JP4477762B2 - 高強度圧延pc鋼棒およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリートポールやコンクリートパイル等に用いるるPC(プレストレスコンクリート)鋼棒とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートポールならびにコンクリートパイルには、剛性および曲げ強さの向上や、ひび割れ防止のためにコンクリートに圧縮力を与え、コンクリートポールならびにコンクリートパイルそのものの強度を高めたPCポール、PCパイルがあろ。これらは、以下に説明する方法で製造されている。
【0003】
まず、円周上に並列に配したPC鋼材に、軟鋼線を螺旋状に巻き付けた(以下「螺旋筋」という)後、PC鋼材と螺旋筋の交点を固定して、円筒状の籠片型補強体(以下「補強体」という)を製造する。次いで、この補強体を型枠に導入して、補強体を構成するPC鋼材の両端を固定し、引張強さの70%前後の応力で緊張する。次いで、型枠内にコンクリートを注入し、注入したコンクリートが固化した後に、PC鋼材の緊張力を解除する。この解除と同時に、コンクリートに圧縮力が付与されて、PCポールまたはPCパイルが製造される。
【0004】
このような、コンクリート構造物に使用されるPC鋼材の代表的なものとして、JIS G3137 に代表されるPC鋼棒と、JIS G3536 に代表されるPC鋼線を挙げることができる。
PC鋼棒は、熱間圧延後空冷した鋼棒を、焼入れ焼戻しして製造されるものである。この焼入れ焼戻しにより、JIS G3137 (D種)で規定される 1420MPa以上のTSを確保できることが、これまでに報告されている。
【0005】
例えば、特開平3-151445公報には、スポット溶接性とリラクゼーション特性を改善するために、Si量を低減し、Moを添加したPC鋼棒に、焼入れ焼戻しを施して、TSを 1420MPa以上の高強度のPC鋼棒を製造することが開示されている。
これらのPC鋼棒は、通常、焼入れ焼戻しによって製造されるので、組織が、焼戻しマルテンサイト組織となり、そのために、一様伸びや耐遅れ破壊特性の確保が難しいものとなっている。例えば、「鉄と鋼 vol.81(1995),p1625」に示されているように、1400MPa 以上の焼戻しマルテンサイトを有するPC鋼棒では、耐遅れ破壊特性は劣化する。
【0006】
一方、焼戻しマルテンサイト以外の組織からなるPC鋼棒として、熱間圧延材を冷間加工後、ブルーイング処理を施した圧延PC鋼棒が提供されている。この圧延PC鋼棒に関し、「プレストレスト コンクリート vol.13(1971) p.52」には、鋳片を熱間圧延して製造した線材に、ストレッチングとブルーイング処理を施すことにより、TSが 1200MPa以下のPC鋼棒を製造し得ることが開示されている。
【0007】
この圧延PC鋼棒においては、一様伸びが高い等の優れた点がある一方で、YSが1100MPa 以下であり、高強度化が充分になされていない。
このため、より高強度で耐遅れ破壊特性の優れたPC鋼棒とその製造方法が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、引張強度(TS)が 1400MPa以上を有する高強度で、かつ、高延性の高強度圧延PC鋼棒と、該鋼棒を、熱間圧延後のパテンテイング後、伸線工程を経ずに、ヒートストレッチ、ブルーイングなどの時効処理により、安価に製造する製造方法を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
通常、熱間圧延後のパテンテイング処理したパーライト鋼は、TSに対してYS(降伏強度)が低く 1200MPaに満たない。
そこで、本発明者は、上記課題を解決する際において、伸線工程を経ないパーライト組織(それ故、粒状のパーライト組織)の態様と機械的性質の関係について、鋭意、研究調査した。
【0010】
その結果、恒温変態により、面積率80%以上のパーライトイ組織が得られれば、ヒートストレッチ、ブルーイングなどの時効処理を施すのみで、YS(0.2%耐力):1200MPa以上、TS:1400MPa以上で、且つ、伸び4.5%以上の基本特性を得ることができることを知見した。
本発明は、上記知見に基づき、上記課題を解決するものであって、その要旨は、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.8〜1.3%、Si:0.10〜2.5%、Mn:0.25〜2.0%、および、Al:0.05%以下、を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼であって、パーライト面積率が80%以上94%以下の鋼からなり、YS(0.2%耐力)が1200MPa以上、TSが1400MPa以上で、且つ、伸びが4.5%以上であることを特徴とする高強度圧延PC鋼棒。
(2)前記鋼が、更に、質量%で、Ti:0.005〜0.05%、Ca:0.0005〜0.005%、REM:0.0005〜0.005%、V:0.002〜0.5%、および、Nb:0.005〜0.1%、の1種以上を含有することを特徴とする前記(1)記載の高強度圧延PC鋼棒。
(3)前記鋼が、更に、質量%で、B:0.0005〜0.01%、Cr:0.05〜2.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、および、Mo:0.05〜0.50%、の1種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)記載の高強度圧延PC鋼棒。
(4)前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱し、熱間圧延することにより線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、その後、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
(5)前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱し、熱間圧延することにより線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、200〜500℃の温度および0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
(6)前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱し、その後冷却し、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、その後、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
(7)前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱し、その後冷却し、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、200〜500℃の温度および0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする前記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の高強度圧延PC鋼棒の鋼(本発明の鋼)に係る化学成分について、以下に説明する。
Cは、TSやYSを確保するために重要で、かつ、経済的な元素であるが、PC鋼棒として必要なTS : 1400MPa以上、および、YS : 1200MPa以上を、それぞれ得るためには、少なくとも、0.8 %以上必要であり、0.8 %未満では必要な強度が得られない。望ましくは、0.85%以上必要である。一方、Cが1.3 %を超えると、粒界に、網状セメンタイトまたは粗大セメンタイトが析出して、延性の低下が顕著になる。このため、C添加量は、0.8 〜1.3 %とする。
【0012】
Siは、フェライト(パーライト中のフェライト地)に固溶し、顕著な固溶強化作用により、YSを向上させる元素である。この向上効果を得るためには、少なくとも、0.10%以上の添加量が必要である。一方、Siの添加量が 2.5%を超えると、強度が高くなりすぎて延性が低下する。このため、Si添加量の上限を2.5 %とする。
【0013】
Mnは、鋼の焼入性を向上させて強度を上昇させるとともに、鋼棒の横断面における組織を均一にするのに有効な元素である。これらの効果を得るためには、少なくとも、0.25%以上の添加量が必要である。しかし、Mnを過剰に添加すると、中心偏析部に、延性を低下せしめるミクロマルテンサイトが生成し易くなる。ミクロマルテンサイトの生成を抑制するには、高温変態での変態時間を長くする必要があるが、これは実用的ではない。このため、Mn添加量の上限を2.0 %とし、Mn添加量は、0.25〜2.0 %とする。
【0014】
Pは、粒界に偏析し,粒界脆化を起こし易くする元素であるので、0.03%以下に低減する必要がある。本発明の鋼におい、Pは不純物元素であり、極力低減することが望ましい。
Sも、Pと同様に、粒界に偏析し、粒界脆化を起こし易くす元素であるので、0.03%以下に低減する必要がある。本発明の鋼において、Sは、Pと同様に、不純物元素であり、極力低減することが望ましい。
【0015】
次に、本発明の鋼が含有する選択元素について説明する。
主に、γ粒径を微細にし、延性を向上させるために、Al、Ti、Ca、REM 、NbおよびVのうちの1種または2種以上を添加する。また、主に、圧延PC鋼棒の強度を向上させるために、B、Cr、Cu、NiおよびMoのうちの1種または2種以上を添加する。
【0016】
Alは、微細な Al2O3 またはAlN析出物のピンニング効果により、熱処理時のγ粒径を微細化するために添加する元素である。しかし、0.05%を超えて添加すると、粗大な Al2O3 が生成し延性が低下する。このため、Al添加量の上限を0.05%とする。
Tiは、TiO2 等の酸化物、あるいは、TiN、TiC等のTi析出物のピンニング効果により、熱処理時のγ粒径などを微細化するために添加する元素である。この効果を得るためには、0.005 %以上の添加が必要である。しかし、0.05%を超えて添加すると、粗大なTiNが多量に析出して、延性を劣化させる。このため、Ti添加量の上限を0.05%とする。
【0017】
Caは、CaS(O)の生成により、熱処理時のγ粒径を微細化するのに有効な元素である。0.0005%未満では効果がないので、0.0005%を、Ca添加量の下限とする。しかし、0.005 %を超えて添加すると、鋼の清浄度が低下するとともに、Ca介在物が粗大化し、延性が低下するので、上限を0.005 %とする。
REM も、Caと同様に、熱処理時のγ粒径を微細化するのに有効な元素である。0.0005%未満の添加では効果がないので、0.0005%を、REM 添加量の下限とする。しかし、0.005 %を超え添加すると、鋼の清浄度が低下するとともに、REM を含む介在物が粗大化し、延性が低下するので、上限を0.005 %とする。
【0018】
Nbは、Nb析出物のピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、圧延PC鋼棒の延性を向上させる元素である。このため、0.005 %以上の添加が必要である。しかし、多量に添加しても効果が飽和し、経済的に不利となるので、0.1 %を上限とする。このため、Nb添加量は、0.005 〜0.1 %とする。
Vは、炭窒化物を析出させγ粒を微細化し、強度、延性を向上させる元素である。また、Vは、鋼中に侵入した水素をトラップするトラップサイトとなり、遅れ破壊特性を改善する元素でもある。これらの効果を得るには、0.002 %以上の添加が必要である。しかし、多量の添加では効果が飽和し、経済的に不利になるので、上限を 0.5%とする。
【0019】
Bは、焼入性を向上させて、圧延PC鋼棒の強度を高める元素である。また、Bは、優先的に粒界に偏析し、P、S、Mn等の粒界偏析を抑制する粒界清浄効果を介して、遅れ破壊の劣化を抑える元素でもある。このため、B添加量の下限を0.0005%とする。しかし、0.01%を超て添加すると、Fe23Bが析出し、耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、B添加量は、0.0005〜0.01%とする。
【0020】
Crは、固溶強化により、また、焼入性を向上させパーライトのラメラー間隔を小さくして、強度を上昇させる元素である。0.05%未満の添加では、この効果が不十分である。しかし、 2.0%を超て添加すると、強度が高くなり過ぎ、延性が低下する。このため、Cr含有量の上限を2.0 %とする。
Cuは、焼入性を向上させるために添加する元素である。また、Cuは、安定な腐食生成物を生成して、水素の侵入を抑制し、遅れ破壊を改善する元素でもある。この効果を得るには、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、 1.0%を超えて添加すると、圧延時に熱間割れが起き易くなるので、Cu添加量の上限を 1.0%とする。
【0021】
Niは、Cuと同様に、焼入性を向上させるために添加する元素である。また、Niは、安定な腐食生成物を生成して、水素の侵入を抑制し、遅れ破壊を改善する元素でもある。更に、Niは、Cu脆化を抑制する効果も奏する元素である。耐遅れ破壊特性を向上するには、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、 1.0%を超え添加しても、その効果は飽和し、経済的に不利になるので、Ni添加量の上限を1.0 %とする。
【0022】
Moは、リラクセーション特性を向上させるために有効な元素である。鋼の強度を上昇させるためには、少なくとも、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、0.50%を超えて添加すると、フェライトの生成が抑制されるので、上限を0.50%とする。そのため、Mo添加量は、0.10〜0.50%とする。
以上、本発明の鋼に係る化学成分について説明したが、YSを 1200MPa以上確保するためには、熱間圧延後、恒温変態させた線材において、TSを、少なくとも、1400MPa 以上にする必要があり、これを考慮して、C量や、他の強化元素との組合わせ、および、添加量を決定し、鋼の化学成分を構成する必要がある。
【0023】
そして、本発明の鋼は、前述した化学成分を主体とするものであるが、面積率80%以上のパーライト組織において、YS : 1200MPa以上、TS : 1400MPa以上、および、伸び4.5 %以上が確保される限りにおいて、他の化学成分も含有してもよいものであり、本発明の高強度圧延PC鋼棒の成分組成は、上記化学成分と、残部鉄および不可避的不純物に限定されるものではない。
【0024】
例えば、PC棒鋼を機械加工して使用する場合もあるので、被削性を付与するため、P、S、Te、Se、Bi、As、Sb等を、機械的特性を損なわない範囲で、適宜量添加してもよい。また、Ca、Mg、REM 等は組織を微細化し延性を向上させるため適宜量添加してもよい。
次に、本発明の高強度圧延PC鋼棒を製造する製造方法(本発明の製造方法)について説明する。
【0025】
本発明の製造方法の特徴は、伸線等の強加工をしない状態のパーライト組織で、YSを 1200MPa以上とした点にある。即ち、本発明の鋼におけるパーライト組織は高延性を有するものである。
前記のように、TSを1400MPa 以上確保できた過共析鋼のDLP線材であっても、C量を 1.0%以上に高めた場合を除いて、そのままでは、YSを 1200MPa以上とすることは難しい。実際の過共析鋼にDLPを施したままの線材において、TSが 1400MPa以上の場合、伸びは7%程度と低く、さらに、ストレッチング+ブルーイング処理を施すと、時効硬化により、延性が低下する恐れがある。
【0026】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、恒温変態後、伸線加工を施さずに、ストレッチング+ブルーイング処理、もしくは、ヒートストレッチ処理を施した後のYSの上昇と、破断伸びの低下について検討した。そして、TSが 1400MPa以上を有するパーライト組織の鋼に、ストレッチイング+ブルーイング処理、もしくは、ヒートストレッチ処理を施すことにより、YSを約100MPa以上高め、かつ、伸びの低下を約2%以下に抑えることができることを見い出した。
【0027】
以上のことから、C量が0.8%以上の鋼においても、YS:1200MPa以上、TS:1400MPa以上、かつ、伸び4.5%以上を確保することが容易に可能になった。
次に、詳細に鋼の組織、および、製造条件について説明する。
本発明の鋼の特徴は、パーライト主体組織で、TSが1400MPa以上となることである。このためには、前記化学成分を満足するとともに、パーライト組織が面積率で80%以上存在することが必要である。ただし、パーライト組織の上限を、実施例で得たパーライト分率94%(表2中、本発明鋼T1、参照)に基づいて、94%とした。本発明の製造方法においては、鋼材を熱間圧延し線材とした後、もしくは、線材を再加熱した後、該線材に恒温変態を施す必要がある。この恒温変態を450〜550℃の温度で行い、面積率80%以上のパーライト組織を得る。パーライト組織の面積率が80%未満であると、所定のTSが得られない。
【0028】
恒温変態において、保持温度が450℃未満であると、多量のベイナイトが生成し、パーライト80%以上の組織を確保することができず、所望のTSが得られない。一方、保持温度が650℃を超えると、ラメラー間隔が粗になりパーライト組織の強度が低下するが、実施例で用いた恒温変態温度550℃(表2中、発明鋼T3等、参照)に基づいて、保持温度の上限を550℃とする。それ故、恒温変態における保持温度は、450〜550℃とする。
【0029】
YSを上昇させるために、線材を、ストレッチングで塑性域まで引張り、次いで、ブルーイング処理を施し、この時付与した加工歪みを除去する。前記のように、YS : 1200MPa以上で、破断伸び 4.5%以上を確保できる“ストレッチング+ブルーイング処理”に係る条件は、1〜4%の歪みを付与し、その後、200〜500℃の温度で5〜600秒の時間、保定することである。
【0030】
ストレッチングの付与する歪みが1%未満では、YSの上昇が図れない。一方、付与する歪みが4%を超えると、破断伸び4.5%以上を確保できない。
また、ブルーイング処理における熱処理温度が、200℃未満では、Cの拡散が不十分で、転位が固着されないので、時効によるYSの上昇を図ることができない。一方、熱処理温度が500℃を超えると、炭化物が粗大化して延性が低下する。このため、ブルーイング処理における熱処理温度は、200〜500℃とする。
【0031】
上記の適正な熱処理温度範囲であっても、ヒートストレッチまたは予歪み後ブルーイング処理における処理時間が適切でないと、所望のYSと伸びの確保が困難となる。処理時間が5秒未満では、Cの拡散が不十分で、時効によりYSの上昇を図ることができない。一方、600秒を超えて処理しても、時効の効果は飽和するので、処理時間の上限は600秒とする。
【0032】
本発明の製造方法においては、“ストレッチング+ブルーイング処理”に替えて、ヒートストレッチ処理を用いることができる。このヒートストレッチ処理は、線材に、0.5〜6%の引張歪みを与えながら200〜500℃の温度に加熱する処理である。
与える引張歪みが0.5%未満では、YSの上昇を図ることができない。一方、引張歪みが6%を超えると、破断伸び4.5%以上を確保することができない。
【0033】
また、ヒートストレッチにおける熱処理温度が、200℃未満では、Cの拡散が不十分で、転位が固着されないので、時効によるYSの上昇を図ることができない。一方、熱処理温度が500℃を超えると、炭化物が粗大化して延性が低下する。このため、ヒートストレッチにおける熱処理温度は、200〜500℃とする。
【0034】
本発明の製造方法は、以上の条件の下で、高強度圧延PC鋼棒において、YS : 1200MPa以上、TS : 1400MPa以上、かつ、伸び 4.5%以上を確保することができるものである。そして、更に、本発明の製造方法では、従来必要とされていた伸線工程を省略し、加熱(オーステナイト化)→熱間圧延→恒温変態→冷却→ストレッチング+ブルーイング処理、または、加熱(オーステナイト化)→熱間圧延→恒温変態→冷却→ヒートストレッチ処理のいずれかの各工程を経て、高強度圧延PC鋼棒を、低コストで製造することが可能となった。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。表1に示す化学成分の鋳片を加熱後、熱間圧延により線材とし、これにDLP処理(溶融塩処理)を施した。その後、上記線材に、“ストレッチイング+ブルーイング処理”、または、“ブルーイング処理”を施した。製造条件および材質特性を表2に示す。引張り試験での伸びは、突き合わせ法により測定した。パーライトの面積率は、光学顕微鏡観察によって決定した。
【0036】
発明例T1〜T12では、TSが1400MPa以上、YSが1200MPa以上、および、Elが4.5%以上を満足している。
PC鋼棒に要求される材質特性として、耐遅れ破壊特性やリラクゼーションが挙げられる。そこで、発明例T2において、耐遅れ破壊特性をFIP試験で評価し、リラクゼーションをリラクゼーション試験で評価した。FIP試験では、1420MPa×0.7の荷重の付与の下で20hr以上もち応え、結果は良好なものであった。
【0037】
また、リラクゼーション試験では、 180℃の高温リラクゼーションで評価し、1420MPa ×0.7 の荷重の付与の下で、20%以下であり、この結果も良好なものであった。
一方、比較例H1〜H3は、適切な鋼成分のものではないので、所望の機械的性質を確保できなかった例である。比較例H1では、C量が少なく,所定の強度(YSとTS)が得られていない。比較例H2では、C量が多く,延性(El)が低下している。比較例H3では、Si量が多く、同様に延性が低下している。
【0038】
また、比較例H4〜H8では、適正な製造条件で製造されていないので、所望の材質特性が得られていない。比較例H4では、恒温変態温度が低く、80%以上のパーライト分率に満たず、強度が低下している。また、比較例H5では、恒温変態温度650℃を超えているので、強度が低下している。比較例H6では、ストレッチングによる予歪みが1%未満であるので、所望の強度(YS)が得られていない。比較例H7では、ブルーイング温度が200℃より低く、Cの拡散が不十分であるので、所望の強度(YS)が得られていない。比較例H8では、ブルーイング温度が500℃を超えているので、時効硬化により延性が低下している。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【発明の効果】
本発明によると、高強度圧延PC鋼棒を、低コストで製造し、提供することができる。よって、本発明は、工業的に非常に有用なものである。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.8〜1.3%、
Si:0.10〜2.5%、
Mn:0.25〜2.0%、および、
Al:0.05%以下、
を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼であって、パーライト面積率が80%以上94%以下の鋼からなり、YS(0.2%耐力)が1200MPa以上、TSが1400MPa以上で、且つ、伸びが4.5%以上であることを特徴とする高強度圧延PC鋼棒。 - 前記鋼が、更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.05%、
Ca:0.0005〜0.005%、
REM:0.0005〜0.005%、
V:0.002〜0.5%、および、
Nb:0.005〜0.1%、
の1種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度圧延PC鋼棒。 - 前記鋼が、更に、質量%で、
B:0.0005〜0.01%、
Cr:0.05〜2.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、および、
Mo:0.05〜0.50%、
の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の高強度圧延PC鋼棒。 - 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱し、熱間圧延することにより線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、その後、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱し、熱間圧延することにより線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、200〜500℃の温度および 0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱し、その後冷却し、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、その後、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る成分組成を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱し、その後冷却し、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、更に、200〜500℃の温度および0.5 〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
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