明では、前記スラブを加熱してから熱間圧延を施すが、熱間圧延は、常法に従って行えばよい。
【0047】
また、この発明の製造方法では、熱間圧延工程までしか規定していないが、この発明の製造方法によって冷延板を製造することができるのは言うまでもない。冷延板を製造するときの工程の一例を示すと、上記熱間圧延の後、焼鈍、酸洗を行い、次いで、冷間圧延を行った後、焼鈍、酸洗を順次行うことによって、所定板厚の冷延板を製造することができる。なお、冷間圧延、焼鈍、酸洗を複数回繰り返してもかまわない。
【0048】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0049】
【実施例】
実施例1
表1に示す成分組成からなる鋼スラブを溶製したのち、表2に示す歪み(%)をスラブに付加し、表2に示す加熱温度(℃)及び保持時間(h)でスラブを加熱・保持してから熱間圧延を行い、5.5mmの熱延板とした後、これを焼鈍、酸洗、冷間圧延(圧下率:73%)、焼鈍、酸洗を順次行い、1.5mmの冷延焼鈍板を製造した。
【0050】
【表1】
【0051】
かくして得られた冷延焼鈍板について、以下に示す方法により成形性を評価し、併せて、溶接した際にHAZにマルテンサイト相が生成しているか否かと、HAZの加工性についても調べた。
【0052】
(1)成形性 (1.5mm)
成形性は、平均r値から評価した。成形性の評価結果を表2に示す。尚、成形性は、以下に示すA〜Dの4段階で評価し、この発明では、A及びBを合格レベルとした。
【0053】
A 平均r値≧1.7
B 1.7 >平均r値≧1.5
C 1.5>平均r値≧1.3
D 1.3>平均r値
【0054】
(2)HAZでのマルテンサイト相の生成の有無の調査
HAZにマルテンサイト相が生成するか否かを、一般的なMIG溶接とTIG溶接によって形成したHAZで評価した。MIG溶接とTIG溶接の溶接条件は以下のとおりである。
▲1▼MIG溶接(I開先突き合わせ)
ワイヤ:3091.2mmφ、ガス:95%Arと5%酸素、電圧:18V、電流:100A、速度600mm/min
▲2▼TIG溶接(I開先突き合わせ)
ガス:100%Ar、電圧:10V、電流:150A、速度600mm/min
上記▲1▼及び▲2▼の溶接によって形成したHAZでのマルテンサイト相の生成の有無の調査結果を表2に示す。尚、表2中では、マルテンサイト相を生成していた場合を「○」、マルテンサイト相を生成していなかった場合を「×」として示してある。
【0055】
(3)HAZの加工性
上記▲1▼及び▲2▼の溶接により得られた溶接継手より、図3(a)に示すように、溶接方向に沿った長さ100mm、幅20mmの試験片を切り出し、図3(b),(c)に示すように、密着曲げ加工を施し、HAZの加工性を評価した。表2にその結果を示す。尚、表2中では、密着曲げ完了後までHAZ部に割れが生じない場合をHAZ加工性が良好であるとして「○」、HAZに割れが生じた場合をHAZ加工性が不良として「×」と示してある。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示す結果から、発明例である鋼No.1〜9は、いずれも平均r値が1.5以上であることから成形性が優れており、さらに、溶接した場合であっても、HAZでマルテンサイト相の生成がないため軟質であり、良好な加工性が得られた。一方、スラブの組成及び加熱条件のいずれかがこの発明の範囲外である比較例(鋼No.10〜15)は、冷延焼鈍板の成形性とHAZを含めた冷延焼鈍板の加工性のいずれかが劣っていた。
【0058】
【発明の効果】
この発明によれば、優れた成形性と溶接熱影響部での加工性の双方を具備したCr含有耐熱耐食鋼板を提供することができる。
尚、この発明のCr含有耐熱耐食鋼板は、例えば自動車排気部材、モール材、および厨房品等のように、成形や溶接を行うことによって使用される2次加工品に適用すると、特に顕著な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)及び(b)は、スラブ加熱温度と保持時間を変化させたときの冷延焼鈍板の平均r値及びオーステナイト量をそれぞれプロットした図である。
【図2】 鋼中のS及びPの含有量とHAZの結晶粒との関係を示した図である。
【図3】 HAZの加工性試験方法を説明するための図である。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.02%以下、
Si:2%以下、
Mn:1%以下、
Cr:6〜20%、
Ni:1%以下、
N:0.02%以下、
Al:0.001〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜5%、
P:0.06%以下、S:0.02%以下で、かつP:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方を満足し、並びに、
Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有し、かつ、
下記(1)式中に、鋼中に含有する上記各成分の量(質量%)を代入することによって算出したγP値が20〜70の範囲を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板。
記
γP値=420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn
−11.5Cr−11.5Si−12Mo−23V−47Nb−49Ti−52Al+189 ‐‐‐‐(1) - Mo:3質量%以下をさらに含有する請求項1に記載のCr含有耐熱耐食鋼板。
- B:0.01質量%以下をさらに含有する請求項1又は2に記載のCr含有耐熱耐食鋼板。
- 質量%で、
C:0.02%以下、
Si:2%以下、
Mn:1%以下、
Cr:6〜20%、
Ni:1%以下、
N:0.02%以下、
Al:0.001〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜5%、
P:0.06%以下、S:0.02%以下で、かつP:0.02%超え及びS:0.002%超えのうちの少なくとも一方を満足し、並びに、
Ti:5×(C+N)超え1%以下及びNb:5×(C+N)超え1%以下の1種または2種を含有し、かつ、
下記(1)式中に、鋼中に含有する上記各成分の量(質量%)を代入することによって算出したγP値が20〜70の範囲を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、950〜1150℃の温度域に加熱して0.5〜5時間保持してから熱間圧延を施すことを特徴とする、成形性と溶接熱影響部での加工性の双方に優れたCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
記
γP値=420C+470N+23Ni+9Cu+7Mn
−11.5Cr−11.5Si−12Mo−23V−47Nb−49Ti−52Al+189 ‐‐‐‐(1) - Mo:3質量%以下をさらに含有する請求項4に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
- B:0.01質量%以下をさらに含有する請求項4又は5に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
- 加熱前あるいは加熱・保持中の前記スラブに0.1〜20%の加工歪みを付加する請求項4、5又は6に記載のCr含有耐熱耐食鋼板の製造方法。
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