JP4476927B2 - 耐食性と母材靭性に優れた船舶用高張力鋼材 - Google Patents
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Cは、材料の強度確保のために必要な元素である。船舶の構造部材としての最低強度、即ち概ね400MPa程度(使用する鋼材の肉厚にもよるが)を得るには、0.01%以上含有させる必要がある。しかし、0.20%を超えて過剰に含有させると靱性、溶接性が劣化する。こうしたことから、C含有量の範囲は0.01〜0.20%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.18%であり、より好ましくは0.16%以下とするのが良い。
Siは、脱酸と強度確保のために必要な元素であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、1%を超えて過剰に含有させると溶接性、HAZ靭性が劣化する。尚、Si含有量の好ましい下限は0.02%である。より好ましくは0.05%以上とするのがよい。また、Si含有量の好ましい上限は0.8%であり、より好ましくは0.6%以下とするのが良い。
MnもSiと同様に脱酸および強度確保のために必要な元素であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、2%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましくは0.10%以上とするのが良い。また、Mn含有量の好ましい上限は1.8%であり、より好ましくは1.6%以下とするのが良い。
AlもSi、Mnと同様に脱酸および強度確保のために必要な元素であり、0.005%に満たないと脱酸等の効果が十分発揮されない。しかし、0.1%を超えて添加すると溶接性、HAZ靭性を害するため、Al含有量の範囲は0.005〜0.1%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましくは0.015%以上とするのが良い。また、Al含有量の好ましい上限は0.09%であり、より好ましくは0.08%以下とするのが良い。
Coは、高塩分環境において、鋼材の耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜の形成に必要不可欠な元素である。こうした効果を発揮させるには、Co含有量を0.01%以上とすることが必要である。しかしながら、1%を超えて過剰に含有させると溶接性、HAZ靭性が劣化する。こうしたことからCo含有量は、0.01〜1%とした。尚、Co含有量の好ましい下限は0.015%であり、より好ましくは0.020%以上とするのが良い。また、Co含有量の好ましい上限は0.8%であり、より好ましくは0.6%以下である。
Mgは溶解することによってpH上昇作用を示すことから、鉄の溶解が生じている局部アノードにおいて、加水分解反応によるpH低下を抑制して腐食反応を抑制し、耐食性を向上させる作用を有する。こうした効果を発揮させるには、Mgを0.0005%以上含有させることが必要である。しかしMg含有量が0.02%を超えると、加工性および溶接性が劣化する。こうしたことから、Mg含有量は0.0005〜0.02%の範囲が適正である。Mg含有量の好ましい下限は0.0007%であり、より好ましくは0.0010%以上含有させるのが良い。またMg含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.015%以下とするのが良い。
Cu,Cr、NiおよびTiは、いずれも耐食性向上に有効な元素である。このうちCuおよびCrは、Coと同様に、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆被膜の形成に有効な元素である。こうした効果を発揮させるには、いずれの元素を含有させる場合も0.01%以上(より好ましくは0.05%以上)とすることが好ましい。しかし、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性、HAZ靭性が劣化することから、Cuは1.5%以下(より好ましくは1.0%以下)、Crは1%以下(より好ましくは0.8%以下)とすることが好ましい。
CaはMgと同様に、溶解することによってpH上昇作用を示し、鉄の溶解が起こっている局部アノードにおいて、加水分解反応によるpH低下を抑制して腐食反応を抑制し、耐食性を向上させるのに有効な元素である。Caによるこうした効果は、0.0005%以上含有させることによって有効に発揮されるが、0.02%を超えて過剰に含有させると、加工性および溶接性を劣化させることになる。Caを含有させるときのより好ましい下限は0.0010%であり、より好ましい上限は0.015%である。
MoおよびWは、腐食の均一性を高めて局部腐食による穴あきを抑制する作用がある。特にCoと同時に含有させることによって、均一腐食性向上作用が顕著に発揮される。こうした効果を発揮させるには、いずれの場合も0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰に含有させると溶接性、HAZ靭性が劣化する上、大幅なコストアップとなることから、Moは0.5%以下、Wは0.3%以下とすることが好ましい。Moを含有させるときのより好ましい下限は0.02%であり、より好ましい上限は0.3%である。またWを含有させるときのより好ましい下限は0.02%であり、より好ましい上限は0.2%である。
船舶への適用部位によっては更なる高強度化の必要な場合があるが、これらの元素は強度をより向上させるのに有効な元素である。このうちBは、焼入性を向上させて強度を高めるのに有効な元素であり、該効果を発揮させるには、0.0001%以上含有させることが好ましい。しかし0.01%を超える過剰のBを含有させると母材靭性、HAZ靭性が劣化するため好ましくない。Vにより強度向上を図るには、0.003%以上含有させることが好ましいが、0.1%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化、及びHAZ靭性の劣化を招くため好ましくない。Nbにより強度を高めるには0.003%以上含有させることが有効であるが、0.05%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化、HAZ靭性の劣化を招くため好ましくない。尚、これらの元素のより好ましい下限は、Bについては0.0003%、Vについては0.005%、Nbについては0.005%である。またより好ましい上限は、Bについては0.0090%、Vについては0.07%、Nbについては0.03%である。
(1)プロセスコンピュータにおいて、加熱開始から加熱終了までの雰囲気温度、在炉時間に基づき、鋼片の表面から裏面までの板厚方向の任意の位置の加熱温度を算出する。
(2)上記算出した加熱温度を用い、圧延中の圧延パススケジュールやパス間の冷却方法(水冷あるいは空冷)のデータに基づいて、板厚方向の任意の位置の圧延温度を差分法など計算に適した方法を用いて算出しつつ、圧延を実施する。
(3)鋼板表面温度は、圧延ライン上に設置された放射型温度計を用いて実測する(ただし、プロセスコンピュータ上においても計算を実施する)。
(4)粗圧延開始時、粗圧延終了時および仕上圧延開始時にそれぞれ実測した鋼板表面温度を、プロセスコンピュータ上の計算温度と照合する。
(5)粗圧延開始時、粗圧延終了時および仕上圧延開始時の計算温度と上記実測温度の差が±30℃以上の場合は、実測表面温度と計算表面温度が一致する様に再計算し、プロセスコンピュータ上の計算温度とする。
(6)上記計算温度の補正を行って、t/4部位の仕上圧延終了温度を求める。
フェライト平均結晶粒径は下記の様にして測定した。
(i)圧延方向に並行で且つ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取する。
(ii)湿式エメリー研磨紙(#150〜#1000)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨方法(ダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等)により、観察面の鏡面仕上を行う。
(iii)研磨されたサンプルを、3%ナイタール溶液を用いて腐食し、フェライト組織の結晶粒界を現出させる。
(iv)t(板厚)/4部位において、現出された組織を100倍あるいは400倍の倍率で写真撮影し(本実施例では6cm×8cmの写真として撮影)、画像解析装置に取り込む。前記写真の領域は、100倍の場合は600μm×800μm、400倍の場合は150μm×200μmに相当し、画像解析装置への取り込みは、いずれの倍率の場合も、領域の合計が1mm×1mm以上となるよう取り込む(即ち、100倍の場合は上記写真を少なくとも6枚、400倍の場合は上記写真を少なくとも35枚取り込む)。
(v)画像解析装置において、一つの粒界に囲まれた領域と同等の面積を有する円に換算し、換算された円の直径をフェライト円相当粒径と定義する。
(vi)画像解析装置に取り込んだ全領域において上記フェライト円相当粒径を求め、その平均値をフェライト平均結晶粒径とする。
[引張特性の評価]
各鋼板のt/4部位から、圧延方向に対して直角の方向にJIS Z 2201の4号試験片を採取して、JISZ 2241の要領で引張試験を行ない、引張強度(TS)を測定した。そして、YPが355MPa以上でかつTSが490MPa以上のもの(YP:355MPa級鋼材の船級規格値)を、高張力であり、船舶用鋼材としての引張特性を具備していると評価した。
各鋼板のt/4部位からJIS Z 2202のVノッチ試験片を採取して、JISZ 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、破面遷移温度(vTrs)を測定した。そして、vTrsが−40℃以下のものを、母材靭性に優れる[船級Eグレード鋼材規格値(−20℃で55J以上)を安定して確保できる]と評価した。
[試料の調製]
上記鋼板を切断し、表面研削を行って、最終的に100×100×25(mm)の大きさの試験片を作製した(試験片A)。試験片Aの外観形状を図3に示す。
まず海洋環境を模擬して、海水噴霧試験と恒温恒湿試験の繰り返しによる複合サイクル腐食試験を行った。海水噴霧試験では、水平から60°の角度で傾けて供試材(各試験片A〜C)を試験槽内に設置し、35℃の人工海水(塩水)を霧状に噴霧させた。塩水の噴霧は常時連続して行った。このとき試験槽内において、水平に設置した面積80cm2の円形皿に1時間当たりに1.5±0.3mLの人工海水が任意の位置で採取されるような噴霧量に予め調整した。恒温恒湿試験は、温度:60℃、湿度:95%に調整した試験槽内に、供試材を水平から60°の角度で傾けて設置して行った。海水噴霧試験:4時間、恒温恒湿試験:4時間を1サイクルとして、これらを交互に行って、供試材を腐食させた。トータルの試験時間は6ヶ月間とした。
(a)試験片Aについては、試験前後の重量変化を平均板厚減少量D-ave(mm)に換算し、試験片5個の平均値を算出して、各供試材の全面腐食性を評価した。また、触針式三次元形状測定装置を用いて試験片Aの最大侵食深さD-max(mm)を求め、平均板厚減少量[D-ave(mm)]で規格化して(即ち、D-max/D-aveを算出して)、腐食均一性を評価した。尚、試験後の重量測定および板厚測定は、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法[JIS K8284]により鉄錆等の腐食生成物を除去してから行った。
(b)試験片Bについては、すきま部(接触面)の目視観察を行ってすきま腐食発生の有無を調べ、すきま腐食が認められる場合には、上記陰極電解法により腐食生成物を除去し、触針式三次元形状測定装置を用いて最大すきま腐食深さD-crev(mm)を測定した。
(c)塗装処理を施した試験片C(カット傷付き)については、試験後にカット傷を形成した面における塗膜膨れ面積の比率(膨れ面積率)を測定した。膨れ面積率は格子点法(格子間隔1mm)によって求めた。即ち、膨れの認められた格子点の数を全格子点数で除したものを膨れ面積率と定義して、試験片5個の平均値を求めた。また、カット傷に垂直方向の塗膜膨れ幅をノギスで測定し、試験片5個の最大値を最大膨れ幅と定義した。
Claims (6)
- C:0.01〜0.20%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.01〜1%、Mn:0.01〜2%、Al:0.005〜0.1%を夫々含有する他、Co:0.01〜1%およびMg:0.0005〜0.02%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、全組織に占めるフェライトの面積率が70%以上であり、フェライト円相当粒径の平均が18.5μm以下であることを特徴とする耐食性と母材靭性に優れた船舶用高張力鋼材。
- Coの含有量[Co]とMgの含有量[Mg]の比の値([Co]/[Mg])が2〜350である請求項1に記載の船舶用高張力鋼材。
- 更に、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1%以下(0%を含まない)、Ni:2%以下(0%を含まない)およびTi:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1または2に記載の船舶用高張力鋼材。
- 更に、Ca:0.02%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の船舶用高張力鋼材。
- 更に、Mo:0.5%以下(0%を含まない)および/またはW:0.3%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の船舶用高張力鋼材。
- 更に、B:0.01%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)およびNb:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の船舶用高張力鋼材。
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